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眼内レンズ強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,線維柱帯切開術が奏効した2例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1008.1011,2024c眼内レンズ強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,線維柱帯切開術が奏効した2例黒川友貴野村英一植木琴美西勝生岡田浩幸黒木翼井口聡一郎石井麻衣水木信久横浜市立大学医学部眼科学教室CTwoCasesofTrabeculotomyforHighIntraocularPressureafterIntrascleralIOLFixationYukiKurokawa,EiichiNomura,KotomiUeki,KatsukiNishi,HiroyukiOkada,TsubasaKuroki,SoichiroInokuchi,MaiIshiiandNobuhisaMizukiCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicineC緒言:眼内レンズ(intraocularlens:IOL)強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,低侵襲緑内障手術(MIGS)が奏効したC2例を経験したので報告する.症例:症例C1はC45歳,男性.2005年に右白内障手術を施行後,2018年に右眼IOL亜脱臼に対し強膜内固定術を施行された.2020年C12月に右眼の視力低下と眼圧上昇を認め横浜市立大学附属病院眼科を紹介受診した.当院受診時は右眼眼圧C40CmmHgであり,逆瞳孔ブロックの所見は認めず,右眼の隅角には強い色素沈着を認めた.眼内法による線維柱帯切開術を施行され,術後眼圧はC10CmmHg台で経過した.症例C2はC48歳,男性.2019年に右白内障手術を施行され,2022年C3月に右眼CIOL落下に対し強膜内固定術を施行された.同年C4月に右眼痛を主訴に当院に救急搬送され,右眼眼圧はC72CmmHgと著しく高値であった.アセタゾラミド内服下でも右眼眼圧はC41CmmHgであり,逆瞳孔ブロックの所見は認めず,隅角には強い色素沈着を認めた.眼内法による線維柱帯切開術を施行され,術後眼圧はC10CmmHg台で経過した.結語:IOL強膜内固定術後の合併症として眼圧上昇に留意する必要があり,眼内法による線維柱帯切開術が有用な治療法と考えられた.CPurpose:Toreporttwocasesinwhichminimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)wassuccessfulfortreat-ingCelevatedCintraocularpressure(IOP)afterCintrascleralCintraocularlens(IOL).xation.CCase1:AC45-year-oldCmalewhohadundergoneintrascleralIOL.xationin2018wassubsequentlyreferredtoourhospitalin2020duetodecreasedvisualacuityandelevatedIOPinhisrighteye.Uponexamination,theright-eyeIOPwas40CmmHgandthickCpigmentationCwasCobservedCinCtheCangle.CTrabeculotomyCwasCperformed,CandCIOPCdecreasedCandChasCremainedat10CmmHgpostsurgery.Case2:A48-year-oldmalewhohadundergoneintrascleralIOL.xationinMarch2022,subsequentlypresentedatourhospital1monthlaterduetopaininhisrighteye.Uponexamination,theCright-eyeCIOPCwasC41CmmHgCandCthickCpigmentationCwasCobservedCinCtheCangle.CTrabeculotomyCwasCper-formed,andIOPdecreasedandhasremainedat10CmmHgpostsurgery.Conclusion:Our.ndingsshowwhenele-vatedIOPoccursasacomplicationafterintrascleralIOL.xation,itcane.ectivelybetreatedbyMIGS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1008.1011,C2024〕Keywords:眼内レンズ強膜内固定術,眼圧上昇,低侵襲緑内障手術,線維柱帯切開術.intrascleralCIOLC.xation,highintraocularpressure,microinvasiveglaucomasurgery(MIGS),trabeculotomy.Cはじめに場し,IOL二次挿入術として選択される機会は増えている白内障手術件数の増加に伴い,Zinn小帯脆弱例や術後のが,その長期経過についてはいまだ不明な点も多い.IOL偏位・脱臼を認める患者へ対応する機会は増えている.今回筆者らはCIOL強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,縫合操作を必要としない術式としてCIOL強膜内固定術が登眼内法による線維柱帯切開術が奏効したC2例を経験したので〔別刷請求先〕黒川友貴:〒236-0004横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YukiKurokawa,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPANC1008(136)図1症例1:右眼の前眼部OCT所見前房深度はC3.4Cmmであり,逆瞳孔ブロックは認めなかった.報告する.CI症例〔症例1〕45歳,男性.2005年に右眼の白内障手術を施行され,2016年より右眼緑内障の診断で近医にて加療を開始された.2018年に右眼IOL亜脱臼に対しフランジ法によるCIOL強膜内固定術が施行され,ラタノプロスト,ブリモニジン酒石酸塩点眼にて右眼眼圧はC10CmmHg台後半で経過していた.2020年C6月の視野検査で視野障害の進行を認めたため,リパスジル塩酸塩水和物点眼が追加となり,眼圧はC15CmmHg程度まで下降した.同年C12月の受診時に右眼眼圧C33CmmHgと高値であり,視力低下も伴っていたため横浜市立大学附属病院眼科(以下,当院)を紹介され受診した.既往歴はアトピー性皮膚炎,気管支喘息であった.初診時の視力は,右眼C0.06(0.3C×sph.3.25D(cyl.2.00DAx85°),左眼C0.04(1.2C×sph.8.75D(cyl.0.25DCAx75°),眼圧は右眼C40CmmHg,左眼C12CmmHgであった.右眼は虹彩C2時方向に周辺虹彩切開が施行されており,IOLはC4時-10時の方向に強膜内固定されていた.前房深度はC3.4Cmmであり,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)では逆瞳孔ブロックは認められなかった(図1).虹彩動揺がみられ,隅角には全周性に強い色素沈着(Scheie分類CgradeIII.IV),下方には周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)がみられた(図2).静的量的視野検査,動的量的視野検査を施行すると,右眼はすでに中心視野障害をきたしていた(図3).線維柱帯への色素沈着が強く,若年であることから眼内法による線維柱帯切開術(谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック使用)を施行された.術後眼圧はC10.17CmmHgで推移し,その後眼圧上昇はみられなかった.〔症例2〕48歳,男性.図2症例1:右眼の隅角所見(下方)全周性に色素沈着がみられ,下方には周辺虹彩前癒着(peripher-alanteriorsynechia:PAS)がみられた.2019年に右眼の白内障手術を施行され,2022年C1月に右眼CIOL落下を認めCIOL摘出およびフランジ法による強膜内固定術を施行された.術後経過は良好であったが,同年C4月に右眼痛と嘔気を認め,近医救急科を受診し精査されたが明らかな異常は指摘されず,眼科疾患を疑われ当院に転院搬送となった.受診時,右眼眼圧はC72CmmHgと著しく高値であり,D-マンニトール点滴を施行し眼圧はC28CmmHgまで下降した.夜間であったため一度帰宅とした.翌日再診時の視力は,右眼C0.15(1.2C×sph.2.25D(cyl.0.50DAx145°),左眼C0.06(1.2C×sph.5.25D(cyl.0.75DAx30°),眼圧は右眼44mmHg,左眼C13CmmHgであった.右眼は虹彩C2時方向に周辺虹彩切開を施行されており,IOLはC4時-10時の方向に強膜内固定されていた.前房深度はC3.5Cmmであり,前房内には色素性の微塵浮遊がみられ,前眼部COCTでは逆瞳孔ブロックの所見は認められなかった(図4).虹彩動揺と隅角には下方優位に全周性に強い色素沈着(Scheie分類CgradeIII.IV)がみられた(図5).