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後部ぶどう腫を合併した原発閉塞隅角症疑いの1例

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1046.1049,2017c後部ぶどう腫を合併した原発閉塞隅角症疑いの1例石崎典彦*1米本由美子*1山田哉子*1家久耒啓吾*1池田恒彦*2*1八尾徳州会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室ACaseofPrimaryAngleClosureSuspectwithPosteriorStaphylomaNorihikoIshizaki1),YumikoYonemoto1),KanakoYamada1),KeigoKakurai1)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege緒言:原発閉塞隅角症(PAC),原発閉塞隅角症疑い(PACS),原発閉塞隅角緑内障(PACG)においては,短眼軸長,遠視が多くみられる.長眼軸長,強度近視を合併したPACSの症例を報告する.症例:66歳,女性.矯正視力は右眼0.03×sph.9.0D(cyl.3.0DAx140°,左眼0.4p×sph+2.5D,眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHg.両眼ともに狭隅角であったが,周辺虹彩前癒着は認めなかった.視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.両眼のPACSと診断した.眼軸長は右眼26.12mm,左眼21.76mmだった.超音波検査により右眼に後部ぶどう腫を認めた.両眼にレーザー虹彩切開術を施行し,隅角の開大を認めた.結論:PACSにおいて強度近視を認める場合には,後部ぶどう腫を合併している可能性がある.Purpose:Hyperopiaandshortaxiallengtharefrequentlyobservedincasesofprimaryangleclosure(PAC),primaryangleclosuresuspect(PACS)andprimaryangle-closureglaucoma(PACG).WereportacaseofPACSwithhighmyopiaandlongaxiallength.Case:Thisstudyinvolveda66-year-oldfemalewithcorrectedvisualacuityof0.03withS.9.0D(cyl.3.0DAx140°ODand0.4partialwithS+2.5DOS;intraocularpressurewas13mmHgODand14mmHgOS.Bilaterally,heranglewasnarrowbutnotrecognizedasperipheralanteriorsyn-echia,andheropticnerveheadsshowednoglaucomatouschange.WethereforediagnosedPACS.Axiallengthwas26.12mmODand21.76mmOS.Ultrasonicexaminationreveledposteriorstaphylomainherrighteye.Wesubse-quentlyperformedlaseriridotomytoreleasetheangleclosure.Conclusions:PACSwithhighmyopiamaypresentwithposteriorstaphyloma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1046.1049,2017〕Keywords:閉塞隅角,近視,後部ぶどう腫,眼軸長.angleclosure,myopia,posteriorstaphyloma,axiallength.はじめに原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC),原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS),原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)の危険因子としては女性,加齢,浅い中心前房深度,短眼軸長,遠視などの報告1)があり,PACS,PAC,PACGに遠視眼,短眼軸長は多くみられる.一方で,近視眼でもPACS,PAC,PACGはみられるが,比較的頻度は少ない.Barkanaら2)は続発性も含めた閉塞隅角において,.6D以上の強度近視眼が0.1%あったと報告している.Chakravartiら3)はPAC,PACS,PACGにおいて,.5D以上の強度近視眼が2%あったと報告している.今回,筆者らは後部ぶどう腫による長眼軸長,強度近視を合併したPACSを経験したので報告する.I症例と経過患者:66歳,女性.既往歴:53歳時から糖尿病(HbA1c9.8%4年間8.11%で推移),63歳時から重症筋無力症に対して治療中だった.10歳頃に花火により右眼を受傷してから,右眼の視力が不良だった.現病歴:約1年前から左眼視力低下を自覚しており,近医を受診した.左眼に糖尿病黄斑浮腫を認め,2016年1月に精査,加療目的に八尾徳州会総合病院眼科紹介となった.〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1-17八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN1046(130)図1前眼部写真(初診2カ月後,右眼はレーザー虹彩切開後)両眼ともに中心前房深度が浅い.図2眼底写真(初診9カ月後)両眼ともに網膜出血,軟性白斑,硬性白斑を認める.右眼は後部ぶどう腫,網脈絡膜萎縮を認める.初診時所見:視力は右眼0.01(0.03×sph.9.0D(cyl.3.0DAx140°),左眼0.2(0.4p×sph+2.5D).眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHg.前眼部所見は両眼ともに角膜は清明,中心前房深度,周辺前房深度が浅かった(図1).中間透光体所見は両眼ともに軽度の白内障を認めた.眼底は両眼ともに硬性白斑,軟性白斑,網膜出血を認め,右眼の後極に網脈絡膜萎縮,後部ぶどう腫を認めた(図2).視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.眼位は近見16Δ外斜視,遠見40Δ外斜視だった.検査所見:角膜は両眼ともに横径11mm,縦径11mm,平均角膜曲率半径は右眼7.56mm(44.75D),左眼7.64mm(44.25D)であった.隅角検査では両眼ともに第一眼位において全方向で毛様体帯が観察できず,Scheie分類GradeIVだったが,周辺虹彩前癒着は認めなかった.前眼部観察用アダプタを使用した光干渉断層像(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)では両眼ともに狭隅角が観察された(図3a,b).光干渉式眼軸長測定装置により,中心前房深度は右眼2.34mm,左眼は自動測定が不能だったが,右眼と同程度,眼軸長は右眼26.12mm,左眼21.76mmだった.Aモード超音波検査により,眼軸長は右眼25.93mm,左眼21.27mm,中心前房深度は右眼2.30mm,左眼1.95mm,水晶体厚は右眼5.10mm,左眼4.97mmだった.Bモード超音波検査により,右眼は後部ぶどう腫を認め,左眼はとくに所見を認めなかった(図4).黄斑部のOCTでは両眼に硬性白斑,左眼に滲出性網膜.離,黄斑浮腫を認めた.経過:所見,検査結果から,両眼糖尿病網膜症,左眼糖尿病黄斑浮腫,両眼PACS,右眼後部ぶどう腫と診断した.初診から1週間後に,左眼糖尿病黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニド水性懸濁注射液のTenon.下注射を施行し,黄斑浮腫は軽減した.糖尿病網膜症を管理する目的で散瞳検査を行う必要性があったが,散瞳により急性にPAC,PACGを生じる危険性があったため,2016年2月に右眼に図3耳側の隅角前眼部観察用アダプタを使用した光干渉断層像a:右眼レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)前,b:左眼LI前,c:右眼LI後,d:左眼LI後.両眼ともLI後に隅角の開大を認める.図4右眼B.mode超音波検査a:右眼水平断,b:右眼矢状断.後部ぶどう腫を認める..は後部ぶどう腫縁を示す.対して,3月に左眼に対して,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を施行した.術後,検眼鏡,OCTにより両眼ともに隅角の開大を認めた(図3c,d).頭痛の精査で撮影した頭部の磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)でも右眼の後部ぶどう腫を認めた(図5).2016年7月にフルオレセイン蛍光眼底検査を施行し,両眼ともに広範囲に無灌流域を認めたため,汎網膜光凝固術を施行し,経過観察を行っている.散瞳を行っても隅角閉塞は認めず,眼圧は両眼ともに11.12mmHgと正常範囲で経過している.II考察閉塞隅角の機序としては,原発性と続発性があり,前者には相対的瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,水晶体因子,毛様体因子,後者には瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動,水晶体より後方組織の前方移動などがあげられる4).近視の図5頭部の核磁気共鳴画像(T1強調画像)右眼に後部ぶどう腫を認める..は後部ぶどう腫縁を示す.機序としては角膜屈折率上昇,水晶体前方移動による前房深度の変化,水晶体屈折率上昇,長眼軸長などがあげられる5).これら閉塞隅角,近視の機序が併存すると,強度近視眼に閉塞隅角が認められることがあり,Vogt-小柳-原田病,水晶体亜脱臼,球状水晶体などがあげられる.Vogt-小柳-原田病6,7)では毛様体浮腫により水晶体が前方移動し,近視化,瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動による続発緑内障をきたすことがある.水晶体亜脱臼では,水晶体が前方移動により近視化,瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動による続発緑内障をきたすことがある.球状水晶体8)では,水晶体の屈折異常から近視化,毛様小帯の脆弱性と水晶体前面の小さな曲率半径に伴って,虹彩-水晶体前方移動と瞳孔ブロックによる続発緑内障をきたすことがある.本症例は両眼ともにレーザー虹彩切開術により隅角が開大したことから相対的瞳孔ブロックや,水晶体厚が5mm程度と厚いことから水晶体因子などが関与したPACSと考えられた.さらに右眼は角膜曲率半径,水晶体形状が正常範囲で進行した核性白内障がないこと,およびA-mode,B-mode超音波検査,頭部MRIから後部ぶどう腫に伴う長眼軸長,強度近視と考えられた.後部ぶどう腫は眼球後部に存在する異なった曲率の突出と定義9)され,硝子体腔長が延長する.右眼は外傷の既往が関与したかは不明だが,後天的に後極を中心に後部ぶどう腫を生じ,硝子体腔長,眼軸長が延長したと推測された.後部ぶどう腫は前眼部の形態に大きく影響しないため,左眼と同様に右眼もPACSとなっていたと考えられた.Yongら10)は強度近視のPACは硝子体腔長が有意に長いと報告しており,後部ぶどう腫の存在の可能性を推測していた.本症例はその推測に一致する.後部ぶどう腫は一般的には検眼鏡的に診断される.本症例のLI前のように散瞳できない場合などは,超音波検査や光干渉式眼軸長測定装置,コンピュータ断層撮影(computedtomography:CT),MRIによる後部ぶどう腫の検出が有用である.A-mode超音波検査や光干渉式眼軸長測定装置は固視不良や後部ぶどう腫の位置により眼軸長の誤差を生じうること,および後部ぶどう腫がない強度近視と鑑別困難であることから,B-mode超音波検査やCT,MRIにより後部ぶどう腫を検出することがより診断に有用である.本症例では,B-mode超音波検査が非侵襲的かつ迅速に検査可能であり,とくに有用だった.