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近年の眼部帯状ヘルペスの臨床像の検討

2022年5月31日 火曜日

《第57回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科39(5):639.643,2022c近年の眼部帯状ヘルペスの臨床像の検討安達彩*1,2,3佐々木香る*2盛秀嗣*2嶋千絵子*2髙橋寛二*2*1東北医科薬科大学眼科学教室*2関西医科大学眼科学教室*3東北大学眼科学教室CTheClinicalCharacteristicsofHerpesZosterOphthalmicusinRecentYearsAyaAdachi1,2,3)C,KaoruAraki-Sasaki2),HidetsuguMori2),ChiekoShima2)andKanjiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,TohokuUnivercityC水痘ワクチン定期接種開始後C5年経過した現在の眼部帯状ヘルペスの臨床像を明らかにする.2018年C1月.2020年C12月に関西医科大学附属病院を受診した眼部帯状疱疹患者はC44例で,平均年齢C64.9歳であった.高齢者に多くみられたが,20代の若者でもみられた.2014年以降の患者数は,皮膚科では増加傾向にあったが眼科では著明な増減は認めなかった.発症時期は,夏のみでなく秋から冬にも認められた.先行症状は不明例を除き多い順に,眼瞼腫脹C13眼,眼部眼部疼痛C8眼であった.眼科初診時に眼所見を認めたものはC35眼(79.5%)であり,結膜充血のみがC6例,経過観察中に偽樹枝状角膜炎がC7眼,角膜浮腫および虹彩炎がC7眼,多発性角膜浸潤がC7眼,強膜炎がC8眼出現した.多発性角膜浸潤,強膜炎を呈するものはそれ以外を呈するものに比べて有意に遷延化した(p<0.05).また,発症後C72時間以内に抗ウイルス薬全身投与が開始された患者は治癒期間が短い傾向にあった.CPurpose:ToCanalyzeCtheCcurrentCcharacteristicsCofCherpesCzosterophthalmicus(HZO)dueCtoCtheCe.ectsCofCroutineCherpesCzosterCvaccinationsC.rstCintroducedCinC2006.CPatientsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedCtheCanalysisCofCtheCmedicalCrecordsCofC44CHZOpatients(meanage:64.9years)seenCatCourChospitalCbetween2018and2020.Results:Our.ndingsrevealedthatHZOwasmorecommonintheelderly,yetalsoseeninyoungsubjects20-30yearsofage.Duringtheobservationperiod,althoughtherewasanincreaseinthetotalnumberCofCHZOCpatientsCseenCatCourCDepartmentCofCDermatology,CthereCwasCnoCchangeCinCtheCnumberCofCthoseCseenCatCourCDepartmentCofCOphthalmology.CTheConsetCofCtheCdiseaseCwasCbimodal,Ci.e.,CoccurringCinCbothCsummerCandCwinter.CTheCprimaryCsymptomsCatCinitialCpresentationCwereCeyelidCswellingCandCpain.COfCtheC44Cpatients,C35(79.5%)hadCocularcomplications;i.e.,Chyperemiaalone(n=6patients)C,Cpseudodendritickeratitis(n=7patients)C,Ccornealedemaandiritis(n=7patients),MSI(n=7patients),andscleritis(n=8patients).Conclusion:TheHZOpatientsinthisstudywerefoundtohavehadsigni.cantlylongerhealingperiodscomparedtothosewhostartedsystemicCadministrationCofCantiviralCmedicationCwithinC72ChoursCpostConset.CSinceCourC.ndingsCareCsubjectCtoCchange,furtherinvestigationisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):639.643,C2022〕Keywords:水痘帯状疱疹ウイルス,眼部帯状ヘルペス,眼合併症.varicella-zostervirus,herpeszosterophthal-micus,ocularcomplications.Cはじめに帯状疱疹は,通常幼少期に初感染し全身に水痘を引き起こした水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)が,脊髄後根神経節,三叉神経節などに潜伏し,加齢や免疫力の低下などによって再活性化されることで発症する.わが国の眼部帯状疱疹については,年齢や眼所見の合併率,臨床症状などC1990年代に多くの臨床統計報告がなされ1.9),鼻疹のある患者で眼合併症が多いという報告7,9)などがよく知られている.その後,抗ウイルス薬の開発とともに報告は減少し,2000年に抗ウイルス薬全身投与の開始が遅れたもので眼合併症が多いなどの報告10)が散見されるが,近年は臨床統計報告はなされていない.〔別刷請求先〕安達彩:〒983-8536宮城県仙台市宮城野区福室C1-15-1東北医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:AyaAdachi,DepartmentofOphthalmology,TohokuMedicalandPharmaceuticalUniversity,1-15-1Fukumuro,Miyagino-ku,SendaiCity,Miyagi983-8536,JAPANCしかし,2014年C10月からわが国で水痘ワクチンの定期接種が開始され,状況は異なってきたことは明らかである.たとえば,皮膚科領域の帯状疱疹大規模疫学調査である宮崎スタディでは,水痘ワクチン定期接種開始後では,開始前に比して年齢・性別・季節性・発症頻度などに明らかな変化が生じていると報告されている11).そこで,水痘ワクチン定期接種による眼部帯状疱疹への影響を明らかにするために,接種開始後C5年となるC2019年を中心としたC3年間,すなわちC2018年C1月.2020年C12月に関西医科大学附属病院(以下,当院)を受診した眼部帯状疱疹患者についてその臨床像を検討した.CI対象および方法対象は,2018年C1月.2020年C12月に当院を受診し,眼部帯状疱疹と診断されたC44例C44眼(男性C20例,女性C24例)である.観察項目は,①C1年ごとの受診患者数,②発症時年齢,③発症月,④受診に至った経緯,⑤眼科初診時の主訴,⑥経過中の主たる眼所見とした.そのうえで,主たる眼所見と治癒期間との関係および抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係を,それぞれCc2検定を用いて検討した.なお,患者数のみ,2014年C1月.2020年C12月を対象期Ca500450間とした.治療はいずれの患者も,眼科ではステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン点眼,0.1%デキサメサゾン点眼),アシクロビル眼軟膏,皮膚科では抗ウイルス薬(アシクロビル点滴,内服,アメナメビル内服,バラシクロビル内服)全身投与であった.なお,本研究は関西医科大学倫理委員会の承認(多施設共同研究)を得て行った.CII結果当院を受診した帯状疱疹患者数は,皮膚科ではC2014年に397人であったが,その後増加傾向を示し,2020年には449人であった.しかし,眼科ではC2014年の16人から2020年のC19人まで,7年間に明らかな受診数の増減は認めなかった(図1a).発症年齢はC23.88歳(平均C65.1歳)で,70歳代がC15名と最多であり,70歳以上の高齢者が全体の約C52.2%であった.一方,20.30代の若年者にもC5例(11%)の発症を認めた(図1b).発症月は,図1cに示すとおり,2月とC9月を中心に二峰性を示し,夏のみでなく秋から冬にも発症を認めた.