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目磨き文化の醸成として緑内障啓発活動の試み

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):837.842,2024c目磨き文化の醸成として緑内障啓発活動の試み檜森紀子*1,2遠藤雅俊*1,3松原雄介*4稲穂健市*4矢花武史*1石川誠*1國方彦志*1中澤徹*1*1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野*2東北大学大学院医工学研究科生体再生医工学視覚抗加齢医工学分野*3東北大学COINEXT「VisiontoConnect」拠点*4東北大学研究推進・支援機構リサーチマネジメントセンターCAttemptstoRaiseAwarenessofGlaucomaNorikoHimori1,2)C,MasatoshiEndo1,3)C,YusukeMatsubara4),KenichiInaho4),TakeshiYabana1),MakotoIshikawa1),HiroshiKunikata1)andToruNakazawa1)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofAgingVisionHealthcare,TohokuUniversityGraduateSchoolofBiomedicalEngineering,3)COINEXTTohokuUniversity,VisiontoConnect,4)ResearchManagementCenter,OrganizationforResearchPromotion,TohokuUniversityC目的:日本における年齢別の眼疾患の有病率はC60歳以上で上昇し,なかでも緑内障の上昇が著しいため,高齢化社会において早期発見・治療は重要であると考えられる.そこで筆者らは「目磨き」の文化を醸成し,自分の健康を知る機会を設け緑内障の早期発見意識向上へ向けた活動に取り組むこととした.方法:2023年3月11日,12日にショッピングセンターに来店する地域住民を対象にC29企業・4学科の協力のもとC27ブースを出展,C“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベントC2CdaysC!”を開催し,来場者にアンケートを実施しC222名から回答を得た.結果:延べC4,105人がイベントに参加した.アンケートより目のトラブルを心配している参加者はC48%を占め,眼の検査(眼底写真,OCT),眼科医師の健康相談は参加者が多く参加者の満足度も高い傾向にあった.また,参加者のC52.3%がイベントに参加して病院を受診しようと考え,「見える」の考え方,捉え方がC76.8%で変化したという結果を得た.結論:本イベントは参加者の意識改革に大きく寄与することができ,定期的な市民への啓発活動が視機能維持に重要であると考えられた.CPurpose:Theprevalenceofeyediseasesincreasesamongpeopleagedover60years,andtheriseinglauco-maisparticularlysigni.cant,soearlydetectionandtreatmentareconsideredimportantinanagingsocietysuchasJapan.Therefore,wedecidedtofosteracultureof“memigakibunkajosei”(takingcareofyoureyes)toprovideopportunitiesCforCpeopleCtoClearnCaboutCtheirCownChealthCandCengageCinCactivitiesCtoCraiseCawarenessCofCtheCearlyCdetectionCofCglaucoma.CMethods:WeCtargetedClocalCpeopleCvisitingCaCshoppingCcenterConCtwoCconsecutiveCdaysCinCMarch2023,andsetup27boothsincooperationwith29companiesand4academicdepartments.Ourmottowas“WhenCyouCchangeCtheCwayCyouCsee,CtheCworldCchangesC─CyourCbody.CTwoCdaysCofCfunCexperienceCeventCwithCheartC!C”,CandCweCconductedCaCsurveyCofCtheCvisitorsCandCreceivedCresponsesCfromC222Cpeople.CResults:ACtotalCofC4,105CpeopleCparticipatedCinCtheCevent.CAccordingCtoCtheCsurveyCresponses,48%CofCtheCparticipantsCwereCworriedCabouteyeproblems,andmanyofthemweresatis.edwitheyeexaminations(i.e.,fundusphotographyandopticalcoherencetomography)andhealthconsultationswithophthalmologists.Inaddition,53%oftheparticipantsconsid-eredvisitingahospitalafterattendingtheevent,and77%ofthemsaidthattheirwayofthinkingandunderstand-ingCaboutCproperCvisionChadCchanged.CConclusion:ThisCeventCwasCableCtoCgreatlyCcontributeCtoCchangingCtheCawarenessofparticipants