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糖尿病黄斑浮腫を対象としたWP-0508(マキュエイド®硝子体内注用)の第II/III相試験

2014年12月31日 水曜日

1876あたらしい眼科Vol.4102,211,No.3(00)1876(138)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(12):1876.1884,2014cはじめに黄斑浮腫は,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などに合併する視力低下の主要な原因であり,血液網膜関門が破綻し,網膜血管の透過性が亢進することにより引き起こされる病態である.この黄斑浮腫の治療法として,わが国においては硝子体手術や網膜光凝固などが選択されているが,効果には限界〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-kuNagoya,Aichi467-8601,JAPAN糖尿病黄斑浮腫を対象としたWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の第II/III相試験小椋祐一郎*1坂本泰二*2吉村長久*3石橋達朗*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学講座視覚疾患学*3京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学*4九州大学大学院医学研究院臨床医学部門外科学講座眼科学分野Phase2/3ClinicalTrialofWP-0508(MaQaidRIntravitrealInjection)forDiabeticMacularEdemaYuichiroOgura1),TaijiSakamoto2),NagahisaYoshimura3)andTatsuroIshibashi4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedichine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyusyuUniversityWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の有効性および安全性を確認するため,糖尿病黄斑浮腫患者100例を対象に多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験を実施した.WP-05088mgおよび4mg単回硝子体内投与後12週の観察を行った結果,8mg群および4mg群の両群で非投与群に対する最高矯正視力,中心窩平均網膜厚の有意な改善(p<0.05,共分散分析)が認められ,非投与群に対する優越性が検証された.主な副作用として,眼圧上昇(8mg群27.3%,4mg群26.5%),白内障進展(8mg群15.2%,4mg群23.5%),飛蚊症(8mg群18.2%,4mg群11.8%),および硝子体内TA(トリアムシノロンアセトニド)拡散(8mg群18.2%,4mg群8.8%)がみられた.8mg群4例(12.1%),4mg群3例(8.8%)で投与後12カ月の追跡期間中に白内障手術に至ったが,視力予後は良好であった.手術に至った眼圧上昇例はなく,感染性・非感染性眼内炎はみられなかった.単回投与後12週の効果,および忍容性が確認できたことから,WP-0508は糖尿病黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられた.ToassesstheefficacyandsafetyofWP-0508(MaQaidRintravitrealinjection),arandomized,single-masked,sham-controlled,multicenterstudywascarriedouton100diabeticmacularedemapatients.AfterasingleintravitrealinjectionofWP-0508,12-weekobservationrevealedsignificantimprovementofmeanbest-correctedvisualacuity(BCVA)andcentralmacularthicknessinboththe8mgand4mggroups,incontrasttotheshamgroup(p<0.05,ANACOVA),verifyingsuperiorityinbothWP-0508groups.Majoradverseeffectswereelevatedintraocularpressure,cataractdevelopment,floatingspotsandintravitrealtriamcinoloneacetonide(TA)dispersion.Althoughseveralpatients(4in8mggroup,3in4mggroup)requiredcataractsurgeryduringthe12-monthfollow-upperiod,BCVAwasrecoveredaftersurgery.Innocasedidelevatedintraocularpressureleadtofiltrationsurgery.Infectiousandnon-infectiousendophthalmitiswerenotobservedthroughoutthestudyperiod.SincetheefficacyandtolerabilityofWP-0508havebeenconfirmed,itisdeemedausefulalternativefortreatingdiabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1876.1884,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニド,硝子体内投与,無作為化臨床試験,WP-0508.diabeticmacularedema,triamcinoloneacetonide,intravitrealinjection,randomizedclinicalstudy,WP-0508.