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正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(125)1029《原著》あたらしい眼科28(7):1029?1033,2011cはじめに眼表面の涙液層は,表層から油層,水層およびムチン層の3層で構成され,そのうち水層は種々の蛋白質,電解質および水分から成り,眼表面の環境維持において生理学的役割は大きい1).ドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層構造が崩れ,各涙液層の役割が正常に機能せず,異常をきたしている.したがって,その治療には,眼表面における涙液層を質的および量的に正常化させることが望まれる.現在,国内でドライアイの治療に使用されている薬剤は,人工涙液および角結膜上皮障害治療剤であるヒアルロン酸ナトリウム点眼液のみである.人工涙液は,一時的な水分および電解質の補充効果しか期待できず,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は,角膜上皮伸展促進作用および保水性による涙液層の安定化作用を示すものの,極度に涙液量が減少しているドライアイ患者では,保水効果による治療効果は低いと考え〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用七條優子村上忠弘中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターStimulatoryEffectofDiquafosolTetrasodiumonTearFluidSecretioninNormalRabbitsYukoTakaoka-Shichijo,TadahiroMurakamiandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.P2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムの正常ウサギにおける涙液分泌促進機序について検討した.ジクアホソルナトリウムは,点眼15分後を最大とする用量依存的な涙液分泌促進作用を示した.また,ジクアホソルナトリウムは,涙液中蛋白質濃度には影響を及ぼさなかったが,涙液中の蛋白質量を用量依存的に増加させた.一方,ウサギ摘出涙腺組織に1,000μMまでのジクアホソルナトリウムを作用させたが,蛋白質分泌には影響を与えなかった.さらに,ウサギ結膜組織を用いた実験では,ジクアホソルナトリウムは,結膜組織からの水分分泌速度と正の相関性を示す組織膜に発生する電流値,膜電流を濃度依存的に上昇させ,本上昇作用は,カルシウムキレート剤の前処理により抑制された.以上より,ジクアホソルナトリウムは,おもに結膜細胞に作用し,細胞内カルシウムイオンを介して涙液の分泌促進作用を誘導すると考えられた.ThisstudyinvestigatedthemechanismofthestimulatoryeffectoftheP2Y2receptoragonistdiquafosoltetrasodiumontearfluidsecretioninnormalrabbits.Diquafosoltetrasodiumsolutionsinducedmaximaltearfluidsecretionat15minafterinstillation,increasinginadose-dependentmanner.Moreover,diquafosoltetrasodiumsolutionshadnoeffectonproteinconcentrationinthetearfluid,butexhibiteddose-dependentincreaseinproteincontentinit.Diquafosoltetrasodiumdidnotaffectproteinsecretionfromisolatedrabbitlacrimalglands,evenataconcentrationof1,000μM.Inrabbitconjunctivaltissues,diquafosoltetrasodiumenhancedtheshort-circuitcurrentinaconcentration-dependentmanner,positivelycorrelatedwithwatersecretionfromconjunctivaltissue.Thisenhancementwasinhibitedbypretreatmentwithcalcium-chelatingagent.Theseresultssuggestthatdiquafosoltetrasodiummayactmainlyonconjunctivaandstimulatetearfluidsecretionviatheintracellularcalciumpathway.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1029?1033,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,涙液分泌,細胞内カルシウム,ウサギ結膜.diquafosoltetrasoidium,P2Y2receptoragonist,tearfluidsecretion,intracellularcalcium,rabbitconjunctiva.1030あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(126)られる2).このように,ドライアイ治療は,十分に満足されている状況ではなく,ドライアイ患者の涙液層の質と量を改善できる新たな作用機序を有する治療薬の開発が臨床現場では強く求められている.プリン受容体の一つであるP2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するアデノシン3リン酸(ATP)あるいはウリジン3リン酸(UTP)は,涙液の分泌促進,ムチン(高分子糖蛋白質)の分泌促進,あるいはリゾチームの分泌促進作用などを示すことが報告され3),P2Y2受容体作動薬は,涙液層の質的および量的の両面を改善できると期待される.ジクアホソルナトリウムは,UTPと同程度のP2Y2受容体作動活性を有し4),かつATPあるいはUTPに比して水溶液中で安定性に優れている化合物である.Yerxaら5)は,ジクアホソルナトリウムが,正常ウサギにおいて涙液の分泌を誘導することを報告している.今回,筆者らは,ジクアホソルナトリウムの正常ウサギ涙液分泌促進機序について検討した.I実験方法1.