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タフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24 時間の検討

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1147.1150,2013cタフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24時間の検討岡本美瑞*1間山千尋*1石井清*2新家眞*1,3*1東京大学医学部附属病院眼科*2さいたま赤十字病院眼科*3公立学校共済組合関東中央病院EffectandDurationofTopicalTafluprostonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMizuOkamoto1),ChihiroMayama1),KiyoshiIshii2)andMakotoAraie1,3)1)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,3)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers目的:タフルプロスト点眼後の視神経乳頭(ONH)血流を点眼後24時間にわたり評価し,ONH血流に与える影響と持続時間を検討する.対象および方法:健常人6名(28.5±3.4歳,等価球面度数.3.1±2.1diopter;平均±標準偏差)を対象とし,無作為に選んだ片眼にタフルプロスト(0.0015%)を12時に1日1回14日間連続点眼した.最終点眼の直前,4,24時間後に両眼のONH血流をレーザースペックル法を用いてnormalizedblur(NB)値として眼圧,血圧,心拍数と同時に測定し,点眼前の同時刻または非点眼側の測定値と比較検討した.結果:点眼側NB値は,最終点眼直前,4時間後に点眼前同時刻の値より20.9±18.9%(平均±標準偏差),20.8±15.9%有意に増加し(p<0.05),NB変化率は最終点眼24時間後に有意な変化のなかった対照眼と有意差を認めた(p<0.05).結論:タフルプロストの点眼後,健常人眼のONH血流は点眼側で有意に増加し,その効果は点眼後24時間にわたり維持される可能性が示唆された.Purpose:Toevaluateeffectanddurationoftopicaltafluprostonopticnervehead(ONH)bloodflowinhumannormaleyes.Method:Adropof0.0015%tafluprostwasinstilledonce-daily(12o’clock)for14daysunilaterallyin6healthyvolunteers.TissuebloodvelocityintheONH(NBONH)wasmeasuredusingthelaserspecklemethodat0,4and24hafterinstillationandcomparedwithmeasurementsbeforeinstillationinthesametimecourse,orbetweenfelloweyes.Results:NBONHincreasedsignificantlyinthetreatedeyesonly(by20.9±18.9%,20.8±15.9%;mean±standarddeviation;p<0.05)at0and4hafterinstillation.TherewasasignificantdifferenceinNBONHchangebetweenfelloweyesat24hafterinstillation(p<0.05).Conclusions:TopicaltafluprostsignificantlyincreasedONHbloodflowinhumaneyesfor24hafterinstillation,suggestingthattheeffectcanbemaintainedalldaywithonce-dailyapplication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1147.1150,2013〕Keywords:タフルプロスト,眼血流,視神経乳頭,レーザースペックル法,緑内障.tafluprost,ocularbloodflow,opticnervehead,laserspecklemethod,glaucoma.はじめに緑内障眼において視神経乳頭(ONH)の循環障害があることが推測されており,眼圧下降以外の緑内障治療の機序として,点眼薬による眼循環の改善,眼血流の増加作用が期待されている.これまでに多くの緑内障治療薬で眼血流増加作用が報告され,そのなかには現在緑内障治療の第一選択薬となっているプロスタグランジン(PG)関連薬も含まれる1.5)が,多くは単回点眼や点眼後短時間の検討にとどまり,連続点眼の効果や血流への作用持続時間に関しての検討は少ない.今回筆者らは,健常人眼において,タフルプロストの14日間連続点眼後のONH血流を点眼後24時間にわたり評価し,眼血流に与える影響とその持続時間を検討した.〔別刷請求先〕岡本美瑞:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MizuOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)1147 :測定:タフルプロスト点眼12時16時12時12時16時12時(0h)(4h)(24h)(0h)(4h)(24h)2日目初回点眼1日目16日目最終点眼15日目3~14日目……図1点眼・測定のスケジュールI対象および方法本研究は研究実施施設における治験審査委員会の承認を得て実施した.対象の選択基準は両眼で.8diopter(D)<等価球面度数<+3D,矯正視力≧0.8,同意取得時の年齢が20.60歳の日本人で,本試験の参加にあたり十分な説明を受け本人の自由意思による文書同意が得られたものである.除外基準は,眼圧≧21mmHg,眼疾患・内眼手術の既往,眼圧・眼血流に影響しうる全身疾患・薬剤使用の既往,習慣的な喫煙,妊娠・授乳中の女性とした.1日目午前中に事前に募集した12名のボランティアに対して,スクリーニング検査として問診,血圧,屈折,視力,眼圧,眼軸長,角膜厚の測定,前眼部細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を施行し,前述の基準を満たし固視の良好な6名の男性を対象として選択した.1日目午後に,12時(午後0時)を基準として0,4,24時間後に両眼のONH血流,およびその直後に眼圧,血圧・心拍数をこの順で測定した.2日目12時の測定終了後に,症例ごとに無作為に選ばれた片眼にタフルプロスト(0.0015%)の点眼を開始した.点眼方法を説明した後,翌日より通常の生活下で1日1回12時に片眼に自己点眼を継続し,9日目に点眼方法の確認,診察・問診による点眼薬の副作用と有害事象の確認,点眼薬の残量確認を行った.15日目に点眼せずに来院し,副作用と有害事象の確認後,12時に点眼直前の測定をした後に最終点眼を行い,4,24時間後に1.2日目と同様のスケジュールと方法値として,ONHのrimの表面血管のない部位で点眼側を知らされていない検者が測定した(NBONH).眼圧はpneuma-tonograph(PTG,Model30Classicpneumotonometer,ReichertTechnologies,Depew,NY),血圧・心拍数は自動血圧計(HEM-773DE,オムロンヘルスケア,京都),角膜厚は(SP-100,TOMEY,名古屋),眼軸長は(AL-2000,1148あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013TOMEY,名古屋)を用いて測定し,平均血圧を(拡張期血圧)+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧)として算出した.