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病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎の2例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1312.1316,2019c病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎の2例厚見知甫明石梓下山剛徳永敬司原ルミ子加古川中央市民病院眼科CTwoCasesofNecrotizingScleritisDuetoPseudomonasAeruginosaCChihoAtsumi,AzusaAkashi,TsuyoshiShimoyama,TakashiTokunagaandRumikoHaraCDepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospitalC症例1:78歳,男性.2013年C4月に左眼の翼状片手術を受け,6月より左眼痛と充血が出現しステロイドおよび抗菌薬点眼にて治療が開始されたが改善せず,当科を紹介受診となった.抗菌薬全身投与後も改善がなく,結膜・強膜融解部分を切開し培養提出を行ったところ,融解した鼻側強膜よりCPseudomonasaeruginosaが検出された.まずC0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩で連日洗浄を開始したが,経過中,他部位に結膜下膿瘍を認めたため,洗浄液をポビドンヨードに変更し,病巣の切除,洗浄を繰り返したところ病巣部は徐々に縮小し,瘢痕治癒した.症例2:69歳,男性.2011年に硝子体出血に対して左眼の水晶体再建術および硝子体切除術が施行された.2016年C10月に左眼痛と充血が出現しステロイドおよび抗菌薬点眼にて治療後も改善せず,当科紹介となった.融解した鼻側強膜からCPseudo-monasaeruginosaが検出され,症例C1と同様に病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄を行い,最終的に瘢痕治癒した.CPurpose:ToCreportC2CcasesCofCnecrotizingCscleritisCdueCtoCPseudomonasCaeruginosa.CaseReports:Case1involvedCaC78-year-oldCmaleCwhoCwasCreferredCafterCsteroidCandCantibioticCdropsCwereCfoundCine.ectiveCforCtheCtreatmentofpainandhyperemiainhislefteyethatoccurred2monthsafterpterygiumsurgery.Anasalconjunc-tival/scleralCtissueCsamplesCwereCobtainedCforCculture,CandCtreatmentCwithCsystemicCantibioticsCwasCinitiated.CTheCculturesCwereCfoundCpositiveCforCP.Caeruginosa.CTreatmentCwithCsystemicCantibioticsCwasCdiscontinued,CandCdailyCwashingCwithCpovidoneCiodineCwasCinitiated.CHowever,CaCsubconjunctivalCabscessCdevelopedCinCaCdi.erentCarea.CAfterCresection,CtheCdailyCwashingCwithCpovidoneCiodineCwasCresumedCandCtheCsymptomsCwereCresolved.CCaseC2Cinvolveda69year-oldmalewhobecameawareofpaininhislefteye5yearsafterundergoingvitreousandcata-ractCsurgeryCforCaCvitreousChemorrhage.CScleritisCwasCdiagnosed,CandCsteroidCandCantibioticCeyeCdropsCwereCpre-scribed.However,hewasreferredtoourinstitutionafterhissymptomsdidnotimprove.P.aeruginosawasisolatedfromnasalnecrotizingsclera.AsinCase1,dailywashingwithpovidoneiodinewasinitiated,whichresultedintheresolutionofsymptoms.Conclusion:Dailywashingwithpovidoneiodinewasfounde.ectiveforthetreatmentofnecrotizingscleritisduetoP.aeruginosa.