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調節安静位における調節微動の変化を指標としたVDT作業による眼の疲労度の評価

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):363?369,2020?調節安静位における調節微動の変化を指標としたVDT作業による眼の疲労度の評価梶田雅義*1末信敏秀*2高橋仁也*3新屋敷文子*4山崎奈緒子*4稲垣恵子*5戸田麻衣子*6*1梶田眼科*2千寿製薬株式会社*3株式会社Inary*4大阪府済生会中津病院*5大阪医科大学*6所属なしEvaluationofEyeFatiguewithVDTWorkUsingtheChangeofCiliaryAccommodativeMicro?uctuationinRestingStateofAccommodationMasayoshiKajita1),ToshihideSuenobu2),YoshinariTakahashi3),FumikoShinyashiki4),NaokoYamasaki4),KeikoInagaki5)andMaikoToda6)1)KajitaEyeClinic,2)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd,3)InaryCo.,Ltd,4)OsakaSaiseikaiNakatsuHospital,5)OsakaMedicalCollegeHospital,6)Noa?liationはじめに眼疲労は,休息によって回復し,翌日まで残存しない生理的な疲労であるが,眼精疲労は,休息によって回復しない病的な疲労である1).近年の情報技術の発展に伴う近業の繰り返しは,眼の調節機能への負荷(毛様体筋への負荷)となり,生理的な疲労の蓄積を病的な疲労へと推移させていると推察される.また,眼精疲労にはドライアイ2)や眼位3)に起因するものがあることや,眼精疲労による屈折変化には近視化するだけでなく遠視化する症例があることが報告されるなど4?7),病因や病態は多様である.〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3梶田眼科Reprintrequests:MasayoshiKajita,M.D.,Ph.D.,KajitaEyeClinic,3-6-3Shibaura,Minato-ku,Tokyo108-0023,JAPAN図1検査スケジュール眼の疲労度については,調節安静位における評価が多数報告されている8?11).調節安静位は概念的には遠点と近点の間にあり8),調節刺激の低下した状態における屈折度であることから12),調節安静位における評価は被験者の調節努力の介入が少ないため,再現性が期待でき,わずかな調節機能変化を他覚的に定量評価できる可能性がある,と推察されている13).しかしながら,これまでの研究の多くは,調節安静位を明所下(empty?eld)や暗視野下(darkfocus)における調節無刺激状態の屈折度として評価しており,臨床に汎用するためには検査室の照明の問題や,固視目標が存在しないために目標捜査運動が生じるといった問題があり,安定した計測ができないという弱点があった14).眼の疲労度に対する他覚的検査については,Campbellら15)が赤外線オプトメータを用いて毛様体の調節振動における約2Hzの周波数成分の存在を明らかにして以来,その解析方法に関する研究16,17)がなされてきた.近年においては,オートレフケラトメータを用いて毛様体の揺らぎ(調節微動)を測定し,その高周波成分の出現頻度(highfrequencycomponent:HFC)の解析を可能とするソフトウエアが登場したことで,測定環境に配慮を要することなく,客観的に眼の疲労度を評価できる可能性が示唆されている14,18).HFC値は,オートレフケラトメータで得られた屈折度を基準に,視標位置+0.5??3.0Dを0.5D間隔で8段階にステップ状に切り換えて,各ステップを注視した際に生じる調節応答波形を計測したものである18).通常,HFC値は最遠点からの視標の近方移動によりいったん上昇し,極大値を示した後にわずかに減少し,調節安静位付近で極小値を示す14).この極小値がもたらす屈折度と雲霧状態における屈折度の平均が近似した値を呈することから,極小HFC値は調節安静位におけるHFC値であることが示唆されている13).そこで,今回筆者らは健康成人の1日のvisualdisplayterminal(VDT)作業により生じる自覚症状および調節安静位におけるHFC値の推移について検討したので報告する.図2Fk?mapI対象および方法本研究は,2017年7月?2017年9月末に,文書により研究への参加に同意し,①屈折度?6Dを超えない,②遠視でない,③老視対策(老眼鏡または遠近両用メガネの使用,VDT作業時に常にメガネをはずすなど)をしていない,④LASIKの既往がない,⑤強度の乱視の自覚がない,⑥多焦点眼内レンズを挿入していない者を対象に実施した.研究方法は,図1に示すとおり,検査実施前に背景因子調査①(年齢,性別,VDT作業年数,眼合併症)を行い,検査当日の朝(9時?10時)に自覚症状および他覚所見検査,夕方(17時?18時)に背景因子調査②〔当日のVDT作業時間,コンタクトレンズ装用の有無,使用コンタクトレンズの種類,点眼剤の使用有無(使用薬剤名,点眼回数)〕について調査したのち,再度,自覚症状および他覚所見検査を行った.なお,他覚所見検査は優位眼にて実施し,コンタクトレンズ装用者は検査時のみコンタクトレンズをはずして検査を実施した.他覚所見検査は,オートレフケラトメータARK560Aおよび調節微動解析ソフトAA2(ニデック)にて等価球面値(屈折度),乱視度数,調節応答量および調節微動(HFC値)を測定した.なお,調節微動測定にて視標位置2m?50cm間における最小HFC値を極小値とし,本研究における調節安静位のHFC値とした.HFC値は,調節微動解析ソフトAA2によりオートレフケラトメータで測定された調節応答波形をFourier変換し,周波数スペクトルを対数に変換したのち,1.0?2.3Hz帯で積分して算出され19),図2のとおりFk-map上に表示される.Fk-mapのX軸は視標位置,Y軸は調節反応量を示し,一つの視標位置に対して11本のバー(11回の測定結果)がある.各バーの印字色がHFC値を示し,極度に高い値70を赤色,低い値50を緑色とし,これらを最大,最小値としてその間を直線的にグラデーション色にして示している18).なお,Fk-mapのX軸上に表示された数値は,それぞれの視標位置におけるHFC値の平均値である.本研究では,IT眼症の指標とされているHFC67cm値,HFC1値(0??0.75Dの調節状態におけるHFC値の平均),HFC値の総平均値(HFCA値),および朝の測定時における調節安静位の視標位置でのHFC値〔HFCmin値:たとえば,朝の測定時に視標位置1m(2m?50cmの間)で最小HFC値を示した場合,視標位置1mにおける朝と夕方のHFC値をそれぞれのHFCmin値とする.したがって,HFCmin値の視標位置は被験者ごとに異なる〕の朝夕の測定値を比較した.また,屈折度と調節応答量についても朝夕の測定値を比較した.眼疲労の自覚症状は,症状がない状態を0(左端),症状が一番強い状態を10(右端)と規定した100mmの長さの線分上に被験者自身が縦線をマークするvisualanaloguescale(VAS)を用いた.夕方の検査時には朝に記載したマークを被験者自身が確認したうえでマークすることとし,左端からマークまでの長さを自覚症状のスコア値とした.また,他覚所見(屈折度,調節応答量および各HFC値)と自覚症状(VAS)の朝夕の変化値の相関を検討した.さらに,夕方の調節安静位が近方あるいは遠方に移動した症例を,それぞれ,近視化あるいは遠視化症例,また移動の認められなかった症例を変化なし症例とし,症例群別に他覚所見と自覚症状の朝夕の変化値の相関について検討した.本研究は,成守会クリニック治験審査委員会の承認後,UniversityhospitalMedicalInformationNetwork(https://center.umin.ac.jp)に登録(UMIN000028164)のうえ,実施した.II統計解析屈折度,調節応答量,HFC値(HFC67cm値,HFC1値,HFCA値,HFCmin値)およびVASの朝夕の変化についてはpairedt-test,HFC値と当日のVDT作業時間,屈折度,調節応答量およびVASの朝夕の変化量の相関はPeasonの相関にて評価した.なお,有意水準は両側0.05とし,統計解析にはSASstatisticalsoftware(version9.4forWin-dows,SASInstituteInc.,Cary,NC)を使用した.III結果1.背景本研究における対象者67例の背景は,表1に示したとおり,男性43例,女性24例,平均年齢36.6±7.5歳,VDT表1対象者の背景対象症例数男性女性43人24人合計67人平均年齢36.6±7.5歳VDT作業年数11.8±6.8年当日のVDT作業時間5.1±1.8時間眼合併症1例コンタクトレンズ装着ハードソフト5例13例合計18例点眼剤使用午前・午後午前のみ午後のみ3例2例5例合計10例朝夕の平均測定間隔7時間58分±5分作業年数11.8±6.8年,当日のVDT作業時間5.1±1.8時間であった.また,1例が麦粒腫を合併していた.コンタクトレンズ使用者は18例(ハードコンタクトレンズ:5例,ソフトコンタクトレンズ:13例),点眼剤の使用は10例(午前,午後とも使用3例,午前のみ使用2例,午後のみ使用5例)であり,朝と夕の検査間隔は平均7時間58分±5分であった.2.屈折度,乱視度数および調節応答量の推移朝および夕方の屈折度は,それぞれ?3.47±2.49Dおよび?3.51±2.50Dであり,朝夕に有意な変化はなかった(p=0.287)(図3).乱視度数は,それぞれ?0.66±0.48および?0.64±0.48であり明視域に影響を与えるほどの乱視はなく,朝夕に有意な差はなかった(p=0.336)(図4).また,調節応答量においても,1.65±0.49Dおよび1.60±0.58Dであり,朝夕に有意な変化はなかった(p=0.195)(図5).3.HFC値とVAS値の推移朝夕の各HFC値は,それぞれ,HFC67cm値では53.43±6.41および52.23±6.95(p=0.082),HFC1値では49.18±5.17および49.40±4.88(p=0.626),HFCA値では,52.55±5.32および52.32±5.36(p=0.517)であり,朝夕に有意な変化はなかった(図6).一方,HFCmin値では45.36±6.34および48.18±6.42(p<0.01)であり,夕方の測定時に有意に上昇した.朝夕の調節安静位の移動(HFCminを示す指標位置の移動)については,近視化症例(夕方に調節安静位が近方に移動した症例)22例,遠視化症例(夕方に調節安静位が遠方に移動した症例)16例および変化なし症例(調節安静位が移動しなかった症例)29例であった.このうち,近視化および朝夕0.00-1.00-2.00-3.00-4.00-5.00-6.00-7.00図3屈折度の推移朝夕0.00-0.20-0.40-0.60-0.80-1.00-1.20図4乱視度数の推移屈折度:乱視矯正付きオートレフケラトメータARK560Aにて測定され,Fk-mapに表示される等価球面値.2.502.001.501.000.500.00朝夕図5調節応答量の推移■朝夕706050403020100HFC67cm値HFC1値HFCA値HFCmin値**:p<0.01調節応答量:乱視矯正付きオートレフケラトメータARK560Aにて測定され,Fk-mapに表示されるrangeofaccom-modationの数値.図6HFC値の推移a:近視化(n=22)b:遠視化(n=16)c:変化なし(n=29)■朝夕■朝夕**7060706050605040504040303030202020101010■朝夕0HFC67cm値HFC1値HFCA値HFCmin値0HFC67cm値HFC1値HFCA値HFCmin値図7調節安静位の変化とHFC値の推移0HFC67cm値HFC1値HFCA値HFCmin値*:p<0.05**:p<0.01a:近視化:夕方に調節安静位が近方に移動した症例.b:遠視化;夕方に調節安静位が遠方に移動した症例.c:変化なし:調節安静位が移動しなかった症例.