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多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対する アンケート調査−発行半年~20 年目の推移−

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):458.464,2024c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査.発行半年~20年目の推移.大野敦粟根尚子佐分利益生高英嗣田中雅彦谷古宇史芳廣田悠祐小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CQuestionnaireSurveyontheDiabeticEyeNotebookamongOphthalmologistsintheTamaArea.Changesfrom6Monthsto20YearsafterPublication.AtsushiOhno,NaokoAwane,MasuoSaburi,HidetsuguTaka,MasahikoTanaka,FumiyoshiYako,YusukeHirota,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医へのアンケート調査を発行半年.20年目に計C7回施行し,調査結果の推移を検討した.方法:多摩地域の眼科医に対し,1)眼手帳の配布状況,2)眼手帳配布に対する抵抗感,3)「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度,4)受診の記録で記入しにくい項目,5)受診の記録に追加したい項目,6)眼手帳を配布したい範囲,7)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか,8)眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか,9)他院で発行された眼手帳をみる機会,10)眼手帳の広まりについて調査し,各結果をC7群間で比較した.結果・結論:眼手帳発行後C20年の間に,眼手帳を渡すこと,内科医が渡すことへの抵抗感は減少し,より早期に渡すようになった.他院発行の眼手帳を見る機会は増え,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.CPurpose:ACquestionnaireCsurveyCofCophthalmologistsConCtheCDiabeticCEyeNotebook(DEN)wasCconductedCsevenCtimesCinCtheCperiodCfromC6CmonthsCtoC20CyearsCafterCpublication,CandCchangesCinCtheCsurveyCresultsCwereCexamined.CMethods:TheCsubjectsCwereCophthalmologistsCinCtheCTamaCarea.CTheCsurveyCitemswere:1)currentCstatusofDENdistribution,2)senseofresistancetosubmittingtheDEN,3)clinicalappropriatenessofthedescrip-tionCof“guidelinesCforCthoroughCfunduscopicCexamination”,4).eldsCinCtheCDENCthatCareCdi.cultCtoCcomplete,5)Citemsthatshouldbeaddedtotheclinical.ndings.eld,6)areainwhichtheDENshouldbedistributed,7)wheth-erCorCnotCtheCDENCcostCnotCcoveredCbyCmedicalCinsuranceCisCanCobstacleCtoCitsCpromotion,8)whetherCorCnotCtheCDENshouldbeprovidedtopatientsbyophthalmologists,9)frequencyofseeingtheDENissuedbyotherhospitals,and10)promotionoftheDEN.Wecomparedtheresultsamongthesevengroups.ResultsandConclusion:Inthe20yearssincethepublicationoftheDEN,thelevelofresistancetosubmittingtheDENandtotheinternisthand-ingitoverhasdecreased,anditisnowsubmittedearlier.TheopportunitiestoseetheDENissuedbyotherhospi-talshaveincreased,andtheyhavenoticedthespreadoftheDEN.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(4):458.464,C2024〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,糖尿病網膜症,糖尿病黄斑症,内科・眼科連携.diabeticCeyeCnote-book,questionnairesurvey,diabeticretinopathy,diabeticmaculopathy,cooperationbetweeninternistandophthal-mologist.Cはじめに一つが,内科と眼科の連携である.多摩地域では,1997年糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントのに設立した糖尿病治療多摩懇話会において,内科と眼科の連〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC458(92)携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し,地域での普及を図った1).この活動をベースに,筆者はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携C.放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年C6月に日本糖尿病眼学会より発行されてからC21年が経過し,2020年には第C4版に改訂され,その利用状況についての報告が散見される4.7).多摩地域では,眼手帳に対する眼科医へのアンケート調査を発行半年.20年目までにC7回施行しているが,発行C7年目まで8)と10年目まで9)の比較結果を報告した.本稿ではC20年目までのC7回の調査結果を比較することで,眼手帳に対する眼科医の意識の変化を検討した.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医で,アンケート調査は,発行半年.13年目は眼手帳の協賛企業である三和化学研究所の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の普及啓発を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうがよいと判断した.発行18年目,20年目は,三和化学研究所の諸事情と倫理的問題を考慮し,アンケート調査は郵送での送付とCFAXを利用した回収で施行し,発行C18年目はC141件,20年目はC146件に郵送を行った.なお,いずれの年もアンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,三和化学研究所の関係者は関与していない.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.回答を依頼したアンケート項目は,以下のC10項目である.問1.眼手帳の利用状況についてお聞かせ下さい問2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことに抵抗がありますか問C3.眼手帳のC1ページの「精密眼底検査の目安」【20年目の第C4版は「推奨される眼科受診間隔」】の記載があることは,臨床上適当とお考えですか問C4.眼手帳のC4ページ目からの受診の記録で,記入しにくい項目はどれですか問C5.眼手帳のC4ページ目からの受診の記録に追加したい項目はありますか問C6.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいですか問C7.診療情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことは,手帳の普及の妨げになりますか問C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいとお考えですか問C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳を御覧になる機会がありますか問C10.【半年目・2年目】眼手帳は広まると思いますか【7年目以降】眼手帳は広まっていると思いますか上記の問C1.10に関するアンケート調査を行い,各問のアンケート結果の推移を検討した.7群間の回答結果の比較にはC|2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.CII結果回答者のプロフィール(表1)回答者数は,発行半年目C96名,2年目C71名,7年目C68名,10年目54名,13年目50名,18年目42名(回収率:29.8%),20年目C50名(回収率:34.2%)であった.年齢はC7年目まではC40歳代,10年目からはC50歳代がもっとも多く経年的に有意な上昇を認めた(C|2検定:p<0.001).勤務施設は診療所の割合がC10年目まではC70%台であったが,その後C80%以上に増加傾向を認めた(C|2検定:p=0.09).定期受診中の糖尿病患者数は,病院勤務医の割合の変動もあり,経年的に増減傾向を示した(C|2検定:p=0.05).C1.眼手帳の利用状況(図1)発行半年目の調査時は質問項目として未採用のため,発行2年目.20年目で比較した.その結果,「眼手帳を今回はじめて知った」との回答は,2.13年目はC5%未満にとどまり18,20年目は認めず,眼手帳の認知度はC95%以上であった.一方,「積極的配布」と「時々配布」を合わせて,7,10,18年目はC60%,13年目はC70%を超え,20年目は前者がC40%を超え,6群間に有意差を認めた(C|2検定:p=0.03).C2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図1)眼手帳配布に対する抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて,2,7,20年目はC80%,10,13,18年目はC90%を超え,7群間で有意差を認めた(C|2検定:p=0.01).C3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度(図1)目安があることおよび記載内容ともに適当との回答が,18年目まではC80%を超えていたがC20年目はC70%まで減少し,「目安の記載自体混乱の元なので不必要」や「目安はあったほうがよいが記載内容の修正が必要」の回答が増えていた(|2検定:p=0.15).表1回答者のプロフィール年齢半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)20歳代3.1%(3)5.6%(4)1.5%(1)0%(0)0%(0)0%(0)0%(0)30歳代28.1%(C27)21.1%(C15)14.7%(C10)7.4%(4)12.0%(6)2.4%(1)14.0%(7)40歳代33.3%(C32)38.0%(C27)38.2%(C26)31.5%(C17)28.0%(C14)19.0%(8)18.0%(9)50歳代17.7%(C17)16.9%(C12)29.4%(C20)37.0%(C20)42.0%(C21)42.9%(C18)36.0%(C18)60歳代11.5%(C11)9.9%(7)11.8%(8)14.8%(8)12.0%(6)21.4%(9)18.0%(9)70歳代3.1%(3)8.5%(6)2.9%(2)7.4%(4)6.0%(3)14.3%(6)14.0%(7)未回答3.1%(3)0%(0)0.1%(1)1.9%(1)0%(0)0%(0)0%(0)勤務施設半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)診療所75.0%(C72)71.8%(C51)76.5%(C52)79.6%(C43)84.0%(C42)92.9%(C39)80.0%(C40)大学病院9.4%(9)9.9%(7)10.3%(7)9.3%(5)2.0%(1)0%(0)8.0%(4)総合病院7.3%(7)11.3%(8)5.9%(4)11.1%(6)12.0%(6)0%(0)4.0%(2)一般病院7.3%(7)5.6%(4)2.9%(2)0%(0)0%(0)2.5%(1)4.0%(2)その他C─C─2.9%(2)0%(0)0%(0)2.5%(1)4.0%(2)未回答1.0%(1)1.4%(1)1.5%(1)0%(0)2.0%(1)2.5%(1)0%(0)糖尿病患者数半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)10名未満8.3%(8)11.3%(8)8.8%(6)9.3%(5)6.0%(3)0%(0)6.0%(3)10.C29名31.3%(C30)16.9%(C12)19.1%(C13)16.7%(9)26.0%(C13)21.4%(9)12.0%(6)30.C49名19.8%(C19)19.7%(C14)23.5%(C16)22.2%(C12)34.0%(C17)16.7%(7)18.0%(9)50.C99名14.6%(C14)14.1%(C10)14.7%(C10)9.3%(5)8.0%(4)26.2%(C11)24.0%(C12)100名以上10.4%(C10)29.6%(C21)23.5%(C16)11.1%(6)20.0%(C10)26.2%(C11)28.0%(C14)未回答15.6%(C15)8.5%(6)10.3%(7)31.5%(C17)6.0%(3)9.5%(4)12.0%(6)4.受診の記録の中で記入しにくい項目(図2)10年目までは「福田分類」と「糖尿病網膜症の変化」の選択者が多かったが,福田分類削除後のC13年目以降は「糖尿病黄斑症」関連,20年目は「中心窩網膜厚と抗CVEGF療法」関連の選択者が多かった.C5.受診の記録の中で追加したい項目の有無(図3)追加したい項目は,「特にない」がC7群ともC80%以上を占めて有意差は認めなかった(C|2検定:p=0.15).追加したい項目のある回答者における追加希望項目は,13年目まではHbA1cがもっとも多かったが,18年目以降は他の眼底所見の記入欄,20年目はフリースぺースへの要望を認めた.C6.眼手帳を渡したい範囲(図3)配布の希望範囲は,「全ての糖尿病患者」の比率が経年的に増加してC10年目からは約C60%をキープし,「網膜症が出現してきた患者」の比率は減少し,7群間に有意差を認めた(|2検定:p=0.01).C7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか(図3)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げに「まったくならない」と「あまりならない」を合わせると,7群ともC60%以上で有意差はなかった(C|2検定:p=0.90).C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか(図4)眼手帳は「眼科医が渡すべき」との回答がC10年目から減少し,「内科医が渡しても良い」と「どちらでも良い」の回答の比率が有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会(図4)半年目は質問項目として未採用のため,発行C2年目.20年目で比較した.その結果,他院で発行された眼手帳をみる機会は,「かなりある」と「多少ある」を合わせて,7年目はC60%台,10,13年目はC70%台,18年目はC80%台,20年目はC90%台を占め,有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).C10.眼手帳の広まり(図4)この設問において,半年目とC2年目は眼手帳の広まりに対する予想を,一方,7年目以降は現在の広まりに対する評価を質問した.その結果,「眼手帳はかなり広まる・広まって問1眼手帳の利用状況\2検定p=0.032年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%問2眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感\2検定p=0.01半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%問3眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度\2検定p=0.15半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%図1問1~3の回答結果積極的に配布している時々配布している必要とは思うが配布していない必要性を感じず配布していない眼手帳を今回はじめて知ったその他の配布状況未回答いる」との回答は,半年目.7年目のC30%未満と比べてC10年目.20年目はC40%前後に有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).CIII考按1.眼手帳の利用状況眼手帳の認知度はC95%以上であったが,船津らにより行われた全国C9地域,10道県の眼科医を対象にした,発行C1年目の調査5)における認知度はC88.6%,6年目の調査7)では95.3%であり,それ以降全国規模の報告は認めないが当初はほぼ同等の結果と思われる.一方,眼手帳の活用度は,積極的と時々配布を合わせてC7年目からはC60%を超えているが,先の発行C1年目5)と6年目7)の調査における活用度C60.5%,71.6%と比べるとやや低かった.必要とは思うが診療が忙しくてほとんど配布していないとの回答がC10,13年目にC25%を超え,活用度を上げるには「コメディカルによる記入の協力」などより利用しやすい方法を考える必要性を感じていたが,18,20年目にその割合がC10%台まで減少しており,今後その背景を追跡調査していきたい.C2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感眼手帳配布に対する抵抗感は,2年目以降「まったくない」(95)と「ほとんどない」を合わせてC80%を超えており,外来における時間的余裕と配布,ならびに手帳記載時のコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果であった.C3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度目安の記載自体混乱のもとで「不必要」との回答をC18年目までC4.10%台認めている.この結果は,糖尿病の罹病期間や血糖コントロール状況を加味せずに,検査間隔を決めるむずかしさを示唆しており,受診時期は主治医の指示に従うように十分説明してから手帳を渡すことの必要性を感じていた.20年目は「不必要」がC18%,「修正が必要」がC12%まで増えていたが,20年目のアンケート調査時には眼手帳が第4版に改訂されて,「精密眼底検査の目安」から「推奨される眼科受診間隔」に変更されている.記載された修正コメントのなかには「緑内障等でも通院している患者は網膜症としてはC6カ月後で良いが,緑内障に対してはC1カ月毎の場合に記載の仕方で誤解が生じてしまう」などの記載があり,「糖尿病網膜症管理において推奨される眼科受診間隔」であることを伝える必要性が出てきた.あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C461問4受診の記録の中で記入しにくい項目次回受診予定日糖尿病黄斑症HBA1c糖尿病黄斑症の変化矯正視力糖尿病黄斑浮腫眼圧中心窩網膜厚白内障本日の抗VEGF療法糖尿病網膜症抗VEGF薬総投与回数糖尿病網膜症の変化特になし福田分類その他0%10%20%30%40%50%60%0%10%20%30%40%50%60%図2問4の回答結果問5受診の記録の中で追加したい項目の有無\2検定p=0.15半年目特にない2年目7年目ある10年目13年目18年目未回答20年目0%20%40%60%80%100%問6眼手帳を渡したい範囲\2検定p=0.01半年目すべての糖尿病患者2年目網膜症が出現してきた患者7年目10年目正直あまり渡したくない13年目その他18年目未回答20年目0%20%40%60%80%100%問7文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか\2検定p=0.90半年目全くならない2年目あまりならない7年目10年目多少なる13年目かなりなる18年目20年目未回答0%20%40%60%80%100%図3問5~7の回答結果問8眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%\2検定p<0.00180%100%問9内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会2年目7年目10年目13年目18年目20年目\2検定p<0.001眼科医が渡すべき内科医でも良いどちらでも良い未回答かなりある多少あるほとんどない全くない未回答0%20%40%60%80%100%問10眼手帳の広まり\2検定p<0.001半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%図4問8~10の回答結果【半年・2年目】かなり広まると思う【7年.20年目】かなり広まっていると思う【半年・2年目】なかなか広まらないと思う【7年.20年目】あまり広まっていないと思うどちらとも言えない未回答4.受診の記録の中で記入しにくい項目10年目までは「福田分類」の選択者がもっとも多かったが,眼手帳とほぼ同じ項目で作成された「内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書」の改良点に関する調査においても,削除希望項目として福田分類の希望が多かった1).また,筆者が以前非常勤医師として診療に携わっている病院における眼手帳の記入状況において,福田分類はもっとも記載率が低かった10).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため,ぜひ記入して頂きたい項目であるが,その記入のためには蛍光眼底検査が必要な症例も少なくなく,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,2014年C6月に改訂された眼手帳の第C3版では,受診の記録から福田分類は削除された.一方,福田分類削除後のC13,18年目は眼手帳第C3版の「糖尿病黄斑症の変化」の選択者がもっとも多かったが,改善・悪化の基準が主治医に任されていたことも要因と思われる.20年目は眼手帳第C4版に替わり,「中心窩網膜厚と抗VEGF療法」の選択者が多かった.中心窩網膜厚の記載により黄斑症の変化を評価する必要性はなくなったものの,中心窩網膜厚の記載には光干渉断層計(OCT)撮影が必要であ(97)り,撮影結果を用いて忙しい外来時に黄斑浮腫関連の項目を記載する負担感が影響しているかもしれない.C5.受診の記録の中で追加したい項目の有無追加したい項目はとくにないとの回答がC80%以上を占めていたが,追加希望の項目としてはC13年目まではCHbA1cがもっとも多かった.HbAC1Cが併記されれば,血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連がみやすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ導入が期待されていたが,眼手帳第C4版では導入された.18年目以降は他の眼底所見の記入欄,フリースぺースへの要望を認めており,今後の改訂時に検討されることを期待したい.C6.眼手帳を渡したい範囲すべての糖尿病患者との回答は,半年目でC27.1%にとどまり,船津らの発行C1年目の調査5)でのC24.8%との回答結果に近似していた.しかし,2年目C40.8%,7年目C45.6%と増加傾向を示し,6年目の調査7)でのC31.8%を上回り,10年目からは約C60%をキープしている.一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目のC60%がC2年目とC7年目はC40%強に減少傾向を認めたが,6年目の調査7)でのC39.6%と近似した結果を示した.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C463に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる5).C7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか「普及の妨げにまったく・あまりならない」との回答がC7群ともC60%以上を占めた.従来連携に用いてきた情報提供書は,医師側には文書料が保険請求できるメリットがあるものの,患者側からみると記載内容を直接見ることができないデメリットもある.今回の結果は,「患者さんに糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらう」という眼手帳の目的を考えると,望ましい方向性を示している.C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目からは前者が著減し後者が有意な増加を示した.眼手帳発行C8年目にあたる平成C22年には,内科医側からの情報源である「糖尿病健康手帳」が「糖尿病連携手帳」に変わり,それに伴い眼手帳のサイズも連携手帳に合わせて大判となった.両手帳をつなげるビニールカバーも,眼手帳無料配布の協賛企業から提供されており,その結果,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えたために,今回のような回答の変化が生じた可能性が考えられる.C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会「かなりある」と「多少ある」が増加し,「ほとんどない」と「まったくない」が減少していたが,とくに「かなりある」との回答がC10年目以降C20%を超えた背景には,前項の考察で触れたように,眼手帳発行C8年目に「糖尿病連携手帳」が登場し,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えたことが考えられる.C10.眼手帳の広まり7年目までの厳しい評価から,10年目から眼手帳の広まりに対する高評価に推移した背景には,眼手帳発行C8年目に「糖尿病連携手帳」が登場し,内科医から眼手帳を同時発行する機会が増えた直接効果のみならず,内科と眼科の連携に対する意識が高まったことも考えられる.謝辞:アンケート調査にご協力いただきました多摩地域の眼科医師の方々,眼手帳発行半年.13年目のアンケート調査時にアンケート用紙の配布・回収にご協力いただきました三和化学研究所東京支店多摩営業所の医薬情報担当者方々に厚く御礼申し上げます.追記:本論文の要旨は,第C28回日本糖尿病眼学会総会と同時開催された第C37回日本糖尿病合併症学会(2022年C10月C22日)において発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会;船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,C20119)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C201410)大野敦,林泰博,川邉祐子ほか:当院における糖尿病眼手帳の記入状況.川崎医師会医会誌22:48-53,C2005***

