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水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術(iStent inject W)の術後12カ月成績

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1003.1007,2024c水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術(iStentinjectW)の術後12カ月成績半田壮大塚眼科医院CSurgicalOutcomesat12MonthsafterCombinediStentinjectWSecond-GenerationTrabecularMicro-BypassStentImplantationandPhacoemulsi.cationSoHandaCOtsukaEyeClinicC目的:iStentCinjectW(Glaukos社)を用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の術後C12カ月成績について検討する.対象および方法:大塚眼科医院でC2021年C4月.2022年C4月に同一術者によりCiStentinjectWを挿入し,12カ月以上経過観察が可能であった広義原発開放隅角緑内障患者を対象とした.視力,眼圧,点眼スコア,角膜内皮細胞密度,術後合併症について後ろ向きに検討した.結果:症例はC40例C68眼(72.7C±6.0歳).矯正視力(logMAR)は術前C0.16±0.17,術後C1カ月C.0.07±0.12,術後C12カ月C.0.11±0.07と術前より有意に向上していた(p<0.0001).眼圧は術前C15.8C±3.0CmmHg,術後C12カ月C12.5C±2.5CmmHgと有意に下降し,点眼スコアは術前C1.2C±0.6,術後C12カ月C0.1C±0.4と有意に減少していた(p<0.0001).角膜内皮細胞密度は術前C2,697C±338Ccells/mm2,術後C1カ月でC2,513C±533Ccells/mm2,術後C12カ月C2,501C±402Ccells/mm2と有意な減少(p<0.001)を認めたが,術後C1カ月と術後C12カ月では有意な減少は認めなかった.術後合併症としてニボーを伴う前房出血をC3眼(4.4%),術後C30CmmHg以上の一過性眼圧上昇をC4眼(5.8%),周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)をC5眼(7.3%)に認めた.結論:iStentCinjectWは術後C12カ月では有意な視力の向上,眼圧の下降,点眼スコアの減少を示し,挿入後の角膜内皮細胞への影響や合併症も少なく,安全性の高いデバイスである可能性が示唆された.CPurpose:Toevaluatethesurgicaloutcomesat12-monthsaftercombinediStentinjectW(Glaukos)implanta-tionCandCphacoemulsi.cationCforCtheCtreatmentCofprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG)C.CMethods:InCthisCretro-spectivestudy,wereviewedthemedicalrecordsof68eyesof40POAGpatients(meanage:72.7C±6.0years)whounderwentcombinediStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cationbythesamesurgeonfromApril2021toApril2022atOtsukaEyeClinicandwhocouldbefollowedupforatleast12-monthspostoperative.Visualacuity(VA),intraocularpressure(IOP)C,glaucomamedicationscores,cornealendothelialcell(CEC)density,andpostop-erativeCcomplicationsCwereCevaluated.CResults:CorrectedVA(logMAR)atCpriorCtoCsurgeryCandCatC1-andC12-monthsCpostoperative,Crespectively,CwasC0.16±0.17,C0.07±0.12,CandC.0.11±0.07,CthusCshowingCsigni.cantCimprovementCpostsurgery(p<0.0001)C.CBeforeCsurgeryCandCatC12-monthsCpostoperative,Crespectively,CmeanCIOPCwas15.8±3.0CmmHgand12.5±2.5CmmHg,thusshowingsigni.cantreductionpostsurgery,andthemeanglauco-maCmedicationCscoreCwasC1.2±0.6CandC0.1±0.4,CalsoCshowingCsigni.cantCreductionCpostsurgery(p<0.0001)C.CTheCmeanCCECCdensityCwasC2,697±338Ccells/mm2CatCbeforeCsurgery,C2,513±533Ccells/mm2CatC1-monthCpostoperative,CandC2,501±402Ccells/mm2CatC12-monthsCpostoperative,CthusCshowingCaCsigni.cantCdecreaseCatC1-andC12-monthsCpostoperativecomparedtoatbeforesurgery(p<0.001)butnosigni.cantdecreasebetweenat1-and12-monthspostoperative.Postoperativecomplicationsincludedanteriorchamberhemorrhagein3eyes(4.4%)C,transientIOPelevationCaboveC30CmmHgCinC4eyes(5.8%)C,CandCperipheralCanteriorCsynechiaeCinC5eyes(7.3%)C.CConclusions:CiStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cationresultedinasigni.cantimprovementinVA,decreaseinIOP,anddecreaseofglaucomamedicationscorewithfewcomplicationsandminimallossofCECdensityat12-monthspostoperative,thisindicatingthatitisasafeande.ectiveprocedure.C〔別刷請求先〕半田壮:〒870-0852大分県大分市田中町C3-12-69大塚眼科医院Reprintrequests:SoHanda,M.D.,OtsukaEyeClinic,3-12-69Tanaka-machi,Oita-shi,Oita870-0852,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(131)C1003〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):1003.1007,C2024〕Keywords:iStent,水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術,低侵襲緑内障手術,眼圧.iStent,combinetediStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cation,minimallyinvasiveglaucomasurgery,intraocularpressure.CはじめにiStent(Glaukos社)は近年,急速に普及しつつある低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)で使用するデバイスの一つである.わが国ではC2016年にC1個挿入型の第一世代のCiStentが保険適用になり,2020年にはC2個挿入型のCiStentinjectWが使用可能となった.iStentinjectWはすでに海外で使用されていたCiStentinjectのフランジ部を幅広くし,視認性の向上させ,ステントが線維柱帯に深く埋もれないように改良されたものである.ステントを線維柱帯に垂直に打ち込んで挿入し,線維柱帯からCSch-lemm管までの房水流出抵抗の高い箇所をバイパスし眼圧下降を図る.適応は「白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準」の第C2版1)を遵守する必要がある.大塚眼科(以下,当院)での適応基準は白内障を合併しているCmeandeviation(MD)値がC.6dB以下の初期の広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)で,緑内障点眼を1剤以上使用しており,眼圧がC25CmmHg以下の患者としている.武川ら2)はCiStentCinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術と,水晶体再建術にマイクロフックを用いた線維柱帯切開術を併施した緑内障症例の術後C6カ月の成績と術後合併症を検討しており,両術式とも有意な眼圧下降を認め,重篤な合併症は認めなかったとしているが,現時点で筆者の知る限りCiStentinjectWの術後成績の報告は少ない.そこで筆者はCiStentinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術を施行した広義CPOAGの術後C12カ月の成績と有害事象について検討した.CI対象および方法2021年C4月.2022年C4月に当院で同一術者によりCiStentCinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術を施行し,12カ月以上の経過観察が可能であった広義CPOAG40例C68眼を対象とした.対象の半数以上が前医からすでに緑内障点眼を処方されており,無点眼時のベースライン眼圧が不明であったため,本研究では正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)と狭義CPOAGの病型分類はせず,対象はすべて広義CPOAGとして検討した.本研究は診療録から後ろ向きに検討した.緑内障点眼数の評価には単剤をC1点,配合剤をC2点としてその合計を点眼スコアとした.術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月の各時点での眼圧,点眼スコア,有害事象を,術後C1カ月とC12カ月で視力と角膜内皮細胞密度を評価した.生存率はCKaplan-Meier分析による生存解析を行い,エンドポイントはC2回連続で術前より眼圧が高値,または術後に緑内障点眼の再開と定義した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計での測定値を用いた.術前に使用した視野計はCHumphrey自動視野計(CarlCZeissCMeditec社)のCSwedishCInteractiveCThresholdingCAlgorithm-stan-dard(SITA)24-2を用いた.角膜内皮細胞密度の計測にはスペキュラーマイクロスコープCE530(ニデック)を用いた.統計解析にはCpairedt検定を使用し,p<0.05の場合に有意と判定した.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,大塚眼科医院の倫理委員会の承認を得て行った.水晶体再建術は角膜切開で行った.眼内レンズ挿入後に粘弾性物質で前房を確保し,隅角鏡にて線維柱帯を確認後に耳上側の角膜サイドポート部より鼻下側方向の線維柱帯にCiStentCinjectWをC2個留置した.iStentCinjectWが適正な位置で留置されていることを確認し,前房内の洗浄を行った.0.4%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム注射液C2mgを結膜下注射し手術終了とした.術後点眼はC0.5%モキシフロキサシン塩酸塩をC1日C4回,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムをC1日C4回,ブロムフェナクナトリウム水和物液をC1日C2回とし,適宜主治医(執刀医)の判断で中止した.緑内障点眼は術後に全例中止とし,適宜再開とした.CII結果対象となったのは男性がC17例C27眼,女性がC23例C41眼であった(表1).平均年齢はC72.7C±6.0歳,術前の平均矯正視力(logMAR)はC0.16C±0.17,平均CMD値は-3.7C±2.9CdBであり,対象はすべて初期の広義CPOAGであった.すべての患者が内眼手術やレーザー治療などの既往がなく,緑内障点眼をC1剤以上使用していた.術前の平均眼圧はC15.8C±3.0mmHgで術後C1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月の各時点の眼圧はそれぞれC12.8C±2.1CmmHg,11.6C±2.2CmmHg,C12.1±2.1CmmHg,12.3C±2.3CmmHg,12.5C±2.5mmHgであり,術前の眼圧と比較するとすべての時点で有意に眼圧下降を認めた(p<0.0001)(図1).術後C12カ月での眼圧下降率はC20.8%であった.点眼スコアは術前C1.2C±0.6で術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月はそれぞれC0.2C±0.5,C0.3±0.6,0.1C±0.6,0.1C±0.6,0.1C±0.4ですべての時点で有表1症例背景1815.8症例数40例68眼C16年齢C72.7±6.0歳**眼圧(mmHg)14性別(男性/女性)17/23人術前視力(logMAR)C0.16±0.17C術前CMD値(SITA24-2)C.3.7±2.9CdB術前眼圧C15.8±3.0CmmHgC術前点眼スコアC1.2±0.6術前角膜内皮細胞密度C2,697±338Ccells/mm2C12108平均値±標準偏差C6術前1369121.6n=68n=68n=68n=68n=68n=681.41.2観察期間(カ月)1.2図1眼圧経過1.00.8眼圧は各時点で術前より有意な下降を得られた(p<0.0001C0.6*pairedt検定).点眼スコア****0.10800.40.2100術前136912n=68n=68n=68n=68n=68n=68観察期間(カ月)図2点眼スコア点眼スコアは各時点で術前より有意に減少していた(p<0.0001生存率(%)604020pairedt検定).意に点眼スコアの減少を認めた(p<0.0001)(図2).術後12カ月の点眼減少数はC1.1,減少率はC91.6%で,緑内障点眼をC1剤も使用していない症例はC88.2%であった.矯正視力(logMAR)は術前がC0.16C±0.17,術後C1カ月,12カ月でそれぞれC.0.07±0.12,C.0.11±0.07と術前より有意に向上していた(p<0.0001).術前の角膜内皮細胞密度はC2,697±338cells/mm2,術後1カ月で2,513C±533Ccells/Cmm2,術後C12カ月でC2,501C±402Ccells/mm2であり術前と比較するとそれぞれ有意に減少(p<0.001)を認めたが,術後1カ月と術後C12カ月の角膜内皮細胞密度の有意な減少は認めなかった(p=0.79).2回連続で術前眼圧より高値,または術後に緑内障点眼の再開をエンドポイントとした場合の生存率は,術後C12カ月でC88.2%であった(図3).明らかな術中の合併症は認めなかった.術翌日にニボーを形成する前房出血をC3眼(4.4%)で認めたが,すべてC1週間ほどの保存的な経過観察で消退した.30CmmHg以上の一過性高眼圧はC4眼(5.8%)に認めた.このうちC2眼は前房出血の症例で,術後数日で前房出血の消退とともに眼圧も下降した.残りのC2眼は術後のステロイド点眼を中止したところ速やかに眼圧下降を認めた.術後C1カ月の時点で周辺虹彩前癒0観察期間(カ月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.エンドポイントはC2回連続で術前より眼圧が高値,または術後に緑内障点眼を再開したものとした.着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)をC5眼(7.3%)に認めた.CIII考按今回の検討において対象はすべて初期の広義CPOAGであった.眼圧は各時点で有意に下降しており,術前C15.8mmHg,術後C12カ月でC12.5CmmHg(下降率C20.8%,p<0.0001)の下降を認めた.点眼スコアも各時点で有意に減少しており,術前C1.2,術後C12カ月でC0.1(減少率C91.6%,p<0.0001)の減少を認め,術後C12カ月で緑内障点眼をC1剤も使用していない症例の割合はC88.2%であった.現時点で筆者の知る限りCiStentinjectWの既報は少なく,CiStentinjectを用いた報告が多い.Shalabyら3)は,POAGにCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入24681012術の検討で,術前眼圧がC15.6mmHg,術後C12カ月で14.0mmHg(眼圧下降率C10.0%,p=0.02)の下降を認め,点眼スコアは術前C1.9,術後C12カ月でC1.5(減少率C21%,p=0.02)減少したとしている.また,Salimiら4)はCNTGにCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の検討で,術前眼圧がC15.8mmHg,術後C12カ月でC12.3mmHg(下降率C22%,p<0.001)の下降を認め,点眼スコアは術前C1.5,術後C12カ月でC0.45(減少率C70%,p<0.001)減少したとしており,いずれも本研究と同様に眼圧下降および点眼スコアの減少を認めている.高齢になるにつれ緑内障の罹患率は上昇する.近年の高齢化に伴い緑内障患者の高齢化や認知症の増加が予想される.緑内障患者の点眼不成功の原因は加齢,視機能,身体・認知機能障害などが関連する5,6).また,緑内障点眼の本数が増えるほど点眼アドヒアランスは低下し7),点眼アドヒアランスが低下するほど視野の進行速度は速くなる8).本研究では術後C12カ月の時点で点眼減少数はC1.1であり,88.2%の症例で緑内障点眼を使用せずに経過している.緑内障点眼を一生涯継続することは高齢になるほど困難となる.白内障手術時に併用する本術式で得られる眼圧下降や緑内障点眼の減少は大きな利点と考える.本研究の術前の角膜内皮細胞密度はC2,697C±338Ccells/mm2であり,術後C1カ月と術後C12カ月はそれぞれC2,513C±533Ccells/mm2,2,501C±402Ccells/mm2で術前と比較すると両時点も有意に減少(p<0.001)を認めるも,術後C1カ月と術後12カ月では有意な減少を認めなかった.Ahmedら9)はCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術群と水晶体再建術単独群との比較で,角膜内皮細胞密度は術後早期に両群とも内眼手術とほぼ同等の減少を認めるも,その後C60カ月にわたり両群の角膜内皮細胞密度の減少に有意差は認めなかったとしている.角膜内皮細胞密度の推移は今後も長期にわたり経過をみる必要がある.本研究の術後合併症としてニボーを形成する前房出血をC3眼(4.4%),30CmmHg以上の一過性高眼圧をC4眼(5.8%)に認めた.iStentinjectの術後合併症として,Angら10)は前房出血C1眼(3.3%),21mmHg以上の一過性眼圧上昇はC2眼(6.7%),Rhoら11)は前房出血C3眼(8.3%),25CmmHg以上の一過性眼圧上昇はC2眼(5.6%)としており,単純比較はできないが本研究とほぼ同様の報告をしている.他のCMIGSであるマイクロフックやCKahookCDualCBradeを使用した線維柱帯切開術とCiStentCinjectW,iStentCinjectとの比較では,いずれも術後の出血性合併症はCiStentinjectW,iStentinjectのほうが少なかった2,12).iStentCinjectCWやCiStentinjectは,線維柱帯を切開するCMIGSと異なり線維柱帯に垂直に挿入する操作なので,線維柱帯への侵襲が少なく術後の出血性合併症が少ないと考える.本研究では術後のCPASをC5眼(7.3%)に認めた.Popovicら13)はCiStentinjectを挿入後のCPASをC7.4%に認めたとしている.術後のCPAS形成には炎症細胞やフィブリンなどが関与している14)と考えられているが,Matsuoら15)はマイクロフックを用いた線維柱帯切開術眼内法後のCPAS形成について,線維柱帯切開に伴う房水流出が増大することで虹彩が線維柱帯に物理的に引き寄せられCPASを形成する可能性があるとしている.本研究の術後にCPASを形成した症例のうちC2眼は前房出血を生じた症例であった.これらの症例は炎症細胞や出血性のフィブリンなどでCPASが形成された可能性はあるが,他のC3眼はステント部の局所的な房水流出の増大による影響で,虹彩が物理的にステントに引き寄せられPASを形成した可能性がある.本研究のCPASを形成した症例のうち,留置したCiStentinjectWの双方にCPASを生じた症例はなく,いずれも術前より眼圧下降を認めているので隅角癒着解離術やレーザー隅角形成術などの追加処置はしていない.これらをふまえると,iStentCinjectW挿入術は白内障を合併している初期の広義CPOAG患者や,緑内障点眼の本数を減らしたい症例などに良い適応があると考えられ,術後の合併症は他のCMIGSより少なく,安全性が高いことが示唆される.ただし,本研究は日本人に多いとされるCNTGを含んだ病型の分類をしておらず,症例数も少なく観察期間が12カ月と短期であるので,今後も症例数を増やし長期的に検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白内障手術併用眼内眼内ドレーン使用要件等基準(第C2版).日眼会誌124:441-443,C20202)武川修治,北原潤也,知久喜明ほか:白内障手術併用眼内ドレーン挿入術(iStentinjectW)とCMicrohook線維柱帯切開術の術後短期成績.臨眼C76:1387-1392,C20223)ShalabyCWS,CLamCSS,CArbabiCACetal:iStentCversusCiStentCinjectCimplantationCcombinedCwithCphacoemulsi-.cationinopenangleglaucoma.CIndianJOphthalmolC69:C2488-2495,C20214)SalimiCA,CClementCC,CShiuCMCetal:Second-generationCtrabecularmicro-bypass(iStentinject)withcataractsur-geryCinCeyesCwithCnormal-tensionglaucoma:OneCyearCoutcomesCofCaCmulti-centreCstudy.COphthalmolCTherC9:C585-596,C20205)TathamAJ,SarodiaU,GatradFetal:Eyedropinstilla-tionCtechniqueCinCpatientsCwithglaucoma.CEye(Lond)C27:1293-1298,C20136)KashiwagiCK,CMatsudaCY,CItoCYCetal:InvestigationCofCvisualCandCphysicalCfactorsCassociatedCwithCinadequateCinstillationCofCeyedropsCamongCpatientsCwithCglaucoma.CPLOSONEC16:1-13,C20217)DjafaniCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20098)Newman-CaseyCPA,CNiziolCLM,CGillespieCBWCetal:TheCAssociationCbetweenCMedicationCAdherenceCandCVisualCFieldCProgressionCinCtheCCollaborativeCInitialCGlaucomaCTreatmentStudy(CIGTS)C.OphthalmologyC127:477-483,C20209)AhmedCIIK,CSheybaniCA,CDeCFrancescoCTCetal:Long-termCendothelialCsafetyCpro.leCwithCiStentCinjectCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOpthalmolC252:17-25,C202310)AngCBCH,CChiewCW,CYipCVCHCetal:ProspectiveC12-monthCoutcomesCofCcombinedCiStentCinjectCimplantationCandCphacoemulsi.cationCinCAsianCeyesCwithCnormalCten-sionglaucoma.EyeVis(Lond)C9:1-11,C202211)RhoS,LimSH:Clinicaloutcomeaftersecond-generationtrabecularCmicrobypassstents(iStentCinjectR)withCphacoemulsi.cationCinCKoreanCpatients.COphthalmolCTherC10:1105-1117,C202112)BarkanderCA,CEconomouCMA,CJohannessonCGCetal:Out-comesCofCiStentCinjectCvsCKahookCdualCbradeCsurgeryCinCglaucomapatientsundergoingcataractsurgery.CJGlauco-maC32:121-128,C202313)PopovicCM,CCampos-MollerCX,CSahebCHCetal:E.cacyCandCadverseCeventCpro.leCofCtheCiStentCandCiStentCinjectCtrabecularCmicro-bypassCforopen-angleCglaucoma:ACmeta-analysis.JCurrGlaucomaPractC12:67-84,C201814)RouhiainenCHJ,CTerasvirtaCME,CTuovinenCEJCetal:CPeripheralCanteriorCsynechiaeCformationCafterCtrabeculo-plasty.ArchOphthalmolC106:189-191,C198815)MatsuoCM,CInomataCY,CKozukiCNCetal:CharacterizationCofperipheralanteriorsynechiaeformationaftermicrohookCab-internotrabeculotomyusinga360-degreegonio-cam-era.ClinOphthalmolC15:1629-1638,C2021***

原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミーおよび深層強膜弁切除術併用360°Suture Trabeculotomy Ab Externoの3年成績

