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マイトマイシンC 点眼治療を行った異型性を伴う原発性後天性メラノーシスの1例

2020年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科37(9):1166.1170,2020cマイトマイシンC点眼治療を行った異型性を伴う原発性後天性メラノーシスの1例宇都宮寛高村浩公立置賜総合病院眼科CACaseofPrimaryAcquiredMelanosiswithAtypiaTreatedwithTopicalMitomycinCTherapyHiroshiUtsunomiyaandHiroshiTakamuraCDepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospitalCマイトマイシンCC(MMC)点眼治療で寛解が得られたと考えられたが,その後悪性黒色腫を発症した異型性を伴う原発性後天性メラノーシス(PAMwithatypia)のC1例を経験した.症例はC63歳,女性で,左眼球結膜の茶褐色の色素性病変を主訴に受診した.生検によりCPAMwithatypiaと診断し,MMC点眼による治療を施行したところ色素性病変の消退がみられた.治療終了からC2年C4カ月後に出血を伴う黒色の隆起性病変が出現した.病理診断にて悪性黒色腫と診断され,腫瘍切除術,冷凍凝固術,術後にCMMC点眼・インターフェロンCa-2b点眼治療を行った.治療後C1年C3カ月の時点で再発や転移は認められていない.CPurpose:Toreportacaseofprimaryacquiredmelanosis(PAM)withatypiatreatedwithtopicalmitomycinC(MMC)therapy.CCase:AC63-year-oldCfemaleCpresentedCwithCaCpigmentedClesionCinCtheCbulbarCconjunctivaCofCherlefteye.HistopathologicalexaminationrevealedPAMwithatypia,andshewastreatedwithtopicalMMCeye-droptherapy,whichdiminishedthelesion.However,at2yearsand4monthsposttreatment,aconjunctivalmalig-nantmelanomaappearedinthesameeye,andshewastreatedwithtumorresection,cryocoagulation,andtopicalMMCCandCinterferonCa-2bCtherapy.CConclusion:TreatmentCwithCtopicalCMMCCwasCe.ective,CwithCnoCrecurrenceCormetastasisobservedat1yearand3monthsposttreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(9):1166.1170,C2020〕Keywords:異型性を伴う原発性後天性メラノーシス,結膜悪性黒色腫,マイトマイシンCC点眼.primaryCac-quiredmelanosiswithatypia,conjunctivalmalignantmelanoma,topicalmitomycinC.Cはじめに結膜の原発性後天性メラノーシス(primaryacquiredmel-anosis:PAM)は後天性の扁平で無痛性の結膜の色素性病変で,通常は片眼性に生じる1).病変を構成するメラノサイトに異型性がみられないものをCPAMwithoutatypia,異型性を伴うものをCPAMwithatypiaと呼称する.PAMwithatypiaは悪性黒色腫に進展する可能性があるとされる2,3).CPAMCwithatypiaに対する治療法としてマイトマイシンC(mitomycinC:MMC)4)やインターフェロン(interferon:IFN)点眼治療があり,その有効性が報告されている4).今回,筆者らはCMMC点眼治療で局所コントロールが得られたと考えられたが,その後に悪性黒色腫を発症したPAMwithatypiaの症例を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.初診:2013年C9月.既往歴:神経線維腫症,脳出血後.