多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳第4 版に対する アンケート調査

2023年2月28日 火曜日

《第27回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科40(2):237.242,2023c多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳第4版に対するアンケート調査大野敦粟根尚子佐分利益生廣瀬愛谷古宇史芳赤岡寛晃廣田悠祐小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CQuestionnaireSurveyontheDiabeticEyeNotebook4thEditionamongPhysiciansintheTamaAreaAtsushiOhno,NaokoAwane,MasuoSaburi,AiHirose,FumiyoshiYako,HiroakiAkaoka,YusukeHirota,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:2020年に第C4版に改訂された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対するアンケート調査を内科医を対象として行い,その結果に回答者が糖尿病を専門としているか否かで差を認めるかを検討した.方法:多摩地域の内科医に眼手帳第C4版に対するアンケートへの回答をC2021年に依頼し,回答者を糖尿病が専門のC38名(専)と非専門のC26名(非)に分け調査結果を比較した.結果:両群とも「眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感はない」がほぼC100%.受診の記録の記載内容は「ちょうど良い」がC70%前後,「詳しすぎる」もC20%前後認め,不要と感じる項目は中心窩網膜厚と抗CVEGF療法とする回答が多かった.福田分類は(専)で「無いままでよい」,(非)で「どちらともいえない」が最多であったが,復活を(専)のC12%が希望した.第C4版で「HbA1cが追加されてよかった」が(非)で多い傾向を認めた.結論:眼手帳の受診の記録が詳しすぎるとの回答をC20%前後認め,不要と感じる項目として糖尿病黄斑浮腫関連の回答が多く,内科医への啓発活動が必要と思われる.CPurpose:WeconductedaquestionnairesurveyofphysiciansontheDiabeticEyeNotebook(DEN,revisedtotheC4thCeditionCin2020)C,CandCexaminedCifCthereCwasCaCdi.erenceCinCtheCresultsCdependingConCwhetherCorCnotCtheCrespondentswerediabetesspecialists.Methods:In2021,wesentquestionnairesonthe4th-editionDENtophysi-ciansCinCtheCTamaCarea,CandCdividedCtheCrespondentsCintoCthoseCwhospecialize(S)indiabetes(n=38)andCthoseCwhodonotspecialize(NS)indiabetes(n=26)andcomparedthe.ndings.Results:InboththeSandNSgroup,nearlyCallCpatientsCagreedCtoCtheChandingCoverCtheCDENCophthalmologicalCdata.COfCtheCmedicalCrecordsCcollected,Capproximately70%CwereCadequate,CwhileCapproximately20%CwereCtooCdetailed,CandCfovealCretinalCthicknessCandCanti-VEGFtherapyweretheitemsmostfrequentlydeemedunnecessary.ThemostcommonanswertotheFuku-daclassi.cationwasthatitdidnotneedtobeS,neitherNS,yet12%ofSrespondentsstatedthatitwasacceptedifrevised.ItwasdeemedgoodthatHbA1cwasaddedinthe4thedition,butthattendencywasmorecommonintheCNSCresponses.CConclusion:About20%CofCtheCrespondentsCansweredCthatCtheCrecordsCofCconsultationsCinCtheCDENCwereCtooCdetailed,CandCmanyCrespondedCthatCdiabeticCmacularCedemaCrelatedCitemsCwereCunnecessary,CthusCindicatingthatthephysiciansneedtobefurthereducated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(2):237.242,C2023〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,受診の記録,糖尿病黄斑浮腫,福田分類.diabeticCeyeCnotebook,Cquestionnairesurvey,recordofconsultations,diabeticmacularedema,Fukudaclassi.cation.C〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC表1アンケート回答者の背景(人数)専門医非専門医p値【年齢】20歳代:3C0歳代:4C0歳代:5C0歳代:6C0歳代:7C0歳代1:7:8:12:7:1(無回答C2名)0:2:6:4:7:5(無回答C2名)C0.12【臨床経験年数】10年以内:1C1.C20年:2C1.C30年:3C1.C40年:4C1年以上4:10:12:9:2(無回答C1名)2:5:9:4:4(無回答C2名)C0.64【就業施設】診療所:2C00床以下の病院:2C00床以上の病院:大学病院22:1:1:8(無回答C6名)19:0:0:0(無回答C7名)C0.03【定期通院糖尿病患者数】11.C30名:3C1.C50名:5C1.C100名:1C01.C300名:3C01名.C500名:5C01名以上1:1:7:13:2:1C3(無回答C1名)11:6:4:2:0:0(無回答C3名)<C0.001はじめに糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの一つが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設立し,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を図った1).また,この活動をベースに,筆者(大野)はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携.放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経てC2002年C6月に日本糖尿病眼学会より『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)の発行されるに至った3).眼手帳は発行後C20年が経過し,その利用状況についての報告が散見され4.7),2005年には第C2版,2014年には第C3版に改訂された.多摩地域では,眼手帳に対する内科医の意識調査を発行C7年目,10年目に施行し,13年目には過去C2回の調査結果と比較することで,発行後C13年間における眼手帳に対する内科医の意識の変化を報告した8).第C3版においては糖尿病黄斑症の記載が詳細になり,一方,初版から記載欄を設けていた福田分類が削除され,第C2版への改訂に比べて比較的大きな変更になった.さらに2020年には第C4版に改訂されて「HbA1c」の記入欄が設けられ,「糖尿病黄斑浮腫の現状と治療内容」に関する詳細な記載項目が増えた.そこで多摩地域では,2021年C4.5月に眼手帳第C4版に対する内科医を対象としたアンケート調査を施行したので,その結果に糖尿病の専門性の有無で差があるかを検討した.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域で糖尿病診療に関心をもつ内科医C65名で,「日本糖尿病学会員ですか,糖尿病について関心がありますか?」の質問に対する回答結果【①日本糖尿病学会の会員,②会員ではないが糖尿病が専門・準専門,③専門ではないが関心はある,④あまり関心がない】により,専門医(①C32名+②C6名)38名と非専門医(③C26名+④C0名)26名(1名は不明)のC2群に分けた.アンケート回答者の背景を表1に示す.年齢は,専門医が50歳代のC33.3%,非専門医がC60歳代のC29.2%がそれぞれ最多でも,両群間に有意差は認めなかった.臨床経験年数は,専門医・非専門医ともC21.30年がC30%台でもっとも多く,両群間に有意差は認めなかった.就業施設は,専門医が診療所C68.8%,病院C31.2%,非専門医は診療所C100%で,非専門医で診療所勤務者が多い傾向を認めた.糖尿病の定期通院患者数は,専門医はC101名以上の回答がC75.6%,非専門医はC50名以下の回答がC73.9%を占め,両群間に有意差を認めた.アンケート調査はC2021年C4.5月に実施した.眼手帳の協賛企業である三和化学研究所の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうが良いと判断し,依頼した.なお,アンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,三和化学研究所の関係者は関与していない.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.アンケートの設問は,以下のとおりである.問1.眼手帳の認知度・活用度問2.眼手帳を持参される患者数問3.眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感問4.眼手帳の「受診の記録」の記載内容への御意見問5.「受診の記録」の記載内容で不要と感じる項目問6-1).眼手帳の「受診の記録」への項目追加希望問6-2).第C3版から「福田分類」が消えたことへの御表2眼手帳の認知度・活用度と持参される患者数眼手帳の認知度・活用度専門医非専門医1)2)すでに眼科医から発行されて,外来時に「眼手帳」から診療情報を得ている眼科医から発行されて外来時に見たことはあるが,活用はしていない31名(C91.2%)1名(2C.9%)3名(1C2.0%)8名(3C2.0%)3)外来とは別のところ(研究会等)で見たことや聞いたことはある1名(2C.9%)5名(2C0.0%)4)眼手帳の存在自体今回はじめて知った9名(3C6.0%)5)その他の状況1名(2C.9%)p<0.001無回答C4C1C眼手帳を持参される患者数専門医非専門医1)5名未満1名(3C.2%)6名(5C4.5%)2)5.C9名2名(6C.5%)3名(2C7.3%)3)10.C19名8名(2C5.8%)4)20名以上20名(C64.5%)2名(1C8.2%)p<0.001無回答C1表3眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感と「受診の記録」の記載内容眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感専門医非専門医1)全くない33名(C86.8%)22名(C88.0%)2)ほとんどない4名(1C0.5%)3名(1C2.0%)3)多少ある1名(2C.6%)4)かなりあるp=0.1無回答C1C眼手帳の「受診の記録」の記載内容専門医非専門医1)詳しすぎて理解しにくい項目がある8名(2C2.2%)4名(1C6.0%)2)3)必要な情報が入っていてちょうど良いもっと詳しい内容がほしい27名(C75.0%)1名(2C.8%)17名(C68.0%)4)わからない4名(1C6.0%)p=0.056無回答C2C1C意見問6-3).第C4版で「HbA1c」が追加されたことへの御意見各設問に対する結果は,無回答者を除く回答者数,カッコ内に百分比で示した.問C2は,問C1で眼手帳を活用中,診療で見るが未活用した回答の専門医C32名,非専門医C11名を対象に施行した.問C5は,問C4で詳しすぎると回答した専門医C8名,非専門医C4名を対象に施行した.両群の回答結果の比較は度数がC5未満のセルが多いため,統計ソフトCEZR(EasyR)を用いてCFisherの正確確率検定を行い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.糖尿病眼手帳の認知度・活用度(表2上段)専門医は「外来時に眼手帳から診療情報を得ている」の91.2%,非専門医は「眼手帳の存在自体今回はじめて知った」のC36.0%が最多回答で,専門医において有意に認知度が高く活用もされていた.C2.眼手帳を持参される患者数(表2下段)専門医は「20名以上」の回答がC64.5%,非専門医は「5名未満」の回答がC54.5%を占め,専門医で有意に多かった.C3.眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感(表3上段)両群とも「全くない」がC85%以上,「ほとんどない」を合わせてほぼC100%で,有意差を認めなかった.次回受診予定HbA1c矯正視力眼圧白内障糖尿病網膜症糖尿病網膜症の変化糖尿病黄斑浮腫中心窩網膜厚本日の抗VEGF療法抗VEGF薬総投与回数図1「受診の記録」の記載内容で不要と感じる項目問C4で「詳しすぎる」と回答した人のみに質問(専門医:8名,非専門医C4名).表4「受診の記録」の項目に対する御意見眼手帳の「受診の記録」への項目追加希望専門医非専門医1)特にない30名(C88.2%)21名(C95.5%)2)ある4名(1C1.8%)1名(4C.5%)p=0.64無回答C4C4C第C3版から「福田分類」が消えたことへの御意見専門医非専門医1)無いままでよい16名(C47.1%)8名(3C8.1%)2)復活してほしい4名(1C1.8%)3)どちらともいえない14名(C41.2%)13名(C61.9%)p=0.17無回答C4C5C第C4版で「HbAC1c」が追加されたことへの御意見専門医非専門医1)追加されてよかった22名(C62.9%)18名(C90.0%)2)必要なかった3名(8C.6%)3)どちらともいえない10名(C28.6%)2名(1C0.0%)Cp=0.11無回答C3C6C4.眼手帳の「受診の記録」の記載内容への御意見(表35.「受診の記録」の記載内容で不要と感じる項目(図1)下段)問C4で「詳しすぎる」と回答した人が不要と感じる項目両群とも「必要な情報が入っていてちょうど良い」がC70は,両群とも中心窩網膜厚と抗CVEGF療法関連項目が多か%前後でもっとも多く,「詳しすぎて理解しにくい項目があった.る」はC20%前後認めた.6-1).眼手帳の「受診の記録」への項目追加希望(表4上段)「特にない」との回答が両群ともC85%以上を占め,有意差はなかった.C6-2).第3版から「福田分類」が消えたことへの御意見(表4中段)専門医で「無いままでよい」,非専門医で「どちらともいえない」がそれぞれもっとも多く,一方復活希望は専門医で12%認めたが,両群間に有意差はなかった.C6-3).第4版で「HbA1c」が追加されたことへの御意見(表4下段)「追加されてよかった」が,専門医のC62.9%に比し非専門医はC90.0%と多い傾向を認めた.CIII考按1.糖尿病眼手帳の認知度・活用度専門医は眼手帳をC90%以上の回答者が活用中であったのに対し,非専門医はC12%にとどまっていた.今回のアンケート項目にないため推測の範囲内ではあるが,眼科への定期受診率が非専門医の方が低いために眼手帳を見る機会も少ないことが考えられる.また,今回のアンケートでは「眼手帳は眼科医から渡すべきか」との項目も設けたが,その回答において「内科医から渡しても良い」との回答が専門医は31.6%で非専門医のC16.0%の約C2倍を占めており,専門医では糖尿病連携手帳と眼手帳の同時配布率が高いことも非専門医との活用度の差につながっている可能性が考えられる.C2.眼手帳を持参される患者数眼手帳の持参患者数は専門医で有意に多かったが,糖尿病の定期通院患者数は専門医がC101名以上,非専門医はC50名以下の回答がそれぞれ約C75%を占めて有意差を認めているためと思われる.C3.眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感眼手帳を眼科医が渡すことへの抵抗感は,両群とも「全く・ほとんどない」がほぼC100%であったことより,糖尿病初診患者には,たとえ糖尿病連携手帳を未持参でも眼科医からの眼手帳の配布が望まれる.ただそのためには,外来における時間的余裕と眼手帳の配布ならびに眼手帳記載時のメディカルスタッフによるサポート体制の確保が必要と思われる.一方,多摩地域の眼科医に対する眼手帳のアンケート調査において「眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか」の設問に対し,「眼科医が渡すべき」の回答が2020年はC2015年に比べてC14.3%減り,「内科医から渡してもかまわない」の回答がC12.7%増えていた9).したがって,内科医も眼科医からの配布を待つ受け身の姿勢ではなく,糖尿病初診患者に糖尿病連携手帳と眼手帳を同時配布し,初診の段階での眼科受診を勧める姿勢が望まれる.C4.眼手帳の「受診の記録」の記載内容への御意見多摩地域の内科医における眼手帳発行C7・10・13年目の意識調査8)では,「必要な情報が入っていてちょうど良い」との回答がC71.75%で今回の結果とほぼ一致していたが,一方「詳しすぎて理解しにくい項目がある」はC3.3.8.5%にとどまり,今回のC20%前後の回答率とは差を認めた.C5.「受診の記録」の記載内容で不要と感じる項目詳しすぎて理解しにくいために不要と感じる項目としては,専門医でも中心窩網膜厚と抗CVEGF療法関連項目をあげていた.「眼手帳の目的」がC16頁に三つ記載されているが,そのなかでもっとも重要な項目は「③患者さんに糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらう」ことであると筆者は考えている.眼手帳第C3版への改訂にあたり,患者サイドに立った眼手帳をめざしてC1頁の「眼科受診のススメ」の表記を患者にわかりやすい表記に変更しただけでなく,糖尿病黄斑症への理解を助けるために眼手帳後半のお役立ち情報に光干渉断層計(OCT)や薬物注射を加えるなどの改変を行い.その結果患者さんにとってわかりやすくなったとの回答が多摩地域の眼科医においてC2015年のC54.5%から2020年はC64.9%とC10%増えていた9).今回の結果を踏まえて,第C4版への改訂にあたり糖尿病黄斑浮腫関連の情報提供に関し内科医が「受診の記録」を理解するのに十分であるのか,さらに先にあげた眼手帳の目的③を考えた際に,第C4版でも患者に正しく理解してもらうわかりやすさが確保されているのか今後検証していくべきと思われる.C6-1).眼手帳の「受診の記録」への項目追加希望「特にない」との回答が両群とも85%以上を占めていたが,眼手帳発行C7・10・13年目の意識調査8)でもC90%以上を占めており,今回の結果とほぼ一致していた.C6-2).第3版から「福田分類」が消えたことへの御意見専門医で「無いままでよい」がC47%でもっとも多いものの,復活希望もC12%認めた.多摩地域の眼科医でのアンケート調査では,眼手帳発行C10年目までの回答において,受診の記録のなかで記入しにくい項目として福田分類が多く選ばれていた10).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため記入してもらいたい項目ではあるが,その厳密な記入のためには蛍光眼底検査が必要となることもあり,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).また,糖尿病網膜症病期分類は,改変Davis分類,さらに国際重症度分類と主流が変わり,眼手帳の第C3版では受診の記録から福田分類は削除されたが,多摩地域の眼科医でのC2020年の調査では福田分類の復活希望が27.5%でC2015年のC2.9%より約C25%有意に増加していた9).福田分類に関しては,国際的には過去の分類の位置づけとなりつつも,一部復活の希望もあることより,内科・眼科連携の観点からも重要なポイントであるので,今後のアンケート調査においては復活希望の回答者にその理由を聞いてみたい.C6-3).第4版で「HbA1c」が追加されたことへの御意見(表4下段)HbA1cが追加されてことに対しては,とくに非専門医で9割の支持を得た.受診の記録に追加したい項目に関して多摩地域の眼科医においてCHbA1c記入欄の希望が多かった10)ことより,まずは内科医から糖尿病連携手帳の発行による臨床検査データの提供に心がけてきた.第C4版でCHbA1cの記載欄が追加されてことにより,連携手帳をまずは開いて直近のCHbA1c値を確認したうえで,眼手帳に転記していただく方式が確立できたと思われる.おわりに多摩地域の内科医に眼手帳第C4版に関するアンケート調査をC2021年C4.5月に施行し,回答者が糖尿病を専門としているか否かで結果に差を認めるかを検討した.その結果,眼手帳の認知率や持参する患者数は専門医で有意に高値であった.受診の記録が詳しすぎるとの回答をC20%前後認め,不要と感じる項目として黄斑浮腫関連の回答が多く,内科医への啓発活動が必要と思われた.HbA1cの追加に対しては,とくに非専門医での評価が高かった.謝辞:アンケート調査にご協力いただきました多摩地域の内科医師の方々,またアンケート用紙の配布・回収にご協力いただきました三和化学研究所東京支店多摩営業所の伊藤正輝氏,篠原光平氏,鈴木恵氏,林浩介氏,折小野千依氏,中尾亮太氏に厚くお礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査─発行C7・10・13年目の比較─.プラクティス34:551-556,C20179)大野敦,粟根尚子,赤岡寛晃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第C3版に関するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科39:510-514,C202210)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C2014***

