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ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果

2012年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(3):415.418,2012cラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果南野桂三*1安藤彰*1松岡雅人*1松山加耶子*1畔満喜*1武田信彦*1高木智恵子*1,2桑原敦子*1西村哲哉*1*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2コープおおさか病院眼科ChangesinIntraocularPressureafterSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinPatientswithGlaucomaandOcularHypertensionKeizoMinamino1),AkiraAndo1),MasatoMatsuoka1),KayakoMatsuyama1),MakiKuro1),NobuhikoTakeda1),ChiekoTakagi1,2),AtsukoKuwahara1)andTetsuyaNishimura1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,CoopOsakaHospital目的:ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果を,切り替え前の眼圧値を15mmHg以上の群(A群)と15mmHg未満の群(B群)の2つに分け比較検討した.対象および方法:ラタノプロストを3カ月以上単独投与されている高眼圧症,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障症例71例115眼を対象とした.眼圧下降効果は,切り替え前3回の平均眼圧値と切り替え後1,3,6カ月の眼圧値を比較した.結果:切り替え前の全体の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え後の平均眼圧は1カ月,3カ月,6カ月では,14.2±3.1mmHg,13.9±3.7mmHg,14.0±1.5mmHgであった.切り替え後の眼圧下降率は,A群では,切り替え後1カ月,3カ月,6カ月の眼圧下降率は10.5%,8.3%,11.9%であった.B群では0.4%,6.9%,5.9%であった.A群ではすべての時期で切り替え後に眼圧は有意に低かった(pairedt-testp<0.001).2mmHg以上の眼圧下降を有効とした場合,A群の有効率は,1カ月,3カ月,6カ月では45.7%,47.2%,56.3%であった.B群の有効率は,6.8%,26.9%,28.6%であった.結論:ラタノプロスト単剤で15mmHg以上の症例ではトラボプロストへの切り替えは有用である.Purpose:Toassesstheefficacyofswitchingfromlatanoprosttotravoprostinpatientswithocularhypertension,normal-tensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Caseandmethod:Thisstudyinvolved115eyesof71patientswhohadhadstableintraocularpressure(IOP)forover3monthswithlatanoprostmonotherapy,andwerethenswitchedtotravoprost.WeinvestigatedtheeffectonIOPandcorneaat1,3and6monthsaftertheswitch.Results:MeanIOPbeforeswitching(15.1±3.2mmHg)wassignificantlyreducedto14.0±1.5mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001).InpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(17.7±2.0mmHg)wassignificantlyreducedto15.7±2.1mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001);themeanIOPreductionrateswere10.5%,8.3%and11.9%,andthemeaneffectiverateswere45.7%,47.2%and56.3%at1,3and6monthsafterswitching.InpatientswithIOP<15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(12.6±1.8mmHg)wassignificantlyreducedto12.0±0.7mmHgat6monthsafterswitching(p<0.05);themeanIOPreductionrateswere0.4%,6.9%and5.9%,andthemeaneffectiverateswere6.8%,26.9%and28.6%at1,3and6monthsafterswitching.Keratoepithelialdisorderdecreasedaftertheswitch.Nopatientsshowedseverecomplications.Conclusion:SwitchingfromlatanoprosttotravoprostmaybeeffectiveinpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,orwithcornealdisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):415.418,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,眼圧,切り替え.glaucoma,latanoprost,travoprost,intraocularpressure,switching.〔別刷請求先〕南野桂三:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:KeizoMinamino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)415 はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬はPGF2aを基本骨格としたPG誘導体で,その基本骨格を修飾したプロスト系薬剤と,代謝型のプロストン系に大別される.プロスト系PG関連薬は眼圧下降効果が強いことや眼圧変動幅抑制効果をもつこと,また全身的な副作用がないことや1日1回点眼であることから緑内障および高眼圧症の治療の第一選択薬となっている.わが国では現在ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストが臨床使用され,眼圧下降効果や副作用などによって使い分けや切り替えが試みられているがまだ一定した見解はない.海外の報告ではラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストはメタアナリシス解析でも約25.30%の眼圧下降効果を有すること1),ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは眼圧は下降もしくは同等と報告されている2.4).しかし,海外のトラボプロストとわが国ではトラボプロストは防腐剤の違い,すなわち海外では塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC),わが国ではBAC非含有となっているので,海外での眼圧下降効果の結果はBACによって修飾されている可能性がある.さらに緑内障患者の平均眼圧が低いわが国においては海外における臨床研究の結果がそのまま当てはまらないことも考えられるため,切り替え前の眼圧値を考慮して検討することは有用であると思われる.そこで本研究ではラタノプロストからBAC非含有製剤であるトラボプロストへ切り替えて眼圧を測定し,切り替え前眼圧が高い症例と低い症例で違いがあるかどうかを検討した.I対象および方法1.対象参加2施設(関西医科大学付属滝井病院,コープおおさか病院)に平成20年10月1日から平成21年4月30日にかけて初診あるいは通院中の緑内障(開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障)または高眼圧症の症例で,3カ月以上ラタノプロストが単独投与されている71例115眼を対象にした.男性29例46眼,女性42例69眼,平均年齢65.3歳(29.89歳)病型別では,高眼圧症9眼,原発開放隅角緑内障52眼,正(,)常眼圧緑内障54眼であった.本研究は前向き研究であり,共同設置の倫理委員会において承認されたプロトコールに同意が得られた症例をエントリーした.続発緑内障,閉塞隅角緑内障,切り替え前6カ月内に眼外傷や手術既往のあるものは除外症例とした.2.方法眼圧の測定にはGoldmann圧平眼圧計を用いた.ラタノプロストからトラボプロストに切り替え前に3回眼圧測定し,washout期間を設けずにラタノプロストからトラボプロストに切り替え,1カ月後,3カ月後,6カ月後に各1回416あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012眼圧測定した.切り替え前3回の平均値が15mmHg以上をA群,15mmHg未満をB群とし,切り替え前の眼圧値によって眼圧下降効果の違いがあるかをpaired-ttestで統計学的に検討した.切り替え前後の受診はできうる限り,同一時間帯とした.角膜病変は,フルオレセイン染色後,コバルトブルーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察した.角膜病変は点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)をArea-Density(AD)分類5)を用いて評価し,pairedt-testで統計学的に検討した.II結果全症例の115眼の切り替え前の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え1カ月後(90眼)では14.2±3.1mmHg,切り替え3カ月後(105眼)では13.9±3.7mmHg,切り替え6カ月後(90眼)では14.0±1.5mmHgであった.A群の59眼の切り替え前の平均眼圧は17.7±2.0mmHg,切り替え1カ月後(46眼)では15.8±2.8mmHg,切り替え3カ月後(53眼)では16.2±3.1mmHg,切り替え6カ月後(48眼)では15.7±2.1mmHgであった.切り替え後のどの時点においても,切り替え前後の眼圧値を比較して統計学的に有意差がみられた.B群の56眼の切り替え前の平均眼圧は12.6±1.8mmHg,切り替え1カ月後(44眼)では12.6±2.5mmHg,切り替え3カ月後(52眼)では11.6±2.7mmHg,切り替え6カ月後(42眼)では12.0±0.7mmHgであった.切り替え1カ月後の眼圧値は,切り替え前の眼圧値と有意差はなかったが,3カ月後と6カ月後では統計学的に有意差がみられた(図1).投与前眼圧からの眼圧下降率は,全症例では1カ月,3カ月,6カ月で6.4%,7.8%,9.6%であった.A群では10.5%,8.3%,11.9%,B群では0.4%,6.9%,5.9%であった(図2).切り替え後の眼圧値が切り替え前の眼圧値より2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化とし眼圧(mmHg)2018***********:全体(n=115)16:A群(n=59)14:B群(n=56)12():眼数108切り替え前1カ月3カ月6カ月図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後の眼圧*p<0.001,**p<0.01,***p<0.05pairedt-test.(128) 10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%1カ月全体3カ月(n=115)6カ月■:全体26.766.66.7():眼数0102030405060708090100(%)6.828.626.956.347.245.743.337.181.854.763.539.545.352.146.754.32.210.08.616.79.611.44.27.5眼圧下降率(%)1カ月(n=115)(n=59):有効A群■:A群3カ月■:不変(n=59)■:悪化6カ月:B群1カ月(n=56)B群3カ月():眼数(n=56)6カ月図3ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後1カ月3カ月6カ月の有効率と悪化率図2ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化,の眼圧下降率2mmHg未満の変化は不変とした.3後のトラフ時刻でトラボプロストのほうがラタノプロストよ2.5切り替え前(n=66)*り眼圧下降効果が大きいとする報告8)があり,本研究の対象2*p<0.01症例の多くが午後に受診しているためトラフ時刻に近い時刻1.5トータルスコアpairedt-testで測定したことや,臨床研究に参加することでアドヒアラン1():眼数スが改善したことなども影響する可能性があり,これらの因0.5子が複合したと推察される.0-0.5図4ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後のAD分類のトータルスコアた場合の有効率と悪化率を検討した.有効率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では26.7%,37.1%,43.3%,A群では45.7%,47.2%,56.3%,B群では6.8%,26.9%,28.6%であった.悪化率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では6.7%,8.6%,10.0%,A群では2.2%,7.5%,4.2%,B群では11.4%,9.6%,16.7%であった(図3).角膜病変は,切り替え前のSPKありが69%であったが,切り替え後(最終観察時)では48%であった.AD分類のトータルスコアによる検討では,切り替え前が1.62であったが,切り替え後では1.06と減少し,統計学的に有意差がみられた(図4).なお,全症例の経過観察中に充血や角膜病変によるトラボプロスト中止,または点眼変更例はなかった.III考察今回の筆者らの結果では,対象症例全体の平均眼圧値はラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に有意に下降し,最終眼圧下降率は9.6%で有効率は43.3%であった.これはトラボプロストがラタノプロストよりFP受容体の親和性が高いこと6)やFP受容体のアゴニスト活性が高いこと7)などが主な原因として考えられる.さらに点眼24時間(129)わが国におけるラタノプロスト単独投与からトラボプロストへの切り替え後の眼圧下降効果についてはすでに幾つかの報告がある9.12).大谷ら10),佐藤ら11),徳川ら12)の報告ではそれぞれ0.7mmHg,2.1mmHg,1.8mmHgと切り替え後に有意な眼圧下降が得られ筆者らの結果と同様であった.一方,中原ら9)は切り替え後の眼圧にほぼ変化なく眼圧下降効果に有意差がみられなかったと報告しているが,対象症例からラタノプロストのノンレスポンダーを除外しているため,他とは異なる結果となった可能性が考えられる.A群とB群の2群に分けた検討では,A群では全時点において有意な眼圧下降が得られ,最終眼圧下降率は約11.9%,有効率は約56.3%であった.B群では切り替え後3カ月と6カ月で有意な眼圧下降が得られたが,最終眼圧下降率は約5.9%,有効率は約28.6%でA群のほうが効果的であった.中原ら9)は筆者らと同様に切り替え前眼圧値を15mmHg以上と15mmHg未満の2群についても検討しているが,それにおいても両群とも切り替え前後で有意差はなかったと報告している.ラタノプロストのノンレスポンダーのなかにはトラボプロストが有効な症例があることが報告されており2),ラタノプロストのノンレスポンダーを除外していない本研究では,切り替え前眼圧値が高いA群にラタノプロストのノンレスポンダーまたは効果の不十分な症例が含まれていたことも考えられる.全症例では約1mmHgの眼圧下降,A群では約2mmHgの眼圧下降が得られ,EarlyManifestTrial13)ではベースライン眼圧から1mmHg眼圧が下降すると緑内障進行リスクが10%低下すると報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012417切り替え後(n=66) いることから,トラボプロストへの切り替えは有効であると考えられる.しかし,B群では最終悪化率が16.7%でラタノプロスト単独で15mmHg未満の症例では眼圧が悪化する症例もあるため注意して行うべきである.わが国ではトラボプロストは防腐剤としてBACを含有せず,sofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入しており,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは角膜所見に改善がみられるという報告が多い9.12,14).本研究でも既報と同様にラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に角膜所見の改善がみられた.ヒト結膜由来細胞を用いたinvitro試験において,BAC含有製剤およびBAC単独は明らかな細胞毒性を示し,BAC非含有製剤では細胞毒性は認められなかったという報告もあり15),わが国のトラボプロストのようにBACを含有しない点眼薬は,薬剤の長期使用による角膜障害を減少させるものと思われる.本研究の結果では,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に眼圧が有意に下降して角膜障害も減少したが,対象症例の病型,症例数,経過観察期間の眼圧の季節変動なども考慮して解釈しなければならない.薬剤の効果を比較するためにはランダム割付による群間比較ないしはクロスオーバー試験を二重盲検下で行うことが理想であり,トラボプロスト単独使用からのラタノプロストを含めた他のPG製剤への切り替えも検討する必要があると思われる.現在複数のPG製剤が存在するが,その特長に合わせた使い分けが緑内障治療を行ううえで重要である.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabililtyofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,20043)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20014)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20036)佐伯忠賜朗,相原一:プロスタグランジン関連薬の特徴─増える選択肢.あたらしい眼科25:755-763,20087)SharifNA,CriderJY,HusainSetal:HumanciliarymusclecellresponsestoFP-classprostaglandinanalogs:phosphoinositidehydrolysis,intracellularCa2+mobilizationandMAPkinaseactivation.JOculPharmacolTher19:437-455,20038)YanDB,BattistaRA,HaidichABetal:Comparisonofmorningversuseveningdosingand24-hpost-doseefficacyoftravoprostcomparedwithlatanoprostinpatientswithopen-angleglaucoma.CurrMedResOpin24:3023-3027,20089)中原久惠,清水聡子,鈴木康之ほか:ラタノプロスト点眼薬からトラボプロスト点眼薬への切り替え効果.臨眼63:1911-1916,200910)大谷伸一郎,湖崎淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,201011)佐藤里奈,野崎実穂,高井祐輔ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切替え効果.臨眼64:1117-1120,201012)徳川英樹,西川憲清,坂東勝美ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの変更による眼圧下降効果の検討.臨眼64:1281-1285,201013)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200915)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudiesofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007***418あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(130)

