《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1042.1045,2017c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年版)比嘉利沙子*1井上賢治*1永井瑞希*1塩川美菜子*1鶴岡三恵子*1岡山良子*1井上順治*2堀貞夫*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofGlaucomaPatientsWhoAppliedforPhysicalDisabilityCerti.cateduringtheYear2015RisakoHiga1),KenjiInoue1),MizukiNagai1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),RyokoOkayama1),JunjiInoue2),SadaoHori2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を後ろ向きに調査した.年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.等級は,1級が14例(23%),2級が29例(47%)であり,両者で全体の70%を占めていた.病型では,原発緑内障が44例(開放隅角緑内障33例,正常眼圧緑内障7例,閉塞隅角緑内障4例)(72%),続発緑内障が16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26%),発達緑内障が1例(2%)で,開放隅角緑内障が全体の54%で最多であった.視力障害と視野障害を重複申請した症例は25例であった.2005年および2012年の調査と比較し,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Weretrospectivelyinvestigated61patients(32male,29female)withglaucomatreatedatInouyeEyeHospitalandNishikasaiInouyeEyeHospital,whoappliedforphysicaldisabilitycerti.catesbetweenJanuaryandDecember2015.Patientsintheir80snumbered23cases(38%),intheir70s18cases(9%),andintheir60s15cases(24%).Astograde,.rstgrade(14cases,23%)andsecondgrade(29cases,47%)accountedfor70%ofthetotal.Glauco-matypeincludedprimaryglaucoma(44cases;72%),secondaryglaucoma(16cases,26%)anddevelopmentalglaucoma(1case;2%).Primaryopen-angleglaucomawasthemostfrequentglaucomatype(54%).Atotalof25patientsappliedfordouble-disordercerti.cates.Glaucomatypeandgradewerenotdi.erentbetweenresultsat2005and2012.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1042.1045,2017〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野障害,等級.glaucoma,visualimpairement,physicallydis-abilitycerti.cate,visual.elddisturbance,grade.はじめに上眼科病院グループで行っている視覚障害による身体障害者現在,わが国における視覚障害者の原因疾患の第1位は緑手帳申請の実態調査2.5)で,緑内障は上位を占めていた(表内障である1).地域や施設の特徴により,身体障害者手帳申1).しかし,緑内障患者の身体障害者手帳申請の詳細を検討請の原因疾患が異なる可能性は否めないが,2005年から井した報告は少ない6.8).今回,視覚障害による身体障害者手〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda,Tokyo101-0062,JAPAN1042(126)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(126)10420910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1井上眼科病院グループにおける視覚障害の身体障害者手帳申請の原因疾患2005年2)2009年3)2012年4)2015年5)1位緑内障23%網膜色素変性症28%緑内障31%緑内障29%2位網膜色素変性症17%緑内障23%網膜色素変性症17%網膜色素変性症18%3位黄斑変性13%黄斑変性12%黄斑変性11%黄斑変性15%(%)602015年:61例5150384034302010312030代40代50代60代70代80代90代図1年齢分布帳取得申請を行った緑内障患者について検討した.I対象および方法井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を対象とした.年齢は74.2±10.3歳(平均値±標準偏差),33.90歳であった.実態調査は,身体障害者診断書,意見書の控えおよび診療記録をもとに後ろ向きに行った.検討項目は,1)年齢分布,2)等級の内訳,3)緑内障の病型,4)重複申請の内訳である.視覚障害は,視力障害と視野障害に区分して認定されるが,両障害が等級に該当する場合は重複申請が可能である.1)から3)の項目については,2005年および2012年に行った井上眼科病院グループの実態調査結果7,8)と比較した.ただし,2005年は,井上眼科病院のみを対象としているため,症例数が少なくなっている.統計学的解析には,c2検定を用い,有意水準はp<0.05とした.II結果1.年.齢.分.布年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.その他の年代では,50歳代が3例(5%),90歳代,30歳代が各1例(2%)であった.2012年の調査では,同様に80歳代が最多で25例(34%),70歳代が22例(30%),60歳代が16例(22%)の順であった.2005年では,70歳代が最多で18例(51(%)1006級52805級4級603級402級1級2002005年2012年2015年図2等級の内訳%),60歳代が9例(26%),80歳代が5例(14%)の順であった(図1).2.等級の内訳1級が14例(23%),2級が29例(47%)で,両等級を合わせると全体の70%を占めていた.2005年,2012年と比較し,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.882)(図2).3.緑内障の病型緑内障の病型は,原発緑内障が44例(72%),続発緑内障が16例(26%),発達緑内障が1例(2%)であった.原発緑内障では,開放隅角緑内障(POAG)が33例(54%),正常眼圧緑内障(NTG)が7例(11%),閉塞隅角緑内障(PACG)が4例(7%)を占めていた.