《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(6):851.856,2013c多施設における緑内障実態調査2012年版―薬物治療―塩川美菜子*1井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科CurrentStatusofGlaucomaTherapyatPrivatePracticesandPrivateOphthalmologyHospitalin2012MinakoShiokawa1),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter本調査趣旨に賛同した39施設に2012年3月12日から3月18日に外来受診した緑内障および高眼圧症患者3,569例を対象とし,緑内障病型,手術既往歴,使用薬剤を調査し,2007年,2009年の実態調査と比較した.病型は正常眼圧緑内障47.6%,狭義原発開放隅角緑内障27.4%,原発閉塞隅角緑内障7.6%であった.使用薬剤数は1剤52.7%,2剤22.9%,3剤9.1%,無投薬12.0%であった.1剤はプロスタグランジン関連薬63.4%,b(ab)遮断薬23.9%,配合点眼薬9.9%であった.2剤はプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬47.5%,プロスタグランジン関連薬+チモロール・ドルゾラミド配合点眼薬19.8%であった.過去2回の調査結果と比較して平均使用薬剤数に差はなく,いずれも1剤はプロスタグランジン関連薬が最多,2剤はプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が最多であった.Weinvestigatedthecurrentstatusofglaucomatherapyat39ophthalmologicfacilities.Includedinthisstudy,conductedduringtheweekofMar12,2012were3,569glaucomaorocularhypertensionpatients.Theresultswerecomparedwiththoseofpreviousstudiesperformedin2007and2009.Ofthosepatients,47.6%hadnormaltensionglaucoma(NTG),27.4%hadprimaryopenangleglaucoma(POAG),and7.6%hadprimaryangleclosureglaucoma(PACG).Monotherapywasindicatedin52.7%,twodrugsin22.9%and3drugs9.1%.Monotherapycomprisedprostaglandinanalogin63.4%,beta-blockingagentin23.9%andfixedcombinationin9.9%.Inpatientsreceiving2drugs,combinationsofprostaglandinanalogandbeta-blockingagentwereusedin47.5%andacombinationofprostaglandinanaloganddorzolamide-timololfixedwasusedin19.8%.Onthebasisofthisandpreviousstudies,prostaglandinanaloginmonotherapyandcombinationsofprostaglandinanalogandbeta-blockingagentin2-drugtherapywerethemostfrequentlyused,respectively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):851.856,2013〕Keywords:眼科診療所,眼科専門病院,緑内障治療薬,実態調査.privatepractice,ophthalmichospital,glaucomamedication,investigation.はじめに2012年,緑内障診療ガイドライン第2版が一部改訂され「緑内障診療ガイドライン第3版」が発表された1).緑内障診療は緑内障点眼薬の改良や増加,手術の安全性向上,手術材料の開発,検査器機の進歩による診断精度や疾患発見率の向上,そして高度の視覚情報化社会,高齢化社会,患者の多様化などの時代背景と視覚に対するニーズの高まりとともに変化している.しかし,依然として緑内障の唯一エビデンスの得られている治療は眼圧下降である.緑内障薬物治療においては1999年にわが国初のプロスタグランジン関連薬であるラタノプロスト,点眼炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミド,利便性を考慮したb遮断薬であるイオン応答ゲル化チモロールが発売されて以降2009年までに新たな作用機序を有する点眼薬や同種同効点眼薬が増加,さらには後発品も出現した.これにより眼科医の緑内障薬物治療の選択肢は大幅に広がったが,一方で点眼薬の副作用やアドヒアランスを考慮すると薬剤の選択に悩むことも多くなった.そして2010年にはわが国初の配合点眼薬が3種発売された.