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SGLT2 阻害薬内服中に血管新生緑内障による急激な 視力低下をきたした2 型糖尿病症例

2021年5月31日 月曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(5):567.572,2021cSGLT2阻害薬内服中に血管新生緑内障による急激な視力低下をきたした2型糖尿病症例上野八重子*1藤部香里*1石口絵梨*1野田浩夫*1徳田あゆみ*2近本信彦*3*1宇部協立病院内科*2宇部興産中央病院眼科*3近本眼科CACaseofType2DiabeteswithSuddenLossofVisionDuetoNeovascularGlaucomawhileTakingSGLT2InhibitorYaekoUeno1)CKaoriHujibe1)CEriIshiguchi1)CHirooNoda1)CAyumiTokuda2)andNobuhikoChikamoto3),,,,1)DepartmentofInternalMedicine,UbeKyoritsuHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UbeKosanCentralHospital,3)ChikamotoEyeClinicC新規糖尿病治療薬CSGLT2阻害薬を内服中に血管新生緑内障による急激な視力低下をきたした糖尿病症例を報告する.症例はC40歳,男性.10年余り治療を放置しC4年前に他院にて前増殖網膜症を指摘されたが,自己判断で治療を中断し,2年前より宇部協立病院内科で治療を再開.高血糖に対しCSGLT2阻害薬をビグアナイド類と併用.血糖値は改善傾向で視力は維持されたが,8カ月後に急な左眼視力低下をきたし宇部協立病院眼科を受診.両眼とも黄斑浮腫はなく,高眼圧(右眼C22CmmHg,左眼C54CmmHg)と左眼角膜浮腫とびらん,左眼優位の虹彩ルベオーシスを認めた.頭頸部CMRAにて右内頸動脈CC3の軽度狭窄を認めた.両眼隅角に新生血管が多発しており汎網膜光凝固術にて右眼の視力は維持されたが,左眼は高眼圧による視神経萎縮で失明した.糖尿病網膜症が悪化する際には黄斑浮腫による視力低下を伴うことが多いが,この症例ではCSGLT2阻害薬内服によって黄斑浮腫が抑制された可能性がある.急な経過より眼虚血症候群との関連も否定できなかった.CPurpose:Toreportthecaseofa40-year-oldmalewithdiabeteswhosu.eredasuddendropinvisualacuity(VA)dueCtoCneovascularCglaucomaCwhileCtakingCSGLT2Cinhibitor,CaCnovelCantidiabeticCdrug.CCase:ThisCstudyCinvolvedCtheCcaseCofCaC40-year-oldCmaleCpatientCwithCdiabetesCinCwhomCtheCdiseaseCwasCleftCuntreatedCforCmoreCthan10years.Fouryearsprevious,hewasdiagnosedwithpre-proliferativeretinopathyatanotherhospital.Twoyearsago,hepresentedatourhospital,andatreatmentinvolvingthecombineduseofSGLT2inhibitorwithotherdrugsforhyperglycemiawasrestarted.HisbloodglucosewasimprovingandhisVAwaswell-maintained,yet8monthslater,heexperiencedasuddendropofVAinthelefteye.Highintraocularpressure(54mmHg)andcorne-aledemawereobserved,buttherewasnomaculaedemainbotheyes.MildstenosisofthecarotidarteryC3wascon.rmedCviaCaCheadCMRACexamination.CConclusion:SGLT2CinhibitorsCmayCimproveCmacularCedemaCdueCtoCtheCdiuretice.ect,fromthesuddenprogressconsideredtherelationshipwithocularischemicsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(5):567.572,C2021〕Keywords:SGLT2阻害薬,糖尿病網膜症,血管新生緑内障,眼虚血症候群,黄斑浮腫.SGLT2inhibitor,diabeticretinopathy,neovacularglaucoma,ocularischemicsyndrome,maculaedema.Cはじめにナトリウムグルコース共輸送体C2(sodium/glucoseCcotransporter2:SGLT2)阻害薬は,近位尿細管において糖の再吸収を阻害して尿糖排泄量を増加させることにより血糖値を低下させる新規経口血糖降下薬である.2014年C4月に1剤目のイプラグリフロジンが発売された当初は高齢者への投与において脳血栓などのリスクが懸念されたが,その後の評価で脱水や全身状態に注意すれば年齢を限らず使用可能とされた1).発売後C5年以上を経過した現在では,血糖降下作用以外に心疾患や腎障害に対する効果についてエビデンスが〔別刷請求先〕上野八重子:〒755-0005山口県宇部市五十目山町C16-23宇部協立病院内科Reprintrequests:UenoYaeko,UbeKyoritsuHospital,16-23Gojumeyama,Ube,Yamaguchi755-0005,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(87)C567蓄積されたことや,インスリン分泌を介さない作用機序によりC1型糖尿病にも適応が拡大されており,抗糖尿病薬において中心的位置を占めてきている.今回,糖尿病性合併症のある若年患者にCSGLT2阻害薬を使用したところ,血糖値は改善したが,血管新生緑内障による眼圧上昇により急激な視力低下をきたしたので,原因を考察しつつ症例を呈示する.CI症例患者:40歳代,男性.主訴:下腿浮腫.既往歴:27歳で糖尿病を指摘.ケトーシスでの入院歴あり(他県の病院).過去最大体重:110Ckg(20歳代)家族歴:特記すべきことなし.Ca2016年11月(内科初診時)現病歴:27歳で糖尿病を指摘されたが,10年以上治療を放置した.2015年に職場検診にて糖尿病・高血圧症・脂質異常症を指摘され,宇部興産中央病院内科で糖尿病治療(インスリン療法)を開始した.同院眼科で両眼に前増殖網膜症を指摘されたがC3カ月後には事情で内科・眼科ともに治療を中断.2016年C11月,産業医より受診を勧められ宇部協立病院内科を初診.現症および検査所見:体重C81Ckg,血圧C191/100CmmHg,脈拍C105/分,右眼視力C0.07(0.8),左眼視力C0.05(0.8),血糖C422Cmg/dl(食後C2.5時間),HbA1c12.1%,GOT14CU/l,GPT19CU/l,CgGTP27CU/l,総コレステロールC267Cmg/dl,中性脂肪C652Cmg/dl,HDLコレステロールC43Cmg/dl,LDLコレステロール127mg/dl,WBC8,200μl,RBC553μl,CHbC15.4Cg/dl,Ht47.5%,尿蛋白(3+),尿潜血(2+),尿b2018年3月(内科定期受時時,左眼の見えにくさあり)図1内科で施行した眼底検査所見a:初診時には小出血や少数の軟性白斑を認め,軽度の前増殖型網膜症の所見.Cb:視力が悪化するC1週間前の所見.左眼の透見性がやや低下している.左黄斑部上方には硬性白斑を認める.左眼(水平断)図2視力悪化時に初診した眼科での左眼OCTおよび前眼部所見OCTでは黄斑浮腫は認めない.左眼虹彩瞳孔縁に明らかなルベオーシスが出現している.左眼虹彩ルベオーシス左眼(垂直断)ケトン体(C.).眼底写真:両側網膜に点状出血と少数の軟性白斑を認める(図1a).C1.内科での治療経過糖尿病腎症C3期と診断し降圧薬とメトホルミンを開始したが,その後は半年間来院がなく,2017年C6月に内服治療を再開した.空腹時血糖C364Cmg/dlと高く,メトホルミンC500mgに加えてCSGLT2阻害薬のイプラグリフロジンC50Cmgを開始した.6週間は内服継続したが,その後C4カ月間にわたり中断し,2017年C12月に来院した.HbA1cはC13.2%で著明な高血糖があり,イプラグリフロジンC50CmgとメトホルミンC500Cmgで治療再開した.その後治療は継続し,3カ月後にはCHbA1c10.9%まで改善した.2018年C3月当院内科にて無散瞳眼底検査を施行したところ出血の増悪や新生血管を疑わす所見は認めなかったが,左黄斑部上方に硬性白斑を少数認めた(図1b).その際に左眼がやや見えにくいと訴えたため,中断していた眼科への早急な受診を勧めた.2018年C3月下旬,1週前より左眼が急に見えなくなったと近医眼科を初診.左眼の虹彩ルベオーシス,著明な高眼圧(左眼C48CmmHg)を指摘され,眼底検査では出血・白斑は少数で単純.前増殖網膜症の所見であった.視力は右眼C0.06(1.0),左眼C0.02(0.15).眼圧は右眼C20CmmHg,左眼48CmmHg.網膜光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)にて両眼とも黄斑浮腫を認めず.左眼前眼部に虹彩ルベオーシスあり(図2).左眼ブリモニジン(アイファガン),ドルゾラミド(トルソプト),リパスジル(グラナテック),ラタノプロスト(キサラタン)の点眼開始.血管新生緑内障の診断で同眼科より以前の病院眼科に紹介されC2日後に受診した.C2.眼科での所見と治療経過眼圧上昇(右眼C14CmmHg,左眼C54CmmHg)を認め,左眼は角膜浮腫を認め中央に角膜びらんを伴っており(図3)強い眼痛あり.視力は右眼C0.06(1.0),左眼C0.02(0.03).両眼虹彩面に新生血管(右眼<左眼)・右眼隅角全周に新生血管あり.左眼隅角は浮腫とびらんのため観察できなかったが,閉塞隅角であると推測され,両眼血管新生緑内障および両眼増殖糖尿病網膜症と診断した.両眼グラナック,キサラタン点眼,左眼アイファガン,トルソプト点眼に変更し,左眼オフロキサシン(タリビッド)眼軟膏を開始した.蛍光眼底検査は未施行であったが両眼虹彩ルベオーシスを認めるなど両眼に血管閉塞病変が強く疑われ,頸動脈および頭蓋内疾患検索のため,再初診C4日後に脳外科に紹介となった.頭頸部MRAを施行し右内頸動脈CC3に軽度の狭窄所見があり,反対側同部位にも石灰化を認めたが内頸動脈閉塞は認めず,脳外科的には問題なしとされた(図4).同日には左眼の角膜びらんが改善したため,再初診C1週後より両眼の汎網膜光凝固療法を開始.左眼視力(0.2p)で左眼隅角に著明な新生血管を認め抗血管内皮増殖因子(vasucularCendtherialCgrowthfactor:VEGF)薬注射を勧めたが費用の面で同意を得られなかった.そのC1週後には両眼虹彩炎が確認されベタメタゾンリン酸エステルナトリウム液(リンベタ)を開始した.右眼の眼圧は正常化したが左眼は眼圧降下治療に抵抗し高眼圧a右眼b左眼c左眼前眼部図3病院眼科紹介(再初診)時の所見a:軽度の前増殖網膜症が疑われる所見.Cb:角膜浮腫のため眼底を透見できない.Cc:角膜びらんを認める.図4頭部MRAの所見右内頸動脈CC3に軽度狭窄を認め,左内頸動脈同部位にも石灰化がめだつ(C.).(頸部CMRAでは有意な狭窄所見なし)と強度の眼痛が続いた.線維柱帯切除術は視力の回復があまり期待できず患者も消極的であり施行していない.7カ月後に行った右眼蛍光造影検査では光凝固の頻回施行にもかかわらず,右眼網膜血管からの漏出像や無血管領域を認めた(図5).左眼は角膜混濁があり施行困難であった.2019年C7月にCOCTを施行し両眼とも黄斑所見に異常は認めず.右眼視力はC0.05(0.7)と比較的維持されたが,左眼は高眼圧の持続で視神経萎縮をきたし光覚(-)となった.内科的には治療中断がなくCSGLT2阻害薬も継続している.2018年C10月にはCHbA1c8.0%,2020年C4月現在ではCHbA1c6.6%と改善している.CII考察血管新生緑内障により急激な視力低下を生じた症例を経験し,SGLT阻害薬投与との関連について検討した.SGLT2阻害薬は腎症や心血管障害への好影響が認められており3),CAmericanCDiabetesAssociation(ADA)およびCEuropeanCAssociationCforCtheCStudyCofDiabetes(EASD)のCconsen-susreportにおいてC.rst-lineの薬剤としても推奨されるに至っており糖尿病臨床において使用頻度が増加している4).イプラグリフロジンと同効薬であるエンパグリフロジンについての大規模スタディ(EMPA-REGOUTCOME)では網膜症への影響についてサブ解析が報告されている5).7,020人(平均年齢:63.1C±8.6歳,HbA1c:8.07C±0.85%)について平均C3.1年のフォローの結果,網膜症出現や悪化の頻度はエンパグリフロジン群ではC1.6%とCplaceboのC2.1%を下回り,改善していると評価されているが有意差はない(HR0.78,p=0.1732).同報告のなかでエンパグリフロジン群の失明は4例でCplaceboにおける失明C2例より多かったが,少数のた図5光凝固療法開始7カ月後の蛍光眼底写真(右眼)頻回の光凝固にもかかわらず,網膜血管からの漏出や無血管領域を認める.左眼は角膜混濁にて撮影不能であった.め有意差検定はされておらず失明例の詳細も不明である.一方,SGLT2阻害薬には黄斑浮腫を改善する効果があることが複数症例での検討や後ろ向き研究により報告されている6,7).津田らがまとめたC1996年の報告では,長期放置後の治療開始時に単純網膜症や前増殖網膜症を認めC6カ月以内に悪化した症例では,ほぼ全例で黄斑症を合併していたとされ,0.7以下の視力低下の原因はすべて黄斑症であったとされている8).今回の症例では糖尿病性腎症およびネフローゼ症候群を合併しており,治療開始時に前増殖網膜症の初期と診断されていたため,当初より網膜症の悪化や黄斑浮腫の発症が懸念されていた.緑内障による視力低下発症時に初診した近医眼科でC2018年C3月下旬に施行した左眼COCTにて黄斑浮腫をまったく認めなかった点が,糖尿病治療放置症例としてはやや異例の経過であった.当院内科初診時のC2016年11月に施行した左眼眼底写真では認めなかった硬性白斑が2018年C3月の眼底写真では少数出現しており,このC1年C4カ月の間に何らかの網膜浮腫が存在したことを示唆すると思われた.SGLT2阻害薬の投与で黄斑浮腫が抑制された可能性もあるが,高度に虚血を伴った増殖網膜症でも黄斑浮腫を伴わない症例も存在する.左眼COCTでは虚血を示唆する所見は認めなかったが,蛍光造影検査が未施行であるため正確な評価はむずかしい.黄斑浮腫の存在や硝子体出血で生ずる視力低下を自覚することなく,血管新生緑内障が悪化するまで眼科を受診しなかったことで高度な視力障害に至ったと考えられた.一方,突然の視力低下をきたしたもう一つの背景として眼虚血症候群(ocularCischemicsyndrome:OIS)がベースとなった可能性について検討した.この患者の特徴としてC40歳代という若年にもかかわらず頭部CMRAにて眼動脈の分岐部近傍の右内頸動脈CC3部分に狭窄を認めた.