(00)1876(138)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(12):1876.1884,2014cはじめに黄斑浮腫は,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などに合併する視力低下の主要な原因であり,血液網膜関門が破綻し,網膜血管の透過性が亢進することにより引き起こされる病態である.この黄斑浮腫の治療法として,わが国においては硝子体手術や網膜光凝固などが選択されているが,効果には限界〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-kuNagoya,Aichi467-8601,JAPAN糖尿病黄斑浮腫を対象としたWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の第II/III相試験小椋祐一郎*1坂本泰二*2吉村長久*3石橋達朗*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学講座視覚疾患学*3京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学*4九州大学大学院医学研究院臨床医学部門外科学講座眼科学分野Phase2/3ClinicalTrialofWP-0508(MaQaidRIntravitrealInjection)forDiabeticMacularEdemaYuichiroOgura1),TaijiSakamoto2),NagahisaYoshimura3)andTatsuroIshibashi4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedichine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyusyuUniversityWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の有効性および安全性を確認するため,糖尿病黄斑浮腫患者100例を対象に多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験を実施した.WP-05088mgおよび4mg単回硝子体内投与後12週の観察を行った結果,8mg群および4mg群の両群で非投与群に対する最高矯正視力,中心窩平均網膜厚の有意な改善(p<0.05,共分散分析)が認められ,非投与群に対する優越性が検証された.主な副作用として,眼圧上昇(8mg群27.3%,4mg群26.5%),白内障進展(8mg群15.2%,4mg群23.5%),飛蚊症(8mg群18.2%,4mg群11.8%),および硝子体内TA(トリアムシノロンアセトニド)拡散(8mg群18.2%,4mg群8.8%)がみられた.8mg群4例(12.1%),4mg群3例(8.8%)で投与後12カ月の追跡期間中に白内障手術に至ったが,視力予後は良好であった.手術に至った眼圧上昇例はなく,感染性・非感染性眼内炎はみられなかった.単回投与後12週の効果,および忍容性が確認できたことから,WP-0508は糖尿病黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられた.ToassesstheefficacyandsafetyofWP-0508(MaQaidRintravitrealinjection),arandomized,single-masked,sham-controlled,multicenterstudywascarriedouton100diabeticmacularedemapatients.AfterasingleintravitrealinjectionofWP-0508,12-weekobservationrevealedsignificantimprovementofmeanbest-correctedvisualacuity(BCVA)andcentralmacularthicknessinboththe8mgand4mggroups,incontrasttotheshamgroup(p<0.05,ANACOVA),verifyingsuperiorityinbothWP-0508groups.Majoradverseeffectswereelevatedintraocularpressure,cataractdevelopment,floatingspotsandintravitrealtriamcinoloneacetonide(TA)dispersion.Althoughseveralpatients(4in8mggroup,3in4mggroup)requiredcataractsurgeryduringthe12-monthfollow-upperiod,BCVAwasrecoveredaftersurgery.Innocasedidelevatedintraocularpressureleadtofiltrationsurgery.Infectiousandnon-infectiousendophthalmitiswerenotobservedthroughoutthestudyperiod.SincetheefficacyandtolerabilityofWP-0508havebeenconfirmed,itisdeemedausefulalternativefortreatingdiabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1876.1884,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニド,硝子体内投与,無作為化臨床試験,WP-0508.diabeticmacularedema,triamcinoloneacetonide,intravitrealinjection,randomizedclinicalstudy,WP-0508. があり,他の治療手段の開発や併用療法が今後の緊急の課題と考えられている.