各項目において,点眼開始前の測定値を基準として同時刻の点眼前後での変化,あるいは各時点での両眼(点眼側と非点眼側)の変化率の差を検討した.統計学的検討は対応のあるt検定を用い,p<0.05を統計学的有意水準として採用した.II結果対象は6例12眼,年齢28.5±3.4歳(平均±標準偏差),等価球面度数.3.1±2.1D(両眼での平均±標準偏差,以下同様),眼軸長24.9±0.6mm,中心角膜厚525.3±16.9μmであり,各因子においてタフルプロスト点眼側と非点眼側との間に有意な差は認めなかった(p>0.45)(表1).タフルプロストの点眼後,眼圧は非点眼側では有意な眼圧の変化を認めなかった(p>0.16)のに対し,タフルプロスト点眼側では表1症例の背景因子タフルプロスト点眼側非点眼側両眼等価球面度数(D)眼軸長(mm)中心角膜厚(μm).3.1±2.124.9±0.5524.2±21.4.3.1±2.1.3.1±2.124.9±0.724.9±0.6526.3±12.9525.3±16.9平均±標準偏差.2015*眼圧(mmHg)で測定を行った(図1).各種測定は事前に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)を1回点眼し散瞳した状態で行った.ONH血流はレーザースペックル法6)を用いて既報にならい,組織血流速度の相対的指数であるnormalizedblur(NB)**105012時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図2眼圧の変化◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.(104) %NBONH140**120†12時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図3視神経乳頭血流の変化%NBONH:レーザースペックル法で測定した視神経乳頭血流.1日目12時の測定値を100として標準化して表す.◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.†:p<0.05,対応のあるt検定,対照との比較.最終点眼直前,4時間後,24時間後で22.0±17.9%(p=0.02),19.9±13.1%(p=0.01),23.0±4.7%(p<0.001)と,すべての測定時点で点眼前の同時刻の値より有意な眼圧下降を認めた(図2).NBONHはタフルプロスト点眼側で最終点眼の直前および4時間後の時点で点眼開始前よりそれぞれ20.9±18.9%(p=0.04),20.8±15.9%(p=0.03)と有意に増加した.各時点での両眼のNBONHの変化率では,最終点眼24時間後に有意差を認めた(p=0.04)(図3).平均血圧・心拍数にはともに点眼開始前後で有意な変化を認めなかった(p>0.05).III考按ラタノプロストに代表されるプロスト系のPG関連薬は,眼圧下降効果の持続時間が長いために1日1回の点眼で24時間の眼圧下降効果作用が維持できる.タフルプロストは炭素15位の水酸基が2つのフッ素で置換されているために安定性が高いと考えられ5,7),その眼圧下降作用はラタノプロストと同等と報告されている8).長期点眼の効果を検討するためにはできるだけ長い点眼期間が望ましいが,タフルプロスト4週間点眼後の副作用発現率は40%と報告されており8),本研究の対象は健常人であることも踏まえて点眼期間は14日間とした.PG関連薬のONH血流に与える影響について,Ishiiら1)は健常人眼において0.005%ラタノプロストの1日1回7日間点眼後,点眼側のONH血流量が点眼後270分まで有意に増加したと報告している.しかし,点眼直前(点眼24時間後)の時点では有意な変化を認めておらず,ラタノプロスト(105)のONH血流に対する効果は24時間持続しないと考えられる.Ohashiら2)は,家兎において7日間の点眼後,トラボプロストでは点眼後24時間,ウノプロストンでは点眼後12時間にわたり点眼前に比べてONH血流量が有意に増加したと報告している.血流増加の機序は不明だが,血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオン流入の阻害9,10),エンドセリン-1の阻害5),また,内因性PG産生機序の関連1.3)が推測されている.本研究ではタフルプロスト点眼後に血圧,心拍数の有意な変化は認めなかった.眼灌流圧について(眼灌流圧)=2/3(上腕平均血圧).(眼圧)として計算すると,点眼側の眼灌流圧は,点眼後すべての時点で,非点眼側に比べ有意に大きかった(p≦0.004)が,点眼前後で有意な変化を認めなかった(p>0.5).少なくとも正常眼において,通常の眼圧,血圧の範囲内でONH血流には自動調節能があると考えられ11),また,サル緑内障モデルを用いた既報においてはタフルプロスト点眼後に眼灌流圧に影響されないONH血流の増加がみられた3)ことから,タフルプロスト点眼によるONH血流増加作用は後眼部に到達した薬剤による局所の直接的な薬理作用によるものと推測される.タフルプロストに関しては,Mayamaら3)が,サルにおいて0.0015%タフルプロストの1日1回7日間点眼後,60分後に点眼前に比べてONH血流量の有意な増加を認めたと報告している.Akaishiら4)は,家兎において0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロストの1日1回28日間の片眼点眼後,0,30,60分後にすべての投与群でONH血流の増加を認めており,60分後の時点ではタフルプロストの作用が最も強かったと報告している.Kurashimaら5)は家兎眼においてタフルプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの,エンドセリン-1による毛様動脈収縮に対する抑制効果の持続時間を検討し,タフルプロストが点眼後最も長時間(240分までの検討)にわたって抑制効果を示すことを報告している.ヒト眼では,杉山ら12)が緑内障眼において6カ月点眼後のラタノプロストとタフルプロストの比較を行い,眼圧下降においては両者に差はなかったが,タフルプロスト点眼群でのみONH血流が有意に増加したと報告している.すなわち,タフルプロストの作用時間は他のPG関連薬に比べ長いことが期待されるが,眼血流に対する効果の持続時間および持続的な効果を発揮するために必要な点眼回数についての検討はほとんどみられない.本研究では,6名という少ない対象症例数だが0.0015%タフルプロストの1日1回14日間の連続点眼後,点眼後24時間にわたって点眼前より有意なONH血流の増加,あるいは非点眼側に比べて有意に高いONH血流変化率を認めた.通常の眼圧下降治療と同じ1日1回点眼により眼血流への効あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131149 果が24時間にわたり持続する可能性が示唆されたことの臨床的意義は大きい.