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ラタノプロストからタフルプロストへの切り替えによる長期効果

2010年12月31日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)1727《原著》あたらしい眼科27(12):1727.1730,2010cはじめに現在,プロスト系プロスタグランジン点眼薬は緑内障治療の第一選択薬である.初のプロスト系製剤であるラタノプロスト(キサラタンR,ファイザー)は10年以上の臨床使用経験を有し,効果・安全性が確立されている1).タフルプロスト(タプロスR,参天製薬)は,ラタノプロストよりFP受容体親和性が強く2),ベンザルコニウム塩化物(以下,BAC)濃度が低い.ディンプルボトルR3)によるアドヒアランス向上も期待される.両者は薬理学的に類似しているが,プロスト系プロスタグランジン製剤に対する反応には個人差を含む差異が指摘されている4).眼圧には季節変動5)があるとされるが,ラタノプロストとタフルプロストの長期経過を,季節変動を考慮してprospectiveに観察した報告はほとんどない.今回筆者らは,プロスタグランジン点眼薬単剤治療患者と他〔別刷請求先〕中野聡子:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:SatokoNakano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu-shi,Oita879-5593,JAPANラタノプロストからタフルプロストへの切り替えによる長期効果中野聡子*1,2久保田敏昭*1*1大分大学医学部眼科学講座*2公立おがた総合病院眼科Long-TermEfficacyofTafluprostafterSwitchingfromLatanoprostSatokoNakano1,2)andToshiakiKubota1)1)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MunicipalOgataGeneralHospital緑内障・高眼圧症患者71例71眼を対象とした.ラタノプロストを1年間使用後,タフルプロストに切り替え,さらに1年間経過観察し,眼圧下降効果,安全性,使用感をprospectiveに比較した.季節変動を考慮し比較した結果,単剤治療群およびチモロール併用群の両者で,ラタノプロストとタフルプロストの眼圧下降効果は同等で,いずれも1年間にわたり有意に眼圧が下降し,視野も維持されていた.ラタノプロスト単剤治療31眼中,未治療時眼圧からの下降率が20%未満の眼圧下降不良例が11眼あったが,タフルプロスト変更後,眼圧下降不良例の割合が有意に減少した.ラタノプロストとタフルプロストの副作用として軽度の球結膜充血と角膜上皮障害があった.球結膜充血の程度はほぼ同等で,角膜上皮障害はタフルプロストでやや少ない傾向であった.点眼容器の利便性,差し心地に対する患者評価は,ラタノプロストよりタフルプロストが優れていた.Aprospectivestudywasperformedtoevaluatethelong-termefficacyandsafetyoftafluprost(TaprosR)afterswitchingfromlatanoprost(XalatanR).Subjectscomprised71eyesof71patients(21primaryopen-angleglaucoma,46normal-tensionglaucomaand4ocularhypertension)thatwetreatedwithlatanoprostfor1year,thenswichedtotafluprostfor1year.Every3monthsweevaluatedintraocularpressure(IOP),adversereactionsandfacilityofadministeringtheeyedrops.TafluprosthadahypotensiveeffectsimilartothatoflatanoprostandsignficantlydecreasedIOPatalltimepoints,ascomparedtoIOPwithoutmedication.Tafluprostwaseffectiveaswellasinlatanoprostnonresponders(IOPhaddecreasedbylessthan20%).Latanoprostandtafluproststabilizedthevisualfieldfor1year.Adverseeffectsrelatingtolatanoprostandtafluprost,suchasconjunctivalhyperemiaandsuperficialpunctatekeratitis,wereobservedinafewpatients,butthefindingsweremild.Manypatientspreferredtafluprosttolatanoprostbecauseoftheeaseofadministeringtheeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1727.1730,2010〕Keywords:タフルプロスト,緑内障,眼圧,長期経過,前向き研究.tafluprost,glaucoma,intraocularpressure,long-term,prospectivestudy.1728あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(96)剤併用患者について,まずラタノプロストを1年間使用し,季節変動を含めた効果と安全性を検討した後に,タフルプロストに切り替え,さらに1年間観察し両者を比較したので報告する.I対象および方法1.対象対象は,公立おがた総合病院眼科外来にて3カ月以上ラタノプロストを使用し,アドヒアランスが良好で眼圧が安定している緑内障・高眼圧症患者71例71眼である.このうち,ラタノプロスト単剤治療群は38例38眼,チモロール(チモプトールR点眼液0.5%,参天製薬)併用群は28例28眼,チモロールとドルゾラミド(トルソプトR点眼液1%,萬有製薬)併用群は5例5眼であった.除外基準は,3年以内にレーザー治療を含む内眼手術の既往を有する症例,活動性の眼感染症,炎症性眼疾患や,眼乾燥症,角膜ヘルペスを含む角膜疾患を有する症例,コンタクトレンズ装用,角膜屈折矯正手術の既往がある症例,正確な眼圧測定を妨げる疾患を有する症例,視野に影響する他の疾患を有する症例,炭酸脱水酵素阻害薬全身投与,副腎皮質ステロイド薬投与などの眼圧に影響する薬剤使用している症例,使用薬剤にアレルギーがある症例とした.対象眼は,未治療時の眼圧が高い眼とし,同値の場合は右眼とした.試験は公立おがた総合病院の倫理規定に従い行い,対象患者には試験の内容を口頭で十分に説明し同意を得た.2.方法2008年1月に被験者を選定後,まず1年間ラタノプロストを使用し,1カ月後,3カ月後,6カ月後,9カ月後,12カ月後に問診,眼圧測定,細隙灯顕微鏡検査を行った.タフルプロストへの変更を承諾した被験者について,2008年12月にwashout期間なしでタフルプロストに変更し,変更1カ月後,3カ月後,6カ月後,9カ月後,12カ月後に同様に検査を行った.他剤併用群では,併用薬は継続とした.眼圧は同一検者がGoldmann圧平眼圧計で測定し,測定時刻は午前中,症例ごとに同一時間帯とした.試験開始前とラタノプロスト継続12カ月後,タフルプロスト変更12カ月後に静的視野検査(HumphreyFieldAnalyzer,CarlZeissMeditec)中心30-2プログラムを行った.副作用について,球結膜充血の程度を4段階(なし,軽度,中等度,重度)で評価し,角膜上皮障害の程度をAD(AreaDensity)分類7)で評価した.試験終了時に容器の利便性と差し心地についてアンケート調査を行った.容器の利便性は容易に点眼瓶を把持し滴下できること,差し心地は刺激感がないことを評価基準として,優れている点眼薬を回答させた.3.検討項目単剤治療群とチモロール併用群,チモロール・ドルゾラミド併用群について,それぞれラタノプロスト点眼時の眼圧と,1年後同月のタフルプロスト変更後の眼圧をpaired-ttestで比較した.季節変動について,1カ月後,3カ月後,6カ月後,9カ月後,12カ月後の測定値をSteel-Dwass多重比較で検討した.視野について,試験開始前とラタノプロスト継続12カ月後,タフルプロスト変更12カ月後のmeandeviation(MD)値をSteel-Dwass多重比較法で比較した.続いて,単剤治療群について,平均眼圧下降率が20%未満を眼圧下降不良例8)とし,その割合をFisher’sexacttestで検討した.副作用の頻度をFisher’sexacttestで検討し,球結膜充血と角膜上皮障害の程度をWilcoxonmatched-pairssigned-ranktestで比較した.最後に,容器の利便性と差し心地をFisher’sexacttestで検討した.各統計学的手法は正規検定後に選択し,p<0.05(両側検定)を有意とした.II結果被験者71例のうち,10例が観察期間中に脱落した.脱落理由はタフルプロスト変更の承諾が得られなかったものが4例,受診自己中止が6例であった.すべての試験を完了した61例のうち,単剤治療群31例の内訳は,男性15例,女性16例,年齢74.6±10.9(平均値±標準偏差)歳,原発開放隅角緑内障(POAG)6眼,正常眼圧緑内障(NTG)22眼,高眼圧症(OH)3眼,未治療時3回の平均眼圧は17.4±3.2mmHgであった.チモロール併用群25例の内訳は,男性6例,女性19例,年齢77.0±8.0歳,POAG8眼,NTG16眼,OH1眼,未治療時眼圧は18.3±5.4mmHg,チモロール・ドルゾラミド併用群5例の内訳は,男性4例,女性1例,年齢76.8±6.5歳,POAG3眼,NTG2眼,未治療時眼圧は17.4±4.7mmHgであった.1.眼圧の年間推移a.単剤治療群ラタノプロスト点眼時は13.7±2.6mmHg(2008年1月),13.4±2.7mmHg(3月),13.0±2.5mmHg(6月),13.3±2.9mmHg(9月),13.8±2.6mmHg(12月)で,すべての測定時点で未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していた(p<0.001).タフルプロスト変更後は13.0±2.3mmHg(2009年1月),12.7±2.9mmHg(3月),13.1±2.9mmHg(6月),13.4±2.6mmHg(9月),14.0±2.6mmHg(12月)で,同様に未治療時眼圧から有意に下降していた(p<0.001).両者の同じ月の眼圧を比較すると有意差はなく,眼圧下降効果は同等であった(図1).ラタノプロスト点眼時,タフルプロスト変更後とも季節変動は有意でなかった.b.チモロール併用群ラタノプロスト点眼時は14.4±3.4mmHg(2008年1月),14.4±4.0mmHg(3月),14.2±4.1mmHg(6月),15.2±4.1mmHg(9月),15.0±4.9mmHg(12月)で,すべての測定(97)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101729時点で未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していた(1,3,6月p<0.001,9,12月p<0.01).タフルプロスト変更後は14.0±3.5mmHg(2009年1月),14.5±3.5mmHg(3月),13.4±3.2mmHg(6月),14.0±3.8mmHg(9月),14.7±3.4mmHg(12月)で,同様に未治療時眼圧から有意に下降していた(p<0.001).両者の同じ月の眼圧を比較すると有意差はなく,眼圧下降効果は同等であった(図2).ラタノプロスト点眼時,タフルプロスト変更後とも季節変動は有意でなかった.c.チモロール・ドルゾラミド併用群ラタノプロスト点眼時は13.4±3.8mmHg(2008年1月),14.0±2.8mmHg(3月),14.0±4.1mmHg(6月),14.6±3.9mmHg(9月),14.6±3.8mmHg(12月)で,6,9,12月で未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していた(9月p<0.05,6,12月p<0.01).タフルプロスト変更後は12.4±4.3mmHg(2009年1月),12.6±4.3mmHg(3月),11.4±4.3mmHg(6月),13.4±6.3mmHg(9月),11.6±3.4mmHg(12月)で,3,6,12月で未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していた(p<0.05).両者の同じ月の眼圧を比較すると,6月のみタフルプロストで有意に眼圧が低値であった(p<0.01)(図3).ラタノプロスト点眼時,タフルプロスト変更後とも季節変動は有意でなかった.2.視野単剤治療群の試験開始前MD値は.4.79±4.48dB,ラタノプロスト継続12カ月後.5.05±4.69dB,タフルプロスト変更12カ月後.4.39±4.46dBと有意な変化はなかった.同様に,チモロール併用群の試験開始前MD値は.7.93±6.47dB,ラタノプロスト継続12カ月後.7.66±5.94dB,タフルプロスト変更12カ月後.8.35±7.55dB,チモロール・ドルゾラミド併用群の試験開始前MD値は.11.60±10.28dB,ラタノプロスト継続12カ月後.11.42±10.14dB,タフルプロスト変更12カ月後.11.87±10.52dBと有意な変化はなかった.3.ラタノプロスト眼圧下降不良例単剤治療群31眼中,ラタノプロスト眼圧下降不良例は11眼(35.4%)あった.このうち4眼でタフルプロスト変更後20%以上の眼圧下降が得られ,眼圧下降不良例の割合が有意に減少した(p<0.05).逆に,タフルプロスト眼圧下降不良例は8眼(25.8%)あり,このうち1例はラタノプロストのほうが眼圧が低値であった.4.副作用単剤治療群31眼中,球結膜充血の頻度はラタノプロスト8眼(25.8%),タフルプロスト7眼(22.6%),程度はラタノプロスト0.4±0.8点,タフルプロスト0.4±0.7点といずれも有意差はなかった.角膜上皮障害の頻度はラタノプロスト6眼(19.4%),タフルプロスト2眼(6.5%)で,程度は密度・範囲ともラタノプロスト0.2±0.4点,タフルプロスト0.1±0.2点といずれも有意差はなかったが,タフルプロストで軽度の傾向にあった.副作用による投与中止例はなかった.5.使用感全患者61例中,点眼容器の利便性が良いとした点眼はラ2520151050:ラタノプロスト(2008年1月~12月):タフルプロスト(2009年1月~12月)眼圧(mmHg)1月3月6月9月12月NSNSNSNSNS図2眼圧の年間推移(チモロール併用群)(paired-ttestNS:Statisticallynotsignificant,n=25)2520151050:ラタノプロスト(2008年1月~12月):タフルプロスト(2009年1月~12月)眼圧(mmHg)1月3月6月9月12月NSNSNSNSNS図1眼圧の年間推移(単剤治療群)(paired-ttestNS:Statisticallynotsignificant,n=31)2520151050:ラタノプロスト(2008年1月~12月):タフルプロスト(2009年1月~12月)眼圧(mmHg)1月3月6月9月12月NSNS**NSNS図3眼圧の年間推移(チモロール・ドルゾラミド併用群)(paired-ttest**:p<0.01,NS:Statisticallynotsignificant,n=5)1730あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(98)タノプロストが1.6%,タフルプロストが23.0%で,両者を比較するとタフルプロスト選択患者が多かった(p<0.001).差し心地が良いとした点眼はラタノプロストが3.3%,タフルプロストが11.5%で,タフルプロスト選択患者が多かった(p<0.05).他の患者は両者は同等に良いと評価した.III考按点眼薬切り替え試験では,被験者選定でアドヒアランスが向上し,薬効が過大評価されるHawthorne効果6)が生じるとされる.Swichback試験が有用であるが,眼圧の季節変動5)に注意を要する.今回筆者らはこれらを考慮し,被験者を選定後,1年間ラタノプロストを使用し季節変動を含めた経過観察を行った後にタフルプロストに変更し,同様に1年間経過観察を行った.単剤治療群において,ラタノプロストとタフルプロストはいずれも,1年間有意に眼圧が下降し,視野も維持されていたことから,両者は同等の効果をもつ有用な薬剤と考えられる.近年,各種プロスト系プロスタグランジン点眼薬とチモロールとの合剤が発売されている.今回のチモロール2回点眼併用群の検討では,ラタノプロストとタフルプロストいずれとの併用でも効果は同等であった.チモロール・トルソプト併用群では症例数は少ないが,未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していない月もあり,3剤併用が必要となる症例では手術を含めた他の治療を考慮する必要があると考えられる.今回の検討では有意な季節変動はなかったが,既報5)と同様,冬季にやや高値となる傾向にあった.ラタノプロスト眼圧下降不良例で,薬理学的に類似するタフルプロスト変更後に眼圧が下降した.これはタフルプロストのFP受容体親和性の強さやディンプルボトルRによるアドヒアランス向上の影響と考えられる.しかし,タフルプロストの球結膜充血は,FP受容体親和性が強いにもかかわらずラタノプロストと同等であった.プロスト系製剤間の切り替え時は充血が目立たないとされるが,眼圧下降不良例への反応と考え合わせると,両者の薬理学的機序に微妙な差がある可能性もある.プロスト系プロスタグランジン(PG)点眼薬はおもにFP受容体を介して作用する9)が,ほかにPGD210)やPGE211)による作用や,matrixmetalloproteinase活性化による房水流出抵抗低下が関与12)する可能性が指摘されており,点眼薬間の反応の差は,各経路に対する反応の複雑なバランスに起因する可能性も考えられる.角膜上皮障害については,有意差はないもののタフルプロストで軽度であった.これはタフルプロストのBACや基剤の濃度が低いことが影響していると考えられる.2010年からタフルプロストのBAC濃度はさらに低減されており,さらなる安全性の向上が期待できる.わが国の緑内障の有病率は高く,ほとんどが慢性に経過することから,使用感の良さはアドヒアランスを向上させる重要な因子である13).対象者に高齢者が多く積極的にいずれかの点眼を選択する症例は少なかったが,選択した患者のなかでは点眼容器の利便性,差し心地のいずれもタフルプロストの評価が高かった.以上から,特にラタノプロスト眼圧下降不良例で,タフルプロスト切り替えを試みる価値があると考えられる.ただし,タフルプロスト眼圧下降不良例の存在には注意を要すると考えられた.文献1)北澤克明,ラタノプロスト共同試験グループ:ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験.臨眼60:2047-2054,20062)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20043)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20074)YildirimN,SahinA,GultekinS:Theeffectoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostoncircadianvariationofintraocularpressureinpatientswithopen-angleglaucoma.JGlaucoma17:36-39,20085)KleinBE,KleinR,LintonKL:IntraocularpressureinanAmericancommunity.TheBeaverDamEyeStudy.InvestOphthalmolVisSci33:2224-2228,19926)FrankeRH,KaulJD:TheHawthorneexperiments:Firststatisticalinterpretation.AmSociolRev43:623-643,19787)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19948)DuBinerHB,MrozM,ShapiroAMetal:Acomparisonoftheefficacyandtolerabilityofbrimonidineandlatanoprostinadultswithopen-angleglaucomaorocularhypertension:athree-month,multicenter,randomized,doublemasked,parallel-grouptrial.ClinTher23:1969-1983,20019)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptordeficientmice.InvestOphthalmolVisSci46:4159-4163,200510)WoodwardDF,HawleySB,WilliamsLSetal:StudiesontheocularpharmacologyofprostaglandinD2.InvestOphthalmolVisSci31:138-146,199011)WangRF,LeePY,MittagTWetal:Effectof8-isoprostaglandinE2onaqueoushumordynamicsinmonkeys.ArchOphthalmol116:1213-1216,199812)OhDJ,MartinJL,WilliamsAJetal:Analysisofexpressionofmatrixmetalloproteinasesandtissueinhibitorsofmetalloproteinasesinhumanciliarybodyafterlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci47:953-963,200613)KosokoO,QuigleyHA,VitaleSetal:Riskfactorsfornoncompliancewithglaucomafollow-upvisitsinaresidents’eyeclinic.Ophthalmology105:2105-2111,1998