多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3 版に関する アンケート調査結果の推移

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):510.514,2022c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3版に関するアンケート調査結果の推移大野敦粟根尚子赤岡寛晃廣田悠祐梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CChangesintheResultsofaQuestionnaireSurveyontheThirdEditionoftheDiabeticEyeNotebookbyOphthalmologistsintheTamaAreaAtsushiOhno,NaokoAwane,HiroakiAkaoka,YusukeHirota,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:2014年に第C3版に改訂された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医の意識調査をC2015年とC2020年に施行し,調査結果の推移を検討した.方法:多摩地域の眼科医に眼手帳,とくに第C3版の改訂ポイントに関するアンケートをC2015年とC2020年に依頼し,50名とC42名から回答を得た.結果:受診の記録で記入しにくい項目は「糖尿病黄斑症とその変化」の選択者が増え,黄斑症の記載が詳細になったことへの負担感が増していた.福田分類の復活希望がC25%有意に増加した.受診の記録の追加希望項目は,内科関連から眼科関連項目に移行していた.「眼手帳は眼科医が渡すべき」が減り,「内科医でもよい」が増えた.「第C3版への改訂で患者にとってわかりやすくなった」がC10%増えた.結論:2020年はC2015年に比し,第C3版への改訂で糖尿病黄斑症の記載が詳細になったことへの負担感が増え,福田分類の復活希望がC25%に有意に増加していた.一方,患者にとってわかりやすくなったとの回答が増えていた.CPurpose:Anophthalmologist’sattitudesurveyontheDiabeticEyeNotebook(EyeNotebook)revisedtothe3rdeditionin2014wasconductedin2015and2020,andthetransitionofthesurveyresultswasexamined.Meth-ods:In2015and2020,weaskedophthalmologistsintheTamaareatosurveytheEyeNotebook,especiallytherevisionCpointsCofCtheC3rdCedition,CandCreceivedCresponsesCfromC50CandC42Cphysicians,Crespectively.CResults:Thenumberofphysicianswhoselecteddiabeticmaculopathyanditschangesasitemsthatweredi.cultto.lloutintherecordofconsultations,aswellastheburdenofadetaileddescriptionofdiabeticmaculopathy,increased.ThehopeCforCtheCrevivalCofCtheCFukudaCclassi.cationCincreasedCsigni.cantlyCby25%.CTheCitemsCtoCbeCaddedCtoCtheCrecordCofCconsultationsCwereCshiftingCfromCthoseCrelatedCtoCinternalCmedicineCtoCthoseCrelatedCtoCophthalmology.CThenumberofanswersthatophthalmologistsshouldprovidetotheEyeNotebookhasdecreased,whilethenum-berofanswersthatphysiciansmayprovidehasincreased.Althoughitincreasedby10%,therevisiontothe3rdeditionCmadeCitCeasierCforCpatientsCtoCunderstand.CConclusions:ComparedCtoC2015,CtheCburdenCofCaCdetailedCdescriptionofdiabeticmaculopathywasincreasedin2020,andthehopefortherevivaloftheFukudaclassi.cationsigni.cantlyCincreasedCby25%.COnCtheCotherChand,CanCincreasingCnumberCofCrespondentsCsaidCitCwasCeasierCforCpatientstounderstand.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):510.514,C2022〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,受診の記録,糖尿病黄斑症,福田分類.diabeticeyenotebook,ques-tionnairesurvey,recordofconsultations,diabeticmaculopathy,Fukudaclassi.cation.Cはじめに1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの話会を設立し,内科と眼科の連携を強化するために両科の連一つが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC510(118)図った1).また,この活動をベースに,筆者(大野)はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経てC2002年C6月に日本糖尿病眼学会より『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)が発行されるに至った3).眼手帳は,2002年C6月に日本糖尿病眼学会より発行されてからC14年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4.7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目,10年目に施行してきた.そして発行半年目,2年目の結果をC7年目の結果と比較した結果8),ならびにC10年目を加えた過去C4回のアンケート調査の比較結果9)を報告してきた.眼手帳はC2014年C6月に第C3版に改訂されたが,糖尿病黄斑症の記載が詳細になり,一方,初版から記載欄を設けていた福田分類が削除され,第C2版への改訂に比べて比較的大きな変更になった.そこで第C3版への改訂からC1年後のC2015年に第C3版に対する眼科医の意識調査を行い報告した10)が,今回さらにC5年後のC2020年に再度同じ調査を行ったので,調査結果の推移を報告する.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務する糖尿病診療に関心をもつ眼科医で,2015年C50名,2020年42名から回答があった.回答者の背景は表1に示すとおりで,2020年はC2015年に比し女性の回答者の割合が有意に増え,臨床経験年数と定期通院糖尿病患者数が増加傾向を認めた.なおC2015年のアンケート調査はC6.7月に施行されたが,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓蒙を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.一方,2020年のアンケート調査はC1.3月に施行されたが,2015年の際の倫理的問題を考慮し,多摩地域のなかの八王子市・町田市・多摩市・日野市・稲城市・青梅市・立川市・国立市・府中市・調布市の医師会に所属する眼科医に郵送でアンケート用紙の配布と記入を依頼し,FAXで回収する方式に変更した.郵送総数はC141件で回答数はC42件のため,回収率はC29.8%であった.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.第C26回日本糖尿病眼学会においては全C10項目で報告したが,本稿では誌面の制約もあり,とくに第C3版の改訂ポイントを中心に下記の項目につき,2015年C50名,2020年C42名の回答結果を比較検討した.問C1.4頁からの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目問C2-1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非問C2-2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問C2-3.受診の記録における福田分類削除の是非問3.受診の記録への追加希望項目表1アンケート回答者の背景(人数)2015年2020年p値(c2検定)【日本糖尿病眼学会】会員:非会員:無回答11:30:97:30:5C0.51【性別】男性:女性:無回答37:8:517:12:1C3<C0.005【年齢】30歳代:4C0歳代:5C0歳代:6C0歳代:7C0歳代6:14:21:6:31:8:18:9:6C0.17【勤務先】開業医:病院勤務:その他・無回答42:7:139:1:2C0.12【臨床経験年数(年)】.10:11.20:21.30:30.40:41.:無回答2:11:22:12:3:00:6:15:12:4:5C0.097【定期通院糖尿病患者数(名)】.9:10.29:30.49:50.99:1C00.:無回答3:13:17:4:10:30:9:7:11:11:4C0.057C表2受診の記録における変更ポイントへの評価「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非2015年2020年1)適切な改変69.2%54.3%2)細かくて記載が大変になった25.6%34.3%3)その他の御意見5.1%11.4%Cc2検定p=0.36無回答11名7名「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非2015年2020年1)必要な項目47.6%54.5%2)必要だが記載しにくくないほうがよい38.1%33.3%3)元々不要9.5%6.1%4)その他の御意見4.8%6.1%Cc2検定p=0.89無回答8名9名福田分類削除の是非2015年2020年1)ないままでよい60.0%50.0%2)復活してほしい2.9%27.5%3)どちらともいえない37.1%22.5%Cc2検定p=0.01無回答15名2名表4眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか2015年2020年1)眼科医が渡すべきである22.0%7.7%2)内科医から渡してもかまわない36.0%48.7%3)どちらでもよい42.0%43.6%Cc2検定p=0.16無回答0名3名問C4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか問C5.眼手帳第C3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ問C1は複数回答が可につき無回答者を除く回答者中の回答割合で表示し,問C2.5は無回答者を除く回答者の百分比で示した.両年の回答結果の比較にはCc2検定を用い,統計学的有意水準はC5%とした.CII結果1.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目(図1)2020年はC2015年に比べて,記入しにくい項目は「とくになし」との回答者がC11%減り,「糖尿病黄斑症」「糖尿病黄斑症の変化」を選択する回答者が増加していた.2.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非(表2上段)糖尿病黄斑症の記載が詳細になったことは「適切な改変」表3「受診の記録」への追加希望項目2015年2020年1)とくにない93.3%83.3%2)ある6.7%16.7%Cc2検定p=0.18無回答5名6名<自由記載コメント>【2015年】・血糖データ(FBS,HbA1c)本人か内科医の記載で・HbA1c・内科医へのアドバイスの項目(何カ月でHbA1cを何%降下させる等)【2020年】・網膜レーザー光凝固(光凝固)未・済みの項目が欲しい・緑内障,黄斑変性など(病名のみでも可)・他の眼底疾患・治療の項目:抗CVEGF薬注射・変化あり・ステージ不変の項目(出血箇所は変わってもステージは同じなどという場合があるので)・病院名,記載者名の追記スペース(転院などで変更があるので)表5眼手帳第3版への改訂の患者へのわかりやすさ2015年2020年1)患者にとってわかりやすくなった54.5%64.9%2)あまりかわりない18.2%13.5%3)どちらともいえない27.3%21.6%Cc2検定p=0.64無回答6名5名との回答が両年とももっとも多かったが,「細かくて記載が大変になった」の回答が有意差は認めないもののC2020年は2015年よりもC8.7%増えていた.2.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非(表2中段)黄斑症の変化は「必要な項目」との回答が両年ともC50%前後でもっとも多く,ついで「必要だが記載しにくくないほうがよい」がC30%台で,両年間で差を認めなかった.2.3.受診の記録における福田分類削除の是非(表2下段)福田分類は「ないままでよい」が両年とも最多の回答も60%からC50%とC10%減り,復活希望がC2020年はC2015年に比しC25%有意に増加していた.C3.受診の記録への追加希望項目(表3)受診の記録への追加希望は「とくにない」の回答がC10%減少し,「希望項目あり」の回答がC10%増えていた.その回答者における自由記載コメントを表3の下段に記載したが,追加希望項目は内科関連から眼科関連項目に移行していた.図1「受診の記録」のなかで記入しにくい項目4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか(表4)眼手帳は「眼科医が渡すべき」の回答がC2020年はC2015年に比べてC14.3%減り,「内科医から渡してもかまわない」の回答がC12.7%増えていたが,有意差は認めなかった.C5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ(表5)眼手帳第C3版への改訂にあたり,患者サイドに立った眼手帳を目指してC1頁の「眼科受診のススメ」などの表記を患者にわかりやすい表記に変更したが,その結果患者さんにとってわかりやすくなったとの回答がC54.5%からC64.9%とC10%増えていた.CIII考按1.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目多摩地域の眼科医における眼手帳第C2版までのアンケート調査では,記入しにくい項目として,「福田分類」のつぎに「糖尿病網膜症の変化」があげられていた9).今回「糖尿病網膜症とその変化」の選択者がC2015年よりC2020年で減り,「糖尿病黄斑症とその変化」の選択者が増えていたことより,網膜症よりも黄斑症とその経時的変化を記載することの負担感が増していると思われる.2.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非黄斑症の記載が細かくて大変になったとの回答が増えた背景として,「局所性」と「びまん性」の選択は両者が混在することも多く必ずしも容易ではないことを,第C3版の利用期間が延びるにつれて実感される回答者が増えたことが考えられる.2.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問1(図1)で「受診の記録」のなかで記入しにくい項目として「糖尿病黄斑症の変化」の回答者がC16.3%からC26.5%まで約C10%増加しているにもかかわらず,問C2-2では「糖尿病黄斑症の変化」の記載は必要との回答が有意差はないものの約C7%増えて,記載しにくくないほうがよいが約C5%減っており,両結果は逆の動きを示した.黄斑症の変化の評価は抗CVEGF療法の浸透とともに臨床上重要となっており,記入しにくくても必要と考える眼科医が増えているためと思われる.「糖尿病黄斑症の変化」における改善・不変・悪化の線引きは容易ではなく,これも記入しにくい背景として考えられる.眼手帳はC2020年のアンケートの回収が終了したC3月に第C4版に改訂されて,黄斑症の記載が中心窩網膜厚(μm)の数値を直接記載するように変更された.これにより第C3版よりも客観的に臨床経過をみることができるようになり,改善・不変・悪化からの選択よりは負担感が減っている可能性もあり,今後第C4版の改訂ポイントに関するアンケートの実施も計画していきたい.2.3.受診の記録における福田分類削除の是非多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行C10年目までのアンケート調査では,10年目の回答において,受診の記録のなかで記入しにくい項目として「福田分類」と「変化」が多く選ばれ,とくに福田分類の増加率が高かった9).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため記入していただきたい項目ではあるが,その厳密な記入のためには蛍光眼底検査が必要となることもあり,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,眼手帳の第C3版では受診の記録から福田分類は削除されたが,今回の結果では福田分類の復活希望がC25%有意に増加していた.この背景は不明であるが,内科・眼科連携の観点からも重要なポイントであるので,今後のアンケート調査において,復活希望の回答者にその理由を聞いてみたい.C3.受診の記録への追加希望項目追加希望ありの回答がC10%増え,追加希望項目は内科関連から眼科関連項目に移行していた.内科関連項目はHbA1cが多かったが,HbA1cが併記されれば血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連が見やすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ,今後の導入が期待されていたが第C4版で導入された.一方,眼科関連項目は表3下段に示したように多岐にわたるが,このうち治療の項目:抗CVEGF薬注射に関しては第C4版で記載欄が設けられた.C4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行C10年目までのアンケート調査9)では,7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目に前者が著減し後者が有意な増加を示した.眼手帳発行C8年目にあたるC2010年には,内科医側からの情報源である「糖尿病健康手帳」が「糖尿病連携手帳」に変わり,それに伴い眼手帳のサイズも連携手帳に合わせて大判となった.両手帳をつなげるビニールカバーも眼手帳無料配布の協賛企業から提供されており,その結果,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えた.このような習慣の継続が,眼手帳は内科医から渡してもかまわないとの回答がC12.7%増えた背景の一つと思われる.C5.眼手帳第3版への改訂の患者へのわかりやすさ眼手帳第C3版への改訂では,「眼科受診のススメ」の表記だけでなく,眼手帳後半のお役立ち情報にCOCTや薬物注射を加えるなどの改変を行っている.2015年ではまだ第C2版のままの患者も少なくなかったと思われるが,2020年になれば第C3版に切り替わった患者も増えており,その結果第C3版改訂時の工夫により患者にとって「わかりやすくなった」と実感する回答者がC10%増えたと思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,C20119)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C201410)大野敦,粟根尚子,永田卓美ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第C3版に関するアンケート調査.あたらしい眼科34:268-273,C2017***

糖尿病透析患者における『糖尿病眼手帳』の利用ならびに 記入状況(第2 報)

