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眼瞼に生じた皮膚粘膜クリプトコッカス症の1 例

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(83)539《原著》あたらしい眼科28(4):539.541,2011cはじめに皮膚粘膜クリプトコッカス症は,Cryptococcusneoformansによる皮膚,皮下,粘膜の感染症で,原発巣の肺などから経血行性に散布される続発性のものと,外傷後などから感染する原発性のものとがある1).本症は,クリプトコッカス症の10.15%に生じ,特に顔面,頸部に多く,ついで四肢,体幹にもみられる1)が,眼瞼の発症の報告はまれである.今回,筆者らは,クリプトコッカスによる眼内炎から眼球癆に至り,2年後に同側の上下眼瞼に皮膚粘膜クリプトコッカス症を発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:68歳,女性.既往歴:63歳から自己免疫性溶血性貧血(autoimmunehemolyticanemia:AIHA)にて,プレドニゾロンを2004年7月から2007年10月まで内服(30mgより漸減).サイクロフォスファミド(EndoxanPR)を2004年10月から2006年11月まで内服(100mgより漸減).飼育歴:文鳥,イヌ.現病歴:2005年12月8日左眼の霧視と痛みを訴え長岡赤十字病院眼科を受診した.矯正視力は右眼1.2,左眼0.6,眼圧は右眼18mmHg,左眼37mmHgと左眼の視力低下と眼圧の上昇を認めた.左眼の角膜は混濁し,前房内に細胞を認め,隅角検査では周辺虹彩前癒着を一部に認めた.右眼には異常を認めなかった.12月17日の胸部computedtomography(CT)にて右胸膜下に結節を認めたが,サルコイドーシスに特異的な所見ではなく,呼吸器症状もないことから内科にて経過観察となった.〔別刷請求先〕佐々木藍季子:〒940-2085長岡市千秋2-297-1長岡赤十字病院眼科Reprintrequests:AkikoSasaki,M.D.,DivisionofOphthalmology,NagaokaRedCrossHospital,2-297-1Sensyu,Nagaoka-shi,Niigata940-2085,JAPAN眼瞼に生じた皮膚粘膜クリプトコッカス症の1例佐々木藍季子*1,2橋本薫*1,2田中玲子*1,2武田啓治*1*1長岡赤十字病院眼科*2新潟大学医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野ACaseofEyelidCutaneousandMucocutaneousCryptococcosisAkikoSasaki1,2),KaoruHashimoto1,2),ReikoTanaka1,2)andKeijiTakeda1)1)DivisionofOphthalmology,NagaokaRedCrossHospital,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity眼瞼の皮膚粘膜クリプトコッカス症を経験したので報告する.68歳,女性,既往歴に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)がある.クリプトコッカスによる左眼の眼内炎にて眼球癆に至ったが,その2年後に左眼瞼に腫瘍状の硬結を認めた.切除後の病理診断はクリプトコッカス症であった.イトラコナゾールの内服にて再発なく経過している.免疫抑制患者,基礎疾患を有する患者,真菌症の既往を有する患者に,腫瘍様の皮膚病変を認めたときは,常に真菌症を念頭に置いておく必要がある.Wereportacaseofcutaneousandmucocutaneouscryptococcosisintheeyelid.Thepatientwasa68-year-oldfemalewithautoimmunehemolyticanemia(AIHA)whohadbeentreatedforendophthalmitisinherlefteye,causedbyCryptococcus,butitresultedinphthisis.Twoyearslater,somethingresemblingatumorapearedinherleftverticaleyelid.Weresectedpartoftheeyelidandfoundcryptococcosisuponpathologicalanalysis.Sincetreatmentwithitraconazolethepatienthasbeenwell,withoutrelapses.Weshouldkeepmycosisinmindwhentreatingpatientsinimmunosuppressedcondition,patientswithunderlyingdisordersorpatientswhohaveahistoryoffungalinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):539.541,2011〕Keywords:皮膚粘膜クリプトコッカス症,眼瞼,自己免疫性溶血性貧血,イトラコナゾール.cutaneousandmucocutaneouscryptococcosis,eyelid,autoimmunehemolyticanemia(AIHA),itraconazole.540あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(84)左眼のぶどう膜炎として,ステロイド,眼圧降下剤と散瞳薬の点眼治療を行い,眼圧は低下したが,2006年2月1日左眼に前房蓄膿を認めた.前房水培養で酵母菌を認め,血液検査にて血中クリプトコッカス抗原も陽性であったことより,クリプトコッカスによる眼内炎と診断した.イトラコナゾール200mg/日の内服を開始し前房蓄膿は消失したが,2カ月後再び出現したため,4月25日超音波白内障手術,硝子体手術を施行した.左眼の術後矯正視力は0.06となった.7月14日再び前房内に白色菌塊を認めたため,ボリコナゾール400mg/日の内服と硝子体手術を施行した.前房水培養にてクリプトコッカス抗原は陰性となったものの,9月より左眼球癆となり,その後経過観察となった.2008年6月頃から左上眼瞼が発赤し,痛みが出ることがあった.11月14日再診日に,左上眼瞼に結節状の硬結を認め,腫瘍を考え生検した.病理学検査では,hematoxilineosin染色(HE染色)にて組織球に類似した細胞の増生が認められ(図1),免疫染色CD68では陽性であったため,線維性組織球腫の疑いと診断された.10週間後,下眼瞼にも同様の硬結とびらんが出現したため(図2),2009年2月17日左上下眼瞼の部分切除術を施行した.切除標本では,HE染色によく染まる球体を多数認めたため,periodicacid-Schiff染色(PAS染色)を施行し,PAS染色陽性の菌体を認め(図3),クリプトコッカス症と診断した.血液検査にて,血中クリプトコッカス抗原陽性であったため,イトラコナゾール200mgの内服を開始した.5月29日血中クリプトコッカス抗原陰性となり,下肢の浮腫などの副作用も認めていたため,イトラコナゾールの内服を中止した.6カ月後の血中クリプトコッカス抗原は陰性であり,眼瞼部にも硬結など認図1生検時の病理組織像(HE染色,×200)多数の組織球を認める.薄いがエオジンに染まった菌体と考えられる球体も認められる(矢印).図3切除標本の病理組織像(PAS染色,×100)多数の球体を認める.菌体の表面(矢頭)がPAS染色陽性に染まるが,周囲の莢膜(矢印)は染色されず白く抜けてみえる.図2術前の左眼左上下眼瞼に著しい結節状の硬結とびらんを認める.図4術後の左眼術後6カ月後.術前にみられた硬結は切除され眼瞼の形状は保たれているが,睫毛は一部を除いて消失している.(85)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011541めなかった(図4).以後,再発せず経過している.II考按クリプトコッカス症はCryptococcusneoformansによる感染症で,ハトの糞や土壌に多く存在する.悪性腫瘍,膠原病,血液疾患,ステロイド長期内服歴のある患者で,日和見感染として発症することが多い.原発巣は経気道的に肺が多く,血行性に全身に散布されうる.皮膚,皮下,粘膜に病変をきたすものが皮膚粘膜クリプトコッカス症であり,多くが血行性に播種される続発性であるが,まれに,傷などから経皮的に菌体が接種され病変を生じる原発性のものもある1).本症例は,血中クリプトコッカス抗原が陽性であったことから血行性散布による続発性と考えられるが,同側のクリプトコッカスによる眼内炎後に発症しており,患側の眼瞼と眼内炎後の眼球とが長期間接触していたことによる経結膜的な接種も否定できない.2005年12月17日の胸部CTにて認められた肺の結節も,内服治療後である2009年4月30日には縮小しており,クリプトカコッカスであった可能性があり,このことより眼内炎も肺からの血行性で生じたと考えられる.