糖尿病黄斑浮腫に対しては,2001年にJonasら1)が初めて硝子体内にトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)を投与し,浮腫が軽減することを報告して以来,国内外での報告が相ついでいる.また,坂本らの2005年国内アンケート調査結果2)によると,黄斑浮腫の主な原因疾患(糖尿病黄斑症,網膜静脈閉塞症)では,TA眼局所投与(硝子体内,Tenon.下注射)が第一選択という意見が多かったと報告されている.眼科で広く適応外使用されてきたTA製剤(ケナコルト-AR筋注用・関節腔内用水懸注)は眼科用に承認された製剤ではなく,添加剤として眼組織に有害なベンジルアルコール3,4)や眼圧上昇の危惧のあるカルボキシメチルセルロース5)を含有するため,これらを除去するために各医療機関で再調製する必要があり,微生物汚染のリスクの増加が懸念されていた.WP-0508(マキュエイドR硝子体内注用40mg)は,合成表1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*社会医療法人秀眸会大塚眼科病院引地泰一医療法人渓仁会手稲渓仁会病院眼科横井匡彦NTT東日本東北病院眼科志村雅彦山形大学医学部附属病院眼科山下英俊福島県立医科大学附属病院眼科飯田知弘自治医科大学附属病院眼科佐藤幸裕千葉大学医学部附属病院眼科山本修一順天堂大学医学部附属浦安病院眼科佐久間俊郎東邦大学医療センター佐倉病院眼科前野貴俊駿河台日本大学病院眼科島田宏之聖路加国際病院眼科大越貴志子医療法人社団済安堂西葛西・井上眼科病院宮永嘉隆横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科門之園一明名古屋市立大学病院眼科吉田宗徳医療法人社団同潤会眼科杉田病院杉田元太郎京都大学医学部附属病院眼科吉村長久大阪大学医学部附属病院眼科生野恭司大阪市立大学医学部附属病院眼科白木邦彦独立行政法人労働者健康福祉機構大阪労災病院眼科恵美和幸香川大学医学部附属病院眼科白神史雄九州大学病院眼科望月泰敬,石橋達朗医療法人社団研英会林眼科病院林研医療法人松井医仁会大島眼科病院矢部伸幸医療法人出田会出田眼科病院川崎勉鹿児島大学病院医学部・歯学部附属病院眼科坂本泰二公益財団法人慈愛会今村病院分院眼科土居範仁*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).(139)副腎皮質ステロイドであるTAを有効成分とし,眼に有害な添加剤を含有しない粉末注射剤であり,わが国初の「硝子体手術時の硝子体可視化」および「糖尿病黄斑浮腫」の効能・効果が承認されている.今回は,「糖尿病黄斑浮腫」の効能・効果承認のために実施された糖尿病黄斑浮腫を対象とした多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験の結果を報告する.本治験は,わかもと製薬株式会社の依頼により,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」,ならびに治験実施計画書を遵守し実施された.I対象および方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,平成22年2月.平成24年3月の間に全国26医療機関において,各々の治験責任医師のもと実施された(表1).試験実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.対象対象は,糖尿病黄斑浮腫患者で,本治験の選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者を対象とした.主な選択・除外基準を表2に示した.本治験の開始に先立ち,すべての被験表2主な選択・除外基準選択基準(1)年齢が満20歳以上(2)2型糖尿病〔日本糖尿病学会の診断基準(1999年)〕(3)対象眼が非増殖糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫(4)対象眼の最高矯正視力<ETDRS>が35文字から70文字(小数視力換算で0.1以上0.5以下)(5)対象眼の中心窩平均網膜厚が,光干渉断層計による測定で300μm以上(6)対象眼の眼圧が21mmHg以下除外基準(1)いずれかの眼に,活動性の眼感染または非活動性のトキソプラズマ症が認められる(2)対象眼に緑内障および高眼圧症を有する,または既往歴がある(3)HbA1Cが10.0%以上,血清クレアチニンが2.0mg/dl以上(4)対象眼に硝子体手術の既往を有する(5)対象眼への薬剤の硝子体内投与が治験薬投与前52週以内に実施(6)対象眼への副腎皮質ステロイド薬のTenon.下または球後への投与が,治験薬投与前24週以内に実施(7)対象眼へのレーザー治療または硝子体手術以外の内眼手術が,治験薬投与前12週以内に実施(8)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,ワルファリンおよびヘパリンの投与が,治験薬投与前4週以内に実施あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141877 表3検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日1週4週8週12週中止時6,9,12カ月同意取得●患者背景●症例登録●治験薬投与●眼科検査最高矯正視力●●●●●●○中心窩平均網膜厚●●●●●●眼圧●●●●●●●○細隙灯顕微鏡検査●●●●●●●○TA粒子観察●●●●●●●○眼底検査●●●●●●●●○眼底撮影●●●●●●●○蛍光眼底造影検査●血圧・脈拍数●●●●臨床検査●●●●有害事象●○:有害事象発現例,硝子体内TA粒子残存例,有水晶体眼例の追跡調査を行った.者に対し,治験審査委員会の承認を得た同意・説明文書を使用して十分説明した後,自由意思による治験参加の同意を本人から文書にて取得した.3.試験方法a.