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健康成人の片眼に発症した内因性真菌性眼内炎

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(135)135《原著》あたらしい眼科29(1):135?138,2012cはじめに内因性真菌性眼内炎は経中心静脈内高カロリー輸液(intravenoushyperalimentation:IVH)留置,または悪性腫瘍,臓器移植後,あるいは免疫抑制薬の長期投与など,免疫能の低下を招く基礎疾患を背景に発症することが広く知られている.約78%が両眼性発症であり1),片眼性は少ない.今回筆者らは,上述する発症因子のみられない健康成人の片眼に発症し,診断・治療に苦慮したが,最終的に硝子体手術検体の鏡検で確定診断がついた真菌性眼内炎の1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕宇野友絵:〒060-8638札幌市北区北15条7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:TomoeUno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo060-8638,JAPAN健康成人の片眼に発症した内因性真菌性眼内炎宇野友絵*1,2南場研一*1加瀬諭*1齋藤航*1北市伸義*3,4大野重昭*4石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2函館中央病院眼科*3北海道医療大学個体差医療科学センター眼科*4北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学講座ACaseofUnilateralCandidaEndophthalmitisinaHealthyFemaleTomoeUno1,2),KenichiNamba1),SatoruKase1),WataruSaito1),NobuyoshiKitaichi3,4),ShigeakiOhno4)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,HakodateCentralGeneralHospital,3)DepartmentofOphthalmology,HealthSciencesUniversityofHokkaido,4)DepartmentofOcularInflammationandImmunology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:健康成人に発症した片眼性真菌性眼内炎の1例について報告する.症例:69歳,女性.眼および全身に既往歴はない.初診時の視力は右眼0.9で,右眼に線維素析出を伴う前房炎症および一部塊状の硝子体混濁がみられた.ステロイド薬の局所治療を行ったが,強膜充血,前房蓄膿の形成,硝子体混濁の増強および斑状網膜滲出斑が出現した.ステロイド薬全身投与後にさらに増悪したため,硝子体切除術を施行した.硝子体液の培養および血清中b-d-グルカンは陰性であったが,硝子体液中のb-d-グルカン濃度は711.6pg/mlと高値を示し,硝子体細胞診のperiodicacidSchiff(PAS)染色で多数のカンジダ菌糸が確認された.結論:非典型的な内因性真菌性眼内炎の診断には,血中だけではなく,硝子体液中のb-d-グルカン測定や切除検体の組織学的検査が有用である.Purpose:Toreportacaseofunilateralfungalendophthalmitisinahealthyfemale.Case:A69-year-oldhealthyfemalewithconjunctivalrednessandocularpainof6days’durationinherrighteyewasseenataneyeclinic.Sincecorticosteroideyedropshadnoeffect,shewasreferredtotheDepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityHospitalatonemonthafteronsetofsymptoms.Historyofoculartraumaorsurgerywasneverreported.Severeanterioruveitiswithfibrinandposteriorsynechia,andvitreoushazewereobservedinherrighteye.Visualacuitywas0.9,righteye.Despitetreatmentwithlocalandsystemiccorticosteroids,theocularinflammationandvitreoushazegraduallyworsened.ChestandbodyX-ray,andbloodtestresultswerenormal.Serumb-d-glucanwasnegative.Sixmonthslater,vitrectomywasperformedonherrighteye.Theb-d-glucanvaluewaselevatedto711.6pg/mlinthevitreousfluid.VitreouscytologydisclosedCandidawithperiodicacid-Schiffstaining.Conclusion:Indiagnosingatypicalfungalendophthalmitis,vitreousfluidb-d-glucandeterminationandvitreouscytologyareusuful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):135?138,2012〕Keywords:真菌性眼内炎,b-d-グルカン,硝子体手術,カンジダ,periodicacidSchiff(PAS)染色.fungalendophthalmitis,b-d-glucan,vitrectomy,Candida,periodicacid-Schiffstain(PASstain).136あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(136)I症例患者:69歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛.現病歴:2008年7月19日右眼に充血,眼痛が出現した.改善がみられないため7月25日近医を初診した.右眼に線維素析出,虹彩後癒着を伴う前房炎症がみられ,ステロイド薬の点眼治療で改善がみられないため,発症から約1カ月後の8月18日に北海道大学病院眼科を紹介され初診した.既往歴:1998年に大腸癌で大腸部分切除術を受けているが,その後再発や転移はみられていない.内眼手術や眼外傷の既往はない.初診時眼所見:視力は右眼0.9(矯正不能),左眼0.3(0.8×+1.25D),眼圧は右眼14mmHg,左眼21mmHgであった.右眼に線維素析出,虹彩後癒着を伴う前房炎症,そしてびまん性,一部塊状の硝子体混濁がみられた(図1).一方,網膜滲出斑,出血,網膜血管の白鞘化はみられなかった.また,左眼に異常はみられなかった.検査所見:血液検査,尿検査では血清b-d-グルカンを含め異常はみられず,胸部X線写真でも異常所見はなかった.加えて全身的に真菌感染症を疑う所見はなく,この時点でぶどう膜炎の原因同定には至らなかった.経過:2008年8月から2009年2月までの経過を図2に示す.初診時からステロイド薬の点眼治療のみで経過をみていたが,前房炎症・硝子体混濁は持続した.炎症悪化時にはデキサメタゾン結膜下注射やトリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射を適宜施行したが,反応は乏しかった.図1初診時の右眼眼底写真びまん性および一部塊状の硝子体混濁がみられる.前房炎症前房蓄膿硝子体混濁視力トリアムシノロン40mg後部Tenon?下注射デキサメタゾン4mg結膜下注射プレドニゾロン30mg内服2008年8月9月10月11月12月2009年1月10.80.60.40.20図22008年8月から2009年2月までの右眼視力と炎症所見の推移図32008年10月時の右眼前眼部写真右眼視力は0.01(矯正不能)に低下し,強い強膜充血と前房蓄膿の形成がみられる.図42009年2月時の右眼眼底写真硝子体混濁は増悪し雪土手状滲出性病変が出現している.(137)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20121372008年10月右眼炎症所見が増悪し,右眼矯正視力は0.01に低下した.強膜充血,前房蓄膿の形成(図3),硝子体混濁の増強および斑状網膜滲出斑が出現した.プレドニゾロン内服を開始したが右眼炎症所見は改善しなかった.その後,耳側網膜周辺部に円周状の白色混濁が集積した雪土手状滲出性病変が出現し,硝子体混濁も増悪した(図4).再び原因検索のため,前房水を採取してpolymerasechainreaction(PCR)検査を行ったが,水痘帯状ヘルペスウイルス,単純ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルスのいずれのDNAも検出されなかった.血液中のb-d-グルカン値,カンジダ抗原,トキソカラ抗体(enzyme-linkedimmunosorbentassay:ELISA法)検査もいずれも陰性であった.この時点で診断的硝子体手術を考慮したが患者の同意が得られなかった.積極的に感染症を疑う根拠に乏しく,炎症性疾患を考えてステロイド薬治療を継続し,改善・悪化がみられず経過した.しかし,ステロイド薬への反応が乏しいこと,病状の進行が比較的緩やかであること,雪土手状滲出性病変の存在から真菌性眼内炎を疑い,2009年2月19日から抗真菌薬(ミカファンギン)の点滴を開始し,2月22日,患者の同意が得られたため右眼硝子体切除術を施行した.採取された硝子体液の培養検査では菌の発育はなかったが,硝子体液中のb-d-グルカンの濃度は711.6pg/mlと高値を示した.また,硝子体細胞診のperiodicacidSchiff(PAS)染色標本に多数のカンジダ菌糸が確認され(図5),真菌性眼内炎と診断した.手術翌日の2月23日からボリコナゾール点滴に変更したが,3月2日に右眼は網膜全?離に至り,3月3日に再度硝子体手術を行った.術中,網膜の全面にわたって線維血管増殖膜形成を伴う網膜?離がみられたため,増殖膜を除去しシリコーンオイルタンポナーデを行った.その後再?離したが,患者は積極的治療を望まないため,経過を観察している.ボリコナゾール投与は38日間行い,前房,硝子体中の炎症所見は消失した.現在,右眼視力は眼前手動弁で炎症の再燃はない.II考按健康成人の片眼に発症した非典型的な内因性真菌性眼内炎の1例を経験した.内因性真菌性眼内炎は,通常IVH留置や免疫低下を招く基礎疾患を背景に血行性に発症する.診断の確定には,前房水あるいは硝子体液からの真菌の検出が必要であるが,実際に眼内組織から真菌が分離,培養される頻度は30?50%と低い2?5).一方,一般的に他臓器もしくは全身性の真菌感染症が先行するため血中b-d-グルカン値の測定が診断に有用である.実際Takebayashiら1)は,真菌性眼内炎における血中b-d-グルカンの陽性率は95%と報告しており,感度の高い検査といえる.しかしながら,本症例のように血中b-d-グルカンの上昇を伴わない内因性真菌性眼内炎の報告もある.表1に示すように,健康成人に発症した内因性真菌性眼内炎は本症例を含めて9例6?11)報告されている.Schmidらの報告6)では,片眼,両眼の記載がなく詳細は不明であるが,その他の報告では7例のうち6例が片眼性であり,健康成人に発症する真菌性眼内炎は片眼性が多い.