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携帯式眼圧計アイケアHOMEの精度と再現性の検討

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1610.1616,2017c携帯式眼圧計アイケアHOMEの精度と再現性の検討塩川美菜子*1方倉聖基*1井上賢治*1狩野廉*2桑山泰明*2*1井上眼科病院*2福島アイクリニックCEvaluatingthePrecisionandReproducibilityofSelf-measuredIntraocularPressurewithIcareHOMEReboundTonometerMinakoShiokawa1),SeikiKatakura1),KenjiInoue1),KiyoshiKano2)andYasuakiKuwayama2)1)InouyeEyeHospital,2)FukushimaEyeClinic目的:アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の精度と再現性,問題点を検討する.対象および方法:井上眼科病院と福島アイクリニックの有志職員C67例C134眼(平均年齢C31.8±10.7歳,利き手:右C61例,左C6例)を対象とした.アイケアCHOMEによる眼圧自己測定を左右各々C5回の測定値が得られるまで連続で行い,平均眼圧とCGoldmann圧平式眼圧計(GAT)による眼圧を比較した.測定値の変動幅と変動係数により再現性を評価した.測定エラーの回数を記録した.結果:アイケアCHOMEの測定値はCGATの測定値より右眼でC1.5CmmHg,左眼はC1.2CmmHg過小評価だった.変動係数は右眼C8.7±5.8%,左眼C10.5±6.8%,変動幅は右眼C2.3±1.7CmmHg,左眼C2.9±1.9CmmHgで左眼が有意に大きかった(p=0.0194).エラー回数は右眼がC1.8±3.5回,左眼がC3.3±4.8回で左眼が有意に多かった(p=0.0161).結論:アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の精度は比較的良好だが,左眼の測定が課題である.CPurpose:Toevaluatetheprecision,variationandproblemsofself-measuringintraocularpressure(IOP)withIcareHOMEreboundtonometer.MethodsandSubjects:Botheyesof67normativevolunteersfromInouyeEyeHospitalCandCFukushimaCEyeCClinicCwereCenrolled.CIOPsCwereCself-measuredCusingCtheCIcareCHOME.CAllCsubjectsCcontinuedtomeasureuntilthecompletionof5measurements.Additionally,IOPwithGoldmannapplanationtonom-etry(GAT)wasCrecorded,CasCwereCtheCnumberCofCmeasurementCerrors.CResults:TheCmeanCdi.erenceCbetweenIcareCHOMECandCGATCmeasurementsCofCRightCeye(R)andCLeftCeye(L)wereC.1.5CmmHgCandC.1.2CmmHg,respectively.IcareHOMEunderestimatedIOPincomparisonwithGAT.Thecoe.cientofvariation(CV)was8.7C±5.8%(R)andC10.5±6.8%(L).CMeasurementCerrorCincidencesCweC1.8±3.5(R)andC3.3±4.8(L),Cmeasurementerrorsoccurringmorefrequentlywiththelefteyethanwiththeright(p=0.0161).CConclusion:IcareHOMEmaybeCusefulCasCequipmentCenablingCpatientsCtoCself-measureCIOP.CHowever,Cself-measuringCtheCIOPCofCtheCleftCeyeCrequirestraining.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1610.1616,C2017〕Keywords:アイケアHOME,眼圧,自己測定,変動,測定エラー.IcareHOMEreboundtonometer,intraocularpressure,self-measurement,variation,measurementerrors.CはじめにアイケアCHOME(icareCFinland社製)は眼科医の指導のもと,患者自身による眼圧自己測定を目的に開発された携帯式眼圧計である.先行のアイケアCONEに改良を加えた機器で,わが国ではC2014年C10月に承認され,2015年C2月に発売された.アイケア1,2)(icareCFinland社製)と同様のCreboundtonometerで,プローブが角膜にあたったときの動きを電気信号へ変換することで眼圧を測定する.点眼麻酔不要で測定でき,プローブの先端が小さいため瞼裂が狭い症例や小児でも測定が可能である.アイケアCHOMEの外観を図1aに,背面パネルを図1bに示す.大きさはC11×8×3cm,重さはC150gでアイケアCONEと変わらない.測定方法もアイケアCONEと同様に直径C1.73mmのプラスチック製のヘッドがついているディスポーザブ〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN1610(126)b図1アイケアHOMEの外観a:全体,b:背面パネル.Cルのプローブを本体にセットし,ヘッドが被験者の角膜頂点からC4.8Cmmに位置するように額,頬あてを調整のうえ,被験者自身が壁掛け鏡を見ながらプローブが角膜中央に正面から垂直にあたるようにアイケアCHOMEを保持し,測定ボタンを押す.測定はC1回モードと通常モードがある.通常モードではC6回測定(角膜にC6回,プローブのヘッドがあたる)をC1セットとし,6回すべてが正しく測定され,測定値が安定していれば測定が完了し本体背面パネルの「DONE」の上方にチェックマークが緑で点灯し,測定結果が本体に内蔵されたメモリに日時とともに記録される.睫毛にプローブがあたる,ポジションが悪いなどにより正しく測定できていないときや測定結果にばらつきがあると,背面パネルの「REPEAT」の上方に繰り返しを示す矢印が橙色で点灯,あるいは背面パネルのどこにも点灯,点滅しない状態で測定エラーとなり,結果は記録されず再測定となる.アイケアCONEからの改良点は,センサーで左右の測定眼を自動で識別する機能と測定位置が正しいかをプローブベースのCLEDで知らせる機能(正しければ緑が点灯し測定可,正しくなければ赤が点灯し測定不可)が加わったことである.反対にアイケアCONEでは内蔵メモリに測定結果が保存されるほかに,本体背面パネルにも眼圧(5.50CmmHg)をC11段階に分けて表示されるので,検者,被験者はおおよその眼圧測定結果をその場で知ることができたが,アイケアCHOMEでは測定結果は本体のパネルに表示されないため,IcareLinkソフトウエアを使用してパソコンで確認しない限り測定結果を知ることはできない.アイケアCONEはCGoldmann圧平式眼圧計(GoldmannCappla-nationCtonometer:GAT)との互換性が報告されており3,4),筆者らも健常者を対象にアイケアCONEを用いてC24時間眼圧自己測定を行い報告した5).今回はアイケアCHOMEによる眼圧自己測定を行い,その精度,再現性と問題点を検討した.CI対象および方法本研究の趣旨に賛同のうえ,2015年C3.8月に文書で同意を得た全身疾患,眼疾患を有しない井上眼科病院および福島アイクリニックの職員C67例C134眼を対象とした.屈折矯正手術の既往がある症例は除外した.性別は男性C19例,女性48例,年齢はC20.67歳(平均年齢C31.8C±10.7歳)であった.方法は,まず被験者に合わせてアイケアCHOMEの額,頬あてを調整し,操作と測定方法を口頭で指導した後に眼圧自己測定を数回練習し測定ができることを確認した.指導と練習は医師あるいは視能訓練士が行った.その後,右眼,左眼の順で通常モードで測定を開始しC5回測定が完了するまで連続で測定を繰り返した.さらにC5回の測定が完了するまでの測定エラーの回数を記録した.アイケアCHOMEによる眼圧自己測定時間の前あるいは後,15分以内にCGATによる眼圧測定をC1回行った.GATによる眼圧測定は井上眼科病院ではC2名,福島アイクリニックではC1名の眼科医が行った.背景因子として矯正視力,屈折,中心角膜厚(centralcor-nealthickness:CCT),瞼裂幅の測定と利き手を調査した.CCTの測定はポータブル超音波角膜厚測定装置で行い,井上眼科病院はCTOMEY社製CAL4000,福島アイクリニックはCTOMEY社製CSP100を用いた.全測定終了後にアイケアCHOMEによる眼圧自己測定についてアンケート調査を行った.項目は以下のとおりである.1)操作,取扱いはどうでしたか①簡単,②どちらかといえば簡単,③どちらかといえば難しい,④難しい2)測定は簡単でしたか①簡単,②どちらかといえば簡単,③どちらかといえば難しい,④難しい3)測定は怖かったですか①怖い,②怖くない4)左右どちらが測定しやすかったですか①右,②左,③どちらでもない5)患者でも自己測定が可能であると思いますか①できる,②できない6)自由記載測定結果の分析は以下について行った.1)アイケアCHOMEの測定値とCGATの測定値の比較アイケアCHOMEのC5回の測定結果から平均眼圧(以下,アイケア平均眼圧)を算出し,GATによる眼圧測定値と比較した.統計学的検討はCSpearman順位相関の係数を求め,さらにCBland-AltmanPlotsのC95%信頼区間を用いて評価した.2)アイケアCHOMEの再現性アイケアCHOMEによる眼圧自己測定値の再現性を検討するために変動幅(最高眼圧値C.最低眼圧値)と変動係数((標準偏差/平均値)C×100)を求めた.さらに左右眼の変動幅と変動係数を比較した.統計学的検討は対応のあるCt検定を用いた.3)測定エラーの回数測定エラーの回数を左右眼で比較した.統計学的検討には対応のあるCt検定を用いた.4)アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の測定エラーの回数,変動幅と背景因子との相関測定エラーの回数と年齢,測定エラーの回数と変動幅,測定エラーの回数と瞼裂幅,変動幅と年齢,変動幅と瞼裂幅についてCSpearman順位相関の係数を求めた.5)アイケア平均眼圧とCCCTアイケア平均眼圧とCCCTについてCSpearman順位相関の係数を求めた.いずれにおいても左右眼の比較についての統計解析は対応のあるCt検定を用い,有意水準はCp<0.05とした.なお本研究は井上眼科病院倫理委員会の承認を得て行った.CII結果1.背.景.因.子矯正視力,屈折値,瞼裂幅,CCT,GATによる眼圧を表1に示す.矯正視力はClogMAR視力で右眼C.0.07±0.03,左眼.0.04±0.25,屈折値は右眼C.2.9±2.8D,左眼C.2.7±3.1D,瞼裂幅は右眼C9.9C±1.4mm,左眼C9.7C±1.3Cmmであった.CCTは右眼C541.9C±40.9μm,左眼C547.1C±36.0Cμm,GATによる眼圧は右眼C13.4C±1.9CmmHg,左眼C13.2C±1.9CmmHgであった.瞼裂幅が右眼のほうが左眼に比べて有意に大きいほかは左右眼に差はなかった.利き手は右がC61例,左がC6例であった.C2.アイケア平均眼圧とGATによる眼圧測定値の比較アイケア平均眼圧とCGATの眼圧は右眼が相関係数(corre-lationCcoe.cient:以下,r)r=0.455,p<0.0001,左眼がCr=0.491,p<0.0001でいずれも中等度の有意な相関があった(図2).Bland-Altman解析を図3に示す.右眼は平均がC.1.5CmmHg,95%信頼区間はC.6.8.3.9CmmHg,左眼は平均が.1.2mmHg,95%信頼区間はC.6.3.3.8CmmHgであり,右眼,左眼ともにアイケアCHOMEがCGATよりも過小評価表1症例の背景因子右眼左眼p矯正視力(logMAR)C.0.07±0.03(C.0.08.C0.05)C*.0.04±0.25(C.0.08.C2.0)0.5002屈折値(D)C.2.9±2.8(+1.5.C.11.5)C.2.7±3.1(+5.25.C.11.75)C0.5152瞼裂幅(mm)C9.9±1.4(6.12)C9.7±1.3(6.12)C0.0064CCT(Cμm)C541.9±40.9(4C03.6C88)C547.1±36.0(4C72.6C61)C0.0839GATによる眼圧(mmHg)C13.4±1.9(9.19)C13.2±1.9(9.18)C0.1024*弱視C1眼を含む.右眼左眼20r=0.455p<0.0001r=0.491p<0.0001n=6720アイケ平均眼圧(mmHg)151015105551015205101520GAT(mmHg)GAT(mmHg)図2アイケアHOMEとGATの眼圧測定値の相関(128)右眼左眼アイケア平均-GAT(mmHg)86420-2-4-6-8-1061116(GAT+アイケア平均)/2(mmHg)図3Bland.Altman解析によるアイケアHOMEとGATの眼圧測定値の比較右眼左眼右眼左眼6~10mmHg5mmHg4.5%0mmHg6~10mmHg0mmHg1.5%1.5%5mmHg7.5%1.5%4mmHg7.5%7.5%4回1.5%平均:1.8±3.5回平均:3.3±4.8回**p=0.0161対応のあるt検定図4アイケアHOMEによる5回の眼圧自己測定の変動幅表2測定エラーの回数および測定値の変動幅と年齢,瞼裂幅の関係右眼左眼Cprprエラー回数と変動幅C0.2858C.0.133C0.7780C0.035エラー回数と瞼裂幅C0.4741C.0.089C0.3048C0.128エラー回数と年齢C0.1848C.0.164C0.3561C.0.115変動幅と瞼裂幅C0.4474C.0.095C0.1938C.0.161変動幅と年齢C0.1258C0.189C0.0191C0.285であった.C3.アイケアHOMEによる眼圧自己測定値の再現性アイケア平均眼圧は右眼C11.9C±3.0mmHg,左眼C12.0C±2.9mmHgであった.眼圧変動幅がC0.2CmmHgと少なかった症例は右眼で約C70%であった.左眼はC50%に満たなかった(図4).平均変動幅は右眼C2.3C±1.7mmHg,左眼C2.9C±1.9mmHgで左眼が有意に大きかった(p<0.0194).平均変動係数は右眼C8.7C±5.8%,左眼C10.5C±6.8%,変動係数C10%以図5アイケアHOMEによる5回の眼圧自己測定における測定エラーの回数下の症例は右眼でC74.6%,左眼でC55.2%であった.C4.測定エラーの回数測定エラーの回数は右眼がC1.8C±3.5回,左眼がC3.3C±4.8回で左眼が有意に多かった(p=0.0161,図5).C5.測定エラーの回数および変動幅と背景因子の相関(表2)測定エラーの回数と変動幅,瞼裂幅,年齢,および変動幅と瞼裂幅の間に有意な相関はなかった.変動幅と年齢では右眼は相関がなかったが,左眼に有意な弱い相関があった(r=0.281,p<0.05).右利き(n=61)の症例では右眼はC1.8C±3.5回,左眼はC3.5C±5.0回と左眼の測定エラー回数が有意に多かった(p<0.05).左利きの症例(n=6)では右眼はC1.0C±1.7回,左眼はC1.2C±1.2回で有意差はなかった.C6.アイケア平均眼圧とCCT(図6)アイケア平均眼圧とCCCTは右眼においてはCr=0.004,p=0.9758で相関はなかった.左眼においてはCr=0.256,p=0.0361で弱い相関があった.右眼左眼p=0.9758r=0.00420p=0.0361r=0.256201818y=0.0039x+9.8282y=0.0207x+0.7058アイケア平均眼圧(mmHg)16141210864アイケア平均眼圧(mmHg)161412108642200400500600700400500600700中心角膜厚(μm)中心角膜厚(μm)図6アイケア平均眼圧とCCTの関係■簡単操作,取り扱いはどうか■どちらかといえば簡単■どちらかといえば難しい測定は簡単か■難しい0%50%100%■怖くない測定は怖かったか■怖い0%50%100%■右左右どちらが■どちらでもない測定しやすいか■左0%50%100%患者でも自己■できる測定できるか■できない0%50%100%図7眼圧自己測定後のアンケート調査結果7.アンケート調査(図7)60例から回答を得た.1)「操作,取扱い」については約C80%の症例が難しくないと回答した.2)「測定」についてはC70%の症例が測定は難しくないと回答した.3)測定は「怖くなかった」がC45例C75%であった.4)測定しやすかったのは「右眼」または「どちらでもない」が大多数を占めた.5)「患者でも自己測定できる」との回答はC34例C56.7%であった.自由記載で多かった意見として,「高齢者や視機能障害者による眼圧自己測定は困難と思う」(28例),「慣れれば眼圧自己測定は容易」(24例),「裸眼視力が悪いので位置をあわせるのが難しい」(11例)「眼圧自己測定は他者の監視下で行うほうがよい」(8例)など,があった.CIII考按緑内障診療を行ううえで眼圧日内変動を把握することは有益である.しかし,日内変動を知るためには患者を入院という非日常の環境においたうえでC24時間の眼圧測定を行わなければならず,医師にとっても患者にとっても負担を強いるため容易ではない.携帯式眼圧計による眼圧自己測定ができれば,簡便に眼圧日内変動を知ることが可能になるが,実際に緑内障患者に眼圧自己測定を行ってもらうためには使用する眼圧計の安全性,再現性,操作性と精度を検証する必要がある.さらに種々の背景因子と眼圧自己測定結果の関連を知ることは患者の眼圧自己測定の可否,結果の信憑性を評価するうえで参考となる.本研究においてアイケアCHOMEの測定値とCGATの測定値には有意な相関があったが,アイケアCHOMEの測定値はGATの測定値よりも過小評価される傾向にあった.GATとアイケアCHOMEの眼圧測定値を比較した研究は調べた限りではまだ少ない6.9).DabasiaらはC76例を対象にアイケアHOMEを用いて検者による眼圧測定と眼圧自己測定をC3回ずつ行い,GATによる眼圧測定と比較しアイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC0.3CmmHg過小評価であったと報告している6).Termuhlenらは緑内障患者を含むC154例を対象にアイケアCHOME,アイケアCONEを用いた医師による眼圧測定と患者による眼圧自己測定,GATによる眼圧測定を比較した研究で,アイケアCHOMEによる医師による眼圧測定と患者による眼圧自己測定の結果は同等で,アイケアCHOMEの医師による眼圧測定とCGATの測定結果を比較するとアイケアCHOMEはCGATよりもC0.82mmHg過小評価であったと報告している7).Noguchiらは若年健常者C43例を対象にC8.18時までC2時間ごとにアイケア,GATによる測定とアイケアCHOMEによる眼圧自己測定を行った研究で,アイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC1.03CmmHgの過小評価であったと報告している8).Mudieらは緑内障患者(疑いを含む)189例を対象にアイケアによる眼圧測定とアイケアCHOMEによる眼圧自己測定,GATによる眼圧測定を行い,すべての測定が可能であった164例を解析した結果,アイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC0.33CmmHgの過小評価であったと報告している9).眼圧測定値の差は報告によって異なるが,これまでのところアイケアCHOMEの眼圧測定値はCGATの眼圧測定値よりも過小評価であるという点は一致しており,本研究結果も既報と同様であった.アイケアCHOMEの測定値がCGATの測定値よりも過小評価となる一因として,プローブが角膜中央に正確にあたっていなかった可能性がある.アイケアCHOMEの測定ボタンはアイケアと異なり図1に示したように本体の上方に位置している.タッチ式ではないためボタンを押すために力を加えた際に本体の保持が不安定であると,本体ごとプローブが下方に移動する.それによりプローブが角膜中央にあたらず,プローブと角膜の距離も変わるため反跳に変化が生じたと考えた.アイケアCHOMEの眼圧自己測定値の再現性では,平均変動幅は左眼が有意に大きく,平均変動係数は左右差があり,測定エラーの回数は左眼が有意に多かった.Mudieらは,アイケアCHOMEでC3回眼圧自己測定を行い,変動係数は最初のC2回の測定ではC7.02%,3回すべての測定ではC8.20%であったと報告しており9),本研究のほうが変動係数は高かった.Mudieらの研究は対象がC1例C1眼で,測定回数も異なるため一概に比較はできないが,Mudieらの研究でC2回の測定よりもC3回の測定で変動係数が高くなっていたこと,本研究の測定回数がC5回であったことから,本研究における変動係数は右眼についてはCMudieらの研究とほぼ同等と推察された.左眼の再現性が低く測定エラーが多い要因としては,左眼の測定時に機器保持が不安定になりやすいことが考えられた.本研究では測定時のアイケアCHOMEの把持は各被験者に一任したため,右眼は右手,左眼は左手で把持,両眼とも利き手で把持,両眼とも両手で把持など被験者により異なったため角膜中央にプローブが正確にあたっていなかった症例もあったと考えられた.また,優位眼が右眼の場合に左眼の位置決めが不正確になることも一因と考えられた.本研究では調査しなかったが,今後は優位眼と測定エラーの関連についても検討する必要がある.測定エラーの回数と変動幅,測定エラーの回数と瞼裂幅,測定エラーの回数と年齢,変動幅と瞼裂幅に相関はなかった.アイケアCHOMEはプローブの先端が小さいため瞼裂幅が狭い症例でも測定が可能であることが機器の長所の一つであり,今回の結果からも瞼裂幅にかかわらず自己測定が可能であることが示唆された.変動幅と年齢では統計学的には左眼のみに有意な弱い相関があったが,左眼は測定エラー,変動が多く測定自体が右眼よりも不正確であると考えられることから信頼性に乏しいと解釈した.年齢については,比較的若年者では自己測定が可能な症例が多いと思われるが,本研究の対象は高齢者がほとんど含まれていなかったため,今後高齢者に対する調査が必要である.アイケア平均眼圧とCCCTは右眼では相関がなかったが左眼では弱い相関があったCDabasiaらの報告ではCCCTがC500μmより薄い症例ではアイケアCHOMEはCGATよりもC1.9mmHgの過小評価,500.600CμmではアイケアCHOMEはGATよりもC0.1CmmHgの過大評価,600Cμmより厚い症例ではアイケアCHOMEはCGATよりもC1.0CmmHgの過小評価となっている6).Termuhlenらの報告では右眼においてアイケアCHOMEの測定値と中心角膜厚の相関はなかったが,左眼では有意な正の相関があったとしている7).CCTとアイケアCHOMEの眼圧測定値の関連については症例数を増やしてさらに検討が必要である.アンケート調査では約C80%の症例が操作,取扱い,測定は難しくないと回答し,70%の症例が測定は難しくないと回答した.アイケアCHOMEの眼圧自己測定はCDabasiaらの報告6)ではC84%,Noguchiらの報告8)ではC86%が難しくないと回答しており本研究結果と同様であった.これらのことからアイケアCHOMEは比較的簡便に眼圧自己測定を施行できる機器であると考えられた.一方で,25%の症例は測定が怖いと回答しており,自己測定にあたっては事前に十分に練習を行って機器に慣れる必要があることも示唆された.本研究結果からアイケアCHOMEはCGATよりも過小評価であるが相関があり,比較的簡便に眼圧自己測定を可能にする携帯式眼圧計として一定レベルの有用性が期待できると考えた.しかし,左眼は変動幅が大きく測定エラー回数も多かったことから左眼の測定は課題であり,これらの原因究明と測定精度を向上させるための練習や測定の要領を見出す必要があると考えた.さらにアンケート調査でも高齢者や視機能障害者による眼圧自己測定は困難,裸眼視力が悪いので位置をあわせるのが難しい,眼圧自己測定は他者の監視下で行うほうがよいなどの意見があった.緑内障患者でC24時間眼圧自己測定を完了するにはプローブをプローブベースにセットする作業や機器の操作,測定を医療従事者の監視なしですべて患者自身が行わなければならないため.アイケアCHOMEによるC24時間眼圧自己測定の可否には裸眼視力,屈折,視野障害の程度やパターン,年齢,さらには手指の関節や筋力の状態,使用経験のない機械への苦手意識,自己測定への意欲など種々の要因を考慮しなければならないと考えられる.本研究は健常者を対象に行ったが,今後は緑内障患者を対象に自己測定を行い,さらなる検証を進めたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中村誠:新しい眼圧計アイケア.あたらしい眼科C23:893-894,C20062)坂田礼:アイケア眼圧計の使い方について教えてください.あたらしい眼科27(臨増):176-178,C20103)GandhiCNG,CPrakalapakornCSG,CEL-DairiCMACetCal:IcareCONEreboundversusGoldmannapplanationtonometryinchildrenCwithCknownCorCsuspectedCglaucoma.CAmCJCOph-thalmolC154:843-849,C20124)SakamotoM,KanamoriA,FujiharaMetal:AssessmentofIcareONEreboundtonometerforself-measuringintra-ocularpressure.ActaOphthalmolC92:243-248,C20145)塩川美菜子,方倉聖基,井上賢治ほか:携帯式眼圧計アイケアCONECRによるC24時間眼圧自己測定の検討.あたらしい眼科C32:1173-1178,C20156)DabasiaCPL,CLawrensonCJG,CMurdochCIE:EvaluationCofCaCnewreboundtonometerforself-measurementofintraocu-larpressure.BrJOphthalmolC100:1139-1143,C20167)TermuhlenCJ,CMihailovicCN,CAlnawaisehCMCetCal:Accura-cyCofCMeasurementsCWithCtheCiCareCHOMECReboundCTonometer.JGlaucomaC25:533-538,C20168)NoguchiA,NakakuraS,FujioYetal:ApilotevaluationassessingCtheCeaseCofCuseCandCaccuracyCofCtheCnewCself/Chome-tonometerCIcareCHOMECinChealthyCyoungCsubjects.CJGlaucomaC25:835-841,C20169)MudieL,LaBarreS,VaradarajVetal:TheIcareHOME(TA022)studyCperformanceCofCanCintraocularCpressureCmeasuringCdeviceCforCself-tonometryCbyCglaucomaCpatients.OphthalmologyC123:1675-1684,C2016***