配合点眼薬は利便性とアドヒアランスの向上,防腐剤投与減少に伴う副作用の軽減などが期待される一方で〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(129)851b遮断薬が選べない,副作用の原因特定があいまいになる,点眼回数減少による効果の減弱の可能性などの問題もあると推察される.緑内障薬物治療において今や,膨大な点眼治療の選択肢を得たわれわれ眼科医にとって,現状の薬物治療の実態を把握することは診療を行ううえで有用であると考えられる.緑内障治療の実態調査は過去にも報告されているが,いずれも大学病院を中心に行われており2,3),眼科病院やクリニックで行われたものはない.そこで当院では眼科病院やクリニックにおける緑内障患者実態調査を開始した.これまで緑内障ガイドライン第2版が発表された後の2007年に第1回緑内障患者実態調査,プロスタグランジン関連薬の種類が増加した後の2009年に第2回緑内障患者実態調査を施行し報告した4,5).そして今回,配合点眼薬発売後の2012年に第3回緑内障実態調査を施行し前回までの調査結果と比較,その変遷について検討を行った.I対象および方法本調査は,調査趣旨に賛同を得た39施設において2012年3月12日から3月18日に施行した.参加施設を表1に示す.緑内障の診断および治療は緑内障診療ガイドライン1)に則り主治医の判断で行った.初診時にすでに他院で治療を開始されており,ベースライン眼圧が正確に把握できていない症例もあった.また,眼圧測定方法,視野検査方法,点眼薬処方については限定せず,各施設の診療方針に一任した.対象は調査期間内に調査施設の外来を受診したすべての緑内障および高眼圧症患者とした.総症例数3,569例,男性表1参加施設高柳クリニック後藤眼科ふじた眼科社本眼科鬼怒川眼科医院菅原眼科いずみ眼科クリニック篠崎駅前高橋眼科サンアイ眼科中沢眼科医院石井眼科クリニックはしだ眼科やながわ眼科駒込みつい眼科あおやぎ眼科みやざき眼科おおあみ眼科丸の内中央眼科診療所谷津駅前あじさい眼科もりちか眼科のだ眼科麻酔科医院中山眼科本郷眼科梅屋敷眼科クリニック吉田眼科眼科中井医院うえだ眼科ヒルサイド眼科クリニックえぎ眼科いまこが眼科えづれ眼科むらかみ眼科クリニック江本眼科ガキヤ眼科おおはら眼科お茶の水・井上眼科クリニックおがわ眼科西葛西・井上眼科病院早稲田眼科852あたらしい眼科Vol.30,No.6,20131,503例,女性2,066例,年齢9.100歳(平均年齢67.4±13.2歳)であった.そのうちお茶の水・井上眼科クリニック(井上眼科病院外来部門)1,562例,西葛西・井上眼科病院353例で眼科専門病院の症例が約53.7%を占めた.片眼のみ緑内障または高眼圧症の患者は罹患眼,両眼罹患の患者は右眼を調査対象眼とした.なお,配合点眼薬については多剤併用治療であるため点眼2種として扱うべきであろうが,本調査ではアドヒアランスの観点から患者が自己管理する剤型をベースに考え,1剤として扱うこととした.調査方法は調査表を用いて行った.各施設にあらかじめ調査表を送付し,病型,年齢,性別,使用薬剤の種類および使用薬剤数,緑内障手術既往歴について診療録から記載後にすべて回収し集計した.集計は井上眼科病院内の集計センターで行った.回収した調査表より病型,使用薬剤数および種類について解析を行い,前回までの調査結果4,5)と比較した(c2検定).II結果1.病型(表2)正常眼圧緑内障は1,700例(47.6%),狭義原発開放隅角緑内障は979例(27.4%),続発緑内障は366例(10.3%),原発閉塞隅角緑内障は270例(7.6%)などであり,広義開放隅角緑内障が75%を占めた.緑内障手術既往のある症例は283例(7.9%)あった.2.使用薬剤数(表3)1剤使用が1,880例(52.7%),2剤使用が818例(22.9%),3剤使用が326例(9.1%),4剤使用が103例(2.9%)であった.視野障害がない,あるいはあっても軽微で経過観察中表2病型の内訳正常眼圧緑内障1,700例(47.6%)狭義原発開放隅角緑内障979例(27.4%)続発緑内障366例(10.3%)原発閉塞隅角緑内障270例(7.6%)高眼圧症250例(7.0%)その他4例(0.1%)合計3,569例(100%)表3使用薬剤数0剤427例(12.0%)1剤1,880例(52.7%)2剤818例(22.9%)3剤326例(9.1%)4剤103例(2.9%)5剤15例(0.4%)合計3,569例(100%)平均使用薬剤数:1.4±0.9剤(130)の症例,濾過手術後で十分な眼圧下降が得られている症例などで無投薬が427例(12.0%)であった.平均使用薬剤数は1.4±0.9剤であった.3.1剤使用症例の使用薬剤(表4)1剤使用症例の内訳はプロスタグランジン関連薬が1,192例(63.4%),bおよびab遮断薬が449例(23.9%),配合点眼薬が189例(9.9%)であった.使用薬剤の詳細を表5に示す.プロスタグランジン関連薬ではラタノプロストが584例(31.1%)で最多で,ついでトラボプロストが205例(10.9%),タフルプロストが160例(8.5%)などであった.ラタノプロストの後発品は64例(3.4%)で使用されていた.b遮断薬ではイオン応答ゲル化チモロールが121例(6.4%)で最多で,ついで持続型カルテオロールが110例(5.9%),水溶性チモロールが71例(3.8%)などであった.