また,藤井ら10)や岩瀬ら11)の報告例,および本症例では血中b-d-グルカンは陰性であった.したがって片眼性の症例では,外因性の真菌感染を疑う必要があるが,本症例では内眼手術および眼外傷の既往がなく,表1健康成人に発症した真菌性眼内炎の報告症例数片眼or両眼血中b-d-グルカン硝子体液中b-d-グルカン文献Schmidら2例不明(培養のみ)(培養のみ)Infection,19916)Kostickら1例片眼(培養のみ)(培養のみ)AmJOphthalmol,19927)酒井ら2例片眼片眼(培養のみ)(培養のみ)(培養のみ)(培養のみ)臨眼,19978)板野ら1例片眼++眼臨,20069)藤井ら1例片眼?+臨眼,200910)岩瀬ら1例両眼?+あたらしい眼科,201011)本症例1例片眼?+図5硝子体液のPAS染色標本PAS陽性のカンジダ菌糸が多数検出された.138あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(138)角膜,結膜,強膜,虹彩,水晶体に外傷の痕跡はなかった.最近,硝子体液中のb-d-グルカンが真菌性眼内炎の診断に有用であることが示唆されている.真保ら12)は真菌性眼内炎2例を含む26症例について硝子体液中のb-d-グルカン値を測定し,硝子体液中b-d-グルカンの基準値は10.0pg/ml以下とした.b-d-グルカン値の測定は培養検査よりも真菌に対して感度が高く簡便であるため,真菌性眼内炎の診断をするうえでの適切な指標となりうると報告している7).前述した健康成人に発症した真菌性眼内炎の報告のなかで,硝子体液中のb-d-グルカンの測定値についても記載があり,板野らの報告9)では血中および硝子体液中のb-d-グルカンがともに陽性であった(表1).一方,藤井らや岩瀬らの報告および本症例では血中b-d-グルカンは陰性であるが硝子体液中のb-d-グルカンは陽性を示しており,血中よりも有用であることが示唆される.したがって,真菌感染症を疑わせる背景のない患者で眼所見から内因性真菌性眼内炎が疑われる場合や,外因性(外傷,術後)眼内炎で真菌が原因である可能性がある場合には,硝子体液中b-d-グルカン値の測定が有用であると考えられる.一般に内因性真菌性眼内炎は血行感染であり,結果として両眼性が多いが,健康成人の片眼に発症する真菌性眼内炎は一般的な真菌性眼内炎とは発症経路が異なる可能性が考えられる.Kostickらの報告7)では,片眼の真菌性眼内炎を発症した健康成人の腟および爪からカンジダが検出されており,その発症となんらかの関連があることが示唆されている.しかし,その感染経路の詳細については言及されていない.本症例でも感染経路の特定はできなかった.本症例は真菌性眼内炎に特徴的な発症因子がなく,血清b-d-グルカンが陰性であったこと,加えて本人が手術に消極的であったことが真菌性眼内炎の診断が遅れる結果となった.真菌の侵入経路はいまだに不明であるが,内因性真菌性眼内炎が健康成人の片眼に生じうる可能性を認識しておくべきである.眼所見から真菌性眼内炎が疑われる症例では積極的に硝子体切除術を行い,眼内液の培養以外にも硝子体液中b-d-グルカンの測定,硝子体液の細胞診を行うことが大切である.文献1)TakebayashiH,MizotaA,TanakaM:Relationbetweenstageofendogenousfungalendophthalmitisandprognosis.GraefesArchClinExpOphthalmol244:816-820,20062)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状.日眼会誌95:369-376,19913)金子尚生,宮村直孝,沢田達宏ほか:内因性眼内炎の予後.眼紀44:469-474,19934)川添真理子,沖波聡,齊藤伊三雄ほか:内因性真菌性眼内炎に対する硝子体手術.臨眼48:753-757,19945)久保佳明,水谷聡,岩城正佳ほか:真菌性眼内炎の硝子体手術による治療.臨眼48:1867-1872,19946)SchmidS,MartenetAC,OelzO:Candidaendophthalmitis:Clinicalpresentation,treatmentandoutcomein23patients.Infection19:21-24,19917)KostickDA,FosterRE,LowderCYetal:EndogenousendophthalmitiscausedbyCandidaalbicansinahealthywoman.AmJOphthalmol113:593-595,19928)酒井理恵子,川島秀俊,釜田恵子ほか:健常者に発症した真菌性眼内炎の2症例.臨眼51:1733-1737,19979)板野瑞穂,植木麻理,岡田康平ほか:血中b-D-グルカン測定が診断に有用であった健常者発症真菌性眼内炎の1例.眼臨100:758-760,200610)藤井澄,岡野内俊雄:硝子体液中b-D-グルカンおよび真菌PCRが眼内炎の診断・治療に有用であった1例.臨眼63:69-73,200911)岩瀬由紀,竹内聡,竹内正樹ほか:健康な女性に発症した両眼性の真菌性眼内炎の1例.あたらしい眼科27:675-678,201012)真保雅乃,伊藤典彦,門之園一明ほか:硝子体液中b-D-グルカン値の臨床的意義の検討.日眼会誌106:579-582,2002***

健康な女性に発症した両眼性の真菌性眼内炎の1例