ジクアホソルナトリウム点眼液ジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソル)は,ヤマサ醤油にて製造された.ジクアホソル点眼液は,塩化ナトリウム溶液あるいはリン酸緩衝液に溶解し,pH調節剤を用いて7.2?7.4に,等張化剤を用いて浸透圧比を1.0?1.1に調整した.2.涙液量の測定雄性日本白色ウサギ(北山ラベス,長野)の下眼瞼に,シルメル試験紙(昭和薬品化工,東京)の折り目5mm部分を挿入し,濾紙が濡れた長さを指標にして涙液量を測定した.用量依存性の検討では,0.1?8.5%のジクアホソル点眼液をウサギに点眼(50μL)し,涙液量を測定する3分前にベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬,大阪)を10μL点眼し,眼表面を局所麻酔した.局所麻酔3分後にウサギを保定し,シルメル試験紙を挿入し,1分間に濡れたシルメル試験紙の長さ(Schirmer試験値)を測定した.また,8.5%ジクアホソル点眼液点眼5,15,30および60分後のSchirmer試験値を測定し,涙液量の経時的変化を検討した.なお,涙液量の測定には,両眼を用いた.雄性日本白色ウサギは1週間馴化飼育した後,試験に使用した.本研究は,「動物実験倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.涙液中の蛋白質濃度および蛋白質量の測定0.3?3%ジクアホソル点眼液点眼15分後の涙液量を「2.涙液量の測定」と同様の方法にて実施し,Schirmer試験値を得た後のシルメル試験紙を生理食塩液に浸し,試験紙に吸収されている蛋白質を回収した.蛋白質濃度は,Bio-Rad(CA,USA)社のBradford法に従い測定した.試験紙に吸収された蛋白質量は,蛋白質濃度にSchirmer試験値から換算された涙液量を乗じて,試験紙に吸収された蛋白質量を算出した.4.涙腺組織からの蛋白質分泌量の測定Nakamuraらの方法6)に従って,涙腺組織からの蛋白質分泌について検討した.すなわち,雄性日本白色ウサギにネンブタール注射液(大日本住友製薬,大阪)を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.涙腺組織を摘出し,周辺結合組織を切除し,涙腺組織切片を作製した(16片/1眼).涙線組織切片は,60分間培養液(143.1mMNaCl,4.5mMKCl,2.5mMCaCl2・2H2O,1.2mMMgCl2・6H2O,20mMHEPES,11.0mMd-glucose,pH7.4)で培養し,組織を安定化させた後に涙腺組織からの蛋白質分泌に用いた.サンプリングは,ジクアホソルあるいはカルバコール溶液添加後60分まで20分間隔で行った.各サンプル中の蛋白質濃度値を,各組織の湿重量で除することにより,組織重量当たりの蛋白質濃度を求めた後,同組織の無添加時(20分間)に分泌された蛋白質濃度値に対する百分率で表した値を蛋白質分泌率とした.また,ジクアホソル(1?1,000μM)およびカルバコール(100μM:Sigma,MO,USA)は,培養液に溶解して使用した.5.結膜組織の膜電流値の測定雄性日本白色ウサギにネンブタール注射液を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.Kompellaらの方法7)に従って結膜組織を摘出し,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR:111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl2・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMd-glucose)を満たしたUssingチャンバー内に結膜組織(1組織/1眼)を固定し,膜電流を安定させた.チャンバーに固定した組織における膜電流の変動は,短絡電流測定装置(CEZ-9100;日本光電,東京)を用いて実施した.ジクアホソルおよびカルシウムキレート剤である1,2-bis-(o-aminophenoxy)ethane-N,N,N¢,N¢-tetraaceticacidtetra-(acetoxymethyl)ester(BAPTA-AM:Merck,Darmstadt,Germany)は,BRに溶解して使用した.ジクアホソルを,涙液(上皮)側に添加する前後の膜電流を測定し,膜電流の変化値を算出した.なお,BAPTA-AM(最終濃度3,10あるいは30μM)は,ジクアホソル(10μM)の添加前に60分間反応させた.6.統計解析EXSAS(アーム,大阪)を用いて,5%を有意水準として解析した.2群比較の場合は,基剤群に対するStudentのt検定,3群以上の比較には,基剤群に対するDunnettの多重比較検定を実施した.(127)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111031II結果1.正常ウサギにおける涙液分泌促進作用ジクアホソルの正常ウサギにおける涙液分泌促進作用について検討した.経時的検討では,8.5%ジクアホソル点眼液の点眼5分後からSchirmer試験値は増加し,点眼5,15および30分後において,基剤群に比し有意に増加した(5分:p<0.01,15分:p<0.01,30分:p<0.05).Schirmer試験値は点眼15分後に最大値を示し,その後Schirmer試験値は減少した(図1a).点眼15分後における用量依存性の検討では,ジクアホソル点眼液は,用量依存的にSchirmer試験値を増加させ,基剤点眼に比し0.3%点眼で約2倍,1?8.5%では約3倍と用量依存的に増加し,1%の用量で効果はプラトーに達した.その効果は基剤群に比し0.3%以上の用量で有意であった(0.3%:p<0.05,1.0%,3.0%および8.5%:p<0.01)(図1b).また,ジクアホソル点眼液点眼後の涙液中蛋白質濃度は,いずれの用量においても約30mg/mLであり,基剤群と有意な差は認められなかった(図2a).さらに,涙液中蛋白質量は,ジクアホソル点眼液の用量に依存して増加し,その効果は1%および3%において有意であった(1%および3%:p<0.01)(図2b).2.涙腺組織からの蛋白質分泌作用に及ぼす影響ジクアホソルの涙腺への反応性の有無を確認する目的で,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌に及ぼす影響について検討した.図3に示すように,陽性対照薬である100μMカルバコール溶液は,0?20分間の反応において,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率を有意に増加させた(p<0.05).