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多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対する アンケート調査−発行半年~20 年目の推移−

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):458.464,2024c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査.発行半年~20年目の推移.大野敦粟根尚子佐分利益生高英嗣田中雅彦谷古宇史芳廣田悠祐小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CQuestionnaireSurveyontheDiabeticEyeNotebookamongOphthalmologistsintheTamaArea.Changesfrom6Monthsto20YearsafterPublication.AtsushiOhno,NaokoAwane,MasuoSaburi,HidetsuguTaka,MasahikoTanaka,FumiyoshiYako,YusukeHirota,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医へのアンケート調査を発行半年.20年目に計C7回施行し,調査結果の推移を検討した.方法:多摩地域の眼科医に対し,1)眼手帳の配布状況,2)眼手帳配布に対する抵抗感,3)「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度,4)受診の記録で記入しにくい項目,5)受診の記録に追加したい項目,6)眼手帳を配布したい範囲,7)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか,8)眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか,9)他院で発行された眼手帳をみる機会,10)眼手帳の広まりについて調査し,各結果をC7群間で比較した.結果・結論:眼手帳発行後C20年の間に,眼手帳を渡すこと,内科医が渡すことへの抵抗感は減少し,より早期に渡すようになった.他院発行の眼手帳を見る機会は増え,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.CPurpose:ACquestionnaireCsurveyCofCophthalmologistsConCtheCDiabeticCEyeNotebook(DEN)wasCconductedCsevenCtimesCinCtheCperiodCfromC6CmonthsCtoC20CyearsCafterCpublication,CandCchangesCinCtheCsurveyCresultsCwereCexamined.CMethods:TheCsubjectsCwereCophthalmologistsCinCtheCTamaCarea.CTheCsurveyCitemswere:1)currentCstatusofDENdistribution,2)senseofresistancetosubmittingtheDEN,3)clinicalappropriatenessofthedescrip-tionCof“guidelinesCforCthoroughCfunduscopicCexamination”,4).eldsCinCtheCDENCthatCareCdi.cultCtoCcomplete,5)Citemsthatshouldbeaddedtotheclinical.ndings.eld,6)areainwhichtheDENshouldbedistributed,7)wheth-erCorCnotCtheCDENCcostCnotCcoveredCbyCmedicalCinsuranceCisCanCobstacleCtoCitsCpromotion,8)whetherCorCnotCtheCDENshouldbeprovidedtopatientsbyophthalmologists,9)frequencyofseeingtheDENissuedbyotherhospitals,and10)promotionoftheDEN.Wecomparedtheresultsamongthesevengroups.ResultsandConclusion:Inthe20yearssincethepublicationoftheDEN,thelevelofresistancetosubmittingtheDENandtotheinternisthand-ingitoverhasdecreased,anditisnowsubmittedearlier.TheopportunitiestoseetheDENissuedbyotherhospi-talshaveincreased,andtheyhavenoticedthespreadoftheDEN.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(4):458.464,C2024〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,糖尿病網膜症,糖尿病黄斑症,内科・眼科連携.diabeticCeyeCnote-book,questionnairesurvey,diabeticretinopathy,diabeticmaculopathy,cooperationbetweeninternistandophthal-mologist.Cはじめに一つが,内科と眼科の連携である.多摩地域では,1997年糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントのに設立した糖尿病治療多摩懇話会において,内科と眼科の連〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC458(92)携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し,地域での普及を図った1).この活動をベースに,筆者はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携C.放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年C6月に日本糖尿病眼学会より発行されてからC21年が経過し,2020年には第C4版に改訂され,その利用状況についての報告が散見される4.7).多摩地域では,眼手帳に対する眼科医へのアンケート調査を発行半年.20年目までにC7回施行しているが,発行C7年目まで8)と10年目まで9)の比較結果を報告した.本稿ではC20年目までのC7回の調査結果を比較することで,眼手帳に対する眼科医の意識の変化を検討した.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医で,アンケート調査は,発行半年.13年目は眼手帳の協賛企業である三和化学研究所の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の普及啓発を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうがよいと判断した.発行18年目,20年目は,三和化学研究所の諸事情と倫理的問題を考慮し,アンケート調査は郵送での送付とCFAXを利用した回収で施行し,発行C18年目はC141件,20年目はC146件に郵送を行った.なお,いずれの年もアンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,三和化学研究所の関係者は関与していない.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.回答を依頼したアンケート項目は,以下のC10項目である.問1.眼手帳の利用状況についてお聞かせ下さい問2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことに抵抗がありますか問C3.眼手帳のC1ページの「精密眼底検査の目安」【20年目の第C4版は「推奨される眼科受診間隔」】の記載があることは,臨床上適当とお考えですか問C4.眼手帳のC4ページ目からの受診の記録で,記入しにくい項目はどれですか問C5.眼手帳のC4ページ目からの受診の記録に追加したい項目はありますか問C6.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいですか問C7.診療情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことは,手帳の普及の妨げになりますか問C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいとお考えですか問C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳を御覧になる機会がありますか問C10.【半年目・2年目】眼手帳は広まると思いますか【7年目以降】眼手帳は広まっていると思いますか上記の問C1.10に関するアンケート調査を行い,各問のアンケート結果の推移を検討した.7群間の回答結果の比較にはC|2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.CII結果回答者のプロフィール(表1)回答者数は,発行半年目C96名,2年目C71名,7年目C68名,10年目54名,13年目50名,18年目42名(回収率:29.8%),20年目C50名(回収率:34.2%)であった.年齢はC7年目まではC40歳代,10年目からはC50歳代がもっとも多く経年的に有意な上昇を認めた(C|2検定:p<0.001).勤務施設は診療所の割合がC10年目まではC70%台であったが,その後C80%以上に増加傾向を認めた(C|2検定:p=0.09).定期受診中の糖尿病患者数は,病院勤務医の割合の変動もあり,経年的に増減傾向を示した(C|2検定:p=0.05).C1.眼手帳の利用状況(図1)発行半年目の調査時は質問項目として未採用のため,発行2年目.20年目で比較した.その結果,「眼手帳を今回はじめて知った」との回答は,2.13年目はC5%未満にとどまり18,20年目は認めず,眼手帳の認知度はC95%以上であった.一方,「積極的配布」と「時々配布」を合わせて,7,10,18年目はC60%,13年目はC70%を超え,20年目は前者がC40%を超え,6群間に有意差を認めた(C|2検定:p=0.03).C2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図1)眼手帳配布に対する抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて,2,7,20年目はC80%,10,13,18年目はC90%を超え,7群間で有意差を認めた(C|2検定:p=0.01).C3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度(図1)目安があることおよび記載内容ともに適当との回答が,18年目まではC80%を超えていたがC20年目はC70%まで減少し,「目安の記載自体混乱の元なので不必要」や「目安はあったほうがよいが記載内容の修正が必要」の回答が増えていた(|2検定:p=0.15).表1回答者のプロフィール年齢半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)20歳代3.1%(3)5.6%(4)1.5%(1)0%(0)0%(0)0%(0)0%(0)30歳代28.1%(C27)21.1%(C15)14.7%(C10)7.4%(4)12.0%(6)2.4%(1)14.0%(7)40歳代33.3%(C32)38.0%(C27)38.2%(C26)31.5%(C17)28.0%(C14)19.0%(8)18.0%(9)50歳代17.7%(C17)16.9%(C12)29.4%(C20)37.0%(C20)42.0%(C21)42.9%(C18)36.0%(C18)60歳代11.5%(C11)9.9%(7)11.8%(8)14.8%(8)12.0%(6)21.4%(9)18.0%(9)70歳代3.1%(3)8.5%(6)2.9%(2)7.4%(4)6.0%(3)14.3%(6)14.0%(7)未回答3.1%(3)0%(0)0.1%(1)1.9%(1)0%(0)0%(0)0%(0)勤務施設半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)診療所75.0%(C72)71.8%(C51)76.5%(C52)79.6%(C43)84.0%(C42)92.9%(C39)80.0%(C40)大学病院9.4%(9)9.9%(7)10.3%(7)9.3%(5)2.0%(1)0%(0)8.0%(4)総合病院7.3%(7)11.3%(8)5.9%(4)11.1%(6)12.0%(6)0%(0)4.0%(2)一般病院7.3%(7)5.6%(4)2.9%(2)0%(0)0%(0)2.5%(1)4.0%(2)その他C─C─2.9%(2)0%(0)0%(0)2.5%(1)4.0%(2)未回答1.0%(1)1.4%(1)1.5%(1)0%(0)2.0%(1)2.5%(1)0%(0)糖尿病患者数半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)10名未満8.3%(8)11.3%(8)8.8%(6)9.3%(5)6.0%(3)0%(0)6.0%(3)10.C29名31.3%(C30)16.9%(C12)19.1%(C13)16.7%(9)26.0%(C13)21.4%(9)12.0%(6)30.C49名19.8%(C19)19.7%(C14)23.5%(C16)22.2%(C12)34.0%(C17)16.7%(7)18.0%(9)50.C99名14.6%(C14)14.1%(C10)14.7%(C10)9.3%(5)8.0%(4)26.2%(C11)24.0%(C12)100名以上10.4%(C10)29.6%(C21)23.5%(C16)11.1%(6)20.0%(C10)26.2%(C11)28.0%(C14)未回答15.6%(C15)8.5%(6)10.3%(7)31.5%(C17)6.0%(3)9.5%(4)12.0%(6)4.