《原著》あたらしい眼科32(4):583.586,2015c下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績加賀郁子*1城信雄*1南部裕之1.2)中内正志*1吉川匡宣*1越生佳代*3髙橋寛二*1松村美代*2*1関西医科大学眼科学教室*2永田眼科*3関西医科大学滝井病院Long-TermOutcomesforTrabeculotomywithSinusotomyCombinedwithPhacoemulsificationandAspirationwithIntraocularLensImplantationforGlaucomaIkukoKaga1),NobuoJo1),HiroyukiNambu1,2),TadashiNakauchi1),TadanobuYoshikawa1),KayoKoshibu3),KanjiTakahashi1)andMiyoMatsumura2)1)DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2)NagataEyeClinic,3)DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversityTakii目的:原発開放隅角緑内障(POAG),落屑緑内障(EG)に対する白内障手術を併用した下方サイヌソトミー併用トラベクロトミー(LOT+SIN)の眼圧下降効果について検討した.対象および方法:2004.2009年に白内障+下方LOT+SINを行ったPOAG22例31眼,EG20例23眼について眼圧経過および20または16mmHgの生存率を検討.結果:眼圧(POAG/EG)は術前19.8/22.7,術後3年13.4/13.1,術後5年11.5/13.0mmHgであった.術後7年の20mmHg以下の生存率(POAG/EG)は51.8/93.3%,16mmHg以下は46.5/72.8%であり,EGのほうが有意に良好であった(p<0.01).結論:白内障手術を併用した下方LOT+SINの成績は,過去の上方でのLOT+SINを行った報告と同等であった.POAGよりもEGのほうが成績は良好であった.Inthisstudy,weretrospectivelyanalyzedthelong-termsurgicaloutcomesofinferior-approachtrabeculotomyandsinusotomy(inferior-LOT+SIN)combinedwithphacoemulsificationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL).Wereviewed31primaryopen-angleglaucoma(POAG)eyesand23exfoliationglaucoma(EG)eyes.AllcaseshadundergoneinitialLOT+SIN,andwerefollowedupforatleast6-monthspostoperative.InthePOAGandEGeyes,themeanpreoperativeintraocularpressure(IOP)was19.8mmHgand22.7mmHg,respectively,whilethemeanIOPat3-and5-yearspostoperativewas13.4and11.5mmHgand13.1and13.0mmHg,respectively.Statisticallysignificantdifferencewasfoundbetweenthepre-andpostoperativeIOP.BytheKaplan-Meierlifetablemethod,thesuccessratebelow20/16mmHgwere51.8/46.5%inthePOAGeyesand93.3/72.8%intheEGeyesat7-yearspostoperative.ThesuccessrateofEGwasstatisticallyhigherthanthatofPOAG.Thesefindingsareidenticaltothoseofpreviousreportsonsuperior-LOT+SIN.ThefindingsofthisstudyshowthatPEA+IOL+inferior-LOT+SINiseffectiveforthecontrolofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):583.586,2015〕Keywords:トラベクロトミー,サイヌソトミー,白内障手術,開放隅角緑内障,落屑緑内障.trabeculotomy,sinusotomy,phacoemulcification+IOLimplantation,primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma.はじめにことが知られ1.3),成人例ではLOT+SINを施行することがトラベクロトミー(trabeculotomy:LOT)は緑内障流出主流になっている.SINを行ってもトラベクレクトミーでみ路手術の代表格であるが,サイヌソトミー(sinusotomy:られるような濾過胞はできない1.4,7)ので,将来行う可能性SIN)を併用すると,LOT単独に比べて術後眼圧が低くなるのあるトラベクレクトミーのために上方の結膜を温存するこ〔別刷請求先〕加賀郁子:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学講座Reprintrequests:IkukoKaga,DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-5-1Shinmachi,Hirakata573-1191,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)583とを考慮して,最近では下方でLOT+SINを行うことが多く,下方で行っても,上方で行ったLOT+SINの成績と同等であることが報告されている4).LOTに白内障手術を併用した場合,LOT単独手術と同等以上の成績であり6),LOT+SINでも同様の報告はあるが7,8),これらの報告は上方で手術を行った成績であり,白内障手術を併用して下方でLOT+SINを行ったものの報告は少ない5).