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両眼先天性鼻側視神経低形成の2例

2013年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(11):1639.1643,2013c両眼先天性鼻側視神経低形成の2例山下真理子*1湯川英一*1,2西智*1大萩豊*3,4緒方奈保子*1*1奈良県立医科大学眼科学教室*2ゆかわ眼科クリニック*3西の京病院眼科*4おおはぎ眼科クリニックTwoPatientswithCongenitalBilateralNasalOpticNerveHypoplasiaMarikoYamashita1),EiichiYukawa1,2),TomoNishi1),YutakaOhagi3,4)andNahokoOgata1)1)DepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity,2)YukawaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,NishinokyoHospital,4)OhagiEyeClinic両眼先天性鼻側視神経低形成の2例を経験した.これまでにわが国において松本らが視神経小乳頭の先天性鼻側視神経低形成を報告しているが,今回の症例は2例4眼中3眼で視神経乳頭サイズは正常であり,動的視野検査では両眼とも光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で得られた鼻側網膜神経線維層の菲薄化に一致して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられた.2症例とも数年にわたり視野に変化はなく,OCTが本症の補助診断に有用であった.視神経低形成は元来,視神経線維数が減少しているため,将来緑内障を合併しやすいことも考えられる.わが国では正常眼圧緑内障の有病率が高いことも考え合わせると今後も定期的な観察が必要と思われた.Weencountered2patientswithbilateralnasalopticnervehypoplasia.Matsumotoetal.reportedcongenitalnasalopticnervehypoplasiawithsmallopticdiscinJapan,butdiscsizewasnormalin3ofthe4eyesofourpatients.Moreover,dynamicperimetrydisclosedawedge-shapeddefectofthetemporalvisualfieldtowardtheMariotteblindspot,bilaterally,thatcorrespondedtonasalretinalnervefiberlayerthinningobservedonopticalcoherencetomography(OCT).Thevisualfieldsofthepatientshadnotchangedforseveralyears,andOCTwasusefulintheauxiliarydiagnosisofthisdisease.Sincethenumberofopticnervefibersisoriginallydecreasedinopticnervehypoplasia,thecomplicationofglaucomaislikelytooccurinthefuture.Periodicexaminationmaybenecessaryinthesecases,sincetheprevalenceofnormal-pressureglaucomaishighinJapan.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(11):1639.1643,2013〕Keywords:先天性鼻側視神経低形成,楔状耳側視野欠損,乳頭サイズ,網膜神経線維層厚,光干渉断層計.congenitalbilateralnasalopticnervehypoplasia,wedge-shapedtemporalvisualfielddefect,opticdiscsize,retinalnervefiberlayerthickness,opticalcoherencetomography.はじめに視神経低形成は網膜神経節細胞と視神経線維が正常人より減少していることで生じる先天異常であるが1),視神経部分低形成では一般に視力は良好であり,局在的な視野欠損が認められる2,3).そしてこれまでにMariotte盲点に向かう楔状下方視野欠損を示す上方視神経低形成については比較的多くの報告がなされているものの4.7),先天性鼻側視神経低形成についての報告は少ない8.10).今回筆者らは両耳側視野欠損を示し,乳頭サイズが正常な先天性鼻側視神経低形成の2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕31歳,女性.主訴:視神経乳頭の精査希望.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:コンタクトレンズ作製時に視神経乳頭の腫れを指摘されたため,精査目的にて平成21年7月に奈良県立医科大学眼科外来を受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(1.5×sph.3.00D),左眼(1.2×sph.2.25D)であり,眼圧は右眼18mmHg,左眼16mmHgであった.前眼部,中間透光体に異常は認められ〔別刷請求先〕湯川英一:〒635-0825奈良県北葛城郡広陵町安部236-1-1ゆかわ眼科クリニックReprintrequests:EiichiYukawa,M.D.,YukawaEyeClinic,236-1-1Abe,Koryo-cho,Kitakatsuragi-gun,Nara635-0825,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(147)1639 ab右眼左眼右眼左眼c左眼右眼図1症例1a:眼底写真.DM/DD比は右眼2.8,左眼2.8であり,右眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈している.b:光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見.