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線維柱帯切開術を施行したDown症候群を伴う発達緑内障の1例

2016年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(1):133.139,2016c線維柱帯切開術を施行したDown症候群を伴う発達緑内障の1例小澤由明*1,2東出朋巳*1杉山能子*1杉山和久*1*1金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学*2南砺市民病院眼科TrabeculotomyinaCaseofDevelopmentalGlaucomawithDownSyndromeYoshiakiOzawa1,2),TomomiHigashide1),YoshikoSugiyama1)andKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,2)DepartmentofOphthalmology,NantoMunicipalHospital目的:まれなDown症候群を伴う発達緑内障に対し線維柱帯切開術を施行した1例を経験したので報告する.症例:生後6カ月,女児.抗緑内障薬物治療に抵抗性を示し角膜浮腫を伴っていた.全身麻酔下検査で眼圧は右眼34mmHg,左眼33mmHg,陥凹乳頭径比は両眼0.7,角膜径は両眼13mm,隅角検査で虹彩高位付着を認めた.両眼に線維柱帯切開術を施行後,両眼とも角膜浮腫は消失し陥凹乳頭径比は0.3に改善した.術後111カ月間の測定眼圧は,薬物治療の追加なしで両眼12mmHg程度に安定した.中心角膜厚は両眼400μm以下,眼軸長は両眼25mm以上であった.考察と結論:Down症候群を伴う両眼の発達緑内障に対し線維柱帯切開術が長期に奏効している.角膜が菲薄化し強度近視になったのは,乳児期の高眼圧だけでなくDown症候群に伴う膠原線維異常が関与した可能性がある.Purpose:WereportararecaseofdevelopmentalglaucomawithDownsyndromethatreceivedtrabeculotomy.Case:A6-month-oldfemalewithDownsyndromeandbilateralcornealedemawasresistanttoanti-glaucomatousmedicaltherapy.OcularexaminationundergeneralanesthesiashowedIOP(intraocularpressure)R.E.:34mmHg,L.E.:33mmHg;cup-to-discratio0.7andcornealdiameter13mm;gonioscopyrevealedanterioririsinsertionsineacheye.Aftertrabeculotomyonbotheyes,cornealedemadisappeared,andcup-to-discratioreducedto0.3.For111monthssincesurgery,measuredIOPshavebeenmaintainedaround12mmHgineacheyewithoutmedication.Centralcornealthicknesshasremainedlessthan400μmandaxiallengthhasexceeded25mmineacheye.Discussion:TrabeculotomyhasbeensuccessfulfordevelopmentalglaucomawithDownsyndromeforalongterm.Thinnercorneaandhighmyopiaarepossiblytheresultnotonlyofocularhypertensionduringinfancy,butalsoofcollagenfiberabnormalityinassociationwithDownsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):133.139,2016〕Keywords:ダウン症候群,発達緑内障,線維柱帯切開術,眼圧,中心角膜厚.Downsyndrome,developmentalglaucoma,trabeculotomy,intraocularpressure,centralcornealthickness.はじめに発達緑内障は,胎生期における前房隅角の形成異常が原因で眼圧上昇をきたす緑内障で,早発型,遅発型と他の先天異常を伴う発達緑内障の3型に分類される1).早発型は,生後早期からの高度な眼圧上昇に伴って,角膜浮腫・混濁,Haab’sstriae(Descemet膜破裂)を認めるだけでなく,組織柔軟性に起因した眼軸長の伸長,角膜径の増大,角膜厚の菲薄化などの特徴的な所見を示す2).遅発型は前房隅角の形成異常が軽度なために3.4歳以降に初めて眼圧上昇を認めるため,早発型のような特徴的な徴候を欠き,視野進行を認めるまで気づかれないことが多く,成人になってから発症することさえある3).他の先天異常を伴う発達緑内障には,無虹彩症,Axenfeld-Rieger症候群,Peters奇形,SturgeWeber症候群,神経線維腫症,PierreRobin症候群,Rubinstein-Taybi症候群,Lowe症候群,Stickler症候群,先天小角膜,先天風疹症候群などがあり,発達緑内障のほか〔別刷請求先〕小澤由明:〒920-8641金沢市宝町13番1号金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学Reprintrequests:YoshiakiOzawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(133)133 に特徴的な眼合併症を伴う3,4).発達緑内障は約80%が生後1年以内に診断され3,5,6),発症頻度は国や人種によって差があるが,わが国では早発型と遅発型を合わせたものが約11万人に1人,Peters奇形が約40万人に1人,AxenfeldRieger症候群とSturge-Weber症候群がそれぞれ約60万人に1人,無虹彩症と角膜ぶどう腫が各々約121万人に1人との報告5)がある.Down症候群に緑内障が合併する頻度ついては,わが国で0%との報告7)があり,海外でも多くの報告が1%以下であるとしている8.12).しかし一部に6.7%(4人)13),5.3%(10人)14),1.9%(3人)15)という報告もあるので緑内障の合併には注意が必要であるが,Down症候群児の出生が600.800人に1人であることから,発症率は0.01%以下と推定される.一方,Down症候群に伴う眼合併症には,瞼裂異常,屈折異常,眼球運動障害,涙道疾患,白内障のほか,円錐角膜16,17)やBrushfield斑17,18)といった膠原線維異常に起因した所見の報告が多い7.17)が,緑内障の合併はまれなこともあり,前述の疫学調査に含まれた症例のほかに症例報告がわずかにあるのみである.一般的に,発達緑内障は薬物療法に抵抗性を示し,眼球成長期の持続的な高眼圧が視機能障害の原因となるため,診断後早急に手術加療する必要がある3,4).視機能障害として,強度軸性近視のほか,菲薄化した角膜も術後の眼圧管理において注意すべき問題である.今回筆者らは,Down症に伴う両眼性の発達緑内障というまれな症例に対し,生後早期の線維柱帯切開術が奏効し,長期に良好な経過が得られている1例を経験したので報告する.I症例患児:6カ月,女児.家族歴:特記事項なし.現病歴:2005年6月20日,在胎38週,体重3,242gで出生した.生後1カ月検診でDown症候群を指摘され,眼科的精査のため同年10月19日に前医へ紹介された.軽度の筋緊張低下と巨舌を認めたが,心疾患や白血病などの重大な全身合併症は認めなかった.両眼に角膜浮腫および角膜混濁を認め眼圧が32.57mmHgであったため,0.5%チモロ上方左眼下方右眼図1全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の前眼部写真手術顕微鏡での前眼部観察のため上方が足側で下方が頭側,左側が右眼で右側が左眼である.下段はスリット照明による観察.両眼に軽度の角膜浮腫を認める.134あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(134) 図2全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の隅角写真右眼下方の隅角.虹彩高位付着と一部に虹彩突起を認める.図4全身麻酔下検査時(2007年9月11日,2歳2カ月,術後19カ月)の左眼散瞳下検査上耳側の水晶体に混濁を認めた.手術顕微鏡での観察のため倒像.ール両眼2回を処方されたが,その後の眼圧も右眼39mmHg,左眼28mmHgと高値のため,2006年1月11日に金沢大学附属病院眼科へ紹介された.初診時所見:トリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下で,眼圧は右眼32mmHg,左眼24mmHg(トノペンR)であった.手持ち細隙灯顕微鏡検査では,右眼に角膜浮腫・混濁を認め,左眼は角膜清明で,両眼とも前房は深く前房内に炎症所見は認めなかった.眼底検査では,両眼とも視神経乳頭に同心円状陥凹(陥凹乳頭径比0.7)を認めた.経過:乳幼児への安全性を考慮し,当科初診時に0.5%チモロール両眼2回をイソプロピルウノプロストン両眼2回とプリンゾラミド両眼2回に変更したうえで,2006年2月21日(生後8カ月)に全身麻酔下での眼科的精査を施行した.(135)図3全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の超音波生体顕微鏡検査上段が右眼耳側,下段が左眼下側の隅角.両眼とも虹彩の平坦化および菲薄化を認め,前房深度は深く,隅角は開大している.毛様体の扁平化と角膜の菲薄化も認める.眼圧は,右眼34mmHg,左眼33mmHg(トノペンR)で,両眼とも軽度の角膜浮腫を認めた(図1).両眼の角膜径は13×13mm(横径×縦径),中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)は,右眼468μm,左眼504μm,隅角所見では虹彩高位付着を認めた(図2).超音波生体顕微鏡では,前房深度が深く虹彩が平坦化(図3)していた.眼底所見は,両眼とも視神経乳頭に同心円状陥凹を認め,陥凹乳頭径比は両眼とも0.7であった.非散瞳下では中間透光体に明らかな異常は認めなかった.以上の所見から手術加療が必要と判断し,全身麻酔下検査に引き続き両眼の線維柱帯切開術を施行した.手術は右眼,左眼の順に施行した.手術手技:両眼とも同様に,①円蓋部基底で結膜切開し,②12時の強膜を止血して4×4mmの2重強膜弁を作製した後,③Schlemm管を開放し,④両側に径15mmのトラベクロトームを挿入後,⑤ゴニオプリズムでトラベクロトームの位置を確認して回転・抜去し,⑥深層弁を切除して浅層弁を10-0ナイロンRで2糸縫合後,結膜縫合した.術後経過:術後10日目のトリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下での眼圧は,眼圧下降薬を使用することなく両眼15mmHg(トノペンR)であり,角膜浮腫も消失していた.あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016135 図5全身麻酔下検査時(2007年9月11日,2歳2カ月,術後19カ月)の右眼視神経乳頭手術顕微鏡下でスリット照明と硝子体レンズを使用して観察(倒像).手術時と比較し陥凹乳頭径比が0.3に減少していた.051015202530354045-1012345678910眼圧(mmHg)右眼(mmHg)左眼(mmHg)術後年数(year)図7眼圧経過生後246日,全身麻酔下で精査後,両眼TLO施行.術前までは,イソプロピルウノプロストンとプリンゾラミドを点眼していたが,術後より111カ月間,眼圧下降薬の点眼なしで,右11.6±3.0mmHg,左11.8±3.2mmHgを維持している.矢印:両眼トラベクロトミー施行,術後は両眼に眼圧下降薬の追加はしていない.その後も催眠鎮静下での測定眼圧は良好のまま経過し,外来通院にて経過観察を継続した.2007年9月11日(2歳2カ月,術後19カ月)に再び全身麻酔下で精査を行ったところ,角膜径は,右眼12.5mm(横径),左眼12.5mm(横径)と角膜径の増大は認めなかった.CCTは,右眼363μm,左眼369μmであり,術前に認めた角膜浮腫の影響がなくなったことで著明な菲薄化が確認された.眼軸長は右眼24.76mm,左眼24.80mm,屈折値は右136あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016図6眼底写真(2012年10月4日,7歳3カ月,術後79カ月)上段が右眼,下段が左眼の視神経乳頭写真.右眼陥凹乳頭径比はさらに減少した.眼:.11.50D(cyl.0.75DAx75°,左眼:.10.00D(cyl.3.00DAx90°(トロピカミド+フェニレフリン塩酸塩による調節麻痺下)と強度の軸性近視が認められた.この時期のTAC(TellerAcuityCards)による両眼視力は(0.02)であったため,屈折矯正眼鏡による弱視治療を開始した.また,左眼の瞳孔領から離れた白内障(図4)以外には,両眼とも中間透光体に明らかな異常は認めなかった.全身麻酔下の眼圧は,右眼10mmHg,左眼11mmHg(トノペンR)であり,陥凹乳頭径比は両眼0.3(右眼:図5)に減少していた.2010年11月4日(5歳4カ月,術後56カ月)に再び施行した全身麻酔下での精査では,角膜径は右眼12.5mm(横径),左眼12.5mm(横径)と変化は認めず,CCTは右眼395μm,左眼373μm,眼軸長は右眼25.62mm,左眼26.26mmであった.2012年10月4日(7歳3カ月,術後79カ月)に,トリク(136) ロホスナトリウムによる催眠鎮静下で検査を施行し,眼圧は右眼11mmHg,左眼12mmHg,陥凹乳頭径比は0.3であった(図6).この時期の屈折値は右眼:.12.00D(cyl.2.00DAx90°,左眼:.9.00D(cyl.1.00DAx90°(シクロペントレート調節麻痺下)であった.発達遅延のためLandolt環による視力検査はできなかったが,絵視標によるこの時期の視力は,VD=(0.1),VS=(0.1)であった.最終観察時である2015年6月4日(9歳11カ月,術後111カ月)にトリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下で施行した検査では,眼圧が右眼12mmHg,左眼12mmHg,陥凹乳頭径比は0.3のままであった.この時期の屈折値は右眼:.12.50D(cyl.3.00DAx90°,左眼:.11.00D(シクロペントレート調節麻痺下)であった.絵視標によるこの時期の視力は,VD=(0.15),VS=(0.15)であった.術後111カ月間の眼圧は,眼圧下降薬の使用なしで,右眼11.6±3.0mmHg,左眼11.8±3.2mmHg(トノペンRおよびicareR)に安定していた(図7).II考按Down症候群は,21番染色体のトリソミーを呈する常染色体異常症で,わが国でも出生600.700人に対し1人と発症頻度が高く,多彩な全身合併症17)が知られており,眼合併症状も多岐にわたる7.17).緑内障の合併に関して,LizaSharminiらが6.7%(4例)と報告13)しているが,彼らの報告のなかの4例のうち,2例は発達緑内障,1例は緑内障疑い,1例は慢性ぶどう膜炎に伴う続発性緑内障であったと考察で述べている.Caputoらは5.3%(10例)と報告14)しているが詳細は不明であり,他の疫学調査報告8.10,12,15)も発達緑内障と記載されているものもあるが詳細不明である.一方で所見や治療経過などについて書かれた症例報告は,筆者らが調べた限りでは,Down症候群以外の先天異常を合併しないものでは,Traboulsiらの5症例の報告19),白柏らの1症例の報告20),McClellanらの1症例の報告21),およびJacobyらの1症例の報告22)のみである.しかし,McClellanらの症例は47歳で発症した毛様体ブロック緑内障,Jacobyらの症例は42歳で発症した悪性緑内障であり,どちらも発達緑内障ではない.また,Down症候群以外の先天異常も伴うものでは,Rieger奇形を伴っていたDarkらの報告23)と,ICE症候群を伴っていたGuptaらの報告24)があるが,どちらの報告もDown症候群ではないほうの先天異常に特徴的な所見が原因で緑内障を発症している.筆者らの症例のように,Down症候群以外の先天異常を伴わない発達緑内障であるTraboulsiらの5症例と白柏らの1症例について以下で比較検討してみる.なお,本症例を含め全症例でステロイド治療歴はない.隅角所見については,Traboulsiらの報告では1症例での(137)みで記載されており,両眼に虹彩根部からSchwalbe線に至る半透明膜を認め,右眼に線維柱帯から虹彩根部に伸びる白い虹彩歯状突起を認めたと記されている.また,白柏らの症例では右眼の虹彩高位付着と色素沈着と記されている.筆者らの症例も両眼の虹彩高位付着であった.治療に関して,Traboulsiらの症例は,4例が両眼でgoniotomyを施術され,1例が両眼でトラベクロトミーを施術されてすべて有効であったと記されている.白柏らの症例は,右眼のみの発症でND:YAGレーザー隅角穿刺術とbブロッカー点眼でいったん眼圧は正常化したが,再び上昇してトラベクロトミーを施術され,その後は緑内障点眼なしで経過良好であったと記されている.筆者らの症例もトラベクロトミーが奏効した.したがって,Down症候群の隅角異常は染色体異常との因果関係は不明だが,隅角所見と手術成績から他の発達緑内障と共通するものと考えられる.Catalanoはその希少性から染色体異常とは無関係に発症するものと考えている17).角膜厚について,Down症候群児では正常小児のCCT(500.600μm程度)より50μm程度薄いことが知られているが25,26),本症例での術後19カ月でのCCT(右眼363μm,左眼369μm)は,Down症候群児のCCTの平均値(約490μm)と比べて約25%も菲薄化していた.Traboulsiらの報告も白柏らの報告も角膜厚についての記載はなかった.薄い角膜厚によって眼圧測定値が過小評価されることが報告されており,角膜厚による眼圧補正に関して,Kohlhaasら27)が前房カニューラとGoldmann眼圧計を用いて導いた健常成人に対する眼圧補正回帰式ΔIOP=(.0.0423×CCT+23.28)mmHgを報告している.これによると,CCTが550μmよりも100μm薄いと約4mmHg眼圧が低く測定されることになる.しかし,これはCCTが462.705μmの範囲で決められたものであるうえ,Down症候群児では角膜性状が健常児と同等とは限らず,本症例に適用することはできない(本症例ではさらに眼圧測定にトノペンRおよびi-careRを使用した).したがって,先天異常を伴う発達緑内障では,角膜性状が先天異常の種類によってもまたDown症候群児間でも同等とは限らず,角膜厚もさまざまであるので,眼圧測定値を過去の文献データなどとは単純には比較できず,病状管理には眼圧以外の指標も重要である.本症例では,術後の乳頭陥凹の回復28)が維持されていたことから,術後の眼圧コントロールは良好であったと考えられる.白柏らの症例は20歳で発見された片眼の症例であるが,術後に乳頭陥凹が回復したことを乳頭形状立体解析装置(TopconIMAGEnet)によって証明している.乳頭陥凹の回復に関しては健常成人での報告もあり29,30),組織柔軟性が高い小児では陥凹乳頭径比が眼圧コントロールのよい指標である.しかし,早発型発達緑内障の術後で乳頭陥凹を認めない場合でも著明な眼軸伸長を認めた症例を松岡らが報告31)しており,眼軸長にも注あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016137 意が必要である.本症例では,2歳2カ月(術後19カ月)での眼軸長が25mm弱と,健常児の21.22mm32)に比べると3mm程度も長く,等価球面度数で.11.00D以上の強度軸性近視となっていた.Down症候群児に屈折異常が多いことは数多く報告されているが7.15,33),わが国において,富田らの報告では,健常児と同様に遠視が多いことが示されている一方で近視側には幅広い分布を示すことが示されており,.6D以上の強度近視が4.0%,そのうち.10D以上の強度近視も413眼中12眼(2.9%)に認めたと記されている7).また,伊藤らの報告も同様の傾向を示しており,.6.0D以上の強度近視が278眼中6眼(2.2%)に認めたと記されている33).彼らの報告にはどちらも緑内障の合併例はない.一方,発達緑内障を合併したDown症候群では,Traboulsiらの症例5例10眼中4例7眼が.8.00D以上の強度近視であった.したがって,Down症候群児では何らかの近視化要因があるために,早発型の発達緑内障を合併すると高眼圧による眼球伸展によってより高度の近視となる可能性がある.その機序として,薄い角膜,円錐角膜やBrushfield斑に関連する膠原線維異常が強膜にも存在し,眼圧負荷による眼球伸展が起こりやすいことが示唆される.本症例では,眼圧下降後の2歳2カ月(術後19カ月).5歳4カ月(術後57カ月)の38カ月間での眼軸伸長は,右眼で+0.86mm,左眼で+1.46mmであった.健常児の成長曲線31)によるとこの年齢では約+0.7±0.9mm(平均±標準偏差)の眼軸伸長があることから,本症例での眼軸伸長は健常児の2標準偏差以内にあり,眼軸伸長から推測すると眼圧経過は良好であったと考えられる.一方,弱視治療開始前の最高両眼視力(0.02)(TACで両眼視力しか測定できず)に対し,弱視治療開始から最終観察時までの絵視標による視力は,VD=(0.15),VS=(0.15)と向上していたが,こうした高度の軸性近視は弱視だけでなく網膜.離のリスクも高くなるので,強度近視に伴う眼底疾患にも注意が必要である.前述のTraboulsiらの5症例の報告では,強度近視の4例中,長期に経過観察できた2例が最終的には網膜.離により高度の視力障害を残したと記されている19).おわりに今回筆者らは,Down症候群を伴う両眼性の発達緑内障というまれな症例に対し,生後早期の線維柱帯切開術が奏効し10年という長期にわたり良好な経過が得られている1例を報告し,現在も経過観察中である.Down症候群では膠原線維異常も認められるが,1歳未満の急激な眼球成長期における高眼圧曝露が角膜の菲薄化と強度軸性近視を残したと考えられるため,できる限り早期に眼圧を正常化し,こうした視機能障害を軽減させることが重要である.138あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌116:1-46,20122)HenriquesMJ,VessaniRM,ReisFAetal:Cornealthicknessincongenitalglaucoma.JGlaucoma13:185-188,20043)前田秀高,根木昭:小児緑内障.眼科43:895-902,20014)勝島晴美:先天緑内障の治療.臨眼56:241-244,20025)滝沢麻里,白土城照,東郁郎:先天緑内障全国疫学調査結果(1992年度).あたらしい眼科12:811-813,19956)BardelliAM,HadjistilianouT,FrezzottiR:Etiologyofcongenitalglaucoma.Geneticandextrageneticfactors.OphthalmicPaediatrGenet6:265-270,19857)富田香,釣井ひとみ,大塚晴子ほか:ダウン症候群の小児304例の眼所見.日眼会誌117:749-760,20138)RoizenNJ,MetsMB,BlondisTA.:OphthalmicdisordersinchildrenwithDownsyndrome.DevMedChildNeurol36:594-600,19949)WongV,HoD:OcularabnormalitiesinDownsyndrome:ananalysisof140Chinesechildren.PediatrNeurol16:311-314,199710)KimJH,HwangJM,KimHJetal:CharacteristicocularfindingsinAsianchildrenwithDownsyndrome.Eye(Lond)16:710-714,200211)FimianiF,IovineA,CarelliRetal:IncidenceofocularpathologiesinItalianchildrenwithDownsyndrome.EurJOphthalmol17:817-822,200712)CreavinAL,BrownRD:OphthalmicabnormalitiesinchildrenwithDownsyndrome.JPediatrOphthalmolStrabismus46:76-82,200913)Liza-SharminiAT,AzlanZN,ZilfalilBA:OcularfindingsinMalaysianchildrenwithDownsyndrome.SingaporeMedJ47:14-19,200614)CaputoAR,WagnerRS,ReynoldsDRetal:Downsyndrome.Clinicalreviewofocularfeatures.ClinPediatr28:355-358,198915)KarlicaD,SkelinS,CulicVetal:TheophthalmicanomaliesinchildrenwithDownsyndromeinSplit-DalmatianCounty.CollAntropol35:1115-1118,201116)CullenJF,ButlerHG:Mongolism(Down’ssyndrome)andkeratoconus.BrJOphthalmol47:321-330,196317)CatalanoRA:Downsyndrome.SurvOphthalmol34:385-398,199018)DonaldsonDD:Thesignificanceofspottingoftheirisinmongoloids(Brushfield’sspots).ArchOphthalmol65:26-31,196119)TraboulsiEI,LevineE,MetsMBetal:InfantileglaucomainDown’ssyndrome(trisomy21).AmJOphthalmol105:389-394,198820)白柏麻子,白柏基宏,高木峰夫ほか:発育異常緑内障と種々の眼疾患を合併したダウン症候群の1例.眼紀41:21082111,199021)McClellanKA,BillsonFA:SpontaneousonsetofciliaryblockglaucomainacutehydropsinDown’ssyndrome.AustNZJOphthalmol16:325-327,1988(138) 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EX-PRESS®併用濾過手術後の経過良好例と不良例の比較