0.1%ブロムフェナクナトリウム点眼液のNd:YAGレーザー後囊切開術後の炎症抑制効果

2017年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科34(9):1318.1322,2017c0.1%ブロムフェナクナトリウム点眼液のNd:YAGレーザー後.切開術後の炎症抑制効果小溝崇史*1寺田裕紀子*2森洋斉*1子島良平*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2東京都健康長寿医療センターComparisonofAnti-in.ammatoryE.ectofTopical0.1%Bromfenacand0.1%BetamethasoneafterNd:YAGLaserCapsulotomyTakashiKomizo1),YukikoTerada2),YosaiMori1),RyoheiNejima1)andKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)TokyoMetropolitanGeriatricHospitalandInstituteofGerontology目的:0.1%ブロムフェナク点眼液のCNd:YAGレーザー後.切開術後の抗炎症効果をC0.1%ベタメタゾン点眼液と比較する.方法:後発白内障に対するCNd:YAGレーザー後.切開術施行例を対象とした無作為化比較試験.患者をC2群に分け,術後にブロムフェナクC1日C2回,またはベタメタゾンC1日C4回,各C1週間点眼した.眼圧,フレア値,視力,中心窩網膜厚を測定し,混合効果モデルで解析し比較した.結果:有効性解析対象はブロムフェナク群C43例C43眼,ベタメタゾン群C46例C46眼で,両群ともに,術前と比較して,眼圧,フレア値,中心窩網膜厚はほぼ増加せず,術後視力は著明に改善した.薬剤間の比較では,眼圧はブロムフェナク群で,中心窩網膜厚はベタメタゾン群で有意に減少した.両群に有害事象はなかった.結論:0.1%ブロムフェナク点眼液はCNd:YAGレーザー後.切開術後炎症に対しC0.1%ベタメタゾン点眼液と同等の効果を示す.CPurpose:ToCcompareCtheCanti-in.ammatoryCe.ectCofCtopicalC0.1%CbromfenacCandC0.1%CbetamethasoneCinpatientsCafterCNd:YAGClaserCcapsulotomy.CMethods:PatientsCwereCprospectivelyCrandomizedCintoCeitherCthebromfenac(n=43)orCbetamethasone(n=46)group.CAfterCcapsulotomy,CtheCrespectiveCgroupsCwereCadministered0.1%bromfenactwicedailyor0.1%betamethasonefourtimesdaily,for1week.Intraocularpressure(IOP),ante-riorchamber.are,visualacuityandfovealthicknesswereevaluatedpreoperativelyandpostoperatively.Amixede.ectCmodelCwasCusedCforCanalysis.CResults:InCbothCgroups,CthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCIOP,CanteriorCchamberC.areCorCfovealCthicknessCbetweenCpreoperativeCandCpostoperativeCvalues,CwhileCvisualCacuityCimprovedCsigni.cantly.Comparingthetwogroups,IOPwassigni.cantlylowerinthebromfenacgroup,andfovealthicknesswassigni.cantlylowerinthebetamethasonegroup.Conclusion:Theanti-in.ammatorye.ectof0.1%bromfenacwassimilartothatof0.1%betamethasoneinpatientsafterNd:YAGlasercapsulotomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(9):1318.1322,C2017〕Keywords:YAGレーザー後.切開術,眼圧,フレア値,中心窩網膜厚,ブロムフェナク.Nd:YAGlasercapsu-lotomy,IOP,anteriorchamber.are,fovealthickness,bromfenac.Cはじめに後発白内障は,比較的頻度の高い白内障手術後の合併症であり,術後に一部残存する水晶体上皮細胞の増殖,線維性物質の進展により引き起こされた後.面上の混濁である.海外のメタアナリシスによると,発生率は白内障術後C1年で11.8%,3年でC20.7%,5年でC28.4%と報告され1),国内でもほぼ同様の発生率となっている2).後.混濁が瞳孔領に発生すると視機能に影響を及ぼすことから,その発生を予防するためにレンズ形状の改良や非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)の点眼などさまざまな対策が検討されている3).しかしながら,後.混濁の発生を完全に抑制することはできず,発生した場合には,neodymium:YAG(Nd:YAG)レーザーによる後.切開が行われるのが一般的である.〔別刷請求先〕小溝崇史:〒885-0051宮崎県都城市蔵原C6-3宮田眼科病院Reprintrequest:TakashiKomizo,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo-shi,Miyazaki885-0051,JAPAN1318(106)後発白内障に対するCNd:YAGレーザー後.切開術後の合併症としては,眼圧上昇,黄斑浮腫,網膜.離などが知られている4).なかでも眼圧上昇は良く知られた合併症であり,その発生頻度は,後.切開術後に眼圧下降薬を使用することで少なくなったものの,無水晶体眼や緑内障眼など眼圧上昇のリスクが高い症例も存在することから,注意すべき合併症の一つである.Altamiranoら5)は,眼圧上昇は切開時に飛散した後.の破片が線維柱帯を目詰まりさせることがおもな原因と報告したが,眼圧と術後のフレア値には弱いながらも相関があるとも報告しており,炎症反応が眼圧上昇に少なからず影響を及ぼしている可能性がある.また,これら合併症は,後.切開時の総エネルギー照射量が高いと発生率がより高まる6,7)ことから,手術侵襲に伴う炎症を抑制することは重要である.日常診療において,後発白内障に対するCNd:YAGレーザー後.切開術後の炎症抑制にステロイド点眼薬が使用されている7).しかし,ステロイド点眼薬は眼圧上昇の副作用が報告されており,眼圧上昇の副作用のないCNSAIDsが代替となるのが望ましいものの,その効果を直接比較した報告は過去には見当たらない.そこで,内眼手術後の抗炎症効果がステロイド点眼薬と同等8,9)であり,眼圧も上昇させないC0.1%ブロムフェナク点眼液(ブロナックCR点眼液C0.1%)のNd:YAGレーザー後.切開術後の炎症に対する抑制効果を,0.1%ベタメタゾン点眼液(リンデロンCR点眼・点耳・点鼻液0.1%)と比較した.CI対象および方法1.対象本研究は,宮田眼科病院(以下,当院)倫理審査委員会で承認された後,対象者に文書による十分な説明を行い,文書による同意を得て実施した.対象は,2012年C12月.2015年C3月に当院で後発白内障に対するCNd:YAGレーザー後.切開術を施行した患者である.また,1)糖尿病で中心窩網膜厚がC250Cμm以上の患者,2)糖尿病網膜症を有する患者,3)緑内障を有する患者,4)偽落屑症候群の確定診断を受けた患者,5)ぶどう膜炎を有する患者,6)角膜上皮.離または角膜潰瘍のある患者,7)ウイルス性結膜・角膜疾患,結核性眼疾患,真菌性眼疾患あるいは化膿性眼疾患のある患者,8)白内障を除く内眼手術の既往を有する患者,9)NSAIDsおよびステロイド薬に対して過敏症を有する患者,10)アスピリン喘息を含む気管支喘息,その他慢性呼吸器疾患の合併症を有する患者,は除外した.C2.方法基準を満たした患者を無作為にブロムフェナク群またはベタメタゾン群に割り付けた.ブロムフェナク群は,0.1%ブロムフェナク点眼液を術当日の術後にC1回,その後C1週間は1日C2回点眼し,ベタメタゾン群はC0.1%ベタメタゾン点眼液を術当日の術後にC2回,その後C1週間はC1日C4回点眼した.すべての患者にC1%アプラクロニジン点眼液(アイオピジンRUD点眼液C1%)を術前後C1時間に各C1回点眼した.散瞳薬,麻酔薬は必要に応じて使用することとし,試験薬以外のステロイド薬あるいはCNSAIDsは剤形を問わず使用しないこととした.眼圧をCGoldmann圧平眼圧計で,前房フレア値はレーザーフレアセルメータで,術前,術C1日後,1週後,2週後,4週後に測定した.視力は術前,術C1週後,2週後,4週後に測定し,中心窩網膜厚は光干渉断層計で術前,術C1週後,4週後に測定した.また,観察期間を通じて有害事象を収集した.解析は,ITT解析集団で解析した.患者背景の比較には,t-test,FisherC’sCexactCtestを使用し,平均値C±標準偏差で表示した.評価項目の各観察時期における術前との比較および群間比較は,観察時期,治療,観察時期と治療との相互作用を固定効果,症例を変量効果とした混合効果モデルで推定した.モデル平均値およびC95%信頼区間で表示した.p<0.05の場合に有意差ありと判定した.CII結果107例C107眼が登録され,89例C89眼が有効性解析対象となった.内訳は,男性C32例,女性C57例,年齢(平均値C±標準偏差)はC76.4C±8.7歳であった.ブロムフェナク群はC43例,ベタメタゾン群はC46例であり,年齢,性別,Nd:YAGレーザーの平均総照射熱量に両群で差はなかった(表1).網膜厚がC250Cμm未満の糖尿病合併例はブロムフェナク群でC4例,デキサメタゾン群でC4例あった.術前のモデル平均眼圧はブロムフェナク群でC13.35CmmHg(95%信頼区間:12.49.14.21CmmHg),ベタメタゾン群で13.63CmmHg(95%信頼区間:12.80.14.46CmmHg)で,両群間に差はなかった(図1).術後の眼圧を術前と比較したところ,ブロムフェナク群では,術C1日後,1週後に有意に下降し,ベタメタゾン群では術C1日後に有意に下降した.両群間の比較では,術C1日後およびC1週後でブロムフェナク群が有意に低かった.術前のモデル平均フレア値はブロムフェナク群でC6.63photonCcounts/msec(95%信頼区間:5.47.7.80Cphotoncounts/msec),ベタメタゾン群でC5.76CphotonCcounts/msec(95%信頼区間:4.64.6.89Cphotoncounts/msec)で,両群間に差はなかった(図2).術後のフレア値を術前と比較したところ,両群で術C1日後に有意に下降した.両群間に差はなかった.術前のモデル平均矯正視力(logMAR)はブロムフェナク表1患者背景ブロムフェナク群(43例)ベタメタゾン群(46例)年齢(範囲)C75.6±7.4歳(55.89歳)C74.2±9.6歳(54.89歳)男性/女性16/27例16/30例総照射熱量(範囲)C53.7±22.5CmJ(19.8.116.8CmJ)C56.8±32.5CmJ(12.0.179.4CmJ)t-test.男性/女性のみCFisher’sexacttest.1218フレア値(photoncounts/msec)108642161412108642眼圧(mmHg)0術前1日1週2週4週術後経過期間図1眼圧の推移グラフはモデル平均値±95%信頼区間を示す.術前と比較し,両群ともに有意に下降した(C†p<0.05,C†††p<0.001,混合効果モデル).両群間の比較では,ブロムフェナク群が有意に低かった(*p<0.05,**p<0.01,混合効果モデル).C0.250術前1日1週2週4週術後経過期間図2フレア値の推移グラフはモデル平均値±95%信頼区間を示す.術前と比較し,両群ともに有意に下降した(C††p<0.01,C†††p<0.001,混合効果モデル).両群間に差はなかった.C300-0.200図3矯正視力(logMAR)の推移図4中心窩網膜厚の推移グラフはモデル平均値±95%信頼区間を示す.術前と比較し,グラフはモデル平均値±95%信頼区間を示す.術前と比較し,両群ともに有意に改善した(C†††p<0.001,混合効果モデル),ブロムフェナク群では変化せず,ベタメタゾン群では有意に減両群間で差はなかった.少した(C†p<0.05,C†††p<0.001,混合効果モデル).両群間の比較では,ベタメタゾン群で有意に減少した(*p<0.05,混合効果モデル).0.202500.15矯正視力(logMAR)2000.100.050.00150100-0.05-0.10-0.1550群でC0.150(95%信頼区間:0.106.0.195),ベタメタゾン群でC0.156(95%信頼区間:0.112.0.200)で,両群間に差はなかった(図3).両群ともに,術前と比べて有意に改善し,両群間で差はなかった.術前のモデル平均中心窩網膜厚はブロムフェナク群で241.10Cμm(95%信頼区間:231.11.251.08Cμm),ベタメタゾン群でC229.63μm(95%信頼区間:220.09.239.17μm)で,両群間に差はなかった(図4).術後の中心窩網膜厚を術前と比較したところ,ブロムフェナク群では観察期間を通して差はなかったが,ベタメタゾン群では術C1週後,4週後に有意に減少した.両群間の比較では,術C1週後,4週後でブロムフェナク群とベタメタゾン群に有意差があった.観察期間を通して,両群ともに有害事象の報告はなかった.CIII考察後発白内障に対しCNd:YAGレーザー後.切開術を施行後,0.1%ブロムフェナク点眼液をC1日C2回C1週間またはC0.1%ベタメタゾン点眼液をC1日C4回C1週間点眼し,眼圧および術後炎症に対する影響をC4週間にわたって比較検討した.NSAIDsのなかでC0.1%ブロムフェナク点眼液を選択したのは,過去に筆者らが行った白内障術後炎症に対する抗炎症効果の比較にてC0.1%ジクロフェナク点眼液よりも効果が高く9),点眼回数がC1日C2回と少ないなど,汎用性が高いと判断したためである.Nd:YAGレーザー後.切開術後には,眼圧上昇,黄斑浮腫,網膜.離などの合併症が知られている4).後.切開により生成された破片が線維柱帯に目詰まりすることにより,または術後の眼内炎症反応により眼圧が上昇すると考えられる5,10).Ariら7)は,レーザー総照射熱量が高いほど眼圧は上昇し,中心窩網膜厚も増加することから,総照射熱量をC80mJ以下にすることが望ましいと報告している.また,三木ら11)は,術後C24時間以内にC50%の症例で眼圧がC5CmmHg以上上昇し,その原因の一つとして総照射熱量がC200CmJ以上であることをあげている.これらのことから,総照射熱量が大きいと,術後早期から眼圧上昇が発生することは明白である.今回,術後の眼圧は,ブロムフェナク群,ベタメタゾン群ともに術前よりも上昇することはなかった.これは,総照射熱量が,ブロムフェナク群でC53.7C±22.5CmJ,ベタメタゾン群でC56.8C±32.5CmJと,両群ともにC80CmJよりも低く,眼圧下降薬であるアプラクロニジンを併用していることから,妥当な結果である.しかしながら,ベタメタゾン群の眼圧は,ブロムフェナク群と比較し,術C1日後とC1週後で有意に高かった.同時期に,抗炎症効果の指標であるフレア値は両群で差はなく,術C1週後までは抗炎症薬を点眼していたことから,ステロイド薬の副作用である眼圧上昇が発現した可能性もある.しかし,ベタメタゾン群で極端に眼圧上昇をきたした症例,いわゆるステロイドレスポンダーはなく,眼圧差は術C1日後の早期から認められていることから,両剤の作用発現メカニズムの違いが影響を及ぼした可能性が高いと考えられる.ステロイド薬は,細胞質内のグルココルチコイド受容体に結合した後,核内へ移行し,シクロオキシゲナーゼ(COX)-2の誘導抑制や多くのサイトカイン,ケモカインの産生を抑制し,抗炎症作用を示す12).一方,ブロムフェナクのようなCNSAIDsはCCOXを阻害することにより13,14),細胞質および核膜でのプロスタグランジン合成を抑制し,抗炎症作用を示すことが知られており,効果発現までの時間はステロイド薬よりもCNSAIDsのほうが短いと考えられている.ウサギ前房内フレア上昇モデルにおいてC0.1%ブロムフェナク点眼液とC0.1%デキサメタゾン点眼液の効果発現時間は,それぞれ単回点眼C0.5.3時間後,2.7時間後と報告されている15).また,Nd:YAGレーザー後.切開術後の炎症に関する基礎研究では,術C1時間後で炎症性メディエーターであるプロスタグランジンCE濃度の上昇が観察され16),臨床では術C18時間後にフレアの上昇が観察されている5).これらのことから,眼圧上昇を引き起こす眼内炎症反応は術直後から始まっており,ベタメタゾンとブロムフェナクの作用発現までの時間差が,術後の眼圧に差を生じさせたと考えられる.つぎに,術後の中心窩網膜厚は,ブロムフェナク群,ベタメタゾン群ともに術前と比べて増加は認められなかった.今回の検討では,先に示したとおり,本研究の総照射熱量が低いため,両群とも中心窩網膜厚の増加を十分に抑制できたと考えられる.そのうえで,ブロムフェナク群では術前後で変化がなかったが,ベタメタゾン群では術前に比べて術C1週後,4週後に有意に減少した.Ruiz-Casasら17)は,Nd:YAGレーザー後.切開術後の網膜厚を検討し,その際にNSAIDsであるケトロラクを点眼している.それによると,レーザー総照射熱量がC82.13CmJと比較的高いものの,網膜厚に変化はなく,ブロムフェナク群とほぼ同様の結果であった.一方,ステロイド薬点眼後では,網膜厚は術前と変わらないか増加すると報告されている7,18.21).しかし,ほとんどの報告ではプレドニゾロンを点眼しており,抗炎症作用がより強いベタメタゾン群の結果と比較するのはむずかしい.中心窩網膜厚の増減に影響を与える因子として眼内炎症があげられるが,網膜厚がC250Cμm以上の糖尿病やぶどう膜炎などの炎症性疾患は今回の試験対象から除外されており,またレーザー後.切開術後の後炎症前房フレア値の推移に両群で差はなかったことから,炎症による関与は少ないと考えられる.一方,Leeら22)は,0.1%ベタメタゾン点眼下において,白内障術後の眼圧と網膜厚には負の相関があると報告している.Nd:YAGレーザー後.切開術後でも同様のことが起こった可能性もあるが,この相関については検討をしていないため不明であり,ベタメタゾン群で中心窩網膜厚が減少した原因を特定することはできなかった.Nd:YAGレーザー後.切開術後の炎症の抑制を目的に,0.1%ブロムフェナク点眼液C1日C2回投与が治療の選択肢となりうるか,0.1%ベタメタゾン点眼液C1日C4回投与と比較し検討した.両薬剤ともにC1週間の点眼により,術後視力を有意に改善し,Nd:YAGレーザー後.切開術後の合併症として知られる眼圧上昇や前房内炎症,中心窩網膜厚増加を抑制し,.胞様黄斑浮腫の発生もなかったことから,ともに有用であり,0.1%ベタメタゾン点眼液と並んでC0.1%ブロムフェナク点眼液はCNd:YAGレーザー後.切開術後の治療薬となりうる.(本研究費の一部は千寿製薬株式会社から助成を受けた)利益相反:宮田和典(カテゴリーCF:参天製薬株式会社,日本アルコン株式会社)文献1)SchaumbergCDA,CDanaCMR,CChristenCWGCetCal:ACsys-tematicCoverviewCofCtheCincidenceCofCposteriorCcapsuleCopaci.cation.Ophthalmology105:1213-1221,C19982)安藤展代,大鹿哲郎,木村博和:後発白内障の発生に関与する多因子の検討.臨眼53:91-97,C19993)松島博之:前.収縮・後発白内障.日本白内障学会誌C23:C13-18,C20114)西恭代,根岸一乃:ND:YAGレーザーによる後発白内障手術.あたらしい眼科31:799-803,C20145)AltamiranoCD,CMermoudCA,CPittetCNCetCal:AqueoushumorCanalysisCafterCNd:YAGClaserCcapsulotomyCwithCtheClaserC.are-cellCmeter.CJCCataractCRefractCSurgC18:C554-558,C19926)BhargavaR,KumarP,PhogatHetal:Neodymium-yttri-umaluminiumgarnetlasercapsulotomyenergylevelsforposteriorcapsuleopaci.cation.JOphthalmicVisResC10:C37-42,C20157)AriS,CinguAK,SahinAetal:Thee.ectsofNd:YAGlaserposteriorcapsulotomyonmacularthickness,intraoc-ularCpressure,CandCvisualCacuity.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC43:395-400,C20128)EndoN,KatoS,HaruyamaKetal:E.cacyofbromfenacsodiumophthalmicsolutioninpreventingcystoidmacularoedemaCafterCcataractCsurgeryCinCpatientsCwithCdiabetes.CActaOphthalmolC88:896-900,C20109)MiyanagaCM,CMiyaiCT,CNejimaCRCetCal:E.ectCofCbromfe-nacCophthalmicCsolutionConCocularCin.ammationCfollowingCcataractsurgery.ActaOphthalmolC87:300-305,C200910)GimbelCHV,CVanCWestenbruggeCJA,CSandersCDRCetCal:CE.ectCofCsulcusCvsCcapsularC.xationConCYAG-inducedCpressurerisesfollowingposteriorcapsulotomy.ArchOph-thalmolC108:1126-1129,C199011)三木恵美子,永本敏之,石田晋ほか:Nd:YAGレーザーによる後.切開術後合併症.眼科手術6:517-521,C199312)平澤典保:ステロイド薬の基礎.アレルギーC60:193-198,C201113)山田昌和:眼表面疾患とCCOX1,COX2.眼薬理18:64-68,C200414)岡野光博:好酸球性鼻・副鼻腔炎症におけるプロスタグランジンCD2/E2代謝の位置付けと治療の展望.耳鼻・頭頸外科78:437-447,C200615)HayasakaY,HayasakaS,ZhangXYetal:E.ectsoftopi-calCcorticosteroidsCandCnonsteroidalCanti-in.ammatoryCdrugsConCprostaglandinCe2-inducedCaqueousC.areCeleva-tionCinCpigmentedCrabbits.COphthalmicCResC35:341-344,C200316)KaoCGW,CPangCMP,CPeymanCGACetCal:ProstaglandinCE2andCproteinCreleaseCfollowingCNd:YAGClaserCapplicationCtoCtheCanteriorCcapsuleCofCrabbitClens.COphthalmicCSurgC19:339-343,C198817)Ruiz-CasasD,BarrancosC,AlioJLetal:E.ectofposteC-riorCneodymium:YAGCcapsulotomy.CSafetyCevaluationCofCmacularCfovealCthickness,CintraocularCpressureCandCendo-thelialCcellClossCinCpseudophakicCpatientsCwithCposteriorCcapsuleopaci.cation.ArchSocEspOftalmolC88:415-422,C201318)Y.lmazU,KucukE,UlusoyDMetal:Theassessmentofchangesinmacularthicknessindiabeticandnon-diabeticpatients:theCe.ectCofCtopicalCketorolacConCmacularCthickC-nessCchangeCafterCND:YAGClaserCcapsulotomy.CCutanCOculToxicol31:58-61,C201619)Yuvac..,PangalE,YuceYetal:Opticcoherencetomog-raphyCmeasurementCofCchoroidalCandCretinalCthicknessesCafterCuncomplicatedCYAGClaserCcapsulotomy.CArqCBrasCOftalmolC78:344-347,C201520)KarahanCE,CTuncerCI,CZenginCMO:TheCe.ectCofCND:CYAGlaserposteriorcapsulotomysizeonrefraction,intra-ocularCpressure,CandCmacularCthickness.CJCOphthalmolC2014:846385,C201421)ArtunayCO,CYuzbasiogluCE,CUnalCMCetCal:Bimatoprost0.03%CversusCbrimonidineC0.2%CinCtheCpreventionCofintraocularCpressureCspikeCfollowingCneodymium:yttri-um-aluminum-garnetClaserCposteriorCcapsulotomy.CJCOculCPharmacolTherC26:513-517,C201022)LeeCYC,CChungCFL,CChenCCC:IntraocularCpressureCandCfovealCthicknessCafterCphacoemulsi.cation.CAmCJCOphthal-molC144:203-208,C2007***

ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1031.1034,2017cブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更井上賢治*1塩川美菜子*1比嘉利沙子*1永井瑞希*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科E.cacyandSafetyofSwitchingfromBrimonidinetoRipasudilKenjiInoue1),MinakoShiokawa1),RisakoHiga1),MizukiNagai1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬に変更した症例の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討する.対象および方法:ブリモニジン点眼薬を中止してwashout期間なしでリパスジル点眼薬に変更した原発開放隅角緑内障38例38眼を対象とした.変更理由から眼圧下降不十分群と副作用出現群に分けて,変更前と変更1.2,3.4カ月後の眼圧を調査し,比較した.また,変更後の副作用,中止例を調査した.結果:眼圧は眼圧下降不十分群(19例),副作用出現群(19例)ともに,変更後に有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅と眼圧下降率は眼圧下降不十分群1.1.1.4mmHgと6.1.7.7%,副作用出現群1.7.2.3mmHgと8.4.11.8%だった.変更後の副作用は4例(10.5%),中止例は3例(7.9%)で,鼻出血,咽頭痛,レーザー治療施行各1例だった.結論:ブリモニジン点眼薬投与で眼圧下降が不十分であった患者および副作用が出現した患者に対しては,リパスジル点眼薬への変更が眼圧下降効果と安全性の面から有用である.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthesafetyande.cacyofswitchingfrombrimonidinetoripasudil.Methods:Thirty-eighteyeswithprimaryopen-angleglaucomathatdiscontinuedbrimonidineandimmediatelybeganusingripasudilwereincluded.Intraocularpressure(IOP)at1-2monthsand3-4monthsafterswitchingwascomparedwithbaselineIOP.Patientsweredividedintotwogroupsbasedonreasonsforswitching:insu.cientIOPreductionoradversereactions.Adversereactionsandpatientswhodroppedoutofthestudywerealsoexamined.Results:Atotalof19patientshadinsu.cientIOPreductionand19patientsexperiencedadversereactions.IOPwassigni.cantlylowerinallpatientsafterswitching(p<0.05).Fourpatients(10.5%)hadadversereactionsand3patients(7.9%)droppedoutofthestudybecauseofnasalbleeding,sorethroatorlasersurgery.Conclusion:Incaseswithinsu.cientIOPreductionoradversereactions,switchingfrombrimonidinetoripasudilmaybeuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1031.1034,2017〕Keywords:ブリモニジン,リパスジル,眼圧,副作用,変更.brimonidine,ripasudil,intraocularpressure,ad-versereactions,switching.はじめに線維柱帯-Schlemm管を介する主経路からの房水流出促進作用を有する1)リパスジル点眼薬が使用可能となった.リパスジル点眼薬の治験では,単剤投与,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への追加投与が行われ,良好な眼圧下降効果と安全性が示されている2.6).また,臨床現場においても多剤併用症例でのリパスジル点眼薬の追加投与による良好な眼圧下降効果と安全性が報告されている7.10).緑内障治療では点眼薬を使用しても眼圧下降が不十分な(目標眼圧に達しない)症例では他の点眼薬の追加,あるいは他の点眼薬への変更が推奨されている.また,点眼薬で副作用が出現した症例では,その点眼薬を中止し,他の点眼薬へ変更する.筆者らはリパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景を調査し報告した11).リパスジル点眼薬が他の点眼薬から変更された21症例の前治療薬は,ブリモニジン点眼薬〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(115)103110例(47.6%)が最多だった.リパスジル点眼薬を他の点眼薬から変更した際の眼圧下降効果,安全性の報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬に変更した症例の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.I対象および方法2014年12月.2016年3月に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障患者で,ブリモニジン点眼薬がリパスジル点眼薬へ変更となった38例38眼を対象とした.男性15例,女性23例,年齢は66.7±11.9歳(平均値±標準偏差),42.87歳だった.変更理由は眼圧下降不十分群19例,副作用出現群19例だった.副作用の内訳はアレルギー性結膜炎11例,結膜充血3例,眼痛3例,傾眠2例だった.変更前使用点眼薬数は3.4±0.9剤だった.1剤が1例(2.6%),2剤が5例(13.2%),3剤が12例(31.6%),4剤が18例(47.4%),5剤が2例(5.3%)だった(表1).配合点眼薬は2剤,アセタゾラミド内服は錠数にかかわらず1剤として解析した.変更前眼圧は17.1±3.3mmHg,11.28mmHgだった.変更前のHumphrey視野検査プログラム中心30-2SITAStan-dardのmeandeviation値は.9.66±6.37dB,.26.92..1.97dBだった.ブリモニジン点眼薬の使用期間は8.2±8.1カ月間,1.32カ月間だった.ブリモニジン点眼薬を中止して,washout期間なしでリパスジル点眼薬(0.4%グラナテックR,1日2回点眼)に変更した.変更前と変更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧を調査し,比較した.変更1カ月後あるいは,3カ月後の眼圧を測定している症例ではその値を,変更1カ月後あるいは,3カ月後の眼圧を測定していない症例では各々変更2カ月後あるいは,4カ月後の眼圧を解析に用いた.変更後の眼圧下降幅,眼圧下降率を算出した.変更前と変表1変更前使用点眼薬使用薬剤数使用薬剤症例数1剤ブリモニジン1例2剤ブリモニジン+PG5例3剤ブリモニジン+PG/b配合剤4例ブリモニジン+PG+b3例ブリモニジン+PG+CAI3例ブリモニジン+b+CAI1例ブリモニジン+PG+/CAI/b配合剤1例4剤ブリモニジン+PG+CAI/b配合剤14例ブリモニジン+CAI点眼+PG/b配合剤1例ブリモニジン+CAI内服+CAI/b配合剤1例ブリモニジン+PG+b+a11例ブリモニジン+a1+PG/b配合剤1例5剤ブリモニジン+PG+CAI内服+CAI/b配合剤1例ブリモニジン+CAI点眼+a1+PG/b配合剤1例更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧を比較するためにスキャッタープロット/散布図を用いて解析した.変更後の眼圧下降幅を2mmHg以上下降,±1mmHg以内,2mmHg以上上昇の3群に分けた.変更理由をもとに対象を眼圧下降不十分群と副作用出現群の2群に分け,各々で変更前後の眼圧を比較した.変更後の副作用,中止例を調査した.両眼該当症例は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前後の眼圧の比較にはANOVA,Bonferroni/Dunn検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果全症例(38例)の眼圧は変更前17.1±3.3mmHg,変更1.2カ月後15.7±2.7mmHg,変更3.4カ月後15.6±3.3mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.2±1.7mmHgで,内訳は2mmHg以上下降14例(37.8%),±1mmHg以内21例(56.8%),2mmHg以上上昇2例(5.4%),変更3.4カ月後は1.8±2.1mmHgで,内訳は2mmHg以上下降15例(53.5%),±1mmHg以内12例(42.9%),2mmHg以上上昇1例(3.6%)だった(図1).眼圧下降不十分群(19例)の眼圧は変更前18.2±3.1mmHg,変更1.2カ月後16.5±2.4mmHg,変更3.4カ月後16.7±3.4mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.01).変更前と変更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧分布を図2に示す.眼圧が変更1.2カ月後に変更前と比べて上昇したのは4例(10.7%),不変だったのは8例(21.7%),下降したのは25例(67.6%)だった.眼圧が変更3.4カ月後に変更前に比べて上昇したのは4例(14.3%),不変だったのは4例(14.3%),下降したのは20例(71.4%)だった.眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.4±2.1mmHgで,内訳は2mmHg以上下降9例(50.0%),±1mmHg以内7例(38.9%),2mmHg以上上昇2例(11.1%),変更3.4カ月後は2.2±2.6mmHgで,内訳は2mmHg以上下降8例(66.7%),±1mmHg以変更1~2カ月後変更3~4カ月後2mmHg以上上昇,2mmHg以上上昇,2例,5.4%1例,3.6%図1眼圧下降幅(全症例)1032あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(116)変更前と変更1~2カ月後変更前と変更3~4カ月後変更1~2カ月後眼圧(mmHg)0051015202530変更前眼圧(mmHg)図2変更前後の眼圧変更1~2カ月後変更3~4カ月後変更1~2カ月後変更3~4カ月後2mmHg以上上昇,2mmHg以上上昇,0051015202530変更前眼圧(mmHg)2例,11.1%1例,8.3%図3眼圧下降幅(眼圧下降不十分群)内3例(25.0%),2mmHg以上上昇1例(8.3%)だった(図3).眼圧下降率は変更1.2カ月後6.8±12.1%,変更3.4カ月後11.0±12.7%だった.副作用出現群(19例)の眼圧は変更前16.1±3.2mmHg,変更1.2カ月後15.0±2.8mmHg,変更3.4カ月後14.9±3.0mmHgで,変更後は有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.1±1.3mmHgで,内訳は2mmHg以上下降5例(26.3%),±1mmHg以内14例(73.7%),変更3.4カ月後は1.4±1.7mmHgで,内訳は2mmHg以上下降7例(43.8%),±1mmHg以内9例(56.2%)だった(図4).眼圧下降率は変更1.2カ月後6.1±7.6%,変更3.4カ月後8.1±10.4%だった.変更前にブリモニジン点眼薬により出現していた副作用は変更後に全症例で軽快あるいは消失した.変更後の副作用は4例(10.5%)で出現した.内訳は変更1カ月後に掻痒感,変更1カ月後に鼻出血,変更2カ月後に咽頭痛,変更3カ月後にアレルギー性結膜炎が各1例だった.変更後の中止例は3例(7.9%)だった.内訳は変更1カ月後に鼻出血,変更2カ月後に咽頭痛,変更3カ月後にレー図4眼圧下降幅(副作用出現群)ザー治療(選択的レーザー線維柱帯形成術)施行が各1例だった.III考按ブリモニジン点眼薬の眼圧下降率は単剤投与では20.9.23.6%12),プロスタグランジン関連点眼薬への2剤目としての追加投与では11.8.18.2%12.14),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では6.9.14.3%15,16)と報告されている.一方,リパスジル点眼薬の眼圧下降率は単剤投与では7.5.29.0%2.5),プロスタグランジン関連点眼薬への2剤目としての追加投与では8.0.18.4%5,6),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では15.5.21.5%7.10)と報告されている.緑内障病型,症例数,薬剤投与期間,投与前眼圧などが異なるので両剤を単純には比較できないが,両剤の眼圧下降効果はほぼ同等と考えられる.今回ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更で眼圧下降不十分群,副作用出現群ともに眼圧が有意に下降した.変更前眼圧が高い症例のほうが眼圧下降が良好な場合が多いが,今回は図2に示すように,変更前眼圧の高低にかかわらず,良好な眼圧下降を示した.その理由として点眼薬の変更によりアドヒアランスが向上した,副作用が軽減したためにアドヒアランスが向上した,ブリモニジ(117)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171033ン点眼薬のノンレスポンダーの症例だった,あるいはリパスジル点眼薬の眼圧下降の作用機序がブリモニジン点眼薬と異なることなどが考えらえる.しかし,今回は前治療薬であるブリモニジン点眼薬の点眼アドヒアランスや眼圧下降効果は後ろ向き研究のため不明である.さらに眼圧測定時間は,患者ごとにはリパスジル点眼薬変更前後で同時刻としたが,リパスジル点眼薬の投与時間は患者ごとに一定ではなく,眼圧値がピーク値なのかトラフ値なのかは不明である.今後,前向き研究が必要と考える.リパスジル点眼薬の副作用は10.5%,中止例は7.9%で出現した.リパスジル点眼薬の治験では副作用として結膜充血,眼瞼炎,アレルギー性結膜炎,眼刺激感,結膜炎,掻痒感,角膜炎が出現し,また,中止例は0.35.8%だった2.6).副作用のうち,とくに結膜充血は55.9.96.4%と高頻度に出現した1,3.5)が,今回は出現しなかった.結膜充血は点眼後に一過性に出現するために診察時には出現していなかった,あるいは結膜充血が点眼後にほとんどの症例で一過性に出現すると説明したために患者が気にしなかった可能性がある.また,出現した副作用のアレルギー性結膜炎,掻痒感は治験や臨床報告にもみられたが,鼻出血と咽頭痛は報告がなく,リパスジル点眼薬との因果関係は不明である.しかし,両症例ともにリパスジル点眼薬の継続使用を望まず,点眼中止となり,その後症状は消失した.ブリモニジン点眼薬による副作用(アレルギー性結膜炎,結膜充血,眼痛,傾眠)はブリモニジン点眼薬中止後に全例で軽快,あるいは消失した.副作用出現症例ではその原因となる点眼薬を中止することが基本であり今回も効果的だった.また,リパスジル点眼薬使用後にアレルギー性結膜炎が出現した1例は,眼圧下降効果不十分群だった.両点眼薬でのアレルギー性結膜炎の発症機序は異なると考えられる.しかし,リパスジル点眼薬によるアレルギー性結膜炎は通常数カ月間使用後に出現するので,今回の3.4カ月間の短期の経過観察期間では過小評価された可能性がある.ブリモニジン点眼薬を使用中で眼圧下降不十分症例やブリモニジン点眼薬による副作用出現群では,リパスジル点眼薬への変更が眼圧下降効果と安全性の面から有用である.しかし今回は3.4カ月間という短期の経過観察期間であったので,今後も長期的な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectsofRho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandout.owfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20012)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20133)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2ran-domizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringe.ectsofaRhokinaseinhibitor,ripa-sudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglau-comaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOph-thalmol94:e26-e34,20166)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintra-ocularpressure-loweringe.ectsoftheRhokinaseinhibi-torripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatano-prost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20137)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液の追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,20168)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,20169)SatoS,HirookaK,NittaEetal:Additiveintraocularpressureloweringe.ectsoftheRhokinaseinhibitor,ripa-sudilinglaucomapatientsnotabletoobtainadequatecontrolafterothermaximaltoleratedmedicaltherapy.AdvTher33:1628-1634,201610)InazakiH,KobayashiS,AnzaiYetal:E.cacyoftheadditionaluseofripasudil,aRho-kinaseinhibitor,inpatientswithglaucomainadequatelycontrolledundermaximummedicaltherapy.JGlaucoma26:96-100,201711)井上賢治,瀬戸川章,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果.あたらしい眼科33:1774-1778,201612)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201213)山本智恵子,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果.あたらしい眼科31:899-902,201414)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.あたらしい眼科69:499-503,201515)中島佑至,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬の追加投与による眼圧下降効果と安全性.臨眼68:967-971,201416)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,20141034あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(118)

