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屈折型多焦点眼内レンズ挿入後の加齢性縮瞳に対するレーザー瞳孔形成術

2015年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科32(10):1483.1486,2015c屈折型多焦点眼内レンズ挿入後の加齢性縮瞳に対するレーザー瞳孔形成術藤本可芳子本田恭子和田有子入江智美高橋愛森山貴司フジモト眼科LaserIridoplastyforAge-relatedPupilConstrictionafterRefractiveMultifocalIntraocularLensImplantationKahokoFujimoto,KyokoHonda,YukoRWada,TomomiIrie,AiTakahashiandTakashiMoriyamaFujimotoEyeClinic目的:屈折型多焦点眼内レンズ(IOL)挿入後,加齢性縮瞳により術後裸眼近方視力が低下した症例にレーザー瞳孔形成術を行い,その有効性を検討した.対象および方法:対象は,屈折型多焦点IOL(SA40NおよびNXG1,AMO)挿入術後,裸眼近方視力が低下した10例13眼(平均年齢:59.8±7.0歳,術後経過月数:59.8±7.0カ月).鼻側,鼻下側,下側の虹彩縁にアルゴンレーザーとND:YAGレーザーで約0.5.1.5mmの切開拡大を行った.遠視下と近視下の瞳孔径変化は,開放型オートレフラクトメータを用いて測定した.結果:遠視下と近視下の平均瞳孔径はいずれも有意に拡大した(p<0.01).裸眼遠方視力は変化がなかったが,裸眼近方視力は0.29から0.53に有意に改善した(p<0.035).結論:屈折型多焦点IOL挿入後の加齢性縮瞳による視裸近方眼視力低下症例に対し,レーザー瞳孔形成術は有効と考えられた.Ineyesthathadreceivedzonal-progressiverefractivemultifocalintraocularlenses(MF-IOLs),theefficacyoflaseriridoplastyindecreasinguncorrectednearvisualacuity(UNVA)duetoage-relatedpupilconstrictionwasinvestigated.MF-IOLs(SA40NandNXG1,AMO)wereimplantedin13eyesof11patients;laseriridoplastyusingargonandYAGlaserswassubsequentlyperformed.Pupildiametersfornearanddistancevisionsweremeasuredbinocularlyusinganopen-fieldautorefractor.Meanpostoperativepupildiameterexpandedforbothdistanceandnearvisions(p<0.01),resultinginsignificantimprovementinUNVA(p<0.035).LaseriridoplastyeffectivelyrestoreddecreasesinUNVAduetoage-relatedpupilconstriction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1483.1486,2015〕Keywords:屈折型多焦点眼内レンズ,瞳孔径,加齢性縮瞳,輻湊.refractivemultifocalintraocularlens,pupildiameter,age-relatedconstriction,convergence.はじめに屈折型多焦点眼内レンズ(multifocalintraocularlens:MF-IOL)SA40NおよびNXG1(AbbotMedicalOptics)は,同心円状に屈折の異なるゾーンを有し,遠方視と近方視が得られる1,2).2.1mm径以下の中心部は遠方視ゾーン,その周りの3.4mmあるいは3.45mm径までのゾーンは近方視ゾーンである(図1)ため,近見視下瞳孔径はおよそ3.0mm以上必要である3,4).MF-IOL挿入時は近方視下の瞳孔径が十分であっても,加齢により縮瞳するため5),挿入眼の近方視力が低下することがある6).瞳孔径は散瞳点眼によって拡大可能であるが,瞳孔径のコントロールはむずかしく,羞明や遠方視力低下という欠点がある.手術による瞳孔拡大術はあるが,その効果は検討されていない.本研究は,屈折型MFIOL挿入後に縮瞳により近方視力が低下した症例に,レーザー瞳孔形成術を行い,その効果を後ろ向きに検討した.I対象および方法対象は,屈折型MF-IOL挿入後,縮瞳により近方視力の〔別刷請求先〕藤本可芳子:〒530-0041大阪市北区天神橋6-6-4フジモト眼科Reprintrequests:KahokoFujimoto,M.D.,FujimotoEyeClinic,6-6-4Tenjinbashi,Kita-ku,Osaka530-0041,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(111)1483 低下したため,2010年6月.2013年9月にフジモト眼科でレーザー瞳孔形成術を行った11例13眼(男性5名,女性6名)である.MF-IOL挿入前に暗所瞳孔径をColvard瞳孔計(Oasis,Glendora,CA)で測定し,4.0mm以上あることを確認した.全例,約5.6mm径の前.切開後に,MF-IOLSA40NおよびNXG1を.内に挿入した.術後合併症はなかった.術後経過観察時に近方視力が低下した症例に対し,開放型オートレフラクトメータWAM-5500(GrandSeiko)を用いて,両眼での遠方視下および近方(40cm)視下における瞳孔径を測定した7).Nd:YAGレーザーによる後.切開術後や,近方視下の瞳孔径が2.8mm未満により縮瞳による視力低下と判断された症例に対し,レーザー瞳孔形成術を行った.点眼麻酔後,コンタクトレンズ装用し,アルゴンレーザーとNd:YAGレーザーを用いて,瞳孔縁に切開を行った8).瞳孔中心は,近方視下では輻湊と縮瞳により鼻側に偏位する9,10).瞳孔が鼻側に偏位しても,瞳孔径内にMF-IOLの近方視ゾーンが十分入っていないと,近方視力は得られない.よって,鼻側,鼻下側,下側の虹彩縁にレーザーによる切開を行った.まず,アルゴンレーザー(Ultima2000,Coher図1屈折型多焦点眼内レンズの屈折ゾーン(NXG1)ent)をスポット径500μm,照射時間0.2秒,エネルギー200mJで,3カ所にスポット照射を同位置に2回行った.その後,アルコンレーザーを照射した部位に,瞳孔縁から虹彩周辺に向けて0.6.2.5mJのNd:YAGレーザー(Selecta,Lumenis)を照射した.照射時は,瞳孔径が3.5mmぐらいとなり,瞳孔内にMF-IOLの近方視ゾーンが十分露見するまで慎重に切開した(図2).3カ所の切開がお互いに接近すると瞳孔領が過分に拡大する危険性があるため,両レーザーの照射において照射位置には十分注意した.術後1週間,ステロイド(0.1%フルオロメトロン)点眼を行った.視力と瞳孔径を,瞳孔形成術前,術後1週,1カ月に検査した.遠方裸眼視力(uncorrecteddistantvisualacuity:UDVA)と矯正視力(correcteddistantvisualacuity:CDVA)は5m視力計,近方裸眼視力(uncorrectednearvisualacuity:UNVA)と矯正視力(correctednearvisualacuity:CNVA)は40cm視力表を用いて検査した.遠方視下と近方視下の瞳孔径は,同様に,開放型オートレフラクトメータで測定した.瞳孔形成術の前後の裸眼視力と瞳孔径の変化は,KruskalWallis検定とSteel-Dwass多重比較で解析した.また,術前から術後1カ月までの遠方視下と近方視下の瞳孔径の変化と,UNVAとUDVAのlogMAR視力の差との相関も調べた.結果は,平均±標準偏差で表記し,p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果対象の11例13眼の平均年齢は59.8±6.7歳(範囲:48.70歳),MF-IOL挿入後から瞳孔形成術までの期間は55.0±27.7カ月(範囲:22.105カ月)であった.瞳孔形成術前の瞳孔径は,遠方視下で3.3±0.4mm,近方視下で2.6±0.3mmであった.対象の背景を表1に示す.術前後の遠近視力の変化を図3に示す.UNVAは,MFIOL挿入後3カ月と比較して,術前で低下していた(p=図2屈折型多焦点眼内レンズ挿入眼のレーザー瞳孔形成術左:形成術前.右:形成術により拡大した瞳孔.1484あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(112) 表1多焦点眼内レンズ挿入後から瞳孔形成術前における対象の5.0*背景4.5眼数/症例数13/10年齢(歳),範囲59.8±7.0,48.70男性/女性5眼/6眼多焦点眼内レンズ挿入後3カ月挿入眼内レンズモデルSA40N6眼4.0術後1週間術後1カ月***瞳孔径(mm)3.53.0モデルNGX17眼2.5視力,logMAR裸眼遠方.0.04±0.11矯正遠方.0.12±0.052.0瞳孔形成術前裸眼近方0.39±0.18図4レーザー瞳孔形成術の術前後の瞳孔径矯正近方0.01±0.04遠方視下(黒)と近方視下(白)の瞳孔径は,術後に有意にレーザー瞳孔形成術前増加した(*:p<0.01,p<0.0005,Steel-Dwass多重比経過月数50.8±28.6,24.96較).視力,logMAR裸眼遠方.0.04±0.10矯正遠方.0.08±0.07近方裸眼視力logMARの変化0.0-0.2-0.4-0.6-0.8裸眼近方0.53±0.17矯正近方0.00±0.00瞳孔径(mm)遠方視下近方視下3.3±0.42.6±0.3Nd:YAGレーザー後.