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急速な血糖改善により異なる臨床経過を呈した2 型糖尿病 患者の2 症例

2021年5月31日 月曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(5):573.578,2021c急速な血糖改善により異なる臨床経過を呈した2型糖尿病患者の2症例中条恭子*1高地貞宏*1関谷泰治*1須藤史子*1加藤勇人*2佐倉宏*2*1東京女子医科大学東医療センター眼科*2東京女子医科大学東医療センター内科CDi.erenceofClinicalFindingsAfterRapidGlycemicControlinTwoCasesofType2DiabetesKyokoChujo1)CSadahiroKochi1)CYasuharuSekiya1)CChikakoSuto1)CHayatoKato2)andHiroshiSakura2),,,,1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2)DepartmentofInternalMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEastC眼科受診を機にC2型糖尿病と診断され,急速な血糖改善後に異なる臨床経過を呈したC2症例を報告する.症例C1は48歳,男性.初診時視力は右眼(0.1),左眼(0.02)で,両眼に成熟白内障を認めた.HbA1c16.6%で内科治療を開始したが,インスリン投与困難のため,HbA1c値の改善を待たず両眼白内障手術を施行し,視力は両眼(1.2)と改善した.初診時よりC4カ月間でC7.5%と急速に血糖改善したが,両眼底に網膜症を認めなかった.症例C2はC38歳,男性.初診時,視力は両眼(1.2)であった.左眼にフィブリン析出と虹彩後癒着を認め,HbA1c15.9%であり,糖尿病虹彩炎と診断した.内科治療開始後,右眼にも虹彩炎が出現した.両眼に黄斑浮腫を認め,視力は右眼(0.8),左眼(0.3)と低下した.初診時よりC3カ月間でC7.3%と急速に血糖改善したが,アフリベルセプト硝子体内注射施行後,視力は両眼(1.2)と改善し,黄斑浮腫も改善した.糖尿病虹彩炎を有する患者において,急速な血糖改善後に網膜症の進行や黄斑浮腫を引き起こした症例を経験した.CPurpose:Toreporttwocasesoftype2diabetesinwhichdi.erentclinical.ndingswereobservedafterrapidglycemiccontrol.Cases:Case1involveda48-year-oldmalewithbilateralmaturecataracts.HisHbA1cwas16.6%,andintensiveinsulintherapywasimmediatelyinitiated.However,hewasunabletoself-injecttheinsulin.Cata-ractsurgerywasperformedinbotheyeswithoutwaitingforimprovementofHbA1c,andhiscorrectedvisualacu-ityimprovedpostsurgery.AlthoughhisHbA1cfellto7.5%for4months,nodiabeticretinopathywasobserved.Case2involveda38-year-malewithdiabeticiritiswithhypopyoninhislefteye.HisHbA1cwas15.9%.Duringintensiveinsulintherapy,anddespitehavingnodiabeticretinopathy,hedevelopeddiabeticiritis,diabeticmacularedema,CandCpre-proliferativeCretinopathyCinCbothCeyes.CHisCHbA1cCfellCto7.3%CforC3Cmonths.CAfterCintravitrealCa.ibercepttherapy,bilateraldiabeticmacularedemadisappearedandhiscorrectedvisualacuityimproved.Conclu-sion:Weexperiencedacaseofdiabeticiritisthatcausedprogressionofretinopathyandmacularedemaafterrap-idglycemiccontrol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(5):573.578,C2021〕Keywords:糖尿病白内障,急速な血糖改善,糖尿病虹彩炎,糖尿病黄斑浮腫,血糖改善による一過性の網膜症悪化.diabeticcataract,rapidglycemiccontrol,diabeticiritis,diabeticmacularedema,earlyworseningofdiabeticCretinopathy.CはじめにDR),糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME),糖尿病は多臓器にわたって影響を及ぼす内科疾患であり,血管新生緑内障やぶどう膜炎などの合併症がみられる.その眼科では白内障,糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:なかでもよく合併されるDRは,糖尿病患者の6人に1人〔別刷請求先〕須藤史子:〒116-8567東京都荒川区西尾久C2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科Reprintrequests:ChikakoSuto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWowen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2-1-10Nishiogu,Arakawa-ku,Tokyo116-8567,JAPANC(15%)にみられるという1).そのうち,2型糖尿病患者に限定すると,DRの合併率はC40%に上る2).また,糖尿病に伴って眼内に炎症を起こすぶどう膜炎は,急性の非肉芽腫性ぶどう膜炎である糖尿病虹彩炎(diabeticiritis:DI)と転移性内因性眼内炎(感染性眼内炎)の二つに大別され,糖尿病患者のC0.8.5.8%にCDIを合併すると報告されている3).今回筆者らは,眼科受診を契機にC2型糖尿病と診断され,内科治療介入による急速な血糖改善中に異なる臨床経過を呈したC2症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕48歳,男性.主訴:両眼視力低下.現病歴:2018年から視力低下を自覚していたが,2019年1月より右眼の視力低下増悪を自覚したため,2019年C2月20日に当院を紹介受診した.既往歴:46歳頃に糖尿病を指摘されていたが,内科通院歴なし.家族歴:不明.初診時所見:視力は右眼C0.02(0.1C×sph.4.25D(cyl.0.75CDAx150°),左眼C0.01(0.02C×sph.4.00D),眼圧は右眼C17mmHg,左眼C16CmmHgであった.両眼に成熟白内障と,それに伴う水晶体膨隆を認め(図1a,b),眼底透見は困難であった.全身検査所見:随時血糖C470Cmg/dl,HbA1c16.6%,尿素窒素C11.6Cmg/dl,クレアチニンC0.73Cmg/dl.尿定性試験で尿蛋白は陰性,尿糖と尿ケトン体は陽性であった.経過:2019年C3月C8日に内科入院となり,インスリンおよび内服治療開始となった.しかしながら,著しい視力低下のため,インスリン自己注射が困難であった.そのため,HbA1c値の改善を待たず,同年C3月C22日右眼の白内障手術を施行した.術後視力は(1.2)に改善し,自宅加療可能となり退院した.術後感染や術後炎症の遷延もなかったため,同年C4月C30日に左眼の白内障手術を施行し,術後視力は(1.2)と両眼ともに改善を認めた.HbA1cの推移は,16.6%からC7.5%と,4カ月間でC9.1%低下したが,初診時よりC3カ月後の眼底写真でCDRを示唆する所見を認めなかった(図1c,d).2型糖尿病の内科治療については,術後C6カ月後にインスリン治療を終了し,経口血糖降下薬(DPP-4阻害薬)の内服でCHbA1cはC7.8%台で推移した.経過中,腎機能の変動はみられなかった.〔症例2〕38歳,男性.主訴:左眼充血,視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:両親ともに糖尿病の既往あり.現病歴:2019年C3月C28日よりC1日使い捨てコンタクトレンズをC3日間連続装用後,左眼の充血および視力低下を自覚.