《原著》あたらしい眼科36(7):962.965,2019cKinectRセンサーを用いた視作業距離の測定矢崎香菜*1干川里絵*1,2半田知也*2庄司信行*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学CMeasurementofVisualWorkingDistanceUsingKinectRSensorKanaYazaki1),RieHoshikawa1,2),TomoyaHanda2)andNobuyukiShoji1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthScience,KitasatoUniversityC目的:屈折矯正法の多様化に伴い,患者の日常生活における視作業距離を改めて評価する必要がある.今回筆者らはCKinectセンサー(Microsoft社)を用いて,PC視作業中の視作業距離を経時的に計測し検討した.対象および方法:北里大学病院外来患者C43名(平均年齢C46.6±20.9歳,男女比=16:27,矯正視力C1.0以上)を対象とした.眼科的手術既往のある症例は除外した.視作業距離はCKinectセンサーを利用した読書距離計測システムを用いて,10分間経時的に計測し,PC視作業距離と年代別における視作業距離の変化量を先行的に検討した.結果:PC視作業中における平均視作業距離はC63.6±9.8Ccm(51.5.92.6Ccm)であった.視作業距離の変化量は,10.30歳代C2.4±7.0Ccm,40.50歳代C2.3±6.6Ccmに比較し,60.70歳代はC5.0±11.6Ccmと大きく視作業距離変化量に有意差を認めた(p<0.05).結論:PC視作業距離は個人差および時間的変動が大きく,経時的測定値から作業距離を求める必要性が示唆された.CPurpose:Indiversifyingtherefractivecorrectionmethod,refractioncorrectionforvisualworkingdistanceisimportant.Inthisstudy,weusedtheKinectsensortodeterminevisualworkingdistanceduringPC-viewingworkoverCtime.CSubjectsandmethods:IncludedCwereC43outpatientsCatCKitasatoUniversityCHospital(averageage:C46.6±20.9years;maletofemaleratio:16:27;correctivevision:≧1.0);onecasewithahistoryofophthalmicsurgerywasexcluded.Inthepreliminarystudy,wedeterminedvisualworkingdistanceduringPC-viewingworkandthechangeinvisualworkingdistanceover10minutes,afterstratifyingbyage.Results:TheaveragevisualworkingCdistanceCwasC63.6±9.8Ccm.CChangesCinCvisualCworkingCdistanceCshowedCsigni.cantCdi.erencesCinCtheC60sand70sagegroups.Conclusion:PC-viewingworkingdistanceshowedlargeinter-individualdi.erencesandtem-poralvariation.Werecommendthatthisparameterbedeterminedbyperiodicmeasurementsovertime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(7):962.965,C2019〕Keywords:視作業距離,Kinectセンサー,経時的測定,PC視作業距離,年代別における視作業距離変化量.vi-sualworkingdistance,Kinectsensor,periodicmeasurementsovertime,visualworkingdistanceduringPC,visualworkingdistancechargeamountbyage.Cはじめに現在,眼鏡矯正やコンタクトレンズ矯正,屈折矯正手術など屈折矯正法の多様化により,患者の見え方に対する要求度は高まっている.そのため,患者の見え方の希望に対するシミュレーションや屈折矯正前のインフォームド・コンセントは重要である1,2).多様な生活環境に応じた実際の視作業距離に合わせた屈折矯正が必要であり,遠用・中間・近用における患者の希望する日常生活に対する視距離の把握が求められる.屈折矯正法のなかでも,とくに眼鏡による屈折矯正はその簡便性,安全性などを考えるともっとも基本的で欠くことのできない矯正手段である3).現代の視覚情報社会では長時間の近方作業を強いられることも少なくない.調節疲労の緩和の目的として近用眼鏡を装用する機会も多くなっており,従来の老眼鏡とは趣が若干異なってきている背景も報告されている4).視作業距離の評価には問診または,検査時の患者による視作業距離の再現が考えられる.しかし,実際の視作業中は作業時間とともに,疲労や集中度などによる姿勢の変化により,経時的に変化して〔別刷請求先〕矢崎香菜:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:KanaYazaki,CO,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPANC962(124)いると考えられる.これまでの方法では定点での実測のみで,作業時の変動を詳細に捉えることはできていない.また,これまでに眼鏡の処方変更の割合は高くなっていること5)などを考慮すると,日常生活における視作業距離において経時的かつ他覚的に評価することが必要であると考えた.そこで今回筆者らは,赤外線の距離センサーであるCKinectCRを用いてCPC作業中の視作業距離の経時的測定を行い,先行的に検討を行ったので報告する.CI対象および方法対象は,北里大学病院外来患者C43名(平均年齢C46.6C±20.9歳,男女比=16:27,矯正視力C1.0以上,平均屈折値C.2.77C±3.34D[C.12.06D.+2.75D])である.眼科的手術既往のある症例は除外した.