切開術眼数術後期間(月)1240.9±22.4,12.86(平均±標準偏差)*00.511.522.5-0.4-0.20.00.20.40.60.8視力,logMAR*近方視下瞳孔径の増加(mm)図5瞳孔径の変化と,近方裸眼視力の差との関係レーザー瞳孔形成術の術前から術後1カ月のlogMAR視力差は,近方視下の瞳孔径の拡大と有意に相関した(実線,p=0.029).瞳孔径の変化を図4に示す.術後1カ月の瞳孔径は,遠方視下で4.2±0.3mm(3.8.4.7mm),近方視下で3.8±0.3mm術後1週間術後1カ月(3.4.4.4mm)であった.瞳孔形成術により,遠方視下,おp=0.16挿入後3カ月瞳孔形成術前図3多焦点眼内レンズ挿入後3カ月,レーザー瞳孔形成術の術前,術後1週,1カ月までのlogMAR視力の変化裸眼近方視力(■)は,瞳孔形成術前に低下したが,形成術後に有意に改善した(*:p<0.035,Steel-Dwass多重比較).一方,裸眼遠方視力(○),矯正遠方視力(●),矯正近方視力(□)は変化しなかった.0.16)が,瞳孔形成術により全例で改善した(p<0.035).術後1カ月のUNVAはMF-IOL挿入後と同等であった(p=0.59).一方,他の視力では術前後に変化はなかった.1例1眼は,術後UDVAは変化せずUNVAは改善したが,術後1週よりグレア,ハローを術前より強く訴えた.本症例の術前の瞳孔径は,遠方視下3.5mm,近方視下2.5mm,術後1週の瞳孔径は,遠方視下4.9mm,近方視下4.3mmで,術後の過大な瞳孔径によるものと考えられた.(113)よび近方視下の瞳孔径はともに有意に増加した(p<0.01,p<0.0005).瞳孔径の増加と裸眼視力の向上の関係を調べた.UNVAのlogMAR視力変化は,近方視下の瞳孔径の拡大に伴って有意に向上し(図5,p=0.029),相関係数では.0.63であった.一方,UDVAでは遠方視下の瞳孔径と相関はみられなかった(p=0.46).III考按屈折型MF-IOL挿入後の加齢性の縮瞳は,近方視力の低下をもたらす.アルコンレーザーとNd:YAGレーザーによる瞳孔形成術は,近方視下の瞳孔径を拡大し,UNVAを回復した.十分な瞳孔径は,屈折型MF-IOLの患者の選択には必須である6,11).屈折型MF-IOL挿入時の瞳孔径は十分大きくても,加齢による縮瞳により近方視の低下が問題となあたらしい眼科Vol.32,No.10,20151485 る5).瞳孔形成術などの外科的な治療は,視機能の改善に有効であると考えられているが,本検討により,その効果が確認された.瞳孔径が減少する要因としては,白内障手術による影響と加齢が考えられる.水晶体を手術的に除去すると,虹彩の形態は変化し,瞳孔径は小さくなる12).瞳孔径の加齢変化はNakamuraらによって報告されており,60歳以上における近方視下の瞳孔径は明所で1.95.2.00mm,暗所で2.18.2.35mm程度と小さくなる5).よって,屈折型MF-IOLの挿入眼は,瞳孔径の縮小によるUNVAの低下リスクを避けるために,瞳孔形成術などの対応が必要となる.本検討では,レーザー瞳孔形成術後1カ月で,遠方および近方視下での瞳孔径はそれぞれ0.5mm,1.2mm拡大し,UNVAが改善した.一方,CNVAは瞳孔径が増加しても変化はなかった.術前CNVAの矯正度数は2.40±0.71Dと,多焦点IOLの遠方屈折値に対して矯正したためと考えられた.Schaeffelらは,正常眼では瞳孔径1mmの縮瞳が1Dに対応することを示している13).さらに,Bharadwajらは,輻湊により,両眼による近方視力は単眼視より増加すると報告している9).本検討は,遠方と近方の瞳孔径差は0.3.0.7mmである.これはSchaeffelらの報告より小さいが,対象が高齢であったためと考えられた.レーザーによる瞳孔形成術を行うと,経時的に凝固部位は萎縮するため,瞳孔の拡大が懸念される.レーザー虹彩形成術は,各切開が互いに接近しないように行っているため,凝固部位の萎縮の影響は小さいと考えられる.さらに,加齢により瞳孔径は縮小する5).本検討では,術後長期の瞳孔径変化は評価していないが,自験例では術後3年以上の症例において,瞳孔径は縮小傾向を示していた.切開位置が接近した症例では,萎縮性の瞳孔拡張もみられており,切開の位置には十分注意が必要である.本検討では,13眼のみと症例数は限られたていた.2004年より600眼以上の屈折型MF-IOLを挿入したが,加齢性の縮瞳によりUNVAが低下する割合は,現時点では多くない.しかし,今後,患者の加齢により症例数は増えると考えられる.屈折型MF-IOL挿入後の縮瞳によるUNVA低下に対し,近方視下の瞳孔径を拡大することは有効であると考えられていたが,臨床的な報告はなかった.今回,13眼の術後早期成績の検討により,レーザー瞳孔形成術は裸眼近方視力の回復に有効と考えられた.文献1)SteinertRF,AkerBL,TrentacostDJetal:AprospectivecomparativestudyoftheAMOarrayzonal-progressivemultifocalsiliconeintraocularlensandamonofocalintraocularlens.Ophthalmology106:1243-1255,19992)HunkelerJD,CoffmanTM,PaughJetal:CharacterizationofvisualphenomenawiththeArraymultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg28:1195-1204,20023)KawamoritaT,UozatoH:Modulationtransferfunctionandpupilsizeinmultifocalandmonofocalintraocularlensesinvitro.JCataractRefractSurg31:2379-2385,20054)FujimotoK,HondaK,WadaYRetal:Four-yearexperiencewithasiliconerefractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg36:1330-1335,20105)NakamuraH,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:PupilsizesindifferentJapaneseagegroupsandtheimplicationforintraocularlenschoice.JCataractRefractSurg35:134138,20096)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Correlationbetweenpupillarysizeandintraocularlensdecentrationandvisualacuityofazonal-progressivemultifocallensandamonofocallens.Ophthalmology.108:2011-2017,20017)Win-HallDM,HouserJ,GlasserA:StaticanddynamicaccommodationmeasuredusingtheWAM-5500Autorefractor.OptomVisSci87:873-882,20108)HoT,FanR:Sequentialargon-YAGlaseriridotomiesindarkirides.BrJOphthalmol76:329-331,19929)BharadwajSR,WangJ,CandyTR:Pupilresponsestonearvisualdemandduringhumanvisualdevelopment.JVis11:1-14,201110)YangY,ThompsonK,BurnsSA:Pupillocationundermesopic,photopic,andpharmacologicallydilatedconditions.InvestOphthalmolVisSci43:2508-2512,200211)SalatiC,SalvetatML,ZeppieriMetal:PupilsizeinfluenceontheintraocularperformanceofthemultifocalAMO-Arrayintraocularlensinelderlypatients.EurJOphthalmol17:571-578,200712)HayashiK,HayashiH:Pupilsizebeforeandafterphacoemulsificationinnondiabeticanddiabeticpatients.JCataractRefractSurg30:2543-2550,200413)SchaeffelF,WilhelmH,ZrennerE:Inter-individualvariabilityinthedynamicsofnaturalaccommodationinhumans:relationtoageandrefractiveerrors.JPhysiol461:301-320,1993***1486あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(114)

乱視眼のコントラスト視力に及ぼす瞳孔径の影響

