《原著》あたらしい眼科32(10):1483.1486,2015c屈折型多焦点眼内レンズ挿入後の加齢性縮瞳に対するレーザー瞳孔形成術藤本可芳子本田恭子和田有子入江智美高橋愛森山貴司フジモト眼科LaserIridoplastyforAge-relatedPupilConstrictionafterRefractiveMultifocalIntraocularLensImplantationKahokoFujimoto,KyokoHonda,YukoRWada,TomomiIrie,AiTakahashiandTakashiMoriyamaFujimotoEyeClinic目的:屈折型多焦点眼内レンズ(IOL)挿入後,加齢性縮瞳により術後裸眼近方視力が低下した症例にレーザー瞳孔形成術を行い,その有効性を検討した.対象および方法:対象は,屈折型多焦点IOL(SA40NおよびNXG1,AMO)挿入術後,裸眼近方視力が低下した10例13眼(平均年齢:59.8±7.0歳,術後経過月数:59.8±7.0カ月).鼻側,鼻下側,下側の虹彩縁にアルゴンレーザーとND:YAGレーザーで約0.5.1.5mmの切開拡大を行った.遠視下と近視下の瞳孔径変化は,開放型オートレフラクトメータを用いて測定した.結果:遠視下と近視下の平均瞳孔径はいずれも有意に拡大した(p<0.01).裸眼遠方視力は変化がなかったが,裸眼近方視力は0.29から0.53に有意に改善した(p<0.035).結論:屈折型多焦点IOL挿入後の加齢性縮瞳による視裸近方眼視力低下症例に対し,レーザー瞳孔形成術は有効と考えられた.Ineyesthathadreceivedzonal-progressiverefractivemultifocalintraocularlenses(MF-IOLs),theefficacyoflaseriridoplastyindecreasinguncorrectednearvisualacuity(UNVA)duetoage-relatedpupilconstrictionwasinvestigated.MF-IOLs(SA40NandNXG1,AMO)wereimplantedin13eyesof11patients;laseriridoplastyusingargonandYAGlaserswassubsequentlyperformed.Pupildiametersfornearanddistancevisionsweremeasuredbinocularlyusinganopen-fieldautorefractor.Meanpostoperativepupildiameterexpandedforbothdistanceandnearvisions(p<0.01),resultinginsignificantimprovementinUNVA(p<0.035).LaseriridoplastyeffectivelyrestoreddecreasesinUNVAduetoage-relatedpupilconstriction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1483.1486,2015〕Keywords:屈折型多焦点眼内レンズ,瞳孔径,加齢性縮瞳,輻湊.refractivemultifocalintraocularlens,pupildiameter,age-relatedconstriction,convergence.はじめに屈折型多焦点眼内レンズ(multifocalintraocularlens:MF-IOL)SA40NおよびNXG1(AbbotMedicalOptics)は,同心円状に屈折の異なるゾーンを有し,遠方視と近方視が得られる1,2).2.1mm径以下の中心部は遠方視ゾーン,その周りの3.4mmあるいは3.45mm径までのゾーンは近方視ゾーンである(図1)ため,近見視下瞳孔径はおよそ3.0mm以上必要である3,4).MF-IOL挿入時は近方視下の瞳孔径が十分であっても,加齢により縮瞳するため5),挿入眼の近方視力が低下することがある6).瞳孔径は散瞳点眼によって拡大可能であるが,瞳孔径のコントロールはむずかしく,羞明や遠方視力低下という欠点がある.手術による瞳孔拡大術はあるが,その効果は検討されていない.本研究は,屈折型MFIOL挿入後に縮瞳により近方視力が低下した症例に,レーザー瞳孔形成術を行い,その効果を後ろ向きに検討した.I対象および方法対象は,屈折型MF-IOL挿入後,縮瞳により近方視力の〔別刷請求先〕藤本可芳子:〒530-0041大阪市北区天神橋6-6-4フジモト眼科Reprintrequests:KahokoFujimoto,M.D.,FujimotoEyeClinic,6-6-4Tenjinbashi,Kita-ku,Osaka530-0041,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(111)1483低下したため,2010年6月.2013年9月にフジモト眼科でレーザー瞳孔形成術を行った11例13眼(男性5名,女性6名)である.MF-IOL挿入前に暗所瞳孔径をColvard瞳孔計(Oasis,Glendora,CA)で測定し,4.0mm以上あることを確認した.