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):997.1002,2024c原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミーおよび深層強膜弁切除術併用360°SutureTrabeculotomyAbExternoの3年成績柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CThree-YearOutcomesof360-SutureTrabeculotomyAbExternowithSinusotomyandDeepSclerectomyforPrimaryOpenAngleGlaucomaMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)に対するC360°CsutureCtrabeculotomyCabexterno(S-LOT)のC3年成績を検討する.対象および方法:永田眼科においてC2016年C1月.2020年C12月にCPOAGに対してCS-LOTを施行した連続症例のうち,緑内障手術既往歴のない白内障同時手術C32眼,単独手術C10眼(有水晶体眼)を対象とした.すべての症例でサイヌソトミーと深層強膜弁切除術を併用した.診療録から後ろ向きに眼圧,緑内障点眼数,眼圧C14・12CmmHg以下C3年生存率,併発症を検討した.結果:白内障同時手術群では術前眼圧C17.5mmHgからC3年後C13.7CmmHgと有意な眼圧下降を認め,14・12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC53.7%,33.6%であった.単独手術群ではC17.5CmmHgからC3年後C12.1CmmHgと有意な眼圧下降を認め,14・12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC60%,30%であった.術後C3Cmmを超える前房出血を白内障同時手術群のC4眼(13%)で認め,1眼は前房洗浄を必要とした.結論:POAGに対するCS-LOTは白内障同時手術・有水晶体眼に対する単独手術とも術後C3年にわたり有意な眼圧下降を認めた.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCofC360-degreeCsutureCtrabeculotomyCabexterno(S-LOT)inCpri-maryCopenangleCglaucoma(POAG)patients.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC42CPOAGCeyesCwithCnoChistoryCofCotherCglaucomaCsurgeryCthatCunderwentCconsecutiveCS-LOTCwithphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(S-LOT+P+I)(n=32eyes)andS-LOTalone(n=10phakiceyes)atCNagataCEyeCClinic,CNara,CJapanCbetweenCJanuaryC2016CandCDecemberC2020.CAllCpatientsCunderwentCS-LOTCcombinedCwithCsinusotomyCandCdeepCsclerectomy.CWeCinvestigatedCintraocularpressure(IOP)C,CglaucomaCmedications,Csurgicalsuccess(de.nedCasCanCIOPCofC≦14CmmHgCandC12CmmHgCwithCorCwithoutCglaucomaCmedica-tions)C,CandCpostoperativeCcomplications.CResults:InCtheCS-LOT+P+ICgroup,CtheCmeanCIOPCwasCsigni.cantlyCreducedfrom17.5CmmHgto13.7CmmHg,andthesurgicalsuccessratesat3-yearspostoperativewere53.7%(IOP≦14CmmHg)and33.6%(IOP≦12CmmHg)C.CInCtheCS-LOTCaloneCgroup,CtheCmeanCIOPCwasCsigni.cantlyCreducedCfromC17.5CmmHgCtoC12.1CmmHg,CandCtheCsurgicalCsuccessCratesCatC3-yearsCpostoperativeCwere60%(IOP≦14mmHg)and30%(IOP≦12CmmHg)C.CLayeredChyphemaCoccurredCinC4eyes(13%)postCS-LOT+P+Iand1eyerequiredahyphemawashout.Conclusion:InPOAGpatients,S-LOT+P+IandS-LOTaloneshowedsigni.cante.cacyinreducingIOPupto3-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):997.1002,C2024〕Keywords:sutureCtrabeculotomyCabexterno,眼圧,3年成績.sutureCtrabeculotomyCabCexterno,CintraocularCpres-sure,Cthree-yearCoutcomes.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(125)C997はじめに線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)は,房水流出抵抗の首座である傍CSchlemm管内皮網組織を切開し,房水の流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的房水流出路再建術である.流出路再建術の一つであるCsutureCtrabecu-lotomy(S-LOT)は,ナイロン糸をCSchlemm管に通して傍Schlemm管内皮網組織を切開する術式であり,Chinら1)が報告したC360°Csuturetrabeculotomyは眼外法(abexterno)で強膜弁を作製するため,LOTの問題点であった術後一過性高眼圧の減少を目的としたサイヌソトミー(sinusotomy:SIN)や,眼圧下降効果増強を目的とした深層強膜弁切除術(deepsclerectomy:DS)の併用が可能である.しかし,角膜切開で前房側からCSchlemm管に通糸する眼内法(abCinter-no)と比較すると報告が少なく,今回,原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleglaucoma:POAG)に対するC360°Csuturetrabeculotomyabexterno+SIN+DS(S-LOT+SIN+DS)のC3年成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2016年C1月.2020年C12月に,永田眼科においてCPOAGに対し下方象限でCS-LOT+SIN+DSを施行した連続症例64眼のうち,緑内障手術既往のある症例を除いた白内障同時手術C32眼と有水晶体眼に対する単独手術C10眼を対象とした.診療録から後ろ向きに術前と術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,併発症を調査し,眼圧と緑内障点眼数の経過,眼圧下降率,目標眼圧をC14,12CmmHg以下としたC3年生存率についてそれぞれ検討した.CS-LOT+SIN+DS白内障同時手術と単独手術の術式を以下に示す.2%キシロカインによるCTenon.下麻酔下に施行した.円蓋部基底で下方結膜を切開,左右眼ともC8時方向にC4×4Cmmの外層強膜弁,3.5C×3.5Cmmの深層強膜弁を作製しSchlemm管を露出した.その後白内障同時手術の場合は上方角膜切開で白内障手術を施行した.白内障手術終了後,先端を熱加工して丸くしたC5-0ナイロン糸を強膜弁両側からSchlemm管にそれぞれ挿入,上下半周ずつ通糸した両糸の先端を隅角鏡下に角膜サイドポートから挿入した永田氏スーチャートラベクロトミー鑷子で線維柱帯内壁ごしにそれぞれ把持し角膜サイドポートから眼外へ引き出して線維柱帯を全周切開した.Schlemm管露出部の内皮網を除去し,二重強膜弁の深層強膜弁を切除するCdeepsclerectomyを施行した.外層強膜弁を縫合し,ケリー氏デスメ膜パンチでC1カ所sinusotomyを施行,結膜を縫合した.最後に術中の前房出血を洗浄し,終了した.検討項目を以下に示す.手術前の眼圧と緑内障点眼数,術後1,3,6,9,12,18,24,30,36カ月の眼圧と緑内障点眼数,目標眼圧をC14CmmHg,12CmmHgとしたC3年生存率,術後併発症について検討した.緑内障点眼数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤と計算し,合計点数を薬剤スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術後眼圧と薬剤スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較による検定を行い,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し生存率を算出した.有意水準はCp<0.05とした.本研究は臨床研究法を遵守しヘルシンキ宣言に則り行われ,診療録を用いた侵襲を伴わない後ろ向き研究のためインフォームド・コンセントはオプトアウトによって取得され,永田眼科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号C2022-004).CII結果表1に白内障同時手術症例C32眼の患者背景を示す.平均年齢はC70.4C±9.8歳(平均C±標準偏差),術前平均眼圧はC17.5C±4.9mmHg,術前平均薬剤スコアはC3.2C±1.0,術前平均Cmeandeviation(MD)値はC.12.3±8.4CdBであった.図1に白内障同時手術症例の眼圧と薬剤スコアの経過を示す.眼圧は術前C17.5C±4.9mmHgからC3年後にC13.7C±4.9mmHg,薬剤スコアは術前C3.2C±1.0からC3年後にC1.3C±1.2となり,眼圧,薬剤スコアとも術後すべての観察期間で有意に下降し(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),術C3年後までの平均眼圧下降率はC20.2%であった.図2にCKaplan-Meier生命表解析を用い,目標眼圧をC14,12CmmHgとした生存曲線を示す.14CmmHg以下C3年生存率はC53.7%,12CmmHg以下C3年生存率はC33.6%であった.表2に有水晶体眼単独手術症例C10眼の患者背景を示す.平均年齢はC60.4C±7.6歳,術前平均眼圧はC17.5C±6.6CmmHg,術前平均薬剤スコアはC3.5C±0.5,術前平均CMD値はC.17.5±6.6CdBであった.図3に有水晶体眼単独手術症例の眼圧と薬剤スコアの経過を示す.眼圧は術前C17.5C±6.6CmmHgからC3年後にC12.1C±2.6mmHg,薬剤スコアは術前C3.2C±0.8からC3年後にC1.4C±1.7となり,眼圧,薬剤スコアとも有意に下降し(p<0.05,CANOVA+Dunnett’stest),術C3年後までの平均眼圧下降率はC18.5%であった.図4にCKaplan-Meier生命表解析を用い,目標眼圧をC14,12CmmHgとした生存曲線を示す.14CmmHg以下C3年生存率はC60.0%,12CmmHg以下C3年生存率はC30.0%であった.表3に併発症の内訳と眼数を示す.白内障同時手術で術後C3Cmmを超える前房出血をC4眼(12%)に認め,うちC1眼は998あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024(126)前房洗浄を必要とした.30CmmHgを超える一過性高眼圧を白内障同時手術でC10眼(31%)に認めた.白内障同時手術で術後硝子体出血をC1眼認めたが,経過観察で自然消退した.術後追加緑内障手術として白内障同時手術,有水晶体眼単独手術とも線維柱帯切除術を必要とした症例をC1眼ずつ認めた.SIN併用による長期濾過胞形成を認めた症例はなかっ表1患者背景(白内障同時手術)眼数32眼年齢C70.4±9.8(39.83)歳男/女C21/11右/左C12/20術前眼圧C17.5±4.9(12.30)mmHg術前薬剤スコアC3.2±1.0(1.5)術前CMD値(23眼)C.12.3±8.4(C.1.23.C.29.1)(dB)MD:meandeviation(mean±SD)(range)C2517.5±4.9mmHg20た.CIII考按POAGに対するCS-LOT+SIN+DSの術後C3年成績を検討した.白内障同時手術で平均眼圧はC17.5C±4.9CmmHgからC3年後にC13.7C±4.9CmmHgへ有意に下降し,単独手術ではC17.5C±6.6CmmHgからC12.1C±2.6CmmHgへ有意に下降した.目標眼圧をC14,12CmmHgとしたC3年生存率は白内障同時手術でそれぞれC53.7%,33.6%,単独手術でC60.0%,30.0%であった.Shinmeiら2)は白内障同時手術でC14CmmHg以下C3年生存率はC63%,単独手術ではC67.4%と報告し,Satoら3)は白内障同時手術でC15カ月生存率がC78.3%と報告していることから,今回の結果は既報とほぼ同等であったと考える.以前に筆者らは,少数例の検討であるがCS-LOT+SIN+DSの14CmmHg以下C3年生存率をC50.5%と報告4)し,今回の結果はこれともほぼ同等と考えられた.一方,12CmmHg以下C3C13.7±4.9mmHg薬剤スコア眼圧(mmHg)**15*************105543210(mean±SD)観察期間(月)眼数323232313128282824図1眼圧・薬剤スコア経過(白内障同時手術)術後すべての観察期間で有意に下降した(**p<0.01,*p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest).10080生存率(%)表2患者背景(有水晶体眼単独手術)眼数10眼C20年齢C60.4±7.6(51.74)C男/女C8/2右/左C5/5生存期間(月)術前眼圧C17.5±6.6(13.34)図2白内障同時手術症例の3年生存率術前薬剤スコアC3.5±0.5(3.4)術前MD値(9眼)C.17.5±6.6(C.1.78.C.30.62)(dB)0051015202530354014,12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC53.7%,33.6%であった.MD:meandeviation(mean±SD)(range)(127)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C999薬剤スコア眼圧(mmHg)252012.1±2.6mmHg15*105543210観察期間(月)眼数1099999987図3眼圧・薬剤スコア経過(有水晶体眼単独手術)眼圧,薬剤スコアとも有意に下降した(**p<0.01,*p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest).80DSとの差はわずかではあるが有意差をもってCS-LOT+SIN+DSが良好である3,7,8)ことから,S-LOT+SIN+DSの手術適応としては以下のように考えられる.従来のCLOT+SINC+DS術C5年後の平均眼圧はC15CmmHgと報告13,14)されてい生存率(%)60るため,術後眼圧としてそれ以下を期待する中期緑内障,高40齢者であれば視力予後を考慮して中期以降の症例にも適応可200図4有水晶体眼単独手術症例の3年生存率14,12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC60.0%,30.0%であった.年生存率は白内障同時手術,単独手術でそれぞれC33.6%,30%であり,これらは日本人におけるCPOAGに対する線維柱帯切除術の中期成績4.6)より劣るものであった.CS-LOTCabexternoはCChinら1)によって初めて報告され,従来の金属プローブによるCLOTよりも眼圧下降効果が良好であると報告された.以降,同様の報告3,7,8)がなされている.これは線維柱帯切開幅の差によるものであり,集合管は不規則に存在する9,10)ため全周切開のほうが集合管への流出が効果的であるためとされる.一方で切開幅は術後眼圧に影響しないとする報告11,12)がある.既報13)におけるCPOAGに対するCLOT+SIN+DSの術後眼圧C14CmmHg以下生存率は今回の研究CS-LOT+SIN+DSの結果とほぼ同等であることから,切開幅と眼圧下降効果は直線的に相関しないことが示唆される.しかし,術後経過眼圧においては,LOT+SIN+1000あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024能と考える.また線維柱帯切除術の術後成績と比較すると眼圧下降効果は劣ることが今回の結果で示されたが,濾過胞形成しないことや術後薬物治療が併用できることから,濾過手術適応だが若年であることや濾過胞管理ができないため,濾過手術が躊躇される症例について,一次的な選択肢として適応があると考える.一方,前房側からCSchlemm管に通糸する眼内法についてGroverら15)はCgonioscopy-assistedtransluminaltrabeculot-omyとして報告し,以降CS-LOTabinternoに関しての報告は少なくない.結膜切開が不要であり,将来的な追加濾過手術に備えて結膜を温存できるという利点があるためと考えられる.それに対しCS-LOTabexternoは結膜・強膜を切開するが,将来的な濾過手術に備えて下方象限で施行することで上方結膜は温存でき,LOTの問題点であった術後一過性高眼圧を減少させる効果のあるCSINと,さらなる眼圧下降効果増強を目的としたCDSの併用が可能であることが利点であると考える.S-LOTabinternoとの術後成績比較において,以前筆者らはCS-LOTCabexternoとCabinternoの術後C3年成績と併発症を比較し,S-LOTabexterno+SIN+DSのほうがCS-LOTabinternoよりも術後眼圧が有意に低く一過性高眼圧が少ないことを報告し,線維柱帯の切開範囲が同じであることから,これはCSIN+DSの効果によるものであるこ(128)0510152025303540生存期間(月)表3併発症白内障同時手術単独手術(有水晶体眼)32眼10眼前房出血>3Cmm4眼(12%)→C1眼前房洗浄0眼一過性高眼圧>3C0CmmHg10眼(31%)0眼併発症1眼硝子体出血→自然消退0眼追加手術1眼LET(1C.5年後)1眼LET(4日後)LET:trabeculectomyとを報告した7).また,Yalinbasら16)はCS-LOTCabCexterno+DSとCabinternoの術後C1年成績比較において,統計的有意差はないが術後眼圧はCS-LOTabexterno+DSのほうが低いことを報告し,これはCDSの眼圧下降効果によるものと報告している.ほかにもCSIN併用CLOTの眼圧下降効果17),DS併用CLOTの眼圧下降効果18)が報告されておりCSIN+DSには眼圧下降効果があると考える.SINとCDSの明確な眼圧下降機序は不明であるが,SINによる濾過胞の形成はないが長期にわたりわずかな濾過効果が続いているのか17),DSにおける強膜弁下Clakeの強膜床からClake内房水が経ぶどう膜強膜路から吸収されるのか19),lake内房水がCSchlemm管に流出されるのか20)などが考えられている.S-LOTabexter-no+SIN+DSは下方象限施行で上方結膜の温存ができ,CSIN+DSの利点を生かした手術であると考える.術後併発症については,白内障同時手術でC3Cmmを超える前房出血をC4眼(12%),術後一過性高眼圧をC10眼(31%)に認めた.頻度については既報とほぼ同等であったが,高頻度であった一過性高眼圧については単独手術でほぼ認めていないことと比較すると,白内障手術の術後炎症の影響や術前縮瞳剤の有無の影響などが考えられるが,これについては症例数を増やして今後も検討を必要とする.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,対象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であると考える.今回の検討の結果,POAGに対するCS-LOTabexterno+SIN+DSは,白内障同時手術,単独手術とも中期的に有意な眼圧下降を認めた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C20122)ShinmeiY,KijimaR,NittaTetal:Modi.ed360-degreesutureCtrabeculotomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cationCandCintraocularClensCimplantationCforCglaucomaCandCcoex-istingCcataract.CJCCataractCRefractCSurgC42:1634-1641,C20163)SatoCT,CHirataCA,CMizoguchiT:OutcomeCofC360CdegreesCsutureCtrabeculotomyCwithCdeepCsclerectomyCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCcoexistingCcataract.CClinCOphthalmolC8:1301-1310,C20144)狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌C109:C75-82,C20055)FukuchiCT,CUedaCJ,CYaoedaCKCetal:ComparisonCofCfor-nix-andClimbus-basedCconjunctivalC.apsCinCmitomycinCCCtrabeculectomywithlasersuturelysisinJapaneseglauco-mapatients.JpnJOphthalmolC50:338-344,C20066)SugimotoCY,CMochizukiCH,COhkuboCSCetal:IntraocularCpressureCoutcomesCandCriskCfactorsCforCfailureCinCtheCCol-laborativeBleb-relatedInfectionIncidenceandTreatmentCStudy.Ophthalmology122:2223-2233,C20157)柴田真帆,豊川紀子,黒田真一郎:開放隅角緑内障に対し同一患者に施行したC180°,360°CSutureTrabeculotomyAbInterno,C360°CSutureCTrabeculotomyCAbExternoと僚眼CMetalTrabeculotomyの術後C3年成績の比較あたらしい眼科38:1097-1104,C20218)木嶋理紀,陳進輝,新明康弘ほか:360°CSutureTrabecu-lotomy変法とCTrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討.あたらしい眼科C33:1779-1783,C20169)HannCCR,CBentleyCMD,CVercnockeCACetal:ImagingCtheCaqueoushumorout.owpathwayinhumaneyesbythree-dimensionalmicro-computedtomography(3D-micro-CT)C.CExpEyeResC92:104-111,C201110)HannCCR,CFautschMP:PreferentialC.uidC.owCinCtheChumanCtrabecularCmeshworkCnearCcollectorCchannels.CInvestOphthalmolVisSciC50:1692-1697,C200911)ManabeCS,CSawaguchiCS,CHayashiK:TheCe.ectCofCtheCextentoftheincisionintheSchlemmcanalonthesurgi-(129)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C1001calCoutcomesCofCsutureCtrabeculotomyCforCopen-angleCglaucoma.JpnJOphthalmolC61:99-104,C201712)SatoT,KawajiT:12-monthrandomizedtrialof360°Cand180°CSchlemm’sCcanalCincisionsCinCsutureCtrabeculotomyCabCinternoCforCopen-angleCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC105:1094-1098,C202113)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科26:821-824,C200914)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C199615)GroverCDS,CGodfreyCDG,CSmithCOCetal:Gonioscopy-assistedCtransluminalCtrabeculotomy,CabCinternoCtrabecu-lotomy:techniqueCreportCandCpreliminaryCresults.COph-thalmologyC121:855-861,C201416)YalinbasCD,CDilekmanCN,CHepsenIF:ComparisonCofCabCexternoandabinterno360-degreesuturetrabeculotomyinCadultCopen-angleCglaucoma.CJCGlaucomaC29:1088-1094,C202017)MizoguchiCT,CNagataCM,CMatsuuraCMCetal:SurgicalCe.ectsCofCcombinedCtrabeculotomyCandCsinusotomyCcom-paredCtoCtrabeculotomyCalone.CActaCOphthalmolCScandC78:191-195,C200018)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C201319)MarchiniG,Marra.aM,BrunelliCetal:Ultrasoundbio-microscopyCandCintraocular-pressure-loweringCmecha-nismsCofCdeepCsclerectomyCwithCreticulatedChyaluronicCacidimplant.JCataractRefractSurgeC27:507-517,C200120)StegmannCR,CPinaarCA,CMillerD:ViscocanalostomyCforCopen-angleglaucomainblackAfricanpatients.JCataractRefractSurgeC25:316-322,C1999***1002あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024(130)

ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の処方パターンと短期効果

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):833.836,2024cブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の処方パターンと短期効果藤嶋さくら*1井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CPrescriptionPatternofBrimonidine/RipasudilFixedCombinationEyeDropsSakuraFujishima1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬(以下,BRFC)の処方パターンを調査し,変更症例では短期的な眼圧下降効果と安全性を後向きに検討する.対象および方法:BRFCが新規に投与されたC176例を対象とした.処方パターンを追加症例,変更症例,変更追加症例に分けた.変更症例では変更前の点眼薬を調査し,変更前点眼薬別に変更前後の眼圧を比較し,副作用,中止例を検討した.結果:変更症例はC151例,変更追加症例はC15例,追加症例はC10例だった.変更症例の変更前点眼薬はブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬C113例,ブリモニジン点眼薬C35例などだった.眼圧は両点眼薬症例ともに変更前後に変化はなかった.副作用はC3.3%,中止例はC2.6%で出現した.結論:BRFCは多剤併用の原発開放隅角緑内障症例で同成分同士からの変更として使用されることが多かった.変更症例の変更後の眼圧下降と安全性は良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheCpatternsCofCprescribingCbrimonidine/ripasudilC.xedCcombination(BRFC)eyedropsandshort-termintraocularpressure(IOP)-loweringsafetyande.cacyinglaucomaandocularhypertensioncases.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved176patientsinwhomBRFCwasnewlyadminis-tered.WecategorizedthepatternsofprescribingascasesinwhichBRFCwasaddedtopreviousmedications,cas-esCthatCswitchedCtoBRFC(changed)C,CandCchanged/added.CIOPCbeforeCandCafterCtheCchangeCforCeachCeyeCdropCchangedCwasCcompared,CandCtheCsideCe.ectsCandCdropoutsCwereCexamined.CResults:ThereCwereC151CcasesCofCchanges,C15CcasesCofCchanged/added,CandC10CcasesCofCadded.CInCtheCchangedCcases,CthereCwereCbrimonidineCplusCripasudilCinC113,CbrimonidineCinC35,CandCothers.CNoCdi.erenceCinCIOPCwasCobservedCbetweenCbeforeCandCafterCtheCchange.Sidee.ectsoccurredin3.3%ofthecases,and2.6%ofthecasesdroppedout.Conclusions:Our.ndingsrevealedthatBRFCwasusedwithhighfrequencyinPOAGpatientstakingmultiplemedicationsasamodi.cationofthesameingredients,andthatthesafetyande.cacyofIOPloweringwassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):833.836,C2024〕Keywords:ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬,処方パターン,眼圧,副作用.brimonidine/ripasudile.xedcombination,prescriptionspattern,intraocularpressure,adversereaction.Cはじめに緑内障薬物治療において多剤併用になるとアドヒアランスは低下しやすい1).そこでアドヒアランス向上のために配合点眼薬が開発された.従来から日本で使用可能だった配合点眼薬はすべてCb遮断薬を含有していたが,Cb遮断点眼薬を含有しないブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬がC2020年C6月より使用可能になり,呼吸器系疾患や循環器系疾患を有する症例でも配合点眼薬を使用できるようになった.そして今回Cb遮断薬を含有しないC2種類目の配合点眼薬がC2022年C12月より使用可能となった.このブリモニジン/リパスジル配合点眼薬はブリモニジン点眼薬とリパスジル点眼薬を含有している.日本で行われた治験や健常人における検討で〔別刷請求先〕藤嶋さくら:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakuraFujishima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(87)C833ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている2,3).しかし,臨床現場でどのような症例にブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が使用されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例についてその処方パターン,短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2022年C12月.2023年C2月に井上眼科病院に通院中でブリモニジン/リパスジル配合点眼薬(グラアルファC1日C2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者176例C176眼(男性C100例,女性C76例)を対象とした.平均年齢はC66.9C±12.5歳(平均C±標準偏差)(32.91歳)(範囲)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C127例,続発緑内障C27例(落屑緑内障C11例,ぶどう膜炎C10例,血管新生緑内障C3例,糖尿病網膜症C2例,ステロイド緑内障C1例),正常眼圧緑内障C17例,原発閉塞隅角緑内障C3例,小児緑内障C1例,高眼圧症C1例であった.投与前眼圧は投与前C2回の平均眼圧,投与後眼圧は投与後はじめての来院時の眼圧として解析した.投与前眼圧はC17.4C±6.9CmmHg(10.0.54.5mmHg)であった.投与前の使用薬剤数はC4.5C±1.2剤(0.8剤)だった.投与後眼圧は投与C2.3C±0.9カ月後(1.4カ月後)に測定された.ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例を,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が追加投与された症例(追加群),前投薬を中止してブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が投与された症例(変更群),複数の薬が変更,追加となった症例(変更追加群)に分けた.追加群,変更追加群では投薬前後の眼圧を比較し,副作用と中止症例を調査した.変更群では変更した点眼薬を調査し,ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬から変更した症例についてはそれぞれ変更前後の眼圧を比較した.投与後の副作用と中止症例を調査した.配合点眼薬は薬剤数C2剤として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は投与前眼圧が高いほうの眼を対象とした.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障した.CII結果全症例のうち追加群はC10例(5.7%),変更群はC151例(85.8%),変更追加群はC15例(8.5%)であった.追加群は原発開放隅角緑内障C5例,続発緑内障C4例(落屑緑内障C2例,ぶどう膜炎C2例),正常眼圧緑内障C1例であった.追加前眼圧はC21.2C±9.1CmmHg(15.0.46.0CmmHg),追加後眼圧はC17.8C±6.1CmmHg(10.0.32.0CmmHg)で,眼圧は追加前後で同等であった(p=0.06).追加前の使用薬剤数はC2.9C±0.9剤(1.4剤)であった.副作用出現症例と中止症例はなかった.変更追加群は原発開放隅角緑内障C10例,続発緑内障C3例,原発閉塞隅角緑内障C1例,高眼圧症C1例であった.変更追加前眼圧はC24.8C±8.1CmmHg(11.0.42.0CmmHg),変更追加後眼圧はC22.0C±13.5CmmHg(10.0.56.0CmmHg)で,眼圧は変更追加後に有意に下降した(p<0.05).変更追加前の使用薬剤数はC2.9C±1.9剤(0.5剤)であった.変更追加後の副作用はC2例(眼瞼炎,眼瞼腫脹+結膜充血)で出現した.中止症例はC4例で,眼圧下降不十分C2例,副作用C2例であった.変更群の変更した点眼薬の内訳はブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬C113例(74.8%)(以下CA群),ブリモニジン点眼薬C35例(23.2%)(以下CB群),リパスジル点眼薬C3例(2.0%)(以下,C群)であった(表1).各群の変更前の平均薬剤数は,A群5.1C±0.7剤,B群C3.8C±0.5剤,C群C3.0C±1.0剤であった.平均使用点眼薬(ボトル)数は変更前CA群C4.2C±0.6本,B群C2.9C±0.4本,C群C2.3C±0.6本,変更後CA群C3.2C±0.6本,B群C2.9C±0.4本,C群C2.3C±0.6本であった.1日の平均点眼回数は,変更前CA群C7.4C±0.9回,B群C5.1C±0.7回,C群C4.0C±1.0回,変更後CA群C5.4C±0.9回,B群C5.1C±0.7回,C群C4.0C±1.0回であった.変更理由は,A群はアドヒアランス向上,B群,C群は眼圧下降不十分であった.眼圧はCA群では変更前C16.2C±6.3mmHg,変更後C15.4C±4.0mmHgで,変更前後で同等だった(p=0.19).B群では変更前C16.6C±3.5CmmHg,変更後C16.2C±4.6CmmHgで,変更前後で同等だった(p=0.51)(図1).C群は症例数が少ないため眼圧の解析はできなかった.投与後に副作用は全体ではC5例(3.3%)で出現した.その内訳はCA群では結膜充血C1例,刺激感C1例,視力低下+眼痛+掻痒感C1例,B群では眼瞼腫脹2例,C群ではなかった.中止症例はC4例(2.6%)であった.その内訳は変更CA群では結膜充血C1例,B群では眼瞼腫脹C2例,C群では眼圧上昇C1例であった.CIII考按ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例を検討したがさまざまな処方パターンがみられた.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬4)やブリモニジン/チモロール配合点眼薬5)の処方パターンの報告では,変更群が各々C87.7%,93.7%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬では,ブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド配合点眼薬からの変更51.2%,ブリンゾラミド点眼薬からの変更C24.0%,ブリモニ834あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(88)表1変更症例の患者背景A群:ブリモニジン+リパスジル点眼薬B群:ブリモニジン点眼薬C群:リパスジル点眼薬症例113例35例3例性別男性C62例,女性C51例男性C19例,女性C16例男性C3例,女性C0例平均年齢C66.4±12.1歳(C39.C88歳)C66.6±13.0歳(C32.C87歳)C71.3±10.6歳(C60.C81歳)病型POAG8C7例NTG1C3例続発緑内障1C1例PACG1例小児緑内障1例POAG2C4例続発緑内障7例NTG3例PACG1例続発緑内障2例POAG1例前投薬数C5.1±0.7剤(3.C8剤)C3.8±0.5剤(2.C4剤)C3.0±1.0剤(2.C4剤)変更別使用薬剤CFP+CAI/b+a2+ROCK6C0例CFP+経口CCAI+CAI/b+a2+ROCK1C5例点眼CCAI+FP/b+a2+ROCK1C4例CFP+点眼CCAI+a2+ROCK8例CFP+a1+CAI/b+a2+ROCK5例CFP/b+a2+ROCK3例その他8例CFP+CAI/b+a22C1例点眼CCAI+FP/b+a26例CFP/b+a22例その他6例CFP/b+ROCK1例CFP+CAI/b+ROCK1例CFP+ROCK1例投与前眼圧C16.2±6.3CmmHg(1C0.C54.5mmHg)C16.6±3.5CmmHg(1C2.C27.5mmHg)C15.5±2.5CmmHg(1C4.C23mmHg)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障.FP:FP作動薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:a1遮断薬,Ca2:a2作動薬,ROCK:ROCK阻害薬.A群B群202018181616眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1414121216.6±3.5101016.2±4.615.4±4.0886416.2±6.36420変更前p=0.1924変更後20変更前変更後p=0.5109図1変更症例の眼圧変化ジン点眼薬からの変更C11.6%だった4).一方,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬では,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬+ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬への変更C53.4%,Cb遮断点眼薬C18.3%,ブリモニジン点眼薬C8.3%などであった5).同成分同士の変更がブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬C51.2%,ブリンゾラミド点眼薬/チモロール配合点眼薬C78.3%と多く,今回(74.8%)もほぼ同様の結果であった.今回のブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更(A群)では眼圧は変更前後で同等だった.A群では変更後に使用点眼薬数はC1本,1日の点眼回数はC2回減少したので患者の点眼の負担は減少したと考えられる.日本で行われた治験では,ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更群と,ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬への変更群の比較を行った結果,変更C4,8週間後の眼圧下降幅は点眼C2時間後,7時間後ともに同等だった2)と報告されている.ブリモニジン/リパスジル点眼薬とブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬の眼圧下降効果は同等と考えられる.日本で行われた治験では,ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更では眼圧は変更C8週間にわたり有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅(89)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C835はC3.4CmmHg,眼圧下降率はC16.5%であった2).一方,今回のブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更(B群)では眼圧は変更前後で同等で,眼圧下降幅はC0.3C±2.5mmHg,眼圧下降率はC2.0C±13.1%であった.眼圧下降幅別に検討すると眼圧が変更後にC2.0CmmHg以上上昇C1例(2.9%),2.0CmmHg以内C30例(85.7%),2.0mmHg以上下降C4例(11.4%)だった.眼圧下降が不良だったのは,変更前薬剤数が治験2)ではC1剤だったが,今回はC3.8±0.5剤と多剤併用だったことが原因と考えた.また,健常人を対象とした,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬のクロスオーバー投与試験によると3),ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬とブリモニジン点眼薬の眼圧下降の差は投与C1日目の点眼C1時間後C2.0C±0.3CmmHg,点眼C2時間後C1.4C±0.4CmmHg,点眼6時間後1.2C±0.5CmmHg,投与C8日目の点眼C1時間後C1.6C±0.5CmmHg,点眼C2時間後C1.2C±0.6CmmHgだった.今回の調査では日本で行われた治験2)より眼圧下降は不良であったが,変更前の使用薬剤数がCB群はC3.8C±0.5剤と多剤併用であったためと考えられる.今回変更群では変更後に副作用が5例(3.3%)で出現した.その内訳は眼瞼腫脹C2例,結膜充血C1例,刺激感C1例,視力低下+眼痛+掻痒感C1例だった.副作用に関しては今回の調査と治験2)の結果を比較すると治験では結膜充血が多かったが,それ以外はほぼ同等であった.中止症例は今回はC2.6%で,治験2)では有害事象による中止症例はブリモニジン点眼薬からの変更ではC2.7%,リパスジル点眼薬からの変更では2.9%でほぼ同等だった.今回,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に処方された症例の特徴を調査した.ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更がもっとも多く,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬からの変更が続いた.ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更,ブリモニジン点眼薬からの変更では変更後に眼圧に変化はなかった.副作用は変更群ではC3.3%に出現したが,重篤ではなかった.ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬は短期的には良好な眼圧下降効果と高い安全性を示した.今後は長期的な経過観察による検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20092)TaniharaH,YamamotoT,AiharaMetal:Ripasudil-bri-monidineC.xed-doseCcombinationCvsCripasudilCorCbrimoni-dine:twoCphaseC3CrandomizedCclinicalCtrials.CAmCJCOph-thalmolC248:35-44,C20233)TaniharaCH,CYamamotoCT,CAiharaCMCetal:CrossoverCrandomizedCstudyCofCpharmacologicCe.ectsCofCripasudil-brimonidineC.xed-doseCcombinationCversusCripasudilCorCbrimonidine.AdvTherC40:3559-3573,C20234)井上賢治,國松志保,石田恭子ほか:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果.あたらしい眼科39:226-229,C20225)小森涼子,井上賢治,國松志保ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンと短期的効果.臨眼C75:C521-526,C2021C***836あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(90)

ブリンゾラミドからブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬 への変更1 年間の効果,安全性

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):439.443,2024cブリンゾラミドからブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更1年間の効果,安全性井上賢治*1朝比奈裕美*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CSafetyandE.cacyOveraOne-YearPeriodafterSwitchingfromBrinzolamidetoBrimonidine/BrinzolamideFixedCombinationKenjiInoue1),YumiAsahina1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合剤(BBFC)のC1年間の効果と安全性を後向きに検討する.対象および方法:ブリンゾラミド点眼薬(BRZ)からCBBFCへ変更した緑内障,高眼圧症C128例を対象とした.変更前後の眼圧と視野を比較し,副作用と中止例を調査した.結果:眼圧は変更前(15.4C±3.5CmmHg)より変更3,6,9,12カ月後(13.1C±2.7,13.8C±3.2,13.8C±3.8,13.7C±2.7CmmHg)に有意に下降した.視野のCMD値は変更前C.9.79±4.59CdBと変更C12カ月後.9.18±4.70CdBで同等だった.副作用はC34例(26.6%)で出現し,結膜炎C12例,眼瞼炎C7例などだった.中止例はC50例(39.1%)で,副作用C29例,薬剤追加変更C20例などだった.結論:BRZからCBBFCへの変更ではC1年間にわたり眼圧は下降し,視野は維持できたが,中止例も約C40%と多かった.CPurpose:ToCinvestigateCbothCsafetyCandCe.cacyCoverCaC1-yearCperiodCafterCswitchingCfromCbrinzolamide(BRZ)toCbrimonidine/brinzolamideC.xedcombination(BBFC)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC128CpatientswhowereswitchedfromBRZtoBBFC.Thecomparisonofintraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)valueatbeforeandatafterswitching,adversereactions,anddropoutswereinvestigated.Results:At3,6,9,and12monthsafterswitching,meanIOPhadsigni.cantlydecreasedto13.1±2.7,C13.8±3.2,C13.8±3.8,CandC13.7C±2.7CmmHg,Crespectively,CcomparedCtoCatbaseline(15.4C±3.5CmmHg)C.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCMDCvalueCbetweenCthatCatbaseline(C.9.79±4.59dB)andCatCafterC12months(C.9.18±4.70dB)C.COfCtheCtotalC128Cpatients,adversereactionsoccurredin34(26.6%)C,i.e.,conjunctivitis(n=12patients),blepharitis(n=7patients),andother(n=15patients),and50patients(39.1%)discontinuedtheadministrationduetoadversereactions(n=29patients),switching/addingmedications(n=20patients),andother(n=1patient)C.Conclusions:AlthoughIOPdecreasedandvisualacuitywasmaintainedfor1-yearafterswitchingfromBRZtoBBFC,approximately40%ofthepatientsdiscontinuedtheadministration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(4):439.443,C2024〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,眼圧,安全性,変更.brimonidine/brinzolamide.xedcombination,intraocularpressure,safety,switching.Cはじめに緑内障治療における配合点眼薬は通常のC1成分の点眼薬よりも眼圧下降効果の面で,またC2剤併用よりもアドヒアランスの面で優れており,近年実臨床での使用が増加している1).日本で従来から使用可能な配合点眼薬はすべてにCb遮断薬が含有されており,全身性の副作用の問題からCb遮断薬が含有しない配合点眼薬の開発が望まれていた.ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬を配合したブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が海外ではC2013年より,日本でもC2020年C6月に使用可能となった.日本で実〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(73)C439表1患者背景項目症例128例性別男性67例,女性61例平均年齢C67.3±11.4歳(29.91歳)病型POAG84例CNTG43例COH1例変更前薬剤数C2.9±0.7剤(1.5剤)変更前点眼瓶数C2.3±0.6本(1.4本)変更前使用薬剤CPG/b配合点眼薬C66例(ブリンゾラミドPG点眼薬C29例との併用)CPG/b配合点眼薬+ROCK阻害薬C9例CPG/b配合点眼薬+a1遮断薬6例Cb遮断薬C3例PG点眼薬+b遮断薬C3例PG点眼薬+a1遮断薬+ROCK阻害薬C2例その他C10例変更前眼圧C15.4±3.5CmmHg(8.26mmHg)変更前CMD値C.9.79±4.59CdB(C.25.92.1.11CdB)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,OH:高眼圧症.施された治験においてもブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている2,3).しかし,これらの治験2,3)ではブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の投与期間はC4週間と短期だった.点眼薬の使用は長期に及ぶため,眼圧下降効果と安全性の評価では長期間の経過観察が理想である.上市後にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の効果と安全性については数多く報告されている4.8).しかし,これらの報告の経過観察期間は12週間4),3カ月間5),6カ月間6.8)で,長期ではない.海外ではブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の開放隅角緑内障,高眼圧症に対するC6カ月間9),正常眼圧緑内障に対するC18カ月間の眼圧下降効果と安全性の報告10)がある.国内でのブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の長期間の眼圧下降効果と安全性の報告はなく,不明である.筆者らはブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の変更C6カ月間の眼圧下降効果と安全性を評価した6).具体的にはブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更症例,ブリンゾラミド点眼薬からの変更症例,ブリモニジン点眼薬からの変更症例を後ろ向きに調査した.今回ブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更した症例を対象として,経過観察期間をC1年間に延長し,さらに症例数を増加して,その長期的な効果と安全性を評価した.20*******1816141215.4±3.510128例13.1±2.713.8±3.213.8±3.813.7±2.7118例97例70例67例648**p<0.0001,*p<0.00012(ANOVA,BonferroniandDunn検定)0図1変更前後の眼圧I対象および方法2020年C6月.2021年C6月に井上眼科病院に通院中で,ブリンゾラミド点眼薬を中止してCwashout期間なしでブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド配合点眼薬,1日C2回点眼)が新規に投与された原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障を含む),高眼圧症患者C128例C128眼を対象とした.男性C67例,女性C61例,平均年齢はC67.3C±11.4歳(平均±標準偏差,29.91歳だった)(表1).変更したブリンゾラミド点眼薬以外の緑内障点眼薬は継続とした.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧を調査し,比較した.変更前と比べた変更C3,6,9,12カ月後の眼圧下降幅を調査した.変更前と変更C12カ月後のCHumphrey視野検査C30-2CSITAstandardのCmeandeviation(MD)値を調査し比較した.変更後の副作用と中止症例を調査した.変更前後の薬剤数と点眼瓶数を調査した.配合点眼薬は薬剤C2剤,点眼瓶数C1瓶として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は変更前眼圧が高いほうの眼,変更前眼圧が左右同値の症例では右眼を対象とした.眼圧変化の解析にはANOVA,BonferroniandDunn検定を用いた.MD値の比較にはCWilcoxonの符号順位検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障した.CII結果薬剤数は変更前C2.9C±0.7剤,1.5剤,変更後C3.9C±0.7剤,2.6剤だった.点眼瓶数は変更前C2.3C±0.6本,1.4本,変更後C2.3C±0.6本,1.4本だった.眼圧は変更前C15.4C±3.5C眼圧(mmHg)表2副作用内訳症例数期間結膜炎/アレルギー性結膜炎C122週間後,C1カ月後,C3カ月後,C4カ月後,C5カ月後(C3例),C8カ月後,9カ月後,1C0カ月後(2例),1C1カ月後眼瞼炎C710日後,1カ月後,5カ月後(2例),6カ月後,1C1カ月後,1C2カ月後結膜充血C62カ月後,3カ月後(3例),6カ月後,1C0カ月後掻痒感C51カ月後,3カ月後,4カ月後,6カ月後,1C0カ月後刺激感C28カ月後,1C0カ月後眠気C21カ月後,7カ月後めまいC110日後眼痛C22週間後,3カ月後霧視C14カ月後重複あり表3中止症例内訳症例数副作用29例結膜炎C/アレルギー性結膜炎C10例,眼瞼炎C5例,結膜充血C4例,掻痒感C2例,刺激感C2例,めまいC1例,眼痛C1例,眼痛+結膜充血C1例,掻痒感+霧視C1例,結膜炎+眼瞼炎C1例,結膜充血+掻痒感1例薬剤追加変更20例眼圧上昇C9例,視野障害進行C8例,眼圧下降不十分C3例SLT施行1例SLT:選択的レーザー線維柱帯形成術mmHg(平均C±標準偏差),8.26mmHg(128例),変更C3カ月後C13.1C±2.7CmmHg(118例),6カ月後C13.8C±3.2CmmHg(97例),9カ月後C13.8C±3.8mmHg(70例),12カ月後C13.7C±2.7mmHg(67例)で,変更3,6,9,12カ月後すべてで変更前に比べて有意に下降した(変更C3,6,9カ月後Cp<0.0001,変更C12カ月後Cp<0.001)(図1).眼圧下降幅は変更3カ月後C2.1C±2.2CmmHg,6カ月後C1.5C±2.7CmmHg,9カ月後C1.6C±3.1CmmHg,12カ月後C1.3C±2.5CmmHgだった.変更6カ月後に点状表層角膜炎を発症し,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更した症例と変更C8カ月後にリパスジル点眼薬のアレルギーでリパスジル点眼薬が中止となった症例は眼圧の解析から除外した.また,変更C6カ月後に転医した症例と変更8カ月後に白内障手術を施行した症例は眼圧の解析からは除外した.視野のCMD値は変更前C.9.79±4.59CdB,C.25.92.1.11dBだった.MD値は変更前と変更C12カ月後C.9.18±4.70CdB,C.19.86.C.0.33CdBで同等だった(p=0.8556).副作用はC34例(26.6%)で出現した(表2).内訳は結膜炎/アレルギー性結膜炎C12例(9.4%),眼瞼炎C7例(5.5%),結膜充血C6例(4.7%),掻痒感C5例(3.9%),刺激感C2例(1.6%),眠気C2例(1.6%)などだった(重複含む).重複した副作用は眼痛+結膜充血(変更C3カ月後),掻痒感+霧視(変更4カ月後),結膜炎+眼瞼炎(変更C5カ月後),結膜充血+掻痒感(変更C10カ月後)が各C1例だった.中止例はC50例(39.1%)だった(表3).中止の理由は,副作用C29例(22.7%)(結膜炎/アレルギー性結膜炎C10例,眼瞼炎C5例,結膜充血C4例,掻痒感C2例,刺激感C2例,めまい1例,眼痛C1例,眼痛+結膜充血C1例,掻痒感+霧視1例,結膜炎+眼瞼炎C1例,結膜充血+掻痒感C1例),薬剤追加や変更C20例(15.6%)(眼圧上昇C9例,視野障害進行C8例,眼圧下降不十分C3例),選択的レーザー線維柱帯形成術(selec-tivelasertrabeculoplasty:SLT)施行C1例(0.8%)だった.これらの副作用は点眼薬中止後に軽快,あるいは消失した.眼圧上昇C9例のうちC8例はリパスジル点眼薬,1例はブナゾシン点眼薬が各々追加された.視野障害進行C8例のうち,6例はリパスジル点眼薬が追加,1例はブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬を中止してリパスジル点眼薬に変更,1例はレボブノロール点眼薬とラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更し,さらにリパスジル点眼薬が追加された.眼圧下降不十分C3例では,3例ともリパスジル点眼薬が追加された.CIII考按今回のブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更では,眼圧は変更後に有意に下降した.眼圧下降幅はC1.3.2.1mmHg,眼圧下降率はC6.7.12.9%だった.今回と同様の点眼薬変更を行った報告がある2,6,7,9,10).日本の第CIII相臨床試験では,眼圧は変更C4週間後に有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅は3.7C±2.1mmHg,眼圧下降率はC18.1C±10.3%であった2).山田らのC2例C4眼での報告では変更C6カ月後の眼圧下降率はC22.9%だった7).海外での正常眼圧緑内障に対するブリンゾラミド点眼薬単剤からの変更では,眼圧は変更後C18カ月間にわたり有意に下降した10).その眼圧下降幅はC0.8.1.1CmmHg,眼圧下降率は4.9.6.8%であった.ブリンゾラミド点眼薬とCPG/Cb遮断配合点眼薬併用症例でブリンゾラミド点眼薬をブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更したC20例の眼圧下降幅は変更C1カ月後C4.0C±2.9CmmHg,3カ月後C4.5C±3.9CmmHg,6カ月後C4.8C±3.7CmmHgだった9).その眼圧下降率は変更C1カ月後C18.4%,3カ月後C20.7%,6カ月後C22.1%だった.今回の調査では日本の第CIII相臨床試験2)より眼圧下降は不良であったが,日本の第CIII相臨床試験では変更前眼圧がC20.7C±2.0CmmHg2)と高値だったため,また変更前の使用薬剤数が今回の調査がC2.9C±0.7剤と多剤併用であったためと考えられる.海外での正常眼圧緑内障に対するブリンゾラミド点眼薬単剤からの変更では,変更前眼圧はC13.4C±1.6CmmHg10)で,今回のほうがやや高値だった.そのため今回のほうが眼圧下降幅はやや良好だった.開放隅角緑内障,高眼圧症に対するブリンゾラミド点眼薬からの変更では,変更前眼圧はC21.7C±3.2CmmHg9)と今回の調査より高値だった.そのため眼圧下降幅(4.0.4.8CmmHg)は今回の調査より強力だったと考えられる.ただし,海外で使用されているブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬に含有されているブリモニジンは0.2%製剤で,日本のC0.1%製剤とは異なる.今回の調査では変更前と変更C12カ月後の平均CMD値に変化はなかった.しかし,視野障害進行により投与中止となった症例もC8例存在したので,変更後の視野変化には注意する必要がある.また,視野障害の進行についてはさらに長期の経過観察を行い評価すべきである.今回の調査での副作用はC34例(26.6%)に出現した.副作用の内訳は多岐にわたっていた.日本の第CIII相臨床試験のブリンゾラミド点眼薬からの変更では副作用はC8.8%に出現した2).その内訳は霧視C3.3%,点状角膜炎C2.7%などであった.今回のほうが副作用出現が多かったが,経過観察期間が1年間と長期だったためと考えられる.副作用はC34例で出現したがそのうちC29例(85.3%)で投与中止となった.また,筆者らは今回と同様の点眼薬変更についてC6カ月間の効果,安全性を報告した6)が,そのときの副作用出現はC18.3%だった.今回の調査で変更C6カ月後以降に出現した副作用は結膜炎/アレルギー性結膜炎C5例,眼瞼炎C2例,刺激感C2例,眠気C1例,結膜充血+掻痒感C1例だった.新たに成分として加わったブリモニジンによるアレルギー性結膜炎,眼瞼炎が長期投与した後に出現しやすいこと11)が関与していると考えられる.その他にもブリモニジン点眼薬に対するアレルギー反応はC2週間以内にC13.5%12),投与中止値C204.7日でC25.7%13),投与C1年でC15.7%14),2年でC27.1%14)と報告されている.すべての報告12.14)で点眼アレルギーの既往がリスク因子だった.変更C6カ月後以降もアレルギー反応を含めた副作用出現には注意する必要がある.また,投与時には点眼アレルギーの既往を確認したほうがよい.今回の中止症例はC39.1%であったが,日本の第CIII相臨床試験では,有害事象による中止例はなかった2,3).しかし,この臨床試験はブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の投与期間がC4週間と短かったことが原因と考えられる.筆者らのC6カ月間の経過観察での中止症例はC16.3%だった6).さらに長期の経過観察を行った今回の症例では,副作用,眼圧上昇,視野障害進行による中止例が変更C6カ月以降にも多数出現しており,点眼後の注意深い経過観察は必要である.また,今回の症例は眼圧が目標眼圧に達していない,あるいは視野障害が進行した症例が含まれている.そのため点眼薬を変更しても眼圧が十分に下がらない,または上昇する症例や視野障害進行が抑えられない症例が存在し,中止症例となった可能性もある.中止症例ではリパスジル点眼薬が投与された症例が多かったが,ブリモニジン点眼薬とリパスジル点眼薬の使用により高い交差性から副作用が多く出現する可能性が高まる.しかし,多剤併用症例のため使用していない点眼薬が少なく,リパスジル点眼薬が使用されたと考える.今回の臨床研究の問題点として以下があげられる.一つめはブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更するあるいは変更後に中止する,あるいは他剤を追加する基準がなく,主治医の判断にまかされていた点である.二つめは各症例のアドヒアランスが明確でない点である.三つめは眼圧測定時間が症例ごとに異なるため,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の眼圧下降効果が正確に判定できなかった可能性がある.しかし,今回は後ろ向き研究であり,実際の臨床現場における状況をありのままに解析すればよいと考え,このような研究内容とした.今回,ブリンゾラミド点眼薬を中止してブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬に変更した症例のC1年間にわたる効果と安全性を調査した.この変更では点眼瓶数,1日の点眼回数は変化せずアドヒアランス維持が期待できる.眼圧は変更後に有意に下降し,視野のCMD値は変更前後で同等だった.副作用はC26.6%に出現したが,配合点眼薬の中止により改善したため重篤ではなかった.中止症例はC39.1%と多く,副作用出現や眼圧上昇などが理由であった.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はブリンゾラミド点眼薬からの変更症例においてC1年間にわたり良好な眼圧下降効果と視野維持効果を示したが,副作用出現や中止例は多く,慎重な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)InoueK,KomoriR,Kunimatsu-SanukiSetal:FrequencyofCuseCofC.xed-combinationCeyeCdropsCbyCpatientsCwithCglaucomaatmultipleprivatepracticesinJapan.ClinOph-thalmolC16:557-565,C20222)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科C37:1299-1308,C20203)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科C37:1289-1298,C20204)OnoeCH,CHirookaCK,CNagayamaCMCetal:TheCe.cacy,CsafetyCandCsatisfactionCassociatedCwithCswitchingCfromCbrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CtoCaC.xedCcombi-nationofbrinzolamide1%andbrimonidine0.1%inglau-comapatients.JClinMedC10:5228,C20215)髙田幸尚,住岡孝吉,岡田由香ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド併用使用から配合点眼薬へ変更後の短期の眼圧変化.眼科64:275-280,C20226)InoueK,Kunimatsu-SanukiS,IshidaKetal:Intraocularpressure-loweringCe.ectsCandCsafetyCofCbrimonidine/Cbrinzolamide.xedcombinationafterswitchingfromothermedications.JpnJOphthalmolC66:440-446,C20227)山田雄介,徳田直人,重城達哉ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬の有効性について.臨眼C76:695-699,C20228)丸山悠子,池田陽子,吉井健悟ほか:ブリンゾラミドとブリモニジン併用点眼からブリモニジン・ブリンゾラミド配合剤への切替え効果の検討.あたらしい眼科C39:974-977,C20229)TekeliCO,CKoseHC:EvaluationCofCtheCuseCofCbrinzol-amide-brimonidineC.xedCcombinationCinCmaximumCmedi-caltherapy.TurkJOphthalmolC52:262-269,C202210)JinCSW,CLeeSM:TheCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationofbrinzolamide1%andbrimonidine0.2%innormalCtensionglaucoma:anC18-monthCretrospectiveCstudy.JOculPharmacolTherC34:274-279,C201811)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C201212)ManniCG,CCentofantiCM,CSacchettiCMCetal:DemographicCandclinicalfactorsassociatedwithdevelopmentofbrimo-nidineCtartrate0.2%-inducedCocularCallergy.CJCGlaucomaC13:163-167,C200413)BlundeauCP,CRousseauJA:AllergicCreactionsCtoCbrimoni-dineCinCpatientsCtreatedCforCglaucoma.CCanCJCOphthalmolC37:21-26,C200214)永山幹夫,永山順子,本池庸一ほか:ブリモニジン点眼によるアレルギー性結膜炎発症の頻度と傾向.臨眼C70:C1135-1140,C2016C***

