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山名眼科医院開院時から20年以上継続して受診している糖尿病患者の網膜症進行と視力障害の原因

2013年10月31日 木曜日

山名眼科医院開院時から20年以上継続して受診している糖尿病患者の網膜症進行と視力障害の原因山名泰生*1松尾雅子*1髙嶋雄二*1合屋慶太*2*1山名眼科医院*2こやのせ眼科クリニックDiabeticRetinopathy:Long-TermFollow-upofVisionLossandVisualAcuityYasuoYamana1),MasakoMatsuo1),YujiTakashima1)andKeitaGoya2)1)YamanaEyeClinic,2)KoyanoseEyeClinic山名眼科医院は1987年7月に開院して2007年で20周年を迎えた.この間の糖尿病患者の受診状況について,また2010年まで継続受診している糖尿病患者88名の網膜症と視力の変化や進行悪化の原因について調査した.開院時は総外来患者数6,824名に対して糖尿病患者数342名で糖尿病患者の割合は5%,2010年の総外来患者数は11,475名で糖尿病患者は1,783名,糖尿病患者の割合15.5%であった.20年間に糖尿病患者は増加したが,有網膜症は減少し,初診患者の増殖網膜症の比率は有意(p<0.001)に減少していた.20年以上経過観察できた88症例のうち単純網膜症からの寛解が1割にみられた.網膜症の進行は5割で,そのうち重症網膜症への進行は4割であった.視力0.6以下に低下した症例は2割であった.そのうち糖尿病網膜症による視力障害は5割であった.網膜症進行原因は,受診中断と血糖コントロール不良であった.無網膜症の6割は経年的に進行し,増殖前網膜症では5年以内に増殖網膜症に進行していた.網膜光凝固や硝子体手術の進歩により,重症網膜症患者も長期にわたり視力を保持できるようになった.Aim:Toreportindetailthelong-termfollow-up(over20years)ofvisionlossandvisualacuityindiabeticretinopathy.Subjects:Subjectswere88patientsexaminedattheYamanaEyeClinic,Fukuoka,Japancontinuouslyformorethan20years,fromJuly1987toDecember2010.Results:Ofallpatientsseenattheoutpatientclinicfrom1987to1988,atotalof5%presentedwithdiabetes;thisnumberincreasedto15%by2010.Thenumberofpatientswithretinopathydecreased,whilethenumberofnewpatientswithproliferativeretinopathydecreasedsigni.cantly(p<0.001).Atotalof10%achievedfullremissionfromsimpleretinopathy;another50%showedprogressionofretinopathy.Ofthe50%,atotalof40%progressedtosevereretinopathy.About20%showeddecreaseinvisualacuitybelow20/32;halfofthoseinvolvedvisuallossduetodiabeticretinopathy.Throughreti-nalphotocoagulationandvitreoussurgery,patientswithsevererretinopathywereabletosustainvisualacuityoverthelongterm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1451.1455,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,長期経過観察,予後,視力障害,糖尿病網膜症の有病率.diabeticretinopathy,long-termfollow-up,prognosis,visualloss,prevalenceofdiabeticretinopathy.はじめにわが国での糖尿病患者数は開院時1987年と比較して著しく増加している.