一方,1?1,000μMのジクアホソル溶液を反応させた場合は,60分間のいずれの測定時間においても,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率に何ら影響を及ぼさなかった.3.結膜組織における膜電流の上昇作用およびカルシウムキレート剤の影響結膜組織からの水分輸送(分泌)速度は,結膜組織における膜電流の変化値と相関することが報告されている8)ことより,ジクアホソルによるウサギ結膜組織の膜電流の変化値を測定した.表1に示すように,膜電流の変化値は,10μMジクアホソル溶液の添加により上昇し,100μMジクアホソル溶液でさらに上昇した.また,10μMジクアホソル溶液による膜電流の促進作用は,カルシウムキレート剤であるBAPTA-AM3,10あるいは30μMの前処理により,濃度依存的に抑制された.その抑制作用は,10μM以上のBAPTA-AMにより有意であった(10μM:p<0.05,30点眼後の時間(分)Schirmer試験値(mm)無処置5無処置***♯♯♯**153060ジクアホソル(%)20151050基剤0.10.3138.5■:基剤■:8.5%ジクアホソルaSchirmer試験値(mm)20151050b図1正常ウサギにおけるジクアホソル点眼液の涙液分泌促進作用a:経時的変化,b:用量依存性.各値は6眼の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01(Studentのt検定).#:p<0.05,##:p<0.01(Dunnettの多重比較検定).****ジクアホソル(%)ジクアホソル(%)50403020100基剤0.313基剤0.313a蛋白質量(μg)蛋白質濃度(mg/mL)4003002001000b図2正常ウサギにおけるジクアホソル点眼液による涙液中蛋白質分泌促進作用a:蛋白質濃度,b:蛋白質量.基剤および1%点眼群は9眼,0.3および3%点眼群は10眼の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,基剤群との比較(Dunnettの多重比較検定).1032あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(128)μM:p<0.01)(図4).III考按ジクアホソルは,Yerxaら5)によりドライアイ治療において重要な作用の一つである涙液の分泌を誘導させることが報告されている.今回の試験でも,Yerxaら5)の報告と同様に正常ウサギにジクアホソル点眼液を点眼することで,涙液量を示すSchirmer試験値は用量依存的に上昇した.しかし,その作用機序については十分に解明されていない.そこで,ジクアホソルの涙液分泌促進機序を明らかにする目的で,ジクアホソルの作用部位について検討した.ジクアホソルの点眼により,涙液量は増加するにもかかわらず,涙液中蛋白質濃度には影響なく,蛋白質量は増加することから,ジクアホソルは水分だけでなく蛋白質の分泌も促進していると考えられた.水分および蛋白質の分泌が可能な組織としては,涙腺組織が考えられる.そこで,ジクアホソルの作用部位として,涙腺の可能性を検討する目的で,正常ウサギ涙腺組織におけるジクアホソルの蛋白質分泌について検討した.しかし,ジクアホソルを涙腺組織に1,000μMまで作用させても,対照薬として用いたカルバコールのような蛋白質分泌促進作用を示さなかった.また,ジクアホソルは,これまでに報告されている涙腺摘出ラットドライアイモデル,すなわち涙腺が存在しない動物モデルにおいても涙液分泌促進作用を示すことより9),ジクアホソルは,涙腺以外の部位に作用している可能性が高いと考えられた.P2Y2受容体は,アカゲザルの眼瞼および眼球結膜組織において,杯細胞を含む結膜上皮細胞,マイボーム腺脂肪細胞およびマイボーム腺導管上皮細胞での発現が認められている10).また,Candiaら11)は,角結膜上皮層から眼表面への水分輸送機能について報告していることから,つぎに作用部位として,結膜組織の可能性について検討した.Liら8)の報告同様,今回の検討でもジクアホソルによりウサギ結膜組織の膜電流の上昇作用が認められ,水分の分泌促進作用が示唆された.また,ジクアホソルは,ウサギ結膜上皮からの糖蛋白質(過ヨウ素酸Schiff染色陽性蛋白質)の分泌を促進することも報告されている12).したがって,ジクアホソルは,水分および涙液成分の分泌促進作用を示すためのおもな作用部位は,結膜組織,すなわち結膜上皮細胞であると考えられた.P2Y2受容体作動薬は,ヒト線維芽細胞において,G蛋白を介してホスホリパーゼCを活性化し,イノシトール3リン酸を生成した結果,細胞内小胞体からのカルシウムイオンの放出を誘導し,細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる13).また,ヒト角膜上皮細胞において,細胞内カルシウムイオンが上皮側に存在するカルシウム依存性Clイオンチャンネルを開口し,細胞内のClイオンを涙液側に輸送した結果生じる浸透圧差により,上皮側への水分分泌を促進する14).さらに,筆者らは初代培養ウサギ結膜上皮細胞においてジクアホソルが濃度依存的に細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させることを確認している15).したがって,本試験では,結膜組織におけるジクアホソルの水分分泌促進作用に及ぼすカルシウムイオンの関与を明らかにする目的で,ウサギ結膜組織を用いてジクアホソルにより上昇した膜電流値,すなわち水分分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響につい培養時間(分)30020010000~2020~4040~60蛋白質分泌率(%)■:基剤■:1μMジクアホソル■:10μMジクアホソル■:100μMジクアホソル■:1,000μMジクアホソル■:100μMカルバコール*図3正常ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率に及ぼすジクアホソルの影響各値は5例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,基剤群との比較(Studentのt検定).BAPTA-AM(μM)膜電流の変化(μA/cm2)201510500310*30**図4正常ウサギ結膜組織におけるジクアホソルによる膜電流上昇作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響各値は5例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,10μMジクアホソル添加前に60分間反応させた.