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糖尿病患者の眼底スクリーニング─散瞳4方向と9方向カラー撮影の比較─

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1461.1465,2013c糖尿病患者の眼底スクリーニング─散瞳4方向と9方向カラー撮影の比較─反保宏信*1大河原百合子*1高橋秀徳*1牧野伸二*1佐藤幸裕*2*1自治医科大学眼科学講座*2自治医科大学糖尿病センター眼科FundusScreeninginDiabeticPatients─Comparisonbetween4-Fieldand9-FieldColorFundusPhotography,UsingMydriaticDigitalFundusCamera─HironobuTampo1),YurikoOkawara1),HidenoriTakahashi1),ShinjiMakino1)andYukihiroSato2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityDiabeticCenter目的:眼底カメラでの糖尿病症例の眼底スクリーニングは,無散瞳と散瞳,1.7方向撮影などさまざまである.散瞳下の4方向と9方向カラー撮影を比較した.方法:散瞳下に画角50°のデジタル眼底カメラで,4,9方向カラー撮影と9方向蛍光眼底造影(FA)を行った62例102眼を後ろ向きに調査した.4,9方向カラー撮影,FAの順に判定し,単純,前増殖,増殖網膜症に病期分類して比較した.結果:4方向と9方向カラー撮影の病期診断一致率は98%であった.4方向,9方向カラー撮影とFAの病期診断一致率はいずれも85%で差はなかったが,微細な網膜新生血管をカラー撮影で網膜内細小血管異常と判定していたものが各6%あった.結論:4方向と9方向カラー撮影の病期診断はほぼ一致しており,4方向カラー撮影で十分と考えた.ただし,カラー撮影では微細な網膜新生血管の判定に限界があることに留意する必要がある.Purpose:Variousmethodsoffunduscamerascreeningofdiabeticpatients,suchasnon-mydriaticvs.mydri-aticand1-to7-.eldfundusphotographs,havebeenreported.Wecompared4-.eldand9-.eldfundusphoto-graphs.Methods:Weretrospectivelystudied102eyesof62casesthathadundergone4-.eldand9-.eldcolorfundusphotographyand9-.eld.uoresceinangiography(FA).Classi.cationintosimple,preproliferativeandprolif-erativestageswasinitiallyperformedusing4-.eldcolorfundusphotographs,then9-.eldcolorfundusphoto-graphsand.nallyFA.Results:Theagreementonretinopathystagesbetween4-.eldand9-.eldcolorfundusphotographswas98%.Thatbetween4-.eldcolorfundusphotographsandFA,and9-.eldcolorfundusphoto-graphsandFAwereboth85%.However,.neretinalneovascularizationdetectedbyFAwasdiagnosedasintraretinalmicrovascularabnormalitiesin6%ofboththe4-.eldandthe9-.eldcolorfundusphotographs.Con-clusion:Sinceretinopathystagesjudgedin4-.eldand9-.eldcolorfundusphotographsagreedverywell,wecon-cludedthatitisappropriatetojudgeretinopathystagesusing4-.eldcolorfundusphotographs.However,thelimi-tationinusingcolorfundusphotographstojudge.neretinalneovascularizationshouldbetakenintoaccount.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1461.1465,2013〕Keywords:眼底スクリーニング,糖尿病症例,眼底カメラ,糖尿病網膜症,カラー眼底写真.fundusscreening,diabeticcases,funduscamera,diabeticretinopathy,colorfundusphotography.はじめにグラム9)などさまざまな目的に用いられている.