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組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA;モンテプラーゼ)硝子体内投与による黄斑下血腫の治療経過

2019年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(11):1446.1450,2019c組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA;モンテプラーゼ)硝子体内投与による黄斑下血腫の治療経過園部秀樹*1篠田肇*1鴨下衛*1,2渡邊一弘*1栗原俊英*1永井紀博*1坪田一男*1小沢洋子*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2済生会中央病院眼科IntravitrealMonteplaseTissuePlasminogenActivator(tPA)TreatmentforSubmacularHemorrhageHidekiSonobe1),HajimeShinoda1),CMamoruKamoshita1,2),KazuhiroWatanabe1),ToshihideKurihara1),NorihiroNagai1),KazuoTsubota1)andYokoOzawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospitalC目的:黄斑下血腫を呈し組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)のモンテプラーゼを硝子体内投与された症例の経過を報告する.対象および方法:2015年C4月.2016年C9月に慶應義塾大学病院眼科において黄斑下血腫に対しCtPA硝子体内投与を施行し,3カ月以上経過観察されたC9例C9眼(男性C3例,平均年齢C78.7歳)を対象とした.(慶應義塾大学医学部倫理委員会承認20140356).結果:ポリープ状脈絡膜血管症C6例,網膜細動脈瘤C3例に対し,3例にCtPA硝子体内注射と空気注入,6例に硝子体手術中の空気置換後に硝子体腔へのCtPA滴下を施行した.すべての症例で黄斑下血腫は移動し,9例中C8例で視力が改善した.網膜細動脈瘤の全例で治療後硝子体出血を認めた以外の大きな合併症はなかった.結論:tPA硝子体内投与は,安全な黄斑下血腫の移動と視力改善を見込める可能性があり,汎用可能な治療法の選択肢の一つとなりえる.CPurpose:ToCreportCtheCclinicalCcourseCofCsubmacularhemorrhage(SMH)patientsCtreatedCbyCintravitrealCtis-sueCplasminogenactivator(tPA;monteplase)administration.CSubjectsandmethods:ThisCstudyCinvolvedC9CeyesCof9SMHpatients(3malesand6females;meanage:78.7years)treatedbyintravitrealtPAattheKeioUniver-sityHospital,Tokyo,JapanfromApril2015toSeptember2016andfollowed-upfor3monthsormorepostopera-tive.ThestudyprotocolwasapprovedbyEthicsCommitteeoftheKeioUniversitySchoolofMedicine(ApprovalNo.:20140356).CResults:Polypoidalchoroidalvasculopathywasobservedin6patients,andmacroaneurysmwasobservedCinC3Cpatients.CThreeCpatientsCunderwentCintravitrealCinjectionCofCtPACandCairConly,CwhileCtheC6CpatientsCunderwentthesametreatmentduringparsplanavitrectomy.SMHwasremovedinallpatients,andbest-correct-edvisualacuity(BCVA)wasimprovedin8ofthe9patients.Vitreoushemorrhageoccurredinall3patientswithmacroaneurysmCduringCtheCfollow-upCperiod,CyetCnoCotherCmajorCcomplicationsCwereCobserved.CConclusion:Our.ndingsshowthatintravitrealtPAadministrationissafeforremovingSMH,thatitmayimproveBCVA,andthatitcanbeconsideredatreatmentoptionintheclinicalsetting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(11):1446.1450,C2019〕Keywords:黄斑下出血,ポリープ状脈絡膜血管症,網膜細動脈瘤,組織型プラスミノーゲンアクチベーター.CSubmacularhemorrhage,polypoidalchoroidalvasculopathy,macroaneurysm,tissueplasminogenactivator.C〔別刷請求先〕園部秀樹:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HidekiSonobe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC1446(104)はじめに黄斑下血腫は,加齢黄斑変性や網膜細動脈瘤などの脈絡膜内・網膜下もしくは網膜内の血管性病変により引き起こされ,予防は困難であり予後不良である.最近では,ガス注入に加えCtissueplasminogenactivator(tPA,モンテプラーゼ)を投与することで血腫を移動させる治療が行われるが,治療を行える施設が限られているのが現状である.早期治療が重要であることを考えるとより多くの施設が行える方法が普及することが望ましい.筆者らは,黄斑下血腫に対し,特別なデバイスを用いずに比較的簡便な手法でCtPAを硝子体内投与した症例の治療成績を報告する.CI背景黄斑下血腫はポリープ状脈絡膜血管症をはじめとする加齢黄斑変性や網膜細動脈瘤などに伴って発症し,恒久的視力障害をきたしうる病態である.1980年代にCdeJuanらは硝子体手術により意図的網膜裂孔から物理的に血腫を除去する手法を報告したが,視力改善は乏しく,増殖硝子体網膜症などの合併症が問題であった1).1991年にはCPaymanらが,3例の加齢黄斑変性による黄斑下血腫に対して小切開で網膜下にtPAを注入し,1例で視力が改善したと報告した2).初めての視力改善の報告であった.tPAはフィブリン親和性が高く,血栓に特異的に吸着し血栓上でプラスミノーゲンをプラスミンに転化させ,フィブリンを分解し,血栓を溶解する薬剤である.1994年には硝子体手術中に,網膜下にC33CG針でtPAを注射し,逆流を防止するために空気も注入したうえで,網膜を切開し血腫除去を行ったという報告があった3).その後は網膜下注入針の工夫が続けられ,33CG3),36CG4),C39CG5)などの特別な針を用いた報告が相ついだ.2015年にはCKadonosonoらが外径C50Cμmという非常に細いマイクロニードルでCtPAと空気を網膜下に注入しセミファーラー位にすることで,13例全例で血腫が移動し,11眼で視力が改善したという良好な成績を報告した6).一方,tPAを使わずに血腫移動を図る方法も報告された7).Ohjiらは,CC3F8(八フッ化プロパン)ガスを硝子体腔に注射する方法ではC5例中C2例で硝子体手術の追加を要したが,全例で最終的には視力が改善したと報告した7).簡便な方法ではあるが,発症からの時期によっては血腫の移動が困難である可能性があり,日常診療においては血腫を溶解するCtPAの投与を必要とする症例があるのも事実である.その後,HillenkampらがCtPAを硝子体手術中に硝子体内と網膜下のいずれに入れたほうが血腫移動の可能性が高いかを検証したところ,網膜下であることが示された8).ただし,これには特別な網膜下注入針が必要である.この方法は,tPAが適応外使用であり倫理委員会の審査が必要となることに加え,硝子体手術ができる施設のなかでも,特別なデバイスや技術が必要であるため,限られた施設でのみ行われる治療にとどまっている.網膜や網膜色素上皮に対する影響を考えると,黄斑下血腫は発症後なるべく早期に治療することが好ましく,多くの施設で行える手法が普及すれば日常診療に役立つはずである.そこで,筆者らが行った黄斑下血腫に対する比較的簡便なtPA硝子体内投与の治療成績を報告する.CII対象および方法症例はC2015年C4月.2016年C9月に慶應義塾大学病院眼科において黄斑下血腫に対しCtPAの硝子体内投与を施行し,3カ月以上経過観察されたC9例C9眼である.原因疾患は,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)6例C6眼,網膜細動脈瘤C3例C3眼であった.男性C3例3眼,女性C6例C6眼であり,年齢はC67.89歳(平均C78.7C±8.0歳)であった.いずれも書面によるインフォームド・コンセントを得て治療された(慶應義塾大学医学部倫理委員会承認20140356).C1.術式最初の連続C3例に対しては,硝子体手術は行わずに,tPA(物質名モンテプラーゼ;商品名クリアクターCR,60,000CIU/250Cμl)と空気C0.2.0.4Cmlをそれぞれ硝子体内に注入した.ポビドンヨードにて結膜.