眼内レンズ挿入眼の落屑緑内障に対する線維柱帯切開術の長期成績福本敦子柴田真帆豊川紀子松村美代黒田真一郎永田眼科CLong-TermOutcomeAfterTrabeculotomyasInitialSurgeryinPseudophakicEyeswithExfoliationGlaucomaAtsukoFukumoto,MahoShibata,NorikoToyokawa,MiyoMatsumuraandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:眼内レンズ挿入眼(IOL眼)落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)に対する初回観血的緑内障手術としてのサイヌソトミーおよび深層強膜弁切除併用線維柱帯切開術(以下,LOT)の長期成績について報告する.対象および方法:2011年.2016年にCIOL眼CEXGに対して初回緑内障手術としてCLOTを施行し,術後C3年以上経過観察できたC31例C31眼(追跡率C86%,年齢C73.8C±7.0歳,観察期間C64.0C±21.4カ月)を対象とし,術前後の1)眼圧,2)薬剤スコア,3)眼圧C20CmmHgおよびC15CmmHg以下への生存率,4)観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)について後ろ向きに検討した.結果:1)術前後の眼圧(術前/術後C3年)はC26.4C±7.0/18.0±5.8CmmHgで,術後C4年まで全観察期間において術前よりも有意に眼圧下降が得られた.2)薬剤スコアは,術前C3.6C±0.9で術後C2年半まで有意に低下し,術後C3年でC2.9C±1.4と以後は有意差がなくなった.3)生存率は,20CmmHgでC3年生存率C38.7%,15CmmHgではC12.9%と不良であった.4)術後C3年までの再手術例はC15眼(48.4%)あり,うちC13眼で濾過手術が選択された.結論:既報の有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTと比較して,IOL眼CEXGに対する初回CLOTは早期に眼圧コントロール不良となる可能性が高い.CPurpose:ToCevaluateCtheClong-termCoutcomeCaftertrabeculotomy(LOT)asCinitialCsurgeryCinCpseudophakicCeyesCwithCexfoliationglaucoma(IOL-EXG)C.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC31CeyesCofC31Cpatients(meanage:73.8C±7.0years)withCIOL-EXGCwhoCunderwentCLOTCasCtheCinitialCsurgeryCforCEXGCbetweenC2011Cand2016andwerefollowedforatleast3-yearspostoperative(meanfollow-upperiod:64.0C±21.4months).Inallpatients,thefollowingfouroutcomeswereevaluated:1)intraocularpressure(IOP)change,2)changeinglaucomamedicationCscore,3)Kaplan-MeierCsurvivalCcurveCatCtheCIOPCofClessCthanC20CorC15CmmHg,Cand4)percentageCofCpatientsrequiringreoperation.Results:MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom26.4C±7.0CmmHgto18.0±5.8CmmHgatC3-yearsCpostoperative,CwithCthatCsigni.cantCmeanCIOPCreductionCmaintainedCuntilC4-yearsCpostoperative.CACsigni.cantreductioninglaucomamedicationscoreswasobserveduntil2.5-yearspostoperative,yetnosigni.cantdi.erencewasfoundbetweenthepreoperativescores(3.6C±0.9)andthoseat3-yearspostoperative(2.9C±1.4)C.At3-yearspostoperative,theKaplan-MeiersurvivalcurveattheIOPoflessthan20CmmHgand15CmmHgwas38.7%and12.9%,respectively,andreoperationwasrequiredin15eyes(48.4%)C,ofwhich13underwent.ltrationsur-gery.CConclusion:ComparedCwithCtheCpreviouslyCreportedC.ndingsCofCLOTCