0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(119)691《原著》あたらしい眼科27(5):691.694,2010cはじめに0.0015%タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%,以下タフルプロスト)は,旭硝子株式会社と参天製薬株式会社の共同で開発された日本発のプロスタグランジンF2a誘導体を含有する点眼剤で,緑内障・高眼圧症治療剤として良好な眼圧下降効果だけでなく,眼血流改善効果が期待されている薬剤として2008年12月に発売された.緑内障は視野異常が生じる視神経の疾患であるが,眼圧下降が唯一エビデンスのある治療方法であり,眼圧下降剤の点眼と手術によって治療される1).眼圧下降剤の点眼は長期にわたること,また眼圧をコントロールするために多剤併用される傾向にあることから,各点眼液に含まれる添加物による角膜上皮の障害が問題とされることがある.点眼液の代表的な添加剤であるベンザルコニウム塩化物(BAK)は,角膜状〔別刷請求先〕深野泰史:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YasufumiFukano,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma,Nara630-0101,JAPANベンザルコニウム塩化物を低減した新処方タフルプロスト点眼液の眼内移行性および眼圧下降作用深野泰史小谷敬子中村雅胤河津剛一参天製薬株式会社研究開発センターIntraocularPenetrationandIntraocularPressure-LoweringEffectofNewFormulation0.0015%TafluprostOphthalmicSolutionwithReducedBenzalkoniumChlorideYasufumiFukano,NorikoOdani-Kawabata,MasatsuguNakamuraandKouichiKawazuResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.目的:ベンザルコニウム塩化物(BAK)濃度を低減した新処方タフルプロスト点眼液を点眼したときのタフルプロストの眼内移行性および眼圧下降作用を,現処方と比較検討した.方法:タフルプロスト点眼後の眼内移行性は,雄性日本白色ウサギを用いて角膜,房水および虹彩毛様体中のタフルプロストカルボン酸体(タフルプロストの活性本体)濃度を測定し評価した.眼圧下降作用の評価は雄性正常眼圧サルを用いて実施した.結果:タフルプロスト点眼後の角膜,房水および虹彩毛様体中タフルプロストカルボン酸体濃度の最高濃度(Cmax),消失半減期(T1/2)および組織中濃度-時間下曲線面積(AUC)は処方間でほぼ同じであり,房水移行性も同等であった.眼圧下降作用も強度,経時変化ともに処方間に違いはみられなかった.結論:タフルプロストの眼内移行性および眼圧下降作用は,BAK濃度の影響を受けることなく,現処方と新処方でほぼ同じであった.Thepurposeofthisstudywastoevaluatetheinfluenceofbenzalkoniumchloride(BAK)concentrationin0.0015%tafluprostophthalmicsolution(TaprosR0.0015%)onthepenetrationoftafluprostacid,thepharmacologicalactivemetabolite,intoeyetissuesinrabbits,andtoassessitsintraocularpressure(IOP)-loweringeffectinmonkeys.Currentandnew(reducedBAKconcentration)formulationsweretopicallydosedontorabbitormonkeyeyes.Pharmacokineticprofilesoftafluprostacidinrabbitcornea,aqueoushumorandiris-ciliarybodydidnotshowanysignificantdifferencebetweenthetwoformulations.Themaximumconcentrationoftheacidinrabbitaqueoushumorforthenewformulationwasstatisticallyequivalenttothatforthecurrentformulation.ComparisonoftheformulationsastotheireffectonIOPinmonkeysdemonstratedsimilarresultsforbothdiurnalIOPandmaximumIOPreduction.Inconclusion,thenewformulationoftafluprostophthalmicsolutionwithreducedBAKisequivalenttothecurrentformulationintermsofbothpharmacokineticsandefficacy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):691.694,2010〕Keywords:タフルプロスト,ベンザルコニウム塩化物,眼内移行性,眼圧下降作用.tafluprost,benzalkoniumchloride,intraocularpenetration,intraocularpressureloweringeffect.692あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(120)態の変化や炎症などの角膜上皮障害を誘発するポテンシャルを有することが多数報告されている2.5).