治験デザイン本治験は,多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験として実施した.適格な被験者を動的割付(因子:最高矯正視力,中心窩平均網膜厚,水晶体の状態)によりWP-05088mg群,4mg群,非投与群のいずれかに無作為に割り付けた.b.治験薬・投与方法被験薬であるWP-0508は,1バイアル中にTA40mgを含有する添加剤を含まない白色の結晶性の粉末で,生理食塩液にて用時懸濁して用いた.投与対象眼に対し,投与群(WP-05088mg群,4mg群)では,それぞれTA8mg,4mgを含有する懸濁液0.1mlを硝子体内に単回投与し,非投与群では投与部位に注射針未装着の注射筒の先を当てる措置を行った.4.検査・観察項目検査・観察スケジュールを表3に示した.蛍光眼底造影写真より蛍光漏出,虚血および新生血管の有無を判断し,糖尿病網膜症分類6),選択・除外基準の判定を行った.最高矯正視力はETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)チャートを用いて,中心窩平均網膜厚は光干渉断層計(OCT3000R,CarlZeissMeditec社製)を用いて測定した.観察項目として,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査を行った.その結果から,投与後に認められた臨床上好ましくない疾病あるいは徴候を収集し,有害事象として評価した.投与後12週までの観察期間中は,対象疾患に対する併用処置〔硝子体手術,レーザー治療,VEGF(血管内皮増殖因子)阻害薬投与など〕,および視力に影響のある処置(白内障手術,緑内障手術など)を禁止とし,治療が必要とされた場合は中止時検査を行い中止・終了した.観察期間終了後も,投与群の白内障進展について投与後12カ月まで追跡調査した.有害事象発現例,硝子体内TA粒子残存例についても追跡調査を行った.5.評価項目および方法a.有効性主要評価項目は,投与後12週の最高矯正視力とした(投与後12週以内に中止された場合も,投与後1週以降で一番遅い時点に観察されたものを最終評価時のデータとして解析に使用した).副次評価項目として,各評価時期の最高矯正視力,中心窩平均網膜厚について評価した.非投与群においては,4週以降,治療が必要と判断された時点のデータを12週までのデータとして集計した.(140) あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141879(141)b.安全性有害事象および副作用,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数,臨床検査の各項目を評価した.6.解析方法a.解析対象集団主要な有効性解析対象集団は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS)とし治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性は,治験薬の投与がなされた症例を対象とした.b.解析方法群ごとに各評価時期について,最高矯正視力および最高矯正視力変化量の要約統計量を算出し,スクリーニング時の最高矯正視力を共変量として,各評価時期の最高矯正視力について非投与群に対する共分散分析を行った.解析は閉手順とし,第一の仮説検定で8mg群と非投与群の差を,第二の仮説検定で4mg群と非投与群の差を検証した.また,各評価時期の最高矯正視力変化量について,対応のあるt検定を行った.中心窩平均網膜厚についても最高矯正視力と同様の解析を行った.統計解析における有意水準は両側5%,信頼係数は両側95%とした.II試験成績1.被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験への参加に同意し,登録された被験者は合計102例であり,実際に投与されたのは,8mg群33例,4mg群34例,非投与群33例の合計100例であった.登録被験者のうち,8mg群の1例で投与表4被験者背景(安全性解析対象集団,FAS)項目8mg群4mg群非投与群解析対象例数33例34例33例性別男18例(54.5%)16例(47.1%)20例(60.6%)女15例(45.5%)18例(52.9%)13例(39.4%)年齢(歳)67.1±8.265.6±8.165.4±6.4[48.81][38.83][53.79]糖尿病網膜症分類*軽症非増殖9(27.3%)6(17.6%)8(24.2%)中等症非増殖22(66.7%)22(64.7%)15(45.5%)重症非増殖2(6.1%)6(17.6%)10(30.3%)増殖0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)最高矯正視力(文字)57.8±7.456.0±8.856.6±10.4[42.70][38.69][35.70]中心窩平均網膜厚(μm)449.5±94.7426.3±89.1435.2±108.9[317.695][304.722][302.706]眼圧(mmHg)14.8±3.815.2±2.715.1±3.0[8.21][10.21][11.20]HbA1C(%)6.89±0.856.75±0.967.27±1.15[5.6.8.6][5.4.9.9][5.4.9.9]平均値±標準偏差[最小値.最大値]*糖尿病網膜症国際重症度分類6)に従って判定された.軽症非増殖糖尿病網膜症:毛細血管瘤のみ認める,中等症非増殖糖尿病網膜症:毛細血管瘤以外の所見も認めるが,重症非増殖糖尿病網膜症より軽い,重症非増殖糖尿病網膜症:以下の所見のいずれかを認め,かつ増殖性網膜症の所見を認めないもの[4象限すべてで20個以上の網膜出血,2象限以上で明らかな静脈の数珠状拡張,1象限以上で顕著な網膜内細小血管異常(IRMA)],増殖糖尿病網膜症:以下の所見のいずれかを認めるもの[新生血管,硝子体and/or網膜前出血]図1被験者の内訳*非投与群4週以降終了者(11例)も含む.