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(139)139《原著》あたらしい眼科29(1):139?143,2012cはじめに瞳孔径の大きさは焦点深度,球面収差,網膜照度,回折現象などに関与し,視機能に大きな影響を与えることが知られている1).瞳孔径が小さいと焦点深度は深くなり球面収差は減少するが,網膜照度は低下し回折現象が大きくなる.瞳孔径が大きいと焦点深度は浅くなり球面収差は増大するが,網膜照度が増加し回折現象が小さくなる.その他,Stiles-Crawford効果2),瞳孔中心の偏位3)なども関係し,瞳孔径の大小に視力の向上と低下の要素がそれぞれ存在する.しかし,そのような報告は正視を対象としたものが多く4,5),乱視を対象として瞳孔径の大きさが視力に与える影響についての報告6)は少ない.乱視眼において瞳孔径の影響により視力低下が軽減,増大している可能性があるため,乱視眼において瞳孔径の大きさが視力にどのように影響を与えているのかを研究することは重要である.本研究は人工的に乱視を作り,瞳孔径を1,2,3mmにした状態で,より日常的な見え方を知るためにコントラスト視力7)を測定した.その結果の一因と考えられた焦点深度,乱視度数の変化を測定し検討した.〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻Reprintrequests:HiroshiUozato,Ph.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthSciences,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara252-0373,JAPAN乱視眼のコントラスト視力に及ぼす瞳孔径の影響中谷勝己*1,4中山奈々美*1内山仁志*3吉原浩二*4魚里博*1,2*1北里大学大学院医療系研究科*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻*3鳥取大学地域学部地域教育学科*4松江総合医療専門学校視能訓練士科EffectofPupilDiameteronContrastVisualAcuityinAstigmaticEyesKatsumiNakatani1,4),NanamiNakayama1),HitoshiUchiyama3),KojiYoshihara4)andHiroshiUozato1,2)1)KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthSciences,3)DepartmentofEducation,FacultyofRegionalSciences,TottoriUniversity,4)DepartmentofOrthoptics,MatsueCo-MedicalCollege目的:乱視眼において瞳孔径がコントラスト視力に及ぼす影響について検討した.方法:矯正視力1.2以上を有する16名16眼を対象とした.検眼用レンズを使用して,正視,0.75Dおよび1.50Dの近視性単性倒乱視の3種類の屈折状態とし,各屈折状態に人工瞳孔(1,2,3mm)を挿入した.コントラスト視力の測定にはCAT-2000を用いた.結果:0.75Dの乱視眼ではほとんどのコントラストにおいて3mmの瞳孔径よりも1mmのほうが有意に視力は良好であった.1.50Dの乱視眼の場合,すべてのコントラストにおいて0.75Dの乱視眼と同様の結果となった.結論:乱視眼のコントラスト視力は瞳孔径の影響を受けるため,視力検査時には瞳孔径を考慮する必要がある.Purpose:Weevaluatedhowpupildiameteraffectscontrastvisualacuityinastigmaticeyes.Methods:Thesubjectsofthisstudywere16eyesof16volunteerswithcorrectedvisualacuityof1.2orbetter.Weexaminedthemonthepremisethattherefractiveconditionwasemmetropia,0.75Dand1.50Dsimplemyopicinverseastigmatism.Pupildiameterwassetat1,2and3mmviapinholes.WemeasuredcontrastvisualacuityusingaCAT-2000.Results:In0.75Dastigmatism,visualacuitywassignificantlybetterat1mmpupildiameterthanat3mm,atalmostallcontrasts.In1.50Dastigmatism,theresultwassimilartothatfor0.75Dastigmatism,atallcontrasts.Conclusion:Sincecontrastvisualacuityinastigmaticeyesdependsonpupildiameter,weshouldtakethefactwellintoconsiderationwhenevertestingvisualacuity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):139?143,2012〕Keywords:乱視,コントラスト視力,瞳孔径,焦点深度,視機能.astigmatism,contrastvisualacuity,pupildiameter,depthoffocus,visualfunction.140あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(140)I方法1.対象遠見矯正視力1.2以上を有する屈折異常以外に眼科的疾患のない16名16眼(平均年齢21.5±3.4歳)を対象とした.明所にて三田式万能計測器(はんだや社)を用いて瞳孔水平径(入射瞳径)を測定し,3.5mm以上ある優位眼を被験眼とした.本研究に際し,北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を受け,被験者から事前に文書による同意を得たうえで研究を実施した.2.屈折状態と瞳孔径の設定屈折状態の設定は検眼レンズを使用し,眼前1.2cmに位置するようにした.完全屈折矯正のレンズを装用した正視,完全屈折矯正レンズに凸円柱レンズを軸90°にして加えた近視性単性倒乱視の設定とした.コントラスト視力の測定をする際の屈折状態は正視,0.75D,1.50Dの乱視とした.焦点深度の測定は完全屈折矯正のレンズを装用した正視,完全屈折矯正レンズに凸円柱レンズと凸円柱レンズ度数の半分の凹球面レンズを加えた0.50Dから1.50Dまでの0.25D刻みの混合性倒乱視とした.乱視度数の変化量の測定は0.50Dから1.50Dまでの0.25D刻みの近視性単性倒乱視とした.それぞれの測定において,各屈折状態の眼に人工瞳孔をテストフレームに眼前1cmに位置するように挿入し,1,2,3mmの瞳孔径の設定とした.3.測定コントラスト視力の測定にはCAT-2000(メニコン社)8)を使用した.環境設定は平均100cd/m2の視標背景輝度(昼間視),100,25,10,5,2.5%の5つのコントラストの視標を用いた.半暗室にて15分の暗順応後に遠見,オートモードにて行った.視力値の決定は視標を3つ呈示し,2つ以上の正答でその視力値とした.各屈折状態,各コントラストにて1,2,3mmの瞳孔径での視力値を比較した.焦点深度の測定にはワイヤレスリモートコントロール視力検査装置K-3435(イナミ社)のLandolt環を視標として用いた.明室にて行い,5m(遠見)の距離にて視標を判別できる大きさのLandolt環を注視させた状態で凸球面レンズを小さい度数から順にかざし,自覚的に鮮明さが変わらない最大の凸球面レンズ度数を求め,それを焦点深度とした.各屈折状態にて1,2,3mmの瞳孔径での焦点深度の大きさを比較した.乱視度数の変化量の測定はK-3435(イナミ社)のLandolt環を視標として,±0.25DのクロスシリンダーK-0251(イナミ社)を用いた.明室にて行い,5m(遠見)の距離にて視標を判別できる大きさのLandolt環を注視させた状態で自覚的屈折検査を行った.各屈折状態にて1,2,3mmの瞳孔径での減少した乱視度数を比較した.4.統計解析各測定における統計解析は得られた値に対して一元配置分散分析(One-wayANOVA)を行い,Bonferroni法による多重比較を行った.有意水準は5%未満とした.II結果1.コントラスト視力各コントラストにおける各屈折状態の瞳孔径を変化させたときのlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)値を表1に示す.コントラスト100%において瞳孔径1,2,3mmのlogMAR値は,正視では?0.044,?0.109,0.006,0.75Dの乱視では?0.019,0.031,0.088,1.50Dの乱視では0.025,0.113,0.238であった.正視の場合,各コントラストにおいて瞳孔径の違いにより有意な視力差はなかった(One-wayANOVA,p>0.05)(図1).