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1312.1316,C2019〕Keywords:緑膿菌,壊死性強膜炎,ポビドンヨード,結膜下膿瘍,結膜切開,排膿.Pseudomonasaeruginosa,necrotizingscleritis,povidone-iodine,subconjunctivalabscess,conjunctivalincision,abscessdrainage.Cはじめに類されている1).今回,筆者らはまれな緑膿菌による壊死性壊死性強膜炎はしばしば強膜穿孔をきたす難治性疾患であ強膜炎のC2例を経験し,繰り返し病巣の切開,排膿,16倍る.病因として,自己免疫性疾患に合併するもの,ウイルス希釈ポビドンヨードによる洗浄を施行し,病勢を終息させるや細菌などによる感染によるもの,および特発性のC3群に分ことができたので報告する.〔別刷請求先〕厚見知甫:〒675-8611兵庫県加古川市加古川町本町C439加古川中央市民病院眼科Reprintrequests:ChihoAtsumi,DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,439Kakogawacho,Honmachi,Kakogawa-city,Hyogo675-8611,JAPANC1312(90)〔症例1〕78歳,男性.主訴:左眼痛と充血.現病歴:2013年C6月より左眼痛,充血が出現し近医を受診した.モキシフロキサシン,ベタメタゾン点眼が開始されたが改善せず,精査加療目的に同年C7月某日加古川中央市民病院(以下,当院)紹介となった.既往歴:糖尿病,膵臓癌(手術後).眼科手術歴:2013年C3月左眼白内障手術,2013年C4月左眼翼状片手術(マイトマイシン使用については不詳).初診時所見:視力は右眼(1.0C×sph+1.0D(cyl.1.5DCAx80°),左眼(0.4C×sph.0.5D(cyl.1.5DAx90°),眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C18CmmHgであった.左眼に膿性白色の眼脂と毛様充血および前房蓄膿を認め(図1),眼底には上方と耳側に脈絡膜.離を認めた.血液検査ではCRPは2.01Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,040/μlと正常値であった.血沈はC1時間値C59mmと亢進していたが,リウマチ因子は9CIU/ml,抗核抗体はC40倍未満と陰性で,自己免疫性疾患を疑わせる所見は認めなかった.経過:臨床所見から細菌感染によるものを疑い,同日より入院のうえ,モキシフロキサシン,セフタジジム,バンコマイシンの点眼,チエペネムC0.5CgC×2/日の点滴治療を開始した.また,白内障術後C3カ月であったため術後眼内炎の可能性も考え前房洗浄を施行し,前房水を提出したが培養検査の結果は陰性であった.治療開始後も病状に改善傾向がなく,また,鼻側結膜下に白色の膿瘍病巣を認めたため排膿目的に同部位の切開を行ったところ,病巣の底部には硬い板状Ccalci.cationplaque(図2)を認め,周囲の強膜は壊死性変化を伴い菲薄化していた.16倍希釈ポビドンヨードで病巣を洗浄後,切開部は強膜を露出したままとし翌日から連日C0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩を用いてC1日C1回洗浄を行った.入院C1週目に眼脂および切除したCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeruginosaが検出され,薬剤感受性を参考に,点眼液をバンコマイシンからトブラマイシンに変更した.いったんは改善傾向にあったが,入院C3週目に他部位にも同様の結膜下膿瘍(図3)が出現したため,病巣部結膜を切開し排膿を行ったうえで,今回はC16倍希釈ポビドンヨードを用いてC1日C1回の創部洗浄を連日行ったところ,徐々に病巣は縮小した.入院約C6週目で洗眼を中止し,点眼治療のみ継続したところ瘢痕化が得られたため,治療開始からC9週目に退院となった(図4).その後点眼を漸減し中止したが,強膜の強い菲薄化は残存するものの再発は認めていない(図5).〔症例2〕69歳,男性.主訴:左眼痛と充血.現病歴:2016年C10月初旬に左眼痛が出現し近医を受診し図1症例1:初診時前眼部写真結膜毛様充血,前房蓄膿を認める.図2症例1:左眼鼻側融解した結膜下にCcalci.cationplaqueを認める.図3症例1:新たに出現した上方の結膜下膿瘍点眼点滴モキシフロキサシンセフタジジムバンコマイシントブラマイシンチエペネムセフタジジム入院1W3W4W6W9W退院クロルヘキシジン(洗眼)ポビドンヨード(洗眼)切開排膿★★★★図4症例1:治療経過モキシフロキサシン,セフタジジム,バンコマイシンの点眼,チエペネムの点滴治療を開始した.