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在宅中心静脈栄養療法中に生じた壊死性強膜炎の1 例

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):95.99,2022c在宅中心静脈栄養療法中に生じた壊死性強膜炎の1例長野広実伴由利子多田香織水野暢人京都中部総合医療センター眼科CACaseofNecrotizingScleritisthatOccurredDuringHomeParenteralNutritionHiromiNagano,YurikoBan,KaoriTadaandNobuhitoMizunoCDepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenterC在宅中心静脈栄養療法中に生じた壊死性強膜炎のC1例を報告する.症例はC75歳,男性.左眼の眼脂,充血,上方の強膜潰瘍と前房内炎症があり,京都中部総合医療センターに紹介となった.初診時,左眼の視力低下,眼球結膜充血,上方の結膜欠損,強膜菲薄化,結膜下膿瘍があった.経口摂取不良に伴う低蛋白血症や貧血があり,全身状態は不良であった.中心静脈ポート周囲の発赤・腫脹があり,抜去後のカテーテル先端の培養検査から真菌が検出された.真菌感染を疑い,抗菌薬の内服・局所投与に加え,抗真菌薬の点滴を開始したが奏効せず,結膜下膿瘍が増悪したため,2回にわたり結膜切開洗浄を施行した.2回目の切開時の培養検査でコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出され,抗菌薬の点滴開始と抗菌薬の結膜下注射後より改善したことから,細菌感染が原因と考えられた.ただし,真菌感染を併発していた可能性もある.感染性強膜炎には,診断的・治療的意義のある外科的処置が有効である.CWehereindescribeacaseofnecrotizingscleritisthatoccurredduringhomeparenteralnutrition.A75-year-oldmalepresentedwithdischargeandhyperemiainhislefteye.HewasreferredtoourhospitalforscleralulcerandCin.ammationCinCtheCanteriorCchamber.CInitialCexaminationCrevealedClossCofCvisualCacuity,CscleralCthinning,CandCsubconjunctivalabscess,andhisoverallgeneralconditionwaspoor.Rednessandswellingwerenotedaroundtheinsertionsiteofthecentralvenousaccessdevice,andfungiweredetectedinthecathetertipculture.Despiteanti-fungaltreatment,therewasnoimprovement.Conjunctivalresectionandwashingwereperformedtwotimes.Coag-ulaseCnegativeCStaphylococciCwereCisolatedCfromCaCsubconjunctivalCsampleCofCtheCsecondCbiopsy,CandCin.ammationCwasresolvedafterintravenoustreatmentandsubconjunctivalinjectionofanantibiotic.Thus,wesuspectedabac-terialinfection,althoughthepossibilityofafungalinfection-relatedcomplicationcannotberuledout.Our.ndingsrevealedthatsurgicaltreatmentise.ectiveforinfectiousscleritis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(1):95.99,2022〕Keywords:壊死性強膜炎,感染性強膜炎,結膜切開,在宅中心静脈栄養療法,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌.nec-rotizingscleritis,infectiousscleritis,conjunctivalincision,homeparenteralnutrition,coagulasenegativeStaphylococ-ci.Cはじめに強膜炎はおもな眼炎症疾患の一つであり,充血と眼痛を主症状とする1).関節リウマチや抗好中球細胞質抗体(antineu-trophilCcystoplasmicCantibody:ANCA)関連血管炎,再発性多発軟骨炎などの自己免疫疾患に伴って発症する非感染性強膜炎の頻度が高く,感染性強膜炎は強膜炎全体のC5.10%とまれである1,2).