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当院でのCOVID-19 陽性裂孔原性網膜剝離に対する手術経験 ─ COVID-19 陽性患者手術時の留意点について─

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):580.585,2024c当院でのCOVID-19陽性裂孔原性網膜.離に対する手術経験─COVID-19陽性患者手術時の留意点について─水谷凜一郎*1杉本昌彦*1,2原田純直*1佐々木拓*1中条慎一郎*1天満有美帆*1松井良諭*1松原央*1近藤峰生*1*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室*2山形大学医学部眼科学教室CSurgeryforRhegmatogenousRetinalDetachmentinaPatientInfectedwithCOVID-19:TipsforSurgicalManagementofCOVID-19-PositiveCasesRinichiroMizutani1),MasahikoSugimoto1,2),SumineHarada1),TakuSasaki1),ShinichiroChujo1),YumihoTenma1),YoshitsuguMatsui1),HisashiMatsubara1)andMineoKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,YamagataUniversityC目的:COVID-19陽性の網膜.離(RRD)症例の経験から新興感染症陽性患者に対する周術期管理について検討する.症例:53歳,男性.右眼CRRDに対する手術を計画したが入院前のCCOVID-19抗原検査で陽性が判明した.各部署と連携し,導線を確保しての入院・手術を計画した.感染対策に配慮し,手術は陰圧室にて助手は設けず,完全防護衣で清潔となった執刀医C1名と外回り看護師C1名のC2人体制で実施された.単独術者による手術であるための軽微なトラブルや,ゴーグルの曇りが問題となったが,安全な手術が遂行され,術後経過も良好であった.結論:COVID-19陽性患者のCRRDに対する手術にはさまざまな課題が残るが,スタッフとの徹底した連携の元,感染管理に注意して行うことで安全に手術が実施可能である.CPurpose:ToCreportCtheCcaseCofCCOVID-19-positiveCpatientCwithCrhegmatogenousCretinaldetachment(RRD)Cwhowassurgicallytreatedandpresenttipsforsafemanagementinsuchcases.Case:A53-year-oldmalepatientwasscheduledforsurgicaltreatmentofRRDinhisrighteye,however,hetestedpositivefortheCOVID-19anti-genpriortoadmission.Thus,andfromtheaspectofinfectioncontrol,wecollaboratedwithotherdepartmentsandscheduledCtheCsurgeryCtoCbeCperformedCinCaCnegativeCpressureCroomCviaConeCprimaryCsurgeonCinCfullCprotectiveCclothing,withoutanassistant,andonenurseoutsidetheroom.AlthoughminorproblemsdidoccurduetoasinglesurgeonCandCfoggingCofCtheCgoggles,CtheCoperationCwasCperformedCsafelyCandCtheCpostoperativeCcourseCwasCgood.CConclusion:AlthoughvariousissuescanoccurinthesurgeryofRRDinCOVID-19-positivepatients,theopera-tioncanbeperformedsafelyunderawell-coordinatedcollaborationwithmedicalsta..〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):580.585,C2024〕Keywords:COVID-19,網膜.離,単独術者.COVID-19,rhegmatogenousretinaldetachment,solosurgeon.Cはじめにコロナウイルス感染症C2019(COVID-19)は迅速かつ広範囲に拡大したため,世界保健機関はCCOVID-19をパンデミックとして宣言した1).世界情勢は激変し,医療も大きな打撃を受けた.COVID-19感染症の流行下において医療従事者の集団感染を予防し医療体制を維持することは重要な課題であった.受診抑制や病床ひっ迫などによる受診遅延が問題となり,多くの疾患の治療成績に影響した.感染力の強さから海外の複数の国ではロックダウンも行われていた.眼科診療ではパンデミック時であっても密接な接触が危惧される近接距離での検査・診療が要求されるため,感染症曝露のリスクが高いとされ,この影響を大きく受けた.とくに網膜硝子体疾患の予後に多大な影響が出たことが多数報告されている2.5).〔別刷請求先〕水谷凜一郎:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:RinichiroMizutani,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,514-8507,JAPANC580(108)徐々に海外では制限が緩和されたが,わが国でもC2023年5月にCCOVID-19感染症はC5類となり,ようやく入院・手術加療の制限が緩和された.眼科診療もコロナ前の状態に戻りつつあるがCCOVID-19は消失してはおらず,COVID-19感染患者への周術期対応は依然重要である.今回,COVID-19陽性の網膜.離(rhegmatogenousCretinaldetachment:RRD)症例を経験した.そのなかで,今後のCCOVID-19など新興感染症陽性の手術患者に対する周術期管理についてさまざまな課題が浮き彫りとなったので報告する.CI症例患者:53歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:202x年C8月初旬より右視力障害を自覚した.8月C22日,近医受診し,右眼CRRDを指摘された.同日,手術目的に当科紹介初診となった.既往歴:とくになし.当院初診時に発熱や咳嗽・咽頭痛はなかったが,1週間ほど前に同僚がCCOVID-19陽性を指摘されていた.所見:右眼視力C0.7(矯正).前眼部・中間透光体には明らかな異常なし.後眼部には下方裂孔による,増殖性変化を伴う網膜.離を認めた(図1).経過:即日入院のうえ,局所麻酔による手術を予定したが入院前のCCOVID-19抗原検査で陽性が判明した.当時はコロナ感染の第C7波到来時期であり,当院手術部・感染制御部と協議し,即日入院は中止となった.入院時・手術時の導線を確保できる翌日午後の予定入院ならびに準夜帯での予定手術を計画した.手術所見:感染制御の観点から,手術は他科定期手術が終Cab了した準夜帯に予定を組み,陰圧室で実施された.手術室汚染防止の観点から,使い捨てカバーを装着するなどの感染対策を行い,必要な最低限の器機のみを室内に搬入した(図2a).眼内レンズなどの随時必要となる物品は室外のグリーンゾーンから別のスタッフが安全に配慮しながら室内のレッドゾーンへ適宜手渡しをした.医療スタッフの感染を危惧し,陰圧室への入室者は最低限として,手術助手は設けず,清潔となった執刀医C1名と外回り看護師C1名のC2人体制で手術を実施した(図2b).術者・看護師は通常の術衣に加えてN-95マスクと眼鏡ないしはフェイスシールドを着用した.術者は眼鏡を装用したが,術中の曇りが問題となった.白内障手術を行い,眼内レンズを挿入した.その後,4-portでのC25ゲージ硝子体手術を開始した.眼内を観察し図1初診時所見初診時の眼底写真を示す.下方裂孔(C.)と増殖性変化を伴う網膜.離を認める.図2周術期の室内周術期の室内を示す.陰圧室で使い捨てカバーを装着し,必要最低限の器機のみ搬入されている(Ca).完全防護具で清潔となった執刀医C1名が執刀している(Cb,.).図3術中所見術中所見を示す.液ガス置換中,空気泡による視認性低下を認めた(Ca).手術継続したが,角膜浮腫も出現したため視認性が著しく低下した(Cb).角膜上皮.離を行い,視認性を確保し(Cc),ガス置換を完遂した(Cd).たところ,下方網膜格子状変性に生じた原因裂孔からの広範な網膜.離と増殖性変化を認めた.硝子体切除し,後部硝子体膜.離を作製後,圧迫しながら裂孔周囲の硝子体処理と増殖膜処理を実施した..離範囲が広汎であることからアーケード上方に意図的裂孔を作製し,液空気置換を行って網膜下液の排液を行った.液空気置換時,術者一人であったため機器パネル操作による設定変更を行った際に術野を離れざるをえない場面があった.再度術野を確認したところ,空気泡による視認性の低下を認めた(図3a,b).また,角膜浮腫も出現し,角膜上皮.離を行って視認性を確保した(図3c).視認性が改善したため,ガス置換を完遂し(図3d),原因裂孔と意図的裂孔などへの眼内網膜光凝固を実施し,シリコーンオイルに置換して手術を終了した.術後経過:手術終了術,術者自身が個人用防護具着用のままで眼科病棟の隔離個室まで搬送した.手術翌日,往診にて診察したところ経過良好であったため,当日に当院退院となった.無症候患者であるため,ホテル待機療養となった.療養中,電話で患者に連絡し,経過確認を行ったが,大きな自覚変化はなかった.術後C5日(待機期間C7日目)で療養施設からの退所となり,以後当科外来通院となっている.術C2週間後の受診時には網膜復位が得られ,右眼視力はC0.3(矯正)であった(図4).術後C4カ月でシリコーンオイル抜去を実施し,手術後C5カ月で右眼視力はC0.7(矯正)である.CII考按コロナ禍当初,ビジョンアカデミーでは,COVID-19パンデミック時の硝子体内抗CVEGF注射に関する具体的なガイダンスを提示した6).このなかでコロナ禍においても網膜疾患を管理するための戦略として①患者と医療スタッフの双方がCCOVID-19の曝露リスクを最小限にすること,②不可逆的な視力喪失のリスクが高い患者に対する治療を優先すること,③抗血管内皮増殖因子阻害薬治療レジメンを簡略化することに重点を置くべきであると結論づけている.また,各国の眼科学会が,パンデミック時の患者管理に関する眼科医向けの一般的ガイダンスを発表したが,とくに米国眼科学会ではさまざまな具体的な対策を推奨していた.外用ポビドンヨードはコロナウイルスに有効であり手術前処置に重要であること,手術用マスクとフェイスシールドなどの保護具の着用,そして必要時のCN-95マスク使用が推奨されていた[https://Cwww.aao.org/headline/alert-important-coronavirus-context.(Accessed:Oct21,2023)].硝子体手術では理論的にはエアロゾルが発生し,術者に感染が波及する可能性がある.しかし,最近の小切開手術ではバルブ付きトロッカーカニューレを使用するため,発生するエアロゾルは眼内に限定される.このため,感染リスクは低いと思われ,標準的な手術用防護衣で感染対策は十分であると考えられる.また,近年広まりつつある三次元ヘッドアップディスプレイシステムなどの新しいデジタル技術を使用することで,医師と患者との間の距離をとることも可能となり,予防の可能性が増す7).このようにCCOVID-19パンデミック当初には厳重な管理が行われてきたが,その知見が集積したことやC5類への移行などからC2023年現在,手術のハードルは下がってきている.今回,施設内の感染拡大を防止する目的から本手術は術者一人で実施した.現在の硝子体手術はシステマティックであり,単純なものであれば一人でも十分実施可能である.しかし,本症例の執刀中の問題点として,保護眼鏡の曇りがあったこと,液空気置換やレーザー実施などのモード変更に時間を要したこと,そしてそのために術中角膜障害などが生じ,術中手順が煩雑化したことなどがあげられる.院内感染の観点からでの選択ではあったが,手術安全性という点からは術者の技量・術眼の状態など,症例ごとに熟考が必要である.パンデミック当初は受診と手術時期の遅延が重要な課題であった.COVID-19流行当初に英国ではロックダウンが行われた.すべての病院に対し,当局から医療抑制の指示があり,眼科では眼外傷やCRRDなどの重篤な疾患に対する手術のみが行われ手術を必要とするCRRD症例が減少したものの増殖硝子体網膜症や黄斑.離を伴うCRRDは増加したとされている8).COVID-19に感染することを恐れての受診抑制などがこの理由として考えられた.加えて,家庭医のいるプライマリー施設もほぼ閉鎖されたため,眼科専門医へのコンサルトが遅れたことも一因とされている.黄斑部を脅かすCRRDは緊急性の高い眼疾患であり,重大な視力低下をもたらす.視力予後は黄斑の状態に左右され,黄斑部網膜.離の発見や手術が遅れることで術後視力などの治療成績は悪化する9.12).RRDの手術時期がC7日遅れると視力予後が悪くなることが報告されているが,最近の研究では,3日でも視力予後は不良となることも示唆されている13).このように受診や手術時期の遅延はCRRDの治療成績に明らかに影響し,非復位への懸念があるため早期手術が望ましい.米国でも,当初は学会図4加療後所見術後C2週間の眼底写真を示す.シリコーンオイル下に網膜復位が得られている.からCCOVID-19陽性患者の予定手術はC6週間延期すべきと推奨されていたが,パンデミック期間中にCRRDを発症した患者では,治療が遅れ,術後視力の悪化や増殖性網膜症が悪化する可能性が高かった14).また,加齢黄斑変性の治療が大幅に遅れ,短期転帰が悪化したことも報告されている2).日本眼科学会が示す「新型コロナウイルス感染症流行時の眼科手術に対する考え方」ではCRRDは要緊急対応疾患に分類される[https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/news/069.pdf(Accessed:Oct21,2023)].ロックダウンやパンデミック時に黄斑.離を伴うCRRDが増加した事実から考えても,やはり早期手術が望ましい.本症例加療当時の待機期間は有症状者でC10日間,無症状者でC7日間であった.無症状CCOVID-19陽性であったため,本来はC7日間待機したのちに手術入院となるが,要緊急対応疾患に分類されるため院内各部署と協議したうえで,翌日入院となった.本症例では初診時,黄斑.離はなく,数日の待機は不可能ではなかったかもしれない.今回,筆者らは比較的早期に手術を実施することができたが,それでも入院時間や手術開始時間の変更,搬送などスタッフに与えた影響は無視できないものであった.この点から,今後新たに生じる可能性のある新興感染症流行下においても手術時期の決定は病勢や医療情勢・スタッフへの負担増加などを踏まえての判断が必要となる.今回,スタッフへの感染拡大を恐れ,単独術者で執刀したが,これに伴い手技が煩雑となった.現在はC5類となり待機期間や隔離が形骸化されたが,入院取り扱いをどうするか,施設ごとに指針があり完全に統一はされていない.すべての入院患者に対する抗原検査を行う施設はほぼなくなり,発熱の確認程度で入院してくる従来の形になった現在では,発熱や風邪症状ではじめて抗原検査を行うことがほとんどである.このため,院内発生症例に対してどのように取り扱うか表1新興感染を伴う網膜.離患者の治療に関する留意点・症例によっては隔離期間での手術待機も考慮する.・黄斑部.離に至ったものには早期の手術が望ましい.・院内各部署と連携し,搬送時や病棟での感染拡大防止に努める.・手術は陰圧室で実施し,術者やスタッフへの感染に留意する.・手術は完全防護衣着用に準じた防護で行う.・フェイスシールドなどで飛沫に留意するが,曇りに留意が必要である.・器具の受け渡しにはグリーンゾーンとレッドゾーンの区別に留意する.・単独術者により実施も可能だが,難易度・技量により計画する.が現実的な課題である.今後,COVID-19に類似した新興感染症が流行する危険性も懸念されており,また入院中にCOVID-19陽性が判明したCRRDや外傷など準緊急・緊急手術が必要な症例もあるかもしれない.今回のコロナ禍で筆者らが得た知見を基に,秩序だった入院・手術を計画できるよう,配慮することが重要である.国内でのCCOVID-19患者に対するCRRD手術の報告は他にもあり15),今回の経験も含めた治療留意点を示す(表1).RRDの手術時期延期は術後視力不良に直結し,早期対応と手術が必要である.進行を想定し,適切なタイミングの治療介入が重要であり,スタッフとの徹底した連携の元,単独術者で硝子体手術を実施することが可能であった.5類となった現在,COVID-19陽性患者の入院・手術を計画する場面が依然あるが,実際にCCOVID-19陽性患者に対する手術を行うなかでさまざまな課題を考えていく必要がある.〈利益相反〉水谷凜一郎,原田純直,天満有美帆,佐々木拓:なし杉本昌彦:経済的支援)ノバルティスファーマ,中外製薬株式会社,アルコンファーマ,バイエル薬品報酬)ノバルティスファーマ,アルコンファーマ,参天,興和創薬,千寿製薬,バイエル薬品,わかもと製薬中条慎一郎:報酬)参天製薬,ノバルティスファーマ,参天製薬,中外製薬,バイエル薬品松井良諭:経済的支援)バイエル薬品,中外製薬報酬)AMO,参天製薬,ノバルティスファーマ,日本アルコン,バイエル薬品松原央:経済的支援)中外製薬報酬)参天製薬,千寿製薬,ノバルティスファーマ,バイエル薬品近藤峰生:経済的支援)ノバルティスファーマ,日本アルコン,参天,大塚製薬,千寿製薬,HOYA,ファイザー,AMO,興和,バイエル薬品コンサルタント)千寿製薬,小野薬品,第一三共報酬)ノバルティスファーマ,アルコン,参天,サノフィ,興和,大塚製薬,千寿製薬,バイエル薬品,アッビィ,AMO,ファイザー,第一三共文献1)CucinottaD,VanelliM:WHOdeclaresCOVID-19apan-demic.ActaBiomedC91:157-160,C20202)BorrelliCE,CGrossoCD,CVellaCGCetal:Short-termCoutcomesCofCpatientsCwithCneovascularCexudativeAMD:theCe.ectCofCCOVID-19Cpandemic.CGraefesCArchCClinCExpCOphthal-molC258:2621-2628,C20203)dell’OmoR,FilippelliM,SemeraroFetal:E.ectsofthe.rstmonthoflockdownforCOVID-19inItaly:aprelimi-naryCanalysisConCtheCeyecareCsystemCfromCsixCcenters.CEurJOphthalmolC31:2252-2258,C20214)YangCKB,CFengCH,CZhangH:E.ectsCofCtheCCOVID-19CpandemicConCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtreatmentCinCChina.CFrontMed(Lausanne)C7:576275,C20205)AbdullatifAM,MakledHS,HamzaMMetal:ChangeinophthalmologyCpracticeCduringCCOVID-19pandemic:CEgyptianperspective.OphthalmologicaC244:76-82,C20216)KorobelnikCJF,CLoewensteinCA,CEldemCBCetal:GuidanceCforCanti-VEGFCintravitrealCinjectionsCduringCtheCCOVID-19Cpandemic.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC258:C1149-1156,C20207)IovinoCC,CCaporossiCT,CPeirettiE:VitreoretinalCsurgeryCtipandtricksintheeraofCOVID-19.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:2869-2870,C20208)JasaniKM,IvanovaT,SabatinoFetal:ChangingclinicalpatternsCofCrhegmatogeneousCretinalCdetachmentsCduringCtheCCOVID19CpandemicClockdownCinCtheCNorthCWestCofCtheUK.EurJOphthalmolC31:2876-2880,C20219)TaniCP,CRobertsonCDM,CLangworthyA:PrognosisCforCcentralCvisionCandCanatomicCreattachmentCinCrhegmatoge-nousCretinalCdetachmentCwithCmaculaCdetached.CAmCJOphthalmolC92:611-620,C198110)RehmanSiddiquiMA,AbdelkaderE,HammamTetal:CSocioeconomicCstatusCandCdelayedCpresentationCinCrheg-matogenousCretinalCdetachment.CActaCOphthalmolC88:C352-353,C201011)MitryCD,CAwanCMA,CBorooahCSCetal:Long-termCvisualCacuityCandCtheCdurationCofCmaculardetachment:.ndingsCfromaprospectivepopulation-basedstudy.BrJOphthal-molC97:149-152,C201312)RyanCEH,CRyanCCM,CForbesCNJCetal:PrimaryCRetinalCdetachmentoutcomesstudyreportnumber2:phakicret-inalCdetachmentCoutcomes.COphthalmologyC127:1077-1085,C2020C13)RossWH:VisualCrecoveryCafterCmacula-o.CretinalC128:686-692,C2021detachment.Eye(Lond)C16:440-446,C200215)熊崎茜,星山健,富原竜次ほか:COVID-19陽性の裂14)PatelLG,PeckT,StarrMRetal:Clinicalpresentationof孔原性網膜.離C3例に対する手術経験.臨眼C77:1134-rhegmatogenousCretinalCdetachmentCduringCtheCCOVID-1141,C2023C19pandemic:aChistoricalCcohortCstudy.COphthalmologyC***

毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術後に 発症した網膜剝離に対してシリコーンオイル注入を行った1 例

