《原著》あたらしい眼科42(2):254.258,2025c糖尿病網膜症の経過観察中に網膜細動脈瘤が原因で硝子体出血をきたした1例岡本紀夫*1濱本亜裕美*2*1おかもと眼科*2淀川キリスト教病院眼科CACaseofVitreousHemorrhageDuetoRetinalArterialMacroaneurysmObservedDuringDiabeticRetinopathyFollow-UpExaminationNorioOkamoto1)andAyumiHamamoto2)1)OkamotoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospitalC症例はC67歳,女性.健康診断にて糖尿病網膜症を指摘され当院を受診した.既往歴として高血圧と糖尿病があった.視力は両眼ともC1.0であったが,両眼とも眼底検査で糖尿病網膜症を認めた.糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫に対して右眼に抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内投与にて経過観察をしていた.初診からC14年後に左眼の霧視を自覚,硝子体出血を認めたので淀川キリスト教病院眼科へ紹介した.1週間後の受診時には硝子体出血はあるが眼底が透見可能となり,鼻側に網膜細動脈瘤(RAM)を認めた.RAM発症前の眼底写真を見直すと,鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑があるが明らかなCRAMはなかった.CThisstudyinvolveda67-year-oldfemalewhowasreferredtoourhospitalafterbeingdiagnosedwithdiabeticretinopathyduringaphysicalexamination.Hervisualacuitywas1.0inbotheyes,yetfundusexaminationrevealedbilateralCdiabeticCretinopathy.CSheCwasCfollowedCupCwithCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCinjec-tionsinherrighteyefordiabeticretinopathy-associatedmacularedema.Fourteenyearsaftertheinitialexamina-tion,shebecameawareoffoggyvisioninherlefteye,andvitreoushemorrhagewasobserved,soshewasreferredtotheDepartmentofOphthalmologyatYodogawaChristianHospital.Attheinitialpresentation1-weeklater,thepatientChadCvitreousChemorrhage,CyetCtheCfundusCwasCclear,CandCaCnasalCretinalCarterialCmacroaneurysmCwasCobserved.Thereviewoffundusphotographstakenbeforetheonsetofretinalarterialmacroaneurysmrevealedahardexudatealongthenasalretinalartery,butnoobviousretinalarterialmacroaneurysm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(2):254.258,C2025〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜細動脈瘤,発症前,硝子体出血.diabeticretinopathy,retinalarterialmacroaneu-rysm(RAM),beforeonset,vitreoushemorrhage.Cはじめに網膜細動脈瘤(retinalCarterialmacroaneurysm:RAM)はCRobertson1)によって報告されて以来,数多くの報告がある.RAMは網膜動脈の第C3分枝以内で,一部が.状,紡錘状に拡大し,滲出性の変化により視力低下をきたしたり,突然破裂して網膜下出血,網膜内出血を起こすことが知られている.RAMのほとんどが突然発症するため,早期発見は困難である.今回,筆者らは糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症し,自然吸収後に鼻側にCRAMを認めたC1例を経験し,発症前の眼底写真と比較したので報告する.CI症例患者:67歳,女性.