感染性強膜炎の背景には,翼状片の手術後や眼外傷歴,化学療法などの既往があることが多い2).また,臨床所見から前部強膜炎と後部強膜炎に分けられ,さらに前部強膜炎はびまん性,結節性,壊死性に分けられる3).そのなかで,壊死性強膜炎は強膜穿孔に至ることもあり,視力予後不良で重篤な病態である4).今回,筆者らは在宅中心静脈栄養療法中に生じた細菌感染による壊死性強膜炎の患者を経験し,診断に苦慮しながらも良好な転帰を得たので報告〔別刷請求先〕長野広実:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野C25京都中部総合医療センター眼科Reprintrequests:HiromiNagano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,25YagiUeno,Yagi-cho,Nantan,Kyoto629-0197,JAPANC図1左眼前眼部所見の経過a:初診時,眼球結膜充血,上部に結膜欠損があり,結膜欠損部の付着物を除去すると強膜が菲薄化していた(X日).b:抗真菌薬治療は奏効せず,前眼部所見は改善しなかった(X+15日).Cc:術中写真.結膜切開洗浄を施行した(X+20日).Cd:耳側の結膜下膿瘍の拡大と結膜融解が出現した(X+33日).Ce:抗菌薬治療が奏効し,前眼部の炎症所見は改善傾向となった(X+40日).Cf:強膜の菲薄化は広範囲に残存した(X+5カ月).する.CI症例患者:75歳,男性.主訴:左眼の眼脂,充血.既往歴:5年前に胃癌で胃全摘,3年前に絞扼性イレウスで小腸部分切除を施行され,3年前より在宅中心静脈栄養療法を受けていた.右眼のみC11年前に白内障手術を施行されているが,左眼の眼科手術歴や外傷歴はなかった.現病歴:XC.7日に左眼の充血,眼脂が出現し,近医眼科を受診した.ノルフロキサシン点眼が開始されたが改善なく,X.1日に前医へ紹介となった.左眼上部の強膜潰瘍と前房内炎症があり,埋め込み型中心静脈ポート(CVポート)からの血行性感染を疑われ,X日に京都中部総合医療センター(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.7(1.2C×sph+0.50D(cyl.1.25DAx90°),左眼C0.1(0.4C×sph+0.50D(cyl.2.5DAx70°),眼圧は右眼8mmHg,左眼3mmHgであった.左眼に眼球結膜充血,上部には結膜欠損があり,白色の付着物がみられた.付着物を除去したところ,強膜が菲薄化しており,結膜欠損部周囲の隆起を認めた(図1a).前房内の炎症細胞浮遊,硝子体混濁がみられたが,眼底に異常はなかった.右眼は眼内レンズ挿入眼で,前眼部および眼底に異常はなかった.発熱はなかったが,倦怠感の訴えが強く,経口摂取は不良であった.血液検査では総蛋白C6.5Cg/dl,Alb2.8Cg/dlと低蛋白血症があり,CRPはC3.3Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,050/μlと正常値であった.また,赤血球数C295C×104/μL,Hb9.9Cg/dlと貧血を呈していた.Cb-Dグルカンは陰性であった.経過:X日よりモキシフロキサシン点眼,セフメノキシム点眼,0.1%フルオロメトロン点眼各C6回/日,オフロキサシン軟膏1回/日を開始した.左胸部のCCVポート周囲の発赤,腫脹があったため,当院の外科に紹介したところ,感染が疑われ,翌日入院となり,CVポート交換が施行された.初診時に採取した眼脂の培養検査は陰性であったが,CVカテーテル先端の培養検査でCTrichosporumが検出され,外科でミカファンギンC150mg/日の点滴とメトロニダゾールC250Cmg×4錠,分C4の内服が開始された.当科でも抗真菌治療として,ミカファンギン点眼C4回/日とピマリシン眼軟膏4回/日を追加した.X+5日目に眼内移行性を考慮し,ミカファンギン点滴をアムホテリシンCB点滴C150Cmg/日に変更した.しかし,前眼部所見は改善なく(図1b),硝子体混濁の増悪があり,網膜に白色病変が出現したため(図2),X+20日目に結膜切開洗浄を施行した.強膜菲薄部周辺の隆起部を切開し,結膜下の組織を採取後,6倍希釈したポリビニルアルコールヨウ素(PA・ヨード)点眼・洗眼液で菲薄部および隆起部の結膜下を洗浄した(図1c).病理組織検査では,ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)で好中球,形質細胞浸潤を伴う肉芽組織の形成を認めた.血管炎や類上皮肉芽種の所見はなかった.PAS染色で真菌やアメーバは検出されなかった(図3).形質細胞浸潤があったため,IgG4染色も行ったが陰性であった.著明な好中球浸潤があったことから感染が疑われたが,培養検査は細菌・真菌ともに陰性であった.X+20日目に行った免疫血清学的検査では,抗核抗体はC40倍未満と陰性だったが,リウマチ因子はC72CIU/mlと上昇しており,血清補体価もC12.0CCH50/ml以下に低下していた.