正常眼圧緑内障に対するイソプロピル ウノプロストン3 年間点眼の眼圧およびセクター別の視野に及ぼす効果

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(111)1593《原著》あたらしい眼科27(11):1593.1597,2010cはじめに緑内障治療の最終目標は視野障害の進行を停止または遅延させ,残存視野を維持することで,そのために唯一高いエビデンスが得られている治療が眼圧下降である1,2).眼圧下降治療の第一選択は通常点眼薬治療である.イソプロピルウノプロストン(以下,ウノプロストン)はプロスタグランジンF2a代謝型化合物で,ぶどう膜強膜流出路経由の房水流出を増加させることで眼圧を下降させる.ウノプロストンはその他に血管弛緩による微小循環血流の改善作用,線維柱帯細胞の弛緩によるconventionaloutflowの増加作用,神経系の細胞膜の過分極による神経保護作用を有し,眼圧下降以外にこれらの作用が視野維持に寄与していると考えられている3~10).点眼薬の評価は単剤投与での眼圧下降と,視野検査による視野障害の確認で行われるが,特に正常眼圧緑内障の視野障害進行は通常緩徐で,その判定には長期的な経過観察が必要である.さらに視野障害進行の判定法は多数あり,判〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常眼圧緑内障に対するイソプロピルウノプロストン3年間点眼の眼圧およびセクター別の視野に及ぼす効果井上賢治*1澤田英子*1増本美枝子*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座EffectofIntraocularPressureandVisualFieldsDividedinto6SectorsforNormal-TensionGlaucomaPatientsTreatedwithIsopropylUnoprostonefor3YearsKenjiInoue1),HidekoSawada1),MiekoMasumoto1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineイソプロピルウノプロストンを正常眼圧緑内障患者に3年間以上単剤投与した際の眼圧や視野に及ぼす影響を検討した.イソプロピルウノプロストンを単剤で新規に投与し,3年間以上継続して使用でき,上方のみに視野障害を有する正常眼圧緑内障患者20例20眼を対象とした.眼圧,視野検査におけるmeandeviation(MD)値を1年ごとに比較した.視野障害はトレンド解析,イベント解析でも評価した.視野を6セクターに分類して1年ごとに各セクターのtotaldeviation(TD)値を比較した.眼圧は3年間にわたり有意に下降した.MD値は投与前後で同等であった.トレンド解析,イベント解析ともに3年間で各2例が視野障害進行と判定された.TD値は6セクターとも投与前後で変化なかった.イソプロピルウノプロストンは正常眼圧緑内障に対して,3年間持続的な眼圧下降作用をもち,視野維持におおむね有用である.Wereporttheeffectof3yearsoftreatmentwithisopropylunoprostoneineyeswithnormal-tensionglaucoma.Thisstudyinvolved20eyesof20patientswithnormal-tensionglaucomawhoreceivedisopropylunoprostoneformorethanthreeyears.Intraocularpressure(IOP)andmeandeviationofHumphreyvisualfieldtestweremonitoredandevaluatedevery6months.Humphreyvisualfieldtesttrendsandeventswerealsoanalyzed.Visualfieldsweredividedinto6sectorsandthetotaldeviation(TD)ofeachsectorwascomparedbetweenbeforeandaftertreatment.MeanIOPdecreasedsignificantlyaftertreatment.Meandeviationdidnotchangesignificantlyduringthethreeyears.Visualfieldperformanceworsenedfor2patientsintrendanalysis,andforanother2patientsineventanalysis.TheTDforeachsectorwassimilarbetweenbeforeandaftertreatment.IsopropylunoprostoneshowedIOPreductionandanearlystabilizedvisualfieldfor3years.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1593.1597,2010〕Keywords:正常眼圧緑内障,イソプロピルウノプロストン,眼圧,視野,セクター.normal-tensionglaucoma,isopropylunoprostone,intraocularpressure,visualfield,sector.1594あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(112)定基準法,ステージ分類法,直線回帰解析(トレンド解析),イベント解析などがあげられる.このように多数の判定法が存在し,同一患者でも判定法により評価が異なることもあり,点眼薬の視野に対する治療効果の評価は困難である.ウノプロストンの単剤投与による長期治療成績は多数報告されている11~16)が,視野障害の進行をmeandeviation(MD)値やmeandefect値以外で検討した報告は少ない11,12).そこで今回,ウノプロストン点眼薬の正常眼圧緑内障に対する眼圧および視野への長期間投与の効果を,視野障害についてはさまざまな評価法を用いてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法2003年8月から2006年7月の間に井上眼科病院で0.12%ウノプロストン点眼薬を単剤で投与し,3年間以上継続して使用でき,投与開始時に上方のみに視野障害を有する正常眼圧緑内障患者20例20眼(男性13例13眼,女性7例7眼)を対象とした.平均年齢は58.9±10.1歳(平均±標準偏差)(28~75歳)であった.投与前眼圧は15.1±2.1mmHg,Humphery視野プログラム中心30-2SITA-StandardのMD値は.5.4±3.7dBであった.正常眼圧緑内障の診断基準は1)日内変動を含む,無治療時および経過中に測定した眼圧が21mmHg以下であり,2)視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障性変化を有し,それに対応する視野異常を認め,3)視野異常をきたしうる緑内障以外の眼疾患や先天異常,全身疾患を認めず,4)隅角検査で正常開放隅角を示すものとした.過去に内眼手術やレーザー治療,局所的あるいは全身的ステロイド治療歴を有するものは除外した.ウノプロストン点眼(1日2回朝夜点眼)を開始した.眼圧は1~3カ月ごとにGoldmann圧平眼圧計を用いて,患者ごとに同一検者が測定した.視野検査は6カ月ごとにHumphery視野プログラム中心30-2SITA-Standardを行った.投与前と投与1,2,3年後の眼圧を比較した〔ANOVA(Analysisofvariance)およびBonferroni/Dunnet〕.投与前と投与1,2,3年後の視野検査におけるMD値を比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet).視野障害進行の判定はトレンド解析とイベント解析を行った.トレンド解析はMD値の経時的変化を直線回帰分析したもので,これにより算出された年単位のMD値の変化量(dB/年)を統計学的有意性とともに表した指標である.イベント解析は経過観察当初の2回の検査結果をベースラインとして,その後の検査でベースラインと比較して一定以上の悪化が認められた時点で進行と判定する.GlaucomaProgressionAnalysisを使用し,2回連続して同一の3点以上の隣接測定点に有意な低下を認めれば「進行の可能性あり」,3回連続して同一の3点以上の隣接測定点に有意な低下を認めれば「進行の傾向あり」とする.今回は「進行の傾向あり」となった時点を視野障害の進行とした.さらに視野検査結果はGarway-Heathら17)の分類に従い,図1に示す6セクターに分類し,各視野検査結果についてセクターごとのtotaldeviation(TD)値の平均値を算出し,投与前と投与1,2,3年後で比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet).有意水準は,p<0.05とした.II結果眼圧は,投与1年後は14.0±1.4mmHg,2年後は14.1±2.0mmHg,3年後は14.2±1.9mmHgであった(図2).投与前(15.1±2.1mmHg)に比べ各観察時点で眼圧は有意に下降した(p<0.05).視野のMD値は,投与1年後は.5.0±3.5dB,2年後は.5.1±3.2dB,3年後は.5.1±3.5dBで,投与前(.5.4±3.7dB)と同等であった(図3).トレンド解析で有意な悪化を示したのは2例(10%),イベント解析で「進行の傾向あり」を示したのは2例(10%)であった.トレンド解析,イベント解析ともに視野障害の進行を示していた症例はなかった.注:左眼は反転となるエリア1エリア4エリア2エリア5エリア3エリア6図1視野の6セクターによる分類投与前眼圧(mmHg)20181614121086420投与1年後投与2年後投与3年後***図2ウノプロストン投与前後の眼圧(平均±標準偏差)(*p<0.05,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet)(113)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101595TD値はすべてのセクターにおいて投与前と投与1,2,3年後で変化なかった(図4).セクター1は投与前.4.0±4.5dB,投与1年後.3.6±4.8dB,2年後.3.5±4.0dB,3年後.3.3±4.7dBであった.セクター2は投与前.1.8±1.6dB,投与1年後.1.9±1.8dB,2年後.1.7±1.4dB,3年後.1.6±1.6dBであった.セクター3は投与前.1.8±1.7dB,投与1年後.1.5±1.8dB,2年後.1.0±1.9dB,3年後.1.2±1.7dBであった.セクター4は投与前.2.4±3.1dB,投与1年後.2.0±2.9dB,2年後.1.6±2.7dB,3年後.1.4±2.8dBであった.セクター5は投与前.7.7±8.5dB,投与1年後.7.7±8.8dB,2年後.7.8±9.1dB,3年後.7.8±9.4dBであった.セクター6は投与前.13.4±9.9dB,投与1年後.12.6±10.1dB,2年後.13.0±9.5dB,3年後.13.6±9.6dBであった.III考按原発開放隅角緑内障や正常眼圧緑内障に対するウノプロストンの単剤長期投与の眼圧下降効果については多くの報告11~16)があり,その眼圧下降幅は0.5~2.8mmHg,眼圧下降率は3.1~17.7%であった.小川ら11)は投与前眼圧が13.7±3.0mmHgの正常眼圧緑内障48例に6年間投与したところ,眼圧下降幅は1.7mmHg,眼圧下降率は12.4%であったと報告した.新田ら12)は投与前眼圧が16.3±2.4mmHgの正常眼圧緑内障37例に24カ月間以上投与したところ,眼圧下降幅は0.5~1.0mmHg,眼圧下降率は3.1~6.1%であったと報告した.石田ら13)は投与前眼圧が15.1±2.2mmHgの正常眼圧緑内障49眼に24カ月間投与したところ,眼圧下降幅は1.4mmHg,眼圧下降率は9.3%であったと報告した.筆者ら14)は正常眼圧緑内障患者を投与前眼圧によりHighteen群(16mmHg以上,30眼)とLow-teen群(16mmHg未満,22眼)に分けて24カ月間投与したところ,眼圧下降幅はHigh-teen群で2.5~2.8mmHg,Low-teen群で1.1~1.7mmHg,眼圧下降率はHigh-teen群で14.2~15.8%,Low-teen群で7.1~11.5%であったと報告した.飯田ら15)は投与前眼圧が17.7±2.8mmHgの(広義)原発開放隅角緑内障19例に2年間投与したところ,投与8カ月後と12カ月後に有意な眼圧下降を示したと報告した.斎藤ら16)は投与前眼圧が14.7±4.3mmHgの(広義)原発開放隅角緑内障32例に4年間投与したところ,眼圧下降幅は1.4~2.6mmHg,眼圧下降率は9.5~17.7%であったと報告した.今回の眼圧下降幅(0.9~1.1mmHg)と眼圧下降率(4.7~6.0%)は過去の報告11~16)に比べやや低値だったが,その原因として緑内障病型が異なることや投与前眼圧が今回(15.1±2.1mmHg)より高値の報告が多いためと考えられる.原発開放隅角緑内障や正常眼圧緑内障に対するウノプロストンの単剤長期投与の視野維持効果についても多くの報告11~16)がある.飯田ら15)は24カ月間投与によりHumphrey視野のMD値,correctedpatternstandarddeviation(CPSD)値に有意な進行はなく,MD値は投与8カ月後,CPSD値は投与8カ月後,12カ月後に有意に改善し,視野維持効果を示したと報告した.石田ら13)は投与24カ月後のMD値(.4.9±4.6dB)は投与前(.5.7±4.4dB)に比べ有意に改善していたが,CPSD値は投与24カ月後(4.8±3.9dB)と投与前(5.0±4.1dB)で変わらなかったと報告した.MD値が3dB以上悪化した症例は6.3%であった.筆者ら14)は24カ月間投与でMD値はHigh-teen群で投与前(.4.5±3.2dB)と投与24カ月後(.3.8±4.3dB),Low-teen群で投与前(.4.8±3.8dB)と投与24カ月後(.4.9±4.3dB)で同等で,MD値が2dB以上悪化した症例はなかったと報告した.齋藤ら16)は4年間投与で無治療時よりmeandefect値が4dB以上悪化したときをendpointとした場合の視野障害の非進行率は88.0±8.5%であったと報告した.小川ら11)は投与6年間で視野をトレンド解析で評価し,MDスロープが悪化していたのが18.8%(9眼/48眼)であったと報告した.今回はウノプロストン投与により視野のMD値は維持されたが,トレンド解析による評価では小川ら11)の報告(18.8%)と同様に今回も10.0%の症例で視野障害進行を認めた.一方,過去にウノプロストンのイベント解析による視投与前0.0-5.0-10.0-15.0TD値(dB)投与1年後投与2年後投与3年後:セクター1:セクター4:セクター2:セクター5:セクター3:セクター6図4ウノプロストン投与前後の各セクターのTD値(平均±標準偏差)(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet)投与前0-5-10-15MD値(dB)投与1年後投与2年後投与3年後図3ウノプロストン投与前後の視野のMD値(平均±標準偏差)(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet)1596あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(114)野の報告は1報12)しかない.新田ら12)はウノプロストンとチモロールとの24カ月間以上の投与の比較で,ウノプロストンは有意な眼圧下降(眼圧下降幅0.5~1.0mmHg)を示さなかったと報告した.視野進行の定義を個別点の進行とし,イベント解析を行った.2回連続して10dB以上の進行が隣接する2点で認められる,あるいは隣接する3点で5dB以上進行していて,そのうち1カ所では10dB以上の悪化をしている時点を視野障害進行とした.その結果,投与48カ月後の視野維持率はウノプロストン(73.2%)とチモロール(64.9%)で同等であった.今回のイベント解析では10.0%の症例で「視野障害進行の傾向あり」であったが,この違いは評価法や投与期間が異なることが考えられる.いずれにしろ視野の評価を平均MD値やTD値を用いて全症例で評価すると変化ないが,トレンド解析やイベント解析で個々の症例を評価すると視野進行例が存在するので,個々の症例について注意深い経過観察が必要である.一方,今回の20例のうちウノプロストン投与前に視野検査を1回以上経験していた症例は15例,はじめての経験だった症例が5例であった.視野検査には学習効果がみられることもあるが,これら5例においては経過観察中に学習効果と思われる視野の改善は認めなかった.また,視野進行例(トレンド解析2例+イベント解析2例)と視野維持例(16例)の眼圧は,視野進行例では投与前15.3±1.5mmHg,投与1年後13.3±2.2mmHg,2年後14.3±3.4mmHg,3年後13.5±2.5mmHg,視野維持例では投与前15.4±2.0mmHg,投与1年後14.0±1.3mmHg,2年後14.0±1.6mmHg,3年後14.3±1.6mmHgであった.各群の投与1年後,2年後,3年後における眼圧下降幅および眼圧下降率に差はなかった.つまり,視野維持例では眼圧下降に加えて脈絡膜循環改善作用や神経保護作用がより強力であった可能性が考えられる.視野をセクターに分類して解析した報告もある15,18).飯田ら15)は視野をWirtschafter分類に従い,10セクターに分類し,それぞれのセクターのTD値を比較した.耳側330~30度のセクターで投与24カ月後に有意な視野改善効果を認めた.このセクターはBjerrum領域とその鼻側領域にあたり早期緑内障性視野障害の出現しやすい領域でウノプロストンの治療効果が高いと報告している.高橋ら18)は原発開放隅角緑内障および正常眼圧緑内障11例22眼にウノプロストンを52週間投与した.視野を白色背景野に白色検査視標を呈示する通常の視野検査であるwhite-on-whiteperimetry(W/W)と黄色背景野に青色検査視標を呈示し青錐体系反応を測定するblue-on-yellowperimetry(B/Y)で測定し,上方視野を5つのゾーン,下方もミラーイメージで同様に5つのゾーンに分割し解析した.MD値はW/Wでは原発開放隅角緑内障および正常眼圧緑内障ともに変化なく,B/Yでは原発開放隅角緑内障および正常眼圧緑内障ともに投与52週後に有意に改善した.さらにB/Yの網膜感度は原発開放隅角緑内障では上側1,2ゾーン(比較的中心部),正常眼圧緑内障では上側4,5ゾーン(Bjerrum領域近傍)で改善を認めた.今回はW/Wを用いて解析を行ったが,分類した6つのセクターすべてで平均TD値は改善しなかったが,悪化もしなかった.今回のイベント解析で視野の進行がみられた2例では,それぞれセクター1とセクター5で視野障害が進行していた.セクター1は中心部付近なので今後注意深い経過観察が必要であると考える.今回,ウノプロストンの正常眼圧緑内障に対する長期的な眼圧あるいは視野に及ぼす効果を検討した.眼圧は3年間にわたり有意に下降した.視野は平均MD値やセクターに分類したときの平均TD値においては3年間にわたり維持されていたが,トレンド解析あるいはイベント解析では10%の症例で視野障害が進行していた.ウノプロストンは正常眼圧緑内障に対して3年間持続的な眼圧下降作用をもち,視野維持効果はおおむね良好である.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)ThiemeH,StumpffF,OttleczAetal:Mechanismsofactionofunoprostoneontrabecularmeshworkcontractility.InvestOphthalmolVisSci42:3193-3201,20014)HayashiE,YoshitomiT,IshikawaHetal:Effectofisopropylunoprostoneonrabbitciliaryartery.JpnJOphthalmol44:214-220,20005)YoshitomiT,YamajiK,IshikawaHetal:Vasodilatorymechanismofunoprostoneisopropylonisolatedrabbitciliaryartery.CurrEyeRes28:167-174,20046)MelamedS:Neuroprotectivepropertiesofasyntheticdocosanoid,unoprostoneisopropyl:clinicalbenefitsinthetreatmentofglaucoma.DrugsExpClinRes28:63-72,20027)SugiyamaT,AzumaI:EffectofUF-021onopticnerveheadcirculationinrabbits.JpnJOphthalmol39:124-129,19958)PolakaE,DoelemeyerA,LukschAetal:Partialantagonismofendothelin1-inducedvasoconstrictioninthehumanchoroidbytopicalunoprostoneisopropyl.ArchOphthalmol120:348-352,20019)HayamiK,UnokiK:Photoreceptorprotectionagainstconstantlight-induceddamagebyisopropylunoprostone,aprostaglandinF2ametabolite-relatedcompound.OphthalmicRes33:203-209,2001(115)あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010159710)西篤美,江見和雄,伊藤良和ほか:レスキュラR点眼が眼循環に及ぼす影響.あたらしい眼科13:1422-1424,199611)小川一郎,今井一美:ウノプロストンによる正常眼圧緑内障の長期視野─6年後の成績─.眼紀54:571-577,200312)新田進人,湯川英一,峯正志ほか:正常眼圧緑内障患者に対する0.12%イソプロピルウノプロストン点眼単独投与の臨床効果.あたらしい眼科23:401-404,200613)石田俊郎,山田祐司,片山寿夫ほか:正常眼圧緑内障に対する単独点眼治療効果─視野維持効果に対する長期単独投与の比較─.眼科47:1107-1112,200514)増本美枝子,井上賢治,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障に対するイソプロピルウノプロストンの2年間投与.あたらしい眼科26:1245-1248,200915)飯田伸子,山崎芳夫,伊藤玲ほか:開放隅角緑内障の視野変化に対するイソプロピルウノプロストン単独点眼効果.眼臨99:707-709,200516)斎藤代志明,佐伯智幸,杉山和久:広義原発開放隅角緑内障に対するイソプロピルウノプロストン単独投与による眼圧および視野の長期経過.日眼会誌110:717-722,200617)Garway-HeathDF,PoinoosawmyD,FitzkeFWetal:Mappingthevisualfieldtotheopticdiscinnormaltensionglaucomaeyes.Ophthalmology107:1809-1815,200018)高橋現一郎,青木容子,小池健ほか:イソプロピルウノプロストン投与後のblue-on-yellowperimetryの変動.眼臨96:657-662,2002***

