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Nd-YAG レーザー照射による穿孔外傷ラット白内障モデルの創傷治癒メカニズムの検討

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(125)1607《原著》あたらしい眼科27(11):1607.1612,2010cはじめに白内障の予防,治療のためにさまざまな白内障動物実験モデルが研究されている.これまで実験モデルには,酸化障害,代謝障害,水晶体膜機能障害,放射線照射,外傷モデルなど多数報告されている1).マウスやラットを用いた穿孔性外傷白内障モデルも白内障研究のために使用され,針刺入やNd-YAGレーザー照射により水晶体前.を破.させると,組織学的には水晶体線維細胞群(もしくは水晶体皮質)が前面に突出した後に水晶体上皮細胞が著しく増殖,重層化して損傷部を被覆することが報告2~10)されている.しかしNd-YAGレーザー穿孔外傷白内障モデルを用いた創傷治癒過程での免疫組織学的検討および細隙灯顕微鏡による前眼部所見の経時的な変化を併せて観察した報告は見当たらない.今回筆者らは,Nd-YAGレーザー照射によるラット外傷白内障モデルを作製して,白内障水晶体の経時的変化と創傷治癒メカニズムの免疫組織学的な検討を行った.〔別刷請求先〕綿引聡:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:SatoshiWatabiki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,880Kitakobayashi,Mibumachi,Shimotsuga-gun,Tochigi321-0293,JAPANNd-YAGレーザー照射による穿孔外傷ラット白内障モデルの創傷治癒メカニズムの検討綿引聡*1松島博之*1向井公一郎*1寺内渉*1妹尾正*1小原喜隆*2*1獨協医科大学眼科学教室*2国際医療福祉大学MechanismsofWoundHealinginExperimentalCataractModelInducedbyNeodymium-YAGLaserSatoshiWatabiki1),HiroyukiMatsushima1),KoichiroMukai1),WataruTerauchi1),TadashiSenoo1)andYoshitakaObara2)1)DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,2)InternationalUniversityofHealthandWelfareSprague-Dawleyラットを用い,Nd-YAGレーザー照射により水晶体前.を切開し,可逆性の外傷白内障モデルを作製した.この水晶体の混濁変化を細隙灯顕微鏡で経時的(2,4,7,14日後)に観察し,組織学的に解析することで創傷治癒メカニズムの解明を試みた.細隙灯で観察すると,前.下混濁がレーザー照射2日後にピークに達し,その後徐々に減少した.組織学的に解析すると,創傷部位で水晶体上皮細胞が増殖,重層化して破.部が被覆され,水晶体線維細胞に形態変化した.免疫組織染色を行うと,創傷部位に一致してPCNA(proliferatingcellnuclearantigen),抗Hsp70(heatshockprotein70)抗体,抗細胞骨格蛋白質抗体に陽性であった.Nd-YAGレーザー穿孔外傷白内障モデルの混濁減少と創傷治癒は,ストレス蛋白質と細胞骨格蛋白質が関与する可能性が示唆された.TheanteriorcapsuleoftheSprague-DawleyratlenswasinjuredusingNd-YAGlasertoobservethereversibletraumaticcataractmodel.Afterthecataractgradewasobservedattheselectedtimeperiods(2,4,7and14days)viaslitlamp,histologicalanalysiswasperformed.Cataractgradepeakedafter2days,thenimmediatelydecreased.Histologicalanalysisdisclosedproliferationandstratificationoflensepithelialcells(LEC)aroundtherupturedcapsule.TheproliferatingLECbegantoelongateaftertheyhadcoveredtherupturedcapsule.TheproliferatedLECreactedtoantibodiesincludedwithPCNA(proliferatingcellnuclearantigen),Hsp70(heatshockprotein70)andvimentin.TheresultssuggestthatwoundhealingintheNd-YAGlasercataractmodeliscontrolledwithheatshockproteinandcytoskeletalprotein.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1607.1612,2010〕Keywords:白内障,Nd-YAGレーザー,創傷治癒,水晶体上皮細胞,細胞骨格蛋白質.cataract,Nd-YAGlaser,woundhealing,lensepithelialcells,cytoskeletalprotein.1608あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(126)I実験方法1.Nd-YAGレーザー外傷白内障モデルの前眼部観察実験には生後14日齢のSprague-Dawley(SD)ラット3匹6眼を使用した.