プロスタグランジン関連点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):580.584,2017cプロスタグランジン関連点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果石橋真吾永田竜朗近藤寛之落合信寿産業医科大学眼科学教室E.ectofSwitchingfromProstaglandinAnalogstoDorzolamideandTimololFixed-combinationEyedropsinGlaucomaPatientsShingoIshibashi,TatsuoNagata,HiroyukiKondouandNobuhisaOchiaiDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japanプロスタグランジン関連点眼薬(prostaglandinanalogs:PG)の単剤療法を6カ月間以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化が美容上気になると訴えた緑内障患者20例を対象に,PGを1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimolol.xed-combination:DTFC)へ変更し,変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の眼圧を測定した.同時に,角膜上皮障害と結膜充血についても観察した.また,美容上気になっている副作用(眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化)の変化についても,変更前と変更6カ月後で比較した.その結果,平均眼圧は変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後ともに有意な変化はなかった.角膜上皮障害と結膜充血の程度にも治療前後で有意な変化はなかったが,結膜充血の程度には,変更6カ月後で有意傾向がみられた.美容上の眼局所副作用は,20例中18例に改善がみられた.PGによる眼局所副作用が美容上気になっている症例に対して,PGからDTFCへの切り替えはPGと同等の眼圧下降を有し,かつ局所的に安全であることから,有用である.In20eyesof20glaucomapatientsbeingtreatedwithprostaglandinanalogs(PG),thee.ectsonintraocularpressure(IOP),cornealepitheliumdisorder,conjunctivalhyperemiaandadversereactionssucheyelidpigmenta-tion,vellushairanddeepeningofupperlidsulcus,ofswitchingtodorzolamideandtimolol.xed-combination(DTFC)eyedropswerestudiedatmonth0(baseline),month1,month3andmonth6aftertheswitch.Atmonths1,3and6afterDTFCinitiation,meanIOPrevealednosigni.cantchangesascomparedtobeforeswitching.Althoughtherewerenosigni.cantdi.erencesincornealstainingscoreorconjunctivalhyperemiascorebetweenbeforeandaftertheswitch,theconjunctivalhyperemiaindicesscoreshowedimprovingtendencyatmonths6afterDTFCinitiation.Adversereactionsalsoimprovedin18cases.SinceglaucomapatientsbeingtreatedwithPGwhoswitchedtoDTFCexhibitednosigni.cantdi.erencesinIOP,itisconcludedfromthisstudythatDTFCisausefulagentforglaucomawithadversereactions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):580.584,2017〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬,緑内障,眼圧,眼局所副作用.dorzol-amideandtimolol.xed-combination,glaucoma,intraocularpressure,adversereaction.はじめに緑内障に対するエビデンスのある唯一確実な治療法は眼圧を下降させることである.開放隅角緑内障に対してプロスタグランジン関連薬(prostaglandinanalogs:PG)で治療した群は,プラセボ群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告1)や,正常眼圧緑内障では眼圧を30%下降させた治療群では,無治療群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告2)がなされている.緑内障治療は基本的に点眼薬治療であり,第一選択薬として眼圧下降効果にもっとも優れ,全身の副作用が少なく,1日1回点眼の利便性のよ〔別刷請求先〕石橋真吾:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShingoIshibashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyusyu-shi807-8555,JAPAN580(120)いPGが選択されることが多い.しかし,PGの眼局所副作用として,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化など3.5)があり,とくに女性において美容上の問題となる.1.0%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimolol.xed-combination:DTFC)は,緑内障治療薬として有用であると報告6)されている.ドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の併用療法と比較して,DTFCの眼圧下降効果は同等であるとの報告7)がある.しかし,PG単剤使用症例にDTFC配合点眼薬への切り替えを行った場合の有用性と安全性については不明な点が多い.そこで,今回PGの単剤使用による眼局所副作用が美容上気になると訴えた症例に対して,DTFCへの切り替えによる眼圧下降効果および安全性について検討した.I対象および方法対象は,2014年3月.2016年9月の期間,産業医科大学病院と鈴木眼科,くろいし眼科でPGによる単剤療法を6カ月以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼深溝化が美容上気になると訴えた緑内障患者20例20眼である.産業医科大学病院倫理委員会の承認を事前に受け,患者からは書面による同意を得た.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.内訳は,男性2例,女性18例,年齢は73.3±8.7歳(平均値±標準偏差)である.病型は,正常眼圧緑内障9例,原発開放隅角緑内障3例,落屑緑内障3例,原発閉塞隅角緑内障1例,高眼圧症4例である.PGの種類は,ラタノプロスト7例,タフルプロスト6例,トラボプロスト5例,ビマトプロスト2例である.また,美容上気になった眼局所副作用の内訳は,眼瞼色素沈着6例,眼瞼色素沈着・多毛4例,眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化4例,多毛3例,上眼瞼溝深化2例,多毛・上眼瞼溝深化1例である.方法は,PGによる単剤療法を6カ月以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼深溝化の眼局所副作用が美容上気になると訴えた場合,PGを中止しwashout期間を置かずに,1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR)の1日2回点眼を開始した.眼圧(mmHg)15105DTFCへ変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に眼圧を測定した.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で1回ずつ測定した.また,DTFCへ変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に角膜上皮障害と結膜充血につ図1変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の平均眼圧(平均値±標準偏差)の変化いて,細隙灯顕微鏡検査で観察した.角膜上皮障害については,フルオレセイン染色法を用いてArea-Density分類8)で評価し,AとDの合計をスコアとした.また,結膜充血は,全症例の平均眼圧は,いずれも変更前と比較して変更後有意な変化はない.NS:有意差なし,n=20.332.52スコアスコア21.510.51図2変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の角膜上皮障害(平均値±標準偏差)の変化平均角膜上皮障害スコアは,いずれも変更前と比較して変更後有意な変化はない.NS:有意差なし,n=19.表1変更前,変更6カ月後の眼局所副作用の変化眼局所副作用変更後変更前改善変更後不変変更後悪化眼瞼色素沈着6例6例(片側1例,両側5例)0例0例眼瞼多毛3例3例(片眼2側,両側1例)0例0例上眼瞼溝深化2例1例(片側1例,両側1例)1例0例眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化4例3例(両側4例)1例0例眼瞼色素沈着・眼瞼多毛4例4例(片側1例,両側3例)0例0例上眼瞼溝深化・眼瞼多毛1例1例(両側1例)0例0例図3変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の結膜充血(平均値±標準偏差)の変化平均結膜充血スコアは,変更前と比較して変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に有意な変化はないが,変更6カ月後で有意傾向がみられる.NS:有意差なし,†:0.10>p≧0.05,n=19.変更前変更6カ月後図4上眼瞼溝深化と眼瞼多毛の症例64歳,女性.正常眼圧緑内障.トラボプロスト両眼投与症例.変更6カ月後,上眼瞼溝深化と眼瞼多毛の改善がみられる.20例中18例で改善がみられる.上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例のみ不変である.悪化した症例はない.0.1±0.3で,変更前後で有意な差はなかったが,変更6カ月で有意傾向を認めた(p=0.076,図3).写真判定による眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用は,変更6カ月後で,20例中18例に改善がみられた.そのうち,眼局所副作用が2項目あった症例では,全症例で両項目ともに改善がみられた.変更前にみられた上眼瞼溝深化1例と眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化1例の2例で不変であった.悪化した症例はなかった.両眼瞼の症例で改善・不変に左右差があった症例はなかった(表1,図4).アンケート調査でも同様に20例中18例で改善,2例で不変と答え,他覚的所見と一致した.III考按現時点で緑内障による視野障害の進行を完全に阻止する方法はないが,眼圧を十分下降させることで進行を鈍化できることが報告1,2)されている.PGは緑内障治療薬の第1選択薬として使用され,プロスト系としてプロスタグランジンF2a誘導体であるラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロストと,プロスタマイドF2a誘導体であるビマトプロストの4種類があり,ぶどう膜強膜経路を促進させることで眼圧が下降すると考えられている.しかし,PGによる副作用として結膜充血,角膜上皮障害,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,睫毛延長,多毛,上眼瞼溝深化などが報告3.5,9)されている.一方,1%ドルゾラミド塩酸塩と0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬であるDTFCも緑内障治療薬として広く使用され,ドルゾラミド塩酸塩は毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素を阻害し,チモロールマレイン酸塩は毛様体無色素上皮に存在するb受容体を阻害し,房水産生を抑制させることで眼圧が下降すると考えられているが,PGに特有の眼瞼色素沈着や虹彩色素沈着,睫毛延長,多毛,上眼瞼溝深化などの副作用はない.今回,PG単剤使用で眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用が美容上気になると訴えた症例に対して,PGをDTFCに変更し,眼圧の変化と同時に角膜上皮障害,結膜充血の変化を変更前(ベースライン)と変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後と比較し,その結果を検討した.また,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用の変化についても,変更前と変更6カ月後と比較しその結果を評価した.その結果は,全症例の平均眼圧は,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後ともに有意な変化はみられなかった.ドルゾラミド塩酸塩が1%ではなく2%でのDTFCの報告であるが,Leeらは正常眼圧緑内障に対して,ラタノプロストとDTFC(2%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬)の眼圧への効果をcrossoverdesignstudyによって調べた結果,眼圧下降率がラタノプロスト単剤治療群では13.1%,DTFC単剤治療群では12.3%であり,有意な差はなかったと報告10)している.本研究では,切り替え前に使用しているPGは,ラタノプロスト7眼,タフルプロスト6眼,トラボプロスト5眼と,ビマトプロスト2眼であった.ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの順で眼圧下降率が高いとの報告11)があり,そのため変更前のPGの種類によってはDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果の結果が異なる可能性があるが,今回の結果では,DTFCへの変更後の眼圧は変更前のPG単剤使用の眼圧とほぼ同等であった.このことから,DTFCはPGを単剤使用している緑内障の眼圧下降治療において,代替となる優れた薬剤であるといえる.角膜上皮障害については,角膜上皮細胞や結膜上皮細胞への有害性がある塩化ベンザルコニウムを含む点眼薬の頻回点眼や,b遮断薬などの主薬による細胞毒性により生じると考えられ,角膜上皮障害の発生頻度は抗緑内障点眼薬の回数と点眼薬数に相関すると報告12)されている.今回の研究では,切り替え後のDTFCの点眼回数がPGと比べて1回多いにもかかわらず,切り替え前後で角膜上皮障害に有意な変化はなかった.切り替え前のPGは,ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストの4種類であり,塩化ベンザルコニウムの使用の有無や主薬が異なっているため,角膜上皮障害の程度に有意な変化がなかったことへの考察はむずかしいが,DTFCの添加物であるD-マンニトールが,塩化ベンザルコニウムの影響を減少させる作用があること13)が影響している可能性がある.一方,結膜充血の程度に有意な変化はみられなかったが,改善傾向であった.PGは副作用に結膜充血があり,ラタノプロストよりビマトプロストのほうが結膜充血を引き起こす.また,DTFCにも副作用として結膜充血があるが,ラタノプロストに比べて結膜充血が少なかったとの報告9)がある.本研究では,PGの使用を中止しDTFCへ切り替えたこと,DTFCによる結膜充血の副作用が出現した症例がなかったことから,結膜充血の程度に改善傾向がみられたと考えられる.また,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用については,写真判定で20例中18眼に改善がみられ,上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例は不変であった.自覚的にも同様の結果であった.眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化はどのPGでもみられる眼局所副作用であるが5),PGを中止または変更することで可逆性に改善すると報告されている4,14,15).本研究では,改善しなかった上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例は,PG使用前の眼瞼所見の記録がなかったことから,PGによる眼局所副作用ではなかった可能性や観察期間が短かった可能性が考えられた.これらのことから,本研究のPGからDTFCへの切り替えは,安全な緑内障の治療法と考えられる.アドヒアランスの低下は緑内障性視野障害の悪化に関与するとの報告16)があり,アドヒアランスの向上は緑内障治療上重要であるが,点眼薬数が増加するとアドヒアランスが低下するとの報告17)がある.本研究で,DTFCに変更後6カ月の時点で,眼局所副作用が改善しなかった2例はPGへの変更を希望されたが,改善がみられた18例はPGからDTFCへの切り替えにより点眼回数が1回増えるものの,DTFCの継続治療を希望された.今回,アドヒアランスについて詳しく調査はしていないが,PGによる眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用がアドヒアランスの低下を招く恐れがある場合,DTFCへ切り替えることによって,PGによる眼局所副作用を回避することができ,良好なアドヒアランスが保てる可能性があると考えられる.本研究では,症例数が少なかったことやPGが4種類であったことから,各々のPGからのDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果や副作用については,さらなる調査の必要があると考える.また,本研究では,変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中3例で,20%以上の眼圧上昇率を示した症例は20例中2例であった.PGを使用していない無治療時の眼圧が不明な症例があり,治療前のPGがノンレスポンダーであった可能性や,臨床試験に参加することで点眼改善効果による眼圧下降効果が起こりうるため,バイアスがかかっている可能性や,逆にDTFCの点眼回数が2回になったことによるアドヒアランスの低下の可能性も否定できない.さらに,DTFCへ切り替えることで視野障害が抑制できたかについては,今後調査の必要があると考える.以上,PGの単剤療法で眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化による眼局所副作用が美容上気になっている症例に対して,PGからDTFCへの切り替えは同等の眼圧を維持することができ,結膜充血や美容上気になる眼局所副作用が改善し,角膜上皮障害の程度に変化させないことから,有効かつ局所的に安全な緑内障治療の一つと考えられる.文献1)Graway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:Latanoprostforopenangle-glaucoma(UKGTS):arandomized,multi-centre,placebo-controlledtrial.Lancet385:1295-1304,20152)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallypressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:ラタノプロスト使用患者の眼局所副作用.日眼会誌110:581-587,20064)小川一郎,今井一美:ラタノプロスト点眼による眼瞼虹彩色素沈着眼瞼多毛:1年後の成績.あたらしい眼科17:1559-1563,20005)InoueK,ShiokawaM,WakakuraMetal:Deepeningoftheuppereyelidsulcuscausedby5typesofprostaglan-dinanalogs.JGlaucoma22:626-631,20126)KimT-W,KimM,LeeEJetal:Intraocularpressure-loweringe.cacyofdorzolamide/timolol.xedcombinationinnormal-tensionglaucoma.JGlaucoma23:329-332,20147)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,20118)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19949)KonstasAGP,KozobolisVP,TersisIetal:Thee.cacyandsafetyofthetimolol/dorzolamide.xedcombinationvslatanoprostinexfoliationglaucoma.Eye17:41-46,200310)LeeNY,ParkHYL,ParkCK:Comparisonofthee.ectsofdorzolamide/timolol.xedcombinationversuslatano-prostonintraocularpressureandocularperfusionpres-sureinpatientswithnormal-tensionglaucoma:ARan-domized,CrossoverClinicalTrial.PLoSONE11:e0146680.doi:10.1371/journal.pone.0146680,201611)VanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼64:729-732,201013)長井紀章,村尾卓俊,大江恭平ほか:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のinvitro角膜細胞障害性評価.薬学雑誌131:985-991,201114)井上賢治:プロスタグランジン関連薬による上眼瞼溝深化.あたらしい眼科33:551-552,201615)SakataR,ShiratoS,MiyakeKetal:Recoveryfromdeep-eningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfrombimatoprosttolatanoprost.JpnJOphthalmol57:179-184,201316)RossiGCM,PasinettiGM,ScudellerLetal:Doadher-enceratesandglaucomatousvisual.eldprogressioncor-relate?EurJOphthalmol21:410-414,201117)高橋真紀子,内藤智子,溝上志郎ほか:緑内障点眼使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,2012***

360°Suture Trabeculotomy変法とTrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討