*:p<0.05,**:p<0.01,基剤(0μMBAPTA-AM)群との比較(Dunnettの多重比較検定).表1正常ウサギ結膜組織におけるジクアホソルの膜電流上昇作用群用量(μM)例数膜電流の変化(μA/cm2)ジクアホソル10811.91±0.64ジクアホソル100518.60±1.62各値は平均±標準誤差を示す.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111033て検討した.その結果,ジクアホソルによる膜電流値の上昇作用は,BAPTA-AMの前処理により濃度依存的に抑制された.したがって,ジクアホソルの水分分泌促進機序にも,結膜細胞の細胞内カルシウムイオンが関与していることが示唆された.以上より,ジクアホソルは,涙腺に対する作用は完全に否定できないものの,おもに結膜上皮細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,細胞膜上のClイオンチャンネルが開口し,Clイオンの輸送に伴い水分の分泌を誘導すると考えられた.本作用機序は,ドライアイの治療に用いられている人工涙液あるいはヒアルロン酸ナトリウム点眼液には認められないものであり,ジクアホソルを主成分とする点眼液は,新規作用機序を有するドライアイ治療薬として,その効果が期待される.文献1)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,19942)高村悦子:ドライアイのオーバービュー.FrontiersinDryEye1:65-68,20063)CrookeA,Guzman-AranguezA,PeralAetal:Nucleotidesinocularsecretions:theirroleinocularphysiology.PharmacolTher119:55-73,20084)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:SynthesisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinucleoside5¢-polyphosphates.BioorgMedChemLett22:157-160,20015)YerxaBR,DouglassJG,ElenaPPetal:PotencyanddurationofactionofsyntheticP2Y2receptoragonistsonSchirmerscoresinrabbits.AdvExpMedBiol506:261-265,20026)NakamuraM,TadaY,AkaishiTetal:M3muscarinicreceptormediatesregulationofproteinsecretioninrabbitlacrimalgland.CurrEyeRes16:614-619,19977)KompellaU,KimK,LeeVL:Activechloridetransportinthepigmentedrabbitconjunctiva.CurrEyeRes12:1041-1048,19938)LiY,KuangK,YerxaBetal:Rabbitconjunctivalepitheliumtransportsfluid,andP2Y2receptoragonistsstimulateCl?andfluidsecretion.AmJPhysiolCellPhysiol281:C595-602,20019)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y2agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,200110)CowlenMS,ZhangVZ,WarnockLetal:LocalizationofocularP2Y2receptorgeneexpressionbyinsituhybridization.ExpEyeRes77:77-84,200311)CandiaOA,ShiXP,AlvarezLJ:Reductioninwaterpermeability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ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(87)543《原著》あたらしい眼科28(4):543.548,2011c〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPANジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用七條優子篠宮克彦勝田修中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターStimulatoryActionofDiquafosolTetrasodiumonMucin-likeGlycoproteinSecretioninRabbitConjunctivalTissuesYukoTakaoka-Shichijo,KatsuhikoShinomiya,OsamuKatsutaandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.ジクアホソルナトリウムの眼表面からのムチン分泌促進機序についてコムギ胚芽由来(WGA)レクチンを用いた酵素免疫法(enzymelinked-lectinassay:ELLA)にて検討した.WGAレクチンは,ウサギ結膜組織上皮層の杯細胞内の粘液に結合し,ウサギ結膜培養上清液中の200kDa以上の分子と高い親和性を示し,ムチン様糖蛋白質に対して高い特異性を有することが示唆された.WGAレクチンを用いたELLAにおいて,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌を濃度依存的に上昇させた.また,ジクアホソルナトリウムは,ウサギ培養結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度を濃度依存的に上昇させ,カルシウムイオン濃度の上昇作用を抑制する濃度のカルシウムキレート剤は,ウサギ結膜組織からのジクアホソルナトリウムによるムチン様糖蛋白質の分泌促進作用を抑制した.