線維柱帯への色素沈着が強く,若年であることから眼内法による線維柱帯切開術(谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック使用)を施行した.術後眼圧はC10.15CmmHgで推移し,その後眼圧上昇はみられていない.高眼圧をきたしてから手術までの期間は約C1週間であり,術後施行した視野検査では明らかな視野障害は認められなかった.CII考按無水晶体眼やCIOL偏位・脱臼例に対するCIOL固定法として,従来はCIOL毛様溝縫着術が行われてきたが,2007年のGaborによる報告以降,IOL強膜内固定術が発展してきた1).2014年に山根らが,ダブルニードルテクニックを報告してから国内でも広く施行されるようになり,年々施行件数は増図3症例1:右眼の静的量的視野検査中心30-2プログラムおよび動的量的視野検査すでに中心視野障害をきたしており,MD値はC.12.02CdBであった.図4症例2:右眼の前眼部OCT所見前房深度はC3.5Cmmであり,逆瞳孔ブロックは認めなかった.加している2).従来の縫着術と比較し,IOL偏位や傾斜が少なく,縫合操作が不要であり,より短時間で行えるなどの利点がある一方で,問題点としては支持部の破損や変形,強膜からの露出の可能性,長期経過が不明である点などがあげられる3).図5症例2:右眼の隅角所見(下方)下方優位に全周性に強い色素沈着がみられた.強膜内固定術後の合併症として,瞳孔捕獲,IOL偏位,黄斑浮腫,硝子体出血,前房出血,一過性の低眼圧・高眼圧などが報告されている4,5).近年,強膜内固定術後の逆瞳孔ブロックにより高眼圧をきたした症例が報告されており,硝子体手術後の無硝子体眼に発生しやすく,レーザー虹彩切開術が有効であるとされている6,7).強膜内固定術後に逆瞳孔ブロックを生じる機序については,虹彩裏面とCIOL間の距離の減少との関連が示唆されており,無硝子体眼,虹彩動揺,隅角色素がリスク因子であることが報告されている6).深前房,虹彩の後方弯曲,瞳孔縁のCIOLとの接触が逆瞳孔ブロックの特徴的な所見であるが,今回のC2症例ではすでに周辺虹彩切開が施行されており,前眼部COCTでも逆瞳孔ブロックの所見は認められなかった.今回のC2症例においては共通して隅角に強い色素沈着と虹彩動揺の所見がみられた.虹彩動揺はCIOL脱臼・落下に対しCIOL抜去,強膜内固定術を施行された際の虹彩付近での操作や手術侵襲により生じたものと考えられた.強膜内固定術ではCIOL支持部端をC2.3Cmm強膜内に埋没させるため,光学面は安定する一方で支持部に引き伸ばされる力が加わるとされる2).そのためCIOL支持部は破損しにくい材質が望ましい.ポリメチルメタクリレート(PMMA)製の支持部は先端を把持した際に破損することがあり,剛性ゆえに眼内操作での自由度も低いため,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製が扱いやすいとされる5).また,固定後の安定性はCIOL全長の長いもののほうがよいことから,光学部径C7.0mmでPVDF製支持部を有し支持部間距離C13.2CmmであるエタニティーCX-70S(参天製薬),エタニティーナチュラルCNX-70S(参天製薬)が選択されることが多い.これらのCIOLは支持部角度がC7°に設計されているため,IOL支持部の伸展により虹彩裏面とCIOL光学部間の距離は近くなるものと考えられる.角膜径が大きい場合,支持部にかかる伸展力は強まりさらに近接すると考えられるが,今回のC2症例では角膜水平径はC11.7Cmm,12.3Cmmと正常範囲内であり,虹彩裏面とCIOL光学部の接近量は少なめで逆瞳孔ブロックまでは至らなかった可能性がある.しかし,逆瞳孔ブロックまで至らない場合も,一定量の虹彩裏面とCIOL光学部間の接近により,虹彩の緊張度が乏しい患者では眼球運動に伴い虹彩裏面とCIOLの摩擦は生じやすくなると考えられる.摩擦により散布された色素が線維柱帯に沈着し,色素性緑内障の病態を生じることで眼圧上昇をきたす可能性が示唆された.前立腺肥大症の内服治療患者,外傷や術後で瞳孔偏位や虹彩の緊張低下がみられる患者ではより慎重な経過観察が必要と考えられる.今回のC2症例では谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフックを用いた線維柱帯切開術の施行により眼圧下降が得られた.IOL縫着術後や硝子体手術後の患者においては,より確実な眼圧下降が必要な場合や目標眼圧が低い場合は線維柱帯切除術が選択されることも多い8).しかし,術後合併症として濾過胞感染のリスクがあることに加え,硝子体手術後の患者では結膜状態や術中の眼球虚脱により手術難度が高くなる,駆逐性出血のリスクが高まるなどのデメリットがある.IOL縫着術後や強膜内固定術後の患者における線維柱帯切開術では,前房出血が硝子体腔に回ることが術後合併症の一つであるが,IOLが隔壁となるので回る量は少量であることが多く,今回のC2症例においても術後数週間で自然に消退が得られた.隅角色素が眼圧上昇機序の主因であると考えられる患者においては,線維柱帯切開術が奏効する可能性があり,低侵襲な術式から治療方針を考慮することが望ましいと考えられた.今回筆者らは,IOL強膜内固定術後に逆瞳孔ブロックを伴わない眼圧上昇を認めたC2例を経験した.IOL強膜内固定術後の合併症として眼圧上昇に留意する必要があり,眼内法による線維柱帯切開術が有用な治療法となる可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GaborSGB,PavlidisMM:SuturelessintrascleralposteriorchamberCintraocularClensC.xation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1851-1854,C20072)YamaneCS,CInoueCM,CArakawaCACetal:SuturelessC27-gaugeCneedle-guidedCintrascleralCintraocularClensCimplan-tationCwithClamellarCscleralCdissection.COphthalmologyC121:61-66,C20143)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術:T-.xationtechnique.眼科グラフィック6:45-53,C20174)LiuJ,FanW,LuXetal:Suturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlens.xation:Analysisofclinicalout-comesCandCpostoperativeCcomplications.CJCOphthalmol2021:8857715,C20215)蒔田潤,小堀朗:眼内レンズ強膜内固定法の合併症,あたらしい眼科32:1569-1570,C20156)BangCSP,CJooCCK,CJunJH:ReverseCpupillaryCblockCafterCimplantationofascleral-suturedposteriorchamberintra-ocularlens:aretrospective,openstudy.BMCOphthalmolC17:35,C20177)BharathiCM,CBalakrishnanCD,CSenthilS:C“PseudophakicCReverseCPupillaryCBlock”followingCyamaneCtechniqueCscleral-.xatedCintraocularClens.CJCGlaucomaC29:e68-e70,C20208)庄司信行:硝子体手術後の続発緑内障はこう治す.あたらしい眼科26:331-336,C2009***

眼内レンズ強膜内固定術後の眼球擦過によりハプティックが 露出し急性感染性眼内炎を生じたと思われた1 例

2024年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(3):345.348,2024c眼内レンズ強膜内固定術後の眼球擦過によりハプティックが露出し急性感染性眼内炎を生じたと思われた1例西江緑*1小林顕*2白尾裕*3*1石川県済生会金沢病院眼科*2金沢大学附属病院眼科*3医療法人社団浅ノ川浅ノ川総合病院眼科CACaseofAcuteInfectiousEndophthalmitisCausedbyHapticExposurefromtheConjunctivaafterFlangedSuturelessIntrascleralIntraocularLensFixationMidoriNishie1),AkiraKobayashi2)andYutakaShirao3)1)DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiKanazawaHospital,2)3)DepartmentofOphthalmology,AsanogawaGeneralHospitalCDepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital,目的:眼内レンズ強膜内固定術(フランジ法)後の眼内炎症例はこれまでに数例しか報告がない.今回新たなC1例を報告する.症例:59歳,男性.2010年C9月に両眼の超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行.2021年C5月,右眼の眼内レンズ亜脱臼の診断で当院へ紹介され,右眼に眼内レンズ強膜内固定術(フランジ法)を行った.2021年C9月,右眼に眼痛と視力低下を訴え,当院を紹介受診.初診時に細隙灯顕微鏡検査で,右眼前房に高度の細胞浮遊と硝子体混濁を認め,8時の位置のフランジが結膜から露出していた.