線維柱帯切開術後の選択的レーザー線維柱帯形成術の効果

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):267.271,2012c線維柱帯切開術後の選択的レーザー線維柱帯形成術の効果森村浩之伊藤暁高橋愛池田絵梨子公立学校共済組合近畿中央病院眼科E.ectofSelectiveLaserTrabeculoplastyforPrimaryOpen-AngleGlaucomawithPriorHistoryofTrabeculotomyHiroyukiMorimura,SatoruItoh,AiTakahashiandErikoIkedaDepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital目的:線維柱帯切開術(LOT)既往の原発開放隅角緑内障(POAG)症例での選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の眼圧下降効果をレトロスペクティブに検討した.対象および方法:過去にPOAGに対してLOTが行われ,2008年から2010年までにSLTを施行した15例15眼を対象とした.平均年齢は62.3±12.0歳(42.81歳)で平均経過観察期間は18.3±8.1カ月(1.33カ月)であった.眼圧,眼圧下降率(ΔIOP)について検討した.LOTは白内障同時手術8例8眼,LOT単独手術が7例7眼であり,そのうち3例3眼はすでに眼内レンズ挿入眼であった.SLTは全例全周に照射した.結果:SLT前の眼圧は19.2±3.4mmHgで,SLT後1カ月で15.4±3.1mmHg,3カ月で13.7±3.2mmHg,6カ月で14.1±2.7mmHg,12カ月で16.1±4.0mmHgとなり,眼圧下降率はSLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月がそれぞれ18.5±15.6%,26.9±17.7%,24.4±18.9%,17.3±17.3%となり有意に下降した(p<0.05).SLTの眼圧下降率10%とした有効率は80%,20%では53.3%,3mmHg以上下降では60%であった.2回連続で眼圧下降率が10%未満となったときの最初の時点をendpointと定義したKaplan-Meier法による12カ月後の生存率は,58.2%であった.重回帰分析で,SLT後の眼圧に関与する有意な因子は,SLT治療前の眼圧値であった.結論:SLTはLOT後であっても有意に眼圧を下降させる効果があった.LOT後に眼圧上昇をきたした場合,線維柱帯切除術を行う前に一度試みてよいと考えられた.Weretrospectivelyevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringe.ectsofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)whohadpreviouslyundergonetrabeculotomy(LOT).Includedinthisstudywere15eyesof15patientswithPOAGwhounderwentLOTandhadundergoneSLTbetween2008and2010.Meanpatientagewas62.3±12.0years(mean±standarddeviation),rangingfrom42to81years.Followupperiodwas18.3±8.1months,rangingfrom1to33months.Ofthe15eyes,8hadundergoneLOTwithphacoemulsi.cationandaspiration+intraocularlensimplantation(PEA+IOL);theother7eyeshadundergonesingleLOT,3ofthosealsoreceivingPEA+IOL.SLTwasappliedover360degreesofthetrabecularmeshwork.MeanIOPdecreasedfrom19.2±3.4mmHgto15.4±3.1mmHgat1month,13.7±3.2mmHgat3months,14.1±2.7mmHgat6months,and16.1±4.0mmHgat12months.IOPreductionratewas18.5±15.6%at1month,26.9±17.7%at3months,24.4±18.9%at6months,and17.3±17.3%at12months,signi.cantlydi.erentvalues(p<0.05).Theresponderratefor10%,20%orover3mmHgpressurereductionwas80%,53.3%,or60.0%respectively.Kaplan-Meiersurvivalanalysisshowedthatthesuccessratesfortwoconsecutive10%IOPreductionat12monthsafterSLTwas58.2%.Pre-SLTIOPandpost-SLTIOPshowedcorrelationonmultipleregressionanalysis.SLTsigni.cantlydecreasedIOPinpatientswithPOAGwhohadundergoneLOT.SLTappearstobeane.ectivetreatmentforuncontrolledPOAGwithpriorhistoryofLOT,before.lteringsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):267.271,2012〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,線維柱帯切開術,原発開放隅角緑内障,眼圧.selectivelasertrabe-culoplasty,trabeculotomy,primaryopen-angleglaucoma,intraocularpressure.〔別刷請求先〕森村浩之:〒664-8533伊丹市車塚3-1公立学校共済組合近畿中央病院眼科Reprintrequests:HiroyukiMorimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital,3-1Kurumazuka,Itami,Hyogo664-8533,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(119)267はじめに原発開放隅角緑内障(POAG)に対して線維柱帯切開術(LOT)を行った後の眼圧は,15mmHg以上のhighteensになることが多いと報告されている1).緑内障の病期が早期あるいは,高齢であれば,この眼圧値でも許容されると考えられるが,経過観察中,視野進行がみられたり,眼圧上昇をきたし,さらに追加処置が必要になることもある.この場合,線維柱帯切除術が行われることが一般的である2).しかし,線維柱帯切除術には濾過胞への細菌感染をはじめとした少なくない合併症が知られており,患者の年齢,意思を考えた場合,レーザーなど他の方法も考慮される場合がある3).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は1995年にLatinaらによりメラニン吸収率の高い半波長Nd:YAGレーザー(波長532nm)をごく短時間照射することにより隅角色素上皮のみに選択的に作用し,眼圧を下降させる基礎実験が報告された4).その後,1998年にヒトでの応用が初めて報告され,以降数多くの眼圧下降の報告がされている5.10).これまで,無治療のPOAGあるいは,抗緑内障点眼薬使用中でのSLTの検討が多く,緑内障手術後のSLTの効果についての報告は少ない.今回,筆者らはLOT後に眼圧コントロール不良,視野進行により,さらに眼圧下降が必要になり,その方法としてSLTを行い,その眼圧下降効果についてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法対象は,2008年1月から2010年5月までに当科でLOT後に眼圧コントロール不良,視野進行により,さらに眼圧下降のためSLTが必要になったPOAG症例15例15眼で,LOTは1回行われており,初めてSLTを施行し,1カ月以上経過観察できた症例とした.眼圧測定は,Goldmanntonometerで行った.LOTはLOT単独で行った症例が7眼,そのうち3眼ではLOT以前に超音波乳化吸引白内障手術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)が行われており,IOL挿入眼であった.8眼はLOT+PEA+IOLが行われていた.男性7例7眼,女性8例8眼,平均年齢は62.3±12.0歳(42.81歳),平均観察期間は18.3±8.1カ月(1.33カ月),LOTからSLTまでの期間は平均44.1±44.2カ月(3.192カ月),術前眼圧19.2±3.4mmHg(14.26mmHg),緑内障治療薬は平均2.3±0.6剤(1.3剤)であった.SLT後,経過観察期間中は点眼薬の変更は1眼で,SLT後6カ月でラタノプロスト1剤からラタノプロスト+チモロール合剤とブリンゾラミド点眼に増量していた.この1眼は点眼増量の時点で打ち切りとした.観血的治療をSLT後に行った症例は,今回の経過観察中にはなかった.SLTは術前に十分説明し,患者から同意を得たうえで,ellex社製TangoRを使用し,波長532nm,spotsize400μm,パルス幅3ns,照射範囲は360°全周行った.Powerは気泡が生じる程度の最小エネルギーで0.6.0.9mJで,平均103発(80.120発)照射した.総照射エネルギーは平均85.3±15.5mJ(64.0.132.0mJ)であった.全症例でSLT前後に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)を点眼し,ステロイド点眼は使用しなかった.SLT前とSLT後の平均眼圧を比較して,pairedt-testで検定した.同時期に行った観血的治療既往のないSLT単独治療を行った15例15眼と比較し,pairedt-testで検定した.SLTの有効率を眼圧10%,20%,3mmHg以上下降に分類し,検討した.緑内障点眼薬数を2剤以下と3剤以上の症例に分けて,眼圧下降率を比較検討した.眼圧下降率が2回連続で10%未満となったときの最初の時点,緑内障点眼薬が増加したときをendpointと定義して,Kaplan-Meier生命表解析を行った.さらに眼圧に影響する因子を重回帰分析により検討した.検討した因子は,性別,年齢,LOTからSLTまでの期間,緑内障点眼薬数,SLT総エネルギー,SLT前の眼圧である.統計解析ソフトはJMPver8.0を使用した.II結果症例全体の眼圧経過を図1に示す.SLT前の眼圧は19.2±3.4mmHgで,SLT1カ月後15.4±3.1mmHg,3カ月後13.7±3.2mmHg,6カ月後14.1±2.7mmHg,12カ月後16.1±4.0mmHg,最終診察時14.9±3.7mmHgとなり,SLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月でSLT前に比べすべての時期で,有意に眼圧は下降した(p<0.05).図2に眼圧下降率を示す.SLT後1カ月で18.5±15.6%,3カ月で26.9±17.7%,6カ月で24.4±18.9%,12カ月で17.3±17.3%,最終診察時20.0±21.7%となった.当院で同時期に行った緑内障点眼使用症例でSLTのみを行った15例15眼では,SLT前の眼圧は18.6±4.4mmHgで,SLT1カ月後15.4±4.0mmHg,3カ月後14.8±3.5mmHg,6カ月後15.4±3.9mmHg,12カ月後15.5±2.8mmHg,最終診察時(平均観察期間23.7±6.7カ月)15.3±2.6mmHgであった.各時期ともLOT後のSLT症例の眼圧値と有意な差はみられなかった(p>0.05).最終診察時(平均観察期間18.3カ月)での,SLTの有効率は10%以上下降とした場合80%,20%以上下降とした場合53.3%,3mmHg以上下降とした場合60%となった.また,SLT後6カ月での有効率は10%以上下降した場合64.3%,20%以上下降とした場合57.1%,3mmHg以上下降とした場合64.3%となった.SLT前の緑内障点眼薬数を2剤以下と3剤以上に分けて,SLTによる眼圧下降値を検討した.2剤以下の群ではSLT前19.1±4.2mmHgであったが,SLT後最終診察時は14.3268あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(120)017.318.520.024.426.920406080眼圧下降率(%)100観察期間(眼数)図1LOT後のSLTの眼圧経過Pairedt-test*:p<0.05.1009080706050403020100123456789101112観察期間(月)図3眼圧下降率10%未満が2回連続した最初の時点をend累積生存率(%)観察期間(眼数)図2LOT後のSLTによる眼圧下降率表1重回帰分析によるSLTの眼圧下降に影響を与える因子についてF値p値性別4.20230.0745年齢0.00340.9547LOT-SLT期間0.85510.3822点眼数0.91470.3669SLT総エネルギー4.44220.0681SLT前の眼圧値11.65290.0092**:p<0.05.内障に対してSLTを行った結果を検討した.これまで,未治療のPOAGに対するSLTの効果については,McIlraithpointと定義したKaplan-Meier生命表解析±3.6mmHgとなり,眼圧下降率は25.1%であった.3剤以上の群ではSLT前19.3±1.1mmHgであったが,SLT後最終診察時は15.8±3.8mmHgとなり,眼圧下降率は18.1%であった.両群間のSLT前,SLT後の眼圧,眼圧下降率に有意差はみられなかった.眼圧下降率が2回連続10%未満となったときの最初の時点あるいは緑内障点眼薬が増量となった時点をendpointと定義したKaplan-Meier生命表解析結果を図3に示す.SLT後1カ月で80.0%,3カ月で80.0%,6カ月で65.5%,12カ月で58.2%の生存率となった.SLT後の眼圧下降率に影響を与える因子を重回帰分析により検討した(表1).SLT前の眼圧値が高い症例ほど眼圧下降率が高く,有意に相関していた(p<0.05).性別,年齢,LOTからSLTまでの期間,緑内障点眼薬数,SLT総エネルギーにおいては,有意な相関はみられなかった.III考按今回は,すでに線維柱帯切開術が行われている開放隅角緑ら,Nagarらにより,SLT後1年で30%以上の眼圧下降効果があると報告されている6,7).緑内障点眼薬使用下でのSLTの成績についても数多くの報告がある10.14).有効性については,各報告により異なり,また対象症例の病型,背景も異なるため,単純な比較は困難であるが,緑内障点眼下では,眼圧下降率は10%台となり,未治療のPOAGに対する効果より小さくなっていた.さらに緑内障手術が行われている症例に対するSLTの報告では,これまでは濾過手術と流出路再建術をまとめて緑内障手術歴として検討されていることが多い.緑内障手術のSLTの眼圧下降に与える影響については,報告により異なる.真鍋らはLOTと線維柱帯切除術(LEC)を合わせて8眼で検討しており,手術既往眼のほうが,有意に眼圧下降していたと報告している15).南野らも症例数は少ないが,LEC3眼(2眼は非穿孔性線維柱帯切除術,1眼が線維柱帯切除術)で,それぞれSLTが有効であったと報告している16).一方,望月らは眼圧下降幅3mmHg以上または眼圧下降率20%以上を有効とした場合,LEC4眼ではすべて無効で,LOT1眼も3カ月までは有効であったが6カ月目に無効になったと,LEC既往眼で成績が悪かったと報告している17).(121)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012269上野らは,濾過手術5眼,流出路再建術4眼でSLT後3カ月で有意な眼圧下降がみられなかったと報告している18).今回筆者らの検討では,SLT360°照射で,SLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月において,有意な眼圧下降が得られ,有効率は10%以上下降とした場合80%,20%以上下降とした場合53.3%,3mmHg以上下降とした場合60.0%となった.これは,未治療のPOAGに対するSLTの効果より弱いが,緑内障点眼薬使用下でのSLTの効果と同程度と考えられ,LOT後のSLTは,今回の検討では有効であった.今回の検討でも緑内障点眼薬は2.3±0.5剤使用されており,緑内障点眼薬使用のうえにさらにLOTを行っている症例であった.緑内障点眼薬の薬剤数とSLTの効果については,点眼薬数が多いほうがSLTの効果が弱いという報告9,10,19)がある一方,緑内障点眼薬が処方されている症例ではSLTの効果はSLT前の点眼数の量には影響されないという報告8,17,20)もあり,報告により差がみられる.LOT後のSLTの効果についても,緑内障点眼薬2剤以下と3剤以上使用例に分けて眼圧下降率を検討したが,2剤以下の症例群では25.1%,3剤以上でも18.1%と両群間に有意な差はみられなかった.まったく緑内障点眼薬が使用されていない未治療例と比べると緑内障点眼薬使用群はSLTの効果が減弱する可能性があるが,複数の緑内障点眼薬が使用されている場合には,SLTとの相互作用を判断するのはむずかしいと考えられた.今回,SLTの効果に影響を与える因子として,SLT前の眼圧があげられたが,これはSLT前の眼圧が16mmHg以上の群で成績がよかったという報告17)やSLT1年後の眼圧下降率が大きい症例は有意にSLT前眼圧が高かったという報告21),術前眼圧が低い症例では有意にSLTが不成功になりやすかったという報告9),SLT前眼圧とSLT後1カ月の眼圧下降率の単回帰分析で,術前眼圧が低いほど眼圧下降率が小さくなったという報告10)に一致する結果であった.今回のLOT後のPOAGに対してSLTを行った検討では,SLT後12カ月まで有意な眼圧下降が得られ,その程度はこれまでの緑内障点眼を行っている症例に対するSLTの効果と同程度であった.そのなかでもSLT後3カ月,6カ月では20%以上の眼圧下降率が得られたが,これはLOT後のPOAGで,さらに眼圧下降が必要になった症例に絞られたため,SLT前の眼圧がいわゆるlowteensの眼圧の症例がなく,比較的SLT前の眼圧が高い症例になったことが関連していると考えられる.SLTは比較的合併症の少ない治療で,LOT後であっても有意な眼圧下降が得られたので,LECを行う前に一度試みられてもよいと考えられた.しかし,本検討はレトロスペクティブな検討であり,症例数も少ないため,今後さらに症例数を増やし,長期間の検討を行うとともに,プロスペクティブな検討も必要と考えられた.本論文の要旨は,第21回日本緑内障学会(2010年)にて発表した.文献1)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,20002)稲谷大:緑内障Now!緑内障の治療レーザー治療・手術治療線維柱帯切開術の術後管理のポイントは?あたらしい眼科25(臨増):172-174,20083)東出朋巳:緑内障手術の限界術中・術後合併症からみた安全性の限界.眼科手術17:9-14,20044)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,19955)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2088,19986)McIlraithI,StrasfeldM,ColevGetal:Selectivelasertrabeculoplastyasinitialandadjunctivetreatmentforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:124-130,20067)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Arando-mised,prospectivestudycomparingselectivelasertrabe-culoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,20058)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19999)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassoci-atedwith180degreesselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma14:400-408,200510)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,200711)JuzychMS,ChopraV,BanittMRetal:Comparisonoflong-termoutcomesofselectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplastyinopen-angleglauco-ma.Ophthalmology111:1853-1859,200412)DamjiKF,BovellAM,HodgeWGetal:Selectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplasty:resultsfroma1-yearrandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol90:1490-1494,200613)Martinez-de-la-CasaJM,Garcia-FeijooJ,CastilloAetal:Selectivevsargonlasertrabeculoplasty:hypotensivee.cacy,anteriorchamberin.ammation,andpostoperativepain.Eye18:498-502,200414)DamjiKF,ShahKC,RockWJetal:Selectivelasertrabeculoplastyvargonlasertrabeculoplasty:aprospec-tiverandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol83:718-722,199915)真鍋伸一,網野憲太郎,高島保之ほか:SelectiveLaserTrabeculoplastyの治療成績.眼科手術12:535-538,199916)南野桂三,松岡雅人,安藤彰ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科26:1249-1252,2009270あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(122)17)望月英毅,高松倫也,木内良明:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率.あたらしい眼科25:693-696,200818)上野豊広,岩脇卓司,湯才勇ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科25:1439-1442,200819)松葉卓郎,豊田恵理子,大浦淳史ほか:全周照射による選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.眼科手術22:401-405,200920)山崎裕子,三木篤也,大鳥安正ほか:大阪大学眼科における選択的レーザー線維柱帯形成術の成績.眼紀58:493-498,200721)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpredictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,2005***(123)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012271

ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):259.265,2012cラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討広田篤*1井上康*2永山幹夫*3相良健*4岡田康志*5古本淳士*6木内良明*7*1広田眼科*2井上眼科*3永山眼科クリニック*4さがら眼科クリニック*5おかだ眼科*6ふるもと眼科*7広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学E.cacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforLatanoprostAtsushiHirota1),YasushiInoue2),MikioNagayama3),TakeshiSagara4),KojiOkada5),AtsuhitoFurumoto6)YoshiakiKiuchi7)and1)HirotaEyeClinic,2)InoueEyeClinic,3)NagayamaEyeClinic,4)SagaraEyeClinic,5)OkadaEyeClinic,6)FurumotoEyeClinic,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences目的:ビマトプロスト(bimatoprost:BIM)点眼薬の眼圧下降効果と安全性を比較検討した.方法:24週間以上ラタノプロスト(latanoprost:LAT)単独または併用療法を行っても眼圧下降が不十分な広義原発開放隅角緑内障65例65眼を対象とした.LATをBIMに切替えて24週間観察した.結果:眼圧は切替え前17.5±4.1mmHgで,BIM切替え2週後15.7±3.6mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも有意に下降した(p<0.0001).切替え前からの眼圧下降率が20%以上の症例は53%であった.結膜充血スコアは切替え前より2週後で有意に高かった(p<0.05).副作用出現(5例)は角膜上皮障害5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度であった.中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用2例,手術施行1例,患者希望4例であった.結論:BIMはLATで効果不十分な症例に対し,さらなる眼圧下降効果が期待できる.Object:Toevaluatethesafetyandocularhypotensivee.ectofbimatoprost(BIM)asareplacementforlatanoprost(LAT).Method:BIMwasadministeredfor24weeksto65eyesof65primaryopen-angleglaucomapatientswhowereintolerantofLATtherapyexceeding24-weeks.Results:Intraocularpressure(IOP)was17.5±4.1mmHgatbaseline,15.7±3.6mmHgat2weeksand14.1±3.4mmHgat24weeksaftertheswitch(p<0.0001).IOPchangewas≧20%in53%ofpatients.Conjunctivalhyperemiascoreincreasedsigni.cantlyat2weeks(p<0.05).Adverseeventsobservedin5patientscomprisedcornealepitheliumdisorders:5;conjunctivalhyperemia:1andocularpain:1.Withdrawalsfromthestudytotaled8patients:1forine.ectivenessorincreasedIOP;2foradverseevent;1forsurgeryand4forceasedparticipation.Conclusion:BIMise.ectiveasareplacementforLATinpatientswhoareintolerantofLATtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):259.265,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,ビマトプロスト,眼圧,副作用.glaucoma,latanoprost,bimatoprost,intraocularpressure,sidee.ect.はじめに緑内障治療でevidence-basedmedicine(EBM)が確認された唯一の治療は眼圧下降であり,その治療法の主体は薬物療法である.薬物療法は点眼薬が主で,交感神経作動薬,副交感神経作動薬に加え,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhy-draseinhibitor:CAI)およびプロスタグランジン(prosta-glandin:PG)系薬などの多種の薬剤が市販されている.現在,緑内障治療薬のなかで最も汎用されているのはPG系点眼薬で,2011年3月の時点でわが国では5種類の市販薬が〔別刷請求先〕広田篤:〒745-0017山口県周南市新町1-25-1広田眼科Reprintrequests:AtsushiHirota,M.D.,HirotaEyeClinic,1-25-1Shinmachi,Shunan-city,Yamaguchi745-0017,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)259ある.イソプロピルウノプロストンを除くPG系薬は他の薬剤に比べ,眼圧下降効果は強いが,全身副作用が少なく,点眼回数は1回/日で使いやすい.しかし,結膜充血,虹彩色素沈着などの局所の副作用の頻度が高いことも指摘されている1).2009年11月から使用可能になったPG系点眼薬のビマトプロスト(bimatoprost:BIM)はプロスタマイド系,ラタノプロスト(latanoprost:LAT),トラボプロスト,タフルプロストはプロスタノイド系に分類されている.LAT,トラボプロスト,タフルプロストはプロドラッグで,アシッド体に変化してからプロスタノイド受容体に結合してぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進する.一方,BIMは未変化体として直接プロスタマイド受容体に結合して房水流出を促進する2).そのため患者によってPG系薬の効果に差がある可能性があり,海外では原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)あるいは高眼圧症(ocularhypertension:OH)の患者に対しBIMはLATと比較して眼圧下降効果は高いが,結膜充血も強いとの臨床結果がクロスオーバー試験3)あるいは多施設二重盲検試験4,5)により報告されている.わが国におけるBIMとLATの多施設二重盲検比較試験の報告6)でも同様の結果であった.また,LATで眼圧下降が認められない症例が,BIMで有意に下降したとの報告もある3).LATで治療されているが眼圧下降が不十分な緑内障患者に対しては,他剤との併用が試みられることが多かったが,副作用の増加や患者の利便性を考えると,安易な薬剤の追加は避けるべきである.筆者らは以前,LATからトラボプロスト(保存剤:sofZiaTM)への切替えの有効性と安全性を評価し,眼圧は不変であったが,角膜上皮障害は減少することを報告した7).今回,LAT単独,あるいはLATと他剤との併用で治療されていて眼圧下降が不十分な症例について,LATをBIMに変更したときの眼圧下降効果と安全性について比較検討したので報告する.I対象および方法1.対象2009年12月から2010年5月の間に6施設を受診した広義POAG患者で,LAT単剤またはLATと他の緑内障治療表1除外基準1)評価対象眼において,角膜屈折矯正手術,濾過手術の既往を有する者2)評価対象眼においてLAT投与前6カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者および治療薬を変更した者3)緑内障以外の活動性の眼科疾患を有する患者4)重症の角結膜疾患を有する者5)観察期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する患者6)観察期間中コンタクトレンズ装用が必要な患者7)その他,担当医師が適切でないと判断した患者薬を併用して24週間以上治療を継続したが眼圧が目標値に達せず,眼圧下降が不十分と判断された症例を対象とした.評価対象は1患者について1眼とし,点眼治療のみで眼圧コントロールが可能で矯正視力が0.7以上の眼を評価対象眼とした.両眼ともに選択基準を満たす場合は,原則として切替え前の眼圧が高い眼を評価対象眼とし,眼圧が同じ場合は右眼を採用した.症例の除外基準を表1に示した.2.方法a.投与方法0.005%LATを休薬期間を置かずに0.03%BIMに変更して24週間点眼した.他の緑内障治療薬は切替え前後で用法を含めて変更しないこととした.全身および局所のステロイド薬は併用禁忌とした.ただし皮膚局所投与は併用可とした.試験期間中,眼圧に影響を及ぼす新たな薬剤投与は行わないものとし,試験期間中に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)や濾過手術の必要のある症例は中止例とした.b.観察項目①患者背景因子年齢,性別,病歴,矯正視力,視野,緑内障併用薬,内眼手術の既往について検討した.②眼圧検査点眼切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に測定した.測定はGoldmann圧平式眼圧計を用いて,2回測定し,平均値を測定値とした.切替え後の各観察日の表2結膜充血判定基準0:充血(.)0.5:軽微な充血1:軽度の充血2:中等度の充血3:高度の充血260あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(112)測定時間は切替え前の測定時間の前後2時間以内とした.③視野検査Humphrey視野計プログラム30-2を用いて,切替え前と観察終了時(24週後)に測定した.なお,切替え前6カ月以内の視野および観察終了後3カ月以内の視野をもって,切替え前と観察終了時のものに充てることができることとした.④他覚所見結膜充血と角膜上皮障害は,切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に判定した.結膜充血は表2の判定基準に従い,角膜上皮障害はMiyataら8)のArea-Density(AD)分類により判定した.⑤患者アンケート切替え前,切替え12,24週後に実施した.自覚症状は結膜充血,異物感(目がゴロゴロする),刺激感(点眼時しみる)についてVAS(visualanaloguescale)で確認した.また,「眼圧の気になり方」,「点眼忘れの頻度」,「容器の点眼のしやすさ」,「その他気になること」について質問表を用いて調査した.c.評価項目と統計解析評価項目は眼圧,視野,視力(logMAR),他覚所見(結膜充血,角膜上皮障害),およびアンケートによるVAS(結膜充血,異物感,刺激感)とした.解析は,眼圧,視野,視力(logMAR)およびアンケートのVAS(充血,異物感,点眼刺激感)についてはpairedt-test,他覚所見についてはWilcoxonsigned-ranktestを用いて検定した.有意水準は5%未満とした.なお,本試験は倫理審査委員会の承認後,同意を取得できた患者を対象に通常の診療範囲内にて実施した.II結果1.対象および患者背景選択基準を満たした65例65眼を評価対象とした.年齢は平均74.4±8.0歳(53.93歳),男性32例(49.2%),女性33例(50.8%)であった.緑内障の病歴は5年以内が41例(63.1%)であった.症例選択時の緑内障治療薬は,LAT単剤が34例(52.3%),LAT+b遮断薬が12例(18.5%),LAT+CAIが8例(12.3%),LAT+b遮断薬+CAIが6例(9.2%),LAT+その他が5例(7.7%)であった(表3).中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用発現2例,患者希望4例,1例は対象眼の手術施行により中止した.各症例の内訳を表4に示す.無効または眼圧上昇により中止した1例は0日眼圧17.5mmHg,2週後16.5mmHg,4週後14.5mmHg,8週後16.5mmHg,12週後17.5mmHg,16週後14.0mmHg,20週後15.0mmHg,24週後14.5mmHgと変動があり,主治医の判断で中止した.(113)表3患者背景性別男性32(49.2%)女性33(50.8%)74.4±8.0歳年齢〔平均±SD(範囲)〕(53.93歳)視野〔MD:平均±SD(.)(範囲)〕.6.61±4.82(.25.3..0.1)LogMAR視力〔平均±SD(範囲)〕.0.06±0.08(.0.2.0.2)病歴<1年5(7.7%)<5年36(55.4%)<10年15(23.1%)10年≧9(13.8%)緑内障併用薬34(52.3%)31(47.7%)変更前の使用薬剤分類LATのみ34(52.3%)LAT+b遮断薬12(18.5%)LAT+CAI8(12.3%)LAT+b遮断薬+CAI6(9.2%)LAT+a1遮断薬2(3.2%)LAT+b遮断薬+a1遮断薬1(1.5%)LAT+CAI+a1遮断薬1(1.5%)LAT+b遮断薬+CAI+a1遮断薬1(1.5%)内眼手術の既往(評価対象眼)34(52.3%)31(47.7%)白内障手術29(93.5%)Argonlasertrabeculoplasty5(16.1%)その他1(3.2%)無有無有表4中止例(8例)内訳BIM投与中止理由BIM投与期間無効または眼圧上昇24週間角膜上皮障害発現16週間角膜上皮障害発現・結膜充血24週間頭重ありとの患者希望によりLATに戻す2週間刺激感ありとの患者希望によりLATに戻す4週間右眼ぼやけるとの患者希望により他剤に変更16週間点眼忘れあるため,点眼数を減らしたいとの患者希望により配合剤に変更20週間対象眼手術施行のため(除外基準)4週間2.眼圧についてa.眼圧の推移全眼の眼圧は,0日17.5±4.1mmHg,切替え2週後15.7±3.6mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後15.2±3.2mmHg,12週後15.3±3.0mmHg,16週後14.7±3.4mmHg,20週後14.8±3.4mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも切替え後に有意に低下していた(いずれもp<0.0001,あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122610日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(65)(59)(60)(58)(59)(52)(54)(56)(34)(32)(33)(31)(32)(28)(29)(31)()は眼数()は眼数図1眼圧の推移(全眼)図2眼圧推移(LAT単剤からBIM単剤)0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(12)(11)(11)(11)(11)(11)(10)(11)()は眼数p値vs0日─0.07020.00000.00290.00670.00220.00330.0009pairedt-test図3眼圧の推移(LAT+b遮断薬からBIM+b遮断薬)p値vs2週後,pairedt-test図4眼圧下降率と症例分布pairedt-test)(図1).LAT単剤投与眼では,0日16.8±4.0mmHg,切替え2週100*後15.3±3.2mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後14.9±803.3mmHg,12週後14.7±3.2mmHg,16週後15.3±3.3mmスコア症例(%)Hg,20週後14.5±3.3mmHg,24週後,14.1±3.8mmHg60と,いずれも有意に低下していた(いずれもp<0.0001,40pairedt-test)(図2).LATとb遮断薬併用眼では,0日17.4±2.7mmHg,切替え2週後15.7±2.5mmHgと有意差はなかった(p=0.0702)が,4週後13.7±2.9mmHg,8週後14.6±2.0mmHg,12週後15.3±1.4mmHg,16週後13.6±3.0mmHg,20週後14.2±2.3mmHg,24週後13.8±2.4mmHgで有意に低下していた(4週後:p<0.0001,8,12,16,20週後:p<0.01,24週後:p<0.001,pairedt-test)(図3).b.眼圧下降率の推移眼圧下降率は,切替え2週後10.4%,4週後14.5%,8週後11.8%,12週後10.4%,16週後17.1%,20週後15.1%,24週後18.0%であり,2週後の眼圧下降率に比べ4,16,20,24週後では有意に増加した(4,20週後:p<0.05,16,24週後:p<0.01,pairedt-test)(図4).262あたらしい眼科Vol.29,No.2,201220:000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後*:p<0.05vs0日Wilcoxonsigned-ranktest図5結膜充血スコアの分布3.結膜充血BIM切替え前の結膜充血発現症例は67.3%で,スコア1が44.6%を占めていた.BIM切替え2週後では有意に充血が強くなり(p<0.05,Wilcoxonsigned-ranktest),切替え前になかったスコア2の発現もあった.4週後は充血が強い傾向がみられた(p=0.0522)が,8週以降に有意差はなかっ(114)■:充血:異物感■:しみる**スコア症例(%)■:4■:3■:2:02000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後Wilcoxonsigned-ranktest12週後24週後図6AD分類スコア(A+D)の分布た(図5).4.角膜上皮障害性BIM切替え24週後までのいずれの観察時点でもスコアの分布に差はなかった(図6).BIM切替え前に角膜上皮障害が認められた11例のうち,BIM切替え後,7例は軽減あるいは消失し,4例は変化がなかった.5.視野と視力BIM切替え前meandeviation(MD値)は.6.61±4.82dB,切替え24週後では.6.16±4.42dBで有意差はなかった.LogMAR視力は,BIM切替え前.0.06±0.08,切替え12週後.0.05±0.09,24週後.0.05±0.08といずれの観察時点でも有意差はなかった.6.患者アンケート(VASスコアと回答)「結膜充血」「異物感」のVASスコアは切替え前,切替え12週後,24週,後のいずれでも差はなかった.「刺激感」のVASスコアは切替え前の0.77±1.41,切替え24週後0.33±0.82と有意に小さかった(図7)(p<0.01,pairedt-test).BIMに切替え前で『眼圧が気にならない』患者は28例(43.1%)で,『ときどき気になる』『いつも気になる』は37例(56.9%)であった.『点眼後に眼からあふれた液を拭きとったり,洗い流している』患者は51例(78.5%)であった.「点眼忘れの頻度」はBIM切替え前,切替え12週後,24週後で『めったに忘れない(多くても2.3回/月くらいしか忘れない)』がそれぞれ95.4%(62/65),96.7%(58/60),94.5%(52/55)であった.「その他気になること」では,『目のまわりが黒くなる』がそれぞれ16.9%(11/65),23.3%(14/60),25.5%(14/55)『睫毛が長くなる』はそれぞれ3.1%(2/65),0%,9.1%/55)であった.24週後で『瞼(5,がくぼんだような気がする』が5.5%(3/55)あった.「点眼のしやすさ」では,切替え前は『点眼しやすい』が18.0%(11/61)『点眼しにくい』が4.9%(3/61)であったが,切替え12週,後では『LATと同じ』66.1%(37/56),『BIMのほうがよい』16.1%(9/56)『LATのほうがよい』17.9%(10/56)であった.切替え12後および24週後に週,図7自覚症状(VAS)の推移『BIMを継続する』はそれぞれ100%(57/57)および94.6%(53/56)であった.7.副作用副作用として報告されたのは5例7眼であった.内容は角膜上皮障害が5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度で処置を必要とするものはなかった.III考按LAT単剤またはLATと他剤併用で24週間以上点眼治療を実施し,目標眼圧に達せず眼圧下降が不十分と判断されたPOAG患者で,LATをBIMに切替えた65例65眼について検討した.眼圧下降効果については,BIMに切替えた結果,単剤(34眼)あるいはb遮断薬併用(12眼)のいずれの群も眼圧は有意に低下した.vanderValkら9)のPOAGおよびOH患者を対象とした27の無作為二重盲検比較試験のメタアナリシスでは,LATの眼圧下降率はトラフが.28%,ピークが.31%,BIMはトラフが.28%,ピークが.33%であり,BIMのほうがピーク時では眼圧下降率は大きかった.同様にAptelら10)のPOAGおよびOH患者1,610人を対象としたメタアナリシスでは,BIMの眼圧下降値はLATより8:00,12:00,16:00,20:00のいずれの測定時刻でも有意に高かった.今回の試験はこれらの試験と異なり,LAT効果不十分例に対しての切替えであるが,各観察時点で有意な眼圧下降を得られた.これはLATがプロスタノイド受容体に作用するのに対し,BIMはプロスタマイド受容体に作用していることが要因の一つと推測される2).このことからLAT効果不十分例においてLATからBIMへの切替えは有効な選択肢の一つと考えられる.また,本試験ではBIMに切替え後,眼圧下降率は時間の経過とともに増加し,16週以降で安定すると考えられた.以上の結果は,BIM切替えの効果は,切替え早期では判定できないことを示唆している.結膜充血は,BIMに切替え前に0%であったスコア2が2(115)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012263週後では6.8%と増加した.切替え前32.3%であったスコア0が2週後では18.6%と減少した.その結果,2週後の結膜充血スコアは切替え前に比べ有意に増加した.しかし,4週後から24週後までは切替え前と有意差はなく,長期投与に伴って結膜充血が重症化することはなかった.VASスコアでもBIM投与12週後および24週後で,いずれも切替え前と差はなかったことから,BIMは点眼2週前後は結膜充血の程度が強いが,4週以降はLATと同程度と考えられた.PG系点眼薬の結膜充血は,いずれの薬剤も使用早期に発現し,長期使用による増加または増悪は少ないことから11.13),BIMも他剤と同様の推移を示したものと推測される.角膜上皮障害はBIM切替え前と切替え24週後までいずれの時点でも差はなかった.BIM投与中に5眼で副作用として角膜上皮障害が発現したが,いずれも軽度で中止した症例はなかった.BIMに切替え前に角膜上皮障害が発現していた11眼中4眼はBIM切替え24週後も変化がなかったが,7眼は角膜上皮障害が軽減あるいは消失した.これについて福田らは家兎角膜障害性の基礎的な検討14)で,BIMの角膜上皮障害性はLATより低く,その要因は添加剤によるものではないかと推測している.また,「刺激感」のVASスコアは切替え24週後で有意に低かった.これらのことから,BIMの角膜障害性や刺激性はLATより低いと考えられ,両剤のpH(LAT:6.5.6.9,BIM:6.9.7.5)やベンザルコニウム塩化物の濃度(LAT:0.02%,BIM:0.005%)の違いが反映されたものである可能性が考えられる.試験期間中のコンプライアンスは,患者のアンケートにおいて「点眼忘れの頻度」は試験を通じてほとんどが『めったに忘れない』と回答し,『週1,2回忘れる』が数例であったことから,良好であると考えられた.「点眼のしやすさ」では『LATのほうが良い』が17.9%,『BIMのほうが良い』は16.1%であったが,切替え24週後でBIMから他の薬剤に変えたいとの回答は3例(5.3%)だけであった.変更希望の理由は『LATのほうが良い』,『薬剤数を減らしたい』『眼のまわりが黒くなる』であった.継続希望例(94.6%)では,『,点眼瓶が使いやすい』,『しみない』など積極的な理由もあったが,『切替えにより特に問題はなかった』との理由が最も多く,患者使用感については両剤に差はないものと考えられた.副作用として角膜上皮障害や結膜充血が5例7眼に認められたが,いずれも軽微であった.以上の結果から,LATで眼圧下降が不十分な緑内障患者には,PG系薬以外の薬剤の追加をする前にまずはBIMに切替える方法が患者の利便性や医療経済の面から勧められる.さらに,今回の試験の患者にも含まれていると思われるLATのノンレスポンダーに対し,結膜充血や角膜障害性などの安全性を考慮しても眼圧下降効果がより強いBIMを第一選択薬にしても問題ないと考えられた.ただし,今回の試験では発現は認められなかったが,色素沈着,睫毛伸長,眼瞼陥凹などの副作用も報告されていることから15.18),患者にも本剤のメリットとデメリットを十分理解させてアドヒアランスを高めていく必要がある.本稿の要旨は,第21回日本緑内障学会において発表した.文献1)LeeAJ,McCluskeyP:Clinicalutilityanddi.erentiale.ectsofprostaglandinanalogsinthemanagementofraisedintraocularpressureandocularhypertension.ClinOphthalmol4:741-764,20102)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:Identi.cationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,20083)Gandol.SA,CiminoL:E.ectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20034)DirksMS,NoeckerRJ,EarlMetal:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AdvTher23:385-394,20065)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpres-sure-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOph-thalmol135:55-63,20036)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20107)KanamotoT,KiuchiY,SuehiroT:E.cacyandsafetyoftopicaltravoprostwithsofZiapreservativeforJapaneseglaucomapatients.HiroshimaJMedSci59:71-75,20108)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuper.cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20039)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200510)AptelF,CucheratM,DenisPetal:E.cacyandtolera-bilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofran-domizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,200811)AlagozG,BayerA,BoranCetal:Comparisonofocularsurfacesidee.ectsoftopicaltravoprostandbimatoprost.Ophthalmologica222:161-167,2008264あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(116)12)AbelsonMB,MrozM,RosnerSAetal:Multicenter,open-labelevaluationofhyperemiaassociatedwithuseofbimatoprostinadultswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTher20:1-13,200313)相原一:プロスタグランジン関連眼圧下降薬の選択.日本の眼科81:1025-1026,201014)福田正道,佐々木洋,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価.あたらしい眼科27:1581-1585,201015)CentofantiM,OddoneF,ChimentiSetal:Preventionofdermatologicsidee.ectsofbimatoprost0.03%topicaltherapy.AmJOphthalmol142:1059-1060,200616)SharpeED,ReynoldsAC,SkutaGLetal:Theclinicalimpactandincidenceofperiocularpigmentationassociat-edwitheitherlatanoprostorbimatoprosttherapy.CurrEyeRes32:1037-1043,200717)YamJC,YuenNS,ChanCW:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200918)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy─anunfamiliarsidee.ectofprostaglandinanalogues.Orbit29:357-359,2010***(117)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012265