両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められる.c:動的視野結果.両眼ともにMariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損が認められる.なかった.眼底所見では右眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳として測定するDM/DD(distancebetweenthecentersof頭浮腫を呈していた(図1a).視神経乳頭サイズの評価法とthediscandthemacula/discdiameter)比については,右してWakakuraら11)の提唱した乳頭径を横径と縦径の平均眼2.8,左眼2.8であった.光干渉断層計(opticalcoherence1640あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(148) ab右眼左眼右眼左眼c左眼右眼図2症例2a:眼底写真.DM/DD比は右眼3.0,左眼3.4であり,両眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈している.b:光干渉断層計(OCT)所見.両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められる.c:動的視野結果.両眼ともにMariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損が認められる.tomography:OCT)にて視神経乳頭周囲の網膜神経線維層は両眼ともOCTで得られた網膜神経線維層の菲薄化に一致厚を測定したところ,両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられ化が認められた(図1b).同時期に施行した動的視野検査でた(図1c).頭部磁気共鳴画像(magneticresonanceimag(149)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131641 ing:MRI)では視交叉の低形成や透明中隔欠損は認めなかった.経過:その後,約4年にわたって経過観察しているが,初診時と比較して視野に変化はなく,これらの所見から先天性鼻側視神経低形成と診断した.〔症例2〕52歳,女性.主訴:眼圧の精査希望.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:検診にて眼圧が高いことを指摘され,精査目的にて平成20年1月に西の京病院眼科外来を受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2×sph.5.00D(cyl.1.00DAx180°)左眼(1.2×sph.5.75D(cyl.1.00DAx10°)であり圧は右眼20mmHg,左眼21mmHgであった.前眼部,中間透光体に異常は認められなかった.眼底所見では両眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈していた(図2a).DM/DD比は右眼3.0,左眼3.4であった.OCTにて視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚を測定したところ,両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められた(図2b).同時期に施行した動的視野検査では両眼ともOCTで得られた網膜神経線維層の菲薄化に一致して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられた(図2c).頭部MRIでは視交叉の低形成や透明中隔欠損は認めなかった.経過:その後,5年にわたって経過観察しているが,初診,眼(,)時と比較して視野に変化はなく,これらの所見から先天性鼻側視神経低形成と診断した.II考按視神経低形成は先天的に網膜神経節細胞と視神経線維が減少しており1),小乳頭と高度な視機能障害を示す先天異常とされ,小児の視力障害となる原因疾患の一つではあるが,なかには視力が良好で視野が局在的に欠損する視神経部分低形成が存在する.視力が良好な先天性視神経乳頭鼻側低形成についてはBuchananら8)が耳側視野欠損を示す先天性視神経乳頭低形成として報告し,さらに松本ら9)は視神経乳頭サイズが小さな3症例を報告している.今回,筆者らが示した症例は,Wakakuraらが提唱するDM/DD比をみると3.2以上を小乳頭,2.2以下を巨大乳頭としており,2例4眼中3眼で視神経乳頭サイズは正常であった.そして高木ら12)は視神経低形成と乳頭低形成は異なる疾患単位であることを強調している.すなわち前者は視神経軸索が生来欠落し,その部位が視野検査にて視野欠損として検出される一方で,後者は検眼鏡的に小乳頭など視神経乳頭の形成不全として観察される.そのため両者は合併することも単独で生じることもあると述べている.今回筆者らが提示した2例でも乳頭サイズが正常であった3眼中2眼で軽度ではあるが鼻側に偽乳頭浮腫がみられた.このことはたとえ乳頭サイズが正常であったと1642あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013しても網膜神経節細胞や視神経線維の先天的な形成異常が生じている結果であるとも考えられる.今回の2例はともに両耳側視野欠損が認められた.鑑別診断として視交叉付近の病変が考えられたが,動的視野検査からはMariotte盲点に向かう視野欠損であり,OCTで得られた鼻側網膜神経線維層の菲薄化所見が補助診断に有用であった.また橋本ら13)は両耳側視野欠損を示し,頭部MRIにて著明に菲薄化した視交叉と透明中隔欠損がみられたseptoopticdysplasiaを先天性視交叉低形成として報告しているが,筆者らの症例ではともにそれらの所見は認めなかった.ただし症例1では左後頭葉白質に頭部MRIにて高信号領域を認めており,神経内科にて膠原病,代謝性疾患,ミトコンドリア関連疾患などが疑われ,精査されるも現在のところ明らかな異常は認めず,経過観察中である.視神経部分低形成の一つである上方視神経低形成についてはわが国では正常眼圧緑内障の有病率が高いことから,緑内障検診の普及とともにその鑑別が重要となっている.さらに視神経低形成は元来,視神経線維数が減少しているため,将来緑内障を合併しやすいことも考えられる14).