一方,点眼剤の品質保持のためには,容器などで工夫された製剤でない限り防腐剤は必要である.そこで,角膜への安全性と防腐効力のバランスがとれた防腐剤と防腐剤濃度を設定する処方が必要とされる.今回,タフルプロスト点眼液中に含有されるBAK濃度を見直し,防腐効果と角膜安全性の両面からバランスのとれた濃度6)に低減する新処方を見出した.本研究では,眼内移行動態,眼圧下降作用の両観点より,現処方と新処方の比較検討を行った.I実験材料1.点眼液試験には,参天製薬で製造された現処方タフルプロスト(タフルプロスト0.0015%含有)およびBAK濃度を現処方の1/10に低減した新処方タフルプロスト(タフルプロスト0.0015%含有)を用いた.2.測定用標準物質測定用標準物質として使用したタフルプロストカルボン酸体および内標準物質は,旭硝子株式会社にて合成された.3.実験動物眼内移行動態試験には,日本白色ウサギ(雄性)を使用した.眼圧試験には,正常眼圧カニクイザル(Macacafascicularis,雄性)を使用した.本研究は,「動物実験倫理規程」,「参天製薬(株)の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し,実施した.II実験方法1.眼内移行性評価日本白色ウサギ(雄性)の同一個体の左眼に現処方,右眼に新処方タフルプロストをそれぞれ50μlずつ単回点眼し,点眼後15,30分,1,2,4および8時間に角膜,房水および虹彩毛様体を採取した(各時点4例).点眼後のタフルプロストは速やかにタフルプロストカルボン酸体(タフルプロストの活性本体)に代謝される7)ことから,眼内移行性評価には眼組織中タフルプロストカルボン酸体濃度を液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を用いて測定した.組織中タフルプロストカルボン酸体濃度の薬物動態パラメータは,平均組織中濃度より算出した.房水移行の同等性は,点眼後30分における房水中タフルプロストカルボン酸体濃度について,90%信頼区間法により確認した(各処方14例).生物学的同等性は,房水中タフルプロストカルボン酸体濃度の対数値について二元配置分散分析を行い,残差の平均平方を用いて算出した現処方点眼時に対する新処方点眼時の差の90%信頼区間がlog(0.80).log(1.25)を満たすとき,同等と判断した.2.現処方あるいは新処方タフルプロスト点眼後の眼圧測定試験には,無麻酔下での眼圧測定に対し十分馴化されたことを確認した正常眼圧の雄性カニクイザルを使用した.現処方タフルプロスト,新処方タフルプロスト,現処方基剤,あるいは新処方基剤を1群8例の雄性正常眼圧サルの片眼に20μl単回点眼し眼圧を測定した.眼圧は,点眼直前ならびに点眼後2,4,6および8時間に,圧平式眼圧計を使用して盲検下で測定した.眼圧下降作用は,点眼後の各眼圧測定時間の眼圧値から点眼直前の眼圧値を引いた眼圧下降幅のなかの最大値である最大眼圧下降幅で評価した.III結果1.眼内移行性現処方および新処方タフルプロスト点眼後の角膜,房水および虹彩毛様体中タフルプロストカルボン酸体濃度推移および薬物動態パラメータを,図1および表1に示す.タフルプロストカルボン酸体は,角膜および虹彩毛様体では点眼後1または2時間まで,房水では点眼後4時間まで定量可能であった.タフルプロストカルボン酸体濃度は角膜では点眼後15分,房水および虹彩毛様体では点眼後30分に最高となり,その後時間経過に従って消失し,いずれの処方でもほぼ同様な推移を示した.また,薬物動態パラメータである最高濃度(Cmax),消失半減期(T1/2)および組織中濃度-時間下曲線面積(AUC)も処方間でほぼ同じであった.点眼後30分における房水中タフルプロストカルボン酸体濃度により,房水移行の同等性を確認したところ,房水中タフルプロストカルボン酸体濃度は,現処方で6.10±2.38ng/ml,新処方で5.52±1.13ng/mlであった(平均値±標準偏差).これら房水中タフルプロストカルボン酸体濃度の対数値について,処方および個体を要因とする二元配置分散分析を行った.現処方点眼時に対する新処方点眼時の差の90%信頼区間はlog(0.829).log(1.096)であり,生物学的同等性の基準〔log(0.80).log(1.25)〕を満たし,両処方のタフルプロストカルボン酸体房水移行性は同等であると判断できた.2.眼圧下降作用正常眼圧サルにおける各点眼群の最大眼圧下降幅(点眼前後の眼圧差の最大値)を図2に,眼圧実測値の経時変化を図3に示す.現処方タフルプロスト点眼群は,正常眼圧サルに対して眼圧下降作用を示し,その最大眼圧下降幅は2.2±0.5mmHg(平均値±標準誤差)で,現処方基剤群(0.6±0.1mmHg)に比し有意であった.