2021年5月31日 月曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(5):579.583,2021c糖尿病透析患者における『糖尿病眼手帳』の利用ならびに記入状況(第2報)大野敦*1,2粟根尚子*1入江康文*2松下隆哉*1*1東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科*2三愛記念病院内科CUseandEntryStatusoftheDiabeticEyeNotebookinDiabeticDialysisPatients─2ndReportAtsushiOhno1,2)C,NaokoAwane1),YasufumiIrie2)andTakayaMatsushita1)1)DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,2)SanaiMemorialHospitalC目的:糖尿病透析患者における『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)の利用・記入状況をC2005年に調査し報告したが,今回同一施設でC2018年に再度調査したので,両年の結果を比較検討した.方法:対象は,三愛記念病院の糖尿病外来に定期受診中の糖尿病透析患者C2005年C42名,2018年C34名で,原則C2005年C9.11月,2018年C11.12月の外来受診時の眼手帳の最新の記入内容を調査し,両年の結果を比較した.結果:次回受診予定時期はC2018年が有意に長かった.白内障の術後の患者の比率が,2018年は有意に高かった.糖尿病網膜症は,全項目中唯一両年とも記入率がC100%であった.福田分類の記入率はC2005年C80.9%,2018年C55.9%で両年とももっとも低かった.糖尿病黄斑症は,ありの回答がC2005年に比べてC2018年は減少傾向を認めた.次回受診予定時期は,増殖網膜症を除いてC2018年のほうが有意に長かった.結論:眼手帳の「受診の記録」の項目のうち,福田分類以外はC2018年のほうがC2005年よりも記入率が高く,かかりつけ眼科医の内科・眼科連携への意識の高さがうかがえる.CPurpose:WepreviouslyinvestigatedandreportedontheuseandentrystatusoftheDiabeticEyeNotebook(EyeNotebook)indiabeticdialysispatientsin2005.Inthisstudy,wesurveyedtheEyeNotebookuseandentrystatusatthesamefacilityin2018,andthenexaminedandcomparedtheresultsofbothyears.Methods:Thesub-jectswerediabeticdialysispatientsundergoingregularoutpatientvisitsatSanaiMemorialHospital,Chiba,Japan(2005:42patients;2018:34patients).WesurveyedthelatestentriesintheEyeNotebook,andthencomparedtheCresultsCofCbothCyears.CResults:TheCnextCscheduledCvisitCwasCsigni.cantlyClonger,CandCtheCproportionCofCpost-cataractCpatientsCwasCsigni.cantlyChigher,CinC2018.CForCdiabeticCretinopathy,CtheCentryCrateCwas100%CinCbothyears;i.e.,CtheConlyCitemCamongCallCitemsCexamined.CTheCentryCrateCforCtheCFukudaCclassi.cationCwas80.9%CinC2005,yet55.9%in2018,thelowestinthetwoyears.Comparedto2005,therewasadownwardtrendinthenum-berofdiabeticmaculopathyrespondentsin2018.Exceptforproliferativeretinopathy,thenextscheduledvisitwassigni.cantlyClongerCinC2018.CConclusions:OfCtheCitemsCinCthe“RecordCofCmedicalCexamination”inCtheCEyeCNote-book,theentryrate,exceptfortheFukudaclassi.cation,washigherin2018thanin2005,thusindicatingthattheawarenessofcooperationininternalmedicineandophthalmologyamongthefamilyophthalmologistswashigh.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(5):579.583,C2021〕Keywords:糖尿病透析患者,糖尿病眼手帳,福田分類.diabeticdialysispatients,diabeticeyenotebook,Fukudaclassi.cation.Cはじめに1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの話会を設立させ,内科と眼科の連携を強化するために両科の一つが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANCを図った1).また,この活動をベースに,筆者(大野)は2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携.放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て,2002年C6月に日本糖尿病眼学会より『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)が発行されるに至った3).眼手帳の利用状況についての報告4.7)は散見されるが,維持血液透析施行中の糖尿病患者(以下,糖尿病透析患者)での利用状況の報告は筆者らの検索した限り認めなかった.そこで糖尿病透析患者における眼手帳の利用状況をC2005年にC■1カ月後■2~3カ月後■4~6カ月後■12カ月後2005年(未記入2名)記入率95.2%2018年記入率100%(人)102532214c2検17定p<0.00110%20%40%60%80%100%図1次回受診予定時期■A0■A1■A2■A3■A4■A5B1B2B3B4B52005年(未記入8名)記入率80.9%2018年(未記入15名)記入率55.9%(人)527941222c2検定p<0.1012212110%20%40%図2福田分類60%80%100%2005年(未記入7名)記入率83.3%■なし■あり(人)2018年(未記入2名)記入率94.1%0%20%40%60%80%100%図3糖尿病黄斑症580あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021調査し報告した8,9)が,今回同一施設でC2018年に再度眼手帳の利用・記入状況を調査したので,両年の結果を比較検討した.CI対象および方法対象は,糖尿病専門医である筆者(大野)が非常勤医師として週C1回当直勤務している三愛記念病院(千葉市中央区)の糖尿病外来(毎週水曜日午前)に定期受診中の糖尿病透析患者C2005年C42名,2018年C34名で,原則C2005年C9.11月,2018年C11.12月の外来受診時の眼手帳の最新の記入内容を調査し,両年の結果を比較した.調査した記入項目は,次回受診予定時期,矯正視力,眼圧,白内障,糖尿病網膜症,変化,福田分類,糖尿病黄斑症であるが,左右眼で記入内容に差を認める場合には,矯正視力はより良好な眼,眼圧はより高い眼,白内障と網膜症はより重症な眼,変化はより悪い変化の眼,福田分類と黄斑症はより重症な眼のデータを各々採用した.また,糖尿病網膜症のレベルと指定された次回受診予定時期との関係が適切であるか,眼手帳の精密眼底検査の目安を参考にして検討した.矯正視力と眼圧の成績は,平均値±標準偏差で表示し,群間の比較には,Mann-WhitneyのCU検定(SPSSCStatisticsver.25)ならびにCc2検定(Statcel3)を用い,危険率(p値)0.05未満をもって統計学的有意差があると判定した.CII結果1.次回受診予定時期(図1)次回受診予定時期はC2005年「2.3カ月後」,2018年「4.6カ月後」が最多で,2018年が有意(Cc2検定p<0.001)に長かった.記入率は,95.2%からC100%に上昇していた.C2.矯.正.視.力矯正視力の平均はC2005年C0.71C±0.37,2018年C0.77C±0.42で,両年間に有意差は認めなかった(p=0.41).記入率は,97.6%からC100%に上昇していた.C3.眼圧眼圧の平均はC2005年C14.4C±3.2CmmHg,2018年C14.8C±3.9mmHgで,両年間に有意差は認めなかった(p=0.86).記入率は,80.9%からC100%に上昇していた.C4.白内障眼手帳の改訂に伴い白内障の記載様式が変化したため直接の比較は困難であるが,比較可能な術前後で検討してみると,2005年は術前C25名,術後C14名,2018年は術前C10名,術後C24名と,術後の患者の比率がC2018年は有意(Cc2検定p=0.003)に高かった.記入率は,92.9%からC100%に上昇していた.C5.糖尿病網膜症2005年とC2018年における糖尿病網膜症は,なしC7名Cvs7(100)表1網膜症のレベルと次回受診予定時期の関係網膜症のレベル【精密眼底検査の目安】年度(人数)1カ月後2.3カ月後4.6カ月後12カ月後Cc2検定p値網膜症なし2005年(C7)C3C3C0C1<C0.05【6.1C2カ月にC1回】2018年(C7)C0C1C5C1単純網膜症2005年(C14)C3C10C0C1<C0.01【3.6カ月にC1回】2018年(C10)C0C3C7C0増殖前網膜症2005年(C3)C3C0C0C0<C0.05【1.2カ月にC1回】2018年(C3)C0C2C1C0増殖網膜症2005年(C16)C1C12C3C0C0.56【2週間.1カ月にC1回】2018年(C14)C2C8C4C0名,単純網膜症C15名Cvs10名,増殖前網膜症C3名Cvs3名,増殖網膜症C17名Cvs14名で,両年とも増殖,単純の順に多く,両年間に有意差は認めず(Cc2検定p=0.93),全項目中唯一両年とも記入率がC100%であった.C6.変化2005年とC2018年における変化は,改善C2名Cvs1名,不変34名vs29名,悪化3名vs2名,未記入者3名vs2名で,両年とも「不変」の回答が大多数を占め,両年間に有意差を認めなかった(Cc2検定p=0.89).記入率は,92.9%から94.1%に上昇していた.C7.福田分類(図2)福田分類の記載内容において,2005年はバリエーションに富み悪性網膜症(B)もC20%認めたが,2018年はCA3の回答がC60%以上を占め,BはCB1のC1名にとどまった.記入率はC80.9%からC55.9%まで低下し,両年とも全項目のなかでもっとも低かった.C8.糖尿病黄斑症(図3)糖尿病黄斑症は,ありの回答がC2005年に比べてC2018年は減少傾向(Cc2検定p=0.052)を認めた.記入率は,83.3%からC94.1%に上昇していた.C9.網膜症のレベルと次回受診予定時期の関係(表1)次回受診予定時期は,増殖網膜症を除いてC2018年のほうが有意に長かった.「眼科受診のススメ」の精密眼底検査の目安よりも,網膜症なしと単純網膜症ではC2005年で短く,増殖前網膜症ではC2018年で長く,増殖網膜症では両年とも長かった.C10.記入率のまとめ(表2)眼手帳の「受診の記録」の項目のうち,福田分類以外は2018年のほうがC2005年よりも記入率が高かった.CIII考按今回のような調査の場合に,その施設の糖尿病透析患者全員を対象に調査するべきであるが,マンパワーの関係で全員表2記入率のまとめ受診の記録の項目名2005年C42名2018年C34名次回受診予定時期95.2%100%矯正視力97.6%100%眼圧80.9%100%白内障92.9%100%糖尿病網膜症100%100%変化92.9%94.1%福田分類80.9%55.9%糖尿病黄斑症83.3%94.1%調査は困難であった.そこで両年とも,筆者のC1人が週C1回行っている糖尿病外来に定期受診中の糖尿病透析患者を対象に調査しており,バイアスのかかったデータといえる.しかし,その点を考慮に入れたとしても,ほぼC100%の眼手帳の利用率は高値といえる.その背景として,眼手帳の発行を内科医から積極的に行ったこと(1名のみが眼科医からの発行で,残りはすべて内科医が発行した),眼手帳の「受診の記録」の下段にある「診察メモ」に糖尿病の治療方針ならびに血糖コントロール状況(月C1回測定のグリコアルブミン値)を外来受診ごとに記入し,患者と眼科医に眼手帳を通じて内科の情報提供を行ったこと10)などが考えられる.糖尿病透析患者においては,腎不全に関する定期の臨床検査データなどを記入する「透析管理手帳」を利用する患者は少なくないが,腎不全保存期まで使用していた「糖尿病連携手帳」は,透析導入後も糖尿病外来に継続通院しない限り,利用しなくなることが多い.糖尿病連携手帳の利用率が低下する糖尿病透析患者において,糖尿病治療への関心を保ちながら眼科への定期受診を継続させるには,糖尿病連携手帳の利用にこだわらず,むしろ眼手帳に「糖尿病の治療方針」や「血糖コントロール状況」を記入し,内科・眼科連携と患者への情報提供を行うほうがよいと考え実践してきた10).一方,糖尿病透析患者における眼科への定期受診に関する筆者らの調査では,2001年C53.0%11),2005年C63.5%12)であった.この眼科への定期受診率がC10%増加した背景には,2002年に発行された眼手帳を糖尿病外来の受診者には積極的に配布し,眼科への定期受診を促したことも少なからず関与していると考えられ,上記の筆者らの取り組みは眼科受診の放置・中断の予防効果も期待できる.眼手帳の記入状況をみると,まず「次回受診予定時期」は2018年が有意に長かったが,その背景として白内障の術後の患者の比率が有意に高かったこと,福田分類で悪性網膜症の比率が低下していたこと,糖尿病黄斑症ありの回答が減少傾向を認めたことなどが考えられる.記入率はC95.2%から100%に上昇していたが,眼科受診放置を防ぐためには,まず次回の受診時期を患者本人および内科主治医に知らせることは重要であり,この記入率は満足のできる結果であった.「白内障」においてC2018年に手術後の割合が増えた背景には,対象患者の高齢化も予想されるがC2005年の集計時に年齢をチェックしておらず両年の比較ができなかった.一方で,13年の間に白内障手術はより非侵襲化されて,透析患者でも日帰りで手術が可能になったため,より早期に施行されるようになった可能性も考えられる.今回の対象患者の多くが隣接するCI病院の眼科で定期管理されており,三愛記念病院に入院しながら非透析日に白内障手術を日帰り手術の形で施行できる利便性が,さらに早期に手術に踏み切れた要因の一つと思われる.「糖尿病網膜症」は,「なし」と「単純網膜症」を合わせると両年ともC50%以上を占め,糖尿病透析患者の結果としては網膜症の重症者が少ない印象を受けるが,糖尿病腎症以外の原疾患で透析導入となり,導入後に糖尿病を併発した患者も含まれているためと思われる.「福田分類」の記入率はC2005年がC81%,2018年がC56%でC25%の低下を認めたが,その背景としては眼手帳第C2版から第C3版への改訂時に削除されたことが考えられる.ただし記入率が減少したにしてもC50%台を維持した理由として,2014年に第C3版に改訂後も三愛記念病院の糖尿病外来に第2版のストックがかなり残っており,実際に第C3版に切り替わった時期がかなり遅れたことがあげられる.「糖尿病黄斑症」はありの比率がC20%以上減少傾向を示したが,蛍光眼底造影検査の実施しにくい透析患者において光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)により積極的に早期診断し,透析条件の変更や抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬による早期介入を行ってきた結果と思われる.網膜症のレベル別に次回受診予定日をみてみたが,網膜症なしと単純網膜症でC2005年に精密眼底検査の目安よりも短かった理由としては白内障の術前患者が多く,白内障管理のために受診間隔が短くなっていたためと思われる.増殖前網膜症ではC2018年に長かったが,2018年に糖尿病黄斑症が減少傾向を示したことも一因と考えられる.また増殖網膜症で両年とも長かった背景には,増殖停止網膜症患者の比率が高く,眼科主治医の判断で間隔をあけていると思われる.眼手帳の「受診の記録」における各項目の記入率の報告はほとんどみられないが,筆者らは総合新川橋病院(神奈川県川崎市)に定期通院中の非透析糖尿病患者C110名を対象に記入率をC2005年に報告した13).その結果は,次回受診予定時期C85.5%,矯正視力C100%,眼圧C100%,白内障C93.6%,糖尿病網膜症C100%,変化C81.8%,福田分類C62.7%,糖尿病黄斑症C89.1%で,福田分類の記入率がもっとも低く,福田分類を除いてC80%以上をキープしている点は今回の結果と一致していた.今回の結果において,2005年は「糖尿病網膜症」のみであった記入率C100%がC2018年にはC5項目まで増え,福田分類以外はC2005年よりも記入率が高く,かかりつけ眼科医の内科・眼科連携への意識の高さがうかがえる.まとめ糖尿病専門医が非常勤で週C1回かかわっている透析専門病院の糖尿病外来に定期受診中の糖尿病透析患者を対象に,眼手帳の利用・記入状況をC2005年とC2018年に調査した.その結果,「受診の記録」の項目のうち,福田分類以外はC2018年のほうがC2005年よりも記入率が高く,かかりつけ眼科医の内科・眼科連携への意識の高さがうかがえた.糖尿病透析患者は日々の透析治療に追われて眼科受診の中断リスクは高いが,両科の連携に熱心な眼科医を見つけて,眼手帳の利用による定期受診システムを構築することは,眼科受診の中断防止につながると思われる.本論文の要旨は,第C25回日本糖尿病眼学会総会(2019年C9月28日)において発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀5:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,植木彬夫,入江康文ほか:糖尿病透析患者における糖尿病眼手帳の利用ならびに記入状況.日本糖尿病眼学会誌12:79,C20079)大野敦,植木彬夫,入江康文ほか:糖尿病透析患者における糖尿病眼手帳の利用ならびに記入状況.ProgMed27:C2105-2110,C2007C10)大野敦,粟根尚子,入江康文ほか:糖尿病透析患者における糖尿病眼手帳を利用した内科・眼科連携の試み(第C2報).透析会誌52(Suppl-1):446,201911)大野敦,植木彬夫,入江康文ほか:透析専門施設の糖尿病維持透析患者における眼科の受診状況に関するアンケート調査.プラクティス20:457-461,C200312)大野敦,植木彬夫,樋宮れい子ほか:透析専門施設の糖尿病透析患者における眼科のフォロー状況に関するアンケート調査─2001年度とC2005年度の調査結果の比較─.透析会誌40(Suppl-1):461,200713)大野敦,林泰博,川邉祐子ほか:当院における糖尿病眼手帳の記入状況.川崎市医師会医学会誌22:48-53,C2005***

眼科医・内科医における糖尿病眼手帳に対する 意識調査結果の年次推移の比較から見えてきたもの

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):87.91,2019c眼科医・内科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査結果の年次推移の比較から見えてきたもの大野敦粟根尚子赤岡寛晃梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科ComparisonofAnnualTrendofSurveyonConsciousnessRegardingDiabeticEyeNotebookforOphthalmologistsandInternistsAtsushiOhno,NaokoAwane,HiroakiAkaoka,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的・方法:東京都多摩地域の眼科医と内科医における『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)に対する意識調査の年次推移を報告してきたが,両者の共通項目を比較し,眼手帳に対する意識の差が生まれてきた背景を考察した.結果:眼科医では,眼手帳を渡すことと内科医が渡すことへの抵抗は減少し,より早期に渡すようになり,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.一方内科医では,眼手帳の認知度・活用度が有意に低下し,眼手帳が渡されるべき範囲が狭まっていた.その背景として,2009年までは内科医は『糖尿病健康手帳』を用いており,眼科所見欄がなかったことより眼手帳の有用性は高かった.一方2010年に糖尿病連携手帳が登場し眼底検査の記載欄が設けられたことで,糖尿病網膜症が出現するまでは眼手帳は使わなくてもよいと考える内科医が増え,その結果眼手帳の認知度・活用度の低下につながった可能性がある.結論:眼科医への調査結果より,今後は糖尿病連携手帳との併用により,糖尿病患者の内科・眼科連携のさらなる推進が期待される.一方内科医への調査結果より,眼手帳の普及ならびに有効活用にはさらなる啓発活動が必要である.Purpose・Methods:WehavereportedonannualtrendsinsurveyofattitudestowardtheDiabeticEyeNote-book(EyeNotebook)forophthalmologistsandinternistsintheTamaarea,andhavecomparedtheitemscommontoboth,examiningthebackgroundofdi.erencesinconsciousnessregardingtheEyeNotebook.Results:Ophthal-mologistshavebeguntofeelthespreadoftheEyeNotebookastheresistancetohandovertotheEyeNotebookandtothephysicianhandeddownhasdecreasedandgaveitearlier.Meanwhile,amonginterniststhedegreeofrecognitionandutilizationoftheEyeNotebookdecreasedsigni.cantly,andthefrequencywithwhichtheEyeNotebookwasbeingpassedalongwasdiminishing.Asbackgroundforthis,in2009internistsusedthediabeteshealthnotebook,andtheusefulnessoftheEyeNotebookwashigherthanthatoftheophthalmologic.ndingcol-umn.Ontheotherhand,asthediabetescooperationnotebookappearedin2010andthedescriptioncolumnoffun-dusexaminationwasestablished,anincreasingnumberofinternistsfeltitunnecessarytousetheEyeNotebookuntildiabeticretinopathyappeared;thismayhaveledtoadeclineinawarenessandutilization.Conclusion:Basedontheophthalmologistresults,furthercooperationbetweenophthalmologistsandinternistsofdiabeticpatientsisexpectedthroughuseofthediabetescooperationnotebook.Theinternistresults,ontheotherhand,indicatefurtherneedforeducationalactivitiesthatencouragedisseminationande.ectiveutilizationoftheEyeNotebook.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(1):87.91,2019〕Keywords:眼科・内科連携,糖尿病眼手帳,糖尿病連携手帳,アンケート調査.cooperationbetweenophthal-mologistandinternist,DiabeticEyeNotebook,diabetescooperationnotebook,questionnairesurvey.〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANはじめに糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの一つとなるのが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,1997年に設立した糖尿病治療多摩懇話会において,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し,地域での普及を図った1).また,この活動をベースに,筆者は2001年の第7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年6月に日本糖尿病眼学会より発行されてから16年が経過し,利用状況についての報告が散見され4.7),2005年には第2版,2014年には第3版に改訂された.眼手帳発行後,内科と眼科の連携がより緊密となり,眼科の通院中断率が現実に減少しているか否かの把握が今後の課題となるが,その前提として,発行された眼手帳に対する眼科医および内科医における意識の変化を調査することが重要と考え,多摩地域で経年的にアンケート調査を施行し,その年次推移を報告してきた8.10).本稿では両者の調査結果を比較することで見えてきた多摩地域の眼科医および内科医における眼手帳の実態と課題を検討した.I対象および方法多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医として,発行半年目96名(男性56名,女性24名,不明16名),2年目71名(男性43名,女性28名),7年目68名(男性38名,女性22名,不明8名),10年目54名(男性41名,女性13名),13年目50人(男性37人,女性8人,不明5人)に,内科医として,発行7年目122名(男性97名,女性9名,不明16名),10年目117名(男性101名,女性16名),13年目114名(男性74名,女性13名,不明27名)に協力をいただいた.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行ってきた.アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうがよいと判断し,実施してきた.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.アンケート項目は,眼科医用10項目,内科医用8項目で構成されているが,誌面の制約上,本稿では両アンケートの共通項目のうち,下記の5項目を取り上げた.1.眼手帳の利用状況,認知度・活用度2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感3.眼手帳が渡されるべき範囲4.眼手帳は眼科医が渡すべきか5.眼手帳の広まり上記の5項目に対するアンケート調査結果の推移について比較検討した.各回答結果の比較にはc2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.眼手帳の利用状況,認知度・活用度(図1)眼科医における眼手帳の利用状況は,「積極的配布」と「時々配布」を合わせて,7,10年目は60%,13年目は70%を超えていたが,有意差は認めなかった.一方,内科医における眼手帳の認知度・活用度は,7年目に比べて10,13年目は有意に減少していた.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図2)眼科医における抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて,2,7年目は80%,10,13年目は90%を超え,5群間で有意差を認めた.内科医における眼科医が渡すことへの抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて各群90%を超え,3群間で有意差は認めなかった.3.眼手帳が渡されるべき範囲(図3)眼科医における眼手帳を渡したい範囲は,経年的に「全ての糖尿病患者」の比率が増加し,「網膜症が出現してきた患者」の比率は減少し,5群間に有意差を認めた.一方,内科医からみた眼手帳が渡されるべき範囲は,7,10年目に比べて13年目は,「全ての糖尿病患者」の比率が減少し,「網膜症が出現してきた患者」の比率は有意に増加していた.4.眼手帳は眼科医が渡すべきか(図4)眼科医では,眼手帳は眼科医が渡すべきとの回答が10,13年目に減り,内科医が渡してもよいとの回答が有意に増加していた.内科医では,眼手帳は眼科医から渡すべきとの回答が10年目に減り,内科医が渡してもかまわないとの回答が増加傾向を示した.5.眼手帳の広まり(図5)眼科医では,半年目.7年目までと比べて10年目,13年c2検定:p=0.41(未回答除く)c2検定:p<0.005(未回答除く)c2検定:p=0.1(未回答除く)■必要とは思うが配布していない■必要性を感じず配布していない眼手帳を今回はじめて知った■その他の配布状況2年目■積極的に配布している■時々配布している7年目10年目1名13年目■全くない■ほとんどない■多少ある■かなりある半年目2年目7年目10年目13年目2名c2検定:p<0.05(未回答除く)■活用中■未活用■研究会等で見聞きしたことはある知らなかったその他2年目7年目2名10年目13年目図1眼手帳の利用状況,認知度・活用度c2検定:p<0.05(未回答除く)■正直あまり渡したくない■その他■全ての糖尿病患者■網膜症が出現してきた患者半年目2年目7年目10年目7名13年目半年目2年目7年目10年目13年目c2検定:p=0.08(未回答除く)図2眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感c2検定:p<0.01(未回答除く)■全糖尿病患者■糖尿病網膜症の出現してきた患者半年目2年目7年目10年目13年目9名c2検定:p<0.05(未回答除く)■眼科医が渡すべき■内科医でもよい■どちらでもよい半年目2年目7年目10年目5名13年目図4眼手帳は眼科医が渡すべきか図3眼手帳が渡されるべき範囲c2検定:p=0.0001(未回答除く)■かなり広まっている■あまり広まっていないどちらともいえない半年目2年目7年目10年目7名13年目c2検定:p=0.66(未回答除く)■かなり広まっているあまり広まっていないどちらともいえない半年目2年目7年目10年目13年目8名図5眼手帳の広まり目は眼手帳がかなり広まっているとの回答が40%前後に有意に増加していた.一方,内科医で眼手帳がかなり広まっているとの回答は各群とも10%台にとどまり,あまり広まっていないと思うが過半数を超えていた.III考按多摩地域の眼科医における眼手帳に対する意識調査を発行半年.13年目に5回施行してその結果を比較したところ,眼手帳発行後13年の間に眼手帳を渡すことならびに内科医が渡すことへの抵抗は減少し,より早期に渡すようになり,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.一方,多摩地域の内科医における眼手帳に対する意識調査を発行7,10,13年目に施行しその結果を比較したところ,眼手帳の認知度・活用度が有意に低下し,内科医からみた眼手帳が渡されるべき範囲が狭まっていた.上記のように多摩地域の眼科医と内科医の間で,発行後13年の間に眼手帳に対する意識の差が生じている.そこでその背景について,考察してみた.内科医における眼手帳の認知度・活用度の低下,眼手帳が渡されるべき範囲が狭まった背景として,発行7年目の2009年は内科側からの情報提供手段としては「糖尿病健康手帳」を用いており,眼科所見を書くスペースがなかったことより,眼手帳の有用性は高かったと思われる.その後2010年に「糖尿病連携手帳(以下,連携手帳)」の初版が登場し,狭いながらも眼底検査の記載欄が設けられたことで,少なくとも糖尿病網膜症が出現するまでは連携手帳の眼底検査欄を利用し,眼手帳は使わなくてもよいのではないかと考える内科医が増え,その結果眼手帳の認知度・活用度の低下につながった可能性が考えられる.以上のことを踏まえると,連携手帳と眼手帳を両科の連携にいかに利用していくかが今後の課題であるが,連携手帳における眼科記入欄は,第2版までは「検査結果」の右上隅に2頁おきに記載する形式であったが,第3版では14,15頁に「眼科・歯科」の頁が新設され,時系列で4回分記入できるように改訂されている.すなわち,眼科受診の記録を時系列でみることのできる眼手帳の優位性が,連携手帳の改訂により崩されたことになる.そこで八王子市内の27眼科診療所に,連携手帳第3版への改訂後の眼手帳の位置付けに関するアンケート調査を施行した(回答率:81.5%).その結果,連携手帳第3版の持参患者に対する眼手帳の利用方針は,眼手帳の時系列での記載方式が連携手帳にも採用されたので網膜症が出現してから渡したいとの回答よりも,眼科の記入項目が少ないのですべての糖尿病患者に眼手帳を渡したいとの回答がほぼ2倍でもっとも多かった11).以上の結果より,眼手帳20頁からの情報提供による教育効果への期待を含めて,今後も両手帳の併用を積極的に勧めていきたい.まとめ眼科医の眼手帳に対する意識調査の年次推移の結果より,今後は連携手帳との併用により,糖尿病患者の内科・眼科連携のさらなる推進が期待される.一方,内科医の眼手帳に対する意識調査の年次推移の結果より,眼手帳の普及ならびに有効活用にはさらなる啓発活動が必要である.謝辞:アンケート調査に長年にわたりご協力いただきました多摩地域の眼科医ならびに内科医の方々に厚くお礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携―「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀5:275-280,20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)船津英陽:患者説明からみる糖尿病スタッフのための最新眼科知識糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティス23:301-305,20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20108)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第2報).ProgMed34:1657-1663,20149)大野敦,粟根尚子,永田卓美ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査─発行半年.13年目の推移─.糖尿病合併症29(Suppl-1):132,201510)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:多摩地域の内科医における糖尿病眼手帳に対する意識調査─発行7・10・13年目の比較─.プラクティス34:551-556,201711)大野敦:糖尿病患者の内科・眼科連携の進め方─糖尿病眼手帳・連携手帳の位置付け─.糖尿病合併症31:56-59,2017***