さらに本患者は文鳥の飼育歴があり,断定はできないがペットからの感染であった可能性が高い.本症の臨床像は,丘疹,膿疱,皮下結節,蜂窩織炎様,潰瘍など多彩であり,診断が困難なことが多く,生検,培養で菌体を同定することで確定する.生検ではPAS染色やGrocott染色が有用である.治療は,病変が小さく局所的な原発性のものでは外科的切除のみで十分なこともある2).続発性では,抗真菌薬の全身投与が必要であり,血中クリプトコッカス抗原が陰性になるまで継続する.抗真菌薬はアゾール系であるフルコナゾール,ホスフルコナゾール,イトラコナゾール,ボリコナゾール,ポリエン系であるアムホテリシンB,リポゾーマルアムホテリシンBなどが使用される3).ただし,カンジダ属やアスペルギルス属の細胞壁に豊富な1,3-b-dグルカンの合成阻害薬であるキャンディン系は,1,6-b-dグルカンが主体の細胞壁をもつクリプトコッカス属には抗真菌活性を有さない4,5).眼科領域では,真菌による眼内炎,網脈絡膜炎,視神経炎,髄膜炎に伴う脳圧亢進による乳頭浮腫,乳頭萎縮,外眼筋麻痺の報告例はみられる6,7)が,皮膚粘膜クリプトコッカス症の報告は少ない.調べた限りでは,わが国では北条らの瞼結膜に発症した1例のみで2),国外では眼瞼部に発症した2例8,9)と,眼周囲の壊死性筋膜炎として発症した1例10)のみである.北条らの報告では,外科的切除のみで治癒しており,眼瞼部に発症した2例は,生検と抗真菌薬の全身投与にて良好な経過をたどっている.壊死性筋膜炎の症例では,3回にわたる全身麻酔下のデブリドマンと,抗真菌薬の全身投与で治癒している.これに対し,眼科領域以外での皮膚粘膜クリプトコッカス症の報告では,基礎疾患を有する患者の予後は,髄膜炎,敗血症,肺炎などの併発や基礎疾患の増悪により死亡例が多い3,11,12).筆者らは,皮膚粘膜クリプトコッカス症の診断経験がなく,クリプトコッカスによる眼内炎の既往があったにもかかわらず,同側眼瞼に発症した腫瘍様病変がクリプトコッカス由来であるとは想定できなかった.そのため生検時もクリプトコッカスを想定した特殊染色をせず,診断は線維性組織球腫の疑いとなった.しかし,生検時の標本中の多数の組織球は,実際はクリプトコッカスに反応し,浸潤したものと考えられる.適切な染色がされなければ,一度の病理学検査では診断困難なこともあるため,免疫抑制患者,基礎疾患を有する患者,真菌症の既往を有する患者に生じた原因不明の皮膚の腫瘍様病変では,真菌症を念頭に置いておく必要がある.また,免疫抑制患者では,ペットから感染が起こる危険性もあり,医療者として感染症の知識を教示することや,ペットとの関わりを指導することも感染症予防にとって重要であると考えられる.文献1)松田哲男,松本忠彦:細菌・真菌性疾患.最新皮膚科学大系14,p281-284,中山書店,20032)北条昌芳,阿部俊明,鹿野哲哉ほか:眼瞼結膜に限局したクリプトコッカス症の1例.臨眼57:1254-1255,20033)齊藤聖子,松田理恵,浦野芳夫ほか:皮膚クリプトコッカス症─成人T細胞白血病リンパ腫に合併した例─.皮膚病診療31:451-454,20094)時松一成:深在性真菌症に対する抗真菌薬療法─薬剤の特性を考えて─.JpnJMedMycol49:137-141,20085)青山久美,山中正義,門松賢:皮膚クリプトコッカスの1例.臨皮59:915-917,20056)岩波美陽,沖理通子,大原國俊:薬物療法が著効した進行性真菌性眼内炎の1例.臨眼54:1787-1790,20007)安達真由美,松井久未子,中林容子ほか:自己免疫性溶血性貧血に対して副腎皮質ステロイド投与中に全盲,難聴を伴うクリプトコッカス髄膜炎を発症した一症例.山口医学57:9-14,20088)CocciaL,CalistaD,BoschiniA:Eyelidnodule:asentinellesionofdisseminatedcryptococcosisinapatientwithacquiredimmunodeficiencysyndrome.ArchOphthalmol117:271-272,19999)SouzaMB,MeloCS,SilvaCSetal:Palpebralcryptococcosis:casereport.ArqBrasOftalmol69:265-267,200610)Doorenbos-BotAC,HooymansJM,BlanksmaLJ:PerorbitalnecrotizingfasciitisduetoCryptococcusneoformansinahealthyyoungman.DocOphthalmol75:315-320,199011)三浦貴子,川上佳夫,大塚幹夫ほか:クリプトコッカス症─肝硬変患者に蜂窩織炎で発症し,不幸な転機をとった例.皮膚病診療31:455-458,200912)小寺華子,田中達朗,成澤寛:悪性関節リウマチに合併し,再燃を認めた皮膚クリプトコッカス症.臨皮56:23-25,2002