投与未実施例数8mg群4mg群非投与群中止・脱落例数8mg群4mg群非投与群2101例例例例3201例例例例登録被験者数投与例数8mg群4mg群非投与群観察期完了例数8mg群4mg群非投与群100333433例例例例97*313432*例例例例102例項目8mg群4mg群非投与群解析対象例数33例34例33例性別男18例(54.5%)16例(47.1%)20例(60.6%)女15例(45.5%)18例(52.9%)13例(39.4%)年齢(歳)67.1±8.265.6±8.165.4±6.4[48.81][38.83][53.79]糖尿病網膜症分類*軽症非増殖9(27.3%)6(17.6%)8(24.2%)中等症非増殖22(66.7%)22(64.7%)15(45.5%)重症非増殖2(6.1%)6(17.6%)10(30.3%)増殖0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)最高矯正視力(文字)57.8±7.456.0±8.856.6±10.4[42.70][38.69][35.70]中心窩平均網膜厚(μm)449.5±94.7426.3±89.1435.2±108.9[317.695][304.722][302.706]眼圧(mmHg)14.8±3.815.2±2.715.1±3.0[8.21][10.21][11.20]HbA1C(%)6.89±0.856.75±0.967.27±1.15[5.6.8.6][5.4.9.9][5.4.9.9]平均値±標準偏差[最小値.最大値]*糖尿病網膜症国際重症度分類6)に従って判定された.軽症非増殖糖尿病網膜症:毛細血管瘤のみ認める,中等症非増殖糖尿病網膜症:毛細血管瘤以外の所見も認めるが,重症非増殖糖尿病網膜症より軽い,重症非増殖糖尿病網膜症:以下の所見のいずれかを認め,かつ増殖性網膜症の所見を認めないもの[4象限すべてで20個以上の網膜出血,2象限以上で明らかな静脈の数珠状拡張,1象限以上で顕著な網膜内細小血管異常(IRMA)],増殖糖尿病網膜症:以下の所見のいずれかを認めるもの[新生血管,硝子体and/or網膜前出血]図1被験者の内訳*非投与群4週以降終了者(11例)も含む.投与未実施例数8mg群4mg群非投与群中止・脱落例数8mg群4mg群非投与群2101例例例例3201例例例例登録被験者数投与例数8mg群4mg群非投与群観察期完了例数8mg群4mg群非投与群100333433例例例例97*313432*例例例例102例 表5最終評価時の最高矯正視力(FAS)8mg群と非投与群の比較4mg群と非投与群の比較投与群非投与群投与群非投与群(33例)(33例)(34例)(33例)スクリーニング時のデータで調整後の値61.8±1.257.8±1.261.8±1.257.1±1.24.0±1.7(0.6.7.5)4.7±1.7(1.3.8.1)非投与群との差(95%信頼区間)p=0.022*p=0.008**平均値±標準誤差.p:スクリーニング時のデータを共変量とした共分散分析,*:p<0.05,**:p<0.01.8070605040スクリー14812最終***#######******#####################:8mg群(33例):4mg群(34例):非投与群(33例)ニング時評価時期(週後)評価時図2最高矯正視力の推移(FAS)各ポイントは平均値±標準偏差で表示.*:p<0.05,**:p<0.01,非投与群に対するスクリーニング時の値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.#:p<0.05,###:p<0.001,スクリーニング時の値に対する対応のあるt検定.表6最高矯正視力の推移(FAS)最高矯正視力(文字)スクリーニング時1週4週8週12週最終評価時n3333333230338mg群実測値57.8±7.461.1±9.662.2±8.861.7±8.362.1±8.662.3±8.8─3.3±7.14.5±5.04.3±5.74.8±6.04.5±5.9変化量*1─p=0.012#p<0.001###p<0.001###p<0.001###p<0.001###対非投与群*2─p=0.339p=0.039*p=0.042*p=0.020*p=0.022*n3434343434344mg群実測値56.0±8.859.1±10.260.1±8.661.6±8.861.5±9.361.5±9.3─3.1±4.74.2±6.25.6±6.55.6±6.25.6±6.2変化量*1─p<0.001###p<0.001###p<0.001###p<0.001###p<0.001###対非投与群*2─p=0.348p=0.089p=0.010*p=0.008**p=0.008**n333333323233非投与群実測値56.6±10.458.3±12.557.9±12.057.7±11.357.3±11.257.3±11.0─1.6±7.41.2±7.40.9±7.80.6±8.40.7±8.2変化量*1─p=0.215p=0.345p=0.501p=0.690p=0.631平均値±標準偏差.*1変化量(p):スクリーニング時の値に対する対応のあるt検定,#:p<0.05,###:p<0.001.*2対非投与群(p):非投与群に対するスクリーニング時の値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較,*:p<0.05,**:p<0.01.(142) 前に同意撤回のため,また非投与群の1例が措置前の被験者の視力悪化に対する医師の判断により投与未実施となった.投与後8mg群2例,非投与群1例で中止となったため,観察を完了した被験者は,8mg群31例,4mg群34例,非投与群32例(治験実施計画書に従い4週以降に治療が必要と判断され終了となった非投与群の11例を含む)であった.中止・脱落となった理由は,8mg群の1例が被験者の安全性への配慮のため,1例が併用禁止薬使用の必要性であり,非投与群の1例が治験開始後の同意撤回であった.投与後12週以降は,有害事象発現例,硝子体内TA粒子残存例,有水晶体眼例の安全性追跡調査を投与後12カ月まで行った.析).PPSにおいても,8mg群および4mg群でFASと同様の結果であった.b.副次的評価項目に関する結果FASにおける観察期間(投与後12週まで)の最高矯正視力の推移を図2および表6に,中心窩平均網膜厚の推移を図3および表7示した.