したがって,ジクアホソルナトリウムは,結膜杯細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介して,ムチン様糖蛋白質分泌を促進すると考えられた.Thisstudyinvestigatedthestimulatoryactionofdiquafosoltetrasodium(P2Y2receptoragonist)onmucin-likeglycoproteinsecretioninrabbitconjunctivaltissues,usingenzyme-linkedlectinassay(ELLA)withwheatgermagglutinin(WGA)lectin.Inhistochemicalanalysis,mucusinthegobletcellsshowedpositivereactivitytostainingwithWGAlectin.Lectin-blotanalysisshowedthatthemolecularweightsofmostWGA-bindingglycoproteinsinculturedsupernatantsofconjunctivaltissueswerelargerthan200kDa.TheseresultssuggestedthatWGAlectinmightbehighlyspecifictomucin-likeglycoproteinsinconjunctiva.Theadditionofdiquafosoltetrasodiumtoculturedrabbitconjunctivaltissuesresultedinaconcentration-andtime-dependentincreaseinthesecretionofmucin-likeglycoproteins.Diquafosoltetrasodiumincreasedtheintracellularcalciumconcentrationintheconjunctivalepithelialcellsinaconcentration-dependentmanner.Inaddition,thisstimulatoryactionofdiquafosoltetrasodiumonmucin-likeglycoproteinsecretionwasinhibitedbypretreatmentwiththecalciumchelatingagent,atthesamedosethatdecreasedtheintracellularcalciumconcentrationincreasebydiquafosoltetrasodium.Theseresultssuggestthatdiquafosoltetrasodiumstimulatesthesecretionofmucin-likeglycoproteinsfromrabbitconjunctivaltissueviatheintracellularcalciumpathway,afterbindingtoP2Y2receptorsontheconjunctivalgobletcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):543.548,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,ムチン様糖蛋白質分泌,細胞内カルシウム,ウサギ結膜組織.diquafosoltetrasodium,P2Y2receptoragonist,mucin-likeglycoproteinsecretion,intracellularcalcium,rabbitconjunctivaltissues.544あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(88)はじめにムチンとは,多数のO-グリカンと結合した20万以上の分子量を示す高分子糖蛋白質の総称である.眼表面におけるムチンには,角結膜上皮細胞膜に存在している膜結合型ムチンと,結膜杯細胞から分泌される分泌型ムチンの2つに大別される.分泌型ムチンは,涙液3層(油層,水層,ムチン層)のうち,ムチン層の主成分であり,膜結合型ムチンと協働し,眼表面の保湿・保水作用,非接着分子として閉瞼時の眼瞼結膜上皮と角膜上皮の癒着防止作用,感染防御および拡散障壁作用など,重要な役割を果たしている1).渡辺2)は,涙液が眼表面上で広がるためには,分子量が大きく粘性の高い分泌型ムチンの存在が必要であり,分泌型ムチンの減少は,眼表面上皮層のどこかにムチン層でカバーしきれない部分を生じさせ,水層の表面張力の低下による涙液の安定化が損なわれ,涙液層破壊時間の短縮,ひいては角結膜上皮障害を誘導すると報告している.また,角結膜上皮障害を伴うSjogren症候群患者では,健常人に比して結膜上皮における分泌型ムチン(MUC5AC)の発現量が減少していることも報告されている3).さらに,ドライアイ患者に精製ムチン溶液を点眼することで,角結膜上皮障害が改善することも報告されている4).したがって,ドライアイ治療には,分泌型ムチンを涙液のムチン層へ補充することが効果的であると考えられる.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するジヌクレオチド誘導体である5).アカゲザルにおいて,P2Y2受容体は,結膜上皮細胞(杯細胞を含む)での発現が確認されており6),Fujiharaら7,8)は,invivoにてジクアホソルナトリウムが正常ウサギおよび正常ラットの結膜組織から糖蛋白質(ムチン)の分泌を促進することを報告している.本研究では,ウサギ結膜組織から分泌された糖蛋白質を定量的に評価できる系,enzyme-linkedlectinassay(ELLA)を用いてジクアホソルナトリウムの結膜組織からの糖蛋白質分泌促進作用およびその機序について検討した.I実験方法1.ジクアホソルナトリウム溶液の調製ヤマサ醤油にて製造されたジクアホソルナトリム(ジクアホソル)は,各試験に用いる溶媒,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR;111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMd-glucose)およびMaullem’sbuffer(140mMNaCl,5mMKCl,10mMTrisbase,10mMHEPES,1.5mMCaCl2・2H2O,1mMMgCl2・6H2O,5mMd-glucose,5mMpyruvicacid,0.1%ウシ血清アルブミン)にて溶解した.2.ウサギ結膜摘出日本白色ウサギにネンブタール注射液(大日本住友製薬)を静脈注射にて全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.ケイセイ替刃メスを用いて眼窩周囲に切り込みを入れ,眼窩との結合組織を.離させ,ハサミを用いて外眼筋および視神経を切断し,眼球が付いた状態で結膜を分離・摘出した.