緑内障患者に対する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼回数が及ぼす眼圧の検討

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(113)1435《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(10):1435.1438,2010c緑内障患者に対する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼回数が及ぼす眼圧の検討大槻智宏*1森田哲也*1庄司信行*1,2冨岡敏也*3有本あこ*4原直人*4鈴木宏昌*5清水公也*1*1北里大学医学部眼科学教室*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3日立横浜病院眼科*4神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科*5社会保険相模野病院眼科IntraocularPressure-loweringEffectsofTopicalCarbonicAnhydraseInhibitorsinGlaucomaTomohiroOtsuki1),TetsuyaMorita1),NobuyukiShoji1,2),ToshiyaTomioka3),AkoArimoto4),NaotoHara4),HiromasaSuzuki5)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthSciences,3)DepartmentofOphthalmology,HitachiYokohamaHopspital,4)DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaClinic,5)DepartmentofOphthalmology,SagaminoHospital炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)であるブリンゾラミドとドルゾラミドでは推奨される点眼回数が異なるため日中眼圧変動を測定し,眼圧下降効果の維持の違いについて前向き研究を行った.ブリンゾラミド1日2回点眼を2カ月以上継続している緑内障患者18例34眼(男性6例11眼,女性12例23眼)を対象とした.変更前とドルゾラミド点眼(1日3回)に変更後2カ月目に眼圧を測定した(9時,12時,15時).両点眼とも朝7時に点眼し,ドルゾラミドの昼の点眼は13時とした.そして,各測定時間における眼圧および,12時から15時にかけての眼圧変動を両点眼で比較した.各測定時間において,両点眼薬で眼圧に有意差はなかったが,12時と15時の眼圧の変動幅を比較すると,ブリンゾラミドでは0.7±2.2mmHg上昇したのに対して,ドルゾラミドでは.0.3±1.6mmHgと低下しており,統計学的に有意に眼圧低下を認めた(p=0.02,対応のあるt検定).CAI2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた8眼についてみると,1日3回点眼に変更し昼の点眼を追加したことで,12時よりも15時の眼圧が下がった症例は4眼,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなり,すべての症例で昼の点眼が有効であったことが示された.CAI患者の日中の眼圧が高い場合は,昼の点眼を追加したほうが午後の眼圧下降効果に有効な可能性が示唆された.Purpose:Tocompareintraocularpressure-loweringeffectbetweentwocarbonicanhydraseinhibitors,brinzolamideanddorzolamide,inpatientswithglaucoma.Patientsandmethods:Subjectsofthisprospectivestudycomprised34eyesof18glaucomapatients(11eyesof6males,23eyesof12females;meanage63±10years).Intraocularpressurewasmeasuredat9,12,and15o’clockduringathree-times-dailyregimenwithtopicalbrinzolamideonly,followedbytwomonthsofathree-times-dailyregimenoftopicaldorzolamideonly.Results:At9,12,and15o’clock,therewasnosignificantdifferencebetweenthetwocarbonicanhydraseinhibitorsintermsofintraocularpressure.Inthecaseofbrinzolamide,however,themeasurementsat15o’clockwerehigherby0.7±2.2mmHgthanthoseat12o’clock,whileinthecaseofdorzolamidethemeasurementsat15o’clockwerelowerby.0.3±1.6mmHgthanthoseat12o’clock.Thedifferenceineffectbetweenthetwodrugsaccordingtothetimeadministeredwasstatisticallysignificant(p=0.02,pairedt-test).Conclusions:Theresultssuggestthatadditionalapplicationatnoonwouldbeeffectiveinpatientswhoseintraocularpressureincreasedindaytimewithtopicalcarbonicanhydraseinhibitorsb.i.d.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1435.1438,2010〕〔別刷請求先〕大槻智宏:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TomohiroOtsuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN1436あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(114)はじめに緑内障薬物治療においては,プロスタグランジン製剤,b遮断薬が第一選択薬としておもに使用され1),効果不十分な場合に炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)などが併用薬として使用されている2~4).わが国ではCAI点眼液として1999年5月に0.5%ならびに1%のドルゾラミド点眼薬が,2002年12月に1%ブリンゾラミド点眼薬が承認された.臨床試験により,それぞれの薬剤の点眼回数は1%ドルゾラミド点眼薬では「1回1滴,1日3回点眼」が推奨され,一方,1%ブリンゾラミド点眼薬では「通常1回1滴,1日2回点眼,十分な効果が得られない場合は1日3回点眼する」が推奨されている.筆者らの調べた限り,ブリンゾラミド点眼薬から1%ドルゾラミド点眼薬への変更の報告は3報しかなく,1%ドルゾラミド点眼薬3回点眼にしても眼圧下降効果に変化がなかったという報告5,6)と,有意に眼圧下降したという報告7)がある.切り替えにより眼圧が有意に下降した理由として,眼圧測定時間が症例ごとに異なっていたために薬剤の効果発現時間と測定時間の関係が結果に影響している可能性が示唆されていた.つまり,症例によって点眼効果のピーク値とトラフ値の時間の眼圧が混在していたため有意差が出た可能性がある.そこで今回,筆者らはブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)を使用中の緑内障患者を1%ドルゾラミド(1日3回点眼)に変更し,日中の眼圧変動を測定しCAIの点眼回数の違いが日中の眼圧変動に及ぼす影響を検討した.I対象および方法対象はブリンゾラミド1日2回点眼を2カ月以上継続している原発開放隅角緑内障(広義)患者のうち,文書で同意のとれた症例18例34眼(男性6例11眼,女性12例23眼)を対象とした.病型は原発開放隅角緑内障(狭義)8眼,正常眼圧緑内障26眼であった.平均年齢は63.9±10.9歳(平均±標準偏差51~81歳)であり,併用薬剤は,b遮断薬(4例7眼),ab遮断薬(4例6眼),プロスタグランジン系薬剤(12例24眼)であった.併用薬剤の点眼時間はCAI変更前後ともに,それぞれの添付文書の使用方法に基づき,1日2回点眼の薬剤は7時,19時に点眼し,プロスタグランジン系薬剤は23時に点眼とした.炎症のある症例や術後早期などの症例は除外した.併用薬剤はそのまま継続した.眼圧測定当日のスケジュールはブリンゾラミド点眼薬1日2回点眼(7時,19時)を2カ月以上継続している患者を対象に,朝7時の1回目点眼後,9時,12時,15時にGoldmann圧平眼圧計で眼圧を測定し,その後休薬期間なしで1%ドルゾラミド3回点眼(7時,13時,19時)に変更し,2カ月以上継続した後に,朝7時の1回目点眼後,9時,12時に眼圧測定し,13時にドルゾラミド2回目点眼後の15時に再度眼圧を測定した.眼圧の前後の測定は同一検者が行った.CAIブリンゾラミド2回点眼時とCAIドルゾラミド3回点眼時の各時間での眼圧,および眼圧変動幅について検討した.なお,本研究は北里大学病院の倫理委員会の承認を得て行った(北里大学医学部・大学病院倫理委員会承認番号:C倫07-367).II結果18例のうち1例はドルゾラミド点眼薬に変更後2週間で頭痛,動悸を自覚したため中止とし,残り17例32眼での眼圧の検討とした.眼圧はブリンゾラミド2回点眼時(ベースライン眼圧),9時15.4±3.2mmHg,12時15.6±3.7mmHg,15時16.1±3.2mmHgであり,ドルゾラミド3回点眼時9時15.6±3.2mmHg,12時16.1±3.7mmHg,15時15.7±3.5mmHgであった(表1).各時間において変更することによる眼圧下降効果に有意差は認めなかった(9時p=0.60,12時p=0.24,15時p=0.40).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):0000.0000,2010〕Keywords:緑内障,炭酸脱水酵素阻害薬,眼圧,日内変動.glaucoma,carbonicanhydraseinhibitor,intraocularpressure,diurnalvariation.表1結果―各時間での比較9時12時15時CAI2回点眼時(ベースライン眼圧)15.4±3.2mmHg15.6±3.7mmHg16.1±3.2mmHgCAI3回点眼時(切り替え後眼圧)15.6±3.2mmHg16.1±3.7mmHg15.7±3.5mmHgp=0.60p=0.24p=0.40Paired-ttest:各時間で有意差なし.n=32.表2眼圧変動幅9時~12時CAI2回点眼時0.2±2.2mmHgCAI3回点眼時0.5±2.0mmHg有意差なしp=0.54(paired-ttest)12時~15時CAI2回点眼時0.7±2.2mmHgCAI3回点眼時.0.3±1.6mmHg有意差ありp=0.02(paired-ttest)(n=32)(115)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101437つぎに9時と12時の眼圧変動幅(12時の眼圧.9時の眼圧)で比較したところ2回点眼時0.2±2.2mmHg,3回点眼時0.5±2.0mmHgと両薬剤で有意差はみられなかった(p=0.54)が,12時と15時の眼圧変動幅(15時の眼圧.12時の眼圧)では,2回点眼時0.7±2.2mmHg,3回点眼時.0.3±1.6mmHgとなり有意差を認めた(p=0.02)(表2).また,2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた8眼は,1日3回したことで,12時よりも15時の眼圧が下がった症例は4眼,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなった(表3).一方,2回点眼時,12時から15時にかけての変動幅が±1mmHg以内であった不変例18眼では,昼の点眼後2mmHg以上の下降がみられた改善例が4眼,不変のままが13眼であった.最後に2回点眼時に2mmHg以上下降していた6眼においては,昼の点眼を加えてもさらに下降した症例はなかった(表3).III考按これまで,1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回点眼)をブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)に変更した報告は多数あり,変更後有意に下降した報告8,9)や,変わらなかったとする報告10~13)があることから,両薬剤の眼圧下降作用はほぼ同等と考えられている.しかし,眼圧測定時間が1回であり,同時刻でない報告が多いため,薬剤の眼圧降下作用のピーク値やトラフ値などの持続時間の影響は検討されていないことが結果に影響している可能性がある.今回の結果では,ブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)を1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回点眼)に変更し,2カ月間投与して眼圧を測定したところ,各測定時間における平均眼圧値は,ブリンゾラミド2回点眼時(ベースライン眼圧)とドルゾラミド3回点眼時で差はみられなかった(表1).このことより,今回の筆者らの結果でも同等の眼圧下降効果と考えられる.つぎに9時と12時の眼圧変動幅(12時の眼圧.9時の眼圧)は2回点眼時も3回点眼時も両薬剤で有意差はみられなかった.9時,12時では眼圧,眼圧変動幅に有意差がないことより,両薬剤の午前中の効果は同等と考えられる.しかし12時と15時の眼圧変動幅(15時の眼圧.12時の眼圧)は2回点眼時0.7±2.2mmHgと眼圧は上昇傾向を示したのに対し,3回点眼時.0.3±1.6mmHgとなり眼圧変動幅は小さくなり,有意な眼圧下降を認めた.今回のCAI2回点眼時と,CAI3回点眼時の違いは12時に眼圧測定後の13時の点眼の有無である.ブリンゾラミド,ドルゾラミドは点眼後約2時間でピーク値を認め,12時間でトラフ値を認めるとされている14).このことより,CAI2回点眼時は朝と夜の2回の12時間おきの点眼になるため,夕方になると薬剤の効果が低下し眼圧が上昇してきてしまう可能性が考えられる.今回,眼圧変動幅に有意差が認められた12時.15時は,ドルゾラミドによる13時の点眼による点眼の効果のピークを再度迎えることにより,日中の眼圧上昇を抑えられたことが考えられる.しかし一方で,アドヒアランスを考えると1日2回点眼のほうが良いと考えられ,はたしてすべての症例で3回点眼する必要があるのかどうかも検討が必要と考えた.そこで今回の症例を3つの群に分けて検討した.まず2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた症例についてみると,1日3回に変更し昼の点眼を追加したことで,4眼は12時よりも15時の眼圧が下がり,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなり,すべての症例で昼の点眼が有効であったことが示された.一方,2回点眼時,12時から15時にかけての変動幅が±1mmHg以内であった不変例18眼では,昼の点眼後2mmHg以上の下降がみられた改善例が4眼,不変のままが13眼であった.最後に2回点眼時に2mmHg以上下降していた6眼においては,昼の点眼を加えてもさらに下降した症例はなかった.以上の結果から,すべての症例を1日3回点眼にするのではなく,昼から夕方にかけての眼圧上昇がみられる症例の場合は昼の点眼を追加し,そうでない症例はあえて昼の点眼を行う必要はないのではないかと考えられる.なお,1例のみドルゾラミド点眼後に頭痛を訴えた症例があった.直接の因果関係ははっきりしないが,同薬剤を中止後に軽減しており,その後とくに後遺障害を残すことはなかった.しかし,同薬剤の臨床試験時の安全性評価症例602例中0.3%にやはり頭痛がみられたと報告されており(薬剤添付文書),使用時には注意が必要である.結論としてCAIはアドヒアランスの面からは点眼回数が少ないほうが有利と考えられるが,昼の点眼を行ったほうが午後の眼圧下降効果に有効な可能性があるので,薬剤選択や点眼回数の決定の際は患者の日中の眼圧変動を測定し,その変動に応じた選択が望ましい.今後の課題として,今回は眼圧変動に左右差があるという報告15)に基づき1例2眼を対象としたが,今後症例数を増やし1例1眼でも同様の結果となるか検討する必要性がある表3昼の点眼の効果2回点眼時,12時.15時の眼圧変動幅による分類①上昇例(2mmHg以上):8眼3回点眼で下降:4眼,上昇幅の減少:4眼→すべての症例で昼の点眼有効②不変例(±1mmHg以内):18眼3回点眼で改善4眼,不変のまま13眼,悪化1眼③下降例(2mmHg以上):6眼3回点眼でさらに下降した症例はなかった→昼の点眼はあまり効果がなかった1438あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(116)と思われる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)ShojiN:Brinzolamide:efficacy.safetyandroleinthemanagementofglaucoma.ExpertReviewofOphthalmology2:695-704,20073)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressureloweringeffectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension:anuncontrolled,openlabelstudy.CurrMedResOpin21:503-507,20054)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧降下効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20065)今井浩二郎,森和彦,池田陽子ほか:2種の炭酸脱水酵素阻害点眼薬の相互切り替えにおける眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:987-990,20056)NakamuraY,IshikawaS,SakaiHetal:24-hourintraocularpressureinglaucomapatientsrandomizedtoreceivedorzolamideorbrinzolamideincombinationwithlatanoprost.ClinOphthalmol3:395-400,20097)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:ブリンゾラミド2回点眼からブリンゾラミド,ドルゾラミド3回点眼への変更による眼圧下降効果.臨眼63:63-67,20098)長谷川公,高橋知子,川瀬和秀:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え効果の検討.臨眼59:215-219,20059)秦桂子,田中康一郎,杤久保哲男:1%ドルゾラミドから1%ブリンゾラミドへの切り替えにおける降圧効果.あたらしい眼科23:681-683,200610)TsukamotoH,NomaH,MukaiSetal:Theefficacyandoculardiscomfortofsubstitutingbrinzolamidefordorzolamideincombinationtherapywithlatanoprost,timolol,anddorzolamide.JOculPharmacolTher21:395-399,200511)小林博,小林かおり,沖波聡:ブリンゾラミド1%とドルゾラミド1%の降圧効果と使用感の比較─切り替え試験.臨眼58:205-209,200412)InoueK,WadaSA,WakakuraMetal:Switchingfromdorzolamidetobrinzolamide:effectonintraocularpressureandpatientcomfort.JpnJOphthalmol50:68-69,200613)久保田みゆき,原岳,久保田俊介ほか:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え試験後の眼圧下降効果の比較.臨眼58:301-303,200414)ValkR,WeberC,SchoutenJetal:Intraocularpressureloweringeffectsofallcommonlyusedglaucoma.DrugsOphthalmol112:1177-1185,200515)TakahashiM,HigashideT,SugiyamaKetal:Discrepancyoftheintraocularpressureresponsebetweenfelloweyesinone-eyetrialsversusbilateraltreatment:Verificationwithnormalsubjects.Glaucoma17:169-174,2008***

Dynamic Contour Tonometer を用いた,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降率の比較