本症例のようにPACSに強度近視を認める場合は,後部ぶどう腫が存在することがあると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SawaguchiS,SakaiH,IwaseAetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandprimaryangle-closureglaucomainasouthwesternruralpopulationofJapan:theKumeji-maStudy.Ophthalmology119:1134-1142,20122)BarkanaY,ShihadehW,OliveiraCetal:Angleclosureinhighlymyopiceyes.Ophthalmology113:247-254,20063)ChakravartiT,SpeathGL:Theprevalenceofmyopiaineyeswithangleclosure.JGlaucoma6:642-643,20074)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版第2章緑内障の分類.日眼会誌116:15-18,20115)所敬:第I章総論4.眼屈折要素とその相関.近視臨床と基礎(所敬,大野京子編),p16-23,金原出版,20126)八田正幸,熊谷愛子,武田博子ほか:早期に眼圧上昇がみられた原田氏病の1例.臨眼22:721-725,19687)富森征一郎,宇山昌延:浅前房と急性一過性近視を初発症状とした原田病の1例.臨眼31:1271-1273,19778)BakerRL,AndersonMM:Spherophakia:acasereport.AmJOphthalmol54:716-720,19779)SpaideRF:Staphyloma:PartI.In:PathologicMyopia,SpaidRF,Ohno-MatsuiK,YannuzziLA,eds.p167-176,Springer,NewYork,201310)YongKL,GongT,NongpiurMEetal:Myopiainasiansubjectswithprimaryangleclosure:implicationsforglaucomatrendsinEastAsia.Ophthalmology121:1566-1571,2014***

開放隅角緑内障眼における自動静的視野検査前後の眼圧変動と関連因子の検討

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):433.436,2014c開放隅角緑内障眼における自動静的視野検査前後の眼圧変動と関連因子の検討寺尾亮*1平澤裕代*2村田博史*2朝岡亮*2間山千尋*2相原一*3*1東京厚生年金病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科*3四谷しらと眼科ChangeofIntraocularPressureafterVisualFieldExaminationinPrimaryOpen-AngleGlaucomaRyoTerao1),HiroyoHirasawa2),HiroshiMurata2),RyoAsaoka2),ChihiroMayama2)andMakotoAihara3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoKouseinenkinHospital,2)GraduateSchoolofMedicine,3)ShiratoEyeClinicDepartmentofOphthalmology,theUniversityofTokyo開放隅角緑内障眼における自動静的視野検査前後の眼圧変動と,変動量に関連する因子について検討した.正常眼圧緑内障を含む原発性開放隅角緑内障の34例34眼を対象として視野検査の直前および検査後20分以内の眼圧を測定し,眼圧変化量を従属変数,年齢,視野のmeandeviation値,他日に測定した眼軸長,前房深度を説明変数とした重回帰分析を行った.視野検査前の眼圧は14.9±2.7mmHg(平均±標準偏差),検査後の眼圧は15.4±2.9mmHgで0.5±1.4mmHgのわずかな上昇を認め(p=0.049,pairedt-test),眼圧変化量と前房深度の間に有意な正の相関が認められた(偏回帰係数=1.26,p=0.047).Changeofintraocularpressure(IOP)afterautomatedvisualfieldexamination,andthecorrelationsofassociatedfactors,werestudiedin34eyesof34patientswithprimaryopen-angleglaucoma,includingnormal-tensionglaucoma.IOPwasmeasuredbeforeandat≦20minutesaftervisualfieldexamination.Multipleregressionanalysiswasperformedtodeterminetheocularandsystemicfactors(independentvariables:age,meandeviationofvisualfield,anteriorchamberdepthandaxiallength)associatedwithIOPchange(dependentvariable).ResultsshowedthatIOPwas14.9±2.7mmHg(mean±standarddeviation)and15.4±2.9mmHgbeforeandaftervisualfieldexamination,respectively,IOPslightlyincreasingby0.5±1.4mmHg(p=0.049,pairedt-test).AnteriorchamberdepthwassignificantlycorrelatedwiththeextentofIOPincrease(b=1.26,p=0.047).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):433.436,2014〕Keywords:緑内障,眼圧,視野検査,前房深度,眼軸長.glaucoma,intraocularpressure,visualfieldtest,anteriorchamberdepth,axiallength.はじめに緑内障において眼圧変動は視野障害の悪化因子になりうると報告されている1).眼圧には身体的運動,アルコールやカフェインの摂取,喫煙,精神的ストレスなどの生活習慣も影響を与えるが,その変動には季節変動を含む長期的変動と日内変動のような短期的変動の要素が存在する.緑内障の診療においては変動を含めた眼圧の評価が重要になるが,特に長期的眼圧変動の評価には長期間の観察が必要であることに加え,経過観察中の生活習慣や点眼コンプライアンスも含めたさまざまな要素の影響を考慮しなければならないため,正確な評価は容易ではない.一方,短期的眼圧変動は外的影響を受けにくく,評価が比較的容易である.また,開放隅角緑内障眼は正常眼と比較し眼圧の日内変動や体位変換による眼圧の変動量が大きいことが報告されている2,3).開放隅角眼において,いわば狭隅角眼に対する負荷試験のような形で,短時間で特定の条件下での眼圧変動を評価することは,日常生活での眼圧変動を予測し視野障害の進行しやすい症例を短期間にスクリーニングする方法として有用な可能性がある.〔別刷請求先〕寺尾亮:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科視覚矯正科Reprintrequests:RyoTerao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,UniversityofTokyo,7-3-1Hongo,Bunkyoku,Tokyo113-8655,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)433 自動静的視野検査は多くの緑内障患者で定期的に繰り返し実施されるが,原発開放隅角緑内障眼において静的視野検査後に眼圧が有意に上昇したとする報告があり4,5),視野検査後の眼圧上昇の原因としては暗室における散瞳状態や緊張状態の持続が推測されている6,7).これらの要素はいずれも緑内障患者が日常生活で経験しうる生理的なものであり,視野検査後に眼圧が変動する眼は日常生活でも眼圧変動が大きい可能性がある.視野検査は規定された照明条件の下で一定の作業を行うことから負荷試験的要素をもつため,視野検査前後の眼圧変動を評価することで,長期・短期の眼圧変動量と緑内障進行の危険を予測できる可能性があり,臨床上非常に有用な情報になると考えられるが,正常眼圧緑内障が多いなど欧米とは病型構成の異なるわが国での報告はみられない.本研究では,正常眼圧緑内障を含む開放隅角緑内障眼を対象として,自動静的視野検査前後の眼圧変動と眼圧変動量に関連する因子について検討した.I対象および方法本研究は東京大学医学部附属病院倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に従い以下のように実施した.平成24年1.3月の間に東京大学医学部附属病院緑内障外来を受診し,自動静的視野計で視野検査を施行した緑内障症例のうち隅角開大度が全周においてShaffer分類3度以上で本研究の趣旨に賛同し検査の同意が得られた原発開放隅角緑内障・正常眼圧緑内障患者を対象とした.調査対象日の視野検査が該当患者の1回目または2回目の視野検査である症例,過去3カ月以内に緑内障治療薬の内容を変更した症例,白内障手術や緑内障手術,レーザー手術,屈折矯正手術を含む内眼手術既往例は除外した.両眼とも基準を満たす症例では左右眼を無作為に抽出し1例につき1眼を選択した.視野検査はHumphrey視野計(HFA)を,測定プログラムは24-2SITA-Standardを用いた.眼圧測定はGoldmannapplanationtonometryを使用し,同一検者が同一の診察台にて視野検査の直前5分以内,および検査後20分以内に測定した.測定は続けて2回行い,2回の測定値に3mmHg以上の差を認めた場合は3回目の測定を行い,平均値を算出し表1対象の背景年齢(歳)62.3±11.6男女比(男/女)19/15眼軸長(mm)25.7±1.73前房深度(mm)3.50±0.50MD(dB).8.91±6.09MD:Humphrey視野計24-2SITA-Standardプログラムによるmeandeviation値.値は平均±標準偏差.た.また,他日にIOLMasterR(カールツァイスメディテック株式会社,東京)を用いて,眼軸長および前房深度を明所下にて測定した.視野検査後の眼圧値から視野検査前の眼圧値を差し引いた数値を眼圧変化量と定義した.眼圧変化量を従属変数,視野検査時の年齢,24-2SITA-Standardプログラムでのmeandeviation(MD)値,眼軸長,前房深度を説明変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い,統計学的有意水準としてp=0.05を採用した.II結果34例34眼(右眼19眼,左眼15眼)を対象に検討を行った.患者背景因子を表1に示す.視野検査前の眼圧は14.9±2.7mmHg(平均±標準偏差),検査後の眼圧は15.4±2.9mmHgであった.眼圧変化量のヒストグラムを図1に示す.眼圧変化量は.3mmHgから3.5mmHgの範囲で,視野検査後に0.5±1.4mmHgの統計学的に有意な眼圧上昇を認めた(pairedt-test,p=0.049).34眼中14眼(41.2%)で1mmHg以上の眼圧上昇を認め,2mmHg以上の上昇は6眼(17.6%),3mmHg以上の上昇は3眼(8.8%)に認めた.また1眼(2.9%)に3mmHgの下降を認めた.眼圧変化量に寄与する因子に関し重回帰分析を行った結024681012頻度(眼)眼圧変化量(mmHg)図1眼圧変化量のヒストグラム表2眼圧変化量を従属変数としたステップワイズ法による重回帰分析の結果(n=34)説明変数偏回帰係数(95%信頼区間)p値年齢(歳)眼軸(mm)前房深度(mm)MD(dB).0.0047(.0.041:0.050)0.14(.0.21:0.50)1.26(0.0455:2.48)0.0088(.0.077:0.095)0.840.420.042*0.89MD:Humphrey視野計24-2SITA-Standardプログラムによるmeandeviation値.*:p<0.05.434あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(130) 果,前房深度が有意な正の相関をもって選択された(偏回帰係数=1.26,p=0.042)(表2).III考察視野検査による眼圧変化に関する過去の報告において,Niら4)は開放隅角緑内障眼109例109眼(平均年齢75.2歳)を対象に視野検査(HFA24-2または10-2SITA-Standardプログラム)を行い,視野検査後の眼圧を視野検査前の眼圧や次回来院日に測定した眼圧と比較し,視野検査後にはそれぞれ平均1.2,1.1mmHgの有意な眼圧上昇を認めたと報告した.