ラットの実験に関しては,動物実験の飼養および保管に対する基準(NationalInstitutesofHealthGuidelinesontheCareandUseofLaboratoryAnimalsinResearchおよびARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)StatementfortheUseofAnimalsinOphthalmicandVisionResearch)に基づいて行った.SDラットを散瞳した後,Nd-YAGレーザー(Aura,日本ルミナス)を水晶体前.中央部に照射して前.を切開した(設定条件:1.5mJ×4-5shots,切開の大きさ直径約500μm).前.を切開してから,2日後,4日後,7日後,14日後に細隙灯顕微鏡カメラ(SC-6,Kowa)を用いて前眼部を観察,撮影した.撮影した徹照像から,混濁なしをグレード0とし,後.面が透見できる軽度の混濁をグレード1,混濁面積が全水晶体面積の30%以下の場合をグレード2,混濁面積が全水晶体面積の30%以上の場合をグレード3として,水晶体の混濁状態を4段階にグレード分類して経時的変化を解析した.2.組織学的検討Nd-YAGレーザーでSDラット9匹18眼を前.切開してから,2日後,7日後,14日後に眼球摘出して,摘出眼をカルノア固定液に4時間浸漬固定した.パラフィン包埋した後に4μmで薄切してパラフィン組織切片を作製した.切片は,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色または免疫組織染色した.免疫組織染色は,切片を3%過酸化水素によって内因性ペルオキシダーゼ処理を20分間行った後にストレプトアビジン-ビオチン(SAB)法により免疫組織染色をヒストファインSAB-PO(M)キットR(ニチレイ)を用いて行い,発色には3,3¢-ジアミノベンチジンを用いた.これらの組織学的変化は光学顕微鏡(BX51,OLYMPUS)を用いて観察した.一次抗体として,proliferatingcellnuclearantigen(PCNA,ニチレイ),heatshockprotein70(Hsp70,Stressgen),ビメンチン(Sigma)の3種類を用いた.II結果1.Nd-YAGレーザー外傷白内障モデルの前眼部観察(図1)Nd-YAGレーザー照射直後から混濁および皮質の一部が前房内に認められた.2日後に水晶体.および破.部皮質付近の混濁はピークに達した.4日,7日と徐々に混濁は減少し,14日後ではほぼ透明となった.白内障のグレードを4段階に程度分類すると(図2),レーザー照射2日後に高度混濁状態であるグレード2.5±0.5に達するが,以降徐々に混濁は減少して4日後ではグレード1.75±0.75,7日後ではグレード1.25±0.5,14日後ではグレード0.75±0.25に減少した.2.組織学的検討図3にNd-YAGレーザーを照射した水晶体前極部の破.部付近のHE染色の結果を示す.前眼部徹照像で混濁がグレード3まで増加したレーザー照射2日後での組織像は,破.部位で水晶体上皮細胞の増殖および伸展がみられた.混濁がグレード1に減少した7日後で,水晶体.は破.したままで2日後4日後7日後14日後図1Nd-YAGレーザーを照射したSDラット前眼部徹照像Nd-YAGレーザー照射2日後,4日後,7日後および14日後のSDラットの前眼部徹照像を示す.レーザー照射直後から混濁が生じ,2日後に混濁はピークに達するが,それ以降徐々に減少している.黒点は前房中に飛散した水晶体皮質の一部.247経過日数グレード143210図2白内障グレード分類X軸にレーザー照射後の経過日数,Y軸に混濁のグレード分類を示す(n=6).2日後に混濁がピークとなり,その後徐々に減少した.(127)あたらしい眼科Vol.27,No.11,201016092日後7日後14日後図3Nd-YAGレーザー照射群前.部―HE染色上段はNd-YAGレーザー照射したラット水晶体前極部の破.部付近の低倍率,下段は破.部付近の高倍率の組織写真を示す(Bar=100μm).レーザー照射により前.部が破.し,破.したところから水晶体上皮細胞が増殖および伸展している.7日後で前.は破.したままだが,上皮細胞は破.部分の皮質を覆って重層化している.14日後では重層化した細胞の層は薄くなっており,上皮細胞が水晶体線維細胞に形態変化している.2日後7日後14日後図4Nd-YAGレーザー照射群前.部―免疫組織染色(PCNA)Nd-YAGレーザー照射部付近における抗PCNA抗体を使用した免疫組織染色の結果を示す(Bar=100μm).矢印は抗PCNA抗体反応陽性の部分を示す.2日後の破.部付近の水晶体上皮細胞の細胞核に,7日後では重層化した上皮細胞の表層と深層の細胞核に,14日後では表層の細胞核および水晶体線維細胞様に形態変化しつつある細胞の細胞核に陽性所見がみられる.2日後7日後14日後図5Nd-YAGレーザー照射群前.部―免疫組織染色(Hsp70)抗Hsp70抗体を使用した免疫組織染色の結果を示す(Bar=100μm).矢印は抗Hsp70抗体反応陽性の部分を示す.特に2日後での破.した前.直下の水晶体線維細胞の細胞質に陽性所見がみられる.1610あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(128)はあるが,増殖した水晶体上皮細胞が損傷部の皮質を覆って重層化していた.重層化した上皮細胞はHE染色より扁平化を呈している.混濁がグレード1以下に減少した14日後では,重層化した細胞の層は菲薄化し,立方状の上皮形態を呈している.上皮下の皮質付近は無核の水晶体線維細胞の形態を認めた.免疫組織染色を行うと,PCNAは2日後の破.部付近の水晶体上皮細胞の細胞核,7日後では重層化した上皮細胞の表層と深層にある細胞核,14日後では表層の細胞核と水晶体線維細胞様に形態変化しつつある細胞の細胞核に陽性所見がみられた(図4).Hsp70は2日後では破.した前.直下の水晶体線維細胞の細胞質,7日後では重層化した上皮細胞直下の線維細胞の細胞質,14日後には上皮細胞が水晶体線維細胞様に形態変化しているとみられる細胞の細胞質に陽性所見がみられた(図5).