しかし,膠原病を疑う全身症状や既往はなく,膠原病の合併は否定的と考えた.抗真菌治療の効果が乏しかったため,X+23日目にアムホテリシンCB点滴を中止し,メロペネム点滴C0.5CgC×2/日を開始した.X+26日目にC38.3℃の発熱がみられたため,外科でミカファンギン点滴C150Cmg/日が再開され,バンコマイシン点滴C600CmgC×2/日が追加された.同日施行の血液培養検査は陰性であったが,再度カテーテル感染が疑われたため,X+29日目にCCVポートが抜去され,4日後に熱型は改善した.この際のCCVカテーテル先端の培養検査も陰性であった.その頃から前房内炎症,結膜充血は軽快したが,耳側の結膜下膿瘍の拡大と結膜融解がみられた(図1d)ため,X+34日目に再度,結膜切開排膿を行った.その際,検体の採取のほか,セファゾリンC0.1Cgの結膜下注射とCPA・ヨードによる洗浄も施行した.病理組織検査は前回と同様の結果であったが,培養検査で初めてコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出された.使用していた抗菌薬すべてにおいて,薬剤感受性は良好であった.その後,抗菌薬治療を継続したところ,前眼部炎症所見は改善し(図1e),網膜の白色病変も消失した.点眼治療のみとなり,X+43日目に退院となった.外来で徐々に点眼を漸減した.強膜の菲薄化は広範囲に残存しているものの(図1f),X+5カ月後には硝子体混濁はほぼ消失し,左眼矯正視力も(1.0)まで改善した.CII考按強膜炎の治療には非感染性か感染性の鑑別が重要で,さらに,感染性であれば病原体は何であるかを同定する必要がある.本症例では,CVカテーテル先端の培養検査結果からTrichosporumが検出されたため,まず真菌感染を疑ったが,抗真菌治療の効果が乏しく,初診時の眼脂やC1回目の結膜切開時の培養で真菌・細菌ともに菌体は検出されなかったため,診断に苦慮した.抗真菌薬治療から抗菌薬治療へ転換することで改善傾向となった経過(図4)と,結膜切開時の病図2X+19日目の眼底写真硝子体混濁が増悪し,網膜に白色病変(→)が出現した.図3結膜切開時(1回目)の病理組織検査HE染色で,好中球,形質細胞浸潤を伴う肉芽組織の形成を認めた.血管炎や類上皮肉芽種の所見はなかった.PAS染色で真菌やアメーバは検出されなかった.図4治療経過のまとめメロペネム点滴の開始,セファゾリンの結膜下注射後から視力が改善傾向となっている.理組織検査で好中球浸潤が著明であったこと,2回目の結膜切開時の培養検査でコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出されたことを踏まえて,最終的に細菌感染の診断に至った.しかし,CVカテーテル先端からは真菌が検出されており,発熱があったこと,硝子体混濁や網膜の白色病変の出現があったことから,真菌性眼内炎を併発していた可能性は否定できない.厚見ら5),馬郡ら6)は,術後に発症した緑膿菌による壊死性強膜炎の症例を報告している.充血,結膜下の膿瘍病巣や強膜菲薄化といった所見が本症例と類似していたが,緑膿菌感染に特徴的な病巣部のCcalci.cationplaqueは認めず,培養検査で緑膿菌が検出されることもなかった.また,当院初診時の眼脂培養検査やC1回目の結膜切開時の培養検査で菌体が検出されなかったのは,すでに抗真菌薬,抗菌薬の全身投与がされていたことも一因として考えられる.感染性強膜炎は,強膜層の膠原線維が強固に結合していることで抗菌薬の浸透が悪く,病原体が強膜内層に長期間留まるため,管理が困難とされている7).そのため,治療には抗菌薬点眼や抗菌薬の病巣部への結膜下注射などの局所的治療と全身的な抗菌薬投与に加えて,外科的処置による病変部強膜の開放と抗菌薬を混ぜた生理食塩水や希釈したポビドンヨードでの洗浄が推奨されている5,8).外科的処置により抗菌薬の浸透性が上がり,また病原体自体を減らす効果がある.同時に生検を施行できるため,診断的役割もある.強膜穿孔のリスクもある侵襲的な処置であるため,本症例では抗真菌薬による治療経過を観察したあとの施行となったが,診断の補助となり,結果的に良好な転機をもたらした.過去の報告では,感染性強膜炎の診断目的に強膜生検でのPCR検査を用いている症例がある9).PCR検査はウイルスなどのスクリーニングだけでなく,細菌と真菌のそれぞれに特有のCDNA配列(細菌C16CSrRNA,真菌C18CS/28CSrRNA)に対する定量的CPCRを行うことで,細菌または真菌の感染の有無を証明できる10).今回は実施しなかったが,PCR検査を用いることで,細菌性か真菌性かを鑑別でき,より早期に有効な治療を選択できた可能性もある.感染性強膜炎の危険因子として,翼状片,白内障などの手術,マイトマイシンCCの使用,異物・植物・土壌の混入などの眼外傷,化学療法や後天性免疫不全症候群に伴う免疫抑制状態があげられる2).本症例では患眼の手術歴や外傷歴はなかったが,経口摂取不良や低蛋白血症をきたしており,低栄養状態であった.