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iStent inject W リカバリー器具の試用

2022年6月30日 木曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(6):818.822,2022ciStentinjectWリカバリー器具の試用安岡恵子多田憲太郎安岡一夫安岡眼科CClinicalTrialofiStentinjectWRecoveryDeviceKeikoYasuoka,KentaroTadaandKazuoYasuokaCYasuokaEyeClinicC目的:当院で考案したCiStentinjectW(以下,iStent)のリカバリー器具;iStentSaverの試用結果を報告する.対象および方法:対象はC2020年C10月.2021年C7月に安岡眼科でCiStentSaverを用いて脱落したCiStentを回収したC5症例.作製と使用方法は,22ゲージ静脈留置針の内針を抜き,カテーテルを約C12Cmmに切り,2.5Cmlのシリンジを装着する.耳側角膜創より前房へ挿入し,先端口を脱落したCiStentに近づけ,シリンジの内筒を引きCOVDとともに吸引し,眼外のCBSS入りの容器へ回収する.回収したCiStentは顕微鏡下でインジェクターに再装着し,線維柱帯に再度挿入する.結果:全例において安全に眼外への回収に成功した.結論:iStentSaverは有用なCiStentのリカバリー器具である.CPurpose:ToCinvestigateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCusingCtheCiStentCSaverCdeviceCforCrecoveryCofCdislocatedCiStentCinjectCW.CTrabecularCMicro-BypassDevice(GlaukosCorporation).CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolved5eyesinwhichtheiStentSaverwasusedfortherecoveryofapreviouslyimplantedandsubsequentlydislocatedCiStentCinjectCWCatCYasuokaCEyeCClinic,CfromCOctoberC2020CtoCJulyC2021.CFirst,CtheCmetalCneedleCwasCremovedCfromCtheCouterCtube.CTheCtubeCwasCthenCcutCtoCaCcornealCdiameterCofCapproximatelyC12CmmCandCthenCattachedtoa2.5CmlCsyringe.Thetipofthetubewastheninsertedthroughthecornealincision,placedclosetothedislocatedCiStent,CandCsuctionCwasCapplied.CTheCtubeCwasCthenCremovedCandC.ushedCintoCanCexternalCcontainer.CNext,theinjectorreattachedunderamicroscopewiththeremovediStentinjectW,wasreinsertedintotheanteri-orchamberthroughthecornealincisionandre-implantedintotheSchlemm’scanal.Results:Inall5treatedeyes,thedislocatediStentinjectWwassafelyandsuccessfullyretrievedandre-implanted.Conclusion:TheiStentSav-erCwasfoundtobeasafeande.ectiverecoverydeviceforadislocatediStentinjectW.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):818.822,C2022〕Keywords:緑内障,低侵襲緑内障手術,白内障手術併用眼内ドレーン(iStentinject)挿入術,22CG静脈留置針.Cglaucoma,iStentinjectW,microinvasiveglaucomasurgery(MIGS),secondgenerationtrabecularmicro-bypassCstent,22CGintravenouscannula.CはじめにiStentCinjectw(グラウコス社)はC2本のステントを備えた,世界最小サイズ(360Cμm)の改良型金属デバイスである.