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)1269《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1269.1272,2010cはじめに原発開放隅角緑内障の治療の目的は,眼圧を下げることにより緑内障性の視野障害を抑制することにある1).眼圧が統計学的に正常域にある正常眼圧緑内障の治療においても眼圧下降の重要性が指摘されている2).点眼薬による眼圧下降は,過去の約10年において,高い眼圧下降作用と安全性でプロスタグランジン製剤が重要な位置を占めるようになった3).プロスタグランジン誘導剤は房〔別刷請求先〕白木幸彦:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YukihikoShiraki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHosptal,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerを用いた,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降率の比較白木幸彦山口泰孝梅基光良植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUsedtoCompareEffectsofLatanoprost,TravoprostandTafluprostinGlaucomaYukihikoShiraki,YasutakaYamaguchi,MitsuyoshiUmemotoandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital目的:ラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の眼圧下降作用を,Dynamiccontourtonometer(DCT)とGoldmannapplanationtonometer(GAT)を用いて評価する.対象および方法:対象は緑内障の日本人患者32症例58眼(開放隅角緑内障13眼,正常眼圧緑内障45眼).無点眼,もしくはwash-out後の眼圧をベースライン眼圧(BL)とし,その後1眼に対し,LA,TR,TAを1剤ずつ順次使用し,それぞれの点眼後の眼圧を測定した.結果:BLはGAT18.7±3.9mmHg,DCT23.5±4.3mmHg.点眼後眼圧はGATでは,LA,TR,TAの順に16.7±3.9mmHg,15.6±2.9mmHg,16.2±3.3mmHg.DCTでは19.7±4.0mmHg,18.5±3.4mmHg,19.3±3.2mmHgであり,3剤ともBLよりも有意差をもって眼圧が低下したが,3剤間では有意差はなかった.平均眼圧下降率は,GATではLA,TR,TAの順に,11.1±17.4%,16.7±14.6%,13.7±13.1%,DCTでは15.2±16.0%,21.4±12.0%,17.9±11.3%.眼圧下降率ではDCTでのLA,TR間のみ有意差を得た.Method:Participantscomprised32patients(58eyes)withopen-angleglaucoma(13eyes),ornormal-tensionglaucoma(45eyes),allofJapaneseorigin.Patientswereswitchedamonglatanoprost(LA),travoprost(TR),andtafluprost(TA)fora2-4weektreatmentperiodaftera2-4weekmedicine-freeperiod.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredatuntreatedbaselineandattheendofeachtreatmentperiod,usingGoldmannapplanationtonometer(GAT)andDynamiccontourtonometer(DCT).Result:ThemeanIOPatbaselinewas18.7±3.9mmHg(GAT)and23.5±4.3mmHg(DCT).Themeanpost-treatmentIOPresultwithGATwas16.7±3.9mmHg(LA),15.6±2.9mmHg(TR),and16.2±3.3mmHg(TA).TheresultwithDCTwas19.7±4.0mmHg(LA),18.5±3.4mmHg(TR),and19.3±3.2mmHg(TA).AllmedicationssignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline.TheefficacyofIOPreductionshowednosignificantdifferenceamongmedicationswitheitherIOPmeasurement.TheIOPreductionpercentageasmeasuredbyGATwas11.1±17.4%(LA),16.7±14.6%(TR),and13.7±13.1%(TA);asmeasuredbyDCTitwas15.2±16.0%(LA),21.4±12.0%(TR),and17.9±11.3%(TA).TheDCT-measuredreductionrateforTRwassignificantlygreaterthatforLA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1269.1272,2010〕Keywords:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,眼圧,Dynamiccontourtonometer(DCT).latanoprost,travoprost,tafluprost,intraocularpressure,Dynamiccontourtonometer(DCT).1270あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(104)水産生に影響なく房水流出を増大するとされており4),海外ではラタノプロスト,ウノプロストン,トラボプロスト,ビマトプロストなどのプロスタングランジン製剤が臨床使用されている.長年にわたり日本においては,ラタノプロスト,ウノプロストンのみが臨床使用ができる状況であったが,近年,トラボプロスト,タフルプロストの2種が臨床でも使用することができるようになった.ビマトプロストはラタノプロストより有効に緑内障や高眼圧症の眼圧を下降させる5),もしくはラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストが有効に眼圧を下降させるが相互に有意の違いがない6)など,施設により内容が異なることがあり,その視野など視機能についての長期的な影響もよく知られてはいない.さらに,日本における後発薬は日本人に対しての臨床報告はまだ少ない.特にタフルプロストは,海外でも発売されてから日が浅く,報告自体が少ない.適正使用のためには,まずは短期使用での眼圧下降の程度や有効性についての比較検討が必要である.今回筆者らは,通常診療において,緑内障ガイドライン7)で推奨されている治療トライアルを,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストにおいて順次実施した.眼圧下降に最も有効な薬剤を各症例について知る必要があるため,同一症例に対して3剤を順次切り替えて,その眼圧下降作用を評価した.眼圧測定法もGoldmannapplanationtonometer(GAT)に加え,Dynamiccontourtonometer(DCT)を用いた.I対象および方法当院において視神経乳頭陥凹とそれに一致する視野障害から広義の原発開放隅角緑内障と診断された症例のうち,ラタノプロストのみを使用中,もしくは無点眼の症例で点眼が必要と判断された症例で,通常診療にあたって3剤を比較して最も有効なものを使用することに同意が得られた32症例58眼で検討を行った.落屑症候群を有する者,内眼手術歴がある者は除外した.男性は12症例22眼,女性は20症例36眼.年齢は71.9±9.4歳(44.87歳).緑内障の類型の内訳は狭義の原発開放隅角緑内障13眼,正常眼圧緑内障45眼であった.今回の研究開始まで無点眼であった症例は6眼であった.研究期間は2009年7.10月であった.もともと無点眼であった症例は点眼前の眼圧を,点眼中の症例は2.4週間の無点眼期間を設けてその後の眼圧をベースラインとした.その後ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの3剤を1種類ずつ順次切り替えたうえ,2.4週間使用後の眼圧を点眼後の眼圧とした.眼圧測定の時間帯はなるべく同一にした.3種点眼の順番は無作為とし,これについての検討はしていない.眼圧測定方法はGATに加え,DCTを用いた.DCTは圧センサーを用いた眼圧測定方法で,角膜厚の影響を受けにくく,拡張期眼圧とともに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)も測定することができ,拡張期眼圧に眼球脈波の値を加えることによって収縮期眼圧も測定することができるものである.小数点以下一桁まで表示することができるため,より低眼圧領域での正確な解析に有用と考えられる8,9).今回GAT値,DCT値を用いて眼圧下降値と下降率を算出した.測定値は個人情報とまったく分離してデータ解析に用い,すべての手順はヘルシンキ宣言にのっとって行った.データの収集と公開に関しては当院の倫理委員会の了承を得て行った.統計学的検討は,2群間の差はt-testを行った.3剤の比較には分散分析を行い,有意差を認めた場合は多重比較(Tukey)を行った.p<0.05で有意差ありとした.II結果各点眼平均期間はラタノプロスト16.8日,トラボプロスト14.7日,タフルプロスト15.1日であった.ベースライン眼圧はGAT18.7±3.9mmHg,DCT23.5±4.3mmHgであった.GATでの点眼後眼圧はラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの順に16.7±3.9mmHg,15.6±2.9mmHg,16.2±3.3mmHgで,DCTでは19.7±4.0mmHg,18.5±3.4mmHg,19.3±3.2mmHgであった(図18.7±3.916.7±3.915.6±2.916.2±3.3BLLATRTA35302520151050GAT眼圧(mmHg)23.5±4.319.7±4.018.5±3.419.3±3.2BLLATRTA35302520151050DCT眼圧(mmHg)図1各種眼圧測定法によるベースライン(BL)とラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の平均眼圧値(105)あたらしい眼科Vol.27,No.9,201012711).どちらの眼圧測定値においても,3剤すべてで優位にベースラインより眼圧下降作用を認めた(p<0.01).3剤間は,分散分析において有意差は認めなかった.平均眼圧下降率は,GATではラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの順に,11.1±17.4%,16.7±14.6%,13.7±13.1%で,DCTでは15.2±16.0%,21.4±12.0%,17.9±11.3%であった(図2).3剤間で,統計学的に有意差を認めたのはDCT値でのラタノプロストとトラボプロスト間(p=0.027)のみであったが,トラボプロストがどちらの眼圧値においても高い眼圧下降率を有する傾向を認めた.眼圧下降率を眼圧測定法,点眼薬別に10%以下,10%から20%,20%から30%,30%以上に分け,それぞれが占める割合を図3に表示した.GATでは特に3剤の間に大きな違いはみられなかった.DCTでは,ラタノプロストに比べ,トラボプロスト,タフルプロストともに10%以上の眼圧下降率を示した症例が増えていた.タフルプロストでは,20%以上の高い効果を示した割合はラタノプロストと同程度であった.一方,トラボプロストはラタノプロストに比べて20%以上の眼圧下降を示す症例が増加した.各症例に対し最も眼圧下降率が高かった薬剤の内訳は図4のようになった(3剤とも10%以下の眼圧下降率を示したものは無効とした.GATの結果とDCTの結果に差異がなかったためDCTでの結果のみ記載した).ラタノプロストは14%(8眼),トラボプロスト48%(28眼),タフルプロスト31%(18眼),無効は7%(4眼)であった.トラボプロストが半数の症例で最も高い効果を示した.11.1±17.416.7±14.613.7±13.1(%)LATRTA15.2±16.021.4±12.017.9±11.3LATRTA50403020100-10(%)50403020100-10GATDCT図2各種眼圧測定法によるラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の平均眼圧下降率LA39.7TR37.9TA■:10%以上■:10~20%■:20~30%■:30%以上50.0LA37.9TRGATDCT20.7TA24.125.931.017.231.025.98.613.820.719.017.212.112.124.137.917.243.119.013.8100806040200(%)図3各種眼圧測定法によるラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の眼圧下降率の内訳50.040.030.020.010.00.035.9LA(%)a19.3TR20.5TA50.040.030.020.010.00.025.6TR(%)b13.3LA14.9TA50.040.030.020.010.00.021.3TA(%)c7.6LA15.6TR図5同一症例のなかで,最も効果のある薬剤と他の2剤の平均眼圧下降率a:ラタノプロスト(LA)が最有効薬の症例,b:トラボプロスト(TR)が最有効薬の症例,c:タフルプロスト(TA)が最有効薬の症例.TR48%TA31%LA14%無効7%図4DCTにおいて各症例で最も効果の高かった薬剤の内訳LA:ラタノプロスト,TR:トラボプロスト,TA:タフルプロスト.1272あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(106)さらに,最も効果の高い薬剤の眼圧下降率と,他の2剤の薬剤の平均眼圧下降率(DCT値)を算出し,同一症例のなかで,最も効果のある薬剤と他の2剤の効果の差がどれほどあるのかを検討した.ラタノプロストが最有効薬の症例(8眼)での各点眼薬の平均眼圧下降率は,ラタノプロスト35.9%に対し,トラボプロスト19.3%,タフルプロスト20.5%(図5-a).トラボプロストが最有力の症例(28眼)では,トラボプロスト25.6%に対し,ラタノプロスト13.3%,タフルプロスト14.9%(図5-b).タフルプロストが最有効薬の症例(18眼)では,タフルプロスト21.3%に対し,ラタノプロスト7.6%,トラボプロスト15.6%であった(図5-c).ラタノプロストが最有効薬の場合は,他の2剤の効果が高いだけに,それよりも高い効果をラタノプロストは認めた.一方,タフルプロストが最有効薬の場合はラタノプロストの効果が低い傾向にあった.III考按眼圧下降作用においてはトラボプロストが比較的高い効果があることが示されたが,統計学的な有意差は,DCTで測定された下降率についてラタノプロストとトラボプロスト間で認めたのみであった.すべてにおいてトラボプロストが最有効なわけではなく,症例によってはラタノプロスト,もしくはタフルプロストが最も眼圧下降率が高かった.日内変動や季節変動などの影響10)は考えねばならないが,各症例に対して,最も眼圧下降作用のある薬剤は一様ではないとも考えられ,慎重な点眼薬の選択が必要と思われる.眼圧下降作用に関しては,GATに比べ,DCTでより変化が鋭敏に示されている.DCTでは小数点以下一桁まで測定できる.今回の解析には正常眼圧緑内障が多く含まれており,低眼圧の症例での変化がより正確に反映された可能性がある.また眼圧の平均値で集団を2分して,3剤の眼圧下降率を集団間で比較したが,低眼圧側の集団で下降率が低値すなわち無効となる症例が増加することを除き著明な有効性の違いは集団間でみられなかったため,今回は全体の解析を報告するにとどめた.DCTでは,OPA値の測定が可能であり,拡張期眼圧に加え,DCT値にOPA値を加えた収縮期眼圧も測定することができる.OPA値については,脈絡膜循環を反映するとの報告がある11)が,その値が臨床的に緑内障に対してどのような影響を与えるかは明らかな結論はない.筆者らは収縮期眼圧(DCT+OPA)に関しても同様の検討を行ったが,拡張期眼圧(DCT)での結果と特に大きな違いはみられなかったため本報告からは省いた.文献1)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)AlexanderCL,MillerSJ,AbelSR:Prostaglandinanalogtreatmentofglaucomaandocularhypertension.AnnPharmacother36:504-511,20024)LimKS,NauCB,O’ByrneMM:Mechanismofactionofbimatoprost,latanoprost,andtravoprostinhealthysubjects.Ophthalmology115:790-795,20085)NoeckerRS,DirksMS,Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOphthalmol135:55-63,20036)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20067)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,20038)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,20089)山口泰孝,梅基光良,木村忠貴ほか:DynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療.あたらしい眼科26:695-699,200910)GiuffreG,GiammancoR,DardanoniGetal:Prevalenceofglaucomaanddistributionofintraocularpressureinapopulation.ActaOphthalmolScand73:222-225,199511)TrewDR,SmithSE:Postualstudiesinpulsatileocularbloodflow:II.Chronicopenangleglaucoma.BrJOphthalmol75:71-75,1991***

眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(139)999《原著》あたらしい眼科27(7):999.1003,2010cはじめに眼圧測定値は,その測定原理から角膜形状(角膜曲率半径,角膜厚)の影響を受け測定誤差を生じることが明らかになっている.角膜曲率半径が小さいほど,また角膜厚が厚いほど測定された眼圧値は過大評価され,この逆は過小評価されると報告1.5)されている.さらに,ハードコンタクトレンズ(HCL)の装用は角膜の形状や形態,生理的機能にさまざまな影響を及ぼす6)ことはよく知られている.このうち角膜形状についてはHCL装用に伴う角膜曲率の変化7,8)や,浮腫による角膜厚の増大,慢性的低酸素状態に基づく角膜実質の菲薄化6,9)などが報告され,これらは短期的,可逆的な角膜の変形と考えられている10).これらのことからHCL脱後に測定される眼圧値は,HCL装用による角膜形状変化により誤差が生じている可能性が考えられるが,その詳細は検討されていない.そこで今回HCL装用者を対象とし,HCL脱直後から経時的に眼圧値,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行い,HCL装用による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討したので報告する.I対象および方法対象は,HCL常時装用者(HCL装用群)17名34眼(男性〔別刷請求先〕藤村芙佐子:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:FusakoFujimura,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響藤村芙佐子加藤紗矢香山田やよい庄司信行北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学InfluenceofHardContactLensonIntraocularPressureFusakoFujimura,SayakaKatou,YayoiYamadaandNobuyukiShojiDepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityハードコンタクトレンズ(HCL)による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討した.対象は眼科的疾患を有さない健常青年22名44眼とした.HCL脱後の角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧を経時的(脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間)に測定し,統計学的検討を行った.結果,眼圧値は脱直後と比較し,脱後10分,20分に有意な低下を認めた(p=0.0016,p=0.0267).角膜曲率半径は各測定時間と比較し,脱後24時間のみ有意な低下を認めた(脱後30分.24時間:p<0.0133,1時間.24時間:p<0.01,他時間.24時間:p<0.001).中心角膜厚は変化を認めなかった.HCL脱後に角膜形状変化を認めたが,眼圧値への影響は無視できる程度であり,脱後の眼圧下降はHCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果によるものと考えられ,眼圧測定はHCL脱後30分以降に行うべきと考えた.Weinvestigatedtheinfluenceofcornea-shapinghardcontactlens(HCL)onintraocularpressure(IOP).Participatinginthestudywere22younghealthyvolunteers.Cornealcurvature,centralcornealthicknessandIOPweremeasuredjustafterHCLremovalandat5,10,20,30minutes,1hourand24hoursafter.IOPshowedasignificantdecreaseat10and20minutes,comparedwithjustafterremoval(p=0.0016,p=0.0267,respectively).Cornealcurvatureshowedasignificantdecreaseonlyat24hours(30minutes.24hours:p<0.0133,1hour.24hours:p<0.01,alltheothertime.24hours:p<0.001).Centralcornealthicknessshowednochange.IOPmeasurementisnotaffectedbycornealshapechange.TheresultssuggestthattheIOPdecreasewascausedbythemassagingoftheeyeballwhentheHCLwasremoved.IOPshouldbemeasuredatleast30minutesafterHCLremoval.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):999.1003,2010〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,眼圧,角膜形状,角膜曲率半径,中心角膜厚,マッサージ効果.hardcontactlens,intraocularpressure,cornealshape,cornealcurvature,centralcornealthickness.1000あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(140)1名,女性16名)であった.平均年齢は20.7±1.3歳(19.24歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.3.81±2.93D(+2.25..9.50D)であった.対照としてCL非装用者(CL非装用群)5名10眼(女性5名)を対象とした.平均年齢は21.6±0.55歳(21.22歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.0.40±0.96D(+0.50..2.25D)であった.全例,屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年22名である.なお,HCL装用群においては測定前1週間以上のHCL終日装用,および測定当日の3時間以上の装用を条件とした.対象者には研究の主旨とその意義に関する説明を十分に行い,文書による同意を得た後,測定を開始した.測定方法は以下のとおりである.HCL脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間に眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行った.測定による角膜形状への影響を最小限にするために,すべて非接触で測定可能な機器を用い,角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧の順で測定した.角膜曲率半径の測定にはオートレフケラトメーターARK-730A(NIDEK社),中心角膜厚測定には前眼部解析装置PentacamTM(OCULUS社),眼圧測定には非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)を使用し,各測定は少なくとも3回以上行い,安定した3つの値の平均値を代表値とした.また,角膜曲率半径は弱主経線と強主経線から求められる平均値をその角膜曲率半径とした.さらに日内変動の影響を最小限に抑えるため,測定開始時刻は午前10時に統一した.CL非装用群においてもHCL装用群と同時刻に同様の方法にて眼圧測定を行った.得られた結果を用い,以下の3つの項目について検討を行った.検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化.検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関.検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化.統計学的解析検討は,検討①③にはScheffetest,検討②には単回帰分析を用い,有意水準を5%未満とした.なお,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得てから開始した(承認番号2009-009).II結果検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化眼圧はHCL脱直後に比べ脱後10分(p=0.0016),脱後20分(p=0.0267)に有意な低下が認められた(図1a).角膜曲率半径は,脱後24時間に減少しており,HCL脱直後と脱後24時間(p<0.001),脱後5分と脱後24時間(p<0.001),脱後10分と脱後24時間(p<0.001),脱後20分と脱後24時間(p<0.001),脱後30分と脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間と脱後24時間(p<0.01)に有意な差を認めた(図1b).中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(図1c).8.38.28.18.07.97.87.77.67.5角膜曲率半径(mm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***************n=34Scheffetest:*p=0.0133,**p<0.01,***p<0.001図1bHCL脱後の角膜曲率半径の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後,脱後5分,10分,20分と比較し,脱後24時間の角膜曲率半径は有意に低下していた(p<0.001).同様に,脱後30分より脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間より24時間(p<0.01)に有意な低下を認めた(Scheffetest).600580560540520500中心角膜厚(μm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間n=34図1cHCL脱後の中心角膜厚の経時的変化(平均値±標準偏差)中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(Scheffetest).15141312111098眼圧(mmHg)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***n=34Scheffetest:*p=0.0267,**p=0.0016図1aHCL脱後の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後と比較し,脱後10分,脱後20分の眼圧は有意に低下していた(それぞれp=0.0016,p=0.0267).30分以降の眼圧は,脱直後の眼圧と有意差は認めなかった(Scheffetest).(141)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101001検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関検討①において,眼圧はHCL脱直後に比べ,脱後10分および脱後20分に有意な低下を認めたことから,HCL脱直後と脱後10分および脱直後と脱後20分の間の眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚それぞれの変化量を算出し,眼圧変化量と角膜曲率半径変化量,眼圧変化量と中心角膜厚変化量の相関について検討を行った.結果,HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に相関は認めなかった(図2a)が,脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量はわずかに有意な相関が認められた(単回帰分析y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(図2b).また,眼圧変化量と中心角膜厚変化量は両時間とも相関は認めなかった(図3a,b).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1615141312111010:0010:0510:1010:2010:3011:00時間n=10眼圧変化量(mmHg)図4くり返し眼圧測定を行ったCL非装用群の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)CL非装用者に対し,検討①と同様の時間帯で非接触眼圧計による複数回の眼圧測定をくり返したが,眼圧は有意な経時的変化を示さなかった(Scheffetest).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2bHCL脱後と脱後20分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量には,わずかに有意な相関が認められた(y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3bHCL脱直後と脱後20分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1002あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(142)検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化HCL装用者と同様の方法にて,くり返し眼圧測定を行ったCL非装用者の眼圧値には有意な経時的変化は認められなかった(図4).III考按検討①の結果において,眼圧の経時的変化は,脱直後と比べ脱後10分および20分に有意な低下がみられた.これに対し,検討②:眼圧と角膜曲率半径,眼圧と角膜厚の関連性について,相関が認められたのは,脱直後と脱後20分における眼圧変化量と角膜曲率半径変化量のみであった.このことから,HCL脱後の眼圧下降に対する角膜曲率半径および中心角膜厚の影響は無視できる程度であると考えられた.野々村ら11)は,成熟白色家兎20匹を用いた動物実験において,眼瞼の上から15分間の指の圧迫によるマッサージを施行し,全例に眼圧値の顕著な低下を認めている.これより,今回のHCL脱後の眼圧低下にもマッサージ効果が関与している可能性が推測される.このマッサージ効果を生じる要因の一つとしてくり返しの眼圧測定が考えられる.今回の眼圧測定に用いた非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)は,空気圧平型の眼圧計である.これは空気の噴射によって角膜の一定面積が圧平されるまでの時間から眼圧を求める機械である.噴射される空気圧は微弱であり,本来は眼圧に影響を及ぼすには至らないことが前提となっている.しかしながら,HCL脱直後の測定開始から脱後10分の測定終了までは,短時間の間に何度も測定を行わなければならなかった.1回の空気圧は微弱ではあるが,これがくり返されたことで,前述のようなマッサージ効果が生じた可能性が考えられる.マッサージ効果を生じる他の要因としては,HCL装脱時における,指による眼瞼および眼球への圧迫によるものが考えられる.HCLをはずす場合は指で目尻を押さえ,その指を耳側やや上方へ引っ張り,軽く瞬目してはずす方法や,上下眼瞼を両手人差し指で押さえ,レンズを固定しながら両眼瞼ではじき出す方法が一般的である12).マッサージ効果を生じ得る,これら2つの要因の両者,もしくは一方により眼圧が低下した可能性が考えられるが,検討③の結果から,HCL装用者,CL非装用者の測定方法が同様であるにもかかわらず,CL非装用者の眼圧値に有意な変化を認めなかったことから,HCL脱後の眼圧低下は,眼圧測定時の空気圧によるものではなく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果の影響によるものと判断した.さらに,HCL脱後30分以降には眼圧に有意な低下がみられなかったことから,脱後30分以降にはマッサージ効果が減弱するとともに,眼圧値が緩やかに上昇し,安定したと考える.HCL脱後の角膜曲率半径の変化は,眼圧値に影響を及ぼすには至らない程度であったと述べた.しかしながら,結果から角膜曲率半径は,各測定時間と比較し,HCL脱後24時間のみに有意な低下を認めた.CL装用による角膜曲率の長期的変化については急峻化,不変,扁平化の3通りの報告8,9,13,14)がある.石川ら15)によるとHCL長期装用例において角膜の扁平化を認め,従来いわれているmoldingeffect13,14)によるものであると説明している.またWilsonら10)は,HCLにより角膜が変形した眼では,レンズの装用中止後にTopographicModelingSystem(TMS)所見上で角膜形状が正常に回復するまでには,酸素透過性(RGP)HCLでは平均10週間,PMMA(ポリメチルメタクリレート)HCLでは15週間を要すると報告している.これらのことを踏まえると,今回も同様にHCL装用により角膜が扁平化し,さらにHCLを排除することで,HCLによる圧迫が除外され,本来の角膜形状に回復する過程でHCL脱後24時間に有意な急峻化を認めたと考えられる.また,検討②:眼圧と角膜曲率半径の変化量との関連性を検討した結果では,脱直後と脱後20分のみではあるが,両者の変化量は,わずかに有意な相関が認められた.藤田ら16)は,円錐角膜を有する8名10眼を対象とし,HCL脱後の角膜形状の経時的変化を検討し,HCL脱直後から20分後まで有意な変化がみられたと報告しており,円錐角膜に対するorthokeratology効果の評価は少なくともHCL脱後20分以降に行うべきであるとしている.このことから,HCL脱後の曲率半径が大きな変化を生じる対象には眼圧測定時間を考慮すべきであり,眼圧測定はHCL脱後20分以降に行う必要があると推察される.HCL装用に伴う角膜厚の変化について,短期的にはCL装用が原因して起こる浮腫による角膜厚増大,長期的には慢性的低酸素状態に基づく実質の菲薄化6,9,17)が報告されている.特に長期装用例ではCL脱直後に角膜厚を測定すると,これらの変化が相殺され見かけ上の変化を示さない可能性がある17).今回の角膜厚測定に際し,このような角膜厚の変化が相殺された状態を測定した可能性は否定できず,結果に有意な変化を認めなかった要因となりうると考えられる.前述の濱野ら7)は,同研究においてPMMAレンズ装用眼の角膜厚肥厚率は6.9%であったのに対し,RGPレンズ装用眼では変化を認めなかったとし,HCLの材質による角膜厚への影響の差についても報告している.本検討を行うにあたり,使用するHCLは指定せず対象が常用しているHCLを用い,材質は考慮していない.このことが結果に影響を及ぼした可能性もあり,今後,材質による角膜厚への影響についてもさらなる検討が必要と考える.今回HCLによる角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討を行った.HCL脱後の眼圧は有意な低下を認めたが,角膜曲率半径および中心角膜厚の変化が眼圧値へ及ぼす影響は小さく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果が原因であると考えられた.またその効果はHCL脱後20(143)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101003分まで持続し,眼圧測定値が変動しやすく本来の眼圧値より誤差を生じる可能性が示唆された.HCL装用者の眼圧測定において,より安定した値を得るためには脱後30分以降に測定することが望ましいと考えられた.文献1)MarkHH:Cornealcurvatureinapplanationtonomertry.AmJOphthalmol76:223-224,19732)松本拓也,牧野弘之,新井麻美子ほか:開放隅角緑内障と高眼圧症眼の角膜形状が眼圧測定に及ぼす影響.臨眼52:177-182,19983)EhlersN,BramsenT,SperlingS:Aplanationtonometryandcentralcornealthickness.ActaOphthalmol53:34-43,19754)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalmology112:1327-1336,20055)MichaelJD,MohammedLZ:Humancornealthicknessanditsimpactofintraocularpressuremeasures:Areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,20006)LiesegangTJ:Physiologicchangesofthecorneawithcontactlenswear.CLAOJ28:12-27,20027)濱野光,前田直之,濱野保ほか:TMSデータを利用した角膜形状変化の解析─ハード系コンタクトレンズ装用による影響─.日コレ誌34:204-210,19928)LevensonDS:ChangeincornealcurvaturewithlongtermPMMAcontactlenswear.CLAOJ9:121-125,19839)LiuZ,PflugfelderSC:Theeffectoflong-termcontactlenswearoncornealthickness,curvature,andsurfaceregularity.Ophthalmology107:105-111,200010)WilsonSE,LinDT,KlyceSDetal:Topographicchangesincontactlens-inducedcornealwarpage.Ophthalmology97:734-744,199011)野々村正博:眼球マッサージの毛様体におよばす影響.日眼会誌89:214-224,198512)植田喜一:コンタクトレンズの装脱.眼科診療プラクティス94:88-91,200313)Ruiz-MontenegroJ,MafraCH,WilsonSEetal:Cornealtopographicalterationsinnormalcontactlenswearers.Ophthalmology100:128-134,199314)SanatyM,TemelA:Cornealcurvaturechangesinsoftandrigidgaspermeablecontactlenswearersaftertwoyearsoflenswear.CLAOJ22:186-188,199615)石川明,片倉桂,高橋里美ほか:コンタクトレンズ装用者におけるORBSCANIIによる角膜経常の検討.日コレ誌47:124-133,200516)藤田博紀,佐野研二,北澤世志博ほか:HCL除去後1時間までの円錐角膜の形状変化.あたらしい眼科15:1299-1302,199817)HoldenBA,SweeneyDF,VannasAetal:Effectsoflong-termextendedcontactlenswearonthehumancornea.InvestOphthalmolVisSci26:1489-1501,1985***