ビメンチンは,すべての時期で増殖,重層化した水晶体上皮細胞の細胞質で陽性であった(図6).III考按穿孔性外傷白内障モデルはラット,ウサギやマウスの水晶体.に針2~4)やNd-YAGレーザー5~10)で穿孔することで再現性のよい白内障が発症するモデルである.水晶体前.を破.させると,水晶体線維細胞群(もしくは水晶体皮質)が前面に突出した後に水晶体上皮細胞が著しく増殖,重層化して損傷部を被覆する2~10).Nd-YAGレーザーの発振波長は1,064nmの近赤外領域であり,イオン化したガスのプラズマの発生により,組織を加熱せずに照射部位を機械的に破壊する11).そのためNd-YAGレーザー照射による前.切開は,針刺入による経角膜的な方法とは異なり,水晶体以外の眼組織への影響を最小限に留めて12,13)白内障を生じさせることが可能である.岡本ら8~10)はSDラットNd-YAGレーザー白内障モデルの水晶体を摘出して実体顕微鏡下で混濁変化を観察しており,レーザー照射14日後まで混濁が増強したと報告している.Gonaら7)はレーザー照射15日で水晶体損傷部の瘢痕は残存するものの,肉眼的な観察で混濁は消失していたと報告している.今回筆者らは,過去の報告10,12)を基に水晶体前.中央部にレーザーを照射し,前.および皮質表層を中心に創傷の修復経過を観察した.レーザー照射14日後まで細隙灯顕微鏡を用いて経時的に水晶体の混濁を観察したところ,一過性に増加した後に減少していた.外傷白内障モデルの組織学的解析はこれまでも行われており,筆者らの観察でも早期の水晶体前面の混濁時期に,混濁部位に一致した前.破.部での水晶体上皮細胞の著しい増殖を認めた.その後,増殖した水晶体上皮細胞が重層化して損傷部を被覆するという,過去の報告2~10)と同様の組織修復行程がみられた.筆者らの観察ではさらに,水晶体混濁の減少に伴い,重層化していた水晶体上皮細胞が菲薄化して水晶体線維細胞に形態変化していくことが観察できた.過去には3H-サイミジンオートラジオグラフィー法8,10)を用いて外傷白内障モデルの破壊部位別(前.,赤道部,後.破壊)の水晶体上皮細胞の増殖能を観察し,水晶体増殖帯以外の各破壊部位でも水晶体上皮細胞の増殖が認められたと報告されている.筆者らは,抗PCNA抗体を用いた免疫組織染色法14~16)を用いて経時的に増殖能の観察を行った.その結果,修復過程で重層化した上皮細胞の細胞核や,菲薄化して水晶体線維細胞様に形態変化している細胞の細胞核にPCNAの発現がみられ,免疫組織学的手法でも水晶体増殖帯ではなく前.損傷部付近での水晶体上皮細胞の増殖を確認できた.ストレス反応時に産生される分子シャペロンHsp7017)の発現が重層化した上皮細胞直下の水晶体線維細胞や,水晶体線維芽細胞に形態変化している細胞にみられることから,水晶体前.が損傷されると,破.部位でストレス反応が生じて水晶体上皮細胞の増殖能が亢進することが示唆された.同様のストレス反応は穿刺性外傷モデルでも擦過によりひき起こされる可能性があるが,これらのストレス反応による分子シャペロンの報告はなく,今後両モデルにおいて比較検討する必要がある.細胞骨格蛋白質はラット亜セレン酸白内障モデルを用いた実験から,水晶体の透明性維持に関連することが報告18~20)されている.2日後7日後14日後図6Nd-YAGレーザー照射群前.部―免疫組織染色(ビメンチン)抗ビメンチン抗体を使用した免疫組織染色の結果を示す(Bar=100μm).矢印は抗ビメンチン抗体反応陽性の部分を示す.水晶体上皮細胞の増殖,重層化に伴って陽性反応がみられ,特に7日後の上皮細胞が重層化している部位で強い陽性反応がみられる.(129)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101611Wisterラットでは可逆性の白内障が発生し,透明治癒過程に細胞骨格蛋白質が発現している20).今回,外傷後の創傷治癒反応の部位に一致して細胞骨格蛋白質であるビメンチン発現の増強が免疫組織学的に認められた.これらの強陽性の不均一な蛋白質の確認は,蛋白質が凝集した可能性があることが示唆される.外傷白内障においても組織修復過程に細胞骨格蛋白質が関連している可能性がある.混濁の再透明化については,マウス外傷白内障モデルで,創傷後水晶体線維が再生することで混濁水晶体が再透明化したと報告している21).今後14日以降の変化を観察する必要がある.以上の考察より,Nd-YAGレーザー白内障モデルの混濁出現および減少についての機序を推察した(図7).通常の水晶体では増殖帯周辺部の水晶体上皮細胞のみが増殖,分裂をくり返し,赤道部に移動して水晶体線維細胞へと分化する.しかし,Nd-YAGレーザー照射により水晶体前.が破.すると創傷治癒反応としてストレス応答が生じ,増殖帯ではなく前.損傷部周辺での水晶体上皮細胞の増殖能亢進と,ビメンチンを含んだ細胞骨格蛋白質の発現の増強が生じる.この損傷部周辺での水晶体上皮細胞の増殖,重層化が生じることで水晶体が混濁する.しかし,水晶体上皮細胞層により損傷部が被覆されると,水晶体上皮細胞の重層化が抑制され,次第に細胞層が菲薄化して水晶体線維細胞に形態変化し,水晶体線維を再生することで混濁が減少すると考えた.しかしながら,水晶体混濁減少と再生の機序は水晶体上皮細胞が産生する基底膜やコラーゲン,細胞が前房内の前房水やマクロファージなどの貪食細胞による影響が関与している可能性があり,今後長期間のさらなる検討が必要である.本稿の要旨は第47回日本白内障学会において発表した.本研究のためにご指導を頂いたニュービジョン眼科研究所石井康雄先生に感謝の意を表します.文献1)岩田修造:水晶体その生化学的機構.p311-360,メディカル葵出版,19862)FagerholmPP,PhilipsonBT:Experimentaltraumaticcataract.I.Aquantitativemicroradiographicstudy.InvestOphthalmolVisSci18:1151-1159,19793)UgaS:Woundhealinginthemouselens.ExpEyeRes32:175-186,19814)雑賀司珠也:後発白内障でのTGFbシグナル伝達.