またRecuperoら5)は点眼治療で眼圧21mmHg未満にコントロールされている原発開放隅角緑内障眼12例24眼(平均年齢50.8歳)に対し視野検査(HFA30-2full-thresholdプログラム)を行い,検査前と検査の7.21分後に眼圧測定を施行,検査後には平均約2.3mmHgの眼圧上昇を認め,眼圧変化量は年齢と正の相関を認めたと報告している.一方でMatin8)は緑内障眼40例,高眼圧症または緑内障疑い21例に対し視野検査〔HFASITA-FastまたはSITAStandardプログラムまたはhigh-passresolutionperimeter(HRP)〕直前と直後の眼圧を比較し,61例中14例(23%)は両眼または片眼に2mmHg以上の眼圧上昇を認めたが,全対象眼の平均値には両眼とも有意な変化は認めなかったと報告した.本研究では34例34眼の開放隅角緑内障眼を対象に自動静的視野検査前後の眼圧変化量を検討し,平均0.5mmHgのわずかな眼圧上昇を認めた.平均値としての変化量は既報と比べて小さく,臨床的に有意な眼圧変化とは考えられない.この結果を既報と比較する際には,対象の人種や背景因子の相違,視野検査測定所要時間の違いなどを考慮する必要がある.眼圧上昇の機序については,暗所での持続した散瞳状態による隅角狭小化に伴う房水流出抵抗の上昇や6),視野検査がもたらす精神的ストレスが交感神経系を介して毛様体の房水産生に与える影響が推測されている7).Niら4)は眼圧変化に関連する因子に関し,緑内障術後眼やb遮断薬,a1作動薬点眼症例では眼圧上昇が有意に小さく,眼圧変化量と年齢の有意な相関は認められなかったと報告している.本研究では内眼手術歴のある症例を対象から除外しており,また点眼薬使用の有無やその種類など,緑内障患者の多様な背景因子が眼圧変化量に与える影響を評価するには対象眼数が不十分と考えられた.対象眼のなかで視野検査後に3mmHgの眼圧低下を認めたものが1眼のみあったが,この眼圧下降の機序を推測することは困難である.視野検査後に眼圧測定を行うまでの間,対象患者は座位で安静に待機していたが,検査による眼精疲労のためか自分で眼球周囲を圧迫するようなマッサージを行(131)う患者もみられたため,そのような行為が一時的な眼圧下降を生じさせた可能性も否定できない.本研究では年齢,MD値,眼軸長と眼圧変動量の間に有意な相関がみられなかったものの,前房深度が眼圧変化量と有意な正の相関を示し,前房深度が深い眼ではより眼圧が上昇しやすいことが示唆された.超音波生体顕微鏡(UBM)を用いた検討によれば,明所-暗所間のangleopeningdistance(AOD)やtrabecularirisspaceareaの変化量は前房深度が深いほど大きく9),白内障術後眼ではAODの変化量が大きいほど眼圧の変化量も大きいことが報告されている10).狭隅角眼ではより前房深度が浅く,視野検査後に眼圧が上昇しやすい可能性があるが,本研究の対象は隅角開大度がShaffer分類3度以上の開放隅角緑内障眼であり,狭隅角眼は除外している.本研究の結果は,前房の深い開放隅角緑内障眼において,視野検査後により大きな眼圧上昇が生じる可能性を示唆すると考えられる.本研究では,開放隅角緑内障眼の視野検査後に統計学的には有意な眼圧上昇を認めたが,その変化量は平均0.5mmHgと小さかった.しかし一部の症例では3mmHg以上の眼圧変化を認め,開放隅角緑内障においても視野検査後の眼圧上昇に注意すべき症例のあることが示唆された.文献1)CaprioliJ,ColemanAL:Intraocularpressurefluctuationariskfactorforvisualfieldprogressionatlowintraocularpressuresintheadvancedglaucomainterventionstudy.Ophthalmology115:1123-1129,20082)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,20033)DavidR,ZangwillL,BriscoeDetal:Diurnalintraocularpressurevariations:ananalysisof690diurnalcurves.BrJOphthalmol78:280-283,19924)NiN,TsaiJC,ShieldsMB,etal:Elevationofintraocularpressureinglaucomapatientsafterautomatedvisualfieldtesting.JGlaucoma21:590-595,20125)RecuperoSM,ContestabileMT,TavernitiLetal:Openangleglaucoma:variationsintheintraocularpressureaftervisualfieldexamination.JGlaucoma12:114-118,20036)GlosterJ,PoinoosawmyD:Changesinintraocularpressureduringandafterthedark-roomtest.BrJOphthalmol57:170-178,19737)BrodyS,ErbC,VeitR,RauH:Intraocularpressurechanges:theinfluenceofpsychologicalstressandthevalsalvamaneuver.BiolPsychol51:43-57,19998)MartinL:Intraocularpressurebeforeandaftervisualfieldexamination.Eye21:1479-1481,20079)LeungCK,CheungCY,LiHetal:Dynamicanalysisofdark-lightchancesoftheanteriorchamberanglewithあたらしい眼科Vol.31,No.3,2014435 anteriorsegmentOCT.InvestOphthalmolVisSci48:intraocularpressurereductionafteruneventfulpha4116-4122,2007coemulsificationforcataract.JCataractRefractSurg38:10)HuangG,GonzalezE,LeeRetal:Associationofbiomet108-116,2012ricfactorswithanteriorchamberanglewideningand***436あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(132)

中心角膜厚と相関する要因の検討

2013年1月31日 木曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(1):103.106,2013c中心角膜厚と相関する要因の検討西野和明吉田富士子新田朱里齋藤三恵子齋藤一宇回明堂眼科・歯科RelatingFactorsAssociatedwithCentralCornealThicknessKazuakiNishino,FujikoYoshida,AkariNitta,MiekoSaitoandKazuuchiSaitoKaimeidoOphthalmic&DentalClinic目的:中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)と相関する要因につき.その再現性を確認すること.対象および方法:2007年1月.4月までの間,当院にて白内障手術前にCCT(TOPCON,SP-3000P),眼圧,平均角膜屈折力(K値),眼軸長(IOLマスター)を測定した100例100眼.男性38眼,女性62眼.平均年齢(±標準偏差)72.5±8.8歳.患者の選択は連続とし,患者の重複を避けるため右眼のみの手術眼を選択.除外基準は過去のレーザー治療を含む眼科手術歴,外傷や角膜疾患の既往,網膜浮腫などのある眼球とした.緑内障点眼薬の未使用眼の眼圧(n=77),K値,眼軸長,年齢を説明変数,CCTを目的変数として単回帰分析を行った.緑内障(23眼),糖尿病(24例)をそれぞれ有する群とない群の2群に分けStudentttestで比較分析を行った.結果:各測定値の平均値(±標準偏差)はCCT510.7±30.6μm,眼圧13.6±2.6mmHg,K値44.6±1.4diopters,眼軸長23.8±1.6mm.CCTと眼圧のみに有意な正の相関(r2=0.0896,p=0.0082)がみられ,K値,眼軸長,年齢との相関(各p=0.49,p=0.77,p=0.25)を認めなかった.緑内障,糖尿病の有無による2群間のCCTでも有意差(各p=0.397,p=0.601)を認めなかった.結論:CCTとの相関は眼圧のみで再確認された.年齢に相関がみられなかったのは,研究サンプルの平均年齢が70歳以上と偏っていたためと考えられる.Purpose:Toexaminetheassociationbetweencentralcornealthickness(CCT)andvariousrelatingfactorsinourclinic.Methods:Thestudygroupcomprised100eyesof100recipientsofpreoperativecataractsurgery,including24withdiabetesmellitusand23withglaucoma.Themean(±standarddeviation)ageofthestudysamplewas72.5±8.8years;38eyeswereofmales,62eyeswereoffemales.Noindividualshadundergonepreviousintraocularsurgeryorhadothersignificantocularpathology.TheCCT,intraocularpressure(IOP),averagecornealcurvature(K)andaxiallength(AL)weremeasuredinallsubjects,respectivelyusingspecularmicroscope(TOPCON,SP-3000P),Goldmannapplanationtonometer,keratometerandA-scanultrasoundbiometer.CorrelationbetweenCCTandotherfactorswereestimatedstatistically.Results:MeanCCTwas510.7±30.6μm,IOP13.6±2.6mmHg,Kwas44.6±1.4dioptersandALwas23.8±1.6mm.SignificantpositivecorrelationwasnotedbetweenCCTandIOP(p=0.0082).NosignificantcorrelationswereidentifiedbetweenCCTandK(p=0.49),AL(p=0.77)orage(p=0.25).CCTwasnotassociatedwithglaucoma(p=0.397)ordiabetesmellitus(p=0.601).Conclusions:OnlyIOPwasfoundtobeassociatedwithincreasedCCT.AgefactorwasnotcorrelatedwithCCT,presumablyduetothehigheragesample.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):103.106,2013〕Keywords:中心角膜厚,眼圧,平均角膜曲率半径(平均角膜屈折力),眼軸長,年齢.centralcornealthickness(CCT),intraocularpressure(IOP),averagecornealcurvature,axiallengh,age.はじめにCCT)の影響を受けることはよく知られている1).つまり眼圧の実測値はGoldmann圧平眼圧計であれ,非接触型CCTが大きくなるほど眼圧の実測値は大きくなる傾向があ眼圧計であれ,中心角膜厚(centralcornealthickness:る.