同年C4月C3日に近医受診し,抗菌薬(ベガモックス点眼液C0.5%,ベストロン点眼用C0.5%)とステロイド(リンデロン点眼用C0.1%)点眼を開始したが改善乏しく,同年C4月C6日に当院紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C0.09(1.0C×sph.3.25D(cyl.0.50CDAx170°),左眼C0.07(1.2C×sph.4.75D(cyl.1.25DCAx175°),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C6mmHgであった.左眼の前眼部に著明な結膜充血,フィブリン沈着および虹彩後癒着を認め,散瞳不良であった(図2a).右眼の前眼部は異常なく,両眼底ともにCDRや後部ぶどう膜炎を疑う所見を認めなかった(図3a,b).全身検査所見:随時血糖C650Cmg/dl,HbA1c15.9%,尿素窒素C16.1Cmg/dl,クレアチニンC0.45Cmg/dl.尿定性試験で尿蛋白は陰性,尿糖と尿ケトン体は陽性であった.経過:2019年C4月C6日よりベガモックス点眼液C0.5%C4回,リンデロン点眼用C0.1%C6回,散瞳薬(ミドリンCP点眼液C4回)の点眼を開始した.同年C4月C8日より内科でインスリン治療開始となった.2019年C4月C15日に右眼にもフィブリンが析出し,DIを認めた(図2b).同年C4月C24日に左眼(0.7)と視力低下およびCDME,同年C5月C2日に右眼(0.8)と視力低下およびDMEが出現した(図4a,b).両眼底に刷毛状出血と軟性白斑を認め(図3c,d),蛍光眼底造影検査では網膜全体に血管透過性亢進を示唆する所見がみられ(図3e,f),前増殖CDRへ進行していた.内科でのインスリン治療開始C1カ月でCHbA1c12.9%になったことから,血糖値の急速な改善による一過性の網膜症悪化(earlyworsening)と診断した.両眼のCDMEに対して,毎月C1回C3カ月間,アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.iberceptCtherapy:IVA)を施行した.その後CDMEは改善し(図4c,d),視力も両眼(1.2)と改善した.HbA1cの推移はC15.9%からC7.3%と,3カ月間でC8.6%低下し,急速改善を認めた.DIについてはリンデロン点眼用C0.1%,ミドリンCP点眼液の点眼継続により炎症症状の改善がみられた.2型糖尿病の内科治療については,両眼にCDIを生じてからC6カ月後にインスリン治療を終了した.経口血糖降下薬(DPP-4阻害薬)の内服でCHbA1cはC6.7%台で推移した.なお,症例C2においても経過中,腎機能の変動はみられなかった.CII考按症例C1,2はいずれもC30.40歳代と比較的若年の男性であり,眼科受診を契機にCHbA1c値C15%以上と血糖コントロール不良の未治療C2型糖尿病が発見された.両症例ともにインスリン治療や内服治療を開始したが,いずれの症例でも経過中に血圧や腎機能の変動はみられなかった.初診時より図1両眼性の糖尿病白内障(症例1)48歳.男性.初診時両眼に成熟白内障とそれに伴う水晶体膨隆を認めた(Ca:右眼,Cb:左眼).術後は両眼とも網膜症を認めなかった(Cc:右眼,d:左眼).図2両眼性の糖尿病虹彩炎(症例2)38歳.男性.Ca:初診時の左眼前眼部所見.結膜充血と,2時からC5時にかけて虹彩後癒着,前房蓄膿を認め(.),散瞳も不良であった.b:9日後には,右眼にもフィブリン析出を認めた(C.).数カ月でC8.9%台と,短期間で急速な血糖改善を認めたが,つつも,異なる臨床経過を呈したC2症例の相違について考察症例C1では眼底にはCDRを認めず,病期はCNDR(nodiabeticする.retinopathy)であった.症例C2では両眼にCDIを発症した後,症例C1では,40歳代でありながら,高度の成熟白内障を急速な血糖改善中に刷毛状出血やCDMEを認め,earlywors-呈していた.2型糖尿病以外に全身状態を含めて異常を疑うeningをきたした.年齢や性別など共通する背景因子を有し所見がなく,糖尿病白内障と診断した.水晶体はクリスタリabdcef図3両眼性の糖尿病虹彩炎(症例2)の眼底所見の経過a,b:初診時の眼底写真.DRは認められない.Cc,d:急速な血糖改善後の眼底写真.刷毛状出血と軟性白斑を認める.Ce,f:同時期の蛍光眼底造影写真.血管透過性亢進と黄斑浮腫が目立つ前増殖CDRへの進行がみられた.ンという蛋白質と水分からなる器官であるが,糖尿病白内障晶体内の浸透圧を上昇させ,水晶体線維を膨化させる.そのの成因としては,アルドース還元酵素(aldosereductase:他,活性酸素による酸化ストレスや,肝臓の代謝障害に伴うAR)を中心とするアルドース蓄積説がもっとも有用とされ血中フルクトース濃度上昇によって,クリスタリンの変性・ている4).高血糖が持続した状態では,ARの働きによって分解が促され,水晶体混濁をきたすとされる.