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裂孔原性網膜剝離術後に黄斑円孔を伴い再発した2症例

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1723.1726,2014c裂孔原性網膜.離術後に黄斑円孔を伴い再発した2症例三野亜希子香留崇堀田芙美香仙波賢太郎三田村佳典徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野TwoCasesofRecurrentRhegmatogenousRetinalDetachmentwithMacularHoleAkikoMino,TakashiKatome,FumikaHotta,KentaroSembaandYoshinoriMitamuraDepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool目的:裂孔原性網膜.離(RRD)術後に黄斑円孔を伴う再.離を生じた2症例を報告する.症例1:54歳,男性,右眼.RRDに対して25ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanavitrectomy:PPV)を施行した24日後に黄斑円孔を認め,その23日後RRDの再発を生じた.症例2:57歳,男性,右眼.RRDに対して強膜内陥術を施行した2週間後に黄斑円孔およびRRDの再発を認めた.経過:いずれの症例に対してもPPVを施行し内境界膜.離も行ったが復位しなかった.PPVと輪状締結術,部分バックルを併用して行い復位を得た.結論:RRD術後に黄斑円孔を伴う再.離を生じ,PPV単独では治癒しなかったことから強膜内陥術の併用を考慮する必要があると思われた.Purpose:Wereport2casesofrhegmatogenousretinaldetachment(RRD)thatrecurredwithmacularhole(MH)aftertheinitialsurgery.Casereport:Case1,a54-year-oldmale,underwent25-gaugeparsplanavitrectomy(PPV)withSF6gasinjectionintherighteyeforRRD.At24daysaftertheinitialsurgery,MHwasobserved;RRDrecurred23daysafterthat.Case2,a57-year-oldmale,underwentsegmentalbucklingintherighteyeforRRD;2weekslater,hepresentedwithrecurrentRRDandMH.Findings:BothpatientsunderwentPPVwithinternallimitingmembranepeeling,butretinalreattachmentwasnotachieved.RetinalreattachmentwasachievedafterPPVcombinedwithencirclingandsegmentalbuckling.Conclusion:IncaseofrecurrentRRDwithMH,PPVcombinedwithencirclingandsegmentalbucklingmaybeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1723.1726,2014〕Keywords:裂孔原性網膜.離,黄斑円孔,強膜内陥術,経毛様体扁平部硝子体切除術,再発.rhegmatgenousretinaldetachment,macularhole,scleralbuckling,parsplanavitrectomy,recurrence.はじめに裂孔原性網膜.離(RRD)に対する初回手術では約90%で復位が得られるが1),再発例は難易度が高い.再手術の術式については明確なコンセンサスが得られていないが,近年は結膜への侵襲の少ないスモールゲージ経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanavitrectomy:PPV)の普及と発達に伴いPPV単独が選択される傾向があると思われる.また,黄斑円孔(macularhole:MH)を併発して再.離したRRD症例の報告は少ない2,3).今回筆者らは,RRDの術後にMHを伴って網膜.離が再発した2症例を経験し,いずれもPPV単独では治癒せず,PPVと強膜内陥術の併用が必要だったので報告する.I症例〔症例1〕54歳,男性.主訴:右眼視力低下,下方視野欠損.既往歴:両眼前.下白内障.現病歴:平成24年5月より右眼の下方視野欠損を自覚し,翌日近医を受診し右眼RRDおよび左眼萎縮性網膜円孔を指摘された.左眼に網膜光凝固を施行されたのち,徳島大学眼科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼20cm手動弁(矯正不能),左眼0.15(0.8×sph.5.00D(cyl.0.75DAx140°).眼圧は右眼10mmHg,左眼13mmHg.