低侵襲緑内障手術(microCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)のなかでもっとも侵襲が少ない手術として,近年その施行数は増加している.安岡眼科(以下,当院)でもC2020年C10月より使用を開始した.しかし,iStent挿入時に線維柱帯からはずれ前房隅角に浮遊した際に,極小サイズのために見失いやすく,また金属硬性のため,iStentの捕捉に難渋し眼内落下の危険を経験した.今回,筆者らは,不確実な眼内操作ではなく,22ゲージ(G)静脈留置針(セーフレットキャス,ニプロ製)とC2.5Cmlのシリンジを使用し,吸引でいったん眼外に回収したあとに顕微鏡下でCiStentのインジェクターに再装着し,線維柱帯に再挿入するためのリカバリー器具CiStentSaver(以下,iStentSaver)を考案し試用したので,その結果を報告する.本研究は高知大学より倫理審査不要との回答があり,手術後に全患者からCiStentSaverの使用と研究参加への同意を得ている.〔別刷請求先〕安岡恵子:〒780-0901高知市上町C2-2-9安岡眼科Reprintrequests:KeikoYasuokaM.D.,YasuokaEyeClinic,2-2-9Kamimachi,Kochi-city,Kochi780-0901,JAPANC818(122)図1iStentSaver作製方法a:22CG静脈留置針とC2.5Cmlシリンジ.b:金属針を抜去する.c:カテーテルを約C12Cmmに切る.丸枠内はカテーテルの先端の形状.d:2.5Cmlのシリンジに連結する.CI対象および方法対象はC2020年C10月.2021年C7月に,当院で施行したiStent挿入術C41症例C82ショットのうち,正しく線維柱帯に挿入できず,前房へ脱落したCiStentの回収にCiStentCSaverを使用したC5症例C5眼である.図1にCiStentSaverの作り方を示した.材料はC22CG静脈留置針とC2.5Cmlのシリンジ(図1a)で,22CG静脈留置針の金属内針を抜去し(図1b),テフロン性外筒チューブ(以下,カテーテル)を角膜径(whitetowhite)の約C12Cmmにカットして(図1c),2.5Cmlのシリンジに直接つなげる(図1d).図2に模型眼を用いて使用方法を示した.左手でヒル式オープンアクセス隅角鏡を角膜に置き隅角を視野に入れ,右手でCiStentSaverを耳側角膜切開創から挿入する.カテーテルの先端をCiStentに近づけ(図2a),シリンジの内筒を引き粘弾性物質(ophthalmicvisco-elasticdevice:OVD)とともにCiStentをシリンジ内腔へ吸引した後に(図2b),カテーテル部を角膜創から抜き,シリンジ内筒を押し,フラッシュしてCiStentをCBSS(balancedCsaltsolution)を入れた清潔容器に回収する.顕微鏡下でiStentをインジェクターに再装着したのち,再度前房内に入れて線維柱帯に再挿入する.図2cのごとく前房出血に見立てたインドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)に紛れてCiStentが見えない場合は,血液とCOVDとともにiStentを吸引回収する(図2c).(123)II結果表1にCiStentSaverの使用結果を示した.5症例すべてにおいて,脱落したCiStentを損傷なくシリンジ内腔へ吸引し眼外へ回収できた(100%).また,前房に逆流出血がありiStentの視認性が悪い場合でも,吸引による前房の虚脱はなかった.症例C1は眼外のCBSS入り容器への回収に成功したが,インジェクターへ再装着をするときに,液体の中で跳ねて紛失し再挿入はできなかった.この症例は最初に留置したCiStent1個の設置で手術を終了した.それ以降,眼外に回収したCiStentをCLASIKで使用するスポンジドレーン(ChayetLASIKCEyeDrain,BeaverCVisitecinternational社製.以下,LASIKドレーン)の上に置き,顕微鏡下でCiStentのインレットにインジェクターのトロッカーを穿刺しCiStentを再装着する方法(図2d)に変更した.以後は症例C2.5の全症例においてインジェクターへの再装着に成功し,iStentの再挿入にも成功した.術後の角膜内皮細胞減少数は平均C243.4±154.5/mm2(9.4%)で,当院でCiStentSaverを使用しなかった同手術症例の平均C244.8±194.2(6.8%)と有意差はなかった(t-test).また,iStentSaverの使用症例において,角膜内皮機能障害による角膜混濁などの重篤な術後合併症は認められなかった.あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022819d図2iStentSaverの使用法(模型眼)とiStentの再装着方法a:カテーテルの先端をCiStentに近づける.Cb:カテーテル内へCiStent(.)