したがって緑内障診療において,CCTの大小が眼圧に〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科・歯科Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidoOphthalmic&DentalClinic,10-4-1Tsukisamuchu-o-dori,Toyohira-ku,Sapporo062-0020,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)103 どの程度影響するかを理解することはもちろん重要であるが,近年CCTの増減に影響する要因にはどのようなものがあるかが検討されるようになってきており,それらの理解も必要である.現在までにCCTの増加と関係する全身要因として糖尿病,肥満などが知られ2,3),一方,加齢はCCT減少の要因として報告されている2,4,5).また,眼科的要因としては眼圧上昇,緑内障,角膜曲率半径の増加がCCT増加の要因になるという2,6.8).今回筆者らは回明堂眼科・歯科(当院)においてそれらの要因とCCTの相関について,再現性が認められるかどうかを検討した.さらに,過去にはほとんど報告がみられなかった眼軸長についても2),合わせて検討した.I対象および方法2007年1月.4月までの間,当院にて白内障手術前にCCT(TOPCON,SP-3000P),眼圧(Goldmann圧平眼圧計),平均角膜曲率半径(オートレフラクトメータによる平均角膜屈折力=K値),眼軸長(IOLマスター)を測定した100例100眼.男性38眼,女性62眼.平均年齢(標準偏差)72.5±8.8歳.緑内障23眼,糖尿病24例を含む.緑内障23眼の内訳は原発として,狭義の原発開放隅角緑内障(POAG)と正常眼圧緑内障(NTG)を合わせた広義の原発開放隅角緑内障11眼,原発閉塞隅角緑内障3眼,続発としては落屑緑内障7眼,現在発作の起きていないPosner-Schlossmann症候群の既往眼1眼,現在炎症が鎮静化している虹彩毛様体炎1眼である.また,本研究の糖尿病の定義は,現在内科へ通院中で何らかの治療を指示されているものとした.患者の選択は連続とし,患者の重複を避けるため,右眼のデータのみを選択した.除外基準は各測定値に影響を与える因子,つまり過去のレーザー治療を含む眼科手術歴,外傷や角膜疾患の既往,網膜浮腫などのある眼球とした.登録した100眼すべてを対象とし眼圧,K値,眼軸長,年齢を説明変数,CCTを目的変数としてそれぞれの項目について単回帰分析を行った.ただし,緑内障患者ではすでに緑内障点眼薬の使用により眼圧が低下しているため,それ以外の未使用眼から得られた77眼の眼圧のみを選択し追加で検討した.また,緑内障,糖尿病の検討では,それらの有無で2群に分けStudentttestで比較検討を行った.II結果CCTの平均値(標準偏差)は510.7±30.6μm,男性513.4±27.7μm,女性509.1±31.8μmであった.男性の値がやや高い結果が得られたが,統計的な有意差は認められなかった(p=0.485:Welchのt検定).その他の平均値はそれぞれ眼圧14.1±3.1mmHg,K値44.6±1.4diopters,眼軸長23.8±1.6mm,年齢72.5±8.8歳であった.緑内障以外の77眼での平均眼圧は13.6±2.6mmHgであった.CCTと有意な相関が認められたのは眼圧(r2=0.09,p=CCT(μm)CCT(μm)650600550500450400450500550600650384042444648CCT(μm)4000510152025眼圧(mmHg)K値(diopters)図1CCTと眼圧図2CCTとK値y=3.35x+463.76,r2=0.0896,p=0.0082.y=.1.51x+578.39,r2=0.0049,p=0.49.650600550500450CCT(μm)4004505005506006504050607080904001520253035眼軸長(mm)年齢(歳)図3CCTと眼軸長図4CCTと年齢y=0.56x+498.33,r2=0.00087,p=0.77.y=0.41x+498.33,r2=0.013,p=0.25.104あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(104) p=0.397p=0.601p=0.601CCTの程度CCTの程度緑内障あり緑内障なし23眼77眼図5緑内障の有無によるCCTの比較0.0024)のみで,追加検討した緑内障以外の77眼の相関(r2=0.0896,p=0.0082)について図1に示した.K値(p=0.49),眼軸長(p=0.77),年齢(p=0.25)との相関は認められなかった(図2.4).緑内障(p=0.397),糖尿病(p=0.601)の有無による2群間のCCTでも有意差を認めなかった(図5,6).III考按CCTは眼圧をはじめとするさまざまな要因と相関することが知られている1.8).それらのなかで眼圧以外の要因として,全身的なものでは糖尿病,肥満,喫煙がCCTの増加と相関することや,眼科的にはK値の減少がCCTの増加と相関することなどが報告されている.そこで当院においても,それらの因果結果の再現性を確認する目的で臨床研究することを計画したが,一民間病院においては,患者の同意を得ることなど容易ではなかった.そこで白内障手術前の患者であれば,必ず術前にスペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度を測定しなければならず,その際に測定機種のTOPCON,SP-3000Pで同時にCCTを測定することが可能である.したがって,臨床研究に必要なCCTのデータが無理なく容易に取得することができる.しかも連続症例で検討することができるという利点もある.これらの理由により本研究の対象として白内障手術前の患者のデータを選択した.本研究においてCCTが眼圧と相関したというのは,過去の研究の追試にすぎないが,異なる点はCCTの平均値が他の研究に比べ,低い値であったこと,CCTと年齢との相関がみられなかったことである.これにはいくつかの理由が考えられる.まず一つには今回使用したCCTの測定機種がスペキュラーマイクロスコープであり,一般的に超音波法による540μm前後の値よりも低い値になることが知られていることである4,5,7,8.10).ちなみに多治見市内で一般住民を対象として行われた正常な日本人のスクリーニング検査(多治見スクリーニング)でもスペキュラーマイクロスコープ(TOP(105)糖尿病あり糖尿病なし24例76例図6糖尿病の有無によるCCTの比較CON,SP-2000P)が使用され,そのCCTの平均値は517.5±29.8μm,男性521.5±30.3μm,女性514.4±29μmと7),本研究はそれと類似する結果であった.しかしながら,それでもなお本研究のCCTの平均値510.7±30.6μmは,多治見スクリーニングの平均値よりもさらに低い.これは本研究が白内障手術前の患者をサンプルとして採用しており,平均年齢が70歳以上と高齢であったことが,原因と考えられる.過去の報告でも10歳進むごとにCCTは5μm減少することが知られている4,5).このように本研究ではスペキュラーマイクロスコープを測定機種として採用したことや,対象としたサンプルに年齢的な偏りがあったことが,過去の研究よりも低いCCTの実測値が得られた原因であろうと考えた.また,CCTが年齢と相関しなかった理由も同様にサンプルの選び方が原因と考えたが,それを実証するためには,今後は若い年齢層との比較検討が必要である.今後このような研究でさらに精度を上げるためにはいくつかの工夫が必要である.まずは,今回の研究では定義としてプロスタグランジン関連薬の使用の有無を差別化しなかった点である.その理由は,プロスタグランジン関連薬を使用している眼球では,CCTが減少するという報告がみられるものの11,12),それらの多くは10μm前後と大きくなく,しかも施設,研究デザイン,経過観察期間の違いで結果が異なることからである.しかしながら,今後さらに厳密なデザインによるデータを得るためには,プロスタグランジン関連薬の影響を考慮しつつ,患者の組み入れを工夫する必要性があるかもしれない.それ以外にも緑内障の扱いに関して,緑内障の種類別でCCTが異なる場合もあり6),それらを区別しながら比較検討する必要がある.さらに緑内障関連以外で今回検討できなかった因子は肥満である.それは今回の研究が後ろ向きであったため,手術前に体重は測定していたものの,身長は全員に確認していなかったことからbodymassindex(BMI)を計算できなかったためである.現在は全員の身長を確認しており,今後の研究では相関関係を検討していく予あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013105 定である.糖尿病に関してもその程度とCCTの相関なども合わせて検討していきたい.今回の研究では,CCTと相関する可能性の要因を過去の報告からリストアップし,当院においても再現性がみられるかどうか検討した.前述のごとく研究デザインにいくつかの不十分な点はあったものの,CCTと年齢の相関を考えるうえで今後の参考になるデータは得られた.今後は他の研究報告をさらに検討し,研究の精度を高めていくとともに,施設や機種などによる結果のばらつきを補正する目的で,さらに複数多施設での症例の集積と比較検討が必要と考えた.また,近年CCTに影響を及ぼす因子として遺伝的な研究報告もみられるようになり,今後の発展が注目される13.15).利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367408,20002)WangD,HuangW,LiYetal:Intraocularpressure,centralcorneathicknessandglaucomainchineseadults:theliwaneyestudy.AmJOphthalmol152:454-462,20113)NishitsukaK,KawasakiR,KannoMetal:DeterminantsandriskfactorsforcentralcorneathicknessinJapanesepersons:theFunagatastudy.OphthalmicEpidemiol18:244-249,20114)WolfsRC,KlaverCC,VingerlingJRetal:Distributionofcentralcornealthicknessanditsassociationwithintraocularpressure:TheRotterdamStudy.AmJOphthalmol123:767-772,19975)HahnS,AzenS,Ying-LaiMetal:CentralcornealthicknessinLatinos.InvestOphthalmolVisSci44:1508-1512,20036)PangCE,LeeKY,SuDHetal:CentralcornealthicknessinChinesesubjectswithprimaryangleclosureglaucoma.JGlaucoma20:401-404,20117)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalomol112:1327-1336,20058)TomidokoroA,AraieM,IwaseAetal:Cornealthicknessandrelatingfactorsinapopulation-basedstudyinJapan:theTajimistudy.AmJOphthalmol144:152154,20079)ModisLJr,LangenbucherA,SeitzB:Scanning-slitandspecularmicroscopicpachymetryincomparisonwithultrasonicdeterminationofcornealthickness.Cornea20:711-714,200110)SuzukiS,OshikaT,OkiKetal:Corneathicknessmeasurements:scanning-slitcornealtopographyandnoncontactspecularmicroscopyversusultrasonicpachymetry.JCataractRefractSurg29:1313-1318,200311)BirtCM,BuysYM,KissAetal:Theinfluenceofcentralcornealthicknessonresponsetotopicalprostaglandinanaloguetherapy.CanJOphthalmol47:51-54,201212)ZhongY,ShenX,YuJetal:Thecomparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncentralcornealthickness.Cornea30:861-864,201113)VitartV,BencicG,HaywardCetal:NewlociassociatedwithcentralcornealthicknessincludeCOL5A1,AKAP13andAVGR8.HumMolGenet19:4304-4311,201014)VithanaEN,AungT,KhorCCetal:Collagen-relatedgenesinfluencetheglaucomariskfactor,centralcornealthickness.HumMolGenet20:649-658,201115)CornesBK,KhorCC,NongpiurMEetal:Identificationoffournovelvariantsthatinfluencecentralcornealthicknessinmulti-ethnicAsianpopulations.HumMolGenet21:437-445,2012***106あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(106)