病状に改善傾向がなく,鼻側結膜下に認めたCcalci.cationplaqueを切除し,0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩で病巣を連日洗浄した.入院C1週目に眼脂および切除したCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeru-ginosaが検出され,感受性を参考に抗菌薬の点眼,点滴を変更した.入院C3週目に他部位に結膜下膿瘍が出現したため,そのつど病巣を切除しC16倍希釈ポビドンヨードによる洗浄を入院C4週目からC6週目まで繰り返し行った.図5症例1:治療1年後の前眼部写真図7症例2:結膜切開後結膜下にCcalci.cationplaqueを認める.図6症例2:初診時前眼部写真結膜毛様充血,鼻側結膜に白色病巣を認める.た.左眼結膜充血と前房内炎症を認め,モキシフロキサシン,ベタメタゾンの点眼加療が開始されたが,眼痛の増悪と所見の悪化があり,精査加療目的にC10月某日当院紹介となった.既往歴:糖尿病,慢性腎不全(透析中),狭心症.眼科手術歴:2011年左眼硝子体出血に対し白内障手術および硝子体手術.初診時所見:視力は右眼(1.0C×sph.2.0D(cyl.1.5DCAx90°),左眼C0.03(矯正不能),眼圧は右眼C10mmHg,左眼12CmmHgであった.左眼は全周性に球結膜充血と毛様充血があり,鼻側結膜に一部膿状の黄白色病巣(図6)を認めた.角膜には既往の腎不全に伴うと推測される帯状角膜変性部位があり,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.眼底には既存のトブラマイシンセフタジジムシプロフロキサシン点眼点滴内服入院1W2W3W4W5W6W7W8W9W10W再入院退院退院ポビドンヨード(洗眼)切開排膿★★★★図8症例2:治療経過モキシフロキサシン,セフメノキシム塩酸塩,トブラマイシンの点眼,セフタジジムの点滴治療を開始した.入院C6日目,結膜下に認めたCcalci.cationplaqueを切除し,16倍希釈ポビドンヨードで洗浄した.眼脂およびCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeruginosaが検出された.いったんは改善がみられ退院となったが,退院後再度疼痛と下方の結膜充血の悪化をきたしたため,再入院のうえ同様の処置を行った.その際に採取した強膜の膿瘍病変からもCPseudomonasaeruginosaが検出された.その後,多発する結膜下膿瘍に対し切開・洗浄を繰り返し行った.図9症例2帯状角膜変性部に角膜障害を認める.図10症例2:治療開始1年半後の前眼部写真糖尿病網膜症を認めるのみであった.血液検査ではCCRPは0.86Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,690/μlであった.リウマチ因子はC9CIU/ml,抗核抗体はC40倍未満と陰性で自己免疫性疾患を疑わせる所見は認めなかった.経過:感染性強膜炎を疑い,同日より入院のうえ,モキシフロキサシン,セフメノキシム塩酸塩,トブラマイシンの点眼,セフタジジムC0.5Cg48時間毎(透析中のため)の点滴治療を開始した.治療開始後も自他覚所見の改善が得られなかったため,入院C6日目に病巣の切開排膿およびC16倍希釈ポビドンヨードによる洗浄を行ったが,その際症例C1と同様に強膜に癒着したCcalci.cationplaqueを認めた.また,周囲の強膜は軟化し,強い壊死性変化も伴っていた(図7).後日,眼脂およびCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomo-nasaeruginosaが検出され,薬剤感受性を参考にシプロフロキサシンの内服を追加した.症例C1の経験からC16倍希釈ポビドンヨードで病巣の洗浄を続け,いったんは改善がみられ治療開始C4週目に退院となったが,退院後再度疼痛と下方の結膜充血の悪化をきたしたため,退院後C1週目に再入院のうえ,同部位に対しても再度同様の処置を行った.同部位の強膜は融解し膿瘍を形成しており,その際に採取した,壊死した強膜片からもCPseudomonasaeruginosaが検出されたが,Ccalci.cationplaqueの形成はなかった.その後,切開・洗浄を繰り返したところ,徐々に病巣部が縮小し,瘢痕化が得られたため,発症C10週間で退院となった.当院での治療経過を図に示す(図8).複数回に及ぶ希釈ポビドンヨード洗浄により,帯状角膜変性部に角膜障害が遷延したが血清点眼などで治療を行い,徐々に改善した(図9).治療開始後C1年半が経過し,強膜の菲薄化は残存し,ぶどう膜が透見されているII考按一般的に壊死性強膜炎の病因は感染性自己免疫性,特発性の三つに大別できる1)が,自己免疫性疾患に伴うものが圧倒的に多い.感染性そのものは強膜炎のC5.10%を占める2)と報告されており,とくに緑膿菌による壊死性強膜炎は翼状片切除後の報告が多く,Huangら3)は翼状片切除後の壊死性強膜炎C16例中C13例で培養により緑膿菌が検出されたと報告している.