なお,本研究は,「動物実験倫理規程」,「動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.ウサギ結膜組織片作製眼瞼周囲の皮膚組織をハサミで切除し,結膜組織を広げ,4mm径トレパン(貝印)で打ち抜いて結膜組織片を作製した.BR中に,結膜組織片を入れ,5%CO2,37℃にて30分間安定化させた後,ムチン様糖蛋白質の解析あるいは定量に用いた.4.コムギ胚芽由来(WGA)レクチンの特異性a.組織学的検討WGAレクチンと結合する糖蛋白質の結膜上皮層での局在について組織学的に検討した.周囲の余分な脂肪,筋組織を除去した結膜組織を10%中性緩衝ホルマリン(pH7.2.7.4)にて室温で浸漬固定した.パラフィン包埋を行った後,約3μmの連続切片を薄切した.定法に従って過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色およびビオチン化標識WGAレクチン(Vector)とホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識アビジン(DAKO)を用いたWGAレクチン染色を行った.陰性対照には,WGAの特異的結合糖であるChitin(WAKO)の飽和溶液でWGAを吸収させた溶液を用いた.b.レクチンブロットWGAレクチンと結合する糖蛋白質の分子量を検討する目的で,ウサギ結膜組織培養上清液をSDS(sodiumdodecylsulfate)ゲルにて電気泳動し,レクチンブロットを実施した.すなわち,安定化させた結膜組織片を新たなBR中に入れ,5%CO2,37℃の条件で24時間培養した.セントリコン(Millipore)にて濃縮したサンプルをLaemmliSampleBuffer(BioRad)と混合し,95℃,5分間加熱処理した後,電気泳動し,PVDF(ポリビリニデンジフルオライド)膜にブロッティングした.洗浄液〔TBS(Tris-bufferedsaline)含有0.1%Tween20〕,ブロッキング液(1%ウシ血清アルブミン含有洗浄液)処理後,ビオチン化標識WGAレクチンおよびHRP標識アビジンを反応させた.最後に,ECL(enhancedchemiluminescent)westernblotdetectionreagent(Amersham)に浸して反応させ,Filmに感光して現像した.なお,陽性対照としてウシ顎下腺ムチン(Sigma)を用いた.(89)あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115455.Enzymelinked.lectinassay(ELLA)によるムチン様糖蛋白質濃度測定安定化させた結膜組織片を各濃度の被験薬中に入れ,5%CO2,37℃の条件で所定の時間培養した.96穴マイクロプレートに検量線用のムチン(ウシ顎下腺ムチン)溶液および組織片培養上清液を添加し,固相化した.ビオチン化標識WGAレクチン,HRP標識アビジンに続き,tetramethylbenzidine溶液(Sigma)と反応させた後,マイクロプレートリーダーにて波長450nmの吸光度を測定した.カルシウムキレート剤の影響を検討する際は,1,2-bis-(o-aminophenoxy)ethane-N,N,N¢,N¢-tetraaceticacidtetra-(acetoxymethyl)ester:(BAPTA-AM:Calbiochem)をジクアホソルの添加前に60分間反応させ,培養上清液の回収は,ジクアホソル添加90分後に行った.6.結膜上皮細胞の単離結膜上皮細胞内のカルシウム濃度を測定する目的で,ウサギ結膜組織を摘出し,上皮細胞を単離した.すなわち摘出したウサギ結膜組織を約5mm四方に細切した後,1.2U/mLディスパーゼIIにて処理をした.結膜上皮層をコリブリ鑷子で回収し,トリプシン/EDTA(エチレンジアミン四酢酸)処理をした後,培養培地(15%FBS,5μg/mLinsulin,10ng/mLhumanEGF,40μg/mLgentamicininDMEM/F-12)にて,37℃,5%CO2の条件下で培養した.7.細胞内カルシウムイオン濃度測定単離2.4日後の結膜上皮細胞の培養培地をMaullem’sbufferに置換し,Kageyamaら9)の方法に従い,細胞内のカルシウムイオン濃度を測定した.すなわち,結膜上皮細胞は,5μMFura-2AM(WAKO)溶液にて30分間以上,37℃,5%CO2にて培養した.その後,再びMaullem’sbufferに置換し,被験薬を添加した後のFura-2の蛍光(340nmおよび380nm)強度を測定し,MetaFlourver.6.0.1を用いて,340nm/380nmの比を指標に細胞内のカルシウムイオン濃度を算出した.カルシウムキレート剤の影響を検討する際は,ジクアホソルの添加前にBAPTA-AMを60分間反応させた.8.統計解析EXSAS(アーム)を用いて,5%を有意水準として解析した.2群比較の場合は,薬剤無添加群に対するStudentのt検定,3群以上の比較には,薬剤無添加群に対するDunnettの多重比較検定を実施した.II結果1.WGAレクチンの特異性WGAレクチンと特異的に結合する糖蛋白質の局在を知る目的で,ウサギの結膜組織を用いて,WGAレクチンと反応する部位を組織学的に検討した.図1に示すように,PAS(図1a)およびWGA(図1b)陽性部位が,結膜の杯細胞中の粘液に認められた.また,WGAの反応は,特異的結合糖(N-acetyl-glucosamine)のポリマーであるChitinによって阻害された(図1c).したがって,WGAレクチンは,結膜杯細胞中の糖蛋白質と特異的に反応することが明らかになった.ウサギの結膜組織を培養した上清液に含まれるWGAレクチンと結合する糖蛋白質の分子量を明らかにする目的で,WGAレクチンによるレクチンブロットにて解析した.図2に示すように,陽性対照であるウシ顎下腺ムチンと同様,結膜組織培養上清液においても大部分が200kDa以上であった.したがって,WGAレクチンは高分子糖蛋白質,すなわちムチン様糖蛋白質に特異的に結合することが示唆された.2.摘出結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用ムチン様糖蛋白質濃度を測定できるWGAレクチンを用いたELLAで,ジクアホソルの結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用について検討した.図3に示すように,ジabc図1ウサギ結膜組織のPASおよびWGAレクチン染色像a:PAS染色,b:WGA染色,c:Chitin処理後のWGA染色.546あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(90)クアホソルの添加により,作用時間に依存して,培養上清中のムチン様糖蛋白質濃度は上昇した.