現病歴:2011年頃から,左眼の球結膜に黒色病変が出現し,徐々に増大してきたため,精査目的に公立置賜総合病院眼科(以下,当科)に紹介された.初診時所見:視力は右眼C0.2(1.2),左眼C0.3(1.0),眼圧〔別刷請求先〕宇都宮寛:〒992-0601山形県東置賜郡川西町大字西大塚C2000公立置賜総合病院眼科Reprintrequests:HiroshiUtsunomiya,DepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospital,2000Nishiotsuka,Kawanishi-machi,Higashiokitama-gun,Yamagata992-0601,JAPAN(126)C11660910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼の前眼部所見球結膜の鼻側上方を除くC3象限に隆起を伴わない茶褐色の色素性病変がみられる.また,下瞼結膜および瞼縁にも茶褐色の病変がみられる.図2生検による病理組織学的所見結膜上皮内に色素を伴うメラノサイトの増生がみられる.核の大小不同や異型性,核周囲の空胞化が認められる.上皮下のメラニン色素を伴う細胞はCmelanophageである(ヘマトキシリン-エオジン染色).は右眼C17,左眼C15CmmHgであった.左眼の球結膜の鼻側眼治療などを後療法として提示したが,患者が希望せず経過上方を除くC3象限に茶褐色の色素性病変が認められた.ま観察となった.た,下瞼結膜および瞼縁にも茶褐色の病変がみられた(図生検してC1年C7カ月後,病変が軽快しないと訴え再診したC1).両眼とも中間透光体から眼底にとくに異常所見はなかっので,MMC点眼治療を開始した.0.04%CMMC点眼治療はた.1週間1日4回投与,1週間休薬を1クールとし,約3カ月経過:生検はとくに色素が豊富な下方の病変に対して,1間にC7クール施行した.視診上,PAMはほぼ消失した.一%エピネフリン入りリドカインをCTenon.下に注入して,方,左眼の角膜に混濁がみられた(図3).病変を浮き上がらせた状態でC5Cmm大に剪刀で切除した.病MMC点眼治療終了後C2年C4カ月の時点で,左眼に出血を理組織学的に結膜基底層の上部に色素を伴うメラノサイトの伴う黒色の隆起性病変の出現がみられた(図4).病変は上瞼増生がみられた.核の大小不同や異型性,核周囲の空胞化が結膜から有茎性に発症していた.生検は球結膜側に垂れ下が認められ,PAMwithatypiaと診断された(図2).MMC点っている部位をオキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシール)図3PAMwithatypiaに対するMMC点眼治療2年後の左眼の前眼部所見a~c:初診時にみられた広範囲の球結膜のCPAMwithatypiaは消失している.Cd:角膜には混濁がみられる.図4PAMwithatypiaに対するMMC点眼治療2年4カ月後の左眼の前眼部所見a:耳側上方の眼瞼下に出血を伴う隆起性の黒色病変がみられる.Cb:腫瘍の根元の部位.病変は瞼結膜から有茎性に増殖している.点眼麻酔のうえ,剪刀で切断した.病理組織学的に,結膜上皮下にメラニン色素を有し,核の大小不同,mitosisを呈する異型細胞がシート状に増殖している像がみられた(図5).免疫組織化学的に,腫瘍細胞はCHMB-45,S-100蛋白,Vimentinに陽性を示し,悪性黒色腫と診断された.そこで,結膜腫瘍を切除し,術中に冷凍凝固およびCMMC浸漬を施行し,術後にCMMC点眼治療をC2クール,その後,IFN点眼治療を連日C3カ月間施行した.その結果,1年C3カ月後の時点で局所再発や頸部リンパ節,肝臓などへの遠隔転移はみられていない(図6).CII考按PAMは結膜良性腫瘍のなかではC4%程度のまれな疾患である5),.PAMwithoutatypiaは病理組織学的に結膜の基底層にメラニン色素が沈着しており,メラノサイトの異型性はみられない.それに対してCPAMwithatypiaは核が大きく,図5MMC点眼治療2年4カ月後の結膜腫瘍の病理組織学所見シート状に増殖した腫瘍細胞は,メラニン色素を有し,核の大小不同・異型がみられ,密に増殖している(ヘマトキシリン-エオジン染色).図6悪性黒色腫治療1年3カ月後の左眼の前眼部所見a:上瞼結膜の耳側にあった悪性黒色腫は消失している.Cb~d:初診時にみられた広範囲の球結膜のCPAMwithatypiaの再発はみられない.角膜には混濁がみられる.