今後緑内障患者を対象として,視機能に与える影響の評価を含めた長期間の検討が行われることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,20012)OhashiM,MayamaC,IshiiKetal:Effectsoftopicaltravoprostandunoprostoneonopticnerveheadcirculationinnormalrabbits.CurrEyeRes32:743-749,20073)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:Effectsoftopicalphenylephrineandtafluprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,20104)AkaishiT,KurashimaH,Odani-KawabataNetal:Effectsofrepeatedadministrationsoftafluprost,latanoprost,andtravoprostonopticnerveheadbloodflowinconsciousnormalrabbits.JOculPharmacolTher26:181-186,20105)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:EffectsofprostaglandinF2aanaloguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularbloodflow:Comparisonamongtafluprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,20106)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Non-contact,two-dimensionalmeasurementoftissuecirculationinchoroidandopticnerveheadusinglaserspecklephenomenon.ExpEyeRes60:373-383,19957)AiharaM:Clinicalappraisaloftafluprostinthereductionofelevatedintraocularpressure(IOP)inopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol4:163170,20108)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20089)AbeS,WatabeH,TakasekiSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonintracellularCa2+incillaryarteriesofwild-typeandprostanoidreceptor-deficientmice.JOculPharmacolTher29:55-60,201310)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitciliaryarteries.ExpEyeRes87:251-256,200811)TakayamaJ,TomidokoroA,IshiiKetal:Timecourseofthechangeinopticnerveheadcirculationafteranacuteincreaseinintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci44:3977-3985,200312)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:タフルプロスト点眼による原発開放隅角緑内障眼の視神経乳頭血流変化.臨眼65:475-479,2011***1150あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(106)

タフルプロスト点眼液の緑内障患者脈絡膜血流への影響の検討

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)1115《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1115.1118,2010cはじめに今日の緑内障薬物治療において,強力な眼圧下降を有し,全身的な副作用が少ないプロスタグランジン系眼圧下降薬が治療の中心となっている1).タフルプロスト点眼液は,わが国において2008年12月に発売されたプロスタノイドFP受容体に対して高い親和性を示す新しいプロスタグランジン系眼圧下降薬である2).緑内障治療において,眼圧下降が最も重要であることは周知のとおりであるが,眼圧下降が十分であるにもかかわらず,視野障害が進行する症例が存在する.眼圧以外の緑内障性視神経障害進行因子の一つとして眼循環障害が示唆されている.緑内障患者において眼循環が障害されているという報告3,4)や,Ca(カルシウム)拮抗薬であるニルバジピンを投与すると,プラセボ群に比べ,眼循環が有意に改善され,視野のMDスロープが緩やかであったという報告もある5).タフルプロストは強力な眼圧下降作用6,7)に加え,動物において眼循環を増加させることが報告されている8,9).しかしながら,緑内障患者における眼血流動態への影響は明らか〔別刷請求先〕石垣純子:〒462-0825名古屋市北区大曽根三丁目15-68眼科三宅病院Reprintrequests:JunkoIshigaki,M.D.,MiyakeEyeHospital,3-15-68Ozone,Kita-ku,Nagoya-city462-0825,JAPANタフルプロスト点眼液の緑内障患者脈絡膜血流への影響の検討石垣純子*1三宅三平*1張野正誉*2三宅謙作*1*1眼科三宅病院*2淀川キリスト教病院EffectofTafluprostonChoroidalBloodFlowinGlaucomaJunkoIshigaki1),SampeiMiyake1),SeiyoHarino2)andKensakuMiyake1)1)MiyakeEyeHospital,2)YodogawaChristianHospital目的:原発開放隅角緑内障患者を対象として,タフルプロスト点眼液の眼血流への影響をlaserDopplerflowmetry(LDF)により検討した.対象および方法:新規に緑内障治療開始または4週間以上緑内障治療薬未使用であった原発開放隅角緑内障12例20眼を対象とした.年齢は53.3±15.0歳(平均±標準偏差)であった.タフルプロスト点眼前に,眼圧,血圧,脈拍およびLDFによる黄斑部の脈絡膜血流量を測定した.タフルプロストは1日1回8週間点眼し,点眼前後の眼圧,眼血流,血圧,脈拍および眼灌流圧を比較した.結果:眼圧は点眼前に比べ有意に低下した.点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の脈絡膜血流量は,117.8±9.7%および123.5±13.3%であり点眼前に比べ有意に増加した.