左内頸動脈の同部位にも石灰化があり,血管新生緑内障発症の背景として,もともと眼循環に異常があった可能性が否定できない.動脈硬化に関連した糖尿病網膜症とCOISの関連についての総説9)によれば,内頸動脈閉塞のない症例でも眼虚血に起因すると考えられる血管新生緑内障の報告がある.OISのC20%は両側性に病変を生ずるとされる.また,白内障手術など眼科的処置の際には脳血管障害の状態や眼循環を評価することが重要とされている.この症例が病院眼科を再初診した際には,角膜浮腫とびらんにより左眼眼底は透見不能で蛍光造影検査は施行できず,7カ月後に右眼蛍光造影検査を行った結果では蛍光色素の流入遅延や腕網膜循環遅延は認められなかったため,積極的にCOISと診断する根拠に乏しい.しかし,当院にて行った頸動脈エコーでは左内頸動脈起始部付近にC1.7CmmのCsoftplaqueを認め,左内頸動脈の最高血流速度はC24Ccm/秒と異常低値を示し,右側はC38Ccm/秒とやや低値であり,かつ左右の速度に有意な差があった.当症例は糖尿病歴が長く両眼前眼部に多数の新生血管を認めており,血管新生緑内障は増殖糖尿病網膜症に起因する続発緑内障と考えるのが一般的である.しかし,眼底所見では増殖性変化を認めないまま隅角ルベオーシスまで急激に進行したことより,動脈硬化の進行をベースとした左右内頸動脈の血流速度低下が眼循環低下に関連した可能性もあると考えた.この症例で使用したCSGLT2阻害薬と眼虚血との関連についての報告は検索した範囲にはなく,イプラグリフロジンの発売後調査の結果により両者の関連を検討した.イプラグリフロジン発売直後C2014年C4月.8月までの短期間にC12例の脳梗塞が報告されており,開始後C9日目で発症したという症例報告もあった10).イプラグリフロジン販売後C1年半での調査では重篤な眼障害がC6件あり,糖尿病網膜症C1件,虚血性視神経症C1件,網膜動脈閉塞症がC1件,眼瞼浮腫C5件のうち2件が重篤とされていた.さらに涙器障害C1件が重篤とされていた(詳細な情報はない).眼圧については言及がなく,眼痛・霧視・視力障害など緑内障や眼圧上昇との関連が否定できない症状がC8例あった.これらがCSGLT2阻害薬に直接起因する副作用であるかどうかは不明であるが,いずれにしても投与開始時に生ずる脱水や低血圧症が脳梗塞や網膜循環不全に関連する可能性については軽視できず,今後もSGLT2阻害薬使用症例における眼合併症への影響を考慮した経過観察が必要と考えられた.CIII結語若年者であっても重症かつ病歴の長い糖尿病患者に新規糖尿病治療薬CSGLT2阻害薬を使用する際には,動脈硬化症を評価し,眼虚血リスクのある症例では血管新生緑内障の発生に注意する必要がある.眼圧や前眼部変化について眼科での定期的なチェックが望ましい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SinclairCJ,CBodeCB,CHarrisS:E.cacyCandCsafetyCofCcana-gli.ozininindividualsaged75andolderwithtype2dia-betesmellitus:Apooledanalysis.JAmGeriatrSocC64:C543-552,C20162)橋本洋一郎,米村公伸,寺崎修司ほか:総説眼虚血症候群─神経超音波検査の役割─.Neurosonology17:55-61,C20043)DaviesCJ,CD’AlessioCA,CFradkinCJCetal:ManagementCofChyperglycemiaintype2diabetes,2018.AconsensusreportbyCtheCAmericanCDiabetesAssociation(ADA)andCtheCEuropeanCAssociationCforCtheCStudyCofDiabetes(EASD)C.CDiabetesCareC41:2669-2701,C20184)ZinmanB,WannerC,LachinMetal:EMPAREGOUT-COMECInvestigators.CEmpagli.ozin,CcardiovascularCout-comes,CandCmortalityCinCtypeC2Cdiabetes.CNCEnglCJCMedC373:2117-2128,C20155)InzucchiE,WannerC,HehnkeUetal:Retinopathyout-comesCwithCempagli.ozinCversusCplaceboCinCtheCEMPA-REGOUTCOMETrial.DiabetesCare2019CJan;dc1813556)前野彩香,前田泰孝,宮崎亜希ほか:SGLT2阻害薬で改善を認めた糖尿病黄斑浮腫のC4症例.糖尿病61:253,C20187)MienoCH,CYonedaCK,CYamazakiM:TheCe.cacyCofCsodi-um-glucoseCcotransporter2(SGLT2)inhibitorsCforCtheCtreatmentCofCchronicCdiabeticCmacularCoedemaCinCvitrect-omisedeyes:aCretrospectiveCstudy.CBMJCOpenCOphthal-molC3:e000130,C20188)津田晶子,千葉泰子,矢田省吾ほか:長期間血糖コントロール不良放置例C39例における治療開始後の網膜症の変化─黄斑症の重要性について.糖尿病C39(Suppl1):305,19969)吉成元孝:眼外循環と糖尿病網膜症.糖尿病C47:786-788,C200410)阿部眞理子,伊藤裕之,尾本貴志ほか:SGLT2阻害薬の投与開始後C9日目に脳梗塞を発症した糖尿病のC1例.糖尿病C57:843-847,C2014***

眼虚血症候群による血管新生緑内障に対してマイクロパルス毛様体光凝固術を施行した1例

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):989.993,2020c眼虚血症候群による血管新生緑内障に対してマイクロパルス毛様体光凝固術を施行した1例牧野想*1,2藤代貴志*2杉本宏一郎*2坂田礼*2村田博史*2朝岡亮*2本庄恵*2相原一*2*1国立国際医療研究センター病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科CMicropulseCyclophotocoagulationforNeovascularGlaucomaCausedbyOcularIschemicSyndromeSoMakino1,2)C,TakashiFujishiro2),KoichiroSugimoto2),ReiSakata2),HiroshiMurata2),RyoAsaoka2),MegumiHonjo2)andMakotoAihara2)1)DepartmentofOphthalmology,CenterHospitalofNationalCenterforGlobalHealthandMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC目的:内頸動脈狭窄に伴う眼虚血症候群による血管新生緑内障に対して内頸動脈血行再建術を施行した場合,術後に急激な眼圧上昇をきたすという報告がある.今回,頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)に先行したマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulsecyclophotocoagulation:MPCPC)で眼圧コントロールできた症例を報告する.症例:68歳,男性.右視野異常を自覚し前医受診,開放隅角緑内障の診断で眼圧降下薬点眼を開始されたが,その後眼圧の再上昇と急速な視野障害の進行あり当院紹介となった.右眼矯正視力低下,眼圧高値,虹彩ルベオーシス,全周隅角閉塞を認めた.頸動脈超音波検査で右内頸動脈高度狭窄あり,右眼虚血症候群による血管新生緑内障と診断,脳外科のCCASに先行して右眼CMPCPCを施行した.CAS後,虹彩ルベオーシス消退と眼圧低下を認め,以後経過良好である.結論:内頸動脈狭窄に伴う血管新生緑内障に対して,CASに先行したCMPCPCで急激な眼圧上昇を抑えることができた.CPurpose:Toreportacaseofneovascularglaucoma(NVG)causedbyocularischemicsyndrome(OIS)follow-inginternalcarotidartery(ICA)stenosisinwhichintraocularpressure(IOP)wascontrolledbymicropulsecyclo-photocoagulation(MPCPC)C.Casereport:A68-year-oldmalewhohadbeenusingeye-dropmedicationforlower-ingincreasedIOPdueopen-angleglaucomainhisrighteyewasreferredtoourhospitalaftertheIOPonce-againincreasedandvisual-.elddefectworsened.Examinationofhisrighteyerevealedavisualacuityof(0.2)C,anIOPof21CmmHg,CrubeosisCiridis,CandCaCclosedCangleCbyCperipheralCanteriorCsynechia.CCarotidCultrasonographyCshowedCseverestenosisoftherightICA,andwediagnosedNVGcausedbyOIS.WeperformedMPCPC,followedbycarot-idarteryCstenting(CAS)C.AfterCCAS,CtheCrubeosisCiridisCfadedCandCIOPCdecreased,CandCtheCpatientCmadeCsteadyCprogress.Conclusion:ForNVGcausedbyICAS,MPCPCfollowedbyCAScansuppressasuddenriseinIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(8):989.993,C2020〕Keywords:眼虚血症候群,血管新生緑内障,内頸動脈狭窄症,内頸動脈ステント留置術,マイクロパルス毛様体光凝固術.ocularischemicsyndrome(OIS)C,neovascularglaucoma(NVG)C,internalcarotidarterystenosis(ICAS)C,carotidarterystenting(CAS)C,micropulsecyclophotocoagulation(MPCPC)C.Cはじめにによる急性の視力低下・視野障害と,慢性的な循環不全によ内頸動脈狭窄症(internalcarotidarterystenosis:ICAS)る眼虚血症候群(ocularCischemicsyndrome:OIS)に分けに伴う眼症状は,内頸動脈内壁から.脱したプラークの塞栓られる1).OISは多彩な眼症状を呈するが,そのなかでも血〔別刷請求先〕牧野想:〒113-0033東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:SoMakino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-0033,JAPANCabc図1前医における右眼のHumphrey視野検査の経過a:X.1年C10月施行.上図:右眼.上方と鼻側下方の視野欠損を認める.下図:左眼.有意な視野欠損は認めない.b:2週間後.下方の視野障害の悪化傾向を認める.Cc:3カ月後.中心鼻側下方の視野障害の悪化傾向を認める.管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)を生じた際には治療に難渋することが多い1).OISに伴うCNVGの加療は汎網膜光凝固術が標準的であるが,対症療法にすぎず,効果は限定的ないし無効であるという報告も多い2).さらに,ICASに伴うCOISによるCNVGに対する根本的治療は内頸動脈血行再建術であるが,施行後には急激な眼圧上昇をきたすという報告もある3).今回,東京大学医学部附属病院(以下,当院)眼科にて,ICASに伴うCOISに合併したCNVGと診断し,内頸動脈血行再建術前にマイクロパルス毛様体光凝固術を施行して眼圧コントロールができたC1例を経験したので報告する.CI症例症例はC68歳,男性.狭心症の既往があり,約C20年前に経皮的冠動脈形成術をC3カ所施行されて以降,アスピリン100CmgとクロピドグレルC75Cmgを内服している.飲酒歴はないが,10本/日C×40年間の喫煙歴がある.CX.1年C8月に右眼の視力低下とまだら状の視野異常を自覚され,前医を受診.初診時の右眼矯正視力は(0.3C×sphC.1.0D(cyl.0.5DAx60°),右眼眼圧は18mmHgであった.X.1年C10月にCHumphrey視野検査(HumphreyC.eldanalyzer:HFA)30-2が施行され,右眼の上方と鼻側下方の視野欠損を認めた(図1a).頭蓋内精査目的に磁気共鳴画像診断装置(magneticCresonanceimaging:MRI)画像検査施行のうえで脳外科にコンサルトされたが,全脳と視神経に異常所見は認めなかった.以上から,右眼開放隅角緑内障の診断で,カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト右眼1回/日にて点眼加療が開始された.点眼加療開始後C2週間で右眼眼圧はC15CmmHgまで低下したが,HFA30-2において右眼下方の視野障害は悪化傾向であった(図1b).3カ月後のCX年C1月には右眼眼圧はC21CmmHgに再上昇し,HFA30-2において右眼の中心鼻側下方の視野障害の悪化傾向を認めた(図1c)ため,精査加療目的に当院眼科外来に紹介となった.当院初診時の視力は右眼0.15(0.2C×sph.0.50D(cyl.0.75CDAx60°),左眼0.7p(1.0pC×sph.1.00D(cyl.0.50DCAx140°)であり,眼圧は右眼C21mmHg,左眼C12mmHgであった.瞳孔径は右眼C4Cmm,左眼C2.5Cmmと左右差を認め,直接対光反射も右眼は遅鈍,左眼は迅速であったが,swingingC.ashlighttestにおいて両眼ともに縮瞳は維持されていた.細隙灯顕微鏡検査において,右眼に虹彩ルベオーシス,両眼白内障軽度を認める以外は,前眼部に異常所見は認めなかった(図2a,b).隅角鏡検査において,右眼は下方のみCSha.er分類でCGrade3,その他CGrade0で周辺虹彩前癒着による閉塞を認めた.左眼は全周CGrade4であった.眼底検査では色調の左右差や出血,白斑,動脈狭窄などの明らかな異常所見は認めなかった.以上から,右眼CNVGと診断し,原因精査目的に同日に血液検査と頸動脈超音波検査を施行した.血液検査においては,活性化部分トロンボプラスチン時間(activatedCpartialCthromboplastintime:APTT)36.3秒,フィブリノゲンC401Cmg/dlと軽度凝固能異常を認める以外は,炎症反応や糖尿病を含めた全身疾患を示唆する所見は認めなかった.頸動脈超音波検査においては右内頸動脈(internalCcarotidartery:ICA)近位部高度狭窄を認め,遠位部は血流速度の低下を認め,右眼CNVGの原因として右abc図2細隙灯顕微鏡検査写真a:初診時の右眼(左図)と左眼(右図)の前眼部写真.瞳孔径の左右差と右眼の虹彩ルベオーシスを認める.Cb:初診時.