緑内障点眼薬3 種類2 製剤から4 種類2 製剤への 配合点眼薬切替─多施設共同観察試験

2023年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(11):1476.1480,2023c緑内障点眼薬3種類2製剤から4種類2製剤への配合点眼薬切替─多施設共同観察試験上田晃史*1,4坂田礼*2,4安達京*3宮田和典*1白土城照*2大内健太郎*5相原一*2,4*1宮田眼科病院*2四谷しらと眼科*3アイ・ローズクリニック*4東京大学医学部附属病院*5大塚製薬株式会社CAMulticenterObservationalStudyofSwitchingFixed-CombinationEyeDropsfromTwoFormulationsofThreeEyeDropstoTwoFormulationsofFourEyeDropsfortheTreatmentofGlaucomaKojiUeda1,4),ReiSakata2,4),MisatoAdachi3),KazunoriMiyata1),ShiroakiShirato2),KentaroOuchi5)andMakotoAihara2,4)1)MiyataEyeHospital,2)YotsuyaShiratoEyeClinic,3)EyeRoseClinic,4)TheUniversityofTokyoHospital,5)OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.C目的:FP受容体作動薬(以下,FP)と炭酸脱水酵素阻害薬・b遮断薬配合点眼薬(以下,CAI/b)の併用療法を,カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼薬(以下,CAR/LAT)とブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BRM/BRZ)の併用療法へ変更した際の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:2カ月以上FPとCA/bを併用してC15CmmHg以上で管理されていた患者を対象とした.FP+CAI/bをCCAR/LAT+BRM/BRZへ変更し,変更前と変更後C3カ月目の眼圧を比較検討した.結果:原発開放隅角緑内障C42眼,高眼圧症C2眼を検討対象とし,点眼変更前後の眼圧はそれぞれC17.5±2.2CmmHg,15.4±3.2CmmHgで,変更後にC2.0±2.8CmmHg(p<0.001)の眼圧下降を認めた.1例で皮疹を認めた.結論:点眼変更によって,重篤な副作用は認めずに眼圧は有意に低下した.CPurpose:ToCevaluateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCswitchingCfromCprostaglandinCFreceptor(FP)agonistCandCcarbonicanhydraseinhibitor/bblocker.xedcombination(CAI/b)eyedropstocarteolol/latanoprost.xedcombi-nation(CAR/LAT)andCbrimonidine/brinzolamideC.xedcombination(BRM/BRZ)eyeCdropsCforCtheCtreatmentCofCglaucoma.CMethods:ThisCstudyCinvolvedCglaucomaCorCocularChypertensionCpatientsCwithCanCintraocularCpressure(IOP)of≧15CmmHgwhohadbeentreatedwithFPreceptoragonistandCAI/beyedropsforatleast2monthsbeforeswitchingtoCAR/LATandBRM/BRZeyedrops.IOPatpreswitchandat3-monthspostswitchwascom-pared.CResults:ThisCstudyCinvolvedC42CpatientsCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandC2CpatientsCwithCocularChypertension.CMeanCIOPCwasC17.5±2.2CmmHgCbeforeCswitchCandC15.4±3.2CmmHgCatC3-monthsCpostCswitch,CthusCshowingasigni.cantdecreaseof2.0±2.8CmmHg(p<0.001).Askinrashwasobservedin1case.Conclusion:IOPsigni.cantlydecreasedafterswitchingfromFPreceptoragonistandCAI/btoCAR/LATandBRM/BRZ,andnoserioussidee.ectswereobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(11):1476.1480,C2023〕Keywords:眼圧,カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼薬,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,原発開放隅角緑内障.intraocularpressure,carteolol/latanoprost.xedcombination,brimonidine/brinzolamide.xedcom-bination,primaryopenangleglaucoma.Cはじめにを行っていくため1,2),病期の進行とともに点眼数が増えて緑内障点眼治療は目標眼圧をめざして単剤や多剤併用点眼いく.そしてC2本以上の点眼薬を使用する際には,点眼アド〔別刷請求先〕坂田礼:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1CRC棟A北C339(秘書室)東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:ReiSakata,M.D.,Ph.D.,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1HongoBunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC1476(106)8週間以上カルテオロール・ラタノプロスト配合点眼液+ブリモニジン・ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液観察期間12週間・有害事象処方変更日12週後(±4週:8~16週)・眼圧・眼圧・患者背景図1対象患者8週以上プロスタグランジン点眼液(FP)と炭酸脱水酵素阻害・Cb遮断配合点眼液(CAI/Cb)を併用し,眼圧15CmmHg以上で管理されていた原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者に対して,両点眼薬をカルテオロール・ラタノプロスト配合点眼液(CAR/LAT)とブリモニジン・ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液(BRM/BRZ)へ変更しC12週間の経過観察を行った.ヒアランスを維持させるために配合点眼薬を選択することが推奨されている3).配合点眼薬のメリットとして,1日の点眼回数が減ることや洗い流し効果を軽減させるための点眼間隔を開ける必要がないことなどがある.配合点眼薬は,FP受容体作動薬(以下,FP)とCb遮断薬の組み合わせ(以下,FP/Cb),炭酸脱水酵素阻害薬とCb遮断薬の組み合わせ(以下,CAI/Cb)が当初認可されたが,2019年にCa2刺激薬とCb遮断薬の配合点眼薬(以下,Ca2/b),2020年に炭酸脱水酵素阻害薬とCa2刺激薬(以下,CAI/Ca2)の配合点眼薬がそれぞれ上市された.CAI/Ca2の登場により,CFP/bと併用することでC2製剤C4成分の治療が可能となった.このCFP/Cb+CAI/a2の配合点眼薬は,最小限の点眼本数で最大に近い効果を得ることと,点眼アドヒアランス維持の両立が期待できる組み合わせである.CFP/b配合点眼薬のCb遮断薬はチモロールまたはカルテオロールが配合されているが,FP/チモロールC1回点眼では,本来のチモロールC2回点眼あるいは持続タイプのゲル化チモロールC1回点眼と比較して終日での眼圧下降は劣る可能性が高い.一方,FP/カルテオロールC1回点眼は,基剤としてアルギン酸を含有し,持続的な作用が維持できるカルテオロールと同様であるため,1回点眼でも終日の眼圧下降が維持できる.今回,原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglau-coma:POAG)または高眼圧症患者を対象として,FPとチモロール含有CCAI/CbのC2製剤C3成分の併用療法を,カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼薬(以下,CAR/LAT)とブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BRM/BRZ)のC2製剤C4成分の併用療法へ変更した際の有効性と安全性を検討した.CI対象および方法研究デザインは,国内C3施設による多施設共同後ろ向き観察研究である.組み入れ基準として,8週間以上CFPとCAI/bを併用し,15CmmHg以上で管理されていたCPOAGまたは高眼圧症患者のうち,2021年C9月C30日までにさらなる眼圧下降が必要とされ,両点眼薬をCCAR/LATとCBRM/BRZの併用療法に変更した患者を対象とした(図1).除外基準は,1)緑内障手術(レーザー含む)の既往のある患者,2)処方変更前にビマトプロスト点眼液を使用していた患者,3)処方変更後に他の緑内障点眼薬を併用,あるいは緑内障手術(レーザー含む)を実施した患者,4)点眼薬を遵守できなかった患者とした.処方変更日と処方変更C12週後(C±4週:8.16週)に,Goldmann圧平眼圧計で測定した眼圧を,対応のあるCt検定を用いて比較検討した.両眼とも選択基準を満たした症例については処方変更日の眼圧値が高い眼を有効性評価対象眼とし,眼圧が両眼とも同じ場合は右眼とした.主要評価項目は,処方変更日から処方変更C12週後までの眼圧下降値(平均)とし,副次評価項目は,同じ期間の眼圧値,眼圧下降率,そして期間中の安全性の評価とした.眼圧下降値および眼圧下降率の取扱いは以下のとおりとした.・眼圧下降値=(処方変更日の眼圧測定値)C.(12週時の眼圧測定値)・眼圧下降率(%)=(12週時の眼圧下降値)/(処方変更日の眼圧測定値)×100本検討はヘルシンキ宣言の教義を遵守し,宮田眼科病院の倫理委員会(承認CID:CS-368-017)によって承認された.本研究は,新たに試料・情報を取得することはなく,既存の診療録のみを用いた調査研究であるため,研究対象者から文書または口頭による同意取得は行わず,あらかじめ情報を通知もしくは公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障する方法(オプトアウト)による手続きを行った.統計解析は,SASVersion9.4(SASInstituteInc.)を使用し,両側で有意水準は5%とした.表1患者背景合計眼数44眼処方変更日時点での年齢C65.0±11.2歳性別男性:26人,女性:18人表2点眼変更前のFPとCAI/bの組み合わせ症例数(割合)ラタノプロスト+ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩23(C52.3%)タフルプロスト+ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩10(C22.7%)トラボプロスト+ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩5(1C1.4%)ラタノプロスト+ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩4(9C.1%)タフルプロスト+ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩1(2C.3%)トラボプロスト+ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩1(2C.3%)25II結果2044名C44眼(POAG42眼,高眼圧症C2眼)が検討対象となった.患者背景を表1,点眼変更前のCFPとCCAI/Cbの処方の組み合わせを表2に示す.処方変更日から変更C12週後までの平均眼圧値は,それぞれC17.5C±2.2CmmHg(95%信頼区間,平均眼圧(mmHg)151016.8,18.1),15.4C±3.2CmmHg(95%信頼区間,14.5,16.4)で,変更後の平均眼圧下降値はC2.0C±2.8CmmHg(p<0.001)であった(図2).眼圧下降率は,11.4C±15.6%(p<0.001)であった.処方変更C12週目で処方変更日の眼圧値からC10%,20%,30%以上の眼圧下降率を達成した症例数は,それぞ50処方変更日処方変更後12週時れC29眼(66%),15例(34%),3例(7%)であった.点眼変更後,発疹(全身だが詳細不明)を認めた症例がC1例あったが,重篤な副作用は認められなかった.CIII考按本検討ではCFPとCCAI/Cbの併用療法で管理していた緑内障・高眼圧症の患者に対して,CAR/LATとCBRM/BRZへの併用療法に変更したところ,3カ月目で平均C2.0CmmHg(11.4%)と有意な眼圧下降を示した.点眼変更後に発疹を認めた症例があったが,点眼中止後に回復を認め,容認性も良好と考えられた.今回の研究結果からC2製剤C3成分を,Ca2を加えたC2製剤C4成分に変更することで,点眼本数や点眼回数を増やすことなく治療の強化を行うことが可能であることが示された.緑内障進行を遅延させる確実な方法は眼圧下降しかないが,眼圧をC1CmmHg下げることでも視野進行を抑制することができるとされている5).点眼治療において,第一選択薬として用いられることが多いCFPは,単剤のなかでもっとも眼圧下降効果が強い点眼薬であるが,多くの患者はこれを含めた多剤併用管理となっていることが多い2).FPに他点眼図2点眼変更前後の眼圧値処方変更日から処方変更C12週時までの眼圧値(平均)は,それぞれC17.5C±2.2CmmHg,15.4C±3.2CmmHgで,眼圧下降値(平均)はC2.0C±2.8CmmHg(p<0.001)であった.薬を追加して治療強化を行っていく場合,ほとんどの研究において追加後に有意な眼圧下降効果を認めているが6.10),点眼本数が増えるほど,点眼アドヒアランスが落ちることが懸念される.したがって,治療強化の際には配合点眼薬を選択して患者の負担軽減を図る必要がある.今回使用したCCAR/LATと,LATの眼圧下降効果を比較した研究では,CAR/LATがCLATより強力な眼圧下降を認めており,1日C1回点眼のまま治療を強化できることが示されている11).また,BRM/BRZはCbを含有しない配合点眼薬として,全身既往歴のある患者にも処方する場面が増えてくると考えられが,BRM/BRZの第CIII相臨床試験12)ではBRZ単独療法からCBRM/BRZへの変更によって,3.7C±2.1mmHgの眼圧下降が得られており(変更前C20.7+/.2.0mmHg,変更後C18.2+/.2.8CmmHg),対照であるCBRZ群に比べ有意な眼圧下降が得られている.今回は点眼変更後にC44例中C15例(34%)の症例で,点眼変更前からC20%以上の眼圧下降,そしてC3例(7%)でC30%以上の眼圧下降を認めている.この理由として,チモロールがカルテオロールに変更になったこと,新規のCa2が加わったこと,そして処方内容を一新したことによって点眼アドヒアランスが上がったことなどが考えられる.FPとチモロール点眼薬C2回の併用とCFP/チモロール配合点眼薬C1回の眼圧下降効果を検討したメタ解析13)では,多剤併用のほうが配合点眼薬よりも眼圧下降効果が高いことが示されているが,この理由は言及したとおりである.また,チモロールは長期連用で眼圧下降効果が減弱するいわゆるCtachyphylaxisがあるため14),切替前にチモロールの効果が減弱していた可能性も否定できない.また,第一選択治療としてのCa2の眼圧下降率はC20.25%とされており15),FP単剤にCBRMを追加した場合も有意な眼圧下降を認め(変更前眼圧C16.0C±4.0mmHg,追加後眼圧C14.6C±3.2CmmHg)8),これが眼圧下降に影響した可能性がある.さらに,点眼切り替えで処方内容が一新されたことで患者への説明がしっかりと行われ,患者の点眼への意識が一時的に高まったことも眼圧下降によい影響を及ぼしたと考えられた.副作用について,点眼変更後,発疹を認めた症例がC1例あったが,点眼中止に至るような副作用は認めなかった.処方変更後に加わったCa2は,点眼開始後しばらくしてからアレルギー性結膜炎が発症する場合もあるが,今回は調査期間が短かったためこのような症例はなかった.本研究の限界として,患者の選択バイアスがあったことをあげる.まず今回はC2製剤C3成分で眼圧C15CmmHg以上の患者を対象としたため点眼変更の有効性をはっきりと認めたが,一方でわが国では,点眼使用下でC15CmmHg未満で管理されている緑内障患者が多いのも事実である.そのような患者に対する点眼治療強化についての知見は少なく,仮に点眼変更の効果がない場合は,低侵襲緑内障手術などの手術療法に切り替えていかざるをえない.このような問題点は今後検討し解決していく必要があると考えられた.つぎに,処方変更後C12週まで経過を追えた患者を対象とした研究であったことから,12週までになんらかの理由で点眼が中止された症例の検討が行えていない.また,今回の検討では点眼変更前後で非選択的Cb遮断薬を使用している.カルテオロールはCISA(intrinsicsympathomimeticactivity)作用を有し16),チモロールよりも循環器系への影響が少ないが,非選択性Cb遮断薬自体は喘息や慢性閉塞性肺疾患に対しては処方禁忌であり,このような患者における点眼処方の組み立て方は別途検討が必要である.最後に,点眼変更前後のCFPやCCAIが統一されていない問題があげられる.点眼変更前はC61%がラタノプロストであったが,CAIはC14%しかブリンゾラミドを使用していなかった.前後で同じ成分で切り替えていない症例も含まれたため,今回示した眼圧下降幅(率)も過小あるいは過大評価されている可能性は否定できない.しかし,本研究は,緑内障の日常診療でよく遭遇する処方の組み合わせを想定し,それを現状でもっとも効率的な組み合わせのC2製剤C4成分に切り替えた後の有効性や安全性を検討することを主眼としたため,今回の結果はおおむね実臨床を反映した結果であると考えられた.まとめると,2製剤C3成分のCFPとCCAI/Cbの併用療法から,2製剤C4成分のCFP/CbとCCAI/Ca2の併用療法に変更したところ,ほとんどのケースで問題なく切り替えを行うことができ,3カ月目で有意な眼圧下降を認めた.緑内障点眼治療において治療を強化する際,点眼回数を増加させずに点眼アドヒアランスを維持したままさらなる眼圧下降が得られる配合点眼薬C2製剤を組み合わせる処方は有効であると考えられる.利益相反:上田晃史FII,坂田礼FII,RII,安達京FII,宮田和典FIV,RIV,白土城照FII,大内健太郎E,相原一FII,RIII文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-117,C20222)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)内藤知子:緑内障配合薬のアップデート.あたらしい眼科C38:173-174,C20214)LeskeCMC,CHeijlCA,CHusseinCMCetal:FactorsCforCglauco-maCprogressionCandCtheCe.ectCoftreatment:theCearlyCmanifestCglaucomaCtrial.CArchCOphthalmolC121:48-56,C20035)朴華,井上賢治,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の治療実態調査C2020年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.あたらしい眼科C38:945-950,C20216)LiF,HuangW,ZhangX:E.cacyandsafetyofdi.erentregimensCforCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularhypertension:aCsystematicCreviewCandCnetworkCmeta-analysis.ActaOphthalmolC96:277-284,C20187)MaruyamaCK,CShiratoS:AdditiveCe.ectCofCdorzolamideCorCcarteololCtoClatanoprostCinCprimaryCopen-angleCglauco-ma:aCprospectiveCrandomizedCcrossoverCtrial.CJCGlauco-maC15:341-345,C20068)宮本純輔,徳田直人,三井一央ほか:0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与後の眼圧下降効果と副作用.あたらしい眼科C33:729-734,C20169)MizoguchiCT,COzakiCM,CWakiyamaCHCetal:AdditiveCintraocularCpressure-loweringCe.ectCofCdorzolamide1%/timolol0.5%C.xedCcombinationConCprostaglandinCmono-therapyCinCpatientsCwithCnormalCtensionCglaucoma.CClinCOphthalmolC5:1515-1520,C201110)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤のC3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方.あたらしい眼科31:1059-1062,C201411)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteolol/latanoprostC.xedCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C201612)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科C37:1299-1308,C202013)QuarantaL,BiagioliE,RivaIetal:ProstaglandinanalogsandCtimolol-.xedCversusCun.xedCcombinationsCorCmono-therapyCforopen-angleCglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJCOculCPharmacolCTherC29:382-389,C201314)BogerWP:Shortterm.“escape”andClongterm“drift”.CtheCdissipationCe.ectsCofCtheCbetaCadrenergicCblockingCagents.SurvOphthalmolC28:235-240,C198315)GeddeCSJ,CVinodCK,CWrightCMMCetal:PrimaryCopen-angleglaucomapreferredpracticepattern.OphthalmologyC128:71-150,C202116)佐野靖之,村上新也,工藤宏一郎ほか:気管支喘息患者に及ぼすCb遮断点眼薬の影響CCarteololとCTimololとの比較.現代医療C16:1259-1264,C1984***