日本白内障学会誌16:41-44,20045)CampbellCJ,RittlerMC,InnisREetal:Oculareffectsproducedbyexperimentallasers.III.Neodymiumlaser.AmJOphthalmol66:614-632,19686)PauH,WeberU,KernWetal:LesionandregenerationoftheanteriorandposteriorlenscapsuleandcortexinrabbitsNd:YAGlaser.GraefesArchClinExpOphthalmol227:392-400,19897)GonaO,WhiteJH,ObenauerL:Woundhealingbytheratlensafterneodymium-YAGlaserinjury.ExpEyeRes40:251-261,19858)岡本庄之助,照林宏文,堤元信ほか:Nd-YAGレーザー照射による白内障モデル─1.照射部位による上皮細胞増殖能と進展形式の変化─.眼紀42:1863-1868,19919)照林宏文,岡本庄之助,池部均ほか:QスイッチNd-YAGレーザー照射による白内障モデル─2.照射部位による白内障進展形式の差異─.日眼会誌96:440-446,199210)照林宏文,岡本庄之助,池部均ほか:QスイッチNd-YAGレーザー照射による白内障モデル─3.照射部位による上皮細胞増殖能の変化─.眼紀43:679-687,199211)Aron-RosaD,GriesemannJC,AronJJ:Useofpulsedneodymiumyaglaser(picosecond)toopentheposteriorlenscapsuleintraumaticcataract:Apreliminaryreport.OphthalmicSurg12:496-499,198112)矢部京子:Nd-YAGレーザーによる水晶体前.切開について─基礎実験および臨床成績─.埼玉医科大学雑誌13:131-138,198613)余敏子:パルス型Nd-YAGレーザー照射の網脈絡膜に対……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………図7仮説:混濁水晶体の再透明化Nd-YAGレーザー照射により前.が破.すると,創傷治癒反応として損傷部周辺での細胞増殖因子や細胞骨格蛋白質,熱ショック蛋白質の発現が増強して水晶体上皮細胞の異所性増殖が生じ,上皮細胞が重層化することで水晶体混濁が生じる.しかし,損傷部を被覆した後に水晶体上皮細胞の重層化が調節されて細胞層が菲薄化し,水晶体線維細胞様に形態変化することで混濁部位の再透明化を生じる.1612あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(130)する影響.特に硝子体内照射時の傷害について.埼玉医科大学雑誌12:267-275,198514)加藤良平:免疫組織化学を用いた細胞増殖能の解析.組織細胞化学,p47-50,学際企画,199415)山口慶子,庄司昭世,加藤圭一ほか:ProliferatingCellNuclearAntigenによるラット水晶体上皮細胞増殖能の検討.あたらしい眼科8:1935-1938,199116)久保江理,高柳克典,都筑昌哉ほか:抗PCNA免疫組織化学法による水晶体上皮細胞の増殖動態の研究.あたらしい眼科12:1745-1749,199517)永田和宏:ストレス蛋白質─基礎と臨床─.p100-114,中外医学社,199418)MatsushimaH,DavidLL,HiraokaTetal:Lossofcytoskeletalproteinsandlenscellopacificationintheselenitecataractmodel.ExpEyeRes64:387-395,199719)松島博之:白内障・後発白内障と細胞骨格蛋白質─分子生物学的解析─.日本白内障学会誌15:5-20,200320)松島博之,向井公一郎,小原喜隆ほか:亜セレン酸白内障モデルにおける水晶体混濁減少に関する蛋白質の変動.日眼会誌104:377-383,200021)HirayamaS,WakasugiA,MoritaTetal:Repairandreconstructionofthemouselensafterperforatinginjury.JpnJOphthalmol47:338-346,2003***

ガラクトースラット糖白内障モデルガラクトースラット糖白内障モデルの蛋白質解析

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(125)11310910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(8):11311137,2009cはじめに糖尿病は若年者でも白内障を進行させることから,問題視されている1,2).ラットにガラクトースを投与し発生する糖白内障はヒト糖尿病白内障と類似点が多いことから,糖尿病白内障メカニズムの解明のためさまざまな研究3,4)が行われてきた.これまでの研究により糖白内障は,糖代謝異常により糖アルコールの蓄積が生じ,水晶体線維細胞が膨化,破壊され5),水晶体が混濁すると考えられている.水晶体は高蛋白質の組織であり蛋白質の恒常性は水晶体の透明性維持に重要であるが,糖白内障においては実際に生じている蛋白質変化を解析した報告は少ない.そこで今回筆者らは糖白内障の蛋白質変化に着目した.ラットにガラクトースを投与し,細隙灯を用いて糖白内障の進行を経時的に観察した.水晶体の透明性維持に重要な役割をもつと考えられる細胞骨格蛋白質6)を中心に水晶体蛋白質を分子生物学的および免疫組織学的に解析した.〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiMatsushima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,880Kitakobayashi,Mibu,Shimotsuga-gun,Tochigi321-0293,JAPANガラクトースラット糖白内障モデルの蛋白質解析武井千明*1向井公一郎*2松島博之*2妹尾正*2小原喜隆*1*1国際医療福祉大学*2獨協医科大学眼科学教室ProteinAnalysisUsingGalactosemicRatCataractModelChiakiTakei1),KoichiroMukai2),HiroyukiMatsushima2),TadashiSenoo2)andYoshitakaObara1)1)InternationalUniversityofHealthandWelfare,2)DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityガラクトース糖白内障の観察と蛋白質変化を解析し糖尿病白内障の原因を検討した.生後9週齢のSprague-Daw-ley(SD)ラットを使用し,50%ガラクトース食餌群(糖白内障群),通常食餌群(対照群)を作製した.経時的に水晶体を細隙灯で観察し,水晶体の混濁をグレード分類した.2,4週に眼球を摘出して水晶体を採取し,蛋白質変化を解析した.細隙灯による観察結果では,糖白内障群は2週から周辺部皮質に軽度混濁が生じ経時的に進行し,4週目には高度の白内障に進行した.対照群ではいずれの時期にも混濁は観察されなかった.糖白内障群は蛋白質密度解析とウェスタンブロッティングで4週目に細胞骨格蛋白質領域のバンドの減少が確認された.免疫組織化学染色を行うと,糖白内障群では投与1週目より水晶体皮質表層に細胞配列と細胞骨格蛋白質の異常を認めた.糖白内障の進行性と細胞骨格蛋白質の関連性について考察した.Causesofcataractinthegalactose-inducedratcataractmodelwereclariedthroughobservationofcataractdevelopmentandanalysisofproteinchanges.Approximately9-weekoldSprague-Dawley(SD)ratswerepre-paredandseparatedinto2groups:thediabeticcataractgroup(50%galactose-fedrats)andthecontrolgroup(normallyfedrats).Theirlenseswereobservedviaslit-lampandgradedatselectedtimepoints.At2and4weeks,thelensesweredissectedfrombothgroupsandsubjectedtoproteinanalysis.Inthediabeticcataractgroup,slightopacicationwasobservedincorticalpartsat2weeks,developingintosevereopacicationat4weeks.Nosignicantchangeswereobservedinthecontrolgroup.Densitometryanalysisandwesternblottingshowedadecreaseincytoskeletalproteinsat4weeks.Immune-histologicalanalysisshowedabnormalitiesofcellalignmentandcytoskeletalproteinsinthesurfaceofthelenscortexafter1week.Changesinthecytoskeletalpro-teinsandthecauseofdiabeticcataractdevelopmentareconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11311137,2009〕Keywords:糖白内障,ガラクトースラット白内障,細胞骨格蛋白質,蛋白質解析,ウェスタンブロッティング,免疫組織学.diabeticcataract,galactosemicratcataractmodel,cytoskeletalprotein,proteinanalysis,westernblot-ting,immunohistology.———————————————————————-Page21132あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(126)I対象および方法1.ラット糖白内障の観察生後9週齢約180gの雌のSprague-Dawley(SD)ラットを24匹用意し,無作為に2群に分けた.ラットの実験に関しては,動物実験の飼養および保管に対する基準(NationalInstitutesofHealthGuidelinesontheCareandUseofLaboratoryAnimalsinResearchおよびARVOStatementfortheUseofAnimalsinOphthalmicandVisionResearch)に基づいて行った.1群を対照群とし,通常食餌であるMF(飼育用)実験動物用固形試料(オリエンタル酵母工業株式会社)のみを与えた.もう1群を糖白内障群としてMF実験動物用固形飼料にガラクトースを50%含有させた飼料を与えた.給水は自由に取らせ,1匹当たり1日13gすべての飼料を食べていることを目視で確認した.実験開始から1週ごとに細隙灯を用いて,前眼部撮影を行った.細隙灯の観察結果をもとに白内障の進行をSippelの報告7)を基にGrade0から4に分類(表1)しグラフ化した.2.ラット糖白内障の水晶体蛋白質解析ガラクトース投与2,4週で6匹ずつ安楽死させ眼球摘出を行った.