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尋常性白斑の診断を受けていたVogt-小柳-原田病の2例

2014年4月30日 水曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(4):591.594,2014c尋常性白斑の診断を受けていたVogt-小柳-原田病の2例寺尾亮*1藤野雄次郎*1南川裕香*1杉崎顕史*1田邊樹郎*1菅野美貴子*2*1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科*2河北総合病院眼科TwoCasesofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasewithVitiligoPrecedingOcularDiseaseRyoTerao1),YujiroFujino1),YukaMinamikawa1),KenjiSugisaki1),TatsuroTanabe1)andMikikoKanno2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoKouseinenkinHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KawakitaGeneralHospital尋常性白斑の診断を受けていて後に眼症を発症したVogt-小柳-原田病(VKH)の2例を報告する.症例1は74歳,女性.1998年頃から尋常性白斑と診断されていた.2010年10月中旬から右眼視力低下を自覚し近医を受診後,10月下旬当科を紹介受診した.両眼の網膜皺襞,右眼の漿液性網膜.離を認めた.蛍光眼底造影検査(FA)で両眼にびまん性点状蛍光漏出を認めた.VKHと診断しステロイドパルスを行い両眼の漿液性.離は治癒したが,夕焼け状眼底を呈した.症例2は64歳,女性.2000年頃から白斑が出現していた.2003年8月に近医で右眼白内障手術を施行.3週間後より急激に右眼視力低下と歪視を自覚し当科を紹介受診した.両眼に漿液性網膜.離を認めFAでびまん性点状蛍光漏出を認めた.VKHと診断しステロイドパルスを行い漿液性.離は治癒したが,夕焼け状眼底を認めた.VKHの皮膚白斑は回復期に出現するとされているが,本症例のように明らかな眼症状の出現に先行する症例も存在すると考えられた.Wereport2casesofVogt-Koyanagi-Haradadiseasethathadbeendiagnosedasvitiligovulgarisprecedingtheonsetofoculardisease.Case1,a74-year-oldfemale,presentedwithvisuallossinherrighteye;shehadbeendiagnosedwithvitiligo20yearsbefore.Fundusexaminationshowedserousdetachment(SRD)intherighteye;fluoresceinangiography(FA)revealeddiffusepinpointleakageinbotheyes.Thepatientreceivedsteroidpulsetherapyandwascured,withsunsetglowfundus.Case2,a64-year-oldfemale,complainedofvisuallossandanorthopiainherrighteye3weeksafterrightcataractsurgerywithoutcomplication;shehadsufferedfromvitiligo3yearsbefore.FundusexaminationshowedbilateralSRDandFAdiscloseddiffusepinpointleakageinbotheyes.Thepatientwassuccessfullytreatedwithsteroidpulsetherapyandsunsetglowfundusappeared.Thediagnosticcriteriaprescribesthatvitiligoshouldnotprecedeoculardisease,butexceptionalcasesmayexist.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):591.594,2014〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,診断基準,夕焼け状眼底,皮膚白斑.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,diagnosticcriteria,sunsetglowfundus,vitiligo.はじめにVogt-小柳-原田病(VKH)は全身のメラノサイトに対する自己免疫疾患で,眼症状の他に皮膚科,耳鼻科,神経内科領域の症状が出現する.病期は前駆期・眼病期・回復期の3期に分類される.前駆期では軽度感冒様症状や頭痛,耳鳴りなどが出現し,眼病期ではびまん性脈絡膜炎を主体とした汎ぶどう膜炎が起こり,回復期では夕焼け状眼底や角膜輪部色素脱失(杉浦徴候),皮膚症状が出現しはじめる.皮膚所見は一般的には回復期に出現するとされており,ReadらのVKHの診断基準においても皮膚症状の出現は「notprecedingonsetofoculardisease」と記載されている1).