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1216.1220,2021c毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術後に発症した網膜.離に対してシリコーンオイル注入を行った1例雲井美帆*1松田理*1松岡孝典*1橘依里*1辻野知栄子*1大鳥安正*1木内良明*2*1独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofSiliconeOilInjectionforRetinalDetachmentthatOccurredPostParsPlanaBaerveldtImplantSurgeryMihoKumoi1),SatoshiMatsuda1),TakanoriMatsuoka1),EriTachibana1),ChiekoTsujino1),YasumasaOtori1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC目的:バルベルト緑内障インプラント手術後に発症した網膜.離に対してシリコーンオイル注入が有用であった例を報告する.症例報告:53歳,女性.1999年(35歳時)に糖尿病網膜症による硝子体出血,血管新生緑内障を発症し,両眼に複数回の硝子体手術,線維柱帯切除術を施行された.右眼眼圧コントロールが不良のため,2013年にバルベルト緑内障インプラント手術(毛様体扁平部挿入型)を施行された.2017年C6月右眼の視力が急激に低下し,大阪医療センター眼科を受診した.右眼の視力はC50Ccm手動弁,眼圧C5CmmHgで黄斑まで及ぶ網膜.離を認め,硝子体茎離断術,シリコーンオイル注入を行った.術後,網膜は復位しており眼圧はC15CmmHg以下で推移している.術後C2年半まで再.離や眼圧上昇,シリコーンオイル漏出の合併症なく経過している.結論:バルベルト挿入眼にもシリコーンオイル注入が可能であったが,眼圧上昇やシリコーンオイル漏出の可能性があり,注意深い経過観察が必要である.CPurpose:ToreportacaseofsiliconeoilinjectionforretinaldetachmentthatoccurredpostBaerveldtGlauco-maImplant(BGI)(Johnson&JohnsonVision)surgery.Casereport:A53-year-oldAsianfemalepresentedwiththecomplaintofseverevisonlossinherrighteye.In2013,shehadundergoneparsplanBGIsurgeryinherrighteyeduetopoorcontrolofintraocularpressure(IOP).In2017,retinaldetachmentwasoccurredinherrighteye,andCparsplanaCvitrectomy(PPV)andCsiliconeCoilCinjectionCwasCperformed.CResults:ForC2.5-yearsCpostoperative,CtheIOPinherrighteyehasremainedunder15CmmHg,withnoapparentleakageorrecurrenceofretinaldetach-ment.Conclusion:PPVcombinedwithsiliconeoilinjectionwasfoundusefulforretinaldetachmentthatoccurredinaneyepostBGIsurgery,however,strictfollow-upisrequiredinsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(10):1216.1220,C2021〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,網膜.離,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,シリコーンオイル.Baer-veldtCglaucomaCimplant,CretinalCdetachment,CproliferativeCdiabeticCretinopathy,CparsCplanaCvitrectomy,CsiliconeCoil.Cはじめに続発緑内障,血管新生緑内障,角膜移植後などで線維柱帯切除術が困難な症例や,線維柱帯切除術による眼圧下降が不十分な難治性緑内障,結膜瘢痕が強い症例ではチューブシャント手術が必要となる.チューブシャント手術は,チューブからプレートへ房水を漏出させ,プレート周囲の線維性の被膜により濾過胞を形成し眼圧を下降させる.チューブの留置位置により前房型,毛様体扁平部型があり,術者,症例により使い分けられている1).わが国で使用可能なロングチューブシャントにはバルブのあるもの(アーメド緑内障バルブ),〔別刷請求先〕雲井美帆:〒540-0006大阪府大阪市中央区法円坂C2-1-14独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科Reprintrequests:MihoKumoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2-1-14Hoenzaka,ChuoKu,OsakaCity,Osaka540-0006,JAPANC1216(84)バルブのないバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)がある.硝子体手術の既往がある場合には毛様体扁平部型を使用する例が増加しているが2),それに伴いチューブシャント手術後の網膜硝子体疾患の合併症例も増加している3).なかでも網膜.離はC6%と報告されている4).難治網膜.離に対してはシリコーンオイル(siliconeoil:SO)注入が必要になる可能性があるが,チューブへのCSOの迷入,眼圧上昇などの危惧があり5)世界でも報告は少なく,わが国ではCBGI留置眼へのCSO注入の報告は確認できなかった.今回毛様体扁平部挿入型CBGI手術後に網膜.離を合併し,SO注入をした症例を経験したので報告する.CI症例53歳,女性.1999年(35歳時)に糖尿病網膜症による両眼の硝子体出血,血管新生緑内障を発症した.右眼はC1999年C4月に初回の線維柱帯切除術,6月に硝子体茎離断術,白内障同時手術を施行された.眼圧コントロール不良のため,その後線維柱帯切除術・濾過胞再建術を合計C8回行われ,2013年C1月にCBGIを用いたチューブシャント手術(毛様体扁平部挿入型)を下耳側に施行された.左眼も複数回の硝子体手術,線維柱体切除術を施行されたがC2002年に失明状態となった.2017年C6月,右眼の急激な視力低下を自覚し大阪医療センター眼科受診した.視力低下時の右眼視力はC50Ccm手動弁,左眼は光覚弁で眼圧は右眼C5CmmHg,左眼C25CmmHgであった.右眼の結膜は全周が瘢痕化しており下耳側にCBGIが留置されていた.前眼部に帯状角膜変性があり透見性が不良であったが,下方網膜に裂孔を原因とする網膜.離を認めた.角膜内皮細胞密度は右眼C518個/mm2であった.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でも黄斑部にまで及ぶ網膜.離があり(図1a),硝子体手術を施行した.術中所見(図2)結膜は非常に癒着が強い状態であった.結膜を切開しCBGIを露出すると,房水の漏出が確認された.BGIのチューブをC6-0バイオソルブで結紮し,輪部から13Cmmの位置に輪状締結術(#240)を施行した.BGI部分では後方のプレートの上から留置した.その後硝子体茎離断術(parsplanaCvitrectomy:PPV)を行った.BGIのチューブ先端は硝子体腔内にあり,周囲に網膜.離や増殖膜はなかCb図1黄斑部光干渉断層計所見a:.離時,b:術後C3カ月.図2術中所見a:全周に結膜瘢痕があった.b:下耳側にCBGIのチューブを確認した.被膜に覆われており,切開により房水の漏出があった.c:輪状締結術を行った.d:全体に増殖膜があり,下方にC6カ所の裂孔があった.Cab図3動的視野検査所見a:手術C6カ月前,b:術後C1カ月.硝子体手術前後で,V-4イソプターに著明な変化はなかった.眼圧(mmHg)1412108642000.511.5術後日数(年)図4術後眼圧経過術後C2年半まで眼圧はC15CmmHg以下で経過している.22.53った.網膜は後極から周辺部にかけて増殖膜が強く張っており下方に牽引性の裂孔をC6カ所確認した.可能なかぎり増殖膜を除去し,牽引が除去できない部位は網膜切開を追加した.最後にCSOを注入して終了した.経過:術翌日,SOの割合はC9割程度であった.術後眼圧はC10CmmHg程度で推移した.術後C1カ月後の動的視野検査では網膜.離発症のC6カ月前の視野検査と比較すると,黄斑部の.離のため視野の感度低下はあるがCV-4イソプターでは著明な変化はなかった(図3).術後C3カ月の時点で黄斑部の網膜は復位していた(図1b).術後C2年半経過時にも眼圧は緑内障点眼なしでC15CmmHg以下で経過している(図4).周辺部の増殖組織は完全な除去が困難であり,SO抜去によって眼球癆になる可能性があるため,SOは抜去せずに経過を観察している.帯状角膜変性の増強はあるが,右眼視力は0.01(0.01C×sph+1.5D(cyl.1.5DAx180°),であった.細隙灯顕微鏡検査で確認できるようなCSOの漏出はないが,硝子体腔のCSOはC7割程度に減少していた.CII考按近年,難治性緑内障に対しチューブシャント手術が行われる症例が増加してきており6),毛様体扁平部に留置されたBGI手術後に発症する網膜.離はC6%4),その他のチューブシャント手術も含めたものではC3%との報告がある7).チューブシャントによって房水柵機能が破綻され眼内に増殖因子が分泌されるため4),糖尿病網膜症が落ち着いていない状況でCBGIを挿入すると網膜症が悪化する可能性があると報告されている7).本症例はCBGI手術後C4年C5カ月で牽引性網膜.離を発症しており,増殖糖尿病網膜症の悪化やCBGI留置が網膜.離の原因になった可能性がある.糖尿病網膜症や血管新生緑内障の患者にチューブシャント手術を行う場合はとくに増殖膜の形成や網膜.離に注意する必要がある.チューブシャント手術後の網膜.離については,硝子体手術が有効であるとの報告があり,Benzらによると,初回からCPPVを施行したものでは全例術後再.離は起こらなかったとしている8).それに対してCPPVを行わずに網膜復位術や気体網膜復位術を行ったC3例では全例再.離を起こしPPVが必要になった8).治療についてはCPPVを選択し,網膜復位が困難な例ではCSO注入も検討する必要がある.本症例では周辺部に増殖膜による牽引性網膜.離を発症しており,すべての増殖膜除去が困難であったため輪状締結とPPV,SO注入を行ったが,術後C2年半まで再.離なく経過している.チューブシャント手術眼へのCSO注入ではオイルの漏出が問題となる.チューブにCSOが閉塞し眼圧が上昇するとさら漏出を起こしやすくなるため,チューブシャント手術後でSOの漏出によって再手術が必要になった例が今までにも報告されている.FribergらはCBGI(無水晶体眼,前房型,上方)でチューブからのCSOの漏出と眼圧上昇のためオイル抜去が必要になった症例を報告している9).Chanらは上方のBGI留置後に増殖糖尿病網膜症・網膜.離を発症し,SO注入を行ったC5カ月後の漏出を経験しているが,その際下方にチューブを移動させ再漏出を防いだと報告している10).SOは房水より比重が軽いため,チューブからの漏出を予防するにはCSOとの接触を減少させる下方へのチューブ設置が有利と思われる.本症例では下耳側の毛様体扁平部挿入型CBGI留置眼にCSOがC9割程度注入された.現在術後C2年半経過しており,SOはC70%程度に減少している.SOの減少は睡眠中などの臥位での漏出が疑われるが,チューブが下方に留置されていることから比較的脱出しにくくなっていると考えられる.結膜下にCSOが漏出している可能性はあるが,眼圧上昇や再.離,漏出による眼球運動障害,結膜腫脹はなく,検眼鏡的に確認できるようなCSOの貯留所見はない.しかしながら,Moralesら11),Nazemiら12)は下方に留置されたチューブ眼でも,シリコーン漏出や閉塞による眼圧上昇のため再手術が必要になった例を報告しており,今後も注意深い経過観察が必要と思われる.場合によっては毛様体の光凝固やマイクロパルスなどチューブシャント手術以外の眼圧下降方法も検討が必要である7).BGI硝子体腔留置術後の網膜.離に対してCSOを使用した硝子体手術は有効な選択肢であるが,長期予後については不明であるため,術後のCSO減少や眼圧上昇については注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)千原悦夫:チューブシャント手術の適応とチューブの選択.緑内障チューブシャント手術のすべて,メジカルビュー社,p16-19,20132)GandhamCSB,CCostaCVP,CKatzCLJCetal:AqueousCtube-shuntCimplantationCandCparsCplanaCvitrectomyCinCeyesCwithCrefractoryCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC116:189-195,C19933)LuttrullCJK,CAveryCRL,CBaerveldtCGCetal:InitialCexperi-enceCwithCpneumaticallyCstentedCbaerveldtCimplantCmodi.edforparsplanainsertionforcomplicatedglaucoma.OphthalmologyC107:143-150,C20004)SidotiCPA,CMosnyCAY,CRitterbandCDCCetal:ParsCplanaCtubeCinsertionCofCglaucomaCdrainageCimplantsCandCpene-tratingCkeratoplastyCinCpatientsCwithCcoexistingCglaucomaCandcornealdisease.OphthalmologyC108:1050-1058,C20015)NguyenCQH,CLloydCMA,CHeuerCDKCetal:IncidenceCandCmanagementCofCglaucomaCafterCintravitrealCsiliconeCoilCinjectionforcomplicatedretinaldetachments.Ophthalmol-ogyC99:1520-1526,C19926)ChenCPP,CYamamotoCT,CSawadaCACetal:UseCofCanti-.brosisCagentsCandCglaucomaCdrainageCdevicesCinCtheCAmericanCandCJapaneseCGlaucomaCSocieties.CJCGlaucomaC6:192-196,C19977)LawSK,KalenakJW,ConnorTBJretal:Retinalcompli-cationsCafterCaqueousCshuntCsurgicalCproceduresCforCglau-coma.ArchOphthalmolC114:1473-1480,C19968)BenzCMS,CScottCIU,CFlynnCHWCJrCetal:RetinalCdetach-mentCinCpatientsCwithCaCpreexistingCglaucomaCdrainagedevice:anatomic,CvisualCacuity,CandCintraocularCpressureCoutcomes.RetinaC22:283-287,C20029)FribergCTR,CFanousMM:MigrationCofCintravitrealCsili-coneoilthroughaBaerveldttubeintothesubconjunctivalspace.SeminOphthalmolC19:107-108,C200410)ChanCCK,CTarasewiczCDG,CLinSG:SubconjunctivalCmigrationCofCsiliconeCoilthroughCaCBaerveldtCparsCplanaCglaucomaimplant.BrJOphthalmolC89:240-241,C200511)MoralesJ,ShamiM,CraenenGetal:Siliconeoilegress-ingCthroughCanCinferiorlyCimplantedCahmedCvalve.CArchCOphthalmolC120:831-832,C200212)NazemiPP,ChongLP,VarmaRetal:Migrationofintra-ocularsiliconeoilintothesubconjunctivalspaceandorbitthroughCanCAhmedCglaucomaCvalve.CAmCJCOphthalmolC132:929-931,C2001***

片眼の網膜疾患患者の利き目の検討

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1596.1599,2019c片眼の網膜疾患患者の利き目の検討加藤舞松井孝子安田節子磯島結菜佐藤幸子田中敦子齋藤昌晃吉冨健志秋田大学医学部眼科学講座CDominantEyeSwitchinginPatientswithUnilateralRetinalDiseaseMaiKato,TakakoMatsui,SetsukoYasuda,YunaIsoshima,SachikoSato,AtsukoTanaka,MasaakiSaitoandTakeshiYoshitomiCDepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicineC対象および方法:片眼の網膜疾患患者のうち患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名を対象に完全矯正視力,日常視力を測定した.利き目の判定にはCholeCincard法を用いた.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および視力差について検討した.結果:Holeincard法で判定した利き目で,健眼が利き目であった群は,165名で患眼が利き目であった群はC69名であった.健眼,患眼の視力差は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36であった.結論:片眼の網膜疾患患者では健眼が利き目の人が多いことがわかった.健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差がClogMAR0.42であったことから,健眼を完全矯正して視力差をつけ,健眼と患眼の視力差をClogMAR0.4以上にすることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件の一つになる可能性が示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCdominantCeyeCswitchingCinCpatientsCwithCunilateralCretinalCdisease.CSubjectsandMethods:Inthisstudy,best-correctedvisualacuity(BCVA)anddailyvisualacuity(VA)weremeasuredin234patientswithunilateralretinaldiseaseandaVAof.1.0(LogMAR).Inallpatients,the‘holeincard’methodwasusedtodetectthedominanteye.Thepatientswerethendividedintothefollowingtwogroups:1)GroupA(thedominanteyewasthenormalhealthyeye)and2)GroupB(thedominanteyewasthea.ectedeye).Results:Ofthe234patients,therewere165inGroupAand69inGroupB.InGroupAandGroupB,themeandi.erenceofVA(LogMAR)betweenthehealthyeyeandthea.ectedeyewas0.27±0.29CandC0.17±0.21,respectively,andthemeandi.erenceofdailyVA(LogMAR)was0.42±0.36CandC0.21±0.36,respectively.Conclusions:Oftheunilater-alretinaldiseasepatientsinthisstudy,mostwereinGroupA.SincethemeandailyVAdi.erencebetweeneacheyeinGroupAwas0.42(LogMAR),itsuggeststhataVAofLogMAR0.4orhighermaybeoneoftheconditionsthatcausesthedominanteyetoswitchfromthea.ectedeyetothehealthyeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1596.1599,C2019〕Keywords:利き目,holeincard法,加齢黄斑変性,中心性漿液性脈絡網膜症,網膜.離.dominanteye,holeincardtest,age-relatedmaculardegeneration,centralserousretinopathy,retinaldetachment.Cはじめに視力検査はさまざまな疾患の患者で行われる検査の一つである.片眼の網膜疾患患者の視力検査で,健眼を遮閉し患眼の視力を測定する際に,暗点や歪みなど,患眼での見えにくさを自覚し,訴える患者が多く存在している.しかし,網膜疾患などで片眼の視力が低下しても,日常視では両眼で見ているため,その患者が患眼の視力検査時に訴える見えにくさを日常生活の不自由さとして訴えることは少ないと思われる.赤座らは黄斑疾患患者の利き目の移動について検討し,術前に疾患眼が利き目であったC11例中C5例で,術後に利き目が健常眼に移動していた,と報告している1).高見らの報告では健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉〔別刷請求先〕加藤舞:〒010-8543秋田県秋田市本道C1-1-1秋田大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MaiKato,DepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPANC1596(120)図1Holeincard法1左:被験者がCholeincardを持つ.右:検者が遮閉し利き目を判定する.図2Holeincard法2左:検者がCholeincardを持つ.右:被験者が覗き込む様子から利き目を判定する.膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定したものがある2).不自由さを感じない理由は両眼で見ていることに加え,片眼の網膜疾患の発症により健眼と患眼に視力差が生じ,利き目が健眼に切り替わったことで,患眼があまり使われなくなった可能性を考え,今回筆者らは,健眼と患眼の利き目の割合と視力差について検討した.CI対象および方法対象は,2018年C5.10月に当院の網膜硝子体外来を受診した片眼の網膜疾患患者のうち,患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名(男性C153名,女性C81名),平均年齢はC67.8C±13.6歳(男性C67.8歳女性C67.7歳)で,疾患名は加齢黄斑変性(117名),中心性漿液性脈絡網膜症(29名),網膜.離(36名),黄斑前膜(11名),黄斑円孔(7名)などであった.方法は,他覚的屈折検査を行い,完全矯正視力,日常視力,利き目を測定した.今回用いた日常視力とは,普段使用している眼鏡やコンタクトレンズの視力,使用していない人は裸眼視力とした.利き目の判定は,完全矯正レンズを装用し,視力に応じたCLandolt環を視標にCholeincard法で行った.CHoleincard法C1は被験者本人に,holeincardを持った腕を伸ばし,holeincardの穴の中央に視標を合わせるよう指示した.その後,検者が片眼ずつ遮閉をして,視標が消えたかどうかを聞き,利き目を判定した(図1).HoleCincard法2は検者がCholeCincardを被験者の眼前に掲げ,被験者にCholeincardを覗き込んで視標を見るよう指示し,どちらの眼で覗いたかを観察して,利き目を判定した(図2).HoleCincard法1を2回,holeincard法2を1回,合計3回holeincard法を施行し,3回すべて同じ結果が得られた眼を利き目とした.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および健眼と患眼の視力差について検討した.1.001.000.52±0.370.900.800.700.27±0.290.600.500.400.300.200.100.00-0.10II結果対象の片眼の網膜疾患患者C234名の利き目の割合は,健眼利き目群C165名(70.5%),患眼利き目群C69名(29.5%)で健眼が利き目の割合が多かった.疾患眼の左右の割合は右眼113名(48.3%)で左眼C121眼(51.7%)で左右差はみられなかった.利き目群の健眼および患眼の完全矯正視力は,健眼Clog-MAR.0.01±0.09,患眼ClogMARC0.27±0.29であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の完全矯正視は,健眼ClogMAR.0.02±0.08,患眼ClogMARC0.15±0.23であった(図3).健眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼ClogMARC0.15±0.23,患眼ClogMARC0.52±0.37であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼Clog-MAR0.10±0.18,患眼ClogMAR0.36C±0.34であった(図4).完全矯正視力と日常視力の健眼,患眼の視力差を健眼利き目群と患眼利き目群で調べた結果は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27C±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17C±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42C±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36で対応のないCt検定で有意差を認めた(表1).CIII考按今回の検討で,片眼の網膜疾患患者では,健眼利き目群165名,患眼利き目群C69名で健眼が利き目の人が多いことがわかった.健常眼の利き目は右眼がC70%で左眼がC30%で,網膜疾患患者では,初診時に右眼が利き目であったものがC51%で左眼がC49%という赤座らの報告がある.今回も,疾患眼の左右の割合に差がなかったのにもかかわらず,健眼が利き目の割合が多かったことから,網膜疾患の発症により利き目が移動した可能性が考えられた.このことから,片眼の網膜疾患患者では利き目である健眼を使用する0.900.800.700.600.500.400.300.200.100.00-0.10図4日常視力の比較表1健眼・患眼の視力差健眼利き目群(n=165)患眼利き目群(n=69)C*p対応のないCtCtest*完全矯正C0.27±0.29C0.17±0.21Cp=0.3584日常視C0.42±0.36C0.21±0.36p<C0.0001機会が多いことにより,日常生活で不自由さを訴える人が少ないと考えた.各眼の矯正視力(1.2)以上の健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定した高見らの報告がある2).覗き孔法行ったときの利き目の切り替わる視力値は,利き目の優位性が強い群(覗き孔法,利き眼側指差し法,非利き眼側指差し法のC3種類の利き目検査の結果がすべて左右どちらかに一致している群)でClogMAR0.75,弱い群(3つの検査結果が一致せず左右ばらつきがみられた群)でClogMAR0.54まで,利き目の視力を下げたときに利き目が切り替わったという報告だった2).今回は,健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差が平均ClogMAR0.42であったことから,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上あることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件となる可能性が考えられた.患眼が利き目の人も,利き目が切り替われば日常生活の不自由さが軽減すると考えられる.普段,患眼の視力にばかり注意が向きがちだが,利き目が切り替わる視力差がClogMAR0.4以上である可能性が示されたことから,健眼の視力にも注目し,健眼を完全矯正して健眼と患眼の視力差をつけることが,日常生活の見え方の質を上げる一つの方法ではないかと考えた.しかし,患眼利き目群にも,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上の人も存在したため,利き目が切り替わる因子は視力のみの影響ではないと考えられる.今後視力以外の因子についても検討が必要であると考えた.文献き目の移動.日眼会誌111:322-326,C20172)高見有紀子,赤池麻子,岡井佳恵ほか:利き眼の程度の定1)赤座英里子,藤田京子,島田宏之ほか:黄斑疾患患者の利量化について.眼紀52:951-955,C2001***