眼球摘出後,水晶体を採取し氷上に置くことで水晶体核部を混濁させる寒冷白内障を発症させ,水晶体核と皮質に分離し実験に使用するまで80℃で冷凍保存した.摘出した水晶体の蛋白質量が微量なため,単一個体の2眼を1つのサンプルとした.核と皮質をそれぞれ水溶性蛋白質と不水溶性蛋白質に分けるため,それぞれにホモジェネートバッファー(EGTA)(20mMsodiumphosphate+1.0mMethyl-eneglycol-bis(b-aminoethylether)-N,N,N¢,N¢-tetraa-ceticacid,pH7.0)を50μl加えてホモジェネートし,遠心分離(10,000g,10分間)を行い,得られた上清を別のマイクロチューブに移し,再び同じ操作を2回くり返した.上清成分を水溶性蛋白質,残った沈殿物を不溶性蛋白質として,不溶性蛋白質に8M尿素を加えて溶解し,解析に使用した.採取した蛋白質濃度をBCAProteinAssayKit(PIERCE)を用いて測定した.蛋白質濃度測定後,一次元電気泳動(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動:SDS-PAGE)を,200Vで約1時間20分間行った.発色にはクーマッシーブルルアントブルー溶液を使用し,脱色後ゲルドライキット(TEFCO)を用いてゲルを乾燥保存した.電気泳動で得た蛋白質のバンドを量的に解析するためゲルをスキャナ(8bit/pixel)で取り込み,Scionimage(Scion社)を用いて蛋白質バンドを定量して,蛋白質全体量に対するバンド密度の割合を算出することで蛋白質密度解析を行った.統計学的解析にはWelcht検定を用い,p<0.05を有意差ありとした.また免疫学的に蛋白質を同定するためにウェスタンブロッティングを行った.上記と同じ方法を用いて電気泳動を行い,転写膜にはPVDF(polyvinylidenediuoride)膜を用いて26Vで2時間転写を行った.ブロッキング液には5%non-fat-dry-milk,0.1%Tween20溶液を用いた.一次抗体として抗ビメンチン抗体を200倍希釈,抗アクチン抗体を200倍希釈して使用し,二次抗体としてalkalinephos-対照群糖白内障群3週2週4週1週図1ラット糖白内障観察結果細隙灯を用いて撮影した水晶体の経時的変化の1例.上段の対照群ではすべての週で透明水晶体が確認された.下段の糖白内障群は,2週から泡状の淡い混濁が周辺部に発現し,3週,4週で混濁は後中心方向に向け増強した.表1ラット糖白内障グレード分類Grade0混濁なしGrade1赤道部の混濁Grade2赤道部から皮質1/2以下の混濁Grade3赤道部から皮質1/2以上の混濁Grade4水晶体中心部付近までの混濁細隙灯で観察した水晶体をGrade0からGrade4まで分類した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091133(127)phataseconjugateのanti-mouseIgG抗体(Bio-Rad)を使用し,BCIP/NBT(5-bromo-4-chloro-3¢indolyphosphate/nitro-bluetetrazoliumchloride,Bio-Rad)で発色した.3.組織学的解析組織学的解析にはSDラット4匹を使用した.ガラクトース投与1,2週目に対照群と糖白内障群の1匹ずつ眼球を摘出し,カルノア固定を行った.脱水後,パラフィンに包埋し,4μmの組織切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色した.細胞骨格蛋白質の変化をみるために免疫組織染色を行い,一次抗体として抗ビメンチン抗体(SIGMA×100),抗アクチン抗体(MPbiomedicals×100)を使用し,ヒストファインSAB-PO(MULTI)キット(ニチレイ)を用いてストレプトアビジン・ビオチン法にて増感し,発色にはジアミノベンチジンを使用した.II結果1.ラット糖白内障の観察図1に対照群,糖白内障群の水晶体を細隙灯で観察した経過の1例を示す.対照群では,いずれの週においても混濁は生じていなかった.糖白内障群では2週から周辺部に泡状の混濁が発生し,3週では後中心部に向け混濁が強まり,4週には後全体に混濁が広がった.グレード分類したグラフを図2に示す.対照群では経過観察中,混濁のグレードは0のままであるが,糖白内障群では,経過とともに混濁が増強していた.2.ラット糖白内障の水晶体蛋白質解析SDS-PAGEにおいて核領域水溶性および不溶性蛋白質,皮質領域水溶性蛋白質では,対照群と糖白内障群の間で差を認めなかった(データ表示せず).皮質領域不溶性蛋白質のSDS-PAGE(図3)では,2週において対照群と糖白内障群に差異は確認できないが,4週では対照群に比べ,糖白内障群の高分子量領域の蛋白質量が減少していた.皮質領域不溶性蛋白質を構成する細胞骨格蛋白質であるビメンチンとアクチンの変化を蛋白質密度解析で定量した結果(図4),57kDaのビメンチン領域において2週では対照群と糖白内障群に有意差はないが,4週では対照群と比較して糖白内障群の蛋白質量は有意に減少していた(p<0.01).48kDaのアクチン領域においては,2,4週ともに有意差を認めなかった.図5に皮質領域不溶性蛋白質のウェスタンブロッティングの結果を示す.2週では対照群,糖白内障群ともに抗ビメンチン抗体,抗アクチン抗体により,ビメンチン,アクチンが検出された.4週では,対照群のバンドは検出されたが,糖白内障群の4週においてビメンチン,アクチンの抗体反応蛋白質量が低下していた.3.ラット糖白内障の組織学的解析ヘマトキシリン・エオジン染色を行った結果を図6に示す.対照群では投与1週,2週目で線維細胞の配列が確認できた.糖白内障群では投与1週目に赤道部から後の表層皮質にかけて線維細胞は膨潤し,細胞膜に融解がみられ皮質に空胞を呈していた.前,後付近の表層皮質も細胞配列の異常が生じていた.投与2週目では,赤道部に崩壊した線維細胞が多数存在し,前,後にも空胞を呈していた.抗ビメンチン抗体の免疫組織染色の結果を図7に示す.