表1各コントラストにおける各屈折状態の瞳孔径を変化させたときのlogMAR値コントラスト100%瞳孔径1mm瞳孔径2mm瞳孔径3mm正視?0.044±0.109?0.019±0.1520.006±0.1240.75D乱視?0.019±0.0980.031±0.1700.088±0.1631.50D乱視0.025±0.1180.113±0.1670.238±0.225コントラスト25%瞳孔径1mm瞳孔径2mm瞳孔径3mm正視0.044±0.1500.038±0.2130.019±0.1600.75D乱視0.106±0.1570.113±0.1960.231±0.2411.50D乱視0.094±0.0930.269±0.1490.356±0.242コントラスト10%瞳孔径1mm瞳孔径2mm瞳孔径3mm正視0.188±0.1310.144±0.2340.175±0.2540.75D乱視0.231±0.1140.263±0.2130.350±0.2281.50D乱視0.294±0.1480.419±0.1420.556±0.182コントラスト5%瞳孔径1mm瞳孔径2mm瞳孔径3mm正視0.363±0.1500.275±0.2490.331±0.2960.75D乱視0.394±0.1120.400±0.2370.550±0.2611.50D乱視0.431±0.1010.525±0.2020.706±0.214コントラスト2.5%瞳孔径1mm瞳孔径2mm瞳孔径3mm正視0.694±0.1060.625±0.2520.731±0.2890.75D乱視0.675±0.1390.750±0.1590.869±0.2121.50D乱視0.750±0.1030.813±0.1360.956±0.141(141)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20121410.75Dの乱視の場合,コントラスト10%以外において3mmの瞳孔径よりも1mmのほうが有意に視力は低下しにくく(Bonferroni法,p<0.05),平均0.145のlogMAR値の差があった(図2).1.50Dの乱視の場合,すべてのコントラストにおいて3mmの瞳孔径よりも1mmのほうが有意に視力は低下しにくく(Bonferroni法,p<0.05),平均0.244のlogMAR値の差があった.10,25%のコントラストにおいて2mmの瞳孔径よりも1mmのほうが有意に視力は低下しにくく(Bonferroni法,p<0.05),平均0.150のlogMAR値の差があった.10%以下のコントラストにおいて3mmの瞳孔径よりも2mmのほうが有意に視力は低下しにくく(Bonferroni法,p<0.05)(図3),平均0.154のlogMAR値の差があった.2.焦点深度すべての屈折状態において2,3mmの瞳孔径よりも1mmのほうが有意に焦点深度は深く(Bonferroni法,p<0.05),全体的に瞳孔径が小さいほど焦点深度は深い傾向がみられた(図4).3.乱視度数の変化量0.50,1.00,1.25Dの乱視眼において3mmの瞳孔径よりも1mmのほうが有意に乱視度数は減少した(Bonferroni法,p<0.05)(図5).全体的に瞳孔径が小さいほど乱視度数は減少する傾向がみられ,瞳孔径1,2,3mmの乱視度数は,それぞれ平均67,41,34%減少した.-0.200.20.40.60.811.61.00.630.40.250.160.1100251052.5コントラスト(%)logMAR小数視力正視図1正視眼における1,2,3mmの瞳孔径のコントラスト視力:瞳孔径1mm,:瞳孔径2mm,:瞳孔径3mm.*:Bonferroni法p<0.05.-0.200.20.40.60.811.61.00.630.40.250.160.1100251052.5コントラスト(%)logMAR小数視力1.50D乱視**********図31.50D乱視における1,2,3mmの瞳孔径のコントラスト視力:瞳孔径1mm,:瞳孔径2mm,:瞳孔径3mm.*:Bonferroni法p<0.05.0.50D乱視0.75D乱視1.00D乱視1.25D乱視1.50D乱視屈折状態1.61.41.210.80.60.40.20減少した乱視度数(D)****図5各屈折状態における1,2,3mmの瞳孔径の減少した乱視度数■:瞳孔径1mm,■:瞳孔径2mm,■:瞳孔径3mm.*:Bonferroni法p<0.05.-0.200.20.40.60.811.61.00.630.40.250.160.1100251052.5コントラスト(%)logMAR小数視力0.75D乱視*****図20.75D乱視眼における1,2,3mmの瞳孔径のコントラスト視力:瞳孔径1mm,:瞳孔径2mm,:瞳孔径3mm.*:Bonferroni法p<0.05.正視0.50D乱視0.75D乱視1.00D乱視1.25D乱視1.50D乱視屈折状態21.81.61.41.210.80.60.40.20焦点深度(D)*************図4各屈折状態における1,2,3mmの瞳孔径の焦点深度■:瞳孔径1mm,■:瞳孔径2mm,■:瞳孔径3mm.*:Bonferroni法p<0.05.142あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(142)III考按瞳孔径が視機能に影響することはよく知られており,いくつかの因子が複雑に関係している.瞳孔径が大きくなると焦点深度は下降し,2mmの瞳孔径で0.86D,4mmの瞳孔径で0.59Dとなる9).球面収差については無調節時で約0.3Dである10)という報告がある.約2.5mm以下の瞳孔径では回折現象により視力が制限されるようになり11),0.5mm以下になると屈折異常や像のぼけは関係なく回折現象だけで視力は決まる12).Stiles-Crawford効果については3mm以上の瞳孔径で支配的となり,5mmから6mm以上になれば,視力低下への影響はなくなる12).その他,瞳孔径の大きさにより,網膜に達する光の量(網膜照度)は変化し,瞳孔の中心が偏位する3)ことも視機能に関係している.しかし,これは屈折異常がない眼を対象とした報告であり,乱視眼を対象とした瞳孔径の影響についての報告は少ない.本検討におけるコントラスト視力については,正視眼では各コントラストで視力に有意な差はなかった.ただ,瞳孔径2mmが他の瞳孔径と比べ,コントラスト視力が良好である傾向があり,視機能に最適な瞳孔径は2.4mmである13),視力は瞳孔径2.0mmで最も高値であった14)という報告とほぼ同じ結果になった.0.75Dの乱視眼では1mmと3mmの瞳孔径を比べるとほとんどのコントラストで1mmのほうが有意に視力は低下しにくく,1.50Dの乱視眼ではすべてのコントラストにおいて小さい瞳孔径のほうが視力は低下しにくいという傾向が顕著にみられた.これは瞳孔径が小さいほど視力が低下しにくいということと,乱視度数が大きいほど瞳孔径の影響を受けるということを示唆している.前者においては,直乱視と倒乱視の眼における裸眼視力はより小さい瞳孔径において比較的良好である6)という報告と一致する.乱視眼において視機能に最適な瞳孔径は程度によって異なるだろうが,2.4mmより小さい可能性がある.今後も検討が必要である.本検討における乱視眼の焦点深度の測定については,設定した乱視にさらに凸円柱レンズ度数の半分の凹球面レンズを加え,網膜上に最小錯乱円がある状態を基準として行った.これは乱視があっても視力が比較的良好な状態を基準とするためである.より詳しく調べるために0.75,1.50D以外の乱視も加えて検討した.正視眼,乱視眼とも2,3mmの瞳孔径と比べ,1mmでは有意に焦点深度は深いという結果となった.屈折異常のない眼を対象として瞳孔径が大きくなると焦点深度は下降する9)という報告があるが,今回の検討から乱視眼においても同様の結果となった.ただ,人眼での焦点深度は0.4Dから0.7Dである15)という報告と比べ,乱視眼の焦点深度は深い傾向を認めた.乱視眼においても小さい瞳孔径では入射する光の量が制限され,乱視による像のぼけが増加しにくくなるため,焦点深度は深くなると考えられる.Gullstrandの模型眼で計算すると瞳孔径が3mmのときに,視力1.0,0.5,0.2の視標が見える焦点深度はそれぞれ0.25,0.50,1.50D程度である16)という報告がある.これは視力が低いときほど焦点深度は深いということを示している.本検討においても,乱視眼の2,3mmの瞳孔径での結果では乱視の程度が強いほど焦点深度は深くなった.これは網膜上に焦点ではなく最小錯乱円がある状態を基点としたことで,元々像のぼけが生じていたため,凸レンズを加えたことによる像のぼけの差を自覚しにくかったことが原因であり,その結果,乱視度数が大きいほど瞳孔径の影響を受けたと考えられる.本検討における自覚的な乱視度数の変化量については,ほとんどの屈折状態で1,2,3mmの瞳孔径の順に乱視度数が減少する傾向にあり,このような結果となった原因として,角膜や水晶体の強主経線と弱主経線の曲率半径の差が中心部と比べ周辺部のほうが大きいためと考えられる.瞳孔径が大きい場合は中心部を含め周辺部での曲率半径の差が大きい部位を光が通過するので乱視が強くなり,瞳孔径が小さい場合は曲率半径の差が小さい中心部のみを光が通過するので乱視は弱くなる.その他の原因として瞳孔径が小さくなることで焦点深度が深くなり,像のぼけが軽減したことも結果に影響したと考えられる.ただ,理論的に考えて瞳孔径の影響を受け,乱視度数が大きくなるほど乱視度数の減少の程度に差が出るはずであるが,1.50Dの乱視眼で有意な差はなかった.その原因は症例数が少なかったためではないかと推測する.今後,症例数を増やして再検討する必要があるだろう.今回は1,2,3mmの瞳孔径で検討したが,瞳孔径5mmと比べ3mmのほうが他覚乱視は減少する(第45回日本眼光学学会,川守田ら)という報告から,3mm以上の瞳孔径になると自覚的にもより乱視は強くなる可能性がある.本検討から乱視眼において瞳孔径の大きさにより焦点深度,乱視度数に変化をもたらし,それらがコントラスト視力に影響した一因として考えられる.具体的には乱視眼において瞳孔径が小さいと,焦点深度が深く乱視が減少することによってコントラスト視力が低下しにくい.瞳孔径が大きいと,焦点深度が浅く乱視が増大することによってコントラスト視力が低下しやすいということが考えられる.今回,3mmまでの瞳孔径の設定としたが,3mm以上の瞳孔径になった場合,さらに焦点深度は浅く,乱視は増大し,コントラスト視力が低下しやすいと推測される.瞳孔緊張症,外傷,散瞳薬使用時に散瞳がみられるが,その眼に乱視がある場合,日常視において視機能がより低下していると考えられる.ArgyllRobertson瞳孔,Horner症候群,糖尿病の罹患時,縮瞳薬使用時に縮瞳がみられるが,乱視があっても視機能の低下を軽減していると考えられる.し(143)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012143かし,視力検査時に注意が必要である.