各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液 への切替えによる眼圧下降効果

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c南野麻美*1谷野富彦*2中込豊*3鈴村弘隆*4宇多重員*1*1二本松眼科病院*2西鎌倉谷野眼科*3中込眼科*4中野総合病院眼科EfficacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforOtherProstaglandinAnalogsMamiNanno1),TomihikoTanino2),YutakaNakagomi3),HirotakaSuzumura4)andShigekazuUda1)1)NihonmatsuEyeHospital,2)NishikamakuraTaninoEyeClinic,3)NakagomiEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospitalプロスタグランジン関連薬(PG薬)を3カ月以上使用し,眼圧コントロール不十分な広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者51例51眼において投与中のPG薬をビマトプロスト(Bim)へ切替え,眼圧下降効果と安全性を検討した.切替え前と切替え2,4,8,12,16,20,24週後における眼圧,結膜充血,角膜上皮障害を比較したところ,眼圧はすべての観察時点で下降し(すべてp<0.0001),結膜充血は16,20,24週後に有意に減少した(16,24週後各p<0.05,20週後p<0.01).角膜上皮障害に差はなかった.切替え前と切替え12,24週後にアンケートを実施し自覚症状(結膜充血,異物感,刺激感)を比較したところ,充血に変化はなく,異物感(各p<0.0001),刺激感(各p<0.001)は軽減した.以上より他のPG薬で眼圧下降効果が不十分な例ではBimへの切替えが有効と考えられた.Weevaluatedtheeffectivenessandsafetyofswitchingfromprostaglandins(PG)tobimatoprost(Bim)in51eyesof51primaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionpatientswhodidnotreachtheirtargetintraocularpressure(IOP)orwhosevisualfielddefectsprogressedafteratleast3monthsonPGtherapy.IOP,conjunctivalhyperemiaandsuperficialpunctatekeratopathy(SPK)weremeasuredatbaselineandat2,4,8,12,16,20and24weeksaftertheswitch.IOPwasreducedatalltimepoints,comparedwithbaseline(p<0.0001).Conjunctivalhyperemiawassignificantlyreducedat16,20and24weeks(p<0.05,p<0.01,respectively),whereasSPKdidnotchange.Patients’subjectivesymptomsregardingconjunctivalhyperemia,foreignbodysensationandstingingwereassessedatbaseline,12and24weeks;nochangewasnotedregardingconjunctivalhyperemia.Foreign-bodysensationandstingingwerereduced(p<0.0001,p<0.001,respectively).BimmightbeaneffectivereplacementinpatientswithinadequateIOPcontrolonPG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1629.1634,2011〕Keywords:緑内障,眼圧,ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロスト.glaucoma,intraocularpressure,bimatoprost,latanoprost,travoprost.はじめに現在,緑内障に対する治療でエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降させることであり,初期には薬物を用いできるだけ眼圧下降を図るのが一般的である.なかでもプロスタグランジン関連薬(prostaglandinanalogs:PG薬)は最大の眼圧下降効果が得られ,おもな副作用は眼局所のみであり,点眼回数が1日1回で,アドヒアランスの向上が期待できることから第一選択として使用されることが多い.2009年に新たに0.03%ビマトプロスト点眼液(ルミガンR,bimatoprost:Bim)が発売されプロスト系PG薬は4剤となり,その後,PG薬とb遮断薬,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の合剤が立て続けに使用可能となった.一方,米国ではBimが発売されてから10年以上が経過し,多くの臨床データやメタアナリシスが報告されている.それによるとBimの眼圧下降効果は他のPG薬と同等かそれ以〔別刷請求先〕南野麻美:〒132-0035東京都江戸川区平井4-10-7二本松眼科病院Reprintrequests:MamiNanno,M.D.,NihonmatsuEyeHospital,4-10-7Hirai,Edogawa-ku,Tokyo132-0035,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)1629 上上であり,結膜充血の頻度は高く1),角膜上皮障害は同程度3,4)とされている.またラタノプロスト(latanoprost:Lat)からの切替えではさらなる眼圧下降が得られる5.7)が,結膜充血はLat未使用者よりも起きにくいと報告されている8).国内では狭義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)を対象とした第III相比較臨床試験において,副作用の発現頻度は若干高いものの眼圧下降効果はLatと同等以上であることが確認された9).そこで今回,PG薬単剤またはPG薬を含む2剤以上の併用療法で3カ月以上治療を継続し,目標眼圧に達しないか,視野障害の進行が疑われた広義POAGおよびOH患者を対象に,他のPG薬からBimへの切替えによる,眼圧下降効果および安全性,自覚症状の変化について検討した.I対象および方法1.対象対象は,2009年12月から2010年5月に中込眼科,西鎌倉谷野眼科,二本松眼科病院に通院中の患者のうち,狭義POAG,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG),OHで,矯正視力0.7以上,HumphreyFieldAnalyzerIIの中心30-2または24-2プログラムのmeandeviation(MD)が.15dB以上で,Lat,トラボプロスト(travoprost:Trav),タフルプロスト(tafluprost:Taf)のいずれかを3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われるもので,Bimへの変更に同意の得られた者を選択した.なお,1)角膜屈折矯正手術・濾過手術の既往,2)6カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往,3)3カ月以内に緑内障治療薬を変更,4)重症の角結膜疾患を有する,5)緑内障・高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する,6)コンタクトレンズ装用の患者は除外した.評価対象眼は片眼とし,1眼のみが症例選択条件を満たした症例では当該眼を,両眼ともに条件を満たした症例では切替え前の眼圧が高い眼,同じ眼圧であったときには右眼を選択した.本試験は倫理委員会の承認を取得し,患者からの同意を得たうえで実施した.2.方法使用していたPG薬をBimへ切替え,切替え前および切替え2,4,8,12,16,20,24週後にゴールドマン圧平眼圧計(Goldmannapplanationtonometer:GAP)による眼圧測定,細隙灯顕微鏡による結膜充血および角膜上皮障害について観察した.切替え時に使用していたPG薬以外の眼圧下降薬はそのまま継続使用した.眼圧はGAPにて2回測定した平均値とし,結膜充血は各施設に配布した共通の標準写真を用いた5段階スコア(0,0.5,1,2,3)10)で評価した.角膜1630あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011上皮障害はフルオレセイン染色後にAD(area-density)分類11)を用い,A+Dの合計スコアで評価した.視力は切替え時,12,24週後に,視野は切替え時,24週後に測定した.また切替え時および12,24週後に,結膜充血,異物感(ごろごろする感じ),刺激感について,0から10段階のVisualAnalogScale(VAS)を用いた自覚症状アンケートを実施した.観察期間中に発生した有害事象についても観察した.結果の解析は,SASver.8.0を用いて,眼圧はpairedt-test,スコアはWilcoxonsigned-ranktestまたはMann-WhitneyUtestにより行い,有意水準は5%とした.II結果選択基準を満たし,評価対象となったのは51例51眼で,男性29例,女性22例,平均年齢は66.7±11.3歳,平均MD値は.6.48±4.97dB,矯正視力の中央値は1.2,range0.7.1.5(logarithmicminimumangleofresolution:logMAR視力:.0.03±0.07)であった.緑内障の病型別では狭義POAG31眼(60.8%),NTG19眼(37.3%),OH1眼(2.0%)であった.治療薬剤数は,PG薬単剤が18眼(35.3%),PG薬を含む2剤併用が13眼(25.5%),3剤併用が17眼(33.3%),4剤併用が3眼(5.9%)であり,併用例が全体の64.7%を占めていた.切替え前に使用していたPG薬はLat22眼(43.1%),Trav24眼(47.1%),Taf5眼(9.8%)であった.Tafは5眼と少なかったため,切替え前PG薬別の検討項目においては評価対象から除外した.有害事象(鞍結節部髄膜腫)が1例に生じたが因果関係は否定された.その他,副作用は認められず,中止例はなかった.1.眼圧切替え時,切替え4,12,24週後の4つの観察時点で眼圧を測定できた50例を評価対象とした.図1に全症例および単剤,併用治療による眼圧推移を示す.全症例における切替え時の平均眼圧は18.7±3.7mmHg,4週後16.1±3.4mmHg,12週後15.3±3.5mmHg,24週後15.1±2.8mmHgであり,いずれの観察時点でも有意に下降した(すべてp<0.0001,pairedt-test).また眼圧下降率は4週後13.2±10.5%,12週後17.6±12.3%,24週後17.3±14.6%であった.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降し(すべてp<0.0001,pairedt-test),各々の眼圧下降率は4週後13.2±8.8%,13.3±11.4%,12週後13.5±9.6%,19.7±13.1%,24週後17.0±13.6%,17.5±15.3%であった.前PG薬別ではLatからの切替えにより平均眼圧は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg(p=0.0007),12週後13.9±2.5mmHg(p<0.0001),24週後14.1±2.5mmHg(p=0.0024)と下降し,Travからの切替えでも切替え時19.5±3.6mmHg,4週後16.8±3.5mmHg(p<0.0001),12(118) 1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)-20%≦-10%≦0%≦10%≦20%≦30%≦<-10%<0%<10%<20%<30%観察時期(週)図1ビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移眼圧下降率全症例で,いずれの観察時点でも,眼圧は切替え時より有意に図3切替え24週後における全例(n=50)の眼圧下降率別下降した.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降した.分布グラフ上の数値(%)は全例に占める割合を示す.24:前PG薬:Lat(n=21):前PG薬:Trav(n=24)********************************************p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test*p<0.05,**p<0.01(vs切替え時)22Wilcoxonsigned-ranktest眼圧(mmHg)20100****24812162024切替え時189080全症例に対する割合(%)16****701460**:35012:24010:1切替え時2481216202430:0.5観察時期(週)20:010図2ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移0前PG薬Lat(n=21):単剤7例,併用14例.前PG薬Trav(n=24):単剤8例,併用16例.Lat,Travからの切替えで,切替え時よりいずれの観察時点でも有意に眼圧は下降した.週後16.1±3.9mmHg(p<0.0001),24週後15.9±2.9mmHg(p<0.0001)と下降した(pairedt-test)(図2).眼圧下降率はLat,Travそれぞれ4週後13.1±12.4%,13.3±9.3%,12週後17.3±11.1%,17.3±12.9%,24週後14.5±17.7%,17.7±10.3%であった.24週後における眼圧下降率別の症例分布を図3に示す.10%以上の眼圧下降を示したのは35眼(70%),逆に10%以上の眼圧上昇を示したのは1眼(2.0%)であった.2.結膜充血および角膜上皮障害切替え時における結膜充血スコアは,スコア0が11眼(21.6%),スコア0.5が19眼(37.3%),スコア1が15眼(29.4%),スコア2が6眼(11.8%)であり,16週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が25眼(56.8%),スコア1が8眼(18.2%),スコア2が2眼(4.5%),20週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が28眼(63.6%),スコア1が6眼(13.6%),スコア2が1眼(2.3%),24週後で(119)(51)(50)(51)(47)(51)(44)(44)(50)観察時期(週)図4充血スコアの推移横軸()の数値は症例数を示す.切替えにより結膜充血スコアは,16,20,24週後において有意な改善を認めた.はスコア0が9眼(18.0%),スコア0.5が30眼(60.0%)スコア1が9眼(18.0%),スコア2が2眼(4.0%)で,16,(,)20,24週後において有意な改善を認めた(16週後p=0.0313,20週後p=0.0028,24週後p=0.0394,Wilcoxonsigned-ranktest)(図4)が,前PG薬別に充血スコアの推移をみると,Lat,Travからの切替えともに切替え前後で有意差は認められなかった(図5).またすべての観察時点で切替え時からの変化量に両薬剤間で差はなかった.角膜上皮障害については,切替え時のA+Dの合計スコアはスコア0が38眼(74.5%),スコア2が8眼(15.7%)スコア3が4眼(7.8%),スコア4が1眼(2.0%)であり,(,)12週後ではスコア0が35眼(68.6%),スコア2が10眼(19.6%),スコア3が6眼(11.8%),24週後ではスコア0が34眼(68.0%),スコア2が12眼(24.0%),スコア3があたらしい眼科Vol.28,No.11,20111631 前PG薬:Lat前PG薬:Trav10010090908080全症例に対する割合(%)全症例に対する割合(%)60:37605040302010705040:230:1:0.520:01000切替え時24812162024切替え時24812162024(22)(22)(22)(20)(22)(18)(19)(21)(22)(23)(24)(23)(24)(22)(21)(24)症例数観察時期(週)観察時期(週)図5ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる充血の推移各グラフの横軸()の数値は症例数を示す.充血スコアはLat,Travからの切替え前後で有意な差は認められなかった.***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)Wilcoxonsigned-ranktest30充血:12週後30:12週後****30刺激感:12週後***25異物感:24週後25:24週後****25:24週後***症例数症例数2020201515151010105550-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-20246810切替え時との差切替え時との差切替え時との差図6切替え12,24週後におけるVAS変化量各n=48.充血の平均VASスコアは切替え時と,12,24週後で変化はなかった.異物感,刺激感の平均VASスコアは切替え時より,12,24週後で有意に改善していた.4眼(8.0%)と,いずれの観察時点でも変化はなかった.3.視力,視野観察期間中,logMAR視力は切替え時.0.03±0.07,12週後.0.04±0.07,24週後.0.04±0.07,平均MD値は切替え時.6.48±4.97dB,24週後.5.77±5.99dBと変化は認められなかった.4.自覚症状アンケート図6に切替え時,12,24週後における充血,異物感,刺激感のVASスコアの分布を示す.充血の平均VASスコアは切替え時1.36±2.15,12週後1.38±2.07,24週後1.19±2.05と変化はなかった.前PG薬別でもLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時0.77±1.47,1.75±2.53,12週後1.49±2.22,1.09±1.86,24週後1.03±2.10,1.03±1.76であり,切替え前後で差は認められなかった.また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.異物感の平均VASスコアは切替え時1.95±2.37,12週後0.54±1.16,24週後0.58±1.14で,12,24週後に有意な改善を認めた(ともにp<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.61±2.43,2.52±2.44,12週後0.64±1.25,0.45±1.10,24週後0.58±1.25,0.66±1.16であり,切替え12,24週後で有意に改善した(Lat:12週後p=0.0410,24週後p=0.0220,Trav:12週後p<0.0001,24週後p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後6眼(30.0%),24週後6眼(30.0%),Travでは12週後12眼(52.2%),24週後12眼(52.2%)で,Travからの切替えのほうが異物感の改善が多かった.刺激感の平均VASスコアは切替え時1.61±1.75,12週後0.87±1.52,24週後0.76±1.51であり,12,24週後で有意に改善していた(12週後p=0.0006,24週後p=0.0008,Wilcoxonsigned-ranktest)(図6).前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.88±1.84,1.60±1.80,12週後1.07±1.92,0.65±1.13,24週後0.64±1.00,1632あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(120) 0.0.(Lat:24週後p=0.0056,Trav:12週後p=0.0016,24週後p=0.0088,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後9眼(45.0%),24週後9眼(45.0%),Travでは12週後10眼(43.5%),24週後10眼(43.5%)であった.III考按今回,選択基準を満たし,PG薬を3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われ,次なる薬物治療のステップに進む必要がある狭義POAG,NTG,OH患者において,使用中のPG薬をBimへ切替え,眼圧下降効果と安全性,患者の自覚症状を検討した.眼圧は使用薬剤数やPG薬の種類に拘わらずBimへの切替えにより有意に下降した.Lat単剤および併用治療に対する効果不十分な症例でLatをBimへ切替えた過去の報告7)では,切替え時の眼圧は20.4mmHg,2カ月後の眼圧下降幅は3.4mmHg(下降率の記載なし)とされている.今回,Latからの切替え症例における眼圧値は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg,12週後13.9±2.5mmHg,24週後14.1±2.5mmHgで,眼圧下降率は4週後13.1±12.4%,12週後17.3±11.1%,24週後14.5±17.7%であり,切替え時の眼圧は若干低いものの,ほぼ同様の結果を得ることができた.一方,TravからBimへの切替えの報告は見当たらず,直接比較試験では両薬剤間の眼圧下降効果にほとんど差はないとされている12).しかしLat効果不十分例に対するTravとBimの効果を比較した報告5)では,眼圧下降効果に差が認められており,Bimの作用部位,プロスタマイド受容体が他のPG薬のプロスタノイドFP受容体とは異なる点13)が今回の結果に影響したと考えられた.また,今回対象となった症例は前PG薬のノンレスポンダーで,Bimへの切替えによって眼圧が下降した可能性がある.今後,無治療時眼圧からの各点眼薬の眼圧下降についての検討が必要である.なお,切替え時の眼圧がLat17.0±3.3mmHgに比較しTrav19.5±3.6mmHgと高いが,これは参加3施設においてLat効果不十分例にTravを使用していた例が多いことが影響したものと推測された.結膜充血については,過去の報告でBimは結膜充血の頻度が高い1)が,Latから切替えてBimを使用すると未使用時に比べ充血が起こりにくく8),LatからTravへの切替えよりも充血増強例が少ないとされている5).今回の検討では,TravからBimへの切替えで,有意差はなかったもののスコア1以上の充血が減少した.これに加え前PG薬からの切替(121)えによりBimの充血が起こりにくかったため,全体として16週以降は充血が改善される結果となったと考えられた.VASを用いた患者アンケートでも,有意差はなかったものの,スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後2眼(10.0%),24週後3眼(15.0%),Travでは12週後7眼(30.4%),24週後8眼(34.8%)で,充血が改善したと回答した症例はLatよりもTravからの切替え例で多く,充血スコアの結果を支持していると考えられた.また,充血については切替え時に十分な説明を行っており,充血が理由で中止を希望した患者はいなかったことから,他のPG薬からの切替えという使用方法であればBimの結膜充血はアドヒアランスへの影響が少ないことが示唆された.点眼時の異物感と刺激感については切替えにより改善した.これは,Lat(キサラタンR:pH6.5.6.9),Trav(トラバタンズR:pH5.7),Bim(ルミガンR:pH6.9.7.5)のpHの違いで,より涙液のpH7.75±0.1914)に近いBimへの切替えにより,点眼時の異物感,刺激感が改善されたと考えられた.このことから,他PG薬で異物感,刺激感を訴える患者にはBimへの変更を考慮してもよいと思われた.PG薬の副作用として,最近上眼瞼溝の顕性化が問題となっているが,今回は検討を行わず,また経過観察中,眼周囲の変化を訴えた症例もなかった.緑内障は長期の管理が必要な慢性疾患であり,薬物治療における点眼薬の選択に当たっては,眼圧下降効果のみならず,アドヒアランスに影響を与える副作用など諸事象も考慮して決定する必要がある.Bim以外のPG薬を含む治療で眼圧コントロール不十分の場合,結膜充血発現の可能性について十分に患者に説明を行ったうえで,使用中のPG薬をBimに変更することは,さらなる眼圧下降効果を得るとともに,自覚症状の改善も期待できる価値ある手段であり,緑内障治療の質を向上できるものと考えた.本論文の要旨は第21回日本緑内障学会にて発表した.文献1)AptelF,CucheratM,DenisPetal:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)WhitsonJT,TrattlerWB,MatossianCetal:Ocularsurfacetolerabilityofprostaglandinanalogsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher26:287-292,20104)StewartWC,StewartJA,JenkinsJNetal:Cornealpuncあたらしい眼科Vol.28,No.11,20111633 tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003JA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicentrestudy.BrJOphthalmol94:74-79,20106)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension:auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,20097)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypotensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,20038)KurtzS,MannO:Incidenceofhyperemiaassociatedwithbimatoprosttreatmentinnaivesubjectsandinsubjectspreviouslytreatedwithlatanoprost.EurJOphthalmol19:400-403,20099)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,201010)LaibovitzRA,VanDenburghAM,FelixCetal:ComparisonoftheocularhypotensivelipidAGN192024withtimolol:dosing,efficacy,andsafetyevaluationofanovelcompoundforglaucomamanagement.ArchOphthalmol119:994-1000,200111)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol90:1370-1373,200613)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200814)布出優子,小橋俊子,松本美智子ほか:正常人の涙液pH値.眼臨82:648-651,1988***1634あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(122)

緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(123)1491《原著》あたらしい眼科28(10):1491?1494,2011cはじめに緑内障治療ではアドヒアランスの向上が重要である1).アドヒアランスに影響を及ぼす要因として医師と患者のコミュニケーション,点眼する目的を理解すること2),点眼薬剤数3),点眼回数41)などが知られている.最近では特に点眼容器の形状改良による扱いやすさが有効であるという報告5)もある.また,治療効果を上げるための有意義なシステムとして,緑内障教育入院の有用性も報告されている6).しかし,これらの要因が眼圧にどのように影響するかに関しての検討は十分にされていない.そこで本研究では,緑内障患者に対して患者教育を行うことにより眼圧にどのような影響があるかを調べた.I対象および方法1.対象広義原発開放隅角緑内障患者を対象とした.選択基準は,〔別刷請求先〕植田俊彦:〒142-0088東京都品川区旗の台1-5-8昭和大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshihikoUeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShowaUniversity,1-5-8Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-0088,JAPAN緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果植田俊彦*1,2笹元威宏*1平松類*1,2南條美智子*2大石玲児*3*1昭和大学医学部眼科学教室*2三友堂病院眼科*3三友堂病院薬剤部EffectofPatientEducationontheDecreaseinIntraocularPressureandIt’sDurationinGlaucomaPatientsToshihikoUeda1,2),TakehiroSasamoto1),RuiHiramatsu1,2),MichikoNanjyo2)andReijiOhishi3)1)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SanyudoHospital,3)PharmaceuticalDepartment,SanyudoHospital目的:緑内障患者を対象とし患者教育(点眼指導と疾患説明)による眼圧下降効果を調べること.対象および方法:2年以上緑内障点眼治療を受け少なくとも6カ月以上点眼の変更がなく,かつ視野に変化のない緑内障患者を対象とした.眼圧測定者を盲検化した2群間(A群:n=30とB群:n=27)比較,前向き臨床試験を行った.介入開始から3カ月間,1回/月,両群に対して医師による小冊子を用いた緑内障の点眼方法と疾患啓発に関する説明を行う.さらにB群にのみ看護師による点眼実技指導を追加する.眼圧測定は介入前と9カ月間行った.結果:眼圧はベースラインと比べ3カ月後でA群では1.2±1.8mmHg,B群では2.0±1.9mmHg(p<0.05)下降した.教育終了後にも両群では眼圧下降効果は持続したが,B群のほうが3,5カ月後で有意に下降した(p<0.05).結論:患者教育には眼圧下降効果がある.特に点眼実技指導には眼圧下降効果がある.Thisstudysoughttofindtheintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofglaucomapatienteducationcomprisingpatientinstructionforeyedropsanddiseaseexplanation,inglaucomapatients.Aprospectiveclinicalinterventionstudywasperformed.Onceamonth,on3occasions,thephysicianlecturedthepatientsinbothAgroup(n=30)andBgroup(n=27)regardinginstructionforeyedropsanddiseaseexplanation,withatextbook.ForBgrouppatients,eyedropsperformancewasinstructedbyanurse.IOPwasmeasuredbeforeintervention(baseline)andfor9monthsafterintervention.After3months,IOPhaddecreased1.2±1.8mmHginAgroupand2.0±1.9mmHg(p<0.05)inBgroup.Aftertheeducationperiod,theIOP-loweringeffectcontinuedinbothgroups,andsignificantIOPdecreasesobservedat3and5monthsinBgroup,ascomparedtoAgroup.IOPwasdecreasedbypatienteducation,andadditionalpracticalinstructionforeyedropsperformancewasmoreeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1491?1494,2011〕Keywords:緑内障,アドヒアランス,コンプライアンス,点眼指導,眼圧.glaucoma,adherence,compliance,educationofeyedropprocedure,intraocularpressure.1492あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(124)1)緑内障点眼薬の治療を2年以上継続していること,2)過去6カ月以内で点眼薬に変更がないこと,3)過去6カ月間で視野に変化がないこと,4)過去6カ月の眼圧が2mmHg以内の変動であること,5)緑内障以外に眼圧に影響する疾患のないこと,6)同意能力のあること,7)眼圧が目標眼圧7)に達していないこと,とした.年齢,性別,点眼薬剤数は不問とした.また,1)緑内障点眼薬を変更した場合,2)眼の手術をした場合,3)3カ月間観察できなかった場合には対象から除外した.2.介入方法患者教育(疾患教育,点眼説明,点眼実技指導)を行った.試験参加者全員に医師がGlaucomaOphthalmologistCircus企画による緑内障患者教育用小冊子(図1)を見せながら約10分間,疾患教育と点眼説明指導を行った.次いでB群にのみ看護師が約30分間点眼実技指導を行った.これらの患者教育は介入開始日,1カ月後,2カ月後の合計3回行った.疾患教育では,1)眼圧とは何か,2)視野とは何か,3)緑内障では視野がどう変化するか,4)視野と眼圧の関係,の4項目について行った.点眼の説明では,1)何のために点眼するのか,2)涙?部圧迫の方法,3)点眼後閉瞼の方法,4)涙?部圧迫・点眼後閉瞼を2分間行うこと,の4項目について小冊子の図を示しながら行った.また,2種類以上点眼する場合にはその間隔を5分以上開けること,点眼順序はゲル化剤を最後にすること,保管場所は添付書通り定められた場所に保存することなどを説明した.B群にのみ看護師が点眼実技指導として別室(図2)で,1)忘れずに点眼すること,2)眼に確実に滴下すること,3)点眼効果を高めること,の3項目について実技指導した.1)忘れずに点眼するために点眼薬すべてに目立つシールを貼り,点眼時間割表のそれぞれ点眼すべき時間に同じシールを貼り配布した.2)眼に確実に滴下するためにまず看護師が行う点眼行為を患者に観察させる.つぎに,患者に点眼させ,手順どおり点眼しているかどうかを看護師が観察する.各患者に応じたそれぞれの点眼行為の問題点を解決するため,たとえば片手で下眼瞼を押し下げながら点眼する方法,または仰臥位になって上から滴下する方法など説明し練習させた.3)点眼効果を高めるために点眼直後に眼瞼に流出した涙液を拭き取らず,まず閉瞼しながら涙?部を2分間圧迫するように説明し練習させた.3.評価方法割り付けを盲検化された1名の医師がapplanationtonometoryにより午前中で同一時間帯(初回測定時間±1時間)に眼圧を測定した.眼圧測定は介入前と介入後1,2,3カ月と患者教育終了したその後も5,7,9カ月後に測定した.測定者は測定時には診療録上過去の眼圧値を見ないで測定した.4.試験デザイン試験デザインは前向きランダム化,評価者を盲検化した群間比較試験とした.第三者により割り付けられた表に従いランダムに2群(A群とB群)に分け,看護師が割り付け表に従いB群にのみ点眼実技指導を行った.評価者(眼圧測定医師)には盲検化した.三友堂病院倫理委員会の承認を受けた.臨床試験登録番号UMIN000001180.5.データの解析両群各々の介入前を基準とした経時的な眼圧変化には対応のあるt検定を,両群間眼圧変化量比較には介入前眼圧値を考慮し共分散分析法を用いた.有意水準は5%以下とした.図1緑内障に対する説明用冊子全部で6冊ある.医師が試験参加者全員に冊子を提示しながら,約10分間,疾患指導と点眼指導をした.図2点眼実技指導のための個室医師診察室とは別室で点眼実技指導が行われた.どの症例が実技指導を受けているかは医師には盲検化されている.(125)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111493統計ソフトにはSASver9.1を用いた.II結果1.対象試験登録症例数はA群30例57眼とB群30例58眼であった.しかし,B群で3例6眼が患者自己都合によって受診を中断したため脱落し,研究を完了できた症例数はA群30例57眼,B群27例52眼であった.点眼治療を変更した症例,手術をした症例はなかった.背景因子としてA群では女性が多かった.使用している点眼薬剤数,罹病期間,病期にA・B群間で有意差はなかった.平均年齢はそれぞれA群71.8±9.4歳,B群で72.6±8.9歳,点眼薬の種類は1種類がA群28例,B群22例,2種類がA群17例,B群27例,3種類がA群12例,B群3例であった.平均罹病期間はそれぞれ5.9±4.0年と5.2±3.3年であった(表1).2.眼圧値の変化両群とも介入1カ月後から眼圧が下降し,3回の患者教育後の3カ月後の眼圧はA群ではベースライン17.1±2.5から15.9±2.2mmHg(p=5.02×10?6)へ,B群では16.8±2.3から14.8±2.0mmHg(p=1.56×10?9)へ下降した(図3).その後もA群では5カ月後15.6±2.2,7カ月後15.8±1.9,9カ月16.0±1.9mmHgと下降を続け,B群でも5カ月後14.8±2.5,7カ月後14.8±2.4,9カ月後15.7±2.4mmHgでありベースラインと比べ有意に眼圧下降が持続していた.しかしB群では最も下降した3カ月後の眼圧を基準にすると9カ月後では有意に眼圧が上昇した(p=0.0027).眼圧変化量を両群間で比較すると始めの2カ月間では有意差はなかったが,B群のほうが3カ月後(p=0.0043)と5カ月後(p=0.0334)と有意に眼圧が下降したが,7カ月後と9カ月後では再び両群間に差がなくなった(表2).III考按症状に乏しく,長期間の投薬が必要である緑内障のような慢性疾患の治療では,患者自身のアドヒアランスが重要性であると報告8)されている.GlaucomaAdherencePersistencyStudy(GAPS)では,眼圧下降薬の最も高い継続率は,6カ月と報告されている9).また,薬効を高めるために経口する内服薬の場合と比べて点眼薬の場合では,点眼行為それ自体に高いアドヒアランス遵守が求められる.今回の試験では月に1回,3カ月間の疾患教育・点眼説明により眼圧が下降し,さらに点眼実技指導を加えたB群では約2mmHg眼圧下降が得られた.今回の対象症例はまったく緑内障の知識がない症例ではなく平均5年間,外来診療を通じてインフォームド・コンセントを行ってきた症例である.それでも改めて教育指導,特に点眼実技指導することには眼圧下降効果が得られるという結果となった.しかし両群とも眼圧が下がったことから眼圧測定評価者が試験期間中に意図的に低めに測定したというバイアスも考えられるが,各測定時点で前回の値を知らずに眼圧測定していること,評価者を盲検化し点眼実技指導を追加したB群で有意に眼圧下降が得られたことより,このようなバイアスは表1背景因子A群B群年齢(歳)71.8±9.472.6±8.9性別男性(例)女性(例)8221413点眼種類(眼)1種類2種類3種類28171222273罹病期間(年)5.9±4.05.2±3.3表2眼圧ベースラインと比べた変化量の両群間比較123579(カ月)A群?1.26±1.65?1.58±1.73?1.21±1.81?1.23±1.93?1.59±2.13?1.07±2.03B群?1.19±1.67?1.81±1.92?1.98±1.95?1.92±2.10?1.92±2.36?1.04±2.41〔共分散分析〕*p=0.0043,**p=0.0334.***201816140眼圧(mmHg)前123579観察期間(月数):A群:B群図3眼圧の経時変化患者教育は介入開始時,1と2カ月まで行われている.眼圧の経過ではベースラインがA群では17.1±2.5mmHgで,B群では16.8±2.3mmHgであった.試験開始1カ月後から両群ともに下降した.3カ月以降は患者教育を行わずに経過観察している.ベースラインと比較しA・B群ともに各時点で有意に眼圧が下降した(p<0.05).B群では3カ月後の眼圧を基準にすると9カ月後では有意に眼圧が上昇した.1494あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(126)今回の試験に影響ないと考えられる.しかし,今回の両群の背景因子として男女比に有意差があった.男性のほうがノンコンプライアンスの確率が高いといわれている10).このことが本試験の結果に影響する可能性も否定できない.また,今回の選択基準は,過去6カ月の眼圧変動を2mmHg以内としたために,介入後にもその変動が影響する可能性がある.介入前と介入後平均値の差でみればB群では2mmHgの下降であったが,共分散分析で統計学的に解析すると有意差はあった.またこの2mmHgの下降は,1mmHgの眼圧下降が視野悪化リスクを10%低下させるというEarlyManifestGlaucomaTrialGroup(EMGT)によるEMGTstudy11)の観点から考えても臨床的にも意味のある下降であると考えられる.今回は緑内障治療に関与すると考えられる教育内容で行った.点眼液が鼻涙管を経由して鼻粘膜からも吸収され全身の合併症をきたすといわれているので,涙?部圧迫や閉瞼には副作用軽減効果のみならず眼球への移行を高める効果があるとされている12).また,点眼目的の理解が点眼し忘れを予防する効果があるといわれている13).しかし,このような個々の因子が,どの程度の割合で眼圧下降に寄与したのかは検討していない.月に1回の指導とはいえ,医師と看護師が合わせて約40分の指導時間は日常の外来診療のなかでは必ずしも実行できない.今後さらにどんな指導項目が最も有効なのかを詳しく検討する必要があると考えられる.B群では患者教育終了2カ月(介入開始から5カ月)後,4カ月(介入開始から7カ月)後では眼圧下降が維持されていたが,6カ月(介入開始から9カ月)経過すると最も眼圧が下降した介入3カ月後と比べて有意に眼圧が上昇し,それに対してA群では介入6カ月後でも眼圧に変化なく,むしろ両群の差がなくなった.このことより患者教育効果は半年の持続があるものの特に点眼実技指導効果は4カ月程度しか持続していないと推測される.患者が緑内障に関する知識や点眼手順を獲得できても,持続はある一定期間なので定期的な患者教育または学習できるツールを用意する必要があるのかもしれない.実際,試験対象者から「これらの指導効果を継続するのはむずかしい」,「来院ごとに指導を受けているが指導期間が過ぎれば忘れてしまいそうだ」との訴えもあった.緑内障治療に関する知識は一度獲得されると長続きするが,特に点眼実技法の持続はよりむずかしく,くり返して指導する必要があるかもしれない.今回の研究では点眼種類数の違い,点眼し忘れの回数,涙?部圧迫時間,圧迫方法,閉瞼時間などが眼圧下降にどの程度関与しているかなどの項目の有効性を統計的に検討するには症例数が少なかった.しかし,緑内障患者にとって患者教育(疾患指導・点眼指導・点眼実技指導)を行うことは眼圧下降効果があるかもしれず,将来,多施設でより多数症例での臨床研究を行うための基礎研究として本研究は役立つであろう.文献1)植田俊彦:緑内障患者のアドヒアランスとコンプライアンスレベルの上昇が眼圧下降に及ぼす影響.眼薬理23:38-40,20092)吉川啓司:コンプライアンスを高める患者説明.臨床と薬物治療19:1106-1108,20003)MacKeanJM,ElkingtonAR:Compliancewithtreatmentofpatientswithchronicopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol67:46-49,19834)NordstormBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20076)古沢千昌,安田典子,中元兼二ほか:緑内障教育入院の実際と効果.あたらしい眼科23:651-653,20067)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌107:777-814,20068)GrayTA,OrtonLC,HensonDetal:Interventionsforimprovingadherencetoocularhypotensivetherapy.CochraneDatabaseSysRev15:CD006132,20099)NordstormBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200510)KonstasAG,MaskalerisG,GratsonidisSetal:ComplianceandviewpointofglaucomapatientsinGreece.Eye14:752-756,200011)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,200312)ZimmermanTJ,SharirM,NardinGFetal:Therapeuticindexofpilocarpine,carbachol,andtimololwithnasolacrimalocclusion.AmJOphthalmol114:1-7,199213)ChangJSJr,LeeDA,PeturssonGetal:Theeffectofaglaucomamedicationremindercaponpatientcomplicanceandintraocularpressure.JOculPharmacol7:117-124,1991***