受診に至った経路を,眼科を直接受診した経路(眼群),皮膚科や内科など他科から眼科へ紹介となった経路(他-眼群),近医眼科を受診するも帯状疱疹と診断されず,後日他科から眼科へ紹介となった経路(眼-他-眼Cb1614皮膚科眼科■女性■男性4150210050020歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代02014201520162017201820192020(年)c7640012人数(人)350患者数(人)1030082506200人数(人)5432101月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月図1帯状疱疹患者内訳a:当院を受診した帯状疱疹患者数.2014年以降,皮膚科(点線)では徐々に増加傾向にあるが,眼科(実線)では明らかな増加は認めなかった.Cb:性別と年齢分布.発症年齢はC23.88歳(平均C65.1歳)で,男女差は認めなかった.70歳以上の高齢者が全体の約C52.2%を占め,一方,20.30代の若年者もC5例(11%)に認めた.Cc:発症月.2月とC9月を中心に二峰性を示し,夏のみでなく秋から冬にも発症を認めた.表1眼科初診時主訴初診時主訴症例数割合眼瞼腫脹C1329.5%眼部疼痛C818.2%皮疹C511.4%掻痒感C49.1%充血C24.5%違和感C12.3%不明C1125.0%症例数表2眼所見と治癒までの期間との関係所見治癒までの期間.C30日30日.合計結膜充血偽樹枝状角膜炎17C1C18実質浮腫,虹彩炎C多発性角膜浸潤強膜炎C2C12C14Cp=4.67×10.6(<0.05)98■眼群■他-眼群■眼-他-眼群76543210結膜充血偽樹枝状実質浮腫・多発性角膜強膜炎角膜潰瘍虹彩炎上皮下浸潤図2臨床所見の分類と受診経路の関係経過中にみられた臨床所見を受診経緯別に表す.眼-他-眼群は多発性角膜浸潤(1例)と強膜炎(4例)を呈した.表3抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係発症.治療開始治癒期間.C30日30日.合計72時間以内C20C7C2772時間以上C8C6C14Cp=0.27(>0.05)図3強膜炎が遷延化した代表症例a:初診C5日目,Cb:治療開始C6週目,Cc:治療開始C10週目.充血発症日に近医眼科受診するも抗菌薬で経過観察され,11日目に皮膚科でアメナメビル内服が投与された眼-他-眼群のC57歳,男性.結節性強膜炎が遷延し,消炎までにC10週間以上を要した.群)のC3群に分類した.その結果,他-眼群はC31例(70.4%)ともっとも多く,続いて眼群はC7例(15.9%),眼-他-眼群はC6例(13.6%)であった.また,それぞれの群における発症から眼科治療開始までの平均日数は,多い順に眼-他-眼群(9.6日),他-眼群(7.0日),眼群(6.7日)であった.眼科初診時主訴については,眼瞼腫脹がC13例(29.5%),眼部疼痛がC8例(18.2%)と最多であり,その両者で約半数を占め,皮疹よりも多かった(表1).前眼部所見については,①結膜充血,②偽樹枝状角膜炎,③実質浮腫,虹彩炎,④多発性角膜浸潤,⑤強膜炎,に分類した.なお,所見が重(91)複した場合は①から⑤の数字の大きいものに分類した.今回,眼所見はC35例すなわち全体のC79.5%に認められた.それぞれの所見を認めた症例数は,①がC6例,②がC7例,③が7例,④がC7例,⑤がC8例であり,所見ごとに明らかな差は認められなかった.また,所見ごとに受診経緯別に表すと,眼群と眼-他群は①から⑤のいずれの所見も呈したが,眼-他-眼群は④多発性角膜浸潤(1例)と⑤強膜炎(4例)を呈した(図2).なお,今回の調査期間では,眼球運動障害や視神経病変を生じたものはなかった.眼所見と治癒期間との関係について表2に示す.眼所見を結膜充血(①),偽樹枝状角膜炎(②),実質浮腫と虹彩炎(③)をCA群とし,多発性角膜浸潤(④)と強膜炎(⑤)をCB群とする二群に分類した.A群では治癒期間がC30日未満であったものはC17例,30日以上であったものはC1例であり,B群では治癒期間がC30日未満であったものがC2例,30日以上であったものはC12例であった.Cc2検定で検討したところ,多発性角膜浸潤と強膜炎を呈する症例は統計学的に有意に治癒期間が長引く傾向にあり(p<0.05),実際C200日を超えて治癒した症例もあった.眼-他-眼群で,強膜炎が遷延化した代表症例を図3に示す.消炎にはC10週間以上要した.抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係について,発症から全身投与までの期間をC72時間以内と以上に分けて検討したところ,全身投与がC72時間以内に実施された症例のうち,治癒期間がC30日未満であったものはC20例,30日以上であったものはC7例であった.