八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と 糖尿病眼手帳に関する意識調査結果の推移

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):131.135,2018c八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と糖尿病眼手帳に関する意識調査結果の推移大野敦粟根尚子梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CChangesinResultsofConsciousnessSurveyonCooperationbetweenOphthalmologistandInternist,andDiabeticEyeNotebookatOphthalmologyClinicinHachiojiCityAtsushiOhno,NaokoAwane,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的・方法:八王子市内の眼科診療所との糖尿病患者の眼科・内科連携をめざすために,両科の連携と糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する意識を,2002年,2010年,2016年に調査し,その結果の推移を検討した.結果:内科医から臨床情報を得るもっとも多い手段は「糖尿病連携手帳を見る」で,その回答率はC3年ともC80%以上であった.通院しやすい眼科選択のための八王子市内の地図作成時の掲載許可は,いずれもC80%を超えていて,その情報をもとに地図を改訂した.眼手帳を患者に渡すことへの抵抗感は経年的に減少を認めた.眼手帳を渡したい範囲は,「すべての糖尿病患者」との回答の比率が経年的に増えていた.眼手帳は「眼科医が渡すべき」との回答が減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が増加した.結論:2002年に比べてC2010年とC2016年は,各アンケート項目において眼科・内科連携に積極的な施設が増えていた.眼手帳を渡すことへの抵抗感は減少し,より早期に渡すようになり,眼科医が渡すことへのこだわりが減っていた.CPurpose・Methods:ToCfosterCcooperationCbetweenCophthalmologistsCandCinternistsCwithCdiabeticCpatientsCinHachiojiCity,wesurveyedcooperationbetweenfamiliesandawarenessoftheDiabeticEyeNotebook(EyeNote-book)in2002,2010and2016,andexaminedthetrendinresults.Results:ThemostcommonmeansofobtainingclinicalCinformationCfromCinternistsCwasCviaCtheCdiabetesCcooperationCnotebook;theCresponseCrateCwasCmoreCthan80%forthe3years.ThepermissionofpublishingatthetimeofcreatingaHachiojiCitymapforeasierophthal-mologyclinicchoicewasmorethan80%;themapwasrevisedbasedonthatinformation.ResistancetodeliveringtheCEyeCNotebookCtoCtheCpatientCdecreasedCoverCtime.CInCtheCrangeCthatCICwantedCtoCpassCtheCEyeCNotebook,CtheCresponserateforalldiabeticpatientsincreasedovertime.ResponsesindicatingthattheEyeNotebookshouldbehandedCoverCbyCtheCophthalmologistCdecreased,CandCresponsesCindicatingCthatCinternistCorCeitherCshouldCdoCsoCincreased.CConclusion:InC2010CandC2016,CasCcomparedCwithC2002,CophthalmologyCclinicsCpressingCforCcooperationCbetweenCophthalmologistsCandCinternistsCwereCincreasingCforCeachCquestionnaireCitem.CResistanceCtoCsharingCtheCEyeNotebookhasdecreased,theNotebookwashandedoverearlier,andtheattentiontoophthalmologistshandeddownwasdecreasing.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(1):131.135,C2018〕Keywords:眼科・内科連携,糖尿病眼手帳,アンケート調査.cooperationbetweenophthalmologistandinter-nist,DiabeticEyeNotebook,questionnairesurvey.Cはじめに高尾駅からもバス便であるため,自家用車での通院患者の割筆者らの所属する東京医科大学八王子医療センターは,八合が高い.しかし,眼科受診の際には自家用車での受診は困王子市のなかでも山梨県や町田市との境に位置し,最寄りの難であり,そのため眼科への定期受診の間隔があいてしまう〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPAN患者もまれではない.そこで糖尿病・内分泌・代謝内科(以下,当科)では,糖尿病患者の診療において,通院しやすい地元の眼科開業医との連携を重要視してきた1).上記の方針のもと,当科では八王子市内の眼科診療所との積極的な眼科・内科連携をめざし,両科の連携と連携のツールとしての糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の位置付けに対する意識調査を,眼手帳発行C6カ月目のC2002年C11月,発行C8年目のC2010年C6月に施行し報告した2,3).今回,眼手帳発行14年目のC2016年C5月に再度同様な調査を施行した4)ので,本稿では意識調査結果の推移を報告する5).CI対象および方法アンケートの対象は,八王子市内で開業中の眼科診療所で,アンケートの配布施設数,回答施設数,回答率は,2002年C20施設,12施設,60%,2010年C25施設,20施設,80%,2016年C27施設,22施設,81.5%と,回答率の上昇を認めた.回答者のプロフィールを表1に示すが,性別はC3年とも男性がC3/4を占めた.年齢は,2002年,2010年がC40歳代,2016年はC50歳代がそれぞれもっとも多く,3群間に有意差を認めた.一方,眼科医としての臨床経験年数は,2002年,2010年がC11.20年,2016年はC21.30年の回答が最多であったが,3群間に有意差を認めなかった.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行った.今回,アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.誌面の制約上,本稿での報告対象としたアンケート項目は,下記のとおりである.I.糖尿病患者の眼科・内科連携について1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得る主な手段2.内科との連携手段3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望II.眼手帳について4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか6.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいか上記のC6項目に対するC2002年,2010年,2016年に施行したアンケート調査結果について比較検討した.3回の回答結果の比較にはCc2検定を用い,統計学的有意水準はC5%とした.表1回答者のプロフィール性別2002年2010年2016年男性75%(9名)75%(1C5名)77.3%(C17名)C女性25%(3名)25%(5名)22.7%(5名)年齢2002年2010年2016年30歳代25%(3名)C40歳代50%(6名)50%(1C0名)27.3%(6名)50歳代25%(5名)50%(1C1名)60歳代16.7%(2名)20%(4名)13.6%(3名)70歳代8.3%(1名)5%(1名)9.1%(2名)臨床経験年数2002年2010年2016年.1C0年8.3%(1名)C11.2C0年41.7%(5名)45%(9名)27.3%(6名)21.3C0年33.3%(4名)35%(7名)50%(1C1名)31年.16.7%(2名)15%(3名)22.7%(5名)無回答5%(1名)c2検定Cp=0.98c2検定Cp=0.01c2検定Cp=0.48II結果1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段(表2)3年とも「患者持参の糖尿病(連携)手帳を見る」がC80%以上の回答率でもっとも多く,ついで「患者から直接聞く」がC60.70%台であった.C2.内科との連携手段(表3)2002年は市販の,2010年とC2016年は自院のオリジナルの診療情報提供書の利用がそれぞれもっとも多い傾向を認めた.C3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望(表4)「掲載して欲しい」と「どちらでもかまわない」を合わせると,2002年C83.3%,2010年C100%,2016年C95.5%といずれもC80%を超えていた.最新のC2016年の結果において,回答されたC22施設のうち閉院予定のC1施設を除くC21施設から掲載許可が得られたので,その情報をもとに地図を改訂した.C4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(表5上段)有意差は認めないが,2010年とC2016年の方が眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感は少なかった.C5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか(表5中段)眼手帳を渡したい範囲は,有意差は認めないものの「すべての糖尿病患者」と回答した割合が,2002年よりもC2010年・2016年はC60%台に増えていた.C6.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか(表5下段)「眼科医が渡すべき」との回答がC2002年よりもC2010年・2016年は減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が約C85%に増加した.CIII考按1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段今回の結果より,血糖コントロール状況を把握する方法として,内科医の発行する糖尿病(連携)手帳の利用が最多ではあったが,手帳を持参されない患者においては血糖値やHbA1c値を聞くとの回答がC60.70%台を占めていた.この背景には,糖尿病(連携)手帳の発行がまだ十分とはいえない状況が考えられるため,手帳の普及も今後の課題である.C2.内科との連携手段今回の検討において,筆者らが作成にかかわった糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書6,7)の利用率は,表2内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段2002年2010年2016年1)2)患者持参の糖尿病(連携)手帳を見る患者から直接聞く91.7%75%80%70%81.8%63.6%3)内科医に手紙や電話で連絡をとる16.7%15%0%4)その他の手段10%9.1%無回答(5%)複数回答者ありc2検定:p=0.62表3内科との連携手段表4自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための2002年2010年2016年1)自院のオリジナルの診療情報提供書を主に用いている33.3%50%50%2)市販の診療情報提供書を主に用いている50%30%27.3%3)糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書を主に用いている33.3%5%4.5%4)その他の手段25%13.6%無回答(5%)(4C.5%)C八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望2002年2010年2016年1)掲載して欲しい66.7%75%81.8%2)どちらでもかまわない16.7%25%13.6%3)掲載して欲しくない16.7%4.5%Cc2検定:p=0.31c2検定:p<0.1表5眼手帳に関する3つのアンケート結果眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感2002年2010年2016年1)まったくない41.7%75%72.7%2)ほとんどない50%15%27.3%3)多少ある8.3%10%0%4)かなりある0%C眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか2002年2010年2016年1)すべての糖尿病患者41.7%65%68.2%2)網膜症の出現してきた患者58.3%35%31.8%3)正直あまり渡したくない0%Cc2検定p=0.14c2検定p=0.29眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいか2002年2010年2016年1)眼科医が渡すべきである33.3%15%13.6%2)内科医から渡してもかまわない16.7%35%13.6%3)どちらでも良い41.7%50%72.7%無回答(8C.3%)C2002年にC33.3%認めたものの,2010年とC2016年はC5%以下にとどまり,自院のオリジナルの診療情報提供書の利用が50%で最多であった.連携に熱心な眼科医ほどオリジナルの紹介状を持っている可能性は高く,糖尿病患者専用の提供書をわざわざ利用する必要性を感じないこともうなずける.また眼科医の記入する部分は,糖尿病専門医として欲しい情報が多く含まれており,眼科が発信元になる場合にその記入する部分の多さは負担になることが予想される.それに比べて眼科医がもらえる情報量は多いとはいえず,患者数が多く外来の忙しい眼科医ほど現在の提供書には魅力を感じないかもしれない.そこで日常臨床では,病状が比較的安定している際の両科の連携手段として,糖尿病連携手帳と糖尿病眼手帳の併用を頻用しており,これにより外来での時間的負担を軽減したうえで,より細やかな連携が可能である.C3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望2010年とC2016年の掲載許可は,全回答施設から得ることができ,その情報をもとに作成したマップの利用により,自家用車でないと当センターに来院困難な糖尿病患者に通院しやすい地元の眼科診療所を紹介することが容易になった.また院内の眼科においても,より重症患者を中心の診療が可能になり,待ち時間の短縮も期待される.C4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感多摩地域の眼科医における眼手帳に対するアンケート調査c2検定p=0.21C結果の推移において,眼手帳発行C2年目以降「まったくない」と「ほとんどない」を合わせてC80%を超えていた8)が,今回の八王子の結果はさらにその比率が高かった.外来における時間的余裕ならびに眼手帳の配布時と記載時のコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果といえる.C5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか眼手帳を「すべての糖尿病患者に渡したい」との回答が,眼手帳発行半年後のC2002年C11月にC41.7%占めた.前述の多摩地域での検討では,同回答が半年目でC27.1%にとどまり8),船津らの発行C1年目の調査でもC24.8%であった9)ことより,八王子市内の眼科診療所における眼手帳発行直後からの「すべての糖尿病患者」の選択率の高さが浮き彫りにされた.またC2010年とC2016年は同回答がC60%台に増えていたが,この結果も多摩地域での検討8)におけるC7年目C45.6%,10年目C51.9%,船津らの検討でのC6年目の調査9)でのC31.8%を上回っていた.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる.C6.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか「眼科医が渡すべき」との回答がC2002年はC33.3%認めたが,2010年とC2016年はC15%以下に減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答がC85%以上に増加した.先の多摩地域での検討8)では,7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目に前者が著減し後者が有意な増加を示した.先の設問C4とC5の結果を合わせて年次推移をみると,八王子市内の眼科診療所における眼手帳の早期からの広範囲の有効利用による眼科・内科連携への積極的な取り組みが浮き彫りにされた.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました八王子市内の眼科診療所の医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦:眼科と内科の診療連携.月刊糖尿病C7:53-60,C20152)大野敦,齋藤由華,旭暢照ほか:眼科診療所に対する眼科・内科連携ならびに糖尿病眼手帳に関するアンケート調査.日内会誌92((臨時増刊号):177,20033)大野敦,梶明乃,梶邦成ほか:八王子市内の眼科診療所に対する糖尿病眼科・内科連携と糖尿病眼手帳に関する意識調査.網膜C2010講演抄録集:119,20104)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:八王子市内の眼科診療所における糖尿病患者の眼科・内科連携と糖尿病眼手帳第C3版の位置付けに関する意識調査.糖尿病合併症C30(Supplement-1):191,20165)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と眼手帳に関する意識調査結果の推移.糖尿病合併症30(Supplement-1):246,20166)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20027)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20028)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMed34:1657-1663,C20149)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C2005***