マイトマイシンC 併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)963《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):963.966,2010cはじめに緑内障においてエビデンスのある治療は眼圧下降のみである1).しかし一方で,眼圧を十分に下降させても視野障害進行を抑制できない例が存在するという事実もある2).近年,眼圧日内変動幅3)および仰臥位眼圧上昇幅4,5)が,緑内障視野障害進行と関係していることを示唆する報告が散見される.眼圧日内変動幅に関しては,薬物治療でもある程度小さくすることができる6)が,仰臥位眼圧上昇幅は,薬物治療7)およびレーザー線維柱帯形成術8)では抑制効果が少ないことが報告されている.線維柱帯切除術はマイトマイシンC(MMC)の併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となっているが,仰臥位眼圧上昇幅に対する抑制効果に関しては現時点では明らかではない.今回,MMC併用線維柱帯切除術後眼の体位変換による眼圧変化を測定し,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,平成21年4月20日から8月31日に東京警察病〔別刷請求先〕小川俊平:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:ShumpeiOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPANマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化小川俊平中元兼二福田匠里誠安田典子東京警察病院眼科PosturalChangeinIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomafollowingTrabeculectomywithMitomycinCShumpeiOgawa,KenjiNakamoto,TakumiFukuda,MakotoSatoandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital初回マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察できた広義の原発開放隅角緑内障20例32眼を対象に,Pneumatonometerを用いて座位と仰臥位の眼圧を測定した.眼圧は,座位から仰臥位へ体位変換直後有意に上昇し,仰臥位10分後も有意に上昇した(p<0.05).また,再度,座位へ体位変換後,眼圧は速やかに下降した(p<0.05).仰臥位眼圧上昇幅は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg,仰臥位10分後で3.43±1.8mmHgであった.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅には有意な正の相関があった(仰臥位直後:r2=0.41,r=0.64,p<0.0001,仰臥位10分後:r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).In32untreatedeyesof20patientswithprimaryopen-angleglaucomaornormal-tensionglaucoma,weevaluatedtheposturalchangeinintraocularpressure(IOP)followingtrabeculectomywithmitomycinC.UsingaPneumatonometer,IOPwasmeasuredafter5minutesinthesittingposition,andat0and10minutesinthesupineposition.SittingIOP,and0and10minutessupineIOPwere10.2±3.3mmHg,12.2±4.2mmHgand13.7±4.5mmHg,respectively.Thedifferencebetweensupine0minIOPandsittingIOP(ΔIOP0min)was1.95±1.4mmHg(p<0.05);thedifferencebetween10minsupineIOPandsittingIOP(ΔIOP10min)was3.43±1.8mmHg(p<0.05).ThereweresignificantcorrelationsbetweensittingIOP,ΔIOP0min(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)andΔIOP10min(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):963.966,2010〕Keywords:仰臥位,体位変換,眼圧,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,線維柱帯切除術.supineposition,posturalchange,intraocularpressure,normal-tensionglaucoma,primaryopen-angleglaucoma,trabeculectomy.964あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(104)院眼科外来に受診した原発開放隅角緑内障(広義)20例32眼である.年齢は57.6±10.8(平均値±標準偏差)歳,男性5例8眼,女性15例24眼,病型は原発開放隅角緑内障(狭義)22眼,正常眼圧緑内障10眼である.選択基準は,熟練した2人の術者による初回のMMC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察されたものである.除外基準は,術後6カ月以内のもの,初回手術以外にレーザー治療を含む内眼手術既往のあるもの,白内障同時手術例,僚眼へb遮断点眼薬を使用しているもの,Seidel試験で濾過胞に明らかな漏出点があるもの,高血圧・糖尿病の既往のあるものである.なお,本試験は東京警察病院治験倫理審査委員会において承認されており,試験開始前に,患者に本試験の内容について十分に説明し文書で同意を得た.線維柱帯切除術の方法を以下に記す.まず,輪部基底の結膜弁を作製し,4×3mmの強膜半層三角弁作製後,0.04%MMC0.25mlを浸した小片状スポンジェルRを4分間結膜下に塗布した.その後400mlの生理食塩水で洗浄し,線維柱帯切除,周辺虹彩切除後,強膜半層弁を10-0ナイロン糸で房水がわずかに漏出する程度に5針縫合した.最後に結膜を連続縫合した.眼圧測定は,Pneumatonometer:PT(MODEL30CLASSICTMPneumatonometer,Reichert社)とGoldmann圧平式眼圧計(GAT)を用いて行った.眼圧測定は,外来ベッド上でPTを用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位へ体位変換した直後に眼圧を測定した.同時に,各測定時に自動眼圧計で右上腕の血圧および脈拍数を測定した.その後,診察室へ移動し,細隙灯顕微鏡検査およびSeidel試験を行った.最後に座位安静5分後にGATを用いて眼圧を測定した(図1).すべての眼圧測定は,同一検者(S.O.)が午後2時から4時の間に行った.眼圧測定は,すべて右眼より行い,仰臥位眼圧測定時は枕を使用しなかった.まず,PT測定値とGAT測定値の一致度を調べるため,GAT眼圧と座位安静5分後および再座位直後の眼圧をBland-Altman分析を用いて比較した.さらに,体位変換により眼圧および血圧が変動するかを検討するため,全対象の座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再座位直後の眼圧を,ボンフェローニ(Bonferroni)補正pairedt-testを用いて比較した.また,座位安静5分後の眼圧と座位安静5分後から仰臥位直後の眼圧上昇幅(ΔIOP直後)および仰臥位10分後の眼圧上昇幅(ΔIOP10分後)の関係について回帰分析を用いて検討した.有意水準はp<0.05(両側検定)とした.II結果手術日から本試験眼圧測定日までの期間は,2,385±1,646(214.5,604)日であった.Bland-Altman分析ではGATと座位安静5分後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35〕および再座位直後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.2.GAT-再座位直後眼圧(GAT+座位安静5分後眼圧)/2(GAT+再座位直後眼圧)/2GAT-座位安静5分後眼圧05101520531-1-3-505101520531-1-3-5図2GATとPTの一致度Bland-Altman分析では,GATと座位安静5分後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35]および再座位直後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.2..2.2,r2=0.005,p=0.69]の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった.座位安静5分後仰臥位直後仰臥位10分後再座位直後ベッド上PT診察室GAT図1眼圧測定順序眼圧は,Pneumatonometer(PT)を用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位直後に測定した.最後にGoldmann圧平式眼圧計(GAT)で眼圧を測定した.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010965.2.2,r2=0.005,p=0.69〕の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった(図2).各体位の全症例の眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHg,GAT:9.2±3.9mmHgであった.仰臥位直後および仰臥位10分後の眼圧は,いずれも座位安静5分後,再座位直後より有意に高かった(p<0.05).また,仰臥位10分後の眼圧が他の測定値のなかで最も有意に高かった(p<0.05)(図3).体位変換による仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg(ΔIOP直後),仰臥位10分後で3.43±1.8mmHg(ΔIOP10分後)であった.座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった(図4).血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後が最も高かった(p<0.05).また,脈拍数は,座位安静5分で最も多かった(p<0.05)(表1).血圧および脈拍数は,ΔIOP直後およびΔIOP10分後のいずれとも有意な相関はなかった.III考按緑内障における確実な治療法は,眼圧下降治療のみであり,薬物治療やレーザー治療によっても十分な眼圧下降が得られない場合は観血的手術を行う必要がある.線維柱帯切除術はMMCの併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となった1).しかし,手術治療で十分な眼圧下降効果が得られても,視野障害が進行する症例が少なくないことはよく知られている.近年,外来眼圧2)や眼圧日内変動幅3)のみならず仰臥位眼圧上昇幅も,緑内障視野障害進行と関与している可能性が指摘されている4,5).Hirookaら5)は,原発開放隅角緑内障患者11例を対象にして,同一症例の左右眼のうち視野障害がより高度な眼と軽度な眼の仰臥位眼圧上昇幅を比較したところ,視野障害がより高度な眼が軽度な眼より仰臥位眼圧上昇幅が有意に大きかったと報告している.Kiuchiら4)は,正常眼圧緑内障患者を対象に,座位眼圧,仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅とMDslopeとの関係を調べたところ,MDslopeと座位眼圧には有意な相関はなかったが,MDslope表1体位変動と血圧,脈拍数の変化座位仰臥位直後仰臥位10分再座位直後収縮期血圧(mmHg)129.7±15.0129.8±21.0126.1±16.1137.8±19.5*拡張期血圧(mmHg)80.7±9.675.8±12.174.6±10.984.7±9.6*脈拍数(回/分)73.4±15.0*68.7±14.267.0±13.270.9±13.9*:他の3体位との比較(p<0.05,Bonferroni補正pairedt-test).平均値±標準偏差.血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後で最も高かった.脈拍数は,座位安静5分で最も多かった.6543210-1-205101576543210-1051015ΔIOP直後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)ΔIOP10分後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)図4座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(ΔIOP直後=.0.26+0.23×GAT,r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(ΔIOP10分後=0.59+0.30×GAT,r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった.0510152025仰臥位直後座位安静5分後再座位直後仰臥位10分後n=32Mean±SE眼圧(mmHg)*****図3体位変換による眼圧変化各体位の平均眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHgであった.PTで測定された体位変換後の眼圧は仰臥位10分後が最も高かった(*p<0.05).966あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(106)と仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅との間には有意な負の相関を認めたと報告している.眼圧下降治療の質を向上させるためには,仰臥位眼圧上昇幅も可能な限り小さくすることが望まれる.線維柱帯切除術により,仰臥位眼圧上昇幅が抑制できるかは,Parsleyらによりすでに報告されている9).Parsleyらは,座位から仰臥位への体位変換により,眼圧が対照群では1.08mmHgの上昇であったのに対して,片眼手術群では3.31mmHg,両眼手術群では5.49mmHgと大きく上昇したことから,線維柱帯切除術の仰臥位眼圧上昇抑制効果はほとんどなかったと述べている.しかし,この報告では線維柱帯切除術施行時にMMCの併用はなく,手術群の術後眼圧は15.6.17.7mmHgと比較的高値であった.そこで,今回筆者らは,原発開放隅角緑内障(広義)患者を対象として,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧が体位変換によりどの程度変化するかについて検討したところ,座位から仰臥位への体位変換により,仰臥位直後平均1.90mmHg,仰臥位10分後平均3.40mmHg有意に上昇した.その後,再度座位へ体位変換すると,眼圧は速やかに有意に下降した.仰臥位眼圧上昇のおもな機序の一つとして,上強膜静脈圧の上昇が考えられている10.12).体位変換による上強膜静脈圧の上昇とともに,眼圧も1.3分で速やかに上昇することが知られている13,14).Fribergら11)によれば,健常人において,眼圧は体位変換後10.15秒以内に上昇幅の80%が上昇し,30.45秒で最大となり体位を保持するかぎり上昇幅は保たれていた.また,体位変換1分後と5分後では差がなく,座位に戻ると2.3分でベースラインへ戻ったと報告している.Tsukaharaら15)は,健常人と手術既往のない緑内障患者のいずれも,仰臥位直後より仰臥位30分後のほうが眼圧は高かったと報告している.今回の結果とあわせ,MMC併用線維柱帯切除術後も体位変換により,眼圧は速やかに変動することが確認できた.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)の間には有意な正の相関があり,術後座位眼圧が低いほど,仰臥位眼圧上昇幅がより小さかった.仮にMMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅が抑制されるとすると,その機序は座位から仰臥位への体位変換後,房水が濾過胞へ速やかに流出するためと推測される.これは術後座位眼圧が低い症例ほど,術後の濾過機能がより良好であった可能性が高いためと考えられる.このことから,できるだけ座位眼圧が低い,良好な濾過機能をもった濾過胞を形成することで,仰臥位眼圧上昇幅をより小さくできる可能性が示唆された.今回の検討では,術前の仰臥位眼圧上昇幅を測定していないため,MMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅を,術前より術後で抑制できたかについては明らかでない.この点に関して検証するためには,今後,MMC併用線維柱帯切除術前後に仰臥位眼圧上昇幅を前向きに測定し比較する必要があると考える.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientwithglaucoma.JGlaucoma9:134-142,20004)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofprogressionofvisualfielddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientwithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology113:2150-2155,20075)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,20036)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,20047)SmithDA,TropeGE:Effectofabeta-blockeronalteredbodyposition:inducedocularhypertension.BrJOphthalmol74:605-606,19908)SinghM,KaurB:Posturalbehaviourofintraocularpressurefollowingtrabeculoplasty.IntOphthalmol16:163-166,19929)ParsleyJ,PowellRG,KeightleySJetal:Posturalresponseofintraocularpressureinchronicopen-angleglaucomafollowingtrabeculectomy.BrJOphthalmol71:494-496,198710)KrieglsteinGK,WallerWK,LeydheckerW:Thevascularbasisofthepositionalinfluenceontheintraocularpressure.AlbrechtvonGraefesArchklinexpOphthalmol206:99-106,197811)FribergTR,SanbornG,WeinrebRN:Intraocularandepiscleralvenouspressureincreaseduringinvertedposture.AmJOphthalmol103:523-526,198712)BlondeauP,TetraultJP,PapamarkakisC:Diurnalvariationofepiscleralpressureinhealthypatients:apilotstudy.JGlaucoma10:18-24,200113)WeinrebR,CookJ,FribergT:Effectofinvertedbodypositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol98:784-787,198414)GalinMA,McIvorJW,MagruderGB:Influenceofpositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol55:720-723,196315)TsukaharaS,SasakiT:PosturalchangeofIOPinnormalpersonsandinpatientswithprimarywideopen-angleglaucomaandlow-tensionglaucoma.BrJOphthalmol68:389-392,1984