本検討の結果を基に例をあげると,瞳孔径が通常3mmある1.50Dの乱視眼での視力が0.6であった場合,一時的に瞳孔径が1mmあるいは2mmになると視力はそれぞれ1.0,0.8となり,視力を過大評価することになる.本検討における制限として眼前に乱視,瞳孔を人工的に作ったため,実際の位置とは異なっていたことがあげられる.使用したCAT-2000は覗き込んで視標を見る機器であり日常とは異なった環境であった.瞳孔は生理的状態では通常2~4mm,薬物投与などによって約1.5~8mm直径が変化するので,1,2,3mm以外の瞳孔径でも今後,検討する必要がある.瞼裂幅を狭くしたときに垂直方向の屈折の成分が減少してしまうことを避けるため,本検討では水平方向に屈折異常がある倒乱視の設定としたが,その他の種類の乱視においても,他覚的な面からも今後検討する必要がある.今回の検討から,乱視眼のコントラスト視力は瞳孔径の影響を受けるため,視力検査時には瞳孔径を考慮する必要がある.疾患や瞳孔に作用する薬品の投与により,瞳孔径が一時的に小さい場合の視力は過大評価となり,瞳孔径が大きい場合の視力は過小評価となる.視力や眼の屈折を適切に評価するためにそのときの瞳孔径を考慮することが重要であると考える.本論文の要旨は,第46回日本眼光学学会総会にて発表した.文献1)ApplegateRA:Glennfryawardlecture2002:Wavefrontsensing,idealcorrections,andvisualperformance.OptomVisSci81:167-177,20042)AtchisonDA,ScottDH,StrangNC:TheStiles-Crawfordeffectapodizationonvisualacuity.JOptSocAmA19:1073-1083,20023)WilsonM,CampbellM,SimonetP:TheJuliusF.NeumuellerAwardinOptics,1989:Changeofpupilcentrationwithchangeofilluminationandpupilsize.OptomVisSci69:129-136,19924)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,20055)川守田拓志,魚里博:両眼視と単眼視下における瞳孔径が昼間視と薄暮視下の視機能に与える影響.視覚の科学26:71-75,20056)KamiyaK,KobashiH,ShimizuKetal:Effectofpupilsizeonuncorrectedvisualacuityinastigmaticeyes.BrJOphthalmol.2011Apr21.[Epubaheadofprint]7)魚里博:低コントラスト視力.IOL&RS15:200-204,20018)森田勝典:コントラスト感度視力検査装置CAT-2000.視覚の科学23:18-20,20029)AtchisonDA,CharmanWN,WoodsRL:Subjectivedepthof-focusoftheeye.OptomVisSci74:511-520,199710)魚里博:眼の収差.眼光学の基礎(西信元嗣),p130-134,金原出版,199011)白柳守康:散乱・回折.視覚情報処理ハンドブック(日本視覚学会),p4-5,朝倉書店,200012)魚里博:ピンホール視力と調節麻痺薬点眼後の視力.眼科診療プラクティス9,屈折異常の診療(丸尾敏夫),p98,文光堂,199413)CampbellFW,GubischRW:Opticalqualityofthehumaneye.JPhysiol186:558-578,196614)山本真也,魚里博,川守田拓志ほか:瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響.あたらしい眼科27:1473-1477,201015)OgleKN:Depthoffocusofthehumaneye.JOptSocAm49:273-279,195916)所敬:瞳孔と視力(ピンホール視力).眼科診療プラクティス57,視力の正しい測り方(丸尾敏夫),p62,文光堂,2000***

眼瞼下垂におけるMargin Reflex Distance と上方視野と瞳孔との関係

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)257《原著》あたらしい眼科28(2):257.260,2011cはじめに高齢化社会において眼瞼下垂は増加傾向にあり,視力低下や上方視野狭窄によるqualityoflife(QOL)低下1)につながるため積極的に外科的治療が行われる.眼瞼下垂手術は整容的な目的のみならず,眼科領域では視機能,特に上方視野障害の改善を目的として手術が行われている2).眼瞼下垂手術の術前術後の評価方法として,近年は単眼視下での角膜反射から上眼瞼縁までの距離の測定値であるmarginreflexdistance(MRD)3,4)を一般的に用いて評価が行われている.そこで,MRDと上方視野および瞳孔径の関係を検討したので報告する.I対象および方法2007年4月から2009年12月までに神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科に眼瞼下垂手術希望で来院した患者53名106眼のMRD測定および上方視野測定と瞳孔径測定を行〔別刷請求先〕原直人:〒221-0835横浜市神奈川区鶴屋町3-31-6神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科Reprintrequests:NaotoHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaDentalandMedicalClinic,3-31-6Tsuruya-cho,Kanagawa-ku,Yokohama-city221-0835,JAPAN眼瞼下垂におけるMarginReflexDistanceと上方視野と瞳孔との関係小手川泰枝*1原直人*1鈴木裕美*1大野晃司*1望月浩志*2君島真純*1向野和雄*1*1神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科*2北里大学大学院医療系研究科眼科学RelationsBetweenMarginReflexDistance,SuperiorVisualFieldandPupilDiameterinBlepharoptosisPatientYasueKotegawa1),NaotoHara1),HiromiSuzuki1),KoujiOhno1),HiroshiMochizuki2),MasumiKimishima1)andKazuoMukuno1)1)DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaDentalandMedicalClinic,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity角膜反射から上眼瞼縁までの距離であるmarginreflexdistance(MRD)は,眼瞼下垂の手術適応や手術効果の判定に用いられている.このMRDと上方視野および瞳孔径の関係を検討した.MRDおよび瞳孔径の測定はNONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真をもとに計算し,上方視野の測定はGoldmann視野計を用い上眼瞼挙上せず測定した.その結果,上方視野の値とMRDの測定値の間に正の相関が認められた.MRDが2.0~3.0mmで上方視野25~35°が得られることがわかり,眼瞼下垂の程度を上方の視野狭窄という機能障害として評価ができた.さらにMRDが小さくなると縮瞳する傾向がみられた.Marginreflexdistance(MRD),whichisthedistancebetweenthepapillarylightreflexandtheuppereyelidmargin,itwasusingthedecisionsandtheefficacyofblepharoptosissurgery.WeevaluatedrelationshipbetweenMRD,uppervisualfieldandpupildiameter.WecalculatedMRDfortheanteriorsegmentphotographbyspecularmicroscopyandthesuperiorvisualfieldusingtheGoldmannperimeter,withoutelevationofupperlidandskin.ThesuperiorvisualfieldandMRDweresignificantlyrelated;miosiswascausedbyMRDdecrease.Thisreportshowsthatblepharoptosisisappreciablebyfunctionallesionforsuperiorvisualfielddefect,andrecognizedthat25to35degreesofsuperiorvisualfieldwasprovidedinMRDfrom2.0to3.0mm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):257.260,2011〕Keywords:眼瞼下垂,marginreflexdistance(MRD),上方視野,瞳孔径.blepharoptosis,marginreflexdistance(MRD),superiorvisualfield,pupildiameter.258あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(104)った.上方視野の測定には,GoldmannPerimeter(HAAGSTREIT社製)(以下,Goldmann視野計)を用いた.