ゴアテックスR を用いた眼瞼下垂手術(前頭筋吊り上げ術)

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1(123)???0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):545~548,2008?はじめに重度の先天眼瞼下垂や,動眼神経麻痺,重症筋無力症などによる眼瞼下垂は眼瞼挙筋機能が不良なため,前頭筋吊り上げ術が行われている.文献的には眼瞼挙筋機能が2~4mm以下の眼瞼下垂が適応とされている1,2).その吊り上げ術の材料としては大腿筋膜や長掌筋腱のような自家組織からナイロン糸,シリコーン,ゴアテックス?のような人工素材が報告されているが,組織親和性の問題,下垂再発,感染などの合併症を総合的に考慮すると自家組織である大腿筋膜が最も良い吊り上げ術の材料であるとされている3~5).前頭筋吊り上げ術における自家大腿筋膜移植の歴史は古く,1909年にPayrが先天眼瞼下垂の治療に用いたことがその始まりである6).実際,大腿筋膜採取に伴う機能的障害はほとんどみられないが,ときに大腿部の採取部位の知覚異常や肥厚性瘢痕を生じることがある4).また,大腿筋膜採取の手技は訓練されていない眼科医にとっては困難な手技であり,そのためにも他の素材の使用が試みられるようになった4).生体組織としては保存大腿筋膜を用いた報告もみられた4)が,自家組織に比べると術後成績が悪く,未知なる感染症の発症の可能性もあり,次第に使用されなくなってきた.その代わり,人工素材としてはナイロン,ポリエステル,ポリプロピレンやシリコーンのようなさまざまなものが報告されるようになってきた2,7).ゴアテックス?は1987年にSteinkoglerらが前頭筋吊り上げ術の材料として初めて用い,良好な術後成績が得られたと報告した8,9).ゴアテックス?は1969年にW.L.ゴア社で開発されたフッ素樹脂であり,正式名はexpandedpolyte-tra?uoroethyleneである.ゴア社の資料10)によると血管外科,胸部心臓外科などさまざまな分野で現在までに1,200万例以上のゴアテックス?製品が臨床使用されている.筆者が使用しているものは1993年に販売が開始されたゴアテックス?人工硬膜である.これは従来の保存硬膜がJakob病の原〔別刷請求先〕兼森良和:〒653-0841神戸市長田区松野通2-2-34カネモリ眼科形成外科クリニックReprintrequests:?????????????????????????????????????????????????-?-??????????-????????????-????????????-???????????ゴアテックス?を用いた眼瞼下垂手術(前頭筋吊り上げ術)兼森良和カネモリ眼科形成外科クリニックFrontalisSuspensionforBlepharoptosiswithPolytetra?uoroethylene(Gore-Tex?)YoshikazuKanemori???????????????????ゴアテックス?人工硬膜を用いて9症例15眼瞼の眼瞼下垂手術(前頭筋吊り上げ術)を行い,その術後成績について検討した.術後,すべての症例において眼瞼下垂は改善した.創傷治癒遅延,感染およびアレルギー反応がみられた症例はなかった.1例2眼瞼のみ術後,眼瞼下垂の再発がみられた.ゴアテックス?