蛋白質・エネルギー低栄養(proteinCenergymalnutriton:PEM)では,一次および二次リンパ系器官の萎縮,Tリンパ球の増殖能の低下が起こり,おもに細胞性免疫の機能が低下することで,感染症の発生頻度が高くなるとされている11).本症例では,低栄養による免疫機能の低下が感染リスクとなり,健常人では病原性を示さない弱毒菌であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が感染を引き起こしたと考えられる.全身状態の改善にともない経口摂取量が増加した結果,低栄養状態が是正され,強膜炎の改善へとつながった.感染性強膜炎では,単巣性・多巣性の強膜膿瘍が結膜下に黄色がかった結節として現れ,角膜輪部に沿って弧状に広がる特徴がある.一部の患者では強膜が菲薄化し,消炎後に感染拡大の軌跡を示す黒色の帯が確認される2).本症例でも,上部に同様の強膜菲薄化が残存しており,脆弱性があるため,今後も外傷や感染に注意が必要である.今回の経験から,中心静脈栄養療法を受けている患者では低栄養状態に伴う感染リスクがあること,また感染性強膜炎において,診断と治療の両方の役割を果たす外科的処置が有効であることを実感した.診断が困難で,現行の治療が奏効しない場合は,治療方針の転換が診断につながる可能性がある.文献1)平岡美紀:強膜炎の診断.眼科C60:669-674,C20182)RamenadenCER,CRaijiVR:ClinicalCcharacteristicsCandCvisualCoutcomesCinCinfectiousscleritis:aCreview.CClinCOphthalmolC7:2113-2122,C20133)WatsonCPG,CHayrehSS:ScleritisCandCepiscleritis.CBrJOphthalmolC60:163-191,C19764)Sainz-de-la-MazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:ClinicalCcharacteristicsCofCaClargeCcohortCofCpatientsCwithCscleritisCandCepiscleritis.COphthalmologyC119:43-50,C20125)厚見知甫,明石梓,下山剛ほか:病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎のC2例.あたらしい眼科C36:1312-1316,C20196)馬郡幹也,戸所大輔,岸章治ほか:翼状片手術のC30年後に発症した緑膿菌による壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科C34:726-729,C20177)HsiaoCCH,CChenCJJ,CHuangCSCCetal:IntrascleralCdissemi-nationCofCinfectiousCscleritisCfollowingCpterygiumCexcision.CBrJOphthalmolC82:29-34,C19988)LinCCP,CShihCMH,CTsaiCMCCetal:ClinicalCexperiencesCofCinfectiousCscleralulceration:aCcomplicationCofCpterygiumCoperation.BrJOphthalmolC81:980-983,C19979)AgarwalM,PatnaikG,SanghviKetal:Clinicopathologi-cal,CmicrobiologicalCandCpolymeraseCchainCreactionCstudyCinCaCcaseCofCNocardiaCscleritis.COculCImmunolCIn.amm,2020.Cdoi:10.1080/09273948.2020.177029910)SugitaCS,COgawaCM,CShimizuCNCetal:UseCofCaCcompre-hensivepolymerasechainreactionsystemfordiagnosisofocularCinfectiousCdiseases.COphthalmologyC120:1761-1768,C201311)MarcosCA,CNovaCE,CMonteroCACetal:ChangesCinCtheCimmuneCsystemCareCconditionedCbyCnutrition.CEurCJCClinCNutrC57:S66-S69,C2003***