2015年10月31日 土曜日

14725100,212,No.31472(100)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(10):1472.1476,2015cはじめに1999年以降海外で臨床使用されているEX-PRESSR(AlconInc.,FortWorth,TX)は,プレート部分や調節弁をもたないステンレス製の緑内障手術用ミニデバイスである.EX-PRESSRを用いた濾過手術(以下,EX-PRESSR併用濾過手術)は線維柱帯切除術と似ているが,強膜切開や周辺虹彩切除を必要としない.術後の早期合併症の頻度が線維柱帯切除術より少なく,眼圧下降効果は良好で,線維柱帯切除術と同等と報告されている1.15).日本では2012年5月に緑内障治療用インプラント挿入術が保険適用となり,臨床使用が可能となった.日本人を対象とした報告でも良好な眼圧下降効果が示されている1.4).また,難症例に対しても有効性が報告されている16,17).しかし,EX-PRESSR挿入術後には全例が経過良好ではなく,経過不良例も存在する18).経過不良となる要因が術前あるいは術後の経過観察において判明すれば,症例選択や,術後の経過観察での注意が行いやすいが,〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANEX-PRESSR併用濾過手術後の経過良好例と不良例の比較井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科ComparisonbetweenPatientswithFavorableandUnfavorableResultsinEX-PRESSRKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:EX-PRESSR併用濾過手術後に経過不良となる因子を後ろ向きに検討する.方法:EX-PRESSR併用濾過手術後6カ月間の経過観察が可能だった37例37眼を対象とした.6カ月後の眼圧15mmHg未満と15mmHg以上の症例,眼圧下降率30%以上と30%未満の症例に分けた.各群で性別,年齢,病型,糖尿病の有無,術前使用薬剤数,術式,視野meandeviation(MD)値,手術前後の眼圧,lasersuturelysis施行の有無,ブレブ再建術施行の有無を比較した.結果:眼圧15mmHg未満は78.4%,15mmHg以上は21.6%で,前者で3カ月後の眼圧が有意に低かった.眼圧下降率30%以上は83.8%,30%未満は16.2%で,前者で年齢と手術前眼圧が有意に低く,術前投与薬剤数が多かった.結論:EX-PRESSR併用濾過手術の経過不良例は16.22%存在する.危険因子は年齢,手術前眼圧,術前投与薬剤数,3カ月後の眼圧だった.Purpose:WeretrospectivelyinvestigatedcharacteristicsinpatientswithunfavorableprogressfollowingEX-PRESSRglaucomafiltrationdeviceimplantation.Methods:Investigatedwere37eyesof37patientswhohadundergoneEX-PRESSRimplantation.At6monthsaftersurgery,patientsweredividedintothosewithintraocularpressure(IOP)≧15mmHgor<15mmHg,andthosewithIOP-reductionrate≧30%or<30%.Ineachgroup,patientswereanalyzedbygender,age,glaucomatype,diabetes,previousmedications,previousglaucomasurger-ies,meandeviationvalue,previousIOP,lasersuturelysisandfilteringblebrevision.Results:ThosewithIOP<15mmHgor≧15mmHgcomprised78.4%and21.6%,respectively;IOPafter3monthswassignificantlylowintheformergroup.TherespectivepercentagesofcaseswithIOP-reductionrate≧30%or<30%were83.8%and16.2%.Intheformergroup,ageandpreviousIOPweresignificantlylow,andnumberofmedicinesbeforesurgerywassignificantlylarge.Conclusions:PatientswithunfavorableprogressfollowingEX-PRESSRimplantationcom-prised16-22%.Themainriskfactorsforfailurewereage,previousIOP,numberofmedicinesbeforesurgeryandIOPafter3months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1472.1476,2015〕Keywords:EX-PRESSR併用濾過手術,経過不良,眼圧,眼圧下降率.EX-PRESSRimplantation,unfavorableprogress,intraocularpressure,intraocularpressurereductionrate.1472(100)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(10):1472.1476,2015cはじめに1999年以降海外で臨床使用されているEX-PRESSR(AlconInc.,FortWorth,TX)は,プレート部分や調節弁をもたないステンレス製の緑内障手術用ミニデバイスである.EX-PRESSRを用いた濾過手術(以下,EX-PRESSR併用濾過手術)は線維柱帯切除術と似ているが,強膜切開や周辺虹彩切除を必要としない.術後の早期合併症の頻度が線維柱帯切除術より少なく,眼圧下降効果は良好で,線維柱帯切除術と同等と報告されている1.15).日本では2012年5月に緑内障治療用インプラント挿入術が保険適用となり,臨床使用が可能となった.日本人を対象とした報告でも良好な眼圧下降効果が示されている1.4).また,難症例に対しても有効性が報告されている16,17).しかし,EX-PRESSR挿入術後には全例が経過良好ではなく,経過不良例も存在する18).経過不良となる要因が術前あるいは術後の経過観察において判明すれば,症例選択や,術後の経過観察での注意が行いやすいが,〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANEX-PRESSR併用濾過手術後の経過良好例と不良例の比較井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科ComparisonbetweenPatientswithFavorableandUnfavorableResultsinEX-PRESSRKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:EX-PRESSR併用濾過手術後に経過不良となる因子を後ろ向きに検討する.方法:EX-PRESSR併用濾過手術後6カ月間の経過観察が可能だった37例37眼を対象とした.6カ月後の眼圧15mmHg未満と15mmHg以上の症例,眼圧下降率30%以上と30%未満の症例に分けた.各群で性別,年齢,病型,糖尿病の有無,術前使用薬剤数,術式,視野meandeviation(MD)値,手術前後の眼圧,lasersuturelysis施行の有無,ブレブ再建術施行の有無を比較した.結果:眼圧15mmHg未満は78.4%,15mmHg以上は21.6%で,前者で3カ月後の眼圧が有意に低かった.眼圧下降率30%以上は83.8%,30%未満は16.2%で,前者で年齢と手術前眼圧が有意に低く,術前投与薬剤数が多かった.結論:EX-PRESSR併用濾過手術の経過不良例は16.22%存在する.危険因子は年齢,手術前眼圧,術前投与薬剤数,3カ月後の眼圧だった.Purpose:WeretrospectivelyinvestigatedcharacteristicsinpatientswithunfavorableprogressfollowingEX-PRESSRglaucomafiltrationdeviceimplantation.Methods:Investigatedwere37eyesof37patientswhohadundergoneEX-PRESSRimplantation.At6monthsaftersurgery,patientsweredividedintothosewithintraocularpressure(IOP)≧15mmHgor<15mmHg,andthosewithIOP-reductionrate≧30%or<30%.Ineachgroup,patientswereanalyzedbygender,age,glaucomatype,diabetes,previousmedications,previousglaucomasurger-ies,meandeviationvalue,previousIOP,lasersuturelysisandfilteringblebrevision.Results:ThosewithIOP<15mmHgor≧15mmHgcomprised78.4%and21.6%,respectively;IOPafter3monthswassignificantlylowintheformergroup.TherespectivepercentagesofcaseswithIOP-reductionrate≧30%or<30%were83.8%and16.2%.Intheformergroup,ageandpreviousIOPweresignificantlylow,andnumberofmedicinesbeforesurgerywassignificantlylarge.Conclusions:PatientswithunfavorableprogressfollowingEX-PRESSRimplantationcom-prised16-22%.Themainriskfactorsforfailurewereage,previousIOP,numberofmedicinesbeforesurgeryandIOPafter3months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1472.1476,2015〕Keywords:EX-PRESSR併用濾過手術,経過不良,眼圧,眼圧下降率.EX-PRESSRimplantation,unfavorableprogress,intraocularpressure,intraocularpressurereductionrate. それらの報告は少ない19).そこで今回EX-PRESSR併用濾過手術の手術6カ月間の経過良好例と不良例を比較し,経過不良例となりやすい因子を後ろ向きに検討した.I対象および方法2012年6月.2013年9月に井上眼科病院でEX-PRESSR併用濾過手術を行い,6カ月間以上の経過観察が可能だった37例37眼を対象とした.平均年齢は68.2±12.0歳(平均値±標準偏差),29.89歳,男性21例,女性16例だった.病型は原発開放隅角緑内障22例22眼,続発緑内障15例15眼だった.続発緑内障の内訳は落屑緑内障7例,血管新生緑内障7例,白内障手術後1例だった.手術前の平均眼圧は25.8±8.4mmHgで14.62mmHgだった.手術前の平均薬剤使用数は3.9±1.2剤で1.6剤だった.なお,配合点眼薬は2剤として解析した.手術前のHumphrey視野検査プログラム中心30-2SITA-standardのmeandeviation(MD)値は.16.5±8.2dBで,.31.5..1.5dBだった.術式はEX-PRESSR併用濾過手術単独が28例,EX-PRESSR併用濾過手術と白内障手術の同時手術が9例だった.緑内障手術平行にBlue-Grayzoneに穿刺し,25G穿刺創に沿ってEXPRESSRを挿入した.強膜弁を10-0ナイロン糸で4.6針縫合した後,結膜を10-0ナイロン糸で連続縫合した.手術後は眼圧,前房深度,濾過胞の状態をみて,術者の判断でlasersuturelysis(LSL)を行った.LSLは眼球マッサージを行わないと眼圧が十分に下降しないときに施術した.入院期間は7.10日間で,術後の経過により退院日を決定した.手術6カ月後の使用薬剤数の中央値は0剤,第3四分位数は0剤で,使用薬剤がなしの症例が86.5%(32例/37例)だった.緑内障薬剤使用の有無にかかわらず,6カ月後の眼圧が15mmHg未満と15mmHg以上の症例に分けた.さらに6カ月後の眼圧下降率が30%未満と30%以上の症例に分けた.以下の項目に両群で相違があるかを検討した.項目は,①性別,②年齢,③緑内障病型,④糖尿病の有無,⑤術前使用薬剤数,⑥術式,⑦術前のHumphrey視野検査のMD値,⑧3515mmHg以上30眼圧(mmHg)15mmHg未満****の既往がある症例は2例だった.手術はすべて同一術者が行った.角膜輪部に制御糸を掛け,上鼻側あるいは上耳側に円蓋部基底結膜切開を行い,強膜半層の深さで3mm×3mmの強膜弁を作製した.さらに25201510500.04%マイトマイシンCを3分間留置し,balancedsalt手術前術翌日1週間後1カ月後3カ月後6カ月後solution(BSS)100mlにて洗浄した.白内障手術併用症例図1手術6カ月後の眼圧が15mmHg未満症例と15mmHgではこの後,耳側角膜より超音波水晶体乳化吸引術と眼内レ以上症例における手術前後の眼圧ンズ挿入術を行った.その後,25ゲージ(G)針で虹彩面と*p<0.05,***p<0.0001,対応のないt検定.表1手術6カ月後の眼圧が15mmHg未満症例と15mmHg以上症例における各因子の相違15mmHg未満29例15mmHg以上8例p性別(男:女)18:113:050.2540年齢(歳)66.8±11.973.4±11.60.1738緑内障病型原発開放隅角緑内障1840.6897続発緑内障114糖尿病有710.6555無227術前使用薬剤数3.8±1.34.1±0.80.1974術式EX-PRESSR併用濾過手術2080.1589EX-PRESSR併用濾過+白内障同時手術90視野のmeandeviation値(dB).16.7±8.7.15.9±7.70.4124Lasersuturelysis有710.6665無227ブレブ再建術有120.1117無286(101)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151473 眼圧(手術前,手術翌日,1週間後,1カ月後,3カ月後),⑨入院中のLSL施行の有無,⑩6カ月後までにブレブ再建術施行の有無とした.なお,眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した.ブレブ再建術はLSLを行っても眼圧が下降せず,眼圧上昇が強膜フラップの癒着が原因と考えられる場合に施行した.統計学的検討は性別,緑内障病型,糖尿病の有無,術式,入院中のLSL施行の有無,6カ月後までにおけるブレブ再建術施行の有無はc2検定を用いた.年齢,術前使用薬剤数,術前のHumphrey視野検査のMD値,眼圧は対応のないt検定を用いた.検定はp<0.05を統計学的有意とした.II結果6カ月後の眼圧が15mmHg未満の症例は29例(78.4%)15mmHg以上の症例は8例(21.6%)だった.眼圧は手術前,(,)手術翌日,1週間後,1カ月後は両群で同等だったが,3カ月後は眼圧15mmHg以上の症例のほうが有意に高かった(3カ月後p<0.05,6カ月後p<0.0001)(図1).両群間に性別,のほうが30%以上症例(66.8±12.1歳)に比べて有意に高かった(p<0.05).術前使用薬剤数は眼圧下降率30%未満症例(4.5±0.5剤)のほうが,30%以上症例(3.7±1.3剤)に比べて有意に多かった(p<0.05).手術前眼圧は眼圧下降率30%未満症例(21.7±3.9mmHg)のほうが30%以上症例(26.5±8.9mmHg)に比べて有意に低かった(p<0.05).III考按EX-PRESSR併用濾過手術の眼圧下降効果については多数報告されている(表3)1.13).今回の全症例での眼圧下降率は手術1カ月後で56.0±19.2%,3カ月後で51.0±19.1%,6カ月後で48.4±18.9%で,過去の報告(36.8.61.0%)とほぼ同等だった.EX-PRESSR併用濾過手術の成功率は成功の定義により異なるが,おおむね良好である(表4)6.8,11,12,19).今回は6カ月3030%未満*30%以上25年齢,緑内障病型,糖尿病の有無,術前使用薬剤数,術式,視野のMD値,LSLの有無,ブレブ再建術の有無に差はなかった(表1).6カ月後の眼圧下降率が30%以上の症例は31例(83.8%),眼圧(mmHg)**201510530%未満の症例は6例(16.2%)だった.眼圧は手術翌日,1週間後,1カ月後,3カ月後は両群で同等だった(図2).両0手術前術翌日1週間後1カ月後3カ月後6カ月後群間に性別,緑内障病型,糖尿病の有無,術式,視野のMD図2手術6カ月後の眼圧下降率が30%未満症例と30%以上値,LSLの有無,ブレブ再建術の有無に差はなかった(表症例における手術前後の眼圧2).一方,年齢は眼圧下降率30%未満症例(75.7±9.2歳)*p<0.05,**p<0.001,対応のないt検定.表2手術6カ月後の眼圧下降率が30%未満症例と30%以上症例における各因子の相違30%以上31例30%未満6例p性別(男:女)20:111:050.0662年齢(歳)66.8±12.175.7±9.2<0.05緑内障病型原発開放隅角緑内障1930.6696続発緑内障123糖尿病有800.3053無236術前使用薬剤数3.7±1.34.5±0.5<0.05術式EX-PRESSR併用濾過手術235>.999EX-PRESSR併用濾過+白内障同時手術81視野のmeandeviation値(dB).16.5±8.5.16.5±8.30.165Lasersuturelysis有71>0.999無245ブレブ再建術有210.4215無295(102) 表3EX-PRESSR併用濾過手術の眼圧下降率報告者文献観察期間眼圧下降率Marzetteら5)1カ月44%前田ら1)3カ月56.10%尾崎ら3)6カ月52.80%木村ら4)6カ月61.00%Marisら6)12カ月39.90%deJong7)12カ月42.00%Sugiyamaら2)12カ月48.52%Seiderら8)1年後36.80%Gavri.ら9)1年後52.80%Dahanら10)24カ月47.80%Goodら12)28カ月45%Dahanら11)30カ月44.13%Salimら13)33カ月53.8.55.1%表4EX-PRESSR併用濾過手術の成功率報告者文献緑内障点眼薬使用成功率の定義観察期間成功率Mariottiら19)不明>5mmHgかつ1年85%≦18mmHg5年63%Marisら6)不問≧5mmHgかつ10.8±3.1カ月90%≦21mmHgdeJong7)使用なし>4mmHgかつ1年71.70%≦15mmHgSeiderら8)不問6.12mmHg1年91%Dahanら11)不問>5mmHgかつ30カ月約80%<18mmHgGoodら12)不問≧5mmHg≦18mmHg28カ月82.85%あるいは眼圧下降率30%以上後の眼圧が15mmHg未満の症例が78.4%で,過去の報告とほぼ同等だった.また,6カ月後の眼圧が5mmHg以下の症例はなかった.MariottiらはEX-PRESSR併用濾過手術の不成功例の危険因子について248例を対象として平均3.46±1.76年の経過観察期間で調査した19).不成功の基準を眼圧5mmHg以下または18mmHgを超えると定め,年齢,性別,人種,緑内障病型,術前使用薬剤数,緑内障手術の既往,糖尿病の有無,喫煙の有無を危険因子として検討した.危険因子は糖尿病,非白人,緑内障手術の既往だった.今回は糖尿病は危険因子でなかった.人種はすべて日本人だった.緑内障手術既往がある症例は2例のみで解析できなかった.喫煙の有無については調査できなかった.三木らはEX-PRESSR併用濾過手術後の経過が思わしくなかった症例を報告した18).経過が思わしくなかった原因として,血管新生緑内障,多重手術既往,虹彩角膜内皮症候群,結膜瘢痕化が強いことがあげられた.今回は,緑内障手術既往のある症例は2例と少なく,虹彩角膜内皮症候群の症例はなかった.血管新生緑内障の症例は7例だったが,7例とも手術6カ月後の眼圧は15mmHg(103)未満で,眼圧下降率も30%以上と経過良好だった.今回経過良好例が78.84%と多かった理由として,Mariottiら19)と三木ら18)がともに危険因子としてあげている多重手術既往症例が2例(5.4%)と少なかったことが考えられる.今回EX-PRESSR併用濾過手術6カ月後までの経過を観察したところ,経過不良の定義により異なるが,経過不良症例は16.22%存在した.その危険因子として年齢,術前使用薬剤数,手術前眼圧,3カ月後の眼圧があげられた.そこで,高齢者で使用の薬剤数が多く,手術前眼圧の低い症例では術後に注意深い経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)前田征宏,近藤奈津,大貫和徳:Ex-PRESSTMを用いた濾過手術の術後早期成績:Trabeculectomyとの比較.あたらしい眼科29:1563-1567,20122)SugiyamaT,ShibataM,KojimaSetal:Thefirstreportあたらしい眼科Vol.32,No.10,20151475 onintermediate-termoutcomeofEx-PRESSRglaucomafiltrationdeviceimplantedunderscleralflapinJapanesepatients.ClinOphthalmol5:1063-1066,20113)尾崎弘明,ファン・ジェーン,外尾恒一ほか:Ex-PRESSTM併用濾過手術の術後短期成績.臨眼68:1117-1121,20144)木村至,中澤有吾,渡邉慧ほか:チューブシャント手術(EX-PRESSR)の治療成績と術後合併症の検討.眼科56:79-83,20145)MarzetteL,HerndonLW:AcomparisonoftheEx-PRESSTMminiglaucomashuntwithstandardtrabeculectomyinthesurgicaltreatmentofglaucoma.OphthalmicSurgLasersImaging42:453-459,20116)MarisPJGJr,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20077)deJongLA:TheEx-PRESSglaucomashuntversustrabeculectomyinopen-angleglaucoma:aprospectiverandomizedstudy.AdvTher26:336-345,20098)SeiderMI,RofaghaS,LinSCetal:Resident-performedEx-PRESSshuntimplantationversustrabeculectomy.JGlaucoma21:469-474,20129)Gavri.M,Gabri.N,Jagi.Jetal:ClinicalexperiencewithEx-PRESSminiglaucomashuntimplantation.CollAntropol35(Suppl2):39-41,201110)DahanE,CarmichaelTR:Implantationofaminiatureglaucomadeviceunderascleralflap.JGlaucoma14:98-102,200511)DahanE,SimonGJB,LafumaA:ComparisonoftrabeculectomyandEx-PRESSimplantationinfelloweyesofthesamepatient:aprospective,randomisedstudy.Eye26:703-710,201212)GoodTJ,KahookMY:AssessmentofblebmorphologicfeaturesandpostoperativeoutcomesafterEx-PRESSdrainagedeviceimplantationversustrabeculectomy.AmJOphthalmol151:507-513,201113)SalimS,DuH,BoonyaleephanS:SurgicaloutcomesoftheEx-PRESSglaucomafiltrationdeviceinAfricanAmericanandwhiteglaucomapatients.ClinOphthalmol6:955-962,201214)Beltran-AgulloL,TropeGE,JinYetal:Comparisonofvisualrecoveryfollowingex-PRESSversustrabeculectomy:resultsofaprospectiverandomizedcontrolledtrial.JGlaucoma24:181-186,201515)WangW,ZhouM,HuangWetal:Ex-PRESSimplantationversustrabeculectomyinuncontrolledglaucoma:ameta-analysis.PLoSONE8:e63591,201316)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:難治性緑内障に対する濾過手術にEx-PRESSTMを用いた1例.臨眼63:909913,200917)加藤剛,矢合隆昭,矢合郁子ほか:硝子体手術既往のある血管新生緑内障眼に対するEX-PRESSTM併用濾過手術.眼科手術28:133-137,201518)三木美智子,小嶌祥太,植木麻理ほか:Ex-PRESSTM挿入術後の経過が思わしくなかった3症例.あたらしい眼科31:903-908,201419)MariottiC,DahanE,NicolaiMetal:Long-termoutcomesandriskfactorsforfailurewiththeEX-pressglaucomadrainagedevice.Eye28:1-8,2014***(104)

ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン

2015年8月31日 月曜日

12185108,22,No.3《原著》あたらしい眼科32(8):1218.1222,2015cはじめに緑内障治療の目標は視野障害進行を停止あるいは緩徐にすることで,そのために眼圧を下降させる1,2).眼圧を下降させるために点眼薬の単剤投与から始めるが,単剤投与で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更するか,他の点眼薬を追加投与する3).追加投与を繰り返すと多剤併用となり,点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である4).アドヒアランスの観点からは2つの薬剤成分を含有する配合点眼薬の使用がすすめられる.2013年11月にブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬の配合点眼薬(アゾルガR)が新たに使用可能となった.このBTFCの日本人緑内障患者に対するチモロール点眼薬からの変更5,6),単剤投与7)については良好な眼圧下降効果が報告されている.しかし,臨床の現場でどのような症例にBTFCが使用1218(152)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科PrescriptionPatternofBrinzolamide1.0%/TimololMaleate0.5%FixedCombinationEyeDropsKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,BTFC)が新規に処方された症例の特徴を後ろ向きに調査する.対象および方法:BTFCが新規に投与された117例195眼を対象とした.追加症例,変更症例,変更+他剤追加症例に分けて,投与3カ月後までの眼圧を調査した.結果:BTFC追加症例は7例9眼,変更症例は100例166眼,変更+他剤追加症例は10例20眼だった.変更症例はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,DTFC)からが43例72眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)からが36例58眼,b遮断薬からが16例28眼などだった.DTFC,b遮断薬からの変更では眼圧は変更後に有意に下降した.b遮断薬+CAIからの変更では眼圧は変更前後で同等だった.結論:BTFCはDTFCからの変更,b遮断薬+CAIからの変更として多く使用されていた.BTFCの眼圧下降効果は良好だった.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthecharacteristicsinpatientswhowerenewlyadministeredbrinzo-lamide1.0%/timololmaleate0.5%fixedcombination(BTFC)eyedrops.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved198eyesof117patientswhowerenewlyadministeredBTFCandwhoweredividedinto3groups.TheinstillationofBTFCwasaddedinthefirstgroup,whilethesecondgroupswitchedfromtheprevioustreatment,andthethirdgroupinvolvedswitchingplusaddingconcomitantly.Inallthreegroups,intraocularpressure(IOP)wascomparedfor3monthsafteradministration.Results:Nineeyeswereinthefirstgroup,166eyeswereinthesecondgroup,and20eyeswereinthethirdgroup.Inthesecondgroup,72eyeswereswitchingfromdorzol-amide/timololmaleatefixedcombination(DTFC),58eyesswitchingfromb-blockerspluscarbonicanhydraseinhibitor(CAI),and28eyesswitchingfromb-blockers.InthepatientsswitchingfromDTFCorb-blockers,IOPsignificantlydecreased.Inthepatientsswitchingfromb-blockersplusCAI,IOPwasequivalent.Conclusion:InthepatientsinwhomBTFCwasadministeredfrequentlywhileswitchingfromDTFCorb-blockersplusCAI,asignificantlybetterIOPreductioneffectwasobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1218.1222,2015〕Keywords:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,眼圧,変更,追加,処方.brinzolamide/timololfixedcombi-nation,intraocularpressure,switch,addition,administer.《原著》あたらしい眼科32(8):1218.1222,2015cはじめに緑内障治療の目標は視野障害進行を停止あるいは緩徐にすることで,そのために眼圧を下降させる1,2).眼圧を下降させるために点眼薬の単剤投与から始めるが,単剤投与で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更するか,他の点眼薬を追加投与する3).追加投与を繰り返すと多剤併用となり,点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である4).アドヒアランスの観点からは2つの薬剤成分を含有する配合点眼薬の使用がすすめられる.2013年11月にブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬の配合点眼薬(アゾルガR)が新たに使用可能となった.このBTFCの日本人緑内障患者に対するチモロール点眼薬からの変更5,6),単剤投与7)については良好な眼圧下降効果が報告されている.しかし,臨床の現場でどのような症例にBTFCが使用1218(152)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科PrescriptionPatternofBrinzolamide1.0%/TimololMaleate0.5%FixedCombinationEyeDropsKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,BTFC)が新規に処方された症例の特徴を後ろ向きに調査する.対象および方法:BTFCが新規に投与された117例195眼を対象とした.追加症例,変更症例,変更+他剤追加症例に分けて,投与3カ月後までの眼圧を調査した.結果:BTFC追加症例は7例9眼,変更症例は100例166眼,変更+他剤追加症例は10例20眼だった.変更症例はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,DTFC)からが43例72眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)からが36例58眼,b遮断薬からが16例28眼などだった.DTFC,b遮断薬からの変更では眼圧は変更後に有意に下降した.b遮断薬+CAIからの変更では眼圧は変更前後で同等だった.結論:BTFCはDTFCからの変更,b遮断薬+CAIからの変更として多く使用されていた.BTFCの眼圧下降効果は良好だった.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthecharacteristicsinpatientswhowerenewlyadministeredbrinzo-lamide1.0%/timololmaleate0.5%fixedcombination(BTFC)eyedrops.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved198eyesof117patientswhowerenewlyadministeredBTFCandwhoweredividedinto3groups.TheinstillationofBTFCwasaddedinthefirstgroup,whilethesecondgroupswitchedfromtheprevioustreatment,andthethirdgroupinvolvedswitchingplusaddingconcomitantly.Inallthreegroups,intraocularpressure(IOP)wascomparedfor3monthsafteradministration.Results:Nineeyeswereinthefirstgroup,166eyeswereinthesecondgroup,and20eyeswereinthethirdgroup.Inthesecondgroup,72eyeswereswitchingfromdorzol-amide/timololmaleatefixedcombination(DTFC),58eyesswitchingfromb-blockerspluscarbonicanhydraseinhibitor(CAI),and28eyesswitchingfromb-blockers.InthepatientsswitchingfromDTFCorb-blockers,IOPsignificantlydecreased.Inthepatientsswitchingfromb-blockersplusCAI,IOPwasequivalent.Conclusion:InthepatientsinwhomBTFCwasadministeredfrequentlywhileswitchingfromDTFCorb-blockersplusCAI,asignificantlybetterIOPreductioneffectwasobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1218.1222,2015〕Keywords:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,眼圧,変更,追加,処方.brinzolamide/timololfixedcombi-nation,intraocularpressure,switch,addition,administer. されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,BTFCが新規に投与された症例についてその処方パターンと眼圧下降効果を検討した.I対象および方法2013年11月.2014年7月に井上眼科病院に通院中で,BTFC(1日2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者117例195眼(男性45例72眼,女性72例123眼)を対象とした.平均年齢は66.8±13.1歳(平均±標準偏差)(26.94歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)140眼,正常眼圧緑内障30眼,続発緑内障16眼(ぶどう膜炎6眼,落屑緑内障4眼,血管新生緑内障4眼,Posner-Schlossman症候群2眼),原発閉塞隅角緑内障6眼,高眼圧症3眼であった.診療録から後向きに調査を行った.BTFCが新規に投与された症例を,BTFCが追加投与された症例(追加群),前投薬が中止となりBTFCが投与された症例(変更群),前投薬が中止となりBTFCが投与されるのと同時にさらに他の点眼薬が追加あるいは変更された症例(変更追加群)に分けた.BTFCが投与された理由について追加群,変更群,変更追加群各々で調査した.3群間で性別,年齢,緑内障病型,眼圧,前投薬数を比較した(c2検定,Kruskal-Wallis検定,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).前投薬数の解析では配合点眼薬は2剤とした.変更群では,DTFCからの変更,b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更,b遮断点眼薬からの変更に分けて,変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).さらにDTFCからの変更では変更理由を眼圧下降効果不十分と副作用出現に分けて変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).有意水準はいずれもp<0.05とした.II結果追加群は7例9眼,変更群は100例166眼,変更追加群は10例20眼だった(図1).BTFCが投与された理由は,追加群と変更追加群では全例が眼圧下降効果不十分だった.変更群では眼圧下降効果不十分が90例150眼,副作用出現が10例16眼だった.性別は3群間に差がなかった(p=0.1739,c2検定)(表1).年齢は変更群が追加群に比べて有意に高齢だった(p=0.007,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).病型は原発開放隅角緑内障が変更群で追加群に比べて有意に多かった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).眼圧は追加群で変更群と変更追加群に比べて有意に高かった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).前投薬は追加群で変更群と変更追加群に比べて有意に少なかった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).(153)変更群の内訳は,DTFCからの変更が43例72眼,b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が36例58眼,b遮断点眼薬からの変更が16例28眼,炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が4例7眼などだった(図2).BTFCが投与された理由は,DTFCからの変更では眼圧下降効果不十分が33例56眼,副作用出現が10例16眼だった.副作用の内訳は掻痒感3例5眼,結膜充血2例4眼,刺激感2例3眼,霧視1例2眼,アレルギー性結膜炎1例1眼,めまい1例1眼だった.他の変更群は全例眼圧下降効果不十分だった.b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例の各々の点眼薬の内訳は,b遮断点眼薬はイオン応答ゲル化チモロール点眼薬23眼,水溶性チモロール点眼薬9眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬8眼,カルテオロール点眼薬8眼,持続性カルテオロール点眼薬8眼,レボブノロール点眼薬2眼,炭酸脱水酵素阻害点眼薬はブリンゾラミド点眼薬44眼,ドルゾラミド点眼薬14眼だった.組み合わせとしてはイオン応答ゲル化チモロール点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬19眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬8眼,持続性カルテオロール+ブリンゾラミド点眼薬7眼などだった.b遮断点眼薬からの変更症例の点眼薬の内訳は持続性カルテオロール点眼薬15眼,イオン応答ゲル化チモロール点眼薬7眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬4眼,カルテオロール点眼薬2眼だった.炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例の内訳はドルゾラミド点眼薬6眼,ブリンゾラミド点眼薬1眼だった.眼圧はDTFCからの変更では,変更前17.9±2.9mmHg,変更1カ月後17.2±3.7mmHg,3カ月後16.4±3.5mmHgで変更後に有意に下降した(p<0.0001)(図3).投与された理由別では,眼圧下降効果不十分例では変更前18.2±2.9mmHg,変更1カ月後17.9±3.6mmHg,3カ月後16.8±3.4mmHgで,変更前に比べて変更3カ月後に有意に下降した(p<0.001).副作用出現例では変更前16.5±2.6mmHg,変更1カ月後14.2±3.1mmHg,3カ月後14.8±3.7mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.001).b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では,変更前15.8±3.3mmHgと変更1カ月後15.7±3.5mmHg,3カ月後15.2±3.4mmHgで同等だった(p=0.16).b遮断点眼薬からの変更では,変更前18.0±5.4mmHg,変更1カ月後14.9±3.9mmHg,3カ月後14.9±3.8mmHgで変更後に有意に下降した(p<0.001).III考按BTFCが新規に投与された症例を検討したがさまざまな処方パターンがみられた.緑内障点眼薬治療の第一選択薬は強力な眼圧下降効果,全身性の副作用が少ない点,1日1回あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151219 表1追加群,変更群,変更追加群の患者背景追加群変更群変更追加群p値点眼の利便性よりプロスタグランジン関連点眼薬が使用されることが多い.今回の195眼のうち前投薬としてプロスタグランジン関連点眼薬が使用されていた症例は170眼(87.2%)であった.プロスタグランジン関連点眼薬で眼圧下降効果が不十分な症例では点眼薬の追加が行われる.追加投与の場合は,b遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害点眼薬の追加,プロスタグランジン関連点眼薬を中止してプロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への変更が考えられる.今回の症例のうちb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例はプロスタグランジン関連点眼薬との併用が35眼中32眼(94.3%)と多かった.DTFCからの変更,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更でも,プロスタグランジン関連点眼薬との併用症例が130眼中120眼(92.3%)と多かった.配合点眼薬が使用可能となる前は,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,炭酸脱水酵素阻害点眼薬の併用が多かったと思われる.DTFCの登場により,プロスタグランジン関連点眼薬+DTFCの使用症例が増えたと考えられる.今後はプロスタグランジン関連点眼薬+b遮断点眼薬あるいはプロスタグランジン関連点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が増加すると予想される.変更追加群,変更群,166眼,85.1%追加群,20眼,10.3%9眼,4.6%図1追加群,変更群,変更追加群の割合症例性別年齢病型(眼)眼圧(眼)前投薬数(眼)7例9眼100例166眼男性4例,女性3例男性35例,女性65例*54.9±23.5歳68.4±11.3歳(26.82歳)(40.90歳)**続発緑内障:5原発開放隅角緑内障(狭義):120正常眼圧緑内障:28正常眼圧緑内障:2続発緑内障:10原発開放隅角緑内障(狭義):1高眼圧症:1原発閉塞隅角緑内障:6高眼圧症:2****27.3±5.5mmHg(20.35mmHg)17.1±3.7mmHg(7.34mmHg)16.2±2.7mmHg(10.22mmHg)<0.0001****0.1±0.3剤3.1±0.9剤3.0±0.4剤(0.1剤)(1.5剤)(2.4剤)<0.000110例20眼男性6例,女性4例0.173959.2±15.5歳(41.77歳)0.007原発開放隅角緑内障(狭義):19続発緑内障:1<0.0001炭酸脱水酵素その他,257眼,4.2%20151050ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,72眼,43.4%b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬,58眼,34.9%b遮断点眼薬,28眼,16.9%阻害点眼薬,1眼,0.6%図2変更群の内訳眼圧(mmHg)(*p<0.01,**p<0.0001)******ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬b遮断薬変更前変更1カ月後変更3カ月後図3変更群の変更前後の眼圧(*p<0.001,**p<0.0001,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定)1220あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(154) 今回はDTFCからの変更がもっとも多かったが,DTFCからBTFCへ変更した症例の眼圧下降効果が報告されている8).Lanzlらは,各種点眼薬からBTFCへの変更症例を報告した8).ドルゾラミド2%/チモロール配合点眼薬単剤からの変更症例(2,937例)では,眼圧は変更前18.5±4.1mmHgに比べて変更後16.5±3.2mmHgに有意に下降した.一方,プロスタグランジン関連点眼薬+ドルゾラミド2%/チモロール配合点眼薬からプロスタグランジン関連点眼薬+BTFCへの変更症例(823例)では,眼圧は変更前18.3±5.0mmHgに比べて変更後16.4±3.9mmHgに有意に下降した.今回の調査でも変更により眼圧は有意に下降したが,眼圧下降幅は0.7.1.5mmHgでLanzlらの報告8)(1.9.2.0mmHg)よりやや低値を示した.一方,DTFCとBTFCを別々に投与した際の眼圧下降効果は同等と報告されている9).副作用の比較では刺激感はDTFCに多く8,10),霧視はBTFCに多い10),あるいは同等だった9)と報告されている.一方,プロスタグランジン関連点眼薬/チモロール配合点眼薬においても,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬11.13)あるいはビマトプロスト/チモロール配合点眼薬13)への変更で眼圧が有意に下降したと報告されている.今回,変更により眼圧が下降した理由としてとくに副作用が出現した症例ではアドヒアランスが向上したことや,ドルゾラミドとブリンゾラミドの眼圧下降効果の差が考えられる.b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では変更前後で眼圧は変化なかった.Lanzlらは,ブリンゾラミド点眼薬+チモロール点眼薬からの変更症例(252例)では眼圧が変更前18.4±3.4mmHgに比べて変更後16.6±2.9mmHgに有意に下降し,ドルゾラミド(2%)点眼薬+チモロール点眼薬からの変更症例(73例)では眼圧が変更前18.7±3.5mmHgに比べて変更後16.5±2.9mmHgに有意に下降したと報告した8).変更により点眼ボトル数や点眼回数が減るためにアドヒアランスが向上し,眼圧が下降することが考えられる.今回は変更前後で眼圧に変化がなかったが,元来アドヒアランスが良好な症例が多数含まれていた可能性がある.b遮断点眼薬からの変更では,炭酸脱水酵素阻害点眼薬が追加されたことと同様のため眼圧は有意に下降した.その眼圧下降幅は2.5.3.4mmHg6),3.2mmHg5),4.8mmHg8)と報告されており,今回(3.1mmHg)と同等だった.今回,BTFCの追加群は7例9眼だった.そのなかで前投薬でプロスタグランジン関連点眼薬を使用していた症例は1眼(11.1%)と少なかった.続発緑内障が9眼中5眼(55.6%)と多く,内訳としてぶどう膜炎が3眼,Posner-Schlossman症候群が2眼だった.ぶどう膜炎を発症している症例では,炎症を惹起するプロスタグランジン関連点眼薬は使用しづらく,BTFCが使用されたと考えられる.また,白内(155)障手術後の眼圧上昇に対しても.胞様黄斑浮腫を惹起する可能性のあるプロスタグランジン関連点眼薬は使用しづらく,BTFCが今後使用されると考えられる.BTFCが投与された理由は,眼圧下降効果不十分と副作用出現だった.今回の後ろ向き研究の問題点として,投与を行った眼科医師は10名以上で,眼圧下降効果不十分の判定基準が定められておらず,個々の医師の判断によるものであった.今回,BTFCが新規に処方された症例の特徴を調査した.DTFCからの変更がもっとも多く,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更,b遮断点眼薬からの変更が続いた.DTFCからの変更,b遮断点眼薬からの変更では眼圧は有意に下降し,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では眼圧は変化なかったことから,BTFCは良好な眼圧下降効果を有することが示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)VanVeldhuisenPC,EdererF,GaasterlandDEetal;TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,20146)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyofafixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20147)NakajimaM,IwasakiN,AdachiM:PhaseIIIsafetyandefficacystudyoflong-termbrinzolamide/timololfixedcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:149-156,20148)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,2011あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151221 9)ManniG,DenisP,ChewPetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma18:293300,200910)AugerGA,RaynorM,LongstaffS:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,11)添田尚一,宮永嘉隆,佐野英子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え.あたらしい眼科30:861-864,201312)林泰博,檀之上和彦:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼への切り替えによる眼圧下降効果.臨眼66:865-869,201213)CentofantiM,OddoneF,GandolfiS:Comparisonoftravoprostandbimatoprostplustimololfixedcombinationsinopen-angleglaucomapatientspreviouslytreatedwithlatanoprostplustimololfixedcombination.AmJOphthalmol150:575-580,2010***(156)

ソフトコンタクトレンズ装用眼に対するアイケア手持眼圧計の眼圧測定精度

2015年8月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(8):1213.1217,2015cソフトコンタクトレンズ装用眼に対するアイケア手持眼圧計の眼圧測定精度浪口孝治*1白石敦*1川崎史朗*2溝上志朗*1大橋裕一*1*1愛媛大学大学院医学系研究科感覚機能医学講座視機能外科学分野*2かわさき眼科AccuracyofIntraocularPressureMeasurementbyICareRReboundTonometerforSubjectsWearingSoftContactLensesKojiNamiguchi1),AtsushiShiraishi1),ShiroKawasaki2),ShiroMizoue1)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)Kawasakieyeclinic目的:アイケア手持眼圧計(フィンランド,ティオラト社:アイケア)は,簡便に測定が可能な点眼麻酔不要の接触型眼圧計である.今回筆者らはソフトコンタクトレンズ(SCL)装用時のアイケアの眼圧測定精度を非接触型空気式眼圧計(NCT),Goldmann圧平眼圧計(GAT)と比較検討した.対象および方法:対象は,眼疾患を有しない健康ボランティア20例20眼,男性8例,女性12例,平均年齢29.6±9.1歳(平均±標準偏差).裸眼でNCT,アイケア,GATで眼圧を測定し,次にSCL装用時に,NCT(SCL-NCT),アイケア(SCL-アイケア)で眼圧を測定した.各条件での眼圧値を比較検討した.結果:裸眼での眼圧は,NCTが13.6±2.1mmHg(平均±標準偏差),アイケアが14.2±2.7mmHg,GATが13.4±2.1mmHgであり,いずれの群間において有意差を認めなかった.SCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧値はそれぞれ12.6±1.7mmHg(p=0.003061)と13.1±1.9mmHg(p=0.01308)で,いずれも裸眼と比較して有意に眼圧が低かった.SCL-NCT,SCL-アイケアと,GATの比較においては,SCL-NCTとGAT(r=0.7801,p<0.001),SCL-アイケアとGAT(r=0.6063,p<0.001)のいずれにおいても強い相関が認められた.結論:SCLNCT,SCL-アイケアの眼圧値はいずれも裸眼に比べ有意に低値であった.SCL-NCT,SCL-アイケアは,いずれにおいてもGATと強い相関が認められた.SCL装用時の眼圧測定として,アイケアは有効な手段であることが示唆された.Purpose:TheICareRReboundTonometer(ICareFinlandOy,Vantaa,Finland)isahand-heldcontact-typetonometerthatallowsforeasymeasurementofintraocularpressure(IOP)withouttheuseofanesthesia.ThepurposeofthisstudywastocomparetheaccuracyofIOPmeasurementbetweentheICareR,anon-contacttonometer(NCT),andaGoldmannapplanationtonometer(GAT)insubjectswearingsoftcontactlenses(SCLs).Patientsandmethods:Thisstudyinvolved20normalsubjects(8malesand12females,meanage:29.6±9.1years).First,wemeasuredIOPusingtheICareR,NCT,andGATinallsubjectswithoutSCLsbeingworn.Then,wemeasuredIOPusingtheIcareR,NCT,andGATinallsubjectswithSCLsbeingworn.WethencomparedtheIOPineachcondition.Results:WithoutSCLs,nosignificantdifferenceinmeanIOPwasfoundbetweenICareR(14.2±2.7mmHg),NCT(13.6±2.1mmHg),andGAT(13.4±2.1mmHg).WithSCLs,themeanIOPwaslowerbyeachtonometerthanthatbyICareRandNCTwithoutSCLs.AstrongcorrelationwasfoundbetweenSCL-NCTandGAT,andbetweenSCL-ICareRandGAT.Conclusion:TheICareRwasfoundtobeandaccurateandeffectivedeviceforthemeasurementofIOPinsubjectswhowearSCLs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1213.1217,2015〕Keywords:アイケア,眼圧,ソフトコンタクトレンズ,Goldmann圧平眼圧計,非接触型空気式眼圧計,中心角膜厚.ICare,intraocularpressure,softcontactlens,Goldmannapplanationtonometer,non-contacttonometer,centralcornealthickness.〔別刷請求先〕浪口孝治:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:KojiNamiguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-city,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(147)1213 はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者人口の増加とともに,点眼麻酔を必要とするGoldmann圧平眼圧計(GAT)での眼圧測定は,煩雑であり,1日タイプのディスポーザブルSCLは破棄しないといけないなどの理由から,SCL装用者に対する眼圧測定では,非接触型空気式眼圧計(non-contacttonometer:NCT)の有用性が報告されてきた1).一方で,角膜移植後やアルカリ外傷などの重症眼表面疾患の治療・経過観察過程では,拒絶反応予防,消炎目的にステロイド点眼を長期使用していることが多く,眼圧の経過観察が必須とされている.しかしながらそれらの症例では,角膜上皮保護の目的からSCLを装用していることが多く,開瞼不全や涙液過多などのためNCTでの測定ですら困難な症例も多い.こうしたことから,筆者らの施設では,眼表面疾患例の眼圧測定に,NCTに代わりアイケア手持眼圧計(フィンランド,ティオラト社:アイケア)を使用する頻度が多くなっている.アイケアは簡便で,瞼裂が狭くても測定が可能な点眼麻酔不要の手持ち接触型眼圧計で,発射されたプローブが角膜と接触して眼圧測定を行う.プローブと角膜とが接触する瞬間のプローブの接近速度は,眼圧の高さに従って減速する仕組みとなっている.眼圧が高くなるほど,プローブはより素早く減速を開始する.また,眼圧が高くなるほどプローブと角膜の接触時間は短くなり,眼圧が低くなるほど長くなるように設計されている.しかしながら,SCL非装用時のアイケア,NCT,GATを比較した報告はいくつかあるが,SCL装用時のアイケアの眼圧測定精度をNCT,GATと比較検討した報告はない.本報告では,SCL装用時の眼圧をアイケア,GAT,NCTの3方法で測定し,測定精度について比較検討した.また,20**18*1614121086420図1各測定機器による眼圧値の比較GATとSCL-NCTに有意差を認める(p=0.02268).NCTとSCL-NCT,アイケアとSCL-アイケアに有意差を認める(それぞれp=0.003061,p=0.01308).(*p<0.05,対応のあるt検定)1214あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015裸眼でのアイケア,NCT,GATによる眼圧と中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)についても比較検討した.I対象および方法インフォームド・コンセントを得られた眼疾患を有しない健康ボランティア20例20眼(右眼)を対象とした.(男性8例,女性12例,平均年齢29.6±9.1歳:平均±標準偏差).まず,SCL非装用時にNCT(CT90,TOPCON社)→アイケア→GATの順で,それぞれ眼圧を3回ずつ測定した.次にSCLを装用し,NCT→アイケアの順で,それぞれ眼圧を3回ずつ測定した.マッサージ効果による眼圧への影響を考慮し,各眼圧測定は30分間隔で行われた.SCLはアキュビューR:Johnson&Johnson(etafilconA,含水率:58%,酸素透過係数:28,レンズパワー:.0.50D;BC8.8mm,中心厚0.07mm)を使用した.いずれの眼圧測定値も3回の平均値を用いた.CCTはスペキュラーマイクロスコピー(SP3000P,TOPCON社)に搭載されている角膜厚計測機能を用いて計測を行った.検討項目は1)SCL非装用時のNCT,アイケア,GATの眼圧を比較2)SCL非装用時のNCT,アイケアとSCL装用時のNCT(SCL-NCT),アイケア(SCL-アイケア)の眼圧を比較3)SCL非装用時のGATとSCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧を比較4)NCT,アイケア,GATの眼圧値の相関関係5)SCL-NCT,SCL-アイケアとGATの眼圧値の相関関係6)SCL非装用時のNCT,アイケア,GATの眼圧値とCCTの相関関係以上の6項目とした.1).3)の項目には対応のあるt検定を使用し,4).6)の項目では,Spearmanの順位相関係数を求めた.いずれの統計学的解析においても有意水準をp<0.05とした.II結果1)SCL非装用時の眼圧は,NCTが13.6±2.1mmHg(平均±標準偏差),アイケアが14.2±2.7mmHg,GATが13.4±2.1mmHgと,いずれの群間においても有意差を認めなかった.2)SCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧値はそれぞれ12.6±1.7mmHg(p=0.003061)と13.1±1.9mmHg(p=0.01308)で,いずれも裸眼に比べ眼圧が有意に低値であった.3)SCL-NCTおよびSCL-アイケアと,GATの眼圧値を比較すると,SCL-NCTとGAT(p=0.02268)で有意な低下を認めた.SCL-アイケアとGATでは有意差を認めなかった(p>0.05)(図1).4)NCT,アイケアと,GATの相関をみたところ,NCTと(148) 191917171515r=0.7338,p<0.001r=0.7610,p<0.001NCT(mmHg)GAT(mmHg)GAT(mmHg)GAT(mmHg)アイケア(mmHg)GAT(mmHg)アイケア(mmHg)GAT(mmHg)13119131197755NCT(mmHg)アイケア(mmHg)図2NCTとGATの相関図3アイケアとGATの相関231921r=0.7946,p<0.0011719510152025510152025r=0.7801,p<0.0011715151313119119757510152025NCT(mmHg)5図4NCTとアイケアの相関SCL-NCT(mmHg)図5SCL.NCTとGATの相関19195101520r=0.6063,p<0.001r=0.2961,p>0.056005505001715131197171513119540045077911131517SCL-アイケア(mmHg)CCT(μm)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151215(149)図6SCL.アイケアとGATの相関r=0.4964,p<0.05CCT(μm)600550500450400252015105図8アイケアとCCTの相関図7GATとCCTの相関CCT(μm)600550500450400255図9NCTとCCTの相関r=0.6978,p<0.05201510 GAT(r=0.7338,p<0.001),アイケアとGAT(r=0.7610,p<0.001),アイケアとNCT(r=0.7946,p<0.001)いずれにおいても強い相関が認められた.(図2~4)5)SCL-NCT,SCL-アイケアと,GATの相関をみたところ,SCL-NCTとGAT(r=0.7801,p<0.001),SCL-アイケアとGAT(r=0.6063,p<0.001)いずれにおいても強い相関が認められた(図5,6).6)CCTの平均は515.7±39.9μm(平均±標準偏差)であった.GATとCCTとの間には相関を認めなかった(r=0.2961,p>0.05)が,アイケアとCCTにやや弱い相関を認め,(r=0.4964,p<0.05)NCTとCCTには強い相関を認めた(r=0.6978,p<0.001)(図7~9).III考察アイケアは,スイッチを押すとプローブが発射され,角膜と接触する.プローブと角膜が接触した瞬間にプローブの速度は,眼圧の高さに従って減速する.その減速度を分析し眼圧を測定する仕組みになっている.アイケアの測定精度について正常群および緑内障群を対象に行われた豊原らの報告では,アイケアとGATによる眼圧値には正常群,緑内障群ともに強い有意な相関がみられたとしている(正常群:r=0.785,p<0.001,緑内障群:r=0.761,p<0.001)2).また,アイケアとNCTによる眼圧値には正常群,緑内障群ともに強い有意な相関がみられたと報告されている(正常群:r=0.786,p<0.001,緑内障群:r=0.886,p<0.001).今回正常群を対象とした筆者らの報告でも,アイケアとGAT(r=0.7610,p<0.001),アイケアとNCT(r=0.7946,p<0.001)による眼圧値では強い相関が認められた.また,アイケアの眼圧値の平均はGATと比較してアイケアのほうがGATより高いとの報告もあるが2,3),今回の筆者らの報告ではアイケアとGATの眼圧値に有意差は認めなかった(p=0.4253).今回アイケアとGATの眼圧値に有意差を認めなかった理由としては,既報の角膜厚の平均が552.6±29.6(496.613)μmであったのに対して,今回検討を行った対象症例では角膜厚の平均が515.7±39.9(463.565)μmと比較的角膜厚が薄かったことが考えられる.以前よりNCT,アイケアの眼圧値においてCCTによる影響が指摘されているが,最近の報告では角膜曲率半径・角膜粘弾性が眼圧値に強く影響するという報告もある4).Gulerらは,NCTとCCT(r=0.327,p<0.001),アイケアとCCT(r=0.212,p<0.05)に相関を認め,CCTが10μm厚くなるとNCTは0.33mmHg,アイケアは0.18mmHg眼圧値が上昇すると報告している5).筆者らの報告でも,NCTとCCT(r=0.4964,p<0.05),アイケアとCCT(r=0.6978,p<0.05)に相関が認められた.圧平原理に基づく眼圧測定においては,角膜の変形しやす1216あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015さが眼圧測定の正確さに反映される.角膜の変形しやすさは,おもに角膜曲率半径・中心角膜厚・角膜粘弾性などの角膜因子の個体差によって影響される6).水分含有量の多い生体組織である角膜は,外力に対して瞬間的には弾性の反応を示すが,時間依存的には弾性ではなく粘性も併せもつ粘弾性という特性をもっている.短時間で角膜を圧平した場合は硬くて変形しにくいが,比較的長時間連続して力を加えるとゆっくり変形し,力を緩めるとゆっくり元に戻る.そのため,瞬間的に角膜を圧平するNCTやアイケアではGATより角膜粘弾性の影響を受けやすいと考えられる.CCTの眼圧値への影響については,GAT<アイケア<NCTの順で影響を受けやすいという報告が多い.NCTではairpulseを数ミリ秒単位で噴出し,角膜を圧平するが,その平坦面が直径3.60mmの円になるのに要する時間を測定し,眼圧を算出している.そのため,アイケアに比較して圧平面積が大きく,角膜厚や角膜粘弾性の影響を受けやすくなると考えられる.今回の報告でもCCTとの間にNCTのほうがアイケアより強い相関を認め,既報と同様にアイケアよりNCTのほうがCCTによる影響を受けやすい可能性が示唆された.アイケア,NCTそれぞれのSCL装用眼での眼圧値についてはさまざまな報告がなされている.NCTではSCL装用時に眼圧値は低下し,その値はレンズパワーやSCLの素材によっても変化すると報告されている7).Zeriらはアイケアの眼圧値はシリコーンハイドロゲルのSCLでは差がなく,ハイドロゲルのSCLでは眼圧値が低下すると報告しており,NCTと同様にSCLの素材とレンズパワーによって眼圧値が変化するとしている8).稲葉らは含水率による影響についても言及しており,低含水率のハイドロゲルレンズでは眼圧値に差がない,高含水率のハイドロゲルレンズでは眼圧値が低下すると報告している7).NCT,アイケアでSCL装用時に眼圧値が変化した要因としては,SCLを装用することにより眼表面の曲率半径が変化したこと,SCL装用により見かけ上の角膜厚が変化したこと,SCLを含めた角膜表面の剛性が変化したことにより角膜粘弾性が変化したこと,などが考えられている.自験例でも既報と同様に高含水率のハイドロゲルSCLを使用しNCT・アイケアの眼圧値が低下した.SCL装用により角膜全体の厚みは増したはずであるが,眼圧値は低下している.この理由としては,SCL装用による角膜全体の厚みの増加による影響よりも,角膜曲率半径が低下したこと,角膜粘弾性が変化したことなどが眼圧値に影響したからではないかと考えられる.SCL装用後のアイケアとGATに有意差は認めなかったが,SCL装用後のNCTの測定値はGATに比較して有意に低下することがわかった.この理由としては,SCL非装用(150) 時と同様にNCTに比べアイケアは,圧平面積が小さく,角膜厚,曲率半径,角膜粘弾性の影響を受けにくくなっていることなどが理由として考えられる.今回筆者らはSCL装用前と装用後の曲率半径を測定しなかったが,UlfaらはSCL装用時と非装用時の曲率半径を計測し.5.0D,.0.5D,SCL非装用時,+5.0Dにおいて,それぞれ角膜曲率半径が8.3±0.86,7.59±0.73,7.52±0.58,6.94±0.6と変化すると報告している9).SCL非装用時と.0.5DのSCL装用時の曲率半径の差はわずかであり,今回の筆者らの報告では曲率半径が眼圧値にどの程度影響を与えたのか考えることはむずかしい.曲率半径の眼圧値への影響を詳細に示すためには今後さまざまなレンズパワーを用いて眼圧を測定し,曲率半径と眼圧値との相関をみる必要がある.以上,まとめとしてアイケア,NCT,GATを比較して眼圧値には強い相関が認められた.アイケアは眼圧測定において有用であることがわかった.また,SCL装用眼ではアイケアの眼圧値は装用前に比べて低下するが,GATの測定値と比べて有意差はなく,SCL装用時の眼圧測定としてもアイケアは有用である可能性が示唆された.文献1)LiuYC,HuangJY,WangIJ:Intraocularpressuremeasurementwiththenoncontacttonometerthroughsoftcontactlenses.JGlaucoma20:179-182,20112)豊原勝利,井上賢治,若倉雅登ほか:アイケア手持ち眼圧計,Goldmann圧平式眼圧計,ノンコンタクト眼圧計の比較.あたらしい眼科24:355-359,20073)FernandesP,Diaz-ReyJA,QueirosA:ComparisonoftheICarereboundtonometerwiththeGoldmanntonometerinanormalpopulation.OphthalmicPhysiolOpt25:436-440,20054)ShinJ,LeeJW,KimEA:Theeffectofcornealbiomechanicalpropertiesonreboundtonometerinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol159:144154,20155)GulerM,BilakS,BilginB:ComparisonofintraocularpressuremeasurementsobtainedbyIcarePROreboundtonometer,andGoldmannapplanationtonometerinhealthysubjects.JGlaucoma,2014Sep26(Epubaheadofprint)6)鈴木克佳,相良健,西田輝夫:眼圧測定の問題点真の眼圧値を求めて.臨眼63:1571-1576,20097)稲葉昌丸:コンタクトレンズ上の眼圧測定.あたらしい眼科25:945-947,20088)ZeriF,CalcatelliP,DoniniB:Theeffectofhydrogelandsiliconehydrogelcontactlensesonthemeasurementofintraocularpressurewithreboundtonometry.ContLensAnteriorEye34:260-265,20119)RimayantiU,KiuchiY,UemuraS:Ocularsurfacedisplacementwithandwithoutcontactlensesduringnon-contacttonometry.PLoSONE9:e96066,2014***(151)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151217