投与後12週までの各時点の最高矯正視力の推移は,8mg群,4mg群ともスクリーニング時に比べ投与後1週より有意な改善が認められ(それぞれp<0.05,600被験者背景(安全性解析対象集団,FAS)を表4に示した.2.有効性投与後1週以降,12週までのデータが存在する100例が有効性解析対象となった[FAS:100例(8mg群33例,4mg群34例,非投与群33例),PPS:90例(8mg群29例,4mg群30例,非投与群31例)].a.主要評価項目に関する結果中心窩平均網膜厚(μm):8mg群(33例):4mg群(34例):非投与群(33例)******************************##############################500400300200100本治験の主要な解析対象集団であるFASにおける,投与スクリー14812最終後12週(最終評価時)の最高矯正視力(スクリーニング時のニング時評価時期(週後)評価時データで調整後)を表5に示した.8mg群と非投与群の比図3中心窩平均網膜厚の推移(FAS)較(第一の仮説検定)に続き,4mg群と非投与群の比較(第各ポイントは平均値±標準偏差で表示.***:p<0.001,非投与群に対するスクリーニング時の値を共変量とした共分散分析二の仮説検定)でも有意差が認められた(それぞれp=0.022,に基づく群間比較.###:p<0.001,スクリーニング時の値にp=0.008,スクリーニング時の値を共変量とした共分散分対する対応のあるt検定.表7中心窩平均網膜厚の推移(FAS)スクリーニング時1週4週8週12週最終評価時8mg群対非投与群*2n実測値変化量*133449.5±94.7───33339.7±72.5.109.9±84.4p<0.001###p<0.001***33291.1±52.0.158.5±88.9p<0.001###p<0.001***31273.2±45.3.172.0±93.5p<0.001###p<0.001***31292.7±85.9.156.4±121.1p<0.001###p<0.001***33292.4±87.1.157.1±117.3p<0.001###p<0.001***4mg群対非投与群*2n実測値変化量*134426.3±89.1───33301.7±57.6.128.1±78.2p<0.001###p<0.001***34276.7±61.4.149.6±94.0p<0.001###p<0.001***34263.9±63.1.162.4±96.4p<0.001###p<0.001***34276.4±74.7.149.9±110.3p<0.001###p<0.001***34276.4±74.7.149.9±110.3p<0.001###p<0.001***n333333323233非投与群実測値435.2±108.9420.8±112.4428.2±118.8425.1±109.0427.1±115.6421.4±118.4─.14.4±46.0.7.0±76.3.12.5±85.9.10.5±82.2.13.9±83.1変化量*1─p=0.081p=0.602p=0.418p=0.474p=0.345平均値±標準偏差.*1変化量(p):スクリーニング時の値に対する対応のあるt検定,###:p<0.001.*2対非投与群(p):非投与群に対するスクリーニング時の値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較,***:p<0.001.(143)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141881 p<0.001,スクリーニング時の値に対する対応のあるt検定)投与後4週,8週,12週と改善が持続した(いずれもp<0.001).非投与群ではいずれの時点においても,スクリーニング時に比べ有意な改善は認められなかった.中心窩平均網膜厚の推移についても,同様の結果が得られた.最終評価時点での投与群(8mg群および4mg群)の最高矯正視力変化量と中心窩平均網膜厚変化量との間に,相関が認められた(r=.0.316,p<0.001).3.安全性a.副作用収集した有害事象のうち,治験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした(表8).本治験における副作用は,8mg群75.8%(25/33例),4mg群55.9%(19/34例)にみられた.いずれかの群で5%以上の発現がみられた副作用は,白内障進展,飛蚊症,硝子体内TA拡散,眼圧上昇,血中トリグリセリド増加,糖尿病悪化であった.また,重篤な副作用は,8mg群12.1%(4/33例:白内障進展3例,食道静脈瘤1例),4mg群5.9%(2/34例,白内障進展2例)に認められた.食道静脈瘤は,治験開始前より生じていた可能性が高いが,治験薬との因果関係が完全には否定できないため副作用とされた.いずれも入院を伴う処置を行ったことから重篤と判定されたが,処置後の転帰は消失であり,臨床上問題は少ないと考えられた.重篤な眼圧上昇,感染性眼内炎または非感染性眼内炎はみられなかった.b.眼圧上昇8mg群9/33例(27.3%),4mg群10/34例(29.4%)にて投与対象眼の眼圧が24mmHg以上に上昇した.眼圧上昇は,いずれも眼圧下降点眼薬(1.4剤)あるいは炭酸脱水酵素阻害薬内服の併用によりコントロール可能であった.また,8mg群は4mg群と比較して眼圧上昇持続期間や併用薬投与期間が長い傾向にあった(表9).いずれの群においても濾過手術などの外科的処置に至った症例はみられなかった.c.水晶体混濁の進行WHO分類7)を参考にして水晶体混濁(皮質・核・後.下)を4段階で評価した.スクリーニング時と比較してスコアの悪化がみられた症例は,8mg群で21.2%(7/33例),4mg群で12/34例(35.3%),非投与群で1/33例(3.0%)であった.投与群における進行部位は後.下が多く,核および皮質にもみられた.8mg群4例,4mg群3例に対し白内障手術が施行されたが,いずれも手術後の転帰は消失であり,視力予後は良好であった.水晶体混濁進行時期,手術施行時期を表10に示した.