片眼ずつガーゼ遮閉を行い,前頭筋の使用を抑制するため閉瞼した状態で顎台に顔を乗せ,額を額当てにつけた後に開瞼させ,上眼瞼の挙上および開瞼努力の指示は行わず,正面の黒い固視目標を固視させた.暗室でGoldmann視野計V-4e視標を用い周辺視野測定を行った.上方90°方向と耳側135°および45°と鼻側135°および45°のプロット位置の平均値をGoldmann視野計での上方視野測定値とした(図1).固視目標が見えない場合は上方視野を0°とした.MRDの測定は,新しい試みとしてNONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真をもとに計算を行った.測定は400luxの室内で行い,上方視野測定時と同様に前頭筋の使用を抑制するように顎台に顎を乗せ,上眼瞼の挙上および開瞼努力の指示は行わずに,測定画面の中央部分に被験者の瞳孔が位置するように調整した.その後,内部の視標を固視させストロボ撮影を片眼ずつ行った.前眼部写真の角膜反射を瞳孔中心として上眼瞼縁までの距離を測定し,撮影した前眼部写真の3mmスケールからMRD(mm)を算出した.同様に角膜反射を通る瞳孔横径を3mmスケールから算出し瞳孔径(mm)とした(図2).眼瞼下垂のため角膜反射が得られない場合と角膜反射を通る瞳孔横径が測定できなかった場合は,それぞれMRDを0mm,瞳孔径は測定不可とした.今回は,上眼瞼縁が撮影した前眼部写真から判定できなかった皮膚弛緩症症例については,対象から除外した.検定にはSpearmanの順位相関を用いて,MRDと上方視野,MRDと瞳孔径のそれぞれの相関関係を検定した.II結果全症例53名の平均年齢は63.7±10.7歳(21~82歳)で女鼻側135°=38°上方90°=30°耳側45°=35°鼻側38°+上方30°+耳側35°3=34.3°(上方視野測定値)図1上方視野の計算上方視野測定は暗室でGoldmann視野計のV-4e視標を用い行った.測定は片眼ずつ行い,得られた周辺視野の90°および135°,45°方向のプロット位置の平均値を上方視野測定値とした.また,正面の固視目標が見えない場合は上方視野を0°とした.MRDの計算式瞳孔径の計算式角膜反射から上眼瞼縁の距離(A)×3(mm)3mmスケールの写真上での実測値(B)角膜反射を含む角膜横径(C)×3(mm)3mmスケールの写真上での実測値(B)図2MRDと瞳孔径の計算方法NONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真の角膜反射から上眼瞼縁までの距離(A)(MRD)と角膜反射を通る瞳孔横径(C)と3mmスケールの実測値(B)を用いて,図に示す計算式でMRD(mm)と瞳孔横径(mm)を算出した.角膜反射の得られなかったものに関しては,MRDを0mmとした.また,同様に瞳孔横径も角膜反射が得られない場合もしくは角膜反射を通る左右の瞳孔縁が確認できない場合は測定不可とした.(105)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011259性47名,男性6名であった.症例のうち挙筋機能(levatorfunction:LF)の測定を行っていた41名82眼の平均LFは12.5±2.5mmであり,そのうちLFが10mm以下であったものは8名6眼であった.106眼の平均MRDは1.75±1.22mm(0~4.91mm),平均上方視野は25.5±12.1°(3.0~54.0°)であった.瞳孔横径が測定可能であった43名75眼の全平均瞳孔径は4.30±0.62mm(2.4~6.0mm)であった.MRDと上方視野には相関関係を認め(r=0.925,p=0.0001),MRDが大きくなると上方視野は広くなった(図3).MRD0.5mm以下で上方視野10°以下,MRD1.0~1.5mmで上方視野約20~25°,MRD2.0~2.5mmで上方視野約30°,MRD3.0~3.5mm以上で上方視野35°以上であった(表1).全症例のMRDと瞳孔径に相関関係を認め(r=0.339,p=0.002),MRDが小さくなると瞳孔径も小さくなる傾向を示した(図4).III考察眼瞼下垂の術前評価方法としては,MRDを用いた評価方法5~7)が報告されている.MRDと瞳孔径に関しては,MRDが小さくなると瞳孔径も小さくなる傾向を示した.術前にMRDから上方視野が予測可能であることは有用であると考えられた.術前は,MRDから上方視野狭窄による視機能障害としての評価が可能になり,Goldmann視野計を用いていない施設においてもMRD測定値から眼瞼下垂手術前後の上方視野評価ができることは有用である.MRDと上方視野の研究には自動視野計とGoldmann視野計を用いたものがある.自動視野計での上方視野測定では手術後MRD3.5mm以上の場合で最も上方視野改善を示したとする報告8)や,MRD2.5mm以下になると上方視野はGoldmann視野計のIII4-e視標で12°,自動視野計の10dB視標で30%障害されることが報告されている1).筆者らは,Goldmann視野計のV4-e視標で測定を行っており,過去の報告よりも明るい視標で上方視野を評価したため,MRD2.5mmで上方視野30°と,より広い上方視野結果となったと考える.一方でGoldmann視野計での上方視野測定の方法は,自動視野計に比べ短時間で検査手技も容易で高齢者にも適しており9),手術適応と手術効果の判定についてV4-e視標を用いて報告2)されていることからも,本研究における上方視野評価にGoldmann視野計を用いたことは,提示視標の選択に問題はなかったと考えられた.今回の症例のうち,皮膚弛緩症で前眼部写真より上眼瞼縁が判定できなかった症例を検討の対象から除外した.皮膚弛緩症例は,皮膚弛緩による見かけ上のMRDと真のMRDに差異があり,当然皮膚が弛緩していることにより見かけ上のMRDは小さく2),上方視野は障害されていることが考えら表1MRD別上方視野の平均値MRD(mm)平均上方視野(°)<0.510.0±4.7(中央値:8.7)~1.019.4±4.5(中央値:18.3)~1.523.4±6.6(中央値:25.7)~2.027.0±5.5(中央値:27.8)~2.531.4±3.1(中央値:30.1)~3.038.5±3.5(中央値:38.3)~3.540.4±5.2(中央値:40.3)3.5<45.7±4.6(中央値:46.0)Marginreflexdistance(mm)瞳孔径(mm)n=75r=0.339p=0.00276543200.511.522.533.544.555.5図4MRDと瞳孔径53名106眼のうち瞳孔径が測定可能であった43名75眼のMRD(mm)と瞳孔径(mm)を示す.横軸がMRD(mm),縦軸が瞳孔径(mm)で,MRDが小さくなると瞳孔径は縮瞳する傾向を認めた(r=0.339,p=0.002).60555045403530252015105000.511.522.5Marginreflexdistance(mm)上方視野(°)33.544.555.5n=106r=0.925p=0.0001図3全症例におけるMRDと上方視野全53名106眼のMRD(mm)と上方視野(°)を示す.横軸がMRD(mm),縦軸が上方視野(°)で,MRDが小さくなると上方視野は有意に狭くなった(r=0.925,p=0.0001),おおよそ角膜反射が得られないMRD0.5以下の場合は上方視野が10°以下で,MRD1.0~1.5mmで上方視野20~25°,MRD2.0~2.5mmで上方視野30°,MRD3.0mm以上で上方視野35°以上であった.260あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(106)れる.今後,皮膚弛緩症患者における見かけ上のMRDと真のMRDで上方視野測定の検討が必要と考えられた.文献1)FedericiTJ,MeyerDR,LiningerLL:Corelationofthevision-relatedfunctionalimpairmentassociatedwithblepharoptosisandtheimpactofblepharoptosissurgery.Ophthalmology106:1705-1712,19992)西本浩之,北原美幸,堤瑛理ほか:眼瞼下垂手術におけるGoldmann視野計による視野評価とその有用性.眼科手術22:221-224,20093)川本潔:スムースな開瞼と閉瞼を意識した眼瞼下垂手術.眼科手術20:359-363,20074)MeyerDR,LinbergJV,PowellSRetal:Quantitatingthesuperiorvisualfieldlossassociatedwithptosis.ArchOphthalmol107:840-843,19895)RubinPA:Eyelidpositionmeasurement.Ophthalmology112:524,20056)EdwardsDT,BartleyGB,HodgeDOetal:EyelidpositionmeasurementinGraves’ophthalmopathy:Reliabilityofaphotographictechniqueandcomparisonwithaclinicaltechnique.Ophthalmology111:1029-1034,20047)CoombesAG,SethiCS,KirkpatrickWN:Astandardizeddigitalphotographysystemwithcomputerrizedeyelidmeasurementanalysis.PlastReconstrSurg120:647-656,20078)HackerHD,HollstenDA:Investigationofautomatedperimetryinevalutionofpatientsforupperlidblepharoplasty.OphthalmicPlastReconstrSurg8:250-255,19929)RiemannCD,HansonS,FosterJA:Acomparisonofmanualkineticandautomatedstaticperimetryinobtainingptosisfields.ArchOphthalmol118:65-69,2000***