受診の記録の中で記入しにくい項目(図2)10年目までは「福田分類」と「糖尿病網膜症の変化」の選択者が多かったが,福田分類削除後のC13年目以降は「糖尿病黄斑症」関連,20年目は「中心窩網膜厚と抗CVEGF療法」関連の選択者が多かった.C5.受診の記録の中で追加したい項目の有無(図3)追加したい項目は,「特にない」がC7群ともC80%以上を占めて有意差は認めなかった(C|2検定:p=0.15).追加したい項目のある回答者における追加希望項目は,13年目まではHbA1cがもっとも多かったが,18年目以降は他の眼底所見の記入欄,20年目はフリースぺースへの要望を認めた.C6.眼手帳を渡したい範囲(図3)配布の希望範囲は,「全ての糖尿病患者」の比率が経年的に増加してC10年目からは約C60%をキープし,「網膜症が出現してきた患者」の比率は減少し,7群間に有意差を認めた(|2検定:p=0.01).C7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか(図3)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げに「まったくならない」と「あまりならない」を合わせると,7群ともC60%以上で有意差はなかった(C|2検定:p=0.90).C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか(図4)眼手帳は「眼科医が渡すべき」との回答がC10年目から減少し,「内科医が渡しても良い」と「どちらでも良い」の回答の比率が有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会(図4)半年目は質問項目として未採用のため,発行C2年目.20年目で比較した.その結果,他院で発行された眼手帳をみる機会は,「かなりある」と「多少ある」を合わせて,7年目はC60%台,10,13年目はC70%台,18年目はC80%台,20年目はC90%台を占め,有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).C10.眼手帳の広まり(図4)この設問において,半年目とC2年目は眼手帳の広まりに対する予想を,一方,7年目以降は現在の広まりに対する評価を質問した.その結果,「眼手帳はかなり広まる・広まって問1眼手帳の利用状況\2検定p=0.032年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%問2眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感\2検定p=0.01半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%問3眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度\2検定p=0.15半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%図1問1~3の回答結果積極的に配布している時々配布している必要とは思うが配布していない必要性を感じず配布していない眼手帳を今回はじめて知ったその他の配布状況未回答いる」との回答は,半年目.7年目のC30%未満と比べてC10年目.20年目はC40%前後に有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).CIII考按1.眼手帳の利用状況眼手帳の認知度はC95%以上であったが,船津らにより行われた全国C9地域,10道県の眼科医を対象にした,発行C1年目の調査5)における認知度はC88.6%,6年目の調査7)では95.3%であり,それ以降全国規模の報告は認めないが当初はほぼ同等の結果と思われる.一方,眼手帳の活用度は,積極的と時々配布を合わせてC7年目からはC60%を超えているが,先の発行C1年目5)と6年目7)の調査における活用度C60.5%,71.6%と比べるとやや低かった.必要とは思うが診療が忙しくてほとんど配布していないとの回答がC10,13年目にC25%を超え,活用度を上げるには「コメディカルによる記入の協力」などより利用しやすい方法を考える必要性を感じていたが,18,20年目にその割合がC10%台まで減少しており,今後その背景を追跡調査していきたい.C2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感眼手帳配布に対する抵抗感は,2年目以降「まったくない」(95)と「ほとんどない」を合わせてC80%を超えており,外来における時間的余裕と配布,ならびに手帳記載時のコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果であった.C3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度目安の記載自体混乱のもとで「不必要」との回答をC18年目までC4.10%台認めている.この結果は,糖尿病の罹病期間や血糖コントロール状況を加味せずに,検査間隔を決めるむずかしさを示唆しており,受診時期は主治医の指示に従うように十分説明してから手帳を渡すことの必要性を感じていた.20年目は「不必要」がC18%,「修正が必要」がC12%まで増えていたが,20年目のアンケート調査時には眼手帳が第4版に改訂されて,「精密眼底検査の目安」から「推奨される眼科受診間隔」に変更されている.記載された修正コメントのなかには「緑内障等でも通院している患者は網膜症としてはC6カ月後で良いが,緑内障に対してはC1カ月毎の場合に記載の仕方で誤解が生じてしまう」などの記載があり,「糖尿病網膜症管理において推奨される眼科受診間隔」であることを伝える必要性が出てきた.あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C461問4受診の記録の中で記入しにくい項目次回受診予定日糖尿病黄斑症HBA1c糖尿病黄斑症の変化矯正視力糖尿病黄斑浮腫眼圧中心窩網膜厚白内障本日の抗VEGF療法糖尿病網膜症抗VEGF薬総投与回数糖尿病網膜症の変化特になし福田分類その他0%10%20%30%40%50%60%0%10%20%30%40%50%60%図2問4の回答結果問5受診の記録の中で追加したい項目の有無\2検定p=0.15半年目特にない2年目7年目ある10年目13年目18年目未回答20年目0%20%40%60%80%100%問6眼手帳を渡したい範囲\2検定p=0.01半年目すべての糖尿病患者2年目網膜症が出現してきた患者7年目10年目正直あまり渡したくない13年目その他18年目未回答20年目0%20%40%60%80%100%問7文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか\2検定p=0.90半年目全くならない2年目あまりならない7年目10年目多少なる13年目かなりなる18年目20年目未回答0%20%40%60%80%100%図3問5~7の回答結果問8眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%\2検定p<0.00180%100%問9内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会2年目7年目10年目13年目18年目20年目\2検定p<0.001眼科医が渡すべき内科医でも良いどちらでも良い未回答かなりある多少あるほとんどない全くない未回答0%20%40%60%80%100%問10眼手帳の広まり\2検定p<0.001半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%図4問8~10の回答結果【半年・2年目】かなり広まると思う【7年.20年目】かなり広まっていると思う【半年・2年目】なかなか広まらないと思う【7年.20年目】あまり広まっていないと思うどちらとも言えない未回答4.受診の記録の中で記入しにくい項目10年目までは「福田分類」の選択者がもっとも多かったが,眼手帳とほぼ同じ項目で作成された「内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書」の改良点に関する調査においても,削除希望項目として福田分類の希望が多かった1).また,筆者が以前非常勤医師として診療に携わっている病院における眼手帳の記入状況において,福田分類はもっとも記載率が低かった10).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため,ぜひ記入して頂きたい項目であるが,その記入のためには蛍光眼底検査が必要な症例も少なくなく,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,2014年C6月に改訂された眼手帳の第C3版では,受診の記録から福田分類は削除された.一方,福田分類削除後のC13,18年目は眼手帳第C3版の「糖尿病黄斑症の変化」の選択者がもっとも多かったが,改善・悪化の基準が主治医に任されていたことも要因と思われる.20年目は眼手帳第C4版に替わり,「中心窩網膜厚と抗VEGF療法」の選択者が多かった.中心窩網膜厚の記載により黄斑症の変化を評価する必要性はなくなったものの,中心窩網膜厚の記載には光干渉断層計(OCT)撮影が必要であ(97)り,撮影結果を用いて忙しい外来時に黄斑浮腫関連の項目を記載する負担感が影響しているかもしれない.C5.受診の記録の中で追加したい項目の有無追加したい項目はとくにないとの回答がC80%以上を占めていたが,追加希望の項目としてはC13年目まではCHbA1cがもっとも多かった.HbAC1Cが併記されれば,血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連がみやすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ導入が期待されていたが,眼手帳第C4版では導入された.18年目以降は他の眼底所見の記入欄,フリースぺースへの要望を認めており,今後の改訂時に検討されることを期待したい.C6.眼手帳を渡したい範囲すべての糖尿病患者との回答は,半年目でC27.1%にとどまり,船津らの発行C1年目の調査5)でのC24.8%との回答結果に近似していた.しかし,2年目C40.8%,7年目C45.6%と増加傾向を示し,6年目の調査7)でのC31.8%を上回り,10年目からは約C60%をキープしている.一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目のC60%がC2年目とC7年目はC40%強に減少傾向を認めたが,6年目の調査7)でのC39.6%と近似した結果を示した.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C463に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる5).C7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか「普及の妨げにまったく・あまりならない」との回答がC7群ともC60%以上を占めた.従来連携に用いてきた情報提供書は,医師側には文書料が保険請求できるメリットがあるものの,患者側からみると記載内容を直接見ることができないデメリットもある.今回の結果は,「患者さんに糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらう」という眼手帳の目的を考えると,望ましい方向性を示している.C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目からは前者が著減し後者が有意な増加を示した.眼手帳発行C8年目にあたる平成C22年には,内科医側からの情報源である「糖尿病健康手帳」が「糖尿病連携手帳」に変わり,それに伴い眼手帳のサイズも連携手帳に合わせて大判となった.両手帳をつなげるビニールカバーも,眼手帳無料配布の協賛企業から提供されており,その結果,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えたために,今回のような回答の変化が生じた可能性が考えられる.C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会「かなりある」と「多少ある」が増加し,「ほとんどない」と「まったくない」が減少していたが,とくに「かなりある」との回答がC10年目以降C20%を超えた背景には,前項の考察で触れたように,眼手帳発行C8年目に「糖尿病連携手帳」が登場し,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えたことが考えられる.C10.眼手帳の広まり7年目までの厳しい評価から,10年目から眼手帳の広まりに対する高評価に推移した背景には,眼手帳発行C8年目に「糖尿病連携手帳」が登場し,内科医から眼手帳を同時発行する機会が増えた直接効果のみならず,内科と眼科の連携に対する意識が高まったことも考えられる.謝辞:アンケート調査にご協力いただきました多摩地域の眼科医師の方々,眼手帳発行半年.13年目のアンケート調査時にアンケート用紙の配布・回収にご協力いただきました三和化学研究所東京支店多摩営業所の医薬情報担当者方々に厚く御礼申し上げます.追記:本論文の要旨は,第C28回日本糖尿病眼学会総会と同時開催された第C37回日本糖尿病合併症学会(2022年C10月C22日)において発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会;船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,C20119)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C201410)大野敦,林泰博,川邉祐子ほか:当院における糖尿病眼手帳の記入状況.川崎医師会医会誌22:48-53,C2005***