人工硬膜は十分な眼瞼の挙上効果が得られたうえ,重大な合併症を生じることもなかったので,眼瞼下垂手術(前頭筋吊り上げ術)時の自家組織の代わりとして有用な医療材料であると考える.Frontalissuspensionsurgerywasperformedon9blepharoptosispatients(15eyes),usingpolytetra?uoro-ethylene(Gore-Tex?).Ineverycase,theblepharoptosisimprovedpostoperatively.Therewerenopostoperativecomplications,suchasdelayedwoundhealing,infectionorrejection.Only1patient(2eyes)su?eredblepharoptosisrecurrence3monthaftersurgery.Polytetra?uoroethylene(Gore-Tex?)isausefulmaterialforfrontalissuspensionsurgery,asitshowshighbiocompatibilityandgoodfunctionalresults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):545~548,2008〕Keywords:眼瞼,眼瞼下垂,前頭筋吊り上げ術,ゴアテックス?.eyelid,blepharoptosis,frontalissuspension,Gore-Tex?.———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(125)ゴアテックス?を結ぶ術式では結び目による死腔が感染の原因になり,結び目が眉毛部皮膚への刺激となって露出の原因になる可能性がある.Wassermanら4)の報告でもゴアテックス?の露出は眉毛部で生じている.そのため筆者はゴアテックス?を帯状に用いて瞼板や前頭筋への固定はナイロン糸を用いて縫合する術式を用いている.さらに,上眼瞼を瞼板の1カ所のみで吊り上げた場合,三角形に吊り上がった眼瞼になり整容的に問題を生じることがあるので,筆者はゴアテックス?の下端を松葉状に加工し,2カ所で上眼瞼を挙上することにしている.まだ症例数は9症例15眼瞼と少なく,経過観察期間も平均9.6カ月と短いが,術後の感染や露出を生じた例はなく,安全で整容的にも優れた術式であると考える.さまざまな材料による吊り上げ術後の下垂の再発率についてはすでにいくつかの報告が行われている.Wassermanら4)によると102眼瞼の吊り上げ術後経過において自家大腿筋膜組織を用いた症例群では4%の再発がみられたが,ゴアテックス?を用いた症例群では再発率は0%であったと報告している.BenSimonら7)が164眼瞼の吊り上げ術後経過において自家大腿筋膜組織を用いた症例群の下垂再発率は22%に対してゴアテックス?を用いた症例では再発率は15%であったと報告しており,現在まで報告されたさまざまな吊り上げ術の材料のなかでゴアテックス?が唯一,自家大腿筋膜よりも術後再発が少ないと報告された材料である.筆者の今回の症例では,ゴアテックス?を用いた15眼瞼のうち下垂の再発は2眼瞼でみられた.再発率は13%であり,BenSimonら7)とほぼ同様の結果が得られた.ゴアテックス?は多孔性の組織であるので術後結合組織がゴアテックス?の中に入り込み,周囲の組織と癒着するため下垂の再発が少ない頭筋吊り上げ術の材料として厚さ0.3mmのゴアテックス?人工硬膜を使用した(図2).シート状のゴアテックス?人工硬膜を1×5cm大の帯状に切り出した後,下方は縦に切れ目を入れて松葉状に加工した.2つに分かれた下端を6-0ナイロン糸で瞼板にそれぞれ縫合固定した(図3).上端は?離した眼輪筋下のトンネルを通して眉毛上部の皮下真皮組織に4-0ナイロン糸で縫合固定した.固定の高さは努力開瞼により瞼縁が瞳孔中心より3mm上の高さになる位置とした.仮固定後,患者に閉瞼をしてもらい,角膜が露出する程度の閉瞼障害がみられたときは1mmほど瞼縁の位置を下げて再固定を行った.上端の余ったゴアテックス?人工硬膜は4~5mm程度を残して切除した.6-0ナイロン糸で眉毛上部と眼瞼の皮膚縫合を行い,手術を終了した.術後は創部に抗生物質入り眼軟膏を1日2回塗布し,術7日後に抜糸を行った.II結果すべての症例で術後MRD+2mm以上の開瞼が得られた.術後創傷治癒の経過は治癒遅延,感染およびアレルギー反応を生じた症例はなかった.動眼神経麻痺による眼瞼下垂の1例2眼瞼のみ,術3カ月後,下垂の再発がみられた.代表的症例として片側眼瞼吊り上げ術症例と両側眼瞼吊り上げ術症例を図4と図5に示す.III考按ゴアテックス?を用いた吊り上げ術の術式であるが,今までの海外の報告では紐状のゴアテックス?を用いて眼瞼と前頭筋の間にループ状に通して結ぶ術式が主流である3,7,12).そのループの形状によりsingleloop法7),pentagon法12)およびdoublepentagon法3)が報告されている.しかし,紐状の図4片側眼瞼吊り上げ術症例12歳,女児.