硝子体手術や斜視手術後でも報告はあるが,眼科手術歴と発症までの時期は一定でない4,5).今回のC2症例でも,症例C1は白内障手術後C3カ月,翼状片手術後C2カ月で発症しているが,症例C2では眼手術後C5年が経過してからの発症であった.緑膿菌による壊死性強膜炎の発症機序については明らかではないが,2症例とも既往の手術創と病巣が一致しており,手術後に局所的な強膜の軟化が起こり易感染性の状態が継続していた可能性が高い.また,両者とも既往に糖尿病があり,全身的に免疫機能の低下があったことも影響したと推測される.緑膿菌感染では特徴的なCcalci.cationplaqueを強膜に認めることがあるとされ6),今回のC2症例ともに病変部に同所見が確認され,後日培養で緑膿菌が検出された.緑膿菌感染による壊死性強膜炎は薬物治療のみでは治療に難渋することが多いが,これは菌が産生するプロテアーゼが組織を破壊しバイオフィルムを形成することで,薬剤が病巣部に到達しにくい環境となり,感染の遷延化,難治化に関与している7,8)と考えられている.Calci.cationplaqueはバイオフィルムの結果生じる所見であり,緑膿菌感染を疑う有力な所見となりうる.いったんバイオフィルムが形成されると薬剤は到達しにくくなるため,緑膿菌による強膜炎では外科的治療が有効とされ,その一つに病巣部の膿瘍切除,殺菌作用のあるポビドンヨード液・生食による洗眼9)がある.今回のC2症例でも結膜を切開,排膿し,calci.cationplaqueを切除したうえで洗浄することにより,薬剤の浸透性が増し,殺菌作用が向上したことが病勢の鎮静につながったと考えられた.また,2症例とも初発の病巣と隣接した部位に新たな病巣が出現し,結果的に複数回の外科的治療を要した.これは初回治療の時点で切開部隣接の結膜下に緑膿菌が残存し,感染を再燃させた可能性が高く,初回の切開排膿や病巣切除をできるだけ広く行うことが重要と考えられた.ポビドンヨード液には細菌,ウイルスに幅広く有効で,耐性ができにくいという利点があるが,一方で粘膜障害,角膜障害が生じるリスクもある9)ため,ポビドンヨードによる治療中は角膜障害に注意が必要であると考えられた.他の外科的治療方法として病巣部への保存強膜移植や大腿筋膜移植などの報告があり良好な成績を納めているが10,11),手技の簡便さや薬剤入手の容易さを考慮すると,長期治療期間を要するもののポビドンヨードによる洗浄はどの施設でも施行でき,有効な治療方法と思われる.薬物治療に抵抗し,融解した強膜にCcalci.cationCplaqueを伴う場合は緑膿菌感染の可能性を念頭におき,早期に広範囲の切開・排膿,病巣切除ならびにポビドンヨード液を用いた洗眼などの外科的治療を検討すべきである.文献1)RaoCNA,CMarakCGE,CHidayatAA:Necrotizingscleritis:CAclinic-pathologicstudyof41cases.Ophthalmology92:C1542-1549,C19882)RamenadenCER,CRaijiVR:ClinicalCcharacteristicsCandCvisualCoutcomesCinCinfectioussclerosis:aCreview.CClinCOphthalmolC7:2113-2122,C20133)HuangCFC,CHuangCSP,CTsengSH:ManagementCofCinfec-tiousscleritisafterpterygiumexcision.Cornea19:34-39,C20004)RichRM,SmiddyWE,DavisJL:Infectiousscleritisafterretinalsurgery.AmJOphthalmolC145:695-699,C20035)ChalDL,AlbiniTA,McKeownCAetal:InfectiousPseu-domonasCscleritisCafterCstrabismusCsurgery.CJCAAPOSC17:423-425,C20136)DunnCJP,CSeamoneCCD,COstlerCHBCetal:DevelopmentCofCscleralCulcerationCandCcalci.cationCafterCpterygiumCexci-sionandmitomycintherapy.AmJOphthalmol112:343-344,C19917)亀井裕子:細菌バイオフィルムとスライム産生.あたらしい眼科17:175-180,C20008)戸粟一郎,久保田敏昭,松浦敏恵ほか:緑膿菌による壊死性強膜炎の一例.臨眼57:25-28,C20039)松本泰明,三間由美子,河原澄枝ほか:緑膿菌性壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科22:1253-1258,C200510)SiatiriCH,CMirzaee-RadCN,CAggarwalCSCetal:CombinedCtenonplastyCandCscleralCgraftCforCrefractoryCPseudomonasCscleritisCfollowingCpterygiumCremovalCwithCmitomycinCCCapplication.JOphthalmicVisRes132:200-202,C201811)児玉俊夫,鄭暁東,大城由美:壊死性強膜炎に対して大腿筋膜移植が奏効したC3例.臨眼65:647-653,C2011***