原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(149)1209《原著》あたらしい眼科28(8):1209?1215,2011cはじめにビマトプロストは,米国アラガン社において新規に合成された眼圧下降薬(プロスタマイド誘導体)である.これまで,おもに米国において有効性および安全性を検討するための種々の臨床試験が実施されており,それらの臨床試験成績から,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,1日1回点眼で0.5%チモロールマレイン酸塩点眼剤に比べて有意に優れた眼圧下降効果を示し1~3),また,0.005%ラタノプロスト点眼剤(ラ〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験新家眞*1北澤克明*2*1公立学校共済組合関東中央病院*2赤坂北澤眼科Long-TermEfficacyandSafetyof0.03%BimatoprostOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1)andYoshiakiKitazawa2)1)KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)AkasakaKitazawaEyeClinic原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を52週間点眼したときの有効性および安全性を検討した.投与前の眼圧値の平均値は21.8mmHgであり,投与後のすべての観察時点において?6.3~?7.2mmHgの眼圧変化値を示し,投与前と比較して統計学的に有意な差が認められた.また,診断名別の層別解析の結果,正常眼圧緑内障に関しては,投与前の眼圧値の平均値は18.5mmHgであり,投与後のすべての観察時点において?4.7~?6.1mmHgの眼圧変化値を示し,投与前と比較して統計学的に有意な差が認められた.副作用は136例中125例(91.9%)に認められた.しかし,そのほとんどは軽度な事象であり,重篤な副作用は認められなかった.全身性の副作用はほとんどみられず,血液学的検査などの臨床検査の結果からも全身的に高い安全性を有することが示唆された.副作用による中止は11例(8.1%)であったが,いずれも視機能へ影響を及ぼす重大なものではなかった.以上の結果より,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,52週間の長期投与においても投与期間を通して安定した眼圧下降効果を示し,その副作用は忍容できるものであることが確認できた.Theefficacyandsafetyof0.03%bimatoprostophthalmicsolution(bimatoprost)wereevaluatedinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(includingnormal-tensionglaucoma:NTG)orocularhypertensionafterinstillationfor52weeks.Thebaselineintraocularpressure(IOP)was21.8mmHgandtheIOPchangefrombaselinewassignificantlymaintainedatfrom?6.3mmHgto?7.2mmHgthroughoutthe52-weekfollow-upperiod.InthepatientswithNTG,thebaselineIOPwas18.5mmHgandtheIOPchangefrombaselinewassignificantlymaintainedatfrom?4.7mmHgto?6.1mmHgthroughoutthe52-weekfollow-upperiod.Theadversedrugreaction(ADR)incidenceratewithbimatoprostwas91.9%(125of136subjects);however,noseriousADRsoccurredandmostoftheeventsweremildinseverity.FewsystemicADRswerereported,indicatingthatthisdrughadlittlesystemiceffects.AlthoughthetreatmentwasdiscontinuedduetoADRsin11subjects(8.1%),bimatoprostcausednosignificanteventenoughtoaffectvisualfunction.Insummary,theIOP-loweringeffectof0.03%bimatoprostophthalmicsolutionwasstableduring52-weeklong-termadministration,andtheADRswerewelltolerated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1209?1215,2011〕Keywords:ビマトプロスト,長期投与,緑内障,眼圧,臨床試験.bimatoprost,long-term,glaucoma,intraocularpressure,clinicaltrial.1210あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(150)タノプロスト点眼剤)に比べても同程度以上の眼圧下降効果を有することが確認されている4~7).長期にわたる投与においても安定した眼圧下降が認められ,結膜充血,睫毛の成長,眼そう痒症,眼瞼色素沈着などの眼局所における副作用が発現したものの,大部分は軽度から中等度であり,安全性について特に問題のないことが示された3).これらの成績により,米国では2001年3月に0.03%ビマトプロスト点眼剤(1日1回点眼)が開放隅角緑内障または高眼圧症を適応症として承認され,その後現在までに多くの国と地域で市販承認されている.わが国においては,原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの有効性および安全性が無作為化単盲検群間比較試験によりラタノプロスト点眼剤と比較されており,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らず,臨床的に有用な薬剤であることが示されている8).海外で実施された臨床試験3)により,0.03%ビマトプロスト点眼剤の52週間点眼時の安全性は確認されているが,わが国においても長期点眼における安全性の検討が必要であると考え,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした長期投与試験(52週間)を実施した.なお,本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法第14条第3項および80条の2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.I方法1.治験実施期間および治験実施施設2004年10月から2006年3月までに,表1に示した24施設で実施した.実施に先立ち,治験実施計画について,各実施医療機関の治験審査委員会の承認を受けた.2.対象両眼ともに原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,投与開始日の眼圧が両眼とも34mmHg以下かつ有効性評価の対象眼の眼圧が16mmHg以上(高眼圧症は22mmHg以上)の満20歳以上の外来患者を対象とした.治験参加に先立ち,同意取得用の説明文書および同意文書を患者に手渡して十分説明したうえで,治験参加について自由意志による同意を文書で得た.なお,性別は不問としたが,つぎの患者は対象より除外した.1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)角膜屈折矯正手術および濾過手術の既往を有する者4)同意取得時から過去3カ月以内にいずれかの眼に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)を受けた者5)投与開始1週間前から治療期間中を通じてコンタクトレンズの装用が必要な者6)本剤の類薬に対し,アレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者7)妊娠,授乳中の患者または妊娠している可能性のある者あるいは妊娠を希望している者8)Aulhorn分類Greve変法に基づく視野欠損の程度が,いずれかの眼でStage5または6と判定された者9)投与開始日の細隙灯顕微鏡検査において,いずれかの眼に中等度以上の結膜充血が認められた者10)同意取得時から治験薬の投与終了までに併用禁止薬剤を使用する可能性がある者11)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者12)同意取得時から過去3カ月以内に他の臨床試験(医療用具を含む)に参加した者,本治験中に他の治験に参加する予定の者13)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者3.治験薬および投与方法治験薬として,1mL中にビマトプロスト0.3mgを含む点表1治験実施施設医療機関治験責任医師花川眼科田辺裕子能戸眼科医院小竹聡石丸眼科石丸裕晃レニア会武谷ピニロピ記念きよせの森総合病院武井歩東京都老人医療センター沼賀二郎済安堂お茶の水・井上眼科クリニック*井上賢治ルチア会みやざき眼科宮崎明子むらまつ眼科医院村松知幸富士青陵会中島眼科クリニック中島徹杉浦眼科杉浦毅労働者健康福祉機構中部労災病院鈴木聡,古田祐子,丹羽英康湘山会眼科三宅病院三宅謙作碧樹会山林眼科山林茂樹こうさか眼科高坂昌志遠谷眼科遠谷茂新見眼科新見浩司越智眼科越智利行広田眼科広田篤宇部興産株式会社中央病院鈴木克佳,井形岳郎幸友会幸塚眼科岡本茂樹朔夏会さっか眼科医院属佑二大成会福岡記念病院新井三樹,熊野けい子研英会林眼科病院林研医療法人陽幸会うのき眼科鵜木一彦*旧:済安堂井上眼科病院付属お茶の水・眼科クリニック.(151)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111211眼剤を用いた.治験薬は1日1回午後8時~10時の間に,両眼に1滴ずつ,52週間点眼した.4.Washout眼圧下降薬を使用している患者に対しては,表2に示したwashout期間を設定した.5.検査・観察項目投与開始後4週間ごとに,眼圧検査(Goldmann圧平眼圧計),細隙灯顕微鏡などを用いた他覚所見の観察(眼瞼,結膜,角膜,水晶体,前房,睫毛および虹彩)および生理学的検査(血圧,脈拍数)を行った.なお,他覚所見に関しては,眼瞼紅斑(発赤の範囲),眼瞼浮腫(腫脹の範囲),結膜充血(充血の程度),結膜浮腫(腫脹の範囲),角膜浮腫(浮腫の範囲),角膜びらん(フルオレセイン染色の範囲),角膜内皮への色素沈着(程度),角膜変性(滴状角膜の程度),水晶体混濁(核の色調,混濁の範囲),前房細胞数(細胞数),前房フレア(散乱光の程度),虹彩前癒着(癒着の範囲),虹彩後癒着(癒着の範囲)について0~3点の4段階の採点基準を設けたが,それ以外の事象に関しては基準を設けなかった(括弧内は,判定内容).眼圧は午前8時~11時の間に測定した.投与開始日,投与12,28,40および52週間後に睫毛,眼瞼および虹彩の写真撮影を行った.スクリーニング時(臨床検査は投与開始日),投与28週間後および52週間後に眼底検査,視野検査および臨床検査(血液学的検査・血液生化学的検査・尿検査)を行った.投与開始日,投与12,28,40および52週間後に視力検査を行った.6.併用薬および併用処置治験期間中は,他の緑内障・高眼圧症に対する治療薬およびステロイド薬(皮膚局所投与を除く)の使用を禁止した.併用禁止薬以外で眼圧に影響を及ぼすことが添付文書上に記載されている薬剤については,投与開始の1カ月以上前から用法用量が変更されていない,かつ治験終了時まで継続使用予定の場合には併用可能とするが,原則として新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.治験期間中,眼に対する内眼手術,濾過手術および点眼1週間前からのコンタクトレンズ装用など,治験薬の評価に影響を及ぼす処置は禁止とした.7.評価方法および統計手法投与開始日と投与後の各観察日における眼圧値の間で,1標本t検定を実施した(有意水準両側5%).また,投与開始日から投与後の各観察時点における眼圧変化値および眼圧変化率を求めた.さらに,28週間後および52週間後における眼圧変化率が?10%に達しなかった症例数とその割合(ノンレスポンダー率)を求め,95%両側信頼区間を求めた.原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症,正常眼圧緑内障に層別した集団に対しても,上記と同様に解析を実施した.安全性の評価として,治験薬投与期間中の有害事象(副作用を含む)の程度および発現頻度を求めた.視力,視野,眼底所見,生理学的検査値,臨床検査値および他覚所見の投与前後の比較を行った.安全性の評価は両眼を対象とした.有効性の評価は投与開始日の眼圧値が高いほうの眼を採用した.ただし,投与開始日の左右の眼圧値が同じ場合は,右眼を採用した.II結果1.症例の構成本剤を投与した136例のうち,不適格8例,中止14例表2Washout期間薬剤Washout期間副交感神経作動薬2週間以上炭酸脱水酵素阻害薬2週間以上交感神経作動薬2週間以上交感神経遮断薬4週間以上プロスタグランジン関連薬4週間以上2剤以上の併用4週間以上表3患者背景(有効性解析対象症例)項目分類症例数性別男性女性4763年齢(歳)20~2930~3940~4950~5960~6970~1416214523~6465~6941平均年齢(歳)60.2緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障高眼圧症404030合併症(眼局所)無有2783合併症(眼局所以外)無有3080既往歴(眼局所)無有9515治療前投薬歴無有1199治験薬投与前に行った処置無有10821212あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(152)(評価データ不足)および逸脱4例を除く110例を有効性解析対象症例(PPS)とした.投与した136例はすべて安全性解析に用いた.表3に有効性解析対象症例110例の患者背景を示した.2.有効性各観察日における眼圧値の推移を図1に,眼圧変化値の推移を表4に,眼圧変化率の推移を表5に示した.投与開始日(投与前)の眼圧値は21.8±3.3mmHgであり,投与後のすべての観察日において有意な眼圧下降が確認された(p<0.0001,1標本t検定).点眼開始後の最初の観察日である4週間後の眼圧変化値は?6.4±2.5mmHgであり,52週間後まで?6.3~?7.2mmHgの範囲で推移し,安定した眼圧下降効果がみられた.眼圧変化率についても,投与期間を通じて?28.6~?32.7%の範囲で安定した推移を示した.眼圧変化率が?10%に達しなかった症例をノンレスポンダーと定義したところ,28週間後および52週間後ともに1例のノンレスポンダーが認められたのみであり,ほとんどの症例に対して本剤が有効であった(表6).当該試験では,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象としていたため,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症,正常眼圧緑内障と診断別に層別し,それぞれの眼圧下降効果について検討した.投与開始日の眼圧値は,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で23.7±2.5mmHg,正常眼圧緑内障で18.5±1.7mmHgであり,投与後のすべての観察日において有意な眼圧下降が確認された(図2,p<0.0001,1標本t検定).投与期間中の眼圧変化値は原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?7.0~?表4眼圧変化値の推移観察日例数眼圧変化値4週間後101?6.4±2.58週間後107?6.7±2.512週間後106?6.9±2.516週間後99?7.1±2.720週間後104?7.1±2.424週間後104?7.0±2.528週間後106?7.0±2.332週間後108?7.2±2.336週間後105?6.9±2.540週間後104?7.0±2.544週間後101?6.7±2.648週間後103?6.3±2.752週間後102?6.5±2.2平均値±標準偏差(mmHg).表5眼圧変化率の推移観察日例数眼圧変化率4週間後101?29.0±9.38週間後107?30.4±9.512週間後106?31.5±9.516週間後99?32.1±10.220週間後104?32.1±9.324週間後104?31.7±10.228週間後106?32.2±8.732週間後108?32.7±8.336週間後105?31.3±9.540週間後104?32.1±9.344週間後101?30.4±9.648週間後103?28.6±10.552週間後102?29.8±8.4平均値±標準偏差(%).*************28242016120481216202428323640444852観察日(週)眼圧値(mmHg)図1眼圧値の推移*p<0.05(投与開始日との比較,1標本t検定).平均値±標準偏差(mmHg).図2診断名別の眼圧値の推移*p<0.05(投与開始日との比較,1標本t検定).平均値±標準偏差(mmHg).28242016120481216202428323640444852観察日(週)眼圧値(mmHg)**************************:原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症:正常眼圧緑内障表6ノンレスポンダー率観察日ノンレスポンダーレスポンダー合計95%両側信頼区間28週間後1(0.9)1051060.0~2.852週間後1(1.0)1011020.0~2.9()内は%.(153)あたらしい眼科Vol.28,No.8,201112138.0mmHg,正常眼圧緑内障で?4.7~?6.1mmHgの範囲で推移し,投与期間を通して安定した眼圧下降効果がみられた(表7).投与期間中の眼圧変化率は原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?29.1~?33.4%,正常眼圧緑内障で?25.1~?32.9%の範囲で推移した(表8).28週間後および52週間後に認められたノンレスポンダーは,正常眼圧緑内障で1例のみであった(表9).3.安全性有害事象は136例中131例(96.3%)に発現した.このうち,副作用は125例91.9%であった.比較的頻度の高かった副作用を表10に示した.最も高頻度で発現した副作用は睫毛の成長であり,90例66.2%に発現した.その他,高頻度で発現した副作用は結膜充血,眼瞼色素沈着および虹彩色素沈着であり,それぞれ61例44.9%,42例30.9%および29例21.3%に発現した.重症度に関しては,重度の副作用は認められず,中等度の事象が19例26件(結膜充血7件,眼瞼色素沈着6件,睫毛の成長3件,虹彩色素沈着,および眼瞼紅斑がそれぞれ2件,結膜出血,アレルギー性結膜炎,虹彩炎,結膜炎,眼瞼炎および眼圧上昇が各1件)認められたが,それ以外は軽度であった.いずれも投与部位である眼部または眼周囲部の局所に発現するものであり,治験薬の点眼を継続しても程度が悪化するものではなかった.また,点眼の中止(終了)により約8割の事象が追跡調査期間中に回復または軽快した(回復:点眼開始前の状態に回復,軽快:問題ないレベルまでに達した状態).重篤な有害事象が4例(心臓神経症,膀胱瘤および眼内炎,表7診断名別の眼圧変化値の推移観察日原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症正常眼圧緑内障例数眼圧変化値例数眼圧変化値4週間後63?7.0±2.538?5.4±2.08週間後67?7.5±2.640?5.4±1.812週間後68?7.5±2.538?5.8±1.916週間後65?8.0±2.534?5.5±2.220週間後66?7.9±2.338?5.6±1.924週間後67?7.7±2.537?5.6±2.128週間後66?7.8±2.340?5.8±1.832週間後68?7.8±2.440?6.1±1.836週間後66?7.7±2.439?5.5±2.040週間後66?7.8±2.538?5.7±1.744週間後62?7.7±2.439?5.1±1.948週間後63?7.4±2.640?4.7±2.152週間後64?7.3±2.138?5.2±1.7平均値±標準偏差(mmHg).表8診断名別の眼圧変化率の推移観察日原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症正常眼圧緑内障例数眼圧変化率例数眼圧変化率4週間後63?29.1±8.638?29.0±10.48週間後67?31.5±9.640?28.7±9.012週間後68?31.6±9.538?31.3±9.716週間後65?33.4±9.334?29.5±11.620週間後66?33.1±8.538?30.2±10.424週間後67?32.5±9.737?30.2±11.228週間後66?32.9±8.740?31.0±8.632週間後68?32.5±8.440?32.9±8.236週間後66?32.3±9.339?29.6±9.740週間後66?32.8±9.738?30.9±8.744週間後62?32.3±9.139?27.2±9.648週間後63?30.8±9.740?25.1±10.952週間後64?30.7±7.738?28.1±9.4平均値±標準偏差(%).表10比較的頻度の高かった(5%以上)副作用事象名MedDRA(Ver.9.0)PT発現例数(頻度)眼障害睫毛の成長90(66.2%)結膜充血61(44.9%)眼瞼色素沈着42(30.9%)虹彩色素沈着29(21.3%)睫毛剛毛化8(5.9%)アレルギー性結膜炎7(5.1%)くぼんだ眼7(5.1%)全身障害および投与局所様態滴下投与部位そう痒感10(7.4%)皮膚および皮下組織障害多毛症9(6.6%)発現頻度:発現例数/安全性解析対象症例数(136例)×100.表9診断名別のノンレスポンダー率診断名観察日ノンレスポンダーレスポンダー合計95%両側信頼区間原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症28週間後0(0.0)66660.0~0.052週間後0(0.0)64640.0~0.0正常眼圧緑内障28週間後1(2.5)39400.0~7.352週間後1(2.6)37380.0~7.7()内は%.1214あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011副鼻腔炎,喉頭蓋炎)に認められたが,すべて治験薬との因果関係は否定された.また,本試験において死亡例はなかった.副作用による中止は11例(8.1%)14件であった.これらの中止理由は,患者からの申し出によるもの5例(眼痛:1例,虹彩色素沈着・睫毛の成長・眼瞼色素沈着:2例,睫毛の成長:2例),医学的な理由によるもの6例(虹彩炎・眼圧上昇:1例,眼瞼炎:1例,結膜充血:1例,眼瞼色素沈着:1例,結膜炎:1例,アレルギー性結膜炎:1例)であった.その他,臨床検査では,異常変動「有」と判定された症例が33例43件みられ,このうち2例3件が副作用と判定されたが,いずれも追跡調査にて基準範囲内に回復あるいは回復傾向を示した.生理学的検査では,血圧が投与開始前に比べ下降が認められたものの,変動幅は小さく,臨床上問題となるものではなかった.また,これらの検査項目以外で,特記すべきものはなかった.III考按原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象として0.03%ビマトプロスト点眼剤を点眼し,有効性解析対象集団110例,安全性解析対象集団136例について,52週間点眼したときの有効性および安全性を検討した.原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症において,眼圧変化値は52週間後まで?6.3~?7.2mmHgの範囲で推移し,投与期間を通して安定した眼圧下降効果が得られた.また,診断名別では,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症では?7.0~?8.0mmHg,正常眼圧緑内障では?4.7~?6.1mmHgの範囲で推移し,両疾患群とも投与期間を通して安定した眼圧下降効果が得られた.投与期間中の眼圧変化率に関しては原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?29.1~?33.4%,正常眼圧緑内障では?25.1~?32.9%の範囲で推移し,正常眼圧緑内障に対しても0.03%ビマトプロスト点眼剤は強力で,安定した眼圧下降効果を示すことが確認された.0.03%ビマトプロスト点眼剤のノンレスポンダーは28週間後に0.9%および52週間後に1.0%の割合で認められた.国内で第一選択薬のラタノプロスト点眼剤は患者の10~40%にノンレスポンダーが存在することが報告されており9~13),当該試験での0.03%ビマトプロスト点眼剤のノンレスポンダー率はラタノプロストと比べて低かった.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤はプロスタマイドアナログ製剤であり,ラタノプロスト点眼剤とは異なる作用機序を有している14,15)ことから,ラタノプロスト点眼剤に対するノンレスポンダーに対して有効であることが海外の臨床試験で明らかとなっている16~18).したがって,0.03%ビマトプロスト点眼剤が無効となる症例は少なく,ラタノプロスト点眼剤に対するノンレスポンダーに対しても0.03%ビマトプロスト点眼剤は有効な治療手段になりうると考えられる.副作用は136例中125例91.9%に認められた.しかし,そのほとんどは軽度な事象であり,重篤な副作用は認められなかった.全身性の副作用はほとんどみられず,血液学的検査などの臨床検査の結果からも0.03%ビマトプロスト点眼剤は全身的に高い安全性を有することが示唆された.原発開放隅角緑内障の有病率は高齢者に多いことが知られており,高齢者では循環器系,呼吸器系疾患の合併率が高くなることから,全身への影響の少ない0.03%ビマトプロスト点眼剤は緑内障の治療に有用であると考えられる.局所的な副作用のうち,睫毛の成長(66.2%)および結膜充血(44.9%)はこれまでに海外および国内で実施された臨床試験においても高頻度の発現が確認されている副作用であった.また,眼瞼色素沈着(30.9%)および虹彩色素沈着(21.3%)も高頻度で認められたが,これらの副作用もこれまでに発現が確認されているものであった.以上のような副作用が高頻度で発現したが,そのほとんどが軽度なものであった.その他,特徴的な副作用として,くぼんだ眼が7例5.1%発現した.近年,海外においてビマトプロスト点眼剤で同様な事象が報告されてきている19~21).その発現のメカニズムとして,眼瞼挙筋の開裂やコラーゲン線維の減少,脂肪分解などが関与している可能性が示唆されているが,まだ明確にはなっていない.また,類薬であるトラボプロスト点眼剤においても,同様に報告されている22)ことから,プロスタグランジン関連薬において誘発される副作用である可能性がある.今後,他の薬剤も含め,詳細に検討していく必要があると考えられる.なお,当該事象は回復性のある事象と報告されており,当該試験で発現した7例においても,全例回復あるいは軽快した.52週間の点眼期間中で副作用による中止は11例(8.1%)であったが,いずれも視機能へ影響を及ぼす重大なものではなかった.以上の結果より,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,52週間の長期点眼においても安定した眼圧下降効果を示し,その副作用は忍容できるものであることが確認できた.文献1)BrandtJD,VanDenburghAM,ChenKetal;BimatoprostStudyGroup:Comparisonofonce-ortwice-dailybimatoprostwithtwice-dailytimololinpatientswithelevatedIOP:a3-monthclinicaltrial.Ophthalmology108:1023-1032,20012)WhitcupSM,CantorLB,VanDenburghAMetal:Arandomised,doublemasked,multicentreclinicaltrialcomparingbimatoprostandtimololforthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol87:57-62,(154)あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011121520033)HigginbothamEJ,SchumanJS,GoldbergIetal;BimatoprostStudyGroups1and2:One-year,randomizedstudycomparingbimatoprostandtimololinglaucomaandocularhypertension.ArchOphthalmol120:1286-1293,20024)GandolfiS,SimmonsST,SturmRetal;BimatoprostStudyGroup3:Three-monthcomparisonofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithglaucomaandocularhypertension.AdvTher18:110-121,20015)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal;Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOphthalmol135:55-63,20036)ChoplinN,BernsteinP,BatoosinghALetal;Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Arandomized,investigator-maskedcomparisonofdiurnalresponderrateswithbimatoprostandlatanoprostintheloweringofintraocularpressure.SurvOphthalmol49(Suppl1):S19-25,20047)SimmonsST,DirksMS,NoeckerRJ:Bimatoprostversuslatanoprostinloweringintraocularpressureinglaucomaandocularhypertension:resultsfromparallel-groupcomparisontrials.AdvTher21:247-262,20048)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20109)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:ラタノプロストのNon-responderの検討.あたらしい眼科19:779-781,200210)木村英也,野﨑実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,200311)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,200512)美馬彩,秦裕子,村尾史子ほか:眼圧測定時刻に留意した,正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の検討.臨眼60:1613-1616,200613)湯川英一,新田進人,竹谷太ほか:開放隅角緑内障におけるb-遮断薬からラタノプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.眼紀57:195-198,200614)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200815)LiangY,LiC,GuzmanVMetal:ComparisonofprostaglandinF2a,bimatoprost(prostamide),andbutaprost(EP2agonist)onCyr61andconnectivetissuegrowthfactorgeneexpression.JBiolChem278:27267-27277,200316)WilliamsRD:Efficacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.AdvTher19:275-281,200217)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200318)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,200819)PeplinskiLS,AlbianiSK:Deepingoflidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,200420)YamJC,YuenNS,ChanCW:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200921)AydinS,I?ikligilI,Tek?enYAetal:Recoveryoforbitalfatpadprolapsusanddeepeningofthelidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy:2casereportsandreviewoftheliterature.CutanOculToxicol29:212-216,201022)YangHK,ParkKH,KimTWetal:Deepeningofeyelidsuperiorsulcusduringtopicaltravoprosttreatment.JpnJOphthalmol53:176-179,2009(155)***