表2自覚症状の推移朝(mm)夕(mm)pvalue全症例18.5±13.540.6±16.8<0.01**近視化19.0±12.340.1±15.4<0.01**調節安静位の移動遠視化17.2±13.240.9±21.6<0.01**変化なし18.7±14.840.8±15.4<0.01****:p<0.01当日のVDTΔ屈折度Δ調節ΔVAS当日のVDTΔ屈折度Δ調節ΔVAS当日のVDTΔ屈折度なしΔ調節ΔVASr=相関係数*:p<0.05**:p<0.01遠視化症例における朝夕のHFCmin値は,それぞれ,近視化症例で44.68±6.51および49.96±5.71(p<0.01),遠視化症例で45.65±7.28および50.06±6.72(p<0.01)であり,夕方に有意な上昇を認めた(図7a,b).一方,変化なし症例では,いずれのHFC値も朝夕の数値に有意な変化を認めなかった(図7c).表2に示したとおり,調節安静位の移動にかかわらず,夕方のVAS値は有意に上昇した(p<0.01).4.各ΔHFC値と当日のVDT作業時間,Δ屈折度,Δ調節応答量およびΔVASとの相関各HFC値と当日のVDT作業時間および,屈折度,調節応答量,VASの朝夕の変化量(Δ値)との相関は表3に示したとおり,Δ屈折度とΔHFC67cm,ΔHFC1,ΔHFCAおよびΔHFCmin値との間で弱い負の相関が認められ,夕方にHFC値が減少すれば屈折度が遠視化し,増加すれば近視化する結果となった.また,Δ調節応答量とΔHFC67cmとの間にも弱い正の相関が認められた.調節安静位の移動(近視化,遠視化,変化なし)別でのΔHFC値と当日のVDT作業時間,Δ屈折度,Δ調節応答量およびΔVASとの相関は,表4に示したとおり,変化なし症例において,Δ屈折度とΔHFC67cm,ΔHFC1,ΔHFCAおよびΔHFCmin値との間に負の相関があり,Δ調節応答量とΔHFC67cmおよびΔHFCmin値との間に正の相関が認められた.また,近視化した症例においてΔHFCA値とΔVASとの間に正の相関が認められた.なお,ΔHFC値とVDT作業時間との間は,調節安静位の移動にかかわらず,相関関係が認められなかった.IV考察本研究において,HFCmin値は朝夕の変化が有意であったが,HFC67cm,HFC1およびHFCA値の朝夕の変化に有意差はなかった.これは,調節安静位の移動(近視化および遠視化)で層別した場合においても同様であった.一方,自覚症状のスコア値は調節安静位の移動に関係なく夕方の測定時に有意に上昇した.正常眼におけるHFC値は,雲霧状態から?3Dの視標距離の間でおおむね45?60で推移し,調節応答量の変化が少なく18),遠方調節と近方調節のバランスが調節安静位でうまく釣り合っているとされている12,20).本研究におけるHFC値についても,同等の範囲にあり,朝夕に有意な変化は認められなかった.また,屈折度および調節応答量においても有意な変化は認められず,各HFC値と屈折度の変化値に弱いながら相関を認めたことから,遠方調節と近方調節のバランスが調節安静位で釣り合っており,1日を通してVDT作業を行っても正常の調節作用が維持できていると考えられた.以上のことから,本研究の対象者は,少なくとも病的な調節性眼精疲労には罹患していない集団であったと考えられた.ただし,このような集団においても,日常業務による眼調節への負荷が生じているものと推察され,調節安静位の移動に基づく近視化あるいは遠視化症例では,夕方のHFCmin値が有意に上昇していた.すなわち,HFCmin値の変化は,生理的な眼疲労の程度を反映していることが示唆された.正常な眼調節における遠方視においては,毛様体筋が弛緩するため,HFC値は減少するものと考えられる.しかしながら本研究においては,調節安静位が遠視化した症例においてもHFCmin値の有意な上昇が認められた.眼疲労により遠視化する背景因子としては,短時間の3D映像視聴による調節と輻湊の不一致により調節近点が延長するという報告5,7)や,間欠性外斜位患者では輻湊や調節により多くの負荷が生じるとする報告6)がある.本研究においては眼位検査や輻湊検査を実施していないため,これらの背景因子を有する対象者の存在については明らかではないが,このような要因による調節努力が働いた結果,HFCminが有意に上昇した可能性が示唆された.なお,高度の遠視では,調節を働かせても常に明視することができず,調節することをあきらめてしまう症例が存在する21).したがって,本研究における遠視化症例の遠視化の程度は軽微なものであったと考えられる.以上のように,本研究の結果から,各HFCパラメータのうちHFCmin値の変化は,軽微な初期段階の眼疲労を含め,その疲労度を鋭敏に反映している可能性が示唆され,生理的な疲労である眼疲労の程度を評価できるパラメータ候補であると考えられた.したがって,眼精疲労に至るまでの早期診断や治療にも有用であると推察された.さらに,HFCmin値は病的な眼精疲労患者においても有用なパラメータ候補であると考えられるが,さらなる検討が必要である.なお,本研究の限界として,眼位や輻湊検査を実施していなかったため,眼の疲労による調節安静位の移動が起こる明確な原因の判明には至らなかったこと,HFC値とVAS値の間には一部では相関が認められたものの,VASのばらつきが大きく,調査方法を含めたさらなる検討が必要であること,HFC値と当日のVDT作業時間との間に相関が認められなかったことから,眼疲労を起こす要因には,1日のVDT作業の累積時間の長短のみならず,連続性(休憩の有無)や作業内容などの影響も考慮する必要が示唆されたが,その要因について究明することができなかったこと,があげられる.また,本研究は眼精疲労を自覚していない者を対象にしているため,眼精疲労患者におけるHFCmin値がどのように推移するのか,屈折度や調節応答量がどう関係するのかは不明なため,引き続き検討したい.文献1)不二門尚:眼精疲労に対する新しい対処法.あたらしい眼科27:763-769,20102)五十嵐勉,大塚千明,矢口智恵美ほか:シアノコバラミンの処方例におけるドライアイ頻度.眼紀50:601-603,19993)藤井千晶,岸本典子,大月洋:間欠性外斜視におけるプリズムアダプテーション前後の調節微動高周波成分出現頻度.日本視能訓練士協会誌41:77-82,20124)西信元嗣:屈折・調節の基礎と臨床.日眼会誌98:1201-1212,19945)難波哲子,小林泰子,田淵昭雄ほか:3D映像視聴による視機能と眼精疲労の検討.眼臨紀6:10-16,20136)川守田拓志,魚里博,中山奈々美ほか:正常眼における調節微動高周波成分と屈折異常,眼優位性の関係.臨眼60:497-500,20067)伊比健児:テクノストレス眼症と眼調節.日職災医誌50:121-125,20038)三輪隆:調節安静位は眼の安静位か.視覚の科学16:114-119,19959)三輪隆,所敬:調節安静位と屈折度の関係.日眼会誌93:727-732,198910)MiwaT,TokoroT:Asthenopiaandthedarkfocusofaccommodation.OptomVisSci,71:377-380,199411)中村葉,中島伸子,小室青ほか:調節安静位の調節変動量測定における負荷調節レフARK-1sの有用性について.視覚の科学37:93-97,201612)梶田雅義:身体と眼の疲れ.あたらしい眼科27:303-308,201013)梶田雅義:調節応答と微動.眼科40:169-177,199814)梶田雅義,伊藤由美子,佐藤浩之ほか:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌101:413-416,199715)CampbellFW,RobsonJG,WestheimerG:Fluctuationsofaccommodationundersteadyviewingconditions.JPhysiol145:579-594,195916)WinnB,PughJR,GilmartinBetal:Thefrequencychar-acteristicsofaccommodativemicro?uctuationsforcentralandperipheralzonesofthehumancrystallinelens.VisionRes30:1093-1099,199017)CharmanWN,HeronG:Fluctuationsinaccommodation:areview.OphthalPhysiolOpt8:153-164,198818)梶田雅義:調節機能測定ソフトウェアAA-2の臨床応用.あたらしい眼科33:467-476,201619)鈴木説子,梶田雅義,加藤桂一郎:調節微動の高周波成分による調節機能の評価.視覚の科学22:93-97,200120)木下茂:屈折・調節の基礎と臨床.日眼会誌98:1256-1268,199421)佐々本研二:調節力の変化.あたらしい眼科18:1239-1243,2001◆**

ビルベリーエキス含有食品摂取による眼精疲労改善効果 ─ランダム化二重盲検プラセボ対照試験─

2016年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(12):1795?1800,2016cビルベリーエキス含有食品摂取による眼精疲労改善効果─ランダム化二重盲検プラセボ対照試験─堀江幸弘*1片山詩野*1所茉利奈*1董震宇*1小齊平麻里衣*2大野重昭*3石田晋*3北市伸義*1,3*1北海道医療大学病院眼科*2(株)オムニカ*3北海道大学大学院医学研究科眼科学分野EffectofBilberryExtractonEyestrain─ADouble-blindRandomizedClinicalTrial─YukihiroHorie1),ShinoKatayama1),MarinaTokoro1),DongZhenyu1),MarieKosehira2),ShigeakiOhno3),SusumuIshida3)andNobuyoshiKitaichi1,3)1)DepartmentofOphthalmology,HealthSciencesUniversityofHokkaido,2)OmnicaCo.,Ltd.,3)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicineアントシアニンはブルーベリーなどに豊富に含まれ,古来眼症状への好影響が伝承されている.今回筆者らは機器を用いて眼疲労を他覚的に評価するとともに,VisualAnalogScale(VAS)スコアを用いた自覚的検査で標準ビルベリー抽出物ミルトアルゴスRの眼疲労抑制効果を検討した.健康成人男女31名を参加者とし,無作為にプラセボ群,ビルベリーエキス160mg摂取群,3倍量ビルベリーエキス480mg摂取群の3群に分けて評価した.その結果,ビルベリー群では2群とも経口摂取1時間後に血漿中アントシアニン濃度が上昇した.摂取群では他覚検査トライイリスにて瞳孔緊張率が有意に改善し(p<0.05),VASスコアでも自覚症状が有意に改善した(p<0.05).標準ビルベリー抽出物はVDT作業や近見作業などによる眼の調節改善と疲労感軽減への有用性が期待された.Theeffectofanthocyaninoneyestrainhasbecomeafocusofattention.Inthisstudy,weexaminedtheeffectoneyestrainoftakingstandardbilberryextract(SBE),MyrtArgosR,asevaluatedobjectivelyandsubjectivelybyophthalmologicexamination(TriIRIS)andvisualanalogscale(VAS)score.Participatinginthisstudywere31healthyadultvolunteers,randomlydividedinto3groups,whotookplacebo,160mgofSBEor480mgofSBE.PlasmaanthocyaninconcentrationswerequantifiedafteranhourofMyrtArgosRingestion.IntakeofMyrtArgosRraisedbloodanthocyaninconcentration.Objectivepupilstrainandsubjectiveeyefatiguewerebothsignificantlyimproved(p<0.05)byoralSBEintake.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(12):1795?1800,2016〕Keywords:ビルベリー,アントシアニン,眼疲労,トライイリス,VASスコア.bilberry,anthocyanin,eyestrain,TriIRIS,VASscore.はじめに携帯端末スマートフォンなどの普及により,近年は日常的に近業VDT(visualdisplayterminals)作業に従事する時間が増加している.一方,医療現場でも電子カルテ,レセプト電子申請などのデジタル化が進みVDT作業に従事する時間が長くなっている.