富山県における糖尿病診療情報提供書の現況 ―富山県眼科医会の全アンケート調査結果から―

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):425.428,2017c富山県における糖尿病診療情報提供書の現況―富山県眼科医会の全アンケート調査結果から―山田成明*1狩野俊哉*2片山寿夫*3*1富山県立中央病院眼科*2狩野眼科医院*3片山眼科医院CurrentStateofDiabetesClinicalInformationProvidedinToyamaPrefecture─FromToyamaPrefectureOphthalmologistAssociation─NariakiYamada1),ToshiyaKarino2)andToshioKatayama3)1)DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2)3)KatayamaOphthalmologyClinicKarinoOphthalmologyClinic,富山県眼科医会では,糖尿病による失明を防ごうという目的で糖尿病網膜症委員会を設けて,活動を行った.糖尿病診療情報提供書は,その活動のなかで作成され,平成9年から使用を開始した.眼科と内科の連携を密にし,糖尿病網膜症の早期発見,早期治療をめざしたものであった.今回,診療情報提供書の内容の改訂が行われたことにより,改めて富山県眼科医会の会員にアンケート調査を行い,平成27年4月から3カ月間の糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳などの利用について,また,これらと連携に関する意見を聞いた.36名からの回答によれば,30名83%が糖尿病診療報提供書を使用し,31名86%が糖尿病眼手帳を使用していた.どちらかを主に使用している,両者を併用している,使い分けているなどの意見があった.糖尿病網膜症に関する眼科と内科との連携は,眼手帳や診療情報提供書などを使用することにより,さらに意思疎通を得る必要があると思われた.TheToyamaPrefectureOphthalmologistAssociation’sDiabeticRetinopathyCommitteewasestablishedwiththeaimofhelpingtopreventblindnesscausedbydiabetes.Closecooperationbetweenophthalmologyandinternalmedicinefurtheredtheearlydetectionofdiabeticretinopathywiththeaimofrealizingearlytreatment.FollowingrecentrevisioninToyamaPrefectureofthediabetesclinicalinformationdocument,aquestionnairesurveywassubmittedtothemembersoftheOphthalmologistAssociationregardinguseofthedocumentandthediabetesnotebookfor3monthsfromApril2015.Opinionswerealsoheardregardingthesemattersandtheextentofcol-laboration.Accordingtoresponsesfrom36persons,30(83%)usedthediabetesclinicalinformationdocumentand31(86%)usedthediabeteseyenotebook.Allusedatleastone,someusedboth,andothersusedoneortheotherselectively.Cooperationbetweenophthalmologyandinternalmedicineregardingdiabeticretinopathybyusing,forexample,thenotebookandclinicalinformationdocument,isthoughtnecessarytogreatercommunication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):425.428,2017〕Keywords:糖尿病診療情報提供書,糖尿病網膜症,内科眼科連携,糖尿病眼手帳.diabetesclinicalinformationprovides,diabeticretinopathy,cooperationbetweenphysicianandophthalmologist,diabeticeyenotebook.はじめに近年,糖尿病網膜症は成人の失明原因の第2位となっているが,まだ成人の失明原因の主因になっている1).また,日本の糖尿病人口は950万人と推定され2),まだ膨大な潜在患者が埋もれているものと思われる.増殖糖尿病網膜症に硝子体手術が導入され,増殖膜を.離し,術後に良好な視力を得ることも可能となったが,日常生活に十分な機能を残せない場合もいまだ多く存在する.富山県眼科医会では,糖尿病網膜症による失明をなくそう,重症な糖尿病網膜症を減らそうという熱意から有志が集まり,糖尿病網膜症委員会を作り,平成8年9月から活動を始めた.平成9年には糖尿病診療情報提供書を作成し,使用〔別刷請求先〕山田成明:〒930-8550富山県富山市西長江2-2-78富山県立中央病院眼科Reprintrequests:NariakiYamada,DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2-2-78Nishinagae,Toyama-shi,Toyama930-8550,JAPANを開始した.糖尿病網膜症に関するポスターや患者啓発用のパンフレットの作成,医師会の会報への投稿など種々の活動を行った.糖尿病診療情報提供書は文字通り,糖尿病を診療している内科と連携を密にすることを目的としたものであり,富山県内で使用は拡大した.糖尿病眼学会でも発表し,その後多くの地域や施設で使用の動きがあり3),独自の様式も種々散見されるようになった.I方法1.糖尿病診療情報提供書重症の糖尿病網膜症患者をできるだけ減らすには,内科と眼科の連携をより密接にし,定期的,計画的な眼底検査を行うこと,および患者への啓発が重要と考え,まず内科と眼科の連携システムを作るために,糖尿病患者専用の紹介状(富山県糖尿病診療情報提供書)を作成した.内科医と十分に協議して意思の共有を図った.糖尿病診療情報提供書の最上段は共通部分で,診療情報提供書と書いてあり,その下に紹介先,患者氏名,性別,生年月日,年齢を書く部分がある.上半分が内科,下半分を眼科側の記載部分とし,できるだけ多くの内科医,眼科医に利用してもらえるよう記載項目はなるべく削ぎ落とし,選択肢を多くして簡単に記載できるようにした(図1).表紙に記載方法,Davis分類について説明したものを印刷した(図2).返事が返ってくるまでの内科眼科双方の控え,また万が一返事が来なかった場合のために3枚複写とした.統計処理のカウントをしやすくする意味もあった.今回,診療情報提供書の要件を満たすため,改定を行った(図3).2.アンケート調査今回,糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳の利用に関して,平成27年4月.6月までの3カ月間の使用数(紹介と返信いずれでも)をアンケートで調査した.アンケートは富山県内の眼科医にメールおよびファックスで依頼した.あわせて,糖尿病診療情報提供書,眼手帳,糖尿病の連携についての意見も調査した.II結果36名から回答を得られた.3カ月間の診療情報提供書の使用数1.5通18名,6.10通7名,11通以上5名,0通6名,眼手帳は1.5冊14名,6.10冊9名,11冊以上7名,0冊5名であった.30名83%が糖尿病診療報提供書を使用し,31名86%が糖尿病眼手帳を使用していた.若干糖尿病眼手帳は医師に偏りはあるものの使用されていた.糖尿病診療情報提供書を使用する医師は,糖尿病眼手帳も使用する傾図1糖尿病診療情報提供書図2糖尿病診療情報提供書表紙図3改訂した糖尿病診療情報提供書表1糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳の使用について糖尿病診療情報提供書(通)糖尿病眼手帳(冊)なし1.56.1011.小計なし220151.521020146.102241911.04037不明11小計6187536向があった(表1).一方,糖尿病診療情報提供書も長年にわたり使用されており,使い分けを行っている医療機関もあった.初めて患者を紹介するときや変化があったときなどは糖尿病診療情報提供書,通常使用するときは糖尿病眼手帳を使用するというものなど,多様な意見があった(表2).III考按従来から,糖尿病網膜症の進行を予防するには,糖尿病の早期発見,初期からの厳重なコントロール,さらには糖尿病表2会員からの意見・手帳は,わざわざ内科に問い合わせなくても現状が把握できるので便利だ.・糖尿病教室や糖尿病連携手帳を渡すときに内科で一緒に糖尿病眼手帳も渡してもらうのがよいと思います.・糖尿病眼手帳,点数なしだとなんかやる気出ません.・糖尿病手帳のほうは明らかに眼科のスペースが狭く問題.提供書は今までは内科から依頼があれば書くようにしています.・糖尿病眼手帳と糖尿病手帳の2通りあり,内科から糖尿病手帳を持参されることが多いです.眼の所見だけでなく,血糖の経過と眼の所見がかいてあるほうが持ちやすいようです.・手帳を持っていただき,内科所見と眼科所見をかいてもらうことが効果的・私は糖尿病の他科との連携はとても大事だと思い,連携手帳は患者さんに渡して内科で記載してもらうようにしています.診療も必ず内科の検査データ,薬手帳,糖尿病手帳を提出してもらっています.眼科側は結構がんばっているのに内科医との温度差を感じます.糖尿病と診断後一度も眼底検査を受けさせていなかったり,連携手帳に記載しなかったりです.眼科側は粘り強く継続していくことが大切です.・眼科の手帳は今まで利用した方にまだ使っていますが内科の手帳に眼科所見記入欄ができたのでそちらの方に記入することが増えてきました.もちろん眼科の手帳も使ってます.・手帳については,「おくすり手帳」「糖尿病手帳」など複数の手帳を提示されます.中には4通も受付に出される方もおられます.・内科医からの紹介依頼はパソコンで印字した紹介状で依頼される.・情報提供書を記載しても,当院への返事は約2割程度・持たせた患者さんから(Drから)クレーム「提供書は,お金を払わされているだけ・・」が多い.・手帳に眼底写真などをすべての人に貼っているが,内科医から返事はほとんどない.・糖尿病手帳だと携帯していない方もおられますし,初診の方や急激に変化した方は情報提供書をお渡しした方がきちんと受診されるような気がします.・当院には糖尿病センターがあるので糖尿病患者さまが多いですが,眼科につきましては院内の併科よりも,開業医の眼科の先生と連携されて,院内紹介の負担が少なくなるようにご配慮してもらっている.・糖尿病診療情報提供書は,広く活用していただきたいと思います.しかしながら開業医内科よりの紹介が少なく,活用はわずかとなっています.・開業医眼科に初診で来院する糖尿病患者は少ないです.・糖尿病専門医からは,月20件ほどコンスタントに紹介があります.最近では,各医院の電カルの書式での紹介が多いような印象です.・糖尿病診療情報提供書については有意義なことと,大いに評価します.・マイナンバー制度が安全によい意味で活用されるとよいのではないか.・電子カルテの普及によって,複写用紙への手書きというのが,時代に(?)あわなくなっているように思います.網膜症の早期発見,早期からの管理が必要とされてきた.これは個々の患者に対することだけではなく,マクロ的にも同様なことがいえると思われる.ただし,マクロでは,どういう手段が有効であるかが重要であり,その一つが糖尿病眼手帳を用いた連携強化であり,今一つは糖尿病診療情報提供書を用いた内科と眼科の連携強化である.いずれの方法も活用されれば,早期発見,適切な管理,適切な経過観察に有効である.しかしながら,医療機関を受診していない患者の早期発見には別の手段を講じる必要がある.糖尿病眼手帳の有効性はいうに及ばないぐらいであるが4.7),改めて検討すれば,項目があらかじめ決められていることで記載が簡便であり,患者側にはコストがかからない点,また患者自身がそれを見て情報を得ることで自身の病気を理解し,治療のモチベーションを上げる効果が期待できる.糖尿病網膜症のどの段階に自分がいるのかを知っていることも重要である.内科と眼科の両方に提示し,かつ患者自身が医療情報を携帯していることに意義があるように思われる.糖尿病連携手帳と一本化することでますます有効になると思われるところである.一方,糖尿病診療情報提供書は,内科と眼科を往復する紹介状で,保険請求上の診療情報提供書であり,診療報酬点数が設定されている.情報は有料であるという概念からすれば妥当なことであるが,患者側には負担がかかる.眼手帳が無料であることとは対照的である.種々の医療機関に多種多様の考えがあると思われるが,医療情報を有償で提供する意義は十分あると思われる.診療情報提供書は眼科と内科の連携を目的に利用されることが多かったが,最近ではその用途も多様になっており,歯科と内科の連携,かかりつけ医と糖尿病専門医のいる病院との連携にも使用されてもいる.また,地域連携パスの情報手段としても使用されている.今後,情報の電子化が図られていくものと思われ,網膜症分類などの情報を統一化しておく必要があると思われる.糖尿病は,一科のみでは診療できない代表的な疾患である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究」.平成24年度統括・分担研究報告書2)厚生労働省:2012年国民栄養・栄養調査結果3)大野敦:糖尿病網膜症の医療連携放置中断をなくすために.糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20024)糖尿病眼手帳作成小委員会:糖尿病眼手帳─眼手帳作成の背景,経緯,内容,使用法について─.日本の眼科74:345-348,20035)船津英陽,堀貞夫:糖尿病眼手帳(日本糖尿病眼学会).DiabetesJournal31:60-63,20036)船津英陽,福田敏昌,宮川高一ほか;糖尿病眼手帳作成小委員会:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20057)船津英陽,堀貞夫,福田敏昌ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,2010***

多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3版に関するアンケート調査

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):268.273,2017c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3版に関するアンケート調査大野敦粟根尚子永田卓美梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科QuestionnaireSurveyResultsamongTamaAreaOphthalmologistsregardingtheThirdeditionoftheDiabeticEyeNotebookAtsushiOhno,NaokoAwane,TakumiNagata,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的:『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)は2014年6月に第3版に改訂された.改訂1年後に第3版に対する眼科医の意識調査を行ったので報告する.方法:多摩地域の眼科医に対し,1)眼手帳配布に対する抵抗感,2)「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度,3)受診の記録で記入しにくい項目,4)受診の記録における①「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非,②「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非,③福田分類削除の是非,5)眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさについて調査し,回答者50名全体の結果ならびに日本糖尿病眼学会の会員11名と非会員30名の比較結果を検討した.結果・結論:受診の記録において会員は黄斑症の変化,非会員は網膜症の変化が記入しにくいとの回答が多く,会員は黄斑症の記載が詳細になったことは細かくて記載が大変との回答が5割を占めた.福田分類の復活希望は3%にとどまった.Purpose:TheDiabeticEyeNotebook(EyeNotebook)hasbeenrevisedtothethirdedition(June2014);weherereportontheawarenesssurveyofophthalmologistsforthethirdeditionoftherevisedoneyear.Methods:ThesubjectswereophthalmologistsintheTamaarea.Thesurveyitemswere:1)senseofresistancetoprovidingtheEyeNotebook,2)clinicalappropriatenessofthedescription“guidelinesforthoroughfunduscopicexamina-tion”,3)di.cultitemsto.llinontherecordofvisit,4)①prosandconsofdetaileddescriptionofdiabeticmacu-lopathy,②prosandconsofdescriptionofchangeindiabeticmaculopathy,③prosandconsofdeletingtheFuku-daclassi.cation.5)Clarityofrevisiontothethirdeditionofthepatient’sEyeNotebook.Weexaminedtheresultsofcomparingmembers(11persons),non-members(30persons),respondents(50persons)andoverallresults,aswellastheJapaneseSocietyofOphthalmicDiabetology.ResultsandConclusion:Ontherecordofvisit,manyresponsesaredi.cultto.llinregardingchangesinthediabeticmaculopathyofmembersandchangesinthedia-beticretinopathyofnon-members.Memberanswersofaverynotedanditismostwelcomethatdescriptionsofdiabeticmaculopathyhavecometoaccountforover50%.PreferenceforrevivaloftheFukudaclassi.cationreachedonly3%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):268.273,2017〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,糖尿病網膜症,眼科・内科連携.diabeticeyenotebook,question-nairesurvey,diabeticretinopathy,cooperationbetweenophthalmologistandinternist.はじめに立し,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を図った1).一つが,内科と眼科の連携である.多摩地域では,1997年またこの活動をベースに,筆者は2001年の第7回日本糖尿に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPAN268(126)中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年6月に日本糖尿病眼学会より発行されてから14年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4.7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目,10年目に施行してきた.そして発行半年目8),2年目9)の結果を7年目の結果と比較した結果10),ならびに10年目を加えた過去4回のアンケート調査の比較結果11)を報告してきた.眼手帳は2014年6月に第3版に改訂されたが,糖尿病黄斑症の記載が詳細になり,一方初版から記載欄を設けていた福田分類が削除され,第2版への改訂に比べて比較的大きな変更になった.そこで第3版への改訂から1年後の2015年6.7月に,第3版に対する眼科医の意識調査を行ったので,本稿ではその結果のうち,第3版での改訂ポイントを中心に報告する.I対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務中の糖尿病診療に関心をもつ眼科医で,50名から回答があり,回答者の背景は下記に示す通りであった.1.性別:男性74%(37名),女性16%(8名),無回答10%(5名).2.年齢:30歳代12%,40歳代28%,50歳代42%,60歳代12%,70歳代6%で,50歳代・40歳代の順に多く,両年代で全体の70%を占めた.3.勤務先:開業医84%,病院勤務14%,無回答2%.4.臨床経験年数:10年以内4%,11.20年22%,21.30年44%,31.40年24%,41年以上6%で,21.30年の回答がもっとも多かった.5.定期通院中の担当糖尿病患者数:10名未満6%,10.29名26%,30.49名34%,50.99名8%,100名以上20%,無回答6%で,30.49名の回答がもっとも多かった.6.日本糖尿病眼学会:会員22%(11名),非会員60%(30名),無回答18%(9名).なおアンケート調査は2015年6.7月に施行されたが,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼ100%であった.今回,アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓蒙を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.今回報告対象としたアンケート項目は,下記のとおりである.問1.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感問2.「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度問3.4頁からの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目問4-1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非問4-2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問4-3.受診の記録における福田分類削除の是非問5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ上記の問1.5に対するアンケート調査結果について,回答者50名全体の結果ならびに日本糖尿病眼学会の会員11名と非会員30名の比較結果を検討した.会員と非会員の回答結果の比較にはc2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図1)眼手帳を渡すことへの抵抗は「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて90%を超えていた.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,両群間に有意差はなかった.2.「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度(図3)眼手帳1ページの「眼科受診のススメ」(図2)の下段に「精密眼底検査の目安」が記載されていることおよび記載内容ともに「適当」との回答が全体の89%を占めた.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,「目安の記載自体が混乱のもとなので不必要」との回答が会員で28.6%と有意に多かった(c2検定:p=0.001).3.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目(図4,5)記入しにくい項目としては,「糖尿病網膜症の変化」と「糖尿病黄斑症の変化」が17%前後で多かった(図4).糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,会員は「糖尿病黄斑症の変化」,非会員は「糖尿病網膜症の変化」の回答がともに20%を超えて多かった(図5).4.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非(図6)黄斑症の記載が詳細になったことは「適切な改変」との回答が69%でもっとも多かった.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,会員は「細かくて記載が大変になった」が50%,非会員は「適切な改変」が76%で,それぞれもっと■まったくない■ほとんどない■多少ある■かなりある0%20%40%60%80%100%〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉図1眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感も多かった(c2検定:p=0.07).4.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非(図7)黄斑症の変化は「必要な項目」が48%,「必要だが記載しにくく,ないほうがよい」が38%と回答が分かれていた.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,両群間に有意差はなかった.4.3.受診の記録における福田分類削除の是非(図8)福田分類は「ないままでよい」が60%と最多で,復活希望は3%にとどまった.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,復活希望は会員で14.3%,非会員は0%であった.5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ(図9)患者さんサイドに立った眼手帳をめざして,1ページの「眼科受診のススメ」などの表記を患者さんにわかりやすい表記に変更(図2)したが,患者さんにとってわかりやすくなったとの回答が全体の54.5%を占めた.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,非会員は「わかりやすくなった」が63%,会員は「どちらともいえない」が44%で,それぞれもっとも多かった.図2「眼科受診のススメ」の推移■適当■不必要■修正必要(%)2.2複数回答可無回答7名を除く43名中の回答割合で表示80(無回答5名)0%20%40%60%80%100%40〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉20特になし糖尿病黄斑症の変化糖尿病黄斑症糖尿病網膜症の変化糖尿病網膜症白内障眼圧矯正視力次回受診予定日図3「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度図44ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目適切細かくて記載が大変その他(%)(無回答11名)8060400%20%40%60%80%100%〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉200特になし糖尿病黄斑症の変化糖尿病黄斑症糖尿病網膜症の変化糖尿病網膜症白内障眼圧矯正視力次回受診予定日図54ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目図6受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の<糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較>是非必要記載しにくくないほうがよい元々不要その他ないままでよい復活してほしいどちらともいえない2.9(無回答8名)(無回答15名)0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉図7受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非図8受診の記録における福田分類削除の是非0%20%40%60%80%100%〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉図9眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさIII考按1.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感多摩地域の眼科医に対する眼手帳に関するアンケート調査結果の推移11)をみると,眼手帳配布に対する抵抗感は,2年目以降「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて80%を超えており,今回の結果も同様であった.外来における時間的余裕ならびに配布,手帳記載時にコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる.2.「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度糖尿病眼学会の会員において,「目安の記載自体が混乱のもとなので不必要」との回答が28.6%と有意に多かった.これが糖尿病の罹病期間や血糖コントロール状況を加味せずに,検査間隔を決めるむずかしさを示唆しており,受診時期は主治医に従うように十分説明してから手帳を渡すことの必要性を改めて示している.3.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目多摩地域の眼科医における眼手帳第2版までのアンケート調査では,記入しにくい項目として,「福田分類」のつぎに「糖尿病網膜症の変化」があげられている11).今回その項目と「糖尿病黄斑症の変化」が多かったことは,網膜症や黄斑症の経時的変化を記載することの負担感を示している.4.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非7割の回答者が黄斑症の記載が詳細になったことは適切な改変と評価しているものの,学会員の半数は細かくて記載が大変になったと回答している.おそらく定期通院中の糖尿病患者数が多く,かつ黄斑症の患者も多いため,記載に対する負担感が強いと思われる.4.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非黄斑症の記載の詳細化に対する高評価に比べると,黄斑症の変化は必要だが「記載しにくくないほうがよい」との回答も4割弱認めた.この項目の記載には,OCTによる診察ごとの比較が不可欠であり,その煩雑さが記載のしにくさを反映していると考えられる.4.3.受診の記録における福田分類削除の是非多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行10年目までのアンケート調査では,10年目の回答において,受診の記録のなかで記入しにくい項目として「福田分類」と「変化」が多く選ばれ,とくに福田分類の増加率が高かった11).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため記入して頂きたい項目ではあるが,その厳密な記入のためには蛍光眼底検査が必要となることもあり,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,眼手帳の第3版では受診の記録から福田分類は削除されたが,今回の結果では福田分類は「ないままでよい」が6割を占め,復活希望は3%にとどまった.したがって,現時点で眼手帳の第3版の改訂方針は眼科医に支持されているといえるが,今後は福田分類削除に対する内科医の意見も聞いてみたい.5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ眼手帳第3版への改訂では,図2の「眼科受診のススメ」の表記だけでなく,眼手帳後半のお役立ち情報にOCTや薬物注射を加えるなどの改変を行っている.こうした工夫が,患者さんにとって「わかりやすくなった」との回答が過半数を占める評価につながったと思われる.以上のアンケート結果より,眼手帳の第3版における改訂ポイントに対しておおむね好意的な受け入れ状況を示したが,一部の記載項目では,とくに日本糖尿病眼学会会員において負担感をもつ回答者も認めた.今後は,さらに多くの医療機関で眼手帳を利用してもらうために,眼手帳の目的を理解してもらうための啓発活動ならびに眼手帳のより利用しやすい方法の提案が必要と思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティス23:301-305,20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20108)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の利用状況と意識調査.日本糖尿病眼学会誌9:140,20049)大野敦,粂川真理,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における発行2年目の糖尿病眼手帳に対する意識調査.日本糖尿病眼学会誌11:76,200610)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,201111)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第2報).ProgMed34:1657-1663,2014***