を消毒後,輪部からC3.5Cmmの位置から市販のC30CG針を用いて注射を行った.いずれの症例も有硝子体眼であり,前房穿刺にて眼圧を調整した.投与後24時間は腹臥位を維持させた.その後の連続C6例に対しては,水晶体再建術併用硝子体切除術中,空気置換の後にCtPA(60,000CIU/100Cμl)を硝子体腔に滴下し,10分程度留置した後に手術を終了とした.術後体位は日中座位,夜間はセミファーラー位とした.C2.眼科的検査経過中には通常の最高矯正視力(best-correctedCvisualacuity:BCVA)・眼圧の測定や細隙灯顕微鏡・眼底検査などの眼科的検査に加え,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT),CSpectralis,CHeidelbergCEngineering,CDossenheim,Germany)による黄斑部の観察も行われた.なお,眼底造影検査は行っておらず,血腫の原因疾患の診断は検眼鏡所見およびCOCT所見により行った.中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT)はCOCTに内蔵されたスケールを用いて測定した.CIII結果tPA投与後,OCT上,すべての症例で投与治療後に血腫が中心窩下から移動した.移動にかかった日数はC7.65日,平均C27.6C±20.7日であった(表1).また,全症例の平均表1術前と術後3カ月の経過症例治療法原疾患性別年齢発症から投与までの期間(日)BCVA〔logMAR(decimal)〕CRT(Cμm)投与から黄斑下血腫移動の期間(日)備考投与前投与後投与前投与後C1注射CPCVCFC89C141.15[C0.07]1.22[C0.06]C425C241C8C2注射CPCVCMC67C350.30[C0.5]C.0.08[C1.2]C525C150C12C3手術CPCVCFC74C41.00[C0.1]0.15[C0.7]C1,080C375C12C4手術CPCVCMC85不明0.70[C0.2]1.00[C0.1]C275C320C45陳旧化症例C5手術CPCVCMC69C311.05[C0.09]1.00[C0.1]C858C90C45症例提示C6手術CPCVCFC76C63.00[s.l.(+)]0.30[C0.5]C1,215C122C7C7注射CMACFC79C62.00[C0.01]1.10[C0.08]C883C211C19硝子体出血自然消退C8手術CMACFC75C21.05[C0.09]0.22[C0.6]C1,150C177C35硝子体出血に対して術後C1カ月で硝子体手術C9手術CMACFC89C31.30[C0.05]0.82[C0.15]C1,167C200C65硝子体出血に対して術後C1カ月で硝子体手術図1tPA投与後の最高矯正視力(BCVA)と中心窩網膜厚(CRT)の推移全症例の平均CBCVA(logMAR)は投与前C1.28C±0.26,投与後C1週間C1.38C±0.33,1カ月C0.88C±0.23,3カ月C0.64C±0.16,6カ月0.52C±0.11,12カ月C0.43C±0.16であった(Ca).平均CRTは投与前(n=9)842C±117.5Cμm,投与後C1週間(n=9)C353±120.8Cμm,1カ月(n=9)208C±24.3Cμm,3カ月(n=9)210C±30.6μm,6カ月(n=8)223C±56.6μm,12カ月(n=7)235C±66.7Cμmであった(Cb).BCVA(logMAR)は投与前C1.28C±0.26,投与C1週間後C1.38C±0.33,1カ月後C0.88C±0.23,3カ月後C0.64C±0.16,6カ月後C0.52C±0.11,12カ月後C0.43C±0.16であった(図1a).平均CCRTは投与前C842C±117.5Cμm,投与C1週間後C353C±120.8μm,1カ月後C208C±24.3Cμm,3カ月後C210C±30.6Cμm,6カ月後C223C±56.6μm,12カ月後C235C±66.7μmであった(図1b).なお,投与後C3カ月までのデータがあったが,6カ月,12カ月後のデータはそれぞれC8例,7例のものであり,それ以外は他院への紹介のため通院中断となっていた.C1.各症例の推移症例C1.6はCPCVであり,症例C7.9は網膜細動脈瘤であった.また,硝子体手術を行わずに硝子体内投与を行った症例は症例C1,2とC7であり,硝子体手術中にCtPAを投与した症例は症例3.6と8,9であった(表1).投与後の経過中の最高CBCVAは,9例中C8例で投与前と比べてC0.2ClogMAR以上改善した.投与後にCBCVAが一度改善した後,増悪した例や,投与後時間がたってからCBCVAが改善した症例もあった(図1a).一方,すべての症例で投与後早期からCCRTは低下した.ただしC1例(症例4)では一度低下したのち,最終観察時まで増加した(図1b).C2.投与前と投与後3カ月の比較各症例の投与前と投与C3カ月後のデータを比較した(表1).