β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌による結膜下膿瘍の1例

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):679.683,2018cb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌による結膜下膿瘍の1例渡部美和子*1,2庄司純*1稲田紀子*1山上聡*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センター眼科CAdultCaseofSubconjunctivalAbscessCausedbyb-lactamaseNon-producingAmpicillin-resistantHaemophilusin.uenzaeCMiwakoWatanabe1,2)C,JunShoji1),NorikoInada1)andSatoruYamagami1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NihonUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:b-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)による結膜下膿瘍の成人例の症例報告.症例:症例はC41歳,男性で,右眼の異物感および眼脂を主訴に,遷延化した難治性結膜炎として当院紹介受診となった.初診時,右外眼角部に排膿を伴う肉芽腫様隆起性病変を認め,膿と眼脂の細菌分離培養結果からそれぞれBLNARが検出された.頭部CMRI検査では,外眼筋付着部付近に膿瘍を認めたため,BLNARによる結膜下膿瘍と診断した.薬剤感受性試験結果を基にセフメノキシムまたはモキシフロキサシン点眼,オフロキサシン眼軟膏,およびセフポドキシムプロキセチル内服により治療を行ったところ,6カ月後に排膿は消失し,膿瘍も縮小した.結論:耐性インフルエンザ菌が原因で成人に発症したまれな結膜下膿瘍を経験した.本症例の診断には画像検査が有用であり,治療には薬剤感受性試験結果に基づく治療薬選択が重要であった.CPurpose:Wereportanadultcaseofsubconjunctivalabscesscausedbyb-lactamasenon-producingampicil-lin-resistantCHaemophilusCin.uenzae(BLNAR)C.CCase:AC41-year-oldCmaleCpresentedCtoCourCuniversityCwithCpro-longedCrefractoryCconjunctivitisChavingCforeignCbodyCsensationCandCdischargeCinChisCrightCeye.CAtCtheC.rstCvisit,Ctherewasaprotrudinggranulomatouslesionwithdrainageinrighteye’soutercanthus,andBLNARwasdetectedbybacterialculturetestofdischargeanddrainage,respectively.Inheadmagneticresonanceimaging,anabscesswasCfoundCnearCtheCholdfastCofCtheCextraocularCmuscle,CsoCweCdiagnosedCsubconjunctivalCabscessCcausedCbyCBLNAR.BasedConCdrugCsusceptibilityCtestCresults,CweCtreatedCwithCcefmenoximeCorCmoxi.oxacinCeyedrops,Co.oxacinCeyeCointmentandcefpodoximeproxetiloraladministration,leadingtodisappearanceofpusandreductionofabscessesafterC6Cmonths.CConclusion:HaemophilusCin.uenzaeCcanCdevelopCsubconjunctivalCabscessCinCadults.CInCourCcase,CimagingCexaminationCandCtreatmentCselectionCbasedConCdrugCsusceptibilityCtestingCcontributedCtoCbetterCdiagnosisCandtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):679.683,C2018〕Keywords:インフルエンザ菌,BLNAR(Cb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌),結膜下膿瘍,難治性結膜炎,涙腺排出管.Haemophilusin.uenzae,BLNAR(Cb-lactamasenon-producingampicillin-resistant)C,subconjunctivalabscess,refractoryconjunctivitis,excretoryductsoflacrimalgland.Cはじめにzae:NTHi)とに分類される.