眼科単科病院を受診する糖尿病患者の網膜症に対する説明

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):613〜618,2016©眼科単科病院を受診する糖尿病患者の網膜症に対する説明吉崎美香*1安田万佐子*1大須賀敦子*1井出明美*1荒井桂子*1大音清香*2井上賢治*2堀貞夫*1*1医療法人社団済安堂西葛西・井上眼科病院*2医療法人社団済安堂井上眼科病院Nurses’ExplanationtoDiabeticPatientsIsEffectiveinEducationRegardingSeverityStageofDiabeticRetinopathyMikaYoshizaki1),MasakoYasuda1),AtsukoOosuga1),AkemiIde,KeikoArai1),KiyokaOohne2),KenjiInoue2)andSadaoHori1)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)を活用し,看護師が糖尿病網膜症(以下,網膜症)病期の説明を行うことにより,患者の網膜症に対する知識を高め,定期受診を促す効果を調べること.対象および方法:平成26年6~10月に当院を受診し同意の得られた糖尿病患者で,医師が記載した眼手帳をもとに看護師が網膜症について説明した946名と,再診時(説明後1~4カ月後)に看護師により再度アンケートを実施した199名に対して聞き取り調査を行い,医師による眼底検査で診断された網膜症病期と比較した.対象者は外来を受診した糖尿病患者を無作為に抽出し,医師が記載した糖尿病眼手帳を基に同意の得られた患者とした.井上眼科病院倫理委員会の承認を得て実施した.結果:眼手帳説明時の調査で,当院の患者は,罹病期間は6年以上が77.3%を占め,5年未満の患者は22.2%で長期間罹病患者が多かった.手帳に関して内科用手帳(連携手帳)に比べ眼手帳を知っていると回答した患者は19%と少なかった.自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は20.8%で,医師の所見と一致したのは18%であった.説明後再診時の調査が行えた199名のうち,自分の網膜症病期を覚えていた患者は53.7%,医師の所見と一致した患者は38.2%であった.このうち,眼手帳説明時に自分の病期を知っていたのは31名,再診時に病期を覚えていたのは80.6%,医師の所見と一致したのは71.0%,説明時に自分の病期を知らなかった168名のうち,再診時に覚えていたのは48.8%であった.医師の所見と一致したのは33.3%であった.また,自分の患者が網膜症病期を理解していると推測している医師は少なかった.結論:看護師による眼手帳を用いた網膜症病期の説明は,患者に自分の病期に対する関心をもたせる効果があることが示唆された.しかし,一度の説明では理解がむずかしいこともわかった.今後は再診時の調査を行い,再度の説明が必要になると思われた.Purpose:Toevaluatetheeffectofthediabeticeyenotebook(DEN)indeepeningdiabeticpatients’knowledgeofdiabeticretinopathy(DR)andencouragingthemtoreceiveperiodicophthalmicexaminations.SubjectsandMethods:Aninitialquestionnairesurveybynurseswasconductedon946consecutivediabeticpatientswhovisitedourhospitalbetweenJuneandSeptember2014.SeveritystageofDRandophthalmologicalinformation,includingvisualacuityandintraocularpressure,wereconcurrentlydescribedintheDENbyophthalmologists,andnursesexplainedtheseverityofDRineachpatient.After1-4months,asecondsurveywasperformedon199patientswhohadundergonetheinitialsurvey.Theywereaskedtheirseveritystageandwerecomparedtothosediagnosedbyophthalmologists.Results:DRdurationexceeded6yearsin77.3%ofpatients;20.8%ofpatientsansweredthattheyknewtheirownstage,and18.0%agreedwiththestagediagnosedbyophthalmologistsatthetimeofinitialsurvey.Aftertheexplanationbynurses,53.7%ofpatientsansweredthattheyrememberedtheseveritystageatthetimeofsecondsurvey,andtheansweragreedwiththatdiagnosedbyophthalmologistsin38.2%.TheexplanationbynurseswaseffectiveforthepatientsinunderstandingtheirDRstage,thoughitwasnotsatisfactoryenoughforidealpatienteducation.Conclusion:TheexplanationofDRandseveritystagewaseffectiveinenhancingpatients’interestintheirownDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):613〜618,2016〕Keywords:糖尿病網膜症,糖尿病眼手帳,アンケート調査,病期説明,患者教育.diabeticretinopathy,diabeticeyenotebook(DEN),questionnairesurvey,explanation,patienteducation.はじめに糖尿病網膜症(以下,網膜症)の発症・進展予防には,内科・眼科の連携,患者自身の病識と定期的な受診が必要である.地域密着型眼科単科の中核病院である西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,糖尿病の患者が多く,緊急を要する場合,内科でのコントロール状況が把握できない状況で手術を行う場合がある.このような状況のなか,眼底検査をして初めて糖尿病と判明する患者や,術前検査で糖尿病が見つかる患者もおり,治療に当たり予期しない全身合併症を発症する場合がある.そこでコメディカルがチーム医療に貢献する準備として,前回,筆者らは当院を受診する糖尿病患者の実態調査を行った1).その結果,①眼合併症の詳しい知識をもつ患者は少なく,自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は15%と少なかった.②糖尿病手帳を持っていて内科受診時に利用していた人は42%,眼科受診時に利用していた人は17%と少なかった.③手帳を利用していて自分の網膜症病期を正確に知っていたのは,知っていると回答した患者の30%(全体の約5%)ということがわかった.この結果を踏まえて,今回,医師が記載した糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)をもとに,看護師が患者に網膜症病期の説明を行い,その後の再受診時に説明した内容を覚えているか,アンケート調査をしたので報告する.I対象および方法対象:平成26年6~10月に当院を受診し,医師が記載した眼手帳をもとに看護師が網膜症について説明した946名(男性:542名,女性:404名)で,年齢は65.9歳±11.4歳(平均年齢±標準偏差)であった.このうち199名に対し,再受診時(説明後1~4カ月)に看護師により再度アンケート調査をした.また,当院の医師10名に対し,眼手帳配布状況について調査した.調査項目:医師が記載した眼手帳をもとに看護師が説明を行ったときのアンケート(10項目)(表1)と再診時に行ったアンケート(5項目)(表2)の回答を患者から聞き取り,回答欄に看護師が記入した.また,当院の医師10名に対して6項目のアンケート(表3)を行った.さらに,医師による眼底検査で診断された網膜症病期と患者のアンケート調査の結果を比較したII結果1.眼手帳説明時のアンケート調査(表4)罹病期間は6年以上が77.3%,5年未満は22.2%で,長期間罹病患者が多かった.自分が糖尿病であることを認識していないと思われる患者も含まれていた.糖尿病罹患後眼科受診までの期間は1年以内がもっとも多かったが,10年以上を過ぎて初受診する患者も15%にみられた.眼科を受診して糖尿病を診断された患者が6.9%含まれていた.糖尿病と診断されてから眼科を受診し,今でも継続して受診している患者は90.4%であった.内科の糖尿病治療を中断したことのある患者は12.7%で,大部分は継続して治療を受けていた.眼手帳を知っていたのは19.0%,糖尿病連携手帳(以下,連携手帳:内科用)を知っていたのは46.1%,連携手帳を持っていたのは44.3%,このうち診察時に医師に見せていたのは75.2%(全体の33.3%)であった.また,自分の網膜症病期を知っていたのは20.8%,医師から自分の病期の説明を聞いたことがあるのは23.3%であった.2.説明後再診時の調査(表5)帰宅後眼手帳を見た患者は77.3%,自分の網膜症病期を理解できたのは69.8%,自分の病期を覚えていたのは53.7%,今後定期的に眼科受診をすると答えたのは99.0%であった.説明を受けた後の感想では,自分の病期に対する理解と今後の通院に対する積極性がみられた.3.当院の医師に対する質問(表6)眼手帳・連携手帳を活用しているのは9名(90.0%)で,全員に渡しているのは1名だけであった.網膜症が出たときに渡す場合が多く,眼手帳を必ず記入しているのは7人だった.自分の患者が網膜症病期を理解していると推測している医師は少なかった.自分の患者が網膜症病期を理解していないと思う理由として,①人によるが,糖尿病患者は糖尿病の病態をしっかりと理解できていない方が多い.②定期的に受診に来る患者が少ない.③自ら再来時期を指定してきてしかも○年後という患者もいる.という意見があった.4.網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断との比較(表7)眼手帳説明時の調査で,自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は946人中197人(20.8%)で,医師の眼底所見と一致したのは173人(18%)であった.説明後再診時の調査が行えた199人では,自分の網膜症病期を覚えていると回答した患者は199人中107人(53.7%)で,医師の所見と一致したのは78人(38.2%)であった.手帳説明時に自分の病期を知っていると回答したのは再調査の行えた199人中31人,そのなかで再診時に病期を覚えていると回答したのは25人(80.6%),さらに医師の所見と一致したのは22人(71.0%)であった.説明時に自分の病期を知らなかった168人のうち,再診時に覚えていたのは82人(48.8%),さらに医師の所見と一致したのは56人(33.3%)であった.III考按眼手帳と連携手帳の併用により,患者にも参加してもらう内科・眼科連携が可能であり,それが網膜症の管理につながる.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用して経過観察すべきである7).といわれている.1.眼手帳説明時のアンケート調査今回の調査で,糖尿病罹病期間は6年以上が77.3%を占め,5年未満の患者は22.2%で長期間罹病患者が多かったが,内科用の手帳を知っていた患者437名(46.2%)に対して,眼手帳を知っていた患者は179名(18.9%)と少なかった.また,手帳を持っていた患者も半数以下と少なかった.網膜症病期の説明を聞いたことがある患者は,23.3%と少なかった.このことからも患者が眼手帳や連携手帳を利用する率は少なく病期を正しく理解できていなかったのではないかと推測される.2.説明後再診時の調査手帳説明後,99%の患者が,今後定期的に眼科を通院しようと思うと回答したことから,定期的な眼科受診の必要性は理解されたと思われ,放置中断を防止するきっかけになるのではないかと思われる.3.当院の医師に対する質問当院の医師に対する調査で,患者の眼手帳を渡しているかの調査で,8割の医師がA1以上になったときに渡すと回答し,また,自分の患者は網膜症病期を理解していないと思っている医師が7割で,医師に対する調査で理解していないと思う理由として,①人によるが,糖尿病患者は糖尿病の病態をしっかりと理解できていない方が多い.②定期的に受診に来る患者が少ない.③自ら再来時期を指定してきて,しかも○年後という患者もいる.という意見であった.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用してフォローすべきであるという既報の結論からすると,当院では実施できていなかったことから,正しい知識をもっていた患者が少なかったのではないかと推測される.4.網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断との比較眼手帳を活用した網膜症病期の説明後,医師の所見と患者の回答した網膜症病期が一致したのは39.1%,最初自分の網膜症病期を知らないと回答した患者の48.8%が自分の病期を覚えていると回答し,医師の所見と一致した患者は56名,網膜症病期を知らないと回答した患者の33.3%が医師の所見と一致した結果であった.手帳を用いて説明を行ったことにより,自分の病期を知らないと回答した患者の33.3%が医師の所見と一致した病期を覚えていたことから,手帳を用いた説明は患者に関心をもたせるきっかけになったと思われる.今回手帳を配布するに当たり,眼手帳にカバーを付けて配布した.内科用の連携手帳を持っている患者には,眼手帳と内科用の手帳をカバーに挟んで合体させ,これを内科・眼科両方の医師に見せるように指導を行った.このようにして配布したことにより,連携手帳を持っていなかった患者のなかには,眼手帳を内科医に見せたことにより,内科医で連携手帳をもらった患者もいた.眼手帳に内科医がHbA1C値を記入してくれていた患者もみられた.このことからも眼手帳が内科・眼科の連携につながるきっかけになっていると思われた.以上の結果より,眼手帳と連携手帳の併用により,患者にも参加してもらう内科・眼科連携が可能であり,それが網膜症の管理につながると考えられる.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用してフォローすべきであるという既報の結論と一致する7).網膜症を診察していくうえで,内科医とは常に連絡が必要であり,連携手帳・眼手帳を持つ患者については眼科の診察結果を記録する.なかでもとくに密接な連携を必要とするのは,2型糖尿病の初診時,入院して血糖のコントロールをつけるとき,腎症悪化時,眼科手術時である.2型糖尿病の初診時は眼底検査が必要である.罹病期間が特定できないことも多く,内科初診時すでに増殖網膜症となっている場合も珍しくない.当院の調査でも,視機能低下の自覚があり眼科を受診して糖尿病と診断された患者が6.9%いた1).また,すでに重症単純網膜症や増殖前網膜症をきたしている場合は,血糖の急速な正常化により,網膜症の重篤な進行をきたすことがあるといわれている8).眼科医が眼手帳に記入し,内科医に見せてもらうことで,内科医での血糖コントロール時の指標になると思われ,正確に眼所見が内科医に伝わり連携をとれると考える.IV結論看護師による糖尿病眼手帳を用いた網膜症病期の説明は,患者教育に効果があることが示唆された.また,定期的な眼科受診の必要性も理解できた.しかし,一度の説明ではなかなか理解されないこともわかった.今回の調査は,まだ途中経過なので,今後病期説明後再診時の調査を長期にわたり繰り返し行い,再度の説明により患者教育の達成をめざしたい.本稿の要旨は第20回日本糖尿病眼学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)吉崎美香,安田万佐子,大須賀敦子ほか:眼科単科病院を受診する糖尿病患者実態調査.あたらしい眼科32:269-273,20152)若江美千子,福島夕子,大塚博美ほか:眼科外来に通院する糖尿病患者の認識調査.眼紀51:302-307,20003)菅原岳史,金子能人:岩手糖尿病合併症研究会のトライアル2.眼紀55:197-201,20044)小林厚子,岡部順子,鈴木久美子:内科糖尿病外来患者の眼科受診実態調査.日本糖尿病眼学会誌8:83-85,20035)船津英陽,宮川高一,福田敏雄ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)中泉知子,善本三和子,加藤聡:患者の意識改革を目指す糖尿病教育の方向性について─患者アンケート調査から─.あたらしい眼科28:113-117,20117)大野敦:糖尿病眼手帳を活用した糖尿病網膜症の管理.日本糖尿病眼学会誌19:32-36,20148)有馬美香,松原央:糖尿病網膜症の管理における病診連携.眼紀51:283-286,2000〔別刷請求先〕吉崎美香:〒134-0088東京都江戸川区西葛西3丁目12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:MikaYoshizaki,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(131)613表1糖尿病眼手帳説明時アンケート調査調査日年月日NO.()ID氏名年齢()男・女担当医()1.糖尿病罹病期間2.糖尿病罹患後眼科受診したか3.罹病後眼科受診までの期間4.内科治療を1年以上放置したことがあるか5.糖尿病眼手帳を知っていたか6.糖尿病手帳(内科用)を知っていたか7.糖尿病手帳は持っていたか8.「7」で手帳を持っていると回答した方は,診察時に見せていたか9.自分の網膜症病期を知っていたか10.医師から自分の網膜症の病期の説明を聞いたか表2糖尿病眼手帳を説明し,次回受診後のアンケート調査調査日年月日手帳説明時からアンケート調査までの期間(週・カ月)医師の次回診察の指示は(週・カ月)指示通りに来院しているか1.帰宅後眼手帳を見たか2.自分の網膜症病期が理解できたか3.自分の網膜症病期を覚えていたか4.説明を受けて(手帳をもらって)どのように感じたか(複数回答)5.今後定期的に眼科を受診するか表3医師に対するアンケート調査1.糖尿病手帳・糖尿病眼手帳を活用しているか2.眼手帳を渡しているか3.2.で渡すと回答された方は,どのような患者に渡すか4.どのような時に渡していますか?5.眼手帳を記入するか6.自分の患者が網膜症病期を理解しているか614あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(132)表4眼手帳説明時の調査罹病期間人(%)21年以上26127.611~20年26227.76~10年208222~5年15616.51年以内545.7わからない40.4糖尿病ではない10.1はい(人)(%)いいえ(人)(%)2糖尿病罹患後に眼科受診・治療したか現在も通院中85590.4過去に自己中断歴があるか21525.164074.94内科放置したことがあるか1258215糖尿病眼手帳を知っていたか17919767816糖尿病手帳(内科)を知っていたか43746.150953.87糖尿病手帳を持っていたか41944.352755.78診察時に見せていたか31575.210424.89自分の網膜症病期を知っていたか19720.874979.110医師から自分の病期の説明をきいたか22023.372676.7罹病後眼科受診までの期間人(%)1年以内34538.22~5年17919.86~10年位12013.311~20年位13515覚えていない60.6眼科受診してわかった626.9糖尿病かどうかまだわからない161.8糖尿病ではない242.7(133)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016615表5説明後再診時の調査はい(人)(%)いいえ(人)(%)1帰宅後眼手帳を見たか15477.34522.62自分の網膜症病期が理解できたか13769.86231.13自分の網膜症病期を覚えているか10753.79246.24今後定期的に眼科受診するか1979920.1手帳の説明を受けてどのように感じたか(複数回答)人眼の状況が把握でき良かった111詳しいことがわかり不安になった28血糖のコントロールを頑張ろう86内科・眼科をきちんと通院しよう113表6当院の医師に対する質問はい(人)(%)いいえ(人)(%)1糖尿病眼手帳・連携手帳を活用しているか10100002糖尿病眼手帳を渡しているか9901103眼手帳を記入するか101004自分の患者が網膜症病期を理解しているか330770どのような時に眼手帳を渡すか人%初診時110網膜症発症時660患者にいわれた時330どのような時に手帳記入するか(複数回答あり)人%毎回記入763.6患者から提示された時327.2内科医に伝えたいとき10.9表7網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断比較再診時に病期を覚えていた人医師の診断と一致した人人(%)人(%)説明時に自分の病期を知っている31人2580.62271説明時に自分の病期を知らない168人8248.85633.3計199人10753.87839.2616あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(134)(135)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016617618あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(136)