光干渉式と超音波眼軸長測定装置による眼球生体計測値の比較検討

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1758.1764,2011c光干渉式と超音波眼軸長測定装置による眼球生体計測値の比較検討山下力*1,2前田史篤*1,2岡真由美*1,2田淵昭雄*1*1川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科*2川崎医科大学眼科学教室ComparisonofOcularBiometryMeasurementsusingPartialCoherenceInterferometryandUltrasonographyTsutomuYamashita1,2),FumiatsuMaeda1,2),MayumiOka1,2)andAkioTabuchi1)1)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,2)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool目的:光干渉式および超音波眼軸長測定装置を用い,眼球生体計測値を比較検討した.対象および方法:対象は,屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常者101名101眼(平均年齢20±1歳)であり,屈折値は.3.1±3.2Dであった.眼軸長および前房深度,角膜厚の測定にはLENSTARLS900(以下,LS)およびOA-1000(以下,OA)とAL-3000(以下,AL)を用いた.水晶体厚の測定にはLSとALを用いた.結果:眼軸長の平均(mm)はLS24.86,OA(Immersion値)24.78,OA(Contact値)24.61,AL24.65であった.角膜厚(μm)はLS532.90,OA516.38,AL538.58で有意に相関し,OAは低値であった(p=0.0001).前房深度(mm)はLS3.67,OA3.79,AL3.71で有意に相関し,LSは低値であった(p=0.0070).水晶体厚(mm)はLS3.56,AL3.61で相関係数は0.56であり,有意な差を示した(p=0.0007).結論:機器により眼球生体計測値が異なることを認識する必要がある.Purpose:Tocompareocularbiometrymeasurementsusingpartialcoherenceinterferometryandultrasonography.SubjectsandMethods:Wemeasured101eyesof101normalvolunteers(meanage:20±1years)withnooculardiseases.Meanrefractiveerrorwas.3.1±3.2diopters.Axiallength,anteriorchamberdepthandcornealthicknessweremeasuredusingLENSTARLS900,OA-1000andAL-3000.LensthicknesswasmeasuredusingLENSTARLS900andAL-3000.Results:Axislengthaveraged24.86±1.37mmbyLS900,24.78±1.36mmbyOA-1000(Immersionvalue),24.61±1.36mmbyOA-1000(Contactvalue)and24.65±1.36mmbyAL-3000.Cornealthicknessaveraged532.90±28.92μmbyLS900,516.38±28.96μmbyOA-1000and538.58±28.96μmbyAL-3000.Thesethreevaluesweresignificantlycorrelatedwitheachother,buttheOA-1000cornealthicknessvaluesweresignificantlysmallerthanthoseoftheothertwodevices.Anteriorchamberdepthaveraged3.67±0.25mmbyLS900,3.79±0.24mmbyOA-1000and3.71±0.28mmbyAL-3000.Thesethreevaluesweresignificantlycorrelated,buttheLS900anteriorchamberdepthvaluesweresignificantlysmaller.Thecorrelationcoefficientwas0.56,andaveragelensthicknessshowedasignificantdifferencebetweenLS900(3.56±0.18mm)andAL-3000(3.61±0.18mm).Conclusion:Ocularbiometrymeasurementsdifferedamongtheinstruments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1758.1764,2011〕Keywords:生体計測,眼軸長,角膜厚,前房深度,水晶体厚.biometry,axiallength,cornealthickness,anteriorchamberdepth,lensthickness.はじめにに大きく影響を及ぼす.近年,光干渉式を原理とした眼球生白内障手術は,水晶体の混濁を取り除くためだけではな体計測器が続々と開発されており,計測値の評価を行ううえく,屈折矯正手術としての意味をもち,よりよい視機能を獲で各機器の特性を正しく把握する必要がある.得することが要求される.特に,術後屈折度は,患者満足度超音波眼軸長測定機器では眼内レンズ(IOL)度数計算の〔別刷請求先〕山下力:〒701-0193倉敷市松島288川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科Reprintrequests:TsutomuYamashita,DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,KurashikiCity701-0193,JAPAN175817581758あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(96)(00)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY 誤差要因に関して,眼軸長の測定誤差54%,術後前房深度予測の誤り38%,角膜屈折力の測定誤差8%とされている1,2).一方,光干渉式眼軸長測定装置では,非接触であること,測定時間が短いこと,検者間の測定誤差がなく再現性に優れること,および測定精度が高いことが知られている3.5).また光干渉式眼軸長測定値では,ULIB(UserGroupforLaserInterferenceBiometry)に掲載されているA定数を用いることや,超音波Aモードで計測される値に変換することにより,良好な術後屈折度が得られるようになった6).術後屈折度の誤差を最小限にするため,前房深度をパラメータに加えた新たな計算式を開発してIOL度数計算の精度向上が取り組まれている.超音波式と光干渉式の眼軸長測定装置を比較した論文では眼軸長や測定率,術後屈折値を検討した報告が多く,角膜厚,前房深度などの測定値を比較検討した報告は少ない.眼軸長のみならず眼球生体計測を正確に行ううえで,機器による測定値の違いや各機器との相関性,測定精度を把握しておくことは非常に重要である.そこで今回,光干渉式眼軸長測定装置としてLENSTARLS900RとOA-1000および超音波眼軸長測定装置としてAL-3000の3機種を同一症例に対して用い,正常眼の眼軸長,角膜厚,前房深度,水晶体厚の測定値とその精度を比較検討した.I対象および方法対象は屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常者101名101眼(右眼)である.本研究は川崎医療福祉大学倫理委員会の承認を得て,十分にインフォームド・コンセントを得たうえで行った.年齢は20±1(平均±標準偏差)歳(19.23歳)で,屈折値は.3.1±3.2D(.11.0.+7.5D)であった.眼軸長,角膜厚,前房深度の計測にはLENSTARLS900R(以下,LS900,HAAG-STREIT),OA-1000(TOMEY),AL-3000(TOMEY)を用いた.水晶体厚の計測にはLS900とAL-3000を用いた.LS900は1回の計測で眼軸長,角膜厚,前房深度,水晶体厚の値が算出され,6回計測した平均値を採用した.OA-1000およびAL-3000での眼軸長,角膜厚,前房深度,水晶体厚は,1回の計測で得られる10データの平均値を採用した.OA-1000では,涙液表面から網膜色素上皮までの実測値を計測する「Optical値」,網膜の厚さを補正した「Immersion値」,超音波Aモードと同じ角膜表面から内境界膜までを計測した値に補正する「Contact値」の3種類の異なった計測値が算出される.本研究においてはOA-1000での眼軸長値は,Contact値およびImmersion値を求めた.測定は無散瞳下で行い,1名の検者がすべての測定を行った.各装置の測定時間帯を同一とした.各機器における眼球生体計測値の比較および相関関係は,統計学的に検討した.3機種における眼軸長,角膜厚および前房深度は,Friedman検定を用い比較検討を行った.そこで有意差が得られた場合,Scheffe多重比較法を行った.各機種の水晶体厚は,Wilcoxon符号順位和検定を用いた.相関関係の検討はSpearman順位相関係数を用い,危険率5%未満を統計学的に有意とした.各機種の精度比較はBland-Altmanplotを用い,測定値間の一致の程度を分析した.許容範囲内かどうかの評価や系統誤差は,2機種の測定値の差の平均値±標準偏差の1.96倍を95%LimitsofAgreement(以下,95%LoA)として算出した.II結果1.眼軸長各機種による眼軸長の平均値±標準偏差(括弧内は範囲)はLS90024.86±1.37mm(21.19.28.04),OA-1000(Immersion値)24.78±1.36mm(21.14.27.78),OA-1000(Contact値)24.61±1.36mm(20.98.27.61),AL-300024.65±1.36mm(21.08.27.73)であり,各機種間で有意差はなかった(表1).LS900はAL-3000よりも210μm長く,OA-1000(Immersion値)よりも130μm程度長く測定された.LS900とOA-1000(Immersion値),AL-3000とOA1000(Contact値)の相関係数はそれぞれ0.9991,0.9987であり,有意に高い相関を示した(すべてp=0.0001).Bland-Altmanplotによる分析では,LS900とOA-1000(Immersion値)との差は平均0.08mmであり,95%LoAが0.0.16mm表1各測定装置における眼球生体計測値眼軸長(mm)角膜厚(μm)前房深度(mm)水晶体厚(mm)LS90024.86±1.37(21.19.28.04)532.90±28.92(464.0.597.0)*3.67±0.25(3.17.4.26)**3.56±0.18(3.17.4.01)OA-100024.78±1.36(Immersion値)(21.14.27.78)516.38±28.963.79±0.24***OA-1000(Contact値)24.61±1.36(20.98.27.61)(449.2.581.1)*(3.28.4.43)AL-300024.65±1.36(21.08.27.73)538.58±28.96(467.0.612.0)3.71±0.28(3.04.4.43)3.61±0.18(3.20.4.04)Scheffe多重比較法(*:p=0.0001,**:p=0.0070),Wilcoxon符号順位和検定(***:p=0.0007).