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後天性免疫不全症候群以外の患者に発症したサイトメガロウィルス網膜炎5例の臨床的検討

2020年5月31日 日曜日

《第56回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科37(5):609.614,2020c後天性免疫不全症候群以外の患者に発症したサイトメガロウィルス網膜炎5例の臨床的検討島崎晴菜高山圭菅岡晋平竹内大防衛医科大学校眼科学教室CClinicalAnalysisofFiveCasesofCytomegalovirusRetinitisComplicatedwithImmunosuppressiveDiseaseExceptAcquiredImmunode.ciencySyndromeHarunaShimazaki,KeiTakayama,ShinpeiSugaokaandMasaruTakeuchiCDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:後天性免疫不全症候群(AIDS)以外の原疾患を有するサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の臨床所見と特徴を検討した.対象および方法:2010年C4月.2019年C2月に防衛医科大学校病院眼科を受診し,AIDS以外の原疾患がありCCMV網膜炎と診断したC5例C8眼(全例男性)の発症時年齢,原因疾患,CMV網膜炎のタイプ,白血球数,好中球数,発症時と寛解期の矯正視力,視神経乳頭炎の有無,網膜.離の有無,硝子体手術の実施,転帰について後ろ向きに調査した.結果:発症時平均年齢はC59.8C±10.1歳,平均観察期間はC20.9C±32.2カ月,4例が悪性リンパ腫でC1例が糖尿病だった.平均視力は炎症寛解後も改善せず,視力予後が良好だったのはC1例C2眼のみで,2例C3眼はCCMV網膜炎が再発し,2例は原疾患(ともに悪性リンパ腫)により死亡した.結論:AIDS以外の免疫能低下状態の患者に生じたCCMV網膜炎は視力予後が不良である可能性が示唆された.CPurpose:Toevaluatetheclinical.ndingsandcharacteristicsofcytomegalovirus(CMV)retinitiscomplicatedwithbasicimmunosuppressivediseaseexceptacquiredimmunode.ciencysyndrome(AIDS)C.CasesandMethods:Thisretrospectivereviewstudyinvolved8eyesof5consecutivemalepatients(meanage:59.8C±10.1years)diag-nosedwithCMVretinitisbetweenApril2010andFebruary2019attheNationalDefenseMedicalCollegeHospital.Ageatonset,sex,basicdisease,typeofCMVretinitis,visualacuity(VA)intheacutephaseandremissionphase,presenceofretinaldetachmentandopticdiscedema,implementationofvitreoussurgery,andprognosiswereeval-uated.CResults:MeanCLogMARCVACwasC0.64±1.03CinCtheCacuteCphaseCandC0.83±1.38CinCtheCremissionCphase.CRelapseoccurredin3eyesof2cases,andVAimprovedinonly2eyesof1case.Twopatientsdiedduetobasicdisease.CConclusion:CMVCretinitisCcomplicatedCwithCbasicCimmunosuppressiveCdisease,CexceptCAIDS,CisCaCpoorCprognosisofVAandlife.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(5):609.614,C2020〕Keywords:網膜炎,サイトメガロウイルス,悪性リンパ腫.retinitis,cytomegalovirus,malignantlymphoma.はじめにサイトメガロウィルス(cytomegalovirus:CMV)は日和見感染をきたすウイルスとして知られ,CMVの再活性化により免疫抑制状態の患者でCCMV網膜炎を発症させることがある1).CMV網膜炎は前眼部炎症や硝子体炎などの炎症所見が乏しいが,眼底病変は特徴的な所見があり,臨床的には周辺部顆粒型,後極部劇症型,樹氷状血管炎型のC3病型に分類される.周辺部顆粒型は網膜周辺部に出血をほとんど伴わず,白色顆粒状の病変が扇形に集積する.病巣は次第に癒合・拡大しながら進行し,活動性病巣の周辺には白色の顆粒状病変が散在するのが特徴であり,進行はC3病変のなかでは一番緩徐である.後極部劇症型は後極部の血管に沿って網膜出血と浮腫を伴う黄白色滲出斑が出現し,病巣部の網膜は壊死しており出血を伴い速やかに進行し,黄斑浮腫や視神経へ〔別刷請求先〕高山圭:〒C359-8513埼玉県所沢市並木C3-2防衛医科大学校眼科医局Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3-2Namiki,Tokorozawa,Saitama359-8513,JAPANCの炎症進展により急激な視力低下が起きる.樹氷状血管炎型は血管壁の顕著な白鞘化と閉塞性血管炎をきたす2).CMV網膜炎は後天性免疫不全症候群(acquiredimmuno-de.ciencysyndrome:AIDS)患者に発症することが多いが,化学療法中の血液疾患の患者,コントロール不良の糖尿病患者にも発症する3).近年,医療の進歩・社会の超高齢化・糖尿病患者の増加などによりCAIDS以外の患者におけるCCMV網膜炎の発症が増加傾向と報告されているが4,5),それらの眼底所見や視力予後の報告は少ない.