,andweconsiderregularpublicawarenessactivitiesimportantformaintaininggoodvisu-alfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):837.842,C2024〕Keywords:緑内障,啓発活動,目磨き文化醸成.glaucoma,CpublicCawarenessCactivities,CtakingCcareCofCyourCeyes.C〔別刷請求先〕檜森紀子:〒980-8574宮城県仙台市青葉区星陵町C1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野Reprintrequests:NorikoHimori,DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Seiryo-cho,Aoba-ku,Sendai-shi,Miyagi980-8574,JAPANC図1“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベント2days!”の会場図2イベント出展例a:緑内障CVR体験コーナー.Cb:眼科医師による相談コーナー.c:音楽イベント.はじめに日本での視覚障害認定状況は原因疾患別では緑内障が第一位であり,4割を占めている1).現在,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を含む眼底検査機器の進歩により極早期の緑内障診断は向上している.そして,さまざまな機序の点眼薬により低い眼圧を保つことができるようになった.緑内障手術も幅広く開発され,治療の進歩により高度な視機能障害をきたす確率は低下してきている.しかし,緑内障は自覚症状の弱い疾患であり,視野の欠けは自覚されにくい.現行の緑内障診療の目標は進行を抑制することであり,生活に不便を感じ病院を受診するのでは,患者の治療満足度の向上は得られない.本人が病気に興味をもち病院を受診してもらい,早期発見・治療を実現させるためには市民への啓発活動が必要であると考えられる.そして一人でも多くの無自覚緑内障患者を減らすために,筆者らは「目磨き」の文化を醸成し,自分の健康を知る啓発活動に取り組むこととした.本稿では,本イベントが緑内障を早期発見する意識向上に有効かアンケート調査の結果を解析したので報告する.CI対象および方法2023年C3月C11日,12日に宮城県利府町のショッピングセンターに来店する地域住民を対象に東北大学CCOICNEXT「VisiontoConnect」拠点が宮城県眼疾患早期発見コンソーシアム(https://mewomamoru.net/),宮城県眼科医会,東北大学C4学科(医学,歯学,薬学,工学)と協力し,C“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベントC2Cdays!”を開催した(図1).イベントの広a性別b年代20代7.7%回答しない0.5%回答しない10代以下1.8%2.3%■10代以下60代以上■20代21.8%30代男15.0%44.5%■30代■男■40代■女女■50代■回答しない55.0%■60代以上■回答しない50代40代27.3%24.1%図3アンケート回答者a:性別.b:年代.報はCHPで紹介し,東北大学,関連病院,宮城県眼疾患早期発見コンソーシアムに加入しているクリニックに来院した患者に案内した.29企業・東北大学C4学科(医学,歯学,薬学,工学)と協議を重ねC27ブースを出展し,各ブース出展企業や学科から人員を配置した.また,保健所に診療所開設届を提出し,眼科医師による健康相談は東北大学眼科医局員,眼科検査については東北大学眼科CORT交替で担当し,施行した.トークイベント,音楽イベント,眼底写真,健康相談,視力計測,virtualreality(VR)体験,毛細血管測定などC27ブースを出展した(図2a~c).さまざまな点からショッピングモールにきた人をリクルートし,アンケートを実施しC222名から回答を得た.本稿で報告する啓発活動で入手したアンケートはすでに匿名加工している情報(名前は聞いておらず,年代と性別のみ)のため倫理指針の対象とはならず,倫理審査は不要と判断した(東北大学倫理員会確認済).CII結果本イベントには延べC4,105人が来場し,222件のアンケートの回答を得た.参加者の性別は男性C55.4%,女性C44.1%(図3a),幅広い年代に参加いただきとくにC40代,50代の人に多く参加いただいた(図3b).現在,身体の不調として眼のトラブルをあげる人が多いことが明らかになった(図4a~c).体験イベントは健康相談,眼底写真,OCT検査の参加者が多く(図5a),来場者の満足度も非常に高いという結果を得た(図5b).イベントに参加して病院を受診しようと思っている人がC52.3%(図6a),76.8%の参加者に見えることに関して意識改革ができたという結果を得(図6b),イベント参加者の意識改革に大きく寄与することができたと考えられた.III考按多治見スタディでは全緑内障の約C9割は未発見・未治療であることが明らかになっており2),診断されずに潜在している緑内障患者が多いことが第C1の問題として考えられる.第2の問題点として,緑内障は自覚症状が弱い病気であり,病院受診する人が少ないことがあげられる.実際,人間ドック後の眼科医療機関を受診しない人はC32.8%存在し3),理由として「たいしたことない」という理由が一番であった4).潜在している緑内障患者を調べると,視力や眼圧を確認するよりも視神経乳頭の診察が診断に重要という報告もあることから,眼科受診が必須となる5).視覚はCQOLに直結しているが,重要性を自覚している人が残念ながら少ないのが現状であり,確実な受診に結びつけるために,行動変容を促すための専門家による相談体制作りや啓発活動が重要である.本イベントでは,視力検査,簡易視野検査,OCT撮影,VR機器で緑内障の視界を体験,医師の相談コーナーなどが開設され,ショッピングセンターを訪れた幅広い年齢層の人に体験いただいた.