またOhguroら10)は鼻側視神経低形成症例,緑内障を伴った鼻側視神経低形成症例,および耳側視野欠損を示す緑内障症例を詳細に検討した結果,鼻側視神経低形成症例では緑内障合併の有無にかかわらず,12眼中11眼で小乳頭が認められた一方で,耳側視野欠損を示す緑内障症例では3眼すべてで乳頭サイズは正常であったことを報告している.このことを考えると,耳側視野欠損を示す症例に対しては乳頭サイズが鼻側視神経低形成なのかあるいは緑内障であるのかを判断する一つの指標となりうるのかもしれない.そして今回の症例1では緑内障性乳頭陥凹は認められないものの,両眼とも乳頭サイズは正常であることから,さらなる長期経過により耳側視野欠損が進行する可能性も否定できない.さらに症例2において初診時眼圧はGoldmann圧平眼圧計にて右眼20mmHg,左眼21mmHgであり,その後は両眼とも17mmHgから22mmHgにて推移している.現在のところ先天性鼻側視神経低形成に高眼圧症が合併しているということになるが,両症例とも今後も定期的に動的視野検査とHumphrey視野検査を組み合わせて測定することで緑内障の発症につき十分に注意を払っていく必要があると思われた.文献1)WhineryR,BlodiF:Hypoplasiaoftheopticnerve:Aclinicalandhistopathologicalcorrelation.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol67:733-738,19632)GardnerHB,IrvineA:Opticnervehypoplasiawithgoodvisualacuity.ArchOphthalmol88:255-258,19723)BjorkA,LaurellC,LaurellU:Bilateralopticnervehypoplasiawithnormalvisualacuity.AmJOphthalmol86:(150) 524-529,19784)PurvinVA:Superiorsegmentalopticnervehypoplasia.JNeuro-Ophthalmol22:116-117,20025)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomographyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthalmol86:910-914,20026)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiawithfoundinTajimiEyeHealthCareProjectparticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20047)小澤摩記,平野晋司,藤津揚一朗ほか:上方視神経低形成の5例.あたらしい眼科24:115-120,20078)BuchananTAS,HoytWF:Temporalvisualfielddefectsassociatedwithnasalhypoplasiaoftheopticdisc.BrJOphthalmol65:636-640,19819)松本奈緒美,橋本雅人,今野伸介ほか:先天性視神経乳頭鼻側低形成の3例.あたらしい眼科22:1009-1012,200510)OhguroH,OhguroI,TsurutaMetal:Clinicaldistinctionbetweennasalopticdischypoplasia(NOH)andglaucomawithNOH-liketemporalvisualfielddefects.ClinOphthalmol4:547-555,201011)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia.Thedisc-maculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).ActaOphthalmolScand65:612-617,198712)高木峰夫,阿部春樹:視神経部分低形成の概念.神眼24:379-388,200713)橋本雅人,鈴木康夫,大塚賢二:先天性視交叉低形成の1例.あたらしい眼科19:249-251,200514)藤本尚也:視神経低形成と緑内障との鑑別と合併.神眼24:426-432,2007***(151)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131643

すでに行われていた緑内障治療が不要と判断された症例の検討

2013年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(10):1472.1474,2013cすでに行われていた緑内障治療が不要と判断された症例の検討茨木信博*1,2久保江理*2佐々木洋*2*1いばらき眼科クリニック*2金沢医科大学眼科学講座CasesinWhichPrescribedGlaucomaMedicationsWereUnnecessaryNobuhiroIbaraki1,2),EriKubo2)andHiroshiSasaki2)1)IBARAKIEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:既処方の緑内障薬が不要であった症例の頻度,特徴を検討した.対象および方法:平成23年7月から12月に初診で,緑内障薬をすでに点眼している71例を対象とした.休薬後の平均眼圧が18mmHg未満,Humphrey視野検査が正常,光干渉断層計で神経線維束欠損のないものは,投薬を中断した.初診時眼圧,C/D(陥凹乳頭)比,Humphrey視野MD(標準偏差)値,網膜神経線維層厚,投薬中断後眼圧を検討した.結果:15例(21.1%)は投薬を中断した.MD値は.1.49と高く,網膜神経線維層厚も94.6μmと厚かった.初診時と中断後の眼圧に差がなかった.C/D比は0.61と大きく,点眼続行した症例の0.69と差がなかった.