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCphakicEXG,LOTforIOL-EXGismorelikelytoresultinpoorIOPcontrolatanearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1109.1113,C2022〕Keywords:眼内レンズ挿入眼落屑緑内障,サイヌソトミーおよび深層強膜弁切除併用線維柱帯切開術,長期成績.Cpseudophakiceyeswithexfoliationglaucoma(IOL-EXG)C,trabeculotomycombinedwithsinusotomyanddeepscle-rectomy,longterme.ect.C〔別刷請求先〕福本敦子:〒631-0844奈良県奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:AtsukoFukumoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cho,Nara-shi,Nara631-0844,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(99)C1109落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)は,眼組織から産生された線維性細胞外物質(落屑物)が流出路組織に沈着することによって房水通過障害が生じて起こる難治性の続発緑内障であり1),早期に点眼による眼圧コントロールが不良となり,何らかの観血的緑内障手術が必要となる場合も多い.その術式選択について,有水晶体眼のCEXGにおいては線維柱帯切開術(trabeculotomy:以下,LOT)が奏効すること2,3),とくに白内障手術同時CLOTが有効であること4)がすでに報告されている.永田眼科でも有水晶体眼CEXGに対するCLOTの長期成績5,6)を検討し,初回と再手術CLOTいずれの場合でも,白内障手術同時CLOTは長期にわたって有効な術式であることを報告した.しかし,すでに白内障手術が過去に施行され眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼(IOL眼)となっているCEXGについては白内障手術同時LOTの選択肢がなく,初回CLOTの有効性についてまだ報告もない.そこで,今回,IOL眼CEXGに対するCLOTの長期成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法1.対象対象は,2011年.2016年に永田眼科においてCIOL眼EXGに対して初回観血的緑内障手術としてCLOTを選択したC36例C36眼のうち,術後C3年以上経過観察できたC31例C31眼(男性C20眼,女性C11眼)とした(追跡率C86%).白内障手術以外の内眼手術既往のある症例は除外し,両眼CLOT施行例は最初に施行したC1眼のみを対象とした.LOT施行時の平均年齢はC73.8C±7.0歳,LOT術後の平均観察期間はC5年4カ月C±1年C9カ月,白内障手術時の平均年齢はC64.6C±9.9歳で白内障手術後平均C9年C4カ月C±5年C1カ月後に初回観血的緑内障手術としてのCLOTが施行された.なお,今回の対象症例におけるCLOTの標準術式は,全例で下半周より行うサイヌソトミー(sinusotomy:SIN)および深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)併用の線維柱帯切開術(LOT+SIN+DS)であり,Schlemm管内皮網除去も施行した.C2.方法(検討項目)以下のC4項目について後ろ向きに検討した.①術前および術後の眼圧経過②術前および術後の点眼スコア③各群における眼圧C20CmmHg以下およびC15CmmHg以下の生存率④術後C3年までに何らかの緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)眼圧および点眼スコアについては,LOT後何らかの緑内障追加治療(レーザーまたは手術)または内眼手術が施行された場合はその時点で脱落とし,施行前までのデータを用いた.また,点眼スコアは緑内障点眼C1剤C1点(配合剤C2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服C1点で換算し,生存率はC2回連続して基準眼圧(20CmmHg,15CmmHg)を超えた時点または緑内障追加治療(レーザーまたは手術)を施行した時点で死亡とした.本研究は永田眼科倫理委員会で承認を得たうえで行った(倫理委員会承認番号C2020-010).CII結果①眼圧経過眼圧は術前C26.4C±7.0CmmHg(n=31)で,術後C1年C18.9C±4.4CmmHg(n=27),術後C2年C19.1C±5.5CmmHg(n=22),術後C3年C18.0C±5.8CmmHg(n=15),術後C4年C14.1C±6.4CmmHg(n=7),術後C5年C21.3C±3.3CmmHg(n=3)と術後C4年まで術前より有意に眼圧が低下していた(p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest)(図1).