タフルプロスト点眼薬のβ 遮断点眼薬への追加効果

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(99)959《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):959.962,2010cはじめに緑内障の進行を予防する効果的な治療方法として,エビデンスが得られているのは,眼圧下降のみである1).1999年にプロスト系プロスタグランジン(PG)関連薬が臨床の場に登場して以来,これまで,長年,使用されてきたb遮断薬に代わり,PG関連薬が第一選択となる症例が増えている.その理由として,PG関連薬は,1日1回の点眼で強力な眼圧下降効果が得られること,全身への副作用が少ないことがあげられる2).現在,国内では4種類のプロスト系PG関連薬が臨床使用されている.そのなかで,タフルプロスト点眼薬は,唯一,国内で開発されたプロスト系PG関連薬であり3),強力な眼圧下降効果が示されている4,5).眼圧下降機序には,房水産生,経Schlemm管流出路,経ぶどう膜強膜流出路が関与するが,各薬剤により房水動態に及ぼす影響は異なる.緑内障の薬物治療は,通常,単剤の点眼薬から開始する6)が,単剤では,目標眼圧に到達しない症例も多数ある.眼圧下降薬を併用する場合,各薬剤の作用機序を考慮して選択する必要がある.たとえば,房水産生を抑制するb遮断薬には,房水流出を促進するPG関連薬を組み合わせることが選択肢の一つである.しかし,臨床では,個体の薬剤反応性も大きく,薬剤の相加効果,相殺効果は必ずしも理論どおりにはいかない7).これまで,わが国ではb遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告はない.今回,(広義)開放隅角緑〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANタフルプロスト点眼薬のb遮断点眼薬への追加効果比嘉利沙子*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座AdditiveEffectofTafluprostwithb-BlockerRisakoHiga1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,UniversityofTohob遮断点眼薬を3カ月間以上単剤使用している原発開放隅角緑内障患者にタフルプロスト点眼薬を追加投与した21例21眼の有効性と安全性を検討した.眼圧は,追加前,投与1カ月後,3カ月後を比較した.問診と細隙灯顕微鏡所見より安全性を確認した.眼圧は,追加前18.0±2.0mmHg,1カ月後15.7±1.6mmHg,3カ月後15.2±2.2mmHgで,タフルプロスト点眼薬追加後,有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は,1カ月後2.2±1.7mmHg,3カ月後2.8±1.8mmHgで,両者に有意差はなかった.眼圧下降率は,1カ月後12.0±8.0%,3カ月後15.6±9.1%で,両者に有意差はなかった.副作用として,タフルプロスト点眼薬追加後より1例に眼瞼発赤を認めた.タフルプロスト点眼薬をb遮断薬に追加投与した場合,眼圧は有意に下降し,眼圧下降効果は3カ月間持続した.安全性も良好であった.In21eyesof21glaucomapatientstreatedwithb-blockermonotherapy,weevaluatedtheefficacyandsafetyoftafluprostaddition.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredbeforeandat1and3monthsaftertafluprostaddition.Safetywasjudgedonthebasisofquestionnaireresponsesandslitlampfindings.IOPdecreasedsignificantly,from18.0±2.0mmHgto15.7±1.6mmHgafter1month,andto15.2±2.2mmHgafter3months.IOPreductionwas2.2±1.7mmHgafter1monthand2.8±1.8mmHgafter3months;therewerenosignificantdifferences.IOPreductionrateswas12.0±8.0%after1monthand15.6±9.1%after3months;therewerenosignificantdifferences.Adverseeffectssuchaslidrednesswereobservedin1patient.Additionalstudyisthereforeneededtofurtherestablishtheefficacyandsafetyofadjunctiveuseoftafluprostwithb-blockerfor3months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):959.962,2010〕Keywords:タフルプロスト,b遮断薬,追加効果,眼圧,有効性,安全性.tafluprost,b-blocker,additiveeffect,intraocularpressure,efficacy,safety.960あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(100)内障患者を対象とし,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した際の有効性と安全性を検討した.I対象および方法登録期間は2009年1月から8月までで,井上眼科病院で行った.症例の選択基準は,①(広義)開放隅角緑内障患者,②(広義)b遮断点眼薬を3カ月間以上単剤使用している患者,③20歳以上で同意能力がある患者,④文書で同意が得られた患者の4項目をすべて満たしていることを条件とした.副腎皮質ステロイド(点眼または内服)使用中のほか,3カ月以内の内眼手術,角膜屈折矯正手術,虹彩炎の既往歴のある症例は除外した.点眼は,使用中のb遮断薬(1日1回の点眼薬は朝点眼)にタフルプロスト点眼薬を1日1回夜に追加投与した.眼圧は,Goldmann圧平式眼圧計で,追加前,投与1カ月後,3カ月後に,診療時間内(9時から17時)の同一時間帯に同一検者が測定した.眼圧の解析は,1例1眼とし,両眼とも選択基準を満たした症例では,追加前の眼圧が高い眼,同値の場合は右眼を解析眼とした.眼圧は,b遮断薬単剤使用中の3回の平均値を基準値とし,1カ月後,3カ月後と比較した.統計学的解析には,repeatedANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.眼圧下降幅,眼圧下降率を算出し,それぞれ投与1カ月後と3カ月後を比較した.統計学的解析には,対応のあるt検定を用いた.有意水準を0.05以下とした.安全性については,問診と細隙灯顕微鏡の前眼部所見より判定した.本臨床研究は,井上眼科病院倫理審査委員会の承認(2008年11月20日取得)を得て実施した.II結果登録数は,22例33眼であった.そのうち,1例は,タフルプロスト点眼後より眼瞼発赤を認め点眼を中止としたため,脱落症例とした.解析症例数は,21例21眼(pseudophakia4例4眼を含む)であった.経過病型は,原発開放隅角緑内障7例(33%),正常眼圧緑内障14例(67%)であった.性別は男性7例,女性14例,年齢は63.8±16.1歳(平均±標準偏差)(20.86歳),観察期間は3.2±0.4カ月(2.6.4.0カ月)であった.追加前の平均眼圧は18.0±2.0mmHg(15.22mmHg)であった.Humphrey視野中心30-2プログラムSITA-standardのmeandeviation(MD)値は,.6.54±4.83(.18.01..0.37dB)であった.使用しているb遮断薬は,熱応答ゲル化,イオン応答ゲル化,水溶性を含むマレイン酸チモロールが10眼(47%),持続型を含む塩酸カルテオロールが6眼(29%),ニプラジロールが3眼(14%),塩酸レボブノロールが2眼(10%)であった(図1).1.有効性眼圧は,追加前18.0±2.0mmHg,投与1カ月後15.7±1.6mmHg,3カ月後15.2±2.2mmHgであった.眼圧は,投与1カ月後,3カ月後とも,追加前と比較して,有意に下降した(p<0.0001)(図2).眼圧下降幅は,1カ月後2.2±1.7mmHg,3カ月後2.8±1.8mmHgで,有意差を認めなかった(p=0.21)(図3).眼圧下降率は,1カ月後12.0±8.0%,3カ月後15.6±9.1%で,有意差を認めなかった(p=0.18)(図4).眼圧下降率10%未水溶性マレイン酸チモロール(1日2回朝夕点眼)ニプラジロール(1日2回朝夕点眼)塩酸カルテオロール(1日2回朝夕点眼)塩酸レボブノロール(1日2回朝夕点眼)熱応答ゲル化マレイン酸チモロール(1日1回朝点眼)イオン応答ゲル化マレイン酸チモロール(1日1回朝点眼)持続型塩酸カルテオロール(1日1回朝点眼)4眼(19%)4眼(19%)3眼(14%)3眼(14%)2眼(10%)2眼(10%)3眼(14%)図1使用しているb遮断点眼薬20181614120追加前1カ月後眼圧(mmHg)3カ月後22****図2タフルプロスト点眼薬追加前後の眼圧眼圧は点眼前に比較して,点眼投与1カ月後および3カ月後で有意に下降した.repeatedANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)**p<0.0001.64201カ月後眼圧下降幅(mmHg)3カ月後53178NS図3タフルプロスト点眼薬追加後の眼圧下降幅(101)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010961満が8眼(38.1%),20%以上が9眼(42.9%),30%以上の症例はなかった.2.安全性脱落症例1例(4.8%)は,タフルプロスト点眼開始時より,眼瞼発赤がみられたが,点眼中止により改善した.2例(9.5%)は,b遮断薬使用中より,軽度の表層角膜炎を認めたが,タフルプロスト点眼薬追加投与による悪化はみられなかった.結膜充血の自覚は,なしか軽微であり,点眼継続不可能な症例はなかった.また,眼症状以外の全身的副作用は,自覚的に認めなかった.III考按b遮断点眼薬単剤では,眼圧下降効果が不十分と判断した場合,眼圧下降効果が高いPG関連薬への切り替え8)またはPG関連薬や炭酸脱水酵素阻害薬などの追加投与を行う6).b遮断薬には,short-termescape,long-termdriftの2層性の眼圧変化が生じることが知られている9).今回は,b遮断薬を3カ月間以上単剤使用している患者で,さらに安定した眼圧が持続している症例を選択した.b遮断薬では,眼圧の変動が大きいが,本研究では点眼時間と眼圧測定時間を一貫することはできなかった.眼圧測定時間により,ピーク値あるいはトラフ値を測定している可能性がある.追加投与前の基準値となる眼圧は,眼圧変動も考慮して,b遮断薬使用期間中の3回の平均値とした.追加投与後の眼圧は,個々の症例において,同一時間帯で測定した.わが国では,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告はない.海外では,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告が一報10)ある.Egorovら10)は,チモロール点眼薬使用時の眼圧が22.30mmHgの緑内障,高眼圧症患者にタフルプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降幅は6.22.6.79mmHgと有意に下降したと報告している.本研究では,投与3カ月後の眼圧下降幅は2.8±1.7mmHgであった.既報との眼圧下降幅の差は,追加投与前の眼圧の違いが大きな要因と考える.b遮断薬に他のPG関連薬を追加投与した臨床報告も散見される11,12).中井ら11)は,b遮断薬にラタノプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降率は19.4±10.3%と報告している.Orengo-Naniaら12)は,b遮断薬にトラボプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降幅は5.7.7.2mmHg,眼圧下降率は23.1.27.7%と報告している.試験デザインが異なるため,単純に数値を比較することはできないが,b遮断薬に他のPG関連薬を追加投与すると,有意に眼圧が下降することが示されている.タフルプロスト点眼薬の単独投与では,桑山ら5)は投与1カ月後の下降幅は6.6±2.5mmHg(投与前眼圧23.8±2.3mmHg)であったと報告している.タフルプロスト点眼薬は,第1剤として使用した場合に比べ,本研究のように第2剤目として使用した場合では,眼圧下降幅は小さくなることが推察される.眼圧下降薬を追加する場合,同じ作用機序を有する薬剤では,理論上,眼圧下降に対する相加効果はない.しかし,臨床では,薬剤の相加効果,相殺効果は必ずしも理論どおりにはいかない.副交感神経刺激薬であるピロカルピンは,経Schlemm管流出路の排出は促進するが,経ぶどう膜強膜流出路からの流出は減少させる.一方,PG関連薬は経ぶどう膜強膜流出路からの流出を促進する.一見,両薬剤は,相反する作用機序を有するようにみえるが,Fristromら7)は,ピロカルピンとラタノプロストを併用した場合の眼圧下降に対する相加効果を報告している.実際に,眼圧下降薬の併用療法を行う場合,作用機序や薬剤のもつ眼圧下降率のみでは,眼圧下降効果を予想することはむずかしい.本研究では,投与3カ月後の眼圧下降率は,15.6±9.1%であった.30%以上の眼圧下降が得られた症例はなかったが,20%以上の眼圧下降が得られた症例は9眼(42.9%)であった.一方,眼圧下降率が10%未満のノンレスポンダーも8眼(38.1%)存在したため,標準偏差値は大きくなったと考える.タフルプロスト点眼薬のおもな副作用は,結膜充血・眼充血(27.3%),眼掻痒症(9.1%),眼刺激(7.3%)と報告されている4).そのうち,中等度以上の副作用は,紅斑および眼瞼紅斑の2例(3.6%)のみと報告されている4).今回,1例(4.8%)は眼瞼発赤がみられ点眼薬を中止したため除外症例とした.この症例は,タフルプロスト点眼薬の中止により,症状は改善している.自覚的な結膜充血は,なしか軽微であり,点眼薬の継続は除外症例を除き,全例とも可能であった.虹彩や眼瞼の色素沈着や睫毛異常などのPG関連薬特有の眼合併症は,今回の経過観察期間中にはみられなかったが,今後,注意深く観察していく必要がある.緑内障治療は,長期にわたる薬物療法が中心であり,眼圧1カ月後眼圧下降率(%)3カ月後30NS20100402515535図4タフルプロスト点眼薬追加後の眼圧下降率962あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(102)下降効果を最大に得るには,点眼薬のアドヒアランスも重要な要素である.現在,b遮断薬と各PG関連薬の合剤の臨床報告13,14)も散見される.今後,これらの臨床成績にも注目したい.結論として,タフルプロスト点眼薬は,b遮断点眼薬に追加投与した場合,有意に眼圧が下降し,眼圧下降効果は3カ月間持続した.点眼薬の安全性も良好であった.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOphthalmol114:929-932,19963)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20034)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20085)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(Tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20046)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20067)FristromK,NilssonSE:InteractionofPhXA41,anewprostaglandinanalogue,withpilocarpine.Astudyonpatientswithelevatedintraocularpressure.ArchOphthalmol111:662-665,19938)WatsonP,StjernschantzJ,LatanoprostStudyGroup:Asix-months,randomized,double-maskedstudycomparinglatanoprostwithtimololinopen-angleglaucomaandocularhypertension.Ophthalmology103:126-137,19969)BogerWP,PuliafitoCA,SteinertRFetal:Long-termexperiencewithtimololophthalmicsolutioninpatientswithopenangleglaucoma.Ophthalmology58:259-267,197810)EgorovE,RopoA:Adjunctiveuseoftafluprostwithtimololprovidesadditiveeffectsforreductionofintraocularpressureinpatientswithglaucoma.EurJOphthalmol19:214-222,200911)中井正基,井上賢治,若倉雅登ほか:bブロッカー点眼薬にラタノプロストを追加した症例の眼圧下降効果.あたらしい眼科22:693-696,200512)Orengo-NaniaS,LandryT,VonTressMetal:Evaluationoftravoprostasadjunctivetherapyinpatientswithuncontrolledintraocularpressurewhileusingtimolol0.5%.AmJOphthalmol132:860-868,200113)ArendKO,RaberT:Observationalstudyresultsinglaucomapatientsundergoingregimenreplacementtofixedcombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inGerman.JOcularPharmacoTher24:414-420,200814)RossiGC,PasinettiGM,BracchinoMetal:Switchingfromconcomitantlatanoprost0.005%andtimolol0.5%toafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:a6-month,multicenter,cohortstudy.OpinPharmacoTher10:1705-1711,2009***

原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼前後の角膜厚および眼圧変化

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)955《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):955.958,2010cはじめにラタノプロストおよびトラボプロストはいずれもプロスタグランジン関連薬の一つであり,1日1回で強力な眼圧下降効果を示し,また,全身副作用がないことから第一選択薬として広く用いられている.プロスタグランジン関連薬の眼圧下降機序はいまだ明らかではないが,おもに毛様体および強膜のmatrixmetalloproteinase(MMP)の活性化に伴うコラーゲンの減少を含む細胞外マトリックスのリモデリングと考えられている1).しかし,FP受容体は角膜にもあるため2),同様の機序が角膜においてもみられる可能性がある.近年,プロスタグランジン関連薬治療前後の中心角膜厚の変化に関する報告が散見されるが,治療後,中心角膜厚は減少する3.5),変わらない6),増加する7)報告があり,プロスタグランジン関連薬の中心角〔別刷請求先〕里誠:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:MakotoSato,M.D.,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPAN原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼前後の角膜厚および眼圧変化里誠中元兼二小川俊平安田典子東京警察病院眼科EffectofLatanoprostandTravoprostwithoutBenzalkoniumChlorideonCornealThicknessandIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomaMakotoSato,KenjiNakamoto,ShunpeiOgawaandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital広義の原発開放隅角緑内障30例57眼においてラタノプロストと塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロストの中心角膜厚,周辺角膜厚および眼圧に及ぼす効果について検討した.対象を無作為にラタノプロスト治療群,BAC非含有トラボプロスト治療群に割付け,ラタノプロスト0.005%(キサラタンR),BAC非含有トラボプロスト0.004%(トラバタンズR)を1日1回夜片眼または両眼に点眼させて,治療前および治療後8週に,角膜厚および眼圧を測定した.眼圧は両治療群とも治療後有意に下降した(p<0.001).眼圧下降率は,両治療群間に有意な差はなかった(p=0.72).中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前後で有意な変化はなかった(p=0.20)が,BAC非含有トラボプロスト治療群では治療後有意に減少した(p=0.007).周辺角膜厚は両治療群とも治療後有意に減少した(ラタノプロスト治療群:p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:p=0.002).Weinvestigatedtheeffectoflatanoprostandtravoprostwithoutbenzalkoniumchloride(BAC-freetravoprost)oncornealthickness(CT),paracentralCTandintraocularpressure(IOP).Subjectscomprised30patients(57eyes)withprimaryopen-angleglaucomawhowererandomlyassignedtoreceivelatanoprost(16patients,30eyes)orBAC-freetravoprost(14patients,27eyes)for8weeks.CTandIOPweremeasuredbeforeandaftertreatment.StatisticallysignificantIOPreductionwasobservedinbothgroups(p<0.001),withnosignificantdifferencebetweentheirpercentreductions(p=0.72).CentralCTdecreasedsignificantlyonlyintheBAC-freetravoprostgroup(p=0.007);peripheralCTdecreasedsignificantlyinbothgroups(latanoprostgroup:p=0.03,BAC-freetravoprostgroup:p=0.002).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):955.958,2010〕Keywords:原発開放隅角緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,角膜厚,眼圧.primaryopen-angleglaucoma,latanoprost,travoprost,cornealthickness,intraocularpressure.956あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(96)膜厚に及ぼす効果に関してもいまだ明らかでない.また,プロスタグランジン関連薬の傍中心角膜厚に及ぼす効果に関しては,筆者らの調べる限り,いまだ報告されていない.そこで今回,広義の原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロストの中心角膜厚,傍中心角膜厚および眼圧に及ぼす効果について検討した.I対象および方法対象は2008年4月から12月までに東京警察病院を受診した,治療歴のない広義の原発開放隅角緑内障患者30例57眼で,年齢は56.3±13.0(31.80)歳,性別は男性20例,女性10例である.原発開放隅角緑内障(狭義)は3例6眼,正常眼圧緑内障は27例51眼であった.除外基準は,重篤な角膜疾患,ぶどう膜炎の既往のあるもの,内眼手術の既往のあるもの,角膜内皮細胞密度が1,500個/mm2以下のもの,コンタクトレンズ装用者,担当医が不適切と判断したものである.本試験は東京警察病院治験審査委員会にて承認されており,本試験開始前に全例に試験の内容などを口頭および文書を用いて十分に説明し同意を得た.対象を無作為にラタノプロスト治療群16例30眼,BAC非含有トラボプロスト治療群14例27眼に割付けた.ラタノプロスト治療群はラタノプロスト0.005%(キサラタンR)を,また,BAC非含有トラボプロスト治療群はBAC非含有トラボプロスト0.004%(トラバタンズR)を1日1回夜片眼または両眼に点眼させた.1滴点眼後5分以上涙.圧迫および眼瞼を閉瞼させた.治療前および治療後8週に,角膜厚および眼圧を測定した.角膜厚は,ビサンテ前眼部光干渉断層計のPachymetryscan(スキャン方向8方向)で1回測定し,角膜中心から0.2mm(中心角膜)の平均値と2.5mm(傍中心角膜)の平均値を用いてそれぞれ検討した.なお,ビサンテ前眼部光干渉断層計のPachymetryscanでの中心角膜厚測定の再現性は良好であることはすでに報告されている8).眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で治療前後ともに同一医師が1回測定した.測定は,角膜厚から行い,直後に眼圧を測定した.まず,両群の背景因子を比較した.つぎに,各治療群において治療前後の中心角膜厚,傍中心角膜厚,眼圧を比較した.また,各治療群において治療前中心角膜厚と眼圧下降率[((治療前眼圧.治療後眼圧)/治療前眼圧)×100(%)]との関係を回帰分析を用いて検討した.さらに,各群において中心角膜厚変化率[((治療前中心角膜厚.治療後中心角膜厚)/治療前中心角膜厚)×100(%)]と眼圧下降率との関係を回帰分析を用いて検討した.統計解析は,群内比較にはWilcoxonsigned-rankstest,群間比較には,Mann-WhitneyUtestを用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果経過中,全例重篤な副作用はなく,中止・脱落したものはなかった.両治療群の背景因子には有意差はなかった(表1).眼圧は,ラタノプロスト治療群では治療前15.5±3.2mmHg,治療後13.4±2.5mmHg,BAC非含有トラボプロスト治療群では治療前16.3±3.2mmHg,治療後13.9±2.9mmHgであり,両治療群とも治療後有意に下降した(p<0.001)(表1).眼圧下降率はラタノプロスト治療群で11.6±16.4%,BAC非含有トラボプロスト治療群で13.6±16.5%であったが,両治療群間に有意な差は認めなかった(p=0.72)(図1).中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前527.5±25.8μm,治療後526.3±26.7μmであり,治療前後で有意差表1背景因子治療群ラタノプロストp値(n=30)BAC非含有トラボプロスト(n=27)年齢(歳)58.5±12.153.9±13.90.17性別(男/女)11/59/50.20等価球面度数(D).2.5±2.4.3.7±4.30.45角膜厚(μm)中心(0.2mm)527.5±25.8528.9±43.00.94傍中心(2.5mm)544.3±26.3547.1±42.40.77眼圧(mmHg)15.5±3.216.3±3.20.39MD(dB).4.6±6.1.4.8±4.70.55両治療群の背景因子には有意差はなかった.MD:meandeviation.平均値±標準偏差.0481216ラタノプロスト治療群(n=30)BAC非含有トラボプロスト治療群(n=27)眼圧下降率(%)Mean±SE図1眼圧下降率比較眼圧下降率はラタノプロスト治療群で11.6±16.4%,BAC非含有トラボプロスト治療群で13.6±16.5%であり,両治療群間に有意な差はなかった(p=0.72).(97)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010957はなかった(p=0.20).BAC非含有トラボプロスト治療群では,中心角膜厚は治療前528.9±43.1μm,治療後525.3±44.7μmであり,治療後中心角膜厚は有意に減少した(p=0.007)(表2).傍中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前544.3±26.3μm,治療後542.0±28.1μm(p=0.03),BAC非含有トラボプロスト治療群は治療前547.1±42.4μm,治療後543.0±43.4μmであり(p=0.002),両群とも治療後有意に減少した(表2).治療前中心角膜厚と眼圧下降率の関係を回帰分析で検討したところ,両群とも治療前中心角膜厚と眼圧下降率の間に有意な相関はなかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=.35.3+0.09×治療前中心角膜厚,r2=0.02,r=0.14,p=0.46,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=.13.6+0.05×治療前中心角膜厚,r2=0.02,r=0.13,p=0.50).中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間には,両治療群ともに有意な正の相関があり,中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=10.2+6.2×中心角膜厚変化率,r2=0.16,r=0.41,p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=9.9+5.3×中心角膜厚変化率,r2=0.17,r=0.41,p=0.03)(図2).III考按ラタノプロストとトラボプロストの眼圧下降効果を比較した海外の報告によると,夕方9)または点眼24時間後のトラフ時刻10)で,トラボプロストのほうがラタノプロストより眼圧下降効果が大きいとするものがあるが,点眼12時間後のピーク時刻においては両者の眼圧下降効果には差がないとする報告が多い9.11).今回筆者らは,日本人を対象にピーク時刻でのラタノプロストとBAC非含有トラボプロストの眼圧下降効果を比較したところ,両者の眼圧下降率には有意な差がなかった.このことから,日本人の原発開放隅角緑内障(広義)においてもラタノプロストとBAC非含有トラボプロストの眼圧下降効果はピーク時刻では差がないといえる.プロスタグランジン関連薬の中心角膜厚への影響に関しては,近年いくつかの報告が散見されるが,いまだ明らかではない.Arcieriら6)によると,原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者を対象にして,ラタノプロスト,トラボプロストおよびビマトプロストの血液房水柵および中心角膜厚へ及ぼす影響を調べたところ,ビマトプロストのみが中心角膜厚を有意に減少させ,ラタノプロストおよびトラボプロストでは中心角膜厚は有意に変化しなかった.一方,Hatanakaら4)は,開放隅角緑内障患者52例52眼をビマトプロスト,トラボプロストまたはラタノプロストで8週治療したところ,中心角膜厚はすべての群において有意に減少したと報告している.また,逆に治療後中心角膜厚が増加したとする報告も表2治療前後の眼圧および角膜厚変化治療群ラタノプロスト(n=30)BAC非含有トラボプロスト(n=27)眼圧(mmHg)治療前15.5±3.2p<0.001*16.3±3.2p<0.001*後13.4±2.513.9±2.9角膜厚(μm)中心(0.2mm)治療前527.5±25.8p=0.20528.9±43.0p=0.007*後526.3±26.7525.3±44.7傍中心(2.5mm)治療前544.3±26.3p=0.03*547.1±42.4p=0.002*後542.0±28.1543.0±43.4*:有意差あり.平均値±標準偏差.ラタノプロスト治療群非含有トラボプロスト治療群402000-20-2-1012-3-2-10123眼圧下降率(%)4020-20眼圧下降率(%)中心角膜厚変化率(%)中心角膜厚変化率(%)図2中心角膜厚変化率と眼圧下降率との関係中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間には,両治療群ともに有意な正の相関があり,両群とも中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=10.2+6.2×中心角膜厚変化率,r2=0.16,r=0.41,p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=9.9+5.3×中心角膜厚変化率,r2=0.17,r=0.41,p=0.03).958あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(98)ある7).Bafaら7)は,開放隅角緑内障患者108眼を無作為にラタノプロスト,トラボプロストまたはビマトプロストで2年間治療したところ,ラタノプロストとビマトプロストでは,中心角膜厚は治療後有意に増加したが,トラボプロスト治療群では有意な変化はなかったと報告している.このように,現時点では,両薬剤の中心角膜厚に与える影響については,明らかではない.また,傍中心角膜厚も,中心角膜厚と同様に眼圧と有意な正の相関を示すことがHamilton12)により報告されているが,これまでプロスタグランジン関連薬の傍中心角膜厚に及ぼす効果に関する報告はない.そこで今回,広義の原発開放隅角緑内障患者を対象に,ラタノプロスト,BAC非含有トラボプロストの中心角膜厚および傍中心角膜厚への影響を調べた.治療後の中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では,平均1.2μm,BAC非含有トラボプロスト治療群では平均3.7μm減少していたが,有意な変化はBAC非含有トラボプロスト治療群のみにみられた.また,傍中心角膜厚はラタノプロスト治療群では,平均5.0μm,BAC非含有トラボプロスト治療群は平均6.0μm減少しており,これらは両治療群とも有意な変化であった.しかし,中心角膜厚変化値の範囲はラタノプロスト治療群で.12.+10μm,BAC非含有トラボプロスト治療群で.14.+14μmと小さく,また,Goldmann圧平眼圧計の測定誤差も併せて考慮すると,両薬剤による中心角膜厚の変化が眼圧測定値に与える影響は,臨床上ほとんど問題にならないと考えられる13).今回の検討では,両治療群ともに中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間に有意な正の相関があり,両治療群ともに中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きいという結果であった.仮に,プロスタグランジン関連薬による角膜厚減少の機序が,眼圧下降機序と同様にMMPの活性化によるコラーゲン減少を含む細胞外マトリックスのリモデリングであるとすると1,14),毛様体や強膜における薬理作用が強い症例ほど,角膜での作用もより強い可能性が考えられる.あるいは,この中心角膜厚減少による見かけ上の眼圧下降効果のために真の眼圧下降効果が過大評価されている可能性も否定できない.しかし,今回の中心角膜厚変化率と眼圧下降率の相関はいずれの治療群においても弱く,また,本試験は少数例,短期間での検討であるため,より多数例,長期間で検討する必要があると考える.文献1)TorisCB,GabeltBT,KaufmannPL:Updateonmechanismofactionoftopicalprostaglandinsforintraocularpressurereduction.SurvOphthalmol53:S107-S120,20082)Schlotzer-SchrehardtU,ZenkelM,NusingRM:ExpressionandlocalizationofFPandEPprostanoidreceptorsubtypesinhumanoculartissues.InvestOphthalmolVisSci43:1475-1487,20023)SenE,NalcaciogluP,YaziciAetal:Comparisonoftheeffectoflatanoprostandbimatoprostoncentralcornealthickness.JGlaucoma17:398-402,20084)HatanakaM,VessaniRM,EliasIRetal:Theeffectofprostaglandinanalogsandprostamideoncentralcornealthickness.JOculPharmacolTher25:51-53,20095)HarasymowyczPJ,PapamatheakisDG,EnnisMetal:Relationshipbetweentravoprostandcentralcornealthicknessinocularhypertensionandopen-angleglaucoma.Cornea26:34-41,20076)ArcieriES,PierreFilhoPT,WakamatsuTHetal:Theeffectsofprostaglandinanaloguesonthebloodaqueousbarrierandcornealthicknessofphakicpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.Eye22:179-83,20087)BafaM,GeorgopoulosG,MihasCetal:Theeffectofprostaglandinanaloguesoncentralcornealthicknessofpatientswithchronicopen-angleglaucoma:a2-yearstudyon129eyes.ActaOphthalmol,2009,Epubaheadofprint8)大貫和徳,前田征宏,伊藤恵里子ほか:検者間および同一検者での前眼部OpticalCoherenceTomographyの測定再現性.視覚の科学29:103-106,20089)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200110)DubinerHB,SircyMD,LandryTetal:Comparisonofthediurnalocularhypotensiveefficacyoftravoprostandlatanoprostovera44-hourperiodinpatientswithelevateintraocularpressure.ClinicalTher26:84-91,200411)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)HamiltonK:Midperipheralcornealthicknessaffectsnoncontacttonometry.JGlaucoma18:623-627,200913)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,200014)WuKY,WangHZ,HongSJ:Effectoflatanoprostonculturedporcinecornealstromalcells.CurrEyeRes30:871-879,2005***