2016年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(12):1779?1783,2016c360°SutureTrabeculotomy変法とTrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討木嶋理紀*1陳進輝*1新明康弘*1大口剛司*1新田朱里*2新田卓也*2石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2回明堂眼科・歯科ComparisonofPostoperativeIntraocularPressureReductionbetweenModified360-degreeSutureTrabeculotomyand120-degreeTrabeculotomyRikiKijima1),ShinkiChin1),YasuhiroShinmei1),TakeshiOhguchi1),AkariNitta2),TakuyaNitta2)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)KaimeidoOphthalmicandDentalClinic目的:同一症例での360°suturetrabeculotomy(S-LOT)変法,金属ロトームによる120°trabeculotomy(LOT)の術後経過の比較.対象および方法:2005年8月?2008年3月に,同一症例において片眼にS-LOT変法,他眼にLOTを施行し,2年以上経過観察できた7例14眼を対象に,診療録をもとに後ろ向きに検討を行った.結果:7例中4例でS-LOT眼の眼圧下降効果がLOT眼に比べて大きく,そのうち2例でLOT眼のみでは眼圧下降が不十分であったため,緑内障追加手術を必要とした.7例中3例は両眼の比較で術後眼圧に統計学的な有意差がなかった.S-LOT眼では経過観察中に緑内障追加手術を必要とした症例はなかった.全例の平均眼圧でみると,術後6,9,12,24,48カ月の時点でS-LOT眼のほうがLOT眼に比較して統計学的に有意に眼圧が低かった.結論:S-LOT変法はLOTに比べ,より強い眼圧下降効果が得られる可能性がある.Purpose:Toevaluatetheoutcomeofmodified360-degreesuturetrabeculotomy(S-LOT)ascomparedwith120-degreetrabeculotomy(LOT)inthesamepatients.SubjectsandMethods:Thisretrospectivecaseseriesstudycomprised14eyesof7patientstreatedbetweenAugust2005andMarch2013atHokkaidoUniversityHospital.WeperformedS-LOTononeeyeandLOTonthefelloweyeinthesamepatient.Wethenobservedthepatientsoveraperiodofatleasttwoyears.Results:PostoperativeIOPafterS-LOTwaslowerthanafterLOTin4ofthe7patients;2ofthe7requiredadditionalglaucomasurgeriesontheLOTeyes;3ofthe7showednosignificantdifferenceinpostoperativeIOPbetweenS-LOTandLOTeyes.MeanpostoperativeIOPafterS-LOTwassignificantlylowerthanafterLOTat6,9,12,24and48months.Conclusion:S-LOTmightbemoreeffectivethanLOTinreducingpostoperativeIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(12):1779?1783,2016〕Keywords:360°suturetrabeculotomy変法,trabeculotomy,眼圧,線維柱帯の切開範囲.amodified360-degreesuturetrabeculotomy,trabeculotomy,intraocularpressure(IOP),incisionrangeoftrabecularmeshwork.はじめに流出路再建術は濾過手術に比べると,術後も濾過胞をもたずに眼球を閉鎖状態に保ち,より生理的な房水循環を維持できるという点で優れているが,術後の眼圧下降が濾過手術に比べて小さいという問題点がある1).近年さまざまな流出路再建術が試みられているが,その手術効果を濾過手術と比較した場合,流出路再建術では症例間の眼圧下降効果にバラツキが大きく2),個体差を排除して眼圧下降効果を検討するためには,同一個体の左右眼でその効果を比較することが望ましい.流出路再建術の一つである360°suturetrabeculotomy(SLOT)変法は,金属ロトームの代わりに先端を丸く加工した5-0ナイロン糸を用い,Schlemm管内壁および線維柱帯を360°切開する.これはBeckら3)が報告した360degreestrabeculotomyをChinら4)が改良し,粘弾性物質をSchlemm管内に注入することで通糸率を向上させ,糸を一度前房内に通過させることで容易に線維柱帯を切開できるようにしたものである.S-LOTは金属ロトームによる120°切開のtrabeculotomy(LOT)に比べ,流出抵抗のある線維柱帯をより広範に切開できるという特徴がある.開放隅角緑内障を対象とした筆者らの研究では,術後1年の時点でのS-LOT変法の平均眼圧はLOTと比較して有意に低く,必要とする抗緑内障点眼数も少ないことを報告した4).しかしながら,あくまでもこれは別々の症例による平均眼圧での比較であって,同一個体の左右眼で,長期にわたってその効果を比較した報告ではない.今回筆者らは同一症例において片眼にS-LOT変法を,他眼にLOTを施行し,2年以上経過観察できた症例の術後経過を報告する.I対象および方法2005年8月?2013年3月に北海道大学病院眼科において,片眼にS-LOT変法(S-LOT眼,S-LOT群)を,もう片眼にLOT(LOT眼,LOT群)を施行した7例14眼を対象とし,診療録をもとに後ろ向きに検討した.いずれの眼も緑内障手術(レーザーを含む)の既往はなく,白内障手術を含めた内眼手術の既往もなかった.2つの手術は同時期,もしくはLOTを先に行った.同時期(同一入院期間)に両者を行う場合は,眼圧がより高い眼に対して先にS-LOT変法を施行し,その後他眼にLOTを行った.眼圧下降が得られず追加緑内障手術を要した症例は,追加手術を施行した時点で観察終了とした.手術に際して,対象患者には十分説明を行ったうえで同意を得,またこの研究については,北海道大学病院自主臨床研究審査委員会の承認を得た(自016-0060).術後平均観察期間はS-LOT群50.6±16.2カ月,LOT群43.7±27.8カ月であった.男性4例,女性3例で,手術時平均年齢はS-LOT群が45.4±20.4歳,LOT群が43.7±18.4歳であった.術前平均眼圧はS-LOT群が37.1±14.4mmHg,LOT群が30.6±10.6mmHgであった.術前平均抗緑内障点眼数はS-LOT群が3.0±0.6,LOT群が3.1±0.4であった.炭酸脱水酵素阻害薬の内服を要した症例はS-LOT群が3例,LOT群が4例であった.術前のHumphrey静的視野検査(HFA)によるMD値の平均はS-LOT群が?8.9±8.0dBで,LOT群が?10.5±12.5dBであった.これらの項目に関してS-LOT群とLOT群の間には,すべて有意差はみられなかった(Wilcoxonsigned-ranktest,c2独立性の検定,p>0.05).全例有水晶体眼で,白内障同時手術をしたものは含まれていない(表1).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)2例,発達緑内障2例,ぶどう膜炎による続発緑内障(uveiticglaucoma:UG)2例,ステロイド緑内障1例であった.それぞれの症例において術後1,3,6,9,12,18,24,30,36,42,48,54,60カ月の眼圧と抗緑内障点眼数について左右眼を比較して検討を行った.また,S-LOT群,LOT群で全例の平均眼圧と術後経過時間について検討を行った.II結果各症例の術後眼圧経過を図1に示した.各症例の病型は症例1と3が発達緑内障,2と6がPOAG,4と5がUG,7がステロイド緑内障である.LOTを施行した7眼中2眼は眼圧下降が不十分であったため,1眼(症例1)は別な部位にLOTを,もう1眼(症例2)には線維柱帯切除術の追加を行い,観察期間より脱落とした.7例中2例(症例3と4)は,経過観察期間中一貫してS-LOT眼はLOT眼に比べ眼圧が低かった(Mann-Whitney’sUtest,p<0.0001).眼圧が高く追加手術を要した症例も含めると,7例中4例(症例1?4)でS-LOT変法のほうがLOTと比較して眼圧下降効果が大きく,うち2例(症例1と3)は発達緑内障の症例だった.残りの3眼では,経過観察期間の最終眼圧において左右差がみられず,うち2例は観察期間全体の術後眼圧に有意な差がなかった(p>0.05).症例4と5のUG例のLOT眼では経過観察期間中に白内障が進行したため,白内障手術を施行した.全例の平均眼圧でみると,術後12カ月でS-LOT群11.9±4.1mmHg,LOT群15.4±3.8mmHg,術後24カ月でS-LOT群12.0±4.0mmHg,LOT群14.6±1.5mmHg,術後48カ月でS-LOT群11.8±3.8mmHg,LOT群15.2±2.9mmHgであった.術後6,9,12,24,48カ月の時点でLOT群と比べ,S-LOT群では有意に眼圧が低かった(図2).最終観察時の平均抗緑内障点眼数はS-LOT群が0.43±0.79,LOT群が1.0±1.2であり,この2群の間に有意差はなく(p=0.36,Wilcoxonsigned-ranktest),また各群で術前に比べ最終観察時の点眼数は有意に減少していた(LOT:p=0.03,S-LOT:p=0.03,Wilcoxonsigned-ranktest).III考按LOTは症例によってある程度効果にばらつきがあり2),それは臨床的にも筆者らの経験するところである.その要因として,個体差や眼圧上昇を引き起こす病因などが大きな影響を与えていると考えられるが,切開範囲の違いによる影響は明らかではない.開放隅角緑内障を対象とした術後1年の時点での筆者らの研究4)では,LOTよりS-LOTのほうが眼圧下降効果が大きかったが,あくまでもこれは別々の症例による平均眼圧や成功率の群間比較であり,同一症例において比較した報告ではない.個体差や病型の違いを排除し,切開範囲の違いによる眼圧下降効果の影響を調べる今回の同一症例による研究では,7例中4例の症例でS-LOT変法のほうがLOTと比較して眼圧下降効果が優れており,かつその効果が長期にわたって安定的に持続されていたことが確認できた.その眼圧下降効果の違いは,切開範囲の違いによるものと考えられた.切開範囲についての研究は,1989年Rosenquistらが9例18眼の献体眼で検討を行っており,切開範囲が30°,120°,360°と増えるにつれて流出抵抗が減少していくが,直線的な変化をしないこと,また眼灌流圧が高いとき(25mmHg)と低いとき(7mmHg)で違いがあり,高いときは120°が360°になると有意に抵抗が減少するが,低いときには120°から360°に増やしても流出抵抗に有意な減少はみられなかったと報告している5).今回の症例では,術前平均眼圧はS-LOT群が37.1±14.4mmHg,LOT群が30.6±10.6mmHgと高眼圧であり,眼灌流圧が高めであったことによりS-LOT眼とLOT眼で違いが出やすかったと推測される.しかしながら,今回の症例においても症例5?7のように,S-LOT眼のほうが低い眼圧である傾向はあるものの,あまり差が出にくい症例も存在する.これについては以下の流出路のバリエーションが関係していると推測される.つまり,Schlemm管以降の流出路はバリエーションに富んでおり,Schlemm管からの房水の排出は全周均一なわけではなく,多い部分と少ない部分があるとされ6),さらに,先天的な異常がない健常人でもSchlemm管腔の広さは一定でなく,一周連続していない症例やSchlemm管が重複して存在する例や,Schlemm管からつながる集合管も部位によって密度が異なると,Hannらは報告している7).120°という部分的な線維柱帯切開を行った場合,房水流出に大きく寄与している集合管を含む部位を切開することができれば大きく眼圧を下降させることはもちろん可能であるが,房水流出にあまり寄与していない部分を切開した場合には眼圧下降効果が小さい可能性があり,切開範囲が広いほうが房水流出に大きく寄与している集合管を含む部分を切開できる確率が高くなると考えられる.つまり,理論上S-LOTはLOTよりも3倍高い確率で房水流出に大きく寄与している集合管を含む部分を切開できるともいえるが,全体の3分の1程度の症例では,両者が同等の眼圧下降効果を示す可能性もある.ただし今回の研究では症例数が十分でないため,線維柱帯の切開範囲と眼圧下降効果について,また術前の眼圧(または眼灌流圧)との関係については今後の検討課題である.IV結論同一症例の左右眼でS-LOT変法とLOTを比較した本研究では,半数以上の症例で明らかにS-LOT変法のほうが眼圧下降効果が高く,その他の症例でも差は小さいものの同様な傾向がみられた.S-LOT変法はLOTに比べ,より強い眼圧下降効果が得られる可能性があると考えられた.文献1)木村智美,石川太,山崎仁志ほか:各種緑内障手術の成績.あたらしい眼科26:1279-1285,20092)ChiharaE,NishidaA,KodoMetal:Trabeculotomyabexterno:analternativetreatmentinadultpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.OphthalmicSurg24:735-739,19933)BeckAD,LynchMG:360degreestrabeculotomyforprimarycongenitalglaucoma.ArchOphthalmol113:1200-1202,19954)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20125)RosenquistR,EpsteinD,MelamedSetal:Outflowresistanceofenucleatedhumaneyesattwodifferentperfusionpressuresanddifferentextentsoftrabeculotomy.CurrEyeRes8:1233-1240,19896)SwaminathanSS,OhDJ,KangMHetal:Aqueousoutflow:segmentalanddistalflow.JCataractRefractSurg40:1263-1272,20147)HannCR,FautschMP:Preferentialfluidflowinthehumantrabecularmeshworknearcollectorchannels.InvestOphthalmolVisSci50:1692-1697,2009〔別刷請求先〕木嶋理紀:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:RikiKijima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,N-15,W-7,Kita-ku,Sapporo060-8638,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(101)1779表1患者背景S-LOT群LOT群p値手術時平均年齢45.4±20.4歳43.7±18.4歳0.42術前平均眼圧37.1±14.4mmHg30.6±10.6mmHg0.24術前平均点眼数3.0±0.63.1±0.40.59炭酸脱水酵素阻害薬の内服3例4例0.59術前視野の平均MD値?8.9±8.0dB?10.5±12.5dB0.92年齢は手術時のものなので,手術の時期の違いで差が出ている.全例有水晶体眼で,S-LOT変法,LOTともに単独手術.上記の項目についてWilcoxonsigned-ranktest,c2独立性の検定を行い,各群で有意差はみられなかった.1780あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(102)図1各症例の術後眼圧経過症例1と3が発達緑内障,2と6がPOAG,4と5がUG,7がステロイド緑内障.症例1と2のLOT眼は眼圧下降不十分であったため追加の緑内障手術を施行した.症例4と5のLOT眼は経過観察期間中,白内障手術を施行した.(左右の眼の術後の眼圧をMann-Whitney’sUtestにて検討した).(103)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161781図2平均眼圧の推移各群の各時点の平均眼圧.術後12カ月でS-LOT群11.9±4.1mmHg,LOT群15.4±3.8mmHg,術後24カ月でS-LOT群12.0±4.0mmHg,LOT群14.6±1.5mmHg,術後48カ月でS-LOT群11.8±3.8mmHg,LOT群15.2±2.9mmHgで,術後6,9,12,24,48カ月で群間に有意差がみられた.(Mann-Whitney’sUtest*<0.05**<0.01)1782あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(104)(105)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161783

リパスジル点眼の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1191?1195,2016cリパスジル点眼の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果杉山哲也清水恵美子中村元宮本和明冨田香子高木史子星野朗子長嶋珠江藤田裕美山田亮三京都医療生活協同組合・中野眼科医院Short-termEfficacyofRipasudilonIntraocularPressureandOpticNerveHeadBloodFlowinPrimaryOpen-angleGlaucomaTetsuyaSugiyama,EmikoShimizu,HajimeNakamura,KazuakiMiyamoto,KaorukoTomita,ChikakoTakagi,AkikoHoshino,TamaeNagashima,HiromiFujitaandRyozoYamadaNakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative目的:最近臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジル点眼液の緑内障における眼圧,視神経乳頭血流に対する短期成績を検討する.方法:対象は3カ月以上リパスジルを追加継続し,レーザースペックル法による視神経乳頭血流測定を行った原発開放隅角緑内障(広義)27例(平均年齢66.1歳)で,内訳は原発開放隅角緑内障(POAG)15例,正常眼圧緑内障(NTG)12例であった.追加前後に眼圧,血圧,視神経乳頭血流(MV:血管血流,MT:組織血流)を測定した.結果:眼圧は1?3カ月後,有意に下降した.3カ月間の平均眼圧下降幅はPOAG:2.4mmHg,NTG:2.0mmHgであった.3カ月後,視神経乳頭血流はMTのみPOAG,NTGとも有意な増加(5.9%,11.9%)を認めた.結論:短期的検討により,リパスジルは原発開放隅角緑内障(広義)の眼圧を有意に下降させ,視神経乳頭血流,とくに組織血流を有意に増加させた.Purpose:Toinvestigatetheshort-termoutcomeofripasudil,aROCKinhibitorrecentlyapprovedforuseinJapan,onintraocularpressure(IOP)andopticnervehead(ONH)bloodflowinpatientswithglaucoma.Method:IOP,bloodpressureandONHbloodflow(MV:meanvesselbloodflow,MT:meantissuebloodflow)weremeasuredin15patientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and12patientswithnormal-tensionglaucoma(NTG)whenripasudilhadbeenadditionallyprescribedformorethan3months.Results:Inripasudil-treatedeyes,IOPwassignificantlyreducedfrom1to3months.AverageIOPreductionforthisduration(mmHg)was2.4inPOAGand2.0inNTG.MTofONHbloodflowwassignificantlyincreasedby5.9%and11.9%,respectively.Conclusion:Thepresentstudyindicatesthatshort-termtreatmentofripasudilsignificantlyreducesIOPandincreasesONHbloodflow,particularlyoftissuebloodflow,inpatientswithPOAGandNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1191?1195,2016〕Keywords:ROCK阻害薬,リパスジル,眼圧,視神経乳頭血流,レーザースペックル法.ROCKinhibitor,ripasudil,intraocularpressure,opticnerveheadbloodflow,laserspeckleflowgraphy.はじめにカルシウムを介さず血管収縮に関与する酵素としてRhoassociatedcoiled-coilformingproteinkinase(ROCK)が知られており,その阻害薬の一つ,ファスジルは,くも膜下出血術後の脳血管攣縮や脳虚血症状の改善の適応症で臨床使用されている1).ファスジルについては慢性脳梗塞患者における脳血流増加作用2)のほか,高血圧ラットにおける網膜血管拡張作用3),糖尿病ラットにおける網膜微小血管障害抑制作用4),家兎視神経乳頭血流増加作用5)やその減少の抑制作用6),さらにはラット網膜虚血再灌流モデルにおける神経保護作用7)について,眼科領域における基礎研究の報告が散見される.一方,緑内障治療薬として近年臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジルは,従来のものと異なり,直接的に主経路からの房水流出を促進させて眼圧を下降させることがわかっている8).その結果,単独での眼圧下降作用のみならず,プロスタグランジン系緑内障点眼薬やチモロール点眼薬との併用によって,さらなる眼圧下降作用を発揮することが臨床試験によって実証されている9?13).しかし,リパスジルの眼血流に対する報告としては,その硝子体投与がネコ網膜血流(速度と量)を増加させる14)というもののみで,人眼に対するものは今のところ見当たらない.今回は,すでに他の緑内障点眼薬で治療を行っている原発開放隅角緑内障(広義)患者に,片眼のみリパスジル点眼を追加し,眼圧や視神経乳頭血流の短期的な変化を検討した.I対象および方法対象は中野眼科医院で通院加療中の原発開放隅角緑内障(広義)患者のうち,リパスジル(グラナテックR)点眼液を片眼に1日2回(1回1滴),3カ月以上追加継続し,レーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVITM,ソフトケア)による視神経乳頭血流測定を行った27例(平均年齢66.1歳)で,内訳は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)15例,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)12例であった.リパスジルを追加した眼は視野進行などのため,臨床上,緑内障治療の強化が必要だった眼であり,無作為化はしていない.緑内障以外の網膜・視神経疾患,糖尿病,高血圧,治療を要する高脂血症を合併する例や喫煙者は除外し,処方中の緑内障点眼薬はそのまま継続した.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得,対象患者には本研究の趣旨を説明したうえで承諾を得た.対象とした患者の背景,緑内障併用薬の内訳は表1,2のごとくであった.なお,緑内障併用薬は両眼同一であり,追加前後で変更はしなかった.リパスジル追加前に眼圧(Goldmann眼圧計),血圧,視神経乳頭血流を測定し,追加の1,2,3カ月後に眼圧を,3カ月後に血圧,視神経乳頭血流を各々,測定した.各測定はリパスジル点眼の2?3時間後とし,同一患者では同一の時間帯に行った.視神経乳頭血流測定は眼圧測定後に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬)で散瞳後,LSFGNAVITMを用いて3回ずつ行った.その後,解析ソフト(LSFGAnalyzer,ソフトケア)によって視神経乳頭全体の全血流(meanallbloodflow:MA),血管血流(meanvesselbloodflow:MV),組織血流(meantissuebloodflow:MT)についてmeanblurrate(MBR)値を求め,各々3回分の平均値を算出した.一方,眼灌流圧を2/3平均血圧?眼圧として算出した.各数値は平均値±標準偏差(SD)または平均値±標準誤差(SE)で表記し,統計学的検討には初期値(追加前)と各時点での間でpairedt-testを行い,p<0.05を有意水準とした.II結果リパスジル追加後の眼圧を全例,POAG群,NTG群に分けて検討した結果,いずれも追加眼では1,2,3カ月後に有意な下降を示し,非追加眼では有意な変化を認めなかった(図1~3).リパスジル追加眼において,全例では3カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.2mmHg)を認めた.POAG群では1?3カ月の眼圧下降幅にほとんど差はなかったが,1カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.4mmHg)を認めた.NTG群では3カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.0mmHg)を認めた.また,眼圧下降率(Δ眼圧/追加前眼圧)は両群とも1カ月後から3カ月後の間で有意差はなかったが,NTGでは1カ月後に比べ,3カ月後にもっとも高い傾向(p=0.10)があった(図4).最大の眼圧下降率はPOAG群で14.6%(1カ月後),NTG群では17.0%(3カ月後)であった.眼圧下降率と他の因子との関連を検討した.まずリパスジルが2剤目となる群(14眼)と,3剤目以降となる群(13眼)に分けて眼圧下降率を比較したが,両群間に有意差は認めなかった.つぎに,年齢を66歳未満の群(13眼)と66歳以上の群(14眼)に分けて検討したが,有意差はなかった.さらに,追加前眼圧が14mmHg未満の群(14眼)とそれ以上の群(13眼)に分けて検討したが,やはり有意差を認めなった.視神経乳頭血流は,全例ではMA,MV,MTともリパスジル追加3カ月後に有意な増加を示した(図5).POAG群,NTG群ごとの検討では,両群ともMTでのみ有意な増加を示し,その増加率はNTG群で11.9%,POAG群で5.9%であった(図6).なお,非追加群では有意な変化を認めなかった.眼灌流圧はリパスジル追加後,有意な変化を認めず,眼灌流圧の変化量とMTの変化量との間に有意な相関を認めなかった.今回の27例全例において,投与期間中,リパスジル点眼後に結膜充血がみられたが,いずれも一過性であり,継続可能であった.III考按今回の検討の結果,リパスジルの追加点眼によって,緑内障患者の眼圧は1カ月から3カ月後まで有意に下降し,視神経乳頭血流は3カ月後に有意に増加した.とくに,リパスジルの緑内障眼血流への影響に関しては,筆者らが知る限りまだ報告されておらず,今回が初めてのものと思われる.リパスジルのネコ網膜血流増加作用を示した既報14)は硝子体内投与であり,今回のような点眼ではないが,50μMおよび5mMの50μl(推定硝子体内濃度は1μMと100μM)投与で有意な網膜血流増加が認められたと報告されている.一方,有色家兎にリパスジルを1日2回7日間点眼した際の視神経への移行は337.9ng/mlであったというオートラジオグラフィによる実験結果がある15).リパスジルの分子量(MW:395.9)より計算すると0.85μMであり,上述の網膜血流増加作用があった1μMに近似している.今回は7日間以上点眼を継続しているので,より高濃度になった可能性もあり,部位はやや異なるものの視神経乳頭血流を増加させたとしても矛盾はないと考えられる.また,今回の結果ではMVよりもMTが有意に増加しており,眼灌流圧に有意な変化がなく,眼灌流圧の変化量とMTの変化量との間に有意な相関を認めなかったことより,末梢血管の血管抵抗減少により組織血流が増加したと推察される.上述したネコを用いた基礎研究において,網膜の血管径でなく血流速度を有意に増加させた,すなわち,より末梢の血管を拡張させたという結果14)とも合致している.さらに,今回の結果ではPOAGよりもNTGで血流の増加率が高く,その理由として,1)追加前の血流がNTGのほうがより低下していたため,2)NTGのほうがリパスジルに対する反応性が高かったため,などの可能性が考えられるが,今のところ不明である.なお,今回の検討は追加眼について無作為化しておらず,臨床上,片眼にのみ追加が必要だった例を対象としている.その結果,追加前のMTが追加側のほうが明らかに低かった可能性が高く,結果の解釈には限界がある.リパスジルの神経保護作用16)とともに緑内障の眼血流への作用については,今後,無作為化試験などさらなる検討を要する.一方,今回の結果におけるリパスジルの眼圧下降効果について過去の報告と比べて検討する.今回はすでに緑内障点眼薬で加療中の患者が対象であり,併用点眼薬数やその種類はさまざまなので,これまでに行われた臨床試験と単純に比較することはできないが,比較的近いものとしてチモロールあるいはラタノプロストとの併用試験13)の結果と比較してみる.チモロールあるいはラタノプロストで治療中の原発開放隅角緑内障・高眼圧症(治療下で眼圧が18mmHg以上,平均で20mmHg弱)患者に8週間リパスジルを追加した結果,追加前に対する眼圧下降幅はチモロールの場合に2.9mmHg,ラタノプロストの場合に3.2mmHgと報告されている.今回は半数近くの症例にすでに2剤以上の緑内障点眼薬が使用されていたこと,NTGも多く含まれ,追加前眼圧がこの臨床研究より明らかに低かったことを考えると,2.2mmHgという眼圧下降幅はそれほど矛盾しない結果と考えられる.眼圧下降率がNTGでは3カ月後にもっとも大きいという結果であったのは,ROCK阻害薬の眼圧下降機序の一つとして推測されている線維柱帯細胞の細胞骨格変化17)などにある程度の期間を要するためかもしれないが,さらなる検討が必要である.また,今回の結果では追加前の点眼薬数で眼圧下降率に差がなかったこと,追加前眼圧の高低で明らかな差がなかったことより,リパスジルの追加点眼はさまざまな状況でさらなる眼圧下降を図る際に考慮してよいのではないかと考えられるが,今後さらに検討を要する.以上,新しく臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジルの原発開放隅角緑内障(広義)における短期的な追加効果を検討した結果,有意な眼圧下降に加え,視神経乳頭組織血流の有意な増加が認められることを明らかにした.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShibuyaM,SuzukiY,SugitaKetal:EffectofAT877oncerebralvasospasmafteraneurysmalsubarachnoidhemorrhage.Resultsofaprospectiveplacebo-controlleddouble-blindtrial.JNeurosurg76:571-577,19922)NagataK,KondohY,SatohYetal:Effectsoffasudilhydrochlorideoncerebralbloodflowinpatientswithchroniccerebralinfarction.ClinNeuropharmacol16:501-510,19933)OkamuraN,SaitoM,MoriAetal:Vasodilatoreffectsoffasudil,aRho-kinaseinhibitor,onretinalarteriolesinstroke-pronespontaneouslyhypertensiverats.JOculPharmacolTher23:207-212,20074)AritaR,HataY,NakaoSetal:Rhokinaseinhibitionbyfasudilamelioratesdiabetes-inducedmicrovasculardamage.Diabetes58:215-226,20095)TokushigeH,WakiM,TakayamaYetal:EffectsofY-39983,aselectiveRho-associatedproteinkinaseinhibitor,onbloodflowinopticnerveheadinrabbitsandaxonalregenerationofretinalganglioncellsinrats.CurrEyeRes36:964-970,20116)SugiyamaT,ShibataM,KajiuraSetal:Effectsoffasudil,aRho-associatedproteinkinaseinhibitor,onopticnerveheadbloodflowinrabbits.InvestOphthalmolVisSci52:64-69,20117)SongH,GaoD:Fasudil,aRho-associatedproteinkinaseinhibitor,attenuatesretinalischemiaandreperfusioninjuryinrats.IntJMolMed28:193-198,20118)IsobeT,MizunoK,KanekoYetal:EffectsofK-115,arho-kinaseinhibitor,onaqueoushumordynamicsinrabbits.CurrEyeRes39:813-822,20149)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,201310)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,201311)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201512)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol94:e26-e34,201613)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,201514)NakabayashiS,KawaiM,YoshiokaTetal:EffectofintravitrealRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)onfelineretinalmicrocirculation.ExpEyeRes139:132-135,201515)http://www.pmda.go.jp/drugs/2014/P201400129/index.html.リパスジル塩酸塩水和物申請資料概要CTD2.6.4薬物動態試験の概要文p2916)YamamotoK,MaruyamaK,HimoriNetal:ThenovelRhokinase(ROCK)inhibitorK-115:anewcandidatedrugforneuroprotectivetreatmentinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci55:7126-7136,201417)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:EffectsofrhoassociatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandoutflowfacility.lnvestOphthalmolVisSci42:137-144,2001〔別刷請求先〕杉山哲也:〒604-8404京都市中京区聚楽廻東町2中野眼科医院Reprintrequests:TetsuyaSugiyama,M.D.,Ph.D.,NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative,2Jurakumawari-higashimachi,Nakagyo-ku,Kyoto604-8404,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(109)1191表1患者背景(n=27)全例POAGNTG年齢(歳)66.1±10.967.0±12.165.1±9.7男:女12:158:74:8併用点眼薬数1.8±0.92.0±0.81.5±1.0屈折(D)?2.5±3.5(?2.6±3.5)?2.6±2.9(?2.6±2.3)?2.4±4.2(?2.4±4.6)MD(dB)?11.6±6.9(?7.5±5.7)?12.7±6.4(?7.0±4.6)?10.2±7.6(?8.2±7.0)括弧内:リパスジル非追加側.いずれもmean±SD.表2緑内障併用薬の内訳(n=27)POAG(例)NTG(例)合計(例)1剤5(PG:4,b:1)9(PG:6,a1:2,b:1)142剤5(PG+b:4,b+CAI:1)1(PG+b)63剤5(PG+b+CAI:4,PG+b+a1:1)1(PG+b+CAI)64剤1(PG+b+CAI+a2)1PG:プロスタグランジン関連薬,b:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:a1遮断薬,a2:a2刺激薬,PG+b,b+CAIの一部は配合剤.1192あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(110)図1全例における眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=27,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(*:p<0.0001,対応のあるt検定,対追加前).図2POAGにおける眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=15,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).図3NTGにおける眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=12,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(***:p<0.001,**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).図4POAG,NTGにおける眼圧下降率(Δ眼圧/リパスジル追加前眼圧)□:POAG(n=15),■:NTG(n=12),平均値±標準誤差.NTGの1カ月後と3カ月後の間に差のある傾向を認めた(†:p=0.1,対応のあるt検定).図5全例における視神経乳頭血流の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=27,平均値±標準誤差.MA,MV,MTとも有意な増加を認めた(***:p<0.001,**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).(111)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161193図6POAG,NTGにおける視神経乳頭血流MT値の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,POAG:n=15,NTG:n=12,平均値±標準誤差.両群とも有意な増加を認めた(**:p<0.01,*:p<0.05,対応のあるt検定,対追加前).1194あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(112)(113)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161195