同日,硝子体手術とフランジの強膜内埋没を行った.硝子体液培養は陰性であったが,抗菌薬溶液での硝子体洗浄により迅速に治癒したため,細菌性眼内炎と診断した.アレルギー性結膜炎のため患者が頻回に眼球圧迫したことでフランジの露出と,それに伴う眼内炎が生じたと考えられた.結論:眼球を圧迫する可能性のある患者には慎重な術式選択が必要である.CPurpose:Toreportararecaseofinfectiousendophthalmitiscausedbyhapticexposurefromtheconjunctivafollowing.angedsuturelessintrascleralintraocularlens(IOL).xation.Case:A59-year-oldmaleunderwentbilat-eralphacoemulsi.cationandIOLimplantationinSeptember2010.InMay2021,hewasreferredforrighteyeIOLsubluxation,CandCunderwentCsuturelessCintrascleral.xation(.angedCtechnique)C.CInCSeptemberC2021,CheCpresentedCcomplainingCofCrightCeyeCpainCandCdecreasedCvision.CExaminationCrevealedCcellC.oaters,CvitreousCopacities,CandCanCexposed.angeatthe8-o’clockposition.Vitrectomyand.angeburialwereperformed.Thoughvitreous.uidcul-tureCwasCnegative,CrapidCimprovementCafterCantibioticCirrigationCledCtoCtheCdiagnosisCofCbacterialCendophthalmitis.CWeCtheorizeCthatCtheChapticCexposureCandCassociatedCendophthalmitisCwasCcausedCbyCtheCpatient’sCfrequentCpres-suretohiseyeduetoallergicconjunctivitis.Conclusion:Itisimportanttobecautiouswhenselectingthesurgicaltechniqueinpatientswhoareatriskofocularcompression.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(3):345.348,C2024〕Keywords:眼内レンズ強膜内固定術,フランジ法,術後眼内炎.suturelessintrascleralintraocularlens.xation,.angedtechnique,postoperativeendophthalmitis.Cはじめに2007年のCGaborらによる報告以来,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)強膜内固定術式が発展してきた1).従来の毛様溝縫着術で起こりうる縫合糸による炎症や感染,縫合糸の劣化による眼内レンズの脱臼や亜脱臼など,縫合糸関連の合併症を排除できることが利点である.山根らはC30ゲージ針を用いて低侵襲にCIOL固定が可能となるダブルニードル法を開発した2).この眼内レンズ強膜内固定術(フランジ法)後に眼内炎に至った症例は,これまでに数例しか報告されていない.Karacaらは山根法によるCIOL強膜内固定後の遅発性眼内炎のC1例を報告しており,Obataらは露出したハプティックによる眼内炎のC1例を報告している3,4).今回,眼〔別刷請求先〕西江緑:〒920-0353石川県金沢市赤土町二C13-6石川県済生会金沢病院眼科Reprintrequests:MidoriNishie,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiKanazawaHospital,13-6Akatsuchimachi,Kanazawa,Ishikawa920-0353,JAPANC図1硝子体手術開始時の手術用顕微鏡からの所見術前に著明な結膜充血と結膜浮腫を認めた.眼内レンズ強膜内固定術のフランジ形成部分はC2時方向とC8時方向に確認され,8時方向ではフランジの先端が結膜より露出していた(.).内レンズ強膜内固定術(フランジ法)を施行された患者が,自身で眼球圧迫しハプティックが露出したことが原因と思われる術後眼内炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:59歳,男性.主訴:右眼の眼痛と霧視.現病歴:2010年,両眼の白内障に対して超音波水晶体乳化吸引術およびCIOL挿入術を当院で施行された(AN6KA,興和).2021年C5月,視力低下を主訴に近医眼科を受診した.右眼のCIOL亜脱臼の診断で当院へ紹介され,同月,右眼の経毛様体扁平部硝子体切除術およびCIOL強膜内固定術フランジ法を施行された.2021年C9月CX-1日深夜より右眼の眼痛を,X日より右眼霧視を自覚した.近医眼科を受診し右眼虹彩炎と診断され,同日当科へ紹介された.既往歴:アレルギー性結膜炎(花粉症),痛風.内服薬:ロキソプロフェンCNa錠C60Cmg,レバミピド錠100mg,フェブキソスタット錠C20mg.点眼薬:市販品の抗アレルギー点眼薬.家族歴:特記事項なし.初診時検査所見:視力右眼(0.01C×IOL)(best),左眼(1.0C×IOL)(best).眼圧右眼C13mmHg,左眼C17mmHg.眼軸長R26.0mm,L26.0mm.右眼細隙灯顕微鏡所見では,隅角に周辺虹彩前癒着や結節はなく,高度の前房細胞の浮遊と前房蓄膿があり,著明な結膜充血と結膜浮腫を伴っていた(図1).角膜後面やCIOL表面に肉芽腫性の沈着物はなかった.IOL強膜内固定術のフランジ形成部分はC2時方向とC8時方向に確認され,8時方向で図2硝子体手術中の手術用顕微鏡からの所見術中,強膜圧迫により容易にC8時方向のハプティックが露出した(.).はフランジの先端が結膜より露出していた(図1).硝子体細胞を多数認めた.眼底の透見性は不良であった.血液検査に特記すべき異常はなかった.CII経過2021年C9月CX日,入院のうえ,同日経毛様体扁平部硝子体洗浄を施行した.灌流前に硝子体カッターの吸引チューブから,硝子体液を採取し培養検体とした.灌流液にはバンコマイシン塩酸塩とセフタジジム水和物を混合した.術中,強膜圧迫により容易にC8時方向のハプティックが露出した(図2).硝子体中やハプティックに菌塊は目視されなかった.眼底に色調変化はなかった.露出したハプティックは,CT-.xationtechniqueに準じて強膜を半層切開し,ヨードで強膜トンネル周囲を洗浄した後フランジ部分を埋没させ,8-0バイクリル糸を用いて強膜をC1糸縫合した5).バンコマイシンとセフタジジムの静脈内投与をC1週間行った.X+1日には前房細胞は速やかに減少傾向となった.硝子体培養を行ったが,起因菌は検出されなかった.術後速やかに眼内細胞が減少したこと,眼底に異常がなかったことから外因性の感染性眼内炎と診断した.術後右眼矯正視力はC1.0へ回復した.CIII考察本症例はCIOL強膜内固定術からC3カ月経過した時点で発症した眼内炎であり,鑑別疾患としては遅発性術後感染性眼内炎,直近に生じた急性感染性眼内炎,内因性感染性眼内炎,非感染性眼内炎があげられる.遅発性の感染性眼内炎としては,角膜後面沈着物やCIOL上の肉芽腫性沈着物を認めないこと,自覚症状の出現から前房蓄膿が生じるまでの期間がC24時間程度と短いことが矛盾していた.術前に非感染性眼内炎の可能性は否定できなかったが,急性感染性眼内炎が否定できないこと,眼底透見性不良であることから硝子体手術の適応とした.硝子体洗浄と抗生物質の投与によって速やかに完治したこと,眼底所見に異常がなかったことから,硝子体培養は陰性であったが急性感染性眼内炎と診断した.EndophthalmitisCVitrectomyCStudy(EVS)では白内障手術後眼内炎症例のC5.10%がグラム陰性菌であり,約C90%がグラム陽性菌で,約C70%がバンコマイシン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌であった7).灌流内にはCEVSでの起因菌をほとんどカバーするセフタジジム水和物とバンコマイシン塩酸塩を使用した.EVSではCIOL二次挿入後の眼内炎患者には硝子体切除が有益とされており,ハプティックが露出していることもあり最善と思われる硝子体手術を施行した.また,EVSでは抗生物質の静脈内投与の有無で転帰に有意差がなかったが,EVSで使用されたアミカシン硫酸塩よりも眼内移行性の優れたセフタジジム水和物が使用可能であったことから投与を行った.問診によりC9月は花粉症の増悪のため頻繁に眼球を擦っていたことが判明した.手術中ハプティックが強膜圧迫によって容易に出し入れされたことから,本症例は患者自身で眼球圧迫したことによりハプティックの露出を生じたことに起因すると考えられた.縫着法では術後眼内炎などの合併症が複数報告されており,従来の縫着法によるCIOL二次挿入法と比較してCIOL強膜内固定術フランジ法では種々の合併症が少ないことが一つの利点である6).しかし,IOL強膜内固定術フランジ法後の長期安全性はまだわかっておらず,術後晩期合併症の報告はこれまでに数例しかない.Karacraらはフランジ法によるIOL強膜内固定術後の遅発性眼内炎を報告している3).典型的な遅発性眼内炎では後.