継続通院困難な糖尿病黄斑症患者に対して硝子体手術と 黄斑部への外科的介入が奏効した1 例

2023年1月31日 火曜日

《第27回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科40(1):95.100,2023c継続通院困難な糖尿病黄斑症患者に対して硝子体手術と黄斑部への外科的介入が奏効した1例岩根友佳子*1今井尚徳*1,2曽谷育之*1山田裕子*1大石麻利子*2中村誠*1*1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学*2真星病院眼科CACaseofDiabeticMaculopathySuccessfullyTreatedwithParsPlanaVitrectomywithCystotomyandSubretinalHardExudateExtractionfromanIntentionalMacularHoleYukakoIwane1),HisanoriImai1,2)C,YasuyukiSotani1),HirokoYamada1),MarikoOishi2)andMakotoNakamura1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery-Related,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MahoshiHospitalC糖尿病黄斑浮腫診療においては,治療抵抗例のみならず,継続的な通院加療が困難な患者をいかに治療するかも重要な課題である.今回筆者らは,両眼に発症した糖尿病黄斑症に対して,硝子体手術および黄斑部への外科的介入が奏効したC1例を報告する.患者は,精神発達遅滞のあるC55歳,女性.両眼ともに糖尿病黄斑症による矯正視力低下を認め,右眼(0.15),左眼(0.8)であった.右眼は中心窩下硬性白斑,左眼は.胞様黄斑浮腫が顕著であった.精神発達遅滞のため,継続的な通院加療が困難と判断し,全身麻酔下で,両眼ともに硝子体手術を施行した.右眼は中心窩下硬性白斑除去,左眼は.胞様腔内壁切開術を併用した.術C6カ月後,両眼ともに黄斑症の再燃はなく,矯正視力は右眼(0.7),左眼(0.8)と改善維持された.抗CVEGF治療を中心とした継続的な通院加療が困難な症例に対しては,患者の状況に合わせて治療を工夫することが重要である.CPurpose:Inthetreatmentofdiabeticmaculopathy(DM)C,thespeci.cmethodsappliedtotreatnotonlytreat-ment-resistantcases,butalsocasesinwhichundergoingcontinuousoutpatienttreatmentisdi.cult,isanimpor-tantissue.HerewereportacaseofDMsuccessfullytreatedwithvitrectomywithcystotomyandsubfovealhardexudateextractionfromanintentionalmacularhole.Casereport:A55-year-oldfemalewithmentalretardationpresentedCafterCbecomingCawareCofCdecreasedCvisualCacuity.CUponCexamination,CherCbest-correctedCdecimalCvisualacuity(BCVA)was0.15ODand0.8OSduetosubfovealhardexudateinherrighteyeandcystoidmacularede-mainherlefteye.Duetomentalretardation,shehaddi.cultyundergoingcontinuousoutpatienttreatment.Thus,weperformedvitrectomywiththeremovalofsubfovealhardexudateinherrighteyeandwithcystotomyinherlefteye.Overthe6-monthfollow-upperiodpostsurgery,therehasbeennorecurrenceofDMinbotheyesandherBCVAhasbeenimprovedandwellmaintainedat0.7ODand0.8OS.Conclusion:The.ndingsinthisstudyrevealCthatCwhenCtreatingCpatientsCwithCDM,CitCisCimportantCtoCselectCtheCproperCtreatmentCbasedConCtheCback-groundofthepatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(1):95.100,2023〕Keywords:糖尿病黄斑症,中心窩硬性白斑,中心窩下硬性白斑除去術,硝子体手術,.胞様腔内壁切開術.dia-beticmaculopathy,subfovealhardexudates,subfovealhardexudateextraction,vitrectomy,cystotomy.Cはじめにと硬性白斑が黄斑部に沈着し,著明な視力低下をきたすこと糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)は,糖がある2).尿病網膜症による視力障害の原因の主要な病態の一つであ近年は抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthる1).糖尿病網膜症の病期にかかわらず発症し,慢性化するfactor:VEGF)治療を中心とした網膜光凝固,ステロイド〔別刷請求先〕今井尚徳:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科医局Reprintrequests:HisanoriImai,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0017,JAPANC眼局所注入,そして硝子体手術を組み合わせた集学的治療によって,多くの場合,治療可能となった3).しかし,一部に抗CVEGF治療に抵抗するCDMEが存在することが報告されている4).また,抗CVEGF治療は,定期的な通院が必要であるため,経済的負担,身体的負担が大きく,そのために治療継続することが困難な患者が存在することも問題となっている.近年,抗CVEGF治療を中心とした集学的治療に抵抗する難治CDMEおよび中心窩下硬性白斑に対して,計画的Cbal-ancedsaltsolution(BSS)注入術5),.胞様腔内壁切開術6,7),.胞様腔内フィブリノーゲン摘出術8),そして意図的黄斑円孔からの中心窩下硬性白斑除去術9,10)などの新しい手術術式が開発され,良好な成績が報告11)されている.今回筆者らは,精神発達遅滞のため継続した通院加療が困難な患者に対して,硝子体手術に上記の新規外科治療を組み合わせて加療施行し,良好な結果を得た経験を報告する.CI症例患者:55歳,女性.現病歴:両眼に発症した糖尿病網膜症に対して,前医にて経過観察されていた.しかし,糖尿病黄斑症に伴う視力低下が進行したため,加療目的に神戸大学医学部附属病院紹介初診となった.既往歴:2型糖尿病(HbA1c7.2%),精神発達遅滞(グループホーム入所中).家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.05(0.15C×.0.25D(cyl.1.00DCA×105°),).°90×1.00DA.cyl(0.25D×.左眼0.3(0.8眼圧は右眼C11mmHg,左眼C11mmHg.細隙灯所見として前眼部は特記すべき異常所見はなし.水晶体にCEmery分類GradeI程度の白内障を認めた.眼底所見として右眼に汎網膜光凝固後の網脈絡膜瘢痕.広範囲の中心窩下硬性白斑沈着を認めた(図1a).左眼に汎網膜光凝固後の網脈絡膜瘢痕..胞様黄斑浮腫を認めた(図1b).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)所見として右眼に中心窩下の硬性白斑沈着による高輝度像を認めた.外境界膜ライン,ellipsoidCzoneは途絶していた(図1c).左眼に.胞様腔内が高輝度に描出される.胞様黄斑浮腫を認めた.外境界膜ラインは連続しているものの,ellip-soidzoneは途絶していた(図1d).経過:眼底所見上,糖尿病網膜症に続発する糖尿病黄斑症と,右眼は硬性白斑の網膜下沈着,左眼は.胞様黄斑浮腫を認めた.OCT所見上,両眼ともに網膜外層障害が著明であった.無治療で放置した場合,視力低下は免れない状況であり,視力改善は困難ではあるものの視機能維持目的に治療を導入する必要があると考えられた.定期的な抗CVEGF治療および毛細血管瘤直接光凝固が適応と考えられたが,既往歴として精神発達遅滞があり,制御困難な体動などによる合併症が懸念されるため,局所麻酔下に行われる抗CVEGF治療を含む継続した通院加療は困難な状況であった.患者および家族と相談し,全身麻酔下に手術を施行した.患者背景を考慮し両眼同時手術とした.右眼については,術後体位保持に対する患者の理解度および家族のサポートは十分と判断し,意図的黄斑円孔からの硬性白斑除去を施行した.術式の詳細は後述する.術後,右眼網膜下硬性白斑は著明に減少し,経過中も徐々に減少した(図2a,c).左眼黄斑浮腫は術直後から消失し,経過観察期間中は再発なく維持された(図2b,d).術後C6カ月時点での矯正視力は,右眼(0.7),左眼(0.8)である.CII術式両眼ともに,通常の広角観察システム(Resight;CarlCZeissMeditec)を用いたC27ゲージ経毛様体扁平部硝子体手術および白内障手術を施行した.手術器械はコンステレーションビジョンシステム(Alcon社)を使用した.トリアムシノロンアセトニド(マキュエイド)を用いて硝子体を可視化して郭清したのち,汎網膜光凝固の追加および毛細血管瘤直接光凝固をそれぞれ施行した.術終了時にトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A)Tenon.下注入(40Cmg)を施行した.右眼は,上記施行後,術前の眼底所見およびCOCT所見から同定した中心窩位置を,拡大レンズ(ディスポCtype5d,HOYA)下に,内境界膜鑷子(グリスハーバーCDSP,Alcon社)で把持し意図的黄斑円孔を作製した.同部位から眼内灌流液(BSSPLUS,Alcon社)の水流を吹き付け,中心窩下硬性白斑を可及的に除去した.術終了時に,内境界膜翻転法およびC20%CSFC6ガスの硝子体内充.を施行した(図3).左眼は上記施行後,内境界膜.離を施行した.その後,内境界膜鑷子を用いて.胞様腔内壁を把持して切開し,.胞様腔内滲出液を硝子体腔に誘導した(図4).CIII考按多くのCDMEが,抗CVEGF治療を中心とした集学的治療によって治療可能となった3).しかし,これらの治療に抵抗する難治CDMEをいかに治療するか,またこれらの治療を受ける機会を得られない患者をいかに治療するかは,現在の課題の一つであり,それらに対する新規治療の開発や治療指針の策定が渇望される現状である.近年,難治CDMEおよび糖尿病黄斑症に対する外科治療の有用性が報告されている5.14).Toshimaらは,抗CVEGF治図1初診時眼底写真と光干渉断層計画像(水平断)a:汎網膜光凝固後の網脈絡膜瘢痕と広範囲の中心窩下硬性白斑沈着を認めた.Cb:汎網膜光凝固後の網脈絡膜瘢痕,網膜下硬性白斑,.胞様黄斑浮腫を認めた.Cc:中心窩下の硬性白斑沈着に一致した高輝度像を認めた(△).外境界膜ライン,ellipsoidzoneは途絶していた.Cd:.胞様腔内が高輝度に描出される.胞様黄斑浮腫を認めた(*).外境界膜ラインは健常であるものの,ellip-soidzoneは途絶していた.cd図2術後6カ月時点での眼底写真と光干渉断層計画像(水平断)a:網膜下硬性白斑は著明に減少した.Cb:網膜下硬性白斑は著明に減少し.胞様黄斑浮腫は消失した.c:中心窩下の硬性白斑沈着による高輝度像は消失した.外境界膜ライン,ellipsoidzoneは途絶したままである.Cd:.胞様黄斑浮腫は消失した.外境界膜ラインは保たれているが,ellip-soidzoneは途絶したままである.図3右眼手術画像a:トリアムシノロンアセトニドを用いて硝子体を可視化して郭清した(Resight下画像).b:内境界膜(.)を下方のC2象限をC2乳頭径の範囲で.離し,上方は翻転用に.離せずに温存した(拡大レンズ下画像).c:汎網膜光凝固の追加および毛細血管瘤に対する直接光凝固を施行した(Resight下画像).d:血管走行より中心窩位置(.)を同定し,内境界膜鑷子で把持し意図的黄斑円孔を作製した(拡大レンズ下画像).Ce:同部位(.)からCBSSを網膜下の硬性白斑に吹き付け,中心窩下硬性白斑を可及的に除去した(Resight下画像).f:術終了時に,内境界膜(.)を中心窩(.)上方より翻転し,20%CSFC6ガスの硝子体内充.を施行した(拡大レンズ下画像).療に抵抗する難治CDME14眼に対して,計画的網膜下CBSS注入術を施行し,6カ月の経過観察期間にて,中心窩網膜厚そして矯正視力ともに有意に改善した結果を報告している5).また,筆者らは,抗CVEGF治療を中心とした集学的治療に抵抗する難治CDME30眼に対して,.胞様腔内壁切開術および.胞様腔内フィブリノーゲン摘出術を施行し,12カ月の経過観察期間にて,中心網膜厚そして矯正視力ともに有意に改善した結果を報告した7).さらに,中心窩下硬性白斑沈着に対する硝子体手術は,1999年にCTakagiらによって初めて報告され12),その有用性が多く追試されている13,14).Avciらは,11眼を対象としてC3年間の長期経過において,全例で黄斑下硬性白斑は完全に消失し,手術施行群では,無治療群と比較して,有意に矯正視力を維持できることを報告している13).