(97)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111759 (mm)(mm)LS-OA(Immersion)0.40.30.20.10-0.1-0.2-0.3-0.4mean0.08mean-1.96SDmean+1.96SDAL-OA(Contact)-0.4-0.3-0.2-0.100.10.20.30.4mean0.04mean-1.96SDmean+1.96SD202224262830(mm)202224262830(mm)〔LS+OA(Immersion)〕/2〔AL+OA(Contact)〕/2図1LSとOA(Immersion値),ALとOA(Contact値)の眼軸長のBland.AltmanplotLS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOA(Immersion値)の差:0.08±0.04mm,95%LoA:0.0.16mm.ALとOA(Contact値)の差:0.04±0.05mm,95%LoA:.0.06.0.14mm.(μm)(μm)(μm)650650650600600600550550550OAOALS500500500450450450400400450LS500550600(μm)650400400450500AL(μm)55060065040040045AL0500550600(μm)650図2LSとOA,ALとLS,ALとOAとの角膜厚の相関LS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOAの相関では,y=0.9854x.8.7286,R2=0.9680,r=0.9705,p=0.0001.LSとALの相関では,y=0.8779x+59.979,R2=0.9284,r=0.9564,p=0.0001.OAとALの相関では,y=0.8685x+48.529,R2=0.9058,r=0.9405,p=0.0001.と,ばらつきが少なかった.AL-3000とOA-1000(Contact値)との差は平均0.04mmで,95%LoAが.0.06.0.14mmであり,AL-3000とOA-1000(Contact値)との一致の程度が高かった(図1).2.角膜厚各機種による角膜厚の平均値±標準偏差はLS900532.90±28.92μm(464.0.597.0),OA-1000516.38±28.96μm(449.2.581.1),AL-3000538.58±28.96μm(467.0.612.0)であった(表1).OA-1000は,LS900およびAL-3000に比べ有意に薄かった(p=0.0001).AL-3000とLS900の差は5.78μmであり,有意差はなかった.LS900とOA1000,LS900とAL-3000,OA-1000とAL-3000は有意に強く相関していた(相関係数はそれぞれ0.9705,0.9564,0.9405,すべてp=0.0001)(図2).Bland-Altmanplotによる分析では,LS900とOA-1000との測定値差は平均16.52μmで,95%LoAが6.33.26.70μmで,ばらつきが小さかった(図3).LS900とAL-3000およびOA-1000とAL1760あたらしい眼科Vol.28,No.12,20113000の比較検討では,2つの測定値の乖離が増加し比例誤差を生じた.これは,角膜が厚くなるとAL-3000はより角膜が厚く測定される傾向があることを示唆している.3.前房深度各機種による前房深度の平均値±標準偏差はLS9003.14±0.25mm(2.66.3.74),OA-10003.79±0.24mm(3.28.4.43),AL-30003.71±0.28mm(3.04.4.43)であった.LS900とOA-1000,LS900とAL-3000に有意な差を示した(すべてp=0.0001).LS900による前房深度は,角膜後面から水晶体前面までを計測しているため,LS900で計測した角膜厚を加算し求めた.角膜厚を含むLS900の前房深度は3.67±0.25mm(3.17.4.26)であり,OA-1000とは有意な差があった(p=0.0007)(表1).AL-3000とLS900の差は0.03mmであり,有意差はなかった.LS900とOA1000,LS900とAL-3000,OA-1000とAL-3000は有意に強く相関を示した(相関係数はそれぞれ0.9218,0.8118,0.8432,すべてp=0.0001)(図4).Bland-Altmanplotによ(98) (μm)(μm)(μm)60mean16.52mean-1.96SDmean+1.96SD40mean5.68mean-1.96SDmean+1.96SD60503050mean22.19mean-1.96SDmean+1.96SD20403020AL-OALS-OAAL-LS100-1010-200400450500550600650(μm)400450500550600650(μm)400450500550600650(μm)(LS+OA)/2(AL+LS)/2(AL+OA)/2図3LSとOA,ALとLS,ALとOAの角膜厚のBland.AltmanplotLS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOAの差:16.52±5.20μm,95%LoA:6.33.26.70μm.ALとLSの差:5.68±8.67μm,95%LoA:.11.32.22.68μm,y=0.0934x.44.377,R2=0.1046,r=0.2819,p=0.0017.ALとOAの差:22.19±10.00μm,95%LoA:2.60.41.79μm,y=0.0946x.27.612,R2=0.0833,r=0.2474,p=0.0126.(mm)(mm)(mm)4.54.54.544.04OAOA3.5LS3.53.533.032.52.53.0LS3.54.0(mm)4.52.52.53AL3.54(mm)4.52.52.533.5AL44.5(mm)図4LSとOA,ALとLS,ALとOAの前房深度の相関LS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOAの相関では,y=0.8514x+0.6605,R2=0.8372,r=0.9218,p=0.0001.LSとALの相関では,y=0.7867x+0.7592,R2=0.6988,r=0.8118,p=0.0001.OAとALの相関では,y=0.7513x+1.005,R2=0.7684,r=0.8432,p=0.0001.(mm)(mm)(mm)0.60.60.6mean-0.12mean-1.96SDmean+1.96SDmean0.03mean-1.96SDmean+1.96SDmean-1.96SDmean+1.96SDmean-0.080.40.40.20.20.2AL-LSAL-OA-0.2-0.2-0.4-0.4LS-OA-0.2-0.400-0.6(mm)(mm)-0.6(mm)図5LSとOA,ALとLS,ALとOAの前房深度のBland.AltmanplotLS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOAの差:.0.12±0.10mm,95%LoA:.0.31.0.08mm.ALとLSの差:0.03±0.15μm,95%LoA:.0.26.0.31mm.ALとOAの差:.0.08±0.13mm,95%LoA:.0.34.0.18mm,y=0.164x.0.6975,R2=0.0939,r=0.3086,p=0.0017.33.544.55(LS+OA)/233.544.55(AL+LS)/233.544.55(AL+OA)/2(99)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111761 (mm)(mm)4.50.60.44mean-1.96SDmean+1.96SDmean0.06AL-LS9000.20LS3.5-0.23-0.4-0.62.52.533.544.5(mm)2.533.544.5(mm)AL(AL+LS)/2図6ALとLSの水晶体厚の相関およびBland.AltmanplotLS:LS900,AL:AL-3000.ALとLSの相関では,y=0.5633x+1.5229,R2=0.3188,r=0.5578,p=0.0001.ALとLSの差:0.06±0.17mm,95%LoA:.0.27.0.38mm.る分析では,LS900とOA-1000の差は平均.0.12mmで,95%LoAが.0.31.0.08mmでばらつきが小さかった(図5).OA-1000とAL-3000の比較検討では,2つの測定値の乖離が増加し比例誤差が生じた.これは,前房深度が深くなるとAL-3000はより前房深度が深く測定される傾向があることを示唆している.4.水晶体厚各機種による水晶体厚の平均値±標準偏差はLS9003.56±0.18mm(3.17.4.01),AL-30003.61±0.18mm(3.20.4.04)で中程度の相関を示した(相関係数は0.5578,p=0.0001)(図6).AL-3000とLS900の測定値には有意差はあった(p=0.0007).III考按正確な眼球生体計測は,視機能評価,病態把握,白内障に対する術前検査として重要なことである.IOL度数計算の誤差原因としては,眼軸長測定,術後予想前房深度,角膜曲率半径の計測があげられ,眼球生体計測機種の測定精度および他との比較分析をすることが重要である.本研究では,光干渉式眼軸長測定装置としてLS900とOA-1000を対象とし,IOLMasterTMは採用しなかった.その理由は,IOLMasterTMでは角膜厚測定ができないこと,眼軸長測定が光干渉方式であるのに,前房深度に関してはスリット方式であり,眼測定部位により原理が異なることがあげられる.また,IOLMasterTMの測定光源が半導体レーザーであるのに対し,LS900およびOA-1000の測定光源はスーパールミネッセントダイオードレーザーという違いもあり,IOLMasterTMは除外した.光干渉式眼軸長測定は,非接触で圧迫や感染の心配がなく,短時間で測定でき測定精度や再現性が高いことが利点であるが,症例によっては測定限界がある.視軸上に強い混濁のある症例や固視不良例では測定困難となり,測定不能率が1762あたらしい眼科Vol.28,No.12,20118.15%程度認められる7.9).一方,超音波式測定は測定原理や測定部位が光干渉方式と異なり,検者の測定技術習熟度の差に左右されることが報告されている10).したがって,それぞれの測定原理や特徴を理解し,症例に応じた使い分けや測定技術の習得が重要である.本研究の眼軸長測定の結果は,LS900とOA-1000(Immersion値)および,AL-3000とOA-1000(Contact値)の相関が非常に高く,ばらつきも少なかった.OA-1000では,涙液表面から網膜色素上皮までの実測値を計測するOpticalモードでのOptical値,IOLMasterTMと同様に網膜厚を考慮したImmersion値,超音波Aモードと同じ角膜表面から内境界膜まで計測した値に補正するContact値である3種類の測定値を得ることができる.すなわち,実測値はOptical値,Immersion値,Contact値の順で長く,それぞれ150.300μmの差があると報告されている1).白内障眼に対しOA-1000の測定を行い,IOL計算の精度を検討した報告では,超音波式への眼軸長変換式を作成し用いることにより,従来のメーカー推奨A定数を使用し良好な成績を得ることができたとしている6).本研究においても,OA-1000の変換値は光干渉式であるLS900の値および超音波式であるAL-3000の値と相関し一致しており,Optical値からの変換は適切であり臨床上有用であると考えられる.角膜厚の目的は,角膜内皮細胞層の機能評価,角膜屈折矯正手術の適応評価,眼圧測定の誤差評価などである.高眼圧症では角膜厚が厚く,正常眼圧緑内障では角膜厚が薄いと報告されている11).角膜厚の測定は,原理が異なると測定結果に差異があることは知られている12).超音波式では局所麻酔点眼薬の角膜厚への影響13)があることや,超音波の反射面が角膜前面からDescemet膜の近傍となるため,角膜全層を測定していない可能性がある14).光干渉式では涙液層を含むことがその要因として考えられる.山村ら15)はOA-1000で健常者17例34眼の角膜厚を測定(100) し,超音波式やスリットスキャン式など原理の違う機器と比較検討した結果,約20.30μm有意に小さい値であったとしている.