を吸引.Cc:血液(ここではCICG)とともにiStent(.)を吸引する.Cd:iStentをドレーンの上に置いて,トロッカーで再装着する.表1iStentSaverの使用結果角膜内皮細胞症例番号iStent回収再装着/使用器具再挿入減少数/mmC2(%)1CSF/液体容器CF270(C10)C2CSS/LASIKドレーンCS425(C18)C3CSS/LASIKドレーンCS292(C10)C4CSS/LASIKドレーンCS230(9)C5CSS/LASIKドレーンCS0(0)III考按iStentCinjectWは,わが国ではC2019年に承認1)されたC2個のステントを有する,従来型のCiStentより強い眼圧下降効果が期待できる第二世代の世界最小サイズの眼内ドレーンデバイスである.すでに安全性や眼圧下降効果につき多くの良好な報告2.6)があり,MIGSのなかでもっとも侵襲が少ない手術として近年,施行数が増加している.一方,従来型iStentのサイズC1CmmのCL字型形状から,サイズC360Cμmに小型化し,形状も弾丸型に変わったため,前房内に脱落したS:success,F:failure.際に見失いやすく,かつ従来型CiStentの鑷子形状のインサーターや硝子体手術用の金属鑷子での把持は著しくむずかしくなった.当院では,2020年C10月からCiStentinject挿入術を開始したが,線維柱帯挿入に失敗した際に,前房内でインジェクターのトロッカーの先端での再装着や硝子体手術用の鑷子を使い,脱落したCiStentの再捕捉を試みた.しかし,金属性のCiStentを損傷する危険や,捕獲できず眼内落下や迷入などの重篤な合併症を起こしかねない事態を経験した.そこで筆者らは,不安定な眼内操作ではなく,脱落したiStentをいったん眼外に回収し,顕微鏡下でインジェクターに再装着する方法が安全ではないかと考えた.その材料として,サイズC360Cμmの金属製CiStentを傷めない柔らかい素材で,内腔C650Cμmの十分な大きさを有するC22CG静脈留置針の外筒チューブカテーテルに着目した.吸引回収する器具として片手で操作がしやすく,白内障手術のハイドロダイセクションで使い慣れているC2.5Cmlのシリンジを選択した.このカテーテルとシリンジを連結した試作品を用いて模型眼で実験(図2)をしたが,カテーテル部分が長過ぎてフロッピーとなり,眼内操作が不安定で困難であった.そこで,カテーテルを角膜径の約C12Cmmにカットして使用したところ,角膜創の通過や眼内での操作が著しく改善した.また,原型と同じ形状のベベル(図1cの枠内)を作らずに垂直にカットしたほうが,鋭な先端で隅角を損傷しないために安全であると考えている.実際の手術において使用したが,模型眼での検証結果と同様に,カテーテルチューブの先端がCiStentと離れていても,近づけてシリンジ内筒を引き吸引をかけるだけで(図2a)iStentが容易にカテーテル内を通過し,シリンジ内腔へ入った(図2b).この操作は片手操作となるため,使用前にシリンジ内筒を前後に動かし動きを滑らかにしておき,力を加減しながら,ゆっくりと内筒を引くことで急激な吸引過剰による前房虚脱が防止できる.静脈留置針のカテーテルは乳白色と透明帯が縦縞模様になっており(図1cの枠内),iStentが通過する様子が透けて確認でききて(図2b)非常に便利であった.また,前房出血に見立てたCICGをiStentに覆い被せた回収実験においても,カテーテルをCICG塊の手前に置き,シリンジ内筒をゆっくり引くと,iStentがICG,OVDとともにカテーテル内を通過し(図2c),シリンジ内へ回収された.カテーテルの内腔が大きくなれば,前房内が過剰吸引により前房虚脱のリスクが高くなるため,22CG静脈留置針のカテーテルがもっともCiStentの回収に適当であると考えている.症例C1はCBSS入りの容器へ回収できたが液体容器内でiStentが帯電したように逃げる動きをしインジェクターへのiStent再装着に失敗し紛失したため,2個目のCiStentの設置ができなかった.後日,眼科用吸水スポンジのCMQAを湿潤させて再装着を試したが,素材が固くトロッカーの先端を損傷したり,MQAの線維が混入してしまうため不適当と判断した.そこで,当院にはCLASIKの設備があるため,LASIKで角膜フラップ下に血液や異物の侵入防止目的で使用するLASIK用スポンジドレーンが柔らかく,線維がないので適当であると考えた.LASIKドレーンは,液体で濡れると柔らかいスポンジ状に膨潤するが,ドレーンの上でCiStentが浸水していると症例C1と同様に流動するので,表面に細かな凹凸ができる程度にCMQAで余分な水分を吸い取ると,トロッカーですくいやすいようにCiStentの向きを変える操作や再装着が確実となる(図2d).また,LASIKドレーンは単価約C290円で安価で入手しやすいうえに,1/2に切っても十分使用可能な大きさがあった.