検査距離が両眼加算に及ぼす影響

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(133)8570910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):857860,2009cはじめに両眼加算(binocularsummation)とは,両眼視下の視機能が単眼視下の視機能を上回る状態であり1),弱視斜視領域2,3)や屈折矯正術後4)などさまざまな領域における視機能評価として用いられている.しかし,これらの報告はいずれも,ある一定の検査距離に限った評価によるものが多い.一方,モノビジョンでは近見視,中間視,遠見視における両眼加算を評価することによって,より日常を反映した視機能評価を行っている5,6).このように,日常の視機能を評価するうえでは,さまざまな検査距離における両眼加算の状態を知る必要があるが,健常人における報告はいまだ認められない.そこで今回筆者らは,健常人において検査距離が両眼加算に及ぼす影響について検討した.I対象および方法対象は1831歳(23.8±4.9歳:平均値±標準偏差)の,軽度屈折異常以外に器質的眼疾患を有さない有志者10例(男性2例,女性8例)である.優位眼および非優位眼の自覚的平均等価球面値は,それぞれ+0.10±0.24(平均値±標準偏差)D(0.25+0.50D),+0.15±0.17D(0+0.50D),であり,両者に有意差を認めない(pairedt-test,p=0.44).また,優位眼および非優位眼の裸眼視力(logMAR値を用いて平均値を算出後,少数視力に換算)はともに1.4(1.02.0)であった.北里大式眼優位性定量チャート7)を使用して評価〔別刷請求先〕鈴木任里江:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:MarieSuzuki,C.O.,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara-shi228-8555,JAPAN検査距離が両眼加算に及ぼす影響鈴木任里江*1魚里博*1石川均*1庄司信行*1清水公也*2*1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻*2北里大学医学部眼科学教室EectsofTestDistanceonBinocularSummationMarieSuzuki1),HiroshiUozato1),HitoshiIshikawa1),NobuyukiShoji1)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity検査距離が両眼加算に及ぼす影響について検討した.対象は正視有志者10例.近見(0.46m)および遠見(3m)注視時のコントラスト感度および瞳孔径を,両眼開放下および優位眼単眼視下で測定し,両眼加算比,両眼開放時の瞳孔変化量および瞳孔面積を比較した.空間周波数3,6,12,18cycles/degreeにおける両眼加算比は,近見視時に比べ遠見視時にて大きく有意差を認めた.また,両眼開放時の瞳孔変化量は,近見視時に比べ遠見視時のほうが小さく有意差を認めた.一方,両眼開放時の瞳孔面積は,遠見視時のほうが大きかったが有意差は認めなかった.中間から高空間周波数領域における両眼加算比は遠見視時ほど大きくなることが示唆された.Weevaluatedtheinuenceoftestdistanceonbinocularsummationin10emmetropes.Contrastsensitivityandpupildiameterweremeasuredatnear(0.46m)andfar(3m)distancesunderbinocularandmonocularconditions.Thebinocularsummationratio,rateofpupillarychangebetweenbinocularandmonocularconditions,andpupilareaunderbinocularconditionwerecomparedbetweenthetwotestdistances.Thebinocularsummationratioatfardistancewasbetterthanthatatnear,withinthespatialfrequencyrangeof3.0,6.0,12.0and18.0cyclesperdegree.Moreover,therateofpupillarychangeatfardistancewassignicantlysmallerthanthatatnear.Incon-trast,thebinocularpupilareaatfardistancewaslargerthanthatatnear,althoughthedierencewasnotsignicant.Thissuggeststhatinthemoderatetohighspatialfrequencyrange,binocularsummationbecomesgreaterwithdistance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):857860,2009〕Keywords:両眼加算,検査距離,瞳孔径,眼位.binocularsummation,testdistance,pupildiameter,eyeposition.———————————————————————-Page2858あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(134)したsensorydominanceは63.0±17.0(平均値±標準偏差)%(4090%)であった.Alternateprismcovertestによる眼位は,近見(0.46m)5.0±3.7(平均値±標準偏差)Δ(010Δ)外斜位,遠見(3m)2.2±1.8Δ(04Δ)外斜位であり,両者に有意差を認めた(pairedt-test,p<0.01).両眼加算の評価には,コントラスト感度および瞳孔径を用いた.コントラスト感度の測定には,functionalacuitycontrasttest(FACT)(StereoOptical社)の近点検査用視標および遠点検査用視標を使用した.測定距離は0.46m,3mの2点とし,両眼開放下および優位眼単眼視下コントラスト感度を測定した.なお,単眼視下コントラスト感度の測定時には,非検査眼をガーゼにて遮閉した.0.46mにおける測定にはFACTの近点検査用視標を,3mにおける測定には遠点検査用視標を使用した.両距離における各視標の視角は1.7°である.視標面照度は400lxに設定した.各検査距離および空間周波数領域におけるコントラスト感度は3回測定し,その平均値を解析に用いた.両眼加算の評価には,両眼加算比〔両眼開放下コントラスト感度/優位眼単眼視下コントラスト感度〕2)を使用し,各検査距離における両眼加算比を比較した.なお,あらかじめ優位眼と非優位眼のコントラスト感度に有意差がないことを確認したうえで,今回は優位眼単眼視下のコントラスト感度を評価に用いた.また,測定順序は被検者によって無作為に決定した.統計には二元配置分散分析法ならびにBonferoni/Dunn法を用いた.瞳孔径の測定にはFP-10000(TMI社)を使用した.測定距離は0.46m,3mの2点とし,両眼開放時および優位眼単眼視時の優位眼の瞳孔径を測定した.測定はコントラスト感度測定と同時に行った.瞳孔の横径から瞳孔面積〔(横径/2)2×3.14〕を求め,各検査距離における瞳孔面積を比較した.さらに,単眼視時から両眼開放にしたときの瞳孔面積の変化量〔(単眼視時瞳孔面積両眼視時瞳孔面積)/単眼視時瞳孔面積〕を,検査距離ごとに比較した.統計にはWilcox-on符号順位検定を用いた.II結果図1に対数コントラスト感度の結果を示す.いずれの検査距離においても,両眼開放下コントラスト感度は単眼視下コントラスト感度を上回った(二元配置分散分析法,p<0.01).図2は両眼加算比の結果である.空間周波数1.5cycles/2.01.01.536空間周波数(cycles/degree)182.01.01.536121218対数コントラスト感度B)対数コントラスト感度A)図1対数コントラスト感度A)は検査距離0.46m,B)は検査距離3mにおける対数コントラスト感度の結果を示す.実線は両眼開放下,点線は優位眼単眼視下の対数コントラスト感度を示す.3.02.01.00空間周波数(cycles/degree)両眼加算比1.5361218*******図2両眼加算比白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の両眼加算比を示す.*:p<0.05,**:p<0.01(Bonferoni/Dunn法).0.50.40.30.20.10近見視時遠見視時瞳孔変化量*図3両眼開放時の瞳孔変化量白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の瞳孔変化量を示す.瞳孔変化量は遠見視時のほうが小さく,有意差を認めた.*:p<0.05(Wilcoxon符号順位検定).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009859(135)degree(cpd)を除くすべての空間周波数領域において,遠見視時の両眼加算比は近見視時の両眼加算比を上回り,有意差を認めた(Bonferoni/Dunn法,3.0cpdp<0.05,6.018.0cpdp<0.01).