《原著》あたらしい眼科29(3):415.418,2012cラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果南野桂三*1安藤彰*1松岡雅人*1松山加耶子*1畔満喜*1武田信彦*1高木智恵子*1,2桑原敦子*1西村哲哉*1*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2コープおおさか病院眼科ChangesinIntraocularPressureafterSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinPatientswithGlaucomaandOcularHypertensionKeizoMinamino1),AkiraAndo1),MasatoMatsuoka1),KayakoMatsuyama1),MakiKuro1),NobuhikoTakeda1),ChiekoTakagi1,2),AtsukoKuwahara1)andTetsuyaNishimura1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,CoopOsakaHospital目的:ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果を,切り替え前の眼圧値を15mmHg以上の群(A群)と15mmHg未満の群(B群)の2つに分け比較検討した.対象および方法:ラタノプロストを3カ月以上単独投与されている高眼圧症,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障症例71例115眼を対象とした.眼圧下降効果は,切り替え前3回の平均眼圧値と切り替え後1,3,6カ月の眼圧値を比較した.結果:切り替え前の全体の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え後の平均眼圧は1カ月,3カ月,6カ月では,14.2±3.1mmHg,13.9±3.7mmHg,14.0±1.5mmHgであった.切り替え後の眼圧下降率は,A群では,切り替え後1カ月,3カ月,6カ月の眼圧下降率は10.5%,8.3%,11.9%であった.B群では0.4%,6.9%,5.9%であった.A群ではすべての時期で切り替え後に眼圧は有意に低かった(pairedt-testp<0.001).2mmHg以上の眼圧下降を有効とした場合,A群の有効率は,1カ月,3カ月,6カ月では45.7%,47.2%,56.3%であった.B群の有効率は,6.8%,26.9%,28.6%であった.結論:ラタノプロスト単剤で15mmHg以上の症例ではトラボプロストへの切り替えは有用である.Purpose:Toassesstheefficacyofswitchingfromlatanoprosttotravoprostinpatientswithocularhypertension,normal-tensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Caseandmethod:Thisstudyinvolved115eyesof71patientswhohadhadstableintraocularpressure(IOP)forover3monthswithlatanoprostmonotherapy,andwerethenswitchedtotravoprost.WeinvestigatedtheeffectonIOPandcorneaat1,3and6monthsaftertheswitch.Results:MeanIOPbeforeswitching(15.1±3.2mmHg)wassignificantlyreducedto14.0±1.5mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001).InpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(17.7±2.0mmHg)wassignificantlyreducedto15.7±2.1mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001);themeanIOPreductionrateswere10.5%,8.3%and11.9%,andthemeaneffectiverateswere45.7%,47.2%and56.3%at1,3and6monthsafterswitching.InpatientswithIOP<15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(12.6±1.8mmHg)wassignificantlyreducedto12.0±0.7mmHgat6monthsafterswitching(p<0.05);themeanIOPreductionrateswere0.4%,6.9%and5.9%,andthemeaneffectiverateswere6.8%,26.9%and28.6%at1,3and6monthsafterswitching.Keratoepithelialdisorderdecreasedaftertheswitch.Nopatientsshowedseverecomplications.Conclusion:SwitchingfromlatanoprosttotravoprostmaybeeffectiveinpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,orwithcornealdisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):415.418,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,眼圧,切り替え.glaucoma,latanoprost,travoprost,intraocularpressure,switching.〔別刷請求先〕南野桂三:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:KeizoMinamino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)415はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬はPGF2aを基本骨格としたPG誘導体で,その基本骨格を修飾したプロスト系薬剤と,代謝型のプロストン系に大別される.プロスト系PG関連薬は眼圧下降効果が強いことや眼圧変動幅抑制効果をもつこと,また全身的な副作用がないことや1日1回点眼であることから緑内障および高眼圧症の治療の第一選択薬となっている.わが国では現在ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストが臨床使用され,眼圧下降効果や副作用などによって使い分けや切り替えが試みられているがまだ一定した見解はない.