ビルベリー(Bilberry)はツツジ科スノキ属(Vaccinium)に分類されブルーベリーの原種であり,スカンジナビア半島などヨーロッパ北部に自生している.その果実・果皮はアントシアニン(anthocyanin)を多く含み,眼に関連する健康食品に広く利用されている1).そのなかでもビルベリー由来アントシアニン(Vacciniummyrtillusanthocyanin:VMA)を含有するビルベリーエキス(Bilberryextract:BE)に関しては,これまで多くの報告がされてきたものの,多くのランダム化試験においてはプラセボと実際に対比されている被検物はVMAではなく,VMAを一部含有する生薬としてのBEであった2,3).BEは多数市販されているが,産地や抽出法により含有する各種アントシアニンのばらつきが大きく,それぞれの摂取効果を比較することは適切ではない.筆者らはVMAを機能性関与成分と推定したうえで,特定の生薬である標準ビルベリーエキス(Standardizedbilberryextract:SBE)を用いた一連のランダム化試験を行い,SBE経口摂取による介入が調節時における眼精疲労の軽減あるいは緩和に有効であることを検証・報告してきた4,5).SBEはVMAとしての薬物体内動態が観察されているため,評価対象として適切であると考えられている6).すなわち,SBE摂取によりアントシアニンの血漿中濃度が上昇し,血漿中アントシアニン濃度が十分確保されることで臨床的有効性が得られる.今回筆者らは日常的に近見作業が多い者を対象に,新たな近見負荷をかけない前向き臨床試験を行い,試験食品の摂取量,血漿中濃度,他覚的瞳孔緊張率,自覚症状を無作為前向きに検討した.I方法1.調査対象および投与方法本研究では日常的に7時間/日以上パソコン作業や近業作業に従事し,眼の疲労症状を自覚し,かつ他の眼疾患を有しない健康成人男女を対象にした.標準ビルベリー果実抽出物「ミルトアルゴスR」(オムニカ)を4週間連日経口摂取して眼疲労に対する有効性を検討した.調査はプラセボ摂取群(P群),ミルトアルゴスR160mg摂取群(B1群),3倍量のミルトアルゴスR480mg摂取群(B3群)の3群の並行群間比較試験とした.それぞれの群におけるアントシアニン含有量はP群で0mg,B1群で59.2mg,B3群では177.6mgである.3群とも大きさも形も同様のものを一度に3カプセル摂取することとした.1カプセルの内容物はミルトルゴスのほかデキストリン49mg,デンプン125mg,ステアリン酸カルシウム18.75mg,微粒酸化ケイ素3.75mgが含まれる.アントシアニン摂取用には容量の異なる2種類のカプセルを作製した.プラセボ用カプセルはミルトアルゴスの代わりにカラメル色素50mgを加えて外見上での識別を不可能にした.本試験における機能性関与成分としてのビルベリー由来アントシアニンとは,Vacciniummyrtillus果実を由来とし,エタノール抽出物を吸着脱着による精製する製法にて,化合物としてのアントシアニン配糖体組成が標準組成率で15種類,約37%含有される規格のエキス全体と定義した.参加者には事前に説明同意文書により本試験の内容を説明し,参加に同意した者で事前検査(理学的検査,医師診察,血液検査など)を行った.次項の選抜基準(a,b)に適合し,除外基準(a?i)に該当しない健康成人男女を参加者とした.本調査は2重盲検試験とし,各群への割付けは割付責任者の指示のもと,割付担当者が試験食品のいずれかを無作為に3群に割付けた.摂取方法は試験食品を28日間,1日1回(原則として朝食前または昼食前の空腹時)3カプセルをコップ1杯の水,またはぬるま湯とともに摂取した.なお,摂取0日目,14日目,および28日目の来院日は血中ビルベリー濃度を測定するため,各種試験終了後に試験担当者の指示に従って一斉に試験食品を摂取した.本試験は北海道医療大学個体差医療科学センター倫理委員会の承認を得て行った(第2014-006号,UMIN000015253).<選抜基準>a)器質的眼疾患がなく眼疲労を自覚している者,VDT作業に1年以上従事している者,または日常的に自宅でTVゲームやコンピュータを使う者で,かつb)矯正視力両眼1.0以上とした.<除外基準>a)重篤な眼疾患の既往のある者または罹患者,b)眼精疲労の改善が期待される医薬品または健康食品などを常用している者,c)肝,腎,心,肺,消化器などに重篤な既往のある者(虫垂切除などは可)および罹患者,d)薬物および関与成分に関する食物アレルギーのある者,e)屈折異常があり,適切な矯正を行っていない者,f)神経性など調節性眼精疲労以外に疲労原因があると推測される者,g)試験期間中に妊娠を希望する者または妊婦(妊娠している可能性のある場合を含む)あるいは授乳中の者,h)他の臨床試験に参加中あるいは試験終了28日以内の者,i)その他試験責任医師が不適格であると判断した者を除外した.参加者には試験期間中の生活全般を試験開始前と大きく変化させないよう,かつ健康維持に努めるよう指導した.飲食および適量の飲酒・喫煙に関しては制限しなかった.2.調査項目および方法スクリーニング調査項目として,血液検査,一般眼科検査および眼底写真撮影,およびMPS-2(エムイーテクニカ)を用いた黄斑色素密度検査を行った.臨床試験開始後はドライアイ・スクリーニングソフトウェアTSASR(TearStabilityAnalysisSystem)(ニデック)を用いたドライアイ検査,トライイリス(TriIRIS)-C9000R(浜松ホトニクス)を用いた他覚的調節力検査(瞳孔緊張率),レーザースペックルフローグラフィー(Laserspeckleflowgraphy:LSFG,ニデック)を用いた眼底血流速度測定,各種アントシアニン濃度測定(HPLC法),VAS(VisualAnalogueScale)を用いた自覚的眼精疲労度アンケート調査6項目(目が疲れやすい,目がかすむ,物がちらついて見える,肩・腰がこる,頭痛が起きやすい,焦点がぼやける)を検討した.さらにすべての参加者に日誌を配布し,試験食品摂取時刻・自覚症状・特記事項を摂取期間中毎日記録させた.VASでは10cmの黒い線に右端を「まったくそうである」,左端を「まったく違う」と設定し,自覚症状の程度を参加者自身がマークする方法で評価した.各参加者の摂取開始日のVASスコアを0とし,各評価日のVASスコアとの差を変化量の実測値とした.検査当日のタイムスケジュールは,来院前日は21時以降絶食.翌朝,医師の問診→眼科各種検査→試験食品摂取→自覚症状アンケート→採血・採尿(試験食品摂取1時間後)とした.3.解析方法SAS9.3R(SASInstitute)を用いて統計解析を行った.有効性評価項目および安全性評価項目として摂取開始前と摂取14および28日後との比較は対応のあるt検定を行った.また,P群とB1群およびB3群との比較は,Bartlett法により等分散性の検定を行い,等分散の場合にはDunnett法により平均値の比較を,不等分散の場合はSteel法により平均順位の比較を行った.有意水準はBartlett法,t検定,Wilcoxonの符号付順位和検定,Dunnett法,Steel法では5%または1%とした.II結果1.対象者の試験前評価問診と事前検査を経て参加者36名(男性17名,女性19名)を選抜し,無作為にプラセボ群(P群),ミルトアルゴスR160mg群(B1群),ミルトアルゴスR480mg群(B3群)にそれぞれ均等に割り付けた.平均年齢は39.8歳(24?56歳),平均屈折値は?2.66D(+1.33D??9.58D)であった.試験期間中に屈折矯正手段を変更した者はいなかった.途中,本人都合,試験期間中の不適切な生活習慣(大量飲酒),試験カプセルの摂取忘れにより3名が脱落したが,すべて異なる群であり最終日まで検査を遂行できたのは各群11名,計33名(男性16名,女性17名)であった.トライイリス検査では左右眼の測定値を平均して個人の測定値とした.黄斑色素密度はプラセボ群(0.511±0.044),B1群(0.455±0.048),B3群(0.638±0.064)間で差はなかった.血液検査,眼底検査で重篤な疾患をもつ者はいなかった.調査開始時のベースラインにおける各群における参加者の性別,ドライアイ検査,黄斑色素密度,瞳孔緊張率(眼精疲労),自覚的な眼の疲労度に有意差はなかった.2.ビルベリーエキス摂取後血漿中アントシアニン濃度調査開始前には血漿中にアントシアニンは検出されなかった.試験開始後もプラセボ群(P群)ではいずれのアントシアニンも検出されなかった.摂取群ではB1,B3両群とも各種アントシアニン濃度が上昇しており,その濃度上昇は摂取用量依存的であった.血漿中の各種アントシアニン濃度は各群・各時点で一致しており,適切に摂取・吸収されていると考えられた(図1).3.他覚的検査結果他覚的眼精疲労評価ではトライイリスによる瞳孔緊張率変化量に有意な改善がみられた(p<0.05,図2).調査開始28日後,B1群では調査開始前と比較して瞳孔緊張率変化量は?7.07±2.42(n=11,p=0.011),B3群では?6.49±2.48(n=11,p=0.014)であり,P群と比較して両群とも有意な改善がみられた.一方,ドライアイ検査,眼底血流速度には有意な変化はみられなかった.4.自覚的眼精疲労度アンケート調査結果VASスケールを用いて自覚的眼症状を検討した.「目の疲れやすさ」「チラつき感」「頭痛」「目のかすみ」の各項目ではミルトアルゴス摂取群で有意な改善がみられた(図3).各評価日のP群のVASスコアを0とした場合,主要評価項目である「目の疲れやすさ」は28日目にB3群で?35.7±17.0と有意に軽減した(p<0.05).「チラつき感」は14日目のB1群,B3群でP群に対してそれぞれVASスコア?28.5±22.7,?44.9±18.9と有意に軽減し(p<0.05),28日目においてもB3群でP群に比較して?63.0±19.5と有意に軽減していた(p<0.05).「頭痛が起きやすい」では28日目でB3群がP群に比較してVASスコアは?49.0±25.8と有意に改善した(p<0.05).「目がかすむ」はB1群で?30.8±11.6,+11.6±24.4,?5.5±22.9(それぞれ開始前,14日目,28日目,以下同様),B3群で?0.02±9.6,+45.2±22.9,?22.1±17.9*(*p<0.05)であった.一方,「肩・首のこり」はB1群で?11.6±11.3,?3.9±19.1,?2.6±20.1,B3群で+4.0±6.4,+9.5±15.2,?13.5±16.0,「焦点のぼやけ」はB1群で+9.5±14.7,+22.5±21.5,+22.8±24.1,B3群で?0.6±14.9,?4.5±17.8,?16.4±16.3であり,両方の質問項目に対して高用量群で28日目に自覚症状が軽減傾向であったが,有意差はみられなかった.III考按ビルベリーの主要成分であるアントシアニンは抗酸化作用・抗炎症作用をもつ7?9).現在一般に販売されているブルーベリーはビルベリーの栽培種である.アントシアニンはこれまでに500種類以上の組成物が知られている10).ビルベリー/ブルーベリーの視覚への効果が広く注目されたのは,第二次世界大戦中に闇の中でも標的が見やすいとイギリス空軍兵士がブルーベリージャムを積極的に摂取したエピソード以降であるが,今日ではこれは戦時下における情報撹乱戦術の一環だったと考えられており,科学的根拠は不明確である11).戦後の1965年からビルベリー,あるいは主成分アントシアニンに対する眼症状の効果が改めて検証され始め,現在までに日本を含むさまざまな国で暗視力・視野の改善効果,眼精疲労改善効果,近視改善効果などが検討されている11?13).今回筆者らは標準ビルベリー果実抽出物であるミルトアルゴスRを経口摂取し,日常のVDT作業負荷に伴う眼精疲労に対する臨床効果を検討した.これまでアントシアニンの眼症状に対する効果に関しては,蛍光眼底造影検査や網膜電図14),中心フリッカー測定15,16),Schirmer検査17)などでの評価がある.今回筆者らはこれまで報告されていないトライイリスによる調節力,TSASRによる涙液安定性,LSFGによる眼底血流速度の評価を試みた.トライイリスによる他覚的調節機能評価では28日間摂取後に瞳孔緊張率が有意に低下・改善していた.トライイリスによる瞳孔緊張率変化量は眼精疲労の他覚的評価法の一つであり,瞳孔緊張率とは瞳孔横径を測定開始直後と終了時から算出し,眼精疲労の他覚的評価の指標として有用であると考えられている18).また,VASスコアによる自覚的眼疲労評価でも「眼疲労感」「目のちらつき」「頭痛」「目のかすみ」が有意に改善した.標準ビルベリー抽出物でのVASスコア自覚的眼精疲労は他施設でも改善が報告されており19),今回の筆者らの結果と矛盾しない.ミルトアルゴスRに含まれるアントシアニンは摂取後約30分で最大血中濃度に到達し,摂取後2時間30分で半減することが確認されている6).