Dynamic Contour Tonometer を用いた緑内障視野障害様式の検討

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(107)821《原著》あたらしい眼科27(6):821.825,2010cはじめに特徴的な視神経萎縮と視野欠損を生じ,他の疾患や先天異常が否定される開放隅角緑内障は,眼圧の測定値から一般的に20mmHg程度を境界として,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)と原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG,狭義の開放隅角緑内障)として,これまで便宜的に区別されてきた1).眼圧の程度と視野障害様式の違いについて,いくつかの検討がなされている.堀ら2)は,NTGは下方Bjerrum領域に,POAGは上方視野に障害が強いことを示した.Caprioliら3),Chausenら4)はPOAGに比べ,NTGはより局所性の障害であると報告をしている.しかし両疾患の差異,すなわち眼圧の程度と視野障害様式の関係についての明らかな結論は得られていない.そもそも眼圧には日内変動や季節変動なども知られており5,6),このように変動のある眼圧を,ある時点で計測した測定値を基準にして緑内障の分類を行うことに正当性がある〔別刷請求先〕山口泰孝:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YasutakaYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerを用いた緑内障視野障害様式の検討山口泰孝*1白木幸彦*1梅基光良*1木村忠貴*2植田良樹*1*1市立長浜病院眼科*2北野病院眼科DynamicContourTonometerUseinComparingVisualFieldDefectsinGlaucomaYasutakaYamaguchi1),YukihikoShiraki1),MitsuyoshiUmemoto1),TadakiKimura2)andYoshikiUeda1)1)DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitanoHospital視野障害様式が上方と下方で異なる広義開放隅角緑内障眼について,眼圧,眼球脈波(OPA),中心角膜厚,眼圧下降剤(ラタノプロスト,チモロール)への反応性を比較した.眼圧測定には,Goldmann圧平眼圧計(GAT)とdynamiccontourtonometer(DCT)を用いた.対象は上半視野障害を有する緑内障眼114例142眼,下半視野障害を有する緑内障眼75例93眼と健常眼50例100眼である.視野障害様式によるGAT測定眼圧,DCT測定眼圧,OPAおよび中心角膜厚の有意差は認めなかった.両群ともチモロールはラタノプロストより眼圧下降効果が弱かった.チモロールのDCT測定による収縮期眼圧(DCT測定眼圧+OPA)下降率は,上方視野障害群が下方視野障害群より有意に低値であった.また,上方視野障害群はチモロールによるOPA下降が得られなかった.Toinvestigatethedifferenceofthenatureoftheeyesbetweenthevisualfielddefectsbroughtonbyprimaryopen-angleglaucoma,defectlocalizationwasclassifiedinto2groups:upperdefectpatternandlowerdefectpattern.Weanalyzedintraocularpressure(IOP),ocularpulseamplitude(OPA),centralcornealthickness,andtheeffectofeitherlatanoprostortimolol.IOPwasmeasuredusingtheGoldmannapplanationtonometer(GAT)andthedynamiccontourtonometer(DCT),whichalsogavetheOPAmeasurement.Thesubjectscomprised142eyesof114patientsthathadupperdefectpattern,93eyesof75patientsthatshowedlowerdefectpattern,and100eyesof50patientswithnosignsofglaucomaasnormalcontrol.DifferencebetweenthetwopatternswasnotsignificantforIOP,OPAorcentralcornealthickness.TimololwaslesseffectiveinreducingIOPthanwaslatanoprost,foreitherpattern.Timololwaslesseffectivefortheupperdefectpatterneyes;thesystolicIOPdecrease(DCT-IOP+OPA)waslessprominentthaninthelowerdefectpatterneyes,andOPAreductionwasnotsignificant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):821.825,2010〕Keywords:ダイナミックカンタートノメーター,視野障害,眼圧,眼球脈波.dynamiccontourtonometer,visualfielddefect,intraocularpressure,ocularpulseamplitude.822あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(108)かは疑問のあるところである.加えて近年,緑内障視神経障害の機序について,眼圧のほかに眼循環の要素も提唱されている7)が,疫学的な結論が得られているとはいえない.いずれにしても,高眼圧は緑内障視神経障害の進行因子の一つであり8,9),眼圧の程度が緑内障による視神経障害の性質に関与するかは興味のあるところである.今回筆者らは,緑内障を視野障害様式の面から上半視野障害群と下半視野障害群に分類し,各症例の眼圧,眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA),中心角膜厚,眼圧下降剤への反応性について,比較検討した.眼圧測定には,Goldmann圧平眼圧計(GAT)とともにdynamiccontourtonometer(DCT)を用いた.DCTはセンサーによる測定装置であり,角膜剛性の影響を受けることなく眼圧を測定することができ,その値は小数点以下第1位まで表示される.筆者らは,緑内障治療においてDCTが眼圧の相対的変動の指標を測定する装置として,GATと同様に用いることができることを報告している10).また,DCTでは収縮期眼圧と拡張期眼圧の差であるOPAを同時に測定される11,12).OPAは脈絡膜循環に関与しているといわれている13)が,GATでは測定不可能である.眼圧降下剤は,眼圧下降機序が異なるとされるラタノプロストとチモロールの2剤の効果について,視野障害様式による差異を検討した.I対象および方法対象は,上半視野障害を有する緑内障眼114例142眼(男性57例,女性57例),平均年齢67.9±1.0(30.92)歳と,下半視野障害を有する緑内障眼75例93眼(男性43例,女性32例),平均年齢67.1±1.3(29.90)歳である.正常対照群として,白内障以外の内眼疾患を有さない健常眼50例100眼(男性22例,女性28例),平均年齢72.8±0.9(33.87)歳を用いた.対象から屈折度(等価球面度数)が.6D未満または眼軸長が26mmを超える強度近視眼は除外した.測定値は個人情報とまったく分離してデータ解析に用いられ,点眼薬の処方や変更については患者の同意のうえで行うなど,すべての手順はヘルシンキ宣言の指針に基づいて行われた.緑内障眼は視神経乳頭所見および視野異常から診断され,Goldmann視野計で上方または下方に限局もしくは明らかにより進行した半視野障害を認め,湖崎分類a.bに相当する初期から中期の視野障害を有するものを対象とした.さらに光干渉断層計OCT3000(Zeiss社)を用いて視神経乳頭周囲の網膜神経線維層(RNFL)厚を測定し,RNFLthicknessaverageanalysisを用いて解析,上方下方それぞれの平均RNFL厚を求めた.黄斑部網膜厚も同時に測定し,網膜厚の局所的な菲薄化を認め過去の網膜局所循環障害(網膜分枝動脈閉塞など)が疑われる症例は除外した.また,各症例についてHumphrey視野計で得られた結果をHfaFilesVer.5(Beeline社)で解析し,上下視野別に感度閾値と年代別正常値との差であるtotaldeviation(TD)を求め,対応するRNFL厚との解析を行った.GAT(Haag-Streit社)とDCT(ZeimerOphthalmic社,PascalR)を用いて,GAT測定眼圧(GAT値),DCT測定眼圧(DCT値)とOPAを測定した.DCTの測定値はQ=1.5のうち精度が上位の1,2,3を用いた.中心角膜厚は超音波角膜厚測定装置(TOMEY社,AL-1000)を用いて測定した.DCT値を「DCT拡張期眼圧」,DCT値+OPAを「DCT収縮期眼圧」としても扱った.対象症例のうち,上方視野障害群91眼,下方視野障害群58眼について,ラタノプロスト点眼とチモロール点眼の点眼効果を調べた.効果の比較の際にはwashout後2.4週間の点眼期間を設け,その前後にGAT値,DCT値,OPAを測定した.比較検討にはt検定,ノンパラメトリック検定を用い,p<0.05を有意とした.II結果まず上方視野障害群,下方視野障害群について,上方視野,下方視野別のTDを求め図1に示した.Goldmann視野計で半視野障害の判定を行っているため,Humphrey視野計の結果と必ずしも一致しない症例も認めたが,図の分布からはおおむね半視野障害の選別は適切であったと考えられた.つぎに両群の上下視野別の視神経乳頭周囲平均RNFL厚とTDの関係を図2に示した.両群とも視野障害側に相当する視神経周囲RNFL厚が菲薄化しており,Ajtonyら14)の報告同様,RNFL厚とTDには正の相関があることが確認できた.GAT値(健常眼13.9±0.3mmHg,上方視野障害群16.4○:上半視野障害群+:下半視野障害群上半視野TD(dB)下半視野TD(dB)-5-15-25-35-35-25-15-5図1上方視野障害群と下方視野障害群の上下半視野別TD(109)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010823±0.3mmHg,下方視野障害群17.8±0.6mmHg),DCT値(健常眼18.9±0.3mmHg,上方視野障害群21.7±0.4mmHg,下方視野障害群23.2±0.7mmHg),OPA(健常眼2.4±0.1mmHg,上方視野障害群2.9±0.1mmHg,下方視野障害群2.8±0.1mmHg)はいずれも緑内障眼が健常眼より有意に高値であったが,視野障害様式による眼圧の有意差はなかった(表1).健常眼について,DCT拡張期眼圧とDCT収縮期眼圧の各値と,GAT値との関係を図3に示した.ともにGAT値と強い相関があり,その相関係数は近似していた(DCT拡張期眼圧r=0.61,DCT収縮期眼圧r=0.63).中心角膜厚は上方視野障害群(524.6±3.5μm),下方視野障害群(530.3±5.3μm)ともに健常眼(536.0±3.4μm)より表1対象症例の平均GAT値,DCT値,OPA,中心角膜厚健常眼上方視野障害群下方視野障害群2群間の有意差GAT値(mmHg)13.9±0.316.4±0.3*17.8±0.6*NSDCT値(mmHg)18.9±0.321.7±0.4*23.2±0.7*NSOPA(mmHg)2.4±0.12.9±0.1*2.8±0.1*NS中心角膜厚(μm)536.0±3.4524.6±3.5*530.3±5.3NS*健常眼との有意差あり(p<0.05).050100RNFL厚(μm)a:上方視野障害群○,太線:上方視野+,細線:下方視野○,太線:上方視野+,細線:下方視野TD(dB)150050100RNFL厚(μm)b:下方視野障害群1505-5-15-25-35TD(dB)5-5-15-25-35図2RNFL厚とTD+,細線:DCT収縮期眼圧○,太線:DCT収張期眼圧25155515GAT値(mmHg)DCT拡張期,収縮期眼圧(mmHg)25図3健常眼のGAT値とDCT拡張期眼圧,収縮期眼圧5040302010001020304050点眼後DCT値(mmHg)点眼前DCT値(mmHg)a:上方視野障害群5040302010001020304050点眼後DCT値(mmHg)点眼前DCT値(mmHg)b:下方視野障害群○,太線:ラタノプロスト+,細線:チモロール○,太線:ラタノプロスト+,細線:チモロール図4点眼前後のDCT値824あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(110)薄い傾向にあり,特に上方視野障害群は健常眼より有意に低値であった.視野障害様式による有意差はなかった(表1).上下視野障害別に緑内障点眼前後のDCT値を図4に示した.上方視野障害群の無点眼下での平均DCT値は21.6±0.4mmHgであり,ラタノプロスト点眼後は18.3±0.4mmHg,チモロール点眼後は20.1±0.4mmHgに有意に下降した(2剤間の有意差あり).下方視野障害群の無点眼下での平均DCT値は23.2±0.8mmHgであり,ラタノプロスト点眼後は19.2±0.5mmHg,チモロール点眼後は20.4±0.7mmHgに有意に下降した(2剤間の有意差あり).上方視野障害群で,ラタノプロストは点眼前DCT値が18mmHg以下,チモロールは22mmHg以下の症例において,点眼前後のDCT値に有意差はなかった.対して下方視野障害群では,ラタノプロストは点眼前DCT値が17mmHg以下,チモロールは18mmHg以下の症例において,点眼前後のDCT値に有意差はなかった.さらにDCT拡張期眼圧とDCT収縮期眼圧について,平均眼圧下降率を検討した.DCT拡張期眼圧は,上方視野障害群でラタノプロスト14.3±1.5%,チモロール5.8±1.7%(2剤間の有意差あり),下方視野障害群でラタノプロスト15.7±1.9%,チモロール11.1±1.6%(2剤間の有意差あり)であった.DCT収縮期眼圧は,上方視野障害群でラタノプロスト14.1±1.4%,チモロール5.6±1.7%(2剤間の有意差あり),下方視野障害群でラタノプロスト15.7±1.8%,チモロール11.1±1.5%(2剤間の有意差あり)であった.特にチモロール点眼によるDCT収縮期眼圧の下降率は,上方視野障害群よりも下方視野障害群で有意に高かった.点眼前後のOPAを図5に示した.無点眼下での平均値は2.8±0.1mmHgであったが,上方視野障害群のラタノプロスト点眼後は2.5±0.1mmHg,チモロール点眼後は2.8±0.1mmHg(2剤間の有意差あり)に,下方視野障害群のラタノプロスト点眼後は2.4±0.1mmHg,チモロール点眼後は2.5±0.1mmHg(2剤間の有意差なし)に変動を認めた.上方視野障害群のチモロール点眼後のみ,点眼前後の有意差を認めなかった.図6に,対象となった症例について,左右眼の視野障害様式を示した.同一症例でも左右眼で視野障害様式が上方視野障害と下方視野障害の異なるものが6%存在した.III考按健常眼の検討でGAT値はDCT拡張期眼圧ともDCT収縮期眼圧とも同程度に強く相関した.すなわち,通常得られるGAT値は,DCTから得られる細分化された値のいずれをもより反映することはないようである.これは,実際の計測手順を考慮すれば仕方のないことであろう.上下の視野障害様式によるGAT値,DCT値,OPAおよび中心角膜厚の有意差は認めなかった.症例の除外診断においては,視野欠損の自覚を得やすいと思われる下方視野に相当する上方の黄斑部網膜が明らかに局所性の循環障害で菲薄化した症例があり,過去においてNTGとされた症例にこのような症例が混在することで解析を混乱させた可能性があ点眼後OPA(mmHg)点眼前OPA(mmHg)64200246a:上方視野障害群点眼後OPA(mmHg)点眼前OPA(mmHg)64200246b:下方視野障害群○,太線:ラタノプロスト+,細線:チモロール○,太線:ラタノプロスト+,細線:チモロール図5点眼前後のOPA39%上-健下-健上:上方視野障害眼健:健常眼下:下方視野障害眼進:視野障害進行眼上-上上-進上-下下-進下-下25%15%6%6%2%7%図6対象緑内障眼の左右視野障害様式の内訳(111)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010825る.いまや緑内障の解析に網膜三次元画像診断は必須といえる.視野障害様式に関わりなく,DCT値下降作用ならびにOPA下降作用はチモロールよりラタノプロストが優位であった.特に上方視野障害群においては,ラタノプロストに比べてチモロールの効果が得られにくく,点眼前DCT値が22mmHg以下の症例(GAT値平均14.8mmHg以下)でよりその効果は認められなかった.下方視野障害群に関しては,下降度の有意差を示す作用点としてのDCT値は,ラタノプロストとチモロールにそれほどの違いはなかった.眼圧下降のみを主眼とするなら,上方視野障害を有する正常眼圧緑内障眼には,問題なくラタノプロストが第一選択といえる.ただし,実際の視野障害進行防止効果については長期的な解析が必要である.このように,視野障害様式によりb遮断薬に対する反応性が異なることが明らかになった.Nicolelaら15)は緑内障および高眼圧症患者にラタノプロストとチモロールを各々投与し,カラードップラーを用いて点眼後の球後血流への影響を比較している.そこでラタノプロストは球後血流に変化を及ぼさなかったが,チモロールは血流速度の低下を認めたと報告している.今後同様の検討を視野障害様式ごとに分類して行うことで,網膜血流と視野障害の関連について新たな考察が可能となるかもしれない.筆者らは以前に,OPAとDCT値の相関は決して高くないこと(健常眼r=0.31,緑内障眼r=0.26)を明らかにした10).すなわちDCT値に伴いOPAも変動するが,必ずしもその程度は同様ではない.眼圧下降によって緑内障の視野障害進行を阻止できることは示されている8,9).OPAは眼圧の一部である一方で,脈絡膜循環を反映するともいわれている13).OPAの低下が視野に関して与える影響については,今後OPAの値自体を分類の指標とし解析する必要がある.同一症例で視野障害様式が左右異なる場合があった.視野障害様式の決定は,眼球自体の要素がより強く関わるのかもしれない.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)堀純子,相原一,鈴木康之ほか:正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障の中.末期における視野障害様式の比較.日眼会誌98:968-973,19943)CaprioliJ,SearsM,MillerJM:Patternsofearlyvisualfieldlossinopenangleglaucoma.AmJOphthalmol103:512-517,19874)ChausenBC,DranceSM,DouglasGRetal:Visualfielddamageinnormal-tensionandhigh-tensionglaucoma.AmJOphthalmol108:636-642,19895)LiuJH,KripkeDF,TwaMDetal:Twenty-four-hourpatternofintraocularpressureintheagingpopulation.InvestOphthalmolVisSci40:2912-2917,19996)BlumenthalM,BlumenthalR,PeritzEetal:Seasonalvariationinintraocularpressure.AmJOphthalmol69:608-610,19707)HarringtonDO:Thepathogenesisoftheglaucomafield:Clinicalevidencethatcirculatoryinsufficiencyintheopticnerveistheprimarycauseofvisualfieldlossinglaucoma.AmJOphthalmol47:477-482,19598)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19989)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,199810)山口泰孝,梅基光良,木村忠貴ほか:DynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療.あたらしい眼科26:695-699,200911)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,200412)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200813)TrewDR,SmithSE:Postualstudiesinpulsatileocularbloodflow:II.Chronicopenangleglaucoma.BrJOphthalmol75:71-75,199114)AjtonyC,BallaZ,SomoskeoySetal:Relationshipbetweenvisualfieldsensitivityandretinalnervefiberlayerthicknessasmeasuredbyopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci48:258-263,200715)NicolelaMT,BuckleyAR,WalmanBEetal:Acomparativestudyoftheeffectsoftimololandlatanoprostonbloodflowvelocityoftheretrobulbarvessels.AmJOphthalmol122:784-789,1996***