核形やクロマチンパターンに多彩性(heterochromasia)や大きな核小体がみられ,細胞質に顆粒状のメラニンを含み,細胞質の退縮(retraction)のため核周囲が抜けてみえるなどのメラノサイトに異型がみられる.PAMCwithatypiaは前癌状態とされ,ShieldsらはそのC13%2)が,FolbergらはC46.4%3)が悪性黒色腫へ進展すると報告している.木村らは結膜悪性黒色腫の先行病変としてCPAMは最多と報告している6).PAMに対する治療としてはまず経過観察とし,病変が拡大・増殖が認められた場合に治療を始めるとされる.本症例は当初患者が治療を希望しなかったこともあり,生検からC1年C7カ月後から治療を開始した.PAMCwithatypiaに対してCMMC点眼治療が有効であるという報告4)に基づいて本症例に対してもC7クールのCMMC点眼治療を行った.その結果,球結膜のC3象限にわたるCPAMwithatypiaの病変はほぼ消退した.一方,角膜に混濁をきたした.MMC点眼治療の副作用として一時的な眼痛や結膜充血,眼瞼の発赤・腫脹から永続的な角膜混濁,角膜の結膜上皮化,輪部機能不全などがある.MMCの細胞障害作用により,正常細胞も障害されるためである.MMC点眼治療のほかには免疫賦活作用による腫瘍増殖抑制効果があるCIFN点眼治療があり7),副作用も少なくて有効である.一方,MMC点眼もCIFN点眼治療も保険適用外使用であるので,当科で投与した時点では当院の院内倫理委員会の承認を得て使用した.その後,MMCは自主回収され,IFN(イントロン)は製造・販売が終了したため,2019年C12月の時点では日本国内でも海外でも使用困難となっている.それらの代替としてC5-フルオロウラシル(5-FU)点眼治療の可能性も考えられるが,5-FUも保険適用外使用であり,使用する場合は倫理審査が必要である.本症例ではCPAMwithatypiaに対するCMMC点眼治療は有効であると考えられた.しかし,MMC点眼治療C2年C4カ月後に悪性黒色腫が発症した.結膜悪性黒色腫の治療としてもCMMC点眼治療は行われるが8),PAMCwithatypiaから悪性黒色腫への悪性転化の予防としてのCMMC点眼治療の効果は不十分なのか,MMC点眼治療から期間が経つと予防効果が減弱するのか,あるいはCPAMwithatypiaの悪性転化のCpotentialは非常に強いのかなどについて,今後,検討が必要と思われた.いずれにしても長期間の経過観察が必要であると考えられた.文献1)AlzahraniYA,KumarS,AzizHAetal:Primaryacquiredmelanosis:Clinical,ChistopathologicCandCopticalCcoherenceCtomographicCcorrelation.COculCOncolCPatholC2:123-127,20162)ShieldsCJA,CShieldsCCL,CMashayekhiCACetal:PrimaryCacquiredCmelanosisCofCtheconjunctiva:experienceCwithC311eyes.TransAmOphthalmolSocC105:61-72,C20073)FolbergR,McLeanIW,ZimmermanLE:Primaryacquiredmelanosisoftheconjunctiva.HumanPatholC16:129-135,C19854)DemirciCH,CMcCormickCSA,CFingerPT:TopicalCmitomy-cinCchemotherapyCforCconjunctivalCmalignantCmelanomaCandprimaryacquiredmelanosiswithatypia.Clinicalexpe-rienceCwithhistopathologicobservations.ArchOphthalmolC118:885-891,C20005)小幡博人:角結膜腫瘍総論A疫学的事項.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),p67-68,医学書院,C20156)木村圭介,臼井嘉彦,後藤浩:結膜悪性黒色腫C11例の臨床像と治療予後.日眼会誌116:503-509,C20127)加瀬諭,石嶋漢,野田実香ほか:インターフェロンCa-2b点眼液を補助療法として使用した結膜悪性黒色腫のC2例.日眼会誌115:1043-1047,C20118)平松彩子,四倉次郎,山本修一:結膜悪性黒色腫のC1例.臨眼58:1295-1298,C2004***