これらの結果は,DMEおよび糖尿病黄斑症が難治化した場合には,従来の治療のみにこだわることなく,これらの新規外科治療をも組み合わせて工夫することで,患者の視機能を温存しうる可能性を示している.今回筆者らは,難治化はしていないものの,抗CVEGF治療を中心とした集学的治療を十分に受ける機会を得られない患者に対して,硝子体切除,内境界膜.離,網膜光凝固,および術終了時のトリアムシノロンCTenon.下注入に加え,上記の新規外科治療も組み合わせて施行することで,良好な結果を得た.本症例のように,継続した通院加療が困難で治療機会を十分に得られない場合は,通常の治療指針にこだわることなく,一期的に施行可能な治療をすべて施行することも選択肢として考慮する必要があると考える.とくに,上記の新規外科治療は,難治CDMEのみならず,抗CVEGF治療を中心とした通常の治療を受ける機会を得られない患者にも有効である可能性があり,今後検討が必要である.本症例の右眼においては,意図的黄斑円孔を作製し,中心窩下硬性白斑を除去する工夫を取り入れた.2020年にKumagaiらによって,38CG針を用いて網膜下にCBSSを注入し,意図的に黄斑円孔を作製し,そこからCBSSを網膜下硬性白斑に吹き付けることで硬性白斑を除去し,有意な矯正視力改善が得られることが報告されている9).Takagiらによって報告された従来の術式は,中心窩耳側に意図的網膜裂孔を作製する必要があるため,傍中心暗点の出現に対する懸念は解決されていない15).さらに網膜下へ鉗子を挿入し硬性白斑自体を把持し摘出するため,操作中に網膜に障害を加える可能性があり,難度は高い.Kumagaiらによって報告された図4左眼手術画像a:トリアムシノロンアセトニドを用いて硝子体を可視化して郭清した(Resight下画像).b:汎網膜光凝固の追加および毛細血管瘤に対する直接光凝固を施行した(Resight下画像).c:内境界膜(.)を中心窩(.)からC2乳頭径の範囲で.離した(拡大レンズ下画像).d:内境界膜鑷子を用いて,中心窩(.)にて.胞様腔内壁(.)を把持して切開した(拡大レンズ下画像).図5術後6カ月時点でのGoldmann視野検査a:左眼,中心暗点の発生はなく,傍中心の比較暗点を認めるのみであった.Cb:右眼,中心暗点の発生はなく,傍中心の比較暗点を認めるのみであった.意図的黄斑円孔からの中心窩下硬性白斑除去は,傍中心暗点が出現しない点で従来の術式と比較し利点がある可能性がある9).本症例では,中心窩下硬性白斑が分厚く,BSS注入にて黄斑円孔が発生するか不明であったため,直接網膜を把持し意図的黄斑円孔を作製したが,傍中心暗点の発生はなく(図5),矯正視力は改善した.このように,中心窩に意図的黄斑円孔を作製する本法は,BSSを注入する方法および中心窩を直接把持する方法のいずれにおいても,傍中心暗点の発生を予防できる点で利点が大きい可能性がある.一方で,意図的黄斑円孔を作製した際には,黄斑円孔が開存してしまう懸念がある.筆者らは,黄斑円孔の開存を予防するために内境界膜翻転法を併用し,良好な円孔閉鎖を得た.Kumagaiらの報告では内境界膜翻転を併用せず,全例で円孔閉鎖を得ており9),今後は,本法を施行する際に内境界膜翻転を行うべきか,多数例での検討が必要と考える.CIV結論継続通院治療が困難なCDMEに対して,硝子体手術および意図的黄斑円孔からの中心窩下硬性白斑除去術,.胞様腔内壁切開術を併用し,良好な結果を得た症例を経験した.抗VEGF治療が全盛の現在においても,それが叶わない場合には,通常の治療指針にこだわらず,患者の状況に合わせて,治療を工夫することが重要である.文献1)DasCA,CMcGuireCPG,CRangasamyS:DiabeticCmacularedema:pathophysiologyCandCnovelCtherapeuticCtargets.COphthalmologyC122:1375-1394,C20152)SigurdssonCR,CBeggIS:OrganisedCmacularCplaquesCinCexudativeCdiabeticCmaculopathy.CBrCJCOphthalmolC64:C392-397,C19803)瓶井資弘,石垣泰,島田朗ほか:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20204)WellsCJA,CGlassmanCAR,CAyalaCARCetal:A.ibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema.NEnglJMedC372q:1193-1203,C20155)ToshimaCS,CMorizaneCY,CKimuraCSCetal:PlannedCfovealCdetachmenttechniquefortheresolutionofdiabeticmacu-larCedemaCresistantCtoCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactortherapy.RetinaC39:S162-S168,C20196)TachiCN,CHashimotoCY,COginoN:CystotomyCforCdiabeticCcystoidCmacularCedema.CDocCOphthalmolC97:459-463,C19997)ImaiH,TetsumotoA,YamadaHetal:Long-terme.ectofcystotomywithorwithoutthe.brinogenclotremovalforrefractorycystoidmacularedemasecondarytodiabet-icretinopathy.RetinaC41:844-851,C20218)ImaiH,OtsukaK,TetsumotoAetal:E.ectivenessofenblocCremovalCofCfibrinogen-richCcomponentCofCcystoidClesionforthetreatmentofcystoidmacularedema.RetinaC40:154-159,C20209)KumagaiK,OginoN,FukamiMetal:RemovaloffovealhardCexudatesCbyCsubretinalCbalancedCsaltCsolutionCinjec-tionCusingC38-gaugeCneedleCinCdiabeticCpatients.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC258:1893-1899,C202010)井坂太一,岡本芳史,岡本史樹ほか:意図的黄斑円孔を介した糖尿病性黄斑下硬性白斑除去術.眼臨紀C13:526-529,C202011)IwaneCY,CImaiCH,CYamadaCHCetal:RemovalCofCsubfovealCmassiveChardCexudatesCthroughCanCintentionalCmacularCholeCinCpatientsCwithCdiabeticmaculopathy:aCreportCofCthreecases.CaseRepOphthalmolC13:649-656,C202212)TakagiH,OtaniA,KiryuJetal:NewsurgicalapproachforCremovingCmassiveCfovealChardCexudatesCinCdiabeticCmacularedema.OphthalmologyC106:249-257,C199913)AvciCR,CInanCUU,CKaderliB:Long-termCresultsCofCexci-sionCofCplaque-likeCfovealChardCexudatesCinCpatientsCwithCchronicCdiabeticCmacularCoedema.Eye(Lond)22:1099-1104,C200814)NaitoT,MatsushitaS,SatoHetal:Resultsofsubmacu-larsurgerytoremovediabeticsubmacularhardexudates.JMedInvestC55:211-215,C200815)竹内忍:(田野保雄,大路正人編),後極部意図的裂孔作成の功罪.眼科プラクティス30,p158-159,文光堂,C2009C***

多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3 版に関する アンケート調査結果の推移

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):510.514,2022c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3版に関するアンケート調査結果の推移大野敦粟根尚子赤岡寛晃廣田悠祐梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CChangesintheResultsofaQuestionnaireSurveyontheThirdEditionoftheDiabeticEyeNotebookbyOphthalmologistsintheTamaAreaAtsushiOhno,NaokoAwane,HiroakiAkaoka,YusukeHirota,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:2014年に第C3版に改訂された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医の意識調査をC2015年とC2020年に施行し,調査結果の推移を検討した.方法:多摩地域の眼科医に眼手帳,とくに第C3版の改訂ポイントに関するアンケートをC2015年とC2020年に依頼し,50名とC42名から回答を得た.結果:受診の記録で記入しにくい項目は「糖尿病黄斑症とその変化」の選択者が増え,黄斑症の記載が詳細になったことへの負担感が増していた.福田分類の復活希望がC25%有意に増加した.受診の記録の追加希望項目は,内科関連から眼科関連項目に移行していた.「眼手帳は眼科医が渡すべき」が減り,「内科医でもよい」が増えた.「第C3版への改訂で患者にとってわかりやすくなった」がC10%増えた.結論:2020年はC2015年に比し,第C3版への改訂で糖尿病黄斑症の記載が詳細になったことへの負担感が増え,福田分類の復活希望がC25%に有意に増加していた.一方,患者にとってわかりやすくなったとの回答が増えていた.CPurpose:Anophthalmologist’sattitudesurveyontheDiabeticEyeNotebook(EyeNotebook)revisedtothe3rdeditionin2014wasconductedin2015and2020,andthetransitionofthesurveyresultswasexamined.Meth-ods:In2015and2020,weaskedophthalmologistsintheTamaareatosurveytheEyeNotebook,especiallytherevisionCpointsCofCtheC3rdCedition,CandCreceivedCresponsesCfromC50CandC42Cphysicians,Crespectively.CResults:Thenumberofphysicianswhoselecteddiabeticmaculopathyanditschangesasitemsthatweredi.cultto.lloutintherecordofconsultations,aswellastheburdenofadetaileddescriptionofdiabeticmaculopathy,increased.ThehopeCforCtheCrevivalCofCtheCFukudaCclassi.cationCincreasedCsigni.cantlyCby25%.CTheCitemsCtoCbeCaddedCtoCtheCrecordCofCconsultationsCwereCshiftingCfromCthoseCrelatedCtoCinternalCmedicineCtoCthoseCrelatedCtoCophthalmology.CThenumberofanswersthatophthalmologistsshouldprovidetotheEyeNotebookhasdecreased,whilethenum-berofanswersthatphysiciansmayprovidehasincreased.Althoughitincreasedby10%,therevisiontothe3rdeditionCmadeCitCeasierCforCpatientsCtoCunderstand.CConclusions:ComparedCtoC2015,CtheCburdenCofCaCdetailedCdescriptionofdiabeticmaculopathywasincreasedin2020,andthehopefortherevivaloftheFukudaclassi.cationsigni.cantlyCincreasedCby25%.COnCtheCotherChand,CanCincreasingCnumberCofCrespondentsCsaidCitCwasCeasierCforCpatientstounderstand.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):510.514,C2022〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,受診の記録,糖尿病黄斑症,福田分類.diabeticeyenotebook,ques-tionnairesurvey,recordofconsultations,diabeticmaculopathy,Fukudaclassi.cation.Cはじめに1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの話会を設立し,内科と眼科の連携を強化するために両科の連一つが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC510(118)図った1).