に白色プラークがみられ,アクネ菌を起因菌とするが,Karacraらの報告では水晶体.や硝子体が除去されていたにもかかわらず,強膜内固定術後C3カ月程度でアクネ菌を起因菌とする遅発性眼内炎を発症した.ハプティックは結膜下に確認され,硝子体基底部にプラークがあったことから強膜トンネルからの侵入と推論されている.また,ObataらはCIOL強膜内固定術(他院での手術のため術式の詳細はなく,写真からフランジは確認できないためフランジ法ではなく強膜半層切開での固定と思われる)の後C3年での眼内炎を報告しており,ハプティックの結膜上への露出とハプティック周囲の白色プラークを認めていた4).強膜が菲薄化しており,強膜トンネルから穿孔してハプティックが露出したものと推察されている.本症例ではハプティックは露出しておらず,フランジの先端のみが露出している状態であった.Obataらの症例とは機序が異なり,患者の用手的眼球圧迫により強膜が陥凹し,ハプティックが眼内・眼外への露出を繰り返した際に,菌が侵入したものと考えられた.プラークがなく,自覚症状の出現から前房蓄膿形成までの期間が短いことから強毒菌の侵入と推察された.今回,フランジの露出に起因する感染性眼内炎症例を経験し,術式の検討が必要と思われた.太田は,T-.xationの際,術直後の眼内レンズの位置ずれ予防のためにC9-0ナイロン糸で支持部と強膜床を一糸縫合後,創口からの漏れ予防と術後の眼内炎対策で,T字強膜創をC8-0バイクリル糸で一糸縫合することを推奨した5).本症例ではCT-.xationに準じて再固定を行い,以降の経過観察においてハプティックの露出は認めていない.IOL強膜内固定法では感染性眼内炎予防としてハプティックを強膜内に適切に埋め込み,結膜からの露出を回避することが重要とされる8).IOL強膜内固定後にハプティックが結膜から露出する原因としては結膜とハプティックが擦れ合うことと考えられている.結膜による被覆がない場合,眼表面と硝子体空の間に開放性の瘻孔が存在するため眼内炎のリスクを高める可能性がある.一般的にハプティックが露出している場合は外科的修復を必要とする.Pakravanらは強膜内固定後のハプティックの露出例C19眼の検討で,5眼(26%)に結膜炎の既往があったことを報告している9).19眼中3眼(16%)に強膜バックルの手術歴,2眼(10%)チューブシャントの手術歴があり,結膜に手術歴のある眼では,結膜が脆弱で露出を生じる可能性があると指摘している9).本症例では初回手術において理想的な固定状態ではなかった可能性や,フランジのサイズが適切ではなかったために強膜内に完全に埋没されていなかった可能性がある.アトピー皮膚炎の素因をもつ患者や,アレルギー性結膜炎などの既往がある患者など,頻回に目を圧迫あるいは擦過する可能性のある患者に対しては,IOL強膜内固定フランジ法の適応は慎重になるべきと考えた.また,そのような患者にIOL強膜内固定フランジ法を施行した際には,眼球を強く擦らないように指導が必要である.文献1)GaborCSG,CPavlidisMM:SuturelessCintrascleralCposteriorCchamberCintraocularClensC.xation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1851-1854,C20072)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.COphthalmology124:1136-1142,C20173)KaracaCU,CKucukevciliogluCM,COzgeCGCetal:LateConsetCendophthalmitisaftersuturelessintrascleralIOLimplanta-tionwithYamaneTechnique.IntJOphthalmolC14:1449-1451,C20214)ObataCS,CKakinokiCM,CSaishinCYCetal:EndophthalmitisCfollowingexposureofahapticaftersuturelessintrascleralintraocularlens.xation.JVitreoretinDis3:1,C20185)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術T-.xationtechnique.眼科手術C29:24-31,C20166)SchechterRJ:Suture-wickendophthalmitiswithsuturedposteriorCchamberCintraocularClenses.CJCCataractCRefractCSurg16:755-756,C19907)TheEndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:Resultsoftheendophthalmitisvitrectomystudy.ArandomizedtrialofCvitrectomyCandCintravenousCantibioticsCforCtheCtreat-mentCofCpost-operativeCbacterialCendophthalmitis.CArchCOphthalmolC113:1479-1496,C19958)WernerL:FlangeCerosion/exposureCandCtheCriskCforCendophthalmitis.CJCCataractCRefractCSurgC47:1109-1110,C20219)PakravanP,PatelV,ChauVetal:Hapticerosionfollow-ingCsuturelessCscleral-.xatedCintraocularClensCplacement.COphthalmolRetinaC7:333-337,C2022***

フランジ法を用いた眼内レンズ強膜内固定術における 角膜形状変化

2022年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(3):363.366,2022cフランジ法を用いた眼内レンズ強膜内固定術における角膜形状変化福島正樹*1宮腰晃央*2追分俊彦*2コンソルボ上田朋子*2柳沢秀一郎*2林篤志*2*1高岡市民病院眼科*2富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座CCornealTopographyChangesafterFlangedIntraocularLensIntrascleralFixationSurgeryMasakiFukushima1),AkioMiyakoshi2),ToshihikoOiwake2),TomokoConsolvoUeda2),ShuichiroYanagisawa2)andAtsushiHayashi2)1)DapartmentofOphthalmology,TakaokaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyamaC目的:ダブルニードルテクニックを用いたフランジ法による,眼内レンズ(IOL)強膜内固定術によって生じる角膜乱視の短期影響を検討する.対象:2018年C11月.2019年C12月に,富山大学附属病院にて上記手術を施行しC1カ月以上経過を追えたC22例C22眼を対象とした.方法:切開幅がC2.8Cmm群(14眼)とC7.0Cmm群(8眼)のC2群に分け,惹起乱視(SIA),角膜高次収差,IOL固定部経線方向の角膜屈折値の変化,IOL固定部直行方向の角膜屈折値の変化を調べた.結果:平均CSIAはC2.8Cmm群でC1.01C±0.34ジオプター(D),7.0Cmm群でC1.41C±0.65Dであった.IOL固定部経線方向の角膜屈折値の変化は,それぞれC.0.19±0.63D,C.0.01±0.68Dであり,有意差は認めなかった(p=0.71,Cp=0.98).IOL固定部直行方向の角膜屈折値の変化は,それぞれC.0.21±0.58D,+0.04±0.66Dであり,有意差は認めなかった(p=0.42,p=0.59).結論:フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術では,IOL支持部が角膜形状に与える影響は小さく,惹起乱視の主たる原因は強膜縫合や創口閉鎖に伴う平坦化と考えられる.