右眼は12時方向の格子状変性辺縁に萎縮円孔と9時方向に弁状裂孔があり,1時から6時〔別刷請求先〕三野亜希子:〒770-8503徳島市蔵本町3丁目18-15徳島大学眼科Reprintrequests:AkikoMino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushima770-8503,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(157)1723 の領域を除く耳側に黄斑を含む丈の高い網膜.離を認めた.硝子体混濁を伴っており,増殖硝子体網膜症gradeAと診断した(図1).治療経過:初診翌日25ゲージPPV,白内障手術を行った.液体パーフルオロカーボンは使用しなかった.20%SF6(六図1症例1の初診時眼底写真(右眼)上方の格子状変性辺縁に萎縮円孔と耳側に弁状裂孔があり,黄斑を含む胞状の網膜.離を認めた.ab図2症例1の初回術後24日の所見網膜は復位しているが,黄斑円孔を生じている.a:眼底写真.b:光干渉断層計像.フッ化硫黄)によるガスタンポナーデを行い手術を終了した.術後に網膜は復位したが,術後20日目の受診時右眼に黄斑円孔を認めた(図2a,b).術後41日目診察時,下方に網膜.離を生じており前回手術時に行った網膜光凝固斑に一致する小裂孔を複数認めた(図3a,b).初回手術後46日目に25ゲージPPVを行い,インドシアニングリーンを用いて黄斑周囲の内境界膜.離,シリコーンオイルタンポナーデを行った.術後黄斑円孔は閉鎖せず,下方に網膜.離も残存したため,初回手術後161日目25ゲージPPVおよび強膜内陥術を行った.輪状締結術および下方4時から8時にかけて円周バックルを縫着し,14%C3F8(八フッ化プロパン)によるガスタンポナーデを行った.術後網膜.離は治癒したが,MHは開存している.視力の改善は見込めないと判断し,追加手術は行っていない.最終手術1年後右眼矯正視力は(0.2)である.〔症例2〕57歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:なし.現病歴:平成22年10月から右眼視力低下を自覚し,近医でRRDを指摘され,徳島大学眼科を受診した.初診時所見:視力は右眼30cm手動弁(0.01×sph+18.00D),左眼1.5(矯正不能).眼圧は右眼14mmHg,左眼18ab図3症例1の初回術後41日の所見黄斑円孔に加え網膜.離の再発を認める.意図的裂孔に対して行われた眼内光凝固が過凝固となっている.a:眼底写真.b:光干渉断層計像.1724あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(158) mmHg.眼軸長は右眼22.92mm,左眼22.79mmであった.右眼に黄斑を含む耳側半周の網膜.離を認めた.耳上側周辺部網膜に硝子体が強固に癒着した部分があり,その周囲に小さな円孔を6つ認めた.後部硝子体.離は中間周辺部で止まっており,周辺部は広範に硝子体の癒着が観察された(図4).治療経過:初診2日後に強膜内陥術を施行した.冷凍凝固および排液を行い,10時から1時方向に円周バックルを縫着した.術後残存した網膜下液は順調に吸収された.術後13日目の受診時,初回手術時の原因裂孔部分を含む耳側の網膜.離再発を認め,MHも生じていた(図5a,b).初回手術後18日目に20ゲージPPV,白内障手術を施行した.インドシアニングリーンを用いて黄斑周囲の内境界膜を.離した.網膜光凝固を追加し,12%C3F8ガスタンポナーデを行った.術後MHは閉鎖したが耳側および下鼻側周辺部に網膜下液が残存した.初回手術後68日目の受診時,MHは閉鎖したまま黄斑を含めて.離していたため(図6a,b)初ab図5症例2の初回術後13日の所見a:眼底写真.耳側から上方にかけて網膜.離の再発を認め,黄斑円孔を伴っている.b:光干渉断層計像.黄斑円孔周辺には増殖膜や硝子体による直接牽引を認めない.図4症例2の初診時眼底写真(右眼)黄斑を含む耳側半周の網膜.離を認め,耳上側周辺部に小さな円孔を6つ認めた.ab図6症例2の初回術後68日の所見a:眼底写真.2回目の再.離を認め黄斑部を含んでいるが,黄斑円孔はみられない.b:光干渉断層計像.黄斑部に網膜.離が及んでいるが,黄斑円孔の閉鎖は保たれている.(159)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141725 回手術後74日目に20ゲージPPVおよび強膜内陥術を施行した.シリコーンタイヤによる輪状締結術および耳側の5時から1時にかけて円周バックルを縫着し,シリコーンオイルタンポナーデを行った.術後,網膜は復位しMHも再発しなかった.初回手術後319日目にシリコーンオイルを抜去し現在まで経過観察している.最終手術の2年後右眼矯正視力は(0.07)であるII考按網膜.離の術後再発に対してどのような術式を選択するかについて明確な基準は定められていない.PPV単独とPPV・強膜内陥術の併用では手術成績に差はないとの報告がある4)ものの,症例ごとの病態に応じ慎重に検討する必要がある.硝子体牽引力が強いと予想される症例や,多発する網膜裂孔,広範な変性巣がある症例については特に輪状締結術の併用を検討するべきという指摘がある5).RRDの術後,0.32.2.0%の症例で残存硝子体の有無にかかわらずMHが生じることが知られており,内境界膜.