今回,AIDS以外の原疾患を有する患者に発症したCCMV網膜炎の臨床所見や予後を比較し,その特徴について検討した.CI対象および方法2010年C4月.2019年C2月に防衛医科大学校病院眼科(以下,当科)を受診し,CMV網膜炎と診断された症例の診療録を後ろ向きに調べた.CMV網膜炎の診断は既報と同様に,採血検査によるCCMVIgG,CMVIgM,特徴的な眼底所見,前房水か硝子体液からのCpolymeraseCchainreaction(PCR)testによるCCMVDNAの検出をもって確定診断とした.3病型(周辺部顆粒型,後極部劇症型,樹氷状血管炎型)の分類と病変部位(Zone1:視神経乳頭周囲C1,500Cμmまたは中心窩周囲C3,000Cμm,Zone2:Zone1の外側から赤道部までの領域,Zone3:赤道部から鋸状縁までの領域)の分類および視神経炎の有無についてはぶどう膜炎専門医C2名(竹内,高山)がそれぞれ検眼鏡的所見より判断した.CMV網膜炎と診断した後,入院しガンシクロビルの経静脈投与による治療を開始し,必要と判断した際には硝子体手術を施行した.炎症が寛解したのち,バルガンシクロビルの内服に切り替えて退院,外来で経過観察した.発症時年齢,性別,原疾患,白血球数,好中球数,CMV網膜炎の病型と病変部位,発症時と寛解期の矯正視力(統計処理のためClogMARに変換した),視神経乳頭炎の有無,網膜.離の有無,硝子体手術の有無,転帰を調べた.〔症例1〕67歳,男性.左眼に霧視が出現し近医を受診したところ,左眼に網膜浮腫と周辺部血管炎があり当科に紹介となった.既往歴として,Cdi.useClargeCBCcelllymphoma(DLBCL)と診断されて当院血液内科で化学療法中だった.初診時,矯正視力は右眼C1.2・左眼C0.9,眼圧は右眼C12.0CmmHg・左眼C10.0CmmHg,左眼は前房内に炎症細胞の浸潤,両眼に軽度の白内障,星状硝子体症,眼底は下方の網膜血管炎とその周囲に網膜浮腫と点状出血があり,周辺部に顆粒状の小滲出斑があった(図1a).同日施行した光干渉断層撮影(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)検査で黄斑部網膜に浮腫があった(図1b).血液検査では可溶性CIL-2レセプターがC735CU/mlと高値であり,IgGC277Cmg/dl,CIgAC13Cmg/dl,CIgM4Cmg/dlと低下し,白血球数はC4,300/ul(好中球数C2,021/ul,リンパ球C1,785/ul,好塩基球C494/ul)と低下していた.CMV抗体(CF法)は陰性だった.眼底所見およびCDLBCLに対する化学療法中であることからCCMV網膜炎・周辺部顆粒型と診断し,ガンシクロビル点滴C600Cmg/日を開始した.治療開始後,左眼矯正視力は初診日をCDay0としてCDay13にC1.0と改善し,眼内の炎症が寛解したため点滴を終了し,バルガンシクロビル塩酸塩C1,800mg/日の内服治療に切り替えた.Day17には左眼矯正視力1.2,中心窩下方の網膜下浮腫と視細胞内節/外節ラインの欠損は残存するが(図1c),白色病変は縮小して中心部の出血が減少した(図1d).Day53には左眼矯正視力はC1.5,眼底の白色病変は消失し血管炎も消炎したため内服加療を終了した.しかしながら,Day96に左眼歪視が出現して矯正視力はC0.3に低下し,左眼の黄斑部下方に白色病変と周辺部耳側に点状出血が再度出現した.CMV網膜炎の再発と診断し,点滴加療・内服加療を再開した.Day133にて左眼の炎症は寛解したが矯正視力はC0.5だった(図1e,f).〔症例2〕76歳,男性.近医眼科で増殖糖尿病網膜症にて経過観察をしていたが,糖尿病はCHbA1cがC9.11%と管理不良だった.左眼視力低下で近医を受診したところ,左眼の高眼圧と前房内炎症があり当科に紹介となった.初診時,矯正視力は右眼C1.2・左眼指数弁,眼圧は右眼C14.0CmmHg・左眼C36.0CmmHg,左眼は前房内の炎症細胞浸潤と虹彩および隅角に新生血管があり,眼底は硝子体出血のため透見不能だった.血液検査ではCHbA1c9.6%,血糖C411Cmg/dlと高値であり,白血球数は8,500/ul(好中球数C5,049/ul,リンパ球C2,839/ul,好塩基球612/ul)だった.ベバシズマブC0.05Cmlを術前に硝子体内投与して硝子体手術を施行したが,黄斑部に黄白色滲出斑と周辺部の点状出血があった(図2).また,術中採取した硝子体検体からCCMV-DNAが検出され(4.37C×104copy),眼底所見と合わせてCCMV網膜炎・後極部劇症型と診断した.初診日をCDay0としてCDay8よりガンシクロビル点滴C600Cmg/日を開始したところ網膜血管炎とフィブリンが改善し,Day41にバルガンシクロビル塩酸塩C900Cmg/日内服治療に切り替えてCDay46に治療終了とした.Day100に右眼の歪視が出現し,右眼眼底に網膜血管の白線化と黄斑部耳側の黄白色病変があった(図3).右眼の前房水からもCPCRにてCCMV-DNAが検出(4.20C×104copy)されたため,右眼にもCCMV網膜炎・後極部劇症型が発症したと診断した.バルガンシクロビル塩酸塩の内服加療で炎症が寛解し,網膜病変が消失したので内服加療を終了して経過観察とした.しかし,Day284に右眼に再度炎症が出現したため内服加療を再開したが,病変周囲の網膜色調が悪化して網膜.離が出現したため,Day317に右硝子体手術・網膜復位術を施行した.経過中も血糖図1症例1の左眼の眼底所見と光干渉断層計(OCT)所見初診時,左眼底に血管炎および周囲の網膜浮腫と点状出血,および周辺部に顆粒状の小滲出斑,星状硝子体症があり(Ca),OCTで黄斑部に網膜浮腫があった(Cb).Day17にて,白色病変中心および周辺部に認めていた出血が改善し病変も縮小した(Cc).OCTでは視神経細胞内節/外節ラインの障害は残存するものの,黄斑部の網膜浮腫は改善した(Cd).最終受診時(Day133),血管炎は寛解し点状出血が消失,黄斑部網膜浮腫は消失した(Ce)が視神経細胞内節/外節ラインは欠損したままであった(Cf).管理は9.11%と管理不良のままだった.あった.CMV抗原陽性がC5例中C2例,CMV抗体測定は検CII結果査を実施したのはC5例中C2例であり,IgG陽性がC1例,IgM陽性がC1例であった(表2).5例の発症時平均年齢はC59.8C±10.1歳,全例男性で平均経CMV網膜炎の病型は後極部劇症型がC6眼,周辺部顆粒型過観察期間はC20.9C±32.2カ月だった.原疾患は化学療法中が2眼だった.病変部位はZone1が3眼,Zone2が3眼,の悪性リンパ腫C4例,コントロール不良の糖尿病C1例であっCZone3がC2眼だった.視神経乳頭炎は後極部劇症型の病巣た.平均白血球数はC4,460C±2,399/ul,平均好中球数はC2,532部位がCZone1のC1例C1眼を除いたC5例C7眼で生じており,C±1,390/ul,平均リンパ球数はC1,832C±1,171/ulだった(表網膜.離は後極部劇症型の病巣部位がCZone3だったC1例C1C1).眼だった(表3).血液検査結果はCCD4Tリンパ球を測定したのはC5例中C3寛解期に視力が改善したのはC2例C3眼のみであり,視力が例であり,そのうちリンパ球数まで測定したのはC1例のみで不変だったのはC2例C2眼,悪化した症例はC3例C3眼だった.