結論:タフルプロスト点眼により緑内障患者において脈絡膜微小循環が増加することが示唆された.Purpose:Weevaluatedtheeffectoftafluprostonocularbloodflowinglaucomapatients,usinglaserDopplerflowmetry(LDF).SubjectsandMethods:Recruitedforthisstudywere20eyesof12primaryopen-angleglaucomapatientsbeingnewlytreatedorhavingbeenuntreatedformorethan4weeks.Agewas53.3±15.0years(mean±SEM).Beforetafluprostinstillation,wemeasuredintraocularpressure(IOP),brachialarterybloodpressureandpulserate.Wealsomeasuredchoroidalmicrocirculationinthefovea,usingLDF.Tafluprostwasinstilledoncedailyfor8weeks.WecomparedIOP,ocularbloodflow,brachialarterybloodpressure,pulserateandocularperfusionpressurebeforeandaftertafluprosttreatment.Results:TreatmentwithtafluprostresultedinasignificantdecreaseinIOP.Choroidalbloodflownormalizedtobaselineshowedsignificantincreaseat4and8weeksaftertreatment(117.8±9.7%and123.5±13.3%,respectively).Conclusion:Tafluprostmayincreasechoroidalmicrocirculationinglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1115.1118,2010〕Keywords:タフルプロスト,緑内障,眼血流,脈絡膜,laserDopplerflowmetry(LDF).tafluprost,glaucoma,ocularbloodflow,choroid,laserDopplerflowmetry(LDF).1116あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(104)となっていない.今回筆者らは,緑内障患者を対象として,タフルプロスト点眼前後の中心窩脈絡膜微小循環をlaserDopplerflowmetry(LDF)を用いて検討した.I対象および方法対象は新規に緑内障治療開始,もしくは4週間以上緑内障治療薬未使用であった原発開放隅角緑内障(広義)12例20眼(男性5例10眼,女性7例10眼)である.症例の内訳は,原発開放隅角緑内障(狭義)1例2眼,正常眼圧緑内障11例18眼であった.年齢は53.3±15.0歳(平均±標準偏差)(37~77歳),等価球面度数は.3.9±3.4D(.9.75~+0.25D)であった.喫煙者,眼血流測定が不可能な症例(眼振,固視不良,散瞳不良,高度白内障など),研究開始前6カ月以内に内眼手術,レーザー手術の既往があるもの,研究期間中に血流動態に影響を与える薬剤(降圧薬,利尿薬,抗血小板凝集薬,高脂血症治療薬,血栓溶解剤,心疾患治療薬,動脈硬化治療薬,糖尿病治療薬,末梢循環改善薬など)の追加,変更,中止が必要な症例は除外した.本研究は,医療法人湘山会眼科三宅病院倫理審査委員会の承認を受け,事前に自由意志に基づく文書による同意を得たうえで実施した.検査初日(点眼前)に,眼圧(Goldmann圧平眼圧計),上腕動脈血圧(自動血圧計),脈拍および眼血流を測定した.点眼前,点眼4週後および8週後の検査は午前のほぼ同時刻に実施した.点眼4週後および8週後の各検査は,点眼2~5時間後であった.眼圧測定および眼血流測定は研究期間中を通じ同一検者が実施した.タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%,参天製薬,大阪)は1日1回朝点眼した.眼血流はLDF(OculixSarl,Arbaz,Switzerland)にて測定した.LDFはレーザー光を組織に照射し,組織中を移動する赤血球にあたってランダムに反射してきた光を解析することで毛細血管の相対的組織血流量を測定できる機械であり,その測定の原理,方法は既報のごとくである10,11).0.5%トロピカミド/0.5%フェニレフリン点眼液(ミドリンPR点眼液0.4%,参天製薬,大阪)を用いて散瞳させ,LDFにて670nm,40μWのダイオードレーザーを中心窩150μmの範囲に照射した.組織中を流れる赤血球にあたって反射したレーザー光を光電子倍増管で感知し,血流解析装置を通して得た中心窩脈絡膜毛細血管板のFlow(血流量),Velocity(平均血流速度)およびVolume(組織中を移動する赤血球数)をコンピュータに連続的に記録した.なお,これらのパラメータの間には,Flow=constant(比例定数)×Velocity×Volumeの関係があることが報告されている12).血流測定中の固視はLDFが組み込まれた眼底カメラにて確認し,各パラメータは3回測定分の平均値を採用した.点眼前後の眼圧,収縮期血圧,拡張期血圧,眼灌流圧(2/3平均血圧.眼圧),脈拍,血流パラメータについて,反復測定一元配置分散分析(repeatedANOVA)およびDunnett多重比較検定にて検討した.平均血圧は拡張期血圧+1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)にて算出した.危険率5%未満を統計学的有意とした.なお,LDFの血流パラメータは相対値であるため,各症例について点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の変化量を算出した.II結果本測定法における中心窩脈絡膜Flow,VelocityおよびVolumeの変動係数は,それぞれ7.3%,8.9%および12.5%であった.点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の中心窩脈絡膜Flowは,117.8±9.7%および123.5±13.3%であり点眼前に比し有意に増加した(p<0.001)(図1,表1).点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のVelocityは105.6±10.5%および105.6±14.1%であり,点眼前値と比較し有意な変化はなかった(表1).点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のVolumeは118.1±27.1%および119.4±20.8%と点眼前に比し有意な増加を認めた(p<0.05,p<0.05)(表1).眼圧は点眼前,点眼4週後および8週後はそれぞれ,16.5±1.9mmHg,14.5±2.1mmHgおよび14.1±2.8mmHgであり,投与前に比べ有意な眼圧下降が認められた(p<0.01)表1タフルプロスト点眼による中心窩脈絡膜Flow,Velocity,Volumeの推移4週8週Flow(%)117.8±9.7***123.5±13.3***Velocity(%)105.6±10.5105.6±14.1Volume(%)118.1±27.1*119.4±20.8*点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の中心窩脈絡膜Flow,Velocity,Volumeを算出した.平均±標準偏差.*p<0.05,***p<0.001.901001101201301400週4週8週Flow(眼血流量)(%)******図1タフルプロスト点眼による中心窩脈絡膜Flow(血流量)の推移点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のFlowは点眼前に比べ有意に増加した(p<0.001).平均±標準偏差.***p<0.001.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101117(図2).点眼4週後および8週後の点眼前からの眼圧変化値はそれぞれ1.9±2.0mmHgおよび2.2±2.3mmHg,眼圧変化率はそれぞれ11.1±11.6%および13.5±13.7%であった.収縮期血圧,拡張期血圧および脈拍は点眼前後で有意な変化はなかった.眼灌流圧は,点眼前,点眼4週後および8週後はそれぞれ,43.6±7.5mmHg,45.9±7.1mmHgおよび45.8±7.2mmHgであり,点眼前に比べ有意な変化はなかった(表2).III考察本研究においてタフルプロストの点眼により,4週後および8週後において有意なFlowおよびVolumeの増加が認められた.Velocityについては,有意な変化を認めなかった.