莢膜型は髄膜炎や肺炎などのインフルエンザ菌(HaemophilusCin.uenzae)はグラム陰全身感染症を引き起こしやすく,なかでもインフルエンザ菌性短桿菌であり,菌表面に莢膜多糖を有する莢膜型(a.f型)b型(H.Cin.uenzaeCtypeb:Hib)は侵襲性が高いため,感と型別不能の無莢膜型(nontypeableHaemophilusCin.uen-染予防の観点からCHibワクチンが用いられている.〔別刷請求先〕渡部美和子:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学糖尿病センター眼科Reprintrequests:MiwakoWatanabe,DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPANC眼科領域におけるインフルエンザ菌感染症の代表的疾患は,小児の急性結膜炎や眼窩蜂巣炎であり,その原因菌の大半をCNTHiが占めるといわれている1,2).NTHi感染症に対してCHibワクチンは予防効果をもたず,近年はCb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(Cb-lactamasenon-producingCampicillin-resistant:BLNAR)をはじめとする耐性菌も増加したことから,眼科領域では治療に難渋するインフルエンザ菌感染症例に遭遇することがある3).今回筆者らは,治癒までに長期間を有し,涙腺排出管膿瘍が疑われたCBLNARによる結膜下膿瘍の成人例を経験したので報告する.C図1初診時の前眼部写真右眼に結膜充血を認める.外眼角部に肉芽腫様隆起性病巣を認め,同部位からの排膿もみられる.図2初診後1カ月の頭部単純MRI画像(FLAIR画像)右眼の外眼筋付着部付近に膿瘍形成を認める(.).I症例患者:41歳,男性.主訴:右眼の充血および眼脂.現病歴:バイク走行中に右眼の異物感を自覚し,同日に右眼の充血・眼脂が出現した.約C6カ月間近医C4施設で抗菌薬点眼を中心とした治療を受けた.前医で施行された眼脂の細菌分離培養検査は,初回検査では菌陰性であったが,1カ月後に再度施行された検査ではインフルエンザ菌が検出された.抗菌薬を中心とした点眼薬治療では症状改善がみられず当院紹介となった.既往歴・家族歴:特記事項なし.初診時所見:右眼の球結膜充血がみられ,結膜.内に眼脂の貯留がみられた.外眼角部には肉芽腫様の隆起病変が存在し,同部位からの排膿がみられた(図1).同日に原因菌を特定するために結膜擦過物および排膿を伴う病変部の膿の細菌分離培養検査を実施し,後日結膜擦過物からCBLNAR少数,膿からCBLNAR少数,黄色ブドウ球菌極小を認めた.表1は初診時の薬剤感受性試験結果である.アンピシリン(ABPC),アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの第一セフェム系抗菌薬やセファクロム(CCL)などの第二世代セフェム系抗菌薬に対し耐性を示した.一方でセフォタキシム(CTX)などの第三世代セフェム系抗菌薬やレボフロキサシン(LVFX)に対し感受性を示した.経過:治療としては,これまでに使用歴がないゲンタマイシン硫酸塩点眼液C1日C4回,オフロキサシン眼軟膏C1日C1回を初診時に処方した.初診後C2週で症状に変化はなく,薬剤感受性試験結果を基に治療薬をセフメノキシム塩酸塩点眼液とセフポドキシムプロキセチル錠C1日C200Cmg内服へ変更した(内服薬はC5日間投与して中止した).1カ月後には,充血はほとんど変化がなかったが眼脂は減少し,再検した細菌分表1初診時薬剤感受性試験結果抗菌薬MIC(μg/ml)感受性判定CABPC4CRCABPC/SBTC4CRCCCL16CRCCTM32CRCCTXC0.5CSCCDTRPIC0.5CSCCTRXC≦0.25CSCLVFXC≦0.5CSR:耐性S:感受性ABPC:アンピシリン,ABPC/SBT:アンピシリン・スルバクタム,CCL:セファクロム,CTM:セフォチアム,CTX:セフォタキシム,CDTRPI:セフジトレンピボキシル,CTRX:セフトリアキソン,LVFX:レボフロキサシン.図3初診後6カ月の前眼部写真および頭部単純MRI画像(T1W画像)Ca:前眼部写真.外眼角部に肉芽腫様の変化が残存しているが,排膿はなく膿瘍は瘢痕治癒している.Cb:MRI画像では外眼筋付着部の膿瘍は消失している.C離培養検査ではCBLNARが陰性化していた.