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原発性Sjögren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):395.398,2018c原発性Sjogren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例上月直之小川葉子山根みお内野美樹西條裕美子坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CACaseofPrimarySjogren’sSyndromewithOcularCicatricialPemphigoid-likeCicatrizingConjunctivitisNaoyukiKozuki,YokoOgawa,MioYamane,MikiUchino,YumikoSaijoandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineSjogren症候群(SS)は涙腺・唾液腺のリンパ球浸潤を特徴としドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である.筆者らは,長期加療をしているCSSに眼類天疱瘡(OCP)様の高度な結膜線維化を併発しているまれなC1例を経験したので報告する.症例はC81歳,女性.49歳時に原発性CSSの診断を受けた.診断時より甲状腺機能低下症を認めた.55歳当科受診時,SSに特徴的な角膜所見に加え,瞼球癒着,眼瞼結膜線維化,広範囲な睫毛乱生症を認め,繰り返し睫毛抜去術を必要とした.レーザー共焦点顕微鏡像は角膜上皮下神経の吻合,枝分かれの異常形態を認め,SSとCOCPに認められる所見を呈していた.SS症例に結膜線維化が合併することはまれであり,本症例は慢性甲状腺炎による異常な免疫応答を契機として,OCP様の高度な結膜線維化所見を併発した可能性が考えられた.Sjogren’ssyndrome(SS)ischaracterizedbydryeyeanddrymouthwithlymphocyticin.ltrationintolacrimalglandsCandCsalivaryCglands.CCicatricialCchangesConCtheCocularCsurfaceCrarelyCoccurCinCSSCpatients.CWeCreportCtheCrarecaseofan81-year-oldfemaleSSpatientwithcicatricialchangesontheocularsurface.Shehadsu.eredfromchronicthyroiditisatthediagnosisofSSin1985.Clinical.ndingsoftheocularsurfaceandteardynamicsrevealeddryeyediseaseaccompaniedbysymblepharon,severetarsalconjunctival.brosisandextensivetrichiasisinbotheyes.InvivoCconfocalimagesrevealedabnormalanastomosisofnervevessels,tortuosity,branchesandanincreaseinthenumberofsubbasalin.ammatorycellsinthecornea,similartoocularcicatricialpemphigoidandSSimages.Conclusion:OurcasesuggestedthatpatientswithSSaccompaniedbyautoimmunethyroiditismaydevelopseveredryeyediseasewithcicatrizingconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):395.398,C2018〕Keywords:シェーグレン症候群,眼類天疱瘡,ドライアイ,慢性甲状腺炎,結膜線維化.Sjogren’ssyndrome,oc-ularcicatricialpemphigoid,dryeyedisease,chronicthyroiditis,cicatrizingconjunctivitis.CはじめにSjogren症候群(SjogrenC’sCsyndrome:SS)は,涙腺と唾液腺にリンパ球浸潤が生じ,ドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である1).好発年齢は中高年であり,男女比はC1:17と女性に圧倒的に多い2).SSの病態には多因子が関与すると考えられ,これまでに遺伝的素因,Epstein-Barr(EB)ウイルスなどの微生物感染,環境要因,免疫異常による組織障害の原因が考えられている3).全身的に他の膠原病の合併症のない原発性CSSと,全身性エリテマトーデス,強皮症,関節リウマチなどを合併する二次性CSSに分類される.