本研究では,LDFを用い,中心窩の脈絡膜微小循環を検討した.LDFは測定面積が直径150μmと小さいため,固視が最も良好な中心窩での測定を実施した.中心窩には網膜血管がないため,網膜循環の影響を回避してその下の脈絡膜循環を測定できることがわかっている13).緑内障の本質が進行性の視神経障害であることを考えれば,緑内障に関わる眼循環測定の対象として,視神経,視神経乳頭およびその周辺組織が最も重要であると考えられるが,脈絡膜循環においても緑内障患者で障害されているという報告がある14,15)ことから,緑内障患者において脈絡膜微小循環の改善を示唆した本研究は臨床的に意義があると考える.プロスタグランジン系眼圧下降薬の緑内障患者への眼血流への影響については,眼循環が改善した16,17),あるいは不変であった18,19)との報告があり意見の一致はみていない.またLDFでプロスタグランジン系眼圧下降薬の眼血流への影響を評価したものはない.タフルプロスト点眼が眼循環に及ぼす影響については,動物実験による報告がある.Izumiら8)は,ネコにおいて,タフルプロスト点眼後明らかな網膜循環の増加があったと報告している.石田9)は,有色家兎において乳頭微小循環はタフルプロスト点眼28日後,点眼前に比べ明らかに増加したことを報告している.今回の検討結果は,これら過去の報告を支持するものと考えられる.プロスタグランジン系眼圧下降薬が眼循環を増加させる機序については,不明な点も多いものの,プロスタグランジンF2aやラタノプロストがウサギおとがい下静脈を弛緩させる20)という報告や,ラタノプロストがウサギ毛様体動脈を弛緩させるとの報告がある21).また,タフルプロストは容量依存性カルシウムチャネルを通した細胞外カルシウム流入を阻害することにより,ウサギ毛様体動脈平滑筋を弛緩させるとの報告がある22).脈絡膜微小循環について検討した本研究では,FlowおよびVolumeはタフルプロスト点眼前に比べ120%程度顕著に増加したのに対し,Velocityの増加量は105%程度とわずかであった.一方,網膜主幹動脈について検討したIzumiら8)はタフルプロスト点眼後,FlowおよびVelocityは有意に増加し,Diameterには影響がなかったと報告している.以上のことから,タフルプロストの眼血流への作用として,脈絡膜微小循環においては血管を拡張して血流量を増加させ(速度には影響なし),太い血管である網膜主幹動脈においては血流速度を上昇させる(血管径には影響なし)可能性が考えられる.また,全身循環パラメータに顕著な変化が認められないことから,タフルプロストによる眼血流増加は全身血圧の影響を受けたものではないと考えられる.眼血流が増加する機序としては,薬剤の血管拡張作用のほか,眼圧低下による眼灌流圧上昇のための血流量増加があげられる.前者は薬剤の直接作用,後者は間接作用と考えられる.タフルプロスト点眼後,眼灌流圧への作用はないことから,眼血管系への直接作用により眼血流増加を示したものと考えられた.タフルプロストの点眼により,4週後から有意な眼圧下降を示した.4週後および8週後の眼圧下降率はそれぞれ11.1±11.6%,13.5±13.7%であり,桑山らの報告27.6±9.6%7)と比較して低い.一因として,点眼前の平均眼圧が,桑山らの報告が23.8±2.3mmHgであったのに対し,本研究では16.5±1.9mmHgと低値であることが考えられる.対象患者について,桑山らの報告が原発開放隅角緑内障(狭義)または高眼圧症であったのに対し,本研究では対象20眼中,原表2タフルプロスト点眼前後の収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍,眼灌流圧の推移0週4週8週収縮期血圧(mmHg)120.3±12.3120.3±15.0120.1±13.9拡張期血圧(mmHg)74.1±11.774.0±12.772.6±12.9脈拍(回/分)65.3±5.666.0±7.865.3±6.2眼灌流圧(mmHg)43.6±7.545.9±7.145.8±7.2収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍および眼灌流圧いずれも点眼前後で有意な変化はなかった.1012141618200週4週8週眼圧(mmHg)*****図2タフルプロスト点眼による眼圧推移タフルプロストの点眼4週後および8週後において点眼前値からの有意な眼圧下降を示した.平均±標準偏差.**p<0.01,***p<0.001.1118あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(106)発開放隅角緑内障(狭義)2眼,正常眼圧緑内障18眼であった.また本研究の眼圧は,点眼2.5時間後に測定したが,同じプロスタグランジン系眼圧下降薬のラタノプロストの眼圧が最低値(ピーク時眼圧)となるのは点眼8時間後であり23),タフルプロストも同時間帯にピーク時眼圧が得られると考えられることから,眼圧測定時間が変われば,さらなる眼圧下降が得られる可能性はある.今回の検討結果から,タフルプロスト点眼により緑内障患者において眼圧下降とともに脈絡膜微小循環が増加することが示唆された.基剤の関与の有無および測定部位別の詳細な検討を含め,今後多数例を対象とした長期的な検討が必要である.なお,本研究において,筆者らは,タフルプロスト点眼液の製造販売会社などとの間に利害関係はないことを明記する.文献1)相良健:緑内障の治療・薬物治療.あたらしい眼科25(臨増):142-144,20082)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20043)FlammerJ,OrgulS,CostaVPetal:Theimpactofocularbloodflowinglaucoma.ProgRetinEyeRes21:359-393,20024)遠藤要子,伊藤典彦,榮木尚子ほか:正常眼圧緑内障の傍網膜中心窩毛細血管血流速度.あたらしい眼科25:865-867,20085)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,20086)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF(2alpha)derivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20037)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20088)IzumiN,NagaokaT,SatoEetal:Short-termeffectsoftopicaltafluprostonretinalbloodflowincats.JOculPharmacolTher24:521-526,20089)石田成弘:プロスタグランジン関連薬─基礎─.