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)675《第43回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科27(5):675.678,2010cはじめに真菌性眼内炎は,外科手術や悪性疾患など全身的な重症疾患があり,その管理のために経中心静脈高カロリー輸液(intravenoushyperalimentation:IVH)や,静脈カテーテルなどが挿入されている患者(compromisedhost)にみられることが多い.しかし今回,このような臨床経過がない健康な中年女性に両眼性の真菌性眼内炎が発症し,原因不明のぶどう膜炎として副腎皮質ステロイド薬の投与が行われ,急速に炎症の増悪をひき起こす結果となった症例を経験したので報告する.I症例患者:56歳,女性.主訴:右眼視力低下,左眼霧視.現病歴:平成20年7月22日から24日にかけて38.5℃の発熱と頭痛が出現.28日右眼視力低下,29日左眼霧視を自〔別刷請求先〕岩瀬由紀:〒238-8558横須賀市米が浜通1-16横須賀共済病院眼科Reprintrequests:YukiIwase,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokosukaKyousaiHospital,1-16Yonegahamadouri,YokosukaCity,Kanagawa238-8558,JAPAN健康な女性に発症した両眼性の真菌性眼内炎の1例岩瀬由紀*1竹内聡*1竹内正樹*2野村英一*2西出忠之*2石原麻美*2林清文*2中村聡*2水木信久*2*1国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院眼科*2横浜市立大学医学部眼科学教室EndogenousFungalEndophthalmitisinaFemalewithNoPriorHistoryYukiIwase1),SatoshiTakeuchi1),MasakiTakeuchi2),EiichiNomura2),TadayukiNishide2),MamiIshihara2),KiyofumiHayashi2),SatoshiNakamura2)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,YokosukaKyousaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine症例は56歳の健康な女性.平成20年7月22日,発熱,頭痛出現.28日右眼視力低下,29日左眼霧視を自覚し,30日前医受診.VD=(0.01),VS=(0.6),両眼前房内炎症細胞,角膜後面沈着物,雪玉状硝子体混濁,網脈絡膜滲出斑を認めた.サルコイドーシスを疑い副腎皮質ステロイド薬の内服を開始したが改善せず,両眼ステロイド薬のTenon.下注射が追加された.しかし前房内炎症,硝子体混濁は改善せず,むしろ増悪が認められたため,8月19日横浜市立大学附属病院(以下,当院)紹介受診となった.当院初診時,視力は両眼手動弁.両眼底に網脈絡膜滲出斑と濃厚な羽毛状硝子体混濁を認めた.両眼性の真菌性眼内炎を疑い抗真菌薬を開始したが,硝子体混濁の改善を得られず両眼硝子体手術に至った.硝子体液よりScedosporiumapiospermumが分離培養された.A56-years-oldfemalewithnopriorhistorydevelopedacutefeverandheadache.Aboutoneweeklatershenotedblurringinbotheyesandconsultedadoctor.Hercorrectedvisualacuitywas0.01rightand0.6left.Shepresentedwithanteriorgranulomatousuveitis,vitreousopacityandretinochoroidalexudatesinbotheyes.Becauseshewasdiagnosedwithsarcoid,shewastreatedwithtopical,oralandperiocularsteroids.Shealsoreceivedsub-Tenonsteroidinjection.Shetookaturnfortheworse,however,sowasreferredtoourhospital.Visualacuitywashandmotion.Fundusexaminationshowedfluffyopacitiesinthevitreousandretinalgranulomasinbotheyes.Shewastreatedwithintravenousantifungalagentsontheassumeddiagnosisoffungalendophthalmitis.Wecouldobtainnoimprovementofvitreousopacity,sosheunderwentvitrectomy.VitreousculturewaspositiveforScedosporiumapiospermum.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):675.678,2010〕Keywords:健常人,真菌性眼内炎,Scedosporiumapiospermum.healthywomen,fungalendophthalmitis,Scedosporiumapiospermum.676あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(104)覚し近医受診,両眼性のぶどう膜炎と診断.30日に前医受診.視力は右眼矯正0.01,左眼矯正0.6.両眼に前房内炎症,角膜後面沈着物,雪玉状硝子体混濁,網脈絡膜滲出斑が認められた.サルコイドーシスを疑われ,リン酸ベタメタゾンの点眼および副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン30mg/日)の内服が開始されたが改善せず,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が追加された.しかし症状は増悪し8月19日,横浜市立大学附属病院(以下,当院)紹介受診となった.既往歴:平成3年肺結核,平成6年胸膜炎.ペット飼育歴:なし.渡航歴:16回の海外渡航歴があるが,森林地帯など動植物との濃厚な接触はなし.初診時眼科所見:視力は両眼手動弁.