対照群では線維細胞の配列に沿って均一な陽性染色を認めたのに対して,糖白内障群では投与1週目から表層皮質の細胞配2週4週20011596513729207kDa20011596513729207kDa対照群糖白内障群対照群糖白内障群→図3皮質領域不溶性蛋白質のSDSPAGE皮質領域不溶性蛋白質のSDS-PAGEの結果を示す.2週では対照群と糖白内障群に明らかな差異は確認されないが,4週で糖白内障のバンドが減少,消失している(矢印部).012341234(週)Grade:対照群:糖白内障群n=6図2ラット糖白内障グレード分類結果対照群はすべての週でGrade0であったが,糖白内障群は週の経過とともに混濁が増強した.———————————————————————-Page41134あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(128)列異常が生じている部位に一致して不均一な陽性染色を認めた.2週では不均一な陽性染色はさらに強まり,前部,後部付近も変性傾向にあった.抗アクチン抗体で免疫染色した結果を図8に示す.抗ビメンチン抗体染色と類似して1週目の赤道部,2週目の前部など細胞配列異常が生じている部位に一致して不均一な染色を認めた.III考察糖尿病が白内障の発症要因となることはわかっているが,メカニズムについてはいまだ不明な点も多い.糖白内障の原因の一つとして,糖アルコールであるガラクチトールの蓄積が関与していると考えられているが,ガラクチトールの濃度を測定した報告8)では,50%のガラクトースを負荷したラットの水晶体で4.5から8.5日目に濃度がピークに達し白内障出現時期には濃度が低下していたとされている.このことからも単にガラクチトールの蓄積が直接水晶体を混濁しているのではなく,ガラクチトールの蓄積により生じるさまざまな障害により白内障が発生した可能性が示唆される.糖白内障の発症機序については他にも報告があり,糖代謝異常によるATP(アデノシン三リン酸)産生の低下や細胞膜の異常9),水晶体細胞内へのカルシウム流入によるカルパインなどのカルシウム依存性の蛋白質分解酵素が活性化し,細胞骨格蛋白質が分解される可能性を示唆している報告1012),線維細胞の膨化,崩壊による,無機イオン,アミノ酸,ミオイノシトールなどの細胞膜維持に関与物質の水晶体外漏出13)や,抗酸化作用のあるスーパーオキシドディスムターゼの活性が低下による蛋白質凝集の可能性を示唆した報告14)などがある.蛋白質密度()蛋白質密度()01234564週2週012345:対照群:糖白内障群*4週2週6ab図4蛋白質密度解析結果SDS-PAGEの蛋白質密度を解析した.aがビメンチン領域,bがアクチン領域.ビメンチン領域の4週の結果で対照群と糖白内障群に有意差を認めた(*:p<0.01).投与2週投与4週ab対照群糖白内障群対照群糖白内障群対照群糖白内障群対照群糖白内障群図5皮質領域不溶性蛋白質のウェスタンブロッティング結果皮質領域不溶性蛋白質を抗ビメンチン抗体(a),抗アクチン抗体(b)を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す.2週ではビメンチン,アクチンの存在が確認できるが,4週の糖白内障群ではビメンチン,アクチンともに抗体の反応が低下,消失している.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091135(129)しかし,糖白内障における水晶体蛋白質の変化を検討した報告は少ない.筆者らは,以前より水晶体透明性維持と細胞骨格蛋白質の関係6)について着目しており,今回糖白内障モデルを用いて水晶体混濁と細胞骨格蛋白質変化について解析した.今回のモデルではガラクトース投与2週目から軽度の混濁が発症し,混濁は週の経過とともに増強した.細胞骨格蛋白質は水晶体の透明性維持に重要15,16)とされ,ビメンチンは,水晶体細胞の形状,透明性維持に関与17,18)し,アクチンは,水晶体細胞形状の維持と伸長,水晶体調節機能に関与する19)といわれている.ビメンチン,アクチンを含む細胞骨格蛋白質の減少は蛋白質間のネットワークを乱し,白内障の要因になる20)とされていることから,筆者らは細胞骨格蛋白質であるビメンチン,アクチンの変化に着目し,蛋白質解析を行った.しかし,蛋白質解析による細胞骨格蛋白質の変化は,混濁が進行した4週でのみ生じていた.そこで,白内障初期の細胞骨格の変化分布を追うために組織学的に細胞骨格を解析したところ,実験開始早期である1週,2週の糖白内障群で水晶体皮質部に細胞骨格蛋白質の異常が生じていることがわかった.今回の結果によりガラクチトールの蓄積,ATP産生の低下などが細胞骨格蛋白質を含んだ細胞膜の異常を発生させて初期の細胞骨格蛋白質の変化を生じ,活性化した蛋白質分解酵素によって細胞内の細胞骨格蛋白質が分解され,蛋白質漏出現象から後期の細胞骨格蛋白質の減少を生じたと考えた.白内障の発生原因は一つでなく,糖尿病白内障だけでもさまざまな組織化学的変化が複雑に絡み,水晶体蛋白質間のネットワークが破壊され,白内障が進行していく.細胞骨格蛋白質変化は糖白内障を発生させる要因の一つであるが,細胞骨格蛋白質変化を解明するだけでは糖白内障のメカニズムを解明することはできない.糖代謝異常によって生じる複雑な水晶体成分の変化を一つひとつ解明していくことが,糖白1週2週2週1週abc対照群糖白内障群図6組織学的解析ヘマトキシリン・エオジン染色上段が対照群,下段が糖白内障群を示し,a:赤道部,b:前部,c:後部の結果を各々示す.投与1週の対照群赤道部では水晶体上皮細胞が弧状形状を保ちながら水晶体核部に移動しているが,ガラクトース白内障群では細胞の配列は不均一で細胞間隙が開いている(↑).投与2週になると糖白内障群で前部,後部に空胞化がみられ,赤道部皮質では細胞配列の乱れが生じている.cap:水晶体,cortex:水晶体皮質,Bar=100μm.