病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎の2例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1312.1316,2019c病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎の2例厚見知甫明石梓下山剛徳永敬司原ルミ子加古川中央市民病院眼科CTwoCasesofNecrotizingScleritisDuetoPseudomonasAeruginosaCChihoAtsumi,AzusaAkashi,TsuyoshiShimoyama,TakashiTokunagaandRumikoHaraCDepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospitalC症例1:78歳,男性.2013年C4月に左眼の翼状片手術を受け,6月より左眼痛と充血が出現しステロイドおよび抗菌薬点眼にて治療が開始されたが改善せず,当科を紹介受診となった.抗菌薬全身投与後も改善がなく,結膜・強膜融解部分を切開し培養提出を行ったところ,融解した鼻側強膜よりCPseudomonasaeruginosaが検出された.まずC0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩で連日洗浄を開始したが,経過中,他部位に結膜下膿瘍を認めたため,洗浄液をポビドンヨードに変更し,病巣の切除,洗浄を繰り返したところ病巣部は徐々に縮小し,瘢痕治癒した.症例2:69歳,男性.2011年に硝子体出血に対して左眼の水晶体再建術および硝子体切除術が施行された.2016年C10月に左眼痛と充血が出現しステロイドおよび抗菌薬点眼にて治療後も改善せず,当科紹介となった.融解した鼻側強膜からCPseudo-monasaeruginosaが検出され,症例C1と同様に病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄を行い,最終的に瘢痕治癒した.CPurpose:ToCreportC2CcasesCofCnecrotizingCscleritisCdueCtoCPseudomonasCaeruginosa.CaseReports:Case1involvedCaC78-year-oldCmaleCwhoCwasCreferredCafterCsteroidCandCantibioticCdropsCwereCfoundCine.ectiveCforCtheCtreatmentofpainandhyperemiainhislefteyethatoccurred2monthsafterpterygiumsurgery.Anasalconjunc-tival/scleralCtissueCsamplesCwereCobtainedCforCculture,CandCtreatmentCwithCsystemicCantibioticsCwasCinitiated.CTheCculturesCwereCfoundCpositiveCforCP.Caeruginosa.CTreatmentCwithCsystemicCantibioticsCwasCdiscontinued,CandCdailyCwashingCwithCpovidoneCiodineCwasCinitiated.CHowever,CaCsubconjunctivalCabscessCdevelopedCinCaCdi.erentCarea.CAfterCresection,CtheCdailyCwashingCwithCpovidoneCiodineCwasCresumedCandCtheCsymptomsCwereCresolved.CCaseC2Cinvolveda69year-oldmalewhobecameawareofpaininhislefteye5yearsafterundergoingvitreousandcata-ractCsurgeryCforCaCvitreousChemorrhage.CScleritisCwasCdiagnosed,CandCsteroidCandCantibioticCeyeCdropsCwereCpre-scribed.However,hewasreferredtoourinstitutionafterhissymptomsdidnotimprove.P.aeruginosawasisolatedfromnasalnecrotizingsclera.AsinCase1,dailywashingwithpovidoneiodinewasinitiated,whichresultedintheresolutionofsymptoms.Conclusion:Dailywashingwithpovidoneiodinewasfounde.ectiveforthetreatmentofnecrotizingscleritisduetoP.aeruginosa.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1312.1316,C2019〕Keywords:緑膿菌,壊死性強膜炎,ポビドンヨード,結膜下膿瘍,結膜切開,排膿.Pseudomonasaeruginosa,necrotizingscleritis,povidone-iodine,subconjunctivalabscess,conjunctivalincision,abscessdrainage.Cはじめに類されている1).