結膜悪性黒色腫切除後に生じた囊胞様黄斑浮腫の1例

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(123)1343《原著》あたらしい眼科28(9):1343?1347,2011cはじめに結膜悪性黒色腫の頻度はきわめて低く,わが国での発生率は人口10万人につき約0.0059人とされる1).限局性の結膜原発悪性黒色腫に対する治療は,単純腫瘍切除,腫瘍切除に冷凍凝固の併用,眼窩内容除去などがあり,術後療法としてマイトマイシンC(mitomycinC:MMC)点眼2,3)が行われることがある.また,悪性黒色腫に対する全身化学療法として,わが国ではcisplatin,dacarbazine,vindesineによるCDV療法,dacarbazine,nimustinehydrochrolide,vincristineによるDAV療法やinterferon-bを併用したDAV-フェロン療法などが行われている4).今回筆者らは,局所切除術と冷凍凝固術を行い,術後0.04〔別刷請求先〕山添克弥:〒296-8602鴨川市東町929亀田総合病院眼科Reprintrequests:KatsuyaYamazoe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenter,929Higashi-cho,Kamogawa296-8602,JAPAN結膜悪性黒色腫切除後に生じた?胞様黄斑浮腫の1例山添克弥横田怜二堀田順子堀田一樹亀田総合病院眼科PostoperativeCystoidMacularEdemafollowingConjunctivalMalignantMelanomaResectionKatsuyaYamazoe,ReijiYokota,JunkoHottaandKazukiHottaDepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenter結膜悪性黒色腫(CMM)切除後に?胞様黄斑浮腫(CME)を生じた症例を経験した.40歳,女性.右眼下耳側結膜および角膜に浸潤する黒褐色腫瘤を認め,CMMを疑い,単純切除術および切除断端冷凍凝固術を施行した.術後,病理組織学的にCMMと診断され,後療法として0.04%マイトマイシンC(MMC)点眼,DAV(dacarbazine,nimustinehydrochrolide,vincristine)療法を施行した.術後遠隔転移や局所再発はみられなかったが,切除部の強膜菲薄化を生じた.術14カ月後,右眼にCMEが生じた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で,典型的CME所見を認めたが,血管炎や閉塞所見はみられなかった.ジクロフェナク点眼を施行したところCMEは一旦消失したが,その後再燃した.強膜菲薄化が進行したため,術5年後に強膜移植を施行したところ,CMEは消退した.後療法としてMMC点眼を用いた結膜腫瘍摘出術では,強膜の菲薄化に伴う周辺部ぶどう膜炎症によりCMEを生じる可能性がある.Wereportacaseofpostoperativecystoidmacularedema(CME)followingconjunctivalmalignantmelanoma(CMM)resection.Thepatient,a40-year-oldfemale,wasreferredtousforinvestigationofconjunctivaltumorinherrighteye.Slitlampexaminationshowedadarkbrownnodulartumororiginatingfromthepalpebralconjunctiva,withinfiltrationtothecornea.CMMwassuspected;tumorresectionandcryotherapywereperformed.HistopathologicalexaminationofthelesionsledtothediagnosisofCMM;postoperativetreatmentincludedtopical0.04%mitomycinC(MMC)andsystemicchemotherapywithDAV(dacarbazine,nimustinehydrochrolide,vincristine)therapy.Postoperatively,therehadbeennolocalrecurrenceordistantmetastasis;however,fourteenmonthsaftersurgery,slitlampexaminationdisclosedscleralthinningaroundtheexcisedlesion,andCMEwasconfirmedbyfundusexamination.FluoresceinangiographyalsoshowedtypicalCMEfindings,withnosignsofvasculitisorvesselocclusion.CMEdecreasedafteradministrationoftopicaldiclofenac,buttheeffectwastransient.Asscleralthinningwasobserved,scleralpatchgraftwasperformedabout5yearsaftersurgery,andCMEwasabsorbed.ScleralthinningcanoccurafterconjunctivaltumorexcisionwithpostoperativeadministrationoftopicalMMC.WesupposethatperipheraluveitisfollowingscleralthinningmightbeacauseofCME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1343?1347,2011〕Keywords:結膜悪性黒色腫,マイトマイシンC,?胞様黄斑浮腫,強膜移植.conjunctivalmalignantmelanoma,mitomycinC,cystoidmacularedema,scleralpatchgraft.1344あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(124)%MMC点眼と全身化学療法を施行した結膜悪性黒色腫の1例3)(既報)の経過観察中,?胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)を発症した症例を経験した.結膜悪性黒色腫切除後にCMEを生じたとする報告はこれまでになく,若干の考察とともに報告する.I症例患者:40歳,女性.主訴:右眼球結膜色素沈着.現病歴:右眼に6カ月前から色素沈着が生じ,増大したため近医眼科を受診した.結膜悪性腫瘍を疑われ,翌日,2004年3月17日に亀田総合病院眼科を紹介受診した.既往歴:特記事項はない.初診時所見:視力は右眼1.0(n.c.),左眼1.0(n.c.).眼圧は右眼14mmHg,左眼14mmHg.右眼下耳側球結膜と角膜に浸潤する6×13mm大の黒褐色腫瘤が生じていた(図1).結膜円蓋部からは腫瘍栄養血管と思われる拡張した結膜血管の伸展がみられた.中間透光体,眼底に異常はなかった.臨床経過と肉眼的所見から結膜悪性黒色腫が強く疑われた.コンピュータ断層画像や磁気共鳴画像,Gaシンチグラフィによる全身検査で遠隔転移を示す所見はなかった.治療および経過:2004年4月12日局所麻酔下で腫瘍単純切除術と切除断端に冷凍凝固術を施行した.Safetymarginは5mmとし,角膜側は実質浅層まで?離し腫瘍を一塊として摘出した.角膜側には100%エタノールを綿棒で曝露した.切除部の強膜に結膜を被覆せず終了した.病理組織学的所見で腫瘍細胞が上皮内増殖と上皮下を中心に多数の小胞巣を形成し,全体として結節状に増生していた.また,HMB(humanmelanomablack)-45免疫染色で,腫瘍細胞は染色されなかったが,S-100蛋白免疫染色では腫瘍細胞は濃染された.腫瘍細胞は類上皮細胞と紡錘細胞からなる混合型であった.明らかに異型性を示すメラノサイトが上皮下に浸潤しており,さらにはS-100蛋白免疫染色で細胞が染色されたことから悪性黒色腫と診断した.切除断端の組織に異型細胞はなかった.術後に0.04%MMCを1日4回1週間点眼で,間隔を1週間空けて2クール投与した.また,全身化学療法としてdacarbazine,nimustinehydrochloride,vincristineによるDAV療法を1回1週間で間隔を1カ月空けて2クール施行した.術後12カ月,腫瘍切除部の強膜菲薄化がみられたが,局所の再発や遠隔転移を示唆する所見はみられなかった.視力は両眼とも(1.0)であった.術14カ月後に,右眼視力低図1初診時前眼部写真下耳側結膜および角膜に浸潤する6×13mmの黒褐色腫瘤を生じ,角膜側に1.5mm程度浸潤していた.