全例,約5.6mm径の前.切開後に,MF-IOLSA40NおよびNXG1を.内に挿入した.術後合併症はなかった.術後経過観察時に近方視力が低下した症例に対し,開放型オートレフラクトメータWAM-5500(GrandSeiko)を用いて,両眼での遠方視下および近方(40cm)視下における瞳孔径を測定した7).Nd:YAGレーザーによる後.切開術後や,近方視下の瞳孔径が2.8mm未満により縮瞳による視力低下と判断された症例に対し,レーザー瞳孔形成術を行った.点眼麻酔後,コンタクトレンズ装用し,アルゴンレーザーとNd:YAGレーザーを用いて,瞳孔縁に切開を行った8).瞳孔中心は,近方視下では輻湊と縮瞳により鼻側に偏位する9,10).瞳孔が鼻側に偏位しても,瞳孔径内にMF-IOLの近方視ゾーンが十分入っていないと,近方視力は得られない.よって,鼻側,鼻下側,下側の虹彩縁にレーザーによる切開を行った.まず,アルゴンレーザー(Ultima2000,Coher図1屈折型多焦点眼内レンズの屈折ゾーン(NXG1)ent)をスポット径500μm,照射時間0.2秒,エネルギー200mJで,3カ所にスポット照射を同位置に2回行った.その後,アルコンレーザーを照射した部位に,瞳孔縁から虹彩周辺に向けて0.6.2.5mJのNd:YAGレーザー(Selecta,Lumenis)を照射した.照射時は,瞳孔径が3.5mmぐらいとなり,瞳孔内にMF-IOLの近方視ゾーンが十分露見するまで慎重に切開した(図2).3カ所の切開がお互いに接近すると瞳孔領が過分に拡大する危険性があるため,両レーザーの照射において照射位置には十分注意した.術後1週間,ステロイド(0.1%フルオロメトロン)点眼を行った.視力と瞳孔径を,瞳孔形成術前,術後1週,1カ月に検査した.遠方裸眼視力(uncorrecteddistantvisualacuity:UDVA)と矯正視力(correcteddistantvisualacuity:CDVA)は5m視力計,近方裸眼視力(uncorrectednearvisualacuity:UNVA)と矯正視力(correctednearvisualacuity:CNVA)は40cm視力表を用いて検査した.遠方視下と近方視下の瞳孔径は,同様に,開放型オートレフラクトメータで測定した.瞳孔形成術の前後の裸眼視力と瞳孔径の変化は,KruskalWallis検定とSteel-Dwass多重比較で解析した.また,術前から術後1カ月までの遠方視下と近方視下の瞳孔径の変化と,UNVAとUDVAのlogMAR視力の差との相関も調べた.結果は,平均±標準偏差で表記し,p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果対象の11例13眼の平均年齢は59.8±6.7歳(範囲:48.70歳),MF-IOL挿入後から瞳孔形成術までの期間は55.0±27.7カ月(範囲:22.105カ月)であった.瞳孔形成術前の瞳孔径は,遠方視下で3.3±0.4mm,近方視下で2.6±0.3mmであった.対象の背景を表1に示す.術前後の遠近視力の変化を図3に示す.UNVAは,MFIOL挿入後3カ月と比較して,術前で低下していた(p=図2屈折型多焦点眼内レンズ挿入眼のレーザー瞳孔形成術左:形成術前.右:形成術により拡大した瞳孔.1484あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(112)表1多焦点眼内レンズ挿入後から瞳孔形成術前における対象の5.0*背景4.5眼数/症例数13/10年齢(歳),範囲59.8±7.0,48.70男性/女性5眼/6眼多焦点眼内レンズ挿入後3カ月挿入眼内レンズモデルSA40N6眼4.0術後1週間術後1カ月***瞳孔径(mm)3.53.0モデルNGX17眼2.5視力,logMAR裸眼遠方.0.04±0.11矯正遠方.0.12±0.052.0瞳孔形成術前裸眼近方0.39±0.18図4レーザー瞳孔形成術の術前後の瞳孔径矯正近方0.01±0.04遠方視下(黒)と近方視下(白)の瞳孔径は,術後に有意にレーザー瞳孔形成術前増加した(*:p<0.01,p<0.0005,Steel-Dwass多重比経過月数50.8±28.6,24.96較).