図2症例2の左眼の眼底写真図3症例2の右眼の眼底写真黄斑部に黄白色滲出斑と周辺部の点状出血があった.網膜血管の白線化と黄斑部耳側に黄白色病変があった表1各症例の年齢・性別・経過観察期間・原疾患および免疫状態症例年齢(歳)性別経過観察期間(月)原疾患白血球数(/uCl)好中球数(/uCl)リンパ球数(/uCl)C1C75男C5マントル細胞リンパ腫C4,400C2,700C1,800C2C76男C36糖尿病C8,500C5,000C3,600C3C50男C84悪性リンパ腫C1,800C930C580C4C67男C11濾胞性リンパ腫C2,300C1,700C2,600C5C57男C3濾胞性リンパ腫C5,300C2,200C580表2各症例の血液検査および前房水PCR検査結果症例CD4T細胞(%/ul)CMV抗原CCMVIgGCCMVIgG前房水中のCCMV-DNAPCR結果1C7.5/.陽性C.C.陽性(左C.右C2.91C×106)C2C22.4/.陰性陰性陽性陽性(左C4.27C×104右C4.20C×104)C3C./.陰性C.C.陰性C4C5.9/120陰性C.C.C.C5C./.陽性陽性陰性C.C表3各眼の病型・病変部位と所見・小数視力症例病眼病型病変部位視神経乳頭炎網膜.離発症時視力寛解期視力1右後極部劇症型CZone3有有C0.1C0.2左後極部劇症型CZone2有無C0.4C0.8C2右後極部劇症型CZone2有有C0.9C0.05左後極部劇症型CZone1有無指数弁光覚弁なしC3右後極部劇症型CZone1無無C0.5C1.2左後極部劇症型CZone2有無C1.0C1.0C4右周辺部顆粒型CZone1有無C0.9C0.2C5左周辺部顆粒型CZone3有無C0.5C0.5C表4増悪時・寛解時の平均logMAR全体CZone1CZone2CZone3発症時C0.64±1.03C0.50±0.96C0.15±0.18C0.65±0.35寛解時C0.83±1.38C0.76±1.55C0.47±0.59C0.50±0.20表5硝子体手術の有無と転帰症例病眼硝子体手術転帰1右実施せずDay190原疾患で死亡左実施せずC2右再発後実施CMV網膜炎が再発し,急性網膜壊死に近い状態となったため硝子体手術を施行した左実施せず炎症は寛解するが視力改善せずC3右実施せず経過良好左実施せず経過良好C4右実施せずDay96CMV網膜炎が再発したC5左実施せずDay261原疾患で死亡した発症時平均ClogMARはC0.64C±1.03,寛解期平均ClogMARでC0.83±1.38と有意な変化はなかった.病型別にみると,後極部型の発症時平均ClogMARはC0.02C±0.88で,寛解期ClogMARはC0.15C±1.32であり,周辺部顆粒型の発症時平均ClogMARはC0.17C±0.13,寛解期ClogMARはC0.06C±0.24だった.部位別にみると,Zone1の発症時平均ClogMARはC0.50C±0.96,寛解期ClogMARはC0.76C±1.55,Zone2の発症時平均ClogMARはC0.15C±0.18,寛解期ClogMARはC0.47C±0.59,Zone3の発症時平均ClogMARはC0.65C±0.35,寛解期ClogMARはC0.50C±0.20だった(表4).2例は原疾患により死亡し,2例C3眼のCCMV網膜炎はいったん治療によって寛解したが治療を終了すると平均C1.8カ月(1.1.3.2カ月)で再発し,そのうちC1例C1眼は再発時に網膜.離が生じたため硝子体手術を施行した.寛解期視力および生命予後が良好だったのはC1例C2眼だった(表5).CIII考按今回,AIDS以外の原疾患による免疫能低下でCCMV網膜炎をきたしたC5例C8眼の臨床所見や予後をまとめた.全例男性で病型は後極部劇症型がC3例C6眼,周辺部顆粒型がC2例C2眼であり,視力改善例はC1例C2眼(原疾患はCDLBCL)のみでC5眼中C3眼はCCMV網膜炎の治療が終了すると炎症が再燃して視力は不良となり,2例は原疾患により死亡した.AIDS患者でのCCMV網膜炎は主要な合併症であり,1996年に登場した多剤併用療法(highlyCactiveCantiretroviraltherapy:HAART)導入以前にはCAIDS患者のC37%に発症し6),AIDS患者最大の失明原因とされた7).HAARTにより,AIDS患者におけるCCMV網膜炎の発症率は導入前のC10.20%になったと報告されている8).濱本らは,HAARTを(111)施行したCAIDS患者C261例のうちCHAART導入前にC23例,導入後にC16例にCCMV網膜炎をきたし,最終視力C0.2以下はC7眼(15%)であったこと,HAART導入後に発症した症例のほうが導入前発症例に比べて軽症例が多く視力予後が良かったことを報告している9).本研究では寛解期視力がC0.2以上だったのはC1例C2眼(25%)であり,4例C6眼(75%)は最終視力がC0.2未満だった.AIDSは治療によって免疫能が改善するが,AIDS以外の原疾患は治療自体がむずかしく免疫能賦活化が困難なために,CMV網膜炎が悪化・再燃しやすい可能性が示唆される.病巣と正常網膜の境界部分にみられる顆粒状の病変はCgranularborderとよばれる.滲出斑は徐々に拡大するが病巣の中心部は萎縮傾向を示し,約C20%の症例で網膜.離を併発する4).また,CMV網膜炎の視力障害は,Zone1では黄斑部と視神経の障害,Zone3では網膜.離が生じることが原因であると報告されている10).今回,Zone1のC3眼中C1眼は視力が改善して治療後も炎症の再燃がなく経過良好だったが,2眼は治療後に炎症が再燃して視力予後が不良だった.CZone2のC3眼中C2眼は視力が改善したがC1例は原疾患により死亡した.Zone3のC2眼中C2眼はC2例とも治療後も視力が改善せず原疾患により死亡した.5例C8眼中,Zone3のC1眼(12.5%)でのみ網膜.離が生じたが,この結果はCStew-artの報告6)と矛盾しなかった.5例中C1例は内服加療を終了すると患眼だけでなく健眼にもCCMV網膜炎が発症した.CMV網膜炎は通常片眼性で発症するが,未治療または治療が奏効しないと両眼に発症すると報告がある10).AIDSではCHAARTにより白血球数が回復して免疫能も改善するが1,6,7),今回のようにCAIDS以外の原疾患による免疫能低下状態でCCMV網膜炎が発症した症例あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C613は免疫状態が初発時も再発時も抑制状態であり,原疾患の治療を中断すると健眼も含めCCMV網膜炎が再燃する可能性がある.症例C2は,一般的には免疫能が改善しやすい糖尿病が原疾患であるが,経過中の血糖管理がCHbA1cがC9.11%台と一貫して不良であり,そのため免疫能が改善しなかったことが再燃の原因と考えられる.