今回,筆者らはまれな緑膿菌による壊死性壊死性強膜炎はしばしば強膜穿孔をきたす難治性疾患であ強膜炎のC2例を経験し,繰り返し病巣の切開,排膿,16倍る.病因として,自己免疫性疾患に合併するもの,ウイルス希釈ポビドンヨードによる洗浄を施行し,病勢を終息させるや細菌などによる感染によるもの,および特発性のC3群に分ことができたので報告する.〔別刷請求先〕厚見知甫:〒675-8611兵庫県加古川市加古川町本町C439加古川中央市民病院眼科Reprintrequests:ChihoAtsumi,DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,439Kakogawacho,Honmachi,Kakogawa-city,Hyogo675-8611,JAPANC1312(90)〔症例1〕78歳,男性.主訴:左眼痛と充血.現病歴:2013年C6月より左眼痛,充血が出現し近医を受診した.モキシフロキサシン,ベタメタゾン点眼が開始されたが改善せず,精査加療目的に同年C7月某日加古川中央市民病院(以下,当院)紹介となった.既往歴:糖尿病,膵臓癌(手術後).眼科手術歴:2013年C3月左眼白内障手術,2013年C4月左眼翼状片手術(マイトマイシン使用については不詳).初診時所見:視力は右眼(1.0C×sph+1.0D(cyl.1.5DCAx80°),左眼(0.4C×sph.0.5D(cyl.1.5DAx90°),眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C18CmmHgであった.左眼に膿性白色の眼脂と毛様充血および前房蓄膿を認め(図1),眼底には上方と耳側に脈絡膜.離を認めた.血液検査ではCRPは2.01Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,040/μlと正常値であった.血沈はC1時間値C59mmと亢進していたが,リウマチ因子は9CIU/ml,抗核抗体はC40倍未満と陰性で,自己免疫性疾患を疑わせる所見は認めなかった.経過:臨床所見から細菌感染によるものを疑い,同日より入院のうえ,モキシフロキサシン,セフタジジム,バンコマイシンの点眼,チエペネムC0.5CgC×2/日の点滴治療を開始した.また,白内障術後C3カ月であったため術後眼内炎の可能性も考え前房洗浄を施行し,前房水を提出したが培養検査の結果は陰性であった.治療開始後も病状に改善傾向がなく,また,鼻側結膜下に白色の膿瘍病巣を認めたため排膿目的に同部位の切開を行ったところ,病巣の底部には硬い板状Ccalci.cationplaque(図2)を認め,周囲の強膜は壊死性変化を伴い菲薄化していた.16倍希釈ポビドンヨードで病巣を洗浄後,切開部は強膜を露出したままとし翌日から連日C0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩を用いてC1日C1回洗浄を行った.入院C1週目に眼脂および切除したCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeruginosaが検出され,薬剤感受性を参考に,点眼液をバンコマイシンからトブラマイシンに変更した.いったんは改善傾向にあったが,入院C3週目に他部位にも同様の結膜下膿瘍(図3)が出現したため,病巣部結膜を切開し排膿を行ったうえで,今回はC16倍希釈ポビドンヨードを用いてC1日C1回の創部洗浄を連日行ったところ,徐々に病巣は縮小した.入院約C6週目で洗眼を中止し,点眼治療のみ継続したところ瘢痕化が得られたため,治療開始からC9週目に退院となった(図4).その後点眼を漸減し中止したが,強膜の強い菲薄化は残存するものの再発は認めていない(図5).〔症例2〕69歳,男性.主訴:左眼痛と充血.現病歴:2016年C10月初旬に左眼痛が出現し近医を受診し図1症例1:初診時前眼部写真結膜毛様充血,前房蓄膿を認める.図2症例1:左眼鼻側融解した結膜下にCcalci.cationplaqueを認める.図3症例1:新たに出現した上方の結膜下膿瘍点眼点滴モキシフロキサシンセフタジジムバンコマイシントブラマイシンチエペネムセフタジジム入院1W3W4W6W9W退院クロルヘキシジン(洗眼)ポビドンヨード(洗眼)切開排膿★★★★図4症例1:治療経過モキシフロキサシン,セフタジジム,バンコマイシンの点眼,チエペネムの点滴治療を開始した.病状に改善傾向がなく,鼻側結膜下に認めたCcalci.cationplaqueを切除し,0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩で病巣を連日洗浄した.入院C1週目に眼脂および切除したCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeru-ginosaが検出され,感受性を参考に抗菌薬の点眼,点滴を変更した.