結論:乳頭陥凹拡大の他に所見のない症例での緑内障治療は慎重にすべきと考えられた.Purpose:Weinvestigatedthefeaturesandfrequencyofcasesinwhichalreadyprescribedglaucomamedica-tionswereunnecessary.SubjectsandMethods:Includedwere71casesthatwerealreadyusingglaucomamedi-cine.Thoseinwhichmeanintraocularpressureaftermedicinewithdrawalwaslessthan18mmHg,Humphreyvisual.eldtestwasnormalandnonervedefectswerefoundinopticalcoherencetomographyinterruptedthemedication.Intraocularpressurewasexaminedat.rstvisitandafterinterruption;cup/disc(C/D)ratio,Hum-phreyvisual.eldmeandeviation(MD)valueandretinalnerve.berlayerthicknesswerealsoexamined.Results:In15patients(21.1%),medicationwasinterrupted.TheMDlevelwashighat.1.49,andretinalnerve.berlayerthicknesswasthickat94.6μm.Therewasnodi.erenceinintraocularpressureafterthebreakandatthe.rstvisit.C/Dratiowasgreaterat0.61;therewasnodi.erencebetweenpatientswhocontinuedeyedrops,at0.69.Conclusions:Cautionshouldbeusedwhentreatingglaucomainpatientswithno.ndingsotherthanlargecupping.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1472.1474,2013〕Keywords:緑内障治療,眼圧,C/D(陥凹乳頭)比,MD(標準偏差)値,網膜神経線維層厚.medicationforglau-coma,intraocularpressure,C/D(cup/disc)ratio,MD(meandeviation)value,retinalnerve.berlayerthickness.はじめに緑内障は,進行した視神経障害,視野欠損が不可逆的変化であることから,早期発見,早期治療が重要であることには疑う余地はない1).近年,わが国における中途失明原因の1位であることも背景にあり,眼科医による啓蒙が少しずつ浸透しはじめ,成人病検診での眼底撮影による,視神経乳頭陥凹拡大という診断所見の増加につながっている.さらに,多治見スタディ2)により,日本人に正常眼圧緑内障が多いことが報告されてから,より乳頭の形状解析に関心が寄せられ,かつ画像解析装置も開発され急速に普及するようになった.しかし,眼圧が正常で,視野にまだ異常がなく,視神経乳頭陥凹拡大のみを呈する症例では,その診断や治療開始時期を迷うことが少なくない.視野進行を恐れるあまり,乳頭所見のみの所見で緑内障治療薬を処方される症例も見受けられる.今回,筆者らは前医で処方を受けていた緑内障治療薬が不〔別刷請求先〕茨木信博:〒320-0851宇都宮市鶴田町720-1いばらき眼科クリニックReprintrequests:NobuhiroIbaraki,M.D.,IBARAKIEyeClinic,720-1Tsuruta-machi,Utsunomiyacity,Tochigi320-0851,JAPAN1472(128)0)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY要と判断した症例について,その頻度,特徴についてまとめる機会を得たので報告する.10.90.80.7I対象および方法C/D比0.60.50.40.30.2平成23年7月より12月にいばらき眼科クリニックを初診した症例のうち,前医で緑内障点眼薬による治療をすでに0.1受けている71例(男:女=29:42,年齢38.86歳,平均0中断継続72±12歳)を対象とした.Humphrey視野(HFAI740,カールツアイス)のプログ図1C/D比の緑内障治療薬中断症例と継続症例との比較ラム30-2にて異常のないもの(緑内障診療ガイドライン第-203版,補足資料1,Humphrey視野における視野異常の判定Humphrey視野MD値-180中断継続基準3項目1)のいずれも満たさないもの),光干渉断層計(RS-3000,ニデック)による視神経線維束欠損のないもの(乳頭マップ解析において,正常データベース5%未満を一切認めないもの),前医の処方薬を1週間以上一旦休薬した状態で1カ月以内に測定した3回の平均眼圧(アプラネーション圧平眼圧計)が18mmHg未満のものの条件をすべて-16-14-12-10-8-6-4-2備えるものは,前医の処方薬を中断した.投薬を中断した群(中断群)で,初診時眼圧と投薬中断後図2Humphrey視野MD値の緑内障治療薬中断症例と継続1カ月以内に3回測定した眼圧の平均値ならびに6カ月後の症例との比較眼圧について検討するとともに,中断群と継続した群(継続群)で,前置レンズを用いた細隙灯顕微鏡検査での視神経乳頭縦径C/D(陥凹乳頭)比,Humphrey視野のMD(標準偏差)値,網膜神経線維層厚について比較検討した.II結果71例中16例(22.5%,男:女=5:11,年齢40.83歳,平均66±13歳)は投薬を中断した.ただし,中断した16例網膜神経線維層厚(μm12011010090807060中断継続中1例(男性,60歳)は,投薬中断後7カ月で眼圧が21mmHgに上昇し,高眼圧がその後も継続したので,点眼加療を再開した.この症例については,今回の解析から除外した.他の15例(21.1%,男:女=4:11,年齢40.83歳,平均66±13歳)に投与中断後経過中(経過観察期間1年.1年6カ月)に眼圧上昇や視野障害などの変化は認められなかった.中断群と継続群で性別(c2検定:p=0.135),年齢(継続群平均72±11歳,Mann-WhitneyUtest:p=0.07)で有意差を認めなかった.屈折については,中断群が平均.0.73±2.52D(.6.0.+6.0D),継続群が平均.1.35±3.90D(.15.5.+10.75D)で有意差を認めなかった(Mann-WhitneyUtest:p=0.08).