また,その上昇作用は,いずれの培養時間においても薬剤無添加群に比し有意であった(図3a).濃度依存性の検討では,培養時間90分間の条件で,ジクアホソルによるムチン様糖蛋白質分泌は,濃度依存的に促進された(図3b).その効果は,ジクアホソル無添加群に比し10μM以上で有意であった.3.結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度上昇作用ジクアホソルの結膜上皮細胞内のカルシウムイオン濃度に及ぼす影響について検討した.図4aに示すように,1.1,000μMジクアホソル溶液は,結膜上皮細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を濃度依存的に上昇させ,100μMでほぼ最大反応であった.また,その上昇作用は,10μM以上の濃度でジクアホソル無添加群に比して有意であった.一方,図4bに示すように,100μMジクアホソル溶液による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇作用は,3,10あるいは30μMBAPTA-AMの前処理により,濃度依存的に抑制された.また,その抑制作用は,10μM以上のBAPTA-AMの処理(kDa)12250150100755037図2ウサギ結膜組織培養上清中のWGAレクチン結合糖蛋白質の分子量分布レーン1:ウシ顎下腺ムチン.レーン2:ウサギ結膜組織培養上清液.培養時間(分)3001101001,0004.03.02.01.00.03.02.01.00.06090120ムチン様糖蛋白質濃度(μg/mL)ムチン様糖蛋白質濃度(μg/mL)ジクアホソル(μM)ab######□:薬剤無添加■:100μMジクアホソル******図3ウサギ結膜組織におけるジクアホソルのムチン様糖蛋白質分泌促進作用―作用時間(a)および濃度依存性(b)a:各値は3あるいは4例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01,薬剤無添加群との比較(Studentのt検定).b:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.ジクアホソルは,90分間反応させた.##:p<0.01,ジクアホソル無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定).ジクアホソル(μM)細胞内カルシウムイオン濃度(nM)細胞内カルシウムイオン濃度(nM)BAPTA-AM(μM)00310301101001,0001,00080060040020001,0008006004002000####******ab図4ウサギ培養結膜上皮細胞におけるジクアホソルによる細胞内カルシウムイオン濃度上昇作用(a)およびカルシウムキレート剤の影響(b)a:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,ジクアホソル無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定)b:各値は4例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,100μMジクアホソル添加前に60分間反応させた.##:p<0.01,BAPTA-AM無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定)(91)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011547により,BAPTA-AM無添加群に比して有意であった.4.ムチン様糖蛋白質分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響ジクアホソルによる摘出結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用の機序を解明する目的で,カルシウムキレート剤の影響について検討した.表1に示す変化率は,各濃度のBAPTA-AM群において,100μMジクアホソル添加群によるムチン様糖蛋白質濃度をジクアホソル無添加群によるムチン様糖蛋白質濃度で除した値である.ジクアホソルの添加により,上清中のムチン様糖蛋白質濃度は約2.7倍上昇した.また,その上昇作用は,BAPTA-AMの前処理により濃度依存的に抑制され,その抑制作用は,10μMBAPTA-AM以上でBAPTA-AM無処理群に比して有意であった.III考按これまでに,Fujiharaら7,8)は,ウサギあるいはラットにジクアホソルを点眼することで,結膜上皮組織からのPAS陽性糖蛋白質(ムチン)の分泌が促進されることを組織学的な検討により報告している.しかし,その評価系は,invivoの試験であり,かつ手順が煩雑であるため,ジクアホソルのムチン分泌促進作用機序の検討を困難にしていた.Jumblattら10)は,ヒト結膜組織から分泌されたムチン量をレクチンによるドットブロットにて定量的に測定することを可能にした.そこで,Jumblattらの方法を参考に,今回筆者らは,被験サンプルをマイクロプレートに固相化させ,O-グリカン(N-acetyl-glucosamine)と特異的に結合するWGAレクチンを用いたELLA法で被験サンプル中のWGAレクチン結合性糖蛋白質濃度を定量的に測定する系を用いた.また,本ELLAの特異性を検討する目的で,WGAレクチンによるELLAにて検出される糖蛋白質の解析を行った.組織学的検討結果により,WGAレクチンと結合する糖蛋白質の局在は,結膜上皮組織中の杯細胞内であり,PAS陽性部位に一致していることが示された.また,レクチンブロットの結果,WGAレクチンと結合する蛋白質の分子量は,陽性対照の顎下腺ムチンと同様200kDa以上であった.したがって,WGAレクチンは,結膜杯細胞内の200kD以上の糖蛋白質,すなわちムチン様糖蛋白質に特異性が高いことが示された.つぎに,本ELLAを用いてジクアホソルのムチン分泌促進作用について検討した.ウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質は,ジクアホソルの添加により,濃度依存的かつ時間依存的に増加した.Darttら11)は,ラット結膜組織からのムチン分泌は,細胞内のカルシウムイオン濃度に依存することを報告している.また,ヒト鼻腔粘膜上皮細胞において,P2Y2受容体作動薬により上昇した分泌型ムチン量は,カルシウムキレート剤により抑制することが報告されている12).そこで,ジクアホソルの結膜上皮細胞における細胞内カルシウムイオン濃度に及ぼす影響を検討した.