しかし,久山町研究では増殖前網膜症や増殖網膜症に進行した網膜症の比率は減少していると報告1)され,筆者も身体障害1級の糖尿病網膜症の発症は減少していることを全国臨床糖尿病医会(以下,全臨糖)の調査結果として報告した2).山名眼科医院(以下,当院)は1987年7月に開院して2007年で20周年を迎えた.開院時に眼鏡処方を希望してきた患者で,両眼に硝子体出血を伴う糖尿病増殖網膜症のため視力障害をきたした患者が受診してきた.この患者は,これまでに眼科を受診したことがなかった.この症例を経験して,糖尿病患者教育と地域での糖尿病診療連携の構築の重要性を認識して,この2つのことを目標に掲げ診療してき〔別刷請求先〕山名泰生:〒809-0022福岡県中間市鍋山町13-5山名眼科医院Reprintrequests:YasuoYamana,M.D.,Ph.D.,YamanaEyeClinic,13-5Nabeyama-machi,Nakama,Fukuoka809-0022,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(107)1451I目的開院時(1987年7月から1988年)(以下,開院時)から1990年に初診して,2010年まで20年以上受診している糖尿病患者の網膜症・視力・眼治療法・視力低下原因・ヘモグロビン(Hb)A1C〔以下,HbA1CはNGSP値(国際標準値)で表記〕・内科治療法の変遷や当院での開院時と20年後の糖尿病患者の患者数や新患数,再来受診状況,受診患者の網膜症病期などの変化と網膜光凝固や硝子体手術などの手術治療の長期有用性を明らかにする.II対象および方法開院時に受診した患者6,824名のうち初診糖尿病患者342名のなかで,22.23年間継続受診糖尿病患者32名.1989年に受診した患者6,947名のうち初診糖尿病患者438名のなかで,21年間継続受診糖尿病患者33名.1990年に受診した患者7,452名のうち初診糖尿病患者579名のなかで,20年間継続受診糖尿病患者23名.この3年半の総受診患者21,223名のうち初診糖尿病患者1,372名のなかで,20年以上継続受診糖尿病患者合計88名を対象にカルテより調査した.III結果1.糖尿病患者の外来受診状況について開院時と2010年の糖尿病患者に占める糖尿病網膜症の有病率については,開院時は糖尿病患者342名(684眼)に対して網膜症のある眼数は684眼中270眼(39%),2010年は糖尿病患者1,783名(3,566眼)に対して網膜症のある眼数は3,566眼中1,841眼(52%)と網膜症の有病率は増加していた.開院時,1997年と2011年の初診糖尿病患者の網膜症病期の変化を比較すると,無網膜症の患者は,開院時414眼(61%),10年後の1997年355眼(65%),24年後の2011年は204眼(73%)と初診時の無網膜症の比率は増加し,有網膜症は各病期とも比率は減少していた(表1).2.20年以上継続受診糖尿病患者について20年以上継続受診糖尿病患者88名の初診時と2010年の糖尿病治療法の変化については,食事療法のみが20%から3%に減少し,インスリン治療が7%から41%に増加した.経口剤は31%から38%とあまり変化はみられなかった.初診時と2010年の血糖コントロールの変化を初診時と現在のHbA1Cを用いて日本糖尿病学会の優良不可分類で表した.優(6.2%未満)が11%から6%,不可(8.4%以上)が62%から16%に減少し,良(6.2.6.8%)が3%から24%,不十分(6.9.7.3%)が5%から20%,不良(7.4.8.3%)が19%から34%に増加した.初診時と2010年の網膜症病期の推移については,20年以上継続受診糖尿病患者の全176眼のうち,無網膜症は98眼(56%)から44眼(25%)と半分に減少し,単純網膜症も48眼(27%)から36眼(21%)とやや減少した.増殖前網膜症は22眼(12%)から60眼(34%)と3倍近く増加し,また増殖網膜症は8眼(5%)から36眼(20%)と4倍に増加し表1糖尿病患者の初診時の網膜症病期別分類糖原病患者数無網膜症(眼)単純網膜症(眼)増殖前網膜症(眼)増殖網膜症(眼)開院時342名414(61%)140(20%)58(8%)72(11%)1997年259名335(65%)110(21%)42(8%)31(6%)2011年139名204(73%)47(17%)19(7%)8(3%)無網膜症比率は開院時から10年後の1997年には増加し,23年後の2011年にはさらに増加していた.反対に有網膜症は各病期とも比率は減少していた.特に増殖網膜症は有意に減少していた(p<0.001,c2独立性の検定m×n分割表).