より長期の観察・検討が必要である.CPurpose:ToCstudyCtheCimpactCofC.angedCintrascleralCintraocularlens(IOL).xationCwithCtheCdouble-needleCtechniqueoncornealastigmatism.Methods:Thisstudyinvolvedtheanalysisof22consecutivepatientswithcor-nealCastigmatismCwhoCunderwentC.angedCintrascleralCintraocularlens(IOL).xationCwithCtheCdouble-needleCtech-niquebetweenNovember2018andDecember2019andwhocouldbefollowedformorethan1-monthpostopera-tive.Thepatientsweredividedinto2groupsbasedonthesizeofthescleralwound(i.e.,the2.8Cmmgroupandthe7.0Cmmgroup)C,CwithCtheCdataCdeterminedCbyCanteriorCsegment-opticalCcoherencetomography(CASIA2;Tomey)Candasurgicallyinducedastigmatism(SIA)calculator(Alcon)C.Results:ThemeanSIAscorewas1.01±0.34diop-ters(D)inCtheC2.8CmmCgroupCandC1.41±0.65DCinCtheC7.0mmCgroup.CBetweenCtheCtwoCgroups,CnoCstatisticallyCsigni.cantCchangesCwereCobservedCinCmeanCcornealCcurvatureCinCtheCmeridianCalongCtheChapticsCofCtheCIOLCandCorthogonaltothehapticsoftheIOL,respectively.Conclusion:Thee.ectoftheIOLhapticsoncornealshapewassmall,CandCtheCmainCcauseCofCSIACwasCthoughtCtoCbeCtheCscleralCsutureCandCtheC.atteningCassociatedCwithCwoundCclosure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):363.366,C2022〕Keywords:眼内レンズ強膜内固定術,フランジ法,惹起乱視,前眼部三次元光干渉断層計.intrascleralCintraocu-larlens.xation,.anged.xation,surgicallyinducedastigmatism,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.C〔別刷請求先〕福島正樹:〒933-8550富山県高岡市宝町C4-1高岡市民病院眼科Reprintrequests:MasakiFukushima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TakaokaCityHospital,4-1Takaramachi,Takaoka-shi,Toyama933-8550,JAPANCp=0.71p=0.98a4846444240術前術後術前術後2.8mm群7.0mm群p=0.42p=0.594846444240術前術後術前術後2.8mm群7.0mm群p=0.06p=0.53[μm][D][D]b0.80.60.40.20術前術後術前術後2.8mm群7.0mm群図1術前後の各種測定結果の変化a:眼内レンズ固定部経線方向の角膜屈折値の変化.Cb:眼内レンズ固定部直交方向の角膜屈折値の変化.Cc:角膜高次収差の変化.はじめに水晶体支持組織のない無水晶体眼に対する眼内レンズCintraocularlens:IOL)固定法として,IOLの毛様体溝縫着術や毛様体扁平部縫着術が広く行われてきたが,術後合併症として角膜内皮減少や続発緑内障,縫合糸断裂が問題となっていた1.5).2007年に強膜内固定術が報告され6),その後,より低侵襲で固定が強固なフランジ法が開発された7).フランジ法では,縫合糸がないこと,最小限の強膜創しか作製しないことから,低侵襲な方法であると報告されている.C364あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022一方で,フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術における術前後の角膜形状変化に関する報告が少ないことや,スリーピースのトーリックCIOLが存在しないことから,乱視矯正は考慮されていないのが現状である.本研究の目的は,フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術における術前後の角膜形状変化を明らかにすることである.CI対象および方法1.対象症例2018年C11月.2019年C12月に富山大学附属病院で,ダブルニードルテクニックを用いたフランジ法によるCIOL強膜内固定術を施行し,1カ月以上経過を追えた患者C22例C22眼(男性C17眼,女性C5眼)の診療録を後ろ向きに調査した.創口の切開幅によりC2群に分け,2.8Cmm群がC14眼(男性C9眼,女性C5眼)で平均年齢はC80.3C±6.6歳,7.0Cmm群がC8眼(男性C8眼,女性C0眼)で平均年齢はC65.6C±16.3歳であった.すべての患者に対し術前に手術の術式と利点・欠点について十分な説明を行い,文書で同意を得ている.本研究は富山大学臨床・疫学研究などに関する倫理審査委員会の承認を得て行った.C2.手術手技手術は,2名の網膜・硝子体術者(Y.S.,U.T.)により行われた.全例,Tenon.下麻酔で行った.無水晶体症例では12時方向にC2.8Cmmの創口を作製した.IOL脱臼・亜脱臼・硝子体落下症例では,まずC12時方向にC7.0Cmmの創口を作製し,IOLを眼外に摘出した.その後,有硝子体眼ではEVA(ドルク社)のC25ゲージシステムを用いて経毛様体扁平部硝子体切除術を行った.2.8Cmm群ではインジェクターを用いて,7.0Cmm群ではそのまま全例CNX-70(参天製薬)をC12時方向の創口から前房内に挿入した.既報のとおり2)ダブルニードルテクニックを用いてフランジ法によるCIOL強膜内固定術を行い,IOL支持部は角膜輪部よりC2Cmmの位置に,2時-8時方向で固定した.なお,全例でカニューラ挿入部の強膜創の縫合を行った.C3.検討項目2群それぞれの惹起乱視,IOL固定部経線方向の角膜屈折値の変化,IOL固定部直交方向の角膜屈折値の変化,角膜高次収差の変化を検討した.すべての症例において,術前と術1カ月後に前眼部三次元光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)のCCASIAII(トーメーコーポレーション)で測定を行った.惹起乱視についてはCCASIAIIで得られた角膜屈折値をCSIACcalculator(アルコン)に入力して算出した.IOL固定部経線方向の角膜屈折値およびCIOL固定部直交方向の角膜屈折値はCCASIAIIによるCAxialCpower(Real)の項目をもとに算出した.CASIAIIでは,指定した軸に対しての角膜屈折値を算出する方法がないため,正確なIOL固定軸(2時-8時方向)の角膜屈折値は計算できない.そのため,近似値としてCCASIAIIのCAxialpower(Real)画面の角膜中央の直径C3Cmm点線円形内のそれぞれの軸方向の三つの値の平均値を使用している.IOL固定部経線方向(2時-8時方向)の角膜屈折値はC45.225°方向の値を使用し,IOL固定部直交方向(4時-10時)の角膜屈折値はC135.315°方向の値を使用し算出した.角膜高次収差は角膜中央直径3Cmmにおける角膜CHOA値を用いた.結果の数値は平均値C±標準偏差で示し,比較には対応のあるCt検定を用い,p<0.05を有意と定めた.CII結果惹起乱視は,2.8Cmm群でC1.01C±0.34D,7.0mm群でC1.41C±0.65Dであり,2群間に有意差は認めなかった(p=0.18).IOL固定部経線方向の角膜屈折値の変化は,2.8Cmm群でC.0.19±0.63D(p=0.71),7.0Cmm群でC.0.01±0.68D(p=0.98)の変化であり,両群とも術前後で有意差は認めず(図1a),2群間でも変化量に有意差は認めなかった(p=0.70).IOL固定部直交方向の角膜屈折値の変化は,2.8mm群でC.0.21±0.58D(p=0.42),7.0mm群ではC.0.04±0.66D(p=0.59)であり,両群とも術前後で有意差は認めず(図1b),2群間でも変化量に有意差は認めなかった(p=0.56).角膜中心C3Cmm径の高次収差の変化は,2.8Cmm群でC.0.12C±0.14Cμm(p=0.06),7.0mm群で.0.02±0.05Cμm(p=0.53)であり,両群とも術前後で有意差は認めず(図1c),2群間でも変化量に有意差は認めなかった(p=0.27).CIII考按今回筆者らは,フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術における術前後の角膜形状変化をCCASIAIIで得られたパラメータを用いて検討した.まず,惹起乱視に関してはC2.8Cmm群でC1.01C±0.34D,7.0mm群でC1.41C±0.65Dであった.経強角膜切開によるCIOL.内固定術の惹起乱視に関する過去の報告では,2.4Cmm切開ではC0.40C±0.28D8),5.5mmではC0.77±0.65D9),10.11mm切開ではC1.77C±1.61D9)と切開幅が大きくなると創口方向への平坦化が大きくなる傾向があり,本研究結果と一致した.2群間に有意差は認めなかったが,症例数が少ないためと考えられる.フランジ法を用いたIOL強膜内固定術において,ケラトメータによる角膜乱視がC41DC.1.1.35D,術後12週間でC.1.27D,術後4週間でC.術前に変化したとの報告がある10).本研究のC2.8Cmm群ではやや強い惹起乱視が生じていることがわかる.創口の閉鎖に伴う平坦化に加え,IOL支持部の角膜形状への影響を検討する必要があると考えた.そこでCIOL支持部が角膜形状に与える影響を調べるために,本研究ではCIOL固定部経線方向および直交方向の角膜屈折値の変化も検討した.2.8Cmm群,7.0Cmm群ともに経線方向・直交方向の角膜屈折値はわずかに減少していたが,有意差は認めなかった.強膜フラップ作製を伴うCIOL毛様溝縫着術では,術後C1年で経線方向の角膜屈折値が+1.61D,直交方向の屈折値が.0.60D変化したとの報告がある11).この変化は強膜フラップによる影響と考察されている.