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黄斑円孔術後に瞼球癒着を生じたStevens-Johnson 症候群 既往の1 例

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):705.708,2021c黄斑円孔術後に瞼球癒着を生じたStevens-Johnson症候群既往の1例小池晃央谷川篤宏水口忠杉本光生鈴木啓太堀口正之藤田医科大学眼科学教室ACaseofStevens-JohnsonSyndrome(SJS)inwhichSymblepharonRecurredAfterVitrectomyforaMacularHoleAkihisaKoike,AtsuhiroTanikawa,TadashiMizuguchi,MitsuoSugimoto,KeitaSuzukiandMasayukiHoriguchiCDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicineC緒言:Stevens-Johnson症候群(SJS)発症から約C30年経過し,比較的落ち着いた慢性期の症例に合併した黄斑円孔の硝子体手術後に新たに瞼球癒着を生じたC1例を報告する.症例:63歳の女性.既往歴:SJSによる両眼の睫毛乱生と軽度の瞼球癒着.現病歴:右眼の視力低下を主訴に近医を受診し,右眼黄斑円孔を指摘され当院を紹介受診した.初診時の矯正視力は右眼C0.4,左眼C1.0.黄斑円孔に対しCSFC6ガスタンポナーデを併用したC25ゲージ経結膜硝子体手術を施行した.術後経過は順調で円孔は閉鎖し,前医での経過観察となった.6カ月後の当院再診時,経CTenon.下球後麻酔時に結膜切開した部位に新たな瞼球癒着が観察された.自覚症状の悪化や眼球運動制限はなかった.結膜切開部分のバイポーラによる止血や創口閉鎖が誘引となった可能性が考えられた.結論:SJSは比較的鎮静化した慢性期であっても,手術などの侵襲で再燃する可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCchronic-phaseCStevens-Johnsonsyndrome(SJS)inCwhichCsymblepharonCrecurredpostvitrectomyforamacularhole(MH)C.Patient:A63-year-oldwomanwithSJSunderwenttreatmentforCtrichiasisCandCsymblepharon.CPostCtreatment,CsheCcomplainedCofCblurredCvisionCinCherCrightCeye,CandCwasCreferredtoourhospitalfortreatmentofaMH.Results:Hervisualacuitywas0.4(OD)and1.0(OS)C.VitrectomywasCperformedCwithCaCsulfurhexa.uoride(SFC6)gasCtamponade,CandCtheCMHCwasCclosedCwithCnoCadverseCevents.CHowever,CatC6-monthsCpostoperative,CsymblepharonCrecurredCatCtheCconjunctival-incisionCsiteCforCtrans-Tenon’sCcapsuleretrobulbaranesthesia.Therewasnodeteriorationofsubjectivesymptomsorrestrictionofeyemovement.Wesuspectedthattheconjunctivalincision,diathermy-relatedhemostasis,and/orwoundclosuremighthavetrig-geredtherecurrence.Conclusions:Eveninrelativelymildchronic-phaseSJScases,symblepharoncanrecurduetoinvasivesurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(6):705.708,C2021〕Keywords:スティーブンス・ジョンソン症候群,瞼球癒着,球後麻酔,黄斑円孔.Stevens-Johnsonsyndrome,symblepharon,retrobulbaranesthesia,macularhole.Cはじめにスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)はC38℃以上の発熱を伴う口唇,眼結膜,外陰部などの皮膚粘膜移行部における重度の粘膜疹および皮膚の紅斑で,しばしば水疱や表皮.離などの壊死性障害を認める全身性皮膚粘膜疾患である.わが国では皮疹の面積が10%未満のものをCSJS,それ以上のものは中毒性表皮壊死症(toxicepidermalCnecrolysis:TEN)とよぶ1).SJSの病因,病態には遺伝的素因,自然免疫応答,感染や薬剤といったさまざまな誘因が密接にかかわると考えられている2.7).