海外の報告ではラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストはメタアナリシス解析でも約25.30%の眼圧下降効果を有すること1),ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは眼圧は下降もしくは同等と報告されている2.4).しかし,海外のトラボプロストとわが国ではトラボプロストは防腐剤の違い,すなわち海外では塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC),わが国ではBAC非含有となっているので,海外での眼圧下降効果の結果はBACによって修飾されている可能性がある.さらに緑内障患者の平均眼圧が低いわが国においては海外における臨床研究の結果がそのまま当てはまらないことも考えられるため,切り替え前の眼圧値を考慮して検討することは有用であると思われる.そこで本研究ではラタノプロストからBAC非含有製剤であるトラボプロストへ切り替えて眼圧を測定し,切り替え前眼圧が高い症例と低い症例で違いがあるかどうかを検討した.I対象および方法1.対象参加2施設(関西医科大学付属滝井病院,コープおおさか病院)に平成20年10月1日から平成21年4月30日にかけて初診あるいは通院中の緑内障(開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障)または高眼圧症の症例で,3カ月以上ラタノプロストが単独投与されている71例115眼を対象にした.男性29例46眼,女性42例69眼,平均年齢65.3歳(29.89歳)病型別では,高眼圧症9眼,原発開放隅角緑内障52眼,正(,)常眼圧緑内障54眼であった.本研究は前向き研究であり,共同設置の倫理委員会において承認されたプロトコールに同意が得られた症例をエントリーした.続発緑内障,閉塞隅角緑内障,切り替え前6カ月内に眼外傷や手術既往のあるものは除外症例とした.2.方法眼圧の測定にはGoldmann圧平眼圧計を用いた.ラタノプロストからトラボプロストに切り替え前に3回眼圧測定し,washout期間を設けずにラタノプロストからトラボプロストに切り替え,1カ月後,3カ月後,6カ月後に各1回416あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012眼圧測定した.切り替え前3回の平均値が15mmHg以上をA群,15mmHg未満をB群とし,切り替え前の眼圧値によって眼圧下降効果の違いがあるかをpaired-ttestで統計学的に検討した.切り替え前後の受診はできうる限り,同一時間帯とした.角膜病変は,フルオレセイン染色後,コバルトブルーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察した.角膜病変は点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)をArea-Density(AD)分類5)を用いて評価し,pairedt-testで統計学的に検討した.II結果全症例の115眼の切り替え前の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え1カ月後(90眼)では14.2±3.1mmHg,切り替え3カ月後(105眼)では13.9±3.7mmHg,切り替え6カ月後(90眼)では14.0±1.5mmHgであった.A群の59眼の切り替え前の平均眼圧は17.7±2.0mmHg,切り替え1カ月後(46眼)では15.8±2.8mmHg,切り替え3カ月後(53眼)では16.2±3.1mmHg,切り替え6カ月後(48眼)では15.7±2.1mmHgであった.切り替え後のどの時点においても,切り替え前後の眼圧値を比較して統計学的に有意差がみられた.B群の56眼の切り替え前の平均眼圧は12.6±1.8mmHg,切り替え1カ月後(44眼)では12.6±2.5mmHg,切り替え3カ月後(52眼)では11.6±2.7mmHg,切り替え6カ月後(42眼)では12.0±0.7mmHgであった.切り替え1カ月後の眼圧値は,切り替え前の眼圧値と有意差はなかったが,3カ月後と6カ月後では統計学的に有意差がみられた(図1).投与前眼圧からの眼圧下降率は,全症例では1カ月,3カ月,6カ月で6.4%,7.8%,9.6%であった.A群では10.5%,8.3%,11.9%,B群では0.4%,6.9%,5.9%であった(図2).切り替え後の眼圧値が切り替え前の眼圧値より2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化とし眼圧(mmHg)2018***********:全体(n=115)16:A群(n=59)14:B群(n=56)12():眼数108切り替え前1カ月3カ月6カ月図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後の眼圧*p<0.001,**p<0.01,***p<0.05pairedt-test.(128)10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%1カ月全体3カ月(n=115)6カ月■:全体26.766.66.7():眼数0102030405060708090100(%)6.828.626.956.347.245.743.337.181.854.763.539.545.352.146.754.32.210.08.616.79.611.44.27.5眼圧下降率(%)1カ月(n=115)(n=59):有効A群■:A群3カ月■:不変(n=59)■:悪化6カ月:B群1カ月(n=56)B群3カ月():眼数(n=56)6カ月図3ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後1カ月3カ月6カ月の有効率と悪化率図2ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化,の眼圧下降率2mmHg未満の変化は不変とした.3後のトラフ時刻でトラボプロストのほうがラタノプロストよ2.5切り替え前(n=66)*り眼圧下降効果が大きいとする報告8)があり,本研究の対象2*p<0.01症例の多くが午後に受診しているためトラフ時刻に近い時刻1.5トータルスコアpairedt-testで測定したことや,臨床研究に参加することでアドヒアラン1():眼数スが改善したことなども影響する可能性があり,これらの因0.5子が複合したと推察される.0-0.5図4ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後のAD分類のトータルスコアた場合の有効率と悪化率を検討した.有効率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では26.7%,37.1%,43.3%,A群では45.7%,47.2%,56.3%,B群では6.8%,26.9%,28.6%であった.悪化率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では6.7%,8.6%,10.0%,A群では2.2%,7.5%,4.2%,B群では11.4%,9.6%,16.7%であった(図3).