本試験は問診→検査→試験食品摂取→採血という流れで行ったため,今回の各種眼科検査・評価は摂取前の血中濃度がトラフレベル状態である.涙液安定性試験やLSFGによる眼底血流速度に有意差がみられなかったが,経口摂取後に速やかに検査を施行すればこれらでも高い有効性が得られた可能性が残る.今後さらに検討が必要であると考えられた.IVまとめ特定条件の標準ビルベリー抽出物ミルトアルゴスRの28日間連日経口摂取は,血漿中アントシアニン濃度を上昇させ,VDT作業や近見作業などによる眼の慢性疲労軽減と調節改善に対して有用性が期待された.謝辞:本研究を行うにあたりご協力いただきました学校法人吉田学園医療歯科専門学校,同校の藤戸章子視能訓練士,ならびに北海道大学病院眼科視能訓練士の溝口亜矢子,阿部朋子,石垣さやか,橋本勇希,南陽子,長谷川裕香,竹下なみ,石川由梨,滝田亜かりの各氏に深謝いたします.利益相反:(株)オムニカF文献1)GopalanA,ReubenSC,AhmedSetal:Thehealthbenefitsofblackcurrants.FoodFunct3:795-809,20122)小出良平,植田俊彦:視機能に及ぼすホワートルベリーエキスの効果.あたらしい眼科11:117-121,19943)瀬川潔,橘本賢次郎,川田晋:VDT作業負荷による眼精疲労自覚症状および調節機能障害に対するビルベリー果実由来アントシアニン含有食品の保護的効果.薬理と治療41:155-165,20134)小齊平麻里衣,北市伸義:標準ビルベリー果実抽出物による眼疲労改善効果.薬理と治療43:397-403,20155)小齊平麻里衣,高尾久貴,葉山隆一ほか:ビルベリー果実由来特定アントシアニン摂取によるVDT負荷眼疲労の回復効果.薬理と治療43:1339-1346,20156)EidenbergerT:ComparativeHumanInVitroandInVivoBioavailabilityInvestigationofBilberryAnthocyaninsinDifferentComplexLigandswithDifferentCopigmentationStatus.Anthocyanins:Structure,BiosynthesisandHealthBenefits.NovaSciencePublishers,Inc,NY,p259-28,20127)MiyakeS,TakahashiN,SasakiMetal:Visionpreservationduringretinalonflammationbyanthocyanin-richbilberryextract:cellularandmolecularmechanism.LabInvest92:102-109,20128)YaoN,LanF,HeRRetal:Protectiveeffectsofbilberry(VacciniummyrtillusL.)extractagainstendotoxininduceduveitisinmice.JAgricFoodChem58:4731-4736,20109)ShirleyZS,TaharatY,ManashiBetal:Berryanthocyaninsasnovelantioxidantsinhumanhealthanddiseaseprevention.MolNutrFoodRes51:675-683,200710)WuX,PriorRL:Identificationandcharacterizationofanthocyaninsbyhigh-performanceliquidchromatography-electrosprayionization-tandemmassspectrometryincommonfoodsintheUnitedStates:vegetables,nuts,andgrains.JAgricFoodChem53:3101-3113,200511)北市伸義:眼と健康食品.日本食品安全協会会誌11:1-8,201612)JayleGE,AubryM,GaviniHetal:StudyconcerningtheactionofanthocyanosideextractsofVacciniumMyrtillusonnightvision(ArticleinFrench).AnnOcul(Paris)198:556-562,196513)RouherF:“Isitpossibletoimprovethenightvisionofcardrivers?”AnnMedAccidentsTraffic:3-4,196514)RepossiP,MalagolaR,DeCadilhacC:Theroleofanthocyanosidesonvascularpermeabilityindiabeticretinopathy.AnnOttalmolClinOcul113:357-361,198715)ContestabileMT,AppolloniR,SuppressaFetal:ProlongedtreatmentwithhighdosageofVacciniummyrtillusanthocyanosides:electrophysiologicalresponseinmyopicpatients(ArticleinItalian).BollOculist70:1157-1169,199116)OzawaY,KawashimaK,OnoueSetal:Bilberryextractsupplementationforpreventingeyefatigueinvideodisplayterminalworkers.JNutrHealthAging19::548-554,201517)川田晋:ビルベリー果実エキス(ミルトセレクト(R)がドライアイおよび酸化ストレスに及ぼす影響.新薬と臨床60:2151-2161,201118)藤原篤之,田淵昭雄,藤原睦子ほか:TriIRISC9000における正常値の検討.日本視能訓練士協会誌36:67-72,200719)濱舘直史,松本祥幸,四倉磨美ほか:ビデオディスプレイ端末光への曝露に起因する眼精疲労自覚症状に対するビルベリー果実抽出物含有食品の保護的効果.ProgMed34:2041-2051,2014〔別刷請求先〕北市伸義:〒002-8072札幌市北区あいの里2条5丁目北海道医療大学病院眼科Reprintrequests:NobuyoshiKitaichi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,HealthSciencesUniversityofHokkaido,Ainosato2-5,Kita-ku,Sapporo002-8072,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(117)17951796あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(118)図1各検査日における血漿中各種アントシアニン濃度(mean±SD,n=11)試験食品摂取1時間後に測定し,摂取量依存的に血漿中濃度が上昇した.試験期間中,血漿中アントシアニン濃度は各群とも安定しており,本抽出物は安定した吸収率を示した.(119)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161797図2他覚的眼疲労評価(トライイリス,mean±SD,n=11)ビルベリー摂取群では低用量群(B1群),高用量群(B3群)のいずれも28日目に瞳孔緊張率が有意に改善した(*p<0.05)図3自覚的眼疲労感に関するVASスコア(mean±SD,n=11)プラセボ群(P群)VASスコアとの比較値.A:「眼の疲れやすさ」,B:「チラつき感」,C:「頭痛」,D:「目がかすむ」の項目で,ビルベリー摂取群では28日目に自覚症状が有意に軽減しており,いずれも用量依存的であった(*p<0.05).一方,E:「肩・腰がこる」,F:「焦点がぼやける」の項目では,高用量群で低用量群より症状軽減傾向がみられたが有意差はなかった.1798あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(120)(121)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617991800あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(122)

眼疲労を訴えるドライアイ患者に対するジクアス点眼液3%の有効性

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):871.875,2015c眼疲労を訴えるドライアイ患者に対するジクアス点眼液3%の有効性吉田紳一郎藤原慎太郎松本佳浩石川功吉田眼科病院EffectofDiquafosolSodiumOphthalmicSolutioninDryEyePatientswithEyeFatigueasthePrimarySubjectiveSymptomShinichiroYoshida,ShintaroFujiwara,YoshihiroMatsumotoandIsaoIshikawaYoshidaEyeHospitalドライアイは,自覚症状として目の疲れを生じる眼表面の慢性疾患である.眼疲労を主訴とするドライアイ患者に対して,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(HA)にジクアホソルナトリウム点眼液(DQS)またはシアノコバラミン点眼液(SCB)を併用したときの,自覚症状および他覚所見の改善効果について比較検討した.角結膜染色スコア,涙液層破壊時間(BUT)および自覚症状について,治療前および治療4週目を比較した.両群とも角結膜上皮障害は治療前に比較して有意に改善したが,DQS併用群のみBUTが有意に延長した.「目の疲れ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごろごろする」「目の痛み」は,両群とも治療前に比較して治療4週後に有意に改善した.「目の乾き」は,DQS併用群がSCB併用群に比較して有意に改善した.以上,DQSとHAの併用は眼疲労感を主訴とするドライアイ患者の治療に有用と考えられた.Dryeyeisachronicdiseaseofthetearfilmandocularsurface,anditsprimarysubjectivesymptomincludeseyefatigue.Weinvestigatedtheeffectsofthecombinationofdiquafosolsodium(DQS)andsodiumhyaluronate(HA)eyedropscomparedtotheeffectsofthecombinationofcyanocobalamin(SBC)eyedropsandHAforthetreatmentofdryeyepatientswitheyefatigue.Theocularsurfacevitalstainingscore,tear-filmbreak-uptime(TBUT),andsubjectivesymptomsscorewerecomparedatbaselineandat4-weeksposttreatment.InboththeDQSandtheSCBtreatmentgroups,thestainingscorewassignificantlyimproved,butonlytheDQStreatmentsignificantlyextendedTBUT.Somesubjectivesymptoms,includingeyefatigue,wereamelioratedinbothtreatmentgroups.TheDQStreatmentsignificantlyimprovedthesensationofdrynessincomparisontoSCB.Thus,thecombinationofDQSandHAwasfoundusefulforthetreatmentofdryeyepatientswitheyefatigue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):871.875,2015〕Keywords:ドライアイ,ジクアホソルナトリウム点眼液,眼疲労.dryeye,diquafosolsodiumophthalmicsolution,eyefatigue.はじめにドライアイは,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されており1),日常の診療においても,さまざまな不定愁訴をもつドライアイ患者に遭遇する.