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1187?1190,2016c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討吉谷栄人*1坂田礼*1沼賀二郎*1本庄恵*1,2*1東京都健康長寿医療センター眼科*2東京大学医学部附属病院眼科EfficacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutioninEyesofPatientswithGlaucomaMasatoYoshitani1),ReiSakata1),JiroNumaga1)andMegumiHonjo1,2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:日本人緑内障患者におけるリパスジル点眼液(グラナテックR点眼液0.4%)の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.投与開始後1カ月目,2カ月目,3カ月目の眼圧値および安全性について検討した.結果:投与開始前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後1カ月目14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった.3カ月間を通しての副作用として,結膜充血4例4眼,掻痒感1例1眼,眼刺激感1例1眼を認めたが,いずれも中止には至らなかった.結論:目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることが期待できる薬剤であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionintheeyesofpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14eyesof14patientstreatedwiththemultiplecombinedtherapyforglaucoma.Weexaminedintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafteradjunctionofripasudilophthalmicsolution.Results:ThemeanbaselineIOPwas18.6±4.2mmHg.At1,2and3months,IOPwas14.6±2.5mmHg,15.3±3.4mmHgand14.8±2.3mmHgrespectively;significantIOPreductionwasobserved.TherewasnosignificantcorrelationbetweenIOPreductionrateandage.Adverseeffectswerehyperemia(4eyes),itching(1eye),andeyeirritation(1eye).Nopatientsdiscontinuedbecauseofadverseeffects.Conclusion:RipasudilophthalmicsolutionwaseffectiveinsafelyreducingIOPinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1187?1190,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,緑内障,ROCK阻害薬,安全性,眼圧.ripasudilophthalmicsolution,glaucoma,Rhokinaseinhibitor,safety,intraocularpressure.はじめに緑内障においては,眼圧下降治療が依然として唯一確実に効果が認められている治療法であるため1),新たな眼圧下降機序の薬物の開発は治療の選択肢を拡大するという点において非常に有意義であると考えられる.リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液0.4%R,以下リパスジル点眼液)は,日本で研究,開発されたROCK(Rho-associatedcoiled-coilformingkinase)阻害薬の緑内障点眼液であり,その作用機序は,Rhoの標的蛋白質のセリン・スレオニンキナーゼであるROCKを阻害し,線維柱帯細胞の形態の変化,細胞外マトリクス産生抑制,傍Schlemm管内皮細胞の透過性亢進を通じて,主経路である経Schlemm管房水流出路での房水流出を促進することで眼圧下降をもたらすとされる2?4).これまでの報告によると,第I相臨床試験においては,健常男性において点眼投与2時間後,単剤で平均4.0mmHgの眼圧下降効果が認められた.第II相臨床試験では開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者において単剤で平均3.5mmHgの眼圧下降効果が認められた.第III相臨床試験では0.5%チモロール点眼液に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,0.005%ラタノプロスト点眼液に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果が認められた5?7).52週にわたる長期投与においても,単剤においては平均2.6mmHgの眼圧下降効果を認め,プロスタグランジン関連薬に追加した群では平均1.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,b遮断薬に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の併用に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果がそれぞれ認められている8).同時にその報告によると,副作用として結膜充血74.6%,眼瞼炎20.6%,アレルギー性結膜炎17.2%で,全症例352症例のうち51症例が眼瞼炎またはアレルギー性結膜炎のために中止となっている.ただし点眼中止後は,必要に応じた加療により症状は全例軽快したとされている8).一方で開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者における点眼開始後の24時間眼圧においては,単剤のリパスジル点眼液投与後から1時間から7時間は有意な眼圧下降効果を認め,初回の点眼投与2時間後において平均6.4mmHgの眼圧下降効果を認めたと報告されている9).その他のROCK阻害薬に関する報告では,糖尿病網膜症におけるROCK阻害薬による血管障害の制御の可能性に関して報告があり,血管内皮細胞障害阻害作用や白血球接着阻害による糖尿病網膜症の微小血管障害の病態制御の可能性が期待されている10).また,ROCK阻害薬の一種であるY-27632による角膜内皮の創傷治癒促進が指摘され,Fuchs角膜内皮ジストロフィによる初期の水疱性角膜症における角膜内皮機能の回復と視力回復が得られた報告もある11).リパスジル点眼液は2014年12月に世界に先駆けて販売が開始されたが,実際の臨床に基づく有効性と安全性の報告は皆無である.今回,緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.I対象および方法東京都健康長寿医療センター眼科に通院中の日本人緑内障患者を検討対象とした.緑内障の病型は問わず,緑内障点眼下でも目標眼圧(ベースライン眼圧より20%下降)に到達しない症例のなかで,2015年1?8月に,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.なお,本研究は東京都健康長寿医療センターの倫理委員会で承認された.対象症例を1例1眼としてランダムに選択したが,リパスジル点眼液が両眼に投与された症例では,眼圧下降率の少ない眼あるいは内眼手術の既往歴のない眼を対象とした.Goldmann圧平眼圧計(Haag-Streit社,スイス)による診療時間内の眼圧測定,リパスジル点眼液開始前のHumphrey自動視野計(Carl-Zeiss社,ドイツ)SITA-Fast30-2の信頼性のある視野検査結果(固視不良,偽陽性,偽陰性それぞれ20%以下)を採用した.安全性の評価は,患者の自覚症状や細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を参考とした.経過観察中,目標眼圧に到達せず追加の緑内障治療を必要とした症例,転医した症例,データが得られなかった症例はその都度除いた.1カ月ごとの眼圧下降効果の評価は,投与開始後の得られたデータ群とその各々に対応する投与前のデータ群との比較により評価し,データが得られなかった症例の投与前のデータは除外した.主要評価項目は点眼追加後の眼圧経過であり,1カ月ごとの眼圧下降効果に関してはpairedt-testを用いた.また,副次的に投与後の眼圧の下降量と年齢,投与前眼圧値との相関関係に関して検討を行い,それぞれ,Spearmans’scorrelationcoefficientbyranktest,Peason’scorrelationcoefficienttestを用いて検討を行った.統計解析ソフトはStatcelver3を使用し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象患者を表1に示す.リパスジル点眼液追加投与前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後の眼圧値は,1カ月目で14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目で15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目で14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった(図1).それぞれの眼圧下降量は1カ月目で3.8±1.1mmHg,2カ月目で3.4±0.9mmHg,3カ月目で3.3±1.4mmHgであった.追加投与開始後の眼圧下降量と年齢の間には有意な相関関係を認めなかった(1カ月目:r=0.13,p=0.69,2カ月目:r=?0.20,p=0.53,3カ月目:r=0.29,p=0.45).一方,眼圧下降量と追加前眼圧との間には,有意な正の相関関係を認めた(1カ月目:r=0.80,p<0.01,2カ月目:r=0.65,p<0.05,3カ月目:r=0.84,p<0.01).安全性の評価では,結膜充血4眼(1カ月目3眼,3カ月目1眼),掻痒感1眼(3カ月目1眼),眼刺激感1眼(1カ月目1眼)を認めた(重複あり)が,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.III考按今回,眼圧コントロールが不十分であった緑内障患者に対して,リパスジル点眼液の追加投与を行った症例を後ろ向きに検討した.点眼数は投与追加前の平均3.1剤から追加後の平均4.1剤に増えた(配合剤は2剤として計算した)ものの,点眼追加後1カ月目から3カ月目において,いずれも有意な眼圧下降効果が得られていた.また,臨床上中止に至るような眼局所の副作用もなく,安全性も担保されていると考えられた.また,年齢と眼圧下降量には相関関係を認めなかったが,一方で,追加前眼圧と眼圧下降量に関しては有意な正の相関関係を認め,追加前の眼圧が高いほうがより強い眼圧下降量を得られることが期待される.ただし,今回の検討では症例数が少ないため,今後さらなる多症例数での検討が必要である.これまでの緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬を柱に,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2刺激薬を組み合わせることで眼圧管理を行ってきたが,リパスジル点眼液はこれら既存の点眼薬と作用機序が異なることから,新たな治療薬の選択肢となりうる.全身的な副作用も皆無であり,今後併用療法の一つの柱になるのでないかと考えられた.リパスジル点眼液追加投与後も目標眼圧に到達しなかった症例は4例4眼であり,2眼は開放隅角緑内障(83歳,女性と54歳,女性)で併用点眼薬を変更,1眼は落屑緑内障の76歳,女性で線維柱帯切開術を施行,1眼は開放隅角緑内障の74歳,女性でチューブシャント手術をそれぞれ施行された.安全性の検討に関して,今回の14眼で使用中止となるような重篤な副作用は認められなかった.もっとも頻度が高いと考えられた結膜充血は,3カ月間で14眼中4眼(29%)に認められた.ただし,診療時間内における患者の自覚症状の聴取,もしくは細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を評価対象としたため,その評価判定基準は統一されておらず,今後の検討を要すると考えられた.緑内障点眼薬においては,結膜充血などの眼局所の副作用による点眼アドヒアランスの低下が懸念されるため,リパスジル点眼液で頻度の高い結膜充血の動態を把握しておくことはアドヒアランスを維持するうえで非常に重要と思われる.アレルギー性結膜炎や眼瞼炎など他の副作用も含め,母数を増やし,より長期的な経過観察が必要と考えられた.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上,避けられないいくつかの問題点があげられる.まず症例数が少ない(n=14)ため,眼圧下降効果や相関の有意性を正確に評価することが困難であり,今後さらに母数を増やす必要がある.つぎに,今回の検討対象に含まれるのはあらゆる病型の緑内障であり,かつ手術既往眼も含めたため,病型別の眼圧下降効果を正確に評価することが困難であった.つぎに,診療録記載に基づく安全性評価であり,その評価基準は一定していないため,今後は決められた評価基準を作成し評価していく必要がある.そして最後に,今回は3カ月間という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたる点眼評価を行っていく必要がある.このように多くの問題点は含有するが,今回の検討からは,目標眼圧に到達しない日本人緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降効果を得ることができる薬剤であると考えられた.IV結論目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることができる薬剤であると考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)中庄司幹子:新薬のプロフィルグラナテック点眼液0.4%.ファルマシア51:240,20153)本庄恵:Rho-associatedkinase(ROCK)阻害薬の緑内障治療薬としての可能性.日眼会誌113:1071-1081,20094)本庄恵:緑内障の新薬1:ROCK阻害薬.あたらしい眼科32:775-781,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20137)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20158)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol4:DOI:10.1111/aos.12829,20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201510)有田量一:糖尿病性網膜微小血管障害のメカニズムとROCK阻害薬による病態制御の可能性.日眼会誌115:985-997,201111)小泉範子:Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を用いた新しい角膜内皮疾患治療の開発.日の眼科83:1324-1328,2012〔別刷請求先〕吉谷栄人:〒173-0015東京都板橋区栄町35-2東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:MasatoYoshitani,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaetyou,Itabashiku,Tokyo173-0015,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(105)11871188あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(106)表1患者背景背景因子症例数14例14眼性別男性5例,女性9例年齢70.2±12.2歳(51?92)MD?12.46±10.10dB(?29.01??0.53)PSD9.91±4.75dB(1.67?15.13)眼圧18.6±4.2mmHg(12?25)点眼剤数※3.1±0.9剤(1?4)病型原発開放隅角緑内障7例7眼落屑緑内障3例3眼続発緑内障2例2眼原発閉塞隅角緑内障2例2眼手術既往歴白内障手術5例5眼線維柱帯切開術1例1眼線維柱帯切除術1例1眼隅角癒着解離術1例1眼MD:meandeviation.PSD:patternstandarddeviation.※配合剤は2剤として計算図1リパスジル点眼液投与開始後の眼圧経過リパスジル点眼追加後,有意な眼圧下降が維持された.(107)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611891190あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(108)