原発閉塞隅角病における網膜血管密度に対する 水晶体再建術の影響

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1238.1243,2023c原発閉塞隅角病における網膜血管密度に対する水晶体再建術の影響北村優佳力石洋平澤口翔太新垣淑邦古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CEvaluationofRetinalVascularDensityafterCataractSurgeryinPrimaryAngleClosureGlaucomaYukaKitamura,YoheiChikaraishi,ShotaSawaguchi,YoshikuniArakakiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:原発閉塞隅角病(PACD)における水晶体再建術後の視神経乳頭周囲血管密度(p-VD)および黄斑部血管密度(m-VD)の変化を評価すること.対象および方法:2020年C6.12月に琉球大学病院にて水晶体再建術を行ったPACD症例C13例C21眼を対象とした.疾患の内訳は原発閉塞隅角症(PAC)がC10眼,原発閉塞隅角症疑い(PACS)が11眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)がC0眼であった.術前,術後C1週,1カ月,3カ月,6カ月の眼圧,前眼部形状変化,網膜血管密度を評価した.光干渉血管断層撮影を用いて視神経乳頭を中心としたC4.5×4.5Cmmの上方,耳側,下方,鼻側部位の網膜血管密度をCp-VDとして測定し,中心窩を中心としたC6×6Cmmの上方,耳側,下方,鼻側,中央部位の網膜血管密度をCm-VDとして測定した.結果:水晶体再建術後,眼圧は術後C1カ月で有意に下降した.p-VDは術後C1週で下方において有意に増加した.その後,上方・下方では術後C1週から術後C1カ月で有意に減少したが,術後C6カ月ではその変化は消失した.m-VDは術前後で一貫して変化しなかった.結論:PACおよびCPACSにおける水晶体再建術後の網膜血管密度変化は一過性かつ限局的であり網膜への影響が小さいことが示唆された.CPurpose:ToCevaluateCchangesCinCperipapillaryCvasculardensity(pVD)andCmacularCvasculardensity(mVD)CafterCcataractCsurgeryCinCprimaryCangle-closuredisease(PACD).CSubjectsandMethods:Twenty-oneCeyesCofC13CPACDpatientswereincluded.Teneyeshadprimaryangleclosure(PAC),11eyeshadprimaryangleclosuresus-pect(PACS),and0eyeshadprimaryangle-closureglaucoma(PACG).Usingopticalcoherencetomographyangi-ography,pVDandmVDweremeasuredina4.5×4.5Cmmareacenteredontheopticdiscanda6×6Cmmareacen-teredConCtheCcentralCfovea.CEvaluationCwasCperformedCpreoperativelyCandCatC1Cweek,C1Cmonth,C3Cmonths,CandC6CmonthsCpostoperatively.CResults:AtC1-weekCpostoperative,CpVDCincreasedCsigni.cantlyCinCtheCinferiorCarea,CandCthenCdecreasedCsigni.cantlyCinCtheCinferiorCandCsuperiorCareasCfromC1-weekCtoC1-monthCpostoperative.CHowever,CthoseCchangesCdisappearedCatC6-monthsCpostoperative.CNoCchangeCinCmVDCwasCobservedCbetweenCtheCpre-andCpostoperativeCperiods.CConclusions:TheCchangesCinCretinalCvascularCdensityCafterCcataractCsurgeryCinCPACCandCPACSweretemporaryandlimited.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(9):1238.1243,C2023〕Keywords:原発閉塞隅角症,水晶体再建術,血管密度,光干渉断層血管撮影,眼圧.primaryangleclosure,cata-ractsurgery,vesseldensity,opticalcoherencetomographyangiography,intraocularpressure.Cはじめにい(primaryCangleCclosuresuspect:PACS)などのCPACG緑内障診療ガイドライン(第C5版)では原発閉塞隅角緑内の前駆病変のすべてを包括する呼称として,新たに原発閉塞障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)と,原発閉塞隅角病(primaryangleclosuredisease:PACD)という用語隅角症(primaryCangleclosure:PAC)や原発閉塞隅角症疑が定義された1).PACDの治療は根本的には閉塞隅角の解除〔別刷請求先〕北村優佳:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:YukaKitamura,M.D.,DepartmentofOpthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1238(116)表1患者背景(平均値±標準偏差)症例13例21眼年齢(歳)C63.85±7.56C性別男性3例C5眼(2C3.8%)女性10例C16眼(C76.2%)病型PAC11眼(52.4%)PACS10眼(47.6%)PACG0眼(0%)術前眼圧(mmHg)C15.57±3.22緑内障・高眼圧症治療薬の使用14眼(66.7%)術前屈折値(D)C0.41±3.26C前眼部COCT所見ACD(mm)C2.08±0.26TISAC500(mmC2)C0.08±0.03PAC:原発閉塞隅角症,PACS:原発閉塞隅角症疑い,PACG:原発閉塞隅角緑内障,ACD:前房深度,TISA:trabecularCirusCspacearea.が必要であり,Azuara-Blancoら2)が瞳孔ブロック機序の存在するCPACDに対し水晶体再建術の有効性を報告し,わが国でも水晶体再建術が第一選択になりつつある.しかし,水晶体再建術は,術後合併症として.胞様黄斑浮腫や糖尿病網膜症の進行,加齢黄斑変性の発症など,手術侵襲による網膜への影響が示唆されている3).光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)を用いた検討では,水晶体再建術後に黄斑部の網膜厚や脈絡膜厚,体積が増加し,加齢黄斑変性が発症する可能性が報告されており4,5),網脈絡膜変化の原因として,手術侵襲による血液網膜関門の破綻,網膜血管密度の増加,硝子体牽引,術中術後の低眼圧,炎症による機序などが提唱されているが3),水晶体再建術後における眼底変化の正確な病態や機序はいまだ不明である.網膜血流を測定する方法として非侵襲的に網脈絡膜循環を描出する光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)があり,近年,網脈絡膜疾患だけでなく,緑内障においても網膜血流との関連が報告されている6).2018年にCInら7)はOCTAを用いて開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglau-coma:POAG)患者の線維柱帯切除術後に,視神経乳頭周囲の網膜血管密度を測定し,眼圧下降により網膜血管密度が増加したことを報告した.一方で,PACD眼では水晶体再建術後に眼圧が下降することが示されている8.10)が,これまでPACD眼における水晶体再建術後の網膜血管密度の評価はされていない.本研究ではCOCTAを用いてCPACD眼における水晶体再建術後の網膜血管密度の変化を後ろ向きに評価した.図1TISA500AOD500,角膜後面,AOD500と平行に強膜岬(SS)から引いた線および虹彩表面で囲まれた面積I対象および方法2020年C6.12月に,琉球大学病院にて水晶体再建術を行った患者のうち,術後C6カ月まで経過観察が可能であり,かつCOCTAで評価が可能であったCPACD患者C13例C21眼(男性C3例C5眼,女性C10例C16眼,年齢C63.85C±7.56歳)を対象とした.PACDは,前眼部所見および隅角所見から,Inter-nationalSocietyofGeographicandEpidemiologicalOpthal-mology(ISGEO)分類11)に従い定義した.PACGに関しては,MD(meandeviation)値C.6CdB未満を対象とした.疾患の内訳はPACが10眼,PACSが11眼,PACGが0眼であった.水晶体再建術は緑内障専門医C3人が全症例でC2.4Cmm耳側角膜切開にて行った.屈折値は等価球面度数を用いて求めた.症例の詳細を表1に示す.検討項目は眼圧,前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD),隅角形状および網膜血管密度とした.眼圧はノンコンタクトトノメーターを用いて,3回測定した平均値を採用した.ACDと隅角形状は前眼部COCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて測定し,角膜後面から水晶体前面または眼内レンズ前面までの距離をCACDと定義した.また,角膜後面の強膜岬(scleralspur:SS)からC500Cμmの点から垂直に下した虹彩までの距離であるCAOD(angleopen-ingdistance)500,角膜後面,AOD500と平行にCSSから引いた線および虹彩表面で囲まれた面積のCtrabecularCirisCspacearea(TISA)500を隅角形状として評価した(図1).網膜血管密度はスウェプトソースCOCTA(SS-OCTA)(DRI-OCTTriton,トプコン)を用いて,網膜表層の視神経乳頭周囲血管密度(peripapillaryCvesseldensity:p-VD)および黄斑部血管密度(macularCvesseldensity:m-VD)を評価した.p-VDは視神経乳頭周囲を中心とした4.5C×4.5CmmC図2OCTAを用いた網膜血管密度の測定a:視神経乳頭周囲血管密度(p-VD).b:黄斑部血管密度(m-VD).平方をスキャンしCETDRS(EarlyCTreatmentCDiabeticCReti-nopathyStudy)サークル内の直径C3Cmmの範囲を上方,耳側,下方,鼻側の部位で測定(図2a),m-VDは黄斑部中心窩を中心としたC6C×6Cmm平方をスキャンしCETDRSサークル内の直径C3Cmmの範囲を,上方,耳側,下方,鼻側,中央の部位で測定した(図2b).網膜血管密度の解析はCSS-OCTAに内蔵されている自動解析ソフトで行った.各項目は,水晶体再建術の術前,水晶体再建術後C1週,1カ月,3カ月,6カ月で測定した.網膜硝子体疾患を有する症例,取得した画像が不鮮明で解析困難な症例は除外した.統計解析は対応のある一元配置分散分析を使用し,すべての時点での比較を行い,最終的にCBonferroni法で補正した.p<0.05の場合に,統計学的に有意と判断した.本検討はヘルシンキ宣言に則り行い,琉球大学の人を対象とする生命科学・医学系研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:1267).CII結果屈折値は術前でC0.41C±3.26D,術後C1週でC.0.49±0.66Dであり,術前と比較して有意差はみられなかった.眼圧の経過を図3aに示す.眼圧は術前でC15.57C±3.22mmHg,術後C1週でC14.94C±2.80mmHg,術後C1カ月でC14.31±2.65mmHg,術後C3カ月でC14.69C±2.56CmmHg,術後C6カ月でC14.55C±2.51CmmHgであり,術前と比較して術後1カ月のみ有意に眼圧が下降した(p<0.05).全症例のうち,14眼は術前に緑内障・高眼圧症治療薬が投与されていた.また,術後の観察期間中はすべての症例で緑内障・高眼圧症治療薬は使用されなかった.前眼部COCTにおけるCACDとCTISA500の結果を図3bに示す.ACDは術前でC2.08C±0.26mm,術後C1週でC3.56C±0.30Cmm,術後C1カ月でC3.72C±0.21Cmm,術後C3カ月でC3.76C±0.22Cmm,術後C6カ月でC3.79C±0.19Cmmであり,すべての時点で術前と比較して深くなった(p<0.01)(図3b-1).TISA500は術前でC0.08C±0.03Cmm2,術後C1週でC0.14C±0.06Cmm2,術後C1カ月でC0.16C±0.06Cmm2,術後C3カ月でC0.15C±0.05Cmm2,術後C6カ月でC0.15C±0.06Cmm2であり,すべての時点で術前より有意に開大した(p<0.01)(図3b-2).p-VDとCm-VDの経過を図4に示す.p-VDは視神経乳頭上方において,術前でC46.48%,術後C1週でC48.70%,術後C1カ月でC45.35%,術後C3カ月でC45.99%,術後C6カ月で45.33%であった.術後C1週と比較して術後C1カ月,術後C3カ月,術後C6カ月で有意に低下がみられた(p<0.05)が,術前と比較して術後各測定時点での変化はなかった.視神経乳頭下方では,術前でC46.68%,術後C1週でC49.82%,術後C1カ月でC46.07%,術後C3カ月でC46.32%,術後C6カ月でC47.07%であった.術後C1週と比較し術後C1カ月,術後C3カ月で有意に低下した(p<0.05)が,術前との比較では術後C1週で有意に増加した(p<0.05)のみであった.視神経乳頭耳側では,術前でC49.06%,術後C1週でC48.67%,術後C1カ月で48.34%,術後C3カ月でC48.04%,術後C6カ月でC47.94%,視神経乳頭鼻側では,術前でC45.01%,術後1週でC44.61%,術後C1カ月でC44.64%,術後C3カ月でC44.26%,術後C6カ月でC44.43%であり,術前後,および術後の経過中に変化はみられなかった(図4a).m-VDはすべての測定時点,測定部位において有意な変化はなかった(図4b).CIII考按本研究ではCPACD眼における水晶体再建術後の眼圧,前房深度,隅角形状,p-VDおよびCm-VDの変化を術後C6カ月まで評価した.水晶体再建術により前房深度は深くなり,TISAは拡大した.術後C1カ月時点で眼圧は有意に下降したが,その後は有意な変化はみられなかった.また,視神経乳頭周囲において,術後C1週で一部の領域で網膜血管密度の上昇がみられたが,その後,網膜血管密度は低下した.術後C6カ月の時点では,視神経乳頭周囲,黄斑部のいずれの領域においても,網膜血管密度は術前と差がなかった.水晶体再建術後の網膜血管密度の変化は,既報では眼圧のa*眼圧(mmHg)20181614121086420術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月平均値±標準偏差*:p<0.05,Bonferroni法b-1***b-2***4.5*0.25*0.500術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月1週1カ月3カ月6カ月平均値±標準偏差平均値±標準偏差ACD:前房深度TISA500:TrabecularIrusSpaceArea500*:p<0.01,Bonferroni法*:p<0.01,Bonferroni法4TISA500(mm2)0.23.532.52ACD(mm)0.150.11.510.05図3水晶体再建術前後における眼圧,ACD,TISAの経過a:水晶体再建術前後における眼圧の変化.Cb-1:水晶体再建術前後におけるCACDの経過.Cb-2:水晶体再建術前後におけるCTISAの経過.C*b5550454035a55p-VD(%)50453025201510403530術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月1週1カ月3カ月6カ月上方耳側下方鼻側上方耳側下方鼻側中央平均値±標準偏差平均値±標準偏差p-VD:視神経乳頭周囲血管密度m-VD:黄斑部血管密度*:p<0.05,Bonferroni法図4水晶体再建術前後における網膜血管密度の経過a:水晶体再建術前後におけるCp-VDの経過.Cb:水晶体再建術前後におけるCm-VDの経過.変動,あるいは術後の炎症による影響が指摘されていHiltonら14)は水晶体再建術後の眼圧レベル低下により拍動る3,12,13).PACD眼に対する水晶体再建術は,前房容積の拡性眼血流が改善することを報告した.また,POAG患者に大による眼圧の低下を引き起こすと考えられており10),対する線維柱帯切除術後C3カ月における報告7)では,眼圧は下降し,視神経乳頭周囲血管密度が増加したと報告されている.また,観察期間中,視神経乳頭周囲血管密度は術後C1週でわずかに減少したが,その後は徐々に増加し術後C3カ月で術前と比較して有意な増加がみられた.眼圧下降と視神経乳頭血管密度の増加は有意に関連していたと述べられている.本研究においてもCPACD眼は水晶体再建術後,ACDは深くなり眼圧は術後C1週で不変,1カ月で下降した.本研究ではp-VD,m-VDは術後C1週で一部増加したのみで,眼圧下降がみられた術後C1カ月での増加はなく,眼圧と関連した変化はみられなかった.Zhaoら12)は水晶体再建術後の黄斑部の網膜血管密度増加を報告しており,彼らのコホートでは水晶体再建術後にC2.80C±1.12CmmHgの眼圧下降がみられているが,本研究では術後C1カ月時点でC0.87C±2.09CmmHgと下降幅が小さかった.既報では術前の眼圧が低い症例は水晶体再建術後の眼圧下降が低いことが示唆されており10),本検討の対象眼は,術前に緑内障・高眼圧症治療薬を使用されている症例がC21眼中C14眼あり,眼圧上昇をきたしている症例は少なかったため,眼圧の下降幅が小さく,網膜血管密度に影響をおよぼさなかった可能性がある.水晶体再建術については,Pilottoら15)が術後の局所的な炎症反応により血管系の変化が起こることを示唆している.Zhouら3)は術後の網膜血管密度増加を報告しているが,その原因として,炎症反応によりプロスタグランジンの放出が誘発され,血液-房水関門の崩壊を引き起こし,房水に他の炎症メディエーターが蓄積され,硝子体に拡散することで網膜血管系の一時的な拡張と,網膜毛細血管の開通を引き起こすことを提唱している.また,合併症のない水晶体再建術後の炎症反応は術後C1週からC1カ月の間に最大となり,2.6カ月後にはベースラインに戻ると報告されている5).本研究の結果も術後C1週時点でのCp-VD増加,その後のCp-VD低下という網膜血管密度変化と術後炎症の転機は,既報と合致するものであった.これまで水晶体再建術後にCOCTAにて視神経乳頭周囲血管密度および黄斑部血管密度を測定した既報3)と,黄斑部血管密度のみを測定した既報12,13)では,術後にすべての追跡期間で血管密度の増加がみられている.本研究では,既報3,12,13)と異なり,p-VDの増加は限定的で,m-VDは有意な変化はなかった.原因として本研究の対象がCPACD眼であることや,既報3,12,13)と比較し若年であり,水晶体核硬度が低かった可能性や,手術時の切開幅が本研究ではC2.4Cmmと既報3)のC2.8Cmm切開より小さいことなどから,炎症惹起が少なかったことが考えられる.超音波乳化吸引装置による累積使用エネルギー値と網膜血管密度変化は相関することが報告されており3),柔らかい水晶体核や極小切開水晶体再建術は,網膜血管密度への影響が小さい可能性が示唆される.また,m-VDはCp-VDに比べて血管密度が低く,眼圧変化や炎症の影響を受けにくい可能性があるが,水晶体再建術後に網膜の部位別に血管密度変化の比較を行った報告はなく,まだ十分には検討されていない.最後に,本研究の限界としてつぎの二点があげられる.1点目は対象についてである.今回は,条件を満たす症例がいなかったためCPACGは含まれず,PACSおよびCPACが対象となった.緑内障性視神経症は網膜血管密度へ影響を及ぼすことが推察され,PACGを含む検討では異なる結果となった可能性がある.2点目は術前後の拡大率の違いである.今回はCOCTA測定時に屈折値補正は行っていないが,術前後の屈折値の変化により,OCTA撮像範囲が変化した可能性が考えられる.本研究では術前と比較し術後の屈折値に有意差はなかったものの,対象症例では遠視眼が多く,術前後の拡大率の違いが結果に影響を与えた可能性も推察される.これら二点は本研究の限界であり,今後はさらなる多数例での観察と屈折値を考慮した測定が必要であると考える.今回,PACDにおける水晶体再建術後の網膜血管密度の変化を検討した.既報3,12,13)と同じく術後C1週時点ではp-VDの増加がみられたが,m-VDの増加はみられず,網膜血管密度の変化は限定的であった.本研究におけるCPACD眼に対する侵襲がきわめて少ない極小切開水晶体再建術は,前房深度増大とCTISA増加の有用性と,網膜血流や網膜血管密度への影響が軽微であることを示す結果となった.水晶体再建術における網脈絡膜血管に対する影響は,OCTAにおける網膜血管の層別解析や脈絡膜血流の解析によるさらなる検討が必要である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C20163)ZhouCY,CZhouCM,CWangCYCetal:Short-termCchangesCinCretinalCvasculatureCandClayerCthicknessCafterCphacoemul-si.cationsurgery.CurrEyeResC45:31-37,C20204)NodaY,OgawaA,ToyamaTetal:Long-termincreaseinCsubfovealCchoroidalCthicknessCafterCsurgeryCforCsenileCcataracts.AmJOphthalmolC158:455-9Ce1,C20145)FalcaoMS,GoncalvesNM,Freitas-CostaPetal:Choroi-dalCandCmacularCthicknessCchangesCinducedCbyCcataractCsurgery.ClinOphthalmolC8:55-60,C20146)AkilH,HuangAS,FrancisBAetal:Retinalvesseldensi-tyCfromCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCtoCdi.erentiateearlyglaucoma,pre-perimetricglaucomaandnormaleyes.PLoSOneC12:e0170476,C20177)PaulCJF,CRaufCB,CHarryCAQCetal:TheCde.nitionCandCclassi.cationCofCglaucomaCinCprevalenceCsurveys.CBrJOpthalmolC86:238-242,C20028)InJH,LeeSY,ChoSHetal:PeripapillaryvesseldensityreversalCafterCtrabeculectomyCinCglaucoma.CJCOphthalmolC2018;8909714,C20189)VuCAT,CBuiCVA,CVuCHLCetal:EvaluationCofCanteriorCchamberCdepthCandCanteriorCchamberCangleCchangingCafterCphacoemulsi.cationCinCtheCprimaryCangleCcloseCsus-pectCeyes.COpenCAccessCMacedCJCMedCSciC7:4297-4300,C201910)MelanciaD,AbegaoPintoL,Marques-NevesC:CataractsurgeryCandCintraocularCpressure.COphthalmicCResC53:C141-148,C201511)CarolanJA,LiuL,Alexee.SEetal:IntraocularpressurereductionCafterphacoemulsi.cation:ACmatchedCcohortCstudy.OphthalmolGlaucomaC4:277-285,C202112)ZhaoCZ,CWenCW,CJiangCCCetal:ChangesCinCmacularCvas-culatureCafterCuncomplicatedCphacoemulsi.cationCsur-gery:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCstudy.CJCataractRefractSurgC44:453-458,C201813)KrizanovicA,BjelosM,BusicMetal:MacularperfusionanalysedCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCafteruncomplicatedCphacoemulsi.cation:bene.tsCbeyondCrestoringvision.BMCOphthalmolC21:71,C202114)HiltonEJ,HoskingSL,GherghelDetal:Bene.ciale.ectsofCsmall-incisionCcataractCsurgeryCinCpatientsCdemonstrat-ingreducedocularblood.owcharacteristics.Eye(Lond)C19:670-675,C200515)PilottoE,LeonardiF,StefanonGetal:EarlyretinalandchoroidalCOCTCandCOCTCangiographyCsignsCofCin.ammationCafterCuncomplicatedCcataractCsurgery.CBrJOphthalmolC103:1001-1007,C2019***