網膜剝離を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の6症例の検討

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1567.1570,2018c網膜.離を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の6症例の検討三股政英石川桂二郎長谷川英一武田篤信園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CClinicalFeaturesofSixCasesofCytomegalovirusRetinitisComplicatedwithRetinalDetachmentMasahideMimata,KeijirouIshikawa,EichiHasegawa,AtsunobuTakedaandKoheiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC目的:網膜.離(RD)を伴ったサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の症例の臨床像を検討する.対象および方法:対象は過去C4年間に九州大学医学部付属病院眼科にてCCMV網膜炎と診断したC10症例C13眼のうち,経過中にCRDを認めたC6症例C6眼で,診療録をもとに後ろ向きに検討した.結果:症例は男性C5例C5眼,女性C1例C1眼,平均年齢60.5歳.初診時の平均視力はC0.15で,CMV網膜炎の診断からCRD発症までの平均期間はC4.3カ月であった.RDに対して,強膜内陥術をC1例に,硝子体手術をC5例に行った.最終的にC4例がシリコーンオイルを留置された.最終観察時の平均視力はC0.04であった.結論:CMV網膜炎に伴うCRDは視力予後が不良であり,重篤な視機能障害の原因となる.CMV網膜炎はCRDの発症に留意して治療を行うことが重要である.CPurpose:ToCdescribeCtheCclinicalCfeaturesCinCcasesCofcytomegalovirus(CMV)retinitisCcomplicatedCwithCreti-naldetachment(RD)C.MaterialsandMethods:ThisCstudyCinvolvedCtheCretrospectiveCreviewCofCtheCmedicalCrecordsof6eyesof6CMVretinitispatientscomplicatedwithRDwhovisitedtheDepartmentofOphthalmology,UniversityofKyushuHospitalfrom2013toC2016.CResults:Averagebest-correctedvisualacuityatC.rstvisitwas0.15.CItCtookCanCaverageC4.3monthsCfromCdiagnosisCofCCMVCretinitisCtoConsetCofCRD.COneCcaseCunderwentCscleralbuckling;theothercasesunderwentparsplanavitrectomy,including4casesthatunderwentsiliconeoiltampon-ade.CAverageCbest-correctedCvisualCacuityCatClastCvisitCwasC0.04.CConclusion:CMVCretinitisCcomplicatedCwithCRDCcancauseseverevisualdysfunction.Duringfollow-upofCMVretinitis,theoccurrenceofRDshouldbecarefullymonitored.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1567.1570,C2018〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,網膜.離,網膜硝子体手術,網膜前膜,免疫回復ぶどう膜炎.cyto-megalovirusretinitis,retinaldetachment,vitreoretinalsurgery,epiretinalmembrane,immunerecoveryuveitis.Cはじめにサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎は,眼科領域では代表的な日和見感染症の一つであり,ぶどう膜炎初診患者のC0.6.0.8%程度を占める1).1990年代後半にCHAART(highlyCactiveCantiretroviraltherapy)が導入されたことにより,AIDS(acquiredCimmunode.ciencyCsyn-drome)に伴うCCMV網膜炎に関しては,発症頻度が導入前のC4分のC1からC5分のC1程度に減少した.しかし一方で,臓器移植後の患者数は年々増加しており,とくに血液腫瘍性疾患に対する造血幹細胞移植後のCCMV網膜炎は増加傾向にあり,近年それらの症例の重要性が増している2).CMV網膜炎の主要な合併症の一つに網膜.離(retinaldetachment:RD)がある.網膜炎が鎮静化した後に生じることが多く3),RDに対して手術を行っても,網膜萎縮のために視力予後不良であると報告されており4),その臨床像の特徴を理解することは重要である.RDを合併したCCMV網〔別刷請求先〕三股政英:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:MasahideMimata,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC表1患者背景と臨床像症例年齢(歳)性別網膜.離僚眼網膜炎基礎疾患診断からCRD発症までの期間(月)滲出斑の大きさ手術方法C1C39男性左無CAIDSC13<25%CsegmentalbucklingCPPV+SF6C2C64男性右無赤芽球癆C6>50%CPPV+SF6CPPV+SO充.+輪状締結CPPV+SO充.C3C50男性左有選択的CIgM欠損症C3<25%CPPV+SO抜去CPPV+SO充.C4C68男性右無肺結核C4>50%CPPV+SO充.C5C74女性左無ANCA関連血管炎C0<25%CPPV+SO充.CPPV+SO抜去C6C67男性右有悪性リンパ腫C0>50%CPPV+SO充.症例黄斑.離術前視力最終観察時視力血中CMV抗原前房水CPCR硝子体CPCRガンシクロビル硝子体内注射抗ウイルス薬全身投与転帰CERMC1無C0.5C0.2陽性無ガンシクロビル生存不明C有2有0.6C0.1陽性陽性1回無生存有C有C有3無1.5C0.1陽性陽性4回ホスカルネット生存不明C有C4無C0.04Cm.m.陰性陽性無無生存有C5有有C0.01C0.2なし陰性無無生存有C6有C0.09CSL-陽性陽性無無死亡不明AIDS:後天性免疫不全症候群,IgM:免疫グロブリンCM,ANCA:抗好中球細胞質抗体,PCR:ポリメラーゼ連鎖反応,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術,SF6:SF6gas注入,SO:シリコーンオイル,SL:光覚弁,m.m.:手動弁膜炎症例の臨床経過について,海外では多数例での報告があるが,わが国での報告は少ない.今回筆者らは,RDを伴ったCCMV網膜炎のC6症例について臨床像を後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2013年C1月.2016年C12月に,九州大学医学部附属病院眼科(以下,当院)にてCCMV網膜炎と診断したC10症例C13眼のうち,経過中にCRDを認めたC6症例C6眼とした.同症例について,基礎疾患,CMV網膜炎に対する治療,網膜炎の診断からCRD発症までの期間,網膜炎の範囲,施行術式,再.離の有無,最終復位率,視力予後などの臨床的特徴を診療録に基づいて後ろ向きに検討した.CMV網膜炎の診断は,網膜出血,浮腫を伴う黄白色滲出斑,網膜血管炎などのCCMV網膜炎に特徴的な眼底所見に加えて,免疫不全をきたす基礎疾患の存在,CMV抗原血症の有無,PCR(polymeraseCchainreaction)法による前房水,硝子体液中のCCMV-DNAの検出の有無などから総合的に行った.初診時にCRDを生じていた場合,網膜炎の診断からCRD発症までの期間をC0カ月とした.網膜炎の範囲は,診療録の眼底写真やスケッチから,全網膜に対する滲出斑の占有面積の割合をC0.25%,25.50%,50%以上のC3段階に分類した.視力の計算は既報5)に基づき,指数弁はClogMAR(loga-rithmCofCminimalCangleCofresolution)換算C1.85(少数視力0.014),手動弁はClogMAR換算C2.30(少数視力C0.005),光覚ありはClogMAR換算C2.80(少数視力C0.0016),光覚なしはlogMAR換算C2.90(少数視力C0.0012)として行った.CII結果6例の臨床像を表1に示す.症例は,男性C5例C5眼,女性C1例C1眼,平均年齢C60.5C±12.0歳:39.74歳であった.6例の基礎疾患はそれぞれ,後天性免疫不全症候群C1例,白血病C1例,選択的CIgM欠損症C1例,肺結核C1例,ANCA関連血管炎C1例,悪性リンパ腫C1例であった.6例のうち,2例は僚眼にもCCMV網膜炎を認めた.僚眼の網膜炎は抗ウイルス療法により鎮静化し,RDを発症しなかった.網膜炎の範囲は,0.25%の症例がC3例,50%以上の症例がC3例であった.3例で萎縮瘢痕化した滲出斑と正常網膜の境界に網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)を認めた(図1).そのうちC2例と,ERMの存在は不明であったC1例で滲出斑と正常網膜の境界に原因裂孔を認めた.CMV網膜炎の診断からCRD発症までの平均期間はC4.3C±4.4カ月であった.2例は初診時にすでにCCMV網膜炎に伴ってCRDを発症していた.RD発症前のCCMV網膜炎に対する抗ウイルス療法は,1例でホスカルネットの全身投与およびガンシクロビルの硝子体注射を行われた.1例でホスカルネットの全身投与のみ,1例でガンシクロビルの硝子体注射のみを行われた.その他のC3例は手術前の抗ウイルス療法を行われなかった.RDの範囲が周辺部に限局していたC1例のみ強膜内陥術を行い,同症例は術後再.離を認めず経過した.その他C5例に硝子体手術を行った.1例はCSFC6ガス注入を行い,術後C1カ月で再.離を認めた.再度CSFC6ガス注入を行ったが,術後C1週間で再.離を認めたため,シリコーンオイル注入を行った.その他C4例は初回手術でシリコーンオイル注入を行い,そのうちC2例はそれぞれC9カ月後,10カ月後にシリコーンオイルを抜去した.前者は抜去後C2カ月で再.離を認め,再度シリコーンオイル注入を行った.後者はシリコーンオイルの再注入を行わなかった.初診時の平均少数視力はC0.15(logMAR換算C0.80C±0.82),最終観察時の平均視力はC0.04(logMAR換算C1.43C±0.93)であった.CIII考察今回の検討では,CMV網膜炎の全C13眼のうちC6眼(46%)にCRDを発症した.過去の報告では,CMV網膜炎におけるRDの発症率はおおむねC12.18%と報告されており6),本検討では既報と比べて発症率が高い結果となった.HAART導入後,AIDS患者でのCCMV網膜炎におけるCRD発症率は約C1割程度減少したとする報告がある7).一方で,臓器移植後のCCMV網膜炎におけるCRD発症率は約半数と報告されており8),今回の検討では,全C10例のうちCAIDS患者がC1例のみであったため,RD発症率が既報と比べて高くなった可能性がある.また,RDを契機に紹介されたCCMV網膜炎の1例を含め,初診時にすでにCRDを認めた症例がC2例含まれることも,RDの発症率が高かった原因と考えられる.網膜炎の鎮静化後に,萎縮した壊死部網膜と健常網膜の境界の網膜硝子体界面に高率にCERMを認めると報告されている9).同報告では,非活動期のCCMV網膜炎の約C9割の症例で壊死部網膜と健常網膜の境界にCERMが認められた.本検討においても,3例で同部位にCERMを認めた.残りのC3例は,壊死部網膜と健常網膜の境界部を光干渉断層計で撮影していなかった.ERMを認めたC2例と,その他のC1例で壊死部網膜と健常網膜の境界付近に原因裂孔を認めた.このこと症例2症例4図1壊死部網膜と健常網膜の境界に認めたERMのOCT所見周術期のCswept-sourceOCT所見.菲薄化した壊死部網膜と健常網膜の境界にCERM(.)を認める.からも,CMV網膜炎において壊死部網膜と健常網膜の境界でCERMが形成され,その収縮により網膜裂孔が生じ,RDの原因となっている可能性が示唆された.近年,血液腫瘍や臓器移植後に対する抗がん剤や免疫抑制薬による治療後に,免疫能が回復してくる時期に生じる免疫回復ぶどう膜炎(immuneCrecoveryuveitis:IRU)を合併したCCMV網膜炎の重要性が増している.IRUを伴うCCMV網膜炎では,ERM形成のリスクが増加することが報告されており10),RDの発症率が高くなっている一要因と考えられる.CMV網膜炎の病変の大きさがC10%大きくなるとCRD発症率が約C2倍に増加し3),全網膜のC50%以上の症例ではCRD治療後の復位率が有意に低いと報告されている4).本検討においても,シリコーンオイルの留置なしで網膜の復位を得ている症例は,いずれも網膜炎の大きさC25%未満の症例であり,その他の症例はすべてシリコーンオイルを留置する結果となった.すなわち,進行したCCMV網膜炎に伴うCRDは難治であるため,CMV網膜炎の早期診断と治療開始により網膜炎の進展を制御することで,RDの発症ならびに治療予後を改善する可能性がある.CIV結語CMV網膜炎に伴うCRDは視力予後が不良であり,重篤な視機能障害の原因となる.CMV網膜炎は,その進行度がRD発症,ならびに視力予後とかかわっている可能性があるため,視力予後改善のためには早期診断,治療開始が重要である.文献1)芹澤元子,國重智之,伊藤由起子ほか:日本医科大学付属病院眼科におけるC8年間の内眼炎患者の統計的観察.日眼会誌C119:347-353,C20152)高本光子:サイトメガロウイルスぶどう膜炎.臨眼C66:C111-117,C20123)YenM,ChenJ,AusayakhunSetal:RetinaldetachmentassociatedCwithCAIDS-relatedCcytomegalovirusretinitis:CriskCfactorsCinCaCresource-limitedCsetting.CAmCJCOphthal-molC159:185-192,C20154)WongCJX,CWongCEP,CTeohCSCCetal:OutcomesCofCcyto-megalovirusCretinitis-relatedCretinalCdetachmentCsurgeryCinCacquiredCimmunode.ciencyCsyndromeCpatientsCinCanCAsianpopulation.BMCOphthalmolC14:150,C20145)Schulze-BonselCK,CFeltgenCN,CBurauCHCetal:VisualCacu-ities“handCmotion”and“countingC.ngers”canCbeCquanti-.edCwithCtheCFreiburgCvisualCacuityCtest.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1236-1240,C20166)柳田淳子,蕪城俊克,田中理恵ほか:近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討.あたらしい眼科C32:699-703,C20157)JabsDA:AIDSCandCophthalmology,C2008.CArchCOphthal-molC126:1143-1146,C20088)WagleCAM,CBiswasCJ,CGopalCLCetal:ClinicalCpro.leCandCimmunologicalCstatusCofCcytomegalovirusCretinitisCafterCtransplantation.TransplInfectDisC10:3-18,C20089)BrarCM,CKozakCI,CFreemanCWRCetal:VitreoretinalCinter-faceabnormalitiesinhealedcytomegalovirusretinitis.Ret-inaC30:1262-1266,C201010)KaravellasCMP,CSongCM,CMacdonaldCJCCetal:Long-termCposteriorCandCanteriorCsegmentCcomplicationsCofCimmuneCrecoveryuveitisassociatedwithcytomegalovirusretinitis.AmJOphthalmolC130:57-64,C2000***

結節性硬化症に難治性の裂孔原性網膜剝離を合併した1例

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1781.1783,2017c結節性硬化症に難治性の裂孔原性網膜.離を合併した1例平井和奈*1青木悠*1佐藤圭悟*2井田洋輔*2伊藤格*2渡部恵*1大黒浩*1*1札幌医科大学眼科学講座*2市立室蘭総合病院眼科CACaseofRefractoryRetinalDetachmentinaPatientwithTuberousSclerosisKazunaHirai1),HarukaAoki1),KeigoSato2),YousukeIda2),KakuIto2),MegumiWatanabe1)andHiroshiOoguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,MuroranCityGeneralHospital目的:今回筆者らは結節性硬化症患者に難治性の裂孔原性網膜.離を合併したC1例を経験したので報告する.症例:18歳,男性.平成C28年C1月より右眼の視力低下を自覚し近医を受診.眼底に結節性硬化症による網膜過誤腫および硝子体出血を伴う網膜.離を認め,札幌医科大学附属病院紹介となった.初診時に周辺部に多発する網膜過誤腫および鼻側上方に裂孔を認め,同年C4月に網膜輪状締結術を施行した.しかし,網膜復位を得ることができず,右眼硝子体手術,六フッ化硫黄ガス(sulferhexa.uoride:SCF6)置換を施行.その後網膜復位を得ることができたが,経過観察中に再.離を認めたため,同年C5月に右眼硝子体手術,シリコーンオイル置換を施行し現在まで再.離なく経過している.結論:本症例では周辺部網膜に多発した網膜過誤腫により硝子体の牽引や網膜収縮が生じ,これらの要因が網膜.離の復位を困難にさせた可能性が示唆された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCrefractoryCretinalCdetachmentCinCan18-year-oldCmaleCwithCtuberousCsclerosis.CCasereport:Thepatientvisitedanophthalmologicclinicbecauseofvisuallossinhisrighteye.Hamartomaandvitreoushaemorrhagerelatedwithtuberoussclerosiswerefoundintheeye,andhewasreferredtoSapporoMedi-calCUniversityCHospital.CRetinalCdetachmentCwithCmultipleChamartomaCwasCobservedCinCtheCeye.CInitialCsurgeryCemployedtheencirclingprocedure,butretinopexycouldnotbeattained.TheeyewasthenoperatedbyPPVwithgastamponade,andretinopexywasachieveded.Duringfollow-up,retinaldetachmentwasagainfoundintheeye,whichthenunderwentPPV+PEA+IOL+siliconeoiltamponade.Retinopexyhasbeenmaintainedthusfar.Conclu-sion:Retinalmultiplehamartomamaycausevitreoustractionandretinalshrinkage,resultinginrefractoryretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1781.1783,C2017〕Keywords:結節性硬化症,過誤腫,網膜.離.tuberoussclerosis.hamartoma,retinaldetachment.はじめに結節性硬化症は全身の諸臓器に過誤腫や白斑を認め,精神発達障害や行動異常などさまざまな症状を呈する疾患である1).眼合併症として網膜過誤腫および無色素斑を認めることが多い2)が裂孔原性網膜.離を合併した報告例は少ない.今回筆者らは結節性硬化症に合併した網膜.離で治療に難渋した症例を経験したので報告する.CI症例患者:18歳,男性.主訴:右眼の視力低下.既往歴および家族歴:0歳:結節性硬化症,3歳:てんかん発作(1度のみ),9歳,17歳:脳腫瘍で手術.現病歴:平成C28年C1月,右眼視力低下を自覚し近医を受診.網膜.離の精査目的に市立室蘭総合病院紹介となり,右眼眼底に結節性硬化症による網膜過誤腫と硝子体出血を伴う裂孔原性網膜.離が認められ,手術目的にC4月C12日札幌医科大学附属病院(以下,当院)紹介となった.初診時視力右眼C0.02(n.c.),左眼C0.3(1.0C×.2.75D(cyl.1.00DCAx25°),眼圧右眼C10.0CmmHg,左眼C11.0CmmHg,前眼部および中間〔別刷請求先〕平井和奈:〒060-8543札幌市中央区南C1条西C16丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:KazunaHirai,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,S.1,W.16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(143)C1781図1入院時右眼眼底所見右眼C1時方向に原因裂孔,11.2時にかけて網膜.離を認め,周辺部に器質化した硝子体出血を伴っていた.図3退院時右眼眼底所見シリコーンオイル下にて再.離なし.透光体に特記すべき異常なし.右眼C1時方向に裂孔を認め,11.2時方向に網膜.離を認め,周辺部に器質化した硝子体出血およびC2,9,11時方向に多発する網膜過誤腫を認めた(図1).硝子体出血減少後の眼底検査や眼底写真では網膜.離は黄斑部までは達していなかったが,硝子体出血のため黄斑部COCTは描出不良だった.CII経過平成C28年C4月C13日に右眼網膜.離に対し全身麻酔下で右眼網膜輪状締結術を施行した.術式は,原因裂孔に対して冷凍凝固を行い,網膜下液の排液はせず,2,4,7,10時に輪部からC13Cmmの位置に強膜トンネルを作製し,厚さC0.6図2術後所見網膜復位を得ることができた.mm,幅C2.5Cmmのシリコーンバンド(#240,MIRA社)で輪状締結を行った.網膜下液は減少したが,裂孔の閉鎖を得ることができずC11.7時方向の網膜.離が残存したため,4月25日全身麻酔下で水晶体温存のC25ゲージ硝子体切除術を施行し,SFC6ガス置換をして終了となった.その後は網膜復位し退院となり,市立室蘭総合病院通院となった(図2).5月C19日に再.離を認めC5月C20日当院に再入院となった.入院時視力右眼手動弁C30Ccm,前眼部および中間透光体に特記すべき異常なし.右眼眼底にC11時方向に原因裂孔を認め,ほぼ全周にわたる網膜.離で黄斑.離を伴っていた.5月23日に全身麻酔下で右眼水晶体再建術,眼内レンズ挿入術,25ゲージ硝子体切除術,シリコーンオイル置換を行った.術中は輪状締結周囲の硝子体皮質の癒着が認められ,鉗子を用いて丁寧に癒着を解除する必要があった.その後は網膜復位を得ることができ,退院時視力右眼(0.2)で現在まで良好な経過をたどっている.現在オイル下での網膜復位を得ることができており,今後シリコーンオイル抜去を行う予定となっている.CIII考按結節性硬化症はCtuberousCsclerosisCcomplex1(TSC1),tuberoussclerosiscomplex2(TSC2)のいずれか一方に生じた遺伝子変化により遺伝子の発現が低下もしくは抑制され,遺伝子にコードされる腫瘍抑制因子の発現が低下することで全身の諸臓器に局所性の形成異常や過誤腫を発生する疾患として知られている2).約C50%に眼病変を合併するといわれており3),眼病変の多くが網膜過誤腫や無色素斑で,網膜.離の症例報告は少ない4).現在,結節性硬化症のさまざまな病1782あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(144)変に関する発生メカニズムが解明されてきているが,まだ具体的なメカニズムが明らかになっていない病態も多い.過去に,結節性硬化症患者が網膜過誤腫により漿液性網膜.離や硝子体出血を引き起こした症例が複数認められているが,これらの症例では自然軽快を認める例も多く,外科的な治療を要する例は少ない5).裂孔原性網膜.離に関しては,網膜過誤腫により硝子体牽引を引き起こした症例が報告されている6,7).本症例は初回手術では若年で周辺側に単一の裂孔があったことから強膜内陥術を施行した.初診時には硝子体出血を認めていたが,.離は黄斑部まで達しておらず視力低下は器質化した硝子体出血の影響が考えられた.また,裂孔の径が小さかったことから,眼球運動障害の出にくいシリコーンバンドのみでの輪状締結術としたが,裂孔の閉鎖を得ることができず,硝子体の牽引が強く輪状締結のみでは網膜下液が引き切らなかったため硝子体切除術を施行した.1回目の硝子体切除術では水晶体温存で行ったが,本症例のような若年者の場合,人工レンズ挿入術を行うことで近見障害を惹起し,術後の視機能が劣化するため,有水晶体眼の状態で硝子体切除術を行った.それにより硝子体牽引は解除し,いったんは復位したが,若年者の完全な硝子体の郭清の困難さに加え,網膜過誤腫による硝子体癒着が影響し,再.離を起こしたものと考えられた.したがって,結節性硬化症に伴う裂孔原性網膜.離は,硝子体牽引や網膜収縮を引き起こし再.離を引き起こす可能性があると考えられた.今回筆者らは結節性硬化症に難渋した裂孔原性網膜.離を合併した症例を経験した.多発する網膜過誤腫は硝子体牽引や網膜収縮を引き起こし治療を困難にさせる可能性があるため手術を行う際は,輪状締結併用硝子体手術や周辺まで徹底した硝子体郭清など慎重に治療方針を検討する必要があると考えられた.文献1)NorthrupH,KruegerDA;InternationalTuberousSclero-sisCComplexCConsensusCGroup:TuberousCsclerosisCcom-plexCdiagnosticCcriteriaCupdate:recommendationsCofCtheC2012CInternationalTuberousCSclerosisCComplexCConsensusConference.PediatrNeurol49:243-254,C20132)金田眞里,吉田雄一,久保田由美子ほか:結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン.日皮会誌C118:1667-1676,C20083)RowleyS,O’CallaghanF,OsborneJ:Ophthalmicmanifes-tationsCofCtuberousCsclerosis:aCpopulationCbasedCstudy.CBrJOphthalmolC85:420-423,C20014)MennelCS,CMeyerCCH,CPeterCSCetCal:CurrentCtreatmentCmodalitiesforexudativeretinalhamartomassecondarytotuberoussclerosis:reviewoftheliterature.ActaOphthalC-molScandC85:127-132,C20075)DuttaJ:Ararecaseofvisuallossduetoserousdetach-mentassociatedwithretinal“mulberry”hamartomainacaseoftuberoussclerosis.JOculBiolDisInforC5:51-53,C20136)GoelCN,CPangteyCB,CBhushanCGCetCal:Spectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCofCastrocyticChamartomasCintuberoussclerosis.IntOphthalmolC32:491-493,C20127)ShieldsCCL,CBenevidesCR,CMaterinCMACetCal:OpticalCcoherencetomographyofretinalastrocytichamartomain15cases.OphthalmologyC113:1553-1557,C2006***(145)あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1783