右先天眼瞼下垂のため挙筋短縮術とナイロン糸による前頭筋吊り上げ術を受けたが,眼瞼下垂が残存し,術前の右MRDは-1mmであった.ゴアテックス?人工硬膜を用いた吊り上げ術後はMRDが+3mmまで改善した.術後の閉瞼障害は認めない.なお,術前より右内斜視が存在した.左上:術前開瞼,左下:術前閉瞼,右上:術後開瞼,右下:術後閉瞼.図5両側眼瞼吊り上げ術症例15歳,男児.両先天眼瞼下垂のため挙筋短縮術を受けたが,———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(126)あたらしい眼科24:547-555,20072)WagnerRS,MaurielloJAJr,NelsonLBetal:Treatmentofcongenitalptosiswithfrontalissuspension:acompari-sonofsuspensorymaterials.?????????????91:245-248,19843)CrawfordJS:Repairofptosisusingfrontalismuscleandfascialata:a20-yearreview.???????????????8:31-40,19774)WassermanBN,SprungerDT,HelvestonEM:Compari-sonofmaterialsusedinfrontalissuspension.????????????????119:687-691,20015)BajajMS,SastrySS,GhoseSetal:Evaluationofpolyte-tra?uoroethylenesutureforfrontalissuspensionascom-paredtopolybutylate-coatedbraidedpolyester.???????????????????32:415-419,20046)PayrE:PlastikMittelsfreierFaszientransplantationbeiPtosis.????????????????????35:822,19097)BenSimonGJ,MacedoAA,SchwarczRMetal:Frontalissuspensionforuppereyelidptosis:evaluationofdi?erentsurgicaldesignsandsuturematerial.???????????????140:877-885,20058)SteinkoglerFJ:Anewmaterialforfrontalslingoperationincongenitalptosis.?????????????????????????191:361-363,19879)SteinkoglerFJ,KucharA,HuberEetal:Gore-Texsoft-tissuepatchfrontalissuspensiontechniqueincongenitalptosisandinblepharophimosis-ptosissyndrome.???????????????????92:1057-1060,199310)http://www.jgoretex.co.jp/business/medical/index.php11)YamagataS,GotoK,OdaYetal:Clinicalexperiencewithexpandedpolytetra?uoroethylenesheetusedasanarti?-cialduramater.???????????????33:582-585,199312)HelvestonEM,EllisFD:PediatricOphthalmologyPrac-tice.2nded,p204-205,CVMosby,StLouis,198413)野田実香:眼瞼下垂(3)前頭筋吊り上げ術.臨眼60:1134-1140,200614)ZweepHP,SpauwenPH:Evaluationofexpandedpolyte-tra?uoroethylene(e-PTFE)andautogenousfascialatainfrontalissuspension.Acomparativeclinicalstudy.???????????????34:129-137,1992とされている13).しかし,下垂が再発したため取り出したゴアテックス?の組織を調べたところ,結合組織はゴアテックス?の中までは入り込んでいないとする報告もある14).筆者の症例でも同じ手術手技で手術を行ったにもかかわらず,術後下垂