選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の1 年間の治療成績

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1093.1096,2023c選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の1年間の治療成績内匠哲郎*1,3井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科COne-YearTreatmentOutcomesafterSelectiveLaserTrabeculoplastyTetsuroTakumi1,3)C,KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を検討した.対象および方法:SLTを施行したC199例199眼を対象とし,1年間の経過を調査した.病型は広義原発開放隅角緑内障C168眼,落屑緑内障C26眼などであった.術前平均投薬数はC4.5剤であった.術前と術C12カ月後までの眼圧を比較した.SLT後に薬剤変更,緑内障観血的手術施行,SLT再施行,眼圧下降率C20%未満がC3回続いた場合を死亡と定義し,生存率を検討した.術後の合併症を調査した.結果:眼圧は術前C19.9C±6.4CmmHg,術C6カ月後C15.5C±5.3CmmHg,術C12カ月後C15.5C±5.1CmmHgで有意に下降した(p<0.0001).生存率はC6カ月後C30%,12カ月後C24%だった.一過性眼圧上昇以外の合併症は認めなかった.結論:SLT施行後,眼圧は有意に低下したが,その効果は経過観察に伴い低下した.平均眼圧はC1年間で約C20%下降した.CPurpose:Toinvestigatethetreatmentoutcomesfor1yearafterselectivelasertrabeculoplasty(SLT)C.Meth-ods:InCthisCstudy,CweCinvestigatedCtheCtreatmentCoutcomesCinC199CeyesCofC199glaucomaCpatients(i.e.,Cprimaryopen-angleglaucoma:168eyes;exfoliationglaucoma:26eyes;othertypeglaucoma:5eyes)at6monthsand1yearCafterCSLT.CInCallCsubjects,CtheCaverageCnumberCofCglaucomaCmedicationsCusedCbeforeCSLTCwasC4.5,CandCweCcomparedIOPbeforeSLTandat6upto12-monthspostoperative.Thefailurecriteriawerechanged/addedmedi-cations,CglaucomaCsurgery,CandCre-operationCofCSLT,CandCtheCsurvivalCratesCandCcomplicationsCafterCSLTCwereCinvestigated.Results:MeanIOPatbaselineandat6-and12-monthspostoperativewas19.9±6.4CmmHg,15.5±5.3CmmHg,CandC15.5±5.1CmmHg,Crespectively(p<0.0001)C,CthusCshowingCaCsigni.cantCdecreaseCofCIOPCatC6CandC12CmonthsafterSLT.Thesurvivalrateat6-and12-monthspostoperativewas30%Cand24%,respectively,andnocomplicationsCotherCthanCtransientCincreasedCIOPCwereCobserved.CConclusion:AfterCSLT,CIOPCsigni.cantlyCdecreased,yetthee.ectdeclinedovertime,andmeanIOPdecreasedbyapproximately20%Cat1-yearpostopera-tive.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1093.1096,C2023〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,眼圧,生存率,合併症,緑内障.selectivelasertrabeculoplasty,in-traocularpressure,survivalrate,complication,glaucoma.Cはじめに1979年にCWiseらは,隅角全周の線維柱帯色素帯にアルゴンレーザーを照射するレーザー線維柱帯形成術(argonClasertrabeculoplasty:ALT)によって眼圧下降が得られることを報告した1).ALTは線維柱帯構造全体に作用し,周辺虹彩前癒着が生じる,線維柱帯の器質的変化が生じ眼圧が上昇するなどの問題点がその後指摘された2,3).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は線維柱帯の有色素細胞を選択的に破砕し,線維柱帯細胞を活性化して房水流出を改善し眼圧を下降させる方法4)で,照射するエネルギー量が少なく,反復照射可能で合併症も少ないことから薬物療法と観血的治療の中間の治療として期待されている5.7).井上眼科病院(以下,当院)ではC2010年に菅原ら8)が〔別刷請求先〕内匠哲郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TetsuroTakumi,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANCSLTの治療成績を報告したが,症例数がC39例C47眼,経過観察期間が約C6カ月間であった.今回経過観察期間をより長期として,当院の治療成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法当院通院中の緑内障患者でC2019年C1月.2021年C3月にSLTを施行した199例199眼(男性97例97眼,女性102例C102眼)を対象とし,1年間の経過を調査した.年齢はC67.2±12.4歳(平均C±標準偏差),26.93歳であった.前投薬数は点眼薬と内服薬(内服薬は錠数にかかわらずC1剤とした)を合わせて,4.5C±1.1剤で,内訳は点眼薬・内服薬未使用1眼,1剤2眼,2剤9眼,3剤22眼,4剤52眼,5剤79眼,6剤C34眼であった.なお,アセタゾラミド内服を行っていた症例はC53例であった.術前CHumphrey視野中心30-2プログラムCSITA-standardのCmeandeviation(MD)値は.13.2±6.2CdB(C.28.58.1.01CdB)であった.異なる日に計測した連続する術前2回の眼圧の平均値はC19.9C±6.4mmHg(9.5.45.0CmmHg)であった.緑内障の病型は広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)168眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:XFG)26眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)2眼,ステロイド緑内障C1眼,ステロイド以外の続発緑内障(secondaryCopenangleCglaucoma:SOAG)2眼であった.SLTの適応は点眼・内服治療を行っている,もしくは点眼・内服治療にアレルギーがあり使用できない患者(点眼薬・内服薬未使用)で,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が必要な患者とした.周辺虹彩前癒着などがあり,全周に十分照射できなかったと考えられる患者や,不慣れな術者のため通常以上の過剰照射を行ったと考えられる患者は除外した.SLT施行後からC12カ月後までの間の眼圧測定がC3回未満の症例は除外した.また,視野障害が進行しすでに中期.後期緑内障の患者,今後も進行が速いと予測される患者に対しては観血的手術の提案も行い,観血的治療およびSLTの有効性およびリスクに関し十分かつ丁寧に説明を行った.患者にはインフォームド・コンセントをとり,文書にて同意を得た.SLTのレーザー装置はエレックス社製タンゴオフサルミックレーザーを使用した.照射条件は,0.4CmJより開始し,気泡が生じる最小エネルギーとした.全例隅角全周に照射した.照射前と照射後にアプラクロニジン塩酸塩点眼薬を投与した.SLT施行後も点眼薬,内服薬は原則として継続使用とした.術前眼圧と術C1.2週間後,1カ月後,3カ月後,6カ月後,9カ月後,12カ月後の眼圧を比較した.SLT後に薬剤の変更または投薬数を増加,緑内障観血的手術施行,SLTを再度施行,あるいは眼圧下降率C20%未満がC3回続いた場合を死亡と定義し,Kaplan-Meier法により生存率を検討した.また,SLTの治療成績に影響を与える因子(年齢,性別,術前眼圧,緑内障病型,術前投薬数)をCCox比例ハザードモデルを用いて検討した.調査期間内に両眼CSLTを施行した症例では,先にCSLTを施行した眼を解析した.SLT術前後の眼圧の比較にはCANOVA,Bonferroni/Dunn検定を用いた.統計学的検討における有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障した.CII結果1照射エネルギーはC0.7C±0.2CmJ(0.4.1.1CmJ),照射数はC117.8±17.9発(88.199発)であった.術後眼圧の推移を図1に示す.術前眼圧(199眼)19.9C±6.4mmHgから1.2週間後(178眼)にはC18.4C±6.9CmmHg,1カ月後(78眼)にはC17.3±7.2mmHg,3カ月後(88眼)にはC15.4C±4.1CmmHg,6カ月後(61眼)にはC15.5C±5.3CmmHg,9カ月後(51眼)にはC15.1C±3.6mmHg,12カ月後(47眼)にはC15.5C±5.1CmmHgと,眼圧は術前と比較し,1.2週間後以外の各時点で有意に下降した(1カ月後Cp<0.05,3,6,9,12カ月後Cp<0.0001).Kaplan-Meier法による累積生存率はC6カ月後でC30%,12カ月後でC24%であった(図2).SLT6カ月後までに死亡した症例の内訳は,眼圧下降率C20%未満C84眼,薬剤追加または変更C24眼,緑内障観血的手術(線維柱帯切除術)28眼,SLT再施行C3眼であった.12カ月後までに死亡した症例の内訳は眼圧下降率C20%未満C89眼,薬剤追加または変更C28眼,緑内障観血的手術(線維柱帯切除術)30眼,SLT再施行4眼であった.SLT12カ月後の点眼薬・内服薬使用状況は,変更なしC44眼,SLT施行前より減少C3眼であった.また,生存した症例のC12カ月間の平均受診回数はC6.2C±1.9回であった.Cox比例ハザードモデルによる分析では,年齢,性別(女性を基準とする),術前眼圧,緑内障病型(POAGを基準とする),術前投薬数は治療成績に影響を与える有意な因子ではなかった(表1).SLT施行C1.2週間後にC5mmHg以上の眼圧上昇をC199眼中C12眼(6.0%)で認めたが,薬剤の変更・追加あるいは経過観察のみで下降を得た.その他に重篤な合併症を認めなかった.CIII考按本研究は術前点眼数がC4.5C±1.1剤と多剤併用症例(術前C4剤以上使用例がC82.9%)に対しCSLTを隅角全周に施行した結果である.同様に多剤併用例に対しCSLTの効果を報告したCMikiら9),齋藤ら10)の報告との比較を表2に示した.術30**p<0.00011**p<0.0525****.8****眼圧値(mmHg)累積生存率.6.4.20024681012時間(月)図2Kaplan-Meier法による累積生存率図1術後平均眼圧の推移表1SLTの治療成績に影響を与える因子ハザード比95%信頼区間p値性別(女性を基準とする)C0.8790.656.C1.178C0.3876年齢C0.9970.986.C1.009C0.6421術前投薬数C1.0310.900.C1.181C0.6637術前眼圧C0.9950.968.C1.023C0.7276緑内障病型(広義原発開放隅角緑内障を基準とする)落屑緑内障C0.9150.200.C3.831C0.6947原発閉塞隅角緑内障C0.6530.157.C2.716C0.5578ステロイド緑内障C0.4730.061.C3.647C0.4725ステロイド以外の続発緑内障C1.1430.261.C5.007C0.8590表2術前多剤使用例に対するSLTの成績MikiAら9)齋藤ら10)本研究症例数75眼34眼199眼術前眼圧C薬剤数C23.9±6.2CmmHgC3.4±1.3剤C20.9±3.4CmmHgC3.5±0.7剤(3.C5剤)C19.9±6.4CmmHg4.5±1.1剤(0.C6剤)照射範囲全周半周全周死亡定義下降率C20%未満光覚喪失SLT再施行緑内障観血的手術Out.owpressure下降率C20%未満投薬数増加SLT再施行緑内障観血的手術下降率C20%未満投薬変更/増加SLT再施行緑内障観血的手術生存率(1C2カ月後)14.2%23.2%24%前薬剤数は本研究がもっとも多く,Mikiらの報告9)では続発緑内障が約C3割含まれ本研究と患者背景が異なるため術前眼圧がやや高いこと,齋藤らの報告10)では術前眼圧は本研究と同程度であるが照射範囲が隅角半周であること,また両報告とも死亡定義が一部異なるといった違いがあるが,生存率は本研究とほぼ同等であった.Mikiらの報告9)ではSOAGやCXFGよりCPOAGで成功率が高い傾向と,術前点眼数が増えると成功率が下がる傾向を指摘している.齋藤らの報告10)では過去の報告とのCSLT治療成績を比較しており,隅角半周照射の報告ではあるものの,術前投薬数が少ないほど眼圧下降率は良好なものが多かった.新田ら11)は正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としてのCSLTの有用性を報告しており,また近年,未治療の緑内障に対する初期治療としてのCSLTの成績が海外からも報告され7),薬剤数が少ないほどCSLT後の眼圧下降率,生存率が良好という報告が多い7,11).本研究でも治療成績に影響を与える因子を検討したがいずれも有意ではなかった.その理由は不明であり,本研究からはCSLTがどのような症例に有効かを証明できなかった.本研究ではCSLT後に重篤な合併症を認めなかったものの,SLT施行C1.2週間後にC5CmmHg以上の眼圧上昇をC6.0%で認めた.一過性の眼圧上昇はC4.27%と報告されている12).本研究で一過性の眼圧上昇を認めたC12眼のうち,広義POAGが8眼(POAG全168眼のうち4.8%),XFGが4眼(XFG全C26眼のうちC15.4%)と割合としてはCXFGのほうが多かった.POAGとCXFGに対するCSLTの治療成績を直接比較した報告では,早期眼圧上昇や術後炎症の割合は有意差がなかったが13),XFGに対するCSLT後の眼圧上昇に対し観血的手術を要した報告も存在する12).また,隅角色素沈着が高度な例での眼圧上昇が報告されており12),XFGに対するSLTでは,色素沈着の程度に応じ照射パワーを調整する,術後経過観察を頻回に行うなどしてより注意する必要があると考えられた.本研究の限界として,後ろ向き研究であること,全例で未治療時のベースライン眼圧を把握できていないこと,そのため狭義CPOAGおよび正常眼圧緑内障とに区別できなかったこと,正常眼圧緑内障単独では治療成績を検討できていないこと,複数の医師がCSLTを行い症例選択や治療プロトコールが厳密に決定されていないことなどがあげられる.また,眼圧は各観察ポイントを設定したが,観察ポイントに来院していない症例ではそのポイントの眼圧値のデータが欠損となった.たとえばC12カ月後では,生存しているが眼圧値がない症例がC2眼であった.12カ月後に薬剤変更のため死亡したC1例は眼圧値があるので合計C47眼で眼圧を検討した.本研究では多剤併用緑内障症例に対するCSLTの術後C1年間の成績を報告した.平均眼圧は術後C6カ月およびC1年で約20%下降を認めた.一過性の眼圧上昇以外の重篤な合併症を認めなかったことおよび入院を要さない治療であることから,事前の十分な説明のもと,施行を考えてよい治療法と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WiseCJB,CWitterSL:ArgonClaserCtherapyCforCopen-angleglaucoma:ACpilotCstudy.CArchCOphthalmolC97:319-322,C19792)HoskinsCHDCJr,CHetheringtonCJCJr,CMincklerCDSCetal:CComplicationsCofClaserCtrabeculoplasty.COphthalmologyC90:796-799,C19833)LeveneR:MajorCearlyCcomplicationsCofClaserCtrabeculo-plasty.OphthalmicSurgC14:947-953,C19834)LatinaCMA,CParkC:SelectiveCtargetingCofClaserCmesh-workcells:invitroCstudiesofpulsedandCWlaserinter-actions.ExpEyeResC60:359-371,C19955)KramerTR,NoeckerRJ:ComparisonofthemorphologicchangesCafterCselectiveClaserCtrabeculoplastyCandCargonClaserCtrabeculoplastyCinChumanCeyeCbankCeyes.COphthal-mologyC108:773-779,C20016)LatinaCMA,CSibayanCSA,CShinCDHCetal:Q-switchedC532CnmNd:YAGClasertrabeculoplasty(selectiveClasertrabeculoplasty):aCmulticenter,Cpilot,CclinicalCstudy.COph-thalmologyC105:2082-2088,C19987)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticentrerandomisedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20198)菅原道孝,井上賢治,若倉雅登ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科C27:835-838,C20109)MikiA,KawashimaR,UsuiSetal:TreatmentoutcomesandCprognosticCfactorsCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCreceivingCmaximal-tolerableCmedicaltherapy.JGlaucomaC25:785-789,C201610)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌C111:953-958,C200711)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌C117:335-343,C201312)BettisCDI,CWhiteheadCJJ,CFarhiCPCetal:IntraocularCpres-surespikeandcornealdecompensationfollowingselectivelasertrabeculoplastyinpatientswithexfoliationglaucoma.CJGlaucomaC25:e433-e437,C201613)KaraCN,CAltanCC,CYukselCKCetal:ComparisonCofCtheCe.cacyCandCsafetyCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCinCcaseswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfo-liativeglaucoma.KaohsiungJMedSciC29:500-504,C2013***

ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ ブリンゾラミド配合点眼薬への変更後の長期経過

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1085.1088,2023cブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更後の長期経過塩川美菜子*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-TermE.cacyofSwitchingtoBrimonidine/BrinzolamideFixedCombinationfromConcomitantUseMinakoShiokawa1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BBFC)のC1年間の効果と安全性を後向きに調査する.対象および方法:ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬の併用治療からCBBFCへ変更した原発開放隅角緑内障,高眼圧症C116例を対象とした.変更前と変更C12カ月後までの眼圧,Humphrey視野のCmeandeviation(MD)値を比較した.副作用と脱落例を調査した.結果:眼圧は変更前C14.3C±2.9CmmHg,変更3,6,9,12カ月後がC14.0C±3.1,C14.0±3.1,14.2C±3.2,14.1C±3.2CmmHgで維持された.MD値は変更前C.10.12±6.11CdB,12カ月後C.9.63±6.13CdBで同等だった.副作用はC8例(6.9%)で出現し,掻痒感,結膜充血などだった.脱落例はC32例(27.6%)あった.結論:BBFCは,1年間にわたり併用治療と同等の眼圧,視野を維持でき,安全性もほぼ良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheC1-yearCoutcomesCandCsafetyCofCbrimonidine/brinzolamideC.xedcombination(BBFC)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhypertension.PatientsandMethods:Thisretrospectivestudyinvolved116patientswithPOAGorocularhypertensionwhosetreatmentwasswitchedCfromCtheCconcomitantCuseCofCbrimonidineCandCbrinzolamideCtoCBBFC.CIntraocularpressure(IOP)andCmeandeviation(MD)IOPvaluesusingtheHumphreyvisual.eldtestprogramwerecomparedatbaselineanduptoC12CmonthsCpostCswitch.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCalsoCinvestigated.CResults:IOPCwasCfoundCtoCbeCmaintainedat3,6,9,and12monthspostswitch(i.e.,14.0±3.1,C14.0±3.1,C14.2±3.2,CandC14.1±3.2CmmHg,respec-tively)comparedwithatbaseline(14.3C±2.9mmHg)C.TheMDIOPvalueatbaselineandat12monthspostswitchwere.10.12±6.11CdBand.9.63±6.13CdB,respectively,thusillustratingnosigni.cantdi.erencebetweenthetwo.In8(6.9%)ofthe116patients,adversereactionssuchasitching,conjunctivalhyperemia,andotherdidoccur,andin32(27.6%)ofthe116patients,administrationwasdiscontinued.Conclusion:BBFCe.ectivelymaintainedIOPandvisual.eldsequivalenttothoseofconcomitanttherapyovera1-yearperiod,andtheoverallsafetywassatis-factory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1085.1088,C2023〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,眼圧,副作用,変更,長期.brimonidine/brinzolamide.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,switching,long-term.CはじめにsiveCglaucomasurgery:MIGS),チューブシャント手術な緑内障は進行性,非可逆性の視神経症で,現在のところエどが普及してきているものの,緑内障の主たる治療が薬物治ビデンスのある唯一の治療は眼圧下降である1).近年,レー療であることは現時点では変わらない.内服薬であれば多剤ザー線維柱帯形成術や低侵襲緑内障手術(minimallyCinva-を一度に服用することが可能であるが,点眼薬の場合はC5分〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANC以上の点眼間隔をあけなければならず,薬剤数が多いほど時間がかかり日常生活に大きな負担を強いることとなる.緑内障診療においては点眼治療の継続率が悪いことが課題である2)が,多剤併用症例では使用点眼薬剤数が増加するに従ってアドヒアランスが低下することも報告されている3).点眼指導,アドヒアランスの向上が疾患の進行抑制に重要であることが緑内障診療ガイドラインにも記されている1).アドヒアランス向上をめざして配合点眼薬が開発され,わが国では現在C9種類の配合点眼薬が使用可能となった.なかでもブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド)はC2020年C6月に発売されたCb遮断薬を含まない数少ない配合点眼薬の一つで,心疾患,慢性閉塞性呼吸器疾患,高齢者などCb遮断薬使用が禁忌または望ましくない患者への有用性が期待される.井上眼科病院(以下,当院)ではブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬をC3.6カ月使用時の効果と安全性について検討し報告した4,5).今回はブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬の併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更後C1年間の眼圧下降効果と安全性を検討したので報告する.CI対象および方法対象は当院に通院中の原発開放隅角緑内障と高眼圧症で,2020年C6月.2021年C6月にC0.1%ブリモニジン点眼薬とC0.1%ブリンゾラミド点眼薬の併用治療からC0.1%ブリモニジン/0.1%ブリンゾラミド配合点眼薬に変更したC116例C116眼とした.方法はブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用治療からCwashout期間を設けずにブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更した症例について,診療録より後ろ向きに調査した.変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧変化,変更前と変更C12カ月後のCHumphrey視野検査(30-2SITAstandardプログラム)のCmeandeviation値(MD値)の変化,副作用と脱落例を検討項目とした.眼圧については眼圧変化量をC2mmHg以上下降,2mmHg未満の変化,2mmHg以上上昇に分けた調査も行った.統計学的解析はC1例C1眼で行った.両眼該当症例は投与前眼圧の高い眼,眼圧が同値の場合は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧変化の解析にはCANOVAとCBonferroniCandDunn検定を用いた.変更前と変更C12カ月後のCMD値の比較にはCWil-coxonの符号順位検定を用いた.統計学的検討における有意水準はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院倫理審査委員会で承認を得た.研究情報は院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果1.患者背景116例中,男性はC62例,女性はC54例,平均年齢はC65.5C±11.8歳(33.89歳)であった.病型は狭義原発開放隅角緑内障C96例,正常眼圧緑内障C17例,高眼圧症C3例であった.平均使用薬剤数はC4.3C±0.7剤(3.6剤)だった.配合剤はC2剤とカウントした.C2.眼圧変化眼圧変化を図1に示す.変更前平均眼圧はC14.3C±2.9mmHg,変更C3カ月後C14.0C±3.1CmmHg,6カ月後C14.0C±3.1mmHg,9カ月後C14.2C±3.2CmmHg,12カ月後C14.1C±3.2mmHgで,変化なく維持された.12カ月後の眼圧変化量は,変更前と比べてC2CmmHg以上下降C25例(29.4%),2CmmHg未満C37例(43.5%),2CmmHg以上上昇C23例(27.1%)だった(図2).2CmmHg未満C37例の内訳はC2CmmHg未満の上昇がC12例,不変C9例,2CmmHg未満の下降がC16例だった.C3.MD値MD値の変化を図3に示す.変更前CMD値はC.10.12±6.11dB,変更C12カ月後C.9.63±6.13CdBで変化はみられなかった(p=0.2895).C4.副作用・脱落副作用はC116例中C8例(6.9%)で出現した.内訳は掻痒感がC2例で変更C1カ月後,3カ月後に出現,結膜充血がC2例で変更C3カ月後,5カ月後に出現した.霧視が変更C3カ月後に,角膜障害が変更C4カ月後に,アレルギー性結膜炎が変更C6カ月後に,眼瞼炎が変更C9カ月後に各C1例出現した.8例中C6例は投与を中止した.中止により症状は改善した(表1).脱落はC116例中C32例(27.6%)あった.内訳は眼圧上昇が9例,薬剤追加がC8例,副作用がC6例,併用薬による副作用がC5例,白内障手術がC2例,転院がC2例だった.CIII考按ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はわが国で行われた臨床試験において良好な眼圧下降と安全性が報告された6,7).市販後のブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の効果については,当院だけでなく他施設からも報告されている8.10).短期的検討としてCOnoeらは,ブリンゾラミドとブリモニジンの併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更したC22例を対象に行った研究で,眼圧は変更前がC15.0C±4.1CmmHg,変更C3カ月後がC14.8CmmHgで同等で,3カ月後の角膜上皮障害の軽度の悪化がみられたものの結膜充血に変化はなかったと報告した8).高田らは併用治療から配合点眼薬へ変更したC33例を対象とし,眼圧は変更前がC13.5C±2.3CmmHg,変更C3カ月後がC12.9C±3.1CmmHgで有意差はなく,副作用はなかったと報告した9).当院で行20NS18162mmHg以上下降眼圧(mmHg)25例,29.4%121014.3±2.914.0±3.114.0±3.114.2±3.214.1±3.28n=116n=115n=99n=92n=85642n=850変更前変更変更変更変更3カ月後6カ月後9カ月後12カ月後図1変更前後の眼圧眼圧は変更前後で変化はなかった(NS).C図2変更12カ月後の眼圧変化量2CmmHg未満(3C7例)の内訳は,2CmmHg未満上昇12例,不変9例,C2CmmHg未満下降16例だった.0NS副作用表1変更後の副作用発現時期継続・中止MD値(dB)-53カ月後継続1例-10結膜充血2例3カ月後継続1例5カ月後中止1例霧視1例3カ月後中止-20変更前変更12カ月後角膜障害1例4カ月後中止図3変更前後のMD値アレルギー性結膜炎1例6カ月後中止MD値は変更前後で変化はみられなかった(p=眼瞼炎1例9カ月後中止-15-10.12±6.11(n=80)-9.63±6.13(n=52)0.2895).った併用治療から配合点眼薬への変更後C3カ月の調査でも,眼圧は変更前はC14.2C±3.0mmHg,変更C3カ月後はC14.9C±4.4CmmHgで変化はなかった4).長期的効果で山田らは併用治療から配合点眼薬に変更した8例C15眼を対象として,眼圧は変更前C12.9C±2.1CmmHg,変更C3カ月後C13.6C±2.3mmHg,変更C6カ月後C12.6C±1.7CmmHgで有意差はなく,副作用として霧視がC2例,眼瞼皮膚炎がC1例出現したと報告した10).当院ではC102例を対象にブリンゾラミドとブリモニジンの併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更C6カ月後の調査を行い,眼圧は変更前がC14.4C±3.0mmHg,変更C6カ月後がC13.9C±2.8CmmHgと同等,副作用はC7例,6.9%に出現し,結膜充血がC3例,掻痒感がC2例,霧視がC1例,アレルギー性結膜炎を伴う眼瞼炎がC1例あったと報告した5).今回はC1年間の調査でわが国における既報はないものの,3カ月,6カ月後と同様にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更後も眼圧は変わらず維持され,併用治療と同等副作用はC8例(6.9%)で出現したが,6例は投与中止により症状が改善した.の効果を得られた.変更C12カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg以上下降がC29.4%,2CmmHg未満がC43.5%,2CmmHg以上上昇がC27.1%であった.併用治療よりも眼圧下降が得られた症例のなかには,点眼本数が減ったことにより点眼遵守が良好となった症例がある可能性が示唆された.一方,配合剤のデメリットとして,1剤の点眼忘れがC2成分の眼圧下降効果減少を招くことがあげられる.眼圧が上昇した症例のなかにはもともとアドヒアランスが不良で,点眼本数が減っても点眼遵守につながらなかった症例も含まれている可能性がある.今後は点眼状況の聴取などアドヒアランスに重点をおいた前向き調査も検討の必要があると考えた.MD値はC1年間では変更前後に変化はなかった.さらに長期的な経過観察が必要であるが,緑内障は疾患の性質上,治療により目標眼圧に達していても視野障害が悪化する症例は存在するため11),長期になるほど点眼薬との関連を考察することは困難となることも予想される.副作用はC8例(6.9%)に出現し,内訳は掻痒感,結膜充血,霧視,角膜障害,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎であった.わが国で行われたブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の臨床試験では,ブリモニジンからの変更で副作用の出現が12.9%6),ブリンゾラミドからの変更でC8.8%7),内訳はいずれも霧視,結膜充血,角膜障害,アレルギー性結膜炎,眼刺激などで,重篤な副作用はなかったと報告されている.当院で行ったC6カ月の調査における副作用の出現はC6.9%5)で,今回はC1年の調査であったが副作用の発現頻度の増加はなく内訳も既知のものだった.長期使用による新たな事象もみられず比較的安全に使用できる点眼薬であることが示唆された.脱落がC32例(27.6%)あった.内訳は眼圧上昇,薬剤追加,副作用,併用薬による副作用,白内障手術,転院だった.眼圧上昇のC9例中C6例は他の薬剤を追加,3例は患者の希望によりブリモニジンとブリンゾラミドの併用治療に戻した.薬剤追加したC8例は眼圧に変化はないものの,さらなる眼圧下降を期待して他の点眼薬を追加していた.副作用による脱落6例はブリモニジンとブリンゾラミドの併用治療に戻し,ブリモニジンかブリンゾラミドを中止した症例だった.併用薬による副作用C5例は結膜充血,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎で併用していたリパスジルの副作用を疑い,リパスジルを中止した症例だった.配合点眼薬のデメリットとして含有する2成分のどちらの成分の副作用か不明になることがある.利便性やアドヒアランスの問題はあるものの,最初にブリモニジンとブリンゾラミド併用治療を行い,十分に効果と安全性を確認してから配合点眼薬へ変更するほうが患者の理解も得やすいかもしれない.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はC1年間にわたり併用治療と同等の眼圧下降効果が得られ安全性も良好で,とくにCb遮断薬の使用が望ましくない患者に対する緑内障治療に有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20143)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20094)井上賢治,國松志保,石田恭子ほか:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果.あたらしい眼科39:226-229,C20225)InoueK,Kunimatsu-SanukiS,IshidaKetal:Intraocularpressure-loweringCe.ectsCandCsafetyCofCbrimonidine/Cbrinzolamide.xedcombinationafterswitchingfromothermedications.JpnJOphthalmolC66:440-441,C20226)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科37:1289-1298,C20207)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科37:1299-1308,C20208)OnoeCH,CHirookaCK,CNagayamaCMCetal:TheCe.cacy,CsafetyCandCsatisfactionCassociatedCwithCswitchingCfrombrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CtoCaC.xedCcombi-nationCofbrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CinCglau-comapatients.JClinMedC10:5228,C20219)高田幸尚,住岡孝吉,岡田由香ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド併用使用から配合点眼薬へ変更後の短期の眼圧変化.眼科64:275-280,C202210)山田雄介,徳田直人,重城達哉ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬の有効性について.臨眼C76:695-699,C202211)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C1998***

スクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と 緑内障性眼底変化の有無

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):963.967,2023cスクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と緑内障性眼底変化の有無瀧利枝丸山勝彦杉浦奈津美八潮まるやま眼科CCornealHysteresisValuesObtainedbyOcularResponseAnalyzerforScreeningExaminationswithorwithoutGlaucomatousFundusChangeToshieTaki,KatsuhikoMaruyamaandNatsumiSugiuraCYashioMaruyamaEyeClinicC目的:スクリーニング目的で行ったCOcularResponseAnalyzer(ORA)での眼圧検査で測定された角膜ヒステリシス(CH)の値を,眼底の緑内障性変化のある群とない群で比較すること.対象および方法:一定期間内にスクリーニングとしてCORAを用いて眼圧を測定し,かつ,眼底写真撮影と光干渉断層計(OCT)検査が行われている眼を対象とした.眼底写真とCOCTの結果から眼底の緑内障性変化の有無を判定し(あり群,なし群),両群のCCHの値を比較した(t-検定).結果:127例(平均年齢C53.5C±18.0歳),192眼が解析対象となった.あり群はC53眼,なし群はC139眼だった.あり群となし群のCCHはそれぞれC9.6C±1.4(6.8.13.3)mmHg,10.2C±1.2(6.9.13.3)mmHgとなり,あり群のほうが有意に低かった(p=0.003).結論:眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは低値だが,分布は重複する.CPurpose:ToCinvestigateCcornealChysteresisCvaluesCobtainedCbyCOcularResponseCAnalyzer(ORA)(Reichert)Cforscreeningexaminationpurposeswithorwithoutglaucomatousfunduschange.SubjectsandMethods:Weret-rospectivelyanalyzedthemedicalrecordsofeyesinwhichintraocularpressure(IOP)wasmeasuredbyORAforscreeningexaminations,andfundusphotographsandopticalcoherencetomographyimageswereobtained.Cornealhysteresis(CH)wascomparedbyt-testbetweeneyeswith(positivegroup)andwithout(negativegroup)glauco-matousCfundusCchange.CResults:ThisCstudyCinvolvedC192CeyesCofC127patients(meanage:53.5C±18.0years)C.CInCtheCpositivegroup(n=53eyes)andCtheCnegativegroup(n=139eyes)C,CtheCmean±standarddeviation(range)ofCCHwas9.6±1.4CmmHg(6.8to13.3mmHg)and10.2C±1.2CmmHg(6.9to13.3mmHg)C,respectively(p=0.003)C.CCon-clusions:OurC.ndingsCrevealedCthatCtheCmeanCCHCwasClowerCinCtheCpositiveCgroupCeyesCthanCinCtheCnegativeCgroupeyes,however,therewasanoverlapinthemeasureddistributions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):963.967,C2023〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,角膜ヒステリシス,スクリーニング,緑内障,眼圧.OcularResponseAnalyzer,cornealhysteresis,screeningexamination,glaucoma,intraocularpressure.Cはじめにライカート社のCOcularResponseCAnalyzer(ORA)は,緑内障の発症1.3),あるいは進行4.9)に影響するとされる角膜ヒステリシス(cornealhysteresis:CH)が測定できる眼圧計である.また,ORAは非接触型眼圧計であるため日常診療でスクリーニング用眼圧計として使用されることもあり,スクリーニング目的でCORAを用いた場合でも約C8割の症例で信頼性のある測定結果が得られることがわかっている10).これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている患者を選択して対象としたものが多く,緑内障点眼薬による治療介入後の測定値を解析した報告も少なくない.また,不特定多数に対するスクリーニング検査で測定されたCCHでの検討は行われていない.さらに,ほとんどの〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC報告は視野異常を有する緑内障眼を対象としているが,緑内障性視神経症の病態は視野異常が検出される前から存在し,眼底に特徴的な変化が観察されることがわかっている11).本研究の目的は,スクリーニング目的で行ったCORAによる眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することである.CI対象および方法2021年C3月C1日.5月C15日に,八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3(ライカート社)を用いて眼圧測定を行ったC747例(男性C287例,女性C460例,平均年齢C53.5±20.4歳,レンジC6.94歳),1,488眼(右眼C745眼,左眼C743眼)の中で,WaveformScore6以上の結果が得られ,眼底写真撮影と光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)検査が行われている眼を対象とした.レーザー治療を含む内眼手術歴のある眼や,緑内障点眼薬を使用中の眼は対象から除外した.ORAは患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.なお,同一眼に別の日にも測定を行っている場合には初日の結果を解析に用いた.眼底写真は無散瞳眼底カメラCAFC-330(ニデック)を用い,散瞳下,あるいは無散瞳下で後極部を画角C45°で撮影した.OCTはCRS-3000Advance(ニデック)を用い,同様に散瞳下,あるいは無散瞳下で黄斑マップを撮影後,緑内障解析を行った.なお,OCT測定時の信号強度指数の値は問わなかった.同一検者(丸山)が診療録データの眼底写真とCOCT結果を読影し,眼底の緑内障性変化の有無を判定した.眼底の緑内障性変化は,眼底写真で視神経乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の菲薄化,それに伴う網膜神経線維層欠損と,OCT網膜内層厚解析で神経線維の走行に沿った菲薄化を認め,かつ,網膜神経線維層欠損を生じうる緑内障以外の眼底疾患(網膜静脈分枝閉塞症,糖尿病網膜症,高血圧性眼底,腎性網膜症など)が除外できることにより判定した.眼底読影の結果,緑内障性変化の有無が明らかな眼のみを抽出し,緑内障性変化を認める眼(あり群)と認めない眼(なし群)で,等価球面度数,最高矯正視力(logMAR)を比較した(t-検定).また,ORAで測定されたCGoldmann圧平眼圧計に相当する眼圧値(IOPg),CHをもとに補正された眼圧値(IOPcc),CHの分布の差を検討し(F-検定),数値を比較した(t-検定).なお,緑内障以外の他の疾患があっても,明らかに緑内障性変化を合併していると思われる眼はあり群と判定した.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).CII結果スクリーニングとしてCORAを用いて眼圧測定を行った1,488眼の中で,WaveformScoreがC6以上の結果が得られた眼はC1,245眼あり,その中で内眼手術歴のある眼はC663眼あった.残りのC582眼の中で,読影可能な眼底写真撮影とOCT検査が行われている眼はC341眼あったが,緑内障性変化の有無が判定できない眼がC149眼あり,最終的にC127例(平均年齢C53.5C±18.0歳,レンジC9.87歳,男性C46例,女性C81例),192眼が解析対象となった.あり群はC40例C53眼,なし群はC89例C139眼だった.なお,2例は片眼があり群に,片眼はなし群に組み入れられていた.すべての眼にオートレフケラトメータ(ARK-1s,ニデック)を用いた屈折検査と,視力検査が行われていた.あり群となし群の屈折(等価球面度数)はそれぞれC.2.11±4.15D(レンジC.17.13.+4.00D),.2.13±3.07D(レンジC.8.75.+5.00D)であり,差はなかった(p=0.98).また,最高矯正視力(logMAR)もそれぞれC.0.01±0.11(レンジC.0.18.0.30),.0.03±0.14(レンジC.0.30.0.70)と差はなかった(p=0.26).あり群,なし群のIOPg,IOPcc,CHのヒストグラムを図1に示す.いずれのパラメータもあり群となし群の間に分布の差はなかった(IOPg:p=0.17,IOPcc:p=0.16,CH:p=0.09).あり群,なし群のCIOPg,IOPcc,CHの箱ひげ図を図2に示す.あり群となし群のCIOPgはそれぞれC15.7C±3.3CmmHg(レンジC10.2.24.3CmmHg),16.2C±3.9CmmHg(レンジC8.1.29.8CmmHg)で差はなかった(p=0.42).また,IOPccはそれぞれC17.0C±2.7CmmHg(レンジC12.8.24.0CmmHg),16.8C±3.2CmmHg(レンジC10.5.28.3CmmHg)となり,やはり差はなかった(p=0.65).一方,CHはC9.6C±1.4CmmHg(レンジC6.8.13.3CmmHg),10.2C±1.2CmmHg(レンジC6.9.13.3CmmHg)となり,あり群のほうがなし群より有意に低かった(p=0.003).CIII考按本研究は,スクリーニング目的で行ったCORAでの眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障変化の有無で比較した初めての報告である.測定値への影響を除外するため,内眼手術や緑内障点眼薬による治療介入が行われていない眼を対象に検討を行った.その結果,眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは全体としては低値だが,測定値のレンジは重複することがわかった.これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている症例を選択して対象としたものが多い.Abitbolら1)は,点眼治療中の緑内障眼C58眼(開放隅角C88%,閉塞隅角C12%,正常眼圧緑内障なし)と正常眼C75眼のCHを比較した結果,緑内障眼C8.77C±1.4CmmHg(レンジC5.0.11.3CmmHg)に対して正常眼はC10.46C±1.6CmmHg(レンジ4030201006.97.98.99.910.911.912.9(mmHg)図1OcularResponseAnalyzerで測定された各パラメータのヒストグラムa:IOPg,b:IOPcc,c:角膜ヒステリシス(CH).あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.08.09.010.012.013.09.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)c509.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)b50a50あり群なし群4034眼数眼数眼数4030201003020100~38~~~~~~~~~~10.012.014.016.018.020.022.024.026.010.012.014.016.018.020.022.024.026.0~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(mmHg)IOPg(mmHg)IOPcc(mmHg)CH353535303030252525202020151515101010555000あり群なし群あり群なし群あり群なし群図2あり群,なし群のIOPg,IOPcc,角膜ヒステリシス(CH)の箱ひげ図あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.1.14.9CmmHg)と,緑内障眼のほうが有意に低かったとしている.また,Hirneisら2)は,点眼治療中の片眼性の原発開放隅角緑内障C18例と僚眼のCCHを比較しており,緑内障眼C7.73C±1.46mmHgに対して僚眼はC9.28C±1.42CmmHg(レンジ未記載)と,緑内障眼のほうが有意に低値だったとしている.さらにCKaushikら3)は,すでに診断がついた緑内障外来を受診中のCGlaucomaClikedisc101眼,高眼圧症C38眼,原発閉塞隅角症C59眼,原発開放隅角緑内障(狭義)36眼,正常眼圧緑内障C18眼の眼圧,ならびにCCHをはじめとする角膜の特徴を正常コントロール71眼と比較している(全症例手術歴や点眼使用なし).その結果,原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障のCCHはそれぞれC7.9CmmHg(レンジ未記載,95%信頼区間C6.9.8.8CmmHg),8.0CmmHg(95%信頼区間C7.2.8.8CmmHg)であり,正常眼C9.5CmmHg(95%信頼区間C9.2.9.8CmmHg)に比べ,有意に低かったと報告している.本研究でもあり群のCCHはなし群より低い結果となったが,既報では測定値のレンジやC95%信頼区間をみてみると緑内障眼は対象全体が低めに測定されているのに対し,本研究ではあり群となし群の測定値のレンジは重複した.その理由として,本研究でのあり群の臨床背景が影響していると考えられる.本研究では組み入れの条件に視野異常の有無を問わなかったため,あり群のなかに前視野緑内障が含まれていたと予想され,また,内眼手術歴や点眼治療中の眼を除外しているため,多くの未発見,あるいは未治療の症例が解析対象となった.これらの要因が関与して後期の症例が除外され,早期の症例が多く含まれたため,本研究のあり群のCCHは既報より高く測定された可能性がある.スクリーニングとしてCCHが測定された不特定多数の症例を対象とした本研究の結果には意義がある.緑内障の危険因子の一つとしてCCHが低いことは緑内障診療ガイドラインに明記されているが12),日常臨床での緑内障の発見の機会を考えたとき,スクリーニングとして視力,眼圧,前眼部細隙灯,眼底などの諸検査を行って,緑内障が疑われる場合は適宜検査を追加して診断をすすめていくのが通例である.スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,CHの測定値が低ければ緑内障の存在を疑う根拠になるが,測定値のレンジは正常眼と重複することから,それだけでは不十分であり,他の検査結果も加味して総合的に緑内障を疑う必要があることが確認できた.本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈には各種バイアスの影響を考慮しなければならない.まず,眼底所見の読影に関して本研究にはいくつかの特徴があるため,結果の解釈に制限がある.たとえば,他院からのデータがあれば当院を受診した際に改めて眼底写真やOCTを撮影していないことも多く,眼底写真とCOCTは緑内障が疑われた全例に行われたわけではない.また,読影は一人の検者が行っているため,所見の見逃しや判定の偏りが生じることは否定できない.さらに,視神経乳頭の立体観察を全例で行っているわけではないため,眼底写真やCOCTでも判定困難なごく早期の陥凹拡大を見逃している可能性がある.OCTの測定結果の精度を問わなかった影響も考えられるが,今回は精度によらず緑内障性変化の有無が明らかに判定できる症例のみを対象としたので影響は少ないと考えられる.本研究でCOCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚解析を用いなかった理由は,黄斑疾患の除外のためCOCTで乳頭部の撮影を行っていなくても黄斑部の撮影を行っている症例が多くあり,それらの症例を解析対象に加えなければとくに正常眼の眼数が著しく減少してしまうからであるが,乳頭周囲網膜神経線維層厚解析の結果を加味していないことにより診断の精度が低下している可能性はある.さらにまた,読影対象となった眼のうちC4割強は判定不能のため除外したことなどが結果に影響した可能性がある.眼底所見の読影以外でも,結果に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの要素がある.本研究の結果は,ORAでCWave-formScoreがC6以上の結果が得られ,内眼手術歴のない未治療の眼に限定したものである.さらに,ORAの測定条件が一定ではないことも影響していると思われる.たとえば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例などに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値はそのときの検者の判断に任せた結果である.今回は,3名の検者が測定を担当したが,検者ごとの結果は明らかではない.さらに,本研究はデザインの特性から,眼底の緑内障性変化の有無に影響する背景因子の交絡は排除できない.屈折や最高矯正視力には群間の差はなかったものの,緑内障の有病率は年齢とともに高い12)ことを反映し,年齢が結果に影響を与えている可能性はある.本研究の対象には片眼はあり群,片眼はなし群に組み入れられた症例がC2例存在しており,単純な比較は困難と考え検討は行っていないが,あり群はなし群より明らかに年齢の高い眼が多く含まれている.しかし,本研究の目的はスクリーニングとして測定されたCCHの値を眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することであり,交絡因子が影響している前提で,臨床像としての結果と解釈できると考える.このようにいくつかの問題点はあるが,スクリーニングとしてCCHの情報が加われば緑内障検出の精度の向上が期待できる.そして,将来的には緑内障の早期発見や進行の危険因子を有する患者の早期発見に貢献でき,重症化の回避などによる医療経済的効果に繋がる可能性があると考えられる.今後,さらに多数例を対象とした多施設での検証が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalCandCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:116-119,C20102)HirneisC,NeubauerAS,YuAetal:Cornealbiomechan-icsCmeasuredCwithCtheCocularCresponseCanalyserCinCpatientsCwithCunilateralCopen-angleCglaucoma.CActaCOph-thalmolC89:e189-e192,C20113)KaushikCS,CPandavCSS,CBangerCACetal:RelationshipCbetweencornealbiomechanicalproperties,centralcornealthickness,CandCintraocularCpressureCacrossCtheCspectrumCofglaucoma.AmJOphthalmolC153:840-849,C20124)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:LowerCcornealChys-teresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:209-213,C20125)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CornealChysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:aCprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:1533-1540,C20136)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CornealChysteresisCandprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.AmJOphthalmolC166:29-36,C20167)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:AprospectivelongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJOphthalmolC187:148-15,C20188)AokiCS,CMikiCA,COmotoCTCetal:BiomechanicalCglaucomaCfactorCandCcornealChysteresisCinCtreatedCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCtheirCassociationsCwithCvisualC.eldCprogression.InvestOphthalmolVisSciC62:4,C20219)MatsuuraM,HirasawaK,MurataHetal:TheusefulnessofCorvisSTTonometryandtheOcularResponseAnalyz-erCtoCassessCtheCprogressionCofCglaucoma.CSci.CRepC7:40798;doi:10.1038/srep40798,C201710)杉浦奈津美,丸山勝彦,瀧利枝ほか:スクリーニング用眼圧計としてCOcularCResponseCAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討.あたらしい眼科C39:959-962,C202211)WeinrebCRN,CFriedmanCDS,CFechtnerCRDCetal:RiskCassessmentCinCtheCmanagementCofCpatientsCwithCocularChypertension.AmJOphthalmolC138:458-467,C200412)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C2022***