しかしながら本研究の症例数は少なく,今後多くの症例数を対象とした検討が必要と考えられる.CIV結論AIDS以外の原疾患に合併したCCMV網膜炎C5例C8眼の臨床所見と特徴について検討した.AIDS以外の免疫能低下状態の患者に生じたCCMV網膜炎は治療後も再燃が多く,生命予後のみならず視力予後も不良である可能性が示唆された.文献1)柳田淳子,蕪城俊克,田中理恵ほか:近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討.あたらしい眼科C32:699-703,C20152)園田康平,川島秀俊,大黒伸行ほか:ヘルペス感染によるぶどう膜炎,所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩),p175-202,医学書院,20133)関本慎一郎,村上昌,今村周ほか:後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併したサイトメガロウイルス網膜炎のC1例.あたらしい眼科19:1359-1362,C20024)TakayamaK,OgawaM,MochizukiMetal:Cytomegalo-virusretinitisinapatientwithproliferativediabetesreti-nopathy.OcularImmunolIn.ammC21:225-226,C20135)YamasakiCS,CKohnoCK,CKadowakiCMCetal:Cytomegalovi-rusretinitisinrelapsedorrefractorylow-gradeBcelllym-phomaCpatientsCtreatedCwithCbendamustine.CAnnCHematolC96:1215-1217,C20176)VrabecTR:PosteriorsegmentmanifestationsofHIV/AIDS.SurvOphthalmolC49:131-157,C20047)Foscarnet-GanciclovirCCytomegalovirusCRetinitisTrial:5.CClinicalCfeaturesCofCcytomegalovirusCretinitisCatCdiagnosis.CStudiesCofCocularCcomplicationsCofCAIDSCResearchCGroupCinCcollaborationCwithCtheCAIDSCClinicalCTrialsCGroup.CAmJOphthalmolC124:141-157,C19978)JabsCDA,CAhujaCA,CVanCNattaCMCetal:CourseCofCcyto-megalovirusretinitisintheeraofhighlyactiveantiretro-viraltherapy:.ve-yearCoutcomes.COphthalmologyC117:C2152-2161,C20109)濱本亜裕美,建林美佐子,上平朝子ほか:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)患者のCHAART導入前後の眼合併症.日眼会誌116:721-729,C201210)StewartMW:OptimalCmanagementCofCcytomegalovirusCretinitisCinCpatientsCwithCAIDS.CClinCOphthalmolC4:285-299,C2010C***

免疫不全患者の両眼に生じた水痘帯状疱疹ウイルス網膜炎の治療経験

2016年3月31日 木曜日

《第49回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科33(3):423.426,2016c免疫不全患者の両眼に生じた水痘帯状疱疹ウイルス網膜炎の治療経験金子優西塚弘一村上敬憲松下高幸山下英俊山形大学医学部眼科学講座ExperienceofBilateralVaricellaZosterVirusRetinitisinImmunocompromisedPatientYutakaKaneko,KoichiNishitsuka,TakanoriMurakami,TakayukiMatsushitaandHidetoshiYamashitaDepartmentofOphthalmology,YamagataUniversityFacultyofMedicine免疫不全患者に発症した両眼性水痘帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)網膜炎の治療経験を報告する.症例は68歳,男性で,悪性腫瘍,帯状疱疹,糖尿病,自己免疫性溶血性貧血の既往あり.CD4陽性T細胞数低下があり免疫不全状態.右眼に高度な前房内炎症を伴う閉塞性血管炎を認め,前房水からVZVを検出.VZV虹彩炎・網膜血管炎と診断し,塩酸バラシクロビル内服開始.1カ月後,網膜周辺に黄白色病変を認めたため,アシクロビル点滴開始.経過中,VZV脳幹脳炎が疑われ,左眼にも炎症所見に乏しい網膜黄白色病変が出現し,前房水からはVZVが検出された.アシクロビルの増量と,右眼に硝子体手術を施行し,両眼とも網膜.離を生じることなく黄白色病変は消失,延髄病変も消失した.今後,治療薬の進歩に伴い,さまざまな免疫状態の患者を診察する機会が増えると予想され,免疫状態によりウイルス性網膜炎の臨床経過には多様性があることを考慮する必要がある.Thepatientwasanimmunocompromised68-year-oldmalewithmalignanttumors,cutaneousherpeszoster,diabetesmellitusandautoimmunehemolyticanemia.HisrighteyeshowediritisandocclusivevasculitiswithVZVDNAintheaqueoushumor.WediagnosedVZVretinitisandstartedtreatmentwithvalaciclovir.Onemonthlater,yellow-whitelesionsappearedintherightretina,andaciclovirintravenousinfusionwasinitiated.VZVencephalitiswassuspected;yellow-whitelesionsalsoappearedintheleftretinawithVZV-DNAintheaqueoushumor.Weperformedvitrectomyontherighteyeandincreasedaciclovir;thisalleviatedtheencephalitisandeliminatedtheyellow-whitelesions,withoutretinaldetachment.Withprogressinthetherapeuticregimens,wecanexpectincreasedopportunitiestoexaminepatientsinvariousimmunestates.Itwillthereforebenecessarytoconsiderthattheclinicalcourseofviralretinitismayvarywiththeimmunestateofthepatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):423.426,2016〕Keywords:免疫不全,水痘帯状疱疹ウイルス,網膜炎.immunodeficiency,varicellazostervirus,retinitis.