離を併用した硝子体手術により約80%の症例で閉鎖が得られたと報告されている6.8).しかし,MHと網膜.離の再発が合併した症例の報告は少なく,Girardらの報告2)では初回の硝子体手術または網膜復位術の後6カ月以降に再発した51例中の1症例,田中らの報告3)では初回の硝子体手術の後に増殖硝子体網膜症gradeCとなった症例27例中の1症例がMHと再.離の合併例であったと報告されている.症例1は硝子体手術後で,明らかな網膜前膜などを認めないにもかかわらずMHを生じ,その後新たな周辺部裂孔を伴って再.離した.初回手術時にアーケード内に作製した意図的裂孔に対する眼内光凝固が過凝固となり同部位に瘢痕増殖が生じ接線方向の牽引によってMHが形成された可能性が考えられる.再発時の原因裂孔がMHなのか,周辺部の裂孔なのかは不明である.MHの形成に意図的裂孔に対する光凝固部位の瘢痕収縮が関与したのであれば,その牽引が強くなりMHから再.離した可能性は排除できない.一方,周辺部裂孔が原因であった可能性を支持する根拠としては網膜.離術後に発生する黄斑円孔で網膜.離の再発が合併するのは稀であること,また,本症例は中等度近視眼であり後部ぶどう腫や網脈絡膜萎縮を伴っていなかったことなどが挙げられる.RRDが硝子体手術後に再発する原因には,周辺部硝子体の不完全な切除や,薄い硝子体皮質の取り残しが指摘されている3,9).また,下方周辺部にははっきりとした網膜上の増殖膜形成を認めなかったが,網膜下に色素沈着を伴っていたことから,網膜下に軽度の線維増殖が生じていた可能性もある.ただし,術中にはっきりした網膜下増殖はみられなかったことから,これらの軽度の網膜下増殖による牽引が1726あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014原因となって下方周辺部の裂孔形成および網膜.離の再発に至ったかどうかは不明である.症例2は強膜内陥術後,初発時と同じ部位に再.離を生じるとともにMHを生じていた.術後早期に黄斑円孔が生じる原因として,黄斑.離に伴う黄斑部網膜の萎縮性変化や初回手術時の直接的な黄斑部への侵襲が挙げられている7).本症例の初発時には黄斑.離はあったものの,初回手術は強膜内陥術であり黄斑へ直接的侵襲は加わっていないこと,眼軸は正常範囲内であることから黄斑部網膜が脆弱となる要因は乏しい.そのため周辺部への硝子体牽引がバックル効果を上回って網膜.離が再発した際に,黄斑に周辺部網膜からの牽引が加わってMHを生じた可能性が高いと考えている.いずれの症例も,PPV単独での再手術ではMHは閉鎖せず,網膜.離も再発した.部分バックルと輪状締結術を併用したPPVが必要であった.輪状締結術は郭清しきれなかった硝子体牽引や網膜の収縮を緩和する効果がある.MH形成との因果関係は証明できないものの,これら2症例では硝子体の牽引が非常に強かったことが示唆された.RRD術後にMHを伴って再.離を生じた場合,再手術時にはPPVと部分バックル,輪状締結術を併用したほうがよい可能性がある.今後,類似症例の蓄積によって再手術の術式についてのより詳細な知見を得たいと考えている.文献1)田川美穂,大島寛之,蔵本直史ほか:天理よろづ相談所病院における10年間の裂孔原性網膜.離手術成績.眼臨紀5:832-836,20122)GirardP,MayerF,KarpouzasI:Laterecurrenceofretinaldetachment.Ophthalmologica211:247-250,19973)田中住美,島田麻恵,堀貞夫ほか:硝子体手術既往のある増殖性硝子体網膜症における残存硝子体皮質.臨眼63:311-314,20094)RushRB,SimunovicMP,ShethSetal:Parsplanavitrectomyversuscombinedparsplanavitrectomy-scleralbuckleforsecondaryrepairofretinaldetachment.OphthalmicSurgLasersImagingRetina44:374-379,20135)塚原逸朗:〔理に適った網膜復位術〕OnePointAdvice輪状締結は必要か.眼科プラクティス30:94-95,20096)ShibataM,OshitariT,KajitaFetal:DevelopmentofmacularholesafterrhegmatogenousretinaldetachmentrepairinJapanesepatients.JOphthalmol:740591,20127)FabianID,MoisseievE,MoisseievJetal:Macularholeaftervitrectomyforprimaryrhegmatogenousretinaldetachment.Retina32:511-519,20128)矢合隆昭,柚木達也,岡都子ほか:硝子体手術後の続発性黄斑円孔の3例.眼臨紀4:772-776,20119)池田恒彦:網膜硝子体疾患治療のDON’T硝子体手術.眼臨紀2:820-823,2009(160)

術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績

2013年1月31日 木曜日