原発開放隅角緑内障(広義)に対する白内障単独手術

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1057〜1061,2016©原発開放隅角緑内障(広義)に対する白内障単独手術狩野廉桑山泰明岡崎訓子桑村里佳福島アイクリニックClinicalResultsofCataractSurgeryinPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaKiyoshiKano,YasuakiKuwayama,NorikoOkazakiandRikaKuwamuraFukushimaEyeClinic目的:原発開放隅角緑内障(広義)眼に対する白内障単独手術後の眼圧変化と,術後眼圧上昇に関連する因子について検討した.対象および方法:2014年8〜10月に当院で白内障単独手術を施行し,術後1カ月以上経過観察した原発開放隅角緑内障(広義)38例38眼を対象として後ろ向きに調査した.結果:術前,術翌日,1,3,6カ月後の眼圧(平均±標準偏差mmHg)はそれぞれ13.7±2.7,18.0±6.4(p<0.01),15.1±5.1(p<0.05),14.5±3.8(n.s.),13.8±3.3(n.s.)だった.点眼スコアは術前2.1±1.5から術6カ月後1.0±1.2に有意に減少した(p<0.05).術翌日10mmHg以上眼圧上昇したものが5眼(13.2%)あり,術前高眼圧が有意な関連因子だった(p<0.05).結論:原発開放隅角緑内障(広義)眼に対する白内障単独手術は,短期的に点眼1剤分の眼圧下降効果が期待できるが,一過性眼圧上昇に注意が必要である.Purpose:Toevaluatechangesinintraocularpressure(IOP)followingcataractsurgeryinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG).Patientsandmethods:TheauthorsretrospectivelyreviewedpreoperativeandpostoperativeIOPin38consecutivePOAGpatientswhohadundergonecataractsurgerybetweenAugustandOctoberof2014andhadbeenfollowedupatleast1monthaftersurgery.Results:PreoperativeIOPwas13.7±2.7;meanIOPat1day,1month,3monthsand6monthsaftersurgerywas18.0±6.4(p<0.01),15.1±5.1(p<0.05),14.5±3.8(n.s.)and13.8±3.3(n.s.),respectively.Thenumberofglaucomamedicationsbeforeandat6monthsaftersurgerydecreasedto2.1±1.5and1.0±1.2,respectively(p<0.05).Fiveeyes(13.2%)werefoundtohaveanIOPincreaseof≧10mmHgonthedayaftersurgery,higherpreoperativeIOPshowingstatisticallysignificantcorrelationwiththeIOPspike(p<0.05).Conclusions:Theefficacyofcataractsurgeryseemstobealmostthesameasthatofonebottleofglaucomamedication,atleastintheshortterm.WehavetobewareoftransientincreaseinIOPfollowingcataractsurgeryoneyeswithPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1057〜1061,2016〕Keywords:原発開放隅角緑内障,白内障手術,眼圧,点眼数,一過性眼圧上昇.primaryopen-angleglaucoma,cataractsurgery,intraocularpressure,numberofglaucomamedications,transientincreaseinintraocularpressure.はじめに緑内障の有病率は年齢とともに上昇し,白内障手術適応となることの多い70歳以上では10%にのぼると推測される1,2).緑内障を合併した白内障患者の頻度は多く,その術式の選択肢としては白内障単独手術と緑内障同時手術の2つが考えられる.白内障単独手術は手術時間が短く侵襲が少ないため,早期に視力回復が得られる一方で,術後眼圧コントロール悪化に伴う視野障害進行のリスクがある.緑内障同時手術は視力改善と眼圧下降の両方が一度の手術で得られ,点眼数減量などによるqualityoflife(QOL)の改善が期待できる反面,惹起乱視や収差増加など視機能に対する悪影響3,4)や眼内レンズの度数ずれが多いことが知られている5).以前わが国では,眼圧コントロール良好な原発開放隅角緑内障(広義)(primaryopen-angleglaucoma:POAG)眼に白内障単独手術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)を施行すると,15.5〜26.6%の眼圧下降が得られると報告されてきた6,7)が,プロスタグランジン(PG)関連薬使用が緑内障治療の第一選択となった最近のわが国の報告では下降率−2.6〜9.9%と低い8〜11).術後の眼圧変化を予測することは,緑内障を合併した白内障眼の手術術式決定のうえで重要であり,今回筆者らはPOAGに対するPEA後の眼圧変化と,術後眼圧上昇に関連する因子について検討した.I対象および方法2014年8〜10月に当院でPEAを施行し,術後1カ月以上経過観察したPOAG38例38眼(両眼手術症例では先行眼のみ)を対象に,術前後の眼圧,点眼スコアを後ろ向きに調査した.PEAは全例耳側3mm切開で,角膜切開または強角膜切開で施行した.術中後囊破損した症例が1例あったが,硝子体脱出はなく眼内レンズは囊内固定であった.その他の症例は術中合併症もなく,全例眼内レンズは囊内固定だった.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて日中外来時間帯に測定し,術前眼圧は手術直近1回の値を用いた.患者背景を表1に示す.点眼スコアは配合剤を2,他の点眼と内服薬を1とした.術前に使用していた緑内障治療薬は術後いったんすべて中止し,経過に応じて再開した.術前後の眼圧を対応のあるt検定で,点眼スコアをWilcoxon符号順位検定で比較し,術翌日の5mmHgまたは10mmHg以上の眼圧上昇に関連する因子についてロジスティック回帰分析を用いて調べた.視野検査はHumphrey視野計のプログラムC30-2またはC10-2を用い,固視不良20%以上,偽陽性20%以上,偽陰性33%以上のいずれかに該当する信頼性の低い検査結果は除外した.II結果眼圧は術翌日から術1カ月後まで術前より有意に上昇していたが,以後は術前と同等のレベルに下降し,有意差はなかった(図1).点眼スコアは術後有意に減少し,経過とともに徐々に増加したが,術6カ月後の時点で術前より約1剤分有意に減少していた(図1).術前に炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)内服を使用していたものはなく,術後CAI内服を必要としたものが4眼あったが,術2カ月以降に使用していたものはなかった.術翌日の眼圧上昇は5mmHg以上が13眼(34.2%),10mmHg以上が5眼(13.2%)あった(図2).術翌日5mmHg以上の眼圧上昇と眼軸長には有意な関連があり(表2),長眼軸眼ほど眼圧上昇のリスクが高かった.また,若年齢ほど眼圧上昇しやすい傾向があったが,有意水準には達しなかった.術翌日10mmHg以上の眼圧上昇と術前眼圧には有意な関連があり(表2),術前眼圧が16mmHg以上のものは15mmHg以下のものに比較して有意に眼圧上昇をきたした(Fisher直接確率検定,p<0.05)(表3).術後2段階以上視力改善したものは16眼(42.1%)で,2段階以上視力低下したものはなかった.PEA前後で同一プログラムの検査結果がある15眼について,術後1dB以上MD値が改善したものは7眼(46.7%),3dB以上MD値が低下したものは2眼(6.7%)あった.感度低下した2眼はいずれも術後一過性に30mmHg以上の眼圧上昇をきたした症例であった.III考察POAGに対するPEA後の眼圧変化については,これまでの報告で−2.6〜26.6%と幅があるが,術前平均眼圧が18〜22mmHgの比較的高いものは下降率が15.5〜26.6%と大きい6,7,12,13)のに対し,15〜18mmHgの比較的低いものは−2.6〜11.2%と下降率が小さい8〜11,14,15).散布図で確認すると,術前眼圧に関係なく術後眼圧は15〜16mmHg,術後点眼スコアは1程度になることが多いことがわかる(図3).狭義POAGのなかでも術前眼圧が21mmHg以上のものは20mmHg以下のものより眼圧下降幅が大きいとの報告があるが6),わが国では1999年以降PG関連薬使用により眼圧コントロールがそれ以前より改善したため,術前眼圧が15〜17mmHgと低くなり,術後眼圧下降が得られにくくなったと考えられる.当院では術前眼圧が高めのものに対しては積極的に緑内障同時手術を選択しているため,本研究の症例群は過去の報告に比較して眼圧レベルがさらに低く,術前後の平均眼圧に差が出なかったものと思われる.また,多くの症例で緑内障第一選択薬であるPG関連薬が術前に投与されているのに対し,術直後には囊胞様黄斑浮腫のリスクを考慮して少なくとも1〜2カ月は投与を控える傾向にあり,眼圧下降が得られなかったもう一つの原因と考えられる.しかしながら点眼数は減少しており,眼圧コントロールとしては短期的には点眼1剤分の改善が得られていると思われた.白内障手術後の眼圧下降機序について,PEAが行われる以前の文献では房水産生低下16)や血液房水柵の変化17)などが考察されている.手術侵襲が少ないPEAについては,術前に房水流量が低下している症例は房水流出率が改善し,低下していない症例では変化がない18)ことから,PEA時の人工房水灌流による線維柱帯に沈着したグリコサミノグリカンの洗い流し効果や,線維柱帯障害による貪食細胞増加などが考えられている12)が,手術侵襲に伴う内因性PGF2放出によるぶどう膜強膜流出増加の可能性も推測されている15).PEAと同様に軽度の炎症惹起による眼圧下降効果が得られるものとしてレーザー線維柱帯形成術(lasertrabeculoplasty:LTP)があるが,LTPの眼圧下降率は20%前後19〜21),点眼数にして1剤程度と,PEA後と同等の下降効果が報告されている21,22).LTPの作用機序としては,細胞内メラニン顆粒破壊に伴うフリーラジカルや各種インターロイキン放出により,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性上昇,マクロファージの細胞外物質貪食増加,Schlemm管内皮細胞有孔性増加などを通じて線維柱帯の房水流出抵抗が減少することが知られており23,24),PEAも手術侵襲によって同様の経路が活性化し,房水流出抵抗が減じている可能性が考えられる.PEA後に危惧される眼圧上昇の割合は,術翌日5mmHg以上上昇したものが34.2%と高頻度で,眼軸長が長いほど有意にリスクが大きく,若年齢ほど眼圧上昇しやすい傾向があった.術翌日10mmHg以上と著明に上昇したものは13.2%あり,術後28mmHg以上が13%10),30mmHg以上が23%25)などの過去の報告と同様の結果であった.とくに術前眼圧が16mmHg以上のものは10mmHg以上上昇するリスクが有意に大きく,視野悪化の要因となりうるため,周術期の管理に十分に注意が必要と思われる.術後眼圧上昇の原因としては術後炎症,粘弾性物質残留,ステロイド薬などが考えられるが,より侵襲の少ない手術,眼内レンズ挿入後の十分な前房灌流,ステロイド薬の必要最小限の投与などに注意をしていても,予想以上に眼圧上昇が生じることが明らかとなった.術後眼圧上昇の予防には,術後CAI内服26,27)や,術前あるいは術直後のb遮断薬28),a2刺激薬29),PG関連薬30)などの点眼が有効であるとされており,眼圧上昇や視野悪化のリスクが高い症例では予防投与を考慮する必要があると思われる.また,追加治療の必要性をより早く判断するため,術後眼圧が最高となる4〜6時間後28〜30)に眼圧測定を行うことも有用と考えられる.POAGを合併した白内障患者では,眼圧コントロールが良好であれば白内障単独手術,不良であれば緑内障同時手術を選択することに異論はないと思われるが,その具体的な境界は明確ではない.当院では眼圧レベルが高いものや病期が進行したものは積極的に緑内障同時手術を選択しているが,適応を限定した症例群においても白内障単独手術では術後10mmHg以上の一過性眼圧上昇をきたすものが1割以上あった.とくに術前眼圧16mmHg以上の症例では4割にのぼり,視野悪化の原因となった可能性のある症例もあった.今後そのような症例はより積極的に緑内障同時手術を選択するか,術後眼圧上昇に対する点眼・内服予防投与を考慮する必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimistudyreport2:PrevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)豊川紀子,宮田三菜子,木村英也ほか:緑内障手術の視機能への影響.臨眼62:461-165,20084)松葉卓郎,狩野廉,桑山泰明:IOLマスターを用いた線維柱帯切除術後の眼軸長測定.臨眼65:387-391,20115)有本剛,丸山勝彦,菅野敦子:白内障緑内障同時手術時の光学式ならびに超音波眼軸長測定装置による屈折誤差の比較.臨眼67:1525-1531,20136)松村美代,溝口尚則,黒田真一郎ほか:原発開放隅角緑内障における超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の眼圧経過への影響.日眼会誌100:885-889,19967)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Effectofcataractsurgeryonintraocularpressurecontrolinglaucomapatients.JCataractRefractSurg27:1779-1786,20018)藤本裕子,黒田真一郎,永田誠:開放隅角緑内障に対するPEA+IOL後の長期経過.眼科手術16:571-575,20039)加賀郁子,稲谷大,柏井聡:緑内障眼の白内障手術術後眼圧変化.臨眼59:1131-1133,200510)尾島知成,田辺晶代,板谷正紀ほか:白内障単独手術を施行した原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,偽落屑緑内障眼の術後経過.臨眼56:1993-1997,200511)庄司信行:緑内障眼と眼内レンズ挿入術.あたらしい眼科23:153-158,200612)KimDD,DoyleJW,SmithMF:Intraocularpressurereductionfollowingphacoemulsificationcataractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinglaucomapatients.OphthalmicSurgLasers30:37-40,199913)LeeYH,YunYM,KimSHetal:Factorsthatinfluenceintraocularpressureaftercataractsurgeryinprimaryglaucoma.CanJOphthalmol44:705-710,200914)MerkurA,DamjiKF,MintsioulisGetal:Intraocularpressuredecreaseafterphacoemulsificationinpatientswithpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg27:528-562,200115)MathaloneN,HyamsM,NermanSetal:Long-termintraocularpressurecontrolafterclearcornealphacoemulsificationinglaucomapatients.JCataractRefractSurg31:479-483,200516)BiggerJF,BeckerB:Cataractsandprimaryopen-angleglaucoma:theeffectofuncomplicatedcataractextractiononglaucomacontrol.Ophthalmology75:260-272,197117)HandaJ,HenryJC,KrupinTetal:Extracapsularcataractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol105:765-769,198718)MeyerMA,SavittML,KopitasE:Theeffectofphacoemulsificationonaqueousoutflowfacility.Ophthalmology104:1221-1227,199719)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2090,199820)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,199921)FrancisBA,IanchulevT,SchofieldJKetal:Selectivelasertrabeculoplastyasareplacementformedicaltherapyinopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol140:524-525,200522)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Arandomized,prospectivestudycomparingselectivelasertrabeculoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,200523)GuzeyM,VuralH,SaticiAetal:IncreaseoffreeoxygenradicalsinaqueoushumourinducedbyselectiveNd:YAGlasertrabeculoplastyintherabbit.EurJOphthalmol11:47-52,200124)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:Anewinsightintothecellularregulationofaqueousoutflow:howtrabecularmeshworkendothelialcellsdriveamechanismthatregulatesthepermeabilityofSchelemm’scanalendothelialcells.BrJOphthalmol89:1500-1505,200525)丸山幾代,勝島晴美,鎌田昌俊ほか:緑内障眼に対する白内障手術.眼科手術8:313-318,199526)RichWJ:Furtherstudiesonearlypostoperativeocularhypertensionfollowingcataractsurgery.TransOphthalmolSocUK89:639-647,196927)LewenR,InslerMS:TheeffectofprophylacticacetazolamideontheintraocularpressureriseassociatedwithHealon-aidedintraocularlenssurgery.AnnOphthalmol17:315-318,198528)Levkovitch-VerbinH,Habot-Wilner,BurlaNetal:Intraocularpressureelevationwithinthefirst24hoursaftercataractsurgeryinpatientswithglaucomaorexfoliationsyndrome.Ophthalmology115:104-108,200829)KatsimprisJM,SiganosD,KonstasAGPetal:Efficacyofbrimonidine0.2%incontrollingacutepostoperativeintraocularpressureelevationafterphacoemulsification.JCataractRefractSurg29:2288-2294,200330)AriciMK,ErdoganH,TokerIetal:Theeffectoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostonintraocularpressureaftercataractsurgery.JOculPharmacolTher22:34-40,2006表1背景因子因子性別男性17眼,女性21眼年齢68.2±8.5歳眼圧13.7±2.7mmHg点眼スコア2.1±1.5眼軸長24.8±1.9mmHumphrey視野MD値*−10.0±8.4dB無治療時最高眼圧**18.5±3.7mmHg内眼手術既往5眼(13.2%)レーザー線維柱帯形成術既往7眼(18.4%)濾過胞眼4眼(10.5%)*術前に測定していた28眼,**術前に測定していた21眼.図1眼圧・点眼スコア各時点の眼圧(mmHg),点眼数はそれぞれ術前13.7±2.7,2.1±1.5,術翌日18.0±6.4,0.0±0.0,1週後16.5±5.9,0.1±0.4,2週後14.6±3.6,0.3±0.7,1カ月後15.1±5.1,0.4±0.8,2カ月後13.8±3.3,0.6±0.9,3カ月後14.5±3.8,0.9±1.1,6カ月後13.8±3.3,1.0±1.2だった(*p<0.05,**p<0.01;対応のあるt検定).図2術翌日の眼圧変化:y=x,:回帰直線y=1.6276x−4.2028(相関係数r2=0.46874),:y=x+10(術前より10mmHg眼圧上昇)を示す.表2術翌日の眼圧上昇に関連する因子5mmHg以上上昇10mmHg以上上昇年齢0.05750.7718性別0.41740.8194術前眼圧0.28720.0255術前点眼スコア0.68790.2843術前MD*0.90080.4672無治療時最高眼圧**0.14760.9920眼軸長0.01660.9656左右0.92670.9785術者0.92670.9794術中合併症0.97930.9815手術既往0.48180.6312SLT既往0.16960.9782Bleb眼0.68380.4711*術前に測定していた28眼,**術前に測定していた21眼.表3術前眼圧と術翌日10mmHg以上の眼圧上昇眼圧上昇なし眼圧上昇あり術前眼圧≦15mmHg27(96.4%)1(3.6%)術前眼圧≧16mmHg6(60.0%)4(40.0%)Fisher直接確率検定,p<0.05.図3白内障手術前後の眼圧・点眼スコア文献6〜15の術前後眼圧および点眼スコアをプロットした.:y=x,左グラフの:y=0.8x(20%眼圧下降線),右グラフの:y=x−1,→:本報告.〔別刷請求先〕狩野廉:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16福島アイクリニックReprintrequests:KiyoshiKano,M.D.,FukushimaEyeClinic,5-6-16Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(131)10571058あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(132)(133)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610591060あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(134)(135)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161061

ブリモニジンの処方パターンと眼圧下降効果

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1049〜1052,2016©ブリモニジンの処方パターンと眼圧下降効果砂川広海*1井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院PrescribingPatternandEfficacyonIntraocularPressureofBrimonidineHiromiSunagawa1),KenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬が処方された患者の背景や眼圧下降効果の検討.対象および方法:新規にブリモニジン点眼薬を投与した緑内障および高眼圧症患者237例237眼を対象とした.ブリモニジン点眼薬を追加した症例(追加群),1剤をブリモニジン点眼薬に変更した症例(変更群),変更と追加あるいは2剤の追加を行った症例(変更追加群)に分けた.3群間で,年齢・投与前眼圧・投与前薬剤数・投与理由,および投与6カ月間の眼圧下降効果を比較検討した.結果:緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.投与前眼圧は変更追加群が有意に高値だった.投与前薬剤数は3群で差がなく,全症例では平均2.3剤だった.投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分が最多だった.3群とも投与後に有意に眼圧が下降した.結論:ブリモニジン点眼薬は多剤併用の眼圧下降効果不十分な原発開放隅角緑内障に追加投与されることが多い.その眼圧下降効果は良好である.Purpose:Toinvestigatetheefficacyofbrimonidineandpatientbackground.Subjectsandmethod:Thesubjects,237open-angleglaucomaorocularhypertensionpatientsnewlyreceivingbrimonidine,wereclassifiedintothefollowingthreegroups:addbrimonidine(Addgroup);discontinueotherdrugandaddbrimonidine(Switchgroup);switchandaddordiscontinuetwodrugs(Addandswitchgroup).Weinvestigatedage,intraocularpressure(IOP),numberofprescribeddrugsbeforeadministrationandreasonforbrimonidineadministrationamongthethreegroups.Caseswerefollowedupfor6months.Results:Therewasnodifferenceinageornumberofdrugsamongthethreegroups.IOPbeforeadministrationinAddandswitchgroupwassignificantlyhigh.Themeannumberofdrugsbeforeadministrationinallgroupswas2.3.ThemainreasonforadministrationwasinsufficientIOP-decreasingefficacyinallgroups.Inallgroups,IOPdecreasewassignificant.Conclusion:BrimonidinewasoftenusedasadjunctivetherapyforPOAGpatientswithmultiplemedications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1049〜1052,2016〕Keywords:プリモジン,眼圧,追加,変更.brimonidine,intraocularpressure,add,switch.はじめにブリモニジン酒石酸塩点眼薬(以下,ブリモニジン点眼薬)は交感神経a2受容体作動薬で,眼圧下降機序として,房水産生抑制とぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進の両者を併せもっている1,2).わが国では2012年5月から使用可能となった.従来からの抗緑内障点眼薬と作用機序が異なることから,他剤との併用効果が期待されている.これまで,プロスタグランジン関連点眼薬単剤投与例や多剤併用例に,ブリモニジン点眼薬を追加した報告が行われてきた3〜8).しかし,ブリモニジン点眼薬がどのような症例に使用されているかを調査した報告はない.今回,ブリモニジン点眼薬が処方された症例の患者背景やその眼圧下降効果を後ろ向きに検討した.I対象および方法2014年4〜9月に井上眼科病院に通院中の緑内障および高眼圧症患者で,新規にブリモニジン点眼薬が投与された237例237眼を対象とした.男性101例,女性136例,年齢は65.6±13.9歳(平均値±標準偏差),21〜91歳だった.井上眼科病院勤務の眼科医13名が処方した.緑内障病型は原発開放隅角緑内障188例(80%),続発緑内障41例(17%),高眼圧症5例(2%),原発閉塞隅角緑内障3例(1%)だった.ブリモニジン点眼薬を追加した症例を追加群,1剤を中止しブリモニジン点眼薬に変更した症例を変更群,変更と追加あるいは2剤の追加を行った症例を変更追加群とした.年齢,投与前眼圧,投与前薬剤数,投与理由を3群間で比較し,さらに投与3カ月後,投与6カ月後の眼圧を投与前後で比較した.配合点眼薬は2剤として集計した.各群で,投与前,投与6カ月後までの脱落例を調査した.両眼該当例では右眼を解析に用いた.統計学的検討は3群間の年齢,投与前薬剤数,投与前眼圧の比較にはKruskal-Wallis検定,投与理由の比較にはc2検定,投与前後の眼圧の比較にはBonferroni/Dunn検定を用いた.有意水準はいずれもp<0.05とした.II結果各群の症例数は追加群159例(67%),変更群50例(21%),変更追加群28例(12%)だった.年齢は平均65.6歳,投与前薬剤数は平均2.3剤であった.年齢,投与前薬剤数は3群間に差がなかった.投与前眼圧は変更追加群が追加群,変更群に比べて有意に高値だった(p<0.01)(表1).追加群におけるブリモニジン点眼薬投与前の薬剤数は,3剤が67例と最多で全体の42%を占めていた(表2).変更群において,ブリモニジン点眼薬に変更した点眼薬は,配合点眼薬16例(トラボプロスト/チモロール配合点眼薬14例,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬1例,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬1例),炭酸脱水酵素阻害点眼薬14例(ブリンゾラミド9例,ドルゾラミド5例),b遮断点眼薬11例(持続性カルテオロール6例,イオン応答ゲル化チモロール4例,カルテオロール1例),プロスタグランジン関連点眼薬8例(イソプロピルウノプロストン2例,タフルプロスト2例,ラタノプロスト2例,トラボプロスト1例,ビマトプロスト1例),非選択制交感神経刺激点眼薬1例(ジピベフリン1例)だった(表3).ブリモニジン点眼薬の投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分が最多で,次に多かったのは追加群,追加変更群では視野障害進行が多く,変更群で副作用出現が多かった(表4).追加群の眼圧は,投与前18.2±5.0mmHg,投与3カ月後15.2±3.7mmHg,投与6カ月後15.6±3.7mmHgだった(図1).投与前と比較して,投与3カ月と6カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).変更群の眼圧は,投与前眼圧16.3±4.1mmHg,投与3カ月後15.2±4.2mmHg,投与6カ月後15.9±4.1mmHgだった(図2).投与前と比較して,投与3カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).変更追加群の眼圧は,投与前眼圧24.3±11.6mmHg,投与3カ月後17.8±9.3mmHg,投与6カ月後17.1±6.6mmHgだった(図3).投与前と比較して,投与3カ月と6カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).脱落例は27例(11.4%)だった.副作用出現が10例で,その内訳は,追加群でめまい4例,充血1例,変更群で搔痒感(アレルギー性結膜炎)2例,めまい1例,傾眠1例,変更追加群で霧視1例だった.副作用出現以外の脱落例は,来院中断3例,転医4例,対象期間内に白内障手術施行した1例,眼圧が下がらず途中で薬剤変更を行った9例(追加群7例,変更群2例)だった.III考按今回ブリモニジン点眼薬の処方パターンを後ろ向きに調査した.投与前薬剤数は平均2.3剤だったが,投与前薬剤数が2剤以上の症例が125例(79%),0剤や1例の症例も34例(21%)存在した.過去の多剤併用例にブリモニジン点眼薬を追加した報告6〜8)では投与前薬剤数は2.7〜3.0剤と今回よりも多かった.ブリモニジン点眼薬の投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分がもっとも多く,次に多かったのは追加群,追加変更群では視野障害進行,変更群では副作用出現であった.治療中に副作用が出現した際には,点眼薬の変更を行わざるをえないためと思われた.原発開放隅角緑内障における多剤併用療法に対するブリモニジン点眼薬追加投与による眼圧下降率は,Schwartzenbergら6)が7カ月間投与で16.7%,俣木ら7)が3カ月間投与で13.1%,森山ら8)が6カ月間投与で8.2%と報告している.今回の眼圧下降率は,追加群において投与3カ月後で14.4±17.6%,6カ月後で11.8±17.3%と過去の報告6〜8)と同様だった.対象症例のうち3剤以上使用していた症例が50%と半数を占め,多剤併用中の症例においても,ブリモニジン点眼薬の投与は眼圧下降効果が期待できる.林らはブリンゾラミド点眼薬をブリモニジン点眼薬へと変更した症例で,変更6カ月後の眼圧下降幅は2.3±3.0mmHgと報告した9).今回の変更例(50例)の眼圧下降幅は変更3カ月後1.2±2.0mmHg,変更6カ月後0.4±2.9mmHgだった.変更群では,追加群,変更追加群と比較し眼圧下降効果が低く,ブリモニジン点眼薬は変更投与するよりも,追加投与することでより眼圧下降が得られると思われた.ブリモニジン点眼薬の特徴的な副作用としては,アレルギー性結膜炎,めまい,傾眠などが報告されている3〜9).今回出現した副作用は,充血,めまい,搔痒感(アレルギー性結膜炎),傾眠,霧視で,これらは過去の報告3〜9)と同様だった.過去の,多剤併用療法へのブリモニジン点眼薬追加投与症例における副作用発現頻度は5.2%6),7.5%8),16.7%7)と報告されている.今回の副作用発現頻度は4.2%とやや低値だった.今回は後ろ向き調査のため,軽度の副作用が診療録に記載されていない可能性も考えられる.IV結論ブリモニジン点眼薬は多剤併用の眼圧下降効果不十分な原発開放隅角緑内障に追加投与されることが多い.多剤併用症例においても,追加投与や変更により,さらなる眼圧下降効果が期待できる.文献1)和田智之,BurkeJA,WheelerLA:ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)の特徴.医学と薬学67:547-555,20122)川瀬和秀:交感神経a1遮断薬,交感神経刺激薬,副交感神経作動薬.あたらしい眼科29:487-491,20123)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20124)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.臨眼69:499-503,20155)山本智恵子,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果.あたらしい眼科31:899-902,20146)SchwartzenbergGWS,BuysYM:Efficacyofbrimonidine0.2%asadjunctivetherapyforpatientswithglaucomainadequatelycontrolledwithotherwisemaximalmedicaltherapy.Ophthalmology106:1616-1620,19997)俣木直美,齋藤瞳,岩瀬愛子:ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科31:1063-1066,20148)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,20149)林泰博,林福子:ブリンゾラミド点眼よりブリモニジン点眼への変更後6カ月間における有効性と安全性.臨眼68:1307-1311,2014表1追加群,変更群,変更追加群の患者背景全症例追加群変更群変更追加群p値症例数2371595028─年齢(歳)65.6±13.965.0±14.667.0±12.666.5±12.60.7258投与前薬剤数2.3±1.02.3±1.02.4±1.02.0±1.30.5738投与前眼圧(mmHg)18.5±6.418.2±5.016.3±4.124.3±11.6*<0.01(Kruskal-Wallis検定)**表2追加群の投与前薬剤数(n=159)0剤5例(3%)1剤29例(18%)2剤46例(29%)3剤67例(42%)4剤10例(7%)5剤2例(1%)表3変更群の変更した点眼薬(n=50)配合点眼薬16例(32%)炭酸脱水酵素阻害点眼薬14例(28%)b遮断点眼薬11例(22%)PG関連点眼薬8例(16%)非選択性交感神経刺激薬1例(2%)表4投与理由追加群(n=159)変更群(n=50)変更追加群(n=28)眼圧下降効果不十分116例(73%)31例(62%)17例(61%)視野障害進行43例(27%)2例(4%)7例(25%)副作用出現0例(0%)17例(34%)4例(14%)図1追加群の眼圧図2変更群の眼圧図3変更追加群の眼圧〔別刷請求先〕砂川広海:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:HiromiSunagawa,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(123)10491050あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(124)(125)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610511052あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(126)

ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の点眼時間による眼圧下降効果の比較

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):455.459,2016cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の点眼時間による眼圧下降効果の比較武田暢生宇田川さち子東出朋巳大久保真司竹本裕子杉山和久金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学ComparisonofIntraocularPressure-reducingEffectofMorningvs.EveningDosingofLatanoprostandTimololNobuoTakeda,SachikoUdagawa,TomomiHigashide,ShinjiOhkubo,YukoTakemotoandKazuhisaSugiyamaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScienceラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)は1日1回点眼であるが,朝夜のいずれに点眼するのがより効果的か検討した.対象は,金沢大学附属病院眼科にて抗緑内障点眼薬治療を受けている原発開放隅角緑内障(広義)患者,高眼圧症患者25例25眼.1カ月以上の観察期間を経てザラカムR配合点眼液に変更し,計6カ月間の点眼を行った.ランダム割り付け表に従い,点眼時間帯を3カ月ごとに朝から夜へ,または夜から朝へと切り替える2群に割り付けた.朝・夜点眼期間終了時点の眼圧は,それぞれ,12.9±2.9mmHg,13.1±3.6mmHgであり,観察期間終了時の眼圧14.1±3.2mmHgからの変化量は,朝点眼と夜点眼とで有意差はなかった(p=0.7).同時に行ったアンケートでは,朝・夜点眼で有害事象に似た傾向がみられ,アドヒアランスは朝・夜点眼ともに良好だった.以上より,ザラカムR配合点眼液は,朝点眼も選択肢の一つになると考えられた.Weevaluatedtheefficacyofmorningversuseveningdosingoflatanoprostandtimolol(LTFC;XalacomR)in25patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhohadinstilledantiglaucomadropsforatleast1month,thenswitchedtoLTFC.TheywererandomizedtoeithermorningoreveningdosingofLTFCfor3months,thencrossedovertotheoppositeadministrationtimeschedulesforthenext3months.MeanIOPsattheendpointofmorningtreatmentwere12.9±2.9mmHg,and13.1±3.6mmHgofeveningtreatment.TherewasnosignificantdifferenceinIOPsfrombaselinebetweenthetwodosings(p=0.7).JudgingfromtheresultsofaquestionnairesurveyperformedatthetimeofIOPmeasurement,adherencewasgoodinbothmorningandeveningtreatment.ThisstudyrevealedthatmorningapplicationofLTFCoffersanotherchoiceforpatientswithglaucomaorocularhypertension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):455.459,2016〕Keywords:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液,眼圧,朝点眼,夜点眼,ランダム化クロスオーバー前向き比較試験.latanoprostandtimolol,intraocularpressure,morningdose,eveningdose,randomizedprospectivecrossovertrial.はじめにプロスタグランジン関連点眼薬とb遮断点眼薬の配合剤の点眼回数は1日1回であり,これらの併用と比較して,点眼回数を減らすことでアドヒアランスの向上が期待できる.これらの配合剤の効果的な点眼時間帯については,Takmazら1)は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)に関し,朝点眼と夜点眼を比較して夜点眼のほうが効果的であるとしているが,まだ定まった見解はない.そこで今回,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)について,朝と夜のいずれに点眼するのが効果的か,アドヒアランスや有害事象に関するアンケートとともにランダム化クロスオーバー前向き比較試験により検討した.〔別刷請求先〕武田暢生:〒920-8641金沢市宝町13番1号金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学Reprintrequests:NobuoTakeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa-shi,Ishikawa920-8641,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(125)455 実施期間評価項目ザラカム.単剤の点眼時間帯観察期間投薬(点眼)期間点眼中の点眼を継続眼圧測定アンケート眼圧測定アンケート眼圧測定アンケート1日1回朝点眼(AM8:00±2:00)1日1回朝点眼(AM8:00±2:00)1日1回夜点眼(PM8:00±2:00)1日1回夜点眼(PM8:00±2:00)1M~1M2M3M4M5M6Mザラカム.点眼なし実施期間評価項目ザラカム.単剤の点眼時間帯観察期間投薬(点眼)期間点眼中の点眼を継続眼圧測定アンケート眼圧測定アンケート眼圧測定アンケート1日1回朝点眼(AM8:00±2:00)1日1回朝点眼(AM8:00±2:00)1日1回夜点眼(PM8:00±2:00)1日1回夜点眼(PM8:00±2:00)1M~1M2M3M4M5M6Mザラカム.点眼なし*眼圧測定は10時±1時間に行う図1試験のアウトラインI対象および方法1.対象対象は,金沢大学附属病院眼科に外来通院中の患者のうち,プロスタグランジン関連点眼薬単剤,プロスタグランジン関連点眼薬と他の点眼薬の2剤併用療法,またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液以外の配合点眼薬で1カ月以上治療している原発開放隅角緑内障(広義)患者,高眼圧症患者である.試験組み入れ時での眼圧測定値が21mmHg以下,3カ月以内に測定したHumphrey自動視野計中心30-2または24-2Swedishinteractivethresholdalgorithm(SITA)standardにて,meandeviation(MD)値が.10dB以上の20.75歳を対象とした.両眼とも基準を満たす場合は,試験組み入れ時の眼圧の高い眼を,左右の眼圧が同じ場合は右眼を対象とした.2.方法同意取得後に,1カ月以上の観察期間を設け,その間は点眼中の点眼薬を継続とした.その後,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬へと変更し,6カ月間点眼を行った.試験デザインは単盲検,ランダム化クロスオーバー前向き比較試験とし,既定の割り付け表にしたがって,3カ月ごとに点眼時間帯を朝(午前8時±2時間)から夜(午後8時±2時間)へ,または夜から朝へと切り替える2群に割り付けた.ベースライン(観察期間終了時点),朝点眼期間終了時点,夜点眼期間終了時点の眼圧を,それぞれ外来受診時にGoldmannapplanationtonometer(GAT)にて測定し,同時に,有害事象,点眼アドヒアランスに関するアンケートを実施した(図1).眼圧の測定時間は,日内変動の影響を避けるため,午前10時±1時間とした.朝点眼期間終了時点と夜点眼期間終了時点の眼圧を,それぞれベースライン眼圧からの変化量で比較した.検定には対応のあるt検定を用い,p<0.05を統計学的有意とした.本研究は,金沢大学医学倫理審査委員会で承認され,対象456あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016患者に本研究の主旨および内容を説明し,書面による同意を得て施行した.また,本研究は,2013年7月25日UMIN臨床試験に登録された(UMIN000011275).II結果25例25眼が解析の対象となった.内訳は,男性14例,女性11例,平均年齢は55.3±11.9歳だった.また,原発開放隅角緑内障患者(広義)が20例,高眼圧症患者が5例だった.使用していた抗緑内障点眼薬は,プロスタグランジン関連点眼薬単剤が20例,プロスタグランジン関連点眼薬と他の点眼薬の2剤併用が5例(併用点眼薬は5例ともb遮断薬)であり,配合点眼薬を使用している患者はいなかった.ベースラインでの平均眼圧は14.1±3.2mmHgであった(表1).朝・夜点眼期間終了時点の眼圧は,それぞれ,12.9±2.9mmHg,13.1±3.6mmHgであり(表2),ベースラインからの眼圧変化量は,朝点眼(.1.2±2.4mmHg)と夜点眼(.1.1±2.2mmHg)とで有意差はなかった(p=0.7)(表3).また,個々の患者に対して,朝点眼での眼圧と夜点眼での眼圧の差を検討したが,朝点眼のほうが3mmHg以上眼圧が高かった患者と,夜点眼のほうが3mmHg以上眼圧が高かった患者がともに3例であったのに対し,朝・夜点眼の眼圧差の大きさが3mmHg未満となった患者が19例と多数(76%)を占めた.アンケート結果を表4に示す.点眼を忘れたことがあるかという質問に対して,忘れたことはないと答えた人は,朝点眼期間後で16例,夜点眼期間後で13例であり,朝点眼のほうが3例多かった.逆に,だびたび忘れると答えた人は,朝点眼期間後で9例,夜点眼期間後で12例であり,夜点眼のほうが3例多かった.被験者別のデータをみてみると,朝点眼のときに“忘れたことはない”と答えた同一の3人の被験者が,夜点眼に切り替わって,“たびたび忘れる”と答えており,夜点眼のときにのみ“忘れたことはない”と答えた被験者はいなかった.現在の点眼を続けたいかという質問に(126) 表1患者の背景関しては,続けたいと答えた人は朝点眼で16例,夜点眼で患者数25例15例であった.また,1日の点眼回数(1回)は満足してい性別るかという質問に関して,満足していると答えた人は,朝・男性14例(56%)夜点眼期間後でそれぞれ21例,20例と朝・夜点眼で差はな女性11例(34%)く,多数(84%,80%)を占めた.点眼しやすい回数につい年齢55.3±11.9歳(33.75歳)ても,1日1回と答えた人が各時点とも多数を占めた.気に視力1.18±0.07(1.1.2)なった有害事象に関する複数回答のアンケートでは,朝・夜HFA30-2または24-2MD.3.8±2.8dB(1.3..9.6dB)点眼期間とも,眼がしみると答えた人が14例と最多であり,ベースライン眼圧14.1±3.2mmHg(9.21mmHg)眼の充血と答えたものはそれぞれ5例,3例,眼がゴロゴロ病型原発開放隅角緑内障(広義)20例(80%)表2各測定時点の眼圧高眼圧症5例(20%)使用薬剤ベースライン朝点眼期間後夜点眼期間後PG関連点眼薬単剤20例(80%)14.1±3.2mmHg12.9±2.9mmHg13.1±3.6mmHgPG関連点眼薬と他の5例(20%)点眼薬の2剤併用(併用薬剤はすべてb遮断薬)表3ベースラインからの眼圧変化量朝点眼期間後の眼圧変化量夜点眼期間後の眼圧変化量p値(t検定).1.2±2.4mmHg.1.1±2.2mmHg0.7表4アンケート結果(例)観察期間後朝点眼期間後夜点眼期間後点眼を忘れたことがあるか忘れたことはない14(56%)16(64%)13(52%)たびたび忘れる11(44%)9(36%)12(48%)ほとんど忘れている0(0%)0(0%)0(0%)いつも忘れている0(0%)0(0%)0(0%)現在の点眼治療を続けたいか続けたい.16(64%)15(60%)たぶん続ける.8(32%)8(32%)続けたくない.1(4%)2(8%)1日の点眼回数(1回)は満足しているか満足している17(68%)21(84%)20(80%)やや満足している6(24%)3(12%)3(12%)満足していない2(8%)1(4%)2(8%)点眼しやすい回数は何回か1日1回22(88%)24(96%)23(92%)1日2回2(8%)0(0%)1(4%)1日3回0(0%)0(0%)0(0%)1日4回1(4%)1(4%)1(4%)点眼を開始して気になった有害事象(複数回答)眼の充血.5(20%)3(12%)眼がゴロゴロする.3(12%)4(16%)眼がしみる.14(54%)14(54%)眼がかゆくなる.1(4%)2(8%)睫毛が伸びる.1(4%)0(0%)眼の下が黒くなる.2(8%)3(12%)(127)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016457 すると答えたものは,それぞれ3例,4例であった.III考按プロスタグランジン関連点眼薬のラタノプロストは,ぶどう膜強膜流出路からの房水流出量を増加させることによって優れた眼圧下降効果を示すが2),朝点眼よりも夜点眼のほうが眼圧の日内変動幅を減少させるため,有利であるとされる3).一方,b遮断薬であるチモロールマレイン酸点眼薬は,房水産生を抑制することで眼圧下降作用を示すが4),夜間はb受容体の活性が低下し房水量が減少するため,1日1回点眼である持続性のb遮断薬は朝に点眼することが一般的であり,1日に2回点眼するその他のb遮断薬も夜間より朝から日中の効果が高いとされている5).これらの配合点眼薬については,朝夜のいずれに点眼するのが効果的か,結論は出ていないが,Takmazら1)は,30例60眼の原発開放隅角緑内障患者を朝点眼群と夜点眼群に分け,4週間点眼後の眼圧日内変動を比較し,夜点眼群のほうが,朝から日中の眼圧が有意に低く,日内変動幅も小さいと報告している.また,Konstasら6)は,36例の原発開放隅角緑内障,高眼圧症の患者を対象としたラタノプロストとチモロールマレイン酸点眼薬の併用療法に関して,朝・夜点眼での眼圧日内変動を比較した結果,夜点眼のほうが朝6時の眼圧が有意に低いものの,日中の眼圧に有意差はみられないとしている.同じくプロスタグランジン関連点眼薬とb遮断点眼薬の合剤であるトラボプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液に関しては,Denisら7)は,朝点眼と夜点眼で眼圧下降効果に差はないとしているが,Konstasら8)は,夜点眼のほうが効果的であるとしている.また,石田ら9)は,トラボプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の夜点眼と朝点眼で眼圧下降効果に有意差はなかったが,配合点眼薬に切り替える前の眼圧と切り替え後の眼圧の比較では,朝点眼で有意に眼圧が上昇したのに対して夜点眼では有意差がなかったことから,夜点眼のほうがやや効果的であったと報告している.これらの研究結果を踏まえ,現在,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液は,夜点眼が推奨されている.しかし,本研究では,原発開放隅角緑内障患者,高眼圧症患者を対象としたランダム化クロスオーバー前向き比較試験によって,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の朝点眼と夜点眼では,朝の眼圧下降効果に有意差はみられなかった.眼圧の測定値には日内変動があるため,異なる時間帯での眼圧下降効果の比較は困難であるが,本研究の眼圧測定時刻は10時±1時間であり,同じくラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の朝・夜点眼の比較を行い,夜点眼群のほうが朝から日中の眼圧が有意に低いとしたTakmazら1)の報告とは異なる結果となった.458あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016Takmazら1)の報告と異なる要因としては,Takmazら1)の研究は並行群間試験であり,本研究とは試験デザインが異なることが影響した可能性が考えられた.並行群間試験は異なる被験者間の比較であるため,被験者間のばらつきによる誤差がある.本研究は,クロスオーバー試験であり,個人内の朝夜点眼の比較が可能であった.ただ,クロスオーバー試験の場合は,持ち越し効果(carry-overeffect)を生じる可能性があるため,2つの治療期間の間に十分な休薬期間(washoutperiod)をおかないと結果にバイアスがかかる危険性がある.ラタノプロストとチモロールマレイン酸配合点眼液の併用療法を比較したKonstasら6)の研究は,2週間の休薬期間を設定している.本研究では,朝点眼と夜点眼の間に休薬期間を設けなかったが,それぞれの点眼を3カ月間行った後に眼圧の測定を行ったため,持ち越し効果の影響を回避するには十分であったと考えられた.その他の要因として,対象疾患の違いも考えられる.Takmazら1)は,対象を原発開放隅角緑内障患者としたのに対して,本研究は開放隅角緑内障患者(広義)と高眼圧症患者とした.無治療の高眼圧症患者と緑内障患者の眼圧日内変動の比較を行ったGrippoら10)の研究では,姿勢にかかわらず高眼圧症患者,緑内障患者ともに,よく似た眼圧日内変動パターンを示すことが報告されているものの,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の眼圧下降効果に関して,高眼圧症患者と緑内障患者を比較した報告はまだなく,対象の違いが結果に影響した可能性も否定はできない.なお,本研究は異なる時間帯での眼圧測定は行っていないため,朝・夜点眼の眼圧日内変動への影響を検討することはできなかった.しかし,Asraniら11)の報告によると,日中の眼圧日内変動の幅が大きいほど視野進行が速いことが知られており,朝・夜点眼の違いが眼圧日内変動パターンや変動幅に影響し,緑内障視野障害の進行を左右する可能性もある.いまだ眼圧日内変動を考慮した同一被験者によるラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の朝夜点眼を比較したクロスオーバー試験は実施されておらず,今後検討が必要と思われる.朝・夜点眼の違いがアドヒアランスに与える影響に関しては,石田ら9)は,時間的余裕から夜点眼を希望するものが多数だったと報告しているが,この研究ではアドヒアランスに関する直接的なアンケートは実施されていない.本研究で行ったアンケートでは,朝点眼のときには忘れたことがないと答えていたのに,夜点眼に切り替わってたびたび忘れると答えた人が25人中3人おり,その逆のケースはなかった.このことから,夜点眼は朝点眼に比べてアドヒアランスが良好とはいえないと考えられた.緑内障は長期間の治療継続が必要となる慢性疾患であるため,アドヒアランスの違いが長期的な眼圧コントロールや予後に影響を与える可能性があり,(128) アドヒアランスへの影響も無視できない.点眼回数に関しては,1日1回点眼は,朝夜点眼にかかわらず満足度が高く,合剤による利点の一つと考えられた.以上,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液は,朝夜点眼で午前の眼圧下降効果は同等であり,アドヒアランスは夜点眼も朝点眼もともに良好であることから,従来の夜点眼の推奨にとらわれず,朝点眼も選択肢の一つになると考えられた.利益相反:杉山和久(カテゴリーF:ファイザー株式会社)文献:1)TakmazT,A.ikS,Kurkcuo.luPetal:Comparisonofintraocularpressureloweringeffectofoncedailymorningvseveningdosingoflatanoprost/timololmaleatecombination.EurJOphthalmol18:80-85,20082)NilssonSFE,SamuelssonM,BillAetal:IncreaseduveoscleraloutflowasapossiblemechanismofocularhypotensioncausedbyprostaglandinF2a-1-isopropylesterinthecynomolgusmonkey.ExpEyeRes48:707-716,19893)KonstasAG,MaltezosAC,GandiSetal:Comparisonof24-hourintraocularpressurereductionwithtwodosingregimensoflatanoprostandtimololmaleateinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol128:15-20,19994)HoyngPF,RuloA,GreveEetal:Theadditiveintraocularpressure-loweringeffectoflatanoprostincombinedtherapywithotherocularhypotensiveagents.SurvOphthalmol41(Suppl2):93-98,19975)TopperJE,BrubakerRF:Effectsoftimolol,epinephrine,andacetazolamideonaqueousflowduringsleep.InvOphthalmolVisSci26:1315-1319,19856)KonstasAG,NakosE,TersisIetal:AComparisonofonce-dailymorningvseveningdosingofconcomitantlatanoprost/timolol.AmJOphthalmol133:753-757,20027)DenisP,AndrewR,WellsDetal:Acomparisonofmorningandeveninginstillationofacombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolution.EurJEophthalmol16:407-415,20068)KonstasAG,TsironiS,VakalisANetal:Intraocularpressurecontrolover24hoursusingtravoprostandtimololfixedcombinationadministeredinthemorningoreveninginprimaryopen-angleandexfoliativeglaucoma.ActaOphthalmol87:71-76,20099)石田理,杉山哲也,植木麻理ほか:抗緑内障配合点眼液の朝点眼と夜点眼による効果の比較.あたらしい眼科29:975-978,201210)GrippoTM,LiuJH,ZebardastNetal:Twenty-fourhourpatternofintraocularpressureinuntreatedpatientswithocularhypertension.InvOphthalmolVisSci54:512-517,201311)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientswithglaucoma.JGlaucoma9:134142,2009***(129)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016459