また,治療と同時進行で感染部位を特定するための画像診断が検討された.初診後C1カ月目に検診で撮影していた頭部単純CMRI画像(図2)を検討したところ,膿瘍は外眼筋付着部付近に限局し,眼窩内には所見を認めなかったため眼窩蜂巣炎や眼瞼膿瘍は否定的であった.初診後C3カ月目では,眼脂,結膜充血ともに軽快傾向であったが,病巣からの排膿は持続していた.膿の細菌分離培養検査ではCBLNARが検出された.また,鼻腔内の常在菌検索を目的とした鼻腔内の細菌分離培養検査を施行したが,BLNARは検出されず,鼻腔由来でないことが確認された.治療は,受診時に病巣マッサージによる排膿を繰り返すとともに,抗菌点眼薬および眼軟膏による治療を継続した.分離されたCBLNARの薬剤感受性試験結果はフルオロキノロン感受性株であったため,点眼薬をモキシフロキサシン塩酸塩点眼液C1日C4回に変更して薬物治療を継続した.眼軟膏は,初診時からのオフロキサシン眼軟膏C1日C1回(就寝前)を継続した.初診後C6カ月目で外眼角部に肉芽組織は残存したが,排膿は消失し,結膜充血は改善した(図3a).結膜.内細菌分離培養結果で菌は陰性化し,MRI画像では膿瘍が軽快していた(図3b)ため治療終了とした.CII考按今回,BLNARが原因菌と考えられる外眼角部の結膜下に膿瘍を形成した成人例を経験した.今回の細菌分離培養検査で,病巣部から排膿している膿および結膜擦過物の両者からBLNARが検出された点から,BLNARを原因菌とする結膜下膿瘍と診断した.BLNARは,Cb-ラクタマーゼを産生せず,ペニシリン結合蛋白(penicillinCbindingCprotein:PBP)そのものが遺伝子変異したインフルエンザ菌の耐性株である.臨床的には,ABPC,ABPC/SBTの他,第二世代セフェム系抗菌薬に耐性であり,CTXに代表される第三世代セフェム系抗菌薬が有効であるとされている.BLNARを原因菌とする外眼部感染症としては小児の急性結膜炎が代表であり,分離されたインフルエンザ菌のなかにCBLNARの占める割合が高いことが指摘されている4).今回のCBLNAR感染症症例は,健康な成人例であったこと,および結膜炎ではなく結膜下膿瘍を形成したことが既報との相違点であり,今回の感染症の特徴であったと考えられた.結膜下膿瘍に関しては,外傷または外眼部手術に続発して発症する例が報告されている5.7).今回の症例は外傷の既往が明確ではなく,手術歴も有しない健康成人であった.また,MRIによる画像診断により外眼筋付着部付近の結膜下に形成された膿瘍であることが明らかとなった.Brooksら8)は,外傷や手術歴のない成人女性に発症したインフルエンザ菌を原因菌とする結膜下膿瘍の症例を報告している.筆者らが経験した症例の臨床所見とCBrooksらの症例との類似点として,外眼角部の結膜下に病変が認められていること,画像診断により外眼筋付着部に膿瘍が形成されていることがあげられるが,両者ともに病変部の病理学的診断ができていないことから,感染部位を特定するには至っていない.また,眼窩隔膜前に膿瘍を形成する疾患としては涙腺膿瘍があり,本症例における鑑別診断として重要と考えられる.Ginatら9)表2本症例と既報との比較BrooksIII(Cornea,2010)Ginatら(JOII,20166:1)本症例症例診断所見画像所見原因菌治療内容経過27歳,女性結膜下膿瘍左)発赤,充血,白い分泌物,流涙左)外窩洞部に膿瘍インフルエンザ菌抗菌薬:点眼・内服(モキシフロキサシン)10日で症状改善60歳,女性涙腺膿瘍右)眼瞼腫脹,疼痛,排膿,上転・外転制限右)眼窩隔膜前蜂巣炎涙腺腫脹,液体貯留黄色ブドウ球菌外科的切開排膿抗菌薬:点眼・内服3週間で症状改善41歳,男性結膜下膿瘍(lacrimalductabscess)右)充血,眼脂,外眼角部肉芽腫様病巣から排膿右)外眼筋付着部レベルに膿瘍インフルエンザ菌本文参照6.7カ月で症状改善肉芽を残し,膿瘍消失は,ブドウ球菌が原因菌である涙腺膿瘍を報告している.本症例,Brooksらの症例およびCGinatらの症例の類似点と相違点を表2に示したが,涙腺膿瘍とするには膿瘍が形成された部位や上眼瞼の所見から否定的であった.一方,涙腺は上眼瞼挙筋の腱で隔てられ,眼窩部涙腺と眼瞼部涙腺とに分かれている.眼窩部涙腺からはC3.5本の排出管が出ており,上円蓋部外側に開口するとされている.また,眼瞼部涙腺の排出管は,上円蓋部から外眼角部にかけて,約C50個の開口部がみられるとされている10,11).本症例では,外眼部に形成された肉芽腫性病変の部位が涙腺排出管の開口部に相当していると考えられ,涙腺排出管の開口部から侵入したインフルエンザ菌により,眼瞼部涙腺の排出管に膿瘍が形成されて拡大することで結膜下膿瘍の所見を呈した可能性が考えられた.しかし,今回のCMRI画像からは,病巣部の明瞭な特定化は困難であり,また外科的処置も行わなかったため,病理学的な面からも病巣部を特定できなかったことから,本症例を結膜下膿瘍と診断した.結膜下または眼窩隔膜前に形成される膿瘍に対する抗菌薬投与は,点眼投与よりも全身投与が重要であると考えられる.