また,その眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングは,実施方法も無散瞳1,2)と散瞳3.9),1.7方向撮影1.9)など多彩網膜症の有病率などを調査するための疫学研究1.6),網膜症である(表1).今回筆者らは,糖尿病網膜症を有する症例に治療に関する無作為化比較試験7,8),網膜症の早期発見プロおける散瞳下での4方向と9方向カラー眼底撮影の病期診断〔別刷請求先〕反保宏信:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:HironobuTampo,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(117)1461表1目的別の撮影方法疫学研究舟形町スタディ(日本)1)画角45°・無散瞳・1方向TheMulti-ethnicStudyofAtherosclerosis(米国)2)画角45°・無散瞳・2方向TheSingaporeMalayEyeStudy(シンガポール)3)画角45°・散瞳・2方向TheLiverpoolDiabeticEyeStudy(英国)4)画角45°・散瞳・3方向TheBlueMountainsEyeStudy(オーストラリア)5)画角30°・散瞳・5方向†WESDR*(米国)6)画角30°・散瞳・7方向立体無作為化比較試験UKPDS**(英国)7)画角30°・散瞳・4方向††ETDRS¶(米国)8)画角30°・散瞳・7方向立体網膜症早期発見プログラムUKNSC¶¶diabeticeyescreeningprogram9)画角45°・散瞳・2方向†:黄斑部,視神経のみ立体.††:黄斑部のみ立体.*:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy.**:UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy.¶:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy.¶¶:TheUKNationalScreeningCommittee.における有用性と限界を,蛍光眼底造影との比較を含めて検討した.I対象および方法対象は,自治医科大学附属病院眼科において2011年9月から2012年10月に,散瞳下の倒像検眼鏡および細隙灯顕微鏡と前置レンズを用いた眼底検査で糖尿病網膜症の診断を受け,網膜症の治療方針を検討する目的で,カラー眼底撮影と蛍光眼底造影を受けた症例を後ろ向きに調査し,次項に述べる3種類の画像が保存され,除外項目に合致しないと判定された62例102眼である.男性39例63眼,女性23例39眼,年齢は42.80歳,平均59.7±9.3歳(平均±標準偏差)であった.3種類の画像とは,散瞳下に画角50°のデジタル眼底カメラ(Kowa社製VX-10i)で,①日本糖尿病眼学会が報告した方法10)に準じた1眼につき4方向のカラー撮影(以下,4方向カラー),②EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)8)で用いられた画角30°の散瞳・7方向立体撮影より広い領域をカバーする9方向カラー撮影(以下,9方向カラー),③9方向の蛍光眼底造影(以下,FA)で得られたものである.なお,9方向カラーおよびFAの具体的な撮影方法は,中心窩を中心とした後極部の写真をまず撮影し,鼻側,鼻上側,上方,耳上側,鼻下側,下方,耳下方,耳側の8方向の写真が後極部の写真と3分の1程度重なるように撮影した.ハードディスクに保存されていたそれぞれの画像はファイリングソフトを用いて合成された(図1).判定は1名の眼底疾患専門医(YS)が行ったが,同一症例の3種類の画像を照らし合わせず,①全症例の4方向カラー,②全症例の9方向カラー,③全症例のFAの順に準暗室においてモニター上で行い,単純網膜症(SDR),前増殖網膜症(PPDR),増殖網膜症(PDR)に病期分類した.つぎに,同一症例の4方向カラーと9方向カラーを同一モニター上に呼び出して比較した.除外項目は,①網膜光凝固が施行されているもの,②鮮明な画像が得られなかったもの,③完全な合成写真が得られなかったもの,④網膜静脈閉塞症,網膜動脈分枝閉塞症,傍中心窩網膜毛細血管拡張症などの糖尿病網膜症以外の眼底疾患を合併したものとした.網膜症の病期は改変Davis分類11)に基づいて判定した(表2).4方向カラーや9方向カラーで小軟性白斑が3個以内あるが,静脈の数珠状拡張や網膜内細小血管異常(IRMA)がない場合はSDRとした.また,FAで1乳頭面積以上の無灌流域がある場合は,静脈の数珠状拡張やIRMAがなくともPPDRとした.カラー写真における静脈の数珠状拡張とIRMAはETDRSの基準写真8)を参考にして,各所見の下限の写真を設定した(図2).なお,IRMAの判定は,カラー写真では異常に拡張した網膜毛細血管,FAでは無灌流域に隣接して認められる異常に拡張した網膜毛細血管で硝子体腔へ拡散する蛍光漏出を伴わないものとした(図3).白線化血管は病期の判定基準に含めなかった.II結果1.