以上より,iStentの再装着にはCLASIKドレーンの使用が有用だと考えている.インジェクターは合計C4回まで発射できるが,インジェクターのトロッカーでCiStentを穿刺したあと,顕微鏡を高拡大にし,インサーションチューブのウィンドウから正しくCiStentが装.されていることを確認したあとにスリーブを被せることが非常に重要である.症例C4では,iStent挿入時に線維柱帯の穿刺部からの逆流出血により視認性が悪くなり,出血を移動させるためにOVDを注入したところ隅角離断を起こした.出血で線維柱帯の同定が困難な場合には,過剰なCOVD注入が隅角に強い圧をかけCSchlemm管を損傷するリスクが高くなるため,まずCiStentSaverで隅角部の出血を吸引除去してから,OVDを置換注入するほうが安全である.今回,iStentSaver使用による角膜内皮障害は認められなかった.外筒カテーテルは滅菌済みで材質はエチレンテトラフルオロエチレンであるので,前房内挿入は問題がないと思われる.過去にも静脈留置針を使用した眼内手術の報告7,8)があるが,安全性についての検証はされておらず,目的以外の使用になる点に留意したい.現在CiStent挿入術は,水晶体再建手術と同時手術のみ健康保険の算定が可能である.そのためCiStentが挿入ができずに白内障単独手術に変更になった場合,その後CiStent挿入術は緑内障手術式として選択できなくなる.患者背景や緑内障病期などを考慮し,従来型のCiStentかCiStentinjectWかの使用選択を術前に十分検討しておくことが重要である.CiStentSaverの有用性をまとめると,1)医療施設で常備している既製品のシリンジ(単価:約C30円)と静脈留置針(単価:約C130円)を使用するため安価,2)静脈留置針のカテーテルをカットしてシリンジに連結するだけの簡便性,3)iStentを傷めずに眼外へ回収できる安全性,4)前房出血の吸引で,線維柱帯の視認性回復にも使用可能,のC4点があげられる.以上より,iStentSaverはCiStentCinjectWのリカバリーに有用な器具である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白内障手術併用眼内ドレーン会議:白内障手術併用眼内ドレーン使用要件基準(第2版).日眼会誌C124:441-443,C20202)GonnermannJ,BertelmannE,PahlitzschMetal:Contra-lateralCeyeCcomparisonCstudyCinCMICSC&MIGS:Trabec-tomeRCvs.CiStentCinjectR.GraefesCArchCClinCExpCOphthal-molC255:359-365,C20173)HengererCFH,CAu.arthCGU,CRi.elCCCetal:Prospective,Cnon-randomized,C36-monthCstudyCofCsecond-generationCtrabecularCmicro-bypassCstentsCwithCphacoemulsi.cationCineyeswithvarioustypesofglaucoma.OphthalmolTherC7:405-415,C20184)PopovicCM,CCampos-MollerCX,CSahebCHCetal:E.cacyCandCadverseCeventCpro.leCofCtheCiStentCandCiStentCinjectCtrabecularCmicro-bypassCforopen-angleCglaucoma:ACmeta-analysis.JCurrGlaucomaPractC12:67-84,C20185)ManningD:Real-worldCcaseCseriesCofCiStentCorCiStentCinjecttrabecularmicro-bypassstentscombinedwithcata-ractsurgery.OphthalmolTherC8:549-561,C20196)LindstromR,SarkisianSR,LewisR:Four-yearoutcomesofCtwoCsecond-generationCtrabecularCmicro-bypassCstentsCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaConConeCmedication.CClinOphthalmolC14:71-80,C20207)濱島紅,佐藤孝樹,家久来啓吾ほか:サーフロー外筒を用いた対面通糸法による虹彩離断整復.眼科手術C26:117-120,C20138)上本利世,水木信久:市販の静脈留置針を使用したC27CGシャンデリアイルミネーション挿入法.眼臨紀C2:1084-1085,C2009C***