手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績

2016年2月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(2):313.318,2016c手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績高橋光生*1勝田聡*1横井匡彦*2加瀬諭*3加瀬学*1*1手稲渓仁会病院眼科*2手稲よこい眼科*3北海道大学大学院医学研究科眼科学分野TherapeuticOutcomeofEyeglobeRupturebyBluntInjuryatTeineKeijinkaiHospitalMitsuoTakahashi1),SatoshiKatsuta1),MasahikoYokoi2),SatoruKase3)andManabuKase1)1)DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,2)TeineYokoiEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:鈍的外傷による眼球破裂の臨床像,治療方法,視力予後の報告.対象および方法:手稲渓仁会病院眼科で加療した鈍的外傷による眼球破裂33例34眼について,患者背景,白内障手術既往との関連,治療方法と成績,予後不良例の特徴などにつき,診療録からretrospectiveに調査した.結果:原因は転倒がもっとも多く,女性では発症年齢が男性よりも高かった.白内障手術の既往を有した16眼(47%)のうち,14眼で破裂創が切開創に一致しており,網膜.離の合併は切開創が一致しない1眼のみで認めた.ほぼ半数の症例で初回の縫合術の際に硝子体手術を併用したが,二次的に硝子体手術を追加した症例と経過や予後に明らかな差異はなく,手術回数は少なかった.視力の平均logMAR値は初診時2.51から最終1.43に改善した.11眼(36%)に網膜.離を認め,最終的に4眼で復位を得られなかったが,これらはすべて白内障手術の既往がなく,初診時の視力が光覚なしであった.結論:眼球破裂においては,術前の視力や白内障手術既往の有無が治療方針や予後の参考となる.また,初回から硝子体手術を併用する有用性が示唆された.Weretrospectivelyinvestigatedpatients’backgrounds,includinghistoryofcataractsurgery,locationofruptureandvisionprognosis,fromthemedicalrecordsof34eyesof33patientswhohadsufferedeyegloberupturebybluntinjuryandwereimmediatelytreatedatTeineKeijinkaiHospital.Patientagewashigherinfemalesthaninmales.In14ofthe16eyeswithexperienceofcataractsurgery,therupturewoundswerelocatedclosetothepreviouslyincisedline;however,theyshowednoretinaldetachmentexceptinonecase.Inabout50%oftherupturepatients,vitrectomywasdoneinthefirstoperation,aswellassuturingofrupturedwounds.FinallogMARvisualacuityimprovedto1.43from2.51initially.Retinaldetachmentoccurredin11eyes(36%),4ofwhichshowednoresolutionofretinaldetachment,all4havingexperiencednocataractsurgeryandpreoperativelyexhibitingnolightperception.Thisstudysuggestedthatvitrectomyismoreusefulinthefirstoperation,inadditiontomanagementofrupturedwounds.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):313.318,2016〕Keywords:鈍的外傷,眼球破裂,網膜.離,白内障手術,硝子体手術.bluntinjury,eyegloberupture,retinaldetachment,cataractsurgery,vitreoussurgery.はじめに鈍的外傷による眼球破裂は患者背景や臨床像が非常に多彩であり,眼組織の脱出や網膜.離を複雑に伴う難治性疾患である.治療の進歩にもかかわらず視力予後はいまだに不良であり,高齢者に長期の入院生活や体位制限,複数回の手術を要したにもかかわらず,最終的に光覚を保存できないこともある.また,硝子体手術の時期に関しては,術者や施設により見解が異なる.すべての症例に良好な視機能を残すことは困難であるが,術前に得られた問診や診察所見から予後を推測することがで〔別刷請求先〕高橋光生:〒006-0811札幌市手稲区前田1条12丁目手稲渓仁会病院眼科Reprintrequests:MitsuoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,Maeda1-12,Teine-ku,Sapporo-shi,Hokkaido006-0811,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(153)313 きれば,個々の症例に応じた治療計画を立て,患者の心身の負担を軽減させることが可能である.今回,一地方に位置する手稲渓仁会病院(以下,当院)において眼球破裂34眼の治療を経験した.今後の治療に役立てるため,患者背景や手術既往,術前の所見,治療方針が,視力予後とどのように関連したのかを調査したので報告する.I対象および方法2004年4月.2013年3月の10年間に,鈍的外傷による眼球破裂で当院を受診した連続症例33例34眼について,患者の性別や年齢,受傷原因,治療方法,最終視力,白内障手術既往の有無による臨床像や予後の相違,初回の術式による治療成績の相違,視力予後不良例の特徴について,診療録からretrospectiveに調査した.視力を統計学的に解析する目的で小数視力を対数変換したが,大半が指数弁以下であったため,Schulze-Bonselら1)の報告に基づき,光覚なしはlogMAR値2.9,光覚弁は同2.8,手動弁は同2.3,指数弁は同1.85として計算した.II結果全症例の概要を表1に示した.性別および年齢(図1)は,男性が15例15眼で24.87歳(平均59.1±17.7歳),女性が18例19眼で56.96歳(平均77.4±9.0歳),合計33例34眼で24.96歳(平均69.1±16.5歳)であった.受傷眼の左右の別は右眼が7眼,左眼が27眼.観察期間は14日.7.5年(平均24.7カ月)であった.受傷原因(図2)は転倒18眼,打撲14眼(庭仕事4眼,労働災害4眼,スポーツ2眼,表1全症例の概要年齢白内障手術の網膜.離症例性別(歳)左右受傷の原因既往他の既往脱出した組織・物質の有無初診時視力1女79左打撲(棒)+(ECCE)虹彩,眼内レンズ.手動弁2女74左転倒+(ECCE)虹彩,硝子体.光覚なし3男70左転倒+(ICCE)角膜混濁虹彩?手動弁4男51左打撲(石).硝子体+指数弁5男87左転倒+(PEA)虹彩,眼内レンズ.手動弁6男51右打撲(金具).虹彩,硝子体+光覚なし7女74左打撲(木).虹彩,水晶体,硝子体.光覚弁8男40左転倒.硝子体+光覚弁9女74左転倒+(PEA)虹彩.手動弁10女77左転倒+(ECCE?)虹彩,硝子体.指数弁11男57左打撲(金具).なし.0.0112男87左転倒.虹彩,水晶体,脈絡膜+光覚弁13女70左転倒+(ECCE)角膜混濁,緑内障虹彩,脈絡膜,眼内レンズ+0.01〃〃〃右転倒+(ECCE)角膜混濁,緑内障なし.光覚なし14男43左打撲(殴打).虹彩,硝子体+光覚弁15女69左転倒.角膜混濁,緑内障なし?光覚なし16女81左打撲(棒)+(ICCE)虹彩.光覚弁17女56左打撲(玩具).虹彩,水晶体,硝子体.光覚弁18女82左転倒+(術式不明)虹彩.光覚弁19男43右打撲(バール).虹彩,硝子体.手動弁20女86左転倒+(術式不明)虹彩.光覚弁21女89左転倒+(術式不明)虹彩.手動弁22女96左転倒+(術式不明)角膜混濁虹彩?測定不能23男63左打撲(ゴルフボール).脈絡膜+光覚なし24女69右打撲(木).虹彩.手動弁25男24左交通事故.なし+光覚弁26女69左転倒.虹彩,水晶体.手動弁27男69右打撲(ドア)+(PEA)虹彩.0.0728女84右転倒+(術式不明)虹彩.手動弁29女85左転倒.虹彩+手動弁30男60左打撲(ルアー).水晶体,硝子体+光覚なし31男85右打撲(落雪).硝子体,網脈絡膜+光覚なし32女80左交通事故.虹彩.光覚弁33男56左転倒+(術式不明)虹彩,眼内レンズ.光覚弁ECCE:白内障.外摘出術,ICCE:白内障.内摘出術,PEA:水晶体乳化吸引術,PVR:増殖硝子体網膜症.314あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(154) ドア,落雪,玩具,殴打が各1眼),交通事故2眼であった.当院受診から初回手術までの期間は,同日21眼,翌日6眼,2.5日後7眼であり,平均0.85日であった.当院受診から1日以内に約80%の症例で初回手術を施行できた.手術回数は1.6回であり,平均1.88回であった.初回手術において,破裂創の縫合に加えて硝子体手術を併用(以下,一期的手術)した18眼の平均手術回数は1.67回であった.初回手術は破裂創の縫合のみで二次的に硝子体手術を計画(以下,二期的手術)した症例が16眼あったが,年齢や既往疾患などを理由に追加手術を希望しなかったり,硝子体出血が吸収されて追加手術が不要となった症例が8眼あった.実際に二期的手術にて治療した8眼の平均手術回数は3.25回であった.硝子体手術においては,硝子体出血や網膜.離などの症状に応じて適宜必要な処置(ガスやシリコーンオイル注入など)を施した.初回手術の34眼の麻酔方法の内訳は,局所麻酔が23眼,全身麻酔が11眼であった.34眼中16眼に白内障手術の既往があり,そのうち14眼(88%)は白内障手術の切開創と受傷による破裂創が一致していた.角膜混濁により眼底検査が不能であった2眼を除き,検査が可能であった12眼では網膜.離は認めなかった.切開創と破裂創が一致しなかった2眼では1眼が網膜.離であった.白内障手術の既往がない18眼では,眼球の上方2象限に破裂創が集中しており,下方半周において破裂したのは2眼のみであった(図3).角膜混濁により眼底検査が不能であった1眼を除く17眼のうち,10眼(59%)に網膜.離を認めた.結局,眼底検査が可能であった31眼中11眼に網膜.離を認めた(36%)が,この11眼の内訳は白内障手術の既往初回術式手術回数観察期間(月)最終視力転帰縫合+硝子体手術10.70.3経過良好縫合+硝子体手術10.70.15経過良好縫合10.7光覚弁元々視力不良につき追加治療を希望せず縫合+硝子体手術2691.2網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術10.7手動弁認知症.希望で治療終了縫合+硝子体手術10.5光覚なし顔面骨折治療あり受傷12日後に受診.復位せず縫合3240.6経過良好縫合6900.2PVRとなりオイル注入.復位しオイル抜去.経過良好縫合+硝子体手術21.5手動弁角膜染血にて視力不良縫合120.07硝子体出血吸収され硝子体手術不要.経過良好縫合1901.2硝子体出血吸収され硝子体手術不要.経過良好縫合+硝子体手術3180.3網膜は復位.経過良好縫合2120.01経過良好.元々角膜混濁で視力不良縫合220.01経過良好.元々角膜混濁で視力不良縫合4340.1PVRとなりオイル注入.復位しオイル抜去.経過良好縫合10.5光覚なし元々視力不良につき追加治療を希望せず縫合460.04経過良好縫合390.6経過良好縫合278手動弁経過良好.視神経萎縮にて視力不良縫合1200.01経過良好.角膜障害で視力不良縫合1670.01水疱性角膜症にて視力不良縫合1150.06認知症につき追加治療を希望せず縫合111測定不能認知症,高齢,心疾患につき追加治療を希望せず縫合+硝子体手術258光覚なし受傷7日後に受診.復位せず眼球萎縮縫合+硝子体手術2601.0経過良好縫合+硝子体手術5330.15網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術144手動弁統合失調症.角膜混濁で視力不良縫合+硝子体手術1171.2経過良好縫合+硝子体手術130.7経過良好縫合+硝子体手術1240.06網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術143光覚弁復位せず.難治につき治療終了縫合+硝子体手術11.5光覚なし網膜が著明に脱出し復位せず.難治につき治療終了縫合+硝子体手術22光覚弁受傷20日後に受診.角膜混濁で視力不良.縫合+硝子体手術230.3経過良好(155)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016315 年齢(歳20代30代40代50代60代70代80代90代■:男性:女性024681012症例数(例)図1年齢分布と性別上直筋外直筋内直筋下直筋図3破裂創の中心部の分布×印は破裂創の中心部を示す.のあった14眼中1眼(6.7%)と既往のなかった17眼中10眼(59%)であり,Fisherの正確確率検定にて有意差があった(表2,p=0.007).視力測定が可能であった33眼の平均logMAR値は初診時2.51から最終1.43に有意に改善していた(paired-t検定,p<0.001).白内障手術の既往の有無と,最終視力との関連について調べた.角膜混濁や緑内障の既往があり,元々視力が不良であると推測された4症例5眼(症例3,13,15,22)を除外した29眼を対象とした.白内障手術の既往がある群12眼の初診時の平均logMAR値は2.38であり,最終の平均logMAR値は1.21であった.既往がない群17眼の初診時の平均logMAR値は2.60であり,最終の平均logMAR値は1.35であった.初診時視力,最終視力,および視力改善(初診時と最終の差)の3項目のt-検定で2群間に有意差はなかった(表3,それぞれp=0.18,p=0.72,p=0.84).また,初回の術式と最終視力との関連について調べた.同様に眼科既往のない29眼において,一期的手術群18眼では初診時の平均logMAR値は2.49であり,最終の平均316あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016転倒53%打撲41%交通事故6%図2受傷原因の内訳表2白内障手術既往と網膜.離の関連白内障手術既往+.網膜.離+.110137白内障手術既往のある症例では網膜.離の併発が有意に少なかった.(p=0.007)表3白内障手術既往の有無と視力の関連白内障手術既往p値有無初診時視力2.38±0.482.60±0.340.18最終視力1.21±0.821.35±1.160.72視力改善1.18±0.771.25±1.050.84白内障手術の既往の有無による2群間で,初診時視力,最終視力,視力改善に有意差はなかった.logMAR値は1.41であった.二期的手術群11眼中,実際に硝子体手術を施行した6眼では初診時の平均logMAR値は2.8であり,最終の平均logMAR値は0.97であった.初診時視力,最終視力,および視力改善(初診時と最終の差)の3項目のt-検定で2群間に有意差はなかった(それぞれp=0.12,p=0.41,p=0.12).網膜.離を認めた11眼中,4眼で復位を得られなかった.いずれも初診時の視力が光覚なしで受傷原因は打撲(ルアー,ゴルフボール,落雪,金具)であり,白内障手術の既往がなく破裂創から網膜や脈絡膜が脱出していた.4眼中3眼は術中に視機能の保存は困難と判断されたため,手術は1回のみで治療を終了した.経過観察中,感染性眼内炎や交感性眼炎の発症は認めなかった.III考察鈍的外傷による眼球破裂は,平均発症年齢が50.60歳代(156) で男性に多く,転倒が主要な原因であるとする報告が多い2.4).また,一般的に男性の場合,若年者では肉体労働やスポーツ,暴力が原因となりやすいことが特徴であるといわれる.今回の結果は上述の報告と比較して,男性の発症平均年齢が女性よりも低く,転倒に多くみられたことは一致したが,性別で男性よりもやや女性に多く,全体の平均年齢もより高齢であった.その差異として当院の立地条件が関与したと思われる.僻地在住の高齢者や認知症患者が転倒により発症した例が多く,スポーツや暴力による発症者は2例と少数であった.右眼よりも左眼に多く発症していたが,眼球破裂に関する過去の報告で左右の発症比率にとくに言及しているものはなく,外傷性網膜.離5)やスポーツ眼外傷6)では右眼により多く発症している報告もあり,明らかな要因は不明であった.眼科手術の既往を有する眼球破裂症例では,破裂創が手術の切開創に一致しやすいことが報告されている7,8)が,今回の筆者らの検討結果も同様であった.受傷の瞬間には反射的な閉瞼によりベル現象で眼球が上転し,外力により眼球が前後方向に短縮すると同時に,これと直交する方向では眼球がもっとも伸展する.結果として,上方では角膜輪部から上直筋付着部の範囲が強く伸展するが,白内障手術の強角膜創はちょうどこの位置に作製されるため,離開しやすいと推測されている.下方では赤道部後方の強膜が伸展するが,上方の伸展部位に比べると強膜は厚いため,今回の結果でも下方に破裂創が形成される例が少なかったと考えられる.白内障の術創は,坂本ら9)は4年5カ月後,立脇ら3)は10年後でも離開したと報告しているが,当院の結果では最長21年後でも離開していた.Simonsenら10)は摘出眼球を用いた実験において,白内障手術の輪部付近における術創の抗張力は術後4年で最大となるが非手術眼の64%であったとしており,今回の結果はその報告を立証していた.眼球破裂はほとんどの症例で著明な結膜下出血を伴うため,術前には破裂創の有無や部位が不明であることが多いが,白内障手術の既往がある症例においては手術の切開創が破裂創となっていることを想定して手術を開始することができる.この場合,破裂創が眼球の後方深部に及ぶことはほとんどなく,夜間の緊急手術で助手を確保できない場合であっても,術者一人で執刀することが可能である.また,今回の検討では,白内障手術の既往がある症例では既往がない症例と比較して,網膜.離を併発する率が有意に低かった.白内障手術の術創は角膜輪部付近に輪部に平行に作製されるため,外力により術創が離開・拡大しても,網膜への直接的な影響は虹彩や眼内レンズに比べて解剖学的に小さい.白内障手術の既往がある場合は,より軽微な外力で術創が離開して眼球破裂に至っている可能性があるが,結果として圧の変動や眼球壁の変形が軽減されることで網膜.離の(157)発症が抑制されていると推測される.白内障手術の既往の有無と視力予後については意見が分かれており,坂東ら11)は線維柱帯切除術や全層角膜移植術も含めての検討であるが手術既往のない症例に比べて最終視力は有意に低いと報告し,立脇ら3)は逆に比較的良いと報告している.筆者らの検討結果では,手術既往の有無により網膜.離の併発率に有意差があるにもかかわらず最終視力には有意差がなく,一見矛盾する結果となった.これは早期に硝子体手術を施行することで黄斑部の復位を得ていた可能性のほかに,白内障手術の既往のない群に網膜.離を併発せず視力が著明に改善した症例が多く含まれていたことが影響したと考えられる.最終的に4眼で網膜の復位を得られなかった.いずれも白内障手術の既往がなく初診時の視力が光覚なしであり,破裂創は長大で輪部に垂直な例が多く,網膜や脈絡膜が脱出していた.4眼中2眼は受傷後1週間以上経過してから受診していた.これらは過去の報告2.4)で指摘された予後不良因子の多くと合致した.また,4眼ともに受傷原因は打撲であり,転倒では認めなかった.転倒の場合,眼球への外力はおもに患者の身長と体重に起因する位置エネルギーと歩行時では運動エネルギーの総和となり,これはおよそ一定と考えられるが,たとえばスポーツや落下物による打撲の場合では,より大きなエネルギーが眼球に加わる症例があるためと推測された.手術方法が一期的か二期的かについては明確な指針はなく,それぞれに長所があるが,以前と比べて一期的に手術を施行する報告が増えた印象がある9,12).一期的手術の長所としては,①網膜.離併発の際の早期復位,②眼内の増殖性変化の防止,③感染性眼内炎の防止があげられ,二期的手術の長所としては,①角膜の透明性回復による視認性の向上,②網脈絡膜血管の怒張の軽減,③出血の溶解,④後部硝子体.離の進行があげられるが,筆者は一期的手術がより有用と考える.二期的手術の群では,患者や家族が年齢などを理由に治療を途中で断念し,硝子体手術を施行できないまま退院となった症例(症例3,15,21,22)が多くみられた.手術回数の軽減や入院期間の短縮が期待できる一期的手術を施行していれば,途中で治療を終了させることなく,より良い視力を得られていた可能性があった.近年の硝子体手術が小切開で低侵襲に進歩したことを考えると,眼内の状態を早期に把握する診断学的な観点からも,初回の硝子体手術は高齢者においても有益な操作と思われる.さらに一期的手術の群で初回手術時に硝子体手術が技術的に不可能であった症例はなく,また結果的に予後を悪化させたと思われる症例もなかった.眼内照明機器の進歩により多少角膜の透明性が不良であっても硝子体手術が可能となったこと,高齢者では最初から後部硝子体.離が完成している例が多いこと,もっとも難治あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016317 性と思われる増殖硝子体網膜症や感染性眼内炎の発症を避ける意味などからも,とくに高齢者では積極的に一期的手術を選択する意義があると考えられた.なお,今回の調査において一期的手術と二期的手術の2群間で視力に有意差はなかったが,症例数が少なく観察期間が短い症例もあり,統計学的に結論を出すにはさらなる症例数の蓄積と検討が必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Schulze-BonselK,FeltgenN,BurauHetal:Visualacuities“handmotion”and“countingfingers”canbequantifiedwiththeFreiburgVisualAcuityTest.InvestOphthalmolVisSci47:1236-1240,20062)樋口暁子,喜多美穂里,有澤章子ほか:鈍的外傷による眼球破裂の検討.臨眼56:1121-1125,20023)立脇祐子,前野貴俊,南政宏ほか:眼球破裂症例の予後に関連する術前因子の検討.臨眼60:989-993,20064)尾崎弘明,ファン・ジェーン,梅田尚靖ほか:外傷性眼球破裂の治療成績.臨眼61:1045-1048,20075)中西秀雄,喜多美穂里,大津弥生ほか:外傷に伴う網膜.離の臨床像と手術成績の検討.臨眼60:959-965,20066)笠置裕子:最近4年間におけるスポーツ眼外傷の統計的観察.東女医大誌51:868-869,19817)高山玲子,中山登茂子,妹尾正ほか:眼科手術後の外傷による眼球破裂症例の検討.眼科手術11:283-286,19988)相馬利香,森田啓文,久保田敏昭ほか:高齢者における鈍的眼外傷の検討.臨眼63:93-97,20099)坂本英久,馬場恵子,小野英樹ほか:眼内レンズ挿入術後の眼球破裂に対し一期的に硝子体手術を行った2症例.臨眼57:49-54,200310)SimonsenAH,AndereassenTT,BendixK:Thehealingstrengthofcornealwoundsinthehumaneye.ExpEyeRes35:287-292,198211)坂東誠,後藤憲仁,青瀬雅資ほか:眼外傷症例の視力予後不良因子の検討.臨眼67:947-952,201312)西出忠之,早川夏貴,加藤徹朗ほか:眼球破裂眼の術後視力に対する術前因子の重回帰分析.臨眼65:1455-1458,2011***318あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(158)