結膜円蓋部からは腫瘍栄養血管と思われる拡張した結膜血管の伸展がみられた.(文献3より)ba図2術14カ月後の眼底写真(a)と蛍光眼底造影写真(b)a:右眼にCMEがみられた.b:右眼にCME特有の花弁状過蛍光,周辺部に点状蛍光漏出がみられた.(125)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111345下を自覚し(矯正視力0.5),右眼眼底に検眼鏡的にも光干渉断層像(opticalcoherencetomography:OCT)所見でも明らかなCME(図2a,3a)および下耳側周辺部に点状出血がみられた.蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FAG)では,右眼周辺部眼底に点状の蛍光漏出がみられ,黄斑部にはCME特有の花弁状過蛍光を生じていた(図2b).全視野刺激ERG(網膜電図)では,錐体系反応は左右差なくほぼ正常であったが,杆体系反応では右眼に若干の振幅の低下と潜時の延長がみられた.その後,CMEは増悪したため,トリアムシノロンのTenon?下注射を考慮して,ステロイド点眼を1日3回点眼1週間施行した.CME所見に変化はなかったが,右眼眼圧は30mmHgに上昇したためステロイド点眼は中止し,Tenon?下注射も見合わせた.ステロイド剤の代替的にジクロフェナク点眼1日3回点眼を開始したところ,CMEは一旦著明に改善し,右眼視力も(1.0)となったが,その後も軽度のCMEの再発をくり返した(図3b).ジクロフェナク点眼は継続していたが,術4年後よりCMEの増悪は顕著で,改善はみられなくなった(図3c,4a,4b).強膜菲薄部は潰瘍となり灰白色のプラークに覆われるようになった(図5a).2009年5月13日に菲薄部強膜を被覆する目的で強膜移植術を施行した.術後,移植片の生着は良好で,強膜移植術1年後となる2010年5月現在,右眼視力はbacd図3CMEの経過(OCT像)a:術後14カ月.明らかなCMEがみられた.b:ジクロフェナク点眼1カ月後(術25カ月後).視力(1.0).c:強膜移植術前(術53カ月後).視力(1.2).d:強膜移植術後(術61カ月後).視力(1.2).ジクロフェナク1日3回点眼を4週間施行したところ,CMEは一旦改善したが,その後増悪した.強膜移植術後にCMEの再発はみられていない.ba図4強膜移植術前後の前眼部写真a:腫瘍切除部位の強膜は菲薄化し,プラークに覆われていた(術56カ月後).b:強膜移植片は生着良好で,上皮化を得られた(術61カ月後).1346あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(126)(1.2)で,腫瘍の局所再発はなく,CMEの再発もみられていない(図3d,4c,4d,5b).II考察CMEは,網膜の外網状層と内顆粒層に液体が貯留したもので,網膜血管病変,網膜硝子体界面の異常,眼内炎症性疾患,内眼手術後,網膜変性疾患,放射線,薬剤など,さまざまな原因によって発生する.本症例には高血圧や糖尿病などの網膜血管病変をひき起こす基礎疾患はなく,検眼鏡的にも蛍光眼底造影検査からも血管閉塞や網膜変性所見はみられなかった.そこで本症例のCMEが,悪性腫瘍に起因するものである可能性および使用薬剤,外科的治療による可能性などがないかを検討することにした.悪性黒色腫に随伴して生じる網膜症に,悪性黒色腫関連網膜症(melanomaassociatedretinopathy:MAR)がある.きわめてまれな病態とされるが,欧米に加えわが国でも報告例がある5,6).双極細胞に対する自己免疫機構が関与し,夜盲,光視症で発症し,眼底には異常所見が乏しいが,ERGでb波が減弱する陰性型の波形をとるとされる6).本症例では特徴的な臨床症状がなく,ERG所見も一致しない.また,MARに伴うCMEの報告もなく,本症例のCMEがMARに伴うものとは考えにくい.一方,CMEを生じうる全身化学療法として,タキソン系抗悪性腫瘍薬があげられる.パクリタキセル7)や,タモキシフェン8),シスプラチンによるもの9)などが少数例ではあるが報告されている.しかし,今回使用したdacarbazine,nimustinehydrochrolideおよびvincristineによる発生報告は渉猟する限りみられない.また,過去の報告例はいずれも両眼性である.本例では片眼性である点と薬剤中止後長期経過してCMEが発症している点からも,化学療法が誘因となった可能性は低いと考えられる.