はじめに水痘帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)が原因の網膜炎は,健常人に発症することが多い急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)や免疫不全患者に発症する進行性外層網膜壊死(progressiveouterretinalnecrosis:PORN)のように急速に進行し難治性で視力予後不良とされている.しかしながら,過去の報告では,患者の免疫不全状態によって,ウイルス性網膜炎の臨床所見,進行速度には多様性があるとされる1.3).今回,筆者らは免疫不全患者に発症した,左右で臨床経過が異なる両眼性VZV網膜炎の治療経験を報告する.I症例症例:68歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:・肺ホジキンリンパ腫(化学療法にて寛解).・舌癌(化学療法にて寛解).〔別刷請求先〕金子優:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YutakaKaneko,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YamagataUniversityFacultyofMedicine,2-2-2Iida-nishi,Yamagata990-9585,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(93)423 図1右眼眼底写真前房,硝子体の炎症は高度で,下耳側網膜周辺に黄白色滲出性病変を認めた.・自己免疫性溶血性貧血に対してプレドニゾロン7.5mg内服中.・糖尿病にて内服加療中.現病歴:2014年6月,右三叉神経第一枝領域の帯状疱疹を発症し,前医皮膚科にてアシクロビル(ACV)点滴にて軽快.8月中旬から右眼視力低下を認め前医眼科受診.右眼虹彩炎の診断にてステロイド点眼を開始したが改善しないため9月2日山形大学附属病院紹介となった.初診時所見:視力:右眼=0.1(矯正不能),左眼=0.5(0.8×+1.0),眼圧:右眼=22mmHg,左眼=18mmHg.右眼は結膜充血,角膜にDescemet膜皺襞とフィブリン様の角膜後面沈着物,前房に3+の細胞浸潤を認めた.眼底には閉塞性網膜血管炎がみられ,黄斑浮腫や周辺部の滲出性病巣はみられなかった.左眼に炎症所見はみられなかった.検査結果:リンパ球数は750/μl(基準値:1,090.3,310/μl),CD4陽性T細胞数は148/μl(基準値:554.1,200/μl)と低下していた.HbA1Cは7.0%,C反応性蛋白,肝機能,腎機能,凝固能はいずれも正常範囲であった.血中のサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)抗原が陽性で,CMVIgM抗体,IgG抗体がともに陽性であった.また,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)とVZVのIgG抗体は陽性,IgM抗体は陰性であった.ツベルクリン反応は陰性,胸部X線写真で左下肺野に腫瘤を指摘された.治療および経過:右眼の前房水からVZV-DNAのみが8.05×107copies/ml検出され,HSVやCMV-DNAは検出されなかった.眼底周辺に滲出性病変がみられなかったため,VZV虹彩炎および網膜血管炎と診断し,9月23日より0.1%ベタメタゾン点眼6回/日,塩酸バラシクロビル(VACV)424あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016図2造影MRI(延髄)T2強調像にて延髄左背側にopenring状に増強する高信号領域および三叉神経脊髄路核に一致する高信号を認めた(→).3,000mg/日の内服を開始.10月1日,右眼の前眼部炎症,硝子体混濁は軽快したが,黄斑浮腫と下耳側網膜周辺に黄白色滲出性病変を認めた(図1).前房水からはVZV-DNAのみが2.02×105copies/ml検出された.VZVによる急性網膜壊死あるいは進行性網膜外層壊死を考え,入院のうえ,ACV点滴(1,500mg/日)を開始した.糖尿病の既往,免疫抑制状態であることから,プレドニゾロン内服は7.5mgを継続とした.ACV開始後,右眼の滲出性病変の急速な拡大はみられなかったものの,硝子体混濁が増悪してきたため,10月24日,硝子体手術を予定.しかし,球後麻酔後に球後出血を生じたため手術中止.10月25日,非回転性めまい,左上下肢失調が出現したため,造影MRI施行(図2).T2強調像で延髄左背側にopenring状に増強する病巣と三叉神経脊髄路核に一致する異常信号を認め,鑑別としてVZV脳幹脳炎,悪性リンパ腫,脱髄疾患が疑われた.髄液検査では,細胞診で異型リンパ球は認めず,オリゴクローナルバンドは検出されなかったが,VZVとHSVのIgG上昇が認められ,臨床経過,画像所見よりVZV脳幹脳炎が強く疑われた.10月27日,左眼の前房内炎症細胞,硝子体混濁はみられなかったが,網膜に黄白色滲出性病変が出現し,急速に拡大した(図3,4).左眼の前房水からはVZV-DNAが1.13×104copies/ml検出された(この時点のCD4陽性T細胞数は55/μl).11月4日の造影MRIにて脳幹病巣の悪化および左眼病巣の悪化を認めたため,神経内科と相談のうえ,ACV点滴を2,250mg/日へ増量.ガンシクロビル(GCV)併用に関しては,血液内科と相談の結果,血球減少のリスクが高いため使用は控えた.11月5日,全身麻酔下にて右眼)白内(94) 図3左眼眼底写真1前房,硝子体の炎症はみられず,周辺網膜に黄白色滲出性病変を認めた.障手術+硝子体手術+シリコーンオイル注入術施行.ホジキンリンパ腫の既往もあるため,硝子体生検も施行.細胞診で異型リンパ球は認めず,遺伝子再構成も認めなかった.