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マウス網膜障害に対する無電極ランプ(エコループ)と白色LEDの比較検討

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):749.753,2017cマウス網膜障害に対する無電極ランプ(エコループ)と白色LEDの比較検討久世祥己*1中村真帆*1矢古宇智弘*1國弘主税*2嶋澤雅光*1原英彰*1*1岐阜薬科大学薬効解析学研究室*2株式会社プラスアルファーComparisonofRetinalDamageInducedbyElectrodelessLampandWhiteLedinMiceYoshikiKuse1),MahoNakamura1),TomohiroYako1),ChikaraKunihiro2),MasamitsuShimazawa1)andHideakiHara1)1)MolecularPharmacology,DepartmentofBiofunctionalEvaluation,GifuPharmaceuticalUniversity,2)PlusalphaCo.,Ltd.近年,省エネ効果を期待してテレビ,パソコン,スマートフォン,タブレット,照明などにLEDが普及しているが,ブルーライトが多く含まれており,その眼に及ぼす影響が懸念されている.一方で,最近では新たな照明器具として無電極ランプが開発されている.これは,青色光をあまり含まないことが知られている.そこで,本検討では白色LED光と無電極ランプ(エコループ)の網膜障害への影響を,同ルクス条件下にてマウスに光曝露を行うことにより比較検討した.その結果,無電極ランプによる網膜障害は,白色LED光による網膜障害に比べて弱いことが明らかになった.本結果より,無電極ランプはLEDよりも眼に障害が少ないことが期待できることから,照明のための新たな光源として有用である可能性が示唆された.Recently,thelight-emittingdiode(LED)hasbecomecommonforlighting,televisions,personalcomputers,smartphonesandsoon.TheLEDemitsthemuchofbluelight.Thereisconcernregardingitse.ectsupontheeye.Ontheotherhand,theelectrodelesslamphasbeendevelopedasanewlightsource.TheamountofbluelightemittedbytheelectrodelesslampislessthanthatemittedbyLEDs.Thepresentstudyusingmicecomparedreti-naldamagebetweenelectrodelesslampandwhiteLEDatthesameilluminationintensity.Resultsshowedthatret-inaldamagefromtheelectrodelesslampwasmilderthanthatfromthewhiteLED.Insum,lightfromtheelectro-delesslampmaybemildertotheeyesthanlightfromthewhiteLED.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):749.753,2017〕Keywords:発光ダイオード,無電極ランプ,白色LED,網膜障害.light-emittingdiode(LED),electrodelesslamp,whiteLED,retinaldamage.はじめに近年,テレビ,パソコン,スマートフォン,タブレットなどの液晶ディスプレイが普及してきており,これらから青色光(ブルーライト)が多く発せられていることは知られている.可視光線のなかでもブルーライトは440.500nmの短波長の光であり,紫外線の波長に近く,高エネルギーであることから,眼に及ぼす影響が懸念されている.一方,実際には青色LED(light-emittingdiode)光による眼に対する影響およびその機序はいまだ明らかにされていない部分が多い.2014年,筆者らは青色LED光が,緑色LED光よりも活性酸素の産生を増加させ,網膜細胞障害を強く引き起こすことを報告した1).また,青色LED光を照射することによって生じる網膜細胞障害は,種々のカラーレンズによって抑制されることも報告している2).青色LED光を多くカットするレンズであるほど,細胞死抑制効果は強いものであった.これらの結果からも,青色LED光の網膜細胞へ及ぼす影響は強いものであるといえる.また,眼以外の分野では,青色LEDに関する研究が近年盛んに報告されてきている.ブルーライトの曝露により,メラトニンの分泌が低下することによって,サーカディアンリ〔別刷請求先〕國弘主税:〒812-0002福岡市博多区空港前4-3-25-2F株式会社プラスアルファー本部Reprintrequests:ChikaraKunihiro,PlusalphaCo.,Ltd.FukuokaHeado.ce,2F,4-3-25Kukomae,Hakata-ku,Fukuoka812-0002,JAPANズムの崩れと睡眠障害が起きることは知られていた.米国での最近の調査によって,人口の約90%が,就寝1時間前に週数回,電子機器を利用しているという背景をもとに,電子書籍の使用は,入眠までの時間を増加,レム睡眠の時間を減少させ,メラトニンの分泌を低下させていたことが報告された3).さらに,就寝前のブルーライトへの眼の曝露により,翌朝の覚醒にも影響を及ぼすという結果があることから,睡眠の質,生活の質に支障をきたす恐れがあることが示唆されている.また,ヒトへの影響以外にも,ショウジョウバエなどの虫への致死的な作用も示されている4).