降圧剤の内服で眼圧下降を認めた正常眼圧緑内障の1例

2011年8月31日 水曜日

1172(11あ2)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1172?1174,2011cはじめに高血圧症に対する治療薬のなかでa1受容体遮断薬やb受容体遮断薬は,眼局所に投与することで眼圧下降を認めることから緑内障治療薬として応用されている.一方,動物眼に対して,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)点眼により眼圧下降効果を認めた報告がある1).また,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬内服での眼圧下降2)や,ARB内服による眼圧下降3)の報告も認めるが,詳細な奏効機序は不明である.今回,正常眼圧緑内障(NTG)のベースライン眼圧測定中に降圧剤の内服により眼圧下降を認めた1例を経験したので報告する.I症例患者:49歳,男性.主訴:左眼飛蚊症.既往歴:高血圧症(受診時は未治療の状態であった).現病歴:2007年8月より他院で両眼緑内障にてラタノプロスト(キサラタンR)点眼薬を処方されていた.同年9月〔別刷請求先〕小林守:〒769-1695香川県観音寺市豊浜町姫浜708番地三豊総合病院眼科Reprintrequests:MamoruKobayashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MitoyoGeneralHospital,708Himehama,Kanonji-shi,Kagawa769-1695,JAPAN降圧剤の内服で眼圧下降を認めた正常眼圧緑内障の1例小林守*1馬場哲也*2廣岡一行*2藤原篤之*2白神史雄*2*1三豊総合病院眼科*2香川大学医学部眼科学講座EffectofOralAntihypertensiveAgentsonIntraocularPressureinNormal-TensionGlaucomaMamoruKobayashi1),TetsuyaBaba2),KazuyukiHirooka2),AtsushiFujiwara2)andFumioShiraga2)1)DepartmentofOphthalmology,MitoyoGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine降圧剤の内服で眼圧下降を認めた正常眼圧緑内障(NTG)の1例を経験したので報告する.症例は49歳,男性.両眼のNTGと診断し,ベースライン眼圧測定を開始した.以後眼圧は両眼17~19mmHgで経過したが,高血圧症に対してカンデサルタンとドキサゾシンの内服が開始されたところ,眼圧が両眼12~16mmHgに下降した.しかし,血圧下降不十分のためテルミサルタン内服に変更となったところ,血圧は下降したが眼圧は上昇した.その後,カンデサルタンとアムロジピンとエプレレノン内服に変更になったところ,再度眼圧下降を認め,ドキサゾシンを追加しても眼圧に著変がなかったことから,本症例における眼圧下降についてはカンデサルタンが最も関与したと考えた.降圧剤の内服で眼圧下降を認めたNTGの1例を経験した.関与した薬剤としてカンデサルタンが考えられ,緑内障治療薬に応用できる可能性がある.Wereporttheeffectoforalantihypertensiveagentsonintraocularpressure(IOP)ina49-year-oldmalewithnormal-tensionglaucoma(NTG).FollowingthediagnosisofNTGinbotheyes,baselineIOPmeasurementwasinitiated.IOPwas17~19mmHginbotheyesatbaseline.Afteroraladministrationofcandesartananddoxazosinfortreatmentofhypertension,IOPdecreasedto12~16mmHg.However,themedicationwasswitchedtotelmisartanbecausethebloodpressure(BP)-loweringeffectwaspoor.AlthoughBPdecreasedafteroraladministrationoftelmisartan,IOPincreased.Aftermedicationwasagainswitched,tocandesartan,amlodipineandeplerenone,IOPagaindecreased,anddidnotchangeaftertheadditionofdoxazosin.WeconcludedthatcandesartanwasinvolvedintheIOPreductioninthiscase.Candesartancouldbeappliedtoglaucomatreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1172?1174,2011〕Keywords:アンジオテンシンII受容体拮抗薬,正常眼圧緑内障,眼圧,高血圧,カンデサルタン.angiotensinIItype1receptorantagonist,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,hypertension,candesartan.(113)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111173より左眼飛蚊症を自覚し,9月26日香川大学医学部附属病院眼科を受診した.初診時所見:視力は右眼0.05(1.5×?6.0D(cyl?1.00DAx180°),左眼0.06(1.2×?5.5D(cyl?0.75DAx180°).眼圧は右眼14mmHg,左眼14mmHg.両眼部とも前眼部,中間透光体に特記すべき所見は認めなかった.隅角は両眼とも開放隅角で異常所見は認めなかった.眼底は両眼とも視神経陥凹乳頭径比0.9と拡大を認め,陥凹底にlaminardotsign,乳頭上網膜血管のbayonetingを認め,右眼は耳下側に,左眼は下方~耳下側にかけて網膜神経線維層欠損を認め,緑内障性変化と考えられた.黄斑部,網膜血管走行および周辺部網膜に異常所見を認めなかった.HeidelbergRetinaTomographIIでの視神経乳頭解析によるGlaucomaProbabilityScoreは両眼とも正常範囲外であった.静的量的視野検査では,両眼ともブエルム(Bjerrum)領域に弓状暗点を認め,右眼では鼻側階段が出現しており,眼底所見と一致していることから緑内障性視野変化と考えた.経過(図1):両眼のNTGと診断し,2007年10月16日からベースライン眼圧を把握するために点眼を中止した.眼圧測定時刻は15時から17時の間とした.その後,両眼とも眼圧は17~19mmHgで経過していたが,2008年4月より他院で高血圧症に対してARBのカンデサルタン(ブロプレスR)とa1受容体遮断薬のドキサゾシン(カルデナリンR)の内服治療が開始されたところ,眼圧が両眼12~16mmHgに下降した.しかし,血圧コントロール不良のため,11月より他のARBであるテルミサルタン(ミカルディスR)内服に変更となったところ,血圧下降は得られたが眼圧は右眼19mmHg,左眼18mmHgと上昇した.内服飲み忘れなどの問題があり,2009年1月よりカンデサルタン再投与およびCa拮抗薬のアムロジピン(アムロジンODR),アルドステロン阻害薬のエプレレノン(セララR)内服に変更となったところ両眼13~16mmHgとなり再度眼圧下降を認めた.2009年3月よりドキサゾシンの内服が追加されたが,眼圧に著変を認めず,その後も眼圧は下降したまま現在に至っている.また,経過中の降圧薬と血圧,脈拍数を表1に示すが,眼圧に影響を及ぼすほどの大きな変動を認めていない.II考按緑内障に対するベースライン眼圧測定においては,眼圧日内変動や季節変動などの生理的眼圧変動の影響を受ける可能性がある4).しかし,今回の症例では眼圧はいずれも午後から夕方に測定されており,日内変動の影響による変化の可能性は低いものと考えられる.また,季節変動による影響の可能性に関しては,2007年から2008年にかけては内服薬が投与変更されていた時期であること,2009年以降は秋,冬にも眼圧上昇を認めないまま経過したことから,季節変動による可能性も低く,本症例における眼圧変動は投薬などによる外的要因によって生じたものと考える.今回の経過から,本症例における眼圧下降についてはARBが関与したと考えられる.その機序として,レニン・アンジオテンシン系は一般的に副腎皮質におけるアルドステロン生成・分泌,血管収縮作用により生体の血圧調節,および,電解質バランスの維持に関与している.眼局所においてもレニン・アンジオテンシン系が存在すること5)や,レニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与で眼圧下降が得られた表1降圧剤の内容と血圧,脈拍の経過期間内服内容収縮期血圧(mmHg)拡張期血圧(mmHg)脈拍2008年4月~10月カンデサルタン12mg,ドキサゾシン4mg140~150100~11080~902008年11月~12月テルミサルタン40mg130~14590~11080~902009年1月~2月カンデサルタン12mg,アムロジピン2.5mg,エプレレノン50mg130~14590~10080~902009年3月以降カンデサルタン12mg,ドキサゾシン4mg,アムロジピン2.5mg,エプレレノン50mg130~14090~9570~80②①ドキサゾシンカンデサルタンドキサゾシンカンデサルタン’079月’082月’091月’102月10月12月4月5月7月9月10月11月3月6月9月12月5月8月眼圧(mmHg):右眼:左眼エプレレノンアムロジピン222018161412108図1眼圧の経過と投薬内容グラフ内の①はラタノプロスト点眼,②はテルミサルタン内服.2008年4月の降圧剤内服開始に伴って眼圧が下降している.眼圧下降はカンデサルタン投与期間と一致しており,2009年3月にドキサゾシンを追加した以降も眼圧に著変を認めていない.1174あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(114)との報告もあり1~3),レニン・アンジオテンシン系が房水動態に関与している可能性が考えられる.ARBはアンジオテンシンII1型(AT1)受容体を選択的に阻害することで,アンジオテンシンIIの薬理作用を抑制することが知られているが,ARBの眼局所作用としてぶどう膜強膜流出路を介する房水流出を促進することにより眼圧が下降したことが報告されている1).また,CostagliolaらはARBにより毛様体自体の代謝活性と房水産生を抑制することで眼圧が下降するという考え方をしている6).他にもARBの作用で毛様体無色素上皮におけるCaの情報伝達系を抑制し,カリウムイオンチャネルの活性と細胞容積の減少,毛様体無色素上皮における分泌を抑制するとの報告がある7).Caは毛様体無色素上皮におけるClチャネルを活性化することが知られており,Caの抑制はClチャネルの抑制につながると考えられる.毛様体無色素上皮のClチャネルによる後房へのClイオンの排出が房水産生量を律速すると考えられており8),Clチャネルの抑制は房水産生抑制につながると考えられる.いずれも実際の機序については解明がされていないのが現状であるが,ぶどう膜強膜流出路での房水流出促進,毛様体での房水産生抑制の両面から眼圧下降が生じた可能性が考えられる.本症例では,ARBのなかでもカンデサルタンが最も眼圧下降に関与した薬剤と考えたが,カンデサルタンと同種であるARBのテルミサルタンとの間で眼圧下降効果に違いがみられた.両者の違いとして,まず構造式やそれに伴う分子量の違い,薬物感受性に個人差があるのではないかと考えられる.薬効においては,まず,ARB同士のなかでもAT1受容体への結合親和性の違いがあり,カンデサルタンはテルミサルタンより結合親和性が強いとされていて9),AT1受容体と結合している時間が長いと考えられている.つぎに,ARBのなかではカンデサルタンが最も血液-脳関門を通過しやすいことが報告されており10),血液-網膜関門もカンデサルタンのほうが通過しやすく,その結果眼内のカンデサルタンの濃度が高くなった可能性がある.さらに,ARBにおいて,アンジオテンシンIIがAT1受容体に結合しない状態でも存在するAT1受容体の自律活性までも阻害するインバースアゴニズムがARBの薬効の違いの一因でもあると考えられており9),カンデサルタンはテルミサルタンよりその作用が強いとされている11).これらにより眼局所におけるAT1受容体活性の阻害に差が生じ,眼圧下降の差を生じたことが推測される.今回の症例では,眼圧下降効果はカンデサルタンが強かったが,血圧下降効果はテルミサルタンのほうが強く,両者の効果に乖離を認めた.近年ARBの薬効である血圧下降作用に加えて臓器保護作用や抗炎症作用などが報告されているが,これらの作用の程度は各薬剤のわずかな化学構造の違いによって異なると考えられている9).また,各臓器への移行性・親和性も異なる可能性が考えられる.これらによって全身と眼内に対する作用がカンデサルタンとテルミサルタンの間で異なっていたために,眼圧への効果と血圧への効果に差を認めたのではないかと考えられる.以上,眼圧下降効果を生じた薬剤としてARBが考えられることから,緑内障患者の病状把握および治療に関しては降圧剤の内服の有無に留意する必要があると考える.ただし,今回の症例は1例であり薬剤の効果を判断するには症例が少ないと思われ,今後は症例を集め多症例で検討する必要があると考える.また,今後ARBが緑内障治療薬に応用できる可能性もあるが,今後さらなる作用機序の解明が必要であると思われる.文献1)InoueT,YokoyamaT,MoriYetal:TheeffectoftopicalCS-088,anangiotensinAT1receptorantagonist,onintraocularpressureandaqueoushumordynamicsinrabbits.CurrEyeRes23:133-138,20012)CostagliolaC,DiBenedettoR,DeCaprioLetal:Effectoforalcaptopril(SQ14225)onintraocularpressureinman.EurJOphthalmol5:19-25,19953)HashizumeK,MashimaY,FumayamaTetal:GlaucomaGeneResearchGroup;GeneticpolymorphismsintheangiotensinIIreceptorgeneandtheirassociationwithopen-angleglaucomainaJapanesepopulation.InvestOphthalmolVisSci46:1993-2001,20054)中元兼二,安田典子:眼圧に影響する諸因子.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p136,文光堂,20065)SavaskanE,LofflerKU,MeierFetal:Immunohistochemicallocalizationofangiotensin-convertingenzyme,angiotensinIIandAT1recptorinhumanoculartissues.OphthalmicRes36:312-320,20046)CostagliolaC,VerolinoM,DeRosaMLetal:Effectoforallosartanpotassiumadministrationonintraocularpressureinnormotensiveandglaucomatoushumansubjects.ExpEyeRes71:167-171,20007)CullinaneAB,LeungPS,OrtegoJetal:Renin-angiotensinsystemexpressionandsecretoryfunctioninculturedhumanciliarybodynon-pigmentedepithelium.BrJOphthalmol86:676-683,20028)DoCW,CivanMM:Basisofchloridetransportinciliaryepithelium.JMembrBiol200:1-13,20049)木谷嘉博,三浦伸一郎:ARBのクラスエフェクトとドラッグエフェクト.血圧17:698-703,201010)UngerT:Inhibitingangiotensinreceptorsinthebrain:possibletherapeuticimplications.CurMedResOpin19:449-451,200311)中木原由佳:ARBにおけるインバースアゴニスト活性について.鹿児島市医報46:9,2007

緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”