また,全身投与が発症後C72時間以上経過していた症例のうち,治癒期間がC30日未満であったものはC8例,30日以上であったものはC6例であった.Cc2検定で検討したところ,有意差には至らなかった(p>0.05)ものの,72時間以内に治療が開始された症例ではC30日未満に治癒する症例が多かった(表3).CIII考察皮膚科領域では,水痘ワクチン定期接種開始により帯状疱疹の臨床像に変化が現れたことが宮崎スタディで明らかにされている.定期接種開始前は,帯状疱疹は,高齢者に多いこと,女性に有意に多いこと,夏に多く冬に少ないこと,子育て世代はブースター効果により発症が少ないことなどが明らかであったが,定期接種開始により小児における水痘の減少,それに伴ったブースター効果の減弱による子育て世代の発症率の増加,全体的な患者数や発症率の増加,冬季にもみられるようになり季節性の消失が報告されている11).眼部帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルス再発による三叉神経第一枝領域の感染症であり,同じようになんらかの影響を受けているのではないかと考えた.今回の結果をみると,眼部帯状疱疹では宮崎スタディにみられるような明らかな重症度,発症頻度の増加は認めなかった.年齢に関しては,1990年代の既報1.9)同様に高齢者に多く,統計上若年者の増加は明らかではなかったが,これまでの報告と異なり,20歳代,30歳代など若年者にも発症していることがわかった.性別に関しては,既報同様,男女差は認めなかったが,皮膚科領域の報告では,授乳,分娩,陣痛にかかわる領域である腰仙部領域に帯状疱疹が生じた例は女性に多いと報告されている11).眼部帯状疱疹は男女差にかかわる領域ではないため,その差が明らかにならなかったと考えられる.また,今回の検討は対象が単一施設での検討であること,同一施設における定期接種前との比較ができていないことも,定期接種による変化を明らかにできなかった理由と推測される.しかし,宮崎スタディと同様に発症時期が冬季のみでなく夏季にもわたり,季節性が消失していることが判明した.ワクチン接種前に春から夏にかけて眼部帯状疱疹が多く発症しているという報告9)もあり,ワクチン接種により水痘流行の季節性が消失したため,帯状疱疹もその影響を受けているのではないかと考えられた.また,地球温暖化による季節性の消失との関連性も推測される.ワクチンの影響以外にも,今回の検討で初めて明らかになったことがC2点ある.一つ目は前医眼科で初診時に早期診断できず,後日皮膚科や内科などの他科から改めて眼科を受診するという受診経路が約C10%あったこと,二つ目は多発性角膜浸潤や強膜炎の所見が遷延化することである.他科から改めて眼科受診となった患者に関しては,遷延化する多発性角膜浸潤や強膜炎を呈することが多く,早期診断の重要性を示唆するものと思われる.帯状疱疹の発症前に,同部位の皮膚に感覚異常や眼部疼痛などの前駆症状が数日間生じることが報告されており12).早期診断のためには,皮疹のみならず先行する眼部疼痛にも注意するべきである.既報12)と同様に今回の結果においても,主訴として眼瞼腫脹・眼部疼痛の占める割合が高い結果であった.初診時皮疹が明らかでなかったとしても,眼部の眼瞼腫脹・眼部疼痛を訴える患者には,帯状疱疹の可能性を念頭に,数日後の再診指示や,皮疹出現に注意するよう促すなど,患者への注意喚起が必要であると考える.また,今回,全身の治療開始が遅れた場合には眼科所見も遷延化する傾向がみられた.早期に全身治療を開始すると眼合併症率が低いという報告13)や,早期の抗ウイルス薬治療とともに眼部疼痛治療を開始すれば急性期眼部疼痛の緩和や帯状疱疹後神経痛の軽減につながるとの報告14)がなされている.眼部帯状疱疹の遷延化予防のためにも,患者CQOLの維持のためにも,早期の診断と皮膚科との迅速な連携の重要性が改めて確認された.多発性角膜浸潤や強膜炎が遷延化する機序は明らかではないが,これらの病態ではウイルス排出量が多いという報告15)もあり,治療が遅延したことにより,病初期のウイルス量が多くなり炎症反応を強く惹起したと考えられる.なお多発性角膜浸潤や強膜炎はC30日を超えて遷延化する症例が高く,初診時に患者に通院・治療期間の長期化を説明すべきであると思われた.今回の検討で,いくつか明らかにできなかったこともある.抗ウイルス薬については,現在アシクロビル,アメナメビルなど数種類の薬剤が開発され使用可能であり,今回の結果に影響した可能性も否定できないが,対象症例の治療に携わった皮膚科での使用方法が一定化されておらず,それぞれの薬剤による影響は今回の調査では検討をすることはできなかった.また,Hatchinson徴候については,後ろ向き研究であったこともありカルテ記載が統一されておらず,明らかにはできなかった.