強膜フラップを作製していない今回の結果と比較すると,IOL支持部そのものが角膜形状に与える影響は小さいと考えられた.25ゲージシステムによる硝子体切除術後の角膜形状の変化は軽微であることが報告されている12).本研究では全例にて強膜創の縫合を行った.20ゲージシステムではあるが,強膜縫合による角膜曲率への影響も報告されている13).強膜の弾力性の変化や縫合の緩みによる影響は,術後C1.3カ月で消失すると考察されている.本研究のC2.8Cmm群でやや強い惹起乱視が生じていた原因の一つに,強膜創の縫合が影響していた可能性がある.本研究における限界の一つに,術後の角膜形状解析を行った時期が全例術C1カ月後という早期であった点があげられる.小切開白内障手術後でも切開部の創口の瘢痕治癒による角膜形状変化が安定するのにC10週間かかったとの報告がある14).本研究では,切開部の創口閉鎖の途中を観察している可能性も考えられる.本研究では,術前後で角膜高次収差の有意な変化はみられなかった.Gullstrand模型眼にC6.0CmmのスリーピースCIOLを強膜内固定し,術前後の高次収差を比較した過去の報告15)では,中央C5.2Cmm径のコマ収差が増加している.本研究では角膜中央C3Cmmの高次収差を測定しているため,IOL支持部の固定が及ぼす角膜形状への影響は,角膜中央部に及ぶほど大きくないのかもしれない.フランジ法を用いたCIOL強膜内固定術では,IOL支持部が角膜形状に与える影響は小さく,惹起乱視の主たる原因は強膜縫合と切開部の創口閉鎖に伴う平坦化と考えられる.今後,より長期の観察・検討が必要である.文献1)DrolsumL:Long-termCfollow-upCofCsecondaryC.exible,Copen-loop,anteriorchamberintraocularlenses.JCataractRefractSurgC29:498-503,C20032)BiroZ:ResultsCandCcomplicationsCofCsecondaryCintraocu-larClensCimplantation.CJCCataractCRefractCSurgC19:64-67,C19933)DowningJE:Ten-yearfollowupcomparinganteriorandposteriorCchamberCintraocularClensCimplants.COphthalmicCSurgC23:308-315,C19924)EverekliogluCC,CErCH,CBekirCNACetal:ComparionCofCsec-ondaryCimplantationCofC.exibleCopen-loopCanteriorCcham-berCandCscleral-.xatedCposteriorCchamberCintraocularClenses.JCataractRefractSurgC29:301-308,C20035)加藤睦子,中山正,細川海音:眼内レンズ毛様溝縫着術の手術成績.臨眼67:503-509,C20136)GaborCSG,CPavlidisMM:SuturelessCintrascleralCposteriorCchamberCintraocularClensC.xation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1851-1854,C20077)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.OphthalmologyC124:1136-1142,C20178)KawaharaA,KurosakaD,YoshidaA:Comparisonofsur-gicallyCinducedCastigmatismCbetweenCone-handedCandCtwo-handedCcataractCsurgeryCtechniques.CClinicalCOph-thalmolC7:1967-1972,C20139)GeorgeR,RupaulihaP,SripriyaAVetal:ComparisonofendothelialCcellClossCandCsurgicallyCinducedCastigmatismCfollowingCconventionalCextracapsularCcataractCsurgery,CmanualCsmall-incisionCsurgeryCandCphacoemulsi.cation.COphthalmicEpidermolC12:293-297,C200510)IshikawaCH,CFukuyamaCH,CKomukuCYCetal:FlangedCintrascleralClensC.xationCviaC27-gaugeCtrocarsCusingCaCdouble-needleCtechniquesCdecreasesCsurgicalCwoundsCwithoutClosingCitsCtherapeuticCe.ects.CActaCOphthalmolC98:499-503,C202011)MaCLw,CXuanCD,CLiCXYCetal:CornealCastigmatismCcor-rectionwithsclera.apsintrans-scleralsuture-.xedpos-teriorCchamberClensimplantation:aCpreliminaryCclinicalCobservation.IntJOphthalmolC4:502-507,C201112)YanyaliCA,CGelikCE,CHorozogluCFCetal:CornealCtopo-graphicCchangesCaftertransconjunctival(25-gauge)CsuturelessCvitrectomy.CAmCJCOphthalmolC140:939-941,C200513)DovCW,CHeniaCL,CNissimCLCetal:CornealCtopographicCchangesCafterCretinalCandCvitreousCsurgery.CHistoricalCimage.OphthalmologyC106:1521-1524,C199914)LimCR,CBorasioCE,CIlariL:Long-termCstabilityCofCkerato-metricastigmatismafterlimbalrelaxingincisions.JCata-ractRefractSurgC40:1676-1681,C201415)MatsuiN,InoueM,ItohYetal:Changesinhigher-orderaberrationsofintraocularlenseswithintrascleral.xation.BrJOphthalmolC99:1732-1738,C2015***

眼内レンズの強膜内固定術と毛様溝縫着術の比較

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):709.713,2021c眼内レンズの強膜内固定術と毛様溝縫着術の比較中村陸田村弘一郎岸大地横山勝彦木許賢一久保田敏昭大分大学医学部附属病院眼科ComparativeStudyofIntraocularLensImplantation:SuturelessIntrascleralFixationversusCiliarySulcusSutureFixationRikuNakamura,KohichiroTamura,DaijiKishi,KatsuhikoYokoyama,KenichiKimotoandToshiakiKubotaCDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:眼内レンズ(IOL)の強膜内固定術と毛様溝縫着術の術後成績を比較検討した.対象および方法:水晶体脱臼,IOL脱臼,無水晶体眼に対して,IOLの強膜内固定術を施行したC23例C23眼(69.7C±13.9歳)と毛様溝縫着術を施行したC17例C18眼(77.6C±12.5歳).術後C1週間,1カ月,3カ月,6カ月における術前後の矯正視力差,予測屈折値と術後屈折値の差,惹起角膜乱視,惹起CIOL乱視,角膜内皮細胞密度減少率,術後合併症を比較,検討した.結果:毛様溝縫着術で術後C1週間での視力の改善が術後C3カ月,6カ月と比較して有意に不良(p<0.01)であったが,術式間に有意差はなかった.術後屈折値は予測屈折値よりやや近視化するが,術式間に有意差はなかった.術後合併症は術式間で有意差はなかったが,毛様溝縫着術のみで縫合糸露出を認めた.網膜.離は認めなかった.