両眼に微塵様角膜後面沈着物,前房内炎症細胞3.4+,隅角に前房蓄膿がみられた.両眼底には網脈絡膜滲出斑と濃厚な硝子体混濁があり,一部羽毛状であった.網膜電図は両眼とも減弱型,Bモードエコーでは,混濁した硝子体の陰影と後部硝子体.離がみられたが網膜.離はなかった.検査所見:血液検査では白血球の軽度の上昇があったが,C反応性蛋白は正常範囲内であった.肝機能,腎機能,耐糖能に異常はなかった.ACE(アンジオテンシン変換酵素)8.1U/l,Ca(カルシウム)10.0mg/dl,b2-ミクログロブリン1.10mg/lとサルコイドーシスを疑う所見は得られなかった.b-d-グルカンは基準値以下,感染症はHBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体とも陰性.腫瘍マーカーはCEA(癌胎児性抗原),CA(糖鎖抗原)19-9ともに基準値内であった.胸部CT(コンピュータ断層撮影)では,右肺底部に空洞性病変がみられ,陳旧性の炎症病変と考えられた.両側肺門リンパ節腫脹は認めなかった.腹部CTでは,肝臓,胆.,膵臓に異常所見はみられなかった.左腎盂から腎盂尿管移行部に結石を認めた.頭部MRI(磁気共鳴画像)では,慢性虚血性変化と考えられる右頭頂葉にT2,FLAIRで点状の異常高信号域を認めたが,悪性リンパ腫など腫瘍を疑う所見はなかった.PET(ポジトロン断層撮影法)では,両眼部,右肩関節,肝臓に限局性の集積を認めた.経過:全身的に真菌血症を示唆する所見がなく,末梢血中b-d-グルカンは陰性であったが,副腎皮質ステロイド薬に対する反応が乏しいこと,および眼底所見より,両眼性の真菌性眼内炎を疑い,8月22日よりホスフルコナゾール400mg/日の点滴を開始した.10日間抗真菌薬を投与したが硝子体混濁の改善はみられず,診断および加療目的から9月1日右眼,4日左眼の硝子体手術を施行した.硝子体は高度に混濁しており,後極部の網膜血管の狭細化,網膜浮腫がみられた.網膜表面には白色膿が広範囲に付着しており,網膜内から硝子体へ播種している病巣もみられた.手術時に採取した硝子体液中のb-d-グルカンは右眼361.4pg/ml,左眼127.7pg/mlと高値であった.異型細胞や結核PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は陰性.ウイルス抗体率(Q値)は,HSV(単純ヘルペスウイルス):右眼0.41,左眼0.36,VZV(水痘帯状疱疹ウイルス):右眼0.56,左眼0.40,CMV(サイトメガロウイルス):右眼1.40,左眼0.98といずれも有意な上昇はみられなかった.硝子体病理組織で,PAS(過ヨウ素酸シッフ)染色とGrocott染色に陽性の真菌様構造物が認められ,硝子体灌流液の培養検査にてSporothrixschenkiiと形態学的に同定されたため,9月23日よりイトラコナゾール200mg/日内服へ変更した.その後,両眼とも増殖硝子体網膜症に進行し,9月27日図1網膜から硝子体に立ち上がる羽毛状硝子体混濁図2硝子体灌流液の培養分生子柄から球形の分生子が生じている.ラクトフェノールコットン青染色,400倍.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010677左眼,10月9日右眼の増殖硝子体網膜症手術(シリコーンオイル全置換)を施行した.10月1日,左尿管結石症を発症し,排尿時に約5.0×2.5mm大の組織片を排出した.病理,培養検査にて形態学的にSporothrixschenkiiの菌塊と診断された.その後,硝子体より分離された真菌の分子生物学的同定を千葉大学真核微生物研究センターへ依頼したところ,Sporothrixschenkiiではなく,Scedosporiumapiospermumと同定された.さらなる全身的な精査,加療目的のために10月23日当院感染症内科に転科し,現在まで真菌性眼内炎の再発はない.視力は術後9カ月時点において,両眼矯正0.07まで回復している.II考按副腎皮質ステロイド薬の投与により悪化した本症例では細菌性眼内炎や結核性ぶどう膜炎の可能性も考えられたが,比較的緩徐な経過であること,ツベルクリン反応は陰性であったこと,胸部CT所見において活動性のある結核病変はみられないこと,および眼底所見を総合し,筆者らは真菌性眼内炎を疑い治療を開始した.真菌性眼内炎には外因性と内因性がある.外傷などにより発症する外因性真菌性眼内炎は減少傾向にあるが,IVHの普及に伴い内因性真菌性眼内炎は近年増加している.本症例は,眼外傷や手術,処置の既往はなく,両眼性に発症しており,内因性真菌性眼内炎と考えられた.病期は両眼とも石橋分類のⅢbであった.抗真菌薬による治療を開始したが,硝子体混濁の改善はみられず,硝子体手術に至った.術中所見は濃厚な硝子体混濁に加え,網膜血管の狭細化,網膜浮腫などがみられ網膜の傷害が大きかった.手術時に採取した硝子体液中のb-d-グルカンは高値を示し,硝子体灌流液の分離培養検査で最終的にScedosporiumapiospermumが同定されたことにより,真菌性眼内炎の確定診断を得た.硝子体中のb-d-グルカンの正常値は,真保らによると,10pg/ml以下と報告されている1).本症例の原因菌となったScedosporiumapiospermumは真菌類,子.菌門,ミクロアスクス目,ミクロアスクス科の1菌種で,無性世代である.本菌は土壌など自然界に生息し,空中に浮遊する分生子の吸入,または貫通性外傷を受けた局所への真菌要素の直接接種により生体に侵入し病変を生じると考えられている.この菌による感染症は一般にシュードアレシェリア症と総称されており,菌腫症(mycetoma)の一病型である深在性皮膚真菌症の起因菌の一つとして知られていた2).近年は,日和見真菌感染として注目されている3.6).しかし,Scedosporiumapiospermumによる内因性眼内炎の報告はわが国ではなく,全世界においても十数例ときわめてまれである7).しかしこれらの症例は,臓器移植後や大動脈弁置換術後,膠原病に対し免疫抑制薬や副腎皮質ステロイド薬の全身投与患者,急性リンパ性白血病など免疫機能の低下した患者,気管支拡張症など呼吸器疾患が背景にあった.