なお,全例の両眼加算比は,検査距離および空間周波数にかかわらず1.0以上であった.図3は両眼開放時の瞳孔変化量,図4は両眼開放時の瞳孔面積の結果である.両眼開放時の瞳孔変化量は,近見視時に比べ遠見視時に小さくなり有意差を認めた(Wilcoxon符号順位検定,p<0.05).一方,遠見視時の瞳孔面積は近見視時に比べ大きい傾向にあるが,有意差は認められなかった.III考按今回の結果から,1.5cpdを除くすべての空間周波数領域において,遠見視時の両眼加算比が近見視時に比べ大きくなることがわかった.また,両眼開放時の瞳孔変化量は,遠見視時に比べ近見視時に大きくなった.川守田ら8)は,単眼視下における瞳孔径および高次収差の総和は,両眼開放時に比べ有意に高値を示したことより,単眼視下では網膜結像特性の低下を導くことを示唆している.言い換えれば,両眼開放下では単眼視下に比べ瞳孔径が小さくなることにより網膜結像特性が上昇し,視機能も向上するということである.すなわち,両眼開放時の瞳孔変化量が大きいほど両眼加算に有利になると考えられる.さらに,近見視時には近見反応として輻湊,調節,縮瞳の3反応が誘発される9)ことから,近見視時のほうが遠見視時に比べ両眼開放時の瞳孔変化量は大きくなり,両眼加算に有利になることが予想される.しかし,本実験の結果では,瞳孔変化量の小さい遠見視時のほうが近見視時に比べ両眼加算比が大きくなっており,上述に反する結果となった.したがって,両眼開放時の瞳孔変化量が大きいからといって必ずしも両眼加算比が大きくなるとは限らないことが推察された.一方,Medinaら10)は,瞳孔径が大きいほど両眼加算が大きくなることを示しており,網膜照度の影響を示唆している.本実験においても,両眼加算比が大きい遠見視時の両眼開放時瞳孔面積は,近見視時に比べ大きい傾向にあり,Medinaらの報告を支持するものである.しかし,Medinaらの実験は低照度下で行っているのに対し,本実験の視標面照度は400lxと高照度であり,実験条件が異なっているため,今後さらなる検討が必要であると考える.また,本実験の被験者の眼位は全例10Δ以内の外斜位であり,斜位角は遠見視時のほうが近見視時に比べ有意に小さかった.Ogleら11,12)は,斜位角の大きさによってxationdisparityが変化することを報告しており,Jampolskyら13)は,外斜位の場合,近見視時には斜位角が増加するにつれxationdisparityが増加することを報告している.さらに,xationdisparityと両眼加算の関係についてはこれまでにも多くの実験が行われており,一貫してxationdisparityが大きくなるほど両眼加算が減少すると報告されている14,15).以上のことから,本実験の被験者は,近見視時には外斜位の影響によりxationdisparityが大きかったために両眼加算比が減少し,対して遠見視時にはxationdisparityの影響が小さかったために,近見視時に比べ両眼加算比が大きくなったことが推察される.また,Jaschinski16)は,proximity-xation-disparitycurves,すなわち視距離の近接によりxationdisparityが増加することを報告していることから,眼位にかかわらず近見視時にはxationdisparityが大きくなり,両眼加算が減少する可能性が推察された.両眼加算の影響因子についてはこれまでにも多くの報告があり,眼優位性5),視標サイズ17),刺激する網膜部位17,18)などがあげられている.このうち,眼優位性に関しては,両眼の視機能に左右差がある場合にその影響が生じると考えられるが,本実験の被験者の眼優位性は平均的な強さであったことから,本結果の影響因子としては考えにくい.また,本実験では検査距離にかかわらず視標の視角は1.7°と一定であったことから,視標サイズの影響も考えにくい.刺激網膜部位に関しては,永井ら18)が,中心視野および下方視野で,若山ら17)が,刺激網膜部位が中心窩から偏心するほど,両眼加算が大きくなることを報告している.しかし,本実験では刺激網膜部位についての影響は検討していないため,今後さらなる検討が必要である.また,一般に両眼加算比は2であることが知られている1)が,本実験では検査距離や空間周波数によってさまざまな両眼加算比を示した.安達19)は,6種の空間周波数の縦縞を視標に用い,片眼視時および両眼視時にてVECP(視覚誘発脳波)を記録した結果,両眼視時の振幅は片眼視時の2030%増大したと報告している.同様にBakerら2)も,コントラスト感度を用いた実験によって,両眼加算比1.7を示す健常者がいたと報告していることか2520151050近見視時遠見視時瞳孔面積(mm)NS図4両眼開放時の瞳孔面積白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の瞳孔面積を示す.NS:notsignicant(Wilcoxon符号順位検定).———————————————————————-Page4860あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(136)ら,両眼加算比は検査条件などにより変動し,2を超える場合もあることが示唆された.以上のことから,遠見視時の両眼加算比は近見視時に比べ大きく,瞳孔径および眼位が影響している可能性が推察された.今後,両眼加算を視機能評価として用いる際には,検査距離による影響も加味する必要性が示唆された.本研究の一部は科研費(若手研究(B)19791288)の助成を受けたものである.文献1)SteinmanSB,SteinmanBA,GarziaRP:Binocularsum-mation.FoundationsofBinocularVision,p153-171,TheMcGraw-HillCompanies,NewYork,20002)BakerDH,MeeseTS,MansouriBetal:Binocularsum-mationofcontrastremainsintactinstrabismicamblyopia.InvestOphthalmolVisSci48:5332-5338,20073)PardhanS,GlichristJ:Binocularcontrastsummationandinhibitioninamblyopia.Theinuenceoftheinteroculardierenceonbinocularcontrastsensitivity.DocOphthal-mol82:239-248,19924)BoxerWachlerBS:EectofpupilsizeonvisualfunctionundermonocularandbinocularconditionsinLASIKandnon-LASIKpatients.JCataractRefractSurg29:275-278,20035)新田任里江,清水公也,新井田孝裕:モノビジョン法における眼優位性の影響─第一報:優位眼の矯正状態による視機能への影響─.日眼会誌111:435-440,20076)清水公也:モノビジョン白内障手術による老視治療.あたらしい眼科22:1067-1072,20057)半田知也,魚里博:眼優位性検査法とその臨床応用.視覚の科学27:50-53,20068)川守田拓志,魚里博:両眼視と単眼視下における瞳孔径が昼間視と薄暮視下の視機能に与える影響.視覚の科学26:71-75,20059)石川均:瞳孔系のみかた2)輻湊調節障害.臨床神経眼科学(柏井聡編),p135-139,金原出版,200810)MedinaJM,JimenezJR,JimenezdelBarcoL:Theeectofpupilsizeonbinocularsummationatsuprathresholdconditions.CurrEyeRes26:327-334,200311)OgleKN,PrangenAD:Furtherconsiderationsofxationdisparityandthebinocularfusionalprocesses.AmJOph-thalmol34:57-72,195112)OgleKN:Fixationdisparity.AmOrthoptJ4:33-39,195413)JampolskyA,FlomBC,FreidAN:Fixationdisparityinrelationtoheterophoria.AmJOphthalmol43:97-106,195714)Heravian-ShandizJ,DouthwaiteWA,JenkinsTC:Eectofinducedxationdisparitybynegativelensesonthevisuallyevokedpotentialwave.OphthalmicPhysiolOpt13:295-298,199315)TunnaclieAH,WilliamsAT:Theeectofhorizontaldierentialprismonthebinocularcontrastsensitivityfunction.OphthalmicPhysiolOpt6:207-212,198616)JaschinskiW:Theproximity-xation-disparitycurveandthepreferredviewingdistanceatavisualdisplayasanindicatorofnearvision.OptomVisSci79:158-169,200217)若山暁美:両眼視野におけるbinocularsummationの影響.あたらしい眼科23:721-727,200618)永井紀博,木村至,大出尚郎ほか:Multifocalvisualevokedpotentialsによる両眼加算の解析.眼紀55:711-714,200419)安達惠美子:両眼視におけるVECP振幅vs.空間周波数曲線.日眼会誌83:298-301,1979***