《第17回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(1):89.92,2013c術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績水流宏文中村裕介大矢佳美安藤伸朗済生会新潟第二病院眼科AssociationbetweenPreoperativeFovealPhotoreceptorLayerandOperationOutcomesinDiabeticMaculopathyHirofumiTsuru,YusukeNakamura,YoshimiOyaandNoburoAndoDepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital目的:糖尿病黄斑症に対する硝子体手術において,術前の網膜外層構造と術後成績との関連を検討する.方法:済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に対し硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月)について術前,術後1年または最終観察時に,視力と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.また,術前に外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)をOCTで観察し,水平断画像で中心窩を中心とした1,000μm内にELM,IS/OSの連続性が50%以上あるものをELM,IS/OS陽性とした.A群:ELM・IS/OSともに陽性,B群:ELM陽性かつIS/OS陰性,C群:ELM・IS/OSともに陰性の3群に分類(A群8眼,B群9眼,C群19眼)し,各群の視力,CRTの術後変化を検討した.結果:術後logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA,B,C群いずれも有意に改善.CRTはB,C群で有意に減少.小数視力0.7以上を視力良好,0.7未満を不良とすると術後良好眼はA群8眼中5眼,B群9眼中4眼,C群19眼中1眼でC群に比べA,B群では有意に術後視力良好眼が多かった.結論:術前網膜外層構造が保たれている例では,術後視力成績が良好であった.Purpose:Toassesstherelationbetweenpreoperativephotoreceptorlayerandpostoperativeresultsindiabeticretinopathytreatedwithparsplanavitrectomy.Methods:Weretrospectivelystudied36eyesof32patientswithdiabeticmaculopathyonwhomwehadperformedparsplanavitrectomy(PPV).Weassessedvisualacuity(VA)andcentralretinalthickness(CRT),usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SD-OCT),beforeandafterPPV.Wemeasuredthepreoperativeintegrityphotoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS)andexternallimitingmembrane(ELM)within1,000μmatthecenterofthefovea.Morethan50%existenceof1,000μmwasdefinedas“positive”;lesswasdefinedas“negative.”Wecategorizedthe36eyesinto3groupsaccordingtointegrityofELMandIS/OS:(1)theAgroup,withELMandIS/OSpositive,(2)theBgroup,withELMpositiveandIS/OSnegative,and(3)theCgroup,withELMandIS/OSnegative.Weestimatedthecorrelationbetweenthegroupsandthesurgicalresults.Results:GroupsA,BandCcomprised8,9and19eyes,respectively.AfterPPV,theVAofall3groupswassignificantlyimprovedandtheCRTofgroupsBandCwassignificantlyreduced(B:p<0.05,C:p<0.01).Theproportionofeyeswithdecimalvisualacuityequaltoorgreaterthan0.7wassignificantlyhighingroupswithpreservedphotoreceptorlayer(AandBgroups),comparedwithCgroup(Agroup:p<0.01,Bgroup:p<0.05).Conclusion:EyeswithpreoperativelypreservedphotoreceptorlayerachievebetterVApostoperativelythandoeyeswithoutpreservedphotoreceptorlayer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):89.92,2013〕Keywords:糖尿病黄斑症,光干渉断層計,外境界膜,視細胞内節外節接合部,網膜外層構造,経毛様体扁平部硝子体切除術.diabeticmaculopathy,opticalcoherencetomography(OCT),externallimitingmembrane(ELM),photoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS),photoreceptorlayer,parsplanavitrectomy.〔別刷請求先〕安藤伸朗:〒950-1104新潟市西区寺地280-7済生会新潟第二病院眼科Reprintrequests:NoburoAndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital,280-7Terachi,Nishi-ku,NiigataCity950-1104,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(89)89 はじめに1990年代,Lewisら1)やTachiら2)により糖尿病黄斑症に対して硝子体手術が有効であることが報告されて以来,硝子体手術は糖尿病黄斑症の治療法の一つとして,わが国では多数施行されている.その後,opticalcoherencetomography(OCT)の登場により形態的な評価が可能となり,大谷ら3)は糖尿病黄斑浮腫を基本型に分類した.糖尿病黄斑浮腫の形態と硝子体手術後の視力との関連性が検討されてきたが,浮腫形態に基づく硝子体手術の効果予測には限界があり,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)が登場し,外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)や視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)などの網膜外層構造の詳細な評価が可能となり,各種疾患で網膜外層構造と視力との有意な相関が報告されるようになった4,5).糖尿病黄斑浮腫においても,Maheshwaryら6),Murakamiら7),Yanyaliら8)が中心窩のIS/OSやELMの連続性と視力とが相関すると報告している.今回,筆者らは新たな試みとして,糖尿病黄斑症の術前の網膜外層構造が硝子体手術後の成績を反映する指標となりうるのではないかと考え,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討した.I対象および方法対象は2008年1月から2011年3月の間に,済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月).症例の1,000μmABLogMAR視力図1OCTにおけるELM・IS/OS評価トプコン社3DOCT-1000MARKIIの白黒表示を用いて,中心窩を中心とした1,000μm内のELM・IS/OSを計測した.A:IS/OS742μmで50%以上の連続性を認める.B:ELM1,000μmで50%以上の連続性を認める.内訳は男性18例21眼,女性14例15眼,Davis分類では増殖前網膜症17眼,増殖網膜症19眼であった.36眼中22眼に白内障手術を施行し,11眼に内境界膜.離を併用した.血管新生緑内障を合併していた4眼および術後網膜.離で追加手術を要した2眼は本検討から除外した.OCTの解析にはトプコン社3DOCT-1000MARKIIを用い,白黒表示にて術前網膜外層を評価し,色素上皮の高反射ラインの直上のラインをIS/OS,その直上のラインをELMと定義した.中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した(図1).ELM,IS/OSの連続性から,ELM・IS/OSともに陽性のA群,ELM陽性・IS/OS陰性のB群,ELM・IS/OSともに陰性のC群に分類した.A,B,Cの3群において術前および術後1年(または最終観察時)に視力と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定し,その結果を各群で比較検討を行った.II結果OCT所見からA群8眼,B群9眼,C群19眼に分類された.なお,ELM陰性・IS/OS陽性の例は認めなかった.術前logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA群0.36,B群0.60,C群0.83で,A群とC群間で有意差を認めた(p<0.01,Mann-Whitney検定).術後logMAR視力はA群0.14,B群0.40,C群0.70であり,いずれの群も術前に比べて有意に改善を認めた(それぞれp<0.05,対応のあるt検定).A群とC群間では術前後のいずれにおいても有意差を認めた(p<0.01,術前はMannWhitney検定,術後はWelchのt検定)(図2).