また,この活動をベースに,筆者(大野)はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経てC2002年C6月に日本糖尿病眼学会より『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)が発行されるに至った3).眼手帳は,2002年C6月に日本糖尿病眼学会より発行されてからC14年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4.7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目,10年目に施行してきた.そして発行半年目,2年目の結果をC7年目の結果と比較した結果8),ならびにC10年目を加えた過去C4回のアンケート調査の比較結果9)を報告してきた.眼手帳はC2014年C6月に第C3版に改訂されたが,糖尿病黄斑症の記載が詳細になり,一方,初版から記載欄を設けていた福田分類が削除され,第C2版への改訂に比べて比較的大きな変更になった.そこで第C3版への改訂からC1年後のC2015年に第C3版に対する眼科医の意識調査を行い報告した10)が,今回さらにC5年後のC2020年に再度同じ調査を行ったので,調査結果の推移を報告する.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務する糖尿病診療に関心をもつ眼科医で,2015年C50名,2020年42名から回答があった.回答者の背景は表1に示すとおりで,2020年はC2015年に比し女性の回答者の割合が有意に増え,臨床経験年数と定期通院糖尿病患者数が増加傾向を認めた.なおC2015年のアンケート調査はC6.7月に施行されたが,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓蒙を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.一方,2020年のアンケート調査はC1.3月に施行されたが,2015年の際の倫理的問題を考慮し,多摩地域のなかの八王子市・町田市・多摩市・日野市・稲城市・青梅市・立川市・国立市・府中市・調布市の医師会に所属する眼科医に郵送でアンケート用紙の配布と記入を依頼し,FAXで回収する方式に変更した.郵送総数はC141件で回答数はC42件のため,回収率はC29.8%であった.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.第C26回日本糖尿病眼学会においては全C10項目で報告したが,本稿では誌面の制約もあり,とくに第C3版の改訂ポイントを中心に下記の項目につき,2015年C50名,2020年C42名の回答結果を比較検討した.問C1.4頁からの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目問C2-1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非問C2-2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問C2-3.受診の記録における福田分類削除の是非問3.受診の記録への追加希望項目表1アンケート回答者の背景(人数)2015年2020年p値(c2検定)【日本糖尿病眼学会】会員:非会員:無回答11:30:97:30:5C0.51【性別】男性:女性:無回答37:8:517:12:1C3<C0.005【年齢】30歳代:4C0歳代:5C0歳代:6C0歳代:7C0歳代6:14:21:6:31:8:18:9:6C0.17【勤務先】開業医:病院勤務:その他・無回答42:7:139:1:2C0.12【臨床経験年数(年)】.10:11.20:21.30:30.40:41.:無回答2:11:22:12:3:00:6:15:12:4:5C0.097【定期通院糖尿病患者数(名)】.9:10.29:30.49:50.99:1C00.:無回答3:13:17:4:10:30:9:7:11:11:4C0.057C表2受診の記録における変更ポイントへの評価「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非2015年2020年1)適切な改変69.2%54.3%2)細かくて記載が大変になった25.6%34.3%3)その他の御意見5.1%11.4%Cc2検定p=0.36無回答11名7名「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非2015年2020年1)必要な項目47.6%54.5%2)必要だが記載しにくくないほうがよい38.1%33.3%3)元々不要9.5%6.1%4)その他の御意見4.8%6.1%Cc2検定p=0.89無回答8名9名福田分類削除の是非2015年2020年1)ないままでよい60.0%50.0%2)復活してほしい2.9%27.5%3)どちらともいえない37.1%22.5%Cc2検定p=0.01無回答15名2名表4眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか2015年2020年1)眼科医が渡すべきである22.0%7.7%2)内科医から渡してもかまわない36.0%48.7%3)どちらでもよい42.0%43.6%Cc2検定p=0.16無回答0名3名問C4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか問C5.眼手帳第C3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ問C1は複数回答が可につき無回答者を除く回答者中の回答割合で表示し,問C2.5は無回答者を除く回答者の百分比で示した.両年の回答結果の比較にはCc2検定を用い,統計学的有意水準はC5%とした.CII結果1.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目(図1)2020年はC2015年に比べて,記入しにくい項目は「とくになし」との回答者がC11%減り,「糖尿病黄斑症」「糖尿病黄斑症の変化」を選択する回答者が増加していた.2.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非(表2上段)糖尿病黄斑症の記載が詳細になったことは「適切な改変」表3「受診の記録」への追加希望項目2015年2020年1)とくにない93.3%83.3%2)ある6.7%16.7%Cc2検定p=0.18無回答5名6名<自由記載コメント>【2015年】・血糖データ(FBS,HbA1c)本人か内科医の記載で・HbA1c・内科医へのアドバイスの項目(何カ月でHbA1cを何%降下させる等)【2020年】・網膜レーザー光凝固(光凝固)未・済みの項目が欲しい・緑内障,黄斑変性など(病名のみでも可)・他の眼底疾患・治療の項目:抗CVEGF薬注射・変化あり・ステージ不変の項目(出血箇所は変わってもステージは同じなどという場合があるので)・病院名,記載者名の追記スペース(転院などで変更があるので)表5眼手帳第3版への改訂の患者へのわかりやすさ2015年2020年1)患者にとってわかりやすくなった54.5%64.9%2)あまりかわりない18.2%13.5%3)どちらともいえない27.3%21.6%Cc2検定p=0.64無回答6名5名との回答が両年とももっとも多かったが,「細かくて記載が大変になった」の回答が有意差は認めないもののC2020年は2015年よりもC8.7%増えていた.2.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非(表2中段)黄斑症の変化は「必要な項目」との回答が両年ともC50%前後でもっとも多く,ついで「必要だが記載しにくくないほうがよい」がC30%台で,両年間で差を認めなかった.2.3.受診の記録における福田分類削除の是非(表2下段)福田分類は「ないままでよい」が両年とも最多の回答も60%からC50%とC10%減り,復活希望がC2020年はC2015年に比しC25%有意に増加していた.C3.受診の記録への追加希望項目(表3)受診の記録への追加希望は「とくにない」の回答がC10%減少し,「希望項目あり」の回答がC10%増えていた.その回答者における自由記載コメントを表3の下段に記載したが,追加希望項目は内科関連から眼科関連項目に移行していた.図1「受診の記録」のなかで記入しにくい項目4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか(表4)眼手帳は「眼科医が渡すべき」の回答がC2020年はC2015年に比べてC14.3%減り,「内科医から渡してもかまわない」の回答がC12.7%増えていたが,有意差は認めなかった.C5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ(表5)眼手帳第C3版への改訂にあたり,患者サイドに立った眼手帳を目指してC1頁の「眼科受診のススメ」などの表記を患者にわかりやすい表記に変更したが,その結果患者さんにとってわかりやすくなったとの回答がC54.5%からC64.9%とC10%増えていた.CIII考按1.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目多摩地域の眼科医における眼手帳第C2版までのアンケート調査では,記入しにくい項目として,「福田分類」のつぎに「糖尿病網膜症の変化」があげられていた9).今回「糖尿病網膜症とその変化」の選択者がC2015年よりC2020年で減り,「糖尿病黄斑症とその変化」の選択者が増えていたことより,網膜症よりも黄斑症とその経時的変化を記載することの負担感が増していると思われる.2.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非黄斑症の記載が細かくて大変になったとの回答が増えた背景として,「局所性」と「びまん性」の選択は両者が混在することも多く必ずしも容易ではないことを,第C3版の利用期間が延びるにつれて実感される回答者が増えたことが考えられる.2.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問1(図1)で「受診の記録」のなかで記入しにくい項目として「糖尿病黄斑症の変化」の回答者がC16.3%からC26.5%まで約C10%増加しているにもかかわらず,問C2-2では「糖尿病黄斑症の変化」の記載は必要との回答が有意差はないものの約C7%増えて,記載しにくくないほうがよいが約C5%減っており,両結果は逆の動きを示した.黄斑症の変化の評価は抗CVEGF療法の浸透とともに臨床上重要となっており,記入しにくくても必要と考える眼科医が増えているためと思われる.「糖尿病黄斑症の変化」における改善・不変・悪化の線引きは容易ではなく,これも記入しにくい背景として考えられる.眼手帳はC2020年のアンケートの回収が終了したC3月に第C4版に改訂されて,黄斑症の記載が中心窩網膜厚(μm)の数値を直接記載するように変更された.これにより第C3版よりも客観的に臨床経過をみることができるようになり,改善・不変・悪化からの選択よりは負担感が減っている可能性もあり,今後第C4版の改訂ポイントに関するアンケートの実施も計画していきたい.2.3.受診の記録における福田分類削除の是非多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行C10年目までのアンケート調査では,10年目の回答において,受診の記録のなかで記入しにくい項目として「福田分類」と「変化」が多く選ばれ,とくに福田分類の増加率が高かった9).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため記入していただきたい項目ではあるが,その厳密な記入のためには蛍光眼底検査が必要となることもあり,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,眼手帳の第C3版では受診の記録から福田分類は削除されたが,今回の結果では福田分類の復活希望がC25%有意に増加していた.この背景は不明であるが,内科・眼科連携の観点からも重要なポイントであるので,今後のアンケート調査において,復活希望の回答者にその理由を聞いてみたい.C3.受診の記録への追加希望項目追加希望ありの回答がC10%増え,追加希望項目は内科関連から眼科関連項目に移行していた.内科関連項目はHbA1cが多かったが,HbA1cが併記されれば血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連が見やすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ,今後の導入が期待されていたが第C4版で導入された.一方,眼科関連項目は表3下段に示したように多岐にわたるが,このうち治療の項目:抗CVEGF薬注射に関しては第C4版で記載欄が設けられた.C4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行C10年目までのアンケート調査9)では,7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目に前者が著減し後者が有意な増加を示した.眼手帳発行C8年目にあたるC2010年には,内科医側からの情報源である「糖尿病健康手帳」が「糖尿病連携手帳」に変わり,それに伴い眼手帳のサイズも連携手帳に合わせて大判となった.両手帳をつなげるビニールカバーも眼手帳無料配布の協賛企業から提供されており,その結果,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えた.このような習慣の継続が,眼手帳は内科医から渡してもかまわないとの回答がC12.7%増えた背景の一つと思われる.C5.眼手帳第3版への改訂の患者へのわかりやすさ眼手帳第C3版への改訂では,「眼科受診のススメ」の表記だけでなく,眼手帳後半のお役立ち情報にCOCTや薬物注射を加えるなどの改変を行っている.2015年ではまだ第C2版のままの患者も少なくなかったと思われるが,2020年になれば第C3版に切り替わった患者も増えており,その結果第C3版改訂時の工夫により患者にとって「わかりやすくなった」と実感する回答者がC10%増えたと思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,C20119)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C201410)大野敦,粟根尚子,永田卓美ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第C3版に関するアンケート調査.あたらしい眼科34:268-273,C2017***