表220年以上継続受診糖尿病患者88名(176眼)の初診時と2010年の網膜症病期の変化2010年の網膜症病期無網膜症単純網膜症増殖前網膜症増殖網膜症初診時の網膜症病期無網膜症(98眼)39眼(40%)21眼(21%)22眼(22%)16眼(16%)単純網膜症(46眼)5眼(11%)12眼(26%)19眼(41%)10眼(22%)増殖前網膜症(24眼)0眼0眼22眼(92%)2眼(8%)増殖網膜症(8眼)0眼0眼0眼8眼(100%)20年経過して無網膜症は約半数に減少し,単純網膜症もやや減少した.増殖前と増殖網膜症は増加した.1452あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(108)初診時と2010年の網膜症病期の変化は,初診時無網膜症98眼のうち,単純,増殖前,増殖網膜症に進行したのは約2割ずつで,合計6割が有網膜症に進行した.単純網膜症48眼のうち,1割が無網膜症に軽快したものの,4割が増殖前網膜症に,2割が増殖網膜症に進行していた.増殖前網膜症22眼のうち,1割弱が増殖網膜症に進行した(表2).初診時よりも網膜症が進行した90眼の進行原因は,一時的な受診中断55眼(61%),血糖コントロール不良29眼(32%),急激なコントロールのため2眼(2%),その他が4眼(5%)であった.網膜光凝固が施行された眼数は,単純網膜症が2眼(1%),増殖前網膜症が59眼(34%),増殖網膜症36眼(20%)の合計97眼(55%)であった(表3).光凝固を施行した単純網膜症の2眼は,糖尿病黄斑症を発症していた.硝子体手術が施行された眼数は,176眼のうち11眼(6%)であった.硝子体手術が施行された11眼のうち,単純網膜表320年以上継続受診糖尿病患者88名(176眼)の眼科治療:網膜光凝固の有無無網膜症単純網膜症増殖前網膜症増殖網膜症光凝固施行0眼2眼(1%)59眼(34%)36眼(20%)光凝固なし44眼(25%)34眼(19%)1眼(1%)0眼網膜光凝固は97眼に施行されたが,半数弱は未施行であった.単純網膜症2眼は,糖尿病黄斑症に対して局所光凝固が施行されていた.症が1眼(9%),増殖前網膜症が3眼(27%),増殖網膜症が7眼(64%)であった.単純網膜症1眼および増殖前網膜症3眼は,糖尿病黄斑症に対して硝子体手術が施行されていた.白内障手術の施行の有無に関しては,64%(112眼)が片眼もしくは両眼に手術を施行していた.36%(64眼)が白内障手術を経験しておらず,その理由として視力良好(41眼,64%),白内障なし(14眼,22%),調査後に手術施行,手術希望なしなどがあった.2010年の視力不良の割合は,初診時からすでに視力不良が21眼(12%),初診時より視力低下が37眼(21%),視力安定(変化なし)が118眼(67%)であった.初診から2010年までの間で視力低下した37眼の視力低下の原因として,網膜症の悪化(4眼,11%),糖尿病黄斑症・黄斑浮腫のため(14眼,38%),黄斑疾患(加齢黄斑変性など)のため(5眼,14%),白内障のため(5眼,14%),緑内障のため(7眼,19%),その他(網膜中心動脈閉塞症など)(2眼,5%)があげられる.白内障は糖尿病によるものと加齢によるものとは区別がつかなかった.初診時より視力が低下した37眼の初診時の網膜症病期は,無網膜症が18眼(49%),単純網膜症が12眼(32%),増殖前網膜症が4眼(11%),増殖網膜症が3眼(8%)であった.2010年には,初診時無網膜症から増殖網膜症に進行した患者が19%と最も多かった(表4).初診時よりも網膜症が進行した割合は,176眼のうち90表42010年現在視力不良37眼の初診時と現在の網膜症病期2010年の網膜症病期全体無網膜症単純網膜症増殖前網膜症増殖網膜症初診時の網膜症病期無網膜症18眼(49%)4眼(11%)3眼(8%)7眼(19%)4眼(11%)単純網膜症12眼(32%)0眼3眼(8%)4眼(11%)5眼(14%)増殖前網膜症4眼(11%)0眼0眼4眼(11%)0眼増殖網膜症3眼(8%)0眼0眼0眼3眼(8%)2010年視力不良である眼の割合は,初診時に無網膜症で2010年に増殖前網膜症に進行した眼が最も高かった.表5初診時より網膜症の病状が進行した90眼(全体の51%)の網膜症の病状が安定した時期全体NDR→SDRNDR→PPDRNDR→PDRSDR→PPDRSDR→PDRPPDR→PDR1年.5年12眼(13%)1眼(1%)1眼(1%)05眼(6%)3眼(3%)2眼(2%)6年.10年21眼(23%)5眼(6%)04眼(4%)9眼(10%)3眼(3%)011年.15年15眼(17%)4眼(4%)6眼(7%)3眼(3%)1眼(1%)1眼(1%)016年以上42眼(47%)10眼(11%)15眼(17%)9眼(10%)5眼(6%)3眼(3%)0NDR:無網膜症,SDR:単純網膜症,PPDR:増殖前網膜症,PDR:増殖網膜症.