②点眼スコア薬剤スコアは術前C3.6C±0.9(n=31)で,術後1年2.1C±1.2(n=27),術後2年2.7C±1.2(n=22)と術前よりも有意に低下した(術後C1年p<0.01,術後C2年p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest)が,術後C2年半以後は有意差を認めず,術後3年2.9C±1.4(n=15),術後4年3.1C±1.6(n=7),術後C5年C2.6C±1.1(n=3)であった(図2).③眼圧C20CmmHg以下およびC15CmmHg以下の生存率眼圧C20CmmHg以下の生存率は,術後C1年C71.0%,術後C2年C45.2%,術後C3年C38.7%,術後C4年C21.5%,術後C5年14.3%であった(図3a).眼圧C15mmHg以下の生存率は,術後C1年C19.4%,術後C2年C16.1%,術後C3年C12.9%,術後C4年C12.9%,術後C5年C0.1%であった(図3b).④観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)の検討初回CLOT後C3年までに何らかの観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)はC15/31眼(48.4%)あった.再手術時の術式は,濾過手術C13眼(線維柱帯切除術C8眼,Ex-pressインプラント手術C5眼),LOT1眼,毛様体凝固C1眼であった(図4).CIII考按今回の研究では,LOT術後C4年まで術前よりも有意に眼圧は下降したが,術後C3年で半数近くが濾過手術を主とした再手術を必要とし,初回観血的緑内障手術としてCLOTを第一選択とすることが疑問視される結果となった.そこで,IOL眼CEXGに対する初回観血的緑内障手術時の術式選択について,筆者ら5)が過去に報告した有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTとの比較を交えて改めて検討する.まず,緑内障全般に対して行われる手術加療は流出路再建眼圧(mmHg)4035302520151050術前1369121824303642485460観察期間(カ月)*(mean±SD)p<0.01;ANOVA+Dunnett’stest図1眼圧経過眼圧は術後C4年までは術前より有意な眼圧下降が得られた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C5薬剤スコア4.543.532.521.510.50生存率(%)術前1369121824303642485460観察期間(カ月)(mean±SD)**p<0.01,*p<0.05;ANOVA+Dunnett’stest図2薬剤スコア薬剤スコアは術後C2年C6カ月まで術前より有意に低下していた(*p<0.01,**p<0.05,CANOVA+Dunnett’stest).Cab100100909080807070生存率(%)606050504040303020201000122436486001224364860観察期間(カ月)観察期間(カ月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.Ca:眼圧C20CmmHg以下への生存率,Cb:眼圧C15CmmHg以下への生存率.7%(1眼)※1LECT:線維柱帯切除術※2Ex-press:Ex-pressインプラント手術図4再手術時の術式術後C3年までに再手術を要した症例はC31眼中C15眼(48.4%)あり,そのうちC13眼で濾過手術が選択された.術と濾過手術とに大別されるが,白内障手術を同時に行うか否かも含めるとその術式選択は複数あり,患者背景はもとより術者や施設によって選択基準が異なるのが現状である.さらに,近年は流出路再建術ではレーザーや低侵襲緑内障手術,濾過手術ではインプラント手術など術式の多様化も進んでおり,各術式のCEXGにおける有効性については今後の多数例かつ長期成績を待たねばならない7).当院でCIOL眼CEXGに対する初回観血的緑内障手術としてLOTを選択した背景には,有水晶体眼CEXGにおいては長期にわたってCLOTを初回観血的緑内障手術における第一選択の術式として施行してきた実績と,LOT単独の術式で問題点となった術後一過性高眼圧の予防やさらなる眼圧下降を目的とするCSchlemm管内皮網切除併用線維柱帯切開術(LOT+SIN+DS)をCLOTの標準術式としてC10年以上前から多数例に施行してきた術式そのものの安定性と安全性があげられる.今回の研究との比較として,2013年に筆者ら5)が検討した有水晶体眼CEXGに対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術(LOT+SIN)の術後成績を示すと,白内障手術同時群(以下,同時CLOT群)74眼(平均年齢C74.7C±6.4歳,平均観察期間C6年C8カ月,対象期間C1998年.2005年,術前眼圧C22.2±5.6mmHg)の場合,術後C3年成績は眼圧C14.1C±3.0mmHgと術前より有意な眼圧下降が得られ,生存率は眼圧20CmmHg以下でC97.3%,15CmmHg以下でC71.6%であった.