原発性CSSは涙腺唾液腺内に病変がとどまる腺症状と,それ以外の臓器に病変が認められる腺外症状がある.典型的なCSSでは通常,高度な結膜線維化はきたさない点で他の重症ドライアイの亜型である眼類天疱瘡(ocularcica-tricialCpemphigoid:OCP),Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病と臨床像の違いがある4).OCPは中高年に好発する粘膜上皮基底膜に対する自己抗体による慢性炎症性眼疾患である.眼表面の線維化が慢性的に進行することにより,瞼球癒着,結膜.短縮などをきたし〔別刷請求先〕上月直之:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:NaoyukiKozuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN重症ドライアイをきたす.角膜輪部疲弊により角膜への結膜侵入と結膜杯細胞の減少または消失を認める.手術や感染の際に急性増悪することもある5).今回,筆者らは,SSによる重症ドライアイ症例の眼表面にCOCP様の結膜線維化所見を呈したまれなC1例を経験したので報告する.CI症例症例はC81歳,女性.1985年C49歳時に原発性CSSを発症した.既往歴として高血圧,骨粗鬆症,慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症を認めた.当科初診よりC1年前には手,胸部,首周囲の皮膚に湿疹が出現したことがあるが内服はしていなかった.SSによるドライアイ,ドライマウスに対し当科と内科にて通院,加療を行うためC1989年に当科受診となった.初診時眼所見はCSchirmer値C5Cmm/5Cmin,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点,フルオレセイン染色スコアC9点中C3点,左眼に糸状角膜炎を認めた.SSによるドライアイにはまれな結膜線維化,瞼球癒着,広範囲な睫毛乱生症を認め,OCPに類似した所見を認めた(図1).口唇生検C1Cfocus/C4Cmm2であり,耳下腺腫脹を認めた.経過観察中の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中C7点からC9点,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点からC8点,涙液層破壊時間(tear.lmbreakuptime:TFBUT)8秒からC2秒に悪化を認め,ドライアイに進行性の悪化を認めた.1991年C7月に反射性涙液分泌,基礎的涙液分泌ともにC0Cmmとなり眼表面障害の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中8点,ローズベンガル染色スコアC9点中C9点,涙液動態の所見は,BUTC2秒,反射性涙液分泌C0Cmmとなり重症化を認めた.2017年C6月自覚症状のCocularCsurfaceCdiseaseCindex(OSDI)はC40.9ポイント,IgGは常にC1,500以上と高値を推移して現在に至っている.SS重症度について,ヨーロッパリウマチ学会の疾患活動性基準であるCEULARCSjogrenC’sSyndromeDiseaseActivitiyIndex(ESSDAI)はC5点以上で活動性が高いとする.本症例はリンパ節腫脹,腺症状,関節症状,生物学的所見よりCESSDAIはC9点であった.採血結果として補体CC3はC84Cmg/dl,補体CC4はC17Cmg/dlで正常範囲内,抗CANA抗体C640倍,リウマチ因子C23CIU/ml,抗SSA抗体C1,200CU/ml,抗CSSB抗体C100CU/mlと高値,IgGはC1,700Cmg/dlを超えることもあり高値を示した.IgGサブクラスのCIgG4はC41Cmg/dlと正常範囲内であった.抗セントロメア抗体はC13であった.甲状腺機能低下症に対し,レ図1結膜線維化を伴う原発性Sjogren症候群によるドライアイ症例の眼瞼所見a,b:眼瞼内反症による粘膜皮膚移行部の前方移動.結膜.短縮(Ca:★).マイボーム腺開口部の位置異常(b:△).Marxlineの著明な前方移動.Cc,d:上眼瞼結膜の線維化(Cc:.).下眼瞼の瞼球癒着(Cd).Cabc図2本症例のレーザー共焦点顕微鏡角膜所見(原発性Sjogren症候群と慢性甲状腺炎の罹病期間32年)Ca,b:側副路吻合形成(Ca:☆)角膜神経の異常走行,枝分かれ(Cb:△)を認める.Cc:ごく少数のリンパ球(Cc:.)および樹状細胞様細胞(Cc:▲)を認める.Cボチロキシンナトリウムを内服中であり,遊離CT3はC3.0Cpg/ml,遊離CT4はC1.5Cng/dl,甲状腺刺激ホルモンC2.61CμIU/mlと正常範囲内であった.これまでに報告されているCSSおよびCOCPの角膜所見と類似するか否かを確認するため,生体共焦点レーザー顕微鏡検査(inCvivoCconfocalCmicroscopyCassessment:IVCM)を行った(倫理委員会承認番号C20130013).