近年,パソコンやスマートフォンの急速な普及により,われわれはvideodisplayterminal(VDT)作業を行うような環境のなかで生活するようになったが,長時間のVDT作業は目の疲れを誘発する.不定愁訴のなかでも,「目の乾き」を訴える患者以上に「目の疲れ」を訴える患者が多く散見され2),ドライアイと眼疲労感には密接な関係が考えられる.一般的に調節性眼精疲労の治療ではシアノコバラミン点眼液(SCB:サンコバR点眼液0.02%)が用いられているが,眼精疲労でSCBを処方される患者を対象とした調査において,85%以上がドライアイ確定例またはドライアイ疑い例であったとする報告もある3).したがって,眼精疲労の改善もさることながら,同時〔別刷請求先〕吉田紳一郎:〒041-0851北海道函館市本通2丁目31-8吉田眼科病院Reprintrequests:ShinichiroYoshida,M.D.,Ph.D.,YoshidaEyeHospital,2-31-8Hondori,HakodateCity,Hokkaido041-0851,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(107)871 に目の疲れを訴える患者に対しては,原因となるドライアイの適切な診断および治療が非常に重要であり,他覚所見に加えて自覚症状の改善が不可欠な要素となる.2010年12月に発売されたジクアスR点眼液3%(DQS)は,水分およびムチンの分泌を促進することにより,ドライアイの病態形成におけるコアメカニズムである,涙液の不安定化と角結膜上皮障害の間の悪循環を涙液側から改善するドライアイ治療点眼液である4).その結果,ドライアイにより生じた角結膜上皮障害およびさまざまな自覚症状を改善する5,6).今回,眼疲労感を主訴として来院したドライアイ患者に対して,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(HA:ヒアレインR点眼液0.1%)にDQSまたはSCBを併用したときの,自覚症状および他覚所見の改善効果について比較検討した.I対象および方法1.対象2012年7月.2013年9月に吉田眼科病院を受診し,「ドライアイ診断基準」(ドライアイ研究会,2006年)に準じたドライアイの自覚症状があるドライアイ確定例または疑い例で,眼疲労を主訴としたドライアイ患者45例に対して,HA(1日4回点眼)にDQS(1日6回点眼)またはSCB(1日4回点眼)を併用して治療を行った.なお,併用するときの2剤の点眼間隔は5分としたが,順序に関してはとくに指示しなかった.エントリーした45例のうち,治療開始4週後に受診し,データ解析が可能であった39例39眼(男性2例,女性37例)を解析した.なお,解析対象眼はフルオレセイン染色による角結膜上皮染色スコアが高い眼を評価対象眼とし,スコアが両眼同じ場合は右眼を評価対象眼とした.2.方法治療前および治療4週後における自覚症状および他覚所見について,群間比較および群内比較を行った.自覚症状として,目の疲れ,目の乾き,目の不快感,目がゴロゴロする,目の痛み,物がかすんで見える,光をまぶしく感じる,目のかゆみ,目が重たい感じがする,目やにが出る,涙がでる,目が赤くなる,の12項を4段階(0:症状なし,1:少し辛い,2:辛い,3:とても辛い)で評価した.他覚所見としては,フローレス眼検査用試験紙を用いて最少量のフルオレセインを点入後,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)を測定した.また,2006年ドライアイ研究会の診断基準1)に基づき角結膜上皮染色スコア(0.3段階:9点満点)を評価した.3.統計解析BUTの治療前と治療4週後の比較には対応のあるt検定を,また,HAとDQSの併用群(DQS群)およびHAとSCBの併用群(SCB群)の比較は,平均変化量(4週目の値.治療前の値)を用いてt検定を行った.自覚症状スコアおよび角結膜上皮障害スコアの治療前と治療4週後の比較には,Wilcoxon1標本検定を,DQS群とSCB群の比較は,平均変化量を用いてWilcoxon2標本検定を行った.検定の有意水準は両側5%(p<0.05)とした.II結果1.対象および背景因子解析対象39例の背景因子を表1に示す.DQS群およびSCB群の間で,性別,年齢,コンタクトレンズ装用の有無およびVDT作業時間に差は認められなかった.2.有効性および安全性の比較他覚所見において,BUTについてDQS群は,治療前3.8±1.5秒から治療4週後5.7±2.4秒と有意な改善を示したが(p=0.0001),SCB群ではそれぞれ3.8±1.2秒から4.6±1.8秒と有意な改善は認められなかった(p=0.0542)(表2).BUTの変化量に関しては2群間に有意な差はなかった(p=0.0576).角結膜上皮染色スコアは,DQS群およびSCB群ともに治療前に比較して治療4週後に有意な改善を認めた(それぞれp=0.0065およびp=0.0078).変化量について2群間に差はなかった(p=0.5792)(表3).自覚症状スコアの結果を表4に示す.自覚症状の合計スコアは,DQS群,SCB群ともに,治療前に比較して治療4週表1解析対象患者の背景因子HA+DQS群(n=21)HA+SCB群(n=19)p値性別女性男性1921800.4899a年齢(歳)51.3±17.656.2±14.10.3412b有20CL装用無19180.1100aVDT作業時間(時間)4.2±3.03.9±3.50.7808ba:Fisherの直接確立法,b:t検定.872あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(108) 表2BUTの変化の比較治療開始前治療4週間後平均変化量群内比較a)群間比較b)HA+DQS群3.8±1.5(秒)5.7±2.4(秒)1.9±1.8(秒)p=0.0001HA+SCB群3.8±1.2(秒)4.6±1.8(秒)0.9±1.7(秒)p=0.0542p=0.0576値は平均値±SDを示す.a):対応のあるt検定,b):t検定.表3角結膜上皮染色スコアの変化の比較治療開始前治療4週間後平均変化量群内比較a)群間比較b)HA+DQS群2.7±1.11.7±1.4.1.0±1.4p=0.0065p=0.5792HA+SCB群2.7±1.91.8±2.2.0.9±1.3p=0.0078値は平均値±SDを示す.a):Wilcoxonの1標本検定,b):Wilcoxonの2標本検定.表4自覚症状スコアの比較項目群治療前4週後変化量群内比較1)群間比較2)HA+DQS1.4±0.90.4±0.5.1.0±0.9p=0.0001目の疲れHA+SCB1.3±0.80.6±0.6.0.8±0.8p=0.0027p=0.6830HA+DQS2.0±0.90.9±0.9.1.1±1.0p=0.0003目の乾きHA+SCB1.2±0.90.7±0.8.0.4±0.7p=0.0352p=0.0370HA+DQS1.5±0.70.7±0.7.0.9±1.0p=0.0017目の不快感HA+SCB1.4±1.00.6±0.9.0.8±0.9p=0.0039p=0.8942HA+DQS1.1±0.90.6±0.7.0.5±0.9p=0.0278目がゴロゴロするHA+SCB1.3±0.90.4±0.8.0.9±0.6p=0.0001p=0.0662HA+DQS1.1±0.80.3±0.6.0.8±0.9p=0.0020目の痛みHA+SCB1.3±0.80.6±0.7.0.8±0.9p=0.0020p=0.6756HA+DQS0.8±1.00.6±0.8.0.2±0.9p=0.3984物がかすんで見えるHA+SCB0.8±0.90.6±0.9.0.3±0.8p=0.2344p=0.4664HA+DQS0.9±0.80.7±0.9.0.2±0.7p=0.3438光をまぶしく感じるHA+SCB0.8±0.80.4±0.6.0.3±0.6p=0.0625p=0.3546HA+DQS0.3±0.70.4±0.70.1±0.5p=0.6875目のかゆみHA+SCB0.7±0.80.3±0.5.0.4±0.6p=0.0313p=0.0161HA+DQS0.8±0.90.3±0.5.0.5±0.8p=0.0156目が重たい感じがするHA+SCB0.7±0.70.4±0.6.0.3±0.8p=0.1484p=0.7556HA+DQS0.4±0.80.5±0.70.1±0.6p=1.0000目やにが出るHA+SCB0.3±0.50.2±0.4.0.2±0.4p=0.2500p=0.2103HA+DQS0.2±0.50.3±0.60.1±0.7p=1.0000涙が出るHA+SCB0.2±0.40.1±0.3.0.1±0.2p=1.0000p=0.7201HA+DQS0.6±0.90.3±0.7.0.3±0.8p=0.1719目が赤くなるHA+SCB0.7±0.80.3±0.6.0.3±0.6p=0.0625p=0.7610HA+DQS11.2±4.26.0±5.6.5.3±6.2p=0.0009自覚症状合計HA+SCB10.7±5.75.1±5.6.5.7±3.9p=0.0001p=0.8321値は平均値±SDを示す.1):Wilcoxonの1標本検定,2):Wilcoxonの2標本検定.(109)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015873 後有意に改善し(それぞれp=0.0009およびp=0.0001),そドライアイにおいて,涙液の安定性を高めることにより実用の変化量に有意な差はなかった(p=0.8321).各自覚症状を視力および高次収差を改善することが報告されており12,13),見てみると,「目の疲れ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごこの涙液安定性の効果が,目の疲れに関する自覚症状を軽減ろごろする」「目の痛み」に関して,両群とも治療前に比較したものと考えられた.して治療4週後に有意に改善した.また,「目の乾き」に関本研究では,角結膜障害スコアの改善においてSCB群おしては,DQS群がSCB群に比較して有意に改善する効果をよびDQS群ともに治療前に比して有意な改善を認め,両群示した(p=0.0370).さらに,「目が重たい感じがする」は間に顕著な差は認めなかった.この理由として,治療前の角DQS群でのみ治療前に比較して治療4週後に有意に改善し結膜上皮障害スコアの平均が2.7と比較的軽症のドライアイた.一方,「目のかゆみ」に関してはSCB群でのみ治療前に患者がエントリーされていたこと,およびHAが併用薬と比較して有意に改善し,DQS群と比較しても有意差が認めして投与されていたことで,SCB併用群とDQS併用群の間られた(p=0.0161).で上皮障害スコアの改善に顕著な差が認められなかったこと副作用は,試験を通じて認められなかった.が考えられる.そのような条件においてもDQS群ではSCBIII考按群よりもBUTでみられた涙液安定性を高める作用を示す傾向が認められた.このことは,DQSの水分分泌9)およびム本研究では眼疲労感を伴うドライアイに対してDQSはチン分泌作用13)が涙液層の安定化を改善していることを示HAとの併用ではあるが,治療効果が高いことが明らかになすものである.った.自覚症状軽減に効果のあった項目としては「目の疲本研究の限界として,つぎの2点があげられる.DQSのれ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごろごろする」「目の痛水分分泌促進作用は点眼30分まで持続することが報告されみ」といったもので,これらの症状が強いドライアイでは,ており9),他覚所見の診察直前に点眼した患者が含まれる場そうした併用治療は効果が高いということになる.「目の乾合には,その影響が反映される可能性が考えられた.データき」以外の症状では,SCBとの併用でも自覚症状の改善がの標準偏差値をみる限り大きく外れた値はなかったことから有意にみられているが,「目の乾き」についてはDQSとのそのような患者は含まれていないと推測されるが,プロトコ併用のほうが著明に高い効果を示しており,乾きの強い症例ールに規定していないため本研究の限界として否定できないにはHAにDQSを併用する治療に優位性があるといえる.ものである.また,DQS併用群とSCB併用群では点眼回数SCBは調節性眼精疲労患者の反復測定時の調節時間,緊が異なり,その影響が結果に反映されている可能性は考えら張・弛緩運動の改善傾向がみられ,微動調節運動において有れる.本研究では対象がドライアイ患者であるので,点眼回意の改善する作用をもつ点眼液である8).一方,DQSは水分数の多さが治療効果に繋がっていないことを証明することはおよび分泌型ムチンを分泌促進することにより,涙液層を安今後の課題としてあげられる.