網膜下生検を施行した眼内悪性リンパ腫3例

2015年5月31日 日曜日

738あたらしい眼科Vol.5105,22,No.3738(128)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第48回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科32(5):738.744,2015cはじめに眼内悪性リンパ腫は症状が非常に多彩であり,時として他疾患との鑑別が困難なために慢性ぶどう膜炎として治療される1).とりわけステロイド薬投与により寛解および増悪を繰り返す場合,ぶどう膜炎と誤って診断され,結果として,診断確定に至るまでに長く時間がかかる2,3).近年では,硝子体生検の際に既報4,5)にあるような補助診断〔IL(インターロイキン)-10/6比,PCR(polymerasechainreaction)による免疫グロブリンH遺伝子再構成,フローサイトメトリーによるB細胞のk/l比の変異など〕を併用して,眼内悪性リンパ腫を診断することは珍しくない.今回,全身性の悪性リンパ腫の眼内転移もしくは原発性眼内悪性リンパ腫を疑い,〔別刷請求先〕盛秀嗣:〒573-1191大阪府枚方市新町2丁目3番1号関西医科大学附属枚方病院眼科Reprintrequests:HidetsuguMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata,Osaka591-8037,JAPAN網膜下生検を施行した眼内悪性リンパ腫3例盛秀嗣山田晴彦加賀郁子中道悠太髙橋寛二関西医科大学附属枚方病院眼科ThreeCasesofIntraocularMalignantLymphomaDiagnosedbySubretinalTissueBiopsyHidetsuguMori,HaruhikoYamada,IkukoKaga,YutaNakamichiandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:眼内悪性リンパ腫に対して網膜下生検を施行した3症例について検討を行った.対象および方法:関西医科大学附属枚方病院において,眼内悪性リンパ腫を疑い,硝子体生検による診断確定ができず,網膜下生検を要した3例6眼(1例は同一眼に2回硝子体生検施行)を対象とし,生検の結果について検討を行った.結果:3例のうち,1例は精巣悪性リンパ腫の既往があり,診断が比較的容易であった.残りの2例は全身性悪性リンパ腫の既往がなかったため,診断確定に時間を要した.硝子体細胞診の陽性率は7回中3回(43%)と低く,網膜下生検の陽性率は4回中3回(75%)であった.網膜下生検を行った4眼のうち,2眼で術後に網膜.離が発生した.全例で眼内悪性リンパ腫は寛解したが,視力予後が不良な症例が多かった.結論:わが国での眼内悪性リンパ腫に対する網膜下生検の報告は少なく,リスクを伴う診断方法である.硝子体生検は陽性率が低いため,診断可確定には可能な限り補助診断を併用することが望ましい.Purpose:Toevaluatetheefficacyofsubretinaltissuebiopsyforthediagnosisofintraocularmalignantlym-phoma.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved3patientsdiagnosedasintraocularmalignantlymphomadur-ingtheyears2006-2013atKansaiMedicalUniversity,HirakataHospital,Osaka,Japan.Allpatientsunderwentvit-rectomyandocularbiopsy.Westudiedtheefficacyandsuccessrateofdiagnosisbyreviewingthepatients’medicalrecords.Results:Onecasehadpreviouslybeendiagnosedastesticularmalignantlymphoma.Ontheotherhand,2casesshowednoaccompanyingsystemicsymptomsformalignantlymphomaandwerethuseasytodiag-noseasintraocularmalignantlymphoma.Thepositiverateofvitreous-fluidcytologywas43%,andthepositiverateofthebiopsyofsubretinaltissuewas75%.Afterthebiopsyofsubretinaltissue,retinaldetachmentoccurredin2cases.Althoughallcasesattainedremissionofmalignantlymphoma,2ofthe3casesresultedinpoorvisualacuity.Conclusions:Therehavebeenfewreportsofasubretinaltissuebiopsybeingperformedforthediagnosisofintraocularmalignantlymphoma.Moreover,thatbiopsycansometimesleadtoseverecomplications.Thus,ourfindingssuggestthatitwouldbebettertoadministeranauxiliarydiagnosistosubretinaltissuebiopsyforthediagnosisofintraocularmalignantlymphoma.arashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):738.744,2015〕Keywords:眼内悪性リンパ腫,硝子体細胞診,網膜下生検,網膜.離,補助診断.malignantlymphoma,vitreouscystology,subretinaltissuebiopsy,retinaldetachment,auxiliarydiagnosis.738(128)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第48回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科32(5):738.744,2015cはじめに眼内悪性リンパ腫は症状が非常に多彩であり,時として他疾患との鑑別が困難なために慢性ぶどう膜炎として治療される1).とりわけステロイド薬投与により寛解および増悪を繰り返す場合,ぶどう膜炎と誤って診断され,結果として,診断確定に至るまでに長く時間がかかる2,3).近年では,硝子体生検の際に既報4,5)にあるような補助診断〔IL(インターロイキン)-10/6比,PCR(polymerasechainreaction)による免疫グロブリンH遺伝子再構成,フローサイトメトリーによるB細胞のk/l比の変異など〕を併用して,眼内悪性リンパ腫を診断することは珍しくない.今回,全身性の悪性リンパ腫の眼内転移もしくは原発性眼内悪性リンパ腫を疑い,〔別刷請求先〕盛秀嗣:〒573-1191大阪府枚方市新町2丁目3番1号関西医科大学附属枚方病院眼科Reprintrequests:HidetsuguMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata,Osaka591-8037,JAPAN網膜下生検を施行した眼内悪性リンパ腫3例盛秀嗣山田晴彦加賀郁子中道悠太髙橋寛二関西医科大学附属枚方病院眼科ThreeCasesofIntraocularMalignantLymphomaDiagnosedbySubretinalTissueBiopsyHidetsuguMori,HaruhikoYamada,IkukoKaga,YutaNakamichiandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:眼内悪性リンパ腫に対して網膜下生検を施行した3症例について検討を行った.対象および方法:関西医科大学附属枚方病院において,眼内悪性リンパ腫を疑い,硝子体生検による診断確定ができず,網膜下生検を要した3例6眼(1例は同一眼に2回硝子体生検施行)を対象とし,生検の結果について検討を行った.結果:3例のうち,1例は精巣悪性リンパ腫の既往があり,診断が比較的容易であった.残りの2例は全身性悪性リンパ腫の既往がなかったため,診断確定に時間を要した.硝子体細胞診の陽性率は7回中3回(43%)と低く,網膜下生検の陽性率は4回中3回(75%)であった.網膜下生検を行った4眼のうち,2眼で術後に網膜.離が発生した.全例で眼内悪性リンパ腫は寛解したが,視力予後が不良な症例が多かった.結論:わが国での眼内悪性リンパ腫に対する網膜下生検の報告は少なく,リスクを伴う診断方法である.硝子体生検は陽性率が低いため,診断可確定には可能な限り補助診断を併用することが望ましい.Purpose:Toevaluatetheefficacyofsubretinaltissuebiopsyforthediagnosisofintraocularmalignantlym-phoma.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved3patientsdiagnosedasintraocularmalignantlymphomadur-ingtheyears2006-2013atKansaiMedicalUniversity,HirakataHospital,Osaka,Japan.Allpatientsunderwentvit-rectomyandocularbiopsy.Westudiedtheefficacyandsuccessrateofdiagnosisbyreviewingthepatients’medicalrecords.Results:Onecasehadpreviouslybeendiagnosedastesticularmalignantlymphoma.Ontheotherhand,2casesshowednoaccompanyingsystemicsymptomsformalignantlymphomaandwerethuseasytodiag-noseasintraocularmalignantlymphoma.Thepositiverateofvitreous-fluidcytologywas43%,andthepositiverateofthebiopsyofsubretinaltissuewas75%.Afterthebiopsyofsubretinaltissue,retinaldetachmentoccurredin2cases.Althoughallcasesattainedremissionofmalignantlymphoma,2ofthe3casesresultedinpoorvisualacuity.Conclusions:Therehavebeenfewreportsofasubretinaltissuebiopsybeingperformedforthediagnosisofintraocularmalignantlymphoma.Moreover,thatbiopsycansometimesleadtoseverecomplications.Thus,ourfindingssuggestthatitwouldbebettertoadministeranauxiliarydiagnosistosubretinaltissuebiopsyforthediagnosisofintraocularmalignantlymphoma.arashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):738.744,2015〕Keywords:眼内悪性リンパ腫,硝子体細胞診,網膜下生検,網膜.離,補助診断.malignantlymphoma,vitreouscystology,subretinaltissuebiopsy,retinaldetachment,auxiliarydiagnosis. あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015739(129)硝子体手術・硝子体細胞診に加え,網膜下生検を施行して眼内悪性リンパ腫と確定診断ができた3例について,診療録から後ろ向きに検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は関西医科大学附属枚方病院(以下,当院)で網膜下生検により全身性の悪性リンパ腫の眼内転移もしくは原発性眼内悪性リンパ腫と最終的に診断された3例6眼である.すべての症例で診断的治療目的のために23ゲージもしくは25ゲージ硝子体手術で硝子体混濁を除去した.その際硝子体を可能な限り集める目的で手術時の硝子体排液パック内の排液をすべて採集して細胞診を行った.病理診断はclassIV以上を陽性と判定した.また,網膜下黄白色滲出斑がみられた症例では眼内ジアテルミーで生検部位の網膜を取り囲むように焼灼したあと,20ゲージサーフロー針で網膜ならびに網膜下の細胞を吸引し,眼外に摘出したうえで組織診断を行った.【症例呈示】〔症例1〕59歳,男性.初診日:2007年9月26日.主訴:両眼の霧視.現病歴:2006年12月から両眼の霧視を認め,ぶどう膜炎を疑われ,近医眼科でステロイド点眼加療を行ったが,軽快しないために当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.6(1.2×sph+1.25D(cyl.1.00DAx80°),左眼0.7(1.2×sph+1.00D(cyl.1.00DAx95°),両眼ともに軽度の白内障があった.眼底は両眼ともに軽度の硝子体混濁を認めた.既往歴:精巣悪性リンパ腫(化学療法後,寛解状態)─日時不明.経過:前医に引き続いてステロイドの点眼加療を行ったが,硝子体混濁は軽快しなかった.2008年4月には両眼の硝子体混濁が増強し,右眼の網膜下に黄白色の滲出斑が出現した.ステロイド治療に抵抗する硝子体混濁と,特徴的な網膜下滲出斑の出現を認めたこと,精巣に悪性リンパ腫の既往があったことから,悪性リンパ腫の眼内播種を疑った.2008年4月7日に左眼硝子体切除術および硝子体細胞診を施行した.臨床所見から眼内悪性リンパ腫である可能性はきわめて高いと考えていたが,細胞診はクラスIIであった.同年,4月14日に右眼硝子体手術を施行した際に硝子体細胞診だけでなく,網膜下生検(図1a)も同時に施行した.硝子体液の細胞診ではクラスIVの結果を得た.網膜生検で採図1症例1a:右眼網膜下生検部の眼底写真(2008年4月14日).乳頭鼻上側で生検を行った(術後写真).b:右眼網膜下生検時の組織診(HE染色所見).クロマチン密度の高い大型核を有する核/細胞質比の大きい異型細胞塊を認めた.c,d:同(免疫染色所見).CD20,79陽性であった.abcdあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015739(129)硝子体手術・硝子体細胞診に加え,網膜下生検を施行して眼内悪性リンパ腫と確定診断ができた3例について,診療録から後ろ向きに検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は関西医科大学附属枚方病院(以下,当院)で網膜下生検により全身性の悪性リンパ腫の眼内転移もしくは原発性眼内悪性リンパ腫と最終的に診断された3例6眼である.すべての症例で診断的治療目的のために23ゲージもしくは25ゲージ硝子体手術で硝子体混濁を除去した.その際硝子体を可能な限り集める目的で手術時の硝子体排液パック内の排液をすべて採集して細胞診を行った.病理診断はclassIV以上を陽性と判定した.また,網膜下黄白色滲出斑がみられた症例では眼内ジアテルミーで生検部位の網膜を取り囲むように焼灼したあと,20ゲージサーフロー針で網膜ならびに網膜下の細胞を吸引し,眼外に摘出したうえで組織診断を行った.【症例呈示】〔症例1〕59歳,男性.初診日:2007年9月26日.主訴:両眼の霧視.現病歴:2006年12月から両眼の霧視を認め,ぶどう膜炎を疑われ,近医眼科でステロイド点眼加療を行ったが,軽快しないために当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.6(1.2×sph+1.25D(cyl.1.00DAx80°),左眼0.7(1.2×sph+1.00D(cyl.1.00DAx95°),両眼ともに軽度の白内障があった.眼底は両眼ともに軽度の硝子体混濁を認めた.既往歴:精巣悪性リンパ腫(化学療法後,寛解状態)─日時不明.経過:前医に引き続いてステロイドの点眼加療を行ったが,硝子体混濁は軽快しなかった.2008年4月には両眼の硝子体混濁が増強し,右眼の網膜下に黄白色の滲出斑が出現した.ステロイド治療に抵抗する硝子体混濁と,特徴的な網膜下滲出斑の出現を認めたこと,精巣に悪性リンパ腫の既往があったことから,悪性リンパ腫の眼内播種を疑った.2008年4月7日に左眼硝子体切除術および硝子体細胞診を施行した.臨床所見から眼内悪性リンパ腫である可能性はきわめて高いと考えていたが,細胞診はクラスIIであった.同年,4月14日に右眼硝子体手術を施行した際に硝子体細胞診だけでなく,網膜下生検(図1a)も同時に施行した.硝子体液の細胞診ではクラスIVの結果を得た.網膜生検で採図1症例1a:右眼網膜下生検部の眼底写真(2008年4月14日).乳頭鼻上側で生検を行った(術後写真).b:右眼網膜下生検時の組織診(HE染色所見).クロマチン密度の高い大型核を有する核/細胞質比の大きい異型細胞塊を認めた.c,d:同(免疫染色所見).CD20,79陽性であった.abcd 740あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(130)取した組織にHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色を行ったところ,クロマチン密度の高い大型核を有する核/細胞質比の大きい異型細胞塊を認め(図1b),広範囲に変性壊死がみられた.さらに免疫染色を行いCD20,79aは陽性(図1c),CD3,5,10は陰性であった.病歴から精巣悪性リンパ腫の眼内転移と診断した.術後,硝子体混濁は消失し,両眼矯正視力はともに左右ともに1.0まで改善した.当院血液腫瘍内科に追加治療の相談を行ったが,眼内のみの局所病変であったために,化学療法の追加は行われなかった.手術から10カ月後の2009年2月に右眼の網膜.離を発症し,右眼の硝子体手術+メソトレキセート硝子体灌流+シリコーンオイルタンポナーデを施行し,網膜は復位した.この際,胞状の可動性のある網膜.離を認めたが,眼内に増殖性変化はなく,術前の診察でも網膜裂孔は不明であった.術中に網膜裂孔が確認できなかったため,意図的裂孔を作製して眼内排液を行って,シリコーンオイルを注入した.手術半年後に眼科通院を自己中断し,その後の経過は不明であるが,中断前までは眼内悪性リンパ腫の再発は認めず,シリコーンオイル下で網膜は復位していた.最終受診時の右眼の矯正視力は0.1,左眼の矯正視力は0.4であった.〔症例2〕78歳,女性.初診日:2006年2月15日.主訴:右眼の霧視.現病歴:2006年2月に他院で左眼の白内障手術を施行され,経過は良好であったが,数カ月前から右眼の霧視が増悪し,当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.6(0.9×sph+0.75D(cyl.1.25DAx75°),左眼0.7(1.2×sph+1.00D(cyl-0.75DAx70°),右眼は軽度の白内障,左眼は眼内レンズ挿入眼で,眼底は両眼ともに異常所見を認めなかった.既往歴:2006年2月左眼白内障手術.家族歴:息子─喉頭癌.経過:2010年4月に右眼の白内障による視力低下を認めたために右眼の白内障手術を施行し,術後の右眼の矯正視力は1.0と良好であった.2011年9月に両眼の硝子体混濁を認め,当初ぶどう膜炎を疑って,全身精査のため血液検査,胸部X線検査を行ったが,異常所見はなかった.2011年11月,硝子体混濁の減少を期待して,右眼にトリアムシノロンのTenon.下注射を行ったが軽快せず,その後も硝子体混濁は増強し,右眼の矯正視力は0.2,左眼の矯正視力は0.7図2症例2a:右眼眼底写真.網膜下滲出斑および硝子体混濁を認めた.b:右眼網膜下生検時の組織診(HE染色所見)(2013年9月12日).壊死を伴った核/細胞質の大きい細胞塊を認めた.c:同(免疫染色所見).リンパ球系マーカーであるCD45が陽性であった.d:右眼前眼部写真(2014年1月28日).