両眼ともに,角膜神経の走行異常,神経分岐の異常,側副路の形成とごく少数の炎症細胞と樹状細胞の角膜内浸潤を認めた(図2).IVCM施行時,フルオレセイン染色スコアC2点,リサミングリーン染色スコアC0点,BUT2秒,マイボーム腺スコアC63点,軽度の充血を認め,Schirmer値C3Cmmであった.投与点眼薬はラタノプロスト点眼(1回/日両眼)およびC0.1%ヒアルロン酸点眼(5回/日両眼)であるが,視野に異常がなくラタノプロスト投与は中止となった.CII考按一般的にCOCP症例では抗CSSA抗体,抗CSSB抗体は陰性であるが,本症例は抗CSSA抗体陽性,抗CSSB抗体陽性,リウマチ因子陰性,抗CANA抗体C640倍であり,眼所見CSchirm-er値,フルオレセイン染色像とあわせて,1999年厚生省改訂CSSの診断基準によりCSSの確定診断に至っている2).OCPの結膜瘢痕化は手術や感染症を契機として急性憎悪することがあるとされる.本症例はCSSの診断後,当院へ受診するC1年前に,内服とは関係なく手,胸部,首の皮膚に湿疹が出現したことがある.本症例は慢性甲状腺炎が基礎疾患にあり,甲状腺機能低下症が存在した.結膜線維化の原因として,湿疹の原因となった何らかの感染症,または慢性甲状腺炎としての甲状腺機能低下による免疫応答異常の要因が重なり,OCP類似の結膜線維化に至った可能性がある.甲状腺機能低下と他の臓器の線維化に関する報告では,肝臓の線維化との関連が示唆されている7).また,甲状腺機能低下症を伴う場合,特発性肺線維症を合併する頻度が高いことが報告され,甲状腺機能低下が肺線維症の予後予測因子とされている8).甲状腺機能低下と臓器線維化に関連性が示唆され,本症例の結膜線維化,高度な瞼球癒着と広範囲な睫毛乱生症に至った可能性がある.本症例はC2016年より緑内障初期の疑いがあり,一時,ラタノプロスト点眼薬を使用していたが,諸検査後,緑内障は否定的で点眼を中止していること,結膜線維化は診断当時から存在していたことから,緑内障点眼薬による偽類天疱瘡は否定的である.肺癌に対する放射線治療に関しても,治療以前にCOCP様の所見が出現していたことから,放射線治療は原因として否定的である.近年,新しい疾患概念としてCIgG4関連疾患が報告されているが,その一亜型として甲状腺機能低下症が注目されている.甲状腺CIgG4関連疾患には高度の炎症と特徴的な線維化が生じることが報告されている9).本症例では最近の血清IgG値が高値であるが,IgG4値は正常であり,IgG4関連疾患は否定的と思われる.本症例の角膜,輪部のCIVCMについて検討した.SSでは発症初期より角膜の神経に変化を認め,SSの診断として有用であることが報告されている.OCPのCIVCMについては,Longらにより角膜実質細胞の活性化と樹状細胞の浸潤が報告されている10).また,小澤らは,OCP患者の角膜神経およびその周辺領域の所見についてC2症例の報告をし,IVCM角膜神経所見では走行異常と神経周囲への樹状様細胞浸潤を認め,慢性炎症により神経形態に変化をきたすこと,神経周囲にも炎症があることを報告している11).本症例においても角膜神経の走行異常と神経細胞数の増加,および異常な神経の吻合を多数認め,IVCM像からもCSSとCOCPに報告されている特徴的所見を併せもっていた.結膜瘢痕化の所見はCOCPに類似しているが,確定診断には結膜生検を行い,基底膜への免疫グロブリンの沈着を確認する必要がある.本症例においては,SSと慢性甲状腺炎の併発がCOCP様の高度な結膜線維化所見の原因の一つとして考えられる.本症例では,SSと慢性甲状腺炎が併発したことにより,背景にある自己免疫疾患としての異常な免疫応答の修復機構が働き,OCPに認められるような免疫性線維化をきたしたことが考えられた.SS症例の診療に際し,病像は長期にわたるため重症化に常に注意を払うこと,また他の疾患を併発することにより典型像と異なる所見を呈する場合があることを念頭におく必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarauxA,PersJO,Devauchelle-PensecV:TreatmentofprimarySjogrensyndrome.NatRevRheumatolC12:456-471,C20162)TsuboiCH,CHagiwaraCS,CAsashimaCHCetCal:ComparisonCofCperformanceofthe2016ACR-EULARclassi.cationcrite-riaforprimarySjogren’ssyndromewithothersetsofcri-teriaCinCJapaneseCpatients.CAnnCRheumCDisC76:1980-1985,C20173)FoxRI:Sjogren’ssyndrome.LancetC366:321-331,C20054)BronAJ,dePaivaCS,ChauhanSKetal:TFOSDEWSIIpathophysiologyreport.OculSurfC15:438-510,C20175)AhmedCM,CZeinCG,CKhawajaCFCetCal:OcularCcicatricialpemphigoid:pathogenesis,CdiagnosisCandCtreatment.CProgCRetinEyeResC23:579-592,C20046)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gyC105:1485-1488,C19987)KimD,KimW,JooSKetal:Subclinicalhypothyroidismandlow-normalthyroidfunctionareassociatedwithnon-alcoholicCsteatohepatitisCandC.brosis.CClinCGastroenterolCHepatolC16:123-131,C20188)OldhamCJM,CKumarCD,CLeeCCCetCal:ThyroidCdiseaseCisCprevalentandpredictssurvivalinpatientswithidiopathicpulmonary.brosis.ChestC148:692-700,C20159)RaessCPW,CHabashiCA,CElCRassiCetCal:OverlappingCMor-phologicandImmunohistochemicalFeaturesofHashimotoThyroiditisCandCIgG4-RelatedCThyroidCDisease.CEndocrCPatholC26:170-177,C201510)LongCQ,CZuoCYG,CYangCXCetCal:ClinicalCfeaturesCandCinvivoCconfocalCmicroscopyCassessmentCinC12CpatientsCwithCocularCcicatricialCpemphigoid.CIntCJCOphthalmolC9:730-737,C201611)小澤信博,小川葉子,西條裕美子ほか:眼類天疱瘡C2症例における角膜神経の病的変化生体レーザー共焦点顕微鏡による観察.あたらしい眼科C34:560-562,C2017***

眼類天疱瘡の急性期臨床所見としての膜様物質とそのムチン発現

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(119)119《原著》あたらしい眼科28(1):119.122,2011cはじめに眼類天疱瘡(ocularcicatricialpemphigoid:OCP)はII型アレルギー反応により角結膜上皮の瘢痕化をきたす疾患で,粘膜上皮基底膜に対する自己抗体産生によるとされている1~3).一般的にOCPの診断は,臨床経過,結膜生検による免疫学的,組織学的診断をもってなされる4~6).臨床所見としては,後期には瞼球癒着,涙点閉鎖,瘢痕期においては杯細胞の消失によるドライアイがよく知られている1,2).しかし,慢性に経過することも多く,急性増悪期には充血や上皮欠損といった非特徴的なものが主体であり,診断がつきにくいこともある1,3).今回,ミドリンPR点眼液の頻回点眼を契機に急性増悪し,膜様物の出現という特徴的な臨床所見が〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,M.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincyo,Kumamoto860-0027,JAPAN眼類天疱瘡の急性期臨床所見としての膜様物質とそのムチン発現横山真介*1佐々木香る*1齋藤禎子*2堀裕一*3渡辺仁*4出田隆一*1*1出田眼科病院*2大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座*3東邦大学佐倉病院眼科*4関西労災病院眼科MembranousMaterialandItsMucinExpressionasClinicalSignofAcuteProgressioninOcularCicatricialPemphigoidShinsukeYokoyama1),KaoruAraki-Sasaki1),TeikoSaitoh2),YuichiHori3),HitoshiWatanabe4)andRyuichiIdeta1)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityMedicalSchool,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,4)DepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospital目的:眼類天疱瘡(ocularcicatricalpemphigoid:OCP)の急性期臨床所見について興味ある知見を得たので報告する.症例:85歳,女性.両眼軽度の角膜白斑および瞼球癒着を認めていた.白内障の進行に伴い,自己判断にてミドリンPR点眼液の頻回投与を行ったところ,毛様充血と広範囲の角膜上皮欠損が出現した.