手持ち眼圧計Icare®PRO の座位・仰臥位における眼圧精度と有用性

2015年7月31日 金曜日

《(00)1022(100)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(7):1022.1026,2015cはじめに手持ち眼圧計の一つであり2005年10月に発売されたIcareR(IcareFinlandOy)(以下,Icare)は麻酔不要で簡便に眼圧を測定することが可能である.そのためノンコンタクトトノメータ(NCT)で測定が困難な小児や寝たきりの患者,また緑内障患者における仰臥位での測定に多く用いられ〔別刷請求先〕都村豊弘:〒761-1703香川県高松市香川町浅野1260高松市民病院附属香川診療所眼科Reprintrequests:ToyohiroTsumura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TakamatsuMunicipalHospitalKagawaClinic,1260Asano,Kagawa-cho,Takamatsu761-1703,JAPAN手持ち眼圧計IcareRPROの座位・仰臥位における眼圧精度と有用性都村豊弘高松市民病院附属香川診療所眼科ClinicalEvaluationoftheNewReboundTonometerIcarePROintheSittingandSupinePositionsToyohiroTsumuraDepartmentofOphthalmology,TakamatsuMunicipalHospitalKagawaClinic目的:手持ち眼圧計IcareRの改良版であるIcareRPROにつき,他の眼圧計と比較し精度や有用性について検討した.対象および方法:対象は2013年7.9月に当診療所を受診し,本研究について同意が得られた168例168眼(右眼).座位でノンコンタクトレンズトノメータ(NCT),Icare,IcarePRO,Goldmann眼圧計(GAT)の順番で測定.つぎに仰臥位で5分間安静後IcareRPROで測定,その後顔を横に向けIcareで測定し,得られた眼圧値を比較・検討した.結果:座位での平均眼圧値はNCT13.7±3.5mmHg,Icare14.2±3.9mmHg,IcarePRO13.6±3.1mmHg,GAT12.8±3.3mmHg.仰臥位での平均眼圧値はIcarePRO15.6±3.2mmHg,Icare16.0±3.1mmHgであった.座位・仰臥位を含めた相関係数は0.813.0.943と強い相関があった.仰臥位に伴う眼圧上昇平均値はIcare1.79±1.77mmHg,Icare-PRO2.04±1.58mmHgであった.結論:IcarePROはIcareに比べNCTやGATとの眼圧値差やばらつきが少なく再現性に優れ,座位・仰臥位においても強い相関があったことからIcareより有用な機器であることが示唆された.Purpose:Tocompareandevaluateintraocularpressure(IOP)measurmentsobtainedbyuseoftheIcarePROandIcarereboundtonometers(IcareFinlandOy,Vantaa,Finland),anon-contacttonometer(NCT),andaGoldma-nnapplanationtonometer(GAT)inthesittingposition,andtheIcarePROandIcareinthesupineposition.Sub-jectsandMethods:Thisstudyinvolved168righteyesof168patientsseenatmyclinicbetweenJulyandSep-tember2013.IOPmeasurementswereobtainedinthesittingpositionusingNCT,Icare,IcarePRO,andGAT.Inthesupineposition,IOPmeasurementsweretakenusingIcarePROandIcare.Themean±standarddeviationIOPmeasurementsofalltonometerswerethencompared.Statisticalagreementbetweenthetonometerswascalculatedusingat-test,correlationanalysis,andtheBland-Altmanmethod.Results:ThemeanIOPsobtainedinthesittingpositionbyNCT,Icare,IcarePRO,andGATwere13.7±3.5mmHg,14.2±3.9mmHg,13.6±3.1mmHg,and12.8±3.3mmHg,respectively.CorrelationanalysisofthesedataindicatedagoodcorrelationbetweenIOPreadingsobtainedbyuseofalltonometers(r=0.813.0.943).ThemeanIOPsobtainedinthesupinepositionbyIcarePROandIcarewere15.6±3.2mmHgand16.0±3.1mmHg,respectively.Conclusion:IOPmeasurementsobtainedbyuseoftheIcarePROshowgoodcorrelationandagreementwiththoseobtainedbyuseofIcare,NCT,andGATinthesittingpositionandIcareinthesupineposition.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1022.1026,2015〕Keywords:眼圧,座位,仰臥位,アイケア,アイケアPRO.intraocularpressure,sittingposition,supineposi-tion,Icare,IcarePRO. あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151023(101)るようになった.しかし,本機器での測定値はNCTやGoldmann眼圧計(GAT)に比べて高めに出やすい傾向があり,また仰臥位での測定では下に向けて測定できないため顔を横に向ける必要があった.そこで同社では改良版として,下に向けても測定が可能で,プローブも滅菌化されたIcareRPRO(以下,IcarePRO)を開発し2012年10月わが国でも発売開始した.そこでIcarePROに関してIcareならびに他の眼圧計と比較し眼圧精度や有用性について検討した.I対象および方法対象は2013年7.9月に当診療所を受診し,内眼手術の既往がなく,本研究について口頭で同意が得られた168例168眼である.測定眼はすべて右眼とした.内訳は男性66名,女性102名,平均年齢は72.8±9.9(15.94)歳であった.眼圧測定は以下の順序で行った.検者はNCTに関しては当診療所スタッフ2名で行い,それ以外は筆者1名がすべての症例の測定を行った.まず座位で①NCT(TOPCONCT-90A),②Icare,③IcarePRO,④GAT,つぎに仰臥位で5分間安静後⑤IcarePRO,その後顔を横に向けて⑥Icareで測定した.NCTでは測定を3回,Icare,IcarePROについては測定を6回行い,表示された眼圧値の平均を算出した.得られた眼圧値はt検定,相関,Bland-Altman分析を用いて比較・解析を行った.系統誤差に関しては本研究の誤差の許容範囲を「誤差の許容範囲(limitsofagreement:LOA)」と定義し2機種の差の平均(d),その値の標準偏差(SD),95%信頼区間の定義値(1.96)より95%LOAとしてd±1.96SDの式で算出することができる1).d±1.96SDの範囲が機種間の誤差として許容範囲内であるかどうかを検討した.さらに対象者を正常群122名(男性35名,女性87名,平均年齢73.5±8.5歳)と視野異常を認め点眼などの加療を行っている緑内障〔このなかに狭義の原発開放隅角緑内障(POAG)と正常眼圧緑内障(NTG)を含む〕群46名(男性31名,女性15名,平均年齢71.0±12.8歳)に分類した.そしてIcareとIcarePROで座位,仰臥位での測定値を基にt検定で解析し,仰臥位に伴う眼圧値の変化が正常者と緑内障患者で差異があるかどうかを検討した.統計処理に関して統計ソフトはMicrosoftOfficeExcelを使用しt検定の有意水準は5%未満とした.II結果測定機器ごとの結果を示す.座位における平均眼圧値はNCT13.7±3.5mmHg,Icare14.2±3.9mmHg,Icare-PRO13.6±3.1mmHg,GAT12.8±3.3mmHgであった.仰臥位における平均眼圧はIcarePRO15.6±3.2mmHg,Icare16.0±3.1mmHgであった.各機器間においてNCTとIcarePRO間を除いて有意差があった(対応のあるt検定:有意差ありの機器間のp値はすべてp<0.003,NCT-Icare-PRO間はp=0.390)(図1).次にIcare,IcarePROとNCT間,Icare,IcarePROとGAT間における相関関係の図を示す(図2,3).それぞれの機器間におけるPearsonの相関係数(.1<r<+1)はr=0.893.0.921となり強い相関を認めた.また,座位・仰臥位を含めた各測定機器間すべてにおけるPearsonの相関係数もr=0.813.0.943となり強い相関を認めた.座位におけるBland-Altman分析を行ったところ,Icare-NCT間の差は平均が0.58mmHgで95%LOAは.2.41.3.56mmHg,Icare-GAT間の差は平均が1.47mmHgで95%LOAは.1.99.4.93mmHgであった.それに対しIcare-PRO-NCT間の差は平均が.0.10mmHgで95%LOAは.3.06.2.86mmHg,IcarePRO-GAT間の差は平均が0.79mmHgで95%LOAが.1.99.3.58mmHgとなり,GATとの比較においてIcarePROのほうがIcareに比べてばらつきが少なく再現性に優れているという結果となった(図4,5).仰臥位に伴うIcare,IcarePROを用いた眼圧上昇度の分布をみると,上昇度が1.2mmHg台はIcarePROのほうが多いがそれ以上になるとIcareのほうが多い結果となった.逆に仰臥位になることで眼圧が低下した症例もIcareで11眼(6.5%),IcarePROで9眼(5.4%)あった(図6).両機種における眼圧上昇平均値はIcareが1.79±1.77mmHg,IcarePROが2.04±1.58mmHgとIcarePROが約2mmHg高値であったが有意差はなかった(p=0.171,t検定).さらに対象者を正常群と緑内障群に分けて解析したところ正常群における眼圧上昇度はIcareが1.7±1.7mmHg,IcarePROが2.0±1.5mmHgだったのに対し,緑内障群ではIcareが2.1±1.9mmHg,IcarePROが2.3±1.8mmHgであった.ただし正常群間,緑内障群間,同一機種間において眼圧上昇度における有意差はなかった(t検定p値:正常群間p=0.072,緑内障群間p=0.490,Icare間p=0.187,IcarePRO間p=図1各眼圧計における眼圧平均値の比較数値は眼圧平均値±標準偏差.0510152025NCTIcareIcarePROGATIcarePROIcare眼圧値(mmHg)座位仰臥位13.7±3.514.2±3.913.6±3.112.8±3.315.6±3.216.0±3.1あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151023(101)るようになった.しかし,本機器での測定値はNCTやGoldmann眼圧計(GAT)に比べて高めに出やすい傾向があり,また仰臥位での測定では下に向けて測定できないため顔を横に向ける必要があった.そこで同社では改良版として,下に向けても測定が可能で,プローブも滅菌化されたIcareRPRO(以下,IcarePRO)を開発し2012年10月わが国でも発売開始した.そこでIcarePROに関してIcareならびに他の眼圧計と比較し眼圧精度や有用性について検討した.I対象および方法対象は2013年7.9月に当診療所を受診し,内眼手術の既往がなく,本研究について口頭で同意が得られた168例168眼である.測定眼はすべて右眼とした.内訳は男性66名,女性102名,平均年齢は72.8±9.9(15.94)歳であった.眼圧測定は以下の順序で行った.検者はNCTに関しては当診療所スタッフ2名で行い,それ以外は筆者1名がすべての症例の測定を行った.まず座位で①NCT(TOPCONCT-90A),②Icare,③IcarePRO,④GAT,つぎに仰臥位で5分間安静後⑤IcarePRO,その後顔を横に向けて⑥Icareで測定した.NCTでは測定を3回,Icare,IcarePROについては測定を6回行い,表示された眼圧値の平均を算出した.得られた眼圧値はt検定,相関,Bland-Altman分析を用いて比較・解析を行った.系統誤差に関しては本研究の誤差の許容範囲を「誤差の許容範囲(limitsofagreement:LOA)」と定義し2機種の差の平均(d),その値の標準偏差(SD),95%信頼区間の定義値(1.96)より95%LOAとしてd±1.96SDの式で算出することができる1).d±1.96SDの範囲が機種間の誤差として許容範囲内であるかどうかを検討した.さらに対象者を正常群122名(男性35名,女性87名,平均年齢73.5±8.5歳)と視野異常を認め点眼などの加療を行っている緑内障〔このなかに狭義の原発開放隅角緑内障(POAG)と正常眼圧緑内障(NTG)を含む〕群46名(男性31名,女性15名,平均年齢71.0±12.8歳)に分類した.そしてIcareとIcarePROで座位,仰臥位での測定値を基にt検定で解析し,仰臥位に伴う眼圧値の変化が正常者と緑内障患者で差異があるかどうかを検討した.統計処理に関して統計ソフトはMicrosoftOfficeExcelを使用しt検定の有意水準は5%未満とした.II結果測定機器ごとの結果を示す.座位における平均眼圧値はNCT13.7±3.5mmHg,Icare14.2±3.9mmHg,Icare-PRO13.6±3.1mmHg,GAT12.8±3.3mmHgであった.仰臥位における平均眼圧はIcarePRO15.6±3.2mmHg,Icare16.0±3.1mmHgであった.各機器間においてNCTとIcarePRO間を除いて有意差があった(対応のあるt検定:有意差ありの機器間のp値はすべてp<0.003,NCT-Icare-PRO間はp=0.390)(図1).次にIcare,IcarePROとNCT間,Icare,IcarePROとGAT間における相関関係の図を示す(図2,3).それぞれの機器間におけるPearsonの相関係数(.1<r<+1)はr=0.893.0.921となり強い相関を認めた.また,座位・仰臥位を含めた各測定機器間すべてにおけるPearsonの相関係数もr=0.813.0.943となり強い相関を認めた.座位におけるBland-Altman分析を行ったところ,Icare-NCT間の差は平均が0.58mmHgで95%LOAは.2.41.3.56mmHg,Icare-GAT間の差は平均が1.47mmHgで95%LOAは.1.99.4.93mmHgであった.それに対しIcare-PRO-NCT間の差は平均が.0.10mmHgで95%LOAは.3.06.2.86mmHg,IcarePRO-GAT間の差は平均が0.79mmHgで95%LOAが.1.99.3.58mmHgとなり,GATとの比較においてIcarePROのほうがIcareに比べてばらつきが少なく再現性に優れているという結果となった(図4,5).仰臥位に伴うIcare,IcarePROを用いた眼圧上昇度の分布をみると,上昇度が1.2mmHg台はIcarePROのほうが多いがそれ以上になるとIcareのほうが多い結果となった.逆に仰臥位になることで眼圧が低下した症例もIcareで11眼(6.5%),IcarePROで9眼(5.4%)あった(図6).両機種における眼圧上昇平均値はIcareが1.79±1.77mmHg,IcarePROが2.04±1.58mmHgとIcarePROが約2mmHg高値であったが有意差はなかった(p=0.171,t検定).さらに対象者を正常群と緑内障群に分けて解析したところ正常群における眼圧上昇度はIcareが1.7±1.7mmHg,IcarePROが2.0±1.5mmHgだったのに対し,緑内障群ではIcareが2.1±1.9mmHg,IcarePROが2.3±1.8mmHgであった.ただし正常群間,緑内障群間,同一機種間において眼圧上昇度における有意差はなかった(t検定p値:正常群間p=0.072,緑内障群間p=0.490,Icare間p=0.187,IcarePRO間p=図1各眼圧計における眼圧平均値の比較数値は眼圧平均値±標準偏差.0510152025NCTIcareIcarePROGATIcarePROIcare眼圧値(mmHg)座位仰臥位13.7±3.514.2±3.913.6±3.112.8±3.315.6±3.216.0±3.1 1024あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(102)0.241)(図7).III考按点眼麻酔が不要で下に向けて測定が可能な手持ち眼圧計としてIcarePROが国内では2012年7月に発売された.Icareと比べてIcarePROのその他の特徴としては,①表示画面の拡大,②1,000件以上の測定結果を保存でき画面に表示するだけでなくUSB経由でPCに転送可能,③測定プローブが図2Icare,IcarePROとNCTによる眼圧値の比較IcareおよびIcarePROとNCTによる眼圧測定値の散布図.実線は近似回帰直線.Icare:Y=1.03X+0.15,IcarePRO:0.81X+2.44.Pearsonの相関係数はIcare:0.921,IcarePRO:0.901.051015202530051015202530NCT(mmHg)Icare(mmHg)051015202530051015202530NCT(mmHg)IcarePRO(mmHg)図3Icare,IcarePROとGATによる眼圧値の比較IcareおよびIcarePROとGATによる眼圧測定値の散布図.実線は近似回帰直線.Icare:Y=1.06X+0.73,IcarePRO:0.86X+2.54.Pearsonの相関係数はIcare:0.893,IcarePRO:0.903.051015202530051015202530GAT(mmHg)Icare(mmHg)051015202530051015202530GAT(mmHg)IcarePRO(mmHg)図4Icare,IcarePROとNCTの眼圧値のBland.AltmanPlotによる比較実線は対象機種の差の平均値〔d(Icare):0.58mmHg,d(IcarePRO):.0.10mmHg〕,点線はLOA:d±1.96x標準偏差(SD)(Icare上限:3.56mmHg,下限:.2.41mmHg,IcarePRO上限:2.86mmHg,下限:.3.06mmHg).-5-4-3-2-1012345678051015202530IcareとNCTの眼圧平均値(mmHg)IcareとNCTの眼圧差(mmHg)-5-4-3-2-1012345678051015202530IcarePROとNCTの眼圧平均値(mmHg)IcarePROとNCTの眼圧差(mmHg)dd+1.96×SDd-1.96×SDdd+1.96×SDd-1.96×SD-5-4-3-2-1012345678051015202530IcareとGATの眼圧平均値(mmHg)IcareとGATの眼圧差(mmHg)-5-4-3-2-1012345678051015202530IcarePROとGATの眼圧平均値(mmHg)IcarePROとGATの眼圧差(mmHg)d+1.96×SDd-1.96×SDd+1.96×SDd-1.96×SDdd図5Icare,IcarePROとGATの眼圧値のBland.AltmanPlotによる比較実線は対象機種の差の平均値〔d(Icare):1.47mmHg,d(IcarePRO):0.79mmHg〕,点線はLOA:d±1.96x標準偏差(SD)(Icare上限:4.93mmHg,下限:.1.99mmHg,IcarePRO上限:3.58mmHg,下限:.1.99mmHg). (103)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151025滅菌済製品として提供されるなどがあげられる.ただし測定画面が大きくなった分,幅が32mmから46mmと拡大し重量も250gから275gと若干重くなっている.今回Icare-PROの眼圧測定値に関してIcareならびに他の眼圧計と比較し精度や有用性について検討した.IcarePROで測定した眼圧値の精度に関してはGATとの比較を中心に多くの報告がなされている.対象患者数や緑内障患者か否かの割合が論文ごとに異なるものの,IcarePROの平均眼圧値はGATと比べて差が.0.9.0.7mmHgの範囲で報告されている2.7).今回座位でIcare,IcarePROで得られた測定値をNCT,GATそれぞれと比較したところ,IcareはNCTより0.5mmHg,GATより1.4mmHg高かった.一方,IcarePROはGATより0.8mmHg高かったがNCTより0.1mmHg低く,測定機器間で唯一有意差もなかった.また,NCTやGATとのBland-Altman分析において,IcarePROはIcareに比べて測定値のばらつきはNCTでは変わりなかったが,GATとの比較ではIcarePROのほうが少なかった.GATの眼圧測定値がgoldstandardである8)という現状からすればIcarePROの測定値はGATに近づいたことになり,その結果測定精度はIcareより改善されていると思われた.仰臥位による眼圧上昇に関しては今までにも他の眼圧計による多数の報告例がある.Pneumatonometer(Reichert社)を用いたものでは座位と比べて3.9.4.2mmHg上昇したとの報告がある9,10).TonopenRXL,TonopenRAVIA(Reichert社)などを用いたものでは0.76.2.2mmHg上昇したとの報告がある6,9.12).また,本研究で用いたIcarePROで測定した仰臥位による眼圧上昇に関してもいくつかの報告例がある.これも対象患者において緑内障の有無などが異なるが,平均上昇値が.0.9.2.9mmHgであった6,7,9,13).報告例の大半では平均値は上昇しているものの,なかには0.9mmHg低下した報告例もある9).当診療所で調査した結果では座位と比べIcareで1.8mmHg,IcarePROで2.0mmHgの上昇を認め両機器間における有意差はなかった.この結果はIcarePROに関しては報告例の範囲内ではあった.また,対象者を正常群と緑内障群に分けて眼圧上昇度をみたところ,緑内障群のほうが若干高値であったがこれも有意差はなかった.過去の報告6,7,9,13)でも緑内障患者における上昇度が高い傾向があり,本研究もそれに沿った結果となった.仰臥位に伴う眼圧上昇は緑内障における眼圧の日内変動において重要なファクターである.Kiuchiらは正常眼圧緑内障患者において仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅とMDslopeとの関係を調べたところ,有意な負の相関を認めたと報告している14).このことから,緑内障治療向上のためには仰臥位眼圧上昇幅も可能な限り小さくすることが必要であると思われる.本研究でもIcarePROによる測定で眼圧が7.4mmHg上昇した症例があった.仰臥位でIcareのように顔を横に向ける手間がなく簡便に測定できるIcarePROは,緑内障患者に対する治療方針決定において有用な機器であると思われた.このようにIcareの欠点を改善したIcarePROは眼圧測定精度などでIcareより優位であることが示された.そのため仰臥位での眼圧測定など,眼圧の日内変動を中心とした緑内障の治療方針の決定にこれまで以上に役立つことが考えられる.以上のことからIcarePROはIcareよりも有用であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし【文献】1)BlandM,AltmanDG:Statisticalmethodsforassessingagreementbetweentwomethodsofclinicalmeasurement.Lanset1:307-310,19862)HladikovaE,PluhacekF,MaresovaK:ComparisonofmeasurementofintraocularpressurebyICAREPRORtonometerandGoldmannapplanationtonometer.Cesk0510152025303540割合(%)■Icare■IcarePRO-3.0~-2.1-2.0~-1.1-1.0~-0.10.0~0.91.0~1.92.0~2.93.0~3.94.0~4.95.0~5.96.0~6.97.0~7.9眼圧上昇度(mmHg)図6Icare,IcarePROによる仰臥位に伴う眼圧上昇度の分布0510152025Icare(N)IcarePRO(N)Icare(G)IcarePRO(G)眼圧値(mmHg)13.5±3.415.2±3.613.0±2.714.9±2.816.2±4.518.3±4.715.2±3.617.4±3.6■座位■仰臥位図7正常者と緑内障患者別における仰臥位に伴う眼圧上昇度の比較N:正常群,G:緑内障群.数値は眼圧平均値±標準偏差.0510152025303540割合(%)■Icare■IcarePRO-2.0~-1.10.0~0.92.0~2.94.0~4.96.0~6.9-3.0~-2.1-1.0~-0.11.0~1.93.0~3.95.0~5.97.0~7.9眼圧上昇度(mmHg)図6Icare,IcarePROによる仰臥位に伴う眼圧上昇度の分布滅菌済製品として提供されるなどがあげられる.ただし測定画面が大きくなった分,幅が32mmから46mmと拡大し重量も250gから275gと若干重くなっている.今回IcarePROの眼圧測定値に関してIcareならびに他の眼圧計と比較し精度や有用性について検討した.IcarePROで測定した眼圧値の精度に関してはGATとの比較を中心に多くの報告がなされている.対象患者数や緑内障患者か否かの割合が論文ごとに異なるものの,IcarePROの平均眼圧値はGATと比べて差が.0.9.0.7mmHgの範囲で報告されている2.7).今回座位でIcare,IcarePROで得られた測定値をNCT,GATそれぞれと比較したところ,IcareはNCTより0.5mmHg,GATより1.4mmHg高かった.一方,IcarePROはGATより0.8mmHg高かったがNCTより0.1mmHg低く,測定機器間で唯一有意差もなかった.また,NCTやGATとのBland-Altman分析において,IcarePROはIcareに比べて測定値のばらつきはNCTでは変わりなかったが,GATとの比較ではIcarePROのほうが少なかった.GATの眼圧測定値がgoldstandardである8)という現状からすればIcarePROの測定値はGATに近づいたことになり,その結果測定精度はIcareより改善されていると思われた.仰臥位による眼圧上昇に関しては今までにも他の眼圧計による多数の報告例がある.Pneumatonometer(Reichert社)を用いたものでは座位と比べて3.9.4.2mmHg上昇したとの報告がある9,10).TonopenRXL,TonopenRAVIA(Reichert社)などを用いたものでは0.76.2.2mmHg上昇したとの報告がある6,9.12).また,本研究で用いたIcarePROで測定した仰臥位による眼圧上昇に関してもいくつかの報告例がある.これも対象患者において緑内障の有無などが異なるが,平均上昇値が.0.9.2.9mmHgであった6,7,9,13).報告例の大半では平均値は上昇しているものの,なかには0.9mmHg低下した報告例もある9).当診療所で調査した結果では座位と比べIcareで1.8mmHg,IcarePROで2.0mmHgの上昇(103)0510152025Icare(N)IcarePRO(N)Icare(G)IcarePRO(G)眼圧値(mmHg)13.5±3.415.2±3.613.0±2.714.9±2.816.2±4.518.3±4.715.2±3.617.4±3.6■座位■仰臥位図7正常者と緑内障患者別における仰臥位に伴う眼圧上昇度の比較N:正常群,G:緑内障群.数値は眼圧平均値±標準偏差.を認め両機器間における有意差はなかった.この結果はIcarePROに関しては報告例の範囲内ではあった.また,対象者を正常群と緑内障群に分けて眼圧上昇度をみたところ,緑内障群のほうが若干高値であったがこれも有意差はなかった.過去の報告6,7,9,13)でも緑内障患者における上昇度が高い傾向があり,本研究もそれに沿った結果となった.仰臥位に伴う眼圧上昇は緑内障における眼圧の日内変動において重要なファクターである.Kiuchiらは正常眼圧緑内障患者において仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅とMDslopeとの関係を調べたところ,有意な負の相関を認めたと報告している14).このことから,緑内障治療向上のためには仰臥位眼圧上昇幅も可能な限り小さくすることが必要であると思われる.本研究でもIcarePROによる測定で眼圧が7.4mmHg上昇した症例があった.仰臥位でIcareのように顔を横に向ける手間がなく簡便に測定できるIcarePROは,緑内障患者に対する治療方針決定において有用な機器であると思われた.このようにIcareの欠点を改善したIcarePROは眼圧測定精度などでIcareより優位であることが示された.そのため仰臥位での眼圧測定など,眼圧の日内変動を中心とした緑内障の治療方針の決定にこれまで以上に役立つことが考えられる.以上のことからIcarePROはIcareよりも有用であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし【文献】1)BlandM,AltmanDG:Statisticalmethodsforassessingagreementbetweentwomethodsofclinicalmeasurement.Lanset1:307-310,19862)HladikovaE,PluhacekF,MaresovaK:ComparisonofmeasurementofintraocularpressurebyICAREPRORtonometerandGoldmannapplanationtonometer.Ceskあたらしい眼科Vol.32,No.7,20151025 SlovOftalmol70:90-93,20143)Moreno-MontanesJ,Martinez-de-la-CasaJM,SabaterALetal:ClinicalevaluationofthenewreboundtonometersIcarePROandIcareONEcomparedwiththeGoldmanntonometer.JGlaucoma:inprint,20144)Baneros-RojasP,MartinezdelaCasaJM,Arribas-PardoPetal:ComparisonbetweenGoldmann,IcareProandCorvisSTtonometry.ArchSocEspOftalmol89:260264,20145)SmedowskiA,WeglarzB,TarnawskaDetal:Comparisonofthreeintraocularpressuremeasurementmethodsincludingbiomechanicalpropertiesofthecornea.InvestOphthalmolVisSci55:666-673,20146)SchweierC,HansonJV,FunkJetal:RepeatabilityofintraocularpressuremeasurementswithIcarePROrebound,Tono-PenAVIA,andGoldmanntonometersinsittingandrecliningpositions.BMCOphthalmol13:44,20137)JablonskiKS,RosentreterA,GakiSetal:Clinicaluseofanewposition-independentreboundtonometer.JGlaucoma22:763-767,20138)InternationalOrganizationforStandardization.ISO8612:2009:OphthalmicInstruments─Tonometers.Geneva,ISOCopyrightOffice,20099)BarkanaY,GutfreundS:Measurementofthedifferenceinintraocularpressurebetweenthesittingandlyingbodypositionsinhealthysubjects:directcomparisonoftheIcareProwiththeGoldmannapplanationtonometer,PneumatonometerandTonopenXL.ClinExperimentOphthalmol42:608-614,201410)BarkanaY:Postalchangeinintraocularpressure:acomparisonofmeasurementwithaGoldmanntonometer,TonopenXL,Pneumatonometer,andHA-2.JGlaucoma23:e23-e28,201411)MosterSJ,FakhraieG,VenketeshRetal:RelationshipofcentralthicknesstoposturalIOPchangesinpatientswithandwithoutglaucomainsouthernIndia.IntOphthalmol32:307-311,201212)NakakuraS,MoriE,YamamotoM:Intradeviceandinterdeviceagreementbetweenareboundtonometer,IcarePRO,andthetonopenXLandKowahand-heldapplanationtonometerwhenusedinsittingandsupineposition.JGlaucoma:inprint201413)OzkokA,TamcelikN,CaparOetal:Posture-inducedchangesinintraocularpressure:comparisonofpseudoexfoliationglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol58:261-266,201414)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofprogressionofvisualfielddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientswithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology113:2150-2155,2006***(104)

ブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬3 カ月間投与の効果

2015年7月31日 金曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(7):1017.1021,2015cブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬3カ月間投与の効果新井ゆりあ*1塩川美菜子*1石田恭子*2井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科Efficacyofa3-MonthAdministrationofBrinzolamide/TimololMaleateFixedCombinationYuriaArai1),MinakoShiokawa1),KyokoIshida2),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:炭酸脱水酵素阻害点眼薬(CAI)とb遮断薬を,ブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更した症例を検討する.対象および方法:CAIとb遮断薬を使用中の原発開放隅角緑内障37例37眼を対象とした.CAIとb遮断薬を,washout期間なしでブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更した.眼圧を変更前と変更1,3カ月後に測定し,比較した.変更1カ月後にアドヒアランスのアンケートを施行した.結果:眼圧は変更前(17.1±2.5mmHg)と変更1カ月後(17.2±4.1mmHg),3カ月後(16.1±3.0mmHg)で同等だった(p=0.143).3例で投与中止となった.変更前後で点眼忘れに差はなく,60%が配合点眼薬を使い続けたいと答えた.結論:CAIとb遮断薬をブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更したところ,3カ月間にわたり眼圧が維持でき,アドヒアランスや患者の満足感も良好だった.Purpose:Toinvestigatetheefficacyofswitchingfromcarbonicanhydraseinhibitor(CAI)plusb-blockerstobrinzolamide/timololfixedcombination(BTFC)inopen-angleglaucomapatients.PatientsandMethods:Inthisstudy,37eyesof37open-angleglaucomapatientsusingCAIplusb-blockerswereinvestigated.EachparticipantwasinstructedtodiscontinueuseoftheCAIplusb-blockersandbeginusingBTFCwithoutawashingperiod.Intraocularpressure(IOP)at1-and3-monthspostswitchingmedicationswascomparedwiththatofatbaseline.At1-monthpostswitching,anevaluationofparticipantadherencewasconducted.Results:At1-and3-monthspostswitching,themeanIOPwas17.2±4.1mmHgand16.1±3.0mmHg,respectively,andwasequivalenttothatofatbaseline(17.1±2.5mmHg)(p=0.143).Threepatientsultimatelydroppedoutofthestudy.Thefrequencyofomissionofocularinstillationpostswitchingwasfoundtobeequivalenttothatofbeforetheswitch.Ofthepatientswhocompletedthestudy,60%preferredthecontinuoususeofBTFCoverCAIplusb-blockers.Conclusions:Inopen-angleglaucomapatientswhoswitchedtoBTFCfromCAIplusb-blockers,IOPwaseffectivelymaintainedandocularinstillationwaswell-tolerated,morestronglyadheredto,andpreferredoverthepreviousmedication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1017.1021,2015〕Keywords:ブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬,炭酸脱水酵素阻害点眼薬,b遮断点眼薬,眼圧,変更.brinzolamide/timololfixedcombination,carbonicanhydraseinhibitor,b-blockers,intraocularpressure,switching.はじめにブリンゾラミドとマレイン酸チモロールの配合点眼薬がわが国で発売されてから約1年が経過した.治療の選択肢が増えた一方,逆に選択に難渋することも少なくない.選択の一助として,それぞれの点眼薬の特性を知っておくことは,治療に際して有用である.海外においては,既存の緑内障点眼薬からブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更,あるいは追加投与した際の有効性が報告されている1.3)が,日本人を対象とした報告は少ない4,5).今回,炭酸脱水酵素阻害点眼薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)とb遮断点眼薬を使用中の症例に対して,〔別刷請求先〕新井ゆりあ:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:YuriaArai,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(95)1017 ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更を行い,短期間(3カ月間)の眼圧下降効果,アドヒアランスを前向きに検討した.I対象および方法2013年11月.2014年9月に井上眼科病院を受診した原発開放隅角緑内障で,CAIとb遮断点眼薬を使用中の37例37眼(男性13例,女性24例)を対象とした.CAIとb遮断点眼薬は各々3カ月間以上継続して使用している症例としたが,平均使用期間は66.8±41.9カ月(平均値±標準偏差)(15.173カ月)であった.平均年齢は71.1±10.4歳(40.88歳)であった.片眼該当症例は患眼を,両眼該当症例は右眼を対象とした.白内障手術以外の内眼手術を過去に施行した症例は除外した.白内障手術は11例で施行していたが,全例で手術後12カ月間以上経過していた.緑内障のレーザー治療は2例で施行していたが,全例でレーザー後12カ月間以上経過していた.その他に眼圧測定が正確に行うことができないと考えられる角膜疾患を有する症例やステロイド使用症例は除外した.CAIとb遮断点眼薬を,washout期間なしでブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(1日2回朝・夜点眼)に変更した.CAIとb遮断点眼薬以外の点眼薬は継続使用とした.眼圧を点眼薬変更前と変更1カ月後,3カ月後にGoldmann圧平眼圧計で測定した.眼圧測定時間は症例ごとにほぼ同一の時間とした.変更前2回の平均眼圧と,変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).さらに点眼薬変更前の使用薬剤数が3剤以下と4剤以上に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).点眼薬変更前に使用していたb遮断点眼薬の1日の点眼回数により1回群(イオン応答ゲル化チモロール,熱応答ゲル化チモロール,持続性カルテオロール,レボブノロール)と2回群(カルテオロール,水溶性チモロール,ニプラジロール)に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).なお,1日1回点眼のb遮断点眼薬の点眼時間は朝で統一した.眼圧測定時間は午前と午後に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).眼圧測定日の点眼は通常どおりに問1.①変更後に点眼を忘れたことはありますか?②変更前の点眼薬(どれか1つでも)を忘れたことはありますか?問2.①変更前の点眼薬と比較してどちらが良いですか?②その理由を聞かせてください。(複数回答可)図1点眼変更1カ月後のアンケート調査決められた時間に行ってもらった.変更1カ月後に,アドヒアランスについてのアンケートを施行し,点眼変更前後で比較した(Fisherの直接法検定)(図1).アンケートは検査員が文書を患者に渡し,記載してもらった.点眼薬変更前のCAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼薬変更前後の点眼忘れに関連があるかを調査した(Spearmanの順位相関係数).また,眼圧下降幅(2mmHg以上の下降,2mmHg未満の下降あるいは上昇,2mmHg以上の上昇)とアンケート結果の関連を調査した(c2検定).有意水準はいずれも,p<0.05とした.副作用,脱落例を来院時ごとに調査した.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.なお,本研究はオープンラベル,盲検なしの前向き研究である.II結果1.点眼変更前の使用薬剤数点眼薬変更前に使用していた緑内障点眼薬数は,2剤1例(2.7%),3剤19例(51.4%),4剤14例(37.8%),5剤3例(8.1%)で平均3.5±0.7剤であった.2.点眼変更前の使用薬剤点眼薬変更前に使用していた緑内障点眼薬の内訳は,b遮断点眼薬では,イオン応答ゲル化チモロール(0.5%)13例(35.1%),持続性カルテオロール(2%)6例(16.2%),熱応答ゲル化チモロール(0.5%)6例(16.2%),カルテオロール(2%)5例(13.5%),水溶性チモロール(0.5%)5例(13.5%),ニプラジロール1例(2.7%),レボブノロール1例(2.7%)であった.CAIでは,ブリンゾラミド28例(75.7%),ドルゾラミド(1%)9例(24.3%)であった.3.眼圧(全症例)変更前2回の平均眼圧は17.1±2.5mmHgであった.変更1カ月後は17.2±4.1mmHg,3カ月後は16.1±3.0mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3835)(図2).眼圧変化の内訳は,変更1カ月後では2mmHg以上の下降が10例(27.8%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が20例(55.6%),2mmHg以上の上昇が6例(16.7%)であった(図3).変更3カ月後では,2mmHg以上の下降が12例(35.3%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が19例(55.9%),2mmHg以上の上昇が3例(8.8%)であった.なお,1例は変更直後に眼瞼浮腫が出現し,点眼が中止となったため変更1カ月後の眼圧はこの症例を除外した36例で検討した.さらに2例は変更1カ月後に眼圧が上昇し,点眼が中止となったため変更3カ月後の眼圧はこれら2例を除外した34例で検討した.4.眼圧(サブ解析)点眼薬変更前の使用薬剤数が3剤以下の20症例では,眼圧は変更前16.3±2.1mmHg,変更1カ月後15.7±2.7mmHg,1018あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(96) 眼圧(mmHg)25201510NS50点眼変更眼変更1カ月後変更3カ月後図2点眼薬変更前後の眼圧あり,3例,8.1%あり,8例,21.6%なし,なし,34例,91.9%78.4%29例,変更前変更後図4アンケート結果(点眼忘れ)3カ月後15.7±2.9mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.4393).一方,4剤以上の17症例では,眼圧は変更前18.0±2.7mmHg,変更1カ月後18.9±4.8mmHg,3カ月後16.7±3.2mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.1002).点眼薬変更前に使用していたb遮断点眼薬が1日1回製剤の26症例では,眼圧は変更前17.4±2.3mmHg,変更1カ月後17.2±4.1mmHg,3カ月後16.5±2.7mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.2020).1日2回製剤の11症例では,眼圧は変更前16.4±3.1mmHg,変更1カ月後17.2±4.4mmHg,3カ月後15.2±3.7mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3598).眼圧測定時間が午前の9症例では,眼圧は変更前17.3±2.1mmHg,変更1カ月後17.2±5.2mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3898).午後の28症例では,眼圧は変更前17.0±2.7mmHg,変更1カ月後17.2±3.8mmHg,3カ月後16.1±3.0mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.0906).5.中止症例中止症例は3例(8.1%)であった.変更直後に眼瞼浮腫が出現した1例と変更1カ月後に眼圧が上昇した2例であった.眼瞼浮腫が出現した症例は,従来のイオン応答ゲル化チモロールとブリンゾラミドに戻したところ眼瞼浮腫は速やかに消退した.眼圧が上昇した症例は,1例は点眼変更前眼圧2mmHg以上下降,12例,35.3%2mmHg以上下降,10例,27.8%2mmHg以上上昇,3例,8.8%2mmHg以上上昇,6例,16.7%2mmHg未満の下降あるいは上昇,19例,55.9%2mmHg未満の下降あるいは上昇,20例,55.6%変更1カ月後変更3カ月後図3点眼薬変更後の眼圧変化無回答,1例,2.7%変更前,5例,13.5%変更後,21例,56.8%どちらでも良い,10例,27.0%図5アンケート結果(どちらの点眼薬を続けたいか)は21.5mmHgだったが,変更1カ月後に30mmHgに上昇し,従来の熱応答ゲル化チモロールとブリンゾラミドに戻したところ,その1カ月後に21mmHgに下降した.もう1例は,点眼変更前眼圧は20.5mmHgだったが,変更1カ月後に26mmHgに上昇し,従来の水溶性チモロールとドルゾラミドに戻したところ,その2カ月後に22mmHgに下降した.6.アンケート(変更1カ月後に施行,全症例)a.点眼変更前後で点眼忘れの有無(図4)「点眼忘れがあった」と回答したのは,変更前は8例(21.6%),変更後は3例(8.1%)で,変更前後で同等だった(p=0.1898).b.点眼変更前後のどちらの点眼薬を今後続けたいか(図5)変更前の点眼薬(b遮断点眼薬とCAIの併用)を続けたい5例(13.5%),変更後の配合点眼薬を続けたい21例(56.8%),どちらでも良い10例(27.0%),無回答1例(2.7%)であった.変更前後で薬剤を比較し,変更後の点眼薬の良かった点は,点眼回数の少なさ17例,かすみの軽減1例,目の刺激感が少ない3例,点眼時の不快感が軽減された1例,価格面での負担が減った1例だった.一方,気になる点は,充血2例,眩しく見える1例,他の点眼薬とキャップの色が同じで紛らわしい1例であった.(97)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151019 c.CAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼忘れチモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更で,眼圧は変更点眼薬変更前のCAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼薬前18.7±3.5mmHgから変更後16.5±2.9mmHgと,いずれ変更前後の点眼忘れは点眼薬変更前(p=0.4338,r=.も有意に下降したと報告した.今回は,CAIとb遮断点眼0.133),点眼薬変更後(p=0.6206,r=0.085)ともに関連が薬からブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬へなかった.の変更で,変更1カ月後では83.3%,3カ月後では91.2%のd.変更後の眼圧下降幅とアンケート結果症例で眼圧は維持,あるいは2mmHg以上の下降を示した.変更1カ月後の眼圧下降幅とアンケート結果の関連は,点配合点眼薬への変更により大多数の症例で眼圧下降効果を保眼忘れありでは変更前は2mmHg以上の下降が2例(25.0つことができると考えられる.%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が5例(62.5%),2アンケート調査によれば,変更前後で点眼忘れの有無に関mmHg以上の上昇が1例(12.5%)だった.3群で点眼忘れして有意差を認めなかったものの,「変更して良かった点」に差はなかった(p=0.8936,c2検定).変更後は2mmHgにはまず点眼回数の少なさがあげられた.また,今後も配合以上の下降が0例(0%),2mmHg未満の下降あるいは上昇点眼薬を使い続けたいと答えた患者が56.8%であった.患が2例(66.7%),2mmHg以上の上昇が1例(33.3%)だっ者の満足感が高く,アドヒアランスの向上に繋がることを期た.3群で点眼忘れに差はなかった(p=0.4660,c2検定).待したい.今回点眼薬変更後にどのような症例で眼圧が下降一方,点眼忘れなしでは変更前は2mmHg以上の下降が8するかを各々の因子別(点眼薬変更前の使用薬剤数,点眼薬例(27.6%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が15例(51.7変更前に使用していたb遮断点眼薬の点眼回数,眼圧測定%),2mmHg以上の上昇が5例(17.2%),中止が1例(3.4時間)に検討したが差はなかった.また,アンケート調査に%)だった.3群で点眼忘れに差はなかった(p=0.8936,c2よる点眼忘れやどちらの点眼薬を今後続けたいかの項目と眼検定).変更後は2mmHg以上の下降が10例(29.4%),2圧下降幅の関連を検討したが関連はなかった.つまり点眼薬mmHg未満の下降あるいは上昇が18例(52.9%),2mmHgの変更により全体では眼圧を維持できるが,個々の症例にお以上の上昇が5例(14.7%),中止が1例(2.9%)だった.3いては上昇したり,維持したり,下降したりする.しかし,群で点眼忘れに差はなかった(p=0.4660,c2検定).点眼変どのような症例で眼圧が下降するかについては明確な因子を更前後のどちらの点眼薬を今後続けたいかは,変更前の点眼検出することはできなかった.薬では2mmHg以上の下降が0例(0%),2mmHg未満の下Nagayamaら4)は,副作用として,点状表層角膜炎(1%),降あるいは上昇が1例(20.0%),2mmHg以上の上昇が3霧視(1%),眼刺激感(1%),眼掻痒感(1%),味覚異常(1例(60.0%),中止例が1例(20.0%)だった.変更後の配合%)を報告している.ブリンゾラミドおよびチモロールをそ点眼薬では2mmHg以上の下降が5例(23.8%),2mmHgれぞれ単剤で併用した際には霧視は3%,眼刺激感は2%で未満の下降あるいは上昇が15例(71.4%),2mmHg以上の出現した.今回の調査では,眼瞼浮腫,充血,羞明,眼掻痒上昇が1例(4.8%)だった.どちらでも良いでは2mmHg感などが副作用として出現した.CAIやb遮断点眼薬で報以上の下降が4例(40.0%),2mmHg未満の下降あるいは告されている徐脈や血圧の変動,眩暈などの全身性の副作用上昇が4例(40.0%),2mmHg以上の上昇が2例(20.0%)は出現しなかったが,変更により薬剤成分が変化していないだった.2mmHg以上の上昇が変更前点眼薬を有意に好んだためと考えられる.(p=0.0088,c2検定).以上より,CAIとb遮断点眼薬の併用症例に対してブリIII考按ンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬へ変更することで,眼圧下降は維持され,全身性の副作用はみられなかっブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬の追た.しかし,今回は3カ月間と短期間の調査であった.引き加・変更による眼圧下降効果については国内外で報告されて続き,長期継続使用時における安全性や,眼圧下降効果の継いる1.5).続的な検討が必要であろう.Kaback,Syedら1,2)によると,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬は,ベースラインから8.0.8.7mmHgの眼圧下降を示し,ブリンゾラミドまたはチモロー利益相反:利益相反公表基準に該当なしル単独投与に対して優越性が認められた.Lanzlら3)は,ブリンゾラミドおよびチモロールの単剤併用からブリンゾラミ文献ド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更で,眼圧は1)KabackM,ScoperSV,ArzenoG:Intraocularpressure変更前18.4±3.4mmHgから変更後16.6±2.9mmHg,ドルloweringefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedゾラミドおよびチモロールの単剤併用からブリンゾラミド・combinationcomparedwithbrinzolamide1%andtimolol1020あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(98) 0.5%.Ophthalmology115:1728-1734,20082)SyedMF,LoucksEK:Updateandoptimaluseofabrinzolamide-timololfixedcombinationinopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol5:1291-1296,20113)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,20114)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyofafixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20145)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertention.ClinOphthalmol8:389-399,2014***(99)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151021

カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):425.428,2015cカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較内田英哉*1鵜木一彦*2山林茂樹*3岩瀬愛子*4*1内田眼科*2うのき眼科*3山林眼科*4たじみ岩瀬眼科ComparisonofOcularHypotensiveEffectandSafetyBetweentheUnfixedCombinationofLong-ActingCarteolol2%HydrochlorideAddedtoLatanoprost0.005%andtheFixedCombinationOphthalmicSolutionofLatanoprost0.005%/TimololMaleate0.5%HideyaUchida1),KazuhikoUnoki2),ShigekiYamabayashi3)andAikoIwase4)1)UchidaEyeClinic,2)UnokiEyeClinic,3)YamabayashiEyeClinic,4)TajimiIwaseEyeClinicカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用と,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性を比較検討した.ラタノプロスト点眼が4週以上単剤投与され,効果不十分な原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者44例44眼に対し,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液併用群(22眼)またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液切り替え群(22眼)に振り分け,眼圧下降効果および副作用を検討した.点眼変更後4週および8週後の併用群と配合剤群は,変更前に比べ有意な眼圧下降(p<0.0001)を示し,眼圧下降効果に両群間での差はなかった(p=0.054,p=1.000).点眼時眼刺激感は配合剤群で多かった.カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液と同等の眼圧下降効果が得られ,忍容性に優れていた.Inthisstudy,wecomparedtheintraocularpressure(IOP)reductionandsafetybetweenlong-actingcarteolol2%hydrochloride(LA)addedtolatanoprost0.005%(Lat)andthefixedcombinationophthalmicsolutionofLat/Timololmaleate0.5%.Forty-foureyesof44patientswithopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhohadaninsufficientresponsetoLatmonotherapywereenrolled.IOPreductionaswellasgeneralandtopicalsideeffectswerecomparedbetweentheunfixedcombinationgroup(22eyes)andthefixedcombinationgroup(22eyes).SignificantIOPreductionwasobservedinalleyesofbothgroupsatthe4-and8-weekfollow-upperiodsafterswitchingtherapy(p<0.0001).NostatisticallysignificantdifferencesinIOPreductionwerefoundbetweenthetwogroups(p=0.054and1.000,respectively).Eyesurfaceirritationwasmorefrequentlyobservedinthefixedcombinationgroup.ThefindingsofthisstudyshowedthatIOPreductionintheunfixedcombinationgroupwassimilartothatinthefixedcombinationgroup,yetwithlesssideeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):425.428,2015〕Keywords:ラタノプロスト,カルテオロール,配合剤,眼圧,刺激感.latanoprost,carteolol,fixedcombinationophthalmicsolution,intraocularpressure,irritation.はじめになり,点眼薬への反応,あるいは個人の背景因子など多様化緑内障疫学調査(多治見スタディ)1)より,わが国の40歳することが想像される.以上の20人に1人は緑内障であり,その9割が未治療であ緑内障診療ガイドライン2)では,薬剤による眼圧下降治療ると報告されている.今後,点眼治療を要する患者数は多くは単剤(単薬)から開始し,眼圧下降が不十分な場合に作用〔別刷請求先〕内田英哉:〒500-8879岐阜市徹明通4-18内田眼科Reprintrequests:HideyaUchida,M.D.,UchidaEyeClinic,4-18Tetsumei-dori,Gifu-shi,Gifu500-8879,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(115)425 機序の異なる薬剤による多剤併用療法を行うことを推奨しており,上記の多彩さのなかでは,追加眼圧下降効果とともに副作用に留意する必要がある.こうした,点眼治療薬の選択には多くの組み合わせが必要である.一方,わが国でも,アドヒアランスの向上を目的とした配合剤が発売され,多剤併用療法時の選択肢として広く臨床使用されている.しかし,配合剤に含まれる有効成分は併用で使用される場合と比べて,1日当たりの点眼回数が少ない場合もあり,眼圧下降作用が併用療法に比べるとやや劣るという報告3.5)もある.さらに,bブロッカー点眼薬を含有する配合薬は,現時点ですべてチモロールが使用されており,その選択は限定されている.カルテオロール塩酸塩持続性点眼液は2007年の発売以来,広く臨床応用されている1日1回点眼のb遮断薬である.単剤使用のみならず,プロスタグランジン製剤で効果不十分な場合にカルテオロール塩酸塩持続製剤により併用治療されるケースは多く,併用投与時の眼圧下降効果を検討した報告6.8)はあるが,配合剤と比較検討した報告はない.今回,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を比較対照として,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液併用時の眼圧下降作用,眼刺激症状,全身的副作用を評価した.I対象および方法本臨床研究は,多施設共同オープンラベル試験として2012年12月.2013年5月に,表1に示す4施設において,北町診療所倫理審査委員会(東京都武蔵野市)にて実施前に審査を行い承認を得た研究実施計画書を用いて実施された.対象は,4週間以上のラタノプロスト点眼液(商品名:キサラタンR点眼液0.005%,1日1回夜点眼)(以下,Lat)単独治療を行ったにもかかわらず,主治医が目標眼圧に達していないと判断した眼圧15mmHg以上29mmHg以下の,広義原発開放隅角緑内障と高眼圧症患者である.研究参加については文書で同意を得た.眼圧下降効果不十分症例に対する点眼治療の変更としては,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液(商品名:ミケランRLA点眼液2%,1日1回朝点眼)(以下,LA)の併用(併用群),またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(商品名:ザラカムR配合点眼液,表1試験参加施設および試験責任医師一覧医療機関名試験責任医師たじみ岩瀬眼科岩瀬愛子山林眼科山林茂樹うのき眼科鵜木一彦内田眼科内田英哉1日1回夜点眼)(以下,Lat/Tim)へ切り替え(配合剤群)のいずれかに無作為に割り付け(中央割付),4週後,8週後に経過観察を行った.なお,6カ月以内に白内障手術を含む内眼手術,レーザー線維柱帯形成術もしくは線維柱帯切開術,角膜屈折矯正手術の既往がある患者,また線維柱帯切除術などの濾過手術の既往がある患者などは対象から除外した.点眼変更時,点眼4週後,点眼8週後には,眼圧,脈拍,血圧の測定および点眼時刺激感についてアンケートを実施した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて午前中(原則として同一時間帯)に測定を行い,3回測定した平均値を評価に用いた.ただし,併用群においては検査日当日の朝はLAを点眼せずに来院させ,眼圧測定後LAを1回1滴点眼し,点眼2時間後に再度眼圧測定を行い,それぞれ眼圧下降効果のトラフ値およびピーク値として評価した.また,併用群の脈拍数および血圧もLAの点眼前後で2回測定を行った.点眼時刺激感については,「なし」「少ししみる」「しみる」「かなりしみる」の4段階で評価し(,)た.解析眼は,眼(,)圧の高い(,)ほうの眼,同一の場合は右眼とした.点眼変更時の各群間での眼圧の比較はKruskal-Wallisの検定により評価した.4週後,8週後各測定点の併用群(トラフ値・ピーク値)と配合剤群の眼圧値の比較には,Bonferroniによる多重性の調整を行った共分散分析を用いた.また,各群での点眼変更前と変更後4週後,8週後の眼圧比較には,多重性を考慮したSteel検定を用いた.眼刺激感は,観察期間中の最大スコアを用いWilcoxon順位和検定で比較し,血圧および脈拍数はStudentt検定を用いた.被験者の背景因子に関しては,Fisherの直接確率検定またはt検定を用いた.II結果本研究にエントリーされた44例44眼(原発開放隅角緑内障27例27眼,正常眼圧緑内障11例11眼,高眼圧症6例6眼,男性22例22眼,女性22例22眼,年齢41.80歳)のうち,併用群は22例22眼,配合剤群は22例22眼で,全例を解析対象とした.性別,年齢,病型,眼合併症,眼手術歴,全身合併症および薬物アレルギーの各項目において,両群間で有意差は認められなかった.眼圧の推移を図1に示す.点眼変更前の眼圧は,併用群が18.2±1.5mmHg(平均±標準誤差偏差),配合剤群が17.7±1.9mmHgであり,両群間に有意差は認められなかった(p=0.412).併用群,配合剤群とも点眼治療変更前と比較して変更後4週後,8週後は,すべての測定時点において眼圧が有意に下降していた(p<0.0001).点眼治療変更後,併用群において4週後の朝点眼前の眼圧は,15.8±1.5mmHg,配合剤群では14.4±2.1mmHgであり,配合剤群と併用群トラフ値の間では差は認められなかった(p=0.054).一方,併用群のおけるLA点眼2時間後の426あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(116) 併用群:トラフ値(LA点眼前)眼圧配合剤群眼圧併用群:ピーク値(LA点眼2時間後)眼圧■併用群トラフ値(LA点眼前)眼圧配合剤群眼圧■併用群ピーク値(LA点眼2時間後)眼圧17.714.414.718.215.814.718.213.413.3051015202530n.s.※n.s.n.s.***眼圧(mmHg)******眼圧(mmHg)201518.215.817.714.414.714.713.413.31050点眼変更時4週目8週目平均(mmHg).解析は、多重性を考慮したSteel検定を用いた.*:p<0.0001.図1点眼変更後の眼圧の推移併用群,配合剤群とも変更後4週後および8週後のすべての測定点において点眼変更前に比べ,有意な眼圧下降がみられた(p<0.001)少しあるなし21例95%併用群かなりあるザラカム群1例3例5%14%あるなし8例36%少しある9例41%2例9%点眼変更時4週目8週目平均±標準偏差(mmHg).ANCOVA多重性の調整はBonferroniの方法を用いた.ただし※はt-test.*:p<0.05,**:p<0.01.図2併用群と配合剤群の各測定点での眼圧4週後,8週後において配合剤群に対して併用群のピーク値が有意に低値(p=0.012,p=0.0024)であった.一方,併用群のトラフ値では4週後で併用群に比べ高値(有意差を認めず)であったが,8週後では同等の値となった.比較して有意な変化はなかった.有害事象は,配合剤群でのみ3例に3件認められ,その内訳は色素上皮異常症1例1件,刺激感2例2件であった.いずれも点眼薬との関連性はありと判断された.III考按Wilcoxon順位和検定図3点眼時の眼刺激感眼刺激の評価には,4週および8週の時点での最大スコアを用いた.併用群に比べ配合剤群で眼刺激感が有意に多かった(p<0.0001).眼圧は13.4±1.1mmHgであり,配合剤群と併用群ピーク値の間で有意差が認められた(p=0.012).8週後の朝点眼前の眼圧においても,併用群トラフ値では14.7±1.5mmHg,配合剤群では14.7±2.0mmHgであり,配合剤群と併用群トラフ値の間に有意差は認められなかった(p=1.000).一方,LA点眼2時間後の眼圧は13.3±1.2mmHgであり,配合剤群と併用群ピーク値の間で有意差が認められた(p=0.024)(図2).眼刺激感の評価には,4週もしくは8週の時点において点眼時の刺激感をもっとも強く感じたスコアを採用した.併用群においては「なし」21例(95%),「少しある」1例(5%),配合剤群では「なし」8例(36%),「少しある」9例(41%),「ある」2例(9%)「かなりある」3例(14%)であり,両群間に有意差が認められ(,)た(p<0.0001)(図3).脈拍数,拡張期血圧,収縮期血圧は,LA点眼前および点眼2時間後のいずれの時点においても,併用群は配合剤群と(117)これまで,プロスタグランジン製剤とb遮断薬の併用治療と配合剤治療の眼圧下降効果を比較した報告では,無作為化二重盲検試験で非劣性が検証された報告9,10)がある一方で,配合剤による眼圧下降効果のほうが有意に劣っていたとの報告3.5)もある.本研究では,緑内障薬物治療のファーストラインとして使用されていることが多い,ラタノプロスト点眼液で眼圧下降効果が不十分な症例を対象に,bブロッカーの1回点眼を加える方法として,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液のいずれかに切り替えた場合の,眼圧下降および安全性について比較検討した.点眼時刻については,臨床現場での一般的な投与方法に則し,併用群はLAを朝1回,Latを夜1回,Lat/Tim配合剤は夜1回点眼を行うこととした.眼圧測定は両群とも午前中に行った.LA併用群の眼圧をより詳細に評価するために,LA点眼前および点眼2時間後の2時点で測定を行った.LAのそれぞれの眼圧は,眼圧下降効果のトラフ時およびピーク時の眼圧であり,配合剤群では点眼後12時間から18時間後の眼圧と比較することになった.眼圧については,両群ともに点眼変更前に比べ,4週後,8週後すべての測定ポあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015427 イントで有意な眼圧下降が得られた.4週後,8週後の併用群の朝点眼前の眼圧値(トラフ値)は配合剤群と差は認められなかった(p=0.054,1.000)が,LA併用群の点眼後2時間後の眼圧値(ピーク値)は4週,8週ともに同じ時刻の配合剤群より低かった(p=0.012,0.0024).配合剤群は夜間に点眼するため,併用群に比べbブロッカーの効果が眼圧測定時(午前中)に減弱していたことが示唆された.安全性に関して,併用群のLA点眼2時間後はカルテオロールの血中濃度が上昇する時間帯,配合剤群の評価時点はチモロールの血中濃度が低下した時間帯であり,カルテオロールは内因性交感神経刺激様作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)を有してはいるものの11),血圧および脈拍数において2群間に差がみられることが予想されたが,両群間で有意差は認められなかった.刺激感については,配合剤群で刺激感を報告した患者数は64%と併用群に比べて多かった(p<0.0001).わが国で臨床使用可能なb遮断薬は複数あり,患者の症状に合わせた使い分けが可能であるが,現在市販されているb遮断薬の配合剤は,いずれもチモロールマレイン酸塩が用いられており,選択範囲は狭い.本研究は,ラタノプロストとカルテオロール塩酸塩持続性点眼液の併用群と,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果について検討した初めての報告である.ラタノプロスト点眼液とカルテオロール塩酸塩持続性点眼液の併用はラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液と比較して,トラフでは同等の眼圧下降作用を,またピークでは同時刻の配合薬より有意な眼圧下降を示した.1日2回点眼と同様の眼圧下降効果をもつ,カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬12)をラタノプロスト点眼薬に組み合わせることにより,配合剤と同等の眼圧下降効果が得られた可能性がある.今回の観察期間においては,配合点眼液群,併用群ともに全身的な副作用は有意差がなかった.一方,点眼時の刺激感は,LA併用のほうが少なかった.緑内障配合点眼薬は,薬剤数および点眼回数が減少することでアドヒアランスの向上が期待されるのも事実であり,今後,プロスタグランジン製剤で効果不十分な場合の薬剤選択の一つとして,カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬を含む配合薬の開発が待たれる.文献1)日本緑内障学会:多治見疫学調査報告書(2000-2001年),2012年12月2)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20123)DiestelhorstM,LarssonL-I,TheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponantsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20044)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofsafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,20055)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyoffixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,20056)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:持続型カルテオロール点眼薬のラタノプロスト点眼薬への追加効果.眼臨紀3:14-17,20107)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:ラタノプロスト・b遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化.あたらしい眼科28:1017-1021,20118)新垣淑邦,與那原理子,澤口昭一:2種類の持続型b遮断薬のラタノプロストへの追加効果と副作用の比較.眼臨紀6:91-96,20139)DiestelhorstM,LarssonL-I,TheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,200610)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験.あたらしい眼科30:1185-1194,201311)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculareffectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol123:465-477,199712)山本哲也,カルテオロール持続性点眼薬研究会:塩酸カルテオロール1%持続性点眼液の眼圧下降効果の検討─塩酸カルテオロール1%点眼液を比較対照とした高眼圧患者における無作為化二重盲検第III相臨床試験─.日眼会誌111:463-472,2007***428あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(118)