投与C3カ月後では,1例(症例4)を除いて視力は維持以上であり,0.2ClogMAR以上改善していたのはC6例であった.視力が低下した症例C4では投与治療以降にCPCVに伴う滲出性変化の再発があり,CRTはむしろ増加した.一方,網膜細動脈瘤ではいずれの症例も投与後に硝子体出血をきたした.1例(症例7)は自然軽快し,残りC2例(症例8,9)は術後C1カ月の時点で硝子体切除術を施行した.3例(106)ab術前術後1カ月術後12カ月図2症例提示(症例5)Ca:術前の眼底写真.中心窩近傍のCPCVが破綻し,アーケード内C5.6乳頭径の黄斑を含む網膜下出血を呈していた.b:術後速やかに黄斑下血腫は移動しており,視力もそれに伴って改善した.ともにCtPA投与後C1カ月後にはCCRTは減少し,黄斑下出血は消失し,BCVAは改善した.tPA投与の際に硝子体手術を併施したか否かにかかわらず,黄斑下血腫は速やかに移動した.C3.合併症網膜細動脈瘤C3例中C3例で投与後に硝子体出血を生じ,そのうちC2例で硝子体切除術を要したが,裂孔原性網膜.離や黄斑円孔といった大きな合併症はみられなかった.なお,硝子体出血により再手術を要したC2例も術後の視力は改善した.観察期間中,眼圧が上昇した例や黄斑下血腫が再発した例はなかった.C4.症.例.提.示(症例5)69歳,男性.2016年C5月中旬に左眼視力低下を自覚した.同年C6月初旬に近医を受診して左眼の網膜下出血と診断され,当院を紹介受診し,左眼水晶体再建術併用硝子体切除術を施行され,術中にCtPAを硝子体内に滴下された.矯正視力は初診時C0.09(1.05logMAR),手術C1週間後C0.04(1.40ClogMAR),1カ月後C0.04(1.40ClogMAR),3カ月後C0.1(1.00logMAR),6カ月後C0.20(0.70logMAR),12カ月後0.20(0.70ClogMAR)であった.術後速やかに黄斑下血腫は移動しており,視力もそれに伴って改善した(図2).CIV考按本報告では,黄斑下血腫に対し網膜下注入針のような特別なデバイスを用いずに一般に普及した設備を用い,硝子体手術の経験を問わない比較的簡便な手法でCtPAを硝子体腔に投与した結果を示した.投与後速やかに黄斑下血腫は移動し,9例中C8例で視力は改善した.近年報告された網膜下注入針によるCtPA投与法は,高価なデバイスを準備し,硝子体手術にきわめて熟達した者が行うものであった.しかし,黄斑下血腫は急性発症し,かつ網膜への影響を考えると発症後可及的速やかに処置したい状態であることから,全国のさまざまな施設で対処可能な方法を普及することは,患者の予後改善のために重要であると考えられる.そこで,筆者らは硝子体内投与という方法を選択した.さらに硝子体手術を施行しない場合でも,tPAを硝子体内投与することによる効果が見込める可能性を示した.原因疾患にはCPCVと網膜細動脈瘤があり,黄斑下血腫の移動という面からはほぼ同様の結果であると考えられたが,視力予後については,PCVでは黄斑下血腫移動後の滲出性変化の再発による影響,黄斑下血腫発症以前のCPCVによる黄斑部変性による影響があると考えられた.一方,網膜細動脈瘤ではC3例中全例で術後硝子体出血があった.これは網膜細動脈瘤の出血源が網膜内層にあり,移動した出血が硝子体腔に達しやすいことと,硝子体腔から出血源および血腫への距離が近く,病巣に対するCtPAの効果が高くなり,より速やかに多くの血腫が溶解されたことが原因として考えられる.しかし,網膜下の出血は網膜視細胞や網膜色素上皮に悪影響を引き起こすのに対し,硝子体出血はその懸念が低くなり,さらに硝子体手術により除去しやすいことから,むしろ視力予後には良い方向に働く可能性がある.硝子体手術中投与では,硝子体腔を全空気置換するため病巣に達するCtPAの濃度が高くなり,より良い血腫溶解を得られる可能性があった.また,元来視力に対する影響は白内障より黄斑下血腫のほうが大きいと考えられるが,手術症例では白内障手術併施が可能であり,より視機能改善につながった可能性があった.さらには術前からあった硝子体出血を取り除くことが可能であった.本報告では,症例数が比較的少なく原因疾患が複数あるという限界はあったものの,tPAの硝子体内投与による効果と安全性の可能性が示された.CV結語黄斑下血腫に対しCtPAを比較的簡便な手法で硝子体内投与した症例の経過を報告した.網膜下の血腫を安全に移動させることができ,視力改善が見込める可能性があることから,tPAの硝子体内投与は黄斑下血腫の治療法の選択肢の一つとして提案された.