糖尿病黄斑浮腫に対する577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1445.1449,2013c糖尿病黄斑浮腫に対する577.nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験高綱陽子*1水鳥川俊夫*1渡辺可奈*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学577.nmSubthresholdMicropulseLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),ToshioMidorikawa1),KanaWatanabe1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:直接凝固やステロイドTenon.下注射(STTA)を行っても改善の得られなかった糖尿病黄斑浮腫について,577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置を用いて,追加治療を行いその治療成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:2011年11月14日から2012年2月14日までに,マイクロパルスレーザー(IRIDEX社,IQ577)による閾値下凝固(SMLP)を施行した糖尿病黄斑症16例18眼.先行治療として毛細血管瘤直接凝固(MAPC)とSTTAの両方施行7眼,MAPCのみ施行7眼,STTAのみ施行4眼.マイクロパルス閾値下凝固を施行したときに残存した毛細血管瘤があれば,MAPC同時施行したもの4眼が含まれる.SMLP施行前,術後1カ月,3カ月に視力と中心窩網膜厚を測定した.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)に換算した.結果:平均年齢63.6歳.平均ヘモグロビン(Hb)A1C6.4%.視力は術前0.37,術後1カ月0.36,3カ月0.34で有意差はなかった.中心窩網膜厚は,術前419μm,術後1カ月367μm,3カ月360μmで3カ月で有意に減少した.結論:577nmSMLPは,糖尿病黄斑浮腫に対し,3カ月の経過で視力を維持し,中心窩網膜厚を改善させた.Purpose:Toinvestigatethee.cacyof577nmsubthresholdmicropulselaserphotocoagulation(SMLP)fordiabeticmacularedema(DME).Methods:Reviewedwere18eyesof16patientswithDMEwhohadundergoneprevioustherapy:7hadbothdirectphotocoagulationandsub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection(STTA),7haddirectphotocoagulationonlyand4hadSTTA.Residualmicroaneurysmsmightbefound,directphotocoagula-tionwasaddedtotheSMLP.Opticalcoherencetomography-determinedfovealthickness(FT)andbest-correctedvisualacuity(BCVA)wereevaluatedbeforeandat1and3months(M)afterSMLP.Results:Meanagewas63.6yearsold,meanhemoglobin(Hb)A1Cwas6.4%.BCVAwas0.37(logarithmicminimumangleofresolution:log-MAR)beforeSMLP,and0.36at1Mand0.34at3M.Itwasnotchangedsigni.cantly.FTwas419μmbeforeSMLP,367μmat1Mand360μmat3M;itwasreducedsigni.cantlyafter3M.Conclusion:Itwasfoundthat577nmSMLPforDMEmaintainedVAandimprovedFTat3M.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1445.1449,2013〕Keywords:糖尿病黄斑症,577nm,マイクロパルスレーザー閾値下凝固,毛細血管瘤,直接凝固.diabeticmacu-laredema,577nm,subthresholdmicropulselaserphotocoagulation,microaneurysm,directphotocoagulation.はじめに糖尿病黄斑症は,視力低下をひき起こし,日常生活の質に大きな影響を与える疾患である.レーザー光凝固が視力低下のリスクを軽減させることは,1985年EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)ResearchGroupにより報告され1),毛細血管瘤への直接凝固や,格子状凝固が行われてきた.しかし,通常のレーザーによる黄斑部の治療においては,その後の凝固斑の拡大や線維性増殖など,黄斑に変性をきたし,視力低下につながるリスクも指摘されている.そのようななかで,レーザー照射時間をきわめて短く〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(101)1445し,パルス状に発振するマイクロパルス閾値下凝固は,色素上皮に限局した凝固で,側方にも広がらず2),瘢痕の残らない低侵襲な黄斑症への治療法として注目されてきた.通常の連続波による凝固では,時間200msの設定では,その200msの間連続してレーザーが発振されているが,マイクロパルスレーザーの時間200ms,15%dutycycleの設定では,200msのなかで0.3msのonと1.7msのo.が連続して繰り返される形となる(0.3ms/2.0ms×100=15%dutycycle).1回のレーザー発振時間は0.3msときわめて短く,十分な休止時間があり,レーザーによる温度上昇は色素上皮に限局するものとなっており,側方にも広がらない.瘢痕がつかないきわめて低侵襲なレーザーとして注目されており,その照射領域は,基本的には従来の格子状凝固と同様に中心窩無血管野内には施行しないものである.筆者らも,これまでにIRIDEX社製810nmの波長をもつ機器を用いて,長期成績をはじめとし,網膜感度や硬性白斑の沈着例に対する治療成績を報告してきた3.6).また,Lavinskyらによる前向きランダム比較試験により,従来の連続波のレーザーに比べて,マイクロパルスレーザーの有効性が示された7)ことにより,黄斑症への低侵襲なレーザーとして注目されている.今回,577nmの波長をもつピュアイエローレーザー光凝固装置IQ577(IRIDEX社)を使用する機会を得た.通常の連続波のレーザーとマイクロパルスレーザーの両方の機能をもつ光凝固装置である.577nmという波長では,酸化ヘモグロビンへの吸収ピークをもち,キサントフィルにはほとんど吸収されないという特徴がある8).このため,黄斑部の毛細血管瘤への直接凝固には効果的な波長と考えられる.そこで,今回筆者らは,ステロイドTenon.下注射(STTA)や毛細血管瘤への直接凝固では効果が得られなかった糖尿病黄斑症を対象に,577nm波長でのマイクロパルス閾値下凝固を行い,このとき,凝固可能な毛細血管瘤があれば,それに対する直接凝固を連続波モードに切り替え,同時に施行する方法で,術後3カ月までの治療成績を中心窩網膜厚と視力を評価することで検討した.I対象および方法2011年11月14日から2012年2月14日までに,千葉労災病院で糖尿病黄斑症に対して,マイクロパルスレーザー(IRIDEX社,IQ577)による閾値下凝固を施行した16例18眼.先行治療として2カ月以上前に毛細血管瘤直接凝固とSTTAの両方施行7眼,直接凝固のみ施行7眼,最短で1カ月以上前にSTTAのみ施行4眼.マイクロパルスレーザーを施行したときに残存した毛細血管瘤があれば,直接凝固同時施行したもの4眼が含まれる.マイクロパルスレーザー閾値下凝固の方法は,先に810nmの機種で用いた方法と基本的には同様である3.6).まず1446あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013は,連続波モードにて,照射径200μm,100msで凝固斑がかすかに認められる閾値を求める.マイクロパルスモードに変更し,閾値の200%のパワーで,15%dutycycle,200msでレーザー照射を浮腫のある領域に行う.今回の凝固斑の間隔は,重ならない程度に間隔を開けずにおいた.マイクロパルスレーザー施行前,術後1カ月,3カ月に視力と中心窩網膜厚(CirrusOCT,CarlZeiss)を測定した.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)に換算した.統計学的解析はWilcoxon順位和検定による.II結果平均年齢63.6±5.9歳.平均ヘモグロビン(Hb)A1C6.4±0.7%.平均視力は術前0.37,術後1カ月0.36,3カ月0.34であり,統計学的有意差はなく経過中視力は維持されていた.logMAR0.2以上の変化で改善1眼,不変18眼,悪化はなかった(表1,図1).中心窩網膜厚は,術前419μm,術後1カ月367μm,3カ月360μmであり,3カ月で有意に減少した.15%以上の変化で改善8眼,不変11眼で悪化はなかった(表1,図4).術後の眼底所見では,経過中,マイクロパルスレーザー閾値下凝固による瘢痕は認められなかった.代表症例を以下に提示する.〔症例1〕63歳,男性.3カ月前に毛細血管瘤への直接凝固の施行歴があるが,浮表1マイクロパルスレーザー治療前後の視力(logMAR)と中心窩網膜厚(μm)の平均値視力(logMAR)p値中心窩網膜厚(μm)p値治療前0.374191カ月0.360.193670.0523カ月0.340.203600.046治療3カ月後(logMAR)1.210.80.60.40.2000.20.40.60.811.2治療前(logMAR)図1視力(logMAR)の散布図(102)腫が改善せず.術前視力(0.7),中心窩網膜厚は375μmであった.光干渉断層計(OCT)で赤く表示された浮腫のある領域にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行.140mWの出力で,200ms,15%dutycycle,200μmの条件で施行し,同時に残存する毛細血管瘤を連続波モードに切り替え,70mWの出力で,100ms,100μmの条件で施行した.術後3カ月,視力は(0.7)と維持され,中心窩網膜厚は295μmへと減少した(図2).〔症例2〕56歳,女性.中心窩の下耳側に,毛細血管瘤が集積し黄斑浮腫の原因となり,初診時の視力は(0.3),中心窩網膜厚は491μmであった.まず,STTAを行い,ついで毛細血管瘤への直接凝固を施行したが,2カ月後,改善が得られなかったので,浮腫の強い領域にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行し図2症例1:治療前眼底写真(a),同OCT画像(b),および治療後眼底写真(c)と同OCT画像(d)63歳,男性.術前視力(0.7),中心窩網膜厚375μm.浮腫のある領域にマイクロパルスレーザー(施行範囲は点線で囲まれた領域),残存する毛細血管瘤を連続波モードで直接凝固を施行した.術後3カ月,視力は(0.7)と維持され,中心窩網膜厚295μmへと減少した.図3症例2:治療前眼底写真(a左),同蛍光眼底造影写真(a右)と同OCT画像(b),および治療後眼底写真(c)と同OCT画像(d)56歳,女性.術前視力(0.3),中心窩網膜厚491μm.2カ月前にステロイドTenon.下注射と毛細血管瘤への直接凝固施行後の浮腫遷延例.2回のマイクロパルスレーザーを施行(施行範囲は点線で囲まれた領域)3カ月後は,視力(0.5),中心窩網膜厚346μmと改善が認められた.(103)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131447治療3カ月後(μm)70060050040030020010000100200300400500600700800治療前(μm)図4中心窩網膜厚(μm)の散布図た.反応が不十分と考え,術後1カ月に2回目の照射を行ったところ,その3カ月後には,視力(0.5),中心窩網膜厚346μmと黄斑浮腫の改善が認められた.術後の眼底でマイクロパルスレーザーによる瘢痕は認められない(図3).III考按毛細血管瘤の直接凝固を併用したマイクロパルスレーザー閾値下凝固の治療成績は治療後3カ月において視力は全例で維持され,中心窩網膜厚では有意な改善が得られた(表1).術後3カ月までの成績では,810nmの波長の機種を用いた筆者らのこれまでの報告6)では中心窩網膜厚は504μmから409μmへの有意な減少,同じ日本人を対象とした大越らの報告9)でも,348μmから300μmへの有意な減少が報告されているが,今回の筆者らの治療成績でも中心窩網膜厚は419μmから360μmへと減少し,中心窩網膜厚の有意な改善と視力の維持が示された.