トークイベントを聞いた人のなかには熱心にメモをとる人もみられ,眼疾患への関心の高さがうかがえた.今回の体験コーナーでは自身の眼の健康をチェックすることで,病院を受診しようと思っている方がC52.3%,76.8%の参加者が見えることに関して意識改革ができたという結果を得たことから,市民にとって眼の健康に関心をもつ良い機会になったと考えられた.緑内障で大切なことは早期発見の機会をもち,診断の結果治療が必要なら治療開始,疑わしいなら経過観察,健診・検診は定期的に受けることである.今回のような持続的な啓発活動を通して市民に眼疾患へ興味をもってもらうことは,日本国民の視機能維持に重要であると考えられる.現在,身体に不調はありますか(複数回答可)210件の回答a目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性肩こり胃腸(便秘・下痢)低血庄・高血庄睡眠が浅い・寝つきが悪い花粉症耳鼻科特になしない特にない膝滑膜性骨軟骨腫症冠攣縮性狭心症なし目がかすむ,目がつかれる0b目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性肩こり胃腸(便秘・下痢)01024(11.4%)27(12.9%)23(11%)36(17.1%)35(16.7%)34(16.2%)28(13.3%)5(2.4%)2(1%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)202030405040(19%)36(17.1%)40606070809082(39%)74(35.2%)80100■女実数■男実数c目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性屑こり胃腸(便秘・下痢)低血圧・高血圧唾眠が浅い・寝つきが悪い0102030405060708090■10代以下■20代■30代■40代■50代■60代以上図4不調を自覚している身体の部位a:全体.Cb:男女別赤:女性の実数,青:男性の実数.Cc:年代別青:10代以下,赤:20代,黄:30代,緑:40代,橙:50代,薄緑:60代以上.a本日どのイベントメニューを体験しましたか216件の回答①医師による相談コーナー115(53.2%)②老眼や加齢に伴う見え…60(27.8%)③誰でも簡単に眼の健康…68(31.5%)④黄斑色素密度を高くす…45(20.8%)⑤あなたの目は大丈夫!…44(20.4%)⑥眼底写真で健康チェック117(54.2%)⑦緑内障をご存知ですか?40(18.5%)⑧OCTスキャナー76(35.2%)⑨「きこえ」を良くして…15(6.9%)⑩虫歯・歯周病のリスク…23(10.6%)⑪お口の機能をみてみよ…16(7.4%)⑫爪先毛細血管・”ゴース…62(28.7%)⑬障がいのある方の就労…2(0.9%)⑭ゆるスポーツ「コツコ…7(3.2%)⑮さまざまな目の症状を疑似…8(3.7%)⑯緑内障VRヘッドセット…19(8.8%)⑰親子で!友達同士で!…18(8.3%)⑱認知症などの疾病リス…14(6.5%)⑲ロービジョン患者さん…3(1.4%)⑳誰もが手軽に眼の状態…6(2.8%)⑪“見えづらい”を“見える”…7(3.2%)⑫クイズで学ぶ「生活習…10(4.6%)A-①みんなで一緒に!イ…1(0.5%)A-②感覚を研ぎ澄ませ!…4(1.9%)B-①イオン薬局出張所2(0.9%)B-②ウエルシア薬局出張所6(2.8%)Cバランスウォーキング(…4(1.9%)0255075100125b本日体験したイベントメニューでよかったメニューはどれですか199件の回答①医師による相談コーナー101(50.8%)②老眼や加齢に伴う見え…38(19.1%)③誰でも簡単に眼の健康…43(21.6%)④黄斑色素密度を高くす…30(15.1%)⑤あなたの目は大丈夫!…30(15.1%)⑥眼底写真で健康チェック78(39.2%)⑦緑内障をご存知ですか?30(15.1%)⑧OCTスキャナー62(31.2%)⑨「きこえ」をよくして…13(6.5%)⑩虫歯・歯周病のリスク…20(10.1%)⑪お口の機能をみてみよ…12(6%)⑫爪先毛細血管・”ゴース…42(21.1%)⑬障がいのある人の就労…3(1.5%)⑭ゆるスポーツ「コツコ…6(3%)⑮さまざまな目の症状を疑似…4(2%)⑯緑内障VRヘッドセット…11(5.5%)⑰親子で!友達同士で!…10(5%)⑱認知症などの疾病リス…8(4%)⑲ロービジョン患者さん…2(1%)⑳誰もが手軽に眼の状態…3(1.5%)⑪“見えづらい”を“見える”…6(3%)⑫クイズで学ぶ「生活習…8(4%)A-①みんなで一緒に!イ…0(0%)A-②感覚を研ぎ澄ませ!…3(1.5%)B-①イオン薬局出張所2(1%)B-②ウエルシア薬局出張所5(2.5%)Cバランスウォーキング(…3(1.5%)0255075100125図5体験イベントに関してa:どのイベントを体験しましたか.Cb:体験したイベントメニューでよかったメニューはどれですか.abいいえ■はい■はい2.3%■いいえ■いいえ■どちらともいえない■どちらともいえない図6行動変容に関してa:今回のイベントに参加して,病院を受診しようと思いましたか?の考え方,とらえ方が変わりましたか?文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C20232)日本緑内障学会:日本緑内障学会多治見疫学調査報告書C2012Cb:今回のイベントに参加して,「見える」3)和田高,寺島早,三村昭ほか:人間ドックC3カ月後の受診勧奨と今後の課題.人間ドックC27:748-754,C20124)鈴木真,酒井博,福田吉:健診結果に基づく事業場労働者の医療機関受診につながる要因.産業衛生学雑誌C61:247-255,C20195)IwaseCA,CSuzukiCY,CAraieM:CharacteristicsCofCundiag-nosedprimaryCopen-angleCglaucoma:theCTajimiCStudy.COphthalmicEpidemiolC21:39-44,C2014***