新処方タフルプロスト点眼群は,新処方基剤群(0.5±0.1mmHg)に比し有意な眼圧下降作用を認め,その最大眼圧下降幅は2.5±0.7mmHgであった.現処方タフルプロスト点眼群と新処方タフルプロスト点眼群の最大眼圧下降幅は,2群間で統計学的な有意差は認められなかった.また,眼圧実測値の経時変化においても処方間で明確な違いはみられなかった.(121)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010693以上の結果から,タフルプロスト点眼液の現処方と新処方の眼圧下降作用に明確な差は認められなかった.IV考按本研究において,タフルプロスト点眼液中のBAK濃度の低減化は,タフルプロストカルボン酸体の眼内移行性に影響を与えなかった.この結果は,両処方間で眼圧下降作用に差がなかったことによっても裏付けられた.一般にBAKは,それ自身の界面活性作用や角膜上皮細胞表1タフルプロスト点眼液現処方および新処方単回点眼後のウサギ眼組織中タフルプロストカルボン酸体濃度の薬物動態パラメータ組織処方Cmax(ng/mlまたはng/g)Tmax(時間)T1/2(時間)AUC0-8hr(ng・hr/mlまたはng/g)AUC0-inf(ng・hr/mlまたはng/g)角膜現処方3070.250.30193189新処方3180.250.54236229房水現処方7.630.50.6712.912.6新処方8.750.50.7714.814.5虹彩毛様体現処方3.070.50.673.673.65新処方5.990.50.866.336.68各値は4例の平均組織中濃度より算出.0A45040035030025020015010050012投与後時間(時間):現処方:新処方角膜中濃度(ng/g)340B12108642012投与後時間(時間):現処方:新処方房水中濃度(ng/ml)340C12108642012投与後時間(時間):現処方:新処方虹彩毛様体中濃度(ng/g)34図1タフルプロスト点眼液現処方および新処方単回点眼後のウサギ眼組織中タフルプロストカルボン酸体濃度推移A:角膜,B:房水,C:虹彩毛様体.各値は4例の平均値±標準偏差を示す.43210現処方基剤新処方基剤NS**現処方タフルプロスト新処方タフルプロスト最大眼圧下降幅(mmHg)図2正常眼圧サルにおけるタフルプロスト点眼液現処方および新処方の単回点眼時の最大眼圧下降幅各値は8例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05(Aspin-Welchのt検定),NS:有意差なし(Studentのt検定).2019181716150眼圧(mmHg)024点眼からの時間(hr)68:現処方基剤:現処方タフルプロスト:新処方基剤:新処方タフルプロスト図3正常眼圧サルにおけるタフルプロスト点眼液現処方および新処方の単回点眼時の眼圧の経時変化各値は8例の平均値±標準誤差を示す.694あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(122)間隙の拡張作用によって,薬物の角膜透過性を亢進する場合があることが報告されており8.10),タフルプロストと同じプロスタグランジンF2a誘導体であるトラボプロストについても,トラボプロストカルボン酸体のウサギ眼内移行性がBAK含有点眼液に比べて非含有点眼液で低下したことが知られている.しかしながら,トラボプロストのBAK非含有点眼液にはBAKに代えてホウ酸や塩化亜鉛などが添加されており,それによる薬物の眼内移行性への影響は不明であるため,一概にBAK濃度による眼内移行性の変化とは考えられない.筆者らはすでに,ラタノプロスト点眼液点眼後のラタノプロストカルボン酸体のウサギ房水移行性が,BAK0.02%含有および非含有処方間で違いがないことを報告している11).さらに今回の検討により,タフルプロストについてもタフルプロストカルボン酸体のウサギ房水移行性が,BAKの濃度によらず変化しないことが確認できた.BAKによる角膜透過性亢進の感受性はヒトではウサギよりも低いことが示唆されている12)ことから,プロスタグランジン系点眼液中のBAK濃度は,臨床適用範囲では,活性本体のヒト眼内移行性に影響しないと考える.プロスタグランジンF2a誘導体の眼圧下降反応性は,ウサギでは低くサルで高いことが知られており13),タフルプロストでは正常眼圧サルにおいて点眼液濃度0.0002%.0.005%で,高眼圧サルにおいて点眼液濃度0.0002%.0.0025%で濃度依存的な眼圧下降作用の増強が認められている14).また,健常人に対して,タフルプロストは0.0025%.0.005%で濃度依存的に眼圧下降作用を示す15).これらの結果から,サルにおいてはヒトとほぼ同じ濃度範囲で濃度依存的な眼圧下降作用を示すと考えられ,サルはヒトの有効性を比較的よく反映していると考える.本研究において,正常眼圧サルの眼圧下降作用はタフルプロストの現処方と新処方で明確な差はなかった.このことから,ヒトにおいてもタフルプロストの眼圧下降作用に点眼液中BAK濃度は影響せず,タフルプロストの現処方と新処方の眼圧下降作用に差はないと考えられる.