後発品は10表41剤使用症例の薬剤プロスタグランジン関連薬b(ab)遮断薬配合点眼薬点眼炭酸脱水酵素阻害薬その他1,192例(63.4%)449例(23.9%)186例(9.9%)25例(1.3%)28例(1.5%)合計1,880例(100%)表51剤使用症例の薬剤内訳プロスタグランジン関連薬ラタノプロストトラボプロストタフルプロストビマトプロストイソプロピルウノプロストン後発品584例(31.1%)205例(10.9%)160例(8.5%)74例(3.9%)105例(5.6%)64例(3.4%)b遮断薬水溶性チモロールイオン応答ゲル化チモロール熱応答ゲル化チモロールカルテオロール持続型カルテオロールレボブノロールベタキソロール後発品71例(3.8%)121例(6.4%)20例(1.1%)39例(2.1%)110例(5.9%)28例(1.5%)13例(0.7%)10例(0.5%)ab遮断薬ニプラジロール後発品33例(1.8%)4例(0.2%)点眼炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミドブリンゾラミド6例(0.3%)19例(1.0%)配合点眼薬チモロール・ラタノプロストチモロール・トラボプロストチモロール・ドルゾラミド88例(4.7%)45例(2.4%)53例(2.8%)a1遮断薬ブナゾシン20例(1.1%)その他8例(0.5%)合計1,880例(100%)例(0.5%)で使用されていた.配合点眼薬ではチモロール・ラタノプロスト配合点眼薬が88例(4.7%),チモロール・ドルゾラミド配合点眼薬が53例(2.8%),チモロール・トラボプロスト配合点眼薬が45例(2.4%)であった.4.2剤使用症例の使用薬剤(図1)2剤使用症例の内訳はプロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用が388例(47.5%),プロスタグランジン関連薬とチモロール・ドルゾラミド配合点眼薬の併用が162例(19.8%),プロスタグランジン関連薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用が123例(15.0%),配合点眼薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用が50例(6.1%),b(ab)遮断薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用が35例(4.3%)などであった.プロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用(388例)ではラタノプロストとイオン応答ゲル化チモロールの併用が最も多く60例,ついでラタノプロストと持続型カルテオロール併用が40例,ラタノプロストと水溶性チモロール併用が37例であった.プロスタグランジン関連薬と配合点眼薬の併用(162例)ではラタノプロストとチモロール・ドルゾラミド配合点眼薬の併用が72例で最も多く,ついでビマトプロストとチモロール・ドルゾラミド配合点眼薬の併用が56例であった.プロスタグランジン関連薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用(123例)ではラタノプロストとブリンゾラミドの併用が44例で最も多く,ついでラタノプロストとドルゾラミドの併用が26例などであった.配合点眼薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用(50例)ではラタノプロスト・チモロール配合点眼薬とブリンゾラミドの併用が21例,トラボプロスト・チモロール配合点眼薬とブリンゾラミドの併用が14例などであった.n=818その他60例7.3%b(ab)+点眼CAIPG+b(ab)PG+点眼CAI388例47.5%PG+配合薬162例19.8%123例15.0%35例4.3%配合点眼薬+点眼CAI50例6.1%PG:プロスタグランジン関連薬b(ab):b(ab)遮断薬CAI:炭酸脱水酵素阻害薬図12剤使用症例の薬剤(131)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013853:2007年(n=1,935)■:2009年(n=3,074)■:2012年(n=3,569):2007年(n=1,935)■:2009年(n=3,074)■:2012年(n=3,569)正常眼圧緑内障(NTG)狭義原発開放隅角緑内障(POAG)原発閉塞隅角緑内障(PACG)続発緑内障高眼圧症(OH)その他図22007年,2009年調査との比較(病型)(%)01020304050%01020304050605剤以上4剤3剤2剤1剤0剤NS:2012年(n=3,569):2009年(n=3,074):2007年(n=1,935)NS:notsignificant図32007年,2009年調査との比較(使用薬剤数)PG関連薬b(ab)遮断薬配合薬その他2.89.923.963.4430.465.636.3■:2012年(n=1,880)10.353.4010203040506070:2007年(n=865)■:2009年(n=1,489)**********p<0.0001(c2検定)(%)図42007年,2009年調査との比較(1剤使用症例の薬剤)5.2007年,2009年の実態調査との比較病型はいずれも正常眼圧緑内障,狭義原発開放隅角緑内障の順に多かった(図2).平均使用薬剤数は2007年が1.5±1.0剤,2009年も1.5±1.0剤,2012年が1.4±0.9剤で差はなかった(図3).1剤使用症例の使用薬剤は2007年,2009年,2012年ともにプロスタグランジン関連薬が最も多く,ついでb(ab)遮断薬であった.