各年代対象人数はC10.30歳代C15名,40.50歳代C14名,60.70歳代C14名であった.KinectCRセンサー(Microsoft社)は小型のモーションセンサーデバイスである.3D赤外線光を対象物に投射し,カメラで物体に反射した赤外線光を読み取ることで対象物との距離変化を捉えることが可能である.今回筆者らはこの基本機能を応用し,対象者の眼と対象物の距離を任意の時間,経時的に計測した.測定機器本体,および測定外観を図1に示す.本検討における作業課題はC23インチモニターに提示された文字サイズC18フォントC32行の図書の黙読(10分間)である.サンプリングレートはC1秒である.室内の机上面照度はC750Clxであり,被験者は日常のCPC視作業時における近見屈折矯正下(日常のCPC視作業を矯正なしで行っている被験者に対しては裸眼で施行)にて測定した.検討項目は,年代別のC10分間の平均CPC視作業距離と開始時測定位置からの視作業距離ド・コンセントの後,同意を得られたことを確認した.本検討は北里大学医学部・病院倫理委員会の承認を受けている(承認番号:B17-008).CII結果PC視作業距離のC10分間の平均値を図2に示す.全年代の平均CPC視作業距離はC63.6C±9.8Ccm,年代別ではC10.30歳代C59.7C±7.13Ccm,40.50歳代C63.6C±9.6Ccm,60.70歳代C67.8±11.4Ccmであり,高年齢になるにつれ視作業距離が遠ざかる傾向にあったが,統計学的な有意差は認められなかった.PC視作業距離変化量を図3に示す.計測開始時から視作業距離が変動する被験者を多く認めた.各被験者の測定開始全年代10~30歳代40~50歳代60~70歳代n=43n=15n=14n=14図2PC視作業距離の10分間の平均値統計的な有意差は認められないものの,年齢とともに視作業距離が遠ざかる傾向がみられた.Bonferronitest(p>0.05).変化量である.統計解析にはCBonferronitestを用い,有意水準は危険率5%未満とした.対象者に対して本研究内容についての十分なインフォーム図1KinectRセンサーと測定画面23インチモニターにCKinectCRセンサーを取り付け,測定した.図3PC視作業距離の10分間の変化量変化量は,測定開始時の視距離を基点(0)とし,10分間の経時的な視作業距離変化を算出した.グレーの線は全被験者のデータを示す.グラフに示す黒線は,視作業距離が変化しなかったC1例(実線),遠方変化を示したC1例(上段点線),近方変化を示したC1例(下段点線)のそれぞれわかりやすい変化を示した者を示す.上方に変化した場合は遠ざかる,下方に変化した場合は近づいたことを示す.図4年代別PC視作業距離変化量横軸に計測時間(単位:分),縦軸に視作業距離の変化量(単位:cm)を示す.10.30歳代(左上図),40.50歳代(左下図),60.70歳代(右図)の年代別に分けた視作業距離変化量を示す.時の位置をC0とし,視作業距離変化がC±5Ccm以内を視作業距離変化なし群C10例(23%),計測開始後に+5Ccm以上の遠方変化を示した群C7例(16%),計測開始後にC.5Ccm以上の近方変化を示した群C26例(61%)に大別された.計測開始から視作業距離は近方変化を示す者が多かった.代表例を実線と点線にて示す.つぎに,年代別CPC視作業距離変化量のグラフを図4に示す.PC視作業距離変化量(平均)は,10.30歳代C2.4C±7.0Ccm,40.50歳代C2.3C±6.6Ccm,60.70歳代C5.0C±11.6Ccmであった.10.30歳代,40.50歳代に比べてC60.70歳代で変化量が平均C5.0Ccmと大きく,最大でC16Ccmの変化を認め,年代別に分けると有意差を認めた(p<0.05).CIII考按近用眼鏡の処方においてもっとも大切なことは,その患者の作業距離を把握することである.そのため,処方時には患者の希望する視距離で検査を行うことが重要である4).しかし,実際に作業距離を経時的に測定することは現実的にむずかしい.今回筆者らは,Kinectセンサーを用いて経時的なPC作業時における視作業距離の測定を行うことができた.PC作業における眼鏡処方はC50Ccm程度と報告されている6).本検討におけるCPC視作業距離のC10分間の平均値はC63.6±9.8Ccmであった.既報に比べ距離が遠い結果となった要因として,本検討では患者がCPC作業を行う際の日常の屈折矯正下にて測定したこと,掲示物が一定の場所に固定(掲示物の距離を変えるのではなく,被験者自らが体勢を変えて掲示物との距離を調整する必要があった)されていたこと,掲示物の文字の種類やサイズ,行数などの条件が過去の報告や患者の日常生活とは異なっていたことが考えられる.年代別において,10.30歳代,40.50歳代に比べC60.70歳代で視作業距離変化量が有意に大きくなった.PC作業中には視作業距離が変動し,個人差や年代差が大きい可能性が示唆された.臨床的にも近用,中間用の眼鏡処方変更の割合は高く,屈折矯正度数を検査値から一義的に決定することはできないことが報告されている5).PC作業時における視作業距離は時間的に変動することを考慮すると,経時的な視作業距離の結果から適切な屈折矯正度数を導くことが重要であると考えられる.とくに本検討においてC60.70歳代はCPC作業における視作業距離の変動が大きかったことから,経時的な視作業距離の測定が,より正確な眼鏡度数の選択につながると考える.日常生活における視作業距離は,屈折矯正状態,文字のサイズや種類,視環境などさまざまな要因により変化するため,できるだけ患者の日常に近い視作業条件で評価する必要がある.屈折矯正前に患者の見え方の希望を正確に評価するために,PC作業だけでなくさまざまな視作業環境の距離を正確に把握する必要性が示唆された.利益相反:庄司信行(アールイー・メディカル株式会社,株式会社トーメーコーポレーション)ら考える成人への眼鏡処方.日眼会誌42:115-120,C2013文献4)梶田雅義:近用眼鏡の処方.あたらしい眼科C14:677-682,1)中島純子,新田任里江,神垣久美子ほか:LASIKによるモC1997ノビジョン法を施行したC4症例.あたらしい眼科C20:385-5)岡田栄一,塩田朋子,西崎律子ほか:眼鏡処方変更の実態C389,C2003調査第C1報.臨眼61:445-449,C20072)井上俊洋,清水公也,新井田孝裕ほか:白内障術後のモノ6)加藤佳一郎:近用眼鏡(老眼鏡)の処方.あたらしい眼科ビジョンによる満足度.臨眼54:825-829,C2000C9:296-301,C19923)倉満満香,中村麻莉絵,髙野明日香ほか:度数変更理由か***