原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術の中期成績 ─経過眼圧と視野変化

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):950.957,2023c原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術の中期成績─経過眼圧と視野変化柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CMid-termOutcomesofTrabeculectomyforPrimaryOpenangleGlaucoma-Follow-upIntraocularPressureandVisualFieldChangesMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後の経過眼圧と視野進行抑制効果について検討する.対象および方法:2012.2016年に永田眼科で原発開放隅角緑内障に対して線維柱帯切除術後を施行したC92眼のうち,術後C2年以上経過観察し,術前後にCHumphrey視野をC3回以上施行した症例で経過中水疱性角膜症,加齢黄斑変性の発症,追加緑内障手術を施行した症例を除くC26眼を対象とした.経過眼圧C12CmmHg以下群(15眼)とC12CmmHg超過群(11眼)で術前後CMDスロープを後ろ向きに比較検討した.結果:経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群の平均術後観察期間はそれぞれC60.4,68.7カ月,両群とも術後有意な眼圧下降を認め,経過中の平均眼圧下降率はそれぞれC46.9,44.0%であった.術前後CMDスロープ比較において,12CmmHg以下群ではC30-2,10-2視野とも術後有意に改善したが,12CmmHg超過群ではC30-2視野で統計的有意な改善がなかった.術前後視力比較でC12CmmHg以下群では中心視野障害の強い症例で視力低下傾向があった.結論:経過眼圧C12CmmHg以下群で術後CMDスロープは有意に改善したが,視力低下の傾向があった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCfollow-upCintraocularpressure(IOP)andCtheCe.cacyCofCtheCsuppressionCofCtheCdeteriorationCofCvisual.eld(VF)postCtrabeculectomyCforCprimaryCopenangleCglaucoma(POAG).CSubjectsandmethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofCPOAGCpatientsCwhoCunderwentCtrabeculectomyCbetweenCJanuaryC2012CandCDecemberC2016CatCNagataCEyeCClinicCandCwhoCcouldCbeCobservedCforCmoreCthanC2-yearspostoperativewithmorethan3reliablepre-andpostoperativeVFs.WeexcludedpatientswhodevelopedblurredCkeratoconus,Cage-relatedCmacularCdegeneration,CorCunderwentCadditionalCglaucomaCsurgeryCduringCtheCcourseofthestudy.Analyzedwere26eyes(Group1:15eyeswithanIOPof≦12mmHg;Group2:11eyeswithanCIOPCof>12CmmHg).CPre-andCpostoperativeCIOP,CglaucomaCmedications,Cmeandeviation(MD),CMDCslope,Candvisualacuity(VA)wasinvestigatedandcomparedbetweenthetwogroups.Results:InGroup1andGroup2,themeanCpostoperativeCfollow-upCperiodCwasC68.7CandC60.4Cmonths,Crespectively,CandCtheCmeanCpostoperativeCIOPCreductionCrateCwas44.0%Cand46.9%,Crespectively,CthusCshowingCsigni.cantCIOPCreductionCpostCsurgeryCinCbothCgroups.CInCtheCpre-andCpostoperativeCMDCslopeCcomparisons,CthereCwasCsigni.cantCpostoperativeCMDCslopeCimprovementinboththe30-2and10-2VFtestinGroup1,buttherewasnostatisticallysigni.cantimprovementinCtheC30-2CVFCtestCinCGroupC2.CInCtheCpre-andCpostoperativeCVACcomparisons,CVACtendedCtoCdecreaseCinCtheCpatientswithcentralVFdefectsinGroup1.Conclusions:Therewasasigni.cantimprovementinthepostopera-tiveMDslopeinGroup1,butVAtendedtodecreaseinthepatientswithcentralVFdefects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):950.957,C2023〕Keywords:線維柱帯切除術,MDスロープ,眼圧.trabeculectomy,meandeviationslope,intraocularpressure.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC950(102)はじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:LET)は優れた眼圧下降効果とともに,視野障害の進行を緩徐化することが多数報告1.5)されている.緑内障治療の目的は眼圧を十分に下降させ進行を遅延もしくは抑制することにあるが,病期や病型に応じて目標眼圧は異なり,進行した緑内障では目標眼圧をより低く設定する必要がある.AdvancedGlaucomaInterven-tionCStudy6)では,進行した開放隅角緑内障に対する治療後非進行群の平均眼圧はC12.3CmmHgであったと報告されている.今回,LET後の経過眼圧による視野進行の違いを検討するため,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglau-coma:POAG)に対するCLET後の,経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群における視野進行抑制効果について後ろ向きに比較検討した.CI対象および方法2012年C1月.2016年C12月に永田眼科において,POAGに対しCLETを施行した連続症例C92眼のうち,術後C2年以上経過観察し,術前後にCHumphrey視野検査CSITA-stan-dard30-2もしくは10-2を信頼性のある結果(固視不良<20%,偽陽性<33%,偽陰性<33%)でC3回以上測定できた症例で,経過中に視力や視野に影響のあった症例(水疱性角膜症・加齢黄斑変性症発症眼,追加緑内障手術施行眼)を除いたC26眼を対象とした.26眼について診療録から後ろ向きに,術前後の眼圧,緑内障治療薬数,Humphrey視野Cmeandeviation(MD)値,MDスロープ,目標眼圧をC12mmHg以下としたC6年生存率を検討した.さらにC26眼を経過眼圧によりC2群に分け,経過中の観察時点でC2回連続して12CmmHgを超えない群を「経過眼圧C12CmmHg以下群」,12mmHgを超える群を「12CmmHg超過群」とした.このC2群間で術前後の眼圧,緑内障治療薬数,眼圧下降率,MDスロープ,視力変化を比較検討した.LETの術式を以下に示す.上方円蓋部基底結膜切開後,C3.5Cmm×3.5mmの外層強膜弁(1/3層強膜)を作製した.0.04%マイトマイシンCCをC4分塗布し生理食塩水で洗浄後,強膜床にC3.5CmmC×2.5Cmmの内層強膜弁を作製し切除,強角膜切除窓を作製し周辺虹彩切除後,強膜弁をC2.4針縫合,結膜を角膜輪部で水平縫合し閉創した.検討項目は,術前の眼圧と緑内障治療薬数,術後1,3,6,12,18,24,30,36,42,48,54,60,66,72カ月目の眼圧と緑内障治療薬数,12CmmHg以下C6年生存率,眼圧下降率,術前後のCMD値とCMDスロープ,logMAR視力とした.緑内障治療薬数は,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤として計算し,合計点数を薬剤スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障治療薬の有無にかかわらず術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でC12CmmHgを超えた時点とした.術後のレーザー切糸とニードリングは死亡に含めず,眼圧値は処置前の値を採用した.解析方法として,術後眼圧と薬剤スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較による検定を行い,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成した.経過眼圧C12CmmHg以下群と超過群における患者背景の群間比較にはCt検定,Fisherの直接確立計算法を用い,群間の眼圧・薬剤スコア・眼圧下降率経過の比較にはCtwo-wayANOVAによる検定を行った.術前後CMDスロープ,logMAR視力の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,診療録を用いた侵襲を伴わない後ろ向き研究のためインフォームド・コンセントはオプトアウトによって取得され,永田眼科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号C2021-005).CII結果表1に全症例C26眼の患者背景を示す.平均年齢はC64.8C±13.1歳,術前平均薬剤スコアC3.7C±1.0による術前平均眼圧はC21.9C±6.6CmmHg,術前平均CMD値はCHumphrey30-2でC.19.2±7.3dB,術前後観察期間はそれぞれC86.7C±77.4カ月,C63.9±12.9カ月(すべて平均C±標準偏差)であった.26眼中,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)眼をC15眼含み,手術既往のなかった症例はC2眼であり,他は白内障もしくは緑内障手術既往眼であった.図1にC26眼の眼圧,薬剤スコア経過を示す.術C6年後の平均眼圧はC12.4C±6.8CmmHg,平均薬剤スコアはC0.8C±1.5であり,眼圧,薬剤スコアとも術後すべての観察期間で有意に減少した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).図2にCKaplan-Meier生命表解析を用いた生存曲線を示す.成功基準をC12CmmHg以下とした場合,術C6年後の生存率は46.3%であった.表2にC26眼における術前後CMDスロープ比較を示す.CHumphrey30-2(14眼)において平均CMDスロープ値は術前.1.24±1.6から術後C.0.07±0.51CdB/年,10-2(17眼)において術前.1.76±1.7から術後C.0.19±0.38CdB/年となり,術後有意にCMDスロープが改善した(p<0.05,CpairedCttest).表3にC26眼を経過眼圧によりC2群に分けたC12CmmHg以下群C15眼と超過群C11眼の患者背景を示す.術前眼圧に群間で有意差があったが,その他年齢,術前薬剤スコア,MD値,術前後観察期間,IOL眼の割合,手術歴に有意差はなかった.観察期間中にニードリングを必要とした症例の割合に2群で有意差があった.図3にC12CmmHg以下群と超過群の眼圧経過を示す.両群ともすべての観察期間で術後有意に下降し(p<0.01,表1患者背景眼数26眼年齢C64.8±13.1歳(C37.C83歳)男:女17:9術前眼圧C21.9±6.6CmmHg(1C3.C40mmHg)術前薬剤スコアC3.7±1.0(2.5)術前MD3C0-2(n)C.19.2±7.3CdB(C.0.62.C.31.94dB)(2C2眼)10-2(Cn)C.26.1±7.9CdB(C.1.15.C.33.98dB)(2C0眼)術前観察期間C86.7±77.4カ月(1C4.C263カ月)術後観察期間C63.9±12.9カ月(3C6.C72カ月)IOL:aphakia:phakia15:1:1C0眼白内障・緑内障手術歴なし2眼緑内障手術既往(重複あり)LOT21眼CLET5眼(range)(mean±SD)薬剤スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.MD:meandeviation,IOL:眼内レンズ挿入眼,aphakia:無水晶体眼,phakia:有水晶体眼,LOT:トラベクロトミー,LET:トラベクレクトミー.薬剤スコア眼圧(mmHg)3020100pre1122436486072(mean±SD)6420(mean±SD)観察期間(月)眼数262626262626262626232323231915図1眼圧・薬剤スコア経過眼圧,薬剤スコアとも術後すべての観察期間で有意に減少した(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C100ANOVA+Dunnett’stest),経過眼圧C12CmmHg以下群の経過中平均眼圧はC9.2CmmHg,超過群ではC14.2CmmHgであっC806046.3%4020001020304050607080生存期間(月)図212mmHg以下6年生存率12CmmHg以下C6年生存率はC46.3%であった.生存率(%)た.図4に薬剤スコアの経過を示す.両群ともすべての観察期間で術後有意に減少した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest)が,経過には群間で差があり(p<0.001,two-wayANOVA),12CmmHg以下群は有意に経過中点眼数が少なかった.図5に眼圧下降率の経過を示す.両群の眼圧下降率に有意差はなく(p=0.13,two-wayANOVA),12CmmHg以下群の経過中平均眼圧下降率はC46.9%,超過群ではC44.0%であ表2術前後MDスロープ術前視野術後視野術前(dB/年)術後(dB/年)p値観察期間(月)観察期間(月)*C115±95C57±1530-214眼C.1.24±1.6C.0.07±0.51C0.019(8.95)(36.87)*C87±71C56±2010-217眼C.1.76±1.7C.0.19±0.38C0.0005(20.235)(15.84)*:pairedttest(meanC±SD)(range)表3患者背景(12mmHg以下群と超過群)12mmHg以下12mmHg超過p値眼数15眼11眼年齢C69.0±10.3歳C59.2±14.8歳C0.06*男:女9:78:3C0.38+術前眼圧C18.5±3.9CmmHgC26.6±6.5CmmHgC0.0005*術前薬剤スコアC3.5±0.9C4.0±1.0C0.18*術前MD3C0-2(n)C.20.1±4.7CdB(1C3dB)C.17.8±10.1CdB(9dB)C0.16*10-2(Cn)C.26.5±5.4CdB(1C3dB)C.25.4±11.2CdB(7dB)C0.82*術前観察期間C96.2±76.8カ月C73.9±80.2カ月C0.48*術後観察期間C60.4±15.8カ月C68.7±4.9カ月C0.07*IOL:aphakia:phakia9:0:6眼6:1:4眼C0.49+白内障・緑内障手術歴なし2眼0眼C0.21+緑内障手術既往(重複あり)LOT12眼8眼CLET2眼3眼ニードリング1眼7眼C0.002+*:t-test,+:Fisher’sexacttest(meanC±SD)薬剤スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.MD:meandeviation,IOL:眼内レンズ挿入眼,aphakia:無水晶体眼,phakia:有水晶体眼,LOT:トラベクロトミー,LET:トラベクレクトミー.C26.6±6.53025201535+1059.9±2.90pre1361218243036424854606672(mean±SD)観察期間(月)眼圧(mmHg)12mmHg以下1515151515151515151212121210812mmHg超過1111111111111111111111111197図3眼圧経過両群とも術後有意に下降したが(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),眼圧経過には有意差があった(+p<0.001,twowayANOVA).経過眼圧C12CmmHg以下群の経過中平均眼圧はC9.2CmmHg,超過群ではC14.2CmmHgであった.65432薬剤スコア1.3±1.9+0.4±1.110観察期間(月)図4薬剤スコア経過両眼とも術後スコアは有意に減少した(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest)が,経過には有意差があった(+p<0.001,twowayANOVA).C51.8±4.36050403020100眼圧下降率(%)NS1361218243036424854606672(mean±SE)観察期間(月)図5眼圧下降率経過両群の眼圧下降率に有意差はなく(p=0.13,twowayANOVA),12CmmHg以下群の経過中平均眼圧下降率はC46.9%,超過群ではC44.0%であった.った.図6に術前後CMDスロープの散布図と平均値比較を示す.CHumphrey30-2(図6a)において,平均CMDスロープ値は12mmHg以下群で術前C.1.03±1.10から術後C.0.03±0.47dB/年に有意に改善した(p=0.04,pairedCttest)が,超過群では術後統計的に有意な改善がなかった(p=0.11,pairedttest).術前後の視野観察期間に群間で有意差はなかった(術前,術後それぞれCp=0.19,0.38,ttest).Humphrey10-2(図6b)において,12CmmHg以下群,超過群とも術後有意にCMDスロープが改善した(それぞれCp=0.003,0.002,CpairedCttest).術前後の視野観察期間に群間で有意差はなかった(術前,術後それぞれCp=0.98,0.54,ttest).図7に術前後ClogMAR視力の散布図と平均値比較を示す.12CmmHg以下群では術前後でClogMAR視力値に有意差があり(p=0.04,pairedCttest),術後視力低下傾向であった.超過群では術前後で有意差がなかった(p=0.31,pairedCttest).白内障進行による視力低下例を各群にC1眼ずつ認めた.両群の術後観察期間に有意差はなかった(p=0.17,ttest).12CmmHg以下群においてClogMAR値の差がC0.2より大きく悪化を示した症例は,術前強度近視眼(術前CHum-phrey10-2:C.31.32CdB,経過中平均眼圧:8.8CmmHg),術前中心視野障害例C2例(術前CHumphrey10-2:それぞれC.29.89CdB,C.30.31dB,経過中平均眼圧:それぞれC10.9mmHg,8.4CmmHg),または術後低眼圧黄斑症(経過中平均眼圧:7.1mmHg)であった.CIII考按POAGに対するCLET後の視野進行抑制効果について経過a:30-222術後MDslope(dB/年)術前(dBC/年)術後(dBC/年)p値術前視野観察期間(月)術後視野観察期間(月)12CmmHg以下群6眼C.1.03±1.10C.0.03±0.47C0.04*C154±92(50.2C63)C53±15(36.73)12CmmHg超過群8眼C.1.40±2.03C.0.10±0.57C0.11*C87±91(8.2C13)C60±16(36.87)*:pairedttest(meanC±SD)(range)b:10-22術後MDslope(dB/年)術前視野術後視野術前(dB/年)術後(dB/年)p値観察期間(月)観察期間(月)0.003*C86±69C53±2112CmmHg以下群11眼C.2.26±1.87C.0.25±0.33(20.234)(15.80)C0.002*C87±79C56±1912mmHg超過群6眼C.0.85±0.39C.0.07±0.47(22.235)(40.84)*:pairedttest(meanC±SD)(range)図6術前後MDスロープa:Humphrey30-2において,12CmmHg以下群では術後有意にCMDスロープが改善したが,超過群では統計的有意な改善がなかった.b:Humphrey10-2において,12CmmHg以下群,超過群とも術後有意にCMDスロープが改善した.術前logMAR視力術前術後p値術後視野観察期間(月)12CmmHg以下群C0.18±0.3C0.37±0.5C0.04*C54±1912CmmHg超過群C0.52±0.6C0.58±0.6C0.31*C64±16*:pairedttest(meanC±SD)(mean±SD)図7術前後logMAR視力12CmmHg以下群では術前後でClogMAR視力値に有意差があった.白内障進行による視力低下例(丸で囲む)を各群にC1眼ずつ認めた.眼圧C12CmmHg以下群と超過群で後ろ向きに比較検討した.今回対象となった症例群C26眼全体では,平均眼圧は術前C21.9±6.6CmmHgからC6年後にC12.4C±6.8CmmHgと有意に下降し,12CmmHg以下C6年生存率はC46.3%,術前後CMDスロープ比較ではCHumphrey30-2で術前C.1.24±1.6dB/年から術後.0.07±0.51CdB/年と術後有意なCMDスロープの改善があり,これらは既報1.5)の術後成績と同等であった.しかし,経過眼圧C12CmmHg以下群C15眼と超過群C11眼で視野進行抑制効果を比較検討すると,12CmmHg以下群(経過中平均眼圧C9.4CmmHg)ではCHumphrey30-2,10-2とも術後有意なMDスロープの改善があったのに対し,超過群(経過中平均眼圧C14.2CmmHg)では,Humphrey30-2で術後有意なCMDスロープの改善がなかった.開放隅角緑内障に対する眼圧管理の重要性を示した多施設共同臨床試験の一つCAdvancedCGlaucomaCInterventionCStudy6)では,進行した開放隅角緑内障に対する治療後非進行群の平均眼圧はC12.3CmmHg,進行群の平均眼圧はC14.7CmmHgもしくはそれ以上であったと報告されている.今回の研究では経過眼圧C12CmmHg以下群で術後CHumphrey30-2の変化がC.0.03±0.47CdB/年とほぼ非進行であり,経過眼圧C12CmmHg超過群では術後CMDスロープの有意な改善が得られなかったことから,今回の結果はこれと矛盾しないものと考えられた.一方CHumphrey10-2においては,経過眼圧C12CmmHg以下群も超過群も術後中心視野が維持された結果となった.中心視野,とくに耳側傍中心視野は緑内障性視野障害が進行しても保たれやすいという報告2,7,8)があり,これは視神経乳頭や乳頭黄斑線維束,黄斑部の組織的構造的特徴によるものである可能性もあるが,今回の検討は中期経過による結果のため長期経過の検討が必要と考える.今回の症例群には緑内障手術・白内障手術既往眼を含み,視野進行抑制効果の評価方法として術前後のCMDスロープを使ったトレンド解析で比較したが,既報6)と矛盾のない結果が得られた.これらのことから,進行したPOAGではC12CmmHg以下の眼圧を目標として治療することが望ましいことが示されたと考える.術後視力変化の比較では,経過眼圧C12CmmHg以下群は超過群に比較し,低下傾向であった.LET後の視力低下に関する報告は少なくない.海外の報告9.11)では術後視力低下症例は術前中心視野障害例や合併症症例であったと報告されている.わが国の全国濾過胞感染調査のデータを用いたKashiwagiら12)の報告でも,術前の視野障害末期例や術後合併症発症例が視力低下と関連するとされている.LET後の視力変化について病型別に評価した庄司13)の報告でも,POAGにおいてCLET後視力不良例は術前の視機能(Hum-phrey10-2のCMD値)が低く,術後脈絡膜.離の割合が高かったと報告されている.今回の研究では術前中心視野障害例や術後低眼圧遷延症例で術後視力低下傾向を認めたことから,これは既報9.13)と矛盾のない結果と考えられた.一方経過眼圧C12CmmHg超過群で術後統計的に有意な視力低下を認めなかったことについて,信頼性のある視野検査結果が施行可能であった症例群ではあるもの,術前からClogMAR値C1.0を超える視力障害例を含むため,術後視力低下の評価に反映されにくかった可能性もあると考えられた.今回の症例群では,経過眼圧C12CmmHg以下群と比較し超過群で術前眼圧が有意に高く,術後ニードリングを必要とした症例の割合が有意に高かったが,わが国の全国濾過胞感染調査のデータを用いたCSugimotoら14)の報告において,ニードリングと術前高眼圧は濾過手術の不成功因子であると報告され,これと矛盾のない結果と考えられた.経過中の晩期合併症として,経過眼圧C12CmmHg以下群に濾過胞からの房水漏出をC2眼に認めたが,濾過胞感染はなく結膜縫合のみ施行した.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,対象が少数例で術後中期経過であることから,今後多数例,長期での検討が必要であると考える.今回の研究でCMDスロープ比較は術前後にCHumphrey視野検査C30-2がC3回以上測定できた症例ついて検討したが,当院における初回視野検査結果を含むことから,術前CMDスロープの結果に学習効果の影響があり,視野進行判定にはC5回の視野測定が必要であるとの報告15)があり,視野進行判定が不十分であった可能性がある.また,術後視力変化の検討において,LET後の視力低下には術前CHumphrey視野C10-2の中心窩閾値が関連することが報告13)されており,今回の研究では未測定であったことから今後の検討項目にする必要があると考える.今回の検討の結果,POAGに対するCLET後の中期経過において,経過眼圧C12CmHg以下群では超過群に比較し術後MDスロープの有意な改善を認め,進行したCPOAGに対する術後目標眼圧はC12CmmHg以下が望ましいことが示唆された.また,視野進行抑制効果の一方で,術前中心視野障害の強い症例や術後低眼圧遷延症例では術後視力低下傾向があることが示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BertrandCV,CFieuwsCS,CStalmansCICetal:RatesCofCvisualC.eldClossCbeforeCandCafterCtrabeculectomy.CActaCOphthal-molC92:116-120,C20142)ShigeedaCT,CTomidokoroCA,CAraieCMCetal:Long-termCfollow-upCofCvisualC.eldCprogressionCafterCtrabeculectomyCinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC109:766-770,C20023)CaprioliJ,DeLeonJM,AzarbodPetal:TrabeculectomycanCimproveClong-termCvisualCfunctionCinCglaucoma.COph-thalmologyC123:117-128,C20164)JunoyCMontolioCFG,CMuskensCRPHM,CJansoniusNM:CIn.uenceofglaucomasurgeryonvisualfunction:aclini-calcohortstudyandmeta-analysis.ActaOphthalmolC97:C193-199,C20195)FujitaCA,CSakataCR,CUedaCKCetal:EvaluationCofCfornix-basedCtrabeculectomyCoutcomesCinCJapaneseCglaucomaCpatientsCbasedConCconcreteClong-termCpreoperativeCdata.CJpnJOphthalmolC65:306-312,C20216)TheCAdvancedCGlaucomaCInterventionStudy(AGIS):7.CTheCrelationshipCbetweenCcontrolCofCintraocularCpressureCandvisual.elddeterioration.TheAGISInvestigators.AmJOphthalmolC130:429-440,C20007)WeberCJ,CSchultzeCT,CUlrichH:TheCvisualC.eldCinCadvancedglaucoma.IntOphthalmolC13:47-50,C19898)HoodCDC,CRazaCAS,CdeCMoraesCCGCetal:GlaucomatousCdamageCofCtheCmacula.CProgCRetinCEyeCResC32:1-21,C20139)SteadCRE,CKingAJ:OutcomesCofCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCCinCpatientsCwithCadvancedCglaucoma.CBrJOphthalmolC95:960-965,C201110)LawCSK,CNguyenCAM,CColemanCALCetal:SevereClossCofCcentralvisioninpatientswithadvancedglaucomaunder-goingCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC125:1044-1050,C200711)FrancisCBA,CHongCB,CWinarkoCJCetal:VisionClossCandCrecoveryCafterCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC129:C1011-1017,C201112)KashiwagiK,KogureS,MabuchiFetal:Changeinvisu-alacuityandassociatedriskfactorsaftertrabeculectomywithCadjunctiveCmitomycinCC.CActaCOphthalmolC94:Ce561-e570,C201613)庄司信行:緑内障手術で視力を守るために.あたらしい眼科39:1036-1076,C202214)SugimotoCY,CMochizukiCH,COhkuboCSCetal:IntraocularCpressureCoutcomesCandCriskCfactorsCforCfailureCinCtheCCol-laborativeBleb-relatedInfectionIncidenceandTreatmentCStudy.OphthalmologyC122:2223-2233,C201515)ChauhanCBC,CGarway-HeahtCDF,CGoniCFJCetal:PracticalCrecommendationsformeasuringratesofvisualchangeinglaucoma.BrJOphthalmolC92:569-573,C2008***