多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(97)97《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):97.102,2011cはじめに糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの一つが,内科と眼科の連携である.多摩地域では,1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設立させ,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を図った1).〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998八王子市館町1163番地東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji,Tokyo193-0998,JAPAN多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移大野敦梶邦成臼井崇裕田口彩子松下隆哉植木彬夫東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科ChangesinQuestionnaireSurveyResultsamongTamaAreaOphthalmologistsRegardingtheOphthalmologicalNotebookofDiabeticsAtsushiOhno,KuniakiKaji,TakahiroUsui,SaikoTaguchi,TakayaMatsushitaandAkioUekiDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的:2002年に発行された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医の意識調査を発行7年目に施行し,発行半年目と2年目の調査結果と比較した.方法:多摩地域の眼科医に対し,1)眼手帳の配布状況,2)眼手帳配布に対する抵抗感,3)「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度,4)受診の記録で記入しにくい項目,5)受診の記録に追加したい項目,6)眼手帳を配布したい範囲,7)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか,8)眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか,9)内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会,10)眼手帳の広まりについて調査し,各結果を3群間で比較した.結果・結論:眼手帳の配布率はこの5年間で10%上昇し,配布に対する抵抗感は有意に減少し,眼手帳を配布したい範囲は広がる傾向を認め,他院発行の眼手帳を見る機会は有意に増えているが,眼手帳の広まりに対する評価は厳しかった.Purpose:TheOphthalmologicalNotebookofDiabeticswasfirstissuedin2002;sevenyearshavepassedsincethen.Inthisstudy,weexaminedophthalmologistsregardingtheirawarenessoftheNotebook,andcomparedtheresultstothoseofsimilarsurveysconductedsixmonthsandtwoyearsaftertheNotebook’sfirstissuance.Methods:ThesubjectswereophthalmologistsintheTamaarea.Thesurveyitemswere:1)currentstatusofNotebookdistribution,2)senseofresistancetoprovidingtheNotebook,3)clinicalappropriatenessofthedescriptionof“guidelinesforthoroughfunduscopicexamination”,4)fieldsintheNotebookthataredifficulttocomplete,5)itemsthatshouldbeaddedtotheclinicalfindingsfield,6)areainwhichtheNotebookshouldbedistributed,7)whetherornottheNotebookcostnotcoveredbymedicalinsuranceisanobstacletoitspromotion,8)whetherornottheNotebookshouldbeprovidedtopatientsbyophthalmologists,9)frequencyofseeingtheNotebookissuedbyotherhospitals(includingattendingphysicians),and10)promotionoftheNotebook.Wecomparedtheresultsamongthethreegroups.ResultsandConclusion:TherateofNotebookdistributionhasincreasedby10%overthepastfiveyears,andthelevelofresistancetoprovidingithasmarkedlydecreased.ThemajorityofophthalmologistscommentedthattheNotebookshouldbedistributedoverawiderarea,andthefrequencyoftheirseeingitissuedbyotherhospitalshasincreased.Ontheotherhand,theyviewedthepromotionoftheNotebookasbeinginsufficient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):97.102,2011〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,糖尿病網膜症,眼科・内科連携.OphthalmologicalNotebookofDiabetics,questionnairesurvey,diabeticretinopathy,cooperationbetweenophthalmologistandinternist.98あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(98)またこの活動をベースに,筆者は2001年の第7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年6月に日本糖尿病眼学会より発行されてから7年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4~7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目に施行したので,本稿では発行7年目の結果を半年目8),2年目9)の結果と比較した.I対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医で,発行半年目96名〔男性56名,女性24名,不明16名,眼科経験年数19.0±11.6(M±SD)年〕,2年目71名(男性43名,女性28名,眼科経験年数20.3±12.9年),7年目68名(男性38名,女性22名,不明8名,眼科経験年数20.6±8.5年)である.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者が面接方式で行ったため,回収率はほぼ100%であった.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会等で発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます.」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.回答者のプロフィールを表1に示すが,年齢は40歳代が最も多く,3群間に有意差を認めなかった(c2検定:p=0.27).勤務施設は診療所がいずれも70%台で,3群間に有意差を認めなかった(c2検定:p=0.64).定期受診中の糖尿病患者数は,半年目に比べて2年目,7年目の患者数が増加していたが,有意差は認めなかった(c2検定:p=0.13).以上の背景ももつ対象において,問1.眼手帳の利用状況についてお聞かせ下さい問2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことに抵抗がありますか問3.眼手帳の1ページの「精密眼底検査の目安」の記載があることは,臨床上適当とお考えですか問4.眼手帳の4ページ目からの受診の記録で,記入しにくい項目はどれですか問5.眼手帳の4ページ目からの受診の記録に追加したい項目はありますか問6.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいですか問7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことは,手帳の普及の妨げになりますか問8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいとお考えですか問9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳を御覧になる機会がありますか問10.【半年目・2年目】眼手帳は広まると思いますか【7年目】眼手帳は広まっていると思いますか上記の問1~10に関するアンケート調査を行い,各問のアンケート結果の推移を検討した.3群間の回答結果の比較にはc2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.眼手帳の利用状況(図1)発行半年目の調査時は質問項目として未採用のため,発行2年目と7年目で比較した.その結果,眼手帳の利用状況に有意差はなかったが,7年目の回答において,「積極的または時々配布している」を合わせると63.2%を認め,発行2年目より約10%増加していた.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図1)眼手帳配布に対する抵抗感は,「全くない」がこの5年間表1回答者のプロフィール回答者年齢構成年齢半年目(96)2年目(71)7年目(68)20歳代3.1%(3)5.6%(4)1.5%(1)30歳代28.1%(27)21.1%(15)14.7%(10)40歳代33.3%(32)38.0%(27)38.2%(26)50歳代17.7%(17)16.9%(12)29.4%(20)60歳代11.5%(11)9.9%(7)11.8%(8)70歳代3.1%(3)8.5%(6)2.9%(2)未回答3.1%(3)1.5%(1)回答者勤務施設施設半年目(96)2年目(71)7年目(68)開業医75.0%(72)71.8%(51)76.5%(52)大学病院9.4%(9)9.9%(7)10.3%(7)総合病院7.3%(7)11.3%(8)5.9%(4)一般病院7.3%(7)5.6%(4)2.9%(2)その他2.9%(2)未回答1.0%(1)1.4%(1)1.5%(1)糖尿病患者数患者数半年目(96)2年目(71)7年目(68)10名未満8.3%(8)11.3%(8)8.8%(6)10~29名31.3%(30)16.9%(12)19.1%(13)30~49名19.8%(19)19.7%(14)23.5%(16)50~99名14.6%(14)14.1%(10)14.7%(10)100名以上10.4%(10)29.6%(21)23.5%(16)未回答15.6%(15)8.5%(6)10.3%(7)(99)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201199で14%増加し,「ほとんどない」と合わせて約9割に達し,3群間で有意差を認めた(c2検定:p<0.05).3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度(図1)目安があることおよび記載内容ともに適当との回答が3群とも80%前後を占め,目安の記載自体混乱の元で不必要との回答は4~10%台,目安はあったほうがよいが記載内容の修正は必要との回答は4~7%台にとどまり,3群間に有意差を認めなかった.7年目の回答者において,修正点として「目安としてはこう書くしかないと思うが,増殖前と増殖に関しては参考にならない」「コントロール状態と眼のステージで決めている」「黄斑症についての記載が必要だと思う」の記載があった.4.受診の記録の中で記入しにくい項目(図2)記入しにくい項目を選択した回答者の割合は,半年目47.9%,2年目42.3%,7年目51.5%で,3群間に有意差を認めなかった.7年目の回答者が選択した記入しにくい項目としては,福田分類,変化,白内障が10%を超えており,福田分類は増加傾向を認めた.一方,次回受診予定日,糖尿病網膜症,黄斑症は減少していた.問1.眼手帳の利用状況問2.眼手帳を糖尿病患者へ渡すことへの抵抗感問3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%□積極的に配布している■時々配布している■必要とは思うが配布していない■必要性を感じず配布していない■眼手帳を今回はじめて知った■その他の配布状況■未回答□全くない■ほとんどない■多少ある■かなりある■未回答□適当■不必要■修正が必要■未回答2年目7年目半年目2年目7年目半年目2年目7年目c2検定:p<0.05c2検定:p値0.86c2検定:p値0.55図1問1~3の回答結果問4.受診の記録の中で記入しにくい項目■特にない■ある■未回答■半年目■2年目■7年目0%0%5%10%15%20%25%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目問5.受診の記録の中で追加したい項目の有無c2検定:p値0.46(未回答を除く)糖尿病黄斑症福田分類変化糖尿病網膜症白内障眼圧矯正視力次回受信予定日図2問4,5の回答結果100あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(100)5.受診の記録の中で追加したい項目の有無(図2)追加したい項目は「特にない」が3群とも大多数を占め,「ある」は半年目7.3%,2年目9.9%,7年目14.7%にとどまり,3群間に有意差を認めなかった.追加したい項目があると回答した者において,具体的にはHb(ヘモグロビン)A1Cを記載したものが最も多かった.6.眼手帳を渡したい範囲(図3)発行7年目において眼手帳を渡したい範囲は,すべての糖尿病患者との回答が半年目より18.5%,2年目より5%増加傾向,一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目の6割台が2年目と7年目では4割台に減少傾向を認めた.7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか(図3)全くならないが半年目28.1%,2年目21.1%,7年目33.8%,あまりならないが38.5%,43.7%,33.8%,多少なるが19.8%,22.5%,23.5%,かなりなるが5.2%,8.5%,8.8%で,3群間に有意差は認めなかった.8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか(図3)眼科医が渡すべきであるが半年目40.6%,2年目36.6%,問6.眼手帳を渡したい範囲問7.文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか問8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか0%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目■全ての糖尿病患者■網膜症が出現してきた患者■正直あまり渡したくない■その他■未回答■全くならない■あまりならない■多少なる■かなりなる■未回答■眼科医が渡すべき■内科医でも良い■どちらでも良い■未回答c2検定:p<0.10%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目c2検定:p値0.260%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目c2検定:p値0.51図3問6~8の回答結果問9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会問10.眼手帳の広まり■かなりある■多少ある■ほとんどない■全くない■未回答■【半年・2年目】かなり広まると思う【7年目】かなり広まっていると思う■【半年・2年目】なかなか広まらないと思う【7年目】あまり広まっていないと思う■どちらともいえない■未回答c2検定:p<0.052年目7年目c2検定:p<0.0050%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%2年目半年目7年目図4問9,10の回答結果(101)あたらしい眼科Vol.28,No.1,20111017年目36.8%,内科医が渡してもかまわないが30.2%,28.2%,23.5%,どちらでも良いが26.0%,32.4%,39.7%で,3群間に有意差は認めなかった.9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会(図4)半年目は質問項目として未採用のため,2年目と7年目で比較した.その結果,他院で発行された眼手帳をみる機会は,かなりあると多少あるが増加し,ほとんどないと全くないが減少して,2年目より7年目においてみる機会が有意に増えていた(c2検定:p<0.05).10.眼手帳の広まり(図4)この設問において,半年目と2年目は眼手帳の広まりに対する予想を,一方,7年目は現在の広まりに対する評価を質問した.その結果,眼手帳はかなり広まる・広まっているとの回答は20%台で推移しているが,あまり広まらない・広まっていないが倍増し,一方,どちらともいえないが減少して,3群間に有意差を認めた(c2検定:p<0.005).III考按1.眼手帳の利用状況眼手帳の存在自体を今回はじめて知ったとの回答は2年目4.2%,7年目4.4%にとどまり,眼手帳の認知度は約95%であった.船津らにより行われた全国9地域,10道県の眼科医を対象にした,発行1年目の調査5)における認知度は88.6%,6年目の調査7)では95.3%であり,ほぼ同等の結果と思われる.一方,眼手帳の活用度は,積極的と時々配布を合わせて63.2%で,2年目より10%増加していたが,先の発行1年目5)と6年目7)の調査における活用度60.5%,71.6%と比べると,かなり低かった.診療が忙しくてほとんど配布していないとの回答が15~20%,あまり必要性を感じないので配布していないとの回答が10%前後認めており,今後活用度を上げるには「記入すべき項目数の限定」「コメディカルによる記入の協力」など,より利用しやすい方法を考える必要がある.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感配布に対する抵抗感は,「全くない」がこの5年間で14%増加し,ほとんどないと合わせて約9割に達しており,時間的余裕と配布の必要性が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果であった.3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度「精密眼底検査の目安」の記載が臨床上適当であるとの回答は,3群とも8割前後の高い回答率であったが,一方,目安の記載自体混乱の元で不必要との回答も4~10%台認めた.この結果は,糖尿病の罹病期間や血糖コントロール状況を加味せずに,検査間隔を決めるむずかしさを示唆しており,受診時期は主治医に従うように十分説明してから手帳を渡すことの必要性を改めて示している.4.受診の記録の中で記入しにくい項目7年目の回答において,福田分類,変化,白内障が10%を超えており,特に福田分類は増加傾向を示した.眼手帳とほぼ同じ項目で作成された「内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書」の改良点に関する調査においても,削除希望項目として福田分類の希望が多かった1).また筆者が,非常勤医師として診療に携わっている病院における眼手帳の記入状況において,福田分類は最も記載率が低かった10).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるためぜひ記入していただきたい項目であるが,その記入のためには蛍光眼底検査が必要な症例も少なくなく,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).一方,次回受診予定日は,記入しにくいと回答する者が減少していたが,眼科受診放置を防ぐためには,まず次回の受診時期を患者本人および内科主治医に知らせることが重要であり,今回の結果は望ましい方向に進んでいることを示している.5.受診の記録の中で追加したい項目の有無追加したい項目は特にないとの回答が約80~90%であったが,追加希望の項目としてはHbA1Cが多かった.HbA1Cが併記されれば,血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連がみやすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ,今後の導入が期待される.6.眼手帳を渡したい範囲すべての糖尿病患者との回答は,半年目で27.1%にとどまり,船津らの発行1年目の調査5)での24.8%との回答結果に近似していた.しかし2年目40.8%,7年目45.6%と増加傾向を示し,6年目の調査7)での31.8%を上回っていた.一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目の60%が2年目と7年目は40%強に減少傾向を認めたが,6年目の調査7)での39.6%と近似した結果を示した.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる5).7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか普及の妨げに全く・あまりならないとの回答が計67.6%で,有意差は認めなかったが前者の比率がやや増えていた.従来連携に用いてきた情報提供書は,医師側には文書料が保険請求できるメリットがあるものの,患者側からみると記載内容を直接見ることができないデメリットもある.今回の結果は,「患者さんに糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらう」という眼手帳の目的を考えると,望まし102あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(102)い方向性を示している.8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか眼科医が渡すべきは比較的横ばいであったのに対し,有意差は認めなかったものの,内科医から渡してもかまわないが減少し,一方,どちらでも良いは増加していた.先に触れたように,精密眼底検査の受診間隔や眼手帳を渡す範囲などには眼科医によって差異があり,その点からも内科医からの配布には慎重な姿勢がみられたと思われる.9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会かなりあると多少あるが増加し,ほとんどないと全くないが減少していたが,眼手帳配布の協賛企業から日本糖尿病眼学会事務局への報告資料によると,東京都における眼手帳の医療機関への配布部数は2003年末で43,833部,2008年末で137,232部,眼手帳の申し込み件数は2003年末で656件,2008年末で2,099件と増加しており,この結果を支持していた.10.眼手帳の広まり眼手帳はあまり広まらない・広まっていないが倍増し,どちらともいえないが著減しており,前項の眼手帳をみる機会の増加と矛盾する結果であった.眼手帳の医療機関への配布部数ならびに眼手帳の申し込み件数は,先に示したように2003年末に比べて2008年末はそれぞれ3.1倍,3.2倍の増加を示しているが,同じく日本糖尿病眼学会事務局資料で東京都の眼科施設における配布率の推移をみると,病院の配布率が2003年末38%,2008年末62%で1.6倍,開業医の配布率が2003年末22%,2008年末30%で1.4倍の増加にとどまっている.すなわち,すでに利用している医療機関での各配布数の伸びが全体の配布部数の増加を支えており,利用施設数はパラレルに増加していないことになり,これが今回の眼手帳の広まりに対する実感につながっている可能性が考えられる.以上のアンケート結果の推移により,眼手帳の配布率はこの5年間で10%上昇し,配布に対する抵抗感は有意に減少し,眼手帳を配布したい範囲は広がる傾向を認め,他院発行の眼手帳をみる機会は有意に増えているが,眼手帳の広まりに対する評価は厳しかった.今後は,さらに多くの医療機関で眼手帳を利用してもらうために,眼手帳の目的を理解してもらうための啓蒙活動ならびに眼手帳のより利用しやすい方法の提案が必要と思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティス23:301-305,20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20108)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の利用状況と意識調査.日本糖尿病眼学会誌9:140,20049)大野敦,粂川真理,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における発行2年目の糖尿病眼手帳に対する意識調査.日本糖尿病眼学会誌11:76,200610)大野敦,林泰博,川邉祐子ほか:当院における糖尿病眼手帳の記入状況.川崎医師会医会誌22:48-53,2005***