視力評価はlogMAR視力で術前後0.2以上の変化を視力0術前術後*0.1:A群0.20.36A群0.14ELM(+)IS/OS(+)0.3:B群0.40.60B群*0.40**ELM(+)IS/OS(-)0.5:C群0.6**0.70ELM(-)IS/OS(-)0.70.83C群*p<0.050.8**p<0.010.9*図2術前後のlogMAR視力術前logMAR視力A群:0.36,B群:0.60,C群:0.83.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Mann-Whitney検定).術後logMAR視力A群:0.14,B群:0.40,C群:0.70.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Welchのt検定).術後視力はA,B,C群いずれも有意に改善した(p<0.05対応のあるt検定).90あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(90) 20600550ELM(+)IS/OS(+)15500ELM(+)IS/OS(-)4眼5眼7眼4眼4眼9眼0眼0眼3眼A群B群C群:改善■:不変■:悪化:A群:B群:C群*p<0.05**p<0.01349.5332.3495.4353.8529.6401.3術前術後*******A群B群C群CRT(μm)450400350300250視力改善度10ELM(-)IS/OS(-)50図4術前後のCRT図3術後視力改善度LogMAR視力0.2以上の変化を改善,悪化とした.A群:改善4眼,不変4眼.B群:改善5眼,悪化4眼,C群:改善7眼,不変9眼,悪化3眼.A,B,C群いずれの群においても改善眼を得た.ELM陽性であるA,B群では,ELM陰性のC群に比べて改善眼の割合が高かった.悪化眼はELM陰性のC群のみで認められ,ELM陽性のA,B群では認めなかった.改善・悪化として検討し,全体では改善16眼,不変17眼,悪化3眼であった.各群での検討では,A,B群において改善眼の占める割合がC群より高く,悪化眼はみられなかった.C群では改善眼が19眼中7眼のみであり,3眼の悪化を認めた(図3).術後小数視力0.7以上を良好眼,0.7未満を不良眼に分類して比較したところ,A群では8眼中5眼が良好眼,B群では9眼中4眼が良好眼であるのに対し,C群では19眼中1眼のみが良好眼であり,C群に比べA,B群で有意に視力良好眼が多かった(A群C群間p<0.01,B群C群間p<0.05,Fisherの直接確率計算法).術前CRTはA群349.5μm,B群495.4μm,C群529.6μmで,A群とB群間およびA群とC群間で有意差を認めた(それぞれp<0.01,Studentのt検定).術後CRTはA群332.3μm,B群353.8μm,C群401.3μmであり,B群とC群において術後有意に減少した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった(図4).術後の網膜外層構造の変化では,A群は全例でELM,IS/OSともに保たれており,B群ではIS/OS回復例が2眼,不変例が3眼,ELM消失例が4眼であり,C群ではELM回復例が2眼,不変例が17眼でありIS/OS回復眼は得られなかった.III考按Diabeticmacularedema(DME)に対して.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離などの浮腫形態に基づいて硝子体手術成績が検討されてきたが,硝子体手術効果の予測には限界があ(91)術前A群:349.5μm,術前B群:495.4μm,術前C群:529.6μm.A・C群間,A・B群間で有意差を認めた(A・C群間,A・B群間p<0.05Studentのt検定).術後A群:332.3μm,術後B群:353.8μm,術後C群:401.3μm.B群,C群において術後有意にCRTが低下した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった.り,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,SD-OCTの登場で網膜外層構造の評価が可能となり,各種疾患において網膜外層構造と視力との相関が強いとの報告が多数出てきており,DMEにおいても同様の関連性が報告されている6.8).筆者らは黄斑円孔の硝子体手術後の視力を検討し,ELM,IS/OSとの関連性が強いという知見を得た9).今回,DMEにおける硝子体手術後の視力予測因子として網膜外層構造に注目し,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討を行った.Oishiら5)は加齢黄斑変性症において,疾患重症度とELM,IS/OSの関係を検討し,まずIS/OSが消失し,さらに重症化するとELMも消失すると述べている.今回のDMEに関する検討でも加齢黄斑変性症と同様の結果を得た.硝子体手術後の視力はいずれの群でも有意に改善を認めたが,術前に網膜外層破綻が少ないA群では,破綻の進んだC群に比べて有意に術後視力が良好であった.