急性期の眼病変として偽膜形成や角結膜上皮欠損を伴う症例はSJS/TEN全体の約C40%といわれている2).〔別刷請求先〕小池晃央:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪C1-98藤田医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkihisaKoike,DepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversity.1-98Dengakugakubo,Kutsukake-cho,Toyoake,Aichi470-1192,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(101)C705今回筆者らはCSJS発症から約C30年経過し,比較的落ち着いた慢性期の状態であった症例に合併した黄斑円孔に対して硝子体手術を施行したところ,術後に新たな瞼球癒着を生じたC1例を経験したため,その原因についての考察を含めて報告する.CI症例患者:63歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:数カ月前からの右眼視力低下を自覚し,2018年8月に近医眼科より黄斑円孔の治療目的で当院へ紹介となった.既往:1989年に椎間板ヘルニア手術後にCSJSを発症した.原因薬剤としてセフェム系抗菌薬,非ステロイド性抗炎症薬(nonCsteroidalCantiin.ammatoryCdrugs:NSAIDs)が疑わ図1初診時の右眼前眼部所見れていた.両眼の睫毛乱生と軽度の瞼球癒着が残存したが重篤な後遺症もなく,黄斑円孔発症前の矯正視力は右眼C1.0,左眼C1.0であり,近医眼科での定期的な睫毛抜去とドライアイの点眼治療で,比較的落ち着いた慢性期の状態であった.家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C0.1(0.4C×sph+0.75D(cyl.1.00DCAx90°),左眼0.8(1.0C×sph+1.50D(cyl.2.00DCAx90°).眼圧は右眼C16.0CmmHg,左眼C16.0CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査にて両眼の睫毛乱生と下眼瞼円蓋部に軽度の瞼球癒着を認めたが,結膜充血はなかった(図1).右眼眼底検査にて黄斑円孔を認めた(図2).経過:2018年C9月に角膜切開による水晶体再建術を併用したC25ゲージ経結膜硝子体手術を施行し,SFC6ガスタンポナーデを行った.手術開始時にC4%リドカインによる点眼麻酔ののち,耳下側の結膜をC2Cmm程度切開してカテーテルを挿入し,カテーテル内に球後針を通してCTenon.を経由して球後にC2%リドカインC3Cmlを投与する経CTenon.下球後麻酔を行った8)(図3).その際バイポーラを用いて止血と結膜創の閉鎖を行った.その後C3ポートを耳上側,耳下側,鼻上側に設置し,術終了時にはバイポーラを用いてポート部の結膜創を閉鎖した9).周術期には既往のCSJS発症の原因薬剤の使用を避け,点眼薬にはレボフロキサシン点眼とベタメタゾン点眼を使用した.術後C7日目には光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて黄斑円孔の閉鎖が確認できた.SJSの角結膜や眼瞼所見の悪化もみられず,経過は順調であったため術後C9日目に退院となり,15日目には近医眼科へ紹介となった(図4).術後約C6カ月の当院での再診時の所見:視力は右眼C0.6(0.8C×IOL×sph+0.75D(cyl.0.75DAx120°),左眼1.0(1.2C×sph+0.75D(cyl.1.00DAx90°).眼圧は右眼12.0mmHg,図2初診時の右眼所見a:眼底写真.b:OCT.黄斑円孔を認める.706あたらしい眼科Vol.38,No.6,2021(102)図3経Tenon.下球後麻酔時の写真右眼下耳側結膜切開部位からCTenon.下に外筒となるカニューラを挿入しているところ.この後,球後針を通して経CTenon.下球後麻酔を行う.図4術後7日目の右眼の所見a:眼底写真.留置したCSFC6が上方に残存している.b:OCT.黄斑円孔は閉鎖している.図5術後6カ月の右眼前眼部所見a:細隙灯顕微鏡所見.耳下側に新たな瞼球癒着を認める.b:aの拡大写真.(103)あたらしい眼科Vol.38,No.6,2021C707左眼C14.0CmmHgであった.右眼下耳側に新たな瞼球癒着を認めた(図5)が,自覚症状の悪化はなく,複視もみられなかった.術後C1年後の視力は右眼C1.0(n.cC×IOL),左眼C1.2(1.5C×sph+1.00D(cyl.1.25DAx90°)であった.本症例におけるCSJS眼合併症の重症度評価をCNewCGrad-ingCSystem10)を用いて術前後で比較した.