右眼の虹彩ルベオーシス(.)を認める.Cc:CAS施行C2週間後.右眼の虹彩ルベオーシスは消退した.図3フルオレセイン蛍光眼底造影写真a:動脈相,b:静脈相.明らかな無灌流域や虚血部位の存在は認めない.ICASによるCOISが考えられた.脳神経外科にコンサルトし,右眼CNVGに対して,本症例においては狭心症の既往から追加で施行された頭部磁気共鳴血管画像(magneticresonance抗血小板薬C2剤を内服もしており,線維柱帯切除術などの手angiography:MRA)においても右CICA高度狭窄の所見で術は出血のリスクが高いと考えた.また,内頸動脈血行再建あり,脳神経外科にて頸動脈造影検査,さらにその翌週に内術後の眼圧上昇のリスクも考慮し,CASに先行して右眼マ頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)が予イクロパルス毛様体光凝固術(micropulseCcyclophoto-定された.coagulation:MPCPC,power2,000CmW,dutyCcycleC31.1C%,上下半周C80秒ずつ照射)を施行した.2週間後にCCASが施行され,頸動脈の良好な拡張と頭蓋内CICAへの流入の改善を確認したうえで手術は終了した.CAS施行C2週間後の眼科再診時には,隅角閉塞所見は著変ないものの,虹彩ルベオーシスは消退(図2c)し,眼圧も右眼C10CmmHg(左眼C10CmmHg)まで下降した.MPCPC施行後約C5週間の時点で眼圧は右眼C17CmmHg,左眼C17CmmHgと有意な上昇は認めないものの,右眼結膜充血軽度,角膜全面の点状表層角膜炎,前房内セルC0.5+を認め,遷延性虹彩毛様体炎が疑われたためサンベタゾン点眼(右眼C4回/日)を追加した.そのC1カ月後には右眼の前房内炎症は改善したため,サンベタゾン点眼は中止した.このとき,右眼C19mmHg,左眼C16CmmHgと軽度右眼眼圧上昇を認めたが,以降はCMPCPCとCCAS施行後C8カ月までの経過において右眼眼圧C12.16CmmHg,左眼眼圧C12.15CmmHgと眼圧コントロールは良好であった.一方,右眼の視力はCMPCPCとCAS施行直後の(0.2Cp)からC8カ月後には(0.05)と低下傾向にあったが,原因は白内障の進行であると考えられた.CAS施行後C4カ月にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinCfundusangiography:FAG)を施行し(図3),明らかな無灌流域や虚血部位の存在はないことを確認し,汎網膜光凝固術の必要性はないと判断した.CII考按ICASに伴う慢性的な循環不全によりCOISは引き起こされる1)が,OISはとくに高度狭窄から完全閉塞に至った頸動脈病変によって同側性に引き起こされる4).本症例においても頸動脈超音波検査やCMRA検査において右CICAの高度狭窄が明らかとなり,これに伴い右眼COISが引き起こされたと考えられた.OISは多彩な所見を呈する疾患であり,前眼部所見としては対光反射減弱,ぶどう膜炎,白内障,虹彩萎縮,虹彩ルベオーシス,後眼部所見としては点状または斑状の網膜出血,軟性白斑,網膜動脈の狭小化,網膜や視神経乳頭の新生血管,硝子体出血を認めることがあり,とくに前眼部病変より後眼部病変のほうが高頻度に出現するとされる5).一方,本症例においては眼底における虚血を疑う所見に乏しかったが,前眼部に対光反射減弱,虹彩ルベオーシスを認めた.NVGは局所的な血管新生刺激による線維血管膜の増殖に伴う房水流出抵抗の増大によって起こる高眼圧状態とそれによって引き起こされる緑内障であり,3大原因疾患として,糖尿病網膜症(33%),網膜中心動脈閉塞症(33%),眼虚血症候群(13%)があげられ6),これらの疾患でCNVGの原因の約C80%を占める.つまり,NVGを疑った際にはこれらの疾患の可能性を考える必要がある.さらに,本症例のように眼底所見からは糖尿病網膜症を疑う両眼性の網膜出血や白斑,網膜中心動脈閉塞症を疑う網膜色調の変化などの特徴的所見を認めない場合には,とくにCOISを疑い,頸動脈病変の有無の検索目的に頸動脈超音波検査の施行,血管炎などの全身疾患の有無の検索目的に採血検査の施行が必要であると考えられる.また,検鏡的には判断困難な虚血の状態の確認目的にCFAGも有用であると考えられたが,肝機能・腎機能などの他臓器を含めた全身状態の確認ができていなかったこと,頸動脈超音波検査においてCICAの狭窄部位遠位の血流は速度の低下はあるものの保たれていたこと,脳神経外科での精査加療が急がれると判断したことから,本症例では術前には行わなかった.本症例では,全身状態の確認ができ,脳神経外科によるCCAS施行後の経過も安定した時点でCFAGを施行し,明らかな無灌流域や網膜・視神経乳頭新生血管の存在は認めなかった.ICASに伴うCOISの症例において,ICAの血行再建によって虹彩ルベオーシスの消退,眼底における白斑の消失,視力などの視機能改善が得られたという報告がある7).また,ICASの症例においては,おもに外頸動脈から側副血行路が形成されることにより眼動脈血流は維持される場合も多いとされ,本症例においても頸動脈超音波検査の結果も考慮すると,側副血行路が形成された可能性や,慢性的な比較的虚血状態にはあるものの,網膜血流の完全な途絶はなかった可能性が考えられた.一方,ICASに伴うCOISに続発したCNVGの症例において,ICA血行再建により急激な眼圧上昇を認めたという報告もある3,8).これは,とくに慢性の経過にて閉塞隅角をきたした場合,低下していた房水産生機能が血行再建により回復することによって眼圧上昇を生じると考えられている9).そのため,閉塞隅角をきたした症例においては,CASなどのICA血行再建術前に房水産生機能の抑制や房水排出機能の促進を図る必要がある.さらに,OISに伴うCNVGの標準的加療は汎網膜光凝固術であるが,対症療法にすぎず効果は限定的ないし無効であるという報告も多く2),また,標準術式である線維柱帯切除術においては新生血管からの出血が必発で手術予後は不良である6).さらに,本症例においては抗血小板薬をC2剤内服しており,手術における出血リスクはさらに高い状態であると考えられたため,観血的治療は予後不良であると予想された.以上から,MPCPCによる加療を行った.本症例で施行したCMPCPCは,経強膜的に毛様体へ短時間でCon-o.するレーザーエネルギーを当て,onサイクルで熱障害を与え,o.サイクルで冷却し組織を保護する方法であり,毛様体の炎症による房水産生低下と細胞生化学的カスケードの活性化によるぶどう膜流出路からの房水排出促進により眼圧下降が得られると考えられている10,11).従来の毛様体光凝固術に比べて,組織障害が少なく,眼球癆や交感性眼炎といった重大な合併症の報告が少ない非観血的治療法である12).本症例のように,眼圧下降が望まれるが線維柱帯切除術などの観血的治療において出血リスクが高い症例において,MPCPCは有用な治療の選択肢であることが示せた.さらには,ICASに伴うCNVGの加療において,CAS施行後に新生血管の病勢が軽減されたうえで線維柱帯切除術などの観血的治療を検討する際の事前治療手段としてもCMPCPCは有用である可能性を示せた.今回筆者らは,ICASに伴うCOISによりCNVGを生じて閉塞隅角をきたした本症例において,MPCPCをCCASに先行して施行したことにより,ICA血行再建術後の急激な眼圧上昇を予防することができた.MPCPCは,高眼圧を伴うICASに対する血行再建術を,重大な眼合併症なく速やかに施行するための事前治療手段の一つとして有効である可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)栂野哲也,福地健郎,太田亜紀子ほか:内頸動脈閉塞症に伴う血管新生緑内障のC1例.眼紀C55:889-894,C20042)梶浦祐子,安積淳,井上正則:眼虚血症候群:その臨床経過と治療成績.臨眼C46:1022-1024,C19923)佐藤茂,西田武生,内堀裕明ほか:眼虚血症状より内頸動脈狭窄症が発見され,CarotidArteryCStentingを施行した3例.あたらしい眼科C33:606-612,C20164)KimCYH,CSungCMS,CParkSW:ClinicalCfeaturesCofCocularCischemicCsyndromeCandCriskCfactorsCforCneovascularCglau-coma.KoreanJOphthalmolC31:343-350,C20175)Terelak-BorysB,SkoniecznaK,Grabska-LiberekI:Ocu-larCischemicCsyndrome─aCsystematicCreview.CMedCSciCMonitC18:RA138-144,C20126)HavensSJ,GulatiV:Neovascularglaucoma.DevOphthal-molC55:196-204,C20167)矢澤由加子,佐藤祥一郎,板橋亮ほか:ステント留置術が有効であった左総頸動脈起始部狭窄による眼虚血症候群の1例.臨床神経学C51:114-119,C20118)福永健作,井上正則:頸動脈内膜血栓.離術後に眼圧上昇をみた眼虚血症候群のC1例.眼紀52:960-964,C20019)CoppetoCJR,CWandCM,CBearCLCetal:NeovascularCglauco-maandcarotidarteryobstructivedisease.AmJOphthal-molC99:567-570,C198510)LiuCGJ,CMizukawaCA,COkisakaS:MechanismCofCintraocu-larCpressureCdecreaseCafterCcontactCtrans-scleralCcontinu-ouswaveNd:YAGlasercyclophotocoagulation.Ophthal-micResC26:65-79,C199411)FeaAM,BosoneA,RolleTetal:Micropulsediodelasertrabeculoplasty(MDLT):aCphaseCIICclinicalCstudyCwithC12monthsfollow-up.ClinOphthalmolC2:247-252,C200812)MaCA,CYuCSWY,CWongCJKW.CMicropulseClaserCforCtheCtreatmentCofglaucoma:ACliteratureCreview.CSurvCOph-thalmolC64:486-497,C2019***

眼虚血症状より内頸動脈狭窄症が発見され,Carotid Artery Stentingを施行した3例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):606〜612,2016©眼虚血症状より内頸動脈狭窄症が発見され,CarotidArteryStentingを施行した3例佐藤茂*1西田武生*2内堀裕昭*1横田千里*2中島義和*2林仁*1*1市立堺病院眼科*2市立堺病院脳神経外科ThreeCasesofInternalCarotidArteryStenosisDiagnosedfromOcularIschemicSymptomsandTreatedwithCarotidArteryStentingShigeruSato1),TakeoNishida2),HiroakiUchihori1),ChisatoYokota2),YoshikazuNakajima2)andHitoshiHayashi1)1)DepartmentofOphthalmology,SakaiMunicipalHospital,2)DepartmentofNeurosurgery,SakaiMunicipalHospital背景:眼虚血症状から中等度〜高度内頸動脈狭窄症(internalcarotidarterystenosis:ICAS)が発見され,頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)を施行した3例を報告する.症例報告:症例1は網膜中心動脈閉塞症の精査で可動性プラークを伴う中等度ICASを認めた.CAS後,経過観察期間内には脳虚血発作は発症しなかったが,視機能改善は得られなかった.症例2は急激な視力低下に対する精査で高度ICASを認めたためCASを施行した.術後,眼圧コントロール不良となり線維柱帯切除術を施行した.その結果,視力・視野ともに維持できた.症例3は一過性黒内障の精査で両側高度ICASを認めた.両側にCASを施行したが,術後眼圧コントロール不良となり,両眼に線維柱帯切除術を施行した.その結果,視力・視野ともに維持できた.結論:眼虚血症状を示す症例には,ICASスクリーニングを行うことが重要である.高度ICASでは,短期間に血管新生緑内障を発症することがあるので注意を要する.また,ICASの治療に際しては脳外科と眼科の連携が非常に重要である.Background:Wereportthreecasesdiagnosedwithmoderate/severeICASbasedoneyeischemicsymptomsandtreatedwithCAS.Casereports:Case1:ModerateICASwithmobileplaquewasrevealedbydetailedexaminationofretinalcentralarteryocclusion.AlthoughsubsequentCASsuccessfullypreventedmajorischemicstroke,visualfunctionwasnotimproved.Case2:AfterconfirmationofleftsevereICAS,whichhadcausedseverevisualimpairment,CASwasperformed.IntraocularpressurecontrolbecamepoorafterCAS.Thepatientthenreceivedtrabeculectomy,andvisualfunctionwasmaintained.Case3:BilateralsevereICASwasdetectedbydetailedexaminationofamaurosisfugax.AfterbilateralCAS,bilateralintraocularpressurecontrolbecamepoor.Trabeculectomywasperformedbilaterally.Visualfunctionwasthenmaintained.Conclusion:Carotidarteryscreeningshouldbeconsideredforpatientswithocularischemicsymptoms.PatientswithsevereICASmaydeveloprubeoticglaucomarapidly.ClosecooperationbetweenophthalmologistsandneurosurgeonsisimportantforthemanagementofpatientswithICAS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):606〜612,2016〕Keywords:内頸動脈狭窄症,眼虚血症候群,血管新生緑内障,網膜中心動脈閉塞症,頸動脈ステント留置術.internalcarotidarterystenosis(ICAS),ocularischemicsyndrome,neovascularglaucoma,retinalcentralarteryocclusion,carotidarterystenting(CAS).