しかし,これまでに皮膚所見が眼症状に先行したVKH症例が数例報告されている2,3).今回,筆者らは尋常性白斑の診断を受けていて後に後眼部炎症を発症し,夕焼け状眼底を呈したVKHの2例を報告する.I症例1〔症例1〕74歳,女性.〔別刷請求先〕寺尾亮:〒162-8543東京都新宿区津久戸町5-1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科Reprintrequests:RyoTerao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoShinjukuMedicalCenter,5-1Tsukudocho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8543,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(113)591 abcdabcd図1症例1a:2007年健診時の眼底写真.夕焼け状眼底はみられていない.b:初診時の右眼光干渉断層計.漿液性網膜.離を認める.c:頭部写真.両眉弓部(矢頭)と頬部(矢印)の左右対称な白斑を認める.d:治癒後の眼底写真.夕焼け状眼底を呈している.現病歴:2010年10月中旬から右眼視力低下を自覚したため10月末日近医を受診したところ,右眼の虹彩炎と後部ぶどう膜炎を指摘され,その2日後東京厚生年金病院(当院:現JCHO東京新宿メディカルセンター)眼科紹介受診した.既往歴:1982年頃から軽度の両眼の虹彩炎が数回出現していたが高度な視力低下を自覚することはなく,1991年以降は虹彩炎を起こしていなかった.また,2007年の健康診断時に撮影された眼底写真は眼底に異常を認めず,夕焼け状眼底は呈していなかった(図1a).1998年頃から頭部・顔面に左右対称性の白斑が出現し尋常性白斑の診断を受けていた(図1c).家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼0.1(0.6×+2.50D(cyl.1.50DAx65°),左眼0.2(1.2×+2.50D(cyl.0.50DAx120°).眼圧は右眼14mmHg,左眼16mmHg.両眼とも前房内細胞なし.両眼とも網膜皺襞を認め,光干渉断層計にて右眼は漿液性網膜.離を認めた(図1b).蛍光眼底造影検査では両眼ともびまん性の点状蛍光漏出がみられた.血液検査では末梢血,生化学検査を含め異常項目はなく,髄液検査では細胞数は4/3μlと増多を認めなかった.また,白髪,禿,感音性難聴などは認めなかった.592あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014経過:VKHと診断しメチルプレドニゾロン500mg/日,3日間のセミパルス療法,その後,後療法としてプレドニゾロン40mg/日内服から漸減し3カ月で内服を中止した.その後,2回,網膜皺襞が出現したが,その都度トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を行い,眼底所見は改善した.両眼ともしだいに夕焼け状眼底を呈した(図1d).〔症例2〕64歳,女性.現病歴:2003年8月近医で右眼の視力低下に対し右眼白内障手術を施行.その3週間後より右眼視力の急激な低下と歪視を自覚し他医受診した.右眼眼底に広く網膜浮腫を認めたため精査・加療目的で当科を紹介受診した.既往歴:2000年頃から左下腹部と両眉弓部に白斑が出現していた(図2c).家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼0.04(矯正不能),左眼0.05(0.4×+5.75D(cyl.1.75DAx90°).眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.両眼とも前房内細胞1+認め,右眼は眼内レンズ眼,左眼は極軽度の白内障がみられた.また,眼底は後極を中心に漿液性網膜.離がみられた.蛍光眼底造影検査では両眼ともびまん性の点状蛍光漏出および蛍光貯留を認めた(図2a,b).血液検査では末梢血,生化学検(114) cacabd図2症例2a:初診時眼底写真.夕焼け状眼底はみられていない.b:蛍光眼底造影検査.両眼のびまん性点状蛍光漏出を認める.c:頭部写真.両眉弓部(矢印)の左右対称性の白斑を認める.d:治療後の眼底写真.夕焼け状眼底を呈している.査を含め異常項目はなく,髄液検査では単核球数10/3μlと増多がみられた.また白髪,禿,感音性難聴などは認めなかった.経過:VKHと診断しメチルプレドニゾロン1,000mg/日,3日間のパルス療法を2クール行い,その後,後療法としてプレドニゾロン40mg/日内服から漸減した.漸減途中6mg/日のときに両眼後極部に網膜皺襞が出現したため,トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を行った.2004年5月にプレドニン内服を中止し,それ以降,再発をみていない.両眼とも眼底はしだいに夕焼け状眼底を呈したが(図2d),視力は両眼矯正1.2を得た.なお,本2症例は報告にあたって本人の自由意思による同意(informedconsent)を得ている.II考察VKHの皮膚所見としては白毛,脱毛,白斑がある.皮膚白斑は左右対称性で,眼瞼周囲や頸部に認められるのが特徴的で,尋常性白斑との鑑別を要する4).