隅角所見については,継続群にレーザー虹彩切開術の既往例のvanHerick法のGrade3,Sha.er分類のGrade2であった1例以外はすべてvanHerick法Grade4,Sha.er分類Grade4であった.中断群の初診時眼圧と中断後1カ月以内3回測定平均眼圧,6カ月後の眼圧の平均はそれぞれ13.1±1.9mmHgと13.4±2.2mmHg,13.6±1.9mmHgで初診時眼圧と比較しそ図3光干渉断層計での網膜神経線維層厚の緑内障治療薬中断症例と継続症例との比較れぞれ有意差を認めなかった(Wilcoxonsingleranktest:p=0.35,p=0.40).C/D比,MD値,網膜神経線維層厚について中断群と継続群で比較検討した結果を図1.3に示す.C/D比の再現性については,中断群15例30眼において,初診より1カ月以内3回の計測で3回とも同データであったものは26眼(87.6%)であった.使用したデータは初診時のものを対象にした.C/D比の平均は,中断群は0.61±0.16,継続群は0.69±0.22であり,両群間に有意差を認めなかった(Mann-WhitneyUtest:p=0.06).これに対し,Humphrey視野MD値について中断群(.1.49±2.2)は継続群(.9.37±9.2)に比べ有意に高く(Mann-WhitneyUtest:p<0.01),網膜神経線維層厚も中断群(94.6±15.8μm)は継続群(74.1±15.7μm)に比べ有意に厚かった(Mann-WhitneyUtest:p<0.01).(129)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131473III考按緑内障治療については,早期発見,早期治療が重要であることに疑う余地はない1).多治見スタディが報告されて以来,日本人における正常眼圧緑内障の症例が多いことが明らかとなってから2),特に成人病検診における眼底検査での視神経乳頭陥凹拡大が指摘される症例が多くなっていることは,緑内障の早期発見という観点からは非常に実りある成果と言うことができる.しかし,視神経乳頭陥凹拡大を診た場合に,緑内障治療を行うかどうかを迷う例がある.鑑別すべき疾患に,視神経乳頭異常や頭蓋内占拠性病変などがある3.5).いずれも眼圧正常で,視野は緑内障性の変化に紛らわしいものもあり,他の画像診断を要することがある.このような場合,緑内障としての治療を第一義的に行うことは避けるべきであり,原疾患の加療を第一に考えるべきである.今回の点眼を中断した症例のなかに,頭蓋内占拠性病変が見つかった症例はなかった.また,視神経乳頭陥凹拡大のみで,眼圧や視野に異常がなく,他の病変を否定される場合,将来の視野変化を予測すると,緑内障の治療を行うかどうかについては非常に迷うところである.今回,6カ月の短期間に初診にて前医で緑内障加療を行っていた症例を71例集めることができたのは,医院開業直後であるという特殊状況が背景にある.今回の検討結果についてもこの点が影響している可能性は否定できない.今回の検討では,71例中投与中断後7カ月経って眼圧の上昇をきたした1例を除く15例21.1%が緑内障治療薬の投与を不要と判断した.これらの症例では投与中止にても眼圧の平均が13.4mmHgとlowteenの状態であり,点眼加療していた初診時の眼圧13.1mmHgと比べ上昇しておらず,点眼加療自体に効果が低いあるいはなかったものと判断した.今回検討した症例の前の通院施設や中断群の投薬内容については,特定の施設や特定の薬物に偏る結果ではなかった〔前の通院施設数:17施設,投薬の種類:PG(プロスタグランジン)製剤,bブロッカー,合剤を含め全16種類〕が,前の施設からの紹介状なしに来院した症例がほとんどであることから,前医の処方を信じておらず点眼のアドヒアランスが悪かった可能性がある.しかし,問診においてはいずれの症例も点眼はしっかりと行っていたとのことであり,点眼休薬での眼圧上昇をきたさなかった理由は不明である.中断群のMD値や網膜神経線維層厚値は継続群に比べ有意に高く,ほぼ正常値を示していた.点眼中止を判断する基準として含まれた項目であるので,当然の結果であるが,眼圧が正常で,視神経乳頭陥凹拡大を診た際に,緑内障治療を行うかどうかの判断項目であると考えられる.今回の検討では,新薬の評価の際に前薬の影響を受けないとしてよく用いられている1週間を休薬期間として採用した.しかし,点眼薬の種類によっては,その影響が消失するのにさらなる期間が必要である可能性はある.そこで,本研究では休薬後6カ月での眼圧も初診時と比較検討したが,中断群では変化をきたさなかった.今回投薬中断後7カ月経って眼圧上昇をきたした症例が1例あったが,MD値右眼.0.04,左眼.0.8,網膜神経線維層厚右眼95μm,左眼90μmと正常範囲であるが,21mmHg以上の眼圧が継続したので高眼圧症として点眼加療を再開した.また,今回の観察期間は点眼中断後最長で1年6カ月であり,その間では点眼中止をした15例に眼圧上昇や視野変化は認められていない.しかし,中断が妥当であったかの判断にはさらなる長期経過観察や特異性の高い鋭敏な検出力のある検査が必要であると考えられる.今回の結果から,視神経乳頭陥凹拡大を診た際の緑内障の診断,治療開始時期については,経過観察を十分行ったうえで慎重に検討すべきと考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20043)中尾雄三:視神経乳頭形成異常(不全)と正常眼圧緑内障.神経眼科24:397-404,20084)中川哲郎,宮本麻紀,吉澤秀彦ほか:視交叉近傍病変の3例.臨眼57:587-591,20035)山上明子,若倉雅登,藤江和貴ほか:片眼の下方視野障害で発症した鞍結節髄膜腫の一例.神経眼科22:70-75,2005***1474あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(130)

小乳頭眼における網膜神経線維層厚と視野障害の相関