続発緑内障の原因疾患は,ぶどう膜炎が6例(10%),落屑緑内障が5例(8%),血管新生緑内障が4例(6%),虹彩角膜内皮症候群が1例(2%)であった.2005年,2012年の調査でも,同様に開放隅角緑内障が最多(43,63%)で,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.763)(図3).4.重複障害申請の内訳申請は,視力障害のみが20例(33%),視野障害のみが16例(26%),重複申請を行った症例が25例(41%)であった.重複申請を行った25例のうち,視野障害が視力障害より上位等級であった症例は18例(72%),視力障害が上位等級であった症例は3例(12%),両者が同等の等級であった症例は4例(16%)であった.重複申請により,4例が上位等級に認定された(図4).(127)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171043【2005年】白内障術後3%n=35血管新生3%外傷3%落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2012年】血管新生3%n=73落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2015年】ICE症候群2%n=61血管新生発達2%落屑ぶどう膜炎POAGPACGNTG(%)図3緑内障の病型III考按視覚障害を米国の基準に従い9),良いほうの目の矯正視力0.02以上0.3未満のロービジョンと0.01以下の失明の両者とすると,2007年現在,日本の視覚障害者数は約164万人,約19万人弱が失明と推定されている1).さらに,視覚障害者の有病率は2007年では1.3%であったが,2030年では2.0%(約200万人)に増加することが予測されている1).緑内障患者に限定した今回の調査では,手帳申請者は70歳代以上が67%,60歳代以上では91%を占めていた.同調査における年齢(平均値±標準偏差)の推移は,2005年は72.1±9.3歳7),2012年は72.4±12.5歳8),2015年は74.2±10.3歳であった.年代別のピークは,2005年では70歳代であったが,2012年と2015年では80歳代であった(図1).症例数の差もあり単純に比較することはできないが,社会の高齢化に伴い,手帳申請も高齢者が増えると予想される.n=61視野障害の等級無54327241311111213648214123456無視力障害の等級図4各症例における視力障害と視野障害の等級数字は症例数を示した.黒の塗りつぶしは,重複申請により上位等級に認定された症例を示した.病型においては,原発緑内障が約3/4に対し,続発緑内障が約1/4を占めていた.過去の調査においても,同様の割合であり,全体としては開放隅角緑内障(POAG)が最多であった.また,TajimiStudyでは,続発緑内障の有病率は0.5%と報告されているが10),身体障害者では続発緑内障の割合が多かった.同じ病型でも症例ごとで重症度は異なるが,続発緑内障では重症例が多いことが示唆された.既報と比較して病型に関しては目立った変化はみられなかった(図2).身体障害者福祉法の障害等級判定には,問題点も指摘されている.視力に関しては,左右の単純加算による妥当性,視野に関しては,半盲と10°以内の求心性狭窄の評価の妥当性などがあげられる.また,手帳交付までの流れは都道府県により多少異なる.東京都においては,東京都心身障害者福祉センターに交付申請進達される診断書は年間約1,200件であり,障害認定課障害者手帳係で手帳交付が決定されるのは600件弱とされている.残りの約半数は,センター指定医の書類判定となるが,そのうち80%が視野に関する問題であり,疾患では,とくに緑内障が問題にあげられている11).視野障害2.4級では,「ゴールドマン視野検査のI/4イソプターが10度以内」と規定がある.1995年に視覚障害認定基準が改訂され,末期の緑内障患者の視野障害は該当しやすくなった.本実態調査では,2級が最多で,3級と4級に該当する症例がなかったのは,判定基準が影響している可能性がある.各疾患の重症度に合わせて等級が判定されるべきであるが,現状では疾患によって重症度と等級が一致していない場合もあり,緑内障の視野障害の評価は依然として困難をきわめる.一方で,今回の調査では,重複申請により上位等級に認定された症例が4例(16%)あった.緑内障という疾患の特徴上,手帳申請においては,視野障害の判定は重要な要素である.本実態調査では,井上眼科病院グループに通院している緑(128)内障患者数が正確に算定できないため,緑内障患者のうち身体障害者手帳を申請した割合が明確にできず,調査の限界があった.失明予防は,われわれ医療従事者の責務であるが,高齢社会により,身体障害者手帳申請者の増加および高齢化が予想される.また,身体障害者手帳の申請により,各福祉サービスや公的援助が受けられるが,実際にロービジョンケアに結びついているか否かの実態調査も今後は必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山田昌和:視覚障害の疾病負担本邦の視覚障害の現状と将来.日本の眼科80:1005-1009,20092)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20073)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院における視覚障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20114)井上順治,鶴岡三恵子,堀貞夫ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請者の現況(2012年)─過去の調査との比較.眼臨紀7:515-520,20145)井上賢治,鶴岡三恵子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現況(2015年)─過去の調査との比較.眼臨紀10:380-385,20176)武居敦英,平塚義宗,藤巻拓郎ほか:最近10年間に身体障害者手帳を申請した緑内障患者の背景の検討─順天堂大学と江東病院の症例から─.あたらしい眼科22:965-968,20057)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20078)瀬戸川章,井上賢治,添田尚一ほか:身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版).あたらしい眼科37:1029-1032,20149)ColenbranderA:Thevisualsystem.Chapter12inGuidestotheEvaluationofPermanentImpairment,6thedition(RodinelliReds),AmericanMedicalAssociationpublications,p281-319,UnitedStatesofAmerica,200810)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclousureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,200511)久保田伸枝:現状の身体障害者認定基準に基づく視野判定.日本の眼科84:1584-1595,2013***(129)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171045