入院C3週目に他部位に結膜下膿瘍が出現したため,そのつど病巣を切除しC16倍希釈ポビドンヨードによる洗浄を入院C4週目からC6週目まで繰り返し行った.図5症例1:治療1年後の前眼部写真図7症例2:結膜切開後結膜下にCcalci.cationplaqueを認める.図6症例2:初診時前眼部写真結膜毛様充血,鼻側結膜に白色病巣を認める.た.左眼結膜充血と前房内炎症を認め,モキシフロキサシン,ベタメタゾンの点眼加療が開始されたが,眼痛の増悪と所見の悪化があり,精査加療目的にC10月某日当院紹介となった.既往歴:糖尿病,慢性腎不全(透析中),狭心症.眼科手術歴:2011年左眼硝子体出血に対し白内障手術および硝子体手術.初診時所見:視力は右眼(1.0C×sph.2.0D(cyl.1.5DCAx90°),左眼C0.03(矯正不能),眼圧は右眼C10mmHg,左眼12CmmHgであった.左眼は全周性に球結膜充血と毛様充血があり,鼻側結膜に一部膿状の黄白色病巣(図6)を認めた.角膜には既往の腎不全に伴うと推測される帯状角膜変性部位があり,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.眼底には既存のトブラマイシンセフタジジムシプロフロキサシン点眼点滴内服入院1W2W3W4W5W6W7W8W9W10W再入院退院退院ポビドンヨード(洗眼)切開排膿★★★★図8症例2:治療経過モキシフロキサシン,セフメノキシム塩酸塩,トブラマイシンの点眼,セフタジジムの点滴治療を開始した.入院C6日目,結膜下に認めたCcalci.cationplaqueを切除し,16倍希釈ポビドンヨードで洗浄した.眼脂およびCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeruginosaが検出された.いったんは改善がみられ退院となったが,退院後再度疼痛と下方の結膜充血の悪化をきたしたため,再入院のうえ同様の処置を行った.その際に採取した強膜の膿瘍病変からもCPseudomonasaeruginosaが検出された.その後,多発する結膜下膿瘍に対し切開・洗浄を繰り返し行った.図9症例2帯状角膜変性部に角膜障害を認める.図10症例2:治療開始1年半後の前眼部写真糖尿病網膜症を認めるのみであった.血液検査ではCCRPは0.86Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,690/μlであった.リウマチ因子はC9CIU/ml,抗核抗体はC40倍未満と陰性で自己免疫性疾患を疑わせる所見は認めなかった.経過:感染性強膜炎を疑い,同日より入院のうえ,モキシフロキサシン,セフメノキシム塩酸塩,トブラマイシンの点眼,セフタジジムC0.5Cg48時間毎(透析中のため)の点滴治療を開始した.治療開始後も自他覚所見の改善が得られなかったため,入院C6日目に病巣の切開排膿およびC16倍希釈ポビドンヨードによる洗浄を行ったが,その際症例C1と同様に強膜に癒着したCcalci.cationplaqueを認めた.また,周囲の強膜は軟化し,強い壊死性変化も伴っていた(図7).後日,眼脂およびCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomo-nasaeruginosaが検出され,薬剤感受性を参考にシプロフロキサシンの内服を追加した.症例C1の経験からC16倍希釈ポビドンヨードで病巣の洗浄を続け,いったんは改善がみられ治療開始C4週目に退院となったが,退院後再度疼痛と下方の結膜充血の悪化をきたしたため,退院後C1週目に再入院のうえ,同部位に対しても再度同様の処置を行った.同部位の強膜は融解し膿瘍を形成しており,その際に採取した,壊死した強膜片からもCPseudomonasaeruginosaが検出されたが,Ccalci.cationplaqueの形成はなかった.その後,切開・洗浄を繰り返したところ,徐々に病巣部が縮小し,瘢痕化が得られたため,発症C10週間で退院となった.当院での治療経過を図に示す(図8).複数回に及ぶ希釈ポビドンヨード洗浄により,帯状角膜変性部に角膜障害が遷延したが血清点眼などで治療を行い,徐々に改善した(図9).治療開始後C1年半が経過し,強膜の菲薄化は残存し,ぶどう膜が透見されているII考按一般的に壊死性強膜炎の病因は感染性自己免疫性,特発性の三つに大別できる1)が,自己免疫性疾患に伴うものが圧倒的に多い.感染性そのものは強膜炎のC5.10%を占める2)と報告されており,とくに緑膿菌による壊死性強膜炎は翼状片切除後の報告が多く,Huangら3)は翼状片切除後の壊死性強膜炎C16例中C13例で培養により緑膿菌が検出されたと報告している.硝子体手術や斜視手術後でも報告はあるが,眼科手術歴と発症までの時期は一定でない4,5).今回のC2症例でも,症例C1は白内障手術後C3カ月,翼状片手術後C2カ月で発症しているが,症例C2では眼手術後C5年が経過してからの発症であった.緑膿菌による壊死性強膜炎の発症機序については明らかではないが,2症例とも既往の手術創と病巣が一致しており,手術後に局所的な強膜の軟化が起こり易感染性の状態が継続していた可能性が高い.