プロスタグランジン関連薬の使用は2007年よりも2009年,2012年は増加し,一方b(ab)遮断薬の854あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013PG+b(ab)37.515.047.521.420.058.929.915.654.5010203040506070配合点眼薬と併用26.3%:2007年(n=532)■:2009年(n=749)■:2012年(n=818)**p<0.0001*p<0.05(c2検定)******PG+点眼CAIその他(%)図52007年,2009年調査との比較(2剤使用症例の薬剤)使用は2007年よりも2009年,2012年は減少した(p<0.0001c2検定)(図4).2剤使用症例の使用薬剤は2007年,2009年,2012年ともにプロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用が最も多かった.プロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用は2007年よりも2009年が増加,2009年よりも2012年は減少した(p<0.0001c2検定).プロスタグランジン関連薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用も同様であった(p<0.05c2検定)(図5).III考按厚生労働科学研究,研究費補助金難治性疾患克服研究事業網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究6)によれば,緑内障はわが国における失明の主原因疾患の第1位である.しかし一方で,緑内障は眼科領域では糖尿病とならび早期発見,早期治療開始が予後に大きく影響する疾患の代表でもある.近年は医療機器の進歩,健康診断の充実,啓蒙活動などにより緑内障発見の機会は増加し,またコンタクトレンズ診療,屈折矯正手術の普及などにより若年者における緑内障早期発見の機会も同様に増加していると推察される.個々の眼科医は,獲得した情報のなかから患者の病状,生活スタイル,アドヒアランス,余命などを考慮したうえで,緑内障診療ガイドラインを参考に最良と考えた治療を行う.しかし,他の眼科医の緑内障治療の実態を知る機会は少ない.これらを把握することは,個々の眼科医にとって有益であり,また将来の緑内障診療においても重要な意味をもつ可能性がある.今回の調査では病型は広義開放隅角緑内障が75%を占めた.2000年から2001年に行われた多治見スタディによれば広義開放隅角緑内障は約80%7)と報告されており,本調査結果はほぼ同等であった.さらに2007年,2009年に施行した実態調査とも同様で病型には大きな変遷がないと推察された.使用薬剤数は1剤使用が52.7%,2剤使用が22.9%,3剤使用が9.1%,4剤使用が2.9%で,2007年,2009年の調査結果と比較すると1剤は増加,2剤,3剤は減少傾向にある(132)も有意差はなく,平均使用薬剤数も1.4±0.9剤で2007年の1.5±1.0剤,2009年の1.5±1.0剤と差はなかった.配合点眼薬が使用可能となったが,平均使用薬剤数が今回の調査で減少していなかった.しかし,眼科医の多くが必要に応じて配合点眼薬の使用を考えている8)ことから,使用経験の蓄積により安全性や眼圧下降効果の信頼性が得られれば,今後さらに普及し患者の管理する薬剤数は減少が期待できる可能性がある.1剤使用ではプロスタグランジン関連薬が63.4%,bおよびab遮断薬が23.9%,配合点眼薬が9.9%であった.2007年,2009年の調査結果もプロスタグランジン関連薬が最も多く,ついでbおよびab遮断薬であり今回の調査結果と同様であった.緑内障診療ガイドライン第3版1)によれば,薬剤の選択は眼圧下降効果と認容性からプロスタグランジン関連薬とb遮断薬が第一選択薬であることから,ガイドラインが遵守されていると推察される.しかしながら,プロスタグランジン関連薬は2007年に比べ2009年,2012年は増加したのに対し,bおよびab遮断薬は2007年に比べ2009年,2012年は減少した.これはプロスタグランジン関連薬が眼圧下降効果と安全性からb遮断薬よりも第一選択薬として選ばれる頻度が増加しているためと推察される.また,プロスタグランジン関連薬では2012年もラタノプロストが最多であった.これは発売から10年以上経過していること,その間に蓄積された使用経験によりその眼圧下降効果と安全性が多くの眼科医の信頼を得ているためと推察された.ラタノプロストについでトラボプロストが多く使用されていたのは塩化ベンザルコニウム非含有により眼表面に対する影響が少ないため9)と推察された.一方,2010年にラタノプロストの後発品が多数発売されたが,今回の調査では後発品使用は3.4%と少なかった.吉川らが施行したアンケート調査によれば後発品使用については慎重に考えている眼科医が多いと報告されており8),その要因としてわが国の後発品は添加物の種類や濃度が先発品と異なる10,11)ことから現状では有効性・安全性を示す経験や情報が乏しいことがあげられている.今回の調査結果からはそれを反映していることがうかがえた.b遮断薬ではイオン応答ゲル化チモロールが最多,ついで持続型カルテオロールであったのは1回点眼という利便性の良さによると推察された.2剤使用症例ではプロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用が最多,ついでプロスタグランジン関連薬と配合点眼薬の併用,プロスタグランジン関連薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用,配合点眼薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用,b(ab)遮断薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用の順であった.プロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用,プロスタグランジン関連薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用ともに2007年よりも2009年が増加,2009年よりも2012(133)年は減少したのは2012年から配合点眼薬との併用が追加になった影響による.配合点眼薬との併用を除けば2007年,2009年,2012年ともにプロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用が最も多く,ついでプロスタグランジン関連薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用であった.柏木らによれば緑内障点眼薬の新規処方の変遷として点眼炭酸脱水酵素阻害薬の増加をあげている12).点眼炭酸脱水酵素阻害薬はb遮断薬と比較すると全身的副作用が少なく夜間眼圧下降効果が強力なことからプロスタグランジン関連薬との併用において処方頻度が徐々に増加すると筆者らも予測したが2007年,2009年と比較して変化なかった.点眼炭酸脱水酵素阻害薬は刺激感やかすみなどの使用感や点眼回数が多いことが点眼励行に影響し,その結果として眼圧下降効果が十分に得られないこともあることが一因と推察された.配合点眼薬の使用割合は1剤使用症例の約10%,2剤使用症例の約25%で多剤併用治療ほど使用頻度が増加していることから利便性やアドヒアランスの良さが考慮されていることが示唆された.今後も使用経験の蓄積により配合点眼薬の使用割合は増加する可能性がある.眼科専門病院および眼科クリニックにおける2012年緑内障実態調査ではプロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の使用頻度が高いことがわかった.これらの結果は2007年,2009年の結果4,5)と同様で,現状においては緑内障薬物治療の主軸はプロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬であると推察された.2012年新たな作用機序を有するブリモニジン点眼薬が発売されたが,今後いかに位置づけられるか興味がもたれる.ますます緑内障薬物治療は複雑化することが予想され,実態調査の必要性,重要性もさらに高まると考えられる.今後も定期的に調査を行うことで,緑内障薬物治療実態の把握に努めたい.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙中にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に深く感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン第3版.日眼会誌116:5-46,20122)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20063)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学付属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼60:1679-1684,20064)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013855患者の実態調査─薬物治療─.あたらしい眼科25:15811585,20085)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,20116)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:わが国における視覚障害の現状.厚生労働科学研究研究費補助金難治性疾患克服研究事業網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究平成17年度総括・分担研究報告.p263-267,20067)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimistudy.Ophthalmology111:1641-1648,20048)吉川啓司:眼科医を対象とした後発品および配合点眼剤に対するアンケート調査.日本の眼科83:599-602,20129)湖﨑淳,大谷信一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200910)吉川啓司:後発医薬品点眼薬:臨床使用上の問題点.日本の眼科78:1331-1334,200711)山崎芳夫:配合剤と後発品の功罪.眼科53:673-683,201112)柏木賢治:慢性疾患診療支援システム研究会:抗緑内障点眼薬に関する最近9年間の新規処方の変遷.眼薬理23:79-81,2009***856あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(134)