文献1)deJuanEJr,MachemerR.:Vitreoussurgeryforhemor-rhagicCandC.brousCcomplicationsCofCage-relatedCmacularCdegeneration.AmJOphthalmol105:25-29,C19882)PeymanGA,NelsonNCJr,AlturkiWetal:Tissueplas-minogenCactivatingCfactorCassistedCremovalCofCsubretinalChemorrhage.OphthalmicSurg22:575-582,C19913)LewisH:IntraoperativeC.brinolysisCofCsubmacularChem-orrhageCwithCtissueCplasminogenCactivatorCandCsurgicalCdrainage.AmJOphthalmol118:559-568,C19944)HaupertCL,McCuenBW2nd,Ja.eGJetal:Parsplanavitrectomy,CsubretinalCinjectionCofCplasminogenCactivator,Cand.uid-gasexchangefordisplacementofthicksubmac-ularChemorrhageCinCage-relatedCmaculardegeneration.CAmJOphthalmol131:208-215,C20015)OlivierCS,CChowCDR,CPackoKH:SubretinalCrecombinantCtissueCplasminogenCactivatorCinjectionCandCpneumaticCdis-placementofthicksubmacularhemorrhageinage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology116:1201-1208,C20046)KadonosonoCK,CArakawaCA,CYamaneCSCetal:Displace-mentCofCsubmacularChemorrhagesCinCage-relatedCmacularCdegenerationwithsubretinaltissueplasminogenactivatorandair.Ophthalmology122:123-128,C20157)OhjiCM,CSaitoCY,CHayashiCACetal:PneumaticCdisplace-mentCofCsubretinalChemorrhageCwithoutCtissueCplasmino-genactivator.ArchOphthalmol116:1326-1332,C19988)HillenkampCJ,CSurguchCV,CFrammeCCCetal:ManagementCofCsubmacularChemorrhageCwithCintravitrealCversusCsub-retinalinjectionofrecombinanttissueplasminogenactiva-tor.GraefesArchClinExpOphthalmol248:5-11,C2010***

漿液性網膜剝離および網膜細動脈瘤を認めたサルコイドーシスの3症例

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1625.1628,2017c漿液性網膜.離および網膜細動脈瘤を認めたサルコイドーシスの3症例坂井摩耶*1大野新一郎*1江内田寛*1沖波聡*2*1佐賀大学医学部眼科学講座*2倉敷中央病院眼科CSerousRetinalDetachmentandRetinalMacroaneurysminThreeCasesofSarcoidosisMayaSakai1),ShinichirouOono1),HiroshiEnaida1)andSatoshiOkinami2)1)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital目的:漿液性網膜.離および網膜細動脈瘤を認めたサルコイドーシスC3症例の報告.症例:症例C1はC68歳,女性.ぶどう膜炎と漿液性網膜.離を生じ紹介受診.テント状周辺虹彩前癒着(PAS),数珠状硝子体混濁,網膜動静脈炎,網膜細動脈瘤を認め,サルコイドーシスと診断.トリアムシノロンCTenon.下注射(STTA)を施行し,漿液性網膜.離は改善した.症例C2はC63歳,女性.網膜細動脈瘤,漿液性網膜.離が出現し,その後CPAS,数珠状硝子体混濁,網膜動静脈炎を認め紹介受診.サルコイドーシスの診断でCSTTA,プレドニゾロン内服を施行し,漿液性網膜.離は改善した.症例C3はC81歳,女性.右眼瞼下垂の精査で紹介受診.隅角結節,網膜動静脈炎,漿液性網膜.離,網膜細動脈瘤を認めた.サルコイドーシスの診断で,ステロイド点眼にて改善傾向である.結論:漿液性網膜.