また,両者とも既往に糖尿病があり,全身的に免疫機能の低下があったことも影響したと推測される.緑膿菌感染では特徴的なCcalci.cationplaqueを強膜に認めることがあるとされ6),今回のC2症例ともに病変部に同所見が確認され,後日培養で緑膿菌が検出された.緑膿菌感染による壊死性強膜炎は薬物治療のみでは治療に難渋することが多いが,これは菌が産生するプロテアーゼが組織を破壊しバイオフィルムを形成することで,薬剤が病巣部に到達しにくい環境となり,感染の遷延化,難治化に関与している7,8)と考えられている.Calci.cationplaqueはバイオフィルムの結果生じる所見であり,緑膿菌感染を疑う有力な所見となりうる.いったんバイオフィルムが形成されると薬剤は到達しにくくなるため,緑膿菌による強膜炎では外科的治療が有効とされ,その一つに病巣部の膿瘍切除,殺菌作用のあるポビドンヨード液・生食による洗眼9)がある.今回のC2症例でも結膜を切開,排膿し,calci.cationplaqueを切除したうえで洗浄することにより,薬剤の浸透性が増し,殺菌作用が向上したことが病勢の鎮静につながったと考えられた.また,2症例とも初発の病巣と隣接した部位に新たな病巣が出現し,結果的に複数回の外科的治療を要した.これは初回治療の時点で切開部隣接の結膜下に緑膿菌が残存し,感染を再燃させた可能性が高く,初回の切開排膿や病巣切除をできるだけ広く行うことが重要と考えられた.ポビドンヨード液には細菌,ウイルスに幅広く有効で,耐性ができにくいという利点があるが,一方で粘膜障害,角膜障害が生じるリスクもある9)ため,ポビドンヨードによる治療中は角膜障害に注意が必要であると考えられた.他の外科的治療方法として病巣部への保存強膜移植や大腿筋膜移植などの報告があり良好な成績を納めているが10,11),手技の簡便さや薬剤入手の容易さを考慮すると,長期治療期間を要するもののポビドンヨードによる洗浄はどの施設でも施行でき,有効な治療方法と思われる.薬物治療に抵抗し,融解した強膜にCcalci.cationCplaqueを伴う場合は緑膿菌感染の可能性を念頭におき,早期に広範囲の切開・排膿,病巣切除ならびにポビドンヨード液を用いた洗眼などの外科的治療を検討すべきである.文献1)RaoCNA,CMarakCGE,CHidayatAA:Necrotizingscleritis:CAclinic-pathologicstudyof41cases.Ophthalmology92:C1542-1549,C19882)RamenadenCER,CRaijiVR:ClinicalCcharacteristicsCandCvisualCoutcomesCinCinfectioussclerosis:aCreview.CClinCOphthalmolC7:2113-2122,C20133)HuangCFC,CHuangCSP,CTsengSH:ManagementCofCinfec-tiousscleritisafterpterygiumexcision.Cornea19:34-39,C20004)RichRM,SmiddyWE,DavisJL:Infectiousscleritisafterretinalsurgery.AmJOphthalmolC145:695-699,C20035)ChalDL,AlbiniTA,McKeownCAetal:InfectiousPseu-domonasCscleritisCafterCstrabismusCsurgery.CJCAAPOSC17:423-425,C20136)DunnCJP,CSeamoneCCD,COstlerCHBCetal:DevelopmentCofCscleralCulcerationCandCcalci.cationCafterCpterygiumCexci-sionandmitomycintherapy.AmJOphthalmol112:343-344,C19917)亀井裕子:細菌バイオフィルムとスライム産生.あたらしい眼科17:175-180,C20008)戸粟一郎,久保田敏昭,松浦敏恵ほか:緑膿菌による壊死性強膜炎の一例.臨眼57:25-28,C20039)松本泰明,三間由美子,河原澄枝ほか:緑膿菌性壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科22:1253-1258,C200510)SiatiriCH,CMirzaee-RadCN,CAggarwalCSCetal:CombinedCtenonplastyCandCscleralCgraftCforCrefractoryCPseudomonasCscleritisCfollowingCpterygiumCremovalCwithCmitomycinCCCapplication.JOphthalmicVisRes132:200-202,C201811)児玉俊夫,鄭暁東,大城由美:壊死性強膜炎に対して大腿筋膜移植が奏効したC3例.臨眼65:647-653,C2011***