《原著》あたらしい眼科36(3):415.417,2019c看護師による涙管通水検査の正確性と安全性頓宮真紀*1松村望*2加藤祐司*3高橋寧子*4松本雄二郎*1加治優一*1宮崎千歌*5*1松本眼科*2神奈川県立こども医療センター*3札幌かとう眼科*4東京慈恵会医科大学付属病院眼科*5兵庫県立尼崎総合医療センターCAccuracyandSafetyofLacrimalIrrigationTestingConductedbyNursesMakiHayami1),NozomiMatsumura2),YujiKato3),YasukoTakahashi4),YujirouMatsumoto1),YuichiKaji1)andChikaMiyazaki5)1)MatsumotoEyeClinic,2)KanagawaChildren’sMedicalCenter,3)SapporoKatoEyeClinic,4)CJikeiUniversitySchoolofMedicine,5)HyogoPrefecturalAmagasakiGeneralMedicalCenterCDepartmentofOphthalmology,目的:重要なメディカルスタッフである看護師の涙管通水検査を医師の涙管通水検査と比較し,看護師による涙管通水検査の正確性と安全性を検討した.対象および方法:涙管通水検査を看護師,医師ともに行ったC155名C290眼(男性C37名,女性C118名)について検討した.結果:155名C290眼について医師(以下,Dr)と看護師(以下,Ns)の涙管通水検査結果の内訳は,Dr・Nsとも通水可がC253眼(87.2%),Dr通水可・NS通水不可がC11眼(3.7%),Dr・Nsとも通水不可がC25眼(8.6%),Dr通水不可・Ns通水可がC1眼(0.3%)であった.以上の結果からCNsによる涙管通水検査の感度はC96.2%,特異度はC95.8%であった.安全性についても今回の検討では有害事象は認めず,全例(100%)Nsによる涙管通水検査は施行可能であった.結論:Nsによる涙管通水検査はCDrによるものとほぼ同等の正確性と安全性があると考えられた.CPurpose:ToCevaluateCtheCaccuracyCandCsafetyCofClacrimalCirrigationCtestingCconductedCbyCnurses,CimportantCmedicalsta.,incomparisonwithtestingconductedbydoctors.Methods:Weanalyzedtheresultsoflacrimalirri-gationtestson290eyesof155patients(37male,118female)conductedbynursesandbydoctors.Results:Theresultsareasfollows:253eyes(87.3%)werepassedbybothnursesanddoctors,11eyes(3.8%)werepassedbydoctorsCbutCnotCbyCnurses,C25eyes(8.6%)wereCnotCpassedCbyCeitherCnursesCorCdoctors,CandC1eye(0.3%)waspassedbyanursebutnotbyadoctor.Thesensitivityoflacrimalirrigationtestingconductedbynursesis96.2%,andthespeci.cityofsuchtestsis95.8%.Astothesafetyaspect,nursesconductedlacrimalirrigationtestingonallthepatients(100%)withnoadverseevents.Conclusion:Thedataindicatethatlacrimalirrigationtestingcon-ductedbynursesisofasaccurateandsafeastestingconductedbydoctors.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):415.417,C2019〕Keywords:涙管通水検査,看護師.lacrimalirrigation,nurse.Cはじめに涙管通水検査は,涙道診療における重要な検査の一つであり,また涙管チューブ挿入術後のチューブ管理にも必要である.しかし,多忙な外来診療において,すべての検査を医師が行うのは困難な場合もある.今回筆者らは,涙管通水検査を,重要なメディカルスタッフである看護師が施行したときの結果と医師のそれとを比較して,正確性や安全性に問題がないか検討した.CI対象および方法対象:2015年C11.12月に,茨城県取手市松本眼科外来にて涙管通水検査を看護師・医師ともに行ったC155名C290眼(男性C37名,女性C118名)について検討した.方法:検者は医師C1名,看護師C6名で,外来ベッド上仰臥〔別刷請求先〕頓宮真紀:〒302-0014茨城県取手市中央町C2-25松本眼科Reprintrequests:MakiHayami,MatsumotoEyeClinic,2-25Tyuocho,Toride,Ibaraki302-0014,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(113)C415位直視下にて,同一眼を同一ゲージの涙管洗浄針(一段針曲もしくは二段針曲)で同一涙点より,看護師,医師の順で行った.今回の検討では,上下涙点のどちらかでも通水しなかった場合は,通水不可とした.通水の不可の判定については,患者の鼻咽頭への通水到達自覚ありを,通水可,自覚なしを通水不可とした.CII結果医師(以下,Dr)・看護師(以下,Ns)とも通水可はC290眼中C253眼(87.3%),Dr通水可・Ns通水不可はC11眼(3.8%),Dr・Nsとも通水不可がC25眼(8.6%),Dr通水不可・Ns通水可はC1眼(0.3%)であった.以上の結果から看護師による涙管通水検査の感度はC96.2%,特異度はC95.8%であった.安全性についても今回の検討で,涙管通水検査が原因と思われる出血や,検査後の疼痛などの有害事象は認められなかった.CIII考按今回筆者らは,外来において日常的に必要な涙管通水検査を,医師と看護師がそれぞれ行った際の結果について検討した.涙管通水検査は,外来で簡便に行える涙道診療のルーチン検査である.涙管通水検査は涙管の通水障害がないかどうかのチェックはもちろんのこと,涙道感染症におけるデブリスを洗い出す効果ももつため1),涙道外来において,頻回に行うものである.その際,すべての症例に対して医師が行うのは,多忙な外来ではむずかしい.厚生労働省医政局看護課に問い合わせたところ,涙管通水検査は,保健師助産師看護師法第C5条の診療の補助に該当し,医師の指導・管理のもとに看護師が行うことは可能であるとの回答で,法律的に問題がないことを確認した.