一方本症例では,軽度の白血球の上昇以外,肝機能,腎機能,耐糖能に異常はなく,感染症や腫瘍マーカーは陰性であった.CTでも肺結核後の空洞性病変および左腎結石以外に明らかな腫瘍や炎症性病変は認めなかった.PETでは両眼部,右肩関節,肝臓に限局性の集積を認めたが,整形外科で右肩関節周囲炎として加療され,肝臓への集積に関しては,腹部エコー,腹部CTでは異常所見は認めなかった.健常成人に播種性に,全身へ感染巣を形成した報告はまれであり貴重な症例といえる.本症例における感染経路であるが,多くの海外渡航歴があるも動植物との濃厚な接触はない.明らかな皮膚病変は認められなかったが,本人も気づかない小外傷から本菌が侵入し,真菌血症となり,眼内や尿管へ病巣を形成した可能性があるかもしれない.あるいはシュードアレシェリア症による肺感染症は,気管支拡張病変や.胞,肺結核後の空洞病変に本菌が吸入され感染するとされており,肺結核後の空洞性病変に本菌が吸入感染し,肺病変から全身へ播種し,眼内炎,尿管結石症を発症した可能性も考えられる.しかし気管支鏡検査にて施行した生検からは本菌は分離されていない.これまで報告された症例での視力予後は不良であり,眼症状発現後数カ月で敗血症や多臓器不全となり死亡している7).Maertensらは,本菌による死亡率は90%と報告している8).生命に関わる全身性の真菌感染症の再発を予防するため,本疾患では抗真菌療法の継続が必要であると考え,Scedosporiumapiospermumに有効とされるボリコナゾールの内服を現在も継続している.一般に内因性真菌性眼内炎の背景には,全身的な重症疾患があり,IVHや静脈カテーテルなどが挿入されていることが多い.このよう経緯があれば,特徴的な臨床所見とあわせて診断は比較的容易である.しかし本症例は健康な女性であり,原因不明のぶどう膜炎として,副腎皮質ステロイド薬の局所および全身投与が行われ,急速に炎症の増悪をひき起こす結果となった.原因不明の内眼炎では,真菌性眼内炎の可能性も考慮し,副腎皮質ステロイド薬の全身投与は十分慎重に検討しなくてはならないと考えられた.文献1)真保雅乃,伊藤典彦,門之園一明:硝子体液中b-D-グルカン値の臨床的意義の検討.日眼会誌106:579-582,20022)伊藤章:アレシュリオーシス.日本臨牀領域別症候群別冊24:384-386,19993)CohenJ,PowderlyWG:InfectionsDisease.2ndedition,p1162,Mosby,Edinburgh,2004678あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(106)4)MandellGL,BennettJE,DolinR:Principlesandpracticeofinfectiousdisease.5thedition,p2772-2780,ChurchillLivingstone,Philadelphia,20005)RajR,FrostAE:Scedosporiumapiospermuminalongtransplantrecipient.Chest121:1714-1716,20026)渡辺健寛,小池輝元,今給黎尚幸ほか:Scedosporiumapiospermumによる肺感染症の2症例.日呼外会誌20:620-624,20067)LaroccoAJr,BarronJB:EndogenousScedosporiumapiospermumendophtalmitis.Retina25:1090-1093,20058)MaertensJ,LagrouK,DeweerdtHetal:DisseminatedinfectionbyScedosporiumprolificans:anemergingfatalityamonghaematologypatients:casereportandreview.AnnHematol79:340-344,2000***

潰瘍性大腸炎に真菌性眼内炎と汎ぶどう膜炎を合併した1例

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1538あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(00)538(106)0910-1810/09/\100/頁/JCLS42回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科26(4):538541,2009cはじめに潰瘍性大腸炎は特発性の炎症性腸疾患で,皮膚病変,関節病変,肝病変などの多臓器にわたる多彩な症状を呈し,眼合併症は3.511.8%にみられるといわれている1).非肉芽腫性虹彩毛様体炎が多くみられるが,汎ぶどう膜炎の報告もある2).一方,潰瘍性大腸炎に真菌性眼内炎を合併したとする症例はまれであり,わが国での報告は過去に一報のみである3).今回筆者らは,潰瘍性大腸炎加療中に真菌性眼内炎を発症し,その治癒過程で汎ぶどう膜炎を合併したと思われるまれな症例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,男性.主訴:右眼変視.〔別刷請求先〕石﨑英介:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EisukeIshizaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,TakatsukiCity,Osaka569-8686,JAPAN潰瘍性大腸炎に真菌性眼内炎と汎ぶどう膜炎を合併した1例石﨑英介福本雅格藤本陽子佐藤孝樹高井七重南政宏植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室EndogenousFungalEndophthalmitisandPan-UveitisinaCaseofUlcerativeColitisEisukeIshizaki,MasanoriFukumoto,YokoFujimoto,TakakiSato,NanaeTakai,MasahiroMinami,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege潰瘍性大腸炎に真菌性眼内炎と汎ぶどう膜炎を合併した症例を経験した.