撮影条件別の病期の頻度判定された病期の頻度は,4方向カラーでは102眼中SDRが33眼(32%),PPDR57眼(56%),PDR10眼(10%)であったが,網膜症なし(NDR)と判定されたものが2眼(2%)存在した.9方向カラーでは35眼(34%),58眼1462あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(118)表2改変Davis分類11)を基にした今回の病期判定基準単純網膜症毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,網膜浮腫,3個以内の小軟性白斑前増殖網膜症軟性白斑,静脈の数珠状拡張,網膜内細小血管異常,1乳頭面積以上の無灌流域(蛍光眼底造影所見)増殖網膜症新生血管,網膜前・硝子体出血,線維血管性増殖膜,牽引性網膜.離ab(57%),PDR9眼(9%),FAではSDR28眼(27%),PPDR60眼(59%),PDR14眼(14%)であり,いずれもNDRと判定されたものはなかった.病期の頻度に3群間で有意差はなかった(p=0.73:mxnc2test,図4).2.病期診断の一致率つぎに病期診断の一致率を検討した.4方向カラーと9方向カラーの一致率は102眼中100眼(98%)であった.一方,4方向カラーとFAの一致率,9方向カラーとFAの一致率(119)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131463はいずれも102眼中87眼(85%)であった.不一致は各15眼(15%)あり,FAで確認されたIRMAが4方向および9方向カラーではIRMAと判定されなかったもの各7眼(7%),FAで確認された微細な網膜新生血管が4方向および9方向カラーでIRMAと判定されたもの各6眼(6%),IRMAを網膜新生血管と判定したもの各1眼(1%),IRMAではない網膜血管をIRMAと判定したもの各1眼(1%)であった.3.4方向カラーと9方向カラーの比較最後に,4方向カラーで写らない領域に9方向カラーでどの程度の所見が存在するかを検討したが,102眼中82眼(80%)に何らかの所見を認めた.具体的な所見は,網膜出血が95眼(95%),硬性白斑17眼(17%),白線化血管4眼(4%),軟性白斑と網膜新生血管が各1眼(1%)であった(重複あり,図5).4方向で写らない領域に9方向で網膜出血が存在した95眼中2眼では,SDRがNDRと判定されていた.一方,軟性白斑と網膜新生血管を認めた各1眼は4方向でカバーされる領域にも同じ所見があり,病期診断には影響しなかった.III考按筆者らが所属する自治医科大学では,卒業生に9年間の地域医療が義務づけられており,勤務地には眼科医不在な地域が多い.2011年に報告されたアンケート調査12)によれば,糖尿病などによる眼底変化が診断可能と回答した卒業生は約15%と低率である.このため,眼底カメラで撮影された画像を用いた遠隔医療による診療支援が可能であるかの予備調査として今回の検討を行った.眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングは,疫学研究1.6),無作為化比較試験7,8),網膜症の早期発見プロ1464あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(%)10090807060504030201004方向カラー9方向カラー9方向蛍光眼底造影図4撮影条件別の病期の頻度3群間で有意差はなかった(p=0.73:mxnc2test).(%)1009080706050403020100図54方向で写らない領域に9方向で認めた所見(重複あり)グラム9)などさまざまな目的に用いられている.また,無散瞳1,2)と散瞳3.9),1.7方向撮影1.9)など多彩な実施方法が報告されている(表1).米国で実施された無作為化比較試験であるETDRS8)では,画角30°の散瞳・7方向立体撮影が用いられており,欧米ではこの撮影方法がgoldstandardとされてきた13).日本では立体撮影が普及していないため,今回の検討ではETDRSの撮影方法とあまり差がないとされる日本糖尿病眼学会が報告した画角50°の散瞳・4方向撮影10),ETDRSの撮影方法と同等の領域をカバーできるとされる画角45°の無散瞳・9方向撮影14)に準じ画角がより広く散瞳して実施する画角50°の散瞳・9方向撮影を取り上げた.一方,画角200°の無散瞳・1方向撮影で眼底の80%以上の領域をカバーする超広角撮影は,ETDRSの画角30°の散瞳・7方向立体撮影と同等の結果をより短時間で得られるとの報告15)もあるが,地域診療所には高価な装置であるため,従来の画角50°のデジタル眼底カメラでの検討を行った.今回の検討では4方向カラーと9方向カラーを比較したが,病期診断一致率は非常に高率で,FAとの一致率も差がなかった.4方向で写らない領域に9方向で認めた所見は大部分が網膜出血であった.したがって,日本で広く用いられ(120)ている改変Davis分類や新福田分類を用いる場合は4方向撮影で十分と考えた.カラー眼底撮影の限界として,微細な網膜新生血管を見逃す危険性がある.今回の検討では,4方向カラー,9方向カラーともに6%で微細な網膜新生血管をIRMAと判定していた.また,FAで確認されたIRMAを4方向および9方向カラーではIRMAと判定しなかったものが各7%あった.