投与後6カ月以降に水晶体混濁が進行する症例が多くみられた.d.TA粒子硝子体内残存投与後のTA粒子硝子体内残存の有無を評価した(表表8副作用一覧8mg群4mg群副作用名(33例)(34例)発現数25例(75.8%)19例(55.9%)眼眼圧上昇9例(27.3%)9例(26.5%)飛蚊症6例(18.2%)4例(11.8%)硝子体内TA拡散6例(18.2%)3例(8.8%)白内障進展5例(15.2%)8例(23.5%)霧視1例(3.0%)1例(2.9%)前房内TA拡散1例(3.0%)0例(0.0%)後発白内障1例(3.0%)0例(0.0%)角膜びらん1例(3.0%)0例(0.0%)硝子体出血1例(3.0%)0例(0.0%)眼以外糖尿病悪化2例(6.1%)1例(2.9%)血中カリウム増加1例(3.0%)1例(2.9%)好酸球数増加1例(3.0%)1例(2.9%)食道静脈瘤1例(3.0%)0例(0.0%)血中尿素増加1例(3.0%)0例(0.0%)白血球数減少1例(3.0%)0例(0.0%)白血球数増加1例(3.0%)0例(0.0%)糖尿病性ニューロパチー1例(3.0%)0例(0.0%)血中トリグリセリド増加0例(0.0%)2例(5.9%)好塩基球数増加0例(0.0%)1例(2.9%)血中ブドウ糖増加0例(0.0%)1例(2.9%)尿中ブドウ糖陽性0例(0.0%)1例(2.9%)血小板数減少0例(0.0%)1例(2.9%)表9眼圧上昇時期および持続期間24mmHg以上の眼圧上昇症例眼圧上昇に対する処置上昇例数上昇時期持続期間処置例数処置開始併用薬投与(%)(日後)(日)(%)時期(日後)期間(日)8mg群(33例)9例(27.3%)97.9[6.189]147.0[28.274]9例(27.3%)106.9[5.189]103.4[13.257]4mg群(34例)10例(29.4%)85.4[1.373]75.3[5.174]8例(23.5%)110.6[7.373]87.3[11.168]非投与群(33例)0例(0.0%)──0例(0.0%)──平均値[最小値.最大値].(144) 表10水晶体混濁進行時期および手術施行時期水晶体混濁が進行した症例水晶体混濁に対する処置進行時期手術施行時期進行例数(%)(日後)手術例数(%)(日後)8mg群(33例)7例(21.2%)180.9[1.393]4例(12.1%)304.8[216.378]4mg群(34例)12例(35.3%)264.3[8.365]3例(8.8%)419.3[370.469]非投与群(33例)1例(3.0%)84.0[84.84]0例(0.0%)─平均値[最小値.最大値].表11投与後のTA粒子硝子体内残存評価時期8mg群(33例)4mg群(34例)残存例数(残存率)残存例数(残存率)投与直後33例(100.0%)34例(100.0%)1日後33例(100.0%)32例(94.1%)1週後32例(97.0%)34例(100.0%)4週後28例(84.8%)31例(91.2%)8週後24例(72.7%)21例(61.8%)12週後9例(27.3%)18例(52.9%)6カ月後3例(9.1%)6例(17.6%)9カ月後0例(0.0%)0例(0.0%)12カ月後0例(0.0%)0例(0.0%)11).いずれの群においても,投与後9カ月時点ですべての症例でのTA粒子消失を確認した.III考察本治験結果より,WP-05088mg群および4mg群ではスクリーニング時と比較して投与後1週と早期から視力および浮腫改善が認められ,その効果は投与後約3カ月間維持された.最終評価時における8mg群および4mg群の非投与群との差は,それぞれ4.0±1.7文字(95%信頼区間,0.6.7.5文字)および4.7±1.7文字(95%信頼区間,1.3.8.1文字)であり,ETDRS視力表で1段階(5文字)に相当する視力改善が認められた.本治験より,両投与群において有効性が示されたことから,副作用発現率,持続期間などを考慮し,臨床使用用量としては4mgを選択した.本治験の結果,眼局所において眼圧上昇,白内障進展等の副作用が認められたが,安全性上問題となる所見は認められなかった.眼圧上昇,白内障進展はTA製剤硝子体内投与による海外での臨床試験8,9)においても報告されており,TA4mg投与による発現頻度は眼圧上昇33.50%,白内障進展59.83%と本治験結果と同程度あるいは高かった.文献報告にて発現率が高かった理由としては,追跡調査期間,治療背景などの違いが考えられた.本治験における眼圧上昇例で(145)は,濾過手術などの外科的処置に至った症例はなく,併用薬でコントロール可能であったが,他の報告2,8,9)では濾過手術が必要になった症例もみられた.外科的処置を避けるためには,本治験と同様に眼圧コントロール不良な患者への投与を避け,投与後少なくとも3カ月は眼圧測定を行い,眼圧上昇の徴候がみられた場合は速やかに眼圧下降薬点眼を開始する必要がある.白内障進展については,予後は良好ではあるが白内障手術に至った症例が本治験においてもみられていることから,投与後6カ月以降も有水晶体眼の患者に対して注意を促すことが必要である.なお,白内障進展が4mg群で多かった要因の一つとして,投与後6カ月時点でのTA粒子硝子体内残存率が高かったことが挙げられる.いずれの症例においても,投与後9カ月時点でTA粒子消失を確認しており,白内障手術施行率も8mg群12.1%,4mg群8.8%であることから,用量の違いによるリスク変化はないと考えている.TA粒子硝子体内残存期間については,被験者の硝子体の状態(加齢による硝子体液化,眼科手術歴など)が関与していると考えている.WP-0508は単回投与により約3カ月間薬効が持続することから,VEGF阻害薬硝子体内注射の薬効維持に1.2カ月ごとの投与を要すること8,10,11)を考慮すると,投与回数,来院頻度,経済性の面で患者,医師へのメリットがあると考えられた.安全性の面においても,投与回数が増えると眼内炎のリスクが高くなることから,持続性の薬剤を選択するメリットは大きい.また,黄斑浮腫に対する硝子体手術,網膜光凝固は,施行から効果発現までに半年から1年の期間を要することが報告されていることから9,12),WP-0508は硝子体手術,網膜光凝固前の早期治療法として推奨できると考えた.