眼薬理22:27-30,200810)北西久仁子,張野正誉:LaserDopplerFlowmetry.NEWMOOK眼科7,眼循環(吉田晃敏編),p60-64,金原出版,200411)RivaCE,CranstounSD,GrunwaldJEetal:Choroidalbloodflowinthefovealregionofthehumanocularfundus.InvestOphthalmolVisSci35:4273-4281,199412)RivaCE:BasicprinciplesoflaserDopplerflowmetryandapplicationtotheocularcirculation.IntOphthalmol23:183-189,200113)吉田晃敏,長岡泰司:Flowmeter─視神経・脈絡膜─.NEWMOOK眼科7,眼循環(吉田晃敏編),p74-77,金原出版,200414)DuijmHF,vandenBergTJ,GreveEL:Choroidalhaemodynamicsinglaucoma.BrJOphthalmol81:735-742,199715)YamazakiS,InoueY,YoshikawaK:Peripapillaryfluoresceinangiographicfindingsinprimaryopenangleglaucoma.BrJOphthalmol80:812-817,199616)GherghelD,HoskingSL,CunliffeIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocularcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients:aprospective,6-month,open-labelstudy.Eye(Lond)22:363-369,200817)AlagozG,GurelK,BayerAetal:Acomparativestudyofbimatoprostandtravoprost:effectonintraocularpressureandocularcirculationinnewlydiagnosedglaucomapatients.Ophthalmologica222:88-95,200818)KozOG,OzsoyA,YarangumeliAetal:Comparisonoftheeffectsoftravoprost,latanoprostandbimatoprostonocularcirculation:a6-monthclinicaltrial.ActaOphthalmolScand85:838-843,200719)ZeitzO,MatthiessenET,ReussJetal:Effectsofglaucomadrugsonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma:arandomizedtrialcomparingbimatoprostandlatanoprostwithdorzolamide.BMCOphthalmol5:6,200520)AstinM,StjernschantzJ:MechanismofprostaglandinE2-,F2alpha-andlatanoprostacid-inducedrelaxationofsubmentalveins.EurJPharmacol340:195-201,199721)IshikawaH,YoshitomiT,MashimoKetal:Pharmacologicaleffectsoflatanoprost,prostaglandinE2,andF2alphaonisolatedrabbitciliaryartery.GraefesArchClinExpOphthalmol240:120-125,200222)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitci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正常眼圧緑内障におけるカリジノゲナーゼの網膜中心動脈血流への効果

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(131)8810910-1810/08/\100/頁/JCLS《原著》あたらしい眼科25(6):881884,2008cはじめに正常眼圧緑内障の治療では眼圧の無治療時ベースラインを調べ,30%以下の眼圧下降が目標とされている1).しかし,十分に眼圧を下降しても視野障害が進行する症例をしばしば経験することがある.今回筆者らは眼圧のコントロールが良好であるにもかかわらず,1年間で視野の悪化が進行する正常眼圧緑内障と視野の悪化の進行を認めない正常眼圧緑内障の網膜中心動脈血流を検討した.網膜中心動脈血流は超音波カラードップラー法(colorDopplerimaging:CDI)を用い測定した.これらの症例に対し,カリジノゲナーゼ製剤カルナクリンR(三和化学)を1日量として150単位を投与し網膜中心動脈血流に対する影響を検討した.経過観察中点眼薬は中止せず,継続とした.〔別刷請求先〕前田貴美人:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KimihitoMaeda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,South-1,West-16,Chuo-ku,Sapporo060-8543,JAPAN正常眼圧緑内障におけるカリジノゲナーゼの網膜中心動脈血流への効果前田貴美人*1舟橋謙二*2今井浩一*3三嘴肇*3大黒浩*1*1札幌医科大学医学部眼科学講座*2真駒内みどり眼科*3市立小樽病院放射線科EectofOralKallidinogenaseonCentralRetinalArteryBloodFlowinNormal-TensionGlaucomaKimihitoMaeda1),KenjiFunahashi2),KouichiImai3),KaoruMisumi3)andHiroshiOhguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)MakomanaiMidoriGankaClinic,3)SectionofRadiologicalTechnology,OtaruMunicipalHospital緑内障患者の網膜中心動脈血流を測定し,カリジノゲナーゼが血流への影響を超音波カラードップラー法(colorDopplerimaging:CDI)を用いて検討した.市立小樽病院に通院治療中の眼圧コントロール良好な33例の緑内障患者を検査の対象とした.緑内障患者の内訳は正常眼圧緑内障25例34眼,原発開放隅角緑内障8例9眼であった.カリジノゲナーゼ投与は全員からインフォームド・コンセントを得た.点眼はカリジノゲナーゼ投与期間中も継続した.カリジノゲナーゼ150IU(or単位)投与前,および1カ月後にCDIを行い網膜中心動脈の血流速度を測定した.1カ月後にCDIの検査を行えた正常眼圧緑内障12例16眼にカリジノゲナーゼ投与前後で収縮期最高血流速度(Vmax)の有意な増加が認められた.したがって,正常眼圧緑内障において,カリジノゲナーゼは網膜中心動脈の血流改善に有効であると思われた.WeusedultrasoundcolorDopplerimaging(CDI)toinvestigatebloodowinthecentralretinalarterybeforeandonemonthafteroralkallidinogenasetreatmentinpatientswithglaucoma.Thestudyinvolved33patients(25withnormal-tensionglaucoma,8withprimaryopen-angleglaucoma),whoweretreatedafterinformedconsenthadbeenobtainedfororalkallidinogenase.Thetreatmentswerecarriedoutduringoralkallidinogenaseadminis-trationwithanti-glaucomadrugs.Wemeasuredthepeak-systolicandend-diastolicbloodowvelocityandresis-tanceindexinthecentralretinalartery.Afteronemonthtreatmentwithoralkallidinogenase,wemonitored16eyes(12patients)withnormal-tensionglaucoma.Oraladministrationofkallidinogenasesignicantlyincreasedcen-tralretinalarteryowovelocityinpatientswithnormal-tensionglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):881884,2008〕Keywords:正常眼圧緑内障,眼血流,超音波カラードップラー法,カリジノゲナーゼ.normal-tensionglaucoma,ocularbloodow,colorDoppolerimaging,kallidinogenase.