2011年8月31日 水曜日

1166(10あ6)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1166?1171,2011cはじめに慢性疾患である緑内障治療において,点眼の継続性すなわちアドヒアランスの良否が治療効果に及ぼす影響は大きい1,2).一方,自覚症状に乏しく,長期的な点眼使用を余儀なくされる緑内障において良好なアドヒアランスを確保するには,医療側からの積極的対応が求められる.医療側からの対応はしかし,客観性に基づく必要があり,その第一段階としてアドヒアランスに関わる要因のデータ調査と収集が位置づけられる.アドヒアランスに関わるデータは,主としてインタビューやアンケートなどにより調査,収集されている3~9).一般的なデータ調査において,調査者が直接説明し回答を記録するインタビューは,質の高い調査を行うことができる利点があり,調査対象者に質問内容の理解を促すことで,回答の精度〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”高橋真紀子*1,2内藤知子*2溝上志朗*3菅野誠*4鈴村弘隆*5吉川啓司*6*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4山形大学医学部眼科学講座*5中野総合病院眼科*6吉川眼科クリニックQuestionnaireSurveyonUseofGlaucomaEyedrops:FirstReportMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),ShiroMizoue3),MakotoKanno4),HirotakaSuzumura5)andKeijiYoshikawa6)1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,6)YoshikawaEyeClinic緑内障点眼治療のアドヒアランスに関連する要因について調査するために,緑内障点眼治療開始後3カ月以上を経過した広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に,2010年3月から5カ月間に5施設でアンケートを実施した.同時に,年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(MD)などの背景因子も調べた.男性106例,女性130例,平均年齢65.1±13.0(22~90)歳が対象となった.202例(85.6%)が最近の眼圧を認知し,185例(78.4%)がほとんど指示通りに点眼できていると回答した.指示通りの点眼に関わる因子について検討したところ,女性より男性(p=0.0101),年齢が若いほど(p=0.0028),指示通りの点眼ができていなかった.また,65歳以上の男性は,眼圧を認知している症例ほど有意に指示通りの点眼を行っていた(p=0.0081).Toevaluatethefactorsrelatingtoregimenadherenceinglaucomatreatment,overaperiodoffivemonthsfromMarch2010weconductedaquestionnairesurveyofpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.Backgroundfactorssuchasage,sex,medicineused,intraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)wereexaminedatthesametime.Thesubjectscomprised106malesand130females,averageage65.1±13.0years.Responsesindicatedthat202(85.6%)patientswereawareoftheirrecentIOP,andthat185(78.4%)patientsinstilledtheireyedropsinaccordancewithmostinstructions.Whenweexaminedfactorsrelatingtoeyedropinstillationinaccordancewithinstructions,malesmorethanfemales(p=0.0101),andpatientsofyoungerage(p=0.0028),couldnotadheretotheirregimen.Moreover,malesoverage65adheredbetterwhentheywereawareoftheirIOP(p=0.0081).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1166?1171,2011〕Keywords:緑内障,高眼圧症,アンケート調査,アドヒアランス,眼圧.glaucoma,ocularhypertension,questionnaire,adherence,intraocularpressure.(107)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111167や回答率,回収率の向上が期待できる10~13).反面,調査者の恣意的な回答の誘導や,その対応の回答への影響もありうる10,12,13).特に,アドヒアランス調査は医師やスタッフとの対面調査となるため,自己防衛反応から実質的な回答の引き出しが叶わない可能性が否定できない3,10).それに対し,アンケートに自己記入で回答を求める方法は,回答漏れや誤記入,回収率の低下が危惧されるものの,回答における自己開示度は高い12,13).インタビューやアンケートは,その信頼性や実行性から単独施設で施行されることが多い.筆者らもすでに,点眼容器の形状とアドヒアランスとの関連についてインタビュー調査を行い,点眼容器の形状がそのハンドリングを通じて使用性に関わり,アドヒアランスに影響する可能性があることを報告した9).しかし,単独施設における症例収集では偏りなく多数例を収集するのは困難である.そこで,今回,筆者らは緑内障点眼薬使用のアドヒアランスに関連する要因について多施設共同でアンケート調査を行いその結果を解析した.本報では,病状認知度とアドヒアランスの関連を中心に述べ,次報以後では薬剤数や視野障害との関連などについて報告する予定である.I対象および方法2010年3月から5カ月間に,笠岡第一病院,岡山大学病院,愛媛大学病院,山形大学病院,中野総合病院の5施設の外来を受診した広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者のうち,年齢満20歳以上で,緑内障点眼治療開始後少なくとも3カ月以上を経過し,かつ,アンケート調査に書面での同意を得られた症例を対象とした.一方,1カ月以内に薬剤変更・追加あるいは緑内障手術・レーザーの予定がある患者,過去1年以内に内眼手術・レーザーの既往がある患者,圧平眼圧測定に支障をきたす患者は除外した.なお,本研究は笠岡第一病院,山形大学医学部の倫理委員会の承認を得たうえで実施した.アンケートはあらかじめ原案を作成したうえで,調査参加表1アンケート内容質問1)ご自分の最近の眼圧をご存じですか?(○は1つ)1.知っている2.聞いたが具体的な値は忘れた3.眼圧値は聞いていないと思う質問2)全部で何種類の目薬(メグスリ)をお使いですか?眼科で処方されたもの以外も含めた数を教えてください.(○は1つ)1.1種類2.2種類3.3種類4.4種類以上質問3)緑内障の目薬(メグスリ)は何種類お使いですか?(○は1つ)1.1種類2.2種類3.3種類4.4種類以上質問4)〔緑内障の目薬(メグスリ)を一度に2剤以上ご使用される方〕(一度に1剤のみご使用の方は質問4はとばしてください)緑内障の目薬(メグスリ)を一度に2種類以上点眼する時の間隔を教えてください.(○は1つ)1.すぐつける2.1分程度あける3.3分程度あける4.5分以上あける質問5)緑内障の目薬(メグスリ)を指示通りに点眼できないことがありますか?(○は1つ)1.ほとんどない2.時々ある3.しばしばある質問6)今の緑内障の目薬(メグスリ)の回数にご負担を感じますか?(○は1つ)1.負担を感じる2.どちらともいえない3.負担は感じない質問7)緑内障の目薬(メグスリ)を使っている印象を教えてください.(○は1つ)1.点眼には慣れた2.治療なので仕方ない3.目を守るために頑張っている質問8)緑内障の目薬(メグスリ)をさすのを忘れたことはありませんか?(○は1つ)1.忘れたことはない2.忘れたことがある忘れたことがある方質問8?付問)どの程度忘れられましたか?(○は1つ)1.3日に1度程度2.1週間に1度程度3.2週間に1度程度4.1か月に1度程度質問9)緑内障の目薬(メグスリ)をさす時刻がずれやすいのはどの時間帯でしょうか?(○はいくつでも)1.時刻がずれることはない2.朝3.昼4.夜5.寝る前6.その他()7.さす時刻は決めていない(だいたい夜とか,だいたい寝る前にさすなど)質問9?付問)目薬(メグスリ)をさす時刻がずれる理由を教えてください.(○はいくつでも)1.仕事2.外出3.家事の都合4.休日5.旅行6.外食・飲酒など7.その他質問10)今後,緑内障の目薬(メグスリ)を続けていくことについてどのように思われますか?(○は1つ)1.頑張ろうと思う2.仕方ないと思う3.特になんとも思わない4.その他質問11)もし,緑内障の目薬(メグスリ)が1剤増えるとすれば,これまでの目薬(メグスリ)と一緒に続けられますか?(○は1つ)1.大丈夫2.多分大丈夫3.ちょっと心配4.多分無理だと思う1168あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(108)全施設の担当者とともに質問・回答項目の設定およびアンケートの体裁について十分に検討し,内容を決定した.なお,回答方法は多肢選択法とし,該当する選択肢の番号を○で囲む方式とした.アンケート用紙(表1)は診察終了後に配布,無記名式で行い,回収は回収箱を使用した.原則的に,患者本人が記入する自記式としたが,視力不良により記入困難な場合は,付き添いの家族にアンケートへの記入を求めた.アンケート用紙にはあらかじめ番号を付けて配布し,年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(meandeviation:MD)などの背景因子は,アンケート回収後にカルテより調査した.なお,MDはアンケート調査日6カ月以内にHumphrey自動視野計のSITAStandardプログラム中心30-2あるいは24-2による視野検査を施行された症例(230例)の結果を調査データとした.回収されたアンケート用紙は各施設において確認し,記載内容に不備がある症例を除外したうえで,あらかじめ作成し各施設に配布されたデータ入力用のエクセルシートに,その結果を各施設において入力した.なお,質問ごとの回答内容が無回答のものは欠損値として扱った.入力結果は独立して収集し,JMP8.0(SAS東京)を用い,t検定,c2検定,Fisherの正確検定により解析した(YK).有意水準は5%未満とした.II結果1.対象および背景因子アンケートを施行し,回収し得たのは237例(回収率100%)だった.アンケート記載は237例中235例(99.2%)が自己記載,家族による記載は2例(0.8%)だった.一方,237例中1例(0.4%)は,後半分の回答欄が空白となっていたためアンケートは無効と判断され,236例の結果が解析対象となった(有効回答率:99.6%).解析対象の性別は男性106例,女性130例で,平均年齢65.1±13.0(22~90)歳だった.緑内障病型は正常眼圧緑内障115例(48.7%),原発開放隅角緑内障109例(46.2%),高眼圧症12例(5.1%)だった.平均眼圧は13.8±2.9(8.0~23.0)mmHg,平均緑内障点眼薬数1.7±0.8(1~4)剤,平均通院頻度8.4±3.5(2~20)回/年で,緑内障点眼治療歴は1年未満7.2%,2年以上3年未満20.3%,4年以上5年未満16.9%,5年以上55.5%だった.2.アンケート回答結果全設問の回答結果を表2に示す.表2アンケート回答結果質問1)回答数236例(回答率100%)1.202例(85.6%)2.25例(10.6%)3.9例(3.8%)質問2)回答数236例(回答率100%)1.72例(30.5%)2.77例(32.6%)3.65例(27.5%)4.22例(9.3%)質問3)回答数236例(回答率100%)1.124例(52.5%)2.56例(23.7%)3.50例(21.2%)4.6例(2.5%)質問4)回答数92例(回答率39.0%)1.4例(4.3%)2.8例(8.7%)3.16例(17.4%)4.64例(69.6%)質問5)回答数236例(回答率100%)1.185例(78.4%)2.47例(19.9%)3.4例(1.7%)質問6)回答数236例(回答率100%)1.12例(5.1%)2.28例(11.9%)3.196例(83.1%)質問7)回答数236例(回答率100%)1.96例(40.7%)2.31例(13.1%)3.109例(46.2%)質問8)回答数233例(回答率98.7%)1.127例(54.5%)2.106例(45.5%)質問8?付問)回答対象者106例中,回答数106例(回答率100%)1.8例(7.5%)2.22例(20.8%)3.26例(24.5%)4.50例(47.2%)質問9)回答数209例(回答率88.6%)1.72例(34.4%)2.16例(7.7%)3.6例(2.9%)4.50例(23.9%)5.35例(16.7%)6.3例(1.4%)7.28例(13.4%)質問9─付問)回答対象者137例中,回答数121例(回答率88.3%)1.14例(11.6%)2.23例(19.0%)3.27例(22.3%)4.6例(5.0%)5.11例(9.1%)6.14例(11.6%)7.29例(24.0%)質問10)回答数236例(回答率100%)1.142例(60.2%)2.58例(24.6%)3.35例(14.8%)4.1例(0.4%)質問11)回答数236例(回答率100%)1.112例(47.5%)2.96例(40.7%)3.27例(11.4%)4.1例(0.4%)(109)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111169質問1)「ご自分の最近の眼圧をご存じですか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,そのうち202例(85.6%)が「知っている」と回答した.一方,「聞いたが具体的な値は忘れた」25例(10.6%),「眼圧値は聞いていないと思う」9例(3.8%)を合わせた34例(14.4%)が眼圧値を認知していなかった(図1).質問3)「緑内障の目薬(メグスリ)は何種類お使いですか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,このうちカルテより調査した緑内障点眼薬数と一致したのは224例(94.9%)だった.質問5)「緑内障の目薬(メグスリ)を指示通りに点眼できないことがありますか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,そのうち185例(78.4%)が「ほとんどない」と回答した.一方,「時々ある」47例(19.9%),「しばしばある」4例(1.7%)を合わせた51例(21.6%)が指示通りに点眼できていなかった(図2).3.指示通りの点眼の有無と背景因子の関連質問5)において,指示通りに点眼できないことが「ほとんどない」と回答した群を「ほとんど指示通りに点眼できている」群,「時々ある」あるいは「しばしばある」と回答した群を「指示通りに点眼できないことがある」群とし,背景因子を比較した(表3).この結果,女性より男性(p=0.0101),年齢が若いほど(p=0.0028)指示通りの点眼ができていなかった.眼圧,MD,緑内障点眼薬数,通院頻度については,両群間に有意差はなかった.4.眼圧の認知と指示通りの点眼の関連質問1)において,自分の最近の眼圧を「知っている」と回答した群を「眼圧値を認知している」群,「聞いたが具体的な値は忘れた」あるいは「眼圧値は聞いていないと思う」と回答した群を「眼圧値を認知していない」群とし,指示通りの点眼との関連について検討したところ,統計学的に明らかな関連はなかったが,眼圧を認知している症例ほど指示通りの点眼を行っている可能性(p=0.0625)が推察された(図3a).さらに,性別・年齢層別に検討を行った結果,65歳以上の男性は眼圧を認知している症例ほど有意に(p=0.0081)指示通りの点眼を行っていた.一方,65歳未満の男性および女性では有意な関連は認めなかった(図3b).III考按緑内障点眼治療のアドヒアランスの良否に関連する要因について,多施設でアンケート調査を行った.アンケート内容が多岐にわたるため,今回は病状認知度のアドヒアランスへの影響について検討した.アドヒアランスの評価方法としては,インタビュー,アン表3指示通りの点眼の有無と背景因子の関連背景因子ほとんど指示通りに点眼できている指示通りに点眼できないことがあるp値性別男性75例(40.5%)女性110例(59.5%)男性31例(60.8%)女性20例(39.2%)0.0101*年齢66.4±12.1歳60.3±15.0歳0.0028**眼圧13.9±3.0mmHg13.3±2.6mmHg0.2158**MD?10.16±8.14dB?9.80±8.86dB0.7902**緑内障点眼薬数1.7±0.8剤1.8±0.8剤0.5593**通院頻度8.6±3.6回/年7.7±3.2回/年0.1193***:c2検定,**:t検定.眼圧値を知らない14.4%眼圧値は聞いていないと思う3.8%聞いたが具体的な値は忘れた10.6%眼圧値を知っている85.6%知っている85.6%図1質問1)回答結果時々ある19.9%ほとんど指示通りに点眼できている78.4%指示通りに点眼できないことがある21.6%ほとんどない78.4%しばしばある1.7%図2質問5)回答結果1170あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011ケートにより患者から直接的に使用状況を調査する方法と,点眼モニター,血中・尿中薬剤濃度測定,薬剤使用量・残量調査,薬剤入手率調査などにより客観的に評価する方法がある.点眼モニターによる評価は信頼性が高い14~17)が,装置の大きさや費用,煩雑さなどの点があり調査対象が限定される.このため,主観的評価に留まるものの,インタビューやアンケート法が頻用されている3~7).同一施設のなかで,インタビューあるいはアンケートと点眼モニターの2種類の方法で点眼遵守率を調査した報告によると,Kassら16)はインタビュー97.1%,点眼モニター76.0%,Okekeら17)はアンケート95%,点眼モニター71%と,調査方法により結果にかなり差があることが示されている.今回,主観的評価による影響を最少化するため,調査方法やアンケート内容について事前に検討した.まず,単独施設での症例収集はデータの普遍化・標準化が達成しにくいと考え,多施設共同研究を選択した.また,調査方法は多施設研究においても調査者によるバイアスが生じない自記式アンケート法を採用した.自記式とすることで医師やスタッフの関与をできるだけ排除し,さらに,無記名式として少しでも薬剤使用状況の実態を引き出せるよう企図した.アンケートを○×の二者択一式で回答するclosedquestionで行った場合,その実態を引き出すことがむずかしく,他方,freequestionは自記式においては回答者の負担が大きく,多数例の解析を行ううえでも実行性に問題が残る.そこで,今回は短時間で少ない負担での回答が可能なように,網羅的に回答選択肢を設けた多肢選択法とし,原則的に該当する番号を○で囲んで回答する方式を採用した.これに加えて,アンケート項目の絞り込みと簡潔化にも努めた.質問内容および質問項目数は,回答率,回収率に大きく影響する10,13)からである.たとえば,病状認知は最近の眼圧を認知しているか否かに代表させ,また,点眼がされているか否かの質問もわかりやすさを重視して,今回は「指示通り」の言葉を使用した.この際,質問の言い回し(wording)にも注意した.回答者は一般に質問に対して,潜在的に「はい(Yes)」と答える傾向(yes-tendency)や,調査者の意向を推測し,無意識のうちにその方向に答えようとする傾向がある10,11).このため,「指示通りに点眼できていますか?」と質問するよりも,「指示通りに点眼できないことがありますか?」としたほうが,点眼ができていない場合でも円滑な回答が得られやすいと考えた.さらに,質問文は理解しやすいように要点に下線を引き,選択肢は分離して枠で囲みわかりやすくした.文字の大きさや用紙サイズ,余白の取り方などレイアウトにも配慮し,調査への協力が得られるよう工夫した.また,質問数も11問に絞り込んだ.アドヒアランスの良否に影響を及ぼす因子は多数あるが3~9,18~21),疾患理解度,病状認知度もその重要な要因の一つと考えられる.今回の調査では,眼圧の認知を病状把握の指標として位置づけ,これと指示通りの点眼の関連について検討した.その結果,指示通りの点眼については236例中236例から回答が得られ(回答率100%),そのうち21.6%が時々あるいはしばしば指示通りに点眼できないことがあると回答した.ここで,指示通りの点眼の有無と背景因子との関連を検討したところ,女性より男性,年齢が若いほど指示通りの点眼の実施率が低く,年齢,性別がアドヒアランスに影響する可能性が示された.このため,病状認知度と指示通りの点眼の関連については,性別,年齢層別に分けて検討を行った.なお,年齢は高齢者の公的定義22)を参考に,65歳を境とした2群に分けた.この結果,女性は眼圧の認知にかかわらず,約85%が指示通りの点眼を行っていたのに対し,男性のうち65歳未満では指示通りの点眼実施率は約60%に留まった.一方,65歳以上の男性においては,眼圧を認知している症例では指示通りの点眼の実施率が有意に高く,病状認知度が指示通りの点眼に影響を及ぼす可能性が示唆さ(110)図3眼圧の認知と指示通りの点眼質問5)「緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?」に対する回答■:ほとんどない■:時々ある■:しばしばあるa:全症例80.2%61.7%60.0%男性65歳未満眼圧値を知っている(n=202)眼圧値を知っている(n=47)眼圧値を知らない(n=5)眼圧値を知らない(n=13)眼圧値を知らない(n=2)眼圧値を知らない(n=14)87.8%*53.8%38.3%40.0%12.2%14.6%2.1%12.1%1.5%*p=0.0081(Fisherの正確検定)15.4%30.8%男性65歳以上眼圧値を知っている(n=41)83.3%100%女性65歳未満眼圧値を知っている(n=48)86.4%78.6%21.4%女性65歳以上眼圧値を知っている(n=66)18.8%眼圧値を知らない67.6%(n=34)26.5%5.9%1.0%b:性別・年齢層別解析あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111171れた.今回,眼圧の認知を病状把握の指標として位置づけたが,年齢が若いほど眼圧値を知っていると回答した症例が多く,眼圧の認知が必ずしも病状認知を反映していない可能性も考えられた.しかし,65歳以上の男性で眼圧の認知と指示通りの点眼に有意な関連が認められたことは,少なくとも高齢者においては病状認知をある程度反映しており,眼圧の認知の有無が病状把握の程度を知るうえで一つの指標となりうると考えた.一方,65歳未満の男性は眼圧を認知していても指示通りの点眼実施率が低く,点眼治療継続の妨げとなる要因についてのさらなる検討が必要と思われた.アンケート調査結果の評価・解釈においては,バイアスの影響を十分考慮しておく必要がある.回収率が低い調査や,無回答者が多い質問では,質問に対する回答者と無回答者の傾向が異なることによって発生する無回答バイアスが生じ,アンケート調査の結果が真実を反映しない可能性がある13).このため,回収率,回答率を高めるべく調査方法やアンケート内容を工夫し,今回は高い回収率,回答率を得た.しかし,同意の得られた症例をアンケート調査対象としたことで,抽出バイアスが生じた可能性があり,結果の評価にも限界があることは否定できない.次報以後に予定している他要因の解析の際にも,バイアスによる影響を留意したうえでの評価を考慮したい.一方,今回の調査の第一段階で病状認知がアドヒアランスに関連することが示唆されたことは興味深い.自覚症状に乏しい慢性疾患である緑内障治療において,アドヒアランスは治療成功の鍵を握る要因である.今回の結果は眼圧の認知をはじめとする病状認知度を高めることが,アドヒアランス向上の第一歩として重要であることを示唆したため報告した.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)阿部春樹:薬物療法─コンプライアンスを良くするには─.あたらしい眼科16:907-912,19994)平山容子,岩崎直樹,尾上晋吾ほか:アンケートによる緑内障患者の意識調査.あたらしい眼科17:857-859,20005)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,20036)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20037)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20068)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20079)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器の形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:1107-1111,201010)大谷信介,木下栄二,後藤範章ほか:社会調査へのアプローチ?論理と方法.p.89-119,ミネルヴァ書房,200511)盛山和夫:社会調査法入門.p.88-89,有斐閣,200812)鈴木淳子:調査的面接の技法.p.42-44,ナカニシヤ出版,200913)谷川琢海:第5回調査研究方法論~アンケート調査の実施方法~.日放技学誌66:1357-1361,201014)FriedmanDS,OkekeCO,JampelHDetal:Riskfactorsforpooradherencetoeyedropsinelectronicallymonitoredpatientswithglaucoma.Ophthalmology116:1097-1105,200915)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,198616)KassMA,MeltzerDW,GordonMetal:Compliancewithtopicalpilocarpinetreatment.AmJOphthalmol101:515-523,198617)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Adherencewithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.Ophthalmology116:191-199,200918)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200519)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200620)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,200721)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200922)伊藤雅治,曽我紘一,河原和夫ほか:国民衛生の動向.厚生の指標57:37-40,2010(111)***