これらの結果から,眼底カメラで撮影されたカラー写真を遠隔医療による診療支援に用いる場合は,改変Davis分類や新福田分類の単純網膜症に止め,それ以上の病期が疑われる場合は,たとえ通院に困難を伴っても,眼科医の診察を求める必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川崎良:糖尿病網膜症─舟形町スタディ.日本の眼科79:1697-1701,20082)WongTY,KleinR,IslamAetal:Diabeticretinopathyinamulti-ethniccohortintheUnitedStates.AmJOphthal-mol141:446-455,20063)FoongAW,SawSM,LooJLetal:Rationaleandmethod-ologyforapopulation-basedstudyofeyediseasesinMalaypeople:TheSingaporeMalayeyestudy(SiMES).OphthalmicEpidemiol14:25-35,20074)HardingSP,BroadbentDM,NeohCetal:Sensitivityandspeci.cityofphotographyanddirectophthalmoscopyonscreeningforsightthreateningeyedisease:theLiverpoolDiabeticEyeStudy.BMJ311:1131-1135,19955)MitchellP,SmithW,WangJJetal:Prevalenceofdiabet-icretinopathyinanoldercommunity.TheBlueMountainEyeStudy.Ophthalmology105:406-411,19986)KleinR,KundtsonMD,LeeKEetal:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathyXXII:Thetwenty-.ve-yearprogressionofretinopathyinpersonswithtype1diabetes.Ophthalmology115:1859-1868,20087)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Tightbloodpres-surecontrolandriskofmacrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS38.BMJ317:703-713,19988)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Gradingdiabeticretinopathyfromstereoscopiccolorfundusphotographs─anextensionoftheModi.edAirlieHouseClassi.cation:ETDRSreportnumber10.Ophthalmology98:786-806,19919)GillowJT,GrayJA:TheNationalScreeningCommitteereviewofdiabeticretinopathyscreening.Eye15:1-2,200110)日本糖尿病眼学会糖尿病網膜症判定基準作成小委員会:薬物治療などに関する糖尿病網膜症判定基準.日本の眼科71:21-28,200011)船津英陽:糖尿病網膜症の分類について教えてください.網膜・硝子体Q&A(小椋祐一郎,山下英俊・編).あたらしい眼科19(臨増):35-37,200212)神田健史,梶井英治,桃井眞里子:自治医大からの地域医療に対する提言─自治医大の実績から見えてくる地域医療に求められる医師像.日本医事新報4573:29-33,201113)VujosevicS,BenettiE,MassignanFetal:Screeningfordiabeticretinopathy:1and3nonmydriatic45-degreedigitalfundusphotographsvs7standardearlytreatmentdiabeticretinopathystudy.eld.AmJOphthalmol148:111-118,200914)ShibaT,YamamotoT,SekiUetal:Screeningandfol-low-updiabeticretinopathyusinganewmosaic9-.eldfundusphotographysystem.DiabResClinPrac55:49-59,200215)SilvaPS,CavalleranoJD,SunJKetal:Nonmydriaticultrawide.eldretinalimagingcomparedwithdilatedstandard7-.eld35-mmphotographyandretinalspecial-istexaminationforevaluationofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol154:549-559,2012***(121)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131465