これまでの報告は,びまん性浮腫に対する治療成績であり,毛細血管瘤への凝固は併用していないものが多いが,稲垣らは,810nmのマイクロパルスレーザーと,別の装置を用いての毛細血管瘤への直接凝固を併用した治療成績を報告している10).3カ月までの治療成績では,視力は維持以上95%,中心窩網膜厚は443μmから374μmへの改善が示され,毛細血管瘤への直接凝固を併用することにより,マイクロパルスレーザー単独よりも,浮腫の改善効果が高まり,再燃のリスクを減少できるのではないかと述べている.局所性浮腫と考えられる症例においても,毛細血管瘤への直接凝固のみで完全に消退させられるものばかりではなく,マイクロパルスレーザーとの併用も治療戦略として考えるべきではないかと思われる.マイクロパルスレーザーとして使用した場合の810nmの機種と577nmのものとで治療効果の違いについての詳しい報告はまだないと思われる.810nmと577nmの波長の相違については,810nmのほうが深部への到達には有利かもしれないが,メラニンへの吸収は波長が長くなるにつれて減1448あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013衰していくこと8),照射時間がきわめて短いマイクロパルスとしての照射方法が色素上皮をターゲットにするものであり2),今回の成績とあわせても,両者の有効性は総合的には変わりがないものと考えられるが,閾値の設定にあたって,810nmの機種では350.500mWを超えることもあった3,6)が,577nmの今回の機種では,120.200mWの限局した範囲で閾値が決定でき,577nmのほうが閾値を決めやすかった.また,最近の糖尿病黄斑症の治療においては,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体療法が大変注目されている11).これらの報告ではレーザーとの比較検討を行い,抗VEGF抗体療法の優位性が示されてきたものではあるが,比較したレーザーはマイクロパルスではなく,連続波での凝固である.従来のレーザーとマイクロパルスでの比較においては,密度をつめたマイクロパルスレーザーの優位性が前向きランダム化試験のかたちで報告されている7)ので,今後,抗VEGF抗体療法とマイクロパルスレーザーの比較,併用効果についての検討が必要であろう.特に抗VEGF抗体療法については,繰り返し投与の必要性とそれに伴う高額な医療費や患者の通院負担の問題も懸念される.マイクロパルスレーザーの奏効機序として,マイクロパルスレーザーは色素上皮を刺激して,色素上皮のポンプ機能を賦活化させ,浮腫を軽減させるものではないかと考えてきた3,6).治療効果発現には数カ月の時間を要することもある3.6).一方,抗VEGF抗体などの薬剤では血管透過性亢進の抑制や抗炎症効果により速やかな作用が期待できるが,効果は一過性であり,繰り返し投与の必要性が出てくるものである.それぞれの作用機序を考えながら,マイクロパルスレーザーと毛細血管瘤直接凝固の併用,さらには,ステロイド薬や,抗VEGF抗体療法などの薬剤投与を先行させ,ある程度浮腫が軽減した後にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を行えば,よりよい臨床効果とともに患者負担の軽減につながることも期待できるのではないかと考えられる.本検討では,3カ月までの短い期間ではあるが,毛細血管瘤直接凝固を併用した577nmマイクロパルスレーザー閾値下凝固が,黄斑浮腫治療に有効な治療である可能性が示唆された.ただし,マイクロパルスレーザー閾値下凝固施行前に,最短で1カ月という比較的短い期間にSTTAを施行していること,2カ月前に毛細血管瘤への直接凝固を施行しており,先行治療の効果が残存していないとは言い切れないところに問題がある.今後は,先行治療のない症例を対象とするなどして,より長期の経過観察期間をとり検討を重ねていきたいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(104)文献1)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyReportNumber1.ArchOphthalmol103:1796-1806,19852)PankratovMM:Pulsedeliveryoflaserenergyinexperi-mentalthermalretinalphotocoagulation.ProcSocPhotoOptInstrumEng1202:205-213,19903)高綱陽子,中村洋介,新井みゆきほか:糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス閾値下凝固6カ月の治療成績.眼臨101:848-852,20074)中村洋介,辰巳智章,新井みゆきほか:硬性白斑が集積する糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績.日眼会誌113:787-791,20095)NakamuraY,MitamuraY,OgataKetal:Functionalandmorphologicalchangesofmaculaaftersubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacu-laroedema.Eye24:784-788,20106)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Longtermtherapeutice.cacyofsubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20117)LavinskyD,CardilloJA,MeloLAJretal:RandomizedclinicaltrialevaluatingmETDRSversusnormalorhigh-densitymicropulsephotocoagulationfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci52:4314-4324,20118)MainsterMA:Wavelengthselectioninmacularphotoco-agulation.Tissueoptics,thermale.ects,andlasersys-tems.Ophthalmology93:952-958,19869)OhkoshiK,YamaguchiT:SubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedemainJapa-nesepatients.AmJOphthalmol149:133-139,201010)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌116:568-574,201211)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:TheRESTOREstudy:Ranibizumabmonotherapyorcom-binedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,2011***(105)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131449

術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績

2013年1月31日 木曜日

《第17回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(1):89.92,2013c術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績水流宏文中村裕介大矢佳美安藤伸朗済生会新潟第二病院眼科AssociationbetweenPreoperativeFovealPhotoreceptorLayerandOperationOutcomesinDiabeticMaculopathyHirofumiTsuru,YusukeNakamura,YoshimiOyaandNoburoAndoDepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital目的:糖尿病黄斑症に対する硝子体手術において,術前の網膜外層構造と術後成績との関連を検討する.方法:済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に対し硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月)について術前,術後1年または最終観察時に,視力と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.また,術前に外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)をOCTで観察し,水平断画像で中心窩を中心とした1,000μm内にELM,IS/OSの連続性が50%以上あるものをELM,IS/OS陽性とした.A群:ELM・IS/OSともに陽性,B群:ELM陽性かつIS/OS陰性,C群:ELM・IS/OSともに陰性の3群に分類(A群8眼,B群9眼,C群19眼)し,各群の視力,CRTの術後変化を検討した.結果:術後logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA,B,C群いずれも有意に改善.CRTはB,C群で有意に減少.小数視力0.7以上を視力良好,0.7未満を不良とすると術後良好眼はA群8眼中5眼,B群9眼中4眼,C群19眼中1眼でC群に比べA,B群では有意に術後視力良好眼が多かった.結論:術前網膜外層構造が保たれている例では,術後視力成績が良好であった.Purpose:Toassesstherelationbetweenpreoperativephotoreceptorlayerandpostoperativeresultsindiabeticretinopathytreatedwithparsplanavitrectomy.Methods:Weretrospectivelystudied36eyesof32patientswithdiabeticmaculopathyonwhomwehadperformedparsplanavitrectomy(PPV).Weassessedvisualacuity(VA)andcentralretinalthickness(CRT),usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SD-OCT),beforeandafterPPV.Wemeasuredthepreoperativeintegrityphotoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS)andexternallimitingmembrane(ELM)within1,000μmatthecenterofthefovea.Morethan50%existenceof1,000μmwasdefinedas“positive”;lesswasdefinedas“negative.”Wecategorizedthe36eyesinto3groupsaccordingtointegrityofELMandIS/OS:(1)theAgroup,withELMandIS/OSpositive,(2)theBgroup,withELMpositiveandIS/OSnegative,and(3)theCgroup,withELMandIS/OSnegative.Weestimatedthecorrelationbetweenthegroupsandthesurgicalresults.Results:GroupsA,BandCcomprised8,9and19eyes,respectively.AfterPPV,theVAofall3groupswassignificantlyimprovedandtheCRTofgroupsBandCwassignificantlyreduced(B:p<0.05,C:p<0.01).Theproportionofeyeswithdecimalvisualacuityequaltoorgreaterthan0.7wassignificantlyhighingroupswithpreservedphotoreceptorlayer(AandBgroups),comparedwithCgroup(Agroup:p<0.01,Bgroup:p<0.05).Conclusion:EyeswithpreoperativelypreservedphotoreceptorlayerachievebetterVApostoperativelythandoeyeswithoutpreservedphotoreceptorlayer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):89.92,2013〕Keywords:糖尿病黄斑症,光干渉断層計,外境界膜,視細胞内節外節接合部,網膜外層構造,経毛様体扁平部硝子体切除術.diabeticmaculopathy,opticalcoherencetomography(OCT),externallimitingmembrane(ELM),photoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS),photoreceptorlayer,parsplanavitrectomy.〔別刷請求先〕安藤伸朗:〒950-1104新潟市西区寺地280-7済生会新潟第二病院眼科Reprintrequests:NoburoAndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital,280-7Terachi,Nishi-ku,NiigataCity950-1104,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(89)89 はじめに1990年代,Lewisら1)やTachiら2)により糖尿病黄斑症に対して硝子体手術が有効であることが報告されて以来,硝子体手術は糖尿病黄斑症の治療法の一つとして,わが国では多数施行されている.