———————————————————————-Page2882あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(132)(cm/s),Vmean(cm/s),RIの結果は表3のとおりであった.正常者群,POAG群,NTG群,OH群とでVmax,Vmin,Vmean,RIを検定したところ,正常者群とNTG群・POAG群,OH群とNTG群・POAG群ではVmaxのみ有意差を認めた(Man-Whitney’sUtest,図1).カルナクリンR投与1カ月後NTG群ではVmaxの有意な増加を認めた(p<0.05,Wilcoxonsigned-rankstest,表4).図に示していないがNTG群において,片眼視野正常は8眼であり,カルナクリンR投与前のVmaxは9.3±2.4であった.カルナクリンR投与後のVmaxは9.1±1.7であり,I対象および方法市立小樽病院に2002年4月より通院中の眼圧コントロール良好な緑内障患者と高眼圧症患者に検査の説明を行い,同意を得た患者にCDIを行った.緑内障は33例,年齢は66.9±11.0歳(平均±標準偏差),男性14例,65.6±10.2歳,女性19例,67.1±11.1歳であった.このうち原発開放隅角緑内障(POAG)は8例,65.0±9.9歳(男性3例,70.7±1.3歳,女性5例,66.6±9.9歳),正常眼圧緑内障(NTG)は25例,67.5±11.5歳(男性11例,64.2±10.6歳,女性14例,70.1±11.9歳)であった.高眼圧症(OH)は5例(男性2例,64.2±10.6,女性3例,65.6±10.1歳)であった.CDIは東芝製SSA-550Aと検査用リニア式電子プローブ12MHzを用い測定した.測定方法は報告2)にあるとおり患者を仰臥位安静にし,眼球を圧迫しないように注意し,視神経・視神経乳頭が描出する部位を選び,血流波形を得た.収縮期最高血流速度(Vmax),拡張期最低血流速度(Vmin),平均速度(Vmean),抵抗指数〔resistanceindex:RI=(VmaxVmin)/Vmax〕を血流波形から算出した.網膜中心動脈(CRA)の描出に際し,視神経陰影内,乳頭後方約3mmの部位を選び,全例同一の検者が担当した.エコーの情報の精度を高めるため,超音波でのスキャニングポイントの幅を狭くし,ドップラーエコーの感度を高くした.CRAは腹腔臓器とは異なりガスによる影響がなく,超音波進入角度が60°以上のため,描出の再現性は良好であった.患者の視野は全員Humphrey静的量的視野30-2Sita-Standardを行った.視野悪化の評価としてMD(meandeviation)値が前回の検査,すなわち1年前と比較し3dB以上進行したものを選んだ.眼圧は全例Goldmann圧平眼圧計にて午前中に測定した.CRAの血流を測定した後に,インフォームド・コンセントを得て,カリジノゲナーゼの投与を行った.カリジノゲナーゼは三和化学株式会社のカルナクリンR1日量150単位を投与し,1カ月後に再度CRAの血流を測定した.1カ月後に再検査できた患者はNTG12例16眼,POAG2例3眼,OH5例10眼であった.他症例は1カ月以内もしくは1カ月以降に来院したため,検査から除外した.カルナクリンR投与は1カ月間と短期間のため,視野検査の追試を行わなかった.コントロールとして,全身的な基礎疾患および眼疾患のない健康体ボランティア4例8眼(男性1例,女性3例,31±10.7歳)のCRAの血流を測定した.II結果点眼薬は表1に示すとおり,各群に単剤もしくは2剤併用を行い,眼圧は治療前と比較し有意に下降していた(表2).カルナクリンR投与前のCRAの血流を測定したところ,正常者群とPOAG群,NTG群,OH群でVmax(cm/s),Vmin表1使用点眼薬遮断剤b遮断剤ab遮断剤PG製剤CAI製剤OH群02040POAG群03271NTG群525152PG製剤:プロスタグランジン系製剤,CAI製剤:炭酸脱水酵素阻害薬.表2正常眼圧緑内障(NTG)群,原発開放隅角緑内障(POAG)群,高眼圧症(OH)群の治療前後眼圧群群群眼治療前眼圧±1.8OH群17.8±1.9NTG群20.9±2.4POAG群治療後眼圧(mmHg)16.4±2.514.2±2.015.2±2.0§p=0.0051,*p<0.001,†p=0.004(Wilcoxonsigned-rankstest).§*†表3各疾患群と正常者群の網膜中心動脈血流の結果眼正常者群±2.24.0±0.77.0±1.10.7±0.1OH群1011.8±2.73.0±0.96.7±1.50.8±0.1NTG群509.1±2.62.6±0.85.3±1.20.7±0.1POAG群149.8±2.83.0±0.95.2±2.00.7±0.1収縮期最高血流速度(Vmax),拡張期最低血流速度(Vmin),平均速度(Vmean),抵抗指数(resistanceindex:RI)表4カルナクリンR投与前後での正常眼圧緑内障(NTG)群,原発開放隅角緑内障(POAG)群の網膜中心動脈収縮期血流速度群群眼治療前±2.47.3±2.1投与後Vmax(cm/s)9.2±1.78.0±2.4NTGでは有意差あり.*:p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest.*———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008883(133)用いており,筆者らが用いた検査用リニア式電子プローブが12MHzであったため,より浅い部位の血流の信号を得やすかった可能性がある.Yehの報告にもあるように,周波数が高くなればより精密に血流のドップラーの信号を捉えることが可能である10).正常者群で得たCRAの血流値は,各疾患群と比較し若年ではあるが報告11,12)にもあるように正常範囲であった.片眼緑内障片眼正常眼で,片眼正常眼患者の眼血流(Vmax)は正常者群の血流と有意差を認めなかった.眼血流は加齢に伴い低下する11)が,正常者群よりもVmaxの低値を示した理由が加齢によるものか不明であった.レーザードップラー法でOHと正常者を比較したところ,OHでは視神経乳頭血流が速かったという報告がある13).測定方法および測定部位が異なるためか,今回の検査ではOH群では正常者群とのCRAのVmax,Vmin,Vmean,RIのいずれも有意差を認めなかった.すでに治療をされて,有意に眼圧が低下しているOHであったため,初診時にCRAの血流が正常者群と同じなのかは不明であった.POAGを発症するビーグル犬において,眼圧上昇を呈するようになる以前よりCRAのVmaxの低下を示すことが報告されている14).ヒトとビーグル犬とでは比較することはできないが,今後もOH群の初診患者では治療前にCDIを行い正常者群と差がないか検討し,また,OH群の一部は緑内障に移行することが報告されているので15),今後も注意して血流を検討する必要があると思われる.杉山らはカルナクリンR150単位/日の内服を併用した緑内障患者を10年間追跡し,重症の緑内障では視野障害の進行を抑制できなかったことを報告している16).