さらに,硝子体手術,網膜光凝固においては網膜への侵襲が危惧され,治療適応が局所性,牽引性などの浮腫に限られている一方で,TA硝子体内注射は.胞様浮腫に対する効果が高いと報告されていること13)などから,WP-0508は特にびまん性,.胞様浮腫治療に適していると考える.本治験の結果,問題となる全身性の副作用は認められなかあたらしい眼科Vol.31,No.12,20141883 った.糖尿病黄斑浮腫を対象とした第I/II相試験(1mg,4mg,8mg群各11例)の結果得られたWP-0508硝子体内単回投与後の血漿中薬物濃度が,TA筋肉内・関節腔内注射14.17)と同等あるいは低値と考えられたことからも,本剤の全身性副作用は既存薬から予想可能であり,脳梗塞,心疾患などの全身合併症を伴う症例にも使用可能と考えている.以上より,WP-0508は糖尿病黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられた.文献1)JonasJB,SofkerA:Intraocularinjectionofcrystallinecortisoneasadjunctivetreatmentofdiabeticmacularedema.AmJOphthalmol132:425-427,20012)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,20073)WalterP,LukeC,SickelW:Antibioticsandlightresponsesinsuperfusedbovineretina.CellMolNeurobiol19:87-92,19994)MorrisonVL,KohHJ,ChengL:Intravitrealtoxicityofthekenalogvehicle(benzylalcohol)inrabbits.Retina26:339-344,20065)ZhuMD,CaiFY:Developmentofexperimentalchronicintraocularhypertensionintherabbit.AustNZJOphthalmol20:225-234,19926)WilkinsonCP,FerrisFL3rd,KleinREetal:Proposedinternationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmology110:1677-1682,20037)ThyleforsB,ChylackLTJr,KonyamaKetal:Asimplifiedcataractgradingsystem.OphthalmicEpidemiol9:83-95,20028)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20109)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Threeyearfollowupofarandomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol127:245-251,200910)SultanMB,ZhouD,LoftusJetal:Aphase2/3,multicenter,randomized,double-masked,2-yeartrialofpegaptanibsodiumforthetreatmentofdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1107-1118,201111)DoDV,Schmidt-ErfurthU,GonzalezVHetal:TheDAVINCIStudy:phase2primaryresultsofVEGFTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1819-1826,201112)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093,201013)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:Visualoutcomeafterintravitrealtriamcinoloneacetonidedependsonopticalcoherencetomographicpatternsinpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina31:748-754,201114)KusamaM,SakauchiN,KumaokaS:Studiesofplasmalevelsandurinaryexcretionafterintramuscularinjectionoftriamcinoloneacetonide.Metabolism20:590-596,197115)DoppenschmittSA,ScheidelB,HarrisonFetal:Simultaneousdeterminationoftriamcinoloneacetonideandhydrocortisoneinhumanplasmabyhigh-performanceliquidchromatography.JChromatogBBiomedSciAppl682:79-88,199616)Blauert-CousounisSP,ZiemniakJA,McMahonSCetal:Thepharmacokineticsoftriamcinoloneacetonideafterintranasal,oralinhalationandintramuscularadministration.JAllergyClinImmunol83:221,198917)DerendorfH,MollmannH,GrunerAetal:Pharmacokineticsandpharmacodynamicsofglucocorticoidsuspensionsafterintraarticularadministration.ClinPharmacolTher39:313-317,1986***(146)