初診時よりも網膜症が進行した90眼の網膜症が安定した時期を5年ごとに眼数で示す.無網膜症から単純網膜症へは年数につれて徐々に進行比率は高くなっており,無網膜症から増殖前網膜症と増殖網膜症へは10年経ってから進行比率が高くなっている.増殖前網膜症から増殖網膜症への進行は5年以内に起こっていた.(109)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131453初診時に無網膜症で2010年の視力が1.0以上の割合が最も高か初診時の網膜症病期無網膜症単純網膜症増殖前網膜症増殖網膜症2010年視力0.1未満2眼(1%)2眼(1%)2眼(1%)2眼(1%)0.1.0.63眼(2%)4眼(2%)7眼(4%)2眼(1%)0.7.1.014眼(8%)13眼(7%)10眼(6%)0眼1.0以上79眼(45%)27眼(15%)5眼(6%)4眼(2%)2010年の網膜症病期無網膜症単純網膜症増殖前網膜症増殖網膜症2010年視力0.1未満2眼(1%)2眼(1%)11眼(6%)5眼(3%)0.1.0.65眼(3%)3眼(2%)16眼(9%)12眼(7%)0.7.1.018眼(10%)17眼(10%)22眼(13%)12眼(7%)1.0以上19眼(11%)12眼(7%)13眼(7%)7眼(4%)った.各病期で視力不良と視力良好の割合をみると,増殖網膜症以外の各病期では視力良好の割合が高いことがわかる.眼(51%)であった.初診時より網膜症が進行した原因として,一時的な受診中断が61%(55眼),血糖コントロール不良が31%(29眼),急激なコントロールのため2%(2眼),その他が5%(4眼)であった.初診時より網膜症が進行した90眼の網膜症の病状が安定した時期は,1.5年で安定が12眼(13%),6.10年で安定が21眼(23%),11.15年で安定が15眼(17%)で,16年以上で安定が42眼(47%)と最も割合が多かった.各網膜症病期が安定した時期を表5に示した.新しい出血,白斑,浮腫などの出現が半年以上みられないことを網膜症の病状が安定した時期とする.2010年の視力と初診時の網膜症病期は,2010年の視力が1.0以上の患者は,初診時に無網膜症が45%と多く,ついで単純網膜症が15%と多かった.視力1.0以上についで0.7.1.0未満が多くなっていて網膜症による差はなかった(表6).2010年の視力と網膜症は,0.7.1.0未満が比較的に多く,ついで1.0以上,0.1.0.6以下,0.1未満であり,視力良好では無網膜症が多く,進行した網膜症の比率は少なかった.視力が不良になるにつれて,網膜症病期は進行していたが大きな差ではなかった(表7).IV考察1.糖尿病患者の外来受診状況について網膜症は経年的に進行することが知られており,糖尿病網膜症の有病率は,一般的に20.30%と報告されている7).当院受診糖尿病患者でも開院時での網膜症有病率は39%であったが,2010年は54%と増加していた.久山町研究では重症網膜症は減少していると報告されている1)が,当院でも初診時の糖尿病患者に限ると開院時と2011年の網膜症病期別比率では無網膜症が増加しており,特に増殖網膜症は減少傾向であった(p<0.001)(表1).1,372名の糖尿病患者のうち20年以上当院を受診している患者は88名,継続受診率は6.4%であった.継続受診できた患者の比率は高くないが20年という期間と初診時の年2010年の視力と網膜症病期においては,無網膜症と単純網膜症では,視力不良の眼数に比べると視力良好が約5倍多いが,増殖前網膜症と増殖網膜症では,視力良好と視力不良の眼数はあまり差がなかった.齢,高齢化に伴う家庭的な事情など同一医療機関を受診できる患者は多くないと考えられる.実際に受診中断者に対する調査では連絡のつかない患者や,死亡,施設入所などで受診できない患者も多い8).2.20年以上継続受診糖尿病患者について内科的な治療状況について,血糖コントロールの指標であるHbA1Cが優と不可が減少し,ほどほどのコントロールに変化していた.食事療法のみの患者が減少して経口血糖降下剤やインスリン注射に移行し,経口剤はインスリンに移行した症例と差し引きでみかけ上は変化がなかった.罹病年数が長くなるにつれてインスリン注射の症例が増加していた.網膜症について,無網膜症は半数に減少し,増殖前網膜症と増殖網膜症は増加した.特に増殖前網膜症が3割に増加していた.一方,単純網膜症の1割は無網膜症になっていた.増殖前網膜症から増殖網膜症への進行は1割のみであった.病期が進行したのは約半数であった(表2).増殖前網膜症が増加しているにもかかわらず増殖網膜症への進行が少ない理由としては網膜光凝固により増殖網膜症への進行が防止されたからであると推測される.