その後,opticalcoherencetomography(OCT)の登場により形態的な評価が可能となり,大谷ら3)は糖尿病黄斑浮腫を基本型に分類した.糖尿病黄斑浮腫の形態と硝子体手術後の視力との関連性が検討されてきたが,浮腫形態に基づく硝子体手術の効果予測には限界があり,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)が登場し,外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)や視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)などの網膜外層構造の詳細な評価が可能となり,各種疾患で網膜外層構造と視力との有意な相関が報告されるようになった4,5).糖尿病黄斑浮腫においても,Maheshwaryら6),Murakamiら7),Yanyaliら8)が中心窩のIS/OSやELMの連続性と視力とが相関すると報告している.今回,筆者らは新たな試みとして,糖尿病黄斑症の術前の網膜外層構造が硝子体手術後の成績を反映する指標となりうるのではないかと考え,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討した.I対象および方法対象は2008年1月から2011年3月の間に,済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月).症例の1,000μmABLogMAR視力図1OCTにおけるELM・IS/OS評価トプコン社3DOCT-1000MARKIIの白黒表示を用いて,中心窩を中心とした1,000μm内のELM・IS/OSを計測した.A:IS/OS742μmで50%以上の連続性を認める.B:ELM1,000μmで50%以上の連続性を認める.内訳は男性18例21眼,女性14例15眼,Davis分類では増殖前網膜症17眼,増殖網膜症19眼であった.36眼中22眼に白内障手術を施行し,11眼に内境界膜.離を併用した.血管新生緑内障を合併していた4眼および術後網膜.離で追加手術を要した2眼は本検討から除外した.OCTの解析にはトプコン社3DOCT-1000MARKIIを用い,白黒表示にて術前網膜外層を評価し,色素上皮の高反射ラインの直上のラインをIS/OS,その直上のラインをELMと定義した.中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した(図1).ELM,IS/OSの連続性から,ELM・IS/OSともに陽性のA群,ELM陽性・IS/OS陰性のB群,ELM・IS/OSともに陰性のC群に分類した.A,B,Cの3群において術前および術後1年(または最終観察時)に視力と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定し,その結果を各群で比較検討を行った.II結果OCT所見からA群8眼,B群9眼,C群19眼に分類された.なお,ELM陰性・IS/OS陽性の例は認めなかった.術前logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA群0.36,B群0.60,C群0.83で,A群とC群間で有意差を認めた(p<0.01,Mann-Whitney検定).術後logMAR視力はA群0.14,B群0.40,C群0.70であり,いずれの群も術前に比べて有意に改善を認めた(それぞれp<0.05,対応のあるt検定).A群とC群間では術前後のいずれにおいても有意差を認めた(p<0.01,術前はMannWhitney検定,術後はWelchのt検定)(図2).視力評価はlogMAR視力で術前後0.2以上の変化を視力0術前術後*0.1:A群0.20.36A群0.14ELM(+)IS/OS(+)0.3:B群0.40.60B群*0.40**ELM(+)IS/OS(-)0.5:C群0.6**0.70ELM(-)IS/OS(-)0.70.83C群*p<0.050.8**p<0.010.9*図2術前後のlogMAR視力術前logMAR視力A群:0.36,B群:0.60,C群:0.83.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Mann-Whitney検定).術後logMAR視力A群:0.14,B群:0.40,C群:0.70.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Welchのt検定).術後視力はA,B,C群いずれも有意に改善した(p<0.05対応のあるt検定).90あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(90) 20600550ELM(+)IS/OS(+)15500ELM(+)IS/OS(-)4眼5眼7眼4眼4眼9眼0眼0眼3眼A群B群C群:改善■:不変■:悪化:A群:B群:C群*p<0.05**p<0.01349.5332.3495.4353.8529.6401.3術前術後*******A群B群C群CRT(μm)450400350300250視力改善度10ELM(-)IS/OS(-)50図4術前後のCRT図3術後視力改善度LogMAR視力0.2以上の変化を改善,悪化とした.A群:改善4眼,不変4眼.B群:改善5眼,悪化4眼,C群:改善7眼,不変9眼,悪化3眼.A,B,C群いずれの群においても改善眼を得た.ELM陽性であるA,B群では,ELM陰性のC群に比べて改善眼の割合が高かった.悪化眼はELM陰性のC群のみで認められ,ELM陽性のA,B群では認めなかった.改善・悪化として検討し,全体では改善16眼,不変17眼,悪化3眼であった.各群での検討では,A,B群において改善眼の占める割合がC群より高く,悪化眼はみられなかった.C群では改善眼が19眼中7眼のみであり,3眼の悪化を認めた(図3).術後小数視力0.7以上を良好眼,0.7未満を不良眼に分類して比較したところ,A群では8眼中5眼が良好眼,B群では9眼中4眼が良好眼であるのに対し,C群では19眼中1眼のみが良好眼であり,C群に比べA,B群で有意に視力良好眼が多かった(A群C群間p<0.01,B群C群間p<0.05,Fisherの直接確率計算法).術前CRTはA群349.5μm,B群495.4μm,C群529.6μmで,A群とB群間およびA群とC群間で有意差を認めた(それぞれp<0.01,Studentのt検定).術後CRTはA群332.3μm,B群353.8μm,C群401.3μmであり,B群とC群において術後有意に減少した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった(図4).術後の網膜外層構造の変化では,A群は全例でELM,IS/OSともに保たれており,B群ではIS/OS回復例が2眼,不変例が3眼,ELM消失例が4眼であり,C群ではELM回復例が2眼,不変例が17眼でありIS/OS回復眼は得られなかった.III考按Diabeticmacularedema(DME)に対して.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離などの浮腫形態に基づいて硝子体手術成績が検討されてきたが,硝子体手術効果の予測には限界があ(91)術前A群:349.5μm,術前B群:495.4μm,術前C群:529.6μm.A・C群間,A・B群間で有意差を認めた(A・C群間,A・B群間p<0.05Studentのt検定).術後A群:332.3μm,術後B群:353.8μm,術後C群:401.3μm.B群,C群において術後有意にCRTが低下した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった.り,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,SD-OCTの登場で網膜外層構造の評価が可能となり,各種疾患において網膜外層構造と視力との相関が強いとの報告が多数出てきており,DMEにおいても同様の関連性が報告されている6.8).筆者らは黄斑円孔の硝子体手術後の視力を検討し,ELM,IS/OSとの関連性が強いという知見を得た9).今回,DMEにおける硝子体手術後の視力予測因子として網膜外層構造に注目し,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討を行った.Oishiら5)は加齢黄斑変性症において,疾患重症度とELM,IS/OSの関係を検討し,まずIS/OSが消失し,さらに重症化するとELMも消失すると述べている.今回のDMEに関する検討でも加齢黄斑変性症と同様の結果を得た.硝子体手術後の視力はいずれの群でも有意に改善を認めたが,術前に網膜外層破綻が少ないA群では,破綻の進んだC群に比べて有意に術後視力が良好であった.網膜外層破綻が進む前に手術治療を行うことで視力回復が大きくなることを示唆しており,ELMの存在が術後良好な視力を目指す硝子体手術を行ううえで重要である.本検討では網膜外層の評価にOCTを用い,中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した.OCTによる網膜外層の評価に際しては,OCTのshadowingによる検出不能例が問題となり,shadowingにより実際には保たれているIS/OS,ELMを消失と評価してしまう可能性がある.そのため,今回筆者らは網膜浮腫や硬性白斑による局所のshadowingにより,ELM,IS/OSが陰性と誤評価あたらしい眼科Vol.30,No.1,201391 されないように50%以上連続していれば外層構造が保たれていると基準を少し緩く定めることでshadowingの影響を最小限にするよう配慮した.しかし,それでも黄斑浮腫による網膜肥厚の著しい症例では,OCTの機能・特性上,shadowingによる検出不能例は少なからず存在するはずであり,現時点でのOCTの性能の限界である.今後のOCTの性能向上に期待したい.ELMは漿液性網膜.離を伴う例においても判別可能であるという点で有用である.板谷ら10)は漿液性網膜.離を伴う中心性漿液性脈絡網膜症において,IS/OSは網膜色素上皮との正確な判別が困難である一方で,ELMは評価が可能であると報告している.漿液性網膜.離を伴うDME眼においても,IS/OSの同定は困難である一方でELMは判別可能であった.網膜外層構造の破綻が強く,漿液性網膜.離を含めた多形態を示すDMEにおいて,より多くの症例で網膜外層構造を評価しうる点でELMは優れた指標と考えられる.今回,少数例の検討ではあったがIS/OS,ELMが術後視力の予測因子として利用可能であり,特にELMは有用性が高い指標である可能性が示唆された.今後,OCTの進化による分解能,描出力向上により,さらに正確な評価が可能となるはずである.さらなる症例検討を重ねたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrectomyfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.Ophthalmology99:753759,19922)TachiN,OginoN:Vitrectomyfordiffusemacularedemaincasesofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol122:258-260,19963)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphtalmol127:688-693,19994)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphotoreceptoroutersegmentincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol145:162-168,20085)OishiA,HataM,ShimozonoMetal:Thesignificanceofexternallimitingmembranestatusforvisualacuityinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol150:27-32,20106)MaheshwaryAS,OsterSF,YusonRMetal:Theassociationbetweenpercentdisruptionofthephotoreceptorinnersegment-outersegmentjunctionandvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol150:63-67,20107)MurakamiT,NishijimaK,SakamotoAetal:Associationofpathomorphology,photoreceptorstatus,andretinalthicknesswithvisualacuityindiabeticretinopathy.AmJOphthalmol151:310-317,20118)YanyaliA,BozkurtKT,MacinAetal:Quantitativeassessmentofphotoreceptorlayerineyeswithresolovededemaafterparsplanavitrectomywithinternallimitingmembraneremovalfordiabeticmacularedema.Ophthalmologica226:57-63,20119)中村裕介,安藤伸朗:特発性黄斑円孔の術後閉鎖過程の光干渉断層計による観察.臨眼64:1677-1682,201010)板谷正紀,尾島由美子,吉田章子ほか:フーリエドメイン光干渉断層計による中心窩病変出力の検討.日眼会誌111:509-517,2007***92あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(92)