今回,2014年の水痘ワクチン定期接種開始後,5年目となるC2019年を中心としたC3年間の眼部帯状疱疹について検討した.50歳以上に向けた帯状疱疹ワクチン接種もすでに開始され,眼部帯状疱疹の臨床像は,今後も疫学的に変化する可能性があり,引き続き調査が必要であると考える.本研究の統計解析に関して,関西医科大学数学教室北脇知己先生にご指導を賜りました.感謝の意を表します.文献1)三井啓司,秦野寛,井上克洋ほか:眼部帯状ヘルペスの統計的観察.眼臨医報C79:603-608,C19852)田中利和,内田璞,山口玲ほか:眼部帯状ヘルペスについて統計的観察とC2症例の報告.眼臨医報C79:994-999,C19853)原田敬志,横山健二郎,市川一夫ほか:帯状疱疹における眼合併症の統計的観察.眼科C28:241-247,C19864)八木純平,福田昌彦,安本京子ほか:眼部帯状ヘルペスの眼所見および治療について.眼紀C37:1021-1026,C19865)内藤毅,新田敬子,木内康仁ほか:当教室における眼部帯状ヘルペスについて.あたらしい眼科C7:1359-1361,19906)林研,辻勇夫:飯塚病院における眼部帯状ヘルペスの検討.眼紀C42:1536-1541,C19917)味木幸,鈴木参郎助,新保里枝ほか:眼部帯状ヘルペスにみられる眼合併症とその長期化に影響を及ぼす因子について.日眼会誌C99:289-295,C19958)松田彰,田川義継,阿部乃里子ほか:水痘・帯状ヘルペスウイルスによる角膜病変.臨眼C49:1519-1523,C19959)関敦子,野呂瀬一美,吉村長久:眼部帯状ヘルペス臨床像の検討.眼紀C47:673-676,C199610)安藤一彦,河本ひろ美:眼部帯状疱疹の臨床像.臨眼C54:C385-387,C200011)白木公康,外山望:帯状疱疹の宮崎スタディ.モダンメディア60:251-264,C202012)神谷齋,浅野喜造,白木公康ほか:帯状疱疹とその予防に関する考察.感染症誌84:694-701,C201013)HardingCSP,CPorterSM:OralCacyclovirCinCherpesCzosterCophthalmicus.CurrEyeResC10(Suppl):177-182,C199114)漆畑修:帯状疱疹の診断・治療のコツ.日本医事新報C4954:26-31,C201915)InataCK,CMiyazakiCD,CUotaniCRCetal:E.ectivenessCofCreal-timeCPCRCforCdiagnosisCandCprognosisCofCvaricella-zosterCvirusCkeratitis.CJpnCJCOphthalmolC62:425-431,C2018C***

成人発症Still病に両眼の虹彩毛様体炎を発症した1例

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):285.288,2014c成人発症Still病に両眼の虹彩毛様体炎を発症した1例平野慎一郎松田順子本庄恵沼賀二郎地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター眼科ACaseofAdult-OnsetStill’sDiseasewithBilateralIridocyclitisShinichiroHirano,JunkoMatsuda,MegumiHonjoandJiroNumagaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital成人発症Still病(adult-onsetStill’sdisease:AOSD)に両眼性の虹彩毛様体炎を合併した症例を経験した.症例は65歳女性で,頭部の違和感,発熱を呈し,近医を受診した.感染症と診断され,種々の抗生剤を使用するも症状の改善を認めず,膠原病などが疑われた.眼科的自覚症状はなかったが,眼科受診時両眼に非肉芽腫性の虹彩毛様体炎を認め,ステロイドの点眼を使用したが炎症の改善はみられなかった.その後,AOSDと診断され,prednisolone(PSL)の内服を開始したところ,両眼虹彩毛様体炎が改善し,間欠熱,関節痛およびリンパ節腫脹などの全身症状も改善した.現在,徐々にPSL内服量を漸減中であるが,虹彩毛様体炎や全身症状の再燃は認めず良好に経過している.AOSDの眼合併症は,自覚症状が乏しく,見逃されてしまう可能性がある.