虹彩ルベオーシス,虹彩外反,角膜浮腫を認めた.abcd(130)取した組織にHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色を行ったところ,クロマチン密度の高い大型核を有する核/細胞質比の大きい異型細胞塊を認め(図1b),広範囲に変性壊死がみられた.さらに免疫染色を行いCD20,79aは陽性(図1c),CD3,5,10は陰性であった.病歴から精巣悪性リンパ腫の眼内転移と診断した.術後,硝子体混濁は消失し,両眼矯正視力はともに左右ともに1.0まで改善した.当院血液腫瘍内科に追加治療の相談を行ったが,眼内のみの局所病変であったために,化学療法の追加は行われなかった.手術から10カ月後の2009年2月に右眼の網膜.離を発症し,右眼の硝子体手術+メソトレキセート硝子体灌流+シリコーンオイルタンポナーデを施行し,網膜は復位した.この際,胞状の可動性のある網膜.離を認めたが,眼内に増殖性変化はなく,術前の診察でも網膜裂孔は不明であった.術中に網膜裂孔が確認できなかったため,意図的裂孔を作製して眼内排液を行って,シリコーンオイルを注入した.手術半年後に眼科通院を自己中断し,その後の経過は不明であるが,中断前までは眼内悪性リンパ腫の再発は認めず,シリコーンオイル下で網膜は復位していた.最終受診時の右眼の矯正視力は0.1,左眼の矯正視力は0.4であった.〔症例2〕78歳,女性.初診日:2006年2月15日.主訴:右眼の霧視.現病歴:2006年2月に他院で左眼の白内障手術を施行され,経過は良好であったが,数カ月前から右眼の霧視が増悪し,当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.6(0.9×sph+0.75D(cyl.1.25DAx75°),左眼0.7(1.2×sph+1.00D(cyl-0.75DAx70°),右眼は軽度の白内障,左眼は眼内レンズ挿入眼で,眼底は両眼ともに異常所見を認めなかった.既往歴:2006年2月左眼白内障手術.家族歴:息子─喉頭癌.経過:2010年4月に右眼の白内障による視力低下を認めたために右眼の白内障手術を施行し,術後の右眼の矯正視力は1.0と良好であった.2011年9月に両眼の硝子体混濁を認め,当初ぶどう膜炎を疑って,全身精査のため血液検査,胸部X線検査を行ったが,異常所見はなかった.2011年11月,硝子体混濁の減少を期待して,右眼にトリアムシノロンのTenon.下注射を行ったが軽快せず,その後も硝子体混濁は増強し,右眼の矯正視力は0.2,左眼の矯正視力は0.7図2症例2a:右眼眼底写真.網膜下滲出斑および硝子体混濁を認めた.b:右眼網膜下生検時の組織診(HE染色所見)(2013年9月12日).壊死を伴った核/細胞質の大きい細胞塊を認めた.c:同(免疫染色所見).リンパ球系マーカーであるCD45が陽性であった.d:右眼前眼部写真(2014年1月28日).虹彩ルベオーシス,虹彩外反,角膜浮腫を認めた.abcd と低下した.ステロイド治療に抵抗する硝子体混濁で,高齢独居のため早期に視力回復が期待されたことから,原発性眼内悪性リンパ腫の可能性を考えて,2011年12月12日に右眼,同年12月21日に左眼の硝子体切除術および硝子体細胞診を施行した.ともに細胞診はクラスIIであった.同時に,当院血液腫瘍内科に依頼して全身状態のチェックならびに頭部CT(コンピュータ断層撮影)検査,血液検査を行ったが,悪性リンパ腫を示唆する全身的所見はみつからなかった.術後,両眼ともに硝子体混濁は消失し,右眼の矯正視力は0.8,左眼の矯正視力は1.2と改善した.ところが,2013年7月に右眼の特徴的な網膜下黄白色滲出斑および硝子体混濁(図2a)を認めたため,悪性リンパ腫の再燃を疑って2013年9月に右眼硝子体手術および硝子体細胞診,網膜下生検を施行した.細胞診ではクラスIVの結果が得られた.網膜下生検で採取した組織にHE染色を行うと,凝固壊死を伴った核/細胞質比の大きい細胞塊を認め(図2b),免疫染色ではCD45(leukocytecommonantigen)陽性であった(図2c).以上の所見から,原発性眼内悪性リンパ腫と確定診断した.治療の選択肢として全身化学療法,眼局所への放射線照射,メソトレキセート硝子体腔内投与を考えたが,当院血液腫瘍内科と協議した結果,全身化学療法を施行することになり,2013年10月から関連病院において,R-CHOP(rituximab,cyclophosphamide,adriamycin,vincristine,predonisone)が開始された.関連施設に入院中に右眼に血管新生緑内障(図2d)を発症し,2014年1月の当科再診時にはすでに右眼は失明していた.この際,右眼は強い角膜浮腫と前房内にニボー形成を伴う前房出血,ぶどう膜外反,虹彩ルベオーシスを認め,眼圧は34mmHgで眼底は透見できなかった.左眼の硝子体混濁は消失し,網膜は軽度に萎縮がみられるものの滲出斑もなかった.このことから悪性リンパ腫については寛解していると判断した.左眼の矯正視力は1.2であった.〔症例3〕76歳,女性.初診日:2008年2月4日.主訴:右眼の視力低下.既往歴:副鼻腔炎.現病歴:右眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診し,右眼の白内障を指摘されていた.2008年2月に白内障手術目的に当科へ紹介された.初診時所見:視力は右眼0.03(0.3×sph.4.50D(cyl.2.25DAx45°),左眼0.9(1.2×sph+0.75D(cyl.1.00DAx120°),右眼は後.下混濁を伴う白内障,左眼は軽度の白内障があったが,眼底は両眼ともに異常所見を認めなかった.経過:2008年5月に右眼の白内障手術を施行し,術後右眼の矯正視力は1.0に回復した.2012年4月,急に左眼の視力低下を自覚し,左眼の矯正視力は0.4に低下した.中心(131)フリッカー値の低下(22Hz),Mariotte盲点の拡大(図3a),視神経乳頭の発赤・腫脹(図3b)を認めたため,左眼特発性視神経炎と診断した.副鼻腔炎を併発していたことから,その増悪を危惧して大量ステロイド療法は回避し,トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を施行した.その後,視神経乳頭の発赤・腫脹は速やかに消失し,左眼の矯正視力は0.8に回復した.2012年7月に,右眼の硝子体混濁による視力低下(矯正視力0.5)を認めた.トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を行い,硝子体混濁は速やかに消失し,矯正視力1.0に回復した.2013年3月に右眼硝子体混濁と特徴的な網膜下黄白色滲出斑の出現を認めた.これまでにステロイドに反応する硝子体混濁がありぶどう膜炎として治療したが,典型的所見を認めたことから,原発性眼内悪性リンパ腫を強く疑った.右眼の矯正視力は0.1まで低下していたこと,息子が身体障害者で世話をみる必要があったことから,速やかな視力回復と診断確定が必要であり,2013年3月12日に右眼の硝子体切除術および硝子体細胞診,網膜下生検を施行した.細胞診,組織診ともにクラスIIであった.一方,左眼はとくに硝子体混濁や網膜病変がみられなかった.左眼の矯正視力は0.4に低下していたが,白内障によるものと考えられたため,このときには白内障手術のみを行い,症状は改善した.2013年6月,左眼の硝子体混濁による視力低下を認め,左眼硝子体切除術および硝子体細胞診,網膜下生検(図3c)を施行した.細胞診はクラスIVであった.網膜下生検で採取した組織のHE染色では,腫瘍壊死および核不整が強い大型リンパ球を認め(図3d),免疫染色では,CD10,20,79a陽性,CD3,5陰性であった(図3e).以上から,びまん性大細胞型Bリンパ球悪性リンパ腫と確定診断した.2013年7月に網膜下生検部にできた網膜欠損部の周囲に腫瘍細胞が増殖し,網膜裂孔が再開し,左眼の裂孔原性網膜.離を発症した.そのため,2013年7月25日に左眼硝子体手術+シリコーンオイルタンポナーデを施行し,網膜は復位した.血液腫瘍内科と協議した結果,局所療法は行わず,2013年8月から関連病院で全身化学療法(R-CHOP)が開始された.化学療法後,両眼とも徐々に眼底の滲出斑は消失し,強い網脈絡膜萎縮を残して,眼内悪性リンパ腫は寛解した(図3f).右眼視力は20cm指数弁,左眼視力は眼前手動弁と視力は不良となった.II考按眼内悪性リンパ腫は臨床像が非特異的なぶどう膜炎として治療されることが多い.以前までは稀な疾患として考えられてきたが,診断技術などの進歩により,近年その頻度は上昇傾向にある.2001年では眼内悪性リンパ腫はぶどう膜炎全体の1%を占めたが,2009年には全体の2.5%との報告がある6).眼内悪性リンパ腫は中枢神経で発生する全身性悪性リあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015741 742あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(132)abcdeeeff図3症例3a:左眼Goldmann動的視野検査(2012年4月19日).Mariotte盲点の拡大を認めた.b:左眼視神経炎発症時の眼底写真(2012年4月19日).視神経乳頭の発赤腫脹を認めた.c:左眼網膜下生検部の眼底写真(2013年6月11日).眼内レーザーで囲まれた中央の組織を生検した.d:左眼網膜下生検時の組織診(HE染色所見).腫瘍壊死および核不整が強い大型リンパ球を認めた.e:同(免疫染色所見).CD10,20,79陽性であった.f:全身化学療法後半年後の両眼眼底写真.硝子体混濁,滲出斑は消失した.(132)abcdeeeff図3症例3a:左眼Goldmann動的視野検査(2012年4月19日).Mariotte盲点の拡大を認めた.b:左眼視神経炎発症時の眼底写真(2012年4月19日).視神経乳頭の発赤腫脹を認めた.c:左眼網膜下生検部の眼底写真(2013年6月11日).眼内レーザーで囲まれた中央の組織を生検した.d:左眼網膜下生検時の組織診(HE染色所見).腫瘍壊死および核不整が強い大型リンパ球を認めた.e:同(免疫染色所見).CD10,20,79陽性であった.f:全身化学療法後半年後の両眼眼底写真.硝子体混濁,滲出斑は消失した. 表1症例のまとめ悪性リンパ腫視力視力硝子体網膜下症例患眼の既往(初診時)(最終受診時)細胞診生検+右)1.2右)0.1右)クラスIV右)陽性1両眼(精巣)左)1.2左)0.4左)クラスII(術後,網膜発症)右)クラスII2両眼.右)0.9左)1.2右)光覚(.)左)1.2(2回目の手術でクラスIV右)陽性左)クラスII右)0.3右)20cm指数弁右)クラスII左)陽性3両眼.左)1.2左)眼前手動弁左)クラスIV(術後,網膜発症)ンパ腫が眼内転移したものと,眼・中枢神経系原発悪性リンパ腫の2群に大別される7).全身性悪性リンパ腫の転移の場合はほとんどが眼窩,結膜下,涙腺など眼球外組織への播種であり,眼内への転移は18%の報告があり,比較的少ない8).また,眼・中枢神経系原発悪性リンパ腫では眼先行型が多く9),眼所見もステロイド薬により寛解する非特異的慢性ぶどう膜炎所見を呈するために,早期診断が非常にむずかしい.そのため,眼内悪性リンパ腫の確定診断には病理学的検索が必須である4).しかしながら,硝子体細胞診による検出率は決して高くない.本報告でも硝子体細胞診の陽性率は43%(7回中3回)に留まった.硝子体細胞診がむずかしい要因として,硝子体内の浸潤リンパ球に占める異型リンパ球がもともと少なく腫瘍細胞が壊死しやすい性質をもっていること,すでに投与されていたステロイド薬がリンパ球系細胞を融解し,腫瘍細胞の活性を低下させること,硝子体カッターによる吸引や標本作製過程で腫瘍細胞にアーチファクトを生じることが診断率を下げていると過去の文献でも述べられている3,10,11).また,組織診には経網膜的網膜下生検や経強膜的網脈絡膜生検があり10,12),本報告のように経網膜的網膜下生検で確定診断された報告はわが国では少ない10).おそらく,手技がむずかしいことや術後に網膜.離を生じる可能性が高いこと10)が理由として考えられる.実際に筆者らの症例の4眼中2眼(50%)で生検後に網膜.離を認めた.網膜.離を生じた原因としては,生検部位に腫瘍細胞が残存,増殖して裂孔が再開し(症例3),腫瘍細胞が分泌したさまざまなサイトカインによって,滲出性網膜.離を生じた可能性(症例1)が考えられた.今回の3症例のまとめを表1に示す.6眼中5眼において,最終視力が非常に不良であった.腫瘍浸潤が黄斑部に及んだ影響ならびに術後網膜.離を発症したことによるものと考えられた.このように硝子体細胞診での陽性率が低く,網膜下生検はリスクの高い診断方法と考えられることから,近年,眼内液中のサイトカイン(IL-10,IL-6)の測定,PCRによる免疫グロブリンH遺伝子再構成,フローサイトメトリーによる(133)B細胞のk/l比の変異などなどが補助診断として使われている5,13).補助診断の感度は83.100%と非常に高く,診断に有用な検査である2,14)が,過去には補助診断で偽陽性・偽陰性に出たケース2)も報告されており,補助診断が必ずしも眼内悪性リンパ腫の確実な診断方法ではない.本症例でも補助診断を併用して確定診断を行い,中枢神経系病変の合併率が高い,8)眼内悪性リンパ腫に対して,内科による全身治療を依頼する予定であった.しかし,臨床所見から眼内悪性リンパ腫の可能性が高いと判断をしても,当院の血液腫瘍内科は補助診断の偽陽性・陰性となるリスクをおそれて,硝子体生検による細胞診が陰性の場合はあくまで生検によって組織型が可能な限り判別できなければ全身治療を開始しないという治療方針であったために,患者治療費負担も考慮して行わなかった.また,症例2では化学療法中に血管新生緑内障を認め,失明という結果を招いた.Sullivan,松井らは眼内悪性リンパ腫から血管新生緑内障を発症した症例について報告15,16)しているが,これら2症例とも全身性の悪性リンパ腫が眼内に転移した症例であり,転移した悪性腫瘍細胞が強い前眼部炎症を誘発したことによるものと述べている.本症例のように眼・中枢神経系原発悪性リンパ腫による血管新生緑内障を発症した症例は非常に稀といえる.眼・中枢神経系原発悪性リンパ腫が眼内に新生血管を誘導することは一般的ではなく,悪性リンパ腫自身に血管新生能力が有するかどうかはわかっていないことから,本症例において血管新生緑内障を生じた原因は不明だが,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの血管新生因子が腫瘍細胞から産生されていた可能性がある17).今回筆者らが経験したように,生検での確定診断はときとしてむずかしい.とくに網膜下生検は生検後に網膜.離を合併するリスクを伴う.その意味で今後はあえて硝子体細胞診での陽性率が44.5%5),網膜下生検での陽性率が50%18)と陽性率の高くない生検にこだわらず,問題点はあるものの,IL-10/IL-6比が1以上である確率が91.7%5),PCRによる免疫グロブリンH遺伝子再構成の検出率が80.6%5)と眼内悪性リンパ腫と診断できる感度が高い補助診断を積極的に活あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015743 用するべきであると考える.こうした補助診断の有用性について共観する血液腫瘍内科医に働きかける一方で,細胞診・組織診そのものの確実性を高め,少しでも確実に陽性と判断して治療開始時期を早める必要がある.眼内のみの局所病変であれば,近年メソトレキセート,リツキシマブの硝子体腔内投与を行い,軽快した報告例19.21)も増えている.眼内のみの局所病変の症例では生検結果が陰性であっても,臨床経過および補助診断から眼内悪性リンパ腫がきわめて疑わしい状態で,全身の他部位に病変がないなら,積極的に局所治療を行ってみるのがよい.そうすれば,少しでも治療開始時期を早め,視力予後を改善することができると思われる.ただし,局所投与のみで軽快したとする報告例もある一方で,原発性眼内悪性リンパ腫では高頻度に中枢神経系病変を合併する9)といわれており,可能な限り予防的に全身化学療法を行って,生命予後の改善に努めていくことが重要であると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SagooMS,MehtaH,SwampillaiAJetal:Primaryintraocularlymphoma.SurvOphthalmol59:503-516,20142)平形明人,稲見達也,斉藤真希ほか:眼内悪性リンパ腫における硝子体インターロイキン-10,インターロイキン6の診断的価値.眼紀54:820-826,20033)WhitcupSM,deSmetMD,RubinBIetal:Intraocularlymphoma.Clinicalandhistopathologicdiagnosis.Ophthalmology100:1399-1406,19934)太田亜紀,海老原伸行,平塚義宗ほか:眼内悪性リンパ腫診断における硝子体生検の重要性.日眼会誌110:588593,20065)KimuraK,UsuiY,GotoH:Clinicalfeaturesanddiagnosticsignificanceoftheintraocularfluidof217patientswithintraocularlymphoma.JpnJOphthalmol56:383389,20126)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20127)後藤浩:眼内悪性リンパ腫─Intraocularlymphoma─.臨眼50:161-170,20088)CorriveauC,EasterbrookM,PayneD:Lymphomasimulatinguveitis(masuqueradesyndrome).CanJOphthalmol21:144-149,19869)木村圭介,後藤浩:眼内悪性リンパ腫28例の臨床像と生命予後の検討.日眼会誌112:674-678,200810)横田怜二,星和栄,堀田一樹:中枢神経系悪性リンパ腫眼内転移の確定診断に網膜下生検が有用であった1例.臨眼65:827-832,200711)CharDH,LjungBM,MillerTetal:Primaryintraocularlymphoma(ocularreticulumcellsarcoma)diagnosisandmanagement.Ophthalmology95:625-630,198812)田中麻以,後藤浩,竹内大ほか:眼内悪性リンパ腫の診断におけるサイトカイン測定の意義.眼紀52:392-397,199913)石井茂充,臼井嘉彦,松永芳径ほか:視神経乳頭炎と網膜血管炎を主徴とした眼内悪性リンパ腫の1例.日眼会誌115:910-915,201014)ChanCC,BuggageRR,NassemblattRB:Intraocularlymphoma.CurrOpinOphthalmol13:411-418,200215)松井敬子,鎌尾知行,安積淳:血管新生緑内障で初診した転移性眼内悪性リンパ腫の1例.日眼会誌109:434439,200716)SullivanSF,DallowRI:Intraocularreticulumcellsarcoma:Itsdramaticresponsetosystemicchemotherapyandangiogenicpotential.AnnOphthalmol9:401-406,197717)KimMK,SuhC,ChiHSetal:VEGFAandVEGFR2geneticpolymorphismsandsurvivalinpatientswithdiffuselargeBcelllymphoma.CancerSci103:497-503,201218)ShieldsJA,ShieldsCL,EhyaHetal:Fine-needleaspirationbiopsyofsuspectedintraoculartumors.Ophthalmology100:1677-1684,199319)FrenkelS,HendlerK,SiegalTetal:Intravitrealmethotrexatefortreatingvitreoretinallymphoma:10yearsofexperience.BrJOphthalmol92:383-388,200820)OhguroN,HashidaN,TanoY:Effectofintravitreousrituximabinjectionsinpatientswithrecurrentocularlesionsassociatedwithcentralnervoussystemlymphoma.ArchOphthalmol126:1002-1003,2008***(134)