術前では角膜合併症として点状表層角膜炎がC1点,結膜合併症として瞼球癒着がC1点,眼瞼合併症として睫毛乱生がC1点で,合計スコア値はC3点であった.術後には新たな瞼球癒着が生じたが,結膜上のみであったため結膜合併症スコア値はC1点のまま悪化せず,角膜や眼瞼合併症も不変だったため,合計スコア値は3点のままであった.CII考按今回筆者らはCSJS発症からC30年経過し,比較的落ち着いた慢性期の状態であった症例に合併した黄斑円孔に対して硝子体手術を施行したところ,術後に新たな瞼球癒着を生じた1例を経験した.SJSによる眼症状として急性期のものとして結膜充血,偽膜形成,角膜上皮欠損,慢性期のものとしてドライアイ,睫毛乱生,瞼球癒着,角膜の結膜上皮化がある.発症の誘因となる薬剤として,総合感冒薬やCNSAIDs,抗菌薬,抗けいれん薬が多いとされているが3,6,7),本症例でもCNSAIDsとセフェム系抗菌薬が疑われていた.したがって周術期の点眼薬にはそれらを使用しないで術後管理を行ったにもかかわらず,自覚症状を伴わない新たな軽度の瞼球癒着を生じた.瞼球癒着を生じる原因としては,外傷,手術,化学腐食,SJS,眼類天疱瘡,移植片対宿主病などがある.本症例では手術時に経CTenon.下球後麻酔を施行した部位と,3ポートの設置部位の計C4カ所において結膜の切開とバイポーラによる止血と創口閉鎖を施行したが,新たな瞼球癒着を生じた部位は経CTenon.下球後麻酔で切開した部位のみだった.その理由として,経CTenon.下球後麻酔の結膜切開創が硝子体手術のポート部の結膜刺入創より大きいため,創口治癒過程における炎症が比較的広範囲であった可能性が考えられる.眼類天疱瘡はCSJSと同様に眼表面の瘢痕性変化をきたす疾患であるが,慢性期においても結膜切開を伴う手術を契機に瘢痕性病変が急激に悪化することがあることが報告されている11,12).本症例の結膜切開創部分の眼瞼癒着についても類似した病態による可能性がある.本症例では術後に新たな瞼球癒着が生じたが,NewGrad-ingSystemを用いた合計スコア値は術前後でC3点のまま悪化はみられなかった.NewCGradingSystemはCSotozonoらが提案したもので,角膜,結膜,眼瞼のC3つの部位の合併症C708あたらしい眼科Vol.38,No.6,2021についてのC13項目をC0からC3点でスコアリングを行う.スコア値は視力と相関しており,SJS眼病変の重症度を評価できる10).本症例はCSJSの重症度としては軽症で,術前後でスコア値が不変であったことから,新たに生じた瞼球癒着は比較的軽度で,視力を脅かすほどのものではなかったことを示している.SJSは長年の経過を経て鎮静化していても,眼科手術などの侵襲により再燃する可能性があるため注意が必要である.利益相反:堀口正之:【P】文献1)塩原哲夫,狩野葉子,水川良子ほか:重症多形滲出性紅斑スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン(解説).日眼会誌121:42-86,C20172)上田真由美:眼科におけるCStevens-Johnson症候群の病型ならびに遺伝素因.あたらしい眼科C32:59-67,C20153)上田真由美:重症薬疹と眼障害.あたらしい眼科C35:C1365-1373,C20184)三重野洋喜,外園千恵:薬剤副作用と医薬品被害救済制度.あたらしい眼科35:1375-1380,C20185)SotozonoCC,CUetaCM,CNakataniCECetal:PredictiveCfactorsCassociatedCwithCacuteCocularCinvolvementCinCStevens-John-sonCsyndromeCandCtoxicCepidermalCnecrolysis.CAmCJCOph-thalmolC160:228-237,C20156)UetaM,KaniwaN,SotozonoCetal:IndependentstrongassociationofHLA-A*02:06andHLA-B*44:03withcoldmedicine-relatedCStevens-JohnsonCsyndromeCwithCserveCmucosalinvolvement.SciRepC4:4862,C20147)UetaM,SawaiH,SotozonoCetal:IKZF1,anewsuscepti-bilityCgeneCforCcoldCmedicine-relatedCStevens-JohnsonCsyn-drome/toxicCepidermalCnecrolysisCwithCseverCmucosalCinvolvement.JAllergyClinImmunolC135:1538-1545,C20158)SugimotoCM,CHoriguchiCM,CTanikawaCACetal:NovelCret-robulbarCanesthesiaCtechniqueCthroughCtheCsub-Tenon’sCspaceusingasharpneedleinabluntcannula