Dynamic Contour Tonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1535.1539,2014cDynamicContourTonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較西村宗作伊藤初夏中西正典植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUsedtoCompareEffectsofTravoprost/TimololMaleateandBimatoprostinPrimaryOpen-AngleGlaucomaShusakuNishimura,HatsukaIto,MasanoriNakanishiandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital目的:トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,DT)とビマトプロスト(以下,LG)の眼圧下降をdynamiccontourtonometer(DCT)を用いて評価し,Goldmannapplanationtonometer(GAT)とも比較を行った.症例および方法:原発開放隅角緑内障29症例51眼.無点眼時と,DTあるいはLG点眼後の眼圧を計測した.結果:GAT,DCTともに眼圧は有意に下降し,DT群とLG群の2群比較では両点眼薬の下降効果に有意差はなかった.無点眼時眼圧値で全体を2群に分けた場合,LGはDCT測定値において,低い眼圧の群で有意な眼圧下降をみた.結論:DTとLGはともにGATと同様DCTでも有効な眼圧下降を示した.Purpose:Tocomparetheeffectsoftravoprost/timololmaleate(DT)andbimatoprost(LG)inprimaryopen-angleglaucomaonintraocularpressure(IOP)asassessedusing2instruments:Dynamiccontourtonometer(DCT)andGoldmannapplanationtonometer(GAT).PatientsandMethod:Participantscomprised29patients(51eyes)withopen-angleglaucoma(26cases);allwereofJapaneseorigin.PatientswereswitchedbetweenDTandLGafteranuntreatedbaselineperiod.Result:BothmedicationssignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline;therewasnosignificantdifferencebetweenthem.Whenthecasesweredividedinto2groupswithuntreatedDCTvalue,however,thelowerIOPgroupshowedsignificantreductiononlywithLG,notwithDT.Conclusions:DTandLGsignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline,asassessedusing2instruments:DCTandGAT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1535.1539,2014〕Keywords:デュオトラバR,ルミガンR,dynamiccontourtonometer(DCT),原発開放隅角緑内障,眼圧.Duo-TravR,LumiganR,dynamiccontourtonometer(DCT),open-angleglaucoma,intraocularpressure.はじめに緑内障は多因子疾患といわれ1),ミオシリン遺伝子の変異とのかかわり2)や,一塩基多型3)についても近年報告がある.その本体は神経障害であり,緑内障の進行の遅延については,眼圧下降のみが有効性を示されている4).日常診療においては点眼薬が用いられ,近年プロスタグランジン製剤が眼圧下降効果の強さで多く使われている5).緑内障の治療において点眼薬のアドヒアランスが重要視されている.点眼種数,回数が少ないことが治療行動により有効に働くとされている6).プロスタグランジン製剤は1日1回の点眼であり,ほかに,アドレナリンb受容体阻害薬(bブロッカー)にも1日1回のものが現れている7).bブロッカーは総じてプロスタグランジン製剤より効果が弱いとされるが8),この2成分を配合することでより強い効果を求める合剤も一般化している.筆者らは以前に,3種のプロスタグランジン製剤について,dynamiccontourtonometer(DCT)〔別刷請求先〕西村宗作:〒526-8580滋賀県長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:ShusakuNishimura,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHosptal,313Oh-inui-cho,Nagahama5268580,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(113)1535 を用いて眼圧降下率の比較を行った9).DCTはGoldmann圧平式眼圧計(GAT)では検出できない,各点眼の効果の違いを評価するのに有用であった.DCTは圧センサーを用いた眼圧測定方法で,角膜厚の影響を受けにくく,拡張期眼圧とともに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)も測定することができ,拡張期眼圧にOPAの値を加えることによって収縮期眼圧も測定することができるものである10,11).DCTは小数点以下一桁まで表示することができるため,精度が確保できるのであれば,より低眼圧領域での正確な解析に有用と考えられる.眼圧下降薬剤に関しては,その後も新規薬剤が開発され,臨床現場に導入されている.そこで,1日1回点眼を用法とするもので眼圧下降効果について検証を行うことにした.以前に3種点眼薬(ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト)のなかで最も眼圧下降の大きいと,筆者らの報告したトラボプロストにbブロッカーを加えて,さらに高い眼圧下降率の期待できると考えられる12)トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液:以下,DT)と,やはり大きな眼圧下降を示すといわれる13)プロスタグランジン製剤であるビマトプロスト点眼液(ルミガンR:以下,LG)に関し,GATとDCTを用いて,眼圧下降の比較と評価を行った.I対象および方法市立長浜病院を2011年6月から2013年4月までに受診した,日本人の原発開放隅角緑内障29症例51眼を対象とした.うち狭義原発開放隅角緑内障15症例27眼であった.男性13例23眼,女性16例28眼,年齢69.8±10.2歳(平均±標準偏差:39.88歳),有水晶体眼44眼,偽水晶体眼7眼であった.対象から屈折度(等価球面度数)が.6.0D以上もしくは眼軸長27mmを超える強度近視眼を除外した.測定値は個人情報とまったく分離してデータ解析に用いられた.点眼の選択については各症例について適切なものを比較のうえ行うことが望ましいとされており14),実際の処方や変更については文書による受診者の了解と同意のうえで行った.データの収集と公開に関しては当院の倫理委員会の承認を得た.すべての手順はヘルシンキ宣言の指針に基づいて行われた.眼圧測定とデータ収集については,筆者らが以前行った,ラタノプラストとチモロールの比較検討15)やプロスタグランジン製剤の比較検討9)の報告と同様に行っている.すなわち,点眼治療開始前もしくは点眼中の症例は最低2週間の無点眼(wash-out)期間を設け,wash-out後の眼圧をベースライン(BL)眼圧とした.その後DTおよびLGを1剤ずつ2.4週間順次使用し,それぞれの点眼後の眼圧を計測した.2種類の点眼の順番は無作為とし,順番の違いによっての下1536あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014降率の違いについて検討はしていない.無作為の内訳はDT.LG.無点眼の順番が7例12眼,LG.無点眼.DTの順番が1例2眼,LG.DT.無点眼の順番が2例2眼,無点眼.DT.LGの順番が6例10眼,無点眼.LG.DTの順番が13例25眼であった.測定時間帯は各症例について,午前もしくは午後のなかでなるべく統一した.もとの眼圧領域による効果の違いを検証するため,症例を無点眼時DCT値でほぼ症例数が均等になるように2分し,18mmHg以下(n=24)の低眼圧群と18.1mmHg以上(n=27)の高眼圧群で分けた.眼圧はGAT(Haag-Streit社)およびDCT(ZeimerOphthalmic社,Pascal)で測定した.GAT測定眼圧(GAT値),DCT測定眼圧(DCT値)とOPAを解析に使用した.DCTの測定値はQ=1.5のうち精度が上位の1,2,3を用いた.統計学的検討にはpaired-t検定を用い,p<5%を有意とした.II結果点眼前後のGAT眼圧比較を図1に示した.BLのGAT眼圧は17.8±3.8mmHgであった.点眼後眼圧はDT使用下13.9±2.9mmHg,LG使用下14.2±3.4mmHgであった.2剤とも有意にBLより眼圧下降を認め,2剤間に有意差は認めなかった.GATでの平均眼圧降下率の比較を図2に示した.平均眼圧下降率はDT,LGの順に30.0±26.2%,28.4±23.9%であった.2剤間では有意差は認められなかった.各種点眼ごとに緑内障点眼前後各症例のDCT値を図3に示した(a:DT,b:LG).なお,無点眼時の眼圧と下降値は相関係数DT:0.47,LG:0.63であり,回帰直線を図中に直線で示した.点眼前後のDCT値を図4に示した.無点眼下での平均DCT値は19.2±3.8mmHgであり,DTでは16.8±3.9mmHg,LG17.0±4.6mmHgに,ともに有意に下降した.2剤間の点眼前後のDCT下降値に有意差はなかった.DCT値の下降率の比較を図5に示した.平均眼圧下降率はDT,LGの順に16.0±25.3%,16.7±24.3%であった.2剤間のDCT下降率に有意差は認められなかった.点眼前後のOPA値を図6に示した(a:DT,b:LG).無点眼下での平均値は2.7±1.0mmHg,DTでは2.5±1.1mmHg,LGでは2.4±0.8mmHg.LGでは無点眼に比べ有意に下降を認めた.2剤間の点眼前後のOPA値の下降に有意差は認められなかった.なお,DCT+OPA値についてもDCT値同様に解析を行ったが,DCT値と同様の結果が得られた.もとの眼圧領域による効果の違いを検証するため,症例を無点眼時DCT値でほぼ2分し,18mmHg以下(n=24)と18.1mmHg以上(n=27)で分けた.18.1mmHg以上の群では,DCT値(図7a),DCT+OPA値(図7b)ともにDTも(114) 252060504015有意差なし有意差なし51000BLDTLGDTLG図1点眼前後のGAT眼圧の比較図2点眼前後のGAT眼圧下降率の比較4025下降率(%)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)下降率(%301020a有意差なし150BLDTLG10図4点眼前後のDCT眼圧下降値の比較507010203040aBL(mmHg)635203015DT(mmHg)251020540b535DT(mmHg)4303LG(mmHg)252201150105BL(mmHg)70b0510152025303540BL(mmHg)6図3DCT眼圧値の点眼前後の変化50123456LG(mmHg)432a:DT,b:LG.図中の実線は回帰直線.50図5点眼前後のDCT眼圧下降率の比較DTLG有意差なし4013002010BL(mmHg)01234560-10図6DCT脈圧(OPA)の点眼前後変化a:DT,b:LG.図中の実線は回帰直線.(115)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141537 30b30a25252020有意差あり有意差あり00BLDTLGBLDTLG30有意差なし有意差なし眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1515101055d30c2525眼圧(mmHg)2020151510105500BLDTLGBLDTLG図7低眼圧群(n=24)と高眼圧群(n=27)におけるDCT眼圧下降値の比較a:低眼圧群DCT眼圧下降値,b:低眼圧群DCT+OPA眼圧下降値,c:高眼圧群DCT眼圧下降値,d:高眼圧群DCT+OPA眼圧下降値.DT43%LG27.5%無効27.5%同効果2%らに,眼圧値で2群に分けたところ,低眼圧群ではLGにおいて,DCTで有意な眼圧下降がみられた.以前筆者らは,トラボプロストがラタノプロストなどに比べてより眼圧下降に有効であることを示した8).DTはそれにbブロッカーを配合したものであり,GATを用いて得られた結果からは,さらに強い効果が得られるとされている16,17).今回,LGよりもDTのほうが,より有効な症例が多くみられ,効果の強さを示している.一方で,bブロッカーは喘息悪化などの副作用から実際の使用上禁忌になる場合が考えられるので,LGが同程度の下降を示したということ図8DCT眼圧下降率に基づいて処方した全症例の点眼内訳LGも有意に下降した.DTとLG使用下のDCT値の下降値およびDCT+OPA値の下降値に有意差はなかった.18mmHg以下の群ではDCT値(図7c)とDCT+OPA値(図7d)の点眼前後はともにDTは有意差なく,LGでのみ有意に下降をみた.DCT眼圧下降率に基づいて処方した全症例の点眼内訳を図8に示す.2剤とも10%以下の眼圧下降率を示したものは無効とした.DTは43%(22眼),LG27.5%(14眼),無効は27.5%(14眼),両者同等であったのは2%(1眼)であった.III考按DTとLGは,ともに眼圧下降作用については,GATとDCTいずれの計測方法においても同等に有効であった.さ1538あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014は,bブロッカー使用禁忌の症例に対しても点眼使用が可能であり,臨床使用上大きな意味がある.無点眼時の眼圧と,眼圧の下降値にはある程度の相関があった.すなわち,18.1mmHg以上の高い眼圧であれば,眼圧が大きく下降する傾向があった.18mmHg以下の低い眼圧では,眼圧下降値も小さい傾向があり,よりスケールの粗いGATでは差の検出がむずかしくなる.今回も,より低い眼圧領域では,DCTで計測したところ,LGのみに有意な下降がみられている.精密に眼圧の表示のされるDCTは精度が確保できれば,より低眼圧領域での治療薬選択に役立つと考えられる.OPAを全体的に下げるプロスタグランジン製剤と異なって,bブロッカーに関しては,点眼使用後のOPAの値が,より低眼圧領域ではむしろ上昇する傾向のあることが報告されている15).今回筆者らの結果ではOPAの上昇は認めなかったが,OPA+DCTにおいて低眼圧領域でLGのみ有意差(116) を認めた.そのためbブロッカーを配合したDTに比べて低眼圧領域症例にはLGがより好ましい可能性がある.文献1)真島行彦:眼科検査診断法,個別化医療の時代にむけての遺伝子診断.日眼会誌108:863-886,20042)KubotaR,NodaS,WangYetal:Anovelmyosin-likeprotein(myocilin)expressedintheconnectingciliumofthephotoreceptor:molecularcloning,tissueexpression,andchromosomalmapping.Genomics41:360-369,19973)中野正和,池田陽子,徳田雄市ほか:緑内障における視神経乳頭の脆弱性に関するCDKN2B-AS1上のバリアントの同定.PLoSONE7:e33389(3)4)TheAGISInvestigators:TheAGISGlaucomaInterventionsStudy(AIGS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20005)AlexanderCL,MillerSJ,AbelSR:Prostaglandinalnalogtreatmentofglaucomaandocularhypertension.AnnPharmacother36:504-511,20026)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果.あたらしい眼科28:1491-1494,20117)二見要介:1日1回点眼bブロッカーマレイン酸チモロール(チモプトールXE)からはじまる新しい緑内障治療戦略.PharamaMedica18:217-220,20008)相原一:緑内障薬物治療薬の現状と未来.日本薬理学雑誌135:129-133,20109)白木幸彦,山口孝泰,梅基光良ほか:DynamicContourTonometerを用いた,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧降下率の比較.あたらしい眼科27:1269-1272,201010)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200811)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComaprisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOpthalmolVisSci45:3118-3121,200412)佐藤出,北市伸義,広瀬茂樹ほか:プロスタグランジン製剤・b遮断薬からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合液への切り替え効果.臨眼66:675-678,201213)新家眞,北澤克明:原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験.あたらしい眼科28:1209-1215,201114)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,200315)山口泰孝,梅基光良,木村忠貴ほか:DynamicContourTonometerを用いた緑内障視野障害様式の検討.あたらしい眼科27:821-825,201016)ArendKO,RaberT:Observationalstudyresultsinglaucomapatientsundergoingaregimenreplacementtofixedcombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inGermany.JOculPharmacolTher24:414-420,200817)KonstasAG,MikropoulosD,HaidichABetal:Twentyfour-hourintraocularpressurecontrolwiththetravoprost/timolmaleatefixedcombinationcomparedwithtravoprostwhenbotharedosedintheeveninginprimaryopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol93:481-485,2009***(117)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141539

ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1531.1534,2014cドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果井上賢治*1方倉聖基*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科EfficacyofChangingfromLatanoprosttoBimatoprostEyedrops,inPatientsConcomitantlyUsingDorzolamide/TimololFixed-CombinationEyedropsandLatanoprostKenjiInoue1),SeikiKatakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ラタノプロストとドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)を併用中でラタノプロストを変更することでさらなる眼圧下降が期待され,今回検討した.対象および方法:ラタノプロストとDTFCを併用中で,眼圧下降が不十分な開放隅角緑内障32例32眼を対象とした.ラタノプロストを中止し,ビマトプロストに切り替えた.DTFCは継続とした.眼圧を変更前,変更1,3カ月後に測定し,比較した.変更後の副作用を来院ごとに調査した.結果:眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgに比べて有意に下降した(p<0.05).脱落例は3例(9.4%)で,副作用(下眼瞼腫脹),緑内障手術施行,転医の各1例だった.結論:ラタノプロストとDTFC併用患者において,ラタノプロストをビマトプロストへ変更することで眼圧下降が得られ,安全性も良好だった.Purpose:Inpatientsusingdorzolamide/timololfixed-combinationeyedrops(DTFC)andlatanoprost,furtherdecreaseinintraocularpressure(IOP)isexpectedwithchangeoflatanoprost.Subjectsandmethods:Subjectswere32open-angleglaucomapatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprost,inwhomIOP-decreasingefficacywasinsufficient.Thelatanoprostwaschangedtobimatoprost;DTFCwascontinued.IOPbeforeandat1and3monthsafterthechangewerecompared;adversereactionswereexamined.Results:IOPat1month(16.9±3.5mmHg)and3months(16.3±3.2mmHg)afterthechangeshowedsignificantdecreasefromthepre-changelevel(17.6±2.5mmHg).Threecases(9.4%)werediscontinuedduerespectivelytoadversereaction(swellingoflowereyelid),glaucomasurgeryandchangeofphysician.Conclusion:InpatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprostwhochangefromlatanoprosttobimatoprost,IOPdecreaseandsafetyaresatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1531.1534,2014〕Keywords:ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,ラタノプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬,切り替え,眼圧,副作用.dorzolamide/timololfixedcombinationeyedrops,latanoprosteyedrops,bimatoprosteyedrops,change,intraocularpressure,adversereactions.はじめに緑内障患者において視野維持効果が高いエビデンスで示されているのは眼圧下降療法のみである1,2).眼圧下降のために通常点眼薬治療が第一選択である.点眼薬治療は単剤から行うが,眼圧下降効果が不十分な場合は点眼薬の変更や追加が推奨されている3).これを繰り返すと多剤併用となる.しかし,点眼回数が増える多剤併用症例ではアドヒアランスの低下が問題となり4),アドヒアランス向上を目的として配合点眼薬が開発された.日本ではラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(109)1531 合点眼薬,ドルゾラミド点眼薬あるいはブリンゾラミド点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配合点眼薬が使用可能である.臨床現場では,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬,プロスタグランジン点眼薬+炭酸脱水酵素阻害薬/チモロール配合点眼薬の組み合わせが多く使用されている.点眼薬の変更に関しては,プロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬へ変更することで眼圧が下降するという報告5.16)が多くみられるが,配合点眼薬との併用症例におけるプロスタグランジン点眼薬の変更を検討した報告はない.今回,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬を併用中の患者を対象にして,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2011年7月から2012年9月までの間に井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬のみを使用中で,眼圧下降効果が不十分な開放隅角緑内障32例32眼(男性13例13眼,女性19例19眼)を対象とし,前向きに研究を行った.平均年齢は73.0±6.9歳(平均±標準偏差)(60.85歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)30例,落屑緑内障2例であった.Humphrey視野のmeandeviation(MD)値は.10.3±6.2dB(.23.11.0.63dB)であった.ビマトプロスト点眼薬へ変更前の眼圧は17.6±2.5mmHg(12.23mmHg)であった.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のラタノプロスト点眼薬を中止し,washout期間なしでビマトプロスト点眼薬(1日1回夜点眼)に変更した.ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬は継続使用とした.点眼変更前と変更1,3カ月後に患者ごとにほぼ同時刻に眼圧(mmHg)22.0**20.018.016.014.012.010.08.06.04.0*p<0.052.00.0変更前変更1カ月後変更3カ月後図1点眼薬変更前後の眼圧(ANOVAおよびBonfferoni/Dunn検定,*p<0.05)Goldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定し,比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降幅を調査した.変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降率を算出し,比較した(Friedman検定).変更後に来院時ごとに副作用を調査した.有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgと比べて有意に下降した(p<0.05)(図1).眼圧下降幅は変更1カ月後では2mmHg以上下降した症例は11例(35.5%),±1mmHg以内の症例は17例(54.8%),2mmHg以上上昇した症例は3例(9.7%)だった(図2).変更3カ月後では2mmHg以上下降した症例は14例(48.3%),±1mmHg以内の症例は12例(41.4%),2mmHg以上上昇した症例は3例(10.3%)だった.眼圧下降率は,変更1カ月後4.1±10.8%,3カ月後6.7±10.8%で同等だった(p=0.4521).変更3カ月後までの脱落例は3例(9.4%)だった.内訳は変更1カ月後に下眼瞼腫脹が出現した1例,変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した1例,変更2カ月後に転居に伴い転医した1例だった.下眼瞼腫脹が出現した症例ではビマトプロスト点眼薬をラタノプロスト点眼薬に戻したところ症状は消失した.III考按プロスタグランジン点眼薬の変更による眼圧下降効果の報告のなかでラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した報告5.16)が多い.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更では眼圧は有意に下降し,その眼圧下降幅は0.51.6.0mmHg,眼圧下降率は3.0.24.9%であ2mmHg以上2mmHg以上上昇上昇3例,9.7%3例,10.3%2mmHg以上下降11例,35.5%±1mmHg以内17例,54.8%2mmHg以上下降14例,48.3%±1mmHg以内12例,41.4%変更1カ月後変更3カ月後図2点眼薬変更1,3カ月後の眼圧下降幅1532あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(110) る5.16).プロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,プロスタグランジン点眼薬に対するノンレスポンダーの存在があげられる.ノンレスポンダーのプロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬に変更することで眼圧が下降するのは妥当で,ラタノプロスト点眼薬に対するノンレスポンダー症例でビマトプロスト点眼薬に変更したところ眼圧が下降したと報告されている5.8).さらに,その眼圧下降幅は1.9.6.0mmHg,眼圧下降率は11.9.24.9%と良好である.しかし,ノンレスポンダーの定義は定まっておらず,ラタノプロスト点眼薬単剤2カ月間投与で眼圧下降率が10%未満の症例5),ラタノプロスト点眼薬単剤8週間投与で眼圧下降幅が3mmHg以下の症例6),ラタノプロスト点眼薬単剤12週間投与で眼圧下降率が20%以下の症例7),ラタノプロスト点眼薬を含む治療を4週間以上行い眼圧下降率が20%未満の症例8)と報告により異なる.その他にプロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,アドヒアランスの向上があげられる.変更により眼圧下降の必要性を再認識した症例や副作用が軽減する症例が考えられる.変更後のプロスタグランジン点眼薬のほうが変更前のプロスタグランジン点眼薬よりも眼圧下降効果が強力である可能性もある.プロスタグランジン点眼薬の化学構造は各薬剤で異なり,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストはイソプロピルエステル型で,ビマトプロストはエチルアミド型である.エチルアミド型では加水分解されて酸型となると他の3剤と同様にプロスタノイド受容体に結合する.Liangら17)は,ビマトプロストはエチルアミド型でもプロスタノイド受容体とそのスプライスバリアントの複合体に直接結合することができ,眼圧下降機序が他のプロスタグランジン点眼薬と異なると報告した.今回は変更1,3カ月後に眼圧は有意に下降した.対象のなかにラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーが含まれていた可能性はあるが,ラタノプロスト点眼薬投与前の眼圧がわからないので詳細は不明である.また,眼圧下降効果が不十分な症例を対象としたため,点眼薬変更によりアドヒアランスが向上した可能性も考えられる.一方,ラタノプロスト点眼薬の副作用が出現したためにビマトプロスト点眼薬へ変更した症例はなく,副作用の軽減によるアドヒアランスの向上は今回の症例では考えづらい.しかし,変更後に眼圧が2mmHg以上上昇した症例が,変更1カ月後に9.7%,変更3カ月後には10.3%存在し,さらに変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した症例もあり,それらの症例はビマトプロスト点眼薬に対するノンレスポンダーの可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬へ変更した報告において,ラタノプロスト点眼薬単剤症例での変更5.15),ラタノプロスト点眼薬を含む多剤併用症例での変更8.12,16)がある.Lawら9)は,多剤併用症例では変更により(111)眼圧が変化なかったと報告した.広田ら10)は,ラタノプロスト点眼薬とb遮断点眼薬併用症例では眼圧は変更2週間後には差がなかったが,変更4.24週間後には有意に下降したと報告した.南野ら11)は,ラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬を含む多剤併用症例では変更後に眼圧は有意に下降し,その眼圧下降率は変更4.24週間後で13.3.19.7%だったと報告した.仲ら16)は,プロスタグランジン点眼薬およびb遮断薬点眼薬を含む2種類以上の点眼薬併用症例では眼圧は変更3カ月後に有意に下降し,眼圧下降率は10%だったと報告した.今回は全症例がラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬併用症例であり,多剤併用症例においても過去の報告10,11,16)と同様にビマトプロスト点眼薬への変更により眼圧が有意に下降する可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による副作用の頻度は0.9.5%と報告されている5.16).その内訳は結膜充血,点状表層角膜炎,アレルギー性結膜炎,眼痛,掻痒感,刺激感,霧視,異物感,眼瞼色素沈着,睫毛延長である.今回は副作用は3.1%で出現し,下眼瞼腫脹1例だった.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による安全性は良好である.結論としてラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬を併用中の開放隅角緑内障症例において,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬へ変更することで,3カ月間にわたり眼圧は下降し,安全性も良好だった.配合点眼薬との併用症例においてもプロスタグランジン点眼薬の変更は眼圧下降治療における選択肢となりうる.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)TheAGISInvestigators.TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20036)WilliamsRD:Efficacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.Advあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141533 Ther19:275-281,20027)SatoS,HirookaK,BabaTetal:Efficacyandsafetyofswitchingfromtopicallatanoprosttobimatoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JOculPharmacolTher27:499-502,20118)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,20089)LawSK,SongBJ,FangEetal:Feasibilityandefficacyofamassswitchfromlatanoprosttobimatoprostinglaucomapatientsinaprepaidhealthmaintenanceorganization.Ophthalmology112:2123-2130,200510)広田篤,井上康,永山幹夫ほか:ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科29:259-265,201211)南野麻美,谷野富彦,中込豊ほか:各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液への切替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科28:1629-1634,201112)松原彩来,徳田直人,金成真由ほか:プロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度.あたらしい眼科30:1165-1170,201313)KammerJA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicenterstudy.BrJOphthalmol94:74-79,201014)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypertensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,200315)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,200916)仲昌彦,山本麻梨亜,金学海ほか:原発開放隅角緑内障患者に対する0.03%ビマトプロスト切り替えによる眼圧下降効果と安全性の検討.臨眼68:219-224,201417)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,2008***1534あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(112)

プロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジン点眼液の追加後6カ月間における有効性と安全性

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):917.921,2014cプロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジン点眼液の追加後6カ月間における有効性と安全性林泰博*1,2林福子*2*1清川病院眼科*2林眼科クリニックEfficacyandSafetyofAddingBrimonidine0.1%toProstaglandinAnalogueTreatmentfor6MonthsYasuhiroHayashi1,2)andSachikoHayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KiyokawaHospital,2)HayashiEyeClinic目的:プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者に,2剤目としてブリモニジン点眼を追加したときの有効性と安全性について報告する.対象および方法:3カ月以上プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者18例27眼を対象とした.男性4例,女性14例で,年齢は38.86歳,平均74歳である.0.1%ブリモニジン点眼を追加し,1カ月後,3カ月後,6カ月後に眼圧,血圧,脈拍数を測定した.また局所の安全性は角膜障害,充血,掻痒感について評価した.結果:ブリモニジン開始前の平均眼圧は12.2±3.3mmHg,1カ月後は10.2±2.2mmHg(p<0.0001),3カ月後は9.7±1.8mmHg(p<0.0001),6カ月後は10.3±2.6mmHg(p<0.0005)と,いずれも有意に低下した.拡張期血圧は点眼追加1カ月後,6カ月後で有意に下降し,脈拍数は点眼追加1カ月後に有意に増加したが自覚症状はなかった.眼局所の副作用も有意な変化は認めなかった.結論:プロスタグランジン関連薬で治療中の緑内障患者へのブリモニジン点眼追加により,さらなる眼圧下降効果が得られ,眼圧下降効果は6カ月間持続した.Purpose:Toreporttheeffectofaddingbrimonidineophthalmicsolutiontotopicaltreatmentwithprostaglandinanalogue.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved27eyesof18patients(4males,14females;agerange:38to86years,average74years)whowerebeingtreatedbytopicalprostaglandinanaloguefor3monthsorlonger;theystartedreceiving0.1%brimonidineadditionally.Intraocularpressure(IOP),bloodpressure,pulserate,ocularsurfacedamage,conjunctivalinjectionanditchingwerecheckedafter1,3and6monthsoftreatment.Result:IOPaveraged12.2±3.3mmHgbeforeadditionaltreatment,10.2±2.2mmHg(p<0.0001)after1month,9.7±1.8mmHg(p<0.0001)after3months,and10.3±2.6mmHg(p<0.0005)after6months.IOPthusdecreasedsignificantlyafteradditionaltreatment.Diastolicbloodpressuredecreasedsignificantlyafter1monthand6monthsoftreatment.Pulserateincreasedsignificantlyafter1monthoftreatment,withoutsubjectivesymptoms.Nostatisticaldifferenceinocularsymptomswasobservedatanyobservationtime.Conclusion:BrimonidineophthalmicsolutionaddedtotopicaltreatmentwithprostaglandinanalogueinducedfurtherdecreaseinIOPfor6months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):917.921,2014〕Keywords:ブリモニジン,プロスタグランジン,眼圧,安全性,緑内障.brimonidine,prostaglandin,intraocularpressure,safety,glaucoma.はじめに緑内障治療における唯一のエビデンスが眼圧下降によるものであり,その中心となるのが緑内障点眼薬である.緑内障点眼液はまず単剤で開始し,単剤で目標眼圧に達することができない場合は緑内障ガイドラインに基づき薬剤の変更を図り,なお目標眼圧に達することができない場合は薬剤の追加(多剤併用療法)となる1).多剤併用療法の基本は薬理作用の異なる薬剤を組み合わせることであり,第一選択薬として広く使用されているプロスタグランジン(PG)関連薬に追加する場合,薬理作用が重複しないことが望ましい.ブリモニジ〔別刷請求先〕林泰博:〒248-0006神奈川県鎌倉市小町2-13-7清川病院眼科Reprintrequests:YasuhiroHayashi,DepartmentofOphthalmology,KiyokawaHospital,2-13-7Komachi,Kamakura-shi2480006,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(143)917 ン点眼液は交感神経a2アドレナリン受容体作動薬であり,房水産生抑制と,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進という2つの機序による眼圧下降作用をもつことから,海外ではPG関連薬2.5)やb遮断薬6,7)に追加する,あるいはb遮断薬との配合剤といった使われ方で広く普及している.しかし,わが国でブリモニジンは2012年1月に承認されたばかりであり,国内の報告は少ない.また,海外では1996年の承認後,点眼液の濃度や防腐剤が変遷しており,海外の報告とわが国の報告を単純に比較することはむずかしく,わが国での知見の蓄積が待たれる.今回筆者らは,前回の報告8)からさらに観察期間を延長し,ブリモニジン点眼液をPG関連薬単剤に追加した際の有効性,安全性につき検討したので報告する.I対象および方法2012年5月.2013年2月の間で3カ月以上PG関連薬を単剤で使用中の患者のうち,目標眼圧に達していない緑内障患者に十分な説明のうえ,ブリモニジン点眼液を勧め,同意を得た症例を対象とした.対象は18例27眼,平均年齢73.8±13.5歳(38.86歳,男性4例,女性14例).病型は狭義原発開放隅角緑内障が4例7眼,正常眼圧緑内障が13例19眼,原発閉塞隅角緑内障が1例1眼であった.使用中のPG関連薬の内訳はラタノプロスト点眼液が10例16眼,トラボプロスト点眼液が2例2眼,タフルプロスト点眼液が4例6眼,ビマトプロスト点眼液が2例3眼であった.ブリモニジン点眼液を追加投与前の視野障害の程度は,Goldmann動的視野検査で経過観察した症例が11例17眼で,その内訳は湖崎分類9)でII期までの早期症例が9眼,中期に相当するIII期が6眼,晩期に相当するIV期以降が2眼であった.Humphrey静的視野プログラム30-2で経過観察した症例が5例6眼で,その内訳はAnderson分類10)でmeandeviation(MD)>.6dBの初期症例が2眼,.6dB≧MD>.12dBの中期症例が3眼,.12dB≧MDの後期症例が1眼であった.Octopus静的視野プログラム32で経過観察した症例が2例4眼で,その内訳はMD<6dBの症例が2眼であった.湖崎分類,MD値が早期の症例でも固視点近傍の視野障害が著明な症例が多かった.眼圧はブリモニジン点眼液を追加投与前,追加投与1カ月後,3カ月後,6カ月後のほぼ同時刻に同一検者がGoldmann圧平眼圧計にて測定を行った.血圧および脈拍数は,座位にて5分間,安静にした後に上腕動脈での収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数を測定した.眼局所の副作用については,充血は「正常範囲(0点),軽度(1点),中等度(2点),重度(3点)」,掻痒感は「痒くない(0点),少し痒い(1点),痒いが自制内(2点),痒みが強く点眼継続困難(3点)」のそれぞれ4段階で評価した.点状表層角膜症はAD(area-density)分類11)を用いて評価した.統計学的検定は眼圧,血圧,脈拍数は対応のあるt検定にて,充血などのスコアはWilcoxon符号付順位和検定にて解析を行い,p<0.05を有意水準とした.II結果1.有効性ブリモニジン点眼液を追加投与前の平均眼圧は12.2±3.3mmHg,追加1カ月後の平均眼圧は10.2±2.2mmHg(p<0.0001),追加3カ月後の平均眼圧は9.7±1.8mmHg(p<0.0001),追加6カ月後の平均眼圧は10.3±2.6mmHg(p<0.0005)であり,各時点で有意に下降した(図1.4).眼圧下降幅は追加1カ月後2.0±2.0mmHg,追加3カ月後2.5±2.7mmHg,追加6カ月後1.9±2.2mmHgで,眼圧下降幅に差はなかった(p=0.61).眼圧下降率は追加1カ月後14.3±13.8%,追加3カ月後17.0±17.8%,追加6カ月後13.9±15.1%であった.ブリモニジン点眼液を追加したことで目標眼圧に達した症例は27眼中19眼(70.4%)であった.2.安全性ブリモニジン点眼液を追加投与前の収縮期血圧は135.1±22.0mmHg,追加1カ月後は131.6±20.9mmHg(p=0.41),追加3カ月後は133.2±21.7mmHg(p=0.61),追加6カ月後は135.3±19.3mmHg(p=0.97)であり,各時点で有意差を認めなかった(図5).ブリモニジン点眼液を追加投与前の拡張期血圧は79.4±12.1mmHg,追加1カ月後は74.5±10.0mmHg(p<0.05),追加3カ月後は74.1±11.0mmHg(p=0.09),追加6カ月後は74.1±11.3mmHg(p<0.05)であり,ブリモニジン点眼液を追加1カ月後,6カ月後で拡張期血圧が有意に下降した(図6).ブリモニジン点眼液を追加投与前の脈拍数は71.1±12.8回/分,追加1カ月後は75.1±11.3回/分(p<0.05),追加3カ月後は73.1±12.0回/分(p=0.25),追加6カ月後は72.4±11.5回/分(p=0.50)であり,ブリモニジン点眼液を追加1カ月後で脈拍数が有意に増加した(図7).充血スコアはブリモニジン点眼液を追加投与前が1.2±0.6,追加1カ月後では1.0±0.5(p=0.14),追加3カ月後では1.0±0.5(p=0.12),追加6カ月後では1.3±0.4(p=0.77)で,いずれの時点でも差はなかった.掻痒感スコアはブリモニジン点眼液を追加投与前が0.1±0.3,追加1カ月後では0.3±0.5(p=0.14),追加3カ月後では0.0±0.0(p=1.00),追加6カ月後では0.2±0.5(p=0.14)で,いずれの時点でも差はなかった.角膜スコア(A+D)はブリモニジン点眼液を追加投与前が0.6±1.0,追加1カ月後では0.4±0.9(p=0.60),追加3カ月では0.4±0.8(p=0.28),追加6カ月後では0.5±0.9(p=0.81)で,いずれの時点でも差はなかった.観察期間中に点眼継続不可能な症例は認めなかった.918あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(144) 20181816161414(p<0.0001)(p<0.0001)(p<0.0005)12追1カ月後眼圧(mmHg)追加3カ月後眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)12108642108642000追加前1カ月3カ月6カ月2468101214161820経過期間追加前眼圧(mmHg)図1眼圧の推移図2眼圧変化の散布図(追加1カ月後)各時点で有意な眼圧の下降を認めた.直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加1カ月後で眼圧は有意に下降した.20181614121086422018161412108642追加6カ月後眼圧(mmHg)000024681012141618202468101214161820追加前眼圧(mmHg)追加前眼圧(mmHg)図3眼圧変化の散布図(追加3カ月後)図4眼圧変化の散布図(追加6カ月後)直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加3カ月後直線はy=xを示す.ブリモニジン点眼液を追加6カ月後で眼圧は有意に下降した.で眼圧は有意に下降した.180100収縮期血圧(mmHg)拡張期血圧(mmHg)90807060160140120(p<0.05)(p<0.05)1008060402050403020100追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図5収縮期血圧の推移各時点で有意差を認めなかった.III考按今回報告したPG関連薬単剤に対するブリモニジン点眼液の追加効果についての検討は少なく,国内では新家らの市販前調査12)と,筆者らによる3カ月という短期での検討8)のみである.新家らはPG関連薬を使用中の症例に対しブリモニ(145)0追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図6拡張期血圧の推移ブリモニジン点眼液を追加1カ月,6カ月で有意な拡張期血圧の下降を認めた.ジン点眼液を追加投与し,追加52週間後でベースライン眼圧18.7mmHgから15.9mmHgまで下降したと報告している.筆者らの短期検討ではPG関連薬を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液を追加投与し,追加3カ月後でベースライン眼圧12.2mmHgから9.7mmHgまで下降した.つぎに海外で3カ月以上の観察期間を設けた報告を参照しあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014919 脈拍数(回/分)1009080706050403020100(p<0.05)追加前1カ月3カ月6カ月経過期間図7脈拍数の推移ブリモニジン点眼液を追加1カ月で有意な脈拍数の増加を認めた.てみる.Feldmanら2)はトラボプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.15%製剤)を追加投与し,追加3カ月後でベースライン眼圧21.7mmHgから19.6mmHgまで下降したと報告している.Dayら3)はラタノプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.1%製剤)を追加投与し,追加3カ月後でベースライン19.6mmHgから16.3mmHgまで下降したと報告している.またBourniasら4)はPG関連薬単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液(0.15%製剤)を追加投与し,追加4カ月後でベースライン21.9mmHgから17.1mmHgまで午前10時の測定時点で下降し,午後4時の測定時点でベースライン20.2mmHgから16.4mmHgまで下降したと報告している.ただしBourniasらによる報告は点眼回数が1日3回である.O’Connorら5)はラタノプロスト単剤を使用中の症例に対しブリモニジン点眼液を追加投与し,追加1年後でベースライン眼圧21.0mmHgから19.0mmHgまで下降したと報告している.これらの結果は,筆者らの報告以外,いずれも対象が狭義原発開放隅角緑内障,高眼圧症,落屑緑内障を中心に構成された報告であるため,追加前のベースライン眼圧は本研究より高めであるが,眼圧下降幅はおよそ2.3mmHgで,今回の筆者らの結果と同等であり,追加前のベースライン眼圧が低めであってもブリモニジン点眼液の追加投与は有効であると思われる.海外の報告はブリモニジン点眼液の濃度の違い,点眼回数の違い,対象症例の病型の違い,人種差があるため今後わが国でも病型ごとの検討をしていく必要があると思われる.また,ベースライン眼圧が同様に低い研究と比較してみると,田邉らは新規にPG関連薬を投与して,トラボプロストでは13.4mmHgから11.2mmHgへ,タフルプロストでは13.0mmHgから11.1mmHgへ,ビマトプロストでは12.9mmHgから11.1mmHgへ下降したとしている13).試験デザインは異なるものの,このPG関連薬の眼圧下降効果は今回のブリモニジンのものと同等で,第二選択薬として920あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014考えられているブリモニジンの眼圧下降効果としては良好な結果と思われる.ただし24時間を通じて安定した眼圧下降効果を示すPG関連薬と比べ,ブリモニジンは眼圧下降効果のピーク値とトラフ値の差が大きいことが指摘されており14,15),今回の結果が24時間を通じて保たれていたものかどうかについては,日内変動を考慮した検討が必要であると思われた.今回の結果ではブリモニジンの追加で眼圧はさらに下降したにもかかわらず8眼ではさらに視野障害が進行した.今回対象となった症例は,PG関連薬単剤ですでに平均眼圧が12.2mmHgまで下がっていても,視野障害が進行している症例であり,これらの症例は眼圧以外の影響も強く働いている可能性が示唆された.全身性副作用に関しては,今回の結果ではブリモニジン点眼液を追加1カ月後,6カ月後で拡張期血圧の低下と,追加1カ月後で脈拍数の増加を認めたが自覚症状はなく,投与中止となるものはなかった.新家らの報告16)でも点眼2時間後に収縮期血圧,拡張期血圧ともに有意に下降したが臨床上問題となるものはなかったと報告している.しかし,筆者らによるブリモニジン点眼の早期報告17)のように,著明に血圧が低下する症例もあり,その影響には個人差があると思われる.新規処方の際には点眼後の涙.圧迫などの基本的操作を今一度確認する必要があると思われる.局所の副作用では充血スコア,掻痒感スコア,角膜障害スコアのいずれも変化はなかった.ブリモニジンは眼圧下降薬としての作用以外にも,a2アドレナリン受容体作動薬としての血管収縮作用があり,海外ではその特性を生かして硝子体注射後の結膜下出血予防への使用18),その他にも屈折矯正手術後の充血,結膜下出血予防に使用している報告19)もある.ブリモニジンには副作用としてアレルギー性結膜炎,充血の発生がかねてより報告20)されているが,今回充血スコアに影響が出なかったのはブリモニジンの血管収縮作用と相殺されたのではないかと思われた.前回の3カ月での報告から観察期間を延長したが,有効性,安全性ともに臨床上問題となることはなかった.本研究はPG関連薬にブリモニジン点眼液を追加するというデザインの研究であったが,PG関連薬間での差については検討しておらず,それが結果に影響した可能性も否定できない.海外でもPG関連薬の種類によるブリモニジン点眼液の追加効果について検討した報告はなく,これからの課題である.今後さらに観察期間を延ばし検討するとともに,正常眼圧緑内障が多いというわが国の特徴を考慮して病型別に評価していく必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(146) 文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)FeldmanRM,TannaAP,GrossRLetal:Comparisonoftheocularhypotensiveefficacyofadjunctivebrimonidine0.15%orbrinzolamide1%incombinationwithtravoprost0.004%.Ophthalmology114:1248-1254,20073)DayDG,HollanderDA:Brimonidinepurite0.1%versusbrinzolamide1%asadjunctivetherapytolatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.CurrMedResOpin24:1435-1442,20084)BourniasTE,LaiJ:Brimonidinetartrate0.15%,dorzolamidehydrochloride2%,andbrinzolamide1%comparedasadjunctivetherapytoprostaglandinanalogs.Ophthalmology116:1719-1724,20095)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20026)SimmonsST,EarlML;Alphagan/XalatanStudyGroup:Three-monthcomparisonofbrimonidineandlatanoprostasadjunctivetherapyinglaucomaandocularhypertensionpatientsuncontrolledonbeta-blockers:toleranceandpeakintraocularpressurelowering.Ophthalmology109:307-314,20027)RuangvaravateN,KitnarongN,MetheetrairutAetal:Efficacyofbrimonidine0.2percentasadjunctivetherapytobeta-blockers:acomparativestudybetweenPOAGandCACGinAsianeyes.JMedAssocThai85:894-900,20028)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬単剤使用例へのブリモニジンの追加効果.臨眼67:1889-1892,20139)湖崎弘,井上康子:視野による慢性緑内障の病気分類.日眼会誌76:1258-1267,197210)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry.2nded,p121-190,Mosby,St.Louis,199911)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctuatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201213)田邉祐資,菅野誠,山下英俊:正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科29:1131-1135,201214)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,200915)vanderValkR,WebersCA,LumleyTetal:Anetworkmeta-analysiscombineddirectandindirectcomparisonsbetweenglaucomadrugstorankeffectivenessinloweringintraocularpressure.JClinEpidemiol62:1279-1283,200916)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした臨床第III相試験-チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201217)林泰博,北岡康史:ブリモニジン点眼液の眼圧下降効果と安全性.臨眼67:597-601,201318)KimCS,NamKY,KimJY:Effectofprophylactictopicalbrimonidine(0.15%)administrationonthedevelopmentofsubconjunctivalhemorrhageafterintravitrealinjection.Retina31:389-392,201119)NordenRA:Effectofprophylacticbrimonidineonbleedingcomplicationsandflapadherenceafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg18:468-471,200220)MundorfT,WilliamsR,WhitcupSetal:A3-monthcomparisonofefficacyandsafetyofbrimonidine-purite0.15%andbrimonidine0.2%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher19:37-44,2003***(147)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014921