瞼球癒着が進行するため,OCPの急性悪化と判断し,現行点眼の中止とともに,ステロイドの全身,局所投与を開始した.翌日,9時方向輪部から泡状粘性物質が生じ,膜状に角膜欠損部全面を覆った.羊膜被覆を施行したところ,羊膜上にも泡状膜様物質が広がった.この膜様物質は蛍光抗体法にてMucin-5AC(MUC5AC)陽性,Mucin-16(MUC16)陰性であった.さらにシクロスポリン内服,点眼を追加し,1.5カ月後に完全な消炎を得て羊膜を外すと,泡状膜様物質の発生部位(9時方向輪部)で強い羊膜の癒着を認めた.その後,角結膜上皮欠損と瞼球癒着の再燃に対し羊膜被覆を2回施行して消炎を得た.考按:OCP急性増悪時の急性期臨床所見として,角膜上皮欠損に続くMUC5AC発現を伴う泡状膜様物質を提案する.Case:An85-year-oldfemalesufferedfrommildfornixshortening.Toresolveblurredvisionresultingfromcataract,sheelectedtousetropicamideeyedrops.Largecornealerosionwithciliaryinjectionthenoccurredinherrighteye.Underadiagnosisofocularcicatricialpemphigoid(OCP)progression,alleyedropswerestoppedandsteroidwasapplied,orallyandfocally.Thefollowingday,foamingmucousmaterialwasproducedfromthelimbusat9o’clockthatcoveredtheentirecornealerosionlikeasheetofmembrane.Thismembranousmaterial,immunohistochemicallyshowntobeMUC5AC-positiveandMUC16-negative,alsospreadoverthetransplantedamnioticmembrane.Additionalcyclosporinesettledtheinflammationin1.5months.Thetransplantedamnioticmembraneattachedtightlytothelimbusat9o’clock.Conclusion:Weproposethatcornealerosionwithfoamingmucousmembranousmaterial,withMUC5ACproduction,isaclinicalsignofacuteprogressioninOCP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):119.122,2011〕Keywords:眼類天疱瘡,ムチン,MUC-5AC,ドライアイ,羊膜.ocularcicatrialpemphigoid,mucin,MUC-5AC,dryeye,amnioticmembrane.120あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(120)みられたOCPの1例を経験したので報告する.I症例患者は85歳,女性.眼既往として両眼の陳旧性角膜実質炎,両眼の人工無水晶体眼および高度近視による網脈絡膜萎縮があり近医にて経過観察をしていた.視力の改善目的に自己判断で散瞳剤(ミドリンPR点眼液)を頻回に点眼したところ,右眼の充血,疼痛が生じ出田眼科病院を受診した.2007年11月6日初診時,右眼の6時から12時方向にかけて,耳側輪部および結膜を含む広い範囲の角結膜上皮欠損,高度の結膜充血,瞼球癒着を認めた(図1a,b).僚眼には軽度の瞼球癒着を認めた.視力はVD=眼前手動弁(矯正不能),VS=0.01(矯正不能),眼圧は非接触型にて測定不能であった.眼底は両眼網脈絡膜萎縮を認めた.なお,全身的には高血圧を認めるものの,口腔内および皮膚所見は認められなかった.初診時所見から自己免疫疾患を疑い,プレドニゾロン眼軟膏,オフロキサシン眼軟膏それぞれ1日4回,プレドニゾロン20mg内服を開始した.11月9日には6時から12時方向の輪部を含む上皮欠損の拡大と瞼球癒着の進行を認めたため,OCPの急性増悪と判断し,内服治療継続のうえ,点眼治療(リン酸ベタメタゾン,レボフロキサシン,シクロスポリン点眼各1日5回)に変更した.11月13日,広範の上皮欠損を覆うように,9時方向輪部から泡状粘性物質が出現し(図1c),その後,上皮欠損を覆うように角膜全体へと広がった.泡状粘性物質は一塊として採取可能であった.さらに輪部を含む角膜上皮欠損を覆うように上皮面を上にして保存羊膜被覆を施行したところ,移植した羊膜上にも泡状膜様物質が出現し(図1d),採取,組織解析を施行した.採取時に泡状膜様物質が眼瞼結膜を架橋する形で癒着が生じていることが確認された.高度の炎症に伴う瞼球癒着が進行するためプレドニゾロン内服を30mgに増量し,11月23日よりシクロスポリン10mg内服も加えて投与した.