既報では,結膜下膿瘍に対して全身投与をC10日間,涙腺膿瘍に対してはC3週間の投与が行われ,有効であったとされている.本症例ではセフポドキシムプロキセチル内服をC5日間投与後に培養結果で菌陰性化を示し,排膿も消失していたため抗菌薬の全身投与を短期間で終了している.しかし,後の細菌分離培養検査ではCBLNARが再検出されている.これらの経過から,セフポドキシムプロキセチル内服と抗菌薬点眼とにより結膜.内のCBLNARの菌量が一時的に減少したため培養陰性を示した可能性も考えられるが,抗菌薬内服を中止したことで残存したCBLNARが再び増加に転じたことを考えると,抗菌薬の全身投与期間が菌の完全消失するのには不十分であったことを示していると考えられた.また,自然排膿がみられていたこと,および経過期間中に結膜下膿瘍の拡大や充血,疼痛などの臨床症状の悪化は認めなかったため,抗菌薬の点滴や内服といったさらなる治療の追加を今回は行わなかった.さらに病変に対する外科的な膿瘍摘出についても当初から検討はしていたが,膿瘍部位が外眼筋付着部付近に位置していたため,医原性の外眼筋筋膜損傷を考慮し,まずは投薬による保存的治療を選択した.今回の症例では,治療にC6.7カ月の期間を要したが,膿瘍が遷延化した背景には,1)膿瘍形成部位,2)耐性菌および3)抗菌薬の種類と投与法の三つの要因があると考えられた.しかし,今回の症例の経過からは,どの要因が病状遷延化の原因であったかを特定することは困難であった.本症例のような結膜下に形成された膿瘍に対し,今回筆者らは眼窩蜂巣炎や眼瞼膿瘍との鑑別のために検討したCMRIなどの画像検査および薬剤感受性試験結果に基づく抗菌薬の局所および全身投与計画を施行した.遷延例に対しては,より病理学的な面からの感染病巣部位診断やドレナージ,膿瘍摘出などの外科的処置を積極的に考慮する必要があったのではないかと筆者らは考えている.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)砂川慶介,竹内百合子,岩田敏:無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)の疫学.感染症誌85:227-237,C20112)石和田稔彦:インフルエンザ菌感染症.小児内科C40(増刊号):1008-1012,C20083)矢野寿一:ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR).小児科臨床12:2467-2471,C20114)SugitaCG,CHotomiCM,CSugitaCRCetCal:GeneticCcharacteris-ticsofHaemophilusin.uenzaeandStreptococcuspneumi-niaeisolatedfromchildrenwithconjunctivitis-otitismediasyndrome.JInfectChemotherC20:497-497,C20145)RionoWP,HidayatAA,RaoNA:Scleritis:aclinicopath-ologicCstudyCofC55Ccases.COphthalmologyC106:1328-1333,C19996)HsiaoCCH,CChenCJJY,CHuangCSCMCetCal:IntrascleralCdis-seminationofinfectiousscleritisfollowingpterygiumexci-sion.BrJOphthalmolC82:29-34,C19987)KivlinCJD,CWilsonCEMCJr:PeriocularCinfectionCafterCstra-bismussurgery.PeriocularInfectionStudyGroup.JPedi-atrOphthalmolStrabismusC32:42-49,C19958)BrooksCCW,CDeMartelaereCSL,CJohnsonCAJ:SpontaneousCsubconjunctivalCabscessCbecauseCofCHaemophilusCinfluen-zae.CorneaC29:833-835,C20109)GinatCDT,CGlassCLR,CYanogaCFCetCal:LacrimalCglandCabscessCpresentingCwithCpreseptalCcellulitisCdepictedConCCT.JOphthalmicIn.ammInfectC6:1,C201610)RauberAA,KopschF,小川鼎三(訳):人体解剖学Raub-er-KopschCLehrbuchCundCAtlasCderCAnatomieCdesCMen-schen.第CII巻,VI-III:p630-658,医学書院,195811)BronAJ:Lacrimalstreams:thedemonstrationofhumanlacrimalC.uidCsecretionCandCtheClacrimalCductules.CBrJOphthalmolC70:241-245,C1986***