ここで,MMC点眼はメラノーシスや悪性黒色腫で,異型メラノサイトの減少や再発予防効果があるとされる10).本症例でも切除後の後療法として併用し,既報3)でその有効性にabcd図5強膜移植術前後の眼底写真,フルオレセイン蛍光眼底造影写真a:強膜移植術前(術53カ月後),b:強膜移植術前(術53カ月後),c:強膜移植術後(術61カ月後),d:強膜移植術後(術61カ月後).強膜移植術後,CMEが消退し,その後再発はみられない.(127)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111347ついて考察した.しかし,MMC点眼による合併症には角膜炎,結膜炎などの比較的早期に出現するものの他に,強膜菲薄化や強膜軟化症などの晩期合併症も報告されている11).また発生のメカニズムは不明だが,ぶどう膜炎続発緑内障や角膜移植後緑内障に対するMMC併用trabeculectomyの合併症としてCMEの発生も散見される12).本症例では,CMEが術眼のみに生じたこと,FAG所見で周辺部網脈絡膜炎症が疑われること,ステロイド剤点眼よりもジクロフェナク点眼が奏効したこと13),強膜移植が奏効したことなどを考慮すると,菲薄化した強膜を介した機械的な刺激によりぶどう膜炎が惹起し,CMEを生じた可能性が最も考えられる.MMC点眼あるいは術中の直接塗布は,結膜悪性黒色腫などの悪性新生物切除術以外にも緑内障濾過手術や翼状片手術などで広く行われている.術後の長期経過で強膜の菲薄化とともにCMEが発生する可能性があり,侵襲の少ないOCT検査などで黄斑部所見に十分留意する必要がある.また,積極的な強膜移植は,強膜菲薄化に起因するCMEに対し有効であることが示された.文献1)金子明博:日本における眼部悪性黒色腫の頻度について.臨眼33:941-947,19792)DemirciH,McCormickSA,FingerPT:Topicalmitomycinchemotherapyforconjunctivalmalignantmelanomaandprimaryacquiredmelanosiswithatypia:clinicalexperiencewithhistopathologicobservations.ArchOphthalmol118:885-891,20003)有澤武士,成田信,堀田一樹:結膜悪性黒色腫の2例.眼科手術19:245-249,20064)後藤浩:眼科領域の悪性黒色腫と悪性リンパ腫のマネージメント:眼と全身の連携.あたらしい眼科19:593-602,20025)LuY,JiaL,HeSetal:Melonoma-associatedretinopathy:aparaneoplasticautoimmunecomplication.ArchOphthalmol127:1572-1580,20096)村山耕一郎,田北博保,清原祥夫ほか:悪性黒色腫関連網膜症の臨床像と経過.日眼会誌110:211-217,20067)伊藤正,奥田正俊:抗癌剤パクリタキセル使用中に?胞様の黄斑症を呈した1例.日眼会誌114:23-27,20108)加治屋志郎,早川和久,澤口昭一:タモキシフェン網膜症の1例.あたらしい眼科16:1145-1148,19999)濱田文,西村雅史,鈴木克彦ほか:悪性中皮腫に対する化学療法により?胞様黄斑浮腫を生じた1例.眼臨101:963,200710)WillsonMW,HungerfordJL,GeorgeSMetal:TopicalmitomycinCforthetreatmentofconjunctivalandcornealepithelialdysplasiaandneoplasia.AmJOphthalmol124:303-311,199711)久田佳明,田中康裕,佐野邦人ほか:マイトマイシンC点眼による翼状片の治療成績.眼紀49:214-217,199812)PrataJA,NevesRA,MincklerDSetal:TrabeculectomywithmitomycinCinglaucomaassociatedwithuveitis.OphthalmicSurg25:616-620,199413)MiyakeK,MasudaK,ShiratoSetal:Comparisonofdiclofenacandfluorometholoneinpreventingcystoidmacularedemaaftersmallincisioncataractsurgery:amulticenteredprospectivetrial.JpnJOphthalmol44:58-67,2000***