症例は59歳,男性で,潰瘍性大腸炎にてステロイド経静脈投与を受けていた.初診時両眼眼底に多発性の白斑を認めた.その後左眼白斑の拡大および硝子体混濁が出現し,真菌性眼内炎を疑い抗真菌薬の点滴を開始したが硝子体混濁が増悪したため,硝子体手術を施行した.術後炎症は速やかに消退し経過良好であったが,術5日後に急激な左眼硝子体混濁の再発を認めた.真菌性眼内炎の再燃を疑い,左眼硝子体再手術を施行した.術中,真菌性眼内炎の網脈絡膜病巣は鎮静化しており,再手術後炎症は消退した.本症例では,真菌性眼内炎が治癒する過程で潰瘍性大腸炎に続発する汎ぶどう膜炎が発症したものと考えられる.汎ぶどう膜炎に対しては硝子体手術は結果的に不要であった可能性もあるが,眼底が透見不能であったため,診断目的としても硝子体手術は有用であったと考える.Wereportacaseofulcerativecolitiswithendogenousfungalendophthalmitisandpan-uveitis.Thepatient,a59-year-oldmalewithulcerativecolitis,wastreatedwithcorticosteroid.Hislefteyeshowedwhitemassandvitre-ousopacity;theendophthalmitisprogresseddespitetreatmentwithantifungalagents.Weperformedvitreoussur-geryonhislefteye.Theinammationreducedsoonaftersurgery,butat5daysaftertheoperationheagainpre-sentedwithmassivevitreousopacity.Wesuspectedthereccurenceoffungalendophthalmitisandagainperformedvitreoussurgery,butthefundusndingsshowedchorioretinalscarringandnoinammatorylesion.Inthiscase,wesusupectthatthepan-uveitissecondarytotheulcerativecolitisoccurredinthecourseoffungalendophthalmi-tishealing;vitreoussurgerywasusefulnotonlyfortreatment,butalsofordiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):538541,2009〕Keywords:潰瘍性大腸炎,真菌性眼内炎,汎ぶどう膜炎,硝子体手術.ulcerativecolitis,fungalendophthalmitis,pan-uveitis,vitreoussurgery.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009539(107)現病歴:平成8年他院内科にて潰瘍性大腸炎と診断された後,再燃,寛解をくり返していた.平成19年10月17日より発熱,頸部リンパ節腫脹が出現したため,10月26日からプレドニゾロン60mgの経静脈投与を受けていた.11月初めから右眼変視を自覚したため,11月6日当科紹介初診となった.初診時所見:初診時視力は右眼矯正0.8,左眼矯正1.0,眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHg,中間透光体は両眼に軽度白内障を認めたが,前房内および硝子体中に炎症細胞は確認できなかった.眼底所見は右眼黄斑部耳下側に白色の隆起性病変を認め,変視の自覚症状はこれによるものと考えられた.両眼とも上方に白色の滲出斑を認めた(図1).経過:11月21日再診時には左眼滲出斑の拡大および著明な硝子体混濁が出現し(図2),真菌性眼内炎を強く疑いホスフルコナゾール(プロジフR)400mgの点滴を開始した.点滴開始後,右眼の病変は速やかに瘢痕化したが,左眼硝子体混濁はさらに増悪し,著明な結膜充血,前房内の多数の炎症細胞,虹彩後癒着もみられたため,11月30日左眼超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術および硝子体切除術を施行した.術中,網膜面上にはフィブリン析出によると考えられる膜様物が全面に付着していたため,ダイアモンドダストイレーサーで周辺部に向かって可及的に除去した.下方の白色滲出性病巣は無理に除去しようとすると裂孔を形成する危険性があるため,そのまま残存させた.手術時,灌流前に採取した硝子体液中のb-D-グルカンは394.3pg/ml(血中基準値:11.00pg/ml)であった.また,硝子体細胞培養にてCandidaalbicansが検出された.術前に測定した血中b-D-グルカンは10.95pg/mlと基準値上限程度であった.術後,炎症は速やかに消退し,経過良好であったが,術5日後に急激な左眼硝子体混濁の再発を認めた.前眼部には結膜充血を認め,前房内の細胞数が著明に増加しており,硝子体内は多数の炎症細胞で白色に混濁していたが,明らかなフィブリンの析出は認めなかった.真菌性眼内炎の再燃を疑い,12月7日左眼硝子体再手術を施行した.再手術の術中所見では,下方の滲出斑は鎮静化していた.周辺部にも特に残存硝子体図1初診時両眼眼底写真(平成19年11月6日)右眼黄斑部耳下側に白色の隆起性病変を認め,両眼とも上方に白色の滲出斑を認める.図2増悪時左眼眼底写真(平成19年11月21日)左眼滲出斑の拡大および著明な硝子体混濁が出現している.