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(117)1439《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(10):1439.1443,2010cはじめに日本人においては開放隅角緑内障の約90%が正常眼圧緑内障であり1),その早期発見にはこれまでの眼圧測定に代わって視神経乳頭や乳頭周囲網膜を中心とした眼底検査が重要である.しかし小乳頭や視神経乳頭低形成では,緑内障性の変化の同定が困難で診断に苦慮することも少なくない.一方近年,眼底画像診断装置の発展は著しく,緑内障領域においても視神経乳頭形状や網膜神経線維層の定量的,客観的な測定が可能になってきている.代表的なものとして走査レーザーポラリメーター(LaserDiagnosticTechnologies,SanDiego,CA,USA,以下GDxVCC)や光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),共焦点走査レーザー眼底鏡(Heidelbergretinatomography:HRT)などがあり,緑内障診療における有用性が多数報告されている2~4).そこで今回はGDxVCCを用いて小乳頭眼における網膜神経線維層厚(RNFLT)と視野障害の相関を解析し,緑内障診断におけ〔別刷請求先〕高橋浩子:〒285-8765佐倉市江原台2-36-2聖隷佐倉市民病院眼科Reprintrequests:HirokoTakahashi,M.D.,SeireiSakuraCitizenHospital,2-36-2Eharadai,Sakura-shi,Chiba285-8765,JAPAN小乳頭眼における網膜神経線維層厚と視野障害の相関高橋浩子*1藤本尚也*2渡辺絵美*1田中梨詠子*1今井哲也*1山本修一*3*1聖隷佐倉市民病院眼科*2井上記念病院眼科*3千葉大学大学院医学研究院眼科学CorrelationbetweenRetinalNerveFiberLayerThicknessandVisualFieldLossinEyeswithSmallOpticDiscHirokoTakahashi1),NaoyaFujimoto2),EmiWatanabe1),RiekoTanaka1),TetsuyaImai1)andShuichiYamamoto3)1)DepartmentofOphthalmology,SeireiSakuraCitizenHospital,DepartmentofOphthalmology,2)InoueMemorialHospital,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine走査レーザーポラリメーター(GDxVCC)を用いて小乳頭眼における網膜神経線維層厚(RNFLT)と視野障害の相関を解析し,緑内障診断におけるその有用性を検討した.対象は緑内障精査を施行した小乳頭眼23例23眼.GDxVCCの乳頭周囲リング上のRNFLTの平均(TSNIT平均),その標準偏差(TSNIT標準偏差),nervefiberindicator(NFI)とHumphrey自動視野計中心30-2のmeandeviation(MD)値とpatternstandarddeviation(PSD)値との相関を検討した.またRNFLTの上・下の平均値と下・上半視野平均閾値との相関も解析した.TSNIT平均とMD値(r=0.441,p=0.035),PSD値(r=.0.606,p=0.0021)はそれぞれ有意な相関を示した.NFIとMD値,PSD値,および上・下RNFLT平均値と対応する半視野平均閾値も相関を認めた.23例中8例を原発開放隅角緑内障と診断した.RNFLT測定は眼底検査で診断がむずかしい小乳頭眼において緑内障の診断・鑑別に補助的な判断情報となりうることが示唆された.WeusedGDxVCCtoinvestigatethecorrelationbetweenretinalnervefiberlayerthickness(RNFLT)andvisualfieldlossin23patients(23eyes)withsmallopticdisc.ThefollowingRNFLTparametersweremeasuredandevaluated:TSNITaverage,TSNITstandarddeviation,nervefiberindicator(NFI),superioraverageandinferioraverage.UsingPearson’scorrelationcoefficientstest,westudiedthecorrelationbetweenGDxparametersandmeandeviation(MD),andthepatternstandarddeviation(PSD)oftheHumphrey30-2program.Wealsostudiedthecorrelationbetweensuperioraverageandlowervisualfields,andbetweeninferioraverageanduppervisualfields.AllexceptTSNITstandarddeviation,MDandPSDshowedsignificantcorrelation.Ofthe23eyeswithsmallopticdisc,glaucomawasdiagnosedin8eyesbyGDxVCC.RNFLTmeasurementsobtainedbyGDxVCCmightbeusefulfordiagnosingglaucomainpatientswithsmallopticdisc.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1439.1443,2010〕Keywords:GDxVCC,網膜神経線維層厚,小乳頭,緑内障,診断.GDxVCC,retinalnervefiberlayerthickness(RNFLT),smallopticdisc,glaucoma,diagnosis.1440あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(118)る有用性を検討した.I対象および方法1.対象2006年9月から2009年6月に聖隷佐倉市民病院眼科で緑内障精査を施行した症例のなかで小乳頭を有した23例23眼(男性15例,女性8例)を対象とした.年齢は41~87歳(平均62.7歳),等価球面度数は.12Dから+2.5D(平均.4.8D)であった.視神経乳頭径に対する視神経乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離の比(distancebetweenthecentersofthediscandthemacula/discdiameter:DM/DD比)をとり,DM/DD比が3.0以上を小乳頭と診断した5).DM/DD比の計測は散瞳下眼底撮影で得られた眼底写真をもとに算出した.対象23眼のDM/DD比の平均値は3.69±0.39(3.18~4.57)であった.内眼手術の既往,他の網膜疾患を有するものは除外した.