また炎症が後眼部に生じ,長期化すると視力低下に至る例も報告されており,AOSDと診断された場合に眼科を受診することと,ステロイドの内服が推奨されると考える.Wereportacaseofadult-onsetStill’sdisease(AOSD)withbilateraliridocyclitis.Thepatient,a65-year-oldfemalewhovisitedalocalclinicforheaddiscomfortwithfever,wasdiagnosedwithinfectiousdiseasesandwasprescribedseveralantibiotics,butshowednoreliefofsymptoms;suchascollagendiseasewassuspected.Atourhospital,non-granulomatousiridocyclitiswasfound,withnoophthalmicsymptoms.Steroideyedropsdidnotimprovetheinflammation.WithdiagnosisofAOSD,oralprednisolone(PSL)wasinitiated,bilateraliridocyclitis,systemicsymptoms,lymphnodeswelling,intermittentfeverandjointpainimproved.WithgradualdecreaseintheamountoforalPSL,systematicsymptomsandiridocyclitishavenotrecurredthusfar.TheeyecomplicationsofAOSDwouldhavebeenoverlookedbypoorsymptoms.Visualdegradationhasbeenreportedinsomecasesoflong-terminflammationintheposteriorsegmentoftheeye.WhenAOSDisdiagnosed,ophthalmologistconsultationandoralsteroidprescriptionarerecommended.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):285.288,2014〕Keywords:成人発症Still病,眼合併症,虹彩毛様体炎,ステロイド治療,予後.adult-onsetStill’sdisease,ocularcomplications,iridocyclitis,steroidtherapy,prognosis.はじめに成人発症Still病(adult-onsetStill’sdisease:AOSD)は,1971年にBywatersらが報告して1)以来注目されるようになった疾患であり,若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)の一型であるStill病が16歳以上の成人に発症したものをいう.眼合併症を生じることは稀で,その報告は数例のみである.また報告例により臨床経過はさまざまであり,いずれも比較的眼症状は重症な症例が多い2.6).今回筆者らが経験したAOSDは,両眼性の虹彩毛様体炎を合併した症例であるが,過去の報告例と比較すると軽症であった.治療に関しては過去の報告と同様にステロイドの内服を必要とした.本報告はその臨床経過とステロイドの全身投薬の必要性について考察する.この報告に関しては対象に十分な説明を行い同意を得た.I症例患者:65歳,女性.主訴:頭痛,間欠熱.〔別刷請求先〕平野慎一郎:〒173-0015東京都板橋区栄町35番2号東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:ShinichiroHirano,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaecho,ItabashikuTokyo173-0015,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(125)285 表1内科入院時血液所見白血球13,110/μl↑(4,000.8,000/μl)CRP21.84mg/dl↑(0.3mg/dl以下)フェリチン718ng/ml↑(10.80ng/ml)RF6.6IU/ml(20IU/ml以下)抗ds-DNAIgG抗体陰性抗SS-A抗体陰性抗SS-B抗体陰性PR-3ANCA陰性MPO-ANCA陰性既往歴:13歳:急性虫垂炎(虫垂切除術),64歳:2型糖尿病,腺腫性甲状腺腫,高脂血症.生活社会歴:ペット(猫)の飼育歴あり,海外渡航歴なし.家族歴:父:肺癌,兄:糖尿病,腎不全.