離および網膜細動脈瘤を伴うぶどう膜炎をみた場合,サルコイドーシスも鑑別にあげる必要がある.CWeCreportC3CcasesCofCsarcoidosisCwithCserousCretinalCdetachmentCandCretinalCmacroaneurysm.CCaseC1,CaC68-year-oldfemale,wasreferredtousforserousretinaldetachmentwithuveitis.Shehadtent-shapedperipheralanteriorsynechia(PAS)C,vitreousopacities,retinalvasculitisandretinalmacroaneurysm.Serousretinaldetachmentimprovedaftersub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonide(STTA)C.Case2,a63-year-oldfemale,wasreferredtoCusCforCuveitisCwithCPAS,CvitreousCopacitiesCandCretinalCvasculitis,CinCadditionCtoCretinalCmacroaneurysmCandCserousretinaldetachment.STTAandoralprednisoloneresultedinimprovementoftheserousretinaldetachment.CaseC3,CanC81-year-oldCfemaleCreferredCtoCusCforCinvestigationCofCblepharoptosis,CturnedCoutCtoChaveCuveitisCwithCtrabecularmeshworknodules,retinalvasculitis,serousretinaldetachmentandretinalmacroaneurysm.SkinbiopsydemonstratedCsarcoidosis.CIntraocularCin.ammationCimprovedCwithCbetamethasoneCeyedrops.CUveitisCwithCserousCretinaldetachmentandretinalmacroaneurysmmaybecausedbysarcoidosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(11):1625.1628,C2017〕Keywords:サルコイドーシス,漿液性網膜.離,網膜細動脈瘤.sarcoidosis,serousretinaldetachment,retinalmacroaneurysm.Cはじめにサルコイドーシスは非乾酪性類上皮細胞肉芽腫病変であり,多臓器に症状を呈する疾患である1).眼所見として汎ぶどう膜炎を認めるが,漿液性網膜.離や網膜細動脈瘤を合併するのはまれである2,3).今回,筆者らは,漿液性網膜.離および網膜細動脈瘤を同時に認めたサルコイドーシスのC3例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕68歳,女性.主訴:両眼霧視.既往歴:高血圧,上室性期外収縮.現病歴:2010年C3月に両眼ぶどう膜炎と診断され,ベタメタゾン点眼で加療されていたが,2013年C2月に左眼漿液〔別刷請求先〕坂井摩耶:〒849-8501佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MayaSakai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1,Nabeshima,Saga849-8501,JAPAN図1症例1の初診時所見上:左眼眼底写真,フルオレセイン蛍光眼底造影:網膜細動脈瘤(.)を認めた.下:OCT.黄斑部に漿液性網膜.離(.)を認めた.性網膜.離を認めたため,同年C3月に佐賀大学医学部附属病院(以下,当院)紹介となった.初診時眼所見:視力は右眼C0.7(矯正不能),左眼C0.3(矯正不能).眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C16CmmHg.前眼部は両眼毛様充血,微細角膜後面沈着物,前房内Ccell(+),フレア(+),隅角に周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorCsyn-echia:PAS)を認めた.隅角は狭隅角であった.眼底は両眼数珠状硝子体混濁,網膜動静脈炎,網膜細動脈瘤,周辺部の網脈絡膜滲出物,左眼黄斑部に漿液性網膜.離を認めた(図1).フルオレセイン蛍光眼底造影では早期相で網膜細動脈瘤からの漏出と脈絡膜の充盈遅延を認めた.全身検査所見:ツベルクリン反応陰性,胸部単純CX線検査および胸部CCTで肺門リンパ節腫脹(BHL),気管支鏡肺生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.経過:サルコイドーシスと診断し,両眼にベタメタゾン点眼を継続しながら,まず左眼にトリアムシノロンCTenon.下注射(sub-tenonCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonide:STTA)20Cmgを施行したところ,2カ月後には漿液性網膜.離,網膜細動脈瘤は消失した.2013年C6月に眼圧が右眼22CmmHg,左眼C26CmmHgと上昇したため,ドルゾラミド点眼,ブナゾシン点眼を追加した.