白斑が先行したVKH症例に関する既報を示す(表1).井上らの報告2)は68歳,女性で,両眼周囲,頸部,手背に左右対称の境界明瞭な白斑が出現,その3年後に両眼の中心部(115)視力低下と歪視を自覚し,VKHと診断されている.内山らの報告3)は67歳,男性で,顔面,両手背,体幹に左右対称性の白斑が出現,さらに5年後に後頭部,肘中部に乾癬が出現していた.その1年後からぶどう膜炎と診断されていたが,さらに1年後に当院を受診され両眼白内障手術を施行したところ,術後眼底検査で夕焼け状眼底がみられたためVKHと診断されている.自験例について,症例1は初診時に滲出性網膜.離,蛍光眼底造影検査におけるびまん性点状蛍光漏出,また後期症状として夕焼け状眼底がみられた.Readらの診断基準では皮膚白斑が先行していたため皮膚所見の基準を満たしていないとすればprobableVKH,皮膚所見を含めた場合はincompleteVKHに該当する.1982.1991年頃の間に軽度虹彩炎のエピソードが数回あったが以降は一旦治まっており,皮膚白斑は1998年頃から出現していた.当院初診時より以前からVKHによる後眼部炎症が起こっていた,あるいは関連する非常に軽症のぶどう膜炎を繰り返していた可能性も考えられるが,2007年の眼底写真では夕焼け状眼底は呈していなかったため,この時点ではまだVKHのような汎ぶどう膜炎は発症しておらず,1991年以前に起きていた虹彩炎はVKHとは違う病態であったのではないかと考えられた.したがっあたらしい眼科Vol.31,No.4,2014593 表1皮膚白斑が先行したVogt-Koyanagi-Harada病の報告例報告者報告年年齢性皮膚所見経過眼所見井上ら2)200068歳女性1993年頃から両眼周囲,頸部,手背に左右対称の境界明瞭な白斑が出現.白斑出現3年後に中心部視力低下と歪視自覚.近医でぶどう膜炎を診断されステロイド点眼処方されたが,視力低下が進行したため紹介.初診時に視神経乳頭浮腫,滲出性網膜.離,周辺部夕焼け状眼底を認めた.内山ら3)201067歳男性1998年頃より顔面,両手背,体幹に左右対称性の白斑,5年後から後頭部,肘中部に乾癬が出現.白斑出現6年後からぶどう膜炎と診断されていた.2008年4月精査目的で紹介受診.ぶどう膜炎と白内障を認めた.初診の1週間後両眼の白内障手術を施行.術後に眼底を確認したところ,夕焼け状眼底を認めた.て,2010年10月の両眼性後眼部炎症がVKHの眼病期にあたり,それよりも皮膚所見のほうが先行していたと考える.症例2は今回の眼内炎症を起こす3年前から左下腹部と両眉弓部に白斑が出現していた.初診時に両眼滲出性網膜.離,蛍光眼底造影検査におけるびまん性点状蛍光漏出,脳脊髄液細胞増多,また後期症状として夕焼け状眼底を認めていた.片眼の白内障手術後に両眼性眼内炎症をきたしたため,内眼手術の既往のある場合を一律に交感性眼炎とする立場をとれば,本症も白内障手術が虹彩損傷のない小切開白内障手術であったとしても交感性眼炎に分類されることになる5).しかし,Kitamuraらは杉浦の診断基準によって診断されたVKH169症例をReadらの診断基準にあてはめたところ14症例が基準を満たしておらず,うち2症例は白内障手術既往のある症例であったと報告しており,通常の白内障手術の既往があるものがVKHの該当から除外されることについては疑問視している6).そのような意見も鑑み,本症例は白内障手術以前から存在した皮膚病変と今回の眼症を同一疾患と考えVKHと診断した.また,右眼白内障術前から緩徐なVKHによる炎症があった可能性もあるが,白内障手術を受けていない左眼は白内障も軽度でそれ以前に視力低下の自覚がないことから,その可能性は低く,今回のエピソードが初回の内眼炎であると考えられた.内眼手術歴以外の項目において検討すると皮膚所見を含まないのであればincompleteVKH,含めた場合はcompleteVKHに該当する.いずれの症例も白斑が主体ないし先行したVKHと考えられた.Readらの診断基準では白斑は眼症状に先行しないとされているが例外も存在する可能性があり,少なくとも左右対称性の特徴的な分布を示す皮膚白斑がみられた場合は,それが眼症状出現前でもVKHの可能性があると思われ,今後も症例を蓄積していく必要があると考える.文献1)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.AmJOphthalmol131:647-652,20012)井上裕悦,大西善博,榎敏生ほか:白斑が先行したVogt・Koyanagi・原田病.皮膚臨床42:214-215,20003)内山真樹,三橋善比古,大久保ゆかりほか:Vogt-Koyanagi-Harada病を合併した尋常性乾癬.皮膚病診療32:959962,20104)鈴木民夫,金田眞理,種村篤ほか:尋常性白斑診療ガイドライン.日皮会誌122:1725-1740,20125)DemicoFM,KissS,YoungLH:Sympatheticophthalmia.SeminOphthalmol20:191-197,20056)KitamuraM,TakamiK,KitachiNetal:ComparativestudyoftwosetsofcriteriaforthediagnosisofVogtKoyanagi-Harada’sdisease.AmJOphthalmol139:10801085,2005***594あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(116)