現病歴:2012年6月6日頃より悪心,嘔吐,下痢が出現したため,6月8日に近医を受診した.感染性腸炎と診断され,ノルフロキサシン,アセトアミノフェン内服で,消化器症状は改善したが,頭部の違和感が出現した.その後側頭部優位の疼痛と頭重感が生じ,夕方から夜間にかけて38℃台の発熱が続き,種々の抗生剤を投与するも改善しないため,膠原病などの精査目的で6月26日に当院内科へ入院した.眼科的自覚症状は認めなかったが,側頭動脈炎などを疑われ7月3日眼科を受診した.初診時眼所見:矯正視力は右眼0.8(1.2×+0.5D(cyl.2.0DAx85°),左眼0.8(1.2×+1.25D(cyl.2.0DAx85°).眼圧は右眼12mmHg,左眼12mmHg.両眼の前房内にcell+が認められ,両眼虹彩毛様体炎がみられた.角膜裏面沈着物(KP)は認めず,両眼隅角および眼底に異常所見はみられなかった.両眼虹彩毛様体炎に対し,ベタメタゾン,フラジオマイシン合剤(リンデロンAR)点眼5回/日,モキシフロキサシン(ベガモックスR)点眼3回/日,トロピカミドとフェミレフリン塩酸塩の合剤(ミドリンPR)点眼1回/日を開始したが,炎症の改善はみられなかった.その後,発熱時にサーモンピンク色の皮疹が出現し,皮膚掻爬法で陽性で,フェリチンおよび白血球が上昇を認めたためAOSDの可能性が考えられた(表1).山口らの診断基準で,発熱,関節痛(顎関節),典型的皮疹,白血球増加の大症状4項目とリンパ節腫脹(頸部のリンパ節)の小症状1項目を満たし,AOSDと診断された7).7月13日より,prednisolone(PSL)25mg/dayの内服を開始し,間欠熱や頭痛,リンパ節腫脹などの全身症状も速やかに改善した.PSL内服開始1週間後に両眼虹彩毛様体炎も消失し,点眼薬をすべて中止した.8月15日,蛍光造影検査を行ったが,血管炎などの異常所見は認めなかった(図1).PSLは内服開始1カ月後より徐々に量を漸減し,現在6mg/dayを内服しているが,PSLの漸減中に虹彩毛様体炎286あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014ab図12012年8月15日(眼科初診49日後)の蛍光眼底造影検査本症例の眼症状は軽症であるため,他の報告例で報告されているような乳頭浮腫,血管炎などの異常所見はみられない.a:右眼,b:左眼.や全身症状の再燃は認めていない(図2,3).II考按AOSDは,若年性特発性関節炎の全身発症型(Still病)か16歳以上の成人に発症したものである.わが国で以前まで若年性関節リウマチとよばれていたものは,現在ではJIAとよばれ,「16歳未満で発症した慢性特発性関節炎の総称」と定義される.JIAには,多関節型,少数関節型,全身型とよばれる3病型があり,多関節型は関節リウマチ(RA)と同じように慢性多発性関節炎をきたし,少数関節型は4カ所までの関節炎症にとどまる.全身型(Still病)は関節痛を伴うものの関節炎の程度は軽く,著明な発熱や一過性のサーモンピンクの皮疹,リンパ節腫脹や脾腫,心外膜炎などの臨床所見を特徴とする.JIAのぶどう膜炎の発症は1.6歳に多く,女児に多い.少関節型に多くみられ,少関節型の10.20%,リウマチ因子陰性例では5.10%に合併するとされる.リウマチ因子陽(126) abab図22013年4月19日の前眼部写真角膜後面沈着物,虹彩萎縮,瞳孔偏位などの虹彩炎,虹彩炎合併症を示す所見なく軽快した.a:右眼,b:左眼.性の多関節型,全身型ではぶどう膜炎の合併頻度は少なく,多関節型では約5%,全身型では通常発生しない.JIAのぶどう膜炎は,両眼性の非肉芽腫性の虹彩毛様体炎で,微細な角膜後面沈着物,前房に微塵な炎症細胞がみられ,線維素の析出や前房蓄膿がみられることもある.前房内のフレア値は高値を示すことが多く,虹彩後癒着は高度で全周にみられることが多い.また慢性化すると帯状角膜変性が生じ,隅角は周辺虹彩前癒着が全周性にみられることもある.硝子体にびまん性に微塵状の混濁が生じ,視神経乳頭炎がみられることもあり,これが長期化すると視神経乳頭上に新生血管が生じ,硝子体出血の原因になる.AOSDにぶどう膜炎が合併した症例は,国内,海外よりわずかに報告されているのみである.多田らの報告ではAOSDに合併した虹彩毛様体炎が肉芽腫性であったとしている一方,その他の報告では虹彩毛様体炎が肉芽腫性,非肉芽腫性のどちらであったかについて記載されていない2.6).AOSDに合併したぶどう膜炎で後眼部に異常を認めた症例では,視神経乳頭浮腫,網膜血管炎が共通して認められていた2.6).