本研究でもOA-1000は低値であったことから,OA-1000で測定した角膜厚は補正が必要であると考えられる.Bland-Altmanplotによる精度比較において,超音波式のAL-3000と光干渉式のLS900とOA-1000との間に比例誤差を生じた.このことは,超音波式は角膜厚が厚く(薄く)なると,光干渉式よりも厚く(薄く)測定される傾向が示唆された.前房深度測定は,前房深度をパラメータとして用いるIOL度数計算式において,狭隅角のスクリーニング法や緑内障病態把握,治療方針決定に用いられている.本研究の前房深度測定の結果,各機種の相関は有意に強かったが,LS900とOA-1000の前房深度には0.12mmの有意な差があり,AL-3000とOA-1000には比例誤差を生じた.石塚ら16)は,白内障症例の42例78眼においてLS900とOA-1000の前房深度測定値には相関はなかったと報告している.OA-1000では,固視誘導を行い水晶体前面のピークを検出する方法であり,視軸や光軸での計測ではないことが要因だと考えられる.今回,水晶体混濁のない若年成人では両機器の相関があったが,白内障眼では相関を示さなかった原因としてつぎのことがあげられる.OA-1000の光干渉波は干渉領域が狭いため,水晶体の膨化や水晶体前面に凹凸などがあると,水晶体前面を垂直に捉えて干渉波ピークを得ることができない.そのため,固視方向や注視方向を2.9°.5.7°ずらすことでピークを捉えやすくなるという特徴があり,その固視誘導に伴う波形の検出にばらつきがあると考えられた.これらのことから,ピークを捉えるために症例によって固視方向や注視方向をずらす程度や方向が違うために,ばらつきが生じると考えられた.水晶体は加齢および調節に伴い厚くなり17,18),白内障の有無で水晶体の厚さに差があることが指摘されている19).眼軸長や前房深度を加味したIOL計算式では,加齢に伴い前房が浅くなり水晶体は厚くなることに対応できないことが予想され,水晶体厚も計算要素に加える必要がある.本研究において,LS900とAL-3000で測定された水晶体厚の差は0.06mmであり,原理や測定軸の違いがあり中程度の相関が得られ,ばらつきがあった.水晶体厚の測定には十分な調節麻痺が望ましいが,本研究では調節麻痺薬の点眼が角膜厚や前房深度に影響を及ぼすことを考慮して無散瞳で行った.眼軸長測定において,調節が水晶体厚および眼軸長に影響20.22)を及ぼした可能性が考えられた.本研究で用いた各眼球生体計測器の表示分解能に違いがある.LS900およびOA-1000の眼軸長,前房深度計測の分解能は0.01mmで,AL-3000では0.1mmである.また,角膜厚計測の分解能において,LS900は1μm,OA-1000は(101)10μm,AL-3000は5μmである.水晶体厚計測の分解能において,LS900は0.01mm,AL-3000は0.1mmである.機器の測定精度の違いが,本研究の結果に影響を及ぼしたことも考えられた.本研究では,LS900とOA-1000の角膜厚および前房深度には有意差があり,AL-3000とOA-1000の角膜厚,LS900とAL-3000の水晶体厚には有意差があった.しかし,角膜厚においてはLS900とAL-3000は5.68μmの差が生じ,前房深度においてはAL-3000とLS900およびOA-1000はそれぞれ0.03mm,0.08mmの差が生じたが有意差はなかった.表示分解能の統一が可能であれば,統計学的結果は異なったかもしれない.測定値の精度や誤差の観点から,その差異が臨床的に重要な意味を有するかは,今後において検討すべき点である.測定にあたっては,眼球生体計測法の原理や特徴を理解し,測定値を比較および評価する必要があり,複数の機器による測定が望ましいと考えられる.各施設において使用機器の傾向の把握をしておく必要がある.文献1)NorrbyS:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalculation.JCataractRefractSurg34:368-376,20082)OlsenT:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalculation.JCataractRefractSurg18:125-129,19923)嶺井利沙子,清水公也,魚里博:IOLMasterTM.眼科手術15:49-51,20024)佐藤彩,須藤史子,島村恵美子ほか:眼内レンズ度数算出における非接触式眼軸長測定装置(IOLマスターTM)の有用性.あたらしい眼科22:505-509,20055)須藤史子:光干渉眼軸長測定装置.眼科手術22:197-202,20096)水島由紀子,川名啓介,須藤史子ほか:新しい光干渉式眼軸長測定装置による眼軸長測定の検討.眼科手術23:453457,20107)佐藤千秋,須藤史子,島村恵美子ほか:IOLMasterTMにおける信頼性係数(SNR)別術後成績.日視会誌34:107113,20058)SutoC,SatoC,ShimamuraEetal:Influenceofthesignal-to-noiseratioontheaccuracyofIOLMastermeasurements.JCataractRefractSurg33:2062-2066,20079)NarvaezJ,CherwekDH,StultingRDetal:Comparingimmersionultrasoundwithpartialcoherenceinterferometryforintraocularlenspowercalculation.OphthalmicSurgLasersImaging39:30-34,200810)島村恵美子,須藤史子,菊池理香ほか:眼内レンズ度数予測のための生体計測の検者別精度.日視会誌32:163-168,200311)CoptRP,ThomasR,MermoudA:Cornealthicknessinocularhypertension,primaryopen-angleglaucoma,andnormaltensionglaucoma.ArchOphthalmol117:14-16,199912)SuzukiS,OshikaT,OkiKetal:Cornealthicknessmeasurements:scanning-slitcornealtopographyandnonconあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111763 tactspecularmicroscopyversusultrasonicpachymetry.JCataractRefractSurg29:1313-1318,200313)NamSM,LeeHK,KimEKetal:Comparisonofcornealthicknessaftertheinstillationoftopicalanesthetics:proparacaineversusoxybuprocaine.Cornea25:51-54,200614)ModisLJr,LangenbucherA,SeitzB:Scanning-slitandspecularmicroscopicpachymetryincomparisonwithultrasonicdeterminationofcornealthickness.Cornea20:711-714,200115)山村陽,稗田牧,足立紘子ほか:新しい光干渉式眼軸長測定装置OA-1000による眼軸長と角膜厚測定.IOL&RS24:425-429,201016)石塚哲也,須藤史子,島村恵美子ほか:白内障眼における光学式眼軸長測定装置の比較.眼科手術23:609-613,201017)幡手昭男,広川博之,小川俊彰ほか:正常眼における水晶体厚年齢・屈折度との関連.あたらしい眼科15:713716,199818)DubbelmanM,VanderHeijdeGL,WeeberHAetal:Changesintheinternalstructureofthehumancrystallinelenswithageandaccommodation.VisionRes43:23632375,200319)柴田崇志,佐々木一之:ヒト水晶体各層の生体計測非白内障眼および後.下白内障眼の検討.日眼会誌90:453-458,198620)DubbelmanM,VanderHeijdeGL,WeeberHA:Changeinshapeoftheaginghumancrystallinelenswithaccommodation.VisionRes45:117-132,200521)前田征宏,市川一夫,中村英樹ほか:ACMasterTMによる調節に伴う角膜厚・前房深度および水晶体厚の変化.IOL&RS20:57-61,200622)AtchisonDA,SmithG:PossibleerrorsindeterminingaxiallengthchangesduringaccommodationwiththeIOLMaster.OptomVisSci81:283-286,2004***1764あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(102)

新しい光干渉式眼軸長測定装置の測定精度と再現性

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)1337《原著》あたらしい眼科28(9):1337?1340,2011cはじめに近年では白内障手術において,眼内から摘出した水晶体に代わる眼内レンズのさまざまな種類の開発および発展がめざましい.それに伴い患者のよりよいqualityofvisionが求められている.白内障手術における眼内レンズ度数予測において眼軸長の測定は必要不可欠であり,眼軸長測定の誤差が術後の屈折値に大きく影響する1).これまで眼軸長の測定にはAモードに代表されるような超音波式眼軸長測定が一般的であった.しかしながら,超音波式の測定は接触式であるために侵襲的であることや,測定誤差が生じることなどが欠点としてあげられており,近年普及している光干渉式の眼軸長測定装置は非接触かつスピーディに測定することができると報告されている2).光干渉式は超音波式に比べ簡便に測定することができるが,中間透光体混濁眼などが強い場合測定ができないことや,網膜?離眼では不正確な測定になってしまうという側面がある3).嶺井ら4)は超音波によるAモードと光干渉を用いたIOLMasterR(CarlZeissMeditec)の眼軸長測定について白内障眼で比較しているが,その結果良好な相関関係を認めている.IOLMaserR同様,光干渉法を用いて眼軸長測定のみではなく角膜曲率半径,前房深度の測定も可能な装置OA-1000(トーメー)が近年発売され注目を集めている.光干渉式眼軸長測定装置OA-1000の特徴は,1)非接触のため眼球圧迫による測定誤差がなく再現性の高い測定が可能,2)接触による感染のリスクがないこと,3)1秒間に10データを連続で取得できる高速測定で,固視困難例でも測定可能で〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻Reprintrequests:HiroshiUozato,Ph.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara252-0373,JAPAN新しい光干渉式眼軸長測定装置の測定精度と再現性中山奈々美*1魚里博*1,2川守田拓志*1,2*1北里大学大学院医療系研究科眼科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻RepeatabilityandMeasurementAccuracyofNewOcularBiometryDeviceUsingOpticalLow-CoherenceInterferometryNanamiNakayama1),HiroshiUozato1,2)andTakushiKawamorita1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience光干渉式眼軸長測定装置は超音波式に比べ,高速で簡便に測定することができ,現在いくつかの機種が使用されている.そこで今回,新しい光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)の測定精度と再現性について比較した.ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用前後の眼軸長の差から推定されるSCL厚みと,メーカー公称値の差から評価された測定精度は約24μmであった.