正常眼圧緑内障患者におけるタフルプロスト点眼液の長期眼圧下降効果

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(101)1161《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1161?1165,2011cはじめに緑内障治療において眼圧下降は唯一高いエビデンスの示された視野維持効果のある治療法である1~3).近年,CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy(CNTGS)の結果から正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)においても眼圧下降療法が視野障害,視神経障害の進行抑制に有効であることが明らかになっている4,5).しかしNTGにおいてはCNTGSで有効とされた眼圧下降30%を薬物療法のみで達成することはしばしば困難である.また,最近ではプロスタグランジン関連薬(以下,PG薬)がその眼圧下降効果の強さから薬物治療の第一選択となることが一般的であるが,NTGに対するPG薬の眼圧下降効果を長期に検討した報告は少ない6~9).タフルプロストはプロスタノイドFP受容体に対して高い親和性を有することがinvitroで確認された新しいプロスタグランジンF2a誘導体である10,11).タフルプロストはNTG〔別刷請求先〕中内正志:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学附属枚方病院眼科Reprintrequests:TadashiNakauchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata,Osaka573-1191,JAPAN正常眼圧緑内障患者におけるタフルプロスト点眼液の長期眼圧下降効果中内正志*1,2岡見豊一*1山岸和矢*3*1松下記念病院眼科*2関西医科大学附属枚方病院眼科*3ひらかた山岸眼科Long-TermIntraocularPressure-LoweringEffectofTafluprostinPatientswithNormal-TensionGlaucomaTadashiNakauchi1,2),ToyokazuOkami1)andKazuyaYamagishi3)1)DepartmentofOphthalmology,MatsushitaMemorialHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,3)HirakataYamagishiEyeClinic目的:正常眼圧緑内障(NTG)患者におけるタフルプロスト点眼液の長期眼圧下降効果をプロスペクティブに検討した.対象および方法:対象は京阪緑内障研究会所属医療機関を受診した未治療のNTG患者57例57眼,平均年齢は66.7歳である.対象患者に対しタフルプロスト点眼液を1日1回,夕方から眠前に投与し試験開始後12週までは4週おきに,12週以降は12週おきに48週まで眼圧測定を実施し比較した.結果:全症例のベースライン眼圧(平均±標準偏差)は16.7±2.4mmHgであった.タフルプロスト点眼投与開始後4週以降,すべての測定点において平均眼圧は有意に下降し,48週経過時点での平均眼圧は13.0±2.4mmHgで眼圧下降率は21.9±14.0%であった.対象のうち内眼手術実施により中止となった4例を含め,中止・脱落となった症例が13眼存在した.結論:タフルプロスト点眼液はNTG患者に対し長期間にわたって安定した眼圧下降効果を示した.Weprospectivelyevaluatedthelong-termintraocularpressure(IOP)-loweringeffectoftopicaltafluprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma(NTG).Subjectscomprised57patientswithnewlydiagnosedNTG.Theyweretreatedwith0.0015%tafluprostonceadayfor48weeks;IOPreductionfrombaselinewasassessedevery4weeks,until12weeksoffollow-upvisits,andevery12weeksthereafter.Ofthe57patients,13discontinuedtreatmentordroppedoutofthestudyhalfway.ThebaselineIOPwas16.7±2.4mmHg(mean±SD).ThemeanIOPatthe48thweekoffollow-upwas13.0±2.4mmHg,andtherelativeIOPreductionwas21.9±14.0%(mean±SD).SignificantdifferenceswereobservedinmeanIOPonallfollow-upvisits(p<0.01).TafluprostsignificantlyreducedIOPinNTGpatientsthroughoutlong-termfollow-up.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1161?1165,2011〕Keywords:眼圧,正常眼圧緑内障,プロスタグランジンF2a,タフルプロスト.intraocularpressure,normaltensionglaucoma,prostglandinF2a,tafluprost.1162あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(102)患者を対象とした第III相臨床試験において短期的には有意な眼圧下降を示すことが報告されている12).しかし,これまでタフルプロストのNTG患者に対する長期の眼圧下降効果の検討は十分に行われていない.今回筆者らはタフルプロスト点眼液のNTGに対する長期の眼圧下降効果を多施設共同研究によりプロスペクティブに検討した.I対象および方法1.試験実施機関本試験は京阪緑内障研究会に所属する12の医療機関において,各機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).なお,本研究は実施に先立ち,ヘルシンキ宣言の趣旨に基づき松下記念病院倫理審査委員会の承認を得て実施された(2009年2月13日承認取得,承認番号080211).2.対象対象は,新規にNTGと診断された未治療のNTG患者である.NTGの診断は日本緑内障学会による緑内障診療ガイドライン第2版に基づき無治療時の眼圧が21mmHg以下のものとした.症例の選択は,文書による同意を得ることができた20歳以上のものとし,評価眼の矯正視力が少数視力で0.5以上,両眼が選択基準を満たす患者は原則として視野の悪いほうの眼を対象眼とした.今回の研究ではHumphrey視野計(中心30-2SITASTANDARD,または30-2SITAFAST)の平均偏差が?12dB未満の高度の視野障害を有するものや,レーザー線維柱帯形成術を含む緑内障手術の既往を有するもの,Goldmann圧平眼圧計による正確な眼圧測定をはじめ,本研究を実施するうえで障害となりうる眼疾患を有する症例は除外した(表2).3.方法タフルプロスト点眼液を1日1回原則夕方から眠前に点眼し,試験開始時,4週目,8週目,12週目にGoldmann圧平眼圧計を用いて眼圧を測定した.12週以降は原則12週おきに眼圧測定を実施した.試験開始時のベースライン眼圧は可能な限り2日以上に分けて3回測定しその平均値とした.眼圧下降率は(投与前後の眼圧の変化量/投与前眼圧)×100(%)として算出し,投与後の眼圧下降はベースライン眼圧を基準としてpairedt-testにて検討した.対象患者はさらにベースライン眼圧が16mmHg以上の眼圧高値群と16mmHg未満の眼圧低値群に分けて眼圧下降,眼圧下降率の推移を検討した.副次評価項目として点状表層角膜炎(superficialpunctatekeratitis:SPK)のArea-Density分類(以下,AD分類)によるスコア13),球結膜充血,睫毛の伸び,多毛について観察し,安全性の評価を実施した.すべての有害事象発生頻度は0?48週の他覚所見データが揃っている症例を解析対象とした.SPKの悪化はA+Dのスコアが2以上悪化した場合をSPK悪化と判断した.球結膜充血は「なし」「軽度」「中等度」「高度」の4段階で評価し,「軽度」は数本の球結膜血管の拡張,「中等度」は多数の血管拡張,「高度」は球結膜全体の血管拡張と定義し,「なし」以外の症例を充血発現例とした.睫毛の伸びは試験開始前,各来院ごとに上睫毛,下睫毛の長さを中央の睫毛が一番長い部位で同一のメジャーを用いて測定し,上下どちらかの長さが2mm以上伸長した場合を睫毛伸長と判断した.多毛の程度は各担当医師が「なし」「少々」「明らかに」で判断し,「なし」以外の症例を多毛と判断した.II結果1.患者背景対象は前述の要件を満たした57例57眼である.平均年表2症例の主たる選択基準・除外基準選択基準①NTG(無治療時眼圧21mmHg以下)と診断され新規にNTGの診断を受けたもの②同意:試験内容について説明文書を用いて十分に説明した上で,文書で本人より同意を得ることができた20歳以上のもの③矯正視力:評価眼の矯正視力が0.5以上のもの④対象眼:両眼が選択基準を満たした場合,原則として視野の悪いほうの眼を対象眼とする.視野が同等である場合は右眼を対象眼とする.除外基準①高度の視野障害(Humphery視野計(中心30-2SITASTANDARD,または30-2SITA-FAST)の平均偏差が?12dB未満)を有するもの②レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術の既往を有するもの(合併症を伴わず行われた白内障手術を受けたものは術後6カ月以上経過していれば除外しない)③圧平眼圧計による正確な眼圧測定を妨げる可能性のある何らかの角膜の異常またはその他の疾患を有するもの(角膜屈折矯正手術歴・角膜白斑・角膜炎症・角膜変性症・円錐角膜など)④活動性の外眼部疾患,眼・眼瞼の炎症,感染症を有するもの,無水晶体眼,内眼炎(虹彩炎・ぶどう膜炎)のあるもの表1京阪緑内障研究会参加施設施設責任医師松下記念病院岡見豊一・中内正志ひらかた山岸眼科山岸和矢中島眼科クリニック中島正之森下眼科森下清文出口眼科医院出口順子保倉眼科保倉透竹内眼科医院竹内正光西川眼科医院西川睦彦板垣眼科医院板垣隆弓削眼科診療所弓削堅志上原眼科上原雅美木股眼科医院伊東良江(103)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111163齢は66.7±12.1歳,男性21眼,女性36眼であった.これらの対象患者をさらに試験開始時のベースライン眼圧が16mmHg以上の眼圧高値群と16mmHg未満の眼圧低値群に分けた.眼圧高値群は36眼で,そのうち男性は15眼,女性は21眼,平均年齢は65.4±13.0歳であった.眼圧低値群は21眼で,そのうち男性は6眼,女性は15眼,平均年齢は68.8±10.3歳であった.試験開始後に中止,脱落となった症例が13眼存在した(表3).試験開始後の手術実施により中止となった4症例の内訳は,白内障単独手術が1眼,白内障・緑内障同時手術が3眼で,手術の理由はいずれも白内障の進行であった.2.結果経過観察期間は4?48週,平均観察期間は42.1週であった.症例全体の試験開始時のベースライン眼圧は16.7±2.4mmHg(平均±標準偏差)であった.投与開始後4週以降,すべての時点において投与前に比べて眼圧は有意に下降し48週の平均眼圧は13.0±2.0mmHg,眼圧下降幅は3.8mmHgで,平均眼圧下降率は21.9%であった(p<0.01)(図1).眼圧下降率が30%以上でhigh-responderと思われる症例は12週目では25.5%で,48週目においても29.5%と良好な眼圧下降効果が維持された.しかし,48週目における眼圧下降率を12週目と比較してみると,20%以上の眼圧下降を達成した症例は12週目では72.3%であったが,48週目では47.9%にとどまった.眼圧下降率が10%未満のいわゆるnon-responderと考えられる症例は12.8%から18.2%と若干の増加傾向を認めた(図2).つぎに眼圧下降効果をベースライン眼圧の高値群と低値群に分けて比較検討した.眼圧高値群のベースライン眼圧は18.2±1.2mmHgであった.投与開始後4週目以降48週目に至るまでのすべての時点において眼圧は有意に下降し48週目時点での平均眼圧は13.6±2.3mmHg,眼圧下降幅は4.5mmHgで眼圧下降率は24.8%であった(p<0.01).眼圧低値群ではベースライン眼圧は14.1±1.3mmHgであった.投与開始後4週目以降,高値群同様にすべての時点において眼圧は有意に下降し48週目時点での平均眼圧は11.7±2.2mmHgで眼圧下降幅は2.3mmHg,眼圧下降率は16.3%であった(p<0.01)(図3).ベースライン眼圧の分布ごとにnon-responderの占める割合を検討したところ,ベースライン眼圧18mmHg以上の表3中止・脱落症例の内訳中止:6眼手術実施4眼点眼直後のしみる感じ,充血1眼他PGに変更1眼脱落:7眼来院せず7眼20181614121080週(n=57)4週(n=56)8週(n=47)12週(n=47)24週(n=53)36週(n=48)48週(n=44)眼圧(mmHg)******図1全症例におけるタフルプロスト点眼開始後の眼圧変化*:p<0.05(pairedt-test).46.818.214.934.112.818.225.529.502040眼圧下降率(%)6080100■30%以上■20%以上30%未満■10%以上20%未満■10%未満12週目48週目図2投与開始後12週目,48週目における眼圧下降率高値群低値群:高値群:低値群n=36n=21n=31n=16n=32n=15n=35n=17n=33n=15n=29n=15n=35n=210週4週8週12週24週36週48週************眼圧(mmHg)2018161412108図3眼圧高値群と眼圧低値群での眼圧変化の比較*:p<0.05(pairedt-test).□:48週時点で眼圧下降率10%未満であった症例108642010~11~12~13~14~15~16~17~18~19~20~ベースライン眼圧(mmHg)例数図4各ベースライン眼圧に占めるnon?responderの分布1164あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(104)症例ではnon-responderは存在しなかった(図4).しかし眼圧低値群,眼圧高値群でnon-responderの占める割合に有意差は認めなかった.3.安全性有害事象の発生頻度を12週,48週で比較検討した結果を表4に示す.長期投与によって生じた新たな有害事象は認めず,すべての有害事象は他のPG製剤ですでに報告されたものであった.長期投与により充血の頻度は明らかに減少し,48週で充血ありと判定された7眼は全例「軽度」の充血であった.III考按タフルプロストはラタノプロスト,トラボプラストについでわが国で発売されたプロスタグランジンF2a誘導体に属する眼圧下降薬であり,国産初のプロスト系薬剤である.その眼圧降下作用は他のPG薬同様プロスタノイドFP受容体に結合することで発揮されると考えられている.化学構造上15位の水酸基をフッ素で置換させてあるのが特徴で,invitroでは他のPG薬と比較してプロスタノイドFP受容体に高い親和性を有することが確認されている10,11).原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした第III相検証的試験においてタフルプロストはラタノプロストと同等以上の眼圧下降を示したと報告されており12),狭義の原発開放隅角緑内障においては従来のPG薬同様の眼圧下降が期待できる薬剤である.一方,NTG患者のみを対象とした第III相臨床試験においてもタフルプロストはプラセボ群に比較し,投与開始後4週まで有意な眼圧下降効果を示したと報告されている14).しかし本薬剤の長期における眼圧下降効果,特にNTG患者における眼圧下降効果を論じた報告は筆者らの知る限りでは存在しない.本試験は眼圧が16mmHg未満の症例も含めた全眼圧領域のNTG患者を対象としており,日本人における主要な緑内障病型であるNTGに対するタフルプロストの治療効果を検討した点でも意義がある研究と考えられる.従来NTGに対する緑内障治療薬単剤点眼での眼圧下降は眼圧下降幅1.7~3.6mmHg,眼圧下降率は11~24%程度と報告されており,その眼圧下降効果は概して狭義の原発開放隅角緑内障に比較して劣るとする報告が多い7,9,15~19).現在治療の第一選択となることが多いPG薬においても,従来から使用されてきたラタノプロストを筆頭にトラボプロスト,ラタノプロストより若干眼圧降下作用が強いとされるビマトプロストにおいてもCNTGSで有効とされた30%を超える眼圧下降率を単剤で達成できる症例は全体の10%程度であると報告されている20).比較的長期の経過観察を行ったPG製剤単剤のNTGにおける眼圧下降効果の報告を表5に示す6~9).本報告において,タフルプロストはすべての眼圧領域のNTGにおいて他のPG製剤と同等の眼圧下降率を長期に維持することが示された.今回のタフルプロストにおいての検討では投与開始12週目でほぼ全体の1/4症例において30%以上の眼圧下降を達成し,その割合は長期経過観察後も維持される傾向を認めた.12週と比較し48週目では眼圧下降達成率が20~30%の症例の割合が減少したため全体として20%以上の眼圧下降を達成した症例の数は減少傾向にあったものの,眼圧下降率が10%未満にとどまったnon-responderと考えられる症例は長期経過においても全体の20%未満であった.一般に既存のPG関連薬を含めすべての緑内障治療薬には一定の割合でnon-responderが存在することが知られている.過去の報告ではPG関連薬に対するnon-responderの割合はラタノプロストで20%程度とするものが多い22~24).特に緑内障病型に占めるNTGの比率が高い日本人では欧米人に比しnon-responderの比率が高いといわれている24).今回の検討では,タフルプロストは少なくとも既報の他のPG製剤と同等以下のnon-responder率を長期にわたって維持したことが示された.経過中に一時的な充血の出現や睫毛の伸長,眼瞼周囲の産表5プロスタグランジン製剤のNTGに対する眼圧下降効果薬剤ベースライン眼圧(mmHg)点眼期間眼圧下降率(%)本報告タフルプロスト(全体)16.748週間21.9タフルプロスト(眼圧高値群)18.248週間24.8タフルプロスト(眼圧低値群)14.148週間16.3既報ラタノプロスト6)15.03年14.0ラタノプロスト7)13.924カ月15.1トラボプロスト8)15.012カ月18.3トラボプロスト9)14.7912カ月18.3表4有害事象発生頻度12週目48週目SPK悪化15.9%(7/44)14.7%(5/34)充血26.1%(12/46)15.9%(7/44)睫毛伸長13.6%(6/44)16.7%(4/24)多毛32.6%(15/46)20.5%(9/44)(105)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111165毛の増加などの副作用を認めた患者が存在したが,これらはいずれも従来からPG関連薬に共通の副作用として知られているものである.また投与開始後みられることの多い結膜充血は長期間の経過観察後むしろ減少傾向にあることが示された.今回の結果からタフルプロストは安全性の面でも従来から存在するPG関連薬同様に安全に使用できる薬剤と考えられる.今回の結果では,タフルプロストは投与開始後48週の長期にわたってすべての眼圧領域のNTG患者において有意な眼圧下降を示した.本試験は眼圧の評価を主体としたものであり,本剤が真にNTG患者の治療に有効な薬剤であることを示すためには今後視野の維持効果など緑内障の進行阻止に有効であるかについての検討が必要であると思われるが,タフルプロストは今後NTG治療における第一選択薬となりうるものと思われる.文献1)MaoL,StewartW,ShieldsM:Correlationbetweenintraocularpressurecontrolandprogressiveglaucomatousdamageinprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol111:51-55,19912)HeijlA,LeskeM,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20023)TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.TheAGISInvestigators.AmJOphthalmol130:429-440,20004)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19986)石田俊郎,山田祐司,片山壽夫ほか:正常眼圧緑内障に対する単独点眼治療効果視野維持効果に対する長期単独投与の比較.眼科47:1107-1112,20057)TomitaG,AraieM,KitazawaYetal:Athree-yearprospective,randomizedandopencomparisonbetweenlatanoprostandtimololinJapanesenormal-tensionglaucomapatients.Eye18:984-989,20048)AngGS,KerseyJP,ShepstoneLetal:Theeffectoftravoprostondaytimeintraocularpressureinnormaltensionglaucoma:arandomisedcontrolledtrial.BrJOphthalmol92:1129-1133,20089)SuhMH,ParkKH,KimDM:Effectoftravoprostonintraocularpressureduring12monthsoftreatmentfornormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol53:1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正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)1043《原著》あたらしい眼科28(7):1043?1046,2011cはじめに2000年?2001年にかけて岐阜県多治見市で行われた緑内障疫学調査(多治見スタディ)では,日本においては正常眼圧緑内障の頻度が高いことが判明した1).現在緑内障治療として唯一エビデンスが得られているのが眼圧下降で,正常眼圧緑内障に対しても有用性が示されている2).眼圧下降のために通常は緑内障点眼薬による治療が第一選択であり,近年は眼圧下降作用の強力なプロスタグランジン関連薬が緑内障点眼薬の主流となっている.2008年12月に新たなプロスタグランジン関連点眼薬0.0015%タフルプロスト点眼薬(タプロスR)が発売された.原発開放隅角緑内障や高眼圧症に対してタフルプロスト点眼薬の良好な眼圧下降効果が報告されている3?6).しかし,日本人に多い正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼薬の眼圧下降効果については十分な調査が行われていない7,8).今回,この新しいタフルプロスト点眼薬の正常眼圧緑内障に対する眼圧下降効果と安全性を検討した.〔別刷請求先〕岡田二葉:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:FutabaOkada,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性岡田二葉*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEffectsandSafetyofTafluprostinNormal-TensionGlaucomaFutabaOkada1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性を調べた.対象および方法:2009年1月?11月に井上眼科病院を受診した正常眼圧緑内障患者44例44眼を対象とした.タフルプロスト点眼薬(夜1回点眼)を処方し,点眼前,点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧を測定し比較した.さらに点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧下降幅,眼圧下降率を算出し比較した.また,副作用を来院ごとに調査した.結果:眼圧は点眼前15.9±2.2mmHg,点眼1カ月後13.5±2.0mmHg,3カ月後13.2±1.6mmHg,6カ月後13.3±1.5mmHgで,点眼後有意に下降した(p<0.01).眼圧下降幅,眼圧下降率は点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後で同等であった.充血・乾燥感で1例,掻痒感で1例が点眼中止となった.結論:タフルプロスト点眼薬は正常眼圧緑内障に対して6カ月間にわたり眼圧を有意に下降させ,95%の症例で安全に使用できた.Purpose:Toinvestigatetheocularhypotensiveeffectsandsafetyoftafluprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.Methods:Tafluprostwasadministeredto44patientswithnormal-tensionglaucoma.Intraocularpressure(IOP),differenceinIOPreduction,IOPreductionrateandadversereactionswereprospectivelycheckedandcomparedmonthlyfor6months.Results:TheaverageIOPwas15.9±2.2mmHgbeforeadministration,13.5±2.0mmHgat1monthofuse,13.2±1.6mmHgat3monthsand13.3±1.5mmHgat6months.TheseresultsshowedsignificantlydecreasedIOPat1,3and6monthsaftertherapy.Twopatients(5%)discontinuedtreatmentbecauseofadverseevents;oneshowedconjunctivalhyperemiaandfeltdryness,andonefeltslightitching.Conclusion:Inpatientswithnormal-tensionglaucoma,tafluprostexhibitsstrongocularhypotensiveeffectsandsafetyfor6months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1043?1046,2011〕Keywords:タフルプロスト,正常眼圧緑内障,眼圧,副作用.tafluprost,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,adversereaction.1044あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(140)I対象および方法2009年1月?11月に井上眼科病院を受診し,タフルプロスト点眼薬を処方し,6カ月間以上の経過観察が可能であった正常眼圧緑内障患者44例44眼(男性24例,女性20例)を対象とした.年齢は56.7±11.6歳(平均±標準偏差)(32?81歳),等価球面度数は?4.8±4.7D(?19.0?+1.25D),Humphrey視野プログラム中心30-2SITA-Standardのmeandeviation値は?6.7±6.0dB(?20.4?1.6dB)であった.タフルプロスト点眼薬(1日1回夜点眼)を単剤で処方し,点眼前,点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後に眼圧を同一検者がGoldmann圧平眼圧計で症例ごとにほぼ同時刻に測定し,比較した〔ANOVA(analysisofvariance;分散分析法)解析〕.点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧下降幅と眼圧下降率を算出し,比較した(対応のあるt検定).片眼のみ点眼例はその片眼を,両眼点眼例は点眼前の眼圧が高い眼を選択した.来院時ごとに副作用を調査した.副作用出現により点眼中止となった症例は眼圧の解析からは除外した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を得て,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.II結果眼圧は点眼前15.9±2.2mmHg(n=42),点眼1カ月後13.5±2.0mmHg(n=42),3カ月後13.2±1.6mmHg(n=42),6カ月後13.3±1.5mmHg(n=42)であった(図1).点眼前と比較して点眼6カ月後まで有意に下降した(p<0.01).眼圧下降幅は点眼1カ月後2.4±1.6mmHg,3カ月後2.6±1.9mmHg,6カ月後2.6±2.9mmHgで同等であった(図2).眼圧下降率は点眼1カ月後14.8±9.3%,3カ月後15.7±11.1%,6カ月後13.3±10.6%で同等であった(図3).さらに点眼6カ月後における眼圧下降率が30%以上の症例は4例(9.0%),20%以上30%未満の症例は6例(13.6%)であった.逆に,点眼開始後に眼圧下降率が10%未満であったノンレスポンダーは1カ月後13例(29.5%),3カ月後9例(20.5%),6カ月後13例(29.5%)であった.副作用により2例(4.5%)が点眼1カ月後に点眼中止となった.その内訳は,充血・乾燥感が1例,掻痒感が1例であった.点眼中止後にこれらの症状は消失した.この2例は眼圧の解析からは除外した.III考按筆者らはタフルプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,ラタノプロスト点眼薬を原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者に投与した際の眼圧下降効果をレトロスペクティブに調査した3).タフルプロスト点眼薬の点眼1カ月後,3カ月後の眼圧下降幅および眼圧下降率はそれぞれ4.2±3.1mmHg,4.3±2.5mmHgと21.4±10.2%,22.8±9.9%で,トラボプロスト点眼薬,ラタノプロスト点眼薬と同等であった.Traversoらは原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,高眼圧症にタフルプロスト点眼薬を6週間投与したところ,点眼前眼圧24.79?26.66mmHgに対して眼圧下降幅は7.53?9.69mmHg,眼圧下降率は29.2?35.9%であったと報告した4).Hommerらは原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,高眼圧症などにタフルプロスト点眼薬を12週間投与したところ,点眼前眼圧22.1±4.0mmHgに対して12週間後は15.0±2.9mmHgで,平均眼圧下降率は32.1%であったと報告した5).Uusitaloらは原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,色素緑内障,高眼圧症にタフルプロスト点眼薬を24カ月間投与したところ,眼圧下降幅は7.1mmHg,眼圧下降率は29.1%であ20181614121086420点眼前点眼1カ月後点眼3カ月後点眼6カ月後眼圧(mmHg)***図1点眼前後の眼圧(*p<0.01,ANOVA)6543210点眼1カ月後点眼3カ月後点眼6カ月後眼圧下降幅(mmHg)図2眼圧下降幅302520151050点眼1カ月後点眼3カ月後点眼6カ月後眼圧下降率(%)図3眼圧下降率(141)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111045ったと報告した6).これらの報告3?6)の眼圧下降幅および眼圧下降率は今回より強力であったが,その理由として今回は正常眼圧緑内障が対象で点眼前眼圧が低かったためと考えられる.一方,Mochizukiらは点眼前眼圧11.8±2.2mmHgの健常人にタフルプロスト点眼薬を7日間投与したところ,眼圧下降幅は1.9mmHg,眼圧下降率は16.3%であったと報告した9).タフルプロスト点眼薬の国内での第III相臨床試験では,正常眼圧緑内障に4週間投与したところ,眼圧下降幅は4.0±1.7mmHg,眼圧下降率は22.4±9.9%であった7).今回より眼圧下降幅および眼圧下降率が強力であったが,その理由として点眼前眼圧が16mmHg以上の症例が対象で,点眼前眼圧(17.7±1.3mmHg)が今回(15.9±2.2mmHg)より高かったためと考えられる.宮川らは正常眼圧緑内障にタフルプロスト点眼薬を12週間投与したところ,点眼前眼圧15.2±1.8mmHgから2.7±1.7mmHg下降し,眼圧下降率は18.6%であったと報告した8).正常眼圧緑内障に対して眼圧下降率20%以上の症例の割合は50.0%8),62.5%7),30%以上の症例は6.7%8),25.0%7)と報告されており,今回のそれぞれ22.6%と9.0%はやや不良だったが,その原因は不明である.他のプロスタグランジン関連薬の正常眼圧緑内障に対する眼圧下降率はラタノプロスト点眼薬は10.6%10),20%11),ビマトプロスト点眼薬は19.9%12),トラボプロスト点眼薬は15.5?18.4%13),25.1%14)と報告されている.今回のタフルプロスト点眼薬(13.3?15.7%)とラタノプロスト点眼薬10,11)とはほぼ同等だが,ビマトプロスト点眼薬12),トラボプロスト点眼薬13,14)のほうが強力であった.その理由として点眼薬の眼圧下降力の差,点眼前眼圧の差,人種の違い,盲検化されていないこと,対照群がないこと,コンプライアンスが評価できなかったことなどが考えられる.点眼薬に眼圧下降を得られないノンレスポンダーが存在する.正常眼圧緑内障患者を対象としたラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーの頻度は約30%であり16,17),今回のタフルプロスト点眼薬のノンレスポンダーの頻度(20.5?29.5%)とほぼ同等であった.今回,副作用により点眼を中止した症例は4.5%(2例/44例)で,いずれも点眼中止により症状は消失し,後遺症もなかった.国内の第III相臨床試験における副作用による点眼中止例は充血・眼瞼炎による1例/49例(2%)のみで,この1例は点眼を中止し,副腎皮質ステロイド薬を投与したところ症状が消失した7).副作用により点眼中止となった症例は,ラタノプロスト点眼薬では0%12),12.4%15),ビマトプロスト点眼薬では15%12),25%15),トラボプロスト点眼薬では6.1%13),11.1%14),16.3%15)と報告されている.過去の報告12?15)と比較するとタフルプロスト点眼薬は他のプロスタグランジン関連薬と比べて同等,あるいはそれ以上の安全性を有する可能性がある.タフルプロスト点眼薬は正常眼圧緑内障患者に対して,6カ月間にわたり強力な眼圧下降効果を示し,安全性もほぼ良好であった.しかし今回の調査は6カ月間投与という短期間であり,今後はさらに長期的な調査が必要と考える.文献1)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,20082)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19983)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科27:383-386,20104)TraversoCE,RopoA,PapadiaMetal:AphaseIIstudyonthedurationandstabilityoftheintraocularpressureloweringeffectandtolerabilityoftafluprostcomparedwithlatanoprost.JOculPharmacolTher26:97-104,20105)HommerA,RamezOM,BurchertMetal:IOP-loweringefficacyandtolerabilityofpreservative-freetafluprost0.0015%amongpatientswithocularhypertensionorglaucoma.CurrMedResOpin26:1905-1913,20106)UusitaloH,PillunatLE,RopoAetal:Efficacyandsafetyoftafluprost0.0015%versuslatanoprost0.005%eyedropsinopen-angleglaucomaandocularhypertension:24-monthresultsofarandomized,double-maskedphaseIIIstudy.ActaOphthalmol88:12-19,20107)桑山泰明,米虫節夫;タフルプロスト共同試験グループ:正常眼圧緑内障を対象とした0.0015%タフルプロストの眼圧下降効果に関するプラセボを対照とした多施設共同無作為化二重盲検第III相臨床試験.日眼会誌114:436-443,20108)宮川靖博,山崎仁志,中澤満:タフルプロスト片眼トライアルによる短期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:967-969,20109)MochizukiH,ItakuraH,YokoyamaTetal:Twentyfour-hourocularhypotensiveeffectsof0.0015%tafluprostand0.005%latanoprostinhealthysubjects.JpnJOphthalmol54:286-290,201010)中元兼二,南野麻美,紀平弥生ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト点眼前後の眼圧および視神経乳頭の変化.あたらしい眼科18:1417-1419,200111)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,200912)DirksMS,NoeckerRJ,EarlMetal:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AdvTher23:385-394,200613)長島佐知子,井上賢治,塩川美奈子ほか:正常眼圧緑内障1046あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(142)におけるトラボプロスト点眼薬の効果.臨眼64:911-914,201014)SuhMH,ParkKH,KimDM:Effectoftravoprostonintraocularpressureduring12monthsoftreatmentfornormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol53:18-23,200915)RahmanMQ,MontgomeryDMI,LazaridouMN:SurveillanceofglaucomamedicaltherapyinaGlasgowteachinghospital:26years’experience.BrJOphthalmol93:1572-1575,200916)中元兼二,安田典子:正常眼圧緑内障のラタノプロスト・ノンレスポンダーにおけるカルテオロールの変更治療薬および併用治療薬としての有用性.臨眼64:61-65,201017)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,2004***