また,海外でも,やはり医師の管理のもと,熟練した看護師が日常的に涙管通水検査を行っている2).もちろん,看護師による通水検査の際,一段針もしく二段針どちらの針で行うのか,涙小管のどのレベルまで涙管通水針を挿入するかなどの決定は,医師の指導のもとで行われる必要がある.今回の検討では,看護師による涙管通水検査は,感度,特異度とも高く,医師によるものと比較しても遜色がなく,信頼性および安全性について問題ないことを確認できた.結果が一致しなかった症例について,いくつかその原因を考察してみた.まず,涙管通水検査の順序が影響した可能性がある.今回の検討では,涙管通水検査を看護師が先に行い,その後,医師が行った.この方法では,最初に看護師が通水した際,通水不可でもデブリスなどが洗浄され,2回目に医師が行った際に通水が可能になったのかもしれない.また,涙道内に散見される涙石の動きが,涙管通水検査の結果を左右することもありうる.あるいは,涙小管のどのレベルまで涙管通水針を進めているかも,結果不一致に関係しているかもしれない.ただし,通水可にするために,無理に涙小管内奥に針を進めると,総涙小管閉塞の場合,総涙小管を穿破し,かえってより強い再閉塞をきたすおそれもあり3),やはり医師の指導のもと,解剖を踏まえたうえでの施行が重要で,今後の涙道診療においても,看護師との連携がますます重要になると思われた.検査の多い眼科診療において,たとえば,フルオレセイン蛍光造影は視機能訓練士が写真撮影を担当している医療機関が多い.検査,診療の質を担保しつつ,外来での患者の待ち時間を短縮するために何ができるのか.看護師や視能訓練士などコメディカルとの外来検査での役割分担を考えていくことも,これからの医療の質向上のために必要と思われる.文献1)StevensS:LacrimalCsyringing.CCommunityCEyeCHealthC22:31,C20092)BeigiCB,CUddinCJM,CMcMullanCTFCetal:InaccuracyCofCdiagnosisCinCaCcohortCofCpatientsConCtheCwaitingClistCforCdacryocystorhinostomyCwhenCtheCdiagnosisCwasCmadeCbyConlyCsyringingCtheClacrimalCsystem.CEurCJCOphthalmolC17:485-489,C20073)藤本雅大:検査編.あたらしい眼科C30(臨増):143-144,C2013注記:眼科の検査を,看護師が医師の指示のもとに実施する場合,「保健師助産師看護師法」第C5条および第C37条(下記に抜粋)を参照すると,医師または歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為の禁止は,医師の指示があれば,適用されないとあります.したがって,看護師であれば,医師の指示により涙道通水通色素検査を行うことは直ちに法律違反とは考えられません.ただし,医師の指示がなければこのような行為をすることはできません.一方,視能訓練士は,厚生労働省令により涙道通水通色素検査を行うことは禁止されています(下記に法および施行規則を抜粋).涙道通水通色素検査は特定行為ではありませんが,看護師によるこの検査を積極的に推し進めていく考えであれば,日本眼科学会,日本眼科医会と調整していただく必要があるように思われます.〇保健師助産師看護師法第五条この法律において「看護師」とは,厚生労働大臣の免許を受けて,傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう.416あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(114)第三十七条保健師,助産師,看護師又は准看護師は,主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか,診療機械を使用し,医薬品を授与し,医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない.ただし,臨時応急の手当をし,又は助産師がへその緒を切り,浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は,この限りでない.第三十七条の二特定行為を手順書により行う看護師は,指定研修機関において,当該特定行為の特定行為区分に係る特定行為研修を受けなければならない.2この条,次条及び第四十二条の四において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる.一特定行為診療の補助であつて,看護師が手順書により行う場合には,実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるものとして厚生労働省令で定めるものをいう.二手順書医師又は歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるためにその指示として厚生労働省令で定めるところにより作成する文書又は電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう.)であつて,看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲及び診療の補助の内容その他の厚生労働省令で定める事項が定められているものをいう.三特定行為区分特定行為の区分であつて,厚生労働省令で定めるものをいう.四特定行為研修看護師が手順書により特定行為を行う場合に特に必要とされる実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能の向上を図るための研修であつて,特定行為区分ごとに厚生労働省令で定める基準に適合するものをいう.五指定研修機関一又は二以上の特定行為区分に係る特定行為研修を行う学校,病院その他の者であつて,厚生労働大臣が指定するものをいう.〇視能訓練士法第C17条第一項視能訓練士は,第二条に規定する業務のほか,視能訓練士の名称を用いて,医師の指示の下に,眼科に係る検査(人体に影響を及ぼす程度が高い検査として厚生労働省令で定めるものを除く.次項において「眼科検査」という.)を行うことを業とすることができる.〇視能訓練士法施行規則第十四条の二法第十七条第一項の厚生労働省令で定める検査は,涙道通水通色素検査(色素を点眼するものを除く.)とする.文責:木下茂(あたらしい眼科編集主幹),今井浩二郎(京都府立医科大学医療フロンティア展開学,元厚生労働省医政局研究開発振興課専門官)***(115)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C417