.OphthalmicSurgLasersImagingRetinaC44:483-486,C20139)BosciaCF,CBesozziCG,CRecchimurzoCNCetal:CauterizationCforthepreventionofleakingsclerotomiesafter23-gaugetransconjunctivalCparsplanaCvitrectomy:anCeasyCwayCtoCobtainsclerotomyclosure.Retina31;988-990,C201110)SotozonoCC,CAngCLP,CKoizumiCNCetal:NewCgradingCsys-temfortheevaluationofchronicocularmanifestationsinpatientsCwithCStevens-JohnsonCsyndrome.COphthalmologyC114:1294-1302,C200711)MondinoBJ,BrownSI,LempertSetal:Theacutemani-festationsCofCocularCcicatricialpemphigoid:diagnosisCandCtreatment.OphthalmologyC86:543-555,C197912)DeCLaCMazaCMS,CTauberCJ,CFosterCS:CataractCsurgeryCinCocularCcicatricialCpemphigoid.COphthalmologyC95:481-486,C1988(104)

眼所見から診断されたStevens-Johnson症候群の1例

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):451.454,2016c眼所見から診断されたStevens-Johnson症候群の1例鈴木智浩*1大口剛司*1北尾仁奈*1木嶋理紀*1岩田大樹*1水内一臣*1野村友希子*2田川義継*3石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2北海道大学大学院医学研究科皮膚科学分野*3北1条田川眼科ACaseofStevens-JohnsonSyndromeDiagnosedbyOcularFindingsTomohiroSuzuki1),TakeshiOhguchi1),NinaKitao1),RikiKijima1),DaijuIwata1),KazuomiMizuuchi1),YukikoNomura2),YoshitsuguTagawa3)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)UniversityGraduateSchoolofMedicine,3)TagawaEyeClinicDepartmentofDermatology,Hokkaido目的:皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみを呈したStevens-Johnson症候群(SJS)の1例について報告する.症例:20歳,女性.当院初診の10日前,発熱と両眼の充血,眼脂を自覚し総合感冒薬を内服.3日後内科を受診し,咽頭結膜熱の診断でアセトアミノフェン内服処方された.同日眼科を受診し,アデノウイルス結膜炎の診断で点眼処方されるも炎症所見が徐々に増悪したため当院紹介となった.両眼瞼結膜に偽膜形成,瞼球癒着,角膜びらんがみられ,SJSが疑われた.皮膚科を受診し,口腔内に粘膜疹を認めたが皮膚病変はみられなかった.しかし,発熱・粘膜病変および眼所見よりSJSと診断し,即日ステロイドパルス療法が開始された.その後徐々に充血,偽膜,瞼球癒着,角膜びらんは改善した.結論:SJSは皮膚病変を伴わず,眼症状を含めた粘膜病変のみを呈することがあり,十分な注意が必要である.Purpose:WereportacaseofStevens-Johnsonsyndrome(SJS)thatmainlydevelopedocularfindingswithoutskinlesions.Case:A20-year-oldfemalehada3-dayhistoryoffever,eyerednessanddischarge.Althoughshetookacetaminophen,thesymptomswerenotresolved.Inaneyeclinic,adenovirusconjunctivitiswassuspectedandshewastreatedwithtopicaltreatments,buthersymptomswereexacerbated.Onherfirstvisittoourhospital,shehadbilateralpseudomembranousconjunctivitis,symblepharonandcornealerosion.Oralmucousmembranedisorderwasalsodetected,butnoteruptionofskin.AdiagnosisofSJSwasestablishedbasedontheseobservations.Methylprednisolonepulsetherapywasinitiatedandhersymptomsgraduallyimproved.Conclusion:MostSJSpatientshaveocularfindingsandmucousmembranedisorder;somelackskineruption.Thediagnosisshouldbecarefullyestablishedforapatientwithoutskinlesions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):451.454,2016〕Keywords:Stevens-Jonson症候群,ステロイドパルス療法,瞼球癒着,角膜びらん,アセトアミノフェン.Stevens-Jonsonsyndrome,steroidpulsetherapy,symblepharon,cornealerosion,acetaminophen.はじめにStevens-Johnson症候群(SJS)は発熱を伴って全身の皮膚および粘膜にびらんと水疱を生じる,急性の全身性皮膚粘膜疾患である.SJSの発症頻度は人口100万人当たり1.6人である1).その原因のほとんどは薬剤によるものであるが,ウイルス感染などで発症することもある.今回筆者らは皮膚病変を伴わず,眼所見および他の粘膜病変のみを呈したSJSの1例を経験したので報告する.I症例患者:20歳,女性.主訴:両眼痛,開瞼困難.現病歴:当院初診の10日前,38℃の発熱があり市販の総合感冒薬を内服.その後両眼の充血,眼脂を自覚した.3日後内科を受診したところ咽頭結膜熱の診断でアセトアミノフェン内服処方された.同日眼科を受診し,アデノウイルス〔別刷請求先〕鈴木智浩:〒060-8638札幌市北区北15条7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:TomohiroSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8638,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(121)451 結膜炎の診断で0.1%フルオロメトロン,1.5%レボフロキサシン点眼処方されるも眼症状改善なく0.01%リン酸ベタメタゾン点眼に変更された.しかし,前眼部の炎症所見が徐々に増悪したため当院紹介となった.既往歴:特記すべき事項なし.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:両眼とも結膜充血著明で濾胞形成なく,瞼結膜に偽膜形成,瞼球癒着,広範な角膜びらんを認めた(図1).開瞼不可のため視力は測定できなかった.全身検査所見:WBC6,300/μl,CRP2.75mg/dlでCRPが軽度上昇していた.肝機能,腎機能,電解質,血糖に異常は認めなかった.HSV,VZVのIgM,IgGは上昇なし,マイコプラズマ抗体価は初診日80倍,3週間後80倍でペア血清の上昇はなし,寒冷凝集素検査は8倍で基準範囲内であった.HLA遺伝子型はHLA-A*24:02,A*33:01,B*44:03,B*46:01であった.リンパ球刺激試験ではアセトアミノフェンの陽性率が415%と陽性を示した(表1).経過(図2):現病歴,眼所見よりSJSを疑い,皮膚科にて診察したところ,口腔内と肛門周囲にわずかに粘膜疹がみられた(図3).全身に皮疹はなかったが,発熱,重篤な眼所見,口腔内と肛門周囲に粘膜疹を認めたことからSJSと診断した.ただちにステロイドパルス療法〔メチルプレドニゾロン(mPSL)1日1g3日間〕を開始した.点眼は0.1%リ表1リンパ球刺激試験薬剤名成分名陽性率(%)ペアコール錠R無水カフェイン122カンゾウエキス104キキョウエキス95アセトアミノフェン415地竜乾燥エキス散109d-クロルフェニラミンマレイン散141図1初診時前眼部写真両眼とも結膜充血が著明で,瞼球癒着,角膜に広範なびらんをmPSL1g/日PSL60mg/日頻回点眼6×4×3×頻回点眼6×4×2×1×6×陽性:陽性率200%以上,疑陽性:180.199%,陰性点眼治療認めた.179%以下PSL50mg/日PSL40mg/日PSL30mg/日PSL25mg/日PSL20mg/日偽膜除去ベタメタゾンレボフロキサシンヒアルロン酸角膜びらん結膜充血瞼球癒着上眼瞼偽膜角膜上皮下混濁初診日1週間後1カ月後図2臨床経過452あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(122) 図3口腔内写真口腔内にびらんを認めた.ン酸ベタメタゾン,抗菌薬を1時間ごと,ステロイド眼軟膏を就寝前に点入し,偽膜除去,瞼球癒着.離を連日施行した.初診3日後の視力は右眼0.2(矯正不能),左眼0.07(0.1),眼圧は右眼9mmHg,左眼9mmHgであった.ステロイドパルス療法が奏効し,角膜びらん,上眼瞼の偽膜,他の粘膜病変は速やかに消失し,PSL60mgから漸減した.