緑内障の診断は緑内障診療ガイドライン6)に準じ,正常開放隅角かつ視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障性形態的変化を有し,それに対応した視野異常(Anderson基準)を伴う症例のうち他の疾患や先天異常を認めないものを原発開放隅角緑内障(広義)とした.また本研究ではGDxVCCによる網膜神経線維層厚の菲薄化を網膜神経線維層の障害とみなした.視神経乳頭所見と網膜神経線維層に特徴的な変化を有するものの,それに対応した視野欠損が認められない症例を緑内障疑いとした.上部視神経低形成(SSOH)は,上方乳頭辺縁部の菲薄化および上方網膜神経線維層欠損とそれに対応した下方視野欠損を呈する場合に診断した.鼻側視神経低形成は鼻側乳頭辺縁部および鼻側RNFLTの菲薄化とそれに対応した耳側視野欠損を呈する場合に診断した.傾斜乳頭は,乳頭の耳側および下方に傾斜がみられ,明らかな網膜神経線維層の菲薄化なしに上方に視野異常をきたした場合に診断した.2.方法GDxVCC,Humphrey自動視野計(HFA),散瞳下眼底撮影のすべての検査を6カ月以内に行った.GDxVCCの測定は,2人の検者が無散瞳下に直径3.2mmの乳頭周囲リング部のRNFLTを測定した,付属のソフトウェア(version5.5.0)にて測定スコア7以上のデータを採用し,標準的なパラメータであるTSNITaverage(乳頭周囲リング上のRNFLTの平均:以下TSNIT平均),superioraverage(上側120°象限内のRNFLTの平均),inferioraverage(下側120°象限内のRNFLTの平均),TSNITStd.Dev.(TSNIT平均の標準偏差),nervefiberindicator(NFI)を解析した.視野検査はHFA中心閾値30-2SITA-Standardを行い,視野指標のMD値,PSD値を解析対象とした.固視不良,偽陰性・偽陽性20%未満を採用した.各測定点の閾値を上下に分けてそれぞれの測定ポイントの合計を算出し,その合計値を測定ポイント(上下ともに38ポイント)で割った値をそれぞれ上半視野平均閾値,下半視野平均閾値として解析した.両眼のうち検査結果の信頼性の高いほうを解析対象とした.GDxVCCによるTSNIT平均とHFAのMD値,PSD値とのそれぞれの相関,TSNITStd.Dev.,NFIとHFAのMD,PSDとの相関,GDxVCCでのsuperioraverageとHFAの下半視野平均閾値との相関,GDxVCCのinferioraverageとHFAによる上半視野平均閾値との相関解析をそれぞれ行った.相関解析には,Pearsonの相関係数を求め危険率5%未満を統計学的有意とした.表1GDxVCC測定値とHFA測定値の相関(n=23)rpTSNIT平均vsMD値0.4410.035TSNIT平均vsPSD値.0.6060.0021NFIvsMD値.0.4890.018NFIvsPSD値0.5520.063Superioraveragevs下半視野平均閾値0.5610.0053Inferioraveragevs上半視野平均閾値0.4760.021TSNITStdDevvsMD値0.1370.53TSNITStdDevvsPSD値0.1830.40GDxTSNIT平均(μm)GDxTSNIT平均(μm)MD値(dB)PSD値(dB)ab-15-10-5-005101520806040200806040200図1GDxTSNIT平均とHFAMD・PSD値の相関(n=23)a:GDxTSNIT平均とHFAMD値は有意の相関が認められた(r=0.441,p=0.035).b:GDxTSNIT平均とHFAPSD値は有意の相関が認められた(r=.0.606,p=0.0021).(119)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101441II結果表1および図1~3に示すように,TSNIT平均とMD値の間,TSNIT平均とPSD値との間(図1a,b),NFIとMD値の間,NFIとPSD値の間(図2a,b),superioraverageと下半視野平均閾値の間,inferioraverageと上半視野平均閾値の間(図3a,b)にそれぞれ有意な相関を認めた.TSNITStd.Dev.とMD値,PSD値の間には相関を認めなかった.前述の診断基準に従って23例のうち,8例が開放隅角緑内障(広義)(図4),2例が緑内障疑い,2例がSSOH,1例が鼻側視神経低形成,4例が傾斜乳頭と診断された.その他の6例は高眼圧症1例,明らかな緑内障性視野変化を認めなかった3例,視野異常を認めるものの確定診断には至らなかった2例であった.III考按緑内障眼においては,HFAのMD値,PSD値とGDxVCCのすべてのパラメータで統計学的に有意な相関を示すことがすでに報告されている2,3).今回,緑内障性の変化の同定が困難で診断に苦慮することも少なくない小乳頭眼を対象に,GDxVCCの各パラメータと視野障害の相関を検討した結果,TSNIT平均およびNFIとHFAのMD値,PSD値の間で緑内障眼と同様に有意な相関が認められた.また徳田ら4)はGDxVCCとspectraldomainOCTによるRNFLTの解析の際に上下視野別の相関についても検討し,GDxVCCにおいてはsuperioraverageとHFAの下半視野平均閾値との相関がinferioraverageと上半視野平均閾値との相関に比べより有意であったとしている.その理由の一つとして乳頭周囲脈絡膜萎縮(parapapillaryatrophy:PPA)の存在をあげている.GDxVCCによるRNFLTの測定において,近視型乳頭では乳頭周囲リングがPPAにかかることがあり,この場合非典型的複屈折パターン(atypicalretardationpattern:ARP)が起こり,RNFLTの測定値が不正確になる可能性がある.このPPAは耳側,下耳側に高頻度で観察される7)ためinferioraverageと上半視野平均閾値との相関結果に影響した可能性があるとしている.今回の症例においても23例中7例で乳頭周囲リングがPPAにかかっていたためARPを認め,また上下RNFLTと視野との相関ではsuperioraverageとHFAの下半視野閾値のほうがより高い相関を示した.視神経低形成には,乳頭全体の低形成である小乳頭と部分低形成が知られている.