近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討

2015年5月31日 日曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(5):699.703,2015c近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討柳田淳子*1蕪城俊克*2田中理恵*2大友一義*2中原久恵*3高本光子*4松田順子*5藤野雄次郎*6*1関東労災病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科*3独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)東京高輪病院眼科*4東京警察病院眼科*5東京都健康長寿医療センター*6独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)東京新宿メディカルセンター眼科ClinicalFeaturesofRecentCasesofCytomegalovirusRetinitisJunkoYanagida1),ToshikatsuKaburaki2),RieTanaka2),KazuyoshiOotomo2),HisaeNakahara3),MitsukoTakamoto4),JunkoMatsuda5)andYujiroFujino6)1)DepartmentofOphthalmology,KantoRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospital,3)DepartmentofOphthalmology,JapanComuunityHealthCareOrganizationTokyoTakanawaHospital,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,5)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,6)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter目的:近年のサイトメガロウイルス網膜炎(CMVR)患者の臨床像と視力予後について検討する.対象および方法:過去10年間に東京大学医学部附属病院眼科(以下,当科)を受診したCMVRの症例36例53眼を診療録からretrospectiveに検討した.結果:基礎疾患は,白血病11例,後天性免疫不全症候群(AIDS)8例,悪性リンパ腫6例,成人T細胞白血病4例,多発性筋炎1例,その他6例であった.網膜.離が10例10眼,視神経炎の合併が8例9眼に合併した.26例にガンシクロビル全身投与,22例31眼にガンシクロビル硝子体注射,7例7眼に硝子体手術を施行した.最終矯正視力0.1未満の症例は14眼で,視神経炎の合併,網膜.離,黄斑部への病変浸潤がおもな原因と考えられた.結論:当科でのCMVRは,AIDSと血液腫瘍患者が大半を占めた.視神経炎の合併,網膜.離,黄斑部への病変浸潤が視力予後不良の主要因であった.CMVRの視力予後の改善のためには早期診断が重要であり,血液内科などの診療科との密な連携が必要と考えられた.Purpose:Toexaminetheclinicalfeaturesandvisualprognosisinrecentcasesofcytomegalovirusretinitis(CMVR).MaterialsandMethods:Thisstudyinvolvedtheretrospectivereviewofthemedicalrecordsof53eyesof36CMVRpatientswhovisitedtheDepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospitalfrom2003to2013.Results:Primarydiseaseswereleukemia,acquiredimmunodeficiencysyndrome(AIDS),lymphaticmalignancy,adultT-cellleukemia,polymyositis,sigmoidcoloncancer,hepatocellularcarcinoma,myelodysplasticsyndrome,anddiabetes.CMVRwascomplicatedwithretinaldetachment(RD)andopticneuritisin10eyesandin9eyes,respectively.Treatmentsincludedsystemicganciclovirtherapyin26cases,intravenousganciclovirinjectionin31eyesof22cases,andvitrectomyin7eyesof7cases.Finalbest-correctedvisualacuitywaslessthan20/200in14eyes,mostlyduetoopticneuritis,RD,andinfiltrationintothemacula.Conclusions:CMVRmostlyoccurredincaseswithbloodmalignanciesorAIDS,andcomplicationssuchasRDandopticneuritisoftenworsenedthevisualprognosis.EarlydiagnosisofCMVR,aswellascollaborationwithinternalmedicinedoctors,isneededfortheimprovementofvisualprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):699.703,2015〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,網膜.離,視神経炎の合併,免疫不全.cytomegalovirusretinitis,retinaldetachment,opticneuritis,immunodeficiency.〔別刷請求先〕柳田淳子:〒211-8510神奈川県川崎市中原区木月住吉町1-1関東労災病院眼科Reprintrequests:JunkoYanagida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KantoRosaiHospital,1-1Kizukisumiyoshi-cho,Nakaharaku,Kawasaki-shi,Kanagawa211-8510,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(89)699 はじめにサイトメガロウイルス網膜炎(cytomegalovirusretinitis:CMVR)は眼科領域では真菌性眼内炎と並んで多くみられる日和見感染症であり,とくに後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)患者においては主要な合併症の一つとされている.AIDS患者では,CD4陽性リンパ球数が50/μl以下の症例の40%で発症し,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)の血行性感染や眼内局所での再活性化により発症する1,2).1996年に登場した多剤併用療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)により,AIDS患者におけるCMVRの発症率は80.90%減少したと報告されている3).また,血液疾患や抗癌剤治療後の免疫不全状態においてもCMVRは重要な合併症である4).CMVRの臨床所見としては,白色の滲出斑が血管に沿って拡大し,網膜血管炎,出血を伴い,急性期を過ぎると瘢痕化するという特徴がある.CMVRは網膜.離,視神経炎の合併など,ときに失明に至るような深刻な眼合併症を起こす危険があり,これらの合併症の併発の有無は視力予後に大きく影響する14,15).CMVRの視力予後については,海外では多数例での報告があるが3,9,13),わが国での多数例の報告は少なく10.12),とくに近年の報告は1報告のみである10).そこで今回,わが国における近年のCMVRの臨床像および視力予後を明らかにする目的で,東京大学医学部附属病院眼科(以下,当院)での過去10年間のCMVR症例について臨床像を後ろ向きに検討したので報告する.I対象および方法2003.2013年に当院を受診したCMVRの症例36例53眼(男性19例,女性17例,年齢51.4±13.7歳)を対象とした.診療録よりCMVR症例の基礎疾患,眼合併症,治療法,視力予後,視力予後不良の原因について後ろ向きに検討した.眼合併症については眼科初診日から最終受診日までの間に観察されたものとし,CMVRと明らかに無関係な眼疾患は除外した.診断は,白色の網膜滲出性病変および網膜出血,白鞘化を伴う網膜血管炎などのCMVRに特徴的な眼底所見に加え,AIDSや骨髄移植後,血液腫瘍など免疫不全状態をもたらす基礎疾患の存在,抗CMV治療の有効性などから臨床診断した.これらと併せて補助診断として前房水中のCMV-DNAのPCR(polymerasechainreaction)法による証明や,CMVアンチゲネミアの測定によるCMV抗原血症の証明を行った.II結果今回の検討でCMVRと診断された36例53眼の基礎疾患700あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015は,白血病11例,AIDS8例,悪性リンパ腫6例,成人T細胞白血病4例,多発性筋炎1例,S状結腸癌1例,肝細胞癌1例,骨髄異型性症候群1例,間質性肺炎1例,Wegener肉芽腫症1例,糖尿病のみ1例と,全体のうち22例(61%)を血液腫瘍性疾患,8例(22%)をAIDSが占めた.臨床像は基礎疾患により差異は認めないと考えられた.CMVRの診断のために前房穿刺を施行した16例16眼のうち,CMVDNAは12眼(75%)で陽性であった.また,同じ目的で末梢血中CMVアンチゲネミア(HRP-C7法)の測定を行った29例中,陽性は24例(83%)であった.36症例のうち糖尿病を有する症例は9例あり,そのうちの1例はHbA1C5.9%と血糖コントロール良好で,他に明らかな全身疾患のない患者であった.両眼発症17例,片眼発症が19例であった.造血幹細胞移植前後に発症した症例では11例中9例(82%)が両眼性であり,両眼性が多くみられた.AIDS患者8例のCMVR発症時のCD4陽性Tリンパ球数は10/μl以下の症例が6例(75%),その他2例では48.51/μlであった.CD4陽性Tリンパ球数はAIDS患者でのみ測定した.造血幹細胞移植前後にCMVRを発症した症例は11例20眼であった.このうち移植前に発症したのは2例4眼で,いずれも移植直前の10日.2週間前にCMVRを発症した.一方,移植後に発症したのは9例16眼であり,移植からCMVR発症までの期間は,平均190±247日であった.治療としては,ガンシクロビル全身投与が26例,ガンシクロビル硝子体注射が22例31眼に行われた.経過中の合併症としては,網膜.離が10例10眼(28%),視神経炎の合併が8例9眼(22%)にみられた.網膜.離を起こした10例10眼のうち,7眼に対して硝子体手術が行われた.他の3例3眼のうち,裂孔に対する網膜光凝固が1眼に施行されたが,2眼は手術をしても視力改善が期待できないと考えられたため経過観察となった.初診時視力と最終観察時視力の相関性を図1に示す.最終矯正視力に関しては0.01未満が8眼,0.01.0.09が6眼,0.1.0.5が11眼,0.6以上が28眼であった.最終矯正視力0.1未満の視力予後不良例が14眼(26%)であったが,その原因は,5例6眼が視神経炎の合併,3例3眼が網膜.離,4例4眼が黄斑部への病変の浸潤,1例1眼が高度の角膜びらんによると考えられた.視神経炎の合併の有無とlogMAR視力の関係を検討したところ,視神経炎の合併を認めた症例では,認めなかった症例に比べ有意に最終視力が悪い結果であった(p=0.0012,MannWhitney’sU-test).経過中5例(14%)が全身状態悪化のため死亡した.全身状態悪化のため死亡した症例は視力予後が悪い症例が多かった(表1).(90) III考察CMVRはHAART導入以前にはAIDS患者の37%に発症し2),AIDS患者の最大の失明原因とされた5).1996年に登場したHAARTにより,AIDS患者におけるCMVRの発症率は80.90%減少したとされている3).初診時にCMVRをきたしていなかったAIDS患者が矯正視力0.1以下となる原因の40%が経過中生じたCMVRという報告もあり13),HAART導入以後においてもCMVRはAIDS患者の視力予後を決める重要な因子である.また,近年ではAIDS患者のみでなく血液腫瘍性疾患や臓器移植,抗癌剤治療による免疫不全に伴うCMVR症例も重要性を増している16.18).今回の検討ではAIDS患者に加え,血液腫瘍患者や免疫抑制剤を要する基礎疾患のある免疫不全患者が大半を占めていた.また,今回,HbA1C5.9%と比較的血糖コントロール良好な糖尿病患者に併発したCMVRの症例を経験した.明らかな免疫不全のない健常者においてもCMVRが発症しうることが知られており7),注意が必要である.CMVRの視力予後については,AIDS患者では多数例での報告があるが3,9,13),AIDS以外での報告は少ない.米国ではAIDS患者のHAART療法後のCMVRにおける最終視力0.1以下の頻度は,100人あたり3.4/Eye/Yearと報告されている3).臓器移植後のCMVR症例では,9例14眼のうち1眼(7.4%)は最終視力0.1以下であったとの報告がある9).近年の濱本らの報告では,HAARTを施行したAIDS患者261例のうち,HAART開始前に23例,開始後に16例にCMVRを生じ,最終視力0.2以下は7眼(15%)であったこと,HAART開始後発症例のほうが,軽症例が多く,視力予後が良いことが報告されている10).これに対し,今回の症例は最終視力0.1未満の症例が14眼(26%)であったことから,過去のAIDS患者を対象にした報告に比べやや悪い結果であった.視力予後に大きく影響しうるCMVRの合併症としては,網膜.離14)や視神経炎の合併15)があげられる.本検討では視神経炎の合併が9眼で全体の16.9%にみられ,そのうち6眼が最終視力0.1以下となったこと,黄斑部への病変の浸潤をきたした4眼(7.5%)は全例最終視力0.1以下であったことが全体の予後不良の要因と考えられる.HAART導入以前のAIDS患者ではCMVR147例中41例(28%)に網膜.離を生じたとの報告がある8)が,HAART導入以後には網膜.離の発症率は10分の1程度に減少したといわれている6).臓器移植後でのCMVRで約半数に網膜.離を生じているとの報告もある19).本検討では53眼中10眼(18.9%)に網膜.離を生じたが,AIDS患者に限ると11眼中1眼(9.0%)と差を認めた.単に基礎疾患による違いのみではなく,基礎疾患のコントロール状況や随伴する治療内(91)0.00010.0010.010.1110最終観察時視力0.0010.010.1110初診時視力図1初診時視力と最終観察時視力CMVR症例36例53眼の初診時矯正視力と最終観察時矯正視力の相関性を示す.ただし,指数弁を0.004,手動弁を0.002,光覚弁を0.001,光覚弁なしを0.0001とした.容・全身の免疫状態などと,眼合併症の発症頻度や視力予後との関係は詳細な検討を要すると考えられた.わが国からの報告で,末梢血CD4陽性Tリンパ球が50μl以下のAIDS患者を対象とした研究で,眼科定期検査を行った群では18眼中14眼(78%)で最終観察時の視力が0.5以上を維持できていたのに対し,非定期検査群では0.5以上の視力を得たものは10眼中4眼(40%)のみであったとされている11).また,AIDS患者のCMVR症例9例15眼に対し徐放性ガンシクロビルの硝子体挿入を複数回の挿入を含め19件行った報告では,挿入後の最終受診日の矯正視力は1眼を除きすべてにおいて0.5以上の良好な視力が保たれていたとの報告があり12),早期の発見と治療開始が良好な視力予後に大きく貢献すると考える.視神経炎の合併や網膜.離を防ぐには早期の診断,治療開始が重要と考えられる20).血液内科などの診療科との密な連携がCMVRの視力予後の改善のために必要であると思われた.IV結語当院でのCMVRは,血液腫瘍患者とAIDS患者が大半を占めた.最終視力0.1未満の症例が26%にみられ,視神経炎の合併,網膜.離,黄斑部への病変の浸潤が視力予後不良のおもな原因であった.CMVRの視力予後の改善のためには早期診断が重要であり,血液内科などの診療科との密な連携が必要と考えられた.したがって,今回のような臨床像の解析が役立つであろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なしあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015701 表1患者背景と臨床像症例基礎疾患造血幹細胞移植移植後日数*両眼/片眼最終矯正視力(右/左)網膜.離視神経炎の合併ガンシクロビル全身投与硝子体注射手術転帰CMVアンチゲネミア前房水PCR1.33歳女性AIDS両sl./sl+右○両(相当回)死去2.44歳女性AIDS右1.2○..3.40歳女性ALLPBSCT125両1.2/1.2左○++4.57歳男性MDSPBSCT63両0.7/1.0右○右7回左5回右PPV+5.62歳女性ML両0.5/0.7右○右4回死去+6.66歳女性AMLPBSCT31両0.06/1.2○右5回死去+7.43歳女性MLPBSCT114両0.2/0.4右○右PPV+8.59歳男性AMLBMT186右0.01右+9.39歳女性AIDS両0.9/1.010.48歳女性ALL左1.2左○+11.31歳男性ALLPBSCT464両m.m./sl±両○右6回左4回死去+12.73歳男性間質性肺炎左sl.○左1回++13.71歳女性Wegener肉芽腫症左1.0右○左(前医)+14.42歳男性ATLL両0.07/1.2右○+15.63歳男性ATLL右0.02左○右数回+16.51歳男性ML左m.m.左+(前医)17.77歳男性ML左sl.○左1回左PPV..18.36歳男性CMMoLBMT167左0.8++19.32歳男性AIDS左0.8○左1回++20.75歳男性ML両0.4/0.15左○右7回左17回+21.46歳男性ALLBMT820両1.2/0.1○右4回左4回+.22.38歳男性ALL左1.5○+23.62歳女性S状結腸癌両0.4/0.8左○右4回左3回左PPV+24.58歳男性ML両0.3/1.0○+25.35歳男性AIDS左0.6○左3回+26.59歳男性AML右m.m.右右3回右PPV.+27.59歳女性AMLPBSCT.14両1.0/1.0右3回左4回死去+(前医)28.63歳女性ATLL右0.05右右PPV29.49歳女性ATLLPBSCT.11両0.1/1.0右右3回左5回右PPV+30.38歳女性AIDS左0.07○左3回++31.55歳女性多発性筋炎左1.2○.+32.28歳男性AIDS両1.5/1.5左○右3回左3回右PC+33.46歳女性AMLBMT143両1.2/1.2○+34.35歳男性AIDS左1.2左3回++35.69歳男性肝細胞癌左0.3.36.67歳男性DM左0.5左○左6回.+*:移植からCMVR発症までの日数.AIDS:後天性免疫不全症候群,ALL:急性リンパ性白血病,MDS:骨髄異形成症候群,ML:悪性リンパ腫,AML:急性骨髄性白血病,ATLL:成人T細胞白血病/リンパ腫,CMMoL:慢性骨髄単球性白血病,DM:糖尿病,PBSCT:末梢血幹細胞移植,BMT:骨髄移植,sl:光覚弁,m.m.:手動弁,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術,PC:網膜光凝固術.702あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(92) 文献1)SongMK,KaravellasMP,MacdonaldJCetal:CharacterizationofreactivationofCMVretinitisinpatientswhohealedwithhighlyactiveantiretroviraltherapy.Retina20:151-155,20012)VrabecTR:PosteriorsegmentmanifestationsofHIV/AIDS.SurvOphthalmol49:131-157,20043)JabsDA,AhujaA,VanNattaMetal:Courseofcytomegalovirusretinitisintheeraofhighlyactiveantiretroviraltherapy:five-yearoutcomes.Opthalmology117:2152-2161,20104)高本光子:サイトメガロウイルスぶどう膜炎.臨眼66:111-117,20125)StudiesofOcularComplicationsofAIDSResearchGroup,AIDSClinicalTrialsGroup:Foscarnet-GanciclovirCytomegalovirusRetinitisTrial:5.Clinicalfeaturesofcytomegalovirusretinitisatdiagnosis.AmJOphthalmol124:131-157,19976)JabsDA:AIDSandophthalmology,2008.ArchOphthalmol126:1143-1146,20087)高橋健一郎,藤井清美,井上新ほか:健常人に発症したサイトメガロウイルス網膜炎の1例.臨眼52:615-617,19988)SandyJC,BloomPA,GrahamEMetal:RetinaldetachmentinAIDS-relatedcytomegalovirusretinitis.Eye9:277-281,19959)EidAJ,BakriSJ,KijpittayaritSetal:Clinicalfeaturesandoutcomesofcytomegalovirusretinitisaftertransplantation.TransplInfectDis10:13-18,200810)濱本亜裕美,建林美佐子,上平朝子ほか:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)患者のHAART導入前後の眼合併症.日眼会誌116:721-729,201211)北川真由美,永田洋一,藤野雄次郎ほか:後天性免疫不全性症候群患者のサイトメガロウイルス網膜炎に対する定期的眼科検査の有用性.日眼会誌105:31-36,200112)望月學,池田英子,吉村浩一ほか:AIDS患者のサイトメガロウイルス網膜炎に対する徐放性ガンシクロビル硝子体内挿入療法.日眼会誌102:515-521,199813)ThorneJE,HolbrookJT,JabsDAetal:EffectofcytomegalovirusretinitisontheriskofvisualacuitylossamongpatientswithAIDS.Ophthalmology114:591-598,200714)GoldbergDE,WangH,AzenSPetal:Longtermvisualoutcomeofpatientswithcytomegalovirusretinitistreatedwithhighlyactiveantiretroviraltherapy.BrJOphthalmol87:853-855,200315)MansorAM,LiHK:Cytomegalovirusopticneuritis:characteristics,therapyandsurvival.Ophthalmologica209:260-266,199516)XhaardA,RobinM,ScieuxCetal:Increasedincidenceofcytomegalovirusretinitisafterallogeneichematopoieticstemcelltransplantation.Transplantation83:80-83,200717)SongWK,MinYH,KimYRetal:Cytomegalovirusretinitisafterhematopoieticstemcelltransplantationwithalemtuzumab.Ophthalmology115:1766-1770,200818)EidAJ,BakriSJ,KijpittayaritSetal:Clinicalfeaturesandoutcomesofcytomegalovirusretinitisaftertransplantation.TransplInfectDis10:13-18,200819)WagleAM,BiswasJ,GopalLetal:Clinicalprofileandimmunologicalstatusofcytomegalovirusretinitisinorgantransplantrecipients.IndianJOphthalmol50:115-121,200220)HenderlyDE,JampolLM:Diagnosisandtreatmentofcytomegalovirusretinitis.JAcquirImmuneDeficSyndr4:6-10,1991***(93)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015703

見逃された眼内鉄片異物により,緑内障手術,網膜剝離手術を受けた1症例

2015年4月30日 木曜日

596あたらしい眼科Vol.5104,22,No.3(00)596(132)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(4):596.598,2015cはじめに眼内に飛入した鉄片異物は,鉄錆症や眼内炎を起こす可能性があり,発見されれば早急に摘出されるべきである.感染性眼内炎は失明に至る可能性があり,鉄錆症は,白内障,網膜色素変性,緑内障を起こし,予後不良である1).白内障手術,硝子体手術が進歩した現在では,視力良好の症例でも,視機能を低下させずに異物を摘出できる.しかし,眼内に異物があるにもかかわらず,自覚症状がなく長期間見逃された多くの報告がある2.7).また,白内障を発症し手術により発見されることや,網膜.離の治療のための硝子体手術中に発見されることもある8).鉄工所勤務中に鉄片が自覚なく眼内に飛入し,虹彩炎と緑内障を発症したが,見逃されたまま緑内障手術を受け,一度は安定したものの網膜.離を発症し,硝子体手術中に鉄片が発見された1症例を報告する.I症例患者:38歳,男性.〔別刷請求先〕田渕大策:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98藤田保健衛生大学眼科学教室Reprintrequests:DaisakuTabuchi,M.D,,1-98Dengakugakubo,Kutsukake-chou,ToyoakeCity,Aichi470-1192,JAPAN見逃された眼内鉄片異物により,緑内障手術,網膜.離手術を受けた1症例田渕大策水口忠谷川篤宏堀口正之藤田保健衛生大学眼科学教室ACasethatRequiredSurgeryforGlaucomaandRetinalDetachmentDuetoanOverlookedIntraocularIronForeignBodyDaisakuTabuchi,TadashiMizuguchi,AtsuhiroTanikawaandMasayukiHoriguchiDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine左眼網膜.離のため38歳の男性が当院に紹介された.患者は11カ月前に左眼線維柱帯切開術を受けていた.視力は右眼(1.0),左眼(0.01)であり,眼圧は右眼19mmHg,左眼16mmHgであった.核白内障と裂孔原性網膜.離を左眼に認めた.白内障,硝子体同時手術を行ったところ,手術中に鉄片異物(1.6×0.6mm)が発見され,強膜創より除去された.網膜.離は再発したが,硝子体手術で復位した.患者は,線維柱帯切除術以前にフライス加工に従事しており,白内障,緑内障,網膜.離は,硝子体手術中に発見された鉄片異物により起きたものであると考えられた.患者が異物の自覚がなかったことが診断を困難にしたが,職歴を含めた予診に注意を払う必要があった.Wereportthecaseofa38-year-oldmalepatientwhowasreferredtoourhospitalduetoretinaldetachmentinhislefteye.Hehadundergonetrabeculotomyinthatsameeye11-monthspriortopresentation.Uponexamina-tion,hisvisualacuitywas1.0ODand0.01OS.Nuclearcataractandrhegmatogenousretinaldetachmentwereobservedinhislefteye,andcombinedphacoemulsification,intraocularlensimplantation,andvitrectomywassub-sequentlyperformed.Duringsurgery,anintraocularironforeignbody(1.6×0.6mminsize)wasfound,andremovedfromthescleralincision.Retinaldetachmentrecurred1-monthlaterandwasreattachedbyasecondvit-rectomy.Thepatienthadengagedinmillingbeforethetrabeculotomywasperformed,andweconcludedthattheironforeignbodythatwefoundcausedthecataract,glaucoma,andretinaldetachmentinhislefteye.Hisunaware-nessoftheforeignbodyinhislefteyemadethediagnosisdifficult,andaddedcareviaamedicalhistoryinterview,includinghisprofessionalexperience,wouldhaveprovedbeneficial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):596.598,2015〕Keywords:眼内異物,緑内障,線維柱帯切開術,網膜.離,硝子体手術.intraocularironforeignbody,glauco-ma,trabeculotomy,retinaldetachment,vitrectomy.(00)596(132)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(4):596.598,2015cはじめに眼内に飛入した鉄片異物は,鉄錆症や眼内炎を起こす可能性があり,発見されれば早急に摘出されるべきである.感染性眼内炎は失明に至る可能性があり,鉄錆症は,白内障,網膜色素変性,緑内障を起こし,予後不良である1).白内障手術,硝子体手術が進歩した現在では,視力良好の症例でも,視機能を低下させずに異物を摘出できる.しかし,眼内に異物があるにもかかわらず,自覚症状がなく長期間見逃された多くの報告がある2.7).また,白内障を発症し手術により発見されることや,網膜.離の治療のための硝子体手術中に発見されることもある8).鉄工所勤務中に鉄片が自覚なく眼内に飛入し,虹彩炎と緑内障を発症したが,見逃されたまま緑内障手術を受け,一度は安定したものの網膜.離を発症し,硝子体手術中に鉄片が発見された1症例を報告する.I症例患者:38歳,男性.〔別刷請求先〕田渕大策:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98藤田保健衛生大学眼科学教室Reprintrequests:DaisakuTabuchi,M.D,,1-98Dengakugakubo,Kutsukake-chou,ToyoakeCity,Aichi470-1192,JAPAN見逃された眼内鉄片異物により,緑内障手術,網膜.離手術を受けた1症例田渕大策水口忠谷川篤宏堀口正之藤田保健衛生大学眼科学教室ACasethatRequiredSurgeryforGlaucomaandRetinalDetachmentDuetoanOverlookedIntraocularIronForeignBodyDaisakuTabuchi,TadashiMizuguchi,AtsuhiroTanikawaandMasayukiHoriguchiDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine左眼網膜.離のため38歳の男性が当院に紹介された.患者は11カ月前に左眼線維柱帯切開術を受けていた.視力は右眼(1.0),左眼(0.01)であり,眼圧は右眼19mmHg,左眼16mmHgであった.核白内障と裂孔原性網膜.離を左眼に認めた.白内障,硝子体同時手術を行ったところ,手術中に鉄片異物(1.6×0.6mm)が発見され,強膜創より除去された.網膜.離は再発したが,硝子体手術で復位した.患者は,線維柱帯切除術以前にフライス加工に従事しており,白内障,緑内障,網膜.離は,硝子体手術中に発見された鉄片異物により起きたものであると考えられた.患者が異物の自覚がなかったことが診断を困難にしたが,職歴を含めた予診に注意を払う必要があった.Wereportthecaseofa38-year-oldmalepatientwhowasreferredtoourhospitalduetoretinaldetachmentinhislefteye.Hehadundergonetrabeculotomyinthatsameeye11-monthspriortopresentation.Uponexamina-tion,hisvisualacuitywas1.0ODand0.01OS.Nuclearcataractandrhegmatogenousretinaldetachmentwereobservedinhislefteye,andcombinedphacoemulsification,intraocularlensimplantation,andvitrectomywassub-sequentlyperformed.Duringsurgery,anintraocularironforeignbody(1.6×0.6mminsize)wasfound,andremovedfromthescleralincision.Retinaldetachmentrecurred1-monthlaterandwasreattachedbyasecondvit-rectomy.Thepatienthadengagedinmillingbeforethetrabeculotomywasperformed,andweconcludedthattheironforeignbodythatwefoundcausedthecataract,glaucoma,andretinaldetachmentinhislefteye.Hisunaware-nessoftheforeignbodyinhislefteyemadethediagnosisdifficult,andaddedcareviaamedicalhistoryinterview,includinghisprofessionalexperience,wouldhaveprovedbeneficial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):596.598,2015〕Keywords:眼内異物,緑内障,線維柱帯切開術,網膜.離,硝子体手術.intraocularironforeignbody,glauco-ma,trabeculotomy,retinaldetachment,vitrectomy. 図1左眼初診時の前眼部写真核白内障を認める.現病歴:フライス加工に従事していたが,異物飛入などの自覚はなかった.2009年8月左眼の霧視のため前医を受診した.左眼に虹彩毛様体炎を認め,眼圧は40mmHgであった.眼圧がコントロールできないため,同年9月,左眼線維柱帯切開術が施行され,眼圧は正常化した.2010年5月突然の左眼視力低下のため近医受診し,左眼網膜.離を指摘され,同日当院へ紹介受診した.初診時所見:視力は右眼1.0(1.0×.0.25D(cyl.2.25DAx175°),左眼0.2(0.6×+0.50D(cyl.2.50DAx180°),眼圧は右眼19mmHg,左眼16mmHgで,左眼に核白内障(図1)と黄斑に及ぶ耳側裂孔原性網膜.離を認めた(図2).経過:2010年6月左眼に白内障硝子体同時手術を施行した.術中に耳側下方最周辺部の網膜上に被膜に被われない鉄片異物(1.6×0.6mm)を発見し,摘出した(図3).六フッ化硫黄(SF6)ガスを注入して手術終了した.1カ月後,再度網膜.離を起こしたため,硝子体手術を再施行した.術後,網膜は復位し,2年後左眼視力は0.2(0.6×+0.50D(cyl.2.50DAx180°)であり,再.離は認めていない.手術後の全視野刺激網膜電図(erectororetinogram:ERG)は正常であった.II考按眼内鉄片飛入の多くは鉄の加工などによる.フライス加工に従事していた本症例は眼内に異物が入った自覚はなかった.しかし,緑内障手術から硝子体手術まで仕事についておらず,異物は緑内障手術の前に侵入したものと考えられた.本症例左眼の白内障,緑内障,網膜.離はすべてフライス加工時に眼内に侵入した鉄片異物によると考えられた.しかし,本症例はまったく自覚症状がなく,前医も筆者らも鉄片を疑うことはなかった.前医では虹彩炎による眼圧上昇と診断され,緑内障手術が行われた.鉄片の位置は毛様体(133)図2左眼初診時の眼底写真黄斑に及ぶ網膜.離を認める.図3術中写真20G灌流ポートに隣接している金属片を認める.OFFISS40D前置レンズを使用している.扁平部であり,通常の眼底検査では発見が困難であったと考えられた.異物飛入の自覚や疑いを訴えて眼科を受診した場合には,コンピュータ断層撮影(computedtomography:CT)やX線写真撮影などが行われ,鉄片異物の診断は比較的容易である9).しかし,まったく異物の自覚症状がなく緑内障などの前眼部疾患で受診した場合には,異物の発見は著しく困難となると思われる.この症例での診断のヒントは職歴のみであった.この症例が網膜.離を発症しなければ,おそらく鉄片異物は発見できなかったと思われる.鉄片が長期間眼内に無症状で滞留した報告はわが国にも数多くあり,滞留期間は1.35年に及ぶ.Duke-Elderによれば,鉄片異物が眼内に存在したにもかかわらず鉄錆症とならない非典型症例には6つの経過がありうるという.1)鉄の含有量が少ないか,鉄片が組織で被われた場合には無症状であたらしい眼科Vol.32,No.4,2015597 ある.2)一度組織に被われ無症状で経過したものの,異物が移動したため著しい炎症を起こし,時に眼球摘出に至る.3)異物が移動していないにもかかわらず,著しい炎症を起こし前房蓄膿,眼球癆に至る.4)異物が自然排出される.5)鉄片異物が小さな場合には,自然吸収されることがある.6)交感性眼炎を起こすことがある10).本症例では,異物侵入より時間は経過しているものの,組織に被われない鉄片異物であり,すでに緑内障を発症していた.放置すればさらに大きな合併症を起こす可能性があった.網膜.離を起こし鉄片が摘出されたことは,この症例には不幸中の幸いであったといえる.1988年の岸本らの報告によれば,緑内障を発症した眼内鉄片異物症例の手術予後は不良であり,網膜.離の手術予後も芳しくないが1),本症例では前医の線維柱帯切開術で眼圧はよくコントロールされ,網膜.離も治癒している.2000年の大内らにより報告された鉄片異物による網膜.離の3症例も治癒している8).これは手術技術の進歩であると考えられる.III結語フライス加工時に眼内に鉄片が飛入したにもかかわらず見逃され,緑内障手術を受け,後に網膜.離を発症し,硝子体手術により異物が発見され摘出された1症例を報告した.今回の症例により,職歴を含めた予診の重要性を再認識した.文献1)岸本伸子,山岸和矢,大熊紘:見逃されていた眼内鉄片異物による眼球鉄症の7例.眼紀39:2004-2011,19882)佐々木勇二,松浦啓之,中西祥治ほか:長年月経過している眼内金属片異物の1例.臨眼82:2461-2464,19883)並木真理,竹内晴子,山本節:1年間放置された眼内異物の1例.眼臨82:2346-2349,19884)尾上和子,宮崎茂雄,尾上晋吾ほか:8年間無症状であった眼内鉄片異物の1例.眼紀45:467-470,19945)来栖昭博,藤原りつ子,長野千香子ほか:28年間無症状であった眼内鉄片異物の症例.臨眼51:1169-1172,19976)青木一浩,渡辺恵美子,河野眞一郎:長期滞留眼内鉄片異物の2例.眼臨94:939-941,20007)及川哲平,高橋嘉晴,河合憲司:受傷1年以上経過後に摘出した7mmの眼内鉄片異物の1例.臨眼63:1495-1497,20098)大内雅之,池田恒彦:硝子体手術中に眼内異物が発見された網膜.離の3例.あたらしい眼科17:1151-1154,20009)上野山典子:眼内異物.眼科MOOK,No5,p100-109,金原出版,197810)DukeElder:SystemofOphthalmology,14:477,HenryKimpton,1972***(134)