術中採取した硝子体からはVZV-DNAのみが3.69×104copies/ml検出された.ACV増量1カ月後,右眼はシリコーンオイル下で網膜.離は認めず滲出性病変は消失した.左眼は網膜.離を生じることなく滲出性病変は消失し前房水からVZVDNAは検出されなくなった(この時点のCD4陽性T細胞数は77/μl).12月18日の造影MRIでは,延髄病変はほぼ消失し神経学的所見も改善したことから,ACV点滴投与を中止.その後,肺腫瘍の生検の結果,diffuselargeB-celllymphomaが認められ,血液内科に化学療法目的で転科となった.転科時の視力は右眼=(矯正0.09),左眼=(矯正0.5),眼圧は右眼=9mmHg,左眼=11mmHgであった.II考按本症例は,初診時の血液中からCMV抗原,CMVIgM,IgGを認めたものの,両眼内からはVZV-DNAのみが連続して検出されたこと,ACV投与に反応してVZV-DNAコピー数の減少と臨床所見の改善がみられたことからもVZVが原因の網膜炎と考えられた.VZVが原因の網膜炎には急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)と進行性網膜外層壊死(progressiveouterretinalnecrosis:PORN)があり,ARNは,ほとんどの場合で免疫健常者に発症し,約9割が片眼性である.その臨床像は1994年にAmericanUveitisSocietyにより提唱されたARNの診断基準4)に示されており,a.周辺部網膜に境界鮮明な1カ所以上の網膜壊死病巣がみられる,b.抗ウイルス薬の未施行例では病変は急激に進行(95)図4左眼眼底写真2前房内炎症,硝子体混濁は軽微.アシクロビル投与下でも黄白色滲出性病変は拡大.する,c.病変は円周方向に拡大する,d.動脈を含む閉塞性血管炎を認める,e.硝子体および前房に高度の炎症所見を認める,の5つの項目をすべて満たす必要があり,個人の免疫状態は問わないとしている.一方,PORNは,後天性免疫不全症候群(AIDS)や骨髄移植後などの高度な免疫不全状態患者(とくにCD4陽性T細胞数が50/μl以下)に生じ,病変はほとんどが両眼性である.免疫抑制状態であるため前房や硝子体の炎症は軽微,網膜出血と血管炎は少ないとされ,眼底は周辺部の網膜深層から白色の点状病変が多発性に生じ,1.2週間の間に各病変が急速に拡大,癒合し,周辺部全体の黄白色病変となる5).本症例の右眼の臨床経過は,前房,硝子体に高度な炎症所見を伴う閉塞性血管炎を発症後,周辺部網膜に境界鮮明な黄白色病変を認めておりARNに類似しているが,炎症の発症後1カ月以上経過してから網膜黄白色病変が出現したことについては,VACVを内服していたことが影響しているかもしれない.その後,左眼の周辺部網膜に同様の黄白色病変を認めたが,前房,硝子体の炎症は軽微であり,こちらの臨床経過はPORNに類似している.これは,左眼発症時のCD4陽性T細胞数が55/μlとさらに低下していた影響が考えられる.PORNは発症前,発症時に帯状疱疹を合併していることが多いとされ,中枢神経系病変を合併するとの報告もある6).本症例も,発症の2カ月前に,右三叉神経第一枝領域の顔部帯状疱疹の治療歴があり,今回の経過中にVZVが原因と考えられる脳幹病変が出現した点はPORNの臨床像と類似している.また,MRIで延髄左背側にopenring状に増強する病巣と三叉神経脊髄路核に一致する異常信号を認めた後に,同側である左眼に黄白色病変が出現した点は非常に興味深く,いまだ不明とされるVZV網膜炎の感染経路の可能性を示唆している.あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016425 右眼の臨床経過がARNに類似していたためACV単独投与で治療開始したが,後にPORNに類似した左眼病変や延髄病変が出現した.本症例のように,患者の多くが帯状疱疹を先行発症しACVがすでに投与されているPORN患者において,ACV耐性株VZVの可能性が推測されており7),ACV単独ではなくGCVを併用することが推奨されている.今回は,骨髄抑制を考慮しGCV併用は行わなかったが,左右眼で臨床像が異なる場合,ACVの投与量や投与期間,GCV開始のタイミングについては,患者の全身状態や臨床経過を十分考慮して決定する必要がある.本症例の左眼病変がGCVを使用せずに消退した理由については,消退時のCD4リンパ球数が77/μlと低値のままであったことから,免疫力改善によるものではなく,ACVを増量したことによるものと考えられる.今後,HIV感染症や悪性腫瘍に対する治療薬の進歩に伴い,高度な免疫不全状態から回復できる患者の増加が予想され,さまざまな程度の免疫状態の患者を診察する機会が増えると考えられる.本症例のように典型的な臨床経過を示さず,診断,治療に苦慮するウイルス性網膜炎の症例も増加すると考えられるため,患者の免疫抑制状態によって多様な発症形式や進行を示す可能性があることを考慮しながら診察する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Guex-CrosierY,RochatC,HerbortCP:Necrotizingherpeticretinopathies.Aspectrumofherpesvirus-induceddiseasesdeterminedbytheimmunestateofthehost.OculImmunolInflamm5:259-265,19972)SchneiderEW,ElnerSG,vanKuijkFJetal:Chronicretinalnecrosis:cytomegalovirusnecrotizingretinitisassociatedwithpanretinalvasculopathyinnon-HIVpatients.Retina33:1791-1799,20133)RochatC,PollaBS,HerbortCP:Immunologicalprofilesinpatientswithacuteretinalnecrosis.GraefesArchClinExpOphthalmol234:547-552,19964)HollandGN:Standarddiagnosticcriteriafortheacuteretinalnecrosissyndrome.ExecutiveCommitteeoftheAmericanUveitisSociety.AmJOphthalmol117:663667,19945)ForsterDJ,DugelPU,FrangiehGTetal:Rapidlyprogressiveouterretinalnecrosisintheacquiredimmunodeficiencysyndrome.AmJOphthalmol110:341-348,19906)vandenHornGJ,MeenkenC,TroostD:AssociationofprogressiveouterretinalnecrosisandvaricellazosterencephalitisinapatientwithAIDS.BrJOphthalmol80:982-985,19967)HollandGN:Theprogressiveouterretinalnecrosissyndrome.IntOphthalmol18:163-165,1994***426あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(96)