はじめに内頸動脈狭窄症(internalcarotidarterystenosis:ICAS)は症状の有無から症候性と無症候性に分類され,血管造影による狭窄の程度からは一般に軽度(30〜49%),中等度(50〜69%),高度(70%以上)とされる(脳神経外科疾患情報ページ,NeuroinfoJapan,http://square.umin.ac.jp/neuroinf/index.html).ICASに伴う眼症状も大きく2つのタイプに分けられる.一つは内頸動脈内壁に形成されたプラークの剝脱に起因する塞栓により急激な視力低下もしくは視野障害を引き起こすタイプ(たとえば,一過性黒内障,網膜動脈閉塞症,虚血性視神経症など),もう一つは慢性の循環不全によるいわゆる眼虚血症候群である1).眼虚血症候群の多彩な眼合併症のなかでもとくに血管新生緑内障が重要で,いったん発症すると治療に抵抗性で,視力予後は非常に悪い1).従来,高度ICASに対しては頸動脈内膜剝離術が標準的治療として行われてきた2).しかし,手術侵襲が大きく,外科的手術リスクあるいは麻酔リスクが高い症例には行えず,適応が限られるという問題点があった.近年,血管内治療の進歩により,より低侵襲の頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)が導入され,頸動脈内膜剝離術に比して遜色のない手術成績が報告されている3,4).今回,網膜中心動脈閉塞症(retinalcentralarteryocclusion:CRAO)もしくは虹彩新生血管から中等度〜高度ICASが発見され,CASを施行した3例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕78歳,男性.主訴:左眼の急激な視力低下.既往歴:2004年12月両眼水晶体再建術,糖尿病,高脂血症,喫煙30本/日×60年,飲酒過多,慢性硬膜外血腫術後,胃潰瘍術後.現病歴:2014年8月,突然左眼の急激な視力低下を自覚した.近医にて左眼のCRAOを指摘され,塞栓源の検索目的にて市立堺病院(以下,当院)眼科へ紹介となり,発症より1週間後に初診となった.初診時所見:矯正視力右眼(1.0),左眼(0.01).眼圧右眼15mmHg,左眼10mmHg.左眼relativeafferentpupillarydefect陽性.前眼部,中間透光体に特記すべき所見は認められなかった.左眼眼底に網膜動脈の高度狭細化と分節状血柱が認められた.また,後極部網膜は浮腫状で,黄斑部はいわゆるcherryredspotを呈し(図1a),フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)では静脈注射後1分経過しても周辺の動脈が完全に造影されず,とくに下方の動脈は後期でも造影されなかった(図1b).右眼の眼底および蛍光眼底所見に特記すべき所見は認められなかった.経過:発症後1週間経過しており,動脈閉塞も非常に高度のため,血栓溶解薬の投与は視機能の改善効果よりも副作用のリスクが上回ると判断して見送ることとした.塞栓源の検索のため,心エコーおよび頸部エコーを施行した.心エコーでは有意な所見は認めなかったが,頸部エコーでは,左内頸動脈狭窄率54%(ECST法),peaksystolicvelocity=0.52m/sであり,左頸動脈分岐部で,拍動に一致して動く石灰化を伴う7×4mmの可動性プラークを認めた(図1c).さらに右内頸動脈の狭窄(狭窄率64%,ECST法)も認めた.即座に当院脳神経外科へ紹介したところ,頭部MRIで比較的新しい脳梗塞を認めたため,網膜中心動脈以外にも塞栓が飛んでいるとの判断にて,当院脳神経外科へ緊急入院となった.眼科初診より5日後,左頸動脈に対して,可動性プラークを飛散させないように,バルーン付ガイディングカテーテルを用い総頸動脈血流を遮断かつ血液を逆流させた状態でCASを行った.術後のMRIでは微小脳梗塞を数カ所認めるのみで,神経学的な症状は認められなかった.CAS後の頸部エコーでは可動性プラークがステントで押さえられ,ステント内の血流は良好であることが確認された.しかし,網膜動脈の血行改善は限定的であり(図1d),CAS術後3カ月の左眼視力は指数弁であった.今後右眼のICASに対しても狭窄の進行や症状が出現すればCASを行う予定であり,脳神経外科と眼科で注意深く経過観察する予定にしている.〔症例2〕71歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:脳梗塞(2009年),糖尿病,糖尿病網膜症,狭心症(ステント留置後,低用量アスピリン,クロピドグレル内服中),大腸ポリープ,貧血,喫煙(20本/日×54年),飲酒(ビール700〜1,050ml/日)現病歴:2013年末ごろより左眼の霧視を自覚.起床後1時間位はとくに強く感じていた.2014年3月急激な左眼の視力低下を自覚したため近医を受診した.再診時矯正視力右眼(0.9)左眼(0.3),FAにて左腕網膜時間の著明な遅延を認めるとのことで2014年4月当院眼科紹介となった.初診時所見:矯正視力右眼(1.2),左眼(0.5),眼圧右眼16mmHg,左眼20mmHg.前眼部は瞳孔径右眼約2mm,左眼約4mmで左右差を認めた.中間透光体として両眼に核白内障が認められた.右眼底に小さな軟性白斑を1カ所のみ認められたが,左眼に網膜動脈の高度狭細化,しみ状出血,軟性白斑を認められ,左右差が明らかであった(図2a).Goldmann視野計にて左眼の傍中心暗点と鼻側の感度低下を認めた.経過:頸部エコーでは,左ICAは分岐直後より血流信号が乏しく,描出不良で高度狭窄もしくは閉塞が疑われた.右ICAは狭窄があるものの石灰化で狭窄率は評価できないとのことであった.頭部MRIでは左前頭部深部白質に複数の陳旧性ラクナ梗塞を認め,慢性虚血性変化を指摘された.頭部MRAでは左ICAは描出されず,左中大脳動脈は非常に淡く描出されていた.前交通動脈は代償性によく描出されていた.右ICAは石灰化を伴う若干の狭窄を認めるのみであった.5月初旬のFAでは,左眼の腕網膜時間は19秒と延長を認め,網膜内灌流時間の著明な延長を認めた.また,左眼では全周にわたり網膜血管からシダ状の蛍光漏出を認めた.さらに,視神経乳頭も過蛍光を示したが,無灌流領域や網膜新生血管は認めなかった(図2b).右眼に特記すべき所見を認めなかった.以上より,左眼の網膜光凝固開始は,内頸動脈の血行再建が可能か否かの脳外科的判断を待って決めることとした.5月下旬に施行された脳血管撮影では,左内頸動脈は分岐部より99%狭窄しており,眼動脈へは外頸動脈から逆行性かつ遅延して血流が認められた.右内頸動脈は45%の狭窄を認めた.血管造影検査直後から左眼眼痛を自覚し,見えなくなったとのことで同日に眼科を再診された.左眼矯正視力(0.01),左眼眼圧30mmHg.前眼部に著明な結膜充血,瞳孔領に著明な虹彩新生血管と軽度虹彩後癒着が認められた(図2c).隅角検査では下方にanglehyphemaを認め,全周Scheie分類IV度であった.眼底は著変なく,cherryredspotは認められなかった.そのため,チモロール,ブリンゾラミド,ラタノプロスト点眼および汎網膜光凝固を開始した.虹彩後癒着防止目的にてミドリンP®点眼,アトロピン点眼も開始した.翌日には虹彩新生血管は変化ないものの,前房出血は軽度増加した.しかし,左眼矯正視力(0.3),左眼眼圧16mmHgまで改善した.その後,点眼にて眼圧コントロールは可能であった.7日後に2回目の汎網膜光凝固を行い計1,191発施行した.血管造影から8日後脳神経外科にて左CASを施行し,術翌日の頸動脈エコーにて血行再建が確認された.CAS施行6日後に眼科再診したところ,見え方は楽になったとのことであり,左眼矯正視力(0.3)であったが,眼圧が35mmHgまで上昇していた.ブリモニジン点眼を追加するも眼圧下降は得られなかったため,CAS施行21日後左眼に対してマイトマイシンC併用線維柱帯切除術および水晶体再建術を施行した.手術は耳上側円蓋部基底結膜切開とし,強膜弁は3mm×3mm+2.5mm×2.5mmの二重強膜弁で行い,水晶体再建は2.4mm耳側角膜切開で行った.術中,虹彩切除に伴う軽度前房出血を認めた.出血による急速な流出路の閉塞・癒着形成を考慮し,術翌日より積極的にレーザー切糸および眼球マッサージを行った.しかし,最終的にすべての縫合糸を切断しても高眼圧が持続し,濾過胞の形成不良を認めたため,術後1週間にて濾過胞再建術を行った.強膜弁を挙上すると,凝血塊が完全に流出路を塞いでいることが確認できたため,凝血塊を除去し,再度MMCの塗布を行った.再建術後は前房出血もみられず,眼圧も安定した.また,眼圧下降に伴い虹彩新生血管は急速に退縮した.(図2d)CAS施行7カ月後の最終受診時は左眼視力(0.9),眼圧15mmHgであり,抗緑内障薬から離脱できている.網膜のしみ状出血も軽減した(図2e).視野は比較的保たれており,傍中心暗点が消失していた.術後3カ月のFAでは網膜内循環時間が著明に改善し,網膜血管からのシダ状漏出は消失していた(図2f).〔症例3〕65歳,男性.主訴:左眼一過性黒内障.既往歴:2014年4月両眼水晶体再建術,糖尿病,高血圧,慢性心不全,大動脈分岐部慢性閉塞症(Leriche症候群)現病歴:2014年7月左眼の一過性黒内障が日に数回起こるとの訴えがあり,当院循環器内科より同月眼科紹介となった.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.4).眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.前眼部は瞳孔領を含む虹彩面上には新生血管を認めなかった.中間透光体は特記すべき所見を認めなかった.眼底は右眼に数カ所の点状出血および小さな軟性白斑,左眼には多発する軟性白斑を認めた(図3a,b).ICASを疑うも,すでに循環器内科より頭部MRIおよびMRA検査予約がされていたため,検査後の再診とした.初診より12日後に再診したところ,頭部MRIでは左後頭葉内側を含む多発脳梗塞が指摘され,頭部MRAでは左後大脳動脈末梢がやや描出不良とのことのみであった.しかし,細隙灯顕微鏡検査にて両眼に著明な虹彩新生血管を認めた(図3c,d).眼虚血症候群を強く疑い,両眼の汎網膜光凝固を開始するとともに緊急頸部エコーを施行した.その結果,左右内頸動脈に有意狭窄を認め,右狭窄率51%(ECST法),peaksystolicvelocity=2.3m/s,左狭窄率63.2%(ECST法),peaksystolicvelocity=2.7m/sで加速血流を認めた.速やかに脳神経外科へ紹介し,脳血管撮影による精査を行ったところ,狭窄率はNASCET法にて右83%,左75%と高度狭窄を認めた(図3e).その後,光凝固を追加し,合計右眼864発,左眼865発施行した.初診より19日後の眼圧はドルゾラミド/チモロール点眼1日2回点眼下で,右眼23mmHg,左眼22mmHgであったので,トラボプロスト点眼両1回/日を追加処方した.循環器内科からは高度の弁膜症があり全身麻酔は許可できない状態とのことであった.また,大動脈分岐部慢性閉塞症(Leriche症候群)を合併していたため,通常の大腿動脈からのアプローチは不可能と判断され,両側とも局所麻酔下で右上腕動脈からのアプローチにてCAS(左7月下旬,右8月上旬)が施行された(図3f).左CAS施行2日後に右眼43mmHg,左眼39mmHgと上昇を認めたため,CAS術後右眼232発,左眼54発光凝固を追加し,塩酸ブリモニジン点眼両眼1日2回,アセタゾラミド内服500mgを追加処方した.その結果,右眼眼圧は20台前半,左眼眼圧は20台後半で推移した.両眼の虹彩新生血管は著変を認めなかった.アセタゾラミドを中止すると両眼ともに眼圧が20台後半まで上昇するため,左CAS術後28日目に左眼に対し,右CAS術後28日目に右眼に対して耳上側円蓋部基底結膜切開によるマイトマイシンC併用線維柱帯切除術施行した.強膜弁は3mm×3mm+2.5mm×2.5mmの二重強膜弁で行った.両眼とも虹彩切除による前房出血は非常に軽度であり,速やかに眼圧の下降が得られた.眼圧の下降に伴い両眼とも急速に虹彩新生血管は退縮した.2015年1月の再診時,矯正視力は右眼(1.2)左眼(1.0).眼圧は右眼12mmHg,左眼9mmHgであり,抗緑内障薬から離脱でき,左後頭葉の脳梗塞に伴うと考えられる右下1/4半盲を認めるものの,視野は比較的保たれている.II考按ICASの原因は粥状動脈硬化であり,プラークの剝脱による広範な脳塞栓を起こせば,生命にかかわる疾患である.また,ICASは高度狭窄をきたすまで自覚症状が出にくく5),早期に発見するためには,スクリーニング検査が重要となる.スクリーニングとしては非侵襲検査である頸動脈エコーもしくはMRAが適している.とくに頸部エコーは検者の技量に左右されるという欠点はあるものの,簡便で患者の経済的負担も軽い.MRAに関しては,一般に頭部MRAでは頸部頸動脈は撮影範囲外になるということに注意が必要である.事実,症例3では頭部MRAでは撮影範囲外であったために頸部の高度ICASを発見できなかった.事前に自分が所属する施設のMRA撮影条件や範囲を確認しておくことが重要で,ICASを疑う症例では,頸部頸動脈も適切に検査されているか注意が必要である.症例3では急速に虹彩新生血管が発生した.初診時には虹彩面上には認めなかったにもかかわらず,12日後には両眼に累々と形成された.初診時に隅角検査を行っていないので,隅角にはすでに新生血管の形成があった可能性はある.眼虚血症候群を疑った場合,可能であれば,速やかにFAにて灌流状態を評価すべきである.腕網膜時間の著明な延長やシダ状蛍光漏出など,高度な眼虚血を疑う症例については,頸動脈のスクリーニング検査も併せて行い,治療方針を決定することになるが,治療が一段落するまでは再診の間隔を短くし,虹彩面上および隅角の新生血管の発生を見逃さないよう注意することが特に重要と思われた.症例2,3ともに著明な虹彩新生血管を形成したにもかかわらず,眼圧上昇は比較的軽度で点眼および内服でコントロール可能であった.しかし,CAS直後から眼圧上昇を認めた.これは,既報にもあるように眼虚血により房水産生も低下していたためであり,CASにより血行が再建されると房水産生が回復し急速に眼圧が上昇したと考えられる5,6).虹彩新生血管を伴う症例ではCAS後の急激な眼圧上昇にとくに注意すべきと再認識した.症例3ではCAS術前の眼圧はドルゾラミド/チモロール点眼1日2回点眼下で,右眼23mmHg,左眼22mmHgであったが,CAS後の眼圧上昇を見越してトラボプロスト点眼両眼1回/日追加処方した.しかし,CAS後眼圧はさらに上昇し,そのコントロールには光凝固の追加と最大許容量の投薬が必要であった.CASの術前から最大許容量の眼圧降下薬を処方すべきかどうかついては,今後の検討課題である.症例2,3は,血管新生緑内障を発症したにもかかわらず,CASと線維柱帯切除術の併施にて良好な視機能を維持することができた.しかし,一般に血管新生緑内障は手術成績が悪く,予後が不良であるとされている1,7,8).血管新生緑内障に対しては線維柱帯切除術が標準術式であるが,新生血管からの出血が必発で,流出路を凝血塊が閉塞してしまう.症例2では,強膜弁下に凝血塊が詰まり,濾過胞再建術を1回要したが,症例3では両側とも凝血塊の問題は生じなかった.CASで血行再建を行い,虚血状態を改善してから手術を行ったため,虹彩新生血管の病勢が弱まって,前房出血が少なかった可能性がある.また,最終的な新生血管の退縮は3眼ともに線維柱帯切除術後の眼圧下降に連動していた.以上から,CAS後の眼圧コントロール不良症例には,積極的に線維柱帯切除術を行うべきと考える.近年,抗VEGF抗体などのVEGF抑制作用を有する生物製剤の線維柱帯切除術前投与が手術成績向上に有用であると報告されている8,9).しかし,抗VEGF抗体は脳梗塞症例には注意が必要とされており,高度ICAS症例は脳梗塞を含む全身合併症があることが多く,特段の注意を要する.