以上,現処方とBAK濃度を低減した新処方のタフルプロストを用いて眼内移行動態,眼圧下降作用の両点を比較検討した結果,薬物動態面,薬効面ともにBAK濃度が影響を与えることはなかった.点眼液に含有されるBAKは,炎症や点状角膜表層症などの症状を誘発する原因とも考えられることから,BAK濃度を低減した新処方タフルプロストは,今までと変わらない薬効のうえに,角膜上皮細胞の安全性にも配慮された点眼液6)となることが期待される.謝辞:本研究にご協力をいただいた石田成弘氏,倉島宏明氏,三枝祐史氏,後藤干城氏,寺嶋達雄氏に感謝いたします.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)BaudouinC,LiangH,HamardPetal:TheocularsurfaceofglaucomapatientstreatedoverthelongtermexpressesinflammatorymarkersrelatedtobothT-helper1andT-helper2pathways.Ophthalmology115:109-115,20083)PisellaPJ,PouliquenP,BaudouinC:Prevalenceofocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservativefreeglaucomamedication.BrJOphthalmol86:418-423,20024)JaenenN,BaudouinC,PouliquenPetal:Ocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservative-freeglaucomamedications.EurJOphthalmol17:341-349,20075)LeungEW,MedeirosFA,WeinrebRN:Prevalenceofocularsurfacediseaseinglaucomapatients.JGlaucoma17:350-355,20086)AsadaH,Takaoka-ShichijoY,NakamuraMetal:Optimizationofbenzalkoniumchlorideconcentrationin0.0015%tafluprostophthalmicsolutionfrompointsofocularsurfacesafetyandpreservativeefficacy.YakugakuZasshi130(6),20107)FukanoY,KawazuK:Dispositionandmetabolismofanovelprostanoidantiglaucomamedication,tafluprost,followingocularadministrationtorats.DrugMetabDispos37:1622-1634,20098)SasakiH,NaganoT,YamamuraKetal:Ophthalmicpreservativesasabsorptionpromotersforoculardrugdelivery.JPharmPharmacol47:703-707,19959)SasakiH,YamamuraK,MukaiTetal:Enhancementofoculardrugpenetration.CritRevTherDrugCarrierSyst16:85-149,199910)McCareyB,EdelhauserH:Invitrocornealepithelialpermeabilityfollowingtreatmentwithprostaglandinanalogswithorwithoutbenzalkoniumchloride.JOculPharmTher23:445-451,200711)FukanoY,AsadaH,KimuraAetal:Influenceofbenzalkoniumchlorideonthepenetrationoflatanoprostintorabbitaqueoushumorafterocularinstillations.AAPSJ8(S2),200612)BursteinNL:Preservativealterationofcornealpermeabilityinhumansandrabbits.InvestOphthalmolVisSci25:1453-1457,198513)StjernschantzJW:FromPGF2a-isopropylestertolatanoprost:AreviewofthedevelopmentofXalatan:theProctorLecture.InvestOphthalmolVisSci42:1134-1145,200114)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,200415)SuttonA,GilvarryA,RopoA:Acomparative,placebocontrolledstudyofprostanoidfluoroprostaglandinreceptoragoniststafluprostandlatanoprostinhealthymales.JOculPharmacolTher23:359-365,2007***