———————————————————————-Page61136あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(130)内障のメカニズム解明や,予防法の確立に重要であると思われる.本論文の要旨は,第47回日本白内障学会にて発表した.文献1)藤永豊:糖尿病性白内障.眼科MOOK8:220-233,19792)髙村佳弘,久保江理,赤木好男:糖尿病白内障.眼科45:1267-1275,20033)RobisonWGJr,HoulderN,KinoshitaJH:Theroleoflensepitheliuminsugarcataractformation.ExpEyeRes50:641-646,19904)DvornikE,Simard-DuquesneN,KramiMetal:Polyolaccumulationingalactosemicanddiabeticrats:controlbyanaldosereductaseinhibitor.Science182:1146-1148,19735)KinoshitaJH:Mechanismsinitiatingcataractformation.Proctorlecture.InvestOphthalmol13:713-724,19746)MatsushimaH,DavidLL,HiraokaTetal:Lossofcytoskeletalproteinsandlenscellopacicationinthesele-nitecataractmodel.ExpEyeRes64:387-395,19977)SippelT:Changesinthewater,protein,andgalactosecataractdevelopmentinrats.InvestOphthalmol5:568-575,19668)竹村俊彦:ガラクトース負荷ラットにおけるガラクチトールの影響について.阪市医誌39:233-252,19909)小原喜隆:病因.眼科学大系水晶体,p113-126,中山書店,199510)SandersonJ,MarcantonioJM,DuncanG:Ahumanlensmodelofcorticalcataract:Ca2+-inducedproteinloss,vimentincleavageandopacication.InvestOphthalmolVisSci41:2255-2261,200011)MarcantonioJM,DuncanG:Calcium-induceddegrada-tionofthelenscytoskeleton.BiochemSocTrans19:1148-1150,199112)YoshidaH,MurachiT,TsukaharaI:DegradationofactinandvimentinbycalpainII,aCa2+-dependentcysteineproteinase,inbovinelens.FEBSLett21:259-262,19841週2週2週1週abc対照群糖白内障群図7組織学的解析免疫組織染色(抗ビメンチン抗体)抗ビメンチン抗体組織免疫染色の結果.上段が対照群,下段が糖白内障群を示し,a:赤道部,b:前部,c:後部の結果を各々示す.投与1週の対照群赤道部では均一に抗ビメンチン抗体陽性部位が観察できた.糖白内障群では赤道部と後部に細胞配列の乱れが生じている部位に一致して抗ビメンチン抗体強陽性反応を認めた(*).投与2週でも糖白内障群では抗ビメンチン抗体強陽性反応がみられたが,空胞化のみられた部位には反応を認めない(※).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091137(131)13)KinoshitaJH:Aldosereductaseinthediabeticeye.XLIIIEdwardJacsonMemorialLecture.AmJOphthalmol102:685-692,198614)橋本浩隆:糖尿病者白内障と非酵素的糖化反応の関係.日眼会誌102:34-41,199715)IrelandM,MaiselH:Evidenceforacalciumactivatedproteasespecicforlensintermediatelaments.CurrEyeRes3:423-429,198416)松島博之,小原喜隆,向井公一郎ほか:亜セレン酸白内障モデルにおける水晶体混濁減少に関する蛋白質の変動.日眼会誌104:377-383,200017)EliisM,AlousiS,LawniczakJetal:Studiesoflensvimentin.ExpEyeRes38:195-202,198418)SandilandsA,PrescottAR,CarterJMetal:VimentinandCP49/lensinfromdistinctnetworksinthelenswhichareindependentlymodulatedduringlensbrecelldierentiation.JCellSci108:1397-1406,199519)MousaGY,TrevithicJR:Actininthelens:chengesinactinduringdierentiationoflensepithelialcellsinvivo.ExpEyeRes29:71-81,197920)CapetanakiY,SmithS,HeathJP:Overexpressionofthevimentingeneintransgenicmiceinhibitsnormallenscelldierentiation.JCellBiol109:1653-1165,1994***1週2週2週1週abc対照群糖白内障群図8組織学的解析免疫組織染色(抗アクチン抗体)抗アクチン抗体組織免疫染色の結果.上段が対照群,下段が糖白内障群を示し,a:赤道部,b:前部,c:後部の結果を各々示す.投与1週対照群では均一な反応が確認できたが,糖白内障群の赤道部において抗アクチン抗体強陽性所見を認めた(*).投与2週糖白内障群では前部,後部においてアクチンの強陽性所見を認めた(*).