角膜病変は,切り替え前のSPKありが69%であったが,切り替え後(最終観察時)では48%であった.AD分類のトータルスコアによる検討では,切り替え前が1.62であったが,切り替え後では1.06と減少し,統計学的に有意差がみられた(図4).なお,全症例の経過観察中に充血や角膜病変によるトラボプロスト中止,または点眼変更例はなかった.III考察今回の筆者らの結果では,対象症例全体の平均眼圧値はラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に有意に下降し,最終眼圧下降率は9.6%で有効率は43.3%であった.これはトラボプロストがラタノプロストよりFP受容体の親和性が高いこと6)やFP受容体のアゴニスト活性が高いこと7)などが主な原因として考えられる.さらに点眼24時間(129)わが国におけるラタノプロスト単独投与からトラボプロストへの切り替え後の眼圧下降効果についてはすでに幾つかの報告がある9.12).大谷ら10),佐藤ら11),徳川ら12)の報告ではそれぞれ0.7mmHg,2.1mmHg,1.8mmHgと切り替え後に有意な眼圧下降が得られ筆者らの結果と同様であった.一方,中原ら9)は切り替え後の眼圧にほぼ変化なく眼圧下降効果に有意差がみられなかったと報告しているが,対象症例からラタノプロストのノンレスポンダーを除外しているため,他とは異なる結果となった可能性が考えられる.A群とB群の2群に分けた検討では,A群では全時点において有意な眼圧下降が得られ,最終眼圧下降率は約11.9%,有効率は約56.3%であった.B群では切り替え後3カ月と6カ月で有意な眼圧下降が得られたが,最終眼圧下降率は約5.9%,有効率は約28.6%でA群のほうが効果的であった.中原ら9)は筆者らと同様に切り替え前眼圧値を15mmHg以上と15mmHg未満の2群についても検討しているが,それにおいても両群とも切り替え前後で有意差はなかったと報告している.ラタノプロストのノンレスポンダーのなかにはトラボプロストが有効な症例があることが報告されており2),ラタノプロストのノンレスポンダーを除外していない本研究では,切り替え前眼圧値が高いA群にラタノプロストのノンレスポンダーまたは効果の不十分な症例が含まれていたことも考えられる.全症例では約1mmHgの眼圧下降,A群では約2mmHgの眼圧下降が得られ,EarlyManifestTrial13)ではベースライン眼圧から1mmHg眼圧が下降すると緑内障進行リスクが10%低下すると報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012417切り替え後(n=66)いることから,トラボプロストへの切り替えは有効であると考えられる.しかし,B群では最終悪化率が16.7%でラタノプロスト単独で15mmHg未満の症例では眼圧が悪化する症例もあるため注意して行うべきである.わが国ではトラボプロストは防腐剤としてBACを含有せず,sofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入しており,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは角膜所見に改善がみられるという報告が多い9.12,14).本研究でも既報と同様にラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に角膜所見の改善がみられた.ヒト結膜由来細胞を用いたinvitro試験において,BAC含有製剤およびBAC単独は明らかな細胞毒性を示し,BAC非含有製剤では細胞毒性は認められなかったという報告もあり15),わが国のトラボプロストのようにBACを含有しない点眼薬は,薬剤の長期使用による角膜障害を減少させるものと思われる.本研究の結果では,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に眼圧が有意に下降して角膜障害も減少したが,対象症例の病型,症例数,経過観察期間の眼圧の季節変動なども考慮して解釈しなければならない.薬剤の効果を比較するためにはランダム割付による群間比較ないしはクロスオーバー試験を二重盲検下で行うことが理想であり,トラボプロスト単独使用からのラタノプロストを含めた他のPG製剤への切り替えも検討する必要があると思われる.現在複数のPG製剤が存在するが,その特長に合わせた使い分けが緑内障治療を行ううえで重要である.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabililtyofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,20043)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20014)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20036)佐伯忠賜朗,相原一:プロスタグランジン関連薬の特徴─増える選択肢.あたらしい眼科25:755-763,20087)SharifNA,CriderJY,HusainSetal:HumanciliarymusclecellresponsestoFP-classprostaglandinanalogs:phosphoinositidehydrolysis,intracellularCa2+mobilizationandMAPkinaseactivation.JOculPharmacolTher19:437-455,20038)YanDB,BattistaRA,HaidichABetal:Comparisonofmorningversuseveningdosingand24-hpost-doseefficacyoftravoprostcomparedwithlatanoprostinpatientswithopen-angleglaucoma.CurrMedResOpin24:3023-3027,20089)中原久惠,清水聡子,鈴木康之ほか:ラタノプロスト点眼薬からトラボプロスト点眼薬への切り替え効果.臨眼63:1911-1916,200910)大谷伸一郎,湖崎淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,201011)佐藤里奈,野崎実穂,高井祐輔ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切替え効果.臨眼64:1117-1120,201012)徳川英樹,西川憲清,坂東勝美ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの変更による眼圧下降効果の検討.臨眼64:1281-1285,201013)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200915)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudiesofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007***418あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(130)