今回,白内障手術を併用した下方でのLOT+SINの術後長期成績を,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)と落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EG)に分けてレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法2004.2009年に関西医科大学附属滝井病院および枚方病院において,LOT+SINと超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspiration:PEA+intraocularlens:IOL)の同時手術を施行した,初回手術例48例61眼のうち,術後6カ月以上経過観察ができた42例54眼を対象とした(経過観察率89%).病型はPOAG22例31眼,EG20例23眼,男性24例29眼,女性18例25眼であった.平均年齢(平均値±標準偏差,以下同様)はそれぞれ70.0±10.3,77.6±8.6歳とEGのほうが有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p=0.0087).平均経過観察期間はPOAG48.9±22.1カ月,EG45.6±25.6カ月と同等であった(Mann-WhitneyU検定,p=0.7330)(表1).LOT+SINは8時方向で行った.4×4mmの二重強膜弁を作製し,Schlemm管を露出した.上方から角膜切開ないし19ゲージ(G)のバイマニュアルにてPEAを行い,IOLは表層強膜弁下より挿入した.LOT用プローブを挿入,回転し,深層強膜弁を切除して強膜弁を10-0ナイロン糸で2.4糸縫合閉鎖した後,SINすなわちSchlemm管上の強膜の一部をケリーデスメ膜パンチにて切除した.最後に前房内の粘弾性物質を吸引した.眼圧に関してはKaplan-Meier法を用いて20mmHgあるいは16mmHg以下への生存率の解析を行った.死亡の定義は,1)術後1カ月以降で目標眼圧あるいは術前眼圧を2回表1対象症例POAGEGp値症例22例31眼20例23眼平均年齢(歳)70.0±10.377.6±8.6p=0.0087平均観察期間(カ月)48.9±22.145.6±25.6p=0.7330POAG:primaryopenangleglaucoma,原発開放隅角緑内障,EG:exfoliationglaucoma,落屑緑内障.両群間で平均年齢に有意差はなかったが,平均観察期間に有意差はなかった.(Mann-WhitneyU検定)584あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015連続して超えた最初の時点,2)炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始した時点,3)新たな緑内障手術を施行した時点とした.ほかの内眼手術を行った場合は,その時点で経過観察打ち切りとした.Logrank検定を用いてPOAGとEGの病型別の生存率の比較も行った.II結果1.眼圧経過POAGの術前平均眼圧は19.8±4.4mmHgであった.術後1,3,5年の眼圧は13.9±4.1,13.4±3.2,11.5±1.6mmHgといずれの時点においても術前に比較して有意に下降した(術後1,3年p<0.0001,5年p=0.0269:pairedt-test).EGでも同様に,術前平均眼圧は22.7±9.7mmHg,術後眼圧は1,3,5年の眼圧は11.8±3.1,13.1±4.9,13.0±3.7mmHgであり,いずれの時点でも術前に比較して有意に下降した(術後1年p<0.0001,3年p=0.0037,5年でp=0.0180:pairedt-test)(図1).2.薬剤スコア緑内障点眼薬1点(ただし配合剤は2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.POAGでは術前平均2.1±0.9から術後3年で1.5±1.0と減少はみられたものの有意差は認めなかった(p=0.0979:pairedt-test).また,EGでは術前平均が2.2±1.2から,術後3年で0.9±1.0(p=0.0217:pairedt-test)と統計学的に有意に減少したが,術後5年では1.0±0.6と減少はみられたものの有意差は認めなかった(p=0.1025:pairedt-test)(図2).3.生存率20mmHg以下への生存率は,POAGは術後3年で73.6%,術後5年で51.8%,EGは術後3年以降で93.3%であり,EGのほうが有意に良好であった(p=0.0086,Logranktest)(図3).16mmHg以下への生存率も同様で,POAGは術後3年で60.9%,5年で46.5%,EGは術後3年で95.2%,5年で72.8%であり,EGのほうが有意に良好であった(p=0.0099,Logranktest)(図4).4.視力術前視力と最終観察時の視力を比較した.術前と比べ最終観察時の視力がlogMAR視力で0.3以上低下した症例をPOAGの1眼(3.2%)に認めた.術後に発症した裂孔原性網膜.離が視力低下の原因であった(図5).5.濾過胞濾過手術でみられるような濾過胞は全例みられなかった.6.合併症一過性眼圧上昇(術後7日以内に30mmHg以上を呈したもの)をPOAG5眼(16.1%),EG8眼(34.8%)に認めたが,いずれの症例も経過観察もしくは点眼追加で眼圧下降した.POAG1眼で術後4日に感染性眼内炎を生じ,硝子体手(120)32*******POAGn=31n=28n=25n=20:POAG:EG******EGn=23n=21n=17n=15n=12n=7n=18n=6:POAG:EG*****眼圧値(mmHg)スコア(点)201510術前12345(年)図2薬剤スコア0術前12345(年)図1病型別眼圧経過経過とともに症例数が減少するため有意差は出なかった術前の眼圧と比べ,病型を問わず有意に眼圧下降が得られが,術前と比べPOAGでは術後2年まで,EGでは3年また(pairedt-test**p<0.0001,*p<0.05).で有意に薬剤スコアは下降した(pairedt-test*p<0.05).100100:EG:POAG(月)72.8%(90カ月)46.5%(84カ月):EG:POAG51.8%(90カ月)93.3%(90カ月)8080生存率(%)生存率(%)60604040202000020406080(月)最終観察視力020406080図320mmHg以下への生存率図416mmHg以下への生存率POAGと比べ,EGが有意に良好であった(Logrank検定POAGと比べ,EGが有意に良好であった(Logrank検定p=0.0086).p=0.0099).術で治癒した.この症例では術後濾過胞はみられなかった.37.再手術例POAG6眼,EG1眼で再手術を行った.POAG3眼,EG2.50.51眼では術後18,34,54,54カ月までは投薬下で18mmHg2以下にコントロールできていたが,その後眼圧上昇を認めた.