無菌性髄膜炎に併発した水痘帯状疱疹ウイルスによる網膜炎

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1???(144)0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):566~568,2008?はじめにヘルペス群ウイルスによって起こる重篤な眼疾患として壊死性網膜炎がある.既往歴や帯状疱疹,水痘症などの全身的合併症がない例が多い一方で,脳炎,髄膜炎との合併例が報告されている1,2).しかし,髄液所見における詳細の検討は困難である.今回筆者らは,ウイルス性髄膜炎が先行し,経過中に視力低下をきたし,前房水中からpolymerasechainereaction(PCR)法にてvaricella-zostervirus(VZV)-DNAが検出された網膜炎の症例を経験したので報告する.I症例患者:53歳,男性.主訴:左眼の視力低下,飛蚊症.既往歴:特になし.家族歴:関節リウマチ.現病歴:2005年1月11日頭痛,発熱にて近医を受診した.無菌性髄膜炎と診断され神経内科に入院.1月20日左眼視力低下,飛蚊症を自覚した.1月28日近医眼科を受診し,左眼虹彩炎,硝子体混濁と診断.1月31日急性網膜壊〔別刷請求先〕佐藤真美:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????-???????????????????-????????????????-???????????無菌性髄膜炎に併発した水痘帯状疱疹ウイルスによる網膜炎佐藤真美*1渡辺洋一郎*1門之園一明*1伊藤典彦*2木村綾子*2水木信久*2遠藤雅直*3*1横浜市立大学市民総合医療センター眼科*2横浜市立大学医学部眼科学教室*3横浜市立大学市民総合医療センター神経内科Varicella-ZosterVirusRetinitisAccompaniedwithViralMeningitisMamiSato1),YoichiroWatanabe1),KazuakiKadonosono1),NorihikoIto2),AyakoKimura2),NobuhisaMizuki2)andMasanaoEndo3)?)????????????????????????????????????????????????????????????????)???????????????????????????????????????????????????????????????????????????)???????????????????????????????????????????????????????????ウイルス性髄膜炎を発症中,varicella-zostervirus(VZV)網膜炎と診断された1例を報告する.症例は53歳,男性.無菌性髄膜炎にて入院中,左眼視力低下,飛蚊症を主訴に受診した.左眼虹彩炎,硝子体混濁と診断された.急性網膜壊死を疑われ,発症11日後当院を紹介された.Polymerasechainreaction法にて前房水中からVZVウイルスを検出したため,アシクロビル,ステロイド療法を開始し改善した.髄膜炎と帯状疱疹ウイルスによる網膜炎の同時発症はまれであるが,早期診断,治療が有効であると考えられた.Wereportacaseofvaricella-zostervirus(VZV)retinitiswithviralmeningitis.Thepatient,a53-year-oldmale,washospitalizedforvisuallossinhislefteyeandmyodesopsia.Hehasdiagnosedwithuveitisandhazyvitre-ous.Acuteretinalnecrosiswassuspected,and11daysafterdevelopmentofsymptomshehasreferredtous.WefoundVZV-DNAintheanteriorchamber?uid,andinitiatedtreatmentwithacyclovirandsteroid,towhichherespondedpositively.VZVretinitisisrarelyaccompaniedwithviralmeningitis.Inthepresentcase,earlydiagnosisandaggressivetreatmentwereimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):566~568,2008〕Keywords:無菌性髄膜炎,水痘帯状疱疹ウイルス,網膜炎,PCR(ポリメラーゼ連鎖反応).virusmeningitis,va-ricella-zostervirus,retinitis,PCR(polymerasechainreaction).———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(145)day28日間,プレドニゾロン40mg/dayから漸減していった.治療開始に伴い,血清中,前房水中,髄液中の抗ウイルス抗体価,髄液細胞数は減少傾向であった.発症21日目には硝子体混濁は軽快し,視力も左眼(矯正1.5)まで改善した.抗ウイルス抗体価の変化を表1に,経過を図1に示した.II考按VZVはHSV(herpessimplexvirus)と同じく,aヘルペスウイルス群に属し,皮膚,神経などの外胚葉起源の細胞に強い親和性をもつ.眼科領域では,古くから老人や免疫不全状態にある患者に生じる眼部帯状ヘルペスとして知られてきた.1971年にわが国では桐沢型ぶどう膜炎の原因ウイルスがVZVであることが,浦山によって初めて報告された5).桐沢型ぶどう膜炎は既往歴,全身的合併症がない例が多い一方で,HSV-1ARNがヘルペス脳炎の既往や合併がある場合に発症し,HSV-ARNでは髄膜炎との関連を指摘した例が多い.VZV-ARNに関しても髄膜炎との合併例が報告されている.VZV-ARNは,両眼性に発症,75%に網膜?離を合併し,重症化しやすい.今回もそのように経過すると思われた6,7).VZVによる髄膜炎と網膜炎との合併例は,AIDS(後天性免疫不全症候群)患者において報告8,9)がみられるが,免疫異常のない健康人での報告は現在のところない.