ぶどう膜炎は鎮静化していたため,狭隅角による影響も考え,2013年C9月に左眼超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術,2013年C12月に右眼超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した.術後に両眼とも前部ぶどう膜炎,網膜静脈炎が再燃したため,両眼にCSTTA20mgを施行し,プレドニゾロン(以下,PSL)内服をC20Cmgより開始した.PSLを漸減しながら経過観察し,ぶどう膜炎が沈静化したため,2014年C5月にCPSL内服を中止したところ,2015年C7月に今度は右眼漿液性網膜.離を生じた.右眼にCSTTA20Cmgを施行し,2015年C9図2症例2の初診時所見上:左眼眼底写真とフルオレセイン蛍光眼底造影.網膜細動脈瘤(.)と耳下側に網脈絡膜滲出物(→)を認めた.下:OCT.黄斑部と耳下側周辺部に漿液性網膜.離(.)を認めた.月には漿液性網膜.離は消失したが,ステロイドによる眼圧上昇をきたし,ビマトプロスト点眼,ブリンゾラミド/チモロール点眼,ブリモニジン点眼,リパスジル点眼で眼圧コントロールが不可能となったために右眼線維柱帯切開術を施行した.現在はC0.1%フルオロメトロン点眼のみでぶどう膜炎および漿液性網膜.離は沈静化し,眼圧も下降している.〔症例2〕63歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:脂質異常症,大動脈石灰化.現病歴:2015年C8月に近医で左眼漿液性網膜.離,網膜細動脈瘤を指摘された.そのC4日後に初めて汎ぶどう膜炎と診断され,当院紹介となった.初診時眼所見:視力は右眼C1.2(矯正不能),左眼C0.2(矯正不能).眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C13CmmHg.前眼部は左眼微細角膜後面沈着物,前房内Ccell(2+),フレア(+),隅角にCPAS,隅角結節を認めた.眼底は左眼に数珠状硝子体混濁,網膜動静脈炎,網膜細動脈瘤,黄斑部に漿液性網膜.離,耳下側周辺部に滲出性病変を認めた(図2).フルオレセイン蛍光眼底造影では,網膜細動脈瘤および滲出性病変からの漏出および脈絡膜の充盈遅延を認めた.全身検査所見:ツベルクリン反応陰性,胸部単純CX線検査および胸部CCTでCBHLを認めた.経過:気管支鏡肺生検では肉芽腫は指摘できなかったものの,気管支肺胞洗浄でCCD4/CD8比がC6.23と高値であり,サルコイドーシスと臨床診断した.左眼ベタメタゾン点眼を開始し,2015年C9月にCSTTA20Cmgを施行したものの,ぶどう膜炎の改善に乏しかったため,2015年C11月よりCPSL30mg内服を開始した.治療を開始してC5カ月後には漿液性網膜.離,網膜細動脈瘤はともに消退し,網膜動静脈炎も鎮静化したものの,黄斑上膜の出現を認めている.〔症例3〕81歳,女性.主訴:右眼瞼下垂.既往歴:脳血管CParkinson症候群,高血圧.現病歴:2015年C10月に右眼瞼下垂を自覚した.近医で精査を受けるも原因不明であったため,同年C11月に当院紹介となった.初診時眼所見:視力は右眼C0.4(0.6C×.1.00D),左眼C0.15(0.2×+1.00D).眼圧は右眼C12mmHg,左眼C13mmHg.眼位,眼球運動,対光反応は異常なく,右眼瞼下垂を認めた.前眼部は両眼に前房内Ccell(2+),フレア(+),隅角にPAS,隅角結節を認めた.眼底は両眼に数珠状硝子体混濁,網膜動静脈炎,黄斑部に漿液性網膜.離を認め,右眼には網膜細動脈瘤,周辺部の網脈絡膜滲出物を認めた(図3).フルオレセイン蛍光眼底造影では網膜細動脈瘤,周辺部の網脈絡膜滲出物からの漏出を認めた.全身検査所見:ツベルクリン反応陰性,胸部単純CX線検査および胸部CCTでCBHL,皮膚生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.経過:神経サルコイドーシスによる右眼瞼下垂と判断し,両眼にベタメタゾン点眼を開始した.ぶどう膜炎の診断は今回が初めてであった.点眼のみで眼瞼下垂は改善し,硝子体混濁,網膜動静脈炎および漿液性網膜.離,網膜細動脈瘤は消退傾向にある.CII考按一般的にサルコイドーシスは非乾酪壊死性の肉芽腫性病変を全身に生じる原因不明の慢性炎症である.眼所見として肉芽腫性ぶどう膜炎が生じ,前部ぶどう膜炎,角膜後面沈着物,隅角・虹彩結節,PAS,数珠状硝子体混濁,網脈絡膜滲出物,網膜静脈周囲炎が特徴的な所見である4).今回の症例は通常の所見とは異なり,網膜細動脈瘤と漿液性網膜.離を伴っていた.症例C1とC3は組織診断群,症例C2は臨床診断群の基準からサルコイドーシスと診断した.網膜細動脈瘤は一般的にC60歳以上の高血圧や動脈硬化性疾患を有する女性に好発するが5),サルコイドーシスへの合併頻度はC2.3.8.8%と少ない6).Yokoiらはサルコイドーシスに合併する網膜細動脈瘤は両眼性,多発性が多く,7例中6例は発症からC3年以上経過した慢性期に合併していたが,1例ではぶどう膜炎の初発時から認めたと報告している6).