また,再現性については,測定10回の平均標準偏差は10.0μmと良好であり,非侵襲的でもあることから今後の臨床応用に期待できる装置であると考えられた.Inrecentyears,theuseofaxiallength-measuringdevicesemployingopticalinterferencehasbecomewidespread.Devicesusingopticallylow-coherenceinterferometrycanmeasureaxiallengthmoresimplyandathigherspeedthandevicesusingultrasoundbiometry.WeinvestigatedtherepeatabilityandmeasurementaccuracyoftheOA-1000(TOMEY).Resultsshowedthatthemeasurementaccuracyofthedevice,usingopticallylow-coherenceinterferometry,wasabout24micrometers.Inaddition,devicerepeatabilitywas10micrometers.Theseresultssuggestthatthisdevice,usingopticallylow-coherenceinterferometry,providesgoodrepeatabilityandmeasurementaccuracy,aswellasnon-invasivetesting.Itissuggestedthatthisdeviceisclinicallyuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1337?1340,2011〕Keywords:眼軸長,光干渉式,再現性,測定精度.axiallength,opticalinterferometry,repeatability,measuringaccuracy.1338あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(118)あること,4)タッチディスプレイ上で被検眼の瞳孔中心に触れると自動で測定位置に移動・測定開始し,他検者においても高い再現性が得られることがあげられる.過去の報告でもOA-1000とIOLMasterRの測定精度を比較した結果,OA-1000はIOLMasterRと同等の精度であったと報告している5).このようにOA-1000については高い測定精度と再現性が利点としてあげられているものの,詳細にそれらを検討したものは少ない.そこで今回筆者らは,高速測定が可能である新しい光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)の眼軸長測定精度と再現性を調査するため,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用による眼軸長測定の誤差について検討を行った.I方法1.被検者被検者として屈折異常以外に眼科的疾患を認めない健常者18名36眼を用いた.被検者の平均年齢は22.8±2.5歳,平均等価球面度数は?3.67±3.01D(+2.50??6.75D)であった.測定眼は両眼とし,裸眼の場合とSCLワンデーアキュビューR(Johnson&Johnson)装用で測定した.なお,測定に際し,被検者には十分なインフォームド・コンセントを行った.2.測定条件眼軸長の測定には光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)を使用した.測定モードはImmersionモードを採用し,室内環境照度は約400lxの明室下とし,裸眼の場合とSCL装用下の両者で眼軸長の測定を行った.測定精度はSCL装用前後の眼軸長の差から推定されるSCL厚みと,メーカー公称値(0.084mm)の差から評価した.再現性の評価は裸眼測定10回の標準偏差,変動係数(標準偏差/平均×100),10回測定のうちランダムに選んだ2回の95%一致限界(±1.96×SD)で評価した.3.統計解析裸眼とSCL装用時の眼軸長の比較にはWilcoxon検定を用いた.また,両者の相関についてはSpearmanの順位相関係数の検定を行った.II結果裸眼での被検者の眼軸長は25.43±1.28mm,SCL装用後においては25.54±1.28mmとSCL装用前に比べ装用後の眼軸測定で有意な延長が認められ(p<0.01,図1),両者には強い相関関係が認められた(r=0.9997,p<0.01,図2).使用したSCLのメーカー公称厚み84μmとSCL装用前後差から推定されたSCL厚み107.9±32.8μmとの差は23.9±32.8μmであった.再現性については,測定10回の平均標準偏差は10.0μm,平均変動係数は0.04±0.03%であった.また,2回測定から算出された95%一致限界は±23.5μmであった(図3).過去の報告によるIOLMasterR,Aモードとの比較結果を表124.525.025.526.026.527.0裸眼眼軸長SCL装用眼軸長眼軸長(mm)図1眼軸長変化左が裸眼で測定された眼軸長,右はSCL装用での眼軸長を示す.SCL装用で眼軸長は有意に延長した.y=1.0042xr2=0.999323.024.025.026.027.028.029.023.024.025.026.027.028.029.0SCL装用眼軸長(mm)裸眼眼軸長(mm)図2裸眼とSCL装用での相関関係縦軸にSCL装用眼軸長,横軸に裸眼眼軸長,点線は縦軸と横軸1:1を示す.両者には有意な相関が認められた.-0.10-0.08-0.06-0.04-0.020.000.020.040.060.080.1023.024.025.026.027.028.029.02回測定の差(mm)2回測定の平均(mm)図395%一致限界裸眼測定10回のうちランダムに選ばれた2回の95%一致限界.縦軸に差を横軸に平均をプロットしてある.上側限界と下側限界内の領域を灰色で示す.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111339に示す.III考按これまで眼軸長の測定は超音波を用いたものが主流であった.しかしながら,超音波式の眼軸長測定は接触式であるため測定誤差が大きく,また検者の熟練度により測定結果に影響するという欠点があった.過去の報告では,白内障手術で挿入される眼内レンズの度数計算では,眼軸長1mmの測定誤差で2.3Dの屈折誤差になるといわれている1)ため,眼軸長の測定は高い精度が求められてきている.そこで近年,光干渉を用いた眼軸長測定装置が開発された.IOLMasterRに代表される光干渉式眼軸長測定機器は,超音波式に比べて簡便・非接触・高速に眼軸長を測定することができる.IOLMasterRは検者間の再現性が43μmと良好であり,超音波式に比べ検者による誤差が少ない6).IOLMasterRと超音波式Aモードの再現性を比較した報告が過去にいくつかある.標準偏差を指標として比較した結果ではAモード44μm,IOLMasterRで20μmであり,本検討のOA-1000でも10μmの再現性が得られた4).95%一致限界による再現性はAモード,IOLMasterRに比べ本検討が最も再現性がよい結果となった(表1)7,8).同じ光干渉を用いた装置の比較としてLENSTARLS900(HAAG-STREIT)とIOLMasterRの比較9,10)についても報告されており,光干渉式眼軸長測定装置は測定精度や再現性に優れていることがわかる.本検討のようにSCLを用いたIOLMasterRによって測定された眼軸長の再現性の検討をLewisらが行っている11).それによるとSCL装用後に眼軸長は有意な延長(134μm)を示し,標準偏差による再現性は裸眼で約20μmであったと報告されている.OA-1000を用いた本検討もSCL装用前後で眼軸長の測定を行ったが,SCL装用後に眼軸長は有意な延長をし,標準偏差による再現性は裸眼で約10μmであった.同じ光干渉の原理を用い,その他測定範囲(14?40mm)や表示分解能(10μm)は両装置ともに同じ設定ではあるものの,IOLMasterRとOA-1000では光源が異なる.IOLMasterRは波長780nmの半導体レーザーダイオードを用いているのに対し,OA-1000は波長820?850nmのスーパールミネッセントダイオードを使用している.半導体レーザーダイオードを用いた測定法は人体への影響が懸念され,IOLMasterRは各個人に対する一日の測定上限が20回とされているが,スーパールミネッセントダイオードによる測定は人体への影響がないと考えられているため同日の測定条件が設定されていない.このように同じ光干渉式であっても,IOLMasterRとOA-1000には波長など測定原理の違いがある.今回の検討で使用した新しい光干渉式眼軸長測定装置は非侵襲式で安全,簡便,高速に眼軸長の測定が可能であった.本装置の測定精度は約24μm,再現性は約10μmと良好な結果が得られた.このことから新しい光干渉式眼軸長測定装置は今後の臨床応用に期待できる装置であると考えられた.また,今後はさらに白内障眼などにおけるOA-1000の測定精度の検討も期待される.謝辞:稿を終えるにあたり,本研究にご協力いただきました北里大学医療衛生学部進藤真紀殿に感謝いたします.文献1)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:眼内レンズ.西信元嗣編:眼光学の基礎,p57-62,金原出版,19902)HaigisW,LegeB,MillerNetal:ComparisonofimmersionultrasoundbiometryandpartialcoherenceinterferometryforintraocularlenscalculationaccordingtoHaigis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:765-773,20003)深井寛伸,土屋陽子,野田敏雄ほか:光学式眼軸長測定器(IOLマスターTM)の眼軸長測定精度の検討.IOL&RS17:295-298,20034)嶺井利沙子,清水公也,魚里博ほか:レーザー干渉による非接触型眼軸長測定の検討.あたらしい眼科19:121-124,20025)氣田明香,須藤史子,島村恵美子ほか:光学式眼軸長測定装置OA-1000とIOLマスターRの比較.日本視能訓練士協会誌38:227-234,20096)LamAK,ChanR,PangPC:TherepeatabilityandaccuracyofaxiallengthandanteriorchamberdepthmeasurementsfromtheIOLMaster.OphthalmicPhysiolOpt21:477-483,2001表1過去の報告との比較超音波Aモード4,7,8)IOLMasterR4,7,8)OA-1000(本検討)測定時間4)約5分約1分約20秒再現性標準偏差4)44μm(36~67μm)20μm(7~38μm)10μm(0~33μm)再現性95%一致限界7,8)±300μm(成人)±760μm(小児)±90μm(成人)±40μm(小児)±24μm(成人)─過去の報告における被検眼数は文献4),7),8)でそれぞれ12,20,179眼であった.1340あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(120)7)ShengH,BottjerCA,BullimoreMA:OcularcomponentmeasurementusingtheZeissIOLMaster.OptomVisSci81:27-34,20048)CarkeetA,SawSM,GazaardGetal:RepeatabilityofIOLMasterbiometryinchildren.OptomVisSci81:829-834,20049)BuckhurstPJ,WolffsohnJS,ShahSetal:Anewopticallowcoherencereflectometrydeviceforocularbiometryincataractpatients.BrJOphthalmol93:949-953,201010)RohrerK,FruehBE,WaltiRetal:Comparisonandevaluationofocularbiometryusinganewnoncontactopticallow-coherencereflectometer.Ophthalmology116:2087-2092,200911)LewisJR,KnellingerAE,MahmoudAMetal:Effectofsoftcontactlensesonopticalmeasurementsofaxiallengthandkeratometryforbiometryineyeswithcornealirregularities.InvestOphthalmolVisSci49:3371-3378,2008***