一方,今回の症例群(以下,IOL眼CLOT群)では術後眼圧はおおむねC10台後半で推移し,術後C3年の生存率はC20mmHg以下でC38.7%,15CmmHg以下でC12.9%と同時CLOT群より明らかに劣る結果となった.このように,白内障手術とCLOTを同時に行った場合と白内障手術後にCLOTを別時期で行った場合とでは,最終的に施行されている手術の内容は同じであるにもかかわらず眼圧経過が異なっていたが,その一因として,患者背景の違いが考えられる.白内障手術時の平均年齢は,IOL眼CLOT群C64.6±9.9歳,同時CLOT群C74.7C±6.4歳と両群間に有意差があり(p<0.001,t検定),IOL眼CLOT群は白内障手術後平均C9年C4カ月を経て同時CLOT群とほぼ同じ年齢であるC73.8C±7.0歳でCLOTが施行されていた.一般に,落屑物は加齢とともに増加して隅角のみならず瞳孔縁,水晶体表面に沈着するため,緑内障以外にしばしば白内障進行や散瞳不良,Zinn小帯脆弱化といった落屑症候群(exfoliationsyndrome:EXS)を伴うことで知られるが,近年,EXSに対する白内障単独手術は,原発開放隅角緑内障や正常眼と比較してより大きな眼圧下降が期待できることが示された8).また,Sayedら7)は,EXGに対する長期の手術加療方針として,緑内障性変化のないCEXSでは,白内障手術合併症のリスクが低い早期のうちにまず白内障単独手術を行うことでCEXGの発症を予防し,それでもCEXGが進行した場合は順次何らかの緑内障手術を施行することが望ましいとしている.これらの近年の既報を加味すると,IOL眼CLOT群はCEXSの段階で白内障手術を施行されたことで結果的には眼圧上昇をおさえられていたこと,しかしC10年近い長期経過のなかで眼圧上昇をきたしCEXGへ進行したことが推測される.さらに,手術時の緑内障病期を比較すると,白内障手術同時LOTの場合,症例のなかには白内障が主たる手術目的でLOTは点眼数を減らす目的でのみ同時施行されるケースもありうるが,Humphrey静的視野検査のCLOT術前平均CMD値は,IOL眼CLOT群C.13.8±9.3CdB,同時CLOT群C.11.3±8.1CdBと有意差なく(p=0.24,t検定),両群ともほぼ同じ緑内障病期で初回CLOTが施行されていた.にもかかわらずIOL眼CLOT群が同時群CLOT群より長期成績が劣っていたことから,EXGに至らないCEXSの発症時期あるいは罹患期間がCLOTの眼圧下降効果に影響するのかもしれないが,現時点ではその機序に関しては不明である.以上から,既報の有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTと比較して,IOL眼CEXGに対する初回CLOTは早期に眼圧コントロール不良となる可能性が高い.今後,IOL眼EXGに対しては,初回緑内障手術の術式選択は濾過手術を含めてより慎重に考慮する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)布田龍佑:落屑症候群および落屑緑内障の診断と治療.あたらしい眼科25:961-968,C20082)松村美代,永田誠,池田定嗣ほか:水晶体偽落屑症候群に伴う開放隅角緑内障(PE緑内障)に対するトラベクロトミーの有効性と術後の眼圧値.あたらしい眼科C9:817-820,C19923)黒田真一郎:トラベクロトミーの長期成績(発達緑内障も含めて).眼科手術30:571-576,C20174)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCatal:Phacoemulsi-.cation,CintraocularClensCimplantation,CandCtrabeculotomyCtoCtreatCpseudoexfoliationCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC24:781-786,C19985)福本敦子,松村美代,黒田真一郎:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科30:1155-1159,C20136)福本敦子,後藤恭孝,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するトラベクロトミー後の再手術の検討.眼科手術C22:525-528,C20097)SayedMS,LeeRK:Recentadvancesinthesurgicalman-agementofglaucomainexfoliationsyndrome.JGlaucomaC27(Suppl1):S95-S101,20188)DamjiCKF,CKonstasCAG,CLiebmannCJMCetal:IntraocularCpressurefollowingphacomulsi.cationinpatientswithandwithoutexfoliationsyndrome:a2yearprospectivestudy.BrJOphthalmolC90:1014-1018,C2006***