羊膜下の状況把握,視認性向上を目的に,羊膜被覆の中央部を開窓した.羊膜下組織の採取,観察にて羊膜下に上皮細胞を確認できたため,12月21日に一旦羊膜を除去した.泡状膜様物質が最初に出現した耳側輪部は羊膜と羊膜下組織に強い癒着が生じており,除去が困難であったため残存した(図1e).その後もステロイド点眼,内服を継続して行ったにもかかわらず,12月25日には耳側結膜と輪部および角膜中央部に孤立性に再び大きな上皮欠損が出現した.羊膜被覆の再施行,脱落,再燃,再々施行をくり返した後,徐々に消炎した.以降,再燃時には増悪期にみられた泡状膜様物質の出現は認められなかった.3回目の羊膜被覆が3カ月持続して自adbec図1泡状膜様物質発症前後の前眼部所見a:眼類天疱瘡急性増悪時の前眼部所見.高度の結膜充血と広範囲の角結膜上皮欠損,円蓋部短縮(矢印)を認める.b:眼類天疱瘡急性増悪時のフルオレセイン所見.輪部を含む広範囲の角結膜上皮欠損を認める.c:泡状膜様物質発生時の前眼部所見.泡状粘性物質が耳側輪部から出現し,その後上皮欠損を覆うように拡がった.d:羊膜被覆上に発症した泡状膜様物質所見.羊膜被覆上にも泡状膜様物質が出現した.e:羊膜被覆除去時の前眼部所見.泡状膜様物質が発生した耳側輪部(矢印)で羊膜が強い癒着を認め,解離困難であった.(121)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011121然脱落した後は,高度の血管侵入,瞼球癒着と角膜耳側輪部の角化様所見を残し,鎮静化した.II泡状膜様物質の組織解析羊膜被覆時に採取された泡状膜様物質をホルマリン固定して,薄切切片を作製し,ヘマトキシリン染色および抗ムチン抗体(MUC5AC:791抗体,MUC16:CA125,DACO社)を用いた免疫染色を施行した7,8).HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色では滲出物と思われる無構造均一な組織と少量の好中球を認めた.また,免疫染色法によるムチン解析では,無構造均一組織の表層がMUC5AC陽性,MUC16陰性であった(図2a,b,c).III考按OCPの急性増悪像についての詳細な記載は,筆者らの知る限り少ない.その理由として,眼類天疱瘡は充血,流涙,灼熱感,視力低下,異物感を訴えて受診することが多く,急性期においては結膜炎と診断されやすいことがあげられる.したがって,後期あるいは瘢痕期の臨床像が多く報告されている1~3,6).今回,OCPの急性増悪期に角膜結膜上皮欠損と同時に粘性をもつ泡状膜様物質の出現を認めた.①除去したにもかかわらず,膜様物質が羊膜被覆後にも出現したこと,②田ら9)がOCPの初期に偽膜様粘性眼脂が出現すると指摘していること,③他施設における同様の症例(図3:NTT九州病院松本光希先生のご厚意による)においても,注意深く観察すると泡状膜様物質の出現を認めることの3点から角膜上皮欠損と泡状膜様物質の出現がOCPの急性期所見として特徴的である可能性が示唆された.OCPのごく初期に角膜上皮欠損が先行することはSgrullettaらにより2007年に報告されているとおりである10)が,角膜上皮欠損だけでは非特異的であり,今回観察された泡状膜様物質出現を伴うことがより診断の補助につながるのではないかと考えた.眼表面および涙腺に存在するムチンとしてはMUC1,MUC4,MUC16,MUC5ACが知られている11,12).このうち,MUC5ACは杯細胞から分泌されるムチンであり,ゲル化作用をもつとされる.今回観察された泡状膜様物質は,線維素と思われる均一組織の表層にゲル化作用のあるMUC5AC陽性であった.術中所見として瞼結膜との間に架橋がみられたことや,泡状膜様物質の最初の発生部位である輪部で羊膜の強い癒着が生じたことなどから,この物質がOCPにおける瞼球癒着の形成にかかわっている可能性も推察される.さらに,Souchierらは緑内障治療薬点眼中の患者にMUC5ACの発現上昇を認めると指摘し,特に塩化ベンザルコニウム添加製剤において発現率が高く,ブレブの線維化をきたすことで濾過手術成功率に影響を与えうるとしている13).このような知見からもMUC5ACの発現は,OCPにおける急性増悪期の病態において何らかの関与を示すものと思われる.その発生意義については,不明であるが,急性の広範囲の上皮欠損直後に出現したことから,炎症に伴う線維素組織の析出と同時に何らかの代償的機構により杯細胞の活動が亢進した可abc図2泡状膜様物質の組織学的解析a:HE染色.無構造均一な組織と少量の好中球を認める.Bar:200μm.b:抗MUC5AC抗体,c:抗MUC16抗体による免疫染色.無構造均一の組織の表層はMUC5AC陽性であり,MUC16陰性であった.Bar:50μm.図382歳,女性:眼類天疱瘡矢印の部分に泡状粘性物質を認める.(NTT九州病院松本光希先生ご提供)122あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(122)能性あるいは杯細胞の破壊に伴う一過性の亢進などが推測される.本症例の2回目以降の再燃時には,この泡状膜様物質の出現は認めなかった.