定にして間接的に目の疲れをはじめとする自覚症状を改善す以上,DQSは眼疲労感を主訴とするドライアイ患者におる.DQSの水分分泌促進作用は点眼後30分継続することがいて,HAとの併用により自覚症状および他覚所見を有意に報告されており9),この効果がSCB群に比較して目の乾き改善し,ドライアイ治療に有用な薬剤と考えられた.を有意に改善する結果に繋がっていると考えられた.DQSはHAに抵抗するドライアイに対しても併用することで改善効果が報告10)されており,SCBにDQSまたはHAの併用利益相反:利益相反公表基準に該当なしを比較するほうが興味深い結果が出たのではないかと予想され,今後の検討課題としたい.文献DQSとHAの併用投与は,涙液層の安定性を高めるとと1)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基もに「目の疲れ」をはじめとする自覚症状を改善した.ドラ準.あたらしい眼科24:181-184,2007イアイでは,通常の視力検査において1.0のような良好な視2)引地泰一,吉田晃敏,福井康夫ほか:厳しい診断基準とゆ力が得られる患者においても,1分間の連続視力を測定するるい診断基準のドライアイについての多施設共同研究.臨実用視力では顕著な視力低下が認められている11).これは,眼48:1621-1625,19943)五十嵐勉,大塚千明,矢口千恵美ほか:シアノコバラミ角膜上の涙液層が不安定な状態で短時間において涙液層が破ンの処方例におけるドライ頻度.眼紀50:601-603,1999綻するために,光学面に不整が生じてピントが合わなくなる4)NakamuraM,ImanakaT,SakamotoA:Diquafosolophためと考えられている.このようにピント調節を常時必要とthalmicsolutionfordryeyetreatment.AdvTher29:する状態の継続は毛様体筋への負荷を大きくするため,「目579-589,20125)TakamuraE,TsubotaK,WatanabeHetal:Aranの疲れ」といった自覚症状を生じると推察される.DQSは874あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(110) domised,double-maskedcomparisonstudyofdiquafosolversussodiumhyaluronateophthalmicsolutionsindryeyepatients.BrJOphthalmol96:1310-1315,20126)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,20127)UchinoM,YokoiN,UchinoYetal:Prevalenceofdryeyediseaseanditsriskfactorsinvisualdisplayterminalusers:theOsakastudy.AmJOphthalmol156:759-766,8)鈴村明弘:VitaminB12点眼剤による眼精疲労患者の調節機能,特にPEAGの動向.眼紀28:340-354,19779)YokoiN,KatoH,KinoshitaS:Facilitationoftearfluidsecretionby3%diquafosolophthalmicsolutioninnormalhumaneyes.AmJOphthalmol157:85-92,201410)KamiyaK,NakanishiM,IshiiRetal:Clinicalevaluationoftheadditiveeffectofdiquafosoltetrasodiumonsodiumhyaluronatemonotherapyinpatientswithdryeyesyndrome:aprospective,randomized,multicenterstudy.Eye26:1363-1368,201211)海道美奈子:ドライアイにおける視機能異常.あたらしい眼科29:309-314,201212)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosoltetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshortbreak-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595603,201313)KohS,MaedaN,IkedaCetal:Effectofdiquafosolophthalmicsolutionontheopticalqualityoftheeyesinpatientswithaqueous-deficientdryeye.ActaOphthalmol92:e671-675,201414)堀裕一:ドライアイに対する眼表面の層別診断・層別治療-4)ムチン層.眼科55:1251-1256,2013***(111)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015875

事象関連電位とATMT による眼疲労の検討

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(137)1459《原著》あたらしい眼科27(10):1459.1465,2010c事象関連電位とATMTによる眼疲労の検討有安正規足立和孝あだち眼科ExaminationofVisualFatigueUsingEvent-relatedPotentialMeasurementandAdvancedTrailMakingTestMasakiAriyasuandKazutakaAdachiAdachiEyeClinic目的:眼疲労の臨床症状から,その要因を視機能の低下と知覚・認知能力の低下を伴う眼疲労感ととらえ,visualdisplayterminal(VDT)作業負荷下で,事象関連電位(event-relatedpotentialmeasurement:ERP)とadvancedtrailmakingtest(ATMT)を用い客観的評価を,調節近点を自覚的評価として眼疲労を訴える成人4名と健常対象者4名を対象に比較検討した.結果:(1)ATMTにおいて,眼疲労群では課題に取り組む意欲や作業能力は健常対照群と同じレベルにもかかわらず,試験課題が進むにつれ,視覚探索反応時間の遅延がみられた.(2)一次視覚野の反応であるERPのP100成分は,潜時には両群で有意差はみられず,振幅では眼疲労群で有意に増大した.(3)オドボール課題から標的を非標的から弁別する際に出現するERPのP300成分では,両群で潜時に有意差はみられず,眼疲労群で非標的刺激による振幅が標的の振幅に近づき,弁別性の低下がみられた.これは主観的疲労感との相関が認められた.(4)ERPの振幅や潜時と調節近点との差は両群とも認められなかった.考察:視覚情報,認知機能,眼調節機能の変化は,両群とも独立的な情報を含んでいると考えられた.すなわち,眼疲労は眼調節系の疲労と認知機能の低下と考えられる中枢系の疲労の2種類で構成されていること,疲労しやすい病態にあることが考えられた.眼疲労の評価には,個々の昜疲労性を定量化し,眼調節系と高次認知過程のレベルを分離して検討する必要があると考えられた.Objective:Onthebasisofclinicalanalysisofvisualfatiguesignsandsymptoms,weassumedthatvisualfatigueinvolveddeteriorationofvisualfunctionandperceptivecognitiveabilities.Duringtheperformanceofvisualdisplayterminaltasks,event-relatedpotentials(ERP),advancedtrailmakingtest(ATMT)scoresandnearpointofaccommodationwerecomparedbetween4adultsubjectswhocomplainedofvisualfatigue(visual-fatiguegroup)and4normalvolunteers(normalgroup).Results:(1)TheATMTresultsshowedalaginthevisualsearchreactiontimeforthevisual-fatiguegroupastasksprogressed,thoughthelevelsofwillingnesstoundertaketasksandperformanceskillsweresimilarbetweenthegroups(.2)AnalysisoftheP100ERPcomponent,whichrepresentedtheprimaryvisualresponses,disclosednomarkeddifferenceinpeaklatencybetweenthegroups,buttheamplitudewassignificantlylargerinthevisual-fatiguegroup(.3)TheP300ERPcomponent,whichreflectedtarget/nontargetdiscriminationinthevisualoddballtask,revealednosignificantdifferencesbetweenthegroupsinpeaklatency;however,themeannontarget-evokedP300amplitudewaselevatedclosetothetarget-evokedamplitudeinthevisual-fatiguegroup,indicatingdecreaseddiscriminationperformance.PositivecorrelationwasnotedbetweenthechangeinP300amplitudeandthesubjectiveindicationofthesenseofeyestrain(.4)NosignificantdifferencewasfoundbetweenthegroupsinERPamplitude,peaklatencyornearpointofaccommodation.Discussion:Inbothgroups,changesinvisualcognitiveperformanceandocularaccommodationindicatedtheprocessingofmutuallyindependentinformation.Specifically,itwasshownthatvisualfatiguewasassociatedwithexhaustionoftheocularaccommodationsystemandfatigueofthecentralnervoussystem,whichisresponsibleforcognitivecontrol.Itwasalsoshownthatindividualswithvisualfatigueweremorepronetomentalexhaustionthancontrols.Inconclusion,theseresultssuggestthatacomprehensiveassessmentofeyestrainshouldincludequantificationofsubjectfatigabilityandseparateexaminationsoftheocularaccommodationsystemandthehighercognitiveprocess.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1459.1465,2010〕〔別刷請求先〕有安正規:〒347-0015埼玉県加須市南大桑下鳩山1620-1あだち眼科Reprintrequests:MasakiAriyasu,AdachiEyeClinic,1620-1MinamiO-kuwa,Kazo,Saitama347-0015,JAPAN1460あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(138)はじめに現在,社会のあらゆる領域でIT化が進み,visualdisplayterminal(VDT)作業による眼疲労の訴えが増加している1).そのため眼疲労の適切な診断方法の確立の必要性が高まっている.これまで眼疲労の測定方法の先行研究としては,criticalflickerfrequency(CFF)のように計測手順に主観的な要素を多く含み視覚情報処理過程全般を計測しているもの2,3)や,アコモドメータ,赤外線オプトメータ,調節機能解析ソフトなどによる眼調節機能の測定など入力系である眼調節系を中心とした機能低下を測定する方法が用いられている3~6).