結論:当院で行った強膜内固定術は縫着術同様に術後早期から安定した視機能が得られる有用な術式と考えられた.CPurpose:Tocomparethesurgicaloutcomesofsuturelessintrascleralintraocularlens(IOL).xationwiththatofciliarysulcussuture.xation.SubjectsandMethods:In23eyesof23patientswhounderwentsuturelessintra-scleralCIOLC.xationCandC17CeyesCofC18CpatientsCwhoCunderwentCciliaryCsulcusCIOLC.xation,Cvisualacuity(VA)C,Crefractiveerror(RE)C,CcornealCandCIOLCastigmatism,CcornealCendothelialCcells,CandCsurgicalCcomplicationsCwereCexamined.Results:Intheciliarysulcus.xationeyes,theincreaseofVAwassigni.cantlysmallerat1-weekthanat3-and6-monthspostoperative.Nodi.erencebetweenpredictedandactualREwasobservedbetweenthetwooperations.Sutureexposurewasobservedpostciliarysulcussuture.xation.Inbothoperations,noretinaldetach-mentoccurred.Conclusions:IntrascleralsuturelessIOL.xationise.ectiveforobtainingearlyvisualrecovery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(6):709.713,C2021〕Keywords:白内障手術,眼内レンズ強膜内固定術,眼内レンズ毛様溝縫着術,水晶体脱臼,眼内レンズ脱臼.cat-aractsurgery,intrascleral.xationofintraocularlens,ciliarysulcus.xationofintraocularlens,lensluxation,intra-ocularlensluxation.Cはじめに水晶体脱臼や眼内レンズ(intraocularlens:IOL)脱臼,白内障手術中に生じたCZinn小帯断裂や破.による無水晶体眼に対して,従来はCIOL毛様溝縫着術が行われてきたが,2007年にCGaborら1)がCIOL強膜内固定術を報告し,2008年にはCAgarwalら2)がフィブリン糊を用いたCIOL強膜内固定術を発表した.これらの術式はわが国でも急速に普及した.大分大学医学部附属病院眼科(以下,当院)でも,2013年までは毛様溝縫着術を行ってきたが,強膜内固定術では糸を結紮する煩雑さがなく,また縫合糸に関連した合併症もない3)ことからC2014年から強膜内固定術を導入した.手術症例の蓄積によって,当院での強膜内固定術と毛様溝縫着術の術後成績の比較検討が可能となったので報告する.CI対象および方法対象は水晶体脱臼,IOL脱臼,白内障術後の無水晶体眼に対してC2017年C4月.2018年C6月に強膜内固定術を行い,半年以上経過観察を行ったC23例C23眼と,2012年C7月.〔別刷請求先〕田村弘一郎:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ヶ丘C1-1大分大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KohichiroTamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasamamachi,Yufu-shi,Oita879-5593,JAPANC表1患者背景強膜内固定術毛様溝縫着術p値♯男性:女性15人:8人9人:8人C0.65♯右眼:左眼11眼:1C2眼11眼:7眼C0.60♯年齢(平均値C±SD)C69.7±13.9歳C77.6±12.5歳C0.08♭原因C0.58♯水晶体脱臼水晶体亜脱臼IOL脱臼IOL亜脱臼白内障術後の無水晶体眼1眼(4%)8眼(35%)6眼(26%)5眼(22%)3眼(13%)1眼(6%)6眼(33%)1眼(6%)8眼(44%)2眼(11%)#Chi-squaretest,♭Unpairedt-test.2013年C12月に毛様溝縫着術を行い,半年以上経過観察を行ったC17例C18眼である.IOL脱臼眼のうち,脱臼CIOLを摘出せずに利用した症例は除外した.患者背景について表1に示した.男女比は強膜内固定術群(以下,固定群)では男性15例,女性C8例,毛様溝縫着術群(以下,縫着群)では男性9例,女性C8例であり,平均年齢は,固定群はC69.7C±13.9歳,縫着群はC77.6C±12.5歳で,それぞれ有意差はなかった.原因疾患は,固定群では,水晶体脱臼,水晶体亜脱臼,IOL脱臼,IOL亜脱臼,白内障術後の無水晶体眼の順にC1眼,8眼,6眼,5眼,3眼であり,縫着群では,それぞれC1眼,6眼,1眼,8眼,2眼であった.術式間で有意差は認めなかった.強膜内固定術は,Kawajiらの報告4)に基づいて施行した.まず上方に約C3Cmmの強角膜創を作製し,水晶体やCIOLが残存する症例は水晶体乳化吸引術またはCIOL摘出術を行った.硝子体切除術は,25ゲージシステムで後部硝子体.離を作製し,強膜圧迫を行いながら硝子体を周辺部まで徹底して切除した.耳側,鼻側強膜の角膜輪部からC2Cmmの位置にMVRナイフでC3Cmmの強膜トンネルを作製した.IOLを強角膜創から挿入し,IOL支持部を鑷子で強角膜創から眼外に引き出し,強膜トンネル内に無縫合で固定した.毛様溝縫着術は,強膜内固定術と同様にCIOLや水晶体を除去し,硝子体切除を行った.IOL縫着用の眼内レンズを使用することが多く,上方の強角膜創は大きく切開せざるをえなかったため,3.6Cmmとばらつきがあった.耳側,鼻側強膜の角膜輪部からC2Cmmの位置に強膜半層切開または強膜フラップを作製し,Abexterno法5)でC10-0ポリプロピレン糸を通糸した.IOL支持部に強角膜創から引き出したポリプロピレン糸を眼外で結紮し,IOLを眼内に挿入して強膜に縫着固定した.対象の症例の診療録をさかのぼり,術後C1週間,1カ月,3カ月,6カ月の術前後の矯正視力差(logarithmicminimumangleofresolution:logMAR),屈折値誤差,惹起角膜乱視,惹起CIOL乱視,角膜内皮細胞密度減少率,術後合併症のC6項目について比較検討した.術前後の矯正視力差は,術前矯正視力と各術後時期の矯正視力の差と定義し,比較した.屈折値誤差は,術後の屈折値と予測屈折値との差とし,評価した.いずれの屈折値も等価球面の値を用いた.予測屈折値は光学式眼軸長測定装置(OA-2000,トーメーコーポレーション)で測定した眼軸長と角膜乱視度数から,SRK/Tを用いて算出した.術前と術後の角膜乱視の差を惹起角膜乱視と定義し,比較した.また,全乱視と角膜乱視との差をCIOL(水晶体)乱視とし,術前と術後のCIOL(水晶体)乱視の差を惹起CIOL乱視と定義し,比較した.乱視度数の計算にはCJa.e法6)を用いた.角膜内皮細胞密度減少率と,術後合併症の頻度も,術式間で比較した.術式間の比較はCunpairedt-test,術後経過による変化の比較はCrepeatedCmeasuresANOVAを用いた.多重比較にはCStudent-Newman-Keulstestを用いた.術後合併症は,術式間の比較にCchi-squaretestを用いて比較した.p<0.05を有意差ありとした.本検討は,倫理研究法を遵守し,世界医師会ヘルシンキ宣言に則り,倫理委員会による適切な審査を受け承認を得て行った.CII結果表2に術前後の矯正視力差,屈折値誤差,惹起角膜乱視,惹起CIOL乱視の結果を示す.術前後の矯正視力差は,固定群では,術後C1週間,1カ月,3カ月,6カ月の順に,C.0.08C±0.68,C.0.17±0.70,C.0.17±0.79,C.0.27±0.74であり,術後時間が経過しても有意な変化はみられなかった.縫着群では,+0.04±0.31,C.0.03±0.31,C.0.08±0.24,C.0.14±0.26であり,術後C1週間での矯正視力の改善が術後C3カ月,6カ月と比較して有意に不良(p<0.05,p<0.01)であった(図1).それぞれの術後時期で術式間における有意差は認めなかった.屈折値誤差は,固定群では,C.1.17±1.26D,C.0.68±1.32D,.0.91±1.54D,C.0.82±1.39Dであり,縫着群では,C.1.47±1.50D,C.1.07±1.49D,C.1.60±2.46D,C.0.87±2.75Dであった.それぞれの術後時期で術式間に有意差はみられず,術後時間が経過しても有意な変化はみられなかった.惹起角膜乱視は,固定群では,C.1.39±1.12D,C.1.24±1.19D,C.1.08±1.33D,C.0.99±0.98Dであり,縫着群では,C.1.98±1.13D,C.1.67±0.76D,C.1.64±0.84D,C.1.39±0.70Dであった.両術式で術後時間が経過しても有意な変化はみられなかった.それぞれの術後時期で術式間に有意差はみられなかった.惹起CIOL乱視は,固定群ではC.2.48±1.62D,C.2.90±3.25D,.2.05±2.93D,C.2.13±1.72Dであり,縫着群ではC.2.63C±2.03D,C.1.79±0.93D,C.1.82±0.77D,C.2.58±2.53DC表2術前後の視力差,屈折値誤差,惹起角膜乱視,惹起IOL乱視術後1週間術後1カ月術後3カ月術後6カ月p値♯C術前後の視力差強膜内固定術C.0.08±0.68C.0.17±0.70C.0.17±0.79C.0.27±0.740.12毛様溝縫着術+0.04±0.31C.0.03±0.31C.0.08±0.24C.0.14±0.26<0.01p値♭C0.55C0.48C0.69C0.50C屈折値誤差強膜内固定術C.1.17±1.26DC.0.68±1.32DC.0.91±1.54DC.0.82±1.39DC0.11毛様溝縫着術C.1.47±1.50DC.1.07±1.49DC.1.60±2.46DC.0.87±2.75DC0.41p値♭C0.92C0.56C0.39C0.95C惹起角膜乱視強膜内固定術C.1.39±1.12DC.1.24±1.19DC.1.08±1.33DC.0.99±0.98DC0.52毛様溝縫着術C.1.98±1.13DC.1.67±0.76DC.1.64±0.84DC.1.39±0.70DC0.06p値♭C0.19C0.31C0.24C0.26C惹起CIOL乱視強膜内固定術C.2.48±1.62DC.2.90±3.25DC.2.05±2.93DC.2.13±1.72DC0.33毛様溝縫着術C.2.63±2.03DC.1.79±0.93DC.1.82±0.77DC.2.58±2.53DC0.40p値♭C0.77C0.23C0.82C0.84C#repeatedmeasuresANOVA,♭unpairedt-test.C術前後の矯正視力差1**0.8*0.