実際,2例のICASに伴う血管新生緑内障に対して抗VEGF抗体(Avastin®)を硝子体注射したところ,2例ともにCRAOを発症したとの報告もある10).現在のところ,血管新生緑内障に対して保険適応のあるVEGF抑制作用を有する生物製剤は存在しない.以上より,筆者らは今回の症例に対してはVEGF抑制作用を有する生物製剤は使用しなかった.使用せざるを得ない場合には,厳格なインフォームド・コンセントと倫理委員会の承認が必要と考える.近年,線維柱帯切除術以外の術式として,チューブシャント手術が脚光を浴びているが,今後ICASによる血管新生緑内障に対する第一選択の術式となるかは不明である.今回,眼虚血症候群を呈した症例2,3の3眼で汎網膜光凝固を施行した.汎網膜光凝固をどのような症例に行うかの判断はむずかしいが,新生血管を認めない症例や認めても解放隅角期で眼圧上昇がない症例にはCAS術前に積極的に行う必要はないように思われる.しかし,閉塞隅角期に入り眼圧上昇をきたした症例は眼内VEGF濃度を減らすことが重要で,前述のように,眼虚血症候群に対して適応のある抗VEGF製剤が存在しない現状では速やかに汎網膜光凝固を行うべきであると考える.内頸動脈に高度狭窄をきたすような症例の多くは,高齢かつ何らかの全身合併症をもっていることを考えると,CASにより低侵襲で根治療法が行えることは非常に有用である.CASはわが国では2008年4月に保険適応となったが,それ以降もCAS用デバイスの進歩は著しく,さまざまな有用なデバイスやアプローチ法が開発されている.たとえば,本報告の症例1のように可動性プラークがある症例には,比較的目の細かいclosed-cellstentであるCarotidWallStent®が使用され,プラークがステント腔内に突出しないように配慮されている.また,症例3のように胸部や腹部大動脈に何らかの病変があるため従来は大腿動脈アプローチでのCASでは治療が困難と考えられていた症例でも,上腕動脈から治療できるようになってきている.また,CASによる塞栓性合併症の原因は手技中に血管腔内に出てくるデブリであるが,このデブリを回収するデバイスも,狭窄遠位をブロックするバルーンやフィルター,狭窄近位をブロックするバルーンガイディングカテーテルなど複数の選択があり,患者の病態に応じて最適な方法が取られている.症例1では視力改善は困難であったものの,可動性プラークに対してCASを行うことで,生命を脅かす脳梗塞のリスクを回避することができた.中等度〜高度ICASを認めた際には,高齢者や全身合併症のあるハイリスク症例であっても,積極的に脳神経外科へ紹介し,根治術の可能性を探るべきであると考える.最後に,高度〜中等度ICASの加療にあたっては,脳神経外科と眼科の密な連携が非常に重要であることを強調したい.文献1)栂野哲也,福地健郎,太田亜紀子ほか:内頸動脈閉塞症に伴う血管新生緑内障の1例.眼紀55:889-894,20042)GoldsteinLB,AdamsR,AlbertsMJetal:Primarypreventionofischemicstroke:aguidelinefromtheAmericanHeartAssociation/AmericanStrokeAssociationStrokeCouncil:cosponsoredbytheAtheroscleroticPeripheralVascularDiseaseInterdisciplinaryWorkingGroup;CardiovascularNursingCouncil;ClinicalCardiologyCouncil;Nutrition,PhysicalActivity,andMetabolismCouncil;andtheQualityofCareandOutcomesResearchInterdisciplinaryWorkingGroup:theAmericanAcademyofNeurologyaffirmsthevalueofthisguideline.Stroke37:1583-1633,20063)ManteseVA,TimaranCH,ChiuDetal:TheCarotidRevascularizationEndarterectomyversusStentingTrial(CREST):stentingversuscarotidendarterectomyforcarotiddisease.Stroke41:S31-S34,20104)CremonesiA,CastriotaF,SeccoGGetal:Carotidarterystenting:anupdate.EurHeartJ21:1-9,20145)高木麻起子,河原彩,杉山哲也ほか:内頸動脈内膜剝離術後に増悪した血管新生緑内障の1例.臨眼59:349-352,20056)福永健作,井上正則:内頸動脈内膜血栓剝離術後に眼圧上昇をみた眼虚血症候群の1例.1眼紀52:960-964,20017)HavensSJ,GulatiV:Neovascularglaucoma.DevOphthalmol55:196-204,20168)HorsleyMB,KahookMY:Anti-VEGFtherapyforglaucoma.CurrOpinOphthalmol21:112-117,20109)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,201010)HigashideT,MurotaniE,SaitoYetal:Adverseeventsassociatedwithintraocularinjectionsofbevacizumabineyeswithneovascularglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol250:603-610,2012〔別刷請求先〕佐藤茂:〒593-8304大阪府堺市西区家原寺町1-1-1市立堺病院眼科Reprintrequests:ShigeruSatoM.D.,Ph.D.DepartmentofOphthalmology,SakaiMunicipalHospital,1-1-1Ebaraji-cho,Nishi-ku,SakaiCity,Osaka593-8304,JAPAN606(124)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図1症例1a:初診時の左眼眼底写真.網膜動脈の高度狭細化と分節状血柱を認める.後極部網膜は浮腫状で,黄斑部はcherryredspotを呈す.b:左眼FA(静注後1分).動脈が完全に造影されていない.c:頸動脈エコーにて,左頸動脈球部に可動性プラークを認める.d:CAS後約1カ月の左眼FA(静注後1分).網膜循環は若干の改善に留まる.(125)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016607図2症例2a:初診時左眼眼底写真.網膜動脈の狭細化,軟性白斑および斑状出血を認める.b:左眼CAS術前FA(静注後1分).静脈はまだ充盈されておらず,網膜内循環時間の著明な延長を認める.c:初診から1カ月後の左眼前眼部写真.虹彩新生血管を認める.d:線維柱帯切除術後,急速に虹彩新生血管は退縮した.e:CAS術後7カ月の眼底写真.軟性白斑の消失と斑状出血の軽減を認める.f:CAS術後3カ月のFA(静注後1分).静脈もすでに充盈されており,明らかな網膜内循環時間の改善を認める.608あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(126)(127)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016609図3症例3a:右眼初診時眼底写真,b:左眼初診時眼底写真.右眼は数カ所の点状出血と小さな軟性白斑を認める.左眼は軟性白斑が多発している.c:右眼前眼部写真,d:左眼前眼部写真.初診より12日後.両眼とも著明な虹彩新生血管を認める.e:右血管造影CAS術前.➡:著明な狭窄を認める.f:CAS術直後.➡:狭窄部位がステントで拡張されていることがわかる.610あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(128)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016611612あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(130)

網膜循環障害を合併し予後不良であった交感性眼炎の1例

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):249.252,2012c網膜循環障害を合併し予後不良であった交感性眼炎の1例奥貫陽子*1,2片井直達*1横井克俊*1後藤浩*2*1東京医科大学八王子医療センター眼科*2東京医科大学眼科学教室SympatheticOphthalmiawithPoorVisualOutcomeComplicatesaCaseofRetinalArteryCirculatoryDisturbanceYokoOkunuki1,2),NaomichiKatai1),KatsutoshiYokoi1)andHiroshiGoto2)1)DepartmentofOphthalmology,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity穿孔性眼外傷受傷後の僚眼に,眼内炎症とともに典型的な交感性眼炎にはみられない網膜循環障害を伴い,重篤な経過をたどった症例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.グラインダーの破片で右眼を受傷し,同日強角膜縫合術を行ったが,徐々に眼球癆となった.受傷後9週目に左眼視力低下を自覚した.前房炎症と硝子体混濁に加えて網膜中心動脈閉塞症様の所見を認め,蛍光眼底造影では網膜灌流の遅延と脈絡膜の斑状低蛍光がみられた.ステロイドパルス療法を行い,炎症所見と網膜浮腫は次第に軽減したが動脈は白鞘化し,視力は光覚弁となった.プレドニゾロンを漸減中,眼炎症が再燃するとともに血管新生緑内障を併発し,最終視力は光覚なしとなった.穿孔性眼外傷後の僚眼には典型的な交感性眼炎とは異なる網膜循環不全を伴った眼内炎症を生じ,急激な経過をたどることがある.An80-year-oldmalevisitedourhospitalafewhoursafterhisrighteyehadbeeninjuredbyafragmentofabrokengrinder.Cornealandscleralsuturingwasperformedonthatsameday,buttheeyegraduallydevelopedphthisisbulbi.Intheninthweekafterinjury,thepatientnoticedblurredvisioninhislefteye.Anteriorchambercellsandvitreousopacitywithcentralretinalarteryocclusionwereobserved.Fluoresceinandindocyaningreenangiographyrespectivelydisclosedseveredisturbanceofretinalarterycirculationandmultiplepatchyhypo.uoresceinlesionsinthechoroid.Theintraocularin.ammationsubsidedwithcorticosteroidpulsetherapy,butvisualacuitydidnotrecover.Duringtaperingo.ofcorticosteroid,theintraocularin.ammationexacerbated,withcomplicationofrubeoticglaucomaandvisualloss.Intraocularin.ammationpresumablycausedbysympatheticophthalmiacanleadtodisturbanceofretinalarterycirculationandresultinaseverevisualdisturbance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):249.252,2012〕Keywords:穿孔性眼外傷,交感性眼炎,網膜中心動脈閉塞症,眼虚血症候群.perforatingocularinjury,sympa-theticophthalmia,centralretinalarteryocclusion,ocularischemicsyndrome.はじめに交感性眼炎は穿孔性眼外傷や内眼手術後に発症する両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎であり,穿孔性眼外傷後の発症率は0.2.1.0%程度と考えられている1,2).発症機序や臨床所見はVogt-小柳-原田(VKH)病に類似し3),治療もVKH病に準じて副腎皮質ステロイド(ステロイド薬)のパルス療法または大量漸減療法が行われ,発症早期に十分量のステロイド薬が投与されれば比較的予後が良いことが多い.今回,穿孔性眼外傷受傷後に僚眼に交感性眼炎と思われる眼炎症を発症するとともに,網膜中心動脈閉塞症様の所見を伴い,典型的な交感性眼炎とは異なる所見を呈し,重篤な経過をたどった症例を経験したので報告する.I症例患者:81歳,男性.既往歴:未精査の不整脈.現病歴:2010年7月15日,自宅の庭でグラインダーを使用中に,破損したグラインダーの刃が飛来して右眼を受傷〔別刷請求先〕奥貫陽子:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室Reprintrequests:YokoOkunuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjyuku,Shinjyuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)249図1左眼眼底写真(2010年9月16日)硝子体混濁,網膜浮腫,cherryredspot様所見,および網膜動脈狭細化がみられる.し,数時間後に東京医科大学八王子医療センター(以下,当センター)を受診した.初診時所見:視力は右眼光覚弁,左眼0.1(0.7×cly.2.50DAx60°),眼圧は右眼測定不能,左眼14mmHgであった.右眼には上下の眼瞼裂傷および強角膜裂傷を認め,ぶどう膜組織が眼外に脱出していた.左眼は軽度の白内障の他は異常を認めなかった.同日に行われた全身検査で心房細動が検出された.受診日にただちに局所麻酔下で右眼の眼瞼縫合と強角膜縫合術を施行した.強角膜裂傷は上直筋および下直筋付着部後方の約10mmに及び,角膜を含めてほぼ垂直方向の創であった.水晶体の所在は不明であり,網膜およびぶどう膜組織が創口から眼外に脱出していた.脱出した組織を可及的に切除し,上下直筋の付着部を一部切腱して強角膜縫合を施行した.経過:術翌日から右眼視力は光覚が失われ,次第に眼球癆となった.約2カ月後の2010年9月11日に左眼の霧視を自覚したため,同月13日に近医を受診したところ,左眼の前眼部炎症を指摘され,当センターへ再び紹介受診となった.14日の当センター受診時,左眼矯正視力は0.2であり,前房細胞と毛様充血を認めたため,0.1%ベタメタゾン点眼を処方した.16日再診時には左眼視力10cm指数弁まで低下し,毛様充血,前房細胞3+,硝子体混濁2+,網膜動脈狭細化,網膜浮腫を認め,黄斑部はcherryredspot様であった(図1).フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangio-graphy:FA)では腕-網膜循環時間は約22秒と遅延し,脈絡膜背景蛍光は斑状低蛍光を示した.VKH病にみられるような点状過蛍光や蛍光色素の貯留像,視神経乳頭の過蛍光は認められなかった.インドシアニングリーン蛍光眼底造影図2インドシアニングリーン蛍光眼底造影(2010年9月16日)広範な脈絡膜斑状低蛍光が認められる.(indocyaninegreenangiography:IA)で脈絡膜は斑状の低蛍光を示した(図2).FA・IAともに固視不良のため初期像は明瞭に撮影できず,腕-脈絡膜循環時間は不明であった.また,検眼鏡的所見および光干渉断層計でも漿液性網膜.離は認められなかった.以上の結果から,典型的ではないが網膜中心動脈閉塞症(centralretinalarteryocclusion:CRAO)を併発した交感性眼炎と診断した.なお,後日行われたHLA(ヒト白血球抗原)検査ではDR4陽性であった.同日に入院のうえ,9月17日からステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg3日間)を施行し,その後プレドニゾロン(pred-nisolone:PSL)を60mgから漸減投与した.その他,心房細動に対しては内科から処方されていたバイアスピリンを継続とした.前眼部炎症や硝子体混濁などの炎症所見は次第に軽減したが,徐々に網膜動脈の白鞘化が明瞭になり,9月21日に左眼視力も光覚なしとなった.その後もPSLの減量を行っていたところ,11月1日(PSL30mg投与時)に左眼視力は光覚弁に改善した(図3).経過中,左眼の眼圧は10.14mmHg程度であったが,2011年3月14日(PSL5mg隔日投与時)に左眼眼圧が34mmHgに上昇し,視力は再び光覚なしとなった.同時に毛様充血,豚脂様角膜後面沈着物,前房細胞2+,虹彩新生血管および硝子体混濁3+を認め,交感性眼炎の再燃とともに血管新生緑内障を併発したと考えられた(図4).眼内炎症に対してトリアムシノロンアセトニド20mgのTenon.下注射を施行した.なお,血管新生緑内障の原因として眼虚血症候群の可能性を疑い,頸動脈エコー,頭頸部磁気共鳴血管画像(magneticresonanceangiography:MRA)を施行したが明らかな異常はなく,また心エコーで血栓などは検出されなかった.頭部MRI(磁気共鳴画像)では陳旧性のラクナ梗塞が確認された.2011年4250あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(102)図3左眼眼底写真(2010年11月1日)硝子体混濁,網膜浮腫は消失したが,網膜動脈の白鞘化が著明である.月12日にPSL内服を中止した後も前眼部炎症および硝子体混濁の再燃はないが,視神経乳頭は蒼白となり,脈絡膜の斑状萎縮巣が出現した.40.50mmHg程度の高眼圧が持続しているが疼痛がないため,投薬はベタメタゾン点眼のみで経過観察を継続している.II考察典型的な交感性眼炎はVKH病と同様の所見,つまり肉芽腫性の前房炎症,漿液性網膜.離,視神経乳頭発赤,FAでは初期の多発する点状過蛍光,後期の蛍光色素貯留,視神経乳頭過蛍光,IAでは脈絡膜斑状低蛍光などを認め,約70%が受傷後2週間から3カ月以内,約90%が1年以内に発症するとされている4).本症では,左眼の炎症発症時に前房炎症および硝子体混濁を認めたが,その他VKH病に通常みられる眼所見を伴っておらず,交感性眼炎と判断する根拠に乏しかった.しかし,IAで脈絡膜斑状低蛍光を認め,脈絡膜の炎症が強く示唆されたこと,また発症時期が右眼受傷後9週目であり,交感性眼炎の好発時期であったことなどから総合的に眼炎症は交感性眼炎によるものと判断した.その後の検査でHLA-DR4陽性が判明し,眼炎症再燃時には豚脂様角膜後面沈着物が出現したことも交感性眼炎の診断に矛盾しないと考えられた.一方,左眼炎症発症時の網膜浮腫,cherryredspot様所見,腕-網膜循環時間の遅延は交感性眼炎では通常認められない所見であり,CRAOの所見と一致する.本症は既往に心房細動があり,心臓からの血栓の飛来によるCRAOと交感性眼炎が偶然同時に発症した可能性は否定できない.しかし,網膜に激しい炎症をきたした場合,桐沢型ぶどう膜炎やBehcet病などではCRAOを併発する図4左眼炎症再燃時の前眼部写真(2011年3月14日)毛様充血,豚脂様角膜後面沈着物,前房細胞,虹彩新生血管がみられる.ことがあり5,6),またVKH病でも高齢者を中心に前部虚血性視神経症の併発例が報告されている7).本症例では交感性眼炎による眼内炎症により,網膜中心動脈が篩状板より中枢側で閉塞したためにCRAOが生じた可能性も考えられた.一方,血管新生緑内障は一般にCRAOに合併することはなく,CRAO様の所見に血管新生緑内障を合併した場合は眼虚血症候群が原因である可能性が高い8).本症でも眼虚血症候群の可能性を考え,頸動脈エコーや頭頸部MRAを施行したが異常は検出されず,積極的に眼虚血症候群の合併を疑う検査結果は得られなかった.さらに,FAとIAの初期像が撮影困難で脈絡膜循環が正確に評価できなかったこともあり,本症のcherryredspotを伴う網膜循環障害が網膜中心動脈の閉塞によるものであったか,または眼動脈や眼動脈より中枢の動脈閉塞による眼虚血症候群の一所見であったかを結論付けることは困難であった.しかし今回の症例では,CRAOの所見は交感性眼炎発症時に出現し,血管新生緑内障も炎症再燃時に発症したことから,眼炎症と網膜循環障害および眼内虚血の発症は密接に関連していたものと推測される.本症例は心房細動を合併した80歳の高齢者であり,頭部MRIでラクナ梗塞が検出されていることから,MRAでは確認できなかったが,眼動脈レベルに部分的な狭窄が存在していた可能性も考えられる.そのため,交感性眼炎発症前から眼動脈に部分狭窄があり,交感性眼炎発症前は眼血流が維持できていたが,眼炎症による血管閉塞などに伴い,網膜循環障害と前眼部虚血が出現した可能性も考えられる.交感性眼炎は発症早期に十分量のステロイド薬を投与すれば,比較的予後がよいことが多い.本症例は自覚症状出現から6日目に治療を開始することができたが,治療開始時にはすでに視力は指数弁と著しく不良であった.より早期に診断と加療を行うことができていれば視機能を残せた可能性があるかもしれないが,過去の報告を検索しても発症早期に光覚(103)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012251なしとなった交感性眼炎は非常にまれと思われ,CRAOを併発した症例の報告もない.本症例は交感性眼炎としては所見が非典型的で,経過も急激であり特異な症例であったと考えられる.また,眼動脈狭窄など潜在的な眼循環不全の存在が推測されることから,高齢発症であったことが予後不良の因子であった可能性がある.さらに,ステロイド薬には血小板凝集能亢進作用があり,治療に用いたステロイド薬が網膜循環不全を増悪させた可能性も否定できない.本症例は治療開始時にすでに指数弁であり,硝子体混濁も強かったことからステロイドパルス療法を選択したが,高齢であることと網膜循環不全に対する副作用を考え,ステロイドパルス療法以外の治療法を選択する方法もあったと思われる.交感性眼炎の予防法として唯一可能性のある方法は,受傷後2週間以内の眼球摘出である4,9).交感性眼炎は穿孔性眼外傷後の合併症として最も留意すべき病態であるが,一般的にステロイド薬が有効なことが多く,予防法としての眼球摘出の有効性も確立された方法ではないため,受傷眼の視機能が非常に悪い症例に対しても眼球摘出は積極的に推奨されてはいない10).穿孔性眼外傷の加療の際には,交感性眼炎の可能性を常に念頭におき,まれではあるが本症例のように非常に予後が悪い交感性眼炎を発症する症例があることを記憶にとどめておくべきであると思われる.文献1)MarakGE,Jr:Recentadvancesinsympatheticophthal-mia.SurvOphthalmol24:141-156,19792)ZhangY,ZhangMN,JiangCHetal:Developmentofsympatheticophthalmiafollowingglobeinjury.ChinMedJ122:2961-2966,20093)RaoNA,RobinJ,HartmannDetal:Theroleofthepen-etratingwoundinthedevelopmentofsympatheticoph-thalmiaexperimentalobservations.ArchOphthalmol101:102-104,19834)GotoH,RaoNA:SympatheticophthalmiaandVogt-Koya-nagi-Haradasyndrome.IntOphthalmolClin30:279-285,19905)ShahSP,HadidOH,GrahamEMetal:Acuteretinalnecrosispresentingascentralretinalarteryocclusionwithcilioretinalsparing.EurJOphthalmol15:287-288,20056)WillerdingG,HeimannH,ZouboulisCCetal:Acutecen-tralretinalarteryocclusioninAdamantiades-Behcetdis-ease.Eye21:1006-1007,20077)NakaoK,MizushimaY,AbematsuNetal:Anteriorisch-emicopticneuropathyassociatedwithVogt-Koyanagi-Haradadisease.GraefesArchClinExpOphthalmol247:1417-1425,20098)HayrehSS:Prevalentmisconceptionsaboutacuteretinalvascularocclusivedisorders.ProgRetinEyeRes24:493-519,20059)AlbertDM,Diaz-RohenaR:Ahistoricalreviewofsym-patheticophthalmiaanditsepidemiology.SurvOphthal-mol34:1-14,198910)SavarA,AndreoliMT,KloekCEetal:Enucleationforopenglobeinjury.AmJOphthalmol147:595-600,2009***252あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(104)

血管Behçet 病によって両眼性の眼虚血症候群を呈した1症例

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1777.1782,2011c血管Behcet病によって両眼性の眼虚血症候群を呈した1症例濱畑徹也海老原伸行河野博之村上晶順天堂大学医学部眼科学教室AnUnusualCaseofBilateralOcularIschemicSyndromewithVasculo-Behcet’sDiseaseTetsuyaHamahata,NobuyukiEbihara,HiroyukiKawanoandAkiraMurakamiDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine症例は20歳,男性.10歳時より腸管Behcet病を指摘され,HLA(組織適合抗原)検査では,HLA-B51(.),B52(+)であった.最近,反復する眼窩痛,体位変動による一過性の視力低下や暗黒感を自覚していた.眼底所見には,軟性白斑の散在,血管の狭細化がみられた.前房内に細胞・フレアなどの炎症所見はみられなかったが,低眼圧であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では循環時間の遅延,周辺網膜血管の閉塞,多数の微小血管瘤が認められた.総頸動脈超音波検査では,右75%,左95%の内腔狭窄がみられ,血中CRP(C反応性蛋白)値の上昇を認めた.以上より血管Behcet病による両眼の眼虚血症候群と診断.プレドニゾロン内服にて視力低下や黒内障発作が改善された.血管Behcet病の患者では,眼虚血症候群も念頭において診察していく必要があると思われた.Thepatient,a20-year-oldmale,hadsincetheageof10beenaffectedbyBehcet’sdiseaseoftheintestine.Insubsequentyears,hesufferedrecurrentorbitalpain,disturbanceofvisualacuityandoccasionalamaurosis,dependingonbodyposition.Infundusexamination,werecognizedmanysoftexudatesandhemorrhagesinbotheyes.Therewerenoinflammatorysigns,suchascellsorflareintheanteriorchamber,withoutlowintraocularpressure.Fluoresceinangiographyrevealedthecharacteristicsofbilateralocularischemicsyndrome.Carotidarteriographydisclosedinternalcarotidarteryobstruction,75%rightand95%left.Theseresultsledtoadiagnosisofbilateralocularischemicsyndromewithvasculo-Behcet’sdisease.Steroidtherapywaseffectiveforthispatient.Ocularischemicsyndromeshouldbeafocusofattentioninpatientswithvasculo-Behcet’sdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1777.1782,2011〕Keywords:Behcet病,眼虚血症候群,総頸動脈狭窄.Behcet’sdisease,ocularischemicsyndrome,carotidarteriostenosis.はじめにBehcet病の眼病変としては反復する前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎,網膜静脈の閉塞性血管炎,網脈絡膜白斑,黄斑浮腫などがよく知られている1).今回筆者らは眼炎症所見が軽度であるが,進行性の視力障害を呈した血管Behcet病による眼虚血症候群の1例を経験したので報告する.I症例患者:20歳,男性.主訴:視力低下・霧視,また体位変動によって生じる一過性の暗黒感であった.既往歴:10歳時に結節性紅斑,口腔内潰瘍,肛門周囲膿瘍を認め,腸管Behcet病と診断され,ステロイド薬の内服を開始した.近医内科にて症状の増悪・寛解に応じステロイド薬内服量の調節を行うも成長障害を認めたため,ステロイド薬を中止しコルヒチン内服のみで経過観察されていた.その後,5年近くCRP(C反応性蛋白):10mg/dl前後と全身の炎症反応は高値であったが放置されていた.