しかしこれらの結果は必ずしも自覚症状と一致しないことが多いという問題点がある.現時点で眼疲労を訴え眼科を受診した場合,蓄積疲労状態を積極的に疾病と位置づける根拠はまだ少なく,その診断はおもに除外診断と眼科診療上の判断によってなされ,その扱いは曖昧にならざるをえない.視覚情報は眼球から脳の視覚領野に送られ認知的な処理がなされることを考えると,視覚作業による負荷は大脳皮質においても何らかの変化を生じさせていると考えられる.その変化をとらえることで眼疲労の視覚情報処理過程における中枢処理段階,とりわけ高次な認知的処理過程の機能低下を客観的に検討できる可能性が考えられる.そこで,本研究では事象関連電位(event-relatedpotentials:ERP)を用い,眼疲労の視覚情報処理過程での客観的な評価方法を検討した.ERPは,視覚情報の入力段階から中枢処理までの機能を反映していると考えられており7),特にP300成分は高次の認知過程を反映するとされている.そこで一次視覚野の反応であるP100成分と,標的を非標的から弁別する際に現れるP300成分を指標とした8).さらに,疲労状態に陥ると注意力,集中力の低下,反応時間の遅延,2つのことを同時に処理する能力の低下などがみられることに着目し,advancedtrailmakingtest(ATMT)9~11)を用いた定量的評価を行った.これにあわせて眼調節機能を計測し,視覚の負担を入力系と中枢処理段階に分割して検討した.I実験方法1.対象対象は2010年2月に眼の疲れを訴え,埼玉県A眼科を受診し全身疾患および涙液機能を含めた視覚に異常のない成人4名(男性1名,女性3名,平均年齢30±3.55歳)と,年齢,性別を合致させた健常対照群4名(平均年齢30.25±3.86歳)である.2.測定項目測定項目中で眼疲労負荷の少ない測定から始める目的で,ATMT計測は試験初日に,眼疲労負荷課題を行わせるERPの計測,眼調節能計測はそれぞれ2日目,3日目とした.またこの期間では測定前日からVDT作業などせず,十分な休息を取るよう指示した.さらに,それぞれの計測前には30分ほど遮光した静かな部屋で安静にさせた.a.ATMT(視覚反応時間計測)ATMTは,タッチパネルディスプレイ上に提示された1~25までの数字を素早く押す視覚探索反応課題を用いて眼疲労,中枢性疲労の評価を行った.ATMTはA,B,Cの3つの課題から構成される9~11).この計3種類の課題をA,B,C順に行い,1から25までのターゲットボタンごとの視覚探索反応時間を記録した.評価においては,1から5までは,試験開始直後の緊張や不慣れによる影響を考慮し,分析対象値から除外した.6から25までのターゲットボタンのうち,6から15までを前半,16から25までを後半とし,その視覚探索反応時間を分析した.b.ERP計測ERP計測は,以下のI-3項に示す眼疲労負荷課題を行わせる前に1回,課題作業直後に1回,その後10分間隔に2回,その後20分おきに2回計測した.それぞれの時点で計測が終わった後の時間は計測前と同様に休息させた.まず,眼電図(EOG)の電極を装着させ,ERPの計測と同時に水平,垂直成分を計測,脳波に瞬目などの成分がノイズとして混入している場合には加算平均処理を行うデータから除外するようにした.ERP計測は両耳朶を基準に,国際基準法ten-twenty法12)によるCz,Pz,Ozから行った.ERP誘発刺激は,patternreversalstimulusの反転刺激をコンピュータのC画面上で約2秒に1回の割合で反転させて表示する手法によって与えた.反転は100msもしくは200msで元の状態に戻した.100msの反転と200msの反転は4:1の割合でランダムな順序とし,5分間計測した.このとき被験者には200msの反転が表示された回数を数えさせた.P100は100msの反転刺激のときの脳波を,刺激開始時点を合わせて約120回の加算平均処理を行った.P300は刺激弁別課題を行っているときにみられる波形であるので,200msの反転刺激のときの脳波を,刺激開始時点を合わせて約30回の加算平均処理を行った.P300の誘発刺激において200msの刺激はオドボール課題のターゲット刺激(T)に相当し,100msの刺激はオドボール課題のノンターゲット刺激(NT)に相当する.オドボール課題とは出現確率の異〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1459.1465,2010〕Keywords:事象関連電位,眼調節機能,アドバンストトレイルメイキングテスト,心的飽和,眼疲労.eventrelatedpotentials,accommodation,advancedtrailmakingtest,habituation,eyestrain.(139)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101461なる識別可能な刺激をランダムに提示し,弁別させる課題を行わせるもので,これらP300成分を測定するときに用いる.計測で得られた波形から,P100,P300の振幅と潜時,振幅率を求めた.c.眼調節機能計測試験3日目に前節のERP計測時と同じように,眼疲労負荷課題を行わせた前後に,眼調節機能の指標である調節近点を計測した.NPアコモドメータ(興和製:KOWANP)を用いて眼疲労課題前に1回,課題作業直後に1回,10分おきに2回,その後20分おきに2回の計測を行った.また,主観判断に由来するばらつきを抑えるため,被験者には測定前に調節近点計測に十分慣れる程度の練習を行わせた.さらに,再現性を確認するため,眼疲労課題前と同一の近点計測を1週間後にもう一度行った.d.主観的評価眼疲労課題終了後,被験者に眼疲労について主観的状態を報告させた.被験者には眼疲労によって「眼が痛い」,「眼がちらつく」,「視点が定まらない」,「頭が重い」,「肩が凝る」などの症状が現れうること13)を示したうえで,上記5項目につきほとんど疲れなかった場合を1,被験者が想定しうる最大の症状を10とし,10段階評定での数値を答えさせ,全得点を合計し平均値を求めた.3.眼疲労負荷課題眼疲労の条件を同一にするため,ERPおよび調節近点の測定を行う日に,眼疲労負荷作業として文字検索作業を行わせた.すなわちコンピュータの画面を被験者の眼前約30cmになるように設置し,つぎのような課題画面を表示した.画面には9ポイントのランダムなアルファベットを横32文字,縦32文字で表示し,画面左上に指示された3種類のアルファベットをマウスでクリックさせた.一度クリックした文字は文字色を薄くして区別できるようにし,どこまで作業を行ったかをわかるようにした.また被験者の頭部が動かないように顎のせ台を用いて固定すると同時に,位置関係の誤差を防ぐために頭部の位置を変えないで作業するように指示した.この作業を,1セッション5分として,途中30秒ずつ休憩をとり,12セッション(計60分)行わせた.II結果1.ATMT眼疲労群,健常対照群の課題別平均時間と両群間の視覚探索反応時間の結果を表1に示した.眼疲労群では,一部で課題前半(ターゲットボタン6~15)から視覚探索反応時間が遅いものも認められたが,A課題前半,C課題前半で,眼疲労群と健常対照群両群間に視覚探索反応時間の有意な差は認められなかった(A課題前半NS,C課題前半NS).一方,A課題後半,B課題前半,B課題後半で眼疲労群と健常対照両群の視覚探索反応時間に有意な差があった〔B課題前半(p<0.05),A課題後半(p<0.01),B課題後半(p<0.01)〕.また,A課題前半/後半の視覚探索反応時間比,B課題前半/後半の視覚探索反応時間比でも有意な差が認められた〔A課題前半/後半の視覚探索反応時間比(p<0.001),B課題前半/後半の視覚探索反応時間比(p<0.05)〕.C課題では,健常対照群に比して眼疲労群では後半の視覚探索反応時間に有意な差が認められ(p<0.05),特に偏差でばらつきがみられた(±40.99).2.ERPのP100振幅図1に眼疲労課題前後における眼疲労群と健常対照群間のERPのP100成分の振幅の変化を示した.健常対照群では表1眼疲労群と健常対照群間の視覚探索反応平均時間の比較対象A課題(ms)B課題(ms)C課題(ms)前半後半前後比前半後半前後比前半後半前後比健常者群(n=4)169.9±11.52102.4±26.260.60191.6±7.44181.4±1.770.95241.1±9.33275.0±7.211.14眼疲労群(n=4)172.8±16.10177.5±14.281.03202.1±10.23258.5±46.91.28255.9±15.21309.6±40.991.20両群間有意差NSp<0.01p<0.001p<0.05p<0.01p<0.01NSp<0.05NS平均値±標準偏差Before0*****10課題負荷後(分)振幅(μV)204060:眼疲労群:健常対照群1614121086420図1眼疲労課題前後におけるP100振幅の変化眼疲労課題前後の眼疲労群と健常対照群間のERPのP100成分の振幅の変化を示す.グラフ中の*は,眼疲労群と健常対照群間の眼疲労課題前と各課題負荷後時点でのP100振幅の変化の比較(p<0.01)を示す.(n=8)1462あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(140)課題負荷後10分以内に振幅が増大するが,その変化は経過全般を通じて少なく,一方,眼疲労群では時間経過とともに振幅が増強し,健常対照群と眼疲労群の間では課題負荷後すべての時間で有意な差がみられた(p<0.01).3.ERPのP300振幅図2に眼疲労課題前後における標的(T)刺激時,非標的(NT)刺激時の眼疲労群と健常対照群間のP300の振幅の変化を示した.T刺激時の場合では両群間で課題前後を比較すると特別な傾向は認められず(NS),NT刺激時の場合に関しては,P300振幅は眼疲労群で課題前に比べ,課題後すべての時間でより大きくなった(p<0.01).4.ERPのP300成分の振幅率の変化図3に眼疲労課題前後において,眼疲労群と健常対照群間のNT刺激時のP300の振幅をT刺激時のもので除したもの(NT/T)を示した.眼疲労群では,より眼疲労課題後に1に近づき,健常対照群と眼疲労群の間で課題前後すべての時間では有意差が認められた(p<0.01).5.ERP潜時眼疲労群と健常対照群間の眼疲労課題前後のP100,P300の潜時を求めたところ,眼疲労群でP100,P300潜時がやや短縮したが有意な差はみられなかった(P100,P300;NS).6.主観的疲労度とERPのP300成分の振幅率の関係図4に各被験者の主観的疲労度と眼疲労課題前と直後におけるP300の振幅の変化の「NT/T」の関係を示した.眼疲労群では,主観的疲労の評価の増加とともに眼疲労課題前,直後における「NT/T」の比が大きくなり,有意差がみられた(p<0.01).7.眼調節機能まずすべての計測が終了し,1週間後に同条件下で調節近点を計測したところ,眼疲労課題前との測定間でその平均値:眼疲労群:健常対照群:眼疲労群:健常対照群Before010204060*****課題負荷後(分)a:標的刺激b:非標的刺激Before010204060課題負荷後(分)振幅(μV)14121086420振幅(μV)14121086420図2眼疲労課題前後におけるP300振幅の変化a:標的刺激,b:非標的刺激.眼疲労課題前後の標的刺激時,非標的刺激時の眼疲労群と健常対照群間のP300の振幅の変化を示す.グラフ中の*は,眼疲労群と健常対照群間の眼疲労課題前と各課題負荷後時点のP300振幅の変化の比較(p<0.01)を示す.(n=8):眼疲労群:健常対照群Before0*****10204060課題負荷後(分)P300振幅率(NT/T)10.90.80.70.60.50.40.30.20.10図3眼疲労課題前後におけるP300振幅率の変化(NT/T)眼疲労課題前後において眼疲労群と健常対照群間の非標的(NT)刺激時P300の振幅を標的(T)刺激時のもので除したもの(NT/T)を示す.グラフ中の*は,眼疲労群と健常対照群間の眼疲労課題前と各課題負荷後時点でのP300振幅率(NT/T)の比較(p<0.01)を示す.(n=8)0246主観的疲労度の平均値810(点)r=0.94*●:A(V.F)■:B(V.F)▲:C(V.F)◆:D(V.F)□:E(H.C)△:F(H.C)○:G(H.C)◇:H(H.C)10.80.60.40.20P300振幅率(NT/T)図4主観的疲労度とERPのP300成分の振幅率の関連各被験者の主観的疲労度の全得点の平均値と眼疲労課題前と直後におけるP300の振幅の変化(NT/T)の関係を示す.散布図中のr,*は眼疲労群と健常対照群間の主観疲労度の平均値と眼疲労課題前と直後のP300振幅の変化(NT/T)との関連(p<0.01)を示す.(H.C):健常対照群,(V.F):眼疲労群.