視神経,視交叉は発生学的,解剖学的には中枢神経であり,脳組織と共通の髄膜をもつ.そのためヘルペスウイルスが視神経内で再活性した際に髄液中で抗体が産生されたと考えられる10,11).本症例のようにウイルス性髄膜炎が先行した例では,同ウイルスが視神経を介して伝播し網膜炎をきたしたとも考えられる.本症例では,髄液中からPCR法で死(ARN)と疑われ,当院を紹介され受診.同日精査,加療目的で当科入院となった.初診時所見:視力は右眼0.04(矯正1.2),左眼0.03(矯正0.8),眼圧は右眼12mmHg,左眼21mmHgであった.Goldmann視野検査において左眼の軽度暗点拡大を認め,前眼部所見は左眼に前房内炎症細胞がみられた.眼底所見として,左眼硝子体混濁,網膜の下耳側に滲出斑を認めた.右眼には異常を認めなかった.蛍光眼底造影では硝子体混濁のため,詳細不明であった.入院当日前房穿刺施行し,翌日髄液穿刺施行した.血清中のVZV抗体価は上昇していた.前房水中にVZV-DNAが検出され,ウイルス量は6.9×102cop-ies/??であり,一般的なVZV-ARNの約1/1,000であった.髄液中VZV-DNAは陰性であったが,VZV抗体価(EIA),細胞数はともに上昇していた.全身的には帯状疱疹など基礎疾患はなく,血液検査にて免疫機能低下を疑う所見はなかった.経過:診断確定後,アシクロビルの点滴45mg/kg24時間持続静注14日間,ソルメドロール500mg3日間を開始した3,4).その後は内服薬に切り替え,バラシクロビル3,000mg/表1抗ウイルス抗体価検体採取時期発症後(日)検体抗ウイルス抗体価VZV-IgG(EIA)112033血清前房水髄液血清前房水髄液血清髄液2,52049.82841,51027.416.883610.116.82005/1/312/228416.816.82,52010.12/102/152/2249.81,3206/229291,5101,12027.41,00094462013887.48361.50.8静注リンデロン?点眼アシクロビル?静注バルトレックス?内服ステロイドクラビット?点眼・ミドリンP?点眼———————————————————————-Page3???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(146)ている.しかし,血清中の抗ウイルス抗体価が非常に高い今回のような症例では,Q値が参考にならないことがあり,PCR法によるウイルスの検出が確定診断に有用である.本症例は臨床的には,VZVによるARNであったが,やや軽症で抗ヘルペス薬にも反応は良好で予後も良好であった(図2).このような症例の診断は困難である.本症例では,髄液中のVZV抗体価は上昇しており,髄膜炎が先行したために液性免疫が亢進し,網膜炎は軽症で推移したと考えられる.VZVによる網膜炎の発症機序はいまだ不明であるが,早期治療で軽症化につながれば今後の治療に有効であると考える.文献1)JohnsonBL,WisotzkeyHM:Neuroretinitisassociatedwithherpessimplexencephalitisinanadult.????????????????83:481-489,19772)GanatraJB,ChandlerD,SantosCetal:Viralcausesoftheacuteretinalnecrosissyndrome.???????????????129:166-172,20003)GnannJWJr:Varicella-zostervirus:atypicalpresenta-tionsandunusualcomplications.????????????:186:S91-S98,20024)吉田昭子,成岡純二,森田真一ほか:良好な経過をたどった水痘帯状疱疹ウイルスによる急性網膜壊死の1例.眼紀54:308-312,20035)川口龍史,望月學:急性網膜壊死.眼科47:959-965,20056)浦山晃,山田酉之,佐々木徹郎ほか:網膜動脈周囲炎と網膜?離を伴う特異な片眼性急性ぶどう膜炎について.臨眼25:607-619,19717)DukerJS,BlumenkranzMS:Diagnosisandmanagementoftheacuteretinalnecrosis(ARN)syndrome.????????????????35:327-343,19918)elAzaziM,SamurlssonA,LindeAetal:Intrathecalantibodyproductionagainstvirusesoftheherpesvirusfamilyinacuteretinalnecrosissyndrome.????????????????112:76-82,19919)Franco-ParedesC,BellehemeurT,MerchantAetal:Asepticmeningitisandopticneuritisprecedingvaricella-zosterprogressiveouterretinalnecrosisinapatientwithAIDS.????16:1045-1049,200210)薄井紀夫:眼内組織におけるヘルペス群ウイルスDNAの検出.日眼会誌98:443-448,199411)薄井紀夫,今井章介,水野文雄ほか:PCR法を用いた原田病患者髄液よりのEBウイルスの検出.眼臨85:882-887,199112)飯塚裕子,阿部達也,笹川智幸ほか:桐沢型ぶどう膜炎における髄液所見.日眼会誌103:442-448,199913)毛塚剛司:水痘帯状疱疹ウイルスによる眼炎症と免疫特異性.日眼会誌108:649-653,2004VZV-DNAが検出されなかったため,VZVによる髄膜炎と断定できなかった.しかし,明らかに髄液中の抗VZV抗体価は上昇しており,アシクロビル投与開始とともにVZV抗体価は低下した.初診時,血清中の抗VZV抗体価も著明に上昇しており,眼局所だけの反応であるとは考えにくいと思われた.前房水中のVZV抗体価も上昇していたが,血中の抗VZV抗体価が高いために,抗体率(quotientratio:Q値)を算出したところ,第11病日であるにもかかわらず,Q値が1.00であった.elAzaziらがARNの3例でそれぞれHSV-1,HSV-2,VZVに対する抗体産生が髄液中にみられたと報告している.薄井らは桐沢型ぶどう膜炎患者9例において発症1~6週の髄液検査を行い,6例において髄液中でヘルペスウイルスの抗体産生があり,それらは眼内液のPCR法から証明されたウイルスと一致したウイルスに対する抗体産生であったと報告している12).毛塚ら13)は全身の免疫能の低下がなくともARNが発症することから,一見免疫能が正常と思える場合でも,個人の局所における免疫システム異畳