網膜外層破綻が進む前に手術治療を行うことで視力回復が大きくなることを示唆しており,ELMの存在が術後良好な視力を目指す硝子体手術を行ううえで重要である.本検討では網膜外層の評価にOCTを用い,中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した.OCTによる網膜外層の評価に際しては,OCTのshadowingによる検出不能例が問題となり,shadowingにより実際には保たれているIS/OS,ELMを消失と評価してしまう可能性がある.そのため,今回筆者らは網膜浮腫や硬性白斑による局所のshadowingにより,ELM,IS/OSが陰性と誤評価あたらしい眼科Vol.30,No.1,201391 されないように50%以上連続していれば外層構造が保たれていると基準を少し緩く定めることでshadowingの影響を最小限にするよう配慮した.しかし,それでも黄斑浮腫による網膜肥厚の著しい症例では,OCTの機能・特性上,shadowingによる検出不能例は少なからず存在するはずであり,現時点でのOCTの性能の限界である.今後のOCTの性能向上に期待したい.ELMは漿液性網膜.離を伴う例においても判別可能であるという点で有用である.板谷ら10)は漿液性網膜.離を伴う中心性漿液性脈絡網膜症において,IS/OSは網膜色素上皮との正確な判別が困難である一方で,ELMは評価が可能であると報告している.漿液性網膜.離を伴うDME眼においても,IS/OSの同定は困難である一方でELMは判別可能であった.網膜外層構造の破綻が強く,漿液性網膜.離を含めた多形態を示すDMEにおいて,より多くの症例で網膜外層構造を評価しうる点でELMは優れた指標と考えられる.今回,少数例の検討ではあったがIS/OS,ELMが術後視力の予測因子として利用可能であり,特にELMは有用性が高い指標である可能性が示唆された.今後,OCTの進化による分解能,描出力向上により,さらに正確な評価が可能となるはずである.さらなる症例検討を重ねたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrectomyfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.Ophthalmology99:753759,19922)TachiN,OginoN:Vitrectomyfordiffusemacularedemaincasesofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol122:258-260,19963)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphtalmol127:688-693,19994)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphotoreceptoroutersegmentincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol145:162-168,20085)OishiA,HataM,ShimozonoMetal:Thesignificanceofexternallimitingmembranestatusforvisualacuityinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol150:27-32,20106)MaheshwaryAS,OsterSF,YusonRMetal:Theassociationbetweenpercentdisruptionofthephotoreceptorinnersegment-outersegmentjunctionandvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol150:63-67,20107)MurakamiT,NishijimaK,SakamotoAetal:Associationofpathomorphology,photoreceptorstatus,andretinalthicknesswithvisualacuityindiabeticretinopathy.AmJOphthalmol151:310-317,20118)YanyaliA,BozkurtKT,MacinAetal:Quantitativeassessmentofphotoreceptorlayerineyeswithresolovededemaafterparsplanavitrectomywithinternallimitingmembraneremovalfordiabeticmacularedema.Ophthalmologica226:57-63,20119)中村裕介,安藤伸朗:特発性黄斑円孔の術後閉鎖過程の光干渉断層計による観察.臨眼64:1677-1682,201010)板谷正紀,尾島由美子,吉田章子ほか:フーリエドメイン光干渉断層計による中心窩病変出力の検討.日眼会誌111:509-517,2007***92あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(92)