———————————————————————-Page3540あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(108)は認めず,真菌性眼内炎が原因と考えられる炎症の再燃所見を認めなかった.ステロイド投与は真菌性眼内炎の治療を開始した時点で内科に依頼して60mgから漸減しており,炎症再燃の2日前である12月3日に中止となっていた.抗真菌薬の投与はホスフルコナゾール(プロジフR)400mg点滴を11月21日から12月21日まで続行した後,12月28日までフルコナゾール(ジフルカンR)400mg内服を行った.経過中,潰瘍性大腸炎の症状には特に変化を認めなかった.再手術後炎症は速やかに消退し,平成20年2月19日現在,矯正視力は右眼1.5,左眼1.0と改善している.術後眼底は両眼ともに滲出性病巣は瘢痕化している(図3).前眼部にも,虹彩後癒着や前房内炎症を認めていない(図4).II考按潰瘍性大腸炎に合併するぶどう膜炎は非肉芽腫性前部ぶどう膜炎が特徴的で,後眼部病変は少ないとされている4).わが国での十数例の報告を検討したところ,虹彩毛様体炎は大半の症例でみられ,網膜血管炎や乳頭浮腫などの眼底病変も半数以上の症例で認められた5)とされている.本疾患の原因は不明であるが,自己抗体がぶどう膜の血管内皮細胞を障害することや免疫複合体によりぶどう膜炎が惹起されるのではないかと考えられている.眼症状と腸管症状の活動性,罹病期間の関連性の有無については意見が分かれているが,一般的に副腎皮質ステロイド薬の治療に反応がよく,視力予後は良好とされている.一方,真菌性眼内炎は,肉芽腫性脈絡膜炎で,約90%が経中心静脈高カロリー輸液(intravenoushyperalimenta-tion:IVH)使用例とされている6)が,副腎皮質ステロイド投与中などの免疫力の低下した状態での発症も報告されている7,8).その原因は腸管粘膜の機能が低下している場合に,通常では通過できない腸管壁バリアを真菌が通過して,血管やリンパ管に侵入するのではないか,と考えられている7).今回の症例においても,副腎皮質ステロイド投与による免疫力の低下,および潰瘍性大腸炎に伴う腸管機能低下が真菌性眼内炎の原因となったと考えられる.真菌性眼内炎の確定診断は眼内から真菌が分離・培養されることであるが,硝子体培養の陽性率は3050%,血液培養の陽性率は50%程度と低く,硝子体中b-D-グルカン測定の診断への有用性が報告されている9).硝子体中のb-D-グルカンの基準値は10pg/mlとする報告があり10),今回の症例でも,硝子体液からCandidaalbicansが検出され,確定診断が可能であったが,硝子体液中のb-D-グルカンも394.3pg/mlと基準値を大幅に上回っていた.今回の症例では,初発の眼内炎については臨床所見より真菌性眼内炎を強く疑い,抗真菌薬の投与にても症状の改善がないため,硝子体手術に踏み切った.術中に採取した硝子体液の培養より真菌性眼内炎の確定診断が可能であり,術翌日より炎症は速やかに消退し,術後経過良好で硝子体手術が効果的であったと思われた矢先に炎症の再発を認めた.再発時の炎症は強く,硝子体中の大量の炎症細胞のため眼底は透見不能であった.初回手術時の残存硝子体を足場とした真菌性眼内炎の再発を疑い,硝子体再手術を行ったが,真菌性眼内炎の網脈絡膜病巣は鎮静化しており,眼内の所見からは真菌性眼内炎の再発は否定的であった.そこで,2回目の炎症は,真菌性眼内炎が治癒する過程で潰瘍性大腸炎に続発する汎ぶどう膜炎が発症したものである可能性が高いと考えた.今回のタイミングで続発性汎ぶどう膜炎が発症した原因としては,真菌性眼内炎の治療を開始した時点からステロイドの投与を漸減し,ちょうど炎症再燃の2日前に中止となっていたことから,ステロイド投与によって食い止められていた炎症がステロイドの減量,中止に伴い出現した可能性も考え図3術後左眼眼底写真(平成19年12月26日)両眼ともに滲出性病巣は瘢痕化している.図4術後左眼前眼部写真(平成20年1月29日)虹彩後癒着や前房内炎症を認めていない.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009541(109)られた.汎ぶどう膜炎に対しては硝子体手術は結果的に不要であった可能性もあるが,眼底が透見不能であったため,真菌性眼内炎の状態を確認し,続発性汎ぶどう膜炎の診断を下すために硝子体手術は有用であったと考えられた.文献1)HanchiFD,RembackenBJ:Inammatoryboweldiseaseandtheeye.SurvOphthalmol48:663-676,20032)越山健,中村宗平,田口千香子ほか:潰瘍性大腸炎に合併した汎ぶどう膜炎の3例.臨眼60:1237-1243,20063)高橋明宏,鹿島佳代子,明尾康子ほか:潰瘍性大腸炎加療中に合併したと思われるカンジダ眼内炎の1例.眼臨81:357-361,19874)小暮美津子:腸疾患とぶどう膜炎.ぶどう膜炎(増田寛次郎,宇山昌延,臼井正彦ほか編),p282-287,医学書院,19995)唐尚子,南場研一,村松昌裕ほか:大量の線維素析出を伴うぶどう膜炎を発症した潰瘍性大腸炎の1例.臨眼59:1609-1612,20056)松本聖子,藤沢佐代子,石橋康久ほか:わが国における内因性真菌性眼内炎─19871993年末の報告例の集計─.あたらしい眼科12:646-648,19957)薬師川浩,林理,東川昌仁ほか:経中心静脈高カロリー輸液(IVH)の既往がない内因性真菌性眼内炎の2症例.眼紀54:139-142,20038)呉雅美,西川憲清,三ヶ尻研一:中心静脈栄養の既往がないにもかかわらず真菌性眼内炎が疑われた1例.あたらしい眼科23:225-228,20069)若林俊子:真菌性眼内炎.眼科プラクティス16.眼内炎症診療のこれから(岡田アナベルあやめ編),p90-93,文光堂,200710)真保雅乃,伊藤典彦,門之園一明:硝子体液中b-D-グルカン値の臨床的意義の検討.日眼会誌106:579-582,2002***