しかし,このような視野障害が進行した症例はHumphrey視野計では検査できない重症例が多く,Humphrey視野計で測定できた患者では有意に視野障害を抑制できたことも述べている16).今回筆者らは全例Humphrey視野計で測定できる患者であったため,今後も追跡する必要があるものの,杉山らの報告のように視野障害の進行を抑制できる可能性があると思われる.NTGでの内服での治療はエビデンスがないが,カルナクリンRの神経保護作用17)も併せて考慮すると,NTG治療に点眼薬だけでは視野障害の進行を止められない患者に対し,カルナクリンRは有用である可能性が示唆された.謝辞:外来を支えてくださった市立小樽病院前院長森岡時世先生ならびに献身的に患者に対応された小樽市立病院眼科外来スタッフの皆様に心から感謝を申し上げる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障の治療総論.日眼会誌107:143-152,2003投与前後で有意差を認めなかった.また,カルナクリンR投与前の片眼緑内障のVmaxと比較したが有意差を認めなかった.同様に正常者群と比較し,Vmaxに有意差を認めなかった.III考按NTGの原因に眼循環障害が示唆される34)一方で,緑内障治療点眼薬による眼循環改善の報告が増えている57).そのため,正常眼圧緑内障の治療に眼圧下降と眼循環改善の両面を考えることには意味があると思われる.しかし,点眼薬による眼圧のコントロールが良好であるにもかかわらず,視野の悪化を認める症例を日常診療で経験する.この場合,すでに点眼薬でfullmedicationとなっている症例ではつぎの手は多く残されてはいない.筆者らは,1カ月間ではあったが,カルナクリンR投与でCRAのVmaxの増加をCDIにて確認することができた.視野の悪化したNTG群ではさらに他剤へ変更するか,追加する方法も残っていたと思われるが,点眼薬が増えることによるコンプライアンスの低下が懸念され,内服だと楽であるとの外来患者からの声を受け,点眼を追加することを行わず,脈絡膜循環改善作用11)のあるカルナクリンRを選んだ.楊らは網膜分枝静脈閉塞症に150単位/日のカルナクリンRを投与し,CRAではVmaxの増加は認めなかったものの,網脈絡膜循環の改善を示唆している9).筆者らの症例では3例に,カルナクリンR投与後にVmaxの低下を認めたが,Vminが増加していたため,RIが低下し,結果的に眼循環の改善に変わりはなかったと思われる.楊らと筆者らとの結果が異なった理由は不明だが,楊らは7.5MHzのプローブを図1網膜中心動脈収縮期血流速度各群の網膜中心動脈収縮期血流速度(Vmax)を示す.正常者群とOH群,NTG群とPOAG群では有意差を認めなかったが,それ以外では有意差を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01(Man-Whitney’sUtest).NS*1614121086420正常者群NTG群POAG群Vmax(cm/s)*NS****OH群———————————————————————-Page4884あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(134)tionalvascularassessmentwithultrasound.IEEETransMedImaging23:1263-1275,200411)ButtZ,O’BrienC,McKillopGetal:Dopplerimaginginuntreatedhigh-andnormal-pressureopen-angleglauco-ma.InvestOphthalmolVisSci38:690-696,199712)GalassiF,NuzzaciG,SodiAetal:Possiblecorrelationsofocularbloodowparameterswithintraocularpressureandvisual-eldalterationsinglaucoma:astudybymeansofcolorDopplerimaging.Ophthalmologica208:304-308,199413)FekeGT,SchwartzB,TakamotoTetal:Opticnerveheadcirculationinuntreatedocularhypertension.BrJOphthalmol79:1088-1092,199514)GelattKN,MiyabayashiT,Gelatt-NicholsonKJetal:ProgressivechangesinophthalmicbloodvelocitiesinBea-gleswithprimaryopenangleglaucoma.VetOphthalmol6:77-84,200315)HigginbothamEJ,GordonMO,BeiserJAetal:Topicalmedicationdelaysorpreventsprimaryopen-angleglau-comainAfricanAmericanindividuals.ArchOphthalmol122:113-120,200416)杉山哲也,植木麻理:正常眼圧緑内障の10年間の視野障害進行と治療薬の検討.FrontiersinGlaucoma6:126-129,200517)XiaCF,YinH,BorlonganCVetal:Kallikreingenetrans-ferprotectsagainstischemicstrokebypromotingglialcellmigrationandinhibitingapoptosis.Hypertension434:452-459,20042)丹羽義明,山本哲也,松原正幸ほか:緑内障眼の眼窩内血流動態に対する二酸化炭素の影響─超音波カラードップラー法による検討─.日眼会誌102:130-134,19983)YamazakiY,DranceSM:Therelationshipbetweenpro-gressionofvisualelddefectsandretrobulbarcirculationinpatientswithglaucoma.AmJOphthalmol124:217-295,19974)NicolelaMT,WalmanBE,BuckleyARetal:Variousglaucomatousopticnerveappearances.Acolordopplerimagingstudyofretrobulbarcirculation.Ophthalmology103:1670-1679,19965)井戸正史,大澤俊介,伊藤良和ほか:イソプロピルウノプロストン(レスキュラR)点眼が正常眼圧緑内障患者における眼循環動態に及ぼす影響.あたらしい眼科16:1557-1579,19996)西村幸英,岡本紀夫:イソプロピルウノプロストン(レスキュラR)点眼が眼動脈血流速度に及ぼす影響─正常眼圧緑内障眼における検討─.あたらしい眼科15:211-214,19917)MizunoK,KoideT,SaitoNetal:Topicalnipradilol:eectsonopticnerveheadcirculationinhumansandperioculardistributioninmonkeys.InvestOphthalmolVisSci43:3243-3250,20028)小林ルミ,森和彦,石橋健ほか:カリジノゲナーゼの網脈絡膜血流に対する影響.臨眼57:885-888,20039)楊美玲,望月清文,丹羽義明ほか:カリジノゲナーゼの網脈絡膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科17:1433-1436,200010)YehCK,FerraraKW,KruseDE:High-resolutionfunc-***