初診時所見:視力は右眼(1.2×.2.0D),左眼(0.8×.2.25D),眼圧は右眼5mmHg,左眼4mmHgと低眼圧を認〔別刷請求先〕濱畑徹也:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TetsuyaHamahata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3-1-3Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8431,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(115)1777 aabc図1初診時眼底写真両眼動脈の狭小化と静脈の軽度拡張を認め(a,b),左眼眼底下方に出血を認めた(c).図2初診時ERG所見ERG所見では,b波の減弱を認めた.右眼左眼図3初診時OCT所見OCT所見では,左眼の神経網膜層の菲薄化を認めた.め,体位変動によって左眼の一過性の暗黒感を自覚していた.前眼部所見は,左眼に角膜後面沈着物を軽度認める以外は,前房内に細胞・フレアはなく,虹彩後癒着などもみられなかった.中間透光体には特に異常はみられなかった.眼底所見は,両眼とも軟性白斑の散在,血管の狭細化,網膜下方血管周囲にしみ状の出血,周辺網膜に動脈の途絶がみられた(図1).ERG(網膜電図)所見では,b波の減弱を認め,OCT(光干渉断層計)では左眼の神経網膜層の菲薄化を認めた(図2,3).血液検査では,血沈の亢進とCRP:9.1mg/dlが高値であり,感染症〔HBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体,梅毒定性,TP(梅毒トレポネーマ)抗体〕は陰性であり,1778あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011HLA(組織適合抗原)検査では,HLA-B51陰性,B52陽性であった.経過:フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)を試みるも,嘔気・嘔吐を伴い初回は施行することはできなかった.左眼視力は約6カ月の間に変動しながら徐々に低下していった.約10カ月経過時,両眼の急激な視力低下がみられた.右眼(0.04×.1.25D(cyl.0.50DAx15°),左眼(0.08×.2.00D(cyl.1.00DAx180°).眼圧は右眼8mmHg,左眼9mmHgと低眼圧であった.両眼とも前房の炎症所見はみられなかったが,右眼に虹彩ルベオーシス,両眼隅角にルベオーシスによる全周の周辺虹彩前癒着(PAS)がみられた(図4).両眼底とも軟性白斑の散在,動脈の狭細化と途絶,静脈(116) 右眼左眼3時9時3時9時6時6時12時12時図4隅角所見両眼隅角に全周の周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた.の拡張がみられた.両眼視神経乳頭の耳側辺縁の蒼白を認めた.FA(図5)では①脈絡膜の造影時間の遅延,②腕-網膜循環時間の著しい延長(75秒),③周辺網膜での動脈の途絶,④無血管領域,⑤周辺網膜での動静脈のシャント,⑥毛細血管瘤,⑦視神経乳頭過蛍光を認めた.頸動脈エコー(図6)では両総頸動脈の高度の狭窄(右75%,左95%の内腔狭窄)を認めた.Goldmann視野検査上も初診時と比べ,視野狭窄の進行がみられた(図7).以上の所見により,以前より腸管Behcet病と診断されていたことも考慮し,血管Behcet病による両側総頸動脈の狭窄による両眼の虚血症候群と診断した.入院後,炎症による血管病変の進行の抑制のために,プレドニゾロン(プレドニンR)内服40mg/日を開始した.両側総頸動脈狭窄に対する外科的治療について当院脳神経外科にコンサルトするも,脳神経外科的に適応外であった.腹部三次元CT血管造影(3D-CTA)施行にて恥骨結合レベルで左大腿動脈にも強い狭窄を認めたため,バルーン拡張術を施行した.入院中,40mg/日から2週間かけ2.5mg/日ずつ減量していき,入院時CRP:8.1mg/dlと高値であったが,CRP:0.1mg/dlまで低下した.27.5mg/日まで漸減していくもCRPの再上昇はみられなかった.内服後,左眼視力の改善(左眼矯正視力1.2),網膜の軟性白斑の一部消失を認めた.しかし,右眼視力の改善はみられなかった.27.5mg/日に漸減後,退院となった.退院後,外来にて網膜無血流領域に対し,網膜光凝固術を施行し,現在11mg/日にて炎症の再発はみられていない.II考按眼虚血症候群とは,内径動脈閉塞や狭窄によって網膜虚血が生じ,多様な眼症状を示す症候群の総称である2).本症例は,10歳時に結節性紅斑,口腔内潰瘍,肛門周囲膿瘍を認め,腸管Behcet病と診断されていた.ステロイド薬治療を開始するも,ステロイド薬による成長障害により,以後使用を中止しCRP10mg/dl前後が継続していた.その後,眼窩痛や体位変動によって惹起される霧視,一過性の視力低下,視野欠損などを自覚していたようだが,眼科へ通院することはなかった.一般に,Behcet病の約70%に眼病変を認め,眼症状として前房蓄膿を伴う再発性虹彩毛様体炎,網膜静脈の閉塞性血管炎,硝子体混濁,黄斑浮腫,強膜炎などがある3).本症例では,上記のような典型的なBehcet病に伴う眼炎症所見はみられなかった.しかし,左眼視力は変動を伴い徐々に低下していき,経過中に両眼視力の急激な低下を認めた.視力低下時の眼底検査では,両眼の網膜動脈の狭細化・周辺部での途絶,静脈の拡張,多数の軟性白斑,視神経乳頭の腫脹がみられた.FA上,脈絡膜造影の遅延,周辺網膜の無血流領域,毛細血管瘤,網膜乳頭の過蛍光などが認められた.頸動脈エコーにて両総頸動脈の著明な狭窄を認め,Behcet病に伴う総頸動脈の狭窄による両眼の眼虚血症候群と診断した.虹彩・隅角ルベオーシスにより両眼隅角に全周性のPASを認めるも低眼圧であったのは,極度の眼血流量(117)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111779 右眼1分15秒2分59秒3分46秒4分16秒7分19秒11分12秒4分29秒4分33秒左眼1分52秒3分13秒7分48秒7分55秒6分16秒15分27秒8分3秒8分16秒図5FA所見①脈絡膜の造影時間の遅延,②腕-網膜循環時間の著しい延長(75秒),③周辺網膜での動脈の途絶,④無血管領域,⑤周辺部での動静脈のシャント,⑥毛細血管瘤,⑦視神経乳頭過蛍光を認めた.の低下により毛様体からの房水産生が抑制されていたためと考えられる.さらに,眼窩痛も虚血によるものと考えられた.Behcet病のなかで大中動静脈の炎症が病変の主座の場合に血管Behcet病と診断される.罹患部位は大静脈や深部の中小動静脈およびその分岐部などさまざまである.特に,動脈病変はBehcet病の約2%に認め,大中血管の狭窄や動脈瘤などが認められる4).椎骨動脈・鎖骨下動脈・腹部大動脈・腎動脈などに病変が及び,失神・重篤な腹部痛・腎血管高血圧症などの合併症を認め5),上行大動脈の動脈瘤破裂に1780あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011より死亡する報告もある6).本症例の鑑別診断として,高安病があげられる.高安病は若年者の女性に多く,大動脈とその主要分岐に炎症を認め,HLA-B52との相関が指摘される.本症例では,Behcet病に相関がみられるHLA-B51が陰性,HLA-B52が陽性であった.本症例においても高安病との鑑別が問題であったが,本症例は以前に結節性紅斑,口腔内潰瘍,肛門周囲膿瘍を認め,腸管Behcet病と診断されていた.筆者らの知る限り,口腔内潰瘍を伴う高安病の報告はなく7),Behcet病の診断は(118) 右総頸動脈左総頸動脈図6頸動脈エコー両総頸動脈の高度の狭窄を認めた.左眼右眼初診時入院時図7Goldmann視野初診時と比べ,視野狭窄の進行が認められた.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111781 正しいと思われる.しかし,腸管Behcet病に高安病が併発した可能性もあり,確定診断には発症した血管の病理組織学検討をしなければ鑑別がつかない.一般に高安病では血管中膜・外膜や中・外膜境界部を含む弾性線維貪食を認め,Behcet病では中・外膜の非特異的慢性炎症を認めるなど血管病理で鑑別されている8).本症例では両総頸動脈に高度な狭窄を認める以外に,左大腿動脈の局所に強い狭窄を認め,左足背動脈は触知せず,入院中にバルーン拡張術を施行した.両総頸動脈狭窄に対し当院脳神経外科にコンサルトするも,外科的治療は困難とのことであった.退院後,右眼底無血管野に対し網膜光凝固術を試行した.ステロイド薬治療により左眼は眼血流の改善に伴い視力の改善(左眼矯正視力1.2)がみられたが,右眼は視神経萎縮のため視力の改善はみられなかった.今回,筆者らは眼炎症所見が軽度であるが進行性の視力障害を呈したBehcet病による両眼の眼虚血症候群の1例を経験した.Behcet病の眼症状は,炎症性の内眼炎に注意がいきがちであるが,血管炎による眼虚血性病変も惹起しうることも念頭におく必要があると思われた.文献1)増田寛次郎:ベーチェット病,増田寛次郎(編):ぶどう膜炎.p68-81,医学書院,19992)ChenK,FitzgeraldD,EustancePetal:Electroretinography,retinalischemiaandcarotidarterydisease.EurJVascSurg4:569-573,19903)VerityDH,WallaceGR,VaughanRWetal:Behcet’sdiseasefromHippocratestothethirdmillennium.BrJOphthalmol87:1175-1183,20034)KocY,GulluY,AkpekG:VascularinvolvementinBehcet’sdisease.JRheumatol19:402-410,19925)NakamuraH,UekiY,HorikamiKetal:Vasculo-Behcet’ssyndromewithwidespreadarterialinvolvement.ModRheumatol11:332-335,20016)RouguinA,EdouteY,MiloSetal:AfatalcaseofBehcet’sdiseaseassociatedwithmultiplecardiovascularlesions.IntJCardiol59:267-273,19977)SugisakiK,SaitoR,TakagiTetal:HLA-B52-positivevasculo-Behcetdisease:usefulnessofmagneticresonanceangiography,ultrasoundstudy,andcomputedtomographicangiographyfortheearlyevaluationofmultiarteriallesions.ModRheumatol15:56-61,20058)ArakiY,AkitaT,UsuiAetal:AorticarchaneurysmofTakayasuarteritisassociatedwithentero-Behcetdisease.AnnThoracCardiovascSurg13:216-219,2007***1782あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(120)

網膜動脈分枝閉塞症を発症後に血管新生緑内障を併発し予後不良であった眼虚血症候群の1 例

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(135)1617《原著》あたらしい眼科27(11):1617.1620,2010cはじめに血管新生緑内障(NVG)は網膜中心静脈閉塞症(CRVO)や糖尿病網膜症などの網膜の虚血により血管内皮増殖因子が産生されて虹彩や隅角に新生血管が生じ発症する緑内障であり,視力予後不良の難治性の緑内障である1).一方,眼虚血症候群は内頸動脈狭窄症などにより慢性に眼循環が障害されると発症する疾患で2),NVGの主要な原因の一つである1).他方,網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)は網膜動脈の塞栓症で,根幹部の塞栓症である網膜中心動脈閉塞症(CRAO)に比べ,視力予後が良好であることが多いとされる3).今回,筆者らは非典型的な上方2象限の広範囲なBRAOが発症し,その約1.2カ月後にNVGを併発した眼虚血症候群の1例を経験した.眼虚血症候群にBRAOやNVGが続発した1例と考えられたが,その特徴や経過について報告する.〔別刷請求先〕奥野高司:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakashiOkuno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN網膜動脈分枝閉塞症を発症後に血管新生緑内障を併発し予後不良であった眼虚血症候群の1例奥野高司*1,2長野陽子*1池田佳美*1菅澤淳*1,2奥英弘*2池田恒彦*2*1香里ヶ丘有恵会病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室ACaseofNeovascularGlaucomaTriggeredbyBranchRetinalArteryOcclusionPossiblyResultingfromOcularIschemicSyndromeTakashiOkuno1,2),YokoNagano1),YoshimiIkeda1),JunSugasawa1,2),HidehiroOku2)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,Korigaoka-YukeikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege比較的広範囲な網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)を発症後に血管新生緑内障(NVG)を併発した眼虚血症候群の1例について報告する.症例は,慢性腎不全や弁膜症による慢性心不全で経過観察中であった69歳,女性.右眼中心視力の急激な低下(0.01)を自覚した.右眼の上方網膜は浮腫状で下方の網膜動静脈は狭細化し,フルオレセイン蛍光眼底造影検査では腕網膜時間の遅延とともに右眼の上方の2象限の網膜動脈への造影剤の流入遅延があり,右眼の眼虚血症候群に比較的広範囲なBRAOが併発したと考えられた.BRAO発症の1.2カ月後に右眼にNVGが発症し,4カ月後に残存視野も障害され,右眼視力は手動弁となった.