ステロイドがすでに投与されていたため,あるいは杯細胞を含む産生物質の枯渇などが推測される.OCPの確定診断は,basementmembranezone(BMZ)への免疫グロブリンの沈着を証明することである4~6).ただし,OCP患者の結膜生検サンプルからBMZへの免疫グロブリン沈着が観察される頻度は20.67%とされ4),BMZに免疫グロブリンの沈着が認められないことがOCPを除外する根拠とはならない.本症例は,BMZへの免疫グロブリン沈着を確認しておらず,鑑別疾患として偽類天疱瘡や薬剤毒性,輪部疲弊症なども否定できない.特に眼類天疱瘡と薬剤性偽眼類天疱瘡とは,薬剤使用の有無以外は本質的に同じ病態であり,両者とも免疫反応に起因するという考え方が支配的であり,本症例においては鑑別がむずかしい.ただ本症例では,1)元来,両眼に軽度の瞼球癒着を認めていたこと,2)薬剤性偽眼類天疱瘡で最も多くみられる原因薬剤である緑内障治療薬やアミノグリコシド系抗菌薬などの使用歴がないこと,3)薬剤(散瞳剤点眼)が契機とはなっているが,この点眼中止ののち,ステロイド減量中にも再燃したこと,4)さらに再燃した際,角膜上皮欠損と結膜上皮欠損が比較的大きな範囲で孤立して不整な円形で生じ,臨床的に明らかに薬剤毒性や輪部疲弊とは異なる所見を呈したこと,5)経過中,継続的に瞼球癒着が進行したことから,薬剤性偽眼類天疱瘡の病態も含めて,薬剤が契機となった眼類天疱瘡と判断した.角膜上皮欠損に伴うMUC5AC陽性泡状膜様物質の出現は,OCPの急性期に関わる臨床所見と思われた.文献1)FosterCS,AhmedAR:Intravenousimmunoglobulintherapyforocularcicatricialpemphigoid:apreliminarystudy.Ophthalmology106:2136-2143,19992)MondinoBJ,BrownSI:Ocularcicatricialpemphigoid.Ophthalmology88:95-100,19813)GazalaJR:Ocularpemphigus.AmJOphthalmol48:355-362,19594)BeanSF,FureyN,WestCEetal:Ocularcicatricialpemphigoidimmunologicstudies.TransSectOphthalmolAmAcadOphthalmolOtolaryngol81:806-812,19765)LeonardJN,HobdayCM,HaffendenGP:Immunofluorescentstudiesinocularcicatricialpemphigoid.BrJOphthalmol118:209-217,19886)AhmedM,ZeinG,KhawajaFetal:Ocularcicatricialpemphigoid:pathogenesis,diagnosisandtreatment.ProgrRetinEyeRes23:579-592,20047)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogren’ssyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20028)HoriY,Spurr-MichaudS,RussoCetal:Differentialregulationofmembrane-associatedmucinsinthehumanocularsurfaceepithelium.InvestOphthalmolVisSci45:114-122,20049)田聖花,島.潤:眼類天疱瘡.眼科プラクティス18巻,前眼部アトラス(大鹿哲郎編),p59-60,文光堂,200710)SgrullettaR,LambiaseA,MiceraAetal:Cornealulcerasanatypicalpresentationofocularcicatricialpemphigoid.EurJOphthalmol17:121-123,200711)GipsonIK:Distributionofmucinsattheocularsurface.ExpEyeRes78:379-388,200412)GipsonIK,Spurr-MichaudS,ArguesoP:Roleofmucinsinthefunctionofthecornealandconjunctivalepithelia.IntRevCyt231:1-49,200313)SouchierM,BurnN,LafontainePOetal:Trefoilfactorfamily1,MUC5ACandhumanleucocyteantigen-DRexpressionbyconjunctivalcellsinpatientswithglaucomatreatedwithchronicdrugs:couldthesemarkerspredictthesuccessofglaucomasurgery?BrJOphthalmol90:1366-1369,2006***