視力,logMAR裸眼遠方.0.04±0.10矯正遠方.0.08±0.07近方裸眼視力logMARの変化0.0-0.2-0.4-0.6-0.8裸眼近方0.53±0.17矯正近方0.00±0.00瞳孔径(mm)遠方視下近方視下3.3±0.42.6±0.3Nd:YAGレーザー後.切開術眼数術後期間(月)1240.9±22.4,12.86(平均±標準偏差)*00.511.522.5-0.4-0.20.00.20.40.60.8視力,logMAR*近方視下瞳孔径の増加(mm)図5瞳孔径の変化と,近方裸眼視力の差との関係レーザー瞳孔形成術の術前から術後1カ月のlogMAR視力差は,近方視下の瞳孔径の拡大と有意に相関した(実線,p=0.029).瞳孔径の変化を図4に示す.術後1カ月の瞳孔径は,遠方視下で4.2±0.3mm(3.8.4.7mm),近方視下で3.8±0.3mm術後1週間術後1カ月(3.4.4.4mm)であった.瞳孔形成術により,遠方視下,おp=0.16挿入後3カ月瞳孔形成術前図3多焦点眼内レンズ挿入後3カ月,レーザー瞳孔形成術の術前,術後1週,1カ月までのlogMAR視力の変化裸眼近方視力(■)は,瞳孔形成術前に低下したが,形成術後に有意に改善した(*:p<0.035,Steel-Dwass多重比較).一方,裸眼遠方視力(○),矯正遠方視力(●),矯正近方視力(□)は変化しなかった.0.16)が,瞳孔形成術により全例で改善した(p<0.035).術後1カ月のUNVAはMF-IOL挿入後と同等であった(p=0.59).一方,他の視力では術前後に変化はなかった.1例1眼は,術後UDVAは変化せずUNVAは改善したが,術後1週よりグレア,ハローを術前より強く訴えた.本症例の術前の瞳孔径は,遠方視下3.5mm,近方視下2.5mm,術後1週の瞳孔径は,遠方視下4.9mm,近方視下4.3mmで,術後の過大な瞳孔径によるものと考えられた.(113)よび近方視下の瞳孔径はともに有意に増加した(p<0.01,p<0.0005).瞳孔径の増加と裸眼視力の向上の関係を調べた.UNVAのlogMAR視力変化は,近方視下の瞳孔径の拡大に伴って有意に向上し(図5,p=0.029),相関係数では.0.63であった.一方,UDVAでは遠方視下の瞳孔径と相関はみられなかった(p=0.46).III考按屈折型MF-IOL挿入後の加齢性の縮瞳は,近方視力の低下をもたらす.アルコンレーザーとNd:YAGレーザーによる瞳孔形成術は,近方視下の瞳孔径を拡大し,UNVAを回復した.十分な瞳孔径は,屈折型MF-IOLの患者の選択には必須である6,11).屈折型MF-IOL挿入時の瞳孔径は十分大きくても,加齢による縮瞳により近方視の低下が問題となあたらしい眼科Vol.32,No.10,20151485る5).瞳孔形成術などの外科的な治療は,視機能の改善に有効であると考えられているが,本検討により,その効果が確認された.瞳孔径が減少する要因としては,白内障手術による影響と加齢が考えられる.水晶体を手術的に除去すると,虹彩の形態は変化し,瞳孔径は小さくなる12).瞳孔径の加齢変化はNakamuraらによって報告されており,60歳以上における近方視下の瞳孔径は明所で1.95.2.00mm,暗所で2.18.2.35mm程度と小さくなる5).よって,屈折型MF-IOLの挿入眼は,瞳孔径の縮小によるUNVAの低下リスクを避けるために,瞳孔形成術などの対応が必要となる.本検討では,レーザー瞳孔形成術後1カ月で,遠方および近方視下での瞳孔径はそれぞれ0.5mm,1.2mm拡大し,UNVAが改善した.一方,CNVAは瞳孔径が増加しても変化はなかった.術前CNVAの矯正度数は2.40±0.71Dと,多焦点IOLの遠方屈折値に対して矯正したためと考えられた.Schaeffelらは,正常眼では瞳孔径1mmの縮瞳が1Dに対応することを示している13).さらに,Bharadwajらは,輻湊により,両眼による近方視力は単眼視より増加すると報告している9).本検討は,遠方と近方の瞳孔径差は0.3.0.7mmである.これはSchaeffelらの報告より小さいが,対象が高齢であったためと考えられた.レーザーによる瞳孔形成術を行うと,経時的に凝固部位は萎縮するため,瞳孔の拡大が懸念される.レーザー虹彩形成術は,各切開が互いに接近しないように行っているため,凝固部位の萎縮の影響は小さいと考えられる.さらに,加齢により瞳孔径は縮小する5).本検討では,術後長期の瞳孔径変化は評価していないが,自験例では術後3年以上の症例において,瞳孔径は縮小傾向を示していた.切開位置が接近した症例では,萎縮性の瞳孔拡張もみられており,切開の位置には十分注意が必要である.本検討では,13眼のみと症例数は限られたていた.2004年より600眼以上の屈折型MF-IOLを挿入したが,加齢性の縮瞳によりUNVAが低下する割合は,現時点では多くない.しかし,今後,患者の加齢により症例数は増えると考えられる.