網膜症進行の時期は表5に示すように無網膜症からは経年ごとに進行がみられたが,増殖前網膜症から増殖網膜症へは5年以内に進行していたことは,眼科初診時に網膜症がすでに進行していたことと血糖コントロール不良が多いこととを合わせて病期が急速に進行した可能性が高いことを示している.初診時よりも網膜症が進行した原因として多いのは,一時的な受診中断であった.内科受診の中断は中石らによる全臨糖での調査結果では22%と報告され9),眼科では船津らによると病院受診患者では約20%,診療所受診患者では約45%とされ10),当院での受診中断も最近でも2割前後となっており3)糖尿病診療にとって受診中断防止は重要な問題である.視力について,本稿では矯正視力が0.7未満を視力不良とした.当院初診後に視力障害を起こしたのは2割しかなく,1454あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(110)約7割は視力が0.7以上で良好であった.2010年の矯正視力1.0以上の症例での初診時網膜症は無網膜症が半数弱と多かった(表6)が,現在の視力が良好であった群では網膜症病期による差はなくなり(表7),網膜症は進行しても光凝固や硝子体手術などの眼科的治療により長期にわたり視力を保持できるようになったということであると推定される.網膜光凝固は約半数に施行されていたが,20年の長期にわたっても半数は光凝固未施行のままですむ症例も多いことがわかった.開院時に光凝固をしていない患者85名のうちHbA1C値が確認できた患者37名のHbA1Cの平均値は9.1%であった.2010年に光凝固をしていない患者38名のうちHbA1C値が確認できた患者31名のHbA1C平均値は6.9%であった.糖尿病黄斑症に対しての光凝固は単純網膜症,増殖前網膜症,増殖網膜症に施行し(表3),硝子体手術は全体の1割弱に施行され,そのうちの6割は増殖網膜症で残りの4割は糖尿病黄斑症に対して施行されていた.白内障手術は約6割に施行されていたが,約3割はまだ手術の適応がなく,1割は調査時点で手術予定であった症例と手術希望がなかった症例であった.2010年に視力不良である37眼では初診時無網膜症から2010年に増殖網膜症に進行した症例での比率が高かった(表4).結果の項でも示したように,長期間になると加齢により発症する疾患も多くなり,視力低下は糖尿病網膜症のみではなくさまざまな疾患によることも明らかになった.糖尿病に関連する疾患については,毎回の診療時に眼科所見のみでなく糖尿病連携手帳で血糖コントロールや血圧などの全身状態を確認して患者にコメントすることも必要である.加齢黄斑変性症のように糖尿病とは無関係の眼科特有の疾患が発症してくることも念頭に置いて網膜のみならず前眼部,あるいは黄斑部や視神経乳頭の陥凹などにも注意して毎回の診療を行っていくことで上記の疾患に早期対応ができるように心がけていくことが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)安田美穂:糖尿病網膜症一次予防のエビデンス─久山町研究から─.あたらしい眼科24:1287-1290,20072)山名泰生,三木英司,清水昇ほか:糖尿病による視覚障害─全国臨床糖尿病医会施設における実態調査─.糖尿病50:365-372,20073)山名泰生,麻生宣則,板家佳子ほか:糖尿病診療連携の構築─内科と眼科,かかりつけ医と専門医.日本糖尿病眼学会誌16:26-30,20114)山名泰生:糖尿病眼合併症対策の努力チーム医療の重要性眼科の立場から.日本糖尿病眼学会誌3:43-46,19985)山名泰生,松尾雅子,纐纈有子ほか:眼科医院での糖尿病患者の網膜症─現状および対策とこれからの糖尿病診療.DiabetesJ36:162-166,20086)山名泰生,赤司朋之,麻生宣則ほか:福岡県における糖尿病診療連携と山名眼科医院における糖尿病診療.DiabetesHorizons─PracticeandProgress─2:1-6,20137)船津英陽,須藤史子,堀貞夫ほか:糖尿病眼合併症の有病率と全身因子.日眼会誌97:947-1954,19938)山名泰生,松尾雅子,纐纈有子ほか:糖尿病治療中断による危険な病態.眼科医の視点から..PRACTICE24:167-173,20079)中石滋雄,大橋博,栗林信一ほか:糖尿病治療中断者の実態調査.PRACTICE24:162-166,200710)船津英陽:医療連携による糖尿病放置・中断対策.眼紀55:10-13,2004***(111)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131455