(n=8)(141)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101463に有意な差は認められず,調節近点測定は比較検討に利用できると判断した.図5に眼疲労群と健常対照群での疲労課題前後の調節近点を示した.縦軸は調節近点を,横軸は計測時点を表す.両群ともに眼疲労課題を行わせる前に比べ,直後において調節近点が延長し,課題後10分には短縮しはじめた.眼疲労群は課題後20分以内で健常対照群に比べ調節近点がやや延長したが有意な差ではない.また,両群とも時間経過とともに徐々に眼疲労課題を行わせる前のレベルに近づき,60分後には両群での差はみられなくなった.8.眼調節機能とERPの振幅との関係図6では眼疲労課題前と課題直後において,図7には眼疲労課題前と課題後40分においての調節近点の変化率とP100の振幅,P300の「NT/T」の振幅率との関連について散布図で示した.両図より,P100の振幅の増加,P300の弁別の低下と調節近点の延長の関連に明らかな差はみられなかった.III考察本研究では,VDT作業による眼疲労をATMTおよびERP(P100,P300成分の振幅と潜時)の変化で健常群を対照とし眼疲労群と比較検討した.ATMT測定(表1)から,A課題は,B課題同様にターゲットボタン位置が固定されており,課題が進行するにつれ:眼疲労群:健常対照群Before010204060課題負荷後(分)調節近点(mm)140120100806040200図5眼疲労課題前後における眼調節機能(調節近点)眼疲労群と健常対照群間の眼疲労課題前後の調節近点を示す.縦軸は調節近点を表し,横軸は調節近点計測時点を示す.各時点において眼疲労群と健常対照群間で有意差なし.(n=8)1.051.11.251.21.151.11.0512.521.51.0.501.151.21.251.31.051.11.151.21.251.3調節近点の変化率調節近点の変化率r=0.11NS(a)(b)●:A(V.F)■:B(V.F)▲:C(V.F)◆:D(V.F)□:E(H.C)△:F(H.C)○:G(H.C)◇:H(H.C)r=0.32NS●:A(V.F)■:B(V.F)▲:C(V.F)◆:D(V.F)□:E(H.C)△:F(H.C)○:G(H.C)◇:H(H.C)P300振幅率(NT/T)P100振幅率図6眼調節機能とERPパラメータとの関連各被験者の眼疲労課題前と課題直後において,調節近点の変化率と(a):P100振幅率との関連および(b):P300振幅の(NT/T)の振幅率との関連を示す.両結果とも両群間での有意差はなし.(H.C):健常対照群,(V.F):眼疲労群.(n=8)1.41.210.80.60.40.202.521.51.0.5011.021.041.061.081.1調節近点の変化率11.021.041.061.081.1調節近点の変化率r=0.08NS(a)(b)●:A(V.F)■:B(V.F)▲:C(V.F)◆:D(V.F)□:E(H.C)△:F(H.C)○:G(H.C)◇:H(H.C)r=0.07NS●:A(V.F)■:B(V.F)▲:C(V.F)◆:D(V.F)□:E(H.C)△:F(H.C)○:G(H.C)◇:H(H.C)P300振幅率(NT/T)P100振幅率図7眼調節機能とERPパラメータとの関連各被験者の眼疲労課題前と課題後40分において,調節近点の変化率と(a):P100振幅率との関連および(b):P300振幅の(NT/T)の振幅率との関連を示す.両結果とも両群間での有意差はなし.(H.C):健常対照群,(V.F):眼疲労群.(n=8)1464あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(142)てまだ押していないターゲットボタン数が減少することからB課題以上に視覚探索反応時間が著明に短縮された.B課題は,C課題と異なり一度出現したターゲットボタン配置は常に固定されていることにより,課題が進行するにつれ,視覚探索反応時間が徐々に短縮された.C課題の視覚探索反応時間との差は,ターゲットボタンの位置が固定されていることによってみられる差であり,課題遂行中にワーキングメモリーを働かせることによりターゲットボタン以外のボタンの位置も同時に記憶していることによる短縮と考えられた.C課題では課題が進行するにつれ視覚探索反応時間は徐々に遅延した.C課題は,ターゲットボタンを押すたびにすべてのターゲットボタンの位置が変わり,かつ探索しなければいけないターゲットボタン数が常に25個であるため,探索条件は常に一定であることから,この遅延は疲労によるものと考えられる.健常対照群と眼疲労群のターゲットボタンごとの視覚平均探索反応時間の推移では,A課題前半,C課題前半で,眼疲労群と健常対照群の両群間に視覚探索反応時間に有意な差は認められなかったことから,作業能力や作業意欲において,眼疲労群が健常対照群に比べて低下しているわけではないことが示唆された.各課題の遂行時後半になると,課題自体が徐々に負荷となり,眼疲労群に疲労を惹起させていると考えられる.すなわち,眼疲労群では,健常対照群よりも,疲労を起こしやすいと考えられる.さらに,健常対照群のターゲットボタンごとの視覚平均探索反応時間の推移と,眼疲労群のターゲットボタンごとの視覚平均探索反応時間の推移とを比較すると(表1),試験全体でA課題→B課題→C課題と試験課題が進むにつれて,眼疲労群と健常対照群との成績の開きが大きくなる傾向が認められた.つまり,視覚探索反応時間の遅延は,課題遂行による疲労を反映していると考えられた.ATMT測定から,眼疲労群では課題初期には健常対照群と同じ作業能力や作業意欲を有しているにもかかわらず,課題継続時のパフォーマンスの低下減少(疲労の顕在化)が健常者に比して早い段階から現れやすいことが示され,眼疲労群は疲労しているのでなく,むしろ疲労しやすいことが特徴であることが判明した.眼疲労群の課題遂行による疲労の蓄積過程を調べることにより,個々の疲労のしやすさを定量化することが可能と考えられる.すなわち,B課題後半およびC課題後半にみられる疲労による視覚探索反応遅延度をパラメータとすることにより,易疲労性の尺度となることが示唆された.ERP結果からは,両群でERPのP100において潜時に影響は認められなかったが,眼疲労群で振幅は有意に増大した(図1).このことは,眼疲労群ではより眼疲労課題により視覚野の機能水準が低下しており,ERP計測用の刺激により皮質機能が賦活されたと考えることができる.P300に関しては,両群で潜時に影響は認められず,眼疲労群では非標的(NT)刺激による振幅は有意に増大した(図2).さらに,両群で標的(T)刺激による振幅は変化が認められず,眼疲労群では有意に振幅比(NT/T)が1に近づいた(図3).このことは,NT刺激によるP300の振幅がT刺激によるP300の振幅に近くなったことを示している.本来P300はT刺激を検出した場合に顕著にみられる.しかし,特に眼疲労群では眼疲労によりNT刺激に対してもP300が出現する傾向がみられたことは,眼疲労が選択的注意機能へ影響を及ぼした可能性が考えられる.Kok14)は被験者に処理スピードを要求した場合に,NT刺激によるP300が出現することを報告しており,処理の難易度が増大するとNT刺激に対してもP300が出現すると考えられる.このことから本実験においては,眼疲労群で眼疲労により相対的に刺激弁別機能が低下し,NT刺激の認知に対しても多くの注意を払う必要から,P300が増大したと考えられた.眼疲労条件では,眼疲労群でERPのP100の振幅は増大し(図1),非標的によるP300の振幅は標的の場合の振幅に近づき(図2),弁別性の低下がみられた.一方,ERPの振幅や潜時と近点との差は認められず(図6,7),眼調節機能とERPの変化は独立的な情報を含んでいると思われた.つまり,眼疲労は眼調節機能に影響を及ぼす毛様体筋などの筋疲労を含む眼調節系の機能低下と,認知機能に影響を及ぼす視覚情報処理の中枢性疲労の2種類から構成されていることが示唆された.さらに主観的な疲労感は中枢における認知過程での疲労を大きく反映しているものと考えられた.中枢性疲労は心理学でいう心的飽和に対応している15).心的飽和とは,ある作業や行動を繰り返し行っていくうちにその作業や行動に対する積極的構えが減弱するなど,作業や行動の効率が低下して極端な場合には中断する「飽き」の状態である.一般に神経系においては単調で無害な刺激の連続に対して,入力感度を低下させる「habituation」が生じる16).眼疲労群ではP300の「NT/T」が眼疲労後に1に近づいたということ,およびATMTでの課題継続時のパフォーマンスの低下は心的飽和すなわち,大脳皮質におけるhabituationが弁別作業効率を低下させたと考えられる.従来から行われてきた眼疲労評価は感覚器官および眼調節系の測定であり,いわゆる眼精疲労の指標であった.CFFなどによる眼疲労測定は,視覚情報処理中枢の疲労を含んではいるが,むしろ覚醒水準の影響を強く受けて視覚系全体の疲労としてとらえられている.しかし,ATMTとERP,調節近点計測を併用することで,眼調節系のレベルと高次認知過程のレベルを分離して,より詳細に検討することができると考えられた.さらに本実験の結果からは,眼の疲れを訴える患者のなかあたらしい眼科Vol.27,No.10,20101465には日常の検査では表出されない例があること,これらは「疲労している」のではなく「疲労しやすい」こと,あるいは「疲労を(持続的に)代償・補完しにくい」ことが明らかになった.眼疲労状態は,①疲労がまったくない状態,②疲労が蓄積してきているが,一定の時間であれば代償することが可能な状態,③疲労のためにエラーや反応時間の遅延がみられる状態,の3つに分類することができる11).これらから,これまでの検査法では客観的に疲労状態を評価することが困難であったが,ERPやATMTを用いることによって,疲労が蓄積してきているが,②の状況(一定の時間であれば代償することが可能な状態)でも反応時間の変動係数などに明らかな変化が起きている結果を得たことから,これらの結果は,眼科臨床において利用可能であると考える.文献1)斉藤進:日本眼科医会IT眼症と環境因子研究班業績集(2002~2004).労働科学81(2):95-98,20052)小笠原勝則,大平明彦,小沢哲磨:VDT作業による眼精疲労評価法としての中心フリッカー値の意義について.日本災害医学会会誌40:12-15,19923)岩崎常人:【眼精疲労を科学する】眼精疲労の測定方法と評価CFFとAA-1.眼科51:387-395,20094)岩崎常人,田原昭彦,三宅信行:調節の緊張緩和と眼精疲労.日眼会誌107:257-264,20035)小嶋良弘,青木繁,石川哲:VDT従事者における近見反応.北里医学22:620-626,19926)梶田雅義:調節微動の臨床的意義.視覚の科学16:107-113,19957)CobbWA:Thelatencyandforminmanoftheoccipitalpotentialsevokedbybrightflashes.JPhysiol152:108-121,19608)BarrettG,BlumhardL:Aparadoxinthelateralizationofthevisualevokedresponse.Nature261:253-255,19769)梶本修身:【疲労の科学】疲労の客観的評価疲労の定量化法.医学のあゆみ204:377-380,200310)梶本修身,山下仰,高橋清武ほか:Trail-Making-Testを改良した「ATMT脳年齢推測・痴呆判別ソフト」の臨床有用性─タッチパネルを用いた精神作業能力テストの開発─.新薬と臨牀49:448-459,200011)梶本修身:ATMTを用いた疲労定量化法の開発.疲労と休養の科学18:13-18,200312)KlemGH,LudersHO,JasperHHetal:Theten-twentyelectrodesystemoftheInternationalFederation.TheInternationalFederationofClinicalNeurophysiology.ElectroencephalogrClinNeurophysiol52:3-6,199913)野田一雄:目の疲労防止対策.労働衛生22:13-16,198114)KokA:OntheunityofP300amplitudeasmeasureofprocessingcapacity.Psychophysiology38:557-577,200115)KouninJS,DoylePH:Degreeofcontinuityofalesson’ssignalsystemandthetaskinvolvementofchildren.JEducPsychol67:159-164,197516)KarstenA:PsychischeSatting.PsychlForschung10:142-254,1988(143)***