主訴:糖尿病網膜症の精査.初診:2010年C7月.既往歴:高血圧,糖尿病(42歳).現病歴:健診センターの眼底検査にて糖尿病網膜症を認めたので受診した.〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒564-0041大阪府吹田市泉町C5-11-12-312おかもと眼科Reprintrequests:NorioOkamoto,M.D.,Ph.D.,OkamotoEyeClinic,5-11-12-312Izui-Cho,Suita,Osaka564-0041,JAPANC254(120)図1初診時眼底写真とOCT(2010年)両眼とも毛細血管瘤と網膜出血,右眼には輪状の硬性白斑を認める.OCTでは右眼に浮腫がある.Cab図2眼底写真a:硝子体出血吸収後.硝子体出血と下鼻側に硬性白斑とCRMAを認める().b:硝子体出血発症C4カ月前.下鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑がある.初診時所見:視力はC1.0(1.2).眼圧は正常.両眼とも白内障を認めた.眼底検査では両眼とも毛細血管瘤,点状,斑状出血,硬性白斑を認めた.光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)では右眼の輪状硬性白斑に一致して黄斑浮腫があった(図1).2012年C7月の再診時には右眼の硬性白斑は増加しCOCTで黄斑浮腫の増加と漿液性網膜.離も認めるようになった.その後,硬性白斑は徐々に減少し,漿液性網膜.離も消失し視力も矯正C1.0と良好を維持したので経過観察した.2016年C6月ごろ視力はC0.5と低下したが徐々に黄斑浮腫の増加があったので,2016年C12月に淀川キリスト教病院眼科へ紹介した.2017年C2月に右眼に局所光凝固したが黄斑浮腫がやや増悪したのでC3月に抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内投与を行った.その後,2017年C9.2024年C1月まで計C11回抗CVEGF薬硝子体内投与が施行され,2021年C7月には両眼の白内障手術が施行された.一方,左眼は初診時より黄斑浮腫を認めず経過観察をしていた.2024年C4月末より見えくいことを自覚し,5月初旬に当院を受診した.視力は左眼C0.4(矯正不能)と低下し,眼底検査では硝子体出血により透見不能であった.淀川キリスト教病院をC1週間後に受診したときには透見可能で,下鼻側にCRAMと網膜動脈に沿った硬性白斑を認めた(図2a).フルオレセイン蛍光造影検査では,.状のCRAMが確認できた(図3).5月中旬のOCTではCRAMに一致して網膜厚がC460Cμmと肥厚し硝子図3フルオレセイン蛍光造影写真38秒(Ca)とC11分(Cb).RMAは.状であることがわかる().新生血管はない.図4MAのOCT像RAM高はC460Cμmで,硝子体側に突出している.Bモード水平断で網膜内に明らかな瘤が確認でき,内腔壁の高反射がある().体側に突出し,網膜内のCRAMの内腔壁の高反射があった(図4).7月に左眼の出血源と思われるCRAM周囲に光凝固(yellowC200μm180mw0.15sec50shots)が施行された(図5).現在,両眼とも矯正視力はC0.9である.2023年C1月のCRAMによる硝子体出血前の眼底写真を見直すと視神経乳頭の下鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑を認めるが,明らかなCRAMはなかった(図2b).硝子体出血吸収後の眼底写真と比較すると明らかに硬性白斑が増加していた.なお,経過観察中のCHbA1cは7%前後で推移していた.CII考按RAMは一般的に網膜中心動脈から第C3分枝以内の網膜動脈に生じる血管瘤であると定義されている1).高齢者や女性の割合が高く,高血圧がC75%の患者に認められるとされる2).本症例も高齢者の女性で既往歴に高血圧があった.糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症した場合は,原因として新生血管がまず考えられる.本症例は硝子体出血吸収時に鼻側にCRAMが確認できたので,これが出血源であると判断した.フルオレセイン蛍光造影検査で,.状のRAMは確認されたが,新生血管は確認されていない.糖尿病網膜症に細動脈瘤を認めた報告は丸山ら3)が51例中5例に糖尿病を認め,そのうちのC2例に糖尿病網膜症に伴うRAMであり,2例とも汎網膜光凝固を施行された症例であると報告している.