日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(115)687《原著》あたらしい眼科27(5):687.690,2010cはじめにプロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,プロスト系薬剤)は現在眼圧下降治療薬のなかで最大の眼圧下降効果を有し,終日にわたる眼圧下降作用と眼圧変動幅抑制効果の点でも優れている.さらに,1回点眼であることと局所のみの副作用により,良いアドヒアランスが見込まれ,第一選択薬としての地位を確立している.すでに4種類のプロスト系薬剤が発売されているが,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは海外での臨床データが蓄積し,最近のメタアナリシス解析でもほぼ同様な25.30%の眼圧下降効果を有することが判明している1).日本で発売されて10年になるラタノプロストは,日本人正常眼圧緑内障(NTG)を対象〔別刷請求先〕相原一:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MakotoAihara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果大谷伸一郎*1湖.淳*2鵜木一彦*3竹内正光*4宮田和典*1相原一*5*1宮田眼科病院*2湖崎眼科*3うのき眼科*4竹内眼科医院*5東京大学大学院医学系外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学IntraocularPressure-ReductionEffectofSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinJapaneseNormal-TensionGlaucomaPatientsShin-ichiroOtani1),JunKozaki2),KazuhikoUnoki3),MasamitsuTakeuchi4),KazunoriMiyata1)andMakotoAihara5)1)MiyataEyeHospital,2)KozakiEyeClinic,3)UnokiEyeClinic,4)TakeuchiEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine日本人正常眼圧緑内障(NTG)眼におけるトラボプロスト0.004%(トラバタンズR)点眼による眼圧下降効果をラタノプロスト0.005%(キサラタンR)点眼液からの前向き切り替え試験で検討した.4施設において日本人NTG眼57例57眼をエントリーし前向きに眼圧,視力,充血,角膜上皮障害を,切り替え後1,3カ月後に評価し,エントリー時と比較検討した.3カ月間持続点眼できた38例のエントリー時,1,3カ月の眼圧はそれぞれ13.4±2.3,12.8±2.0,12.7±1.8mmHg(平均±標準偏差)であり有意な眼圧下降効果が得られた(paired-ttest,p<0.05).視力,充血には変化がなかったが,角膜上皮障害は1カ月で著明に改善し,その後3カ月間悪化しなかった.トラボプロスト点眼液は,日本人正常眼圧緑内障眼に対してラタノプロストと同様な眼圧下降効果が期待でき,また角膜上皮障害を惹起しにくいことが示された.Theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectoftravoprost0.004%inJapanesenormal-tensionglaucoma(NTG)patientswasprospectivelyassessedbyreplacinglatanoprost0.005%withtravoprostat4eyecenters.Inthe57NTGpatientsenrolled,IOP,visualacuity,hyperemiaandocularsurfacedamagewereevaluatedat1and3months.In38patientsthatcompletedtheprotocol,IOPatentry,1and3monthswas13.4±2.3mmHg,12.8±2.0mmHgand12.7±1.8mmHg,respectively.IOPat1and3monthswassignificantlyreducedcomparedtothevalueatentry(p<0.05).Therewasnosignificantdifferenceinvisualacuityorhyperemiaamongthe3timepoints,whereascornealepitheliopathywassignificantlyimprovedat1monthandwasnotworsenedat3months.TravoprosthasanIOP-loweringeffectsimilartothatoflatanoprostinJapaneseNTGpatients,andhaslessdetrimentaleffectonthecornealsurfacethandoeslatanoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):687.690,2010〕Keywords:緑内障,眼圧,ラタノプロスト,トラボプロスト,塩化ベンザルコニウム.glaucoma,intraocularpressure,latanoprost,travoprost,benzalkoniumchloride.688あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(116)とした研究においても,約10.20%の眼圧下降効果を示し,さらにベースライン眼圧が15mmHg以下の場合でも1mmHg以上の有意な眼圧下降効果が得られており2.5),特に低眼圧で眼圧下降効果が得られにくい患者には,確実な眼圧下降効果を示しアドヒアランスを向上させるために重要な薬物である.しかし,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは15mmHg以上の緑内障患者を対象に治験が行われており,純粋にNTGを対象とした治験や報告はない.一方,国内開発のタフルプロストは臨床開発治験において原発開放隅角緑内障(OAG)を対象にラタノプロストに対して非劣勢の眼圧下降効果を示し,またNTG眼を対象に4週間で.4mmHgの有意な眼圧下降を有していることが第三相試験で判明している(タフルプロストインタビューフォーム).しかし,NTGを対象にラタノプロストと比較した報告はなく,長期使用における眼圧下降効果も不明である.プロスト系関連薬トラボプロストのトラバタンズR0.004%点眼液は,防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)を含有せず,SofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入している.日本でのトラボプロスト点眼液導入に際し,臨床治験では,BAC含有0.004%トラボプロスト(トラバタンR)を用いたNTGを含むOAGを対象にしていたため,SofZiaR含有0.004%トラボプロスト(トラバタンズR)の日本人NTGにおける眼圧下降効果の報告はない.BACは界面活性剤であるため,細胞膜の透過性を亢進させ細胞を破壊することによる抗菌作用をもつ一方,薬剤透過性を亢進する可能性があるため,BACの有無は薬効に影響することが懸念される.そこで,日本人NTG患者におけるキサラタンRからの切り替えによる眼圧下降効果を多施設で前向きに3カ月にわたり検討した.I対象および方法1.対象参加4施設(宮田眼科病院,うのき眼科,湖崎眼科,竹内眼科医院)に2008年1月から2月にかけて通院中の患者のうち,すでにNTGと診断された患者で,3カ月以上ラタノプロスト(キサラタンR)点眼液を単剤投与されている57例57眼を対象にした.評価対象眼は両眼NTGの場合は眼圧が高いほうもしくは同じ場合は右眼とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則し,共同設置の倫理委員会の承認を経て,患者からの同意を得たうえで実施された.2.方法エントリー時にラタノプロスト点眼液をトラボプロスト点眼液に切り替え,変更前および変更後1および3カ月の午前もしくは午後の同一時間帯に受診後,視力を測定,結膜充血の観察,さらにフルオレセイン染色による角膜病変をコバルトブルーフィルターもしくはブルーフリーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察,眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.主要評価項目は眼圧であり,変更前エントリー時の眼圧測定値と,変更後1および3カ月の測定値とをpairedt-testにて比較した.副次的評価項目である角膜病変は点状表層角膜症(SPK)をAD分類6)を用いて評価し,結膜充血は4施設共通の標準写真を用いて,正常範囲,軽度,中等度,重度の4段階に分類した.II結果試験期間中の1カ月以内に14例脱落があった.内訳は,充血6例,眼圧上昇2例(16から17mmHg,16から19mmHg),他は表1のとおりであり,少なくとも主剤に関係ある重大な副作用は認められなかった.さらに3カ月までに5例の脱落があり,その内訳は,理由不明の中止例が3例,来院しなかった2例であった.最終的に38例38眼(エントリー中67.2%)が3カ月間持続点眼可能であった.38例は男性8例,女性30例,平均年齢68.2±10.7歳(34.82歳)であった.エントリー時,変更後1,3カ月の視力は,logMAR視力で0.89,0.86,0.84と有意差がなかった.眼圧は図1のとおり,エントリー時13.4±2.3mmHgに対し,変更後1カ月で12.8±2.0mmHg,3カ月で12.7±1.8mmHgと有意に切り替え眼圧(mmHg)20151050*p=0.02*p=0.03エントリー時(ラタノプロスト)トラボプロスト変更1カ月後継続期間(月)トラボプロスト変更3カ月後13.4±2.312.8±2.012.7±1.8図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧の推移n=38,paired-ttest,p=0.01(1カ月),p=0.03(3カ月).表13カ月経過観察中の脱落理由1カ月以内脱落理由充血異物感不快感頭痛,めまい眼圧上昇眼圧変化がないため6例131213カ月以内脱落理由原因不明通院せず32(117)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010689下降した(paired-ttest,p=0.02,0.03).SPKのAD分類の変化を表2に示す.エントリー時にSPKを認めた症例は38例中18例(47.4%)であった.A1D1が13例(34.2%),A1D2が1例(2.6%),A2D1が3例(7.9%),A2D2が1例(2.6%)であったが,変更後1,3カ月でA1D1が2例(5.3%)ずつと著明に改善した(c2検定,p<0.01).結膜充血はエントリー時に軽度充血が5例,変更後1カ月で8例,3カ月で0例であった.III考按今回の検討は,同系統のプロスト系薬剤であるラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる日本人NTG眼に対する長期眼圧下降効果であるが,BAC含有ラタノプロストから,BAC非含有トラボプロストに切り替えたことにより,BACによるオキュラーサーフェスへの影響と主剤のプロスト系の効果とがともに影響した結果であり,単純に主剤の効果を比較検討したものではない.過去のBAC含有点眼液トラボプロストとラタノプロストの緑内障および高眼圧症患者を対象にした眼圧下降効果を比較したメタアナリシスの報告7)では,ともに点眼後のトラフ値,ピーク値でラタノプロストが28%,31%,トラボプロストが29%,31%と同様な眼圧下降を呈することがわかっている.ただし,これらのメタアナリシスの解析に用いられた報告はトラボプロストについてはBAC含有点眼液であり,最近わが国で発売されたBAC非含有,SofZiaR含有点眼液での報告ではない.筆者らはすでに,BAC非含有トラボプロスト0.004%点眼液(トラバタンズR0.004%点眼液)の日本人健常眼に対する単回点眼による眼圧下降効果を,前日同時刻と比較することにより日内変動の影響を抑えた評価方法により評価した.その結果,BAC非含有トラボプロスト点眼は,正常眼に点眼後12時間で3.5mmHg(26.9%)の眼圧下降を呈した8).したがって,防腐剤が代わりBAC非含有となっても,眼圧下降には影響しないと考えられた.さらに,海外欧米人におけるOAGおよび高眼圧症(OH)を対象とした,BAC含有および非含有トラボプロスト点眼による眼圧下降効果には差がないことが報告されており9),日本人緑内障患者においてもBACの有無にかかわらず,トラバタンズR0.004%による眼圧下降効果が期待できると考え,今回日本人NTG対象にBAC含有キサラタンR単独投与症例に対して切り替え試験により前向き研究を行った.海外のラタノプロストからトラボプロスト(ともにBAC含有)切り替え試験では,眼圧はより下降もしくは同等であったと報告されている10.12).今回は日本人NTGを対象として3カ月でキサラタンRと比較し,約1mmHgの眼圧下降効果が有意に得られたことは,海外のNTGを含む早期緑内障を対象にした大規模試験であるEarlyManifestTrialでも示されているように1mmHgの眼圧下降は進行のリスクを約10%軽減させる13)ということからも,十分意義あるものと考える.今回のスタディではNTGと診断された症例ですでに3カ月ラタノプロストを投与された症例を対象にしたが,ベースライン眼圧の測定が必ずしも同一施設でなされていないため,純粋にNTGに対する眼圧下降効果を測定できていないが,ラタノプロストと同等以上の効果を有する結果となり,過去の切り替え試験での有効症例の存在に関する報告10)も合わせて考えれば,NTGを対象にしてもある種類のプロスト系薬剤に低反応性であれば切り替える意義は十分あることを裏付けている.ただし,今回はラタノプロスト点眼時の眼圧をエントリー時1回で評価している点が眼圧下降評価研究計画上の問題である.結果として切り替えにより有意差が得られたものの,この点を考慮して少なくともラタノプロストからトラボプロストへの切り替え試験により同等な結果,眼圧下降効果を有すると結論づけた.また,ベースライン眼圧が不明であるため,本対象症例のなかでラタノプロストに対する反応性とトラボプロストに対する反応性の相関を比較できなかった.今後は無治療NTGを対象に無作為平行群間比較試験かつ薬剤のクロスオーバーを行って,個々の症例でのプロスト系薬剤への反応性の相違を検討すべきであると考える.今回眼圧が切り替えにより平均で有意に下降した理由は,主剤自体の特徴と対象眼の感受性の問題が第一にあると考えられる.トラボプロストはラタノプロストに比べ,末端フェニル基にフッ素が付き化学構造を安定化させることにより効果を持続させている可能性があり,他のプロスト系薬剤と比べ細胞内シグナルのイノシトール代謝物を最大限惹起できること14)や,最終点眼後の眼圧下降持続効果が高いこと15)が報告されている.また,作用点であるFP受容体の遺伝的多型や発現分布なども薬理効果の相違につながると考えられるが確証は得られておらず,今後の課題である.第二の理由として,切り替えによるアドヒアランスの改善が考えられる.今回は初回エントリー57症例中1カ月で14例,3カ月で5例の症例が脱落した(表1).脱落理由に眼圧下降不良が2例あるが1回の測定による軽微な変化であり持続的変化であるかは判定していない.切り替え試験も含め眼圧下降作用を確表2AD分類によるSPKの推移A0A1A2A3D020→36→36D113→2→23→0→00D21→0→001→0→0D3000数字はエントリー時→1カ月後→3カ月後の症例数を示す.690あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(118)認する研究では,脱落例が生じることは否めず,脱落例に眼圧上昇例が多く含まれていれば結果に影響するが,今回19例の脱落中,眼圧下降不良という理由であった例はわずか2例であり,16から17mmHg,16から19mmHgへ上昇した例であった.残り17例は眼圧上昇以外の理由であり表1に示したとおりで,眼圧も変化がなかったか下降した例であるため,これら脱落例を含めても少なくとも今回の切り替え試験により眼圧が悪化したことにはならないと考える.むしろ主剤そのものに対して眼圧下降反応が低いというよりも,表1にあるような,持続的に起こる充血やしみるといった製剤の特徴により,脱落することが多いことがわかる.たとえば充血を理由にした脱落は6例(10%)存在する.また,不快感や異物感に関連するオキュラーサーフェスへの影響も重要なアドヒアランス良否に関わる因子である.今回3カ月継続可能であった38例の角膜障害は1カ月後著明に改善し,さらに3カ月までその改善効果が持続した.これは,すでに筆者らが報告したOAG,OH患者114例を対象にラタノプロストからトラボプロストに切り替えた試験と同様,有意な角膜上皮障害改善を示す結果であった16).したがってBAC非含有製剤であるトラバタンズRはオキュラーサーフェスへの影響が少ないことが示唆された.このような主剤の効果以外のアドヒアランスの影響を考えると,今回3カ月持続点眼可能であった症例は,実はアドヒアランスが不良であったが,トラバタンズRへの切り替えにより角膜障害が改善して,点眼アドヒアランスが良好となり,眼圧がより下降した可能性がある.患者によって副作用はかなり異なるが,少なくとも個々の患者にとってアドヒアランスが良い点眼,すなわち副作用が少なく,差し心地が良い点眼は,主剤の眼圧下降効果以上に重要な因子であると考える.緑内障患者は点眼薬を長期にわたり多剤併用することが多く,点眼液の主剤のみならず防腐剤を含めた基剤も複雑に影響して眼表面への副作用を惹起しやすい状況にあり,点眼に対するアドヒアランスが眼圧下降効果に大きく影響すると考えられる.したがって,眼圧のみにとらわれず,患者の生活環境や性格と眼表面への副作用,点眼時の印象も加味して治療効果を評価する姿勢が重要である.その点でトラバタンズR点眼液のように主剤としてNTGを対象にしても十分な眼圧下降効果が得られ,かつ防腐剤を改良したオキュラーサーフェスに優しい点眼液は,今後の点眼治療薬としての理想的な方向性を示している.今回は3カ月間の経過を追った研究であるが緑内障の長期管理は年単位であり,今後はさらに1年以上の長期点眼による影響を再評価する必要がある.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)岩田慎子,遠藤要子,斉藤秀典ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科20:709-711,20033)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20034)椿井尚子,安藤彰,福井智恵子ほか:投与前眼圧16mmHg以上と15mmHg以下の正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の比較.あたらしい眼科20:813-815,20035)緒方博子,庄司信行,清水公也ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト単剤変更1年後の眼圧,視野,視神経乳頭形状の検討.臨眼59:943-947,20056)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20037)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20058)大島博美,新卓也,相原一ほか:日本人健常眼に対する塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト無作為単盲検単回点眼試験による眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科26:966-968,20099)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200710)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,200411)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200112)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,200313)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)SharifNA,KellyCR,CriderJY:Humantrabecularmeshworkcellresponsesinducedbybimatoprost,travoprost,unoprostone,andotherFPprostaglandinreceptoragonistanalogues.InvestOphthalmolVisSci44:715-721,200315)SitAJ,WeinrebRN,CrowstonJGetal:Sustainedeffectoftravoprostondiurnalandnocturnalintraocularpressure.AmJOphthalmol141:1131-1133,200616)湖.淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,2009