その結果,10μM以上のジクアホソルにより,細胞内カルシウムイオン濃度は濃度依存的に上昇した.つぎに,ジクアホソルによるウサギ結膜上皮組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用への細胞内カルシウムイオン濃度の関与について検討した.その結果,ジクアホソルにより上昇した細胞内カルシウムイオン濃度を抑制できる濃度のBAPTA-AM処理により,ジクアホソルによるムチン様糖蛋白質濃度の上昇は抑制された.以上より,ジクアホソルの結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用にも,細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇が関与していることが明らかとなった.これまでに報告されているヒト線維芽細胞におけるP2Y2受容体を介した細胞内カルシウムイオン濃度の上昇説13)を基に結膜組織からのムチン様糖蛋白質の促進機序を考察すると,ジクアホソルが,結膜上皮細胞(杯細胞)上のP2Y2受容体に結合し,G蛋白を介してホスホリパーゼCを活性化し,イノシトール3リン酸を生成した結果,細胞内小胞体からのカルシウムイオンの放出を誘導し,分泌顆粒内に貯蔵されているムチンを分泌すると考えられた.ドライアイに伴う角結膜上皮障害に対する治療には,現在日本では,おもにヒアルロン酸ナトリウム点眼液が使用されている.ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の薬理作用は,角膜上皮伸展促進作用および保水作用である.今回,ジクアホソルは,結膜杯細胞上のP2Y2受容体を介して細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることにより,ムチン様糖蛋白質の分泌を促進することが明らかになった.この作用機序は,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液には認められないものであり,ジクアホソル点眼液は,新規作用機序を有するドライアイ治療薬としてヒアルロン酸ナトリウム点眼液では効果不十分であった病態に対しても治療効果を示すことが期待される.謝辞:本研究に協力いただきました村上忠弘博士,堂田敦義博士に深謝いたします.表1ウサギ摘出結膜組織におけるジクアホソルによるムチンン様糖蛋白質分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響BAPTA-AM(μM)変化率(%)031030272.8±12.5242.7±9.9153.3±2.6**123.6±3.0**各値は4例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,ジクアホソル添加前に60分間反応させた.培養上清液は,ジクアホソル添加90分後に回収した.**p<0.01,BAPTA-AM無添加群との比較(Dunnettの多重比較検定).548あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011文献1)GovindarajanB,GipsonIK:Membrane-tetheredmucinshavemultiplefunctionsontheocularsurface.ExpEyeRes90:655-663,20102)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19973)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci43:1004-1011,20024)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,20025)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:SynthesisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinucleoside5¢-polyphosphates.BioorgMedChemLett11:157-160,20016)KompellaU,KimK,LeeVL:Activechloridetransportinthepigmentedrabbitconjunctiva.CurrEyeRes12:1041-1048,19937)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20028)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y(2)agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,20019)KageyamaM,FujitaM,ShirasawaE:Endothelin-1mediatedCa2+influxdosenotoccurthroughL-typevoltagedependentCa2+channelsinculturedbovinetrabecularmeshworkcells.JOcularPharmacol12:433-440,199610)JumblattMM,McKenzieRW,JumblattJE:MUC5ACmucinisacomponentofthehumanprecornealtearfilm.InvestOphthalmolVisSci40:43-49,199911)DarttDA,RiosJD,KannoHetal:RegulationofconjunctivalgobletcellsecretionbyCa2+andproteinkinaseC.ExpEyeRes71:619-628,200012)ChoiJY,NamkungW,ShinJHetal:Uridine-5¢-triphosphateandadenosinetriphosphategammaSinducemucinsecretionviaCa2+-dependentpathwaysinhumannasalepithelialcells.ActaOtolaryngol123:1080-1086,200313)FineJ,ColeP,DavidsonJS:Extracellularnucleotidesstimulatereceptor-mediatedcalciummobilizationandinositolphosphateproductioninhumanfibroblasts.BiochemJ263:371-376,1989(92)***