屈折型MF-IOL挿入後の縮瞳によるUNVA低下に対し,近方視下の瞳孔径を拡大することは有効であると考えられていたが,臨床的な報告はなかった.今回,13眼の術後早期成績の検討により,レーザー瞳孔形成術は裸眼近方視力の回復に有効と考えられた.文献1)SteinertRF,AkerBL,TrentacostDJetal:AprospectivecomparativestudyoftheAMOarrayzonal-progressivemultifocalsiliconeintraocularlensandamonofocalintraocularlens.Ophthalmology106:1243-1255,19992)HunkelerJD,CoffmanTM,PaughJetal:CharacterizationofvisualphenomenawiththeArraymultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg28:1195-1204,20023)KawamoritaT,UozatoH:Modulationtransferfunctionandpupilsizeinmultifocalandmonofocalintraocularlensesinvitro.JCataractRefractSurg31:2379-2385,20054)FujimotoK,HondaK,WadaYRetal:Four-yearexperiencewithasiliconerefractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg36:1330-1335,20105)NakamuraH,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:PupilsizesindifferentJapaneseagegroupsandtheimplicationforintraocularlenschoice.JCataractRefractSurg35:134138,20096)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Correlationbetweenpupillarysizeandintraocularlensdecentrationandvisualacuityofazonal-progressivemultifocallensandamonofocallens.Ophthalmology.108:2011-2017,20017)Win-HallDM,HouserJ,GlasserA:StaticanddynamicaccommodationmeasuredusingtheWAM-5500Autorefractor.OptomVisSci87:873-882,20108)HoT,FanR:Sequentialargon-YAGlaseriridotomiesindarkirides.BrJOphthalmol76:329-331,19929)BharadwajSR,WangJ,CandyTR:Pupilresponsestonearvisualdemandduringhumanvisualdevelopment.JVis11:1-14,201110)YangY,ThompsonK,BurnsSA:Pupillocationundermesopic,photopic,andpharmacologicallydilatedconditions.InvestOphthalmolVisSci43:2508-2512,200211)SalatiC,SalvetatML,ZeppieriMetal:PupilsizeinfluenceontheintraocularperformanceofthemultifocalAMO-Arrayintraocularlensinelderlypatients.EurJOphthalmol17:571-578,200712)HayashiK,HayashiH:Pupilsizebeforeandafterphacoemulsificationinnondiabeticanddiabeticpatients.JCataractRefractSurg30:2543-2550,200413)SchaeffelF,WilhelmH,ZrennerE:Inter-individualvariabilityinthedynamicsofnaturalaccommodationinhumans:relationtoageandrefractiveerrors.JPhysiol461:301-320,1993***1486あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(114)