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8-1-1.2術後1週間術後1カ月術後3カ月術後1週間■強膜内固定術毛様溝縫着術図1術前後の矯正視力差毛様溝縫着術後C1週間の視力改善は,術後C3カ月,6カ月と比較して有意に不良であった.*:p<0.05,**:p<0.01(Student-Newman-Keulstest).表3角膜内皮細胞密度表4術後合併症術前術後減少率強膜内固定術C2,186±375cells/mm2C1,783±571cells/mm217.6%毛様溝縫着術C2,356±370cells/mm2C1,986±553cells/mm214.4%p値♯C0.73#Unpairedt-test.C強膜内固定術(23眼)毛様溝縫着術(18眼)p値♯C低眼圧(≦5mmHg)9眼(39%)5眼(28%)C0.67高眼圧(≧25mmHg)1眼(4%)4眼(22%)C0.21虹彩捕獲3眼(13%)1眼(5%)C0.70IOL偏位,傾斜2眼(9%)1眼(5%)C0.90逆瞳孔ブロック1眼(4%)0眼(0%)C0.94虹彩偏位1眼(4%)0眼(0%)C0.94縫合糸露出0眼(0%)2眼(10%)C0.41硝子体出血0眼(0%)0眼(0%)網膜.離0眼(0%)0眼(0%)であった.それぞれの術式で術後時間が経過しても有意な変化はみられず,術後時間が経過しても有意な変化はみられなかった.角膜内皮細胞密度の減少率は固定群でC17.6%,縫着群で14.4%であり,有意差は認めなかった(表3).術後合併症を表4に示す.術後合併症は術式間で有意差を認めなかった.縫合糸露出は縫着群のみに認めた.硝子体出血,網膜.離はC1例も認めなかった.CIII考察強膜内固定術は近年急速に普及しており,強膜内固定術を従来の毛様溝縫着術と比較した報告はあるが,各施設によって術式が少しずつ異なる.今回はCKawajiらの報告4)に基づいて強膜内固定術を行い,後部硝子体.離を作製し周辺部まで硝子体切除を行った.縫着群では,術後C1週間の矯正視力が術前よりも低下しており,術後C3カ月,術後C6カ月と比較して有意に改善が乏しかったが,固定群では,術後早期から矯正視力が安定していた.この理由として,縫着群には強角膜創の大きさにばらつき(3.6Cmm)があったことが考えられる.本検討では,有意差はなかったが,固定群に比べ縫着群で惹起角膜乱視が大きい傾向にあり,縫着群で視力改善が遅かったことに関与している可能性がある.縫着群には強角膜創が大きかった症例が含まれており,それらの症例では角膜への侵襲が大きく,惹起角膜乱視が大きくなったと予想される.惹起角膜乱視はどちらの術式でも時間経過とともに改善傾向であった.屈折値誤差に関しては,固定群と縫着群との間に有意差はなく,いずれも近視化する傾向であった.既報4,7.9)では毛様溝縫着術では近視化し,強膜内固定術ではやや遠視化,またはごく軽度近視化するという報告が多いが,本報告で近視化した理由として,当院では硝子体切除術の際,前部硝子体切除のみではなく,周辺部硝子体まで切除していることがあげられる.Choら10)は毛様溝縫着術の際にCparsCplanaCvit-rectomy(PPV)を行った群と前部硝子体切除術を施行した♯Chi-squaretest.群とを比較したが,前部硝子体切除群と比較してCPPV群のほうが予測屈折値よりも近視化した(p=0.04)と報告している.Jeoungら11)は,前部硝子体切除よりもCPPVを行うほうが強膜への侵襲が大きく,強膜が菲薄,伸展することで近視化すると推測している.また,角膜輪部からCIOL支持部を固定する位置までの距離や,IOLの全長,強膜トンネルに挿入するCIOL支持部の長さによって,IOL光学面の位置が変化し,術後屈折値に影響する.本検討では両術式で角膜輪部からC2Cmmの位置にCIOL支持部を固定したが,Abbeyら8)は強膜内固定術において,IOL支持部を角膜輪部からC2Cmmの位置に固定した場合,1.5Cmmの位置に固定した場合と比較して,0.23D近視化すると報告している.現在,これらのパラメータの屈折値への影響について検討した報告は少ないため,今後検討が必要である.Kawajiら4)の報告では強膜内固定術での角膜内皮細胞密度減少率はC12.5%であり,他の報告4,12)と比較しても本報告では角膜内皮細胞密度減少率はやや高い結果となった.本報告では硝子体切除を徹底して行ったため,手術時間も長くなり,角膜内皮細胞への侵襲も大きかったと考えられる.術後合併症は,両術式間で有意差はみられなかった.網膜.離は両術式でC1例も認めなかった.これは硝子体切除を徹底して行ったためと思われる.Choら10)の報告でも,毛様溝縫着術にCPPVを併施したC47眼では網膜裂孔や裂孔原性網膜.離は発生しなかったが,前部硝子体切除を併施した36眼では網膜裂孔をC1眼,裂孔原性網膜.離をC1眼で認めている.柴田ら13)は,毛様溝縫着術時に周辺硝子体を可能な限り切除することで,硝子体ゲルの虚脱や嵌頓,術中の毛様溝への通糸操作による網膜.離の発生を予防できる可能性があると述べている.硝子体切除を徹底して行うことで,網膜裂孔,裂孔原性網膜.離を防ぐことができるが,予想屈折値より近視化する点,角膜内皮細胞密度減少率がやや高い点に注意する必要がある.今回の報告では,毛様溝縫着術を行っていた時期と強膜内固定術を行っていた時期が異なるため,使用するCIOLや術者が異なっていた.また,本来CIOL摘出の際の強角膜創の大きさを揃える必要があったが,3Cmmの強角膜創を作製して毛様溝縫着術を行った症例数が十分ではなく,厳密な比較が困難であった.また,症例数も少ないため,さらなる検討が必要である.CIV結論強膜内固定術は比較的早期から良好な視機能が得られる有用な術式である.予測屈折値よりもやや近視化する傾向にあることに留意する必要がある.文献1)GaborCSG,CPavlidisMM:SuturelessCintrascleralCposteriorCchamberCintraocularClensC.xation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1851-1854,C20072)AgarwalA,KumarDA,JacobSetal:Fibringlue-assist-edsuturelessposteriorchamberintraocularlensimplanta-tionCinCeyesCwithCde.cientCposteriorCcapsules.CJCCataractCRefractSurgC34:1433-1438,C20083)山根真:眼内レンズ強膜内固定法.眼科C59:1471-1477,C20174)KawajiCT,CSatoCT,CTaniharaH:SuturelessCintrascleralCintraocularlens.xationwithlamellardissectionofscreraltunnel.ClinOphthalmolC10:227-231,C20165)LewisJS:AbCexternoCsulcusC.xation.COphthalmicCSurgC11:692-695,C19916)Ja.eCNS,CClaymanHM:TheCpathophysiologyCofCcornealCastingmatismCafterCcataractCextraction.CTransCAmCAcadCOphthalmolOtolaryngolC79:615-630,C19757)武居敦英,横山利幸:強膜内固定術と毛様溝縫着術の比較.眼科60:733-741,C20188)AbbeyAM,HussainRM,ShahARetal:Suturelessscler-al.xationofintraocularlenses:outcomesoftwoapproach-es.The2014YasuoTanoMemorialLecture.GraefesArchClinExpOphthalmolC253:1-5,C20159)長田美帆子,藤川正人,川村肇ほか:眼内レンズ強膜内固定術における術後屈折値の検討.眼科C59:289-294,C201710)ChoBJ,YuHG:SurgicaloutcomesaccordingtovitreousmanagementCafterCscleralC.xationCofCposteriorCchamberCintraocularlenses.RetinaC34:1977-1984,C201411)JeoungCJW,CChungCH,CYuCHGCetal:FactorsCin.uencingCrefractiveCoutcomesCafterCcombinedCphacoemulsi.cationCandparsplanavitrectomy.Resultofaprospectivestudy.JCataractRefractSurgC33:108-114,C200712)YamaneS,InoueM,ArakawaAetal:Sutureless27-gaugeneedle-guidedCintrescleralCintraocularClensCimplantationCwithClamellarCscleralCdissection.COphthalmologyC121:61-66,C201413)柴田朋宏,井上真,廣田和成ほか:眼内レンズ縫着術後に生じた後眼部合併症の臨床的特徴.日眼会誌C117:19-26,C2013C***