一般に小乳頭は陥凹も小さく緑内障GDxNFIGDxNFIMD値(dB)PSD値(dB)ab-15-10-5-005101520120100806040200120100806040200図2GDxNFIとHFAMD・PSD値の相関(n=23)a:GDxNFIとHFAMD値は有意の相関が認められた(r=.0.489,p=0.018).b:GDxNFIとHFAPSD値は有意の相関が認められた(r=0.552,p=0.0063).GDxSuperioraverage(μm)GDxInferioraverage(μm)HFA下半視野平均閾値(dB)HFA上半視野平均閾値(dB)ab0510152025303505101520253035100806040200100806040200図3半視野における相関(n=23)a:GDxSuperioraverageとHFA下半視野平均閾値の相関(r=0.561,p=0.0053).b:GDxInferioraverageとHFA上半視野平均閾値の相関(r=0.476,p=0.021).1442あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(120)性の特徴的な所見がわかりにくく,乳頭変化が軽度に見えても広範な視野異常を伴っていることも多い.また,部分低形成には上方の視神経の低形成であるSSOHや鼻側視神経低形成などがあるが,これら低形成による視野異常と緑内障との鑑別は必ずしも容易ではなく,診断に苦慮することも多い8).Unokiら9)や高田ら10)は視神経低形成の診断においてOCTによるRNFLTの測定がその診断に非常に有用であったと報告している.今回対象となった小乳頭23例のうち診断を確定できた症例は開放隅角緑内障(広義)が8例,緑内障疑いが2例,SSOH2例,鼻側視神経低形成1例,傾斜乳頭4例であった.これら診断のついた13例のうち,緑内障3例,SSOH2例,鼻側視神経低形成1例の計6例では,乳頭所見が軽微であったり豹紋状眼底で網膜神経線維層欠損がわかりにくいなどで眼底所見とそれに対応する視野検査結果の同定が困難であったが,GDxVCCでは視野障害と一致するRNFLTの菲薄化を認めており,その測定結果が診断に特に有用であったといえる.Mederiosらは緑内障眼における画像解析の精度と乳頭サイズの影響を検討した結果,OCT,GDxVCCは乳頭解析のHRTに比し,小乳頭ほどその精度が向上し初期緑内障異常検出が優れていたとしている11).今回示した症例(図4)でもごく早期の緑内障性視野障害と一致するRNFLTの菲薄化をGDxVCCで認めた.また,今回の対象群では明らかな視野障害を認めない,またはごく軽度な視野障害のみを認める症例も含まれているが,網膜神経線維層と有意な相関を認めており,GDxVCCがRNFLTの軽微な変化を検出しえた可能性も考えられる.今回筆者らはRNFLTの計測にGDxVCCを用いたが,緑内障眼においてOCT,GDxVCC,HRTによるRNFLT測定値とMD値の相関を比較検討した結果,OCT,GDxVCC,HRTの順に有意な相関を示したとした報告もあり3),近年ではOCTによるRNFLTの計測が一般化してきている.しかしながら,何らかの理由でOCTによる測定が困難な環境下においてはGDxVCCによるRNFLTの計測結果も小乳頭眼における緑内障の補助診断の一助になりうると考えられた.以上,小乳頭眼におけるRNFLTと視野障害の相関を検討した結果,緑内障眼と同様にRNFLTと視野は有意に相関した.眼底検査で診断がむずかしい小乳頭眼において,緑内障やSSOHなどを含む視神経低形成の診断・鑑別の際,網膜神経線維層厚測定は補助的な判断情報となりうることが示唆された.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpriabdecf図4症例:70歳,男性,右眼DM/DD比が3.3の小乳頭であり(a,d),乳頭陥凹は垂直C/D0.6で乳頭耳側下方の辺縁部の菲薄化がみられる.HFA(b,e)では鼻側に3点以上連続した暗点,GDx(c,f)で下耳側に網膜神経線維層厚の菲薄化がみられ緑内障と診断した.(121)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101443maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)今野伸介,西谷直子,大塚賢二:緑内障眼における視野障害と新しいGDxAccessVCCによる網膜神経線維層厚の関係.眼臨98:276-278,20043)早水扶公子,山崎芳夫,中神尚子ほか:緑内障眼における網膜神経線維層厚測定値と緑内障性視神経障害との相関.あたらしい眼科23:791-795,20064)徳田直人,井上順,上野聰樹:GDxVCCRとCirrusHD-OCTRによる網膜神経線維層厚の解析─上下視野別の相関について─.あたらしい眼科26:961-965,20095)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia.Thediscmaculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).ActaOphthalmol65:612-617,19876)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20067)大久保真司:乳頭周囲網脈絡膜萎縮(PPA)と脈絡膜萎縮の違いと意味は?あたらしい眼科25:84-86,20088)藤本尚也:読影シリーズIVまぎらわしい例その1Discのアノマリーを伴う例.FrontiersinGlaucoma10:59-64,20099)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomographyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthalmol86:910-914,200210)高田祥平,新田耕治,棚橋俊郎ほか:Superiorsegmentaloptichypoplasiaを含む視神経低形成の2家系.日眼会誌113:664-672,200911)MedeirosFA,ZangwillLM,BowdCetal:Influenceofdiseaseseverityandopticdiscsizeonthediagnosticperformanceofimaginginstrumentsinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci47:1008-1015,2006***