鼻側のCRMAは視力低下をきたしにくいためか報告例は少ない.Tizelら4)はCRAMの発生部位は網膜耳側がC90%,鼻側がC10%であると報告している.自験例5)でも鼻側がC32眼中C5例からも明らかに網膜の耳側が多かった.丸山ら3)の報告でも,鼻側発症はC53眼中C4眼であり,そのうちのC2眼が初発硝子体出血の原因となっていた.耳側発症がC49眼中C4眼に初発硝子体出血の原因となっていることから,鼻側RAMは初発硝子体出血の発生頻度が高いことになるが,耳側と鼻側ともに硝子体出血はC2.8週間で消退し,視力は良好であったと報告している.RAMは動脈硬化による網膜動脈壁の脆弱性に加えて高血圧による動脈圧の上昇が原因として考えられている6).本症例のCRAMについて仮説ではあるが,糖尿病網膜症により脆弱な網膜動脈にCRAMが形成されつつあるときにCVEGFが産生され,RAM形成に先立って網膜動脈に沿った硬性白斑が形成された可能性がある.以前,筆者らが報告したCRAMの症例は,急激が圧力の変化が起きてCRAMが破裂し網膜出血をきたした7).しかし,発症C3カ月前の眼底写真を見直すと本症例のような硬性白斑を認めていない.RAMのCOCTでは,平林ら8)の未破裂CRAMと同様にRAM高がC460Cμmと肥厚し,硝子体側に突出していた.また,水平断CBスキャン像で網膜内に明らかな瘤を確認する図5光凝固施行時下鼻側の硬性白斑とCRMAを含んで広範囲に光凝固を行った.ことができた.RAMは一度破裂すると閉塞することが多いが,硝子体出血吸収後も網膜出血が綿毛のように広がっており,「.u.ysign」を呈していたので予後不良と考え9),また,硬性白斑の増加を認めていたので,その範囲も含めて光凝固を行った.近年では抗CVEGF薬硝子体内投与によってCRAMの閉鎖と滲出性変化の改善が報告されているが,わが国では保険適用外なので使用することはできない10).糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症し,RAMが原因であるC1例を報告した.糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫の発症に注意を払っていたが,乳頭周囲の硬性白斑にはあまり注意をしていなかった.平林ら8)の症例(高眼圧症)や自験例7)(中心窩ドルーゼン)に対してCOCTを経時的に撮影していたため,RAM発症前後のCOCTを比較することができたが,本症例ではCOCTは黄斑部の撮影であったため,発症前にCOCTで捉えることができなかった.最近では広範囲に撮影できるCOCTが開発されていることから,RAMの早期発見につながるかもしれない.文献1)RobertsonDM:MacroaneurysmsCofCtheCretinalCarteries.CTransAmAcadOphthalmolOtolaryngolC77:55-67,C19732)阪口沙織:網膜細動脈瘤.あたらしい眼科C39:17-22,C20223)丸山泰弘,山崎伸一:網膜細動脈瘤C53例の視力の転帰.臨眼45:1506-1512,C19914)TezelCT,CGunalpCI,CTezalG:MorphometricalCanalysisCofCretinalCarterialCmacroaneurysms.CDocCOphthalmolC88:C113-125,C1994C5)青松圭一,岡本紀夫,杉岡孝二ほか:網膜細動脈瘤C32例の検討.動脈瘤が明瞭な症例.眼科57:1163-1169,C20156)柳靖雄:OCT・OCTAパーフェクト読影法,Chapter12網膜出血を認めたら.p133-141,羊土社,20237)岡本紀夫,木坊子展生,渡邉敦士ほか:誤嚥後に網膜出血を発症した網膜細動脈瘤のC1例.眼科66:605-609,C20248)平林博,若林真澄,平林一貴:OCTによる経過観察が有用であった網膜細動脈瘤のC1例.臨眼73:595-601,C20199)DoiCS,CKimuraCS,CMorizaneCYCetal:AdverseCe.ectCofCmacularintraretinalhemorrhageontheprognosisofsub-macularChemorrhageCdueCtoCretinalCarterialCmacroaneu-rymrupture.RetinaC40:989-997,C202010)MansourCAM,CFosterCRE,CGallego-PinazoCRCetal:Intra-vitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCinjectionsCforCexudativeCretinalCarterialCmacroaneurysms.CRetinaC39:1133-1141,C2019***