(127)白血球(×100)CRP(mg/dl)フェリチン(ng×10)体温(度)PSL(mg)160)(PSL内服開始34.53535.53636.53737.538020406080100120140白血球(×100)体温フェリチン(×10)CRP6月7月8月9月11月1月4月26日12日10日27日8日10日4日虹彩毛様体炎虹彩毛様体炎消失図3治療経過(2012年6月.2013年4月)AOSDが重症化すると,サイトカイン〔特にTNF(腫瘍壊死因子)-a〕が高値になり,マクロファージが異常活性化し,マクロファージ活性化症候群(macrophageactivationsyndrome)とよばれる病態を呈する8).多田らの報告では,AOSDに合併した肉芽腫性虹彩毛様体炎の角膜後面沈着物でマクロファージ系の炎症細胞の集簇を認め,PSL内服を行ったが治療に難渋したとされており,基礎にあるAOSDの重症度によって,合併する虹彩毛様体炎の病態が変化する可能性が推測される2).筆者らが経験した症例では,AOSDに両眼の非肉芽腫性虹彩毛様体炎を合併し,前房内所見は比較的乏しく,豚脂様角膜後面沈着物や虹彩後癒着などは認めず,後眼部も明らかな異常はみられなかった.内科でAOSDと確定診断される前に,虹彩毛様体炎に対してステロイドを含む点眼治療を行ったが,炎症の改善はみられず,AOSDの確定診断後PSLの内服で,両眼とも虹彩毛様体炎の改善を認めた.ステロイド点眼で前眼部炎症が改善せず,ステロイドの内服で炎症が改善するという経過は,他の報告と類似している2.6).これはAOSDの発症や症状の増悪にサイトカインが関与しているため,ステロイドの局所投与より全身投与を行ったほうが効果は高いと推測される.日本人におけるAOSDは,マクロファージ活性化症候群などの重篤な場合を除き,全般的に予後は良好で,後遺症を残すことは稀である9).しかしAOSDに併発した虹彩毛様体炎で,ステロイド内服を中止した後に再燃した例が報告されている2).そのため慎重にステロイド内服を漸減し虹彩毛様体炎の再燃に注意しながら経過観察する必要がある.本症例あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014287 ではPSLの漸減中に虹彩毛様体炎の再燃は認めなかった.AOSDの眼合併症の発症機序はいまだ解明されていない.自覚症状に乏しい場合があり,後眼部に炎症が生じた場合や,ステロイド漸減中の炎症の再燃などで炎症が長期化すると視力低下に至る可能性があるため,AOSD患者の診断の際に眼科を受診することが推奨され,本例のような軽微な虹彩毛様体炎がみられた際にもステロイド点眼で軽快しなければ,ステロイドの全身内服が考慮されるべきと判断された.文献1)BywatersEGL:Still’sdiseaseintheadult.AnnRheumDis30:121-133,19712)JiangW,TangL,DuanXetal:Acaseofuveitisinadult-onsetStill’sdiseasewithophthalomologicsymptoms.RheumatolInt:2351-2357,20113)多田花代,川野庸一,園田康平ほか:成人発症Still病に両眼性ぶどう膜炎を合併した1例.眼紀54:447-451,20034)南場研一,津田久仁子,大西勝憲ほか:成人発症Still病に虹彩毛様体炎,乳頭浮腫,網膜血管炎が合併した1例.臨眼50:1687-1690,19965)野田聡美,池田史子,岸章治:乳頭浮腫と虹彩毛様体炎を合併した成人発症Still病の1例.臨眼65:1305-1308,20116)窪田光男,森岡美穂,浜田陽ほか:成人発症Still病に網膜中心静脈閉塞症型の乳頭血管炎を合併した1症例.眼臨94:1429-1431,20007)YamaguchiM,OhtaA,TsunematsuTetal:PreliminarycriteriaforclassificationofadultStill’sdisease.JRheumatol19:424-430,19928)StephanJL,ZellerJ,HubertPetal:Macrophageactivationsyndromeandrheumaticdiseaseinchildhood:areportoffournewcases.ClinExpRheumatol11:451456,19939)OhtaA,YamaguchiM,TsunematsuTetal:AdultStill’sdisease:amulticentersurveyofJapanesepatients.JRheumatol17:1058-1063,1990***288あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(128)