結膜充血は徐々に改善し,角膜上皮下混濁と瞼球癒着は軽度残存あるも改善を認めた(図4).その後視力も徐々に改善し,初診2週間後の視力は右眼0.7(1.0),左眼0.1(0.5)となった.初診2カ月後の視力は右眼(1.2),左眼(1.5)で炎症所見は鎮静化しており(図5),ステロイド内服は中止となり,その後再燃もなく経過している.II考按皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみを呈したSJSの症例を経験した.SJSは突然の高熱,紅斑,水疱などの皮膚症状と,口腔,眼球結膜などの粘膜疹やびらん所見が特徴である.しかし,まれではあるが皮膚病変を伴わず,粘膜病変のみを呈したSJSの報告がおもに小児科領域から散見される2.4).これらの報告では小児のマイコプラズマ感染に起因するSJSに多いが,本症例では検査結果よりマイコプラズマ既感染で急性期ではないと考えられ,リンパ球刺激試験でアセトアミノフェンが陽性を示したことから,アセトアミノフェンが原因と考えられた.また,近年HLA解析でHLA-A*02:06とHLA-B*44:03は感冒薬(アセトアミノフェンも含む)に関連して発症した重篤な眼合併症を伴うSJSに特異的な遺伝子素因であることが示唆されており5),本症例でもHLA-B*44:03を認めた.このことから,何らかの遺伝的背景の関与も示唆された.SJSの治療はステロイド治療と点眼での局所治療が有用とされている.本症例では当院初診日よりステロイドパルス療法と局所治療を行い,所見の改善が得られた.SJSで急性期(123)図4初診1週間後の前眼部写真結膜充血,角膜びらんの改善を認めた.図5初診2カ月後の前眼部写真結膜充血は消失している.角膜混濁は軽度残存している.視力右眼(1.2),左眼(1.0).あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016453 に角膜上皮幹細胞が消失すると遷延性上皮欠損に陥り,慢性期には上皮欠損部は周囲から伸展する結膜組織に覆われ視力障害をきたす.過去に発症から4日以内にステロイドパルス療法およびステロイド点眼治療を行った10眼の検討で,全症例で6週以内に偽膜は消失し角膜上皮は修復され発症から1年後視力(1.0)以上だった報告があり6),早期の治療が視力予後に影響すると考えられる.またSJSの死亡率は3%,重症型である中毒性表皮壊死症に進展すると19%,死亡原因は敗血症などの感染症,多臓器不全であり7),このことからもいかに早期に治療開始するかが重要となる.本症例は皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみ呈した非典型的なSJSであったが,早期に治療を行うことにより良好な経過が得られた.発熱に続く充血,角膜障害をみた場合,アデノウイルス結膜炎と診断されることが多いが,SJSである可能性を考慮する必要がある.粘膜病変のみを呈するSJSは稀だが,眼所見より診断される例があり,眼科医の役割は重要である.文献1)RoujeauJ,KellyJ,NaldiL:MedicationuseandtheriskofStevens-Johnsonsyndromeortoxicepidermalnecrolysis.NEnglJMed333:1600-1607,19952)LatschK,GirschickH,Abele-HornM:Stevens-Johnsonsyndromewithoutskinlesions.JMedMicrobiol56:16961699,20073)高峰文江,立元千帆,渡辺雅子:マイコプラズマ感染により発症し,粘膜症状のみを呈した非典型的なStevens-Johnson症候群の1例.小児科診療76:1157-1161,20134)牧田英士,黒田早恵,羽鳥誉之:重篤な眼病変を認めた皮疹のないStevens-Johnson症候群の1例.小児科臨床67:1511-1515,20145)UetaM,KaniwaN,SotozonoC:IndependentstrongassociationofHLA-A*02:06andHLA-B*44:03withcoldmedicine-relatedStevens-Johnsonsyndromewithseveremucosalinvolvement.SciRep4:4862,20146)ArakiY,SotozonoC,InatomiT:SuccessfultreatmentofStevens-Johnsonsyndromewithsteroidpulsetherapyatdiseaseonset.AmJOphthalmol147:1004-1011,20097)末木博彦:Stevens-JohnsonSyndrome/ToxicEpidermalNecrolysis─What’sNew?JEnvironDermatolCutanAllergol7:6-13,2013***454あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(124)