明らかな視野の悪化はなく,術後20,36,57,57カ月1.5で,下方の別部位から再度LOT+SINを行った.1術後1カ月以降20mmHg以上の眼圧を示しLOTが無効:EGと考えられたPOAGの1眼と,術後9カ月以降に点眼2剤●:POAGと内服投薬下で14mmHgであったが視野進行を認めたPOAGの1眼,術後48カ月まで15mmHg以下であったが視野進行を認めたPOAGの1眼の合計3眼で,各々術後6,-0.5-0.50.511.522.5326,48カ月にトラベクレクトミーを上半周で行った.術前視力図5視力経過(logMAR視力)III考按POAGの1例で裂孔原性網膜.離をきたし,術後視力低LOT+SINは10mmHg台前半の眼圧をねらえる術式では下を生じた.ないため,長い人生には将来的に濾過手術が必要になる可能性を考えて,近年では下方で行われることが多い.下方(121)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015585LOT+SINの成績は上方で行ったものと変わらないことがわかっている4).LOT+SIN+PEA+IOLに関しては,以前筆者らの施設で上方から行った成績が,術後1年の眼圧14.6mmHgであり,LOT+SIN単独と同等であったことを報告した7).松原ら8)は,上方LOT+SIN+PEA+IOLの長期成績を,術後5年の平均眼圧13.6mmHg,20mmHg以下への生存率86.8%と,単独手術よりもよかったと報告している.浦野ら5)は今回の筆者らと同様に,下方でLOT+SINを施行し耳側角膜切開でPEA+IOLを行った症例と,上方でLOT+SIN+PEA+IOLを行った症例について,術後12カ月での眼圧は上方14.4mmHg,下方13.6mmHgで差はなく,その眼圧は過去のLOT+SIN単独と同等であったと報告している.本報告では,下方LOT+SIN+PEA+IOLの長期成績を,POAGとEGの病型別に検討した.POAGでは術後4年の眼圧12.9mmHg,20mmHg以下への4年生存率が71.8%で,下方でのLOT+SIN単独手術(術後5年の眼圧14.6mmHg,20mmHg以下への8年生存率62.2%)の報告4)と同等であった.POAGでは下方LOT+SIN単独と下方LOT+SIN+PEA+IOLとの成績に差はないと考えてよさそうである.EGでは,下方LOT+SIN単独手術は,術後3年の平均眼圧17.8mmHg,20mmHg以下への生存率は25.2%(42カ月)と不良であるが,内皮網除去を併用した場合はPOAGと同等の成績であると報告されている4).今回の下方LOT+SIN+PEA+IOLでは,術後5年の眼圧13.0mmHg,20mmHg以下への生存率93.3%とPOAGより明らかに良好であり,Fukuchiら10)の上方からの成績とも同等であった.落屑症候群の症例では,緑内障の有無にかかわらずPEA+IOL術後に眼圧下降が得られることも報告されている11).白内障手術で落屑物質が吸引除去されること,水晶体がIOLに替わることで虹彩との摩擦が減少し,その後の落屑物質の浮遊が減少するであろうことから,EGにはPEA+IOLは有効に作用すると考えられる.実際,LOTにSINを併用していなかった時代から,EGにはLOT+PEA+IOLが有効であることがわかっていた9)が,今回の検討でEGにおける同時手術の有用性は下方で行っても同様であることが確認された.今回,下方でのLOT+SN+PEA+IOLの長期成績を検討して,POAGではLOT+SIN単独でもPEA+IOLを併用しても眼圧成績に差のないことが明らかになった.EGでは,LOT+SIN単独よりもPEA+IOLを併用するほうが成績は良好で,POAGと比較しても有意に高い眼圧コントロールができるという結果が示された.EGでは,LOT+SINを下方で行う場合でも積極的に白内障手術を併用することが推奨586あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015される.過去の報告では,LOT+SIN+PEA+IOLの成績がLOT+SIN単独と同等であったとされるものと5,7),同時手術のほうが単独手術よりよかったとされるもの8)がみられるが,今後は病型を考慮した検討が必須であると思われる.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicaleffectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycomparedtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmolScand78:191-195,20002)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19963)安藤雅子,黒田真一郎,寺内博夫ほか:原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期経過.臨眼57:1609-1613,20034)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成績.日眼会誌116:740-750,20125)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1148-1152,20086)TaniharaH,HonjoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsificationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimaryopenangleglaucomaandcoexistingcartaract.OpthalmicSurgLasers28:810-817,19977)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科8:813-815,20018)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,20029)TaniharaH,NegiA,AkimotoAetal:Surgicaleffectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,199310)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsification,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,201111)ShingletonBJ,HeltzerJ,O’DonoghueMW:Outcomesofphacoemulsificationinpatientswithandwithoutpseudo-exfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg29:10801086,2003(122)