フルクトースに変換され,血中に蓄積したフルクトースが水白内障の術前CDR病期別にみた術後CDR悪化率について,図4両眼性のDME(症例2)に対するIVA施行前後のOCT写真a,b:IVA施行前の両眼光干渉断層計(OCT)写真,両眼にCDMEを認めた.Cc,d:IVA施行後の両眼COCT写真,両眼ともCDMEの消失を認めた.Sutoら5)は急速な血糖改善群では,コントロール良好群および不良群と比較して有意にCDME悪化率が高いことと,急速な血糖改善群のなかでも,術前CDR病期が前増殖期のものは術後CDRとCDMEの悪化率が高いことを報告している.症例1ではCNDRであったため,DMEを生じなかったが,今後も定期的に経過をみていく必要がある.急速な血糖改善に伴うCearlyworseningについては,インスリン強化療法群では,従来療法に比べてCDRの早期悪化率が高いというCDiabetesCControlCandCComplicationsCTrial(DCCT)での報告6)を筆頭に,すでに広く知られている.Cearlyworseningの機序としては,急速な血糖値低下で相対的に局所の虚血をきたすことで,低酸素誘導因子や網膜内の血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)が亢進し,血液房水関門(blood-aqueousbarrier:BAB)や血液網膜関門(blood-retinalbarrier:BRB)が破綻すると考えられている7).BABの破綻からCDIが発症していると考えられた症例C2では,急速な血糖改善により,前房内および網膜内のCVEGFが亢進し,BABのみならずCBRBも破綻したと考えられた.その結果,刷毛状出血,軟性白斑やCDMEが出現し,前増殖期CDRへ進行した.IVA投与により血管透過性が抑制され,DMEは改善した.DRは一般的に両眼性であることが多いが,DIでは,患者C18名中C11名が片眼性(61%)であったことを,Watanabeらは報告している8).さらに,DI発症時の病期は単純期CDRであったが,DIが軽快したにもかかわらず,短期間で増殖CDRへ進行した症例も報告されている3).そのため,症例C2においても,DI軽快後もCDRの悪化に注意した管理が必要である.今回筆者らは,未治療糖尿病のC2症例から,初診時にCDIを有する場合は,急速な血糖改善後にCDRおよびCDMEが発症・進展することを経験した.内科治療介入による急速な血糖改善後も,内科と眼科で密接に連携しつつ,継続的な加療が必要であると再認識した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)須藤史子:白内障手術と糖尿病網膜症.DiabetesFrontier28:314-318,C20172)田中麻理:2型糖尿病患者の外来医療費に関係する因子についての検討.日本糖尿病学会誌55:193-198,C20123)臼井嘉彦:糖尿病虹彩炎.日本糖尿病眼学会誌C23:66-70,C20184)高村佳弘:糖尿病白内障に対するアプローチ.日本白内障学会誌29:45-47,C20175)SutoC,HoriS,KatoSetal:E.ectofperioperativeglyce-micCcontrolCinCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCandCinsulinCtherapyCexacerbatesCdiabeticCblood-retinalCbarrierCmaculopathy.ArchOphthalmolC124:38-45,C2006Cbreakdownviahypoxia-induciblefactor-1alphaandVEGF.6)DiabetesCControlCandCComplicationsTrial(DCCT)ReserchCJClinInvestC109:805-815,C2002Group:EarlyCworseningCofCdiabeticCretinopathyCinCthe8)WatanabeCT,CKeinoCH,CNakayamaCKCetal:ClinicalCfea-DiabetesCControlCandCComplicationsCTrial.CArchCOphthal-turesofpatientswithdiabeticanterioruveitis.BrJOph-molC116:874-886,C1998CthalmolC103:78-82,C20197)PoulakiCV,CQinCW,CJoussenCAMCetal:AcuteCintensive***