眼虚血症候群や心不全で眼灌流圧が低いため,非典型的な広範囲のBRAOが発症し,その後眼虚血症候群によるNVGを併発した可能性が考えられた.Wereportacaseofocularischemicsyndromefollowedbyneovascularglaucoma(NVG)thatdevelopedafterrelativelybroadbranchretinalarteryocclusion(BRAO).Thepatient,a69-year-oldfemalesufferingfromchronicrenalandcardiacfailureduetovalvulardisorder,presentedatourhospitalcomplainingofarapiddecreaseofvisualacuityinherrighteye(0.01).Examinationdisclosedthatthesuperiorpartoftheretinaintheeyewasedematous.Fluoresceinangiographyshoweddelayedfillingtotheupper-halfretinalartery,aswellasdelayedarm-retinaltime.Onthebasisofthesefindings,wediagnosedherrighteyeasrelativelybroadBRAOoccurringwithocularischemicsyndrome.NVGdeveloped1-2monthslater;theremainingvisualfielddisappearedandvisualacuitydecreasetohandmotioninherrighteyeat4months.LowerocularperfusionpressureduetoocularischemicsyndromeandcardiacfailureprobablycausedatypicalbroadBRAO;theNVGthenoccurredsecondarytoocularischemicsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1617.1620,2010〕Keywords:網膜動脈分枝閉塞症,血管新生緑内障,眼虚血症候群,半側網膜中心動脈閉塞症.branchretinalarteryocclusion,neovascularglaucoma,ocularischemicsyndrome,hemi-centralretinalarteryocclusion.1618あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(136)I症例呈示患者:69歳,女性.主訴:右眼の急激な視力低下.現病歴:平成20年4月初め頃に急激な視力低下を自覚したが自力で外出困難な全身状態であったため,平成20年4月10日になって香里ヶ丘有恵会病院(当院)眼科を再受診した.既往歴:5年前より中等度の白内障,網膜動脈硬化症,20mmHg台前半の高眼圧症などにて当院眼科で経過観察中であった.視野は,平成18年(急激な視力低下を自覚する以前の最終検査)時点では緑内障性の視野異常はなかった.また,慢性腎不全のため当院で透析中であり,僧帽弁狭窄症と大動脈弁狭窄症を伴う慢性心不全があり,しばしば低血圧となった.弁膜症手術は全身状態より不適応のため,当院内科で保存的に経過観察中であった.平成20年3月31日に右眼の違和感を自覚して時間外に当院の眼科受診をしているが,視力や眼圧は以前の受診時と変化がなく,中等度の白内障があるものの,前眼部,中間透光体,眼底に異常なく,血管閉塞や網膜浮腫などの所見もなかった.初診時所見(平成20年4月10日):視力は右眼(0.01×sph+0.5D),左眼(0.9×sph+1.0D).眼圧は右眼27mmHg,左眼15mmHg.前眼部,中間透光体には中等度白内障を認めた.写真ではやや不明瞭であるものの検眼鏡的には右眼の上方に網膜の浮腫があり(図1の矢印),一部は軟性白斑様になっていた(図1).さらに,網膜下方の動脈は白線化し,静脈が狭細化していた.右眼上方のBRAOが発症したことが疑われたため,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)を行い,上方2象限の網膜動脈の循環障害を確認した(図2).以上より,右眼上方の比較的広範囲なBRAOが数日前に発症したと考えた.一方,FA検査の直前の血圧は172/90mmHgで,検査後の血圧は180/86mmHgと比較的高血圧であったが,右眼の腕網膜時間は32秒と遅延しており,脈絡膜毛細血管への蛍光流入によるいわゆる脈絡膜フラッシュも32秒程度であった.後期像は,右眼下方の周辺部に透過性亢進があった.左眼には初期,後期ともに特に異常を認めなかった.Goldmann動的視野検査では,BRAOの発症部に対応する部位の一部に視野が残存し,それ以外の部位に逆に視野障害がみられた.治療:視野が残存していることより,ある程度の視機能改図2右眼フルオレセイン蛍光眼底造影A:39秒,B:6分56秒.腕網膜時間は32秒で,脈絡膜毛細血管への蛍光流入は遅延していた.Aの39秒では脈絡膜や下方の網膜動脈への蛍光は流入したが,上方の2象限の網膜動脈への蛍光流入は遅延していた.B:下方網膜に無灌流領域様の網膜毛細血管からの蛍光が低蛍光となっている領域があった.AB図1網膜動脈分枝閉塞症発症時(平成20年4月10日)眼底A:右眼,B:左眼.右眼の上方に網膜の浮腫(矢印の部位)があり,一部は軟性白斑様になっていた.視神経乳頭の耳上側に線状出血があった.一方,下方の網膜血管も動脈が白線化するとともに静脈が狭細化していた.AB(137)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101619善が得られる可能性も考えたが,すでに発症して数日が経過していること,毛様動脈に血流回復がみられたこと,抗凝固療法による脳出血のリスクが考えられること,本人も積極的な治療を望まれないことなどから経過観察とした.経過:右眼の眼圧は次第に上昇し,4月21日には眼圧は右眼28mmHg,左眼13mmHgとなった.NVGを疑い隅角や虹彩を確認したが新生血管はみられなかった.高眼圧症の増悪と考えラタノプロスト(キサラタンR)とブリンゾラミド(エイゾプトR)を処方した.独り暮らしであり体調不良時には点眼を行うことができないこともあり眼圧は変動したが,5月8日には眼圧は右眼18mmHg,左眼15mmHgとなっていた.しかし,その後,僧帽弁狭窄症と大動脈弁狭窄症を伴う慢性心不全は次第に悪化したため,眼科受診と点眼を自己中断した.6月3日に心不全の保存的加療目的にて内科に入院となったため,6月12日に眼科を約1カ月ぶりに受診したが,眼圧は右眼42mmHg,左眼15mmHgとなっており,中断されていたラタノプロストとブリンゾラミドの点眼を再開した.しかし,6月17日の受診時,点眼を行っても眼圧は右眼44mmHg,左眼13mmHgであり,隅角および虹彩の新生血管を認めたため,NVGが発症したと診断した.眼痛がごく軽度であったことと,全身状態が不良で独力で離床が困難となったことから積極的な治療は行わずに経過観察とした.視力は眼圧上昇後もしばらくの間変化せず,6月12日,視力は右眼(0.01×sph+0.5D),左眼(0.5×sph+1.0D),7月4日,右眼(0.01×sph+0.5D),左眼(0.5×sph+1.0D)であったが,全身状態が改善しないため積極的な治療ができないまま,8月21日には右眼の残存視野が消失した.視力も,右眼30cm手動弁,左眼(0.6×sph+1.0D)となり,その後,右眼の視力と視野は回復しなかった.右眼の視神経乳頭の陥凹は次第に拡大し(図3矢印),網膜血管は狭細化したが,BRAOを発症した部位の静脈径は比較的保たれていた(図3).右眼のNVG発症後1年以上経過観察したが,左眼に変化はなかった.僧帽弁狭窄症と大動脈弁狭窄症を伴う慢性心不全は平成21年4月頃に一時軽快したものの次第に悪化し,平成21年6月17日に死去された.II考按本例では,FA検査時には高血圧であったにもかかわらず腕網膜時間が遅延していたことより右側の内頸動脈狭窄症などの循環障害があると推測されるうえに,日常的に心臓弁膜症による心不全のため低血圧となることが多く,右眼の眼灌流圧が低い状態で慢性的な眼虚血状態にあったと考えられる.さらにBRAO発症時の眼底で右眼のBRAO領域以外の網膜動脈も白線化するとともに網膜静脈が狭細化していることや,FAでBRAO領域以外にも無灌流領域様の領域や静脈壁からの蛍光漏出があるなどの眼虚血症候群の特徴2)がみられたこと,視野検査でBRAOによる視野障害部位以外の視野も障害されていたことより,今回のBRAO発症以前に右眼に眼虚血症候群が発症しており,これによる視野障害があったと考えられた.眼虚血症候群はNVGの主要な原因である1)ため,本例でも眼虚血症候群が増悪し,NVGが続発した可能性が最も高いと考えられた.一方,左眼には同様の所見がなかったことより,眼虚血症候群は右眼のみと考えられた.一般にBRAOでは視力予後は良好なことが多いとされている3)が,今回,BRAOで急激な視力低下をきたした.さらに,FAで上方2象限の網膜動脈分枝で充盈が遅延しており,本例はhemi-CRAOと分類されることもある広範囲なBRAOを発症したと考えた.検眼鏡的には確認できる網膜浮腫の範囲は比較的狭い範囲で,写真ではさらに不鮮明であったが,これはBRAO発症後数日経過しているため,発症直後に比べ網膜浮腫が軽減したためと推測した.網膜動脈閉塞症をCRAO,BRAO,hemi-CRAOに分類した報告4)では,hemi-CRAOは網膜動脈閉塞症のうち約7%程度に発症すると報告されており,14%程度のBRAOに比べまれな網膜動脈閉塞症と考えた.ところで,hemi-CRVOはよく用いられる表現であるが,網膜動脈閉塞症ではCRAOとBRAOとに分類する報告5)が多く,hemi-CRAOは一般的な表現ではないようであるため,今回は非典型的ではあるがBRAOと表現することとした.BRAOによりNVGが発症したとする報告6)やCRAOの図3右眼眼底(網膜動脈分枝閉塞症発症の約1年後,平成21年4月7日)約1年前の図1に比べ視神経乳頭の陥凹(血管の屈曲部を矢印で示す)は拡大していた.網膜動脈は狭細化していたが,上方の網膜動脈分枝閉塞症の部位に相当する網膜静脈の血流は比較的保たれていた.1620あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(138)15.16%にNVGが発症するとの報告7,8)もあるが,CRAOの2.5%のみにNVGが発症するとの報告5)もあり,NVGの原因としてBRAOは比較的稀と考えられる.今回,BRAO発症後にNVGを発症したため,当初,広範囲なBRAOに続発したNVGとも考えたが,FAなどについて再度検討した結果,眼虚血症候群の発症が確認され,眼虚血症候群に続発したNVGと結論できた.一方,頸動脈病変が網膜動脈閉塞症の原因として最も多い4)とされており,眼虚血症候群とCRAOとの合併は多く報告2,9,10)されている.さらに,眼虚血症候群6例の検討で1例にBRAOを発症したとする報告11)もあり,本例のBRAOも眼虚血症候群に続発した可能性が考えられた.また,眼虚血症候群により眼灌流圧が低下するなど網膜動脈閉塞症の発症しやすい状態であったため,今回のような非典型的な広範囲のBRAOが発症した可能性が考えられた.これまでの網膜動脈閉塞症によるNVGの報告によると,BRAOによる視覚障害の約6週後にNVGが発症しており9),CRAOでも発症の約1カ月後にNVGが発症することが多いとされる12,13).今回,広範囲なBRAOが発症した約1.2カ月後にNVGが発症しており,BRAOが眼虚血症候群によるNVG発症を促進した可能性もあると考えた.CRAOにおける検討で,網膜の虚血が急速に生じた場合は血管新生が起こらず,緩徐に進行した場合に血管新生が生ずるとされている14).今回のBRAOは広範囲であり,閉塞部位の視野の一部が発症後も数カ月間にわたり残存していたうえに,1年以上にわたりBRAOで閉塞した部位の静脈の血管径も保たれていたため,再疎通後の血流が比較的保たれていたと考えられる.このため,通常のBRAOに比べ比較的広範囲の網膜虚血が緩徐に進行して緩やかに網膜の壊死が起こり,NVGで増加することが報告されているvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)などの血管新生因子15,16)が比較的多く産生された可能性が考えられる.通常のBRAOにおいても硝子体中でVEGFが増加することが報告17)されているが,今回の症例でも以上のような機序により血管新生因子が比較的多く産生されNVGの発症を促進した可能性が考えられた.文献1)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidencebasedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20012)MendrinosE,MachinisTG,PournarasCJ:Ocularischemicsyndrome.SurvOphthalmol55:32-34,20103)飯島裕幸:網脈絡膜循環障害の機能と形態.眼臨紀2:812-819,20094)SchmidtD,SchumacherM,FeltgenN:Circadianincidenceofnon-inflammatoryretinalarteryocclusions.GraefesArchClinExpOphthalmol247:491-494,20095)HayrehSS,PodhajskyPA,ZimmermanMB:Retinalarteryocclusion:associatedsystemicandophthalmicabnormalities.Ophthalmology116:1928-1936,20096)YamamotoK,TsujikawaA,HangaiMetal:Neovascularglaucomaafterbranchretinalarteryocclusion.JpnJOphthalmol49:388-390,20057)HayrehSS,PodhajskyP:Ocularneovascularizationwithretinalvascularocclusion.II.Occurrenceincentralandbranchretinalarteryocclusion.ArchOphthalmol100:1585-1596,19828)DukerJS,SivalingamA,BrownGCetal:Aprospectivestudyofacutecentralretinalarteryobstruction.Theincidenceofsecondaryocularneovascularization.ArchOphthalmol109:339-342,19919)安積淳,梶浦祐子,井上正則:内頸動脈循環不全にみられる眼所見の検討.神経眼科9:189-195,199210)田宮良司,内田璞,岡田守生ほか:網膜血管閉塞症と閉塞性頸動脈疾患との関係について.日眼会誌100:863-867,199611)JacobsNA,RidgwayAE:Syndromeofischaemicocularinflammation:sixcasesandareview.BrJOphthalmol69:681-687,198512)小島啓彰,増田光司,加藤勝:網膜中心動脈閉塞症に続発した血管新生緑内障の1例.眼臨94:1233-1237,200013)大井智恵,福地健郎,渡辺穣爾ほか:血管新生緑内障を併発した網膜中心動脈閉塞症の1例.眼紀43:1303-1309,199214)向野利寛,魚住博彦,中村孝一ほか:網膜中心動脈閉塞症の病理組織学的研究.臨眼42:1221-1226,198815)TripathiRC,LiJ,TripathiBJetal:Increasedlevelofvascularendothelialgrowthfactorinaqueoushumorofpatientswithneovascularglaucoma.Ophthalmology105:232-237,199816)SoneH,OkudaY,KawakamiYetal:Vascularendothelialgrowthfactorlevelinaqueoushumorofdiabeticpatientswithrubeoticglaucomaismarkedlyelevated.DiabetesCare19:1306-1307,199617)NomaH,MinamotoA,FunatsuHetal:Intravitreallevelsofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6arecorrelatedwithmacularedemainbranchretinalveinocclusion.GraefesArchClinExpOphthalmol244:309-315,2006***