未治療の糖尿病患者に発症し,網膜剝離に至ったサイトメガロウイルス網膜炎の1例

2014年5月31日 土曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(5):742.746,2014c未治療の糖尿病患者に発症し,網膜.離に至ったサイトメガロウイルス網膜炎の1例藤井朋子*1小林崇俊*1高井七重*1丸山耕一*1,2多田玲*1,3竹田清子*1庄田裕美*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2川添丸山眼科*3多田眼科ACaseofCytomegalovirusRetinitiswithRetinalDetachmentAnUntreatedDiabeticPatientTomokoFujii1),TakatoshiKobayashi1),NanaeTakai1),KouichiMaruyama1,2),ReiTada1,3),SayakoTakeda1),HiromiShouda1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)KawazoeMaruyamaEyeClinic,3)TadaEyeClinic目的:未治療の糖尿病患者にサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎が発症し,網膜.離に至った1例を報告する.症例:45歳,男性.右眼の霧視を主訴に近医受診.その後,精査加療目的にて大阪医科大学附属病院眼科を受診した.初診時,矯正視力は右眼(1.0),左眼(1.2).右眼に前房内炎症を認め,網膜出血と網膜動脈の白鞘化,上耳側の網膜周辺部に顆粒状白色病変を認めた.糖尿病はあるものの,CD4陽性Tリンパ球は473/μlと免疫能は正常と考えられた.前房水からCMV-DNAが検出され,ガンシクロビルの点滴静注を開始.しかし,硝子体出血を生じ,網膜.離に至った.硝子体手術を施行して網膜は復位し,現在矯正視力は(1.0)である.結論:健常人におけるCMV網膜炎の発症がまれに報告されており,糖尿病を基礎疾患に持つ症例の報告も散見される.本症例のように重篤な症例もあり,十分な治療と経過観察が必要である.Purpose:Wedescribeararecaseofcytomegalovirus(CMV)retinitisinanuntreateddiabeticpatient.CaseReport:A45-year-oldmalewasreferredtoourhospitalafterpresentingatanothereyeclinicwithcomplaintofblurredvisioninhisrighteye.Initialexaminationshowedbest-correctedvisualacuity(BCVA)of1.0ODand1.2OS.Slit-lampexaminationdisclosedaqueouscellsinhisrighteye;funduscopicexaminationrevealedretinalhemorrhage,retinalarterysheathingandgranularwhiteretinallesionattheinferotemporalmid-peripheryinhisrighteye.Hehaddiabetesmellitus,butweevaluatedhimasanalmostsystemicallyhealthyindividual,becausehisCD4-positivelymphocytecountwas473/μl.AfterpolymerasechainreactionanalysisofanaqueoustaprevealedCMV-DNA,hewastreatedwithganciclovir,butvitreoushemorrhageandretinaldetachmentoccurred.Aftervitreoussurgery,hisBCVAwas1.0OD.Conclusion:SomehealthyadultswithCMVretinitishavediabetesmellitus;carefulobservationandtreatmentarenecessaryinespeciallyseverecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):742.746,2014〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,ガンシクロビル,硝子体出血,網膜.離.cytomegalovirusretinitis,ganciclovir,vitreoushemorrhage,retinaldetachment.はじめにサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)はbヘルペスウイルスの一種で,感染すると生涯,潜伏感染状態となり,日本人では成人までに95%以上が既感染になるといわれている1).CMVは,後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS),あるいは悪性腫瘍,臓器移植後などの,高度の免疫不全状態になると,ウイルスの再活性化が生じ種々の臓器に感染症を発症する.今回,筆者らは,未治療の糖尿病以外に背景因子のない患者がCMV網膜炎を発症し,硝子体出血を生じたのちに,急速に網膜.〔別刷請求先〕藤井朋子:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TomokoFujii,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki-shi,Osaka569-8686,JAPAN742742742あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(116)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY 離に至った1例を経験したので報告する.I症例患者:45歳,男性.主訴:右眼の霧視.既往歴:糖尿病(未治療).家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成24年8月,右眼の霧視を主訴に近医眼科を受診.自覚症状が悪化し,9月に他院眼科を受診して網膜血管炎を指摘され,9月14日精査加療目的にて大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼1.0(矯正不能),左眼0.8(1.2×cyl.0.75DAx80°),眼圧は右眼15mmHg,左眼13mmHgであった.右眼前眼部には微細な角膜後面沈着物と前房内に1+の炎症細胞がみられた.右眼眼底に網膜血管に沿った網膜出血と,網膜動脈の一部白鞘化,さらに上耳側の網膜周辺部に顆粒状の白色病変を認めたが,硝子体混濁はほとんどなかった(図1).左眼は前眼部,眼底ともに明らかな病変はなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceneangiography:FA)検査では,血管炎による充盈遅延と蛍光漏出を認めた(図2).FA撮影途中に顔面,体幹に発疹が出現したためただちに撮影を中断し,以降はFA検査の実施は危険性が高いと考えて見合わせた.血液検査所見:赤血球461×104/μl,白血球8,630/μl,血小板297×103/μl,ヘモグロビン15.1g/dl,CRP(C-reactiveprotein)0.19mg/dl,血沈8mm/hrと正常.生化学的検査,肝機能,腎機能異常なし.血糖値146mg/dl.ヘモグロビンA1C(HbA1C)9.5%(NGSP).ACE(アンジオテンシン変換酵素)6.9U/l(基準値8.3.21.4),CMVIgM抗体0.41(基準値0.80未満),CMVIgG抗体5.9(基準値2.0未満)であった.ツベルクリン反応は12mm×16mm.CMVpp65抗原(C7HRP)は陰性,HIV(humanimmunodeficiencyvirus)抗体陰性,CD4陽性Tリンパ球は473/μl(基準値300/μl以上)であった.経過:前眼部,眼底所見からウイルス性網膜炎を疑い,9月16日に右眼の前房水を採取し,ウイルスDNAを調べるためにpolymerasechainreaction(PCR)検査に提出した.広範囲の網膜血管炎と上耳側の顆粒状白色病変から,当初は急性網膜壊死の可能性が高いと考え,9月17日より入院にてアシクロビルの点滴静注とステロイド薬の内服を開始した.しかし,9月21日に上耳側の白色病変が拡大.同日に前房水のPCR検査の結果が判明し,CMV-DNAが検出された.同時に検査した単純ヘルペスウイルスと水痘・帯状疱疹ウイルスのDNAは検出されなかった.ただちにステロイド薬の内服を中止し,ガンシクロビル(GCV)の点滴静注を700mg/dayより開始した.9月28日,上耳側の白色病変は縮小しつつあったが,視神経乳頭上に出血と,下方周辺部に硝子体出血を認めた(図3).検眼鏡的に明らかな新生血管がなかったため,そのまま様子をみることにし,上耳側の白色病変が徐々に縮小してきたため,10月13日にGCVの投与量を半分に減量した(350mg/day).その後10月26日に上耳側の白色病変がほぼ消失したため,GCVを中止してバルガンシクロビルの内服(900mg/day)に変更,10月29日に退院となった.なお,糖尿病については入院中に当院の糖尿病内科を受診し,治療が開始された.退院後,11月2日の再診時には上耳側の白色病変は消失しており,硝子体出血は薄く残存するものの右眼の矯正視力は(1.0)であった.ところが11月14日に再度硝子体出血が生じ,経過とともに徐々に増悪し,次第に眼底の透見が困難となった.平成25年1月23日,超音波Bモード検査にて図1初診時右眼眼底写真網膜血管に沿った網膜出血と,網膜動脈の一部白鞘化,上耳側の網膜周辺部に顆粒状の白色病変を認める.図2当科初診時の右眼FA写真(造影開始4分25秒)血管炎による充盈遅延と蛍光漏出を認める.(117)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014743 図3硝子体出血発症時の右眼眼底写真上耳側の白色顆粒状病変は縮小しつつあったが,視神経乳頭上に出血と,下方周辺部に硝子体出血を認めた.図5右眼の術後眼底写真網膜は復位している.網膜.離を疑う所見を認めたため,1月29日に入院のうえ,経毛様体扁平部水晶体切除術および硝子体切除術を施行した.術中,硝子体出血を除去するとその下に丈の低い網膜.離を認め,上耳側の顆粒状白色病変であった箇所に壊死性の網膜裂孔を確認した.また視神経乳頭の周囲から鼻側にかけて線維血管性増殖膜を認め,硝子体鑷子で.離除去した(図4).その後,気圧伸展網膜復位術,裂孔周囲へのレーザー光凝固を行い,周辺部輪状締結術を併用のうえ20%SF6(六フッ化硫黄)によるガスタンポナーデを施行し,手術は終了した.744あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014図4硝子体手術の術中写真硝子体鑷子で線維血管増殖膜を切除している.術後,網膜は復位し,炎症の再燃もなく良好に経過したため,4月26日に眼内レンズ二次挿入術を施行した.平成25年7月現在,右眼の矯正視力は(1.0)となっている(図5).II考按CMV網膜炎は通常,免疫抑制状態の患者に起こる疾患であり,今回のように糖尿病以外に背景因子のない患者に生じた報告はまれである.本症例では,片眼の眼底に動脈炎が主体の網膜血管炎と,特徴的な白色顆粒状の網膜病変がみられたこと,前房水のPCR検査からCMV-DNAが検出されたこと,GCV投与により網膜病変が縮小したこと,などからCMV網膜炎と診断した.また,本症例においては,未治療の糖尿病を認めたものの,免疫能の指標であるCD4陽性Tリンパ球数の著明な低下はなく,その他に明らかな免疫抑制状態をきたす全身疾患や感染症もなく,免疫能は正常であると考えた.免疫能正常者に生じたとするCMV網膜炎の過去の報告では,基礎疾患のない症例も散見されるが2.5),糖尿病を基礎疾患に持つ症例が複数報告されており5.7),糖尿病は危険因子の一つであると考える.既報では糖尿病の指標であるHbA1Cが5%台から9%台のものまでさまざまであるが,一般的に糖尿病は易感染性ということは以前から広く知られている.川上8)によれば,高血糖は多核白血球の貪食能や殺菌能を抑制し,細胞性免疫を抑制すると述べられており,また,きわめてまれな感染症とされる気腫性胆.炎やムコール症など,糖尿病に特有の感染症の存在も指摘されている.したがって,糖尿病患者における原因不明のぶどう膜炎を診察する場合,たとえ免疫能が正常であったとしても,CMV網膜炎も重要な鑑別診断の一つとして考慮すべきではないかと考える.さらに,Radwanらは,免疫能正常者に生じた(118) CMV網膜炎の海外の報告をまとめ,12例中6例に糖尿病をには,未治療の糖尿病に罹患していたという点以外にも,何併発していること,4例に網膜静脈閉塞症を併発しているこか別の要因があったのではないかと考えている.確かにと,免疫能正常者に発症したCMV感染症の約3分の1の患CD4陽性Tリンパ球数は,経過中に低下することなく一貫者に血栓症が見つかったこと,などの特徴から,糖尿病だけして正常範囲内であったが,CD4陽性Tリンパ球数はいくではなく,高血圧や易凝血性も危険因子であると述べていつかの免疫能の指標のなかの一つであって14),筆者らが行っる5).本症例では,高血圧や易凝血性は認めていないが,た検査では測定できていない免疫能の低下が,CMV網膜炎CMV感染と動脈硬化の関連は以前から報告されており9),の罹患当初に存在したのかもしれない.そのため,本症例の今後注意していく必要がある.ようにIRUとも考えられる病態が生じ,45歳という比較的つぎに,本症例が硝子体出血を繰り返し生じた原因につい若年で眼内の増殖機転が旺盛であったことも相まって,硝子ては,術中に視神経乳頭付近に線維血管性増殖膜を認めた所体出血や網膜.離に至ったのではないかと推測している.実見から,視神経乳頭付近に生じた新生血管が原因となった可際,Bogieら10)の報告のなかにも,AIDSを併発した症例で能性が高いと考えている.CMV網膜炎に硝子体出血を生じIRUと考えられる経過をたどった1例があり,アーケードた過去の報告では,本症例のように硝子体手術を施行した症血管の下方に新生血管を生じている.例も散見される.二宮ら2)とBogieら10)は,視神経乳頭上新最後に,本症例は初診時のFA撮影の途中に発疹を生じた生血管を含む増殖膜が原因となった硝子体出血に対し,硝子ことから,今後再検査をするとアレルギー反応が生じる危険体手術を施行した症例を報告している.両者とも,術前と術性が高いと考え,その後はFA撮影を行っておらず,無血管中にレーザー光凝固を行うも,再手術を要しているが,二宮野の詳細を把握できていない状況にある.そのため,今後再らは,新生血管は消退したとしてレーザー光凝固の有用性を増殖を生じる可能性が十分にあり,慎重な経過観察が必要で述べており,Bogieらは血管閉塞の背景としてHIVによるあるとともに,再増殖の際は橋本ら11)のようにレーザー光微小血管障害の関与を示唆している.また,橋本らは,血友凝固を含めた対応を検討する必要があると考えている.病を伴うHIV感染を基礎疾患とするCMV網膜炎の1例について報告し,片眼が新生血管からの硝子体出血によって予後不良となるも,僚眼ではレーザー光凝固を行うことによっ利益相反:利益相反公表基準に該当なして新生血管を減少させ,経過中に硝子体出血を予防できたと述べている11).筆者らの症例では無血管野の範囲が不明であ文献り,術後の炎症も懸念されたことから,硝子体手術の術中に1)安岡彰:サイトメガロウィルス感染症.化学療法の領域は,裂孔周囲以外にレーザー光凝固は施行しなかった.26:1997-1999,2010他に,特に海外では,GCVの毛様体扁平部へのインプラ2)二宮久子,小林康彦,田中稔ほか:健康な青年にみられント挿入症例に硝子体出血が生じたとする報告もあるが12),たサイトメガロウィルス網膜炎の1例.あたらしい眼科現在はわが国では同様の治療はほとんど行われていない.さ10:2101-2104,19933)北善幸,藤野雄次郎,石田政弘ほか:健常人に発症したらに硝子体出血の別の機序として,GCV投与の副作用で血著明な高眼圧と前眼部炎症を伴ったサイトメガロウイルス小板減少となり,その結果硝子体出血が生じたとする報告も網膜炎の1例.あたらしい眼科22:845-849,2005あるが13),今回,GCVに伴う骨髄抑制などの副作用は生じ4)菅原道孝,本田明子,井上賢治ほか:免疫正常者に発症しなかった.たサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科28:702-705,2011一方,本症例のように,十分にGCVを投与しているにも5)RadwanA,MetzingerJL,HinkleDMetal:Cytomegaloかかわらず,網膜炎が徐々に増悪した経過となった背景にvirusretinitisinimmunocompetentpatients:casereportsは,菅原ら4)や吉永ら6)の報告に指摘があるように,免疫回andliteraturereview.OculImmunolInflamm21:324復ぶどう膜炎(immunnerecoveryuveitis:IRU)のような328,20136)吉永和歌子,水島由佳,あべ松徳子ほか:免疫正常者に発反応が生じた可能性があるのではないかと考えている.IRU症したサイトメガロウイルス網膜炎.日眼会誌112:684はHIVに罹患後AIDSを発症した患者が,HAART(highly687,2008activeantiretroviraltherapy)療法によって免疫能が回復す7)TakayamaK,OgawaM,MochizukiMetal:Cytomegaloることに伴い炎症が惹起される,ということが本来の発症様virusretinitisinapatientwithproliferativediabetesretinopathy.OculImmunolInflamm21:225-226,2013式であり,本症例は該当しないのかもしれない.しかし,今8)川上正舒:糖尿病と感染症.化学療法の領域28:1518回のように健康であった成人男性が,CMV網膜炎を発症し1523,2012たことに加え,十分量のGCVを投与しているにもかかわら9)HendrixMG,SalimansMM,vanBovenCPetal:Highず徐々に増悪する,というきわめてまれな経過を辿った背景prevalenceoflatentlypresentcytomegalovirusinarterial(119)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014745 wallsofpatientssufferingfromgradeIIIatherosclerosis.AmJPathol136:23-28,199010)BogieGJ,NandaSK:Neovascularizationassociatedwithcytomegalovirusretinitis.Retina21:85-87,200111)橋本知余美,松浦豊明,湯川英一ほか:ガンシクロビルとレーザー光凝固を併用して有効であったサイトメガロウイルス網膜炎.臨眼50:581-583,199612)SrivastavaSK,MartinDF,MellowSDetal:Pathlogicalfindingsineyeswiththeganciclovirimplant.Ophthalmology112:780-786,200513)RobinsonMR,TeitelbaumC,Taylor-FindlayC:Thrombocytopeniaandvitreoushemorrhagecomplicatingganciclovirtreatment.AmJOphthalmol107:560-561,198914)板東浩:免疫機能・生活習慣.アンチ・エイジング医学2:48-54,2006***746あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(120)