また,Yamanakaらは網膜細動脈瘤を認めたぶどう膜炎C14例中C5例(35.7%)が周辺部の網脈絡膜滲出物を伴うサルコイドーシスであったとしている7).筆者らの症例はすべて片眼性で,症例C3以外は単発性の病変であった.また,すべて急性期のサルコイドーシスに合併し,症例C1とC3では周辺部の網脈絡膜滲出物を伴っていた.通常,網膜細動脈瘤は高血圧などによる慢性的な血管壁の透過性亢進,内皮障害が生じて形成されるが,非常に強い炎症が生じた際には短期間に血管壁が障害され動脈瘤が生じると考えられる.また,サルコイドーシスに合併する網膜細動脈瘤には心疾患の有無も関連しているとの報告もあり8),もともと血管の脆弱性が関与しているとも考えられる.今回の症例はすべて動脈硬化性疾患図3症例3の初診時所見上:右眼眼底写真.網膜細動脈瘤(.)を認めた.中,下:OCT.両眼の黄斑部に漿液性網膜.離(.)を認めた.表1各症例のまとめ症例年齢(歳)性別高血圧心疾患網膜細動脈瘤の合併眼(数)漿液性網膜.離の合併眼C1C68女性++(心室期外収縮)左眼(1)両眼C2C63女性C.+(大動脈石灰化)左眼(1)左眼C3C81女性+.右眼(2)両眼や心疾患を伴うC60歳以上の女性であり,網膜細動脈瘤を好発しやすい特徴を備えているが,ステロイド加療によって消失していることから,炎症が関連した病態と推測される.網膜細動脈瘤は自然消退するものも報告されており7),今回のようにレーザー光凝固は施行せずに経過観察でよいと考える.さらに,今回の症例では漿液性網膜.離も合併していた.活動期のサルコイドーシスに漿液性網膜.離を合併した過去の報告では,ステロイドの関与や脈絡膜肉芽腫に伴うものがあるが9,10),今回の症例はすべてステロイドの全身投与歴はなく,光干渉断層計では脈絡膜肉芽腫は認めていない.また,網膜細動脈瘤との連続も明らかではなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で漏出のあった部位へ網膜レーザー光凝固術を施行して漿液性網膜.離の改善を得た症例もあるが3),今回の症例では漏出部位は認めなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では症例C1,2において脈絡膜の充盈遅延があり,活動性のぶどう膜炎によって脈絡膜循環障害,網膜色素上皮の障害を生じて漿液性網膜.離を生じたと考えられる.網膜細動脈瘤,漿液性網膜.離を合併するぶどう膜炎をみた場合にサルコイドーシスの可能性も考慮する必要があり,今後の症例の蓄積でさらに病態の理解を深める必要がある.文献1)石原麻美:サルコイドーシス.眼科臨床エキスパート所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩編).p127-133,医学書院,20132)大谷壮志,後藤浩,坂井潤一ほか:網膜細動脈瘤を合併したサルコイドーシスのC4例.臨眼C57:989-992,C20033)清武良子,沖波聡,石川慎一郎ほか:漿液性網膜.離を認めたサルコイドーシスのC2症例.眼科C54:1071-1076,C20124)望月學:サルコイドーシスに伴うぶどう膜炎の診断と治療.日サ会誌C24:11-19,C20045)RabbMF,GaglianoDA,TeskeMP:Retinalarterialmac-roaneurysms.SurvOphthalmolC33:73-96,C19886)YokoiK,OshitaM,GotoH:Retinalmacroaneurysmasso-ciatedwithocularsarcoidosis.JpnJOphthalmolC54:392-395,C20107)YamanakaE,OhguroA,KubotaAetal:Featuresofreti-nalarterialmacroaneurysmsinpatientswithuveitis.BrJOphthalmolC88:884-886,C20048)RothovaCA,CLardenoyeCC:ArterialCmacroaneurysmsCinCperipheralCmultifocalCchorioretinitisCassociatedCwithCsar-coidosis.OphthalmologyC105:1393-1397,C19989)WattsCPO,CMantryCS,CAustinCM:SerousCretinalCdetach-mentCatCtheCmaculaCinCsarcoidosis.CAmCJCOphthalmolC129:262-264,C200010)ModiCYS,CEpsteinCA,CBhaleeyaCS:MultimodalCimagingCofCsarcoidCchoroidalCgranulomas.CJCOphthalCIn.ammCInfectC3:58-61,C2013***