この報告から青色LEDは,害虫駆除の方法となる可能性があると考えられる.LEDはコストや光の強さなどで良い面も多くあるのは事実だが,実際に青色LEDが眼の機能へ及ぼす影響や,睡眠の質,生活の質に及ぼす影響などについても報告されていることから,近年身の回りに増加しているLEDに注意も必要である.とくに,白色LEDは部屋の照明や車のヘッドライトなどに使用され,広く普及してきている.白色LEDは青色光を含んでおり,青色LEDと同一エネルギー条件下において,白色LEDが同等の視細胞障害を引き起こすことを筆者らは報告している1).無電極ランプは,近年,おもに工場施設や体育館施設・倉庫施設など高天井で大きな明かりを必要とする照明施設に普及している.無電極ランプ(エコループ)の明るさの特徴は3波長の蛍光ランプに近いものとなっているが,消費電力を無電極ランプより抑えることができ,同等の消費電力でLEDランプの約2倍の寿命があることと併せて,グレア(瞳が嫌う眩しさ)が少ないという特徴がある(プラスアルファー社内資料).そこで,今回光源として白色LEDと,無電極ランプ(エコループ)のマウス網膜障害における比較を同一条件下で行った.白色LEDはブルーライト(460nm周辺)を多く含んでおり,それに対して無電極ランプは,白色LEDに比べて,ブルーライトの量が少ない光源である.I方法岐阜薬科大学薬効解析学研究室における光曝露による網膜障害モデルは,雄性8週齢のddYマウス(日本エスエルシー株式会社より購入)へ8,000luxの可視光を照射することによって行った5).その網膜障害モデルを参考に,本検討では,約7,500luxの光を照射することによって,網膜障害を起こした(図1).用いた光源は,LED(コイズミ照明株式会社製,XH44126L,95W5000K),無電極ランプ(株式会社プラスアルファー製,ELT18100AP-F,95W,5000K)である.また,本実験前には同ケージ内に対照群,白色LED照射群,無電極ランプ照射群が混在するように無作為に振り分け,ケージ間の体重を揃えることで実験条件を均一化した.なお,対照群は,各光源の照射時に通常飼育条件下で飼育した群である.光照射の5日後に,網膜電図の測定を行った.網膜電図の測定前に24時間の暗順応を行い,測定した.その後,眼球を摘出し,24時間,4%PFAに浸け置いた後,白色LED24h3h24h72h24hDark7,500luxlightDarkLight/DarkcycleDark散瞳薬網膜電図組織評価図1各光源と光誘発網膜障害上段の画像が今回用いた光源を示す.それぞれ,幅は無電極ランプ:48cm,白色LED:24cmである.また,下は本実験のプロトコール概要を示す.マウスを24時間の暗順応の後,光照射直前に散瞳薬を点眼し,7,500luxの光照射を3時間行った.その後,再び24時間の暗順応を行い,3日間の通常飼育を経て,光照射から5日後に,網膜電図による評価と眼球を摘出し,組織評価を行った.Scalebar=10cm.無電極ランプ白色LED100%100%80%80%60%60%40%40%20%20%波長(nm)波長(nm)図2各光源の波長スペクトルもっとも波長の出ている光を100%とし,それと比較して,それぞれの波長がどの割合で出ているかを示す.無電極ランプに比べて,白色LEDは青色光を多く含む.対照a波無電極ランプ白色LED対照a-waveb-wave無電極ランプ白色LED10004008006004002000Amplitude(mV)3002001000-2.92-1.92-1.02-0.020.98-2.92-1.92-1.02-0.02Lightintensity(logcds/m2)Lightintensity(logcds/m2)図3各光源による網膜障害の比較(網膜電図)上段は波形を示し,下段はその定量結果を示す.a波,b波ともに各光源の照射により波形は低下した.白色LED光照射群と無電極ランプ照射群を比較すると,無電極ランプ照射群の網膜機能低下は白色LED照射群に比べ,有意に弱いものであった.##:p<0.01,#:p<0.05vs.白色LED照射群(対照群:n=9,白色LED照射群:n=11,無電極ランプ照射群:n=10,Student’st-test).パラフィンへと置換を行い,包埋した.パラフィン切片を作ONL)の厚さを測定した.また,各光源の波長スペクトルは製した後,組織評価を行った.組織評価を行う際には,5図2に示すとおりである.μmの厚さでパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い,視神経から240μmの距離ごとに,視細胞の核が存在している網膜外顆粒層(outernuclearlayer:対照無電極ランプ白色LED網膜外顆粒層(ONL)35ThicknessoftheONL(μm)30252015105SuperiorInferiorDistancefromopticnervehead(μm)図4各光源による網膜障害の比較(組織評価)上段はHE染色を行った網膜組織を示し,下段はその定量結果を示す.各光源の照射により網膜外顆粒層(outernuclearlayer:ONL)の厚さは減少した.白色LED光照射群と無電極ランプ照射群を比較すると,無電極ランプ照射群のONLの薄層化は白色LED照射群に比べ,有意に弱いものであった.##:p<0.01,#:p<0.05vs.白色LED照射群(対照群:n=10,白色LED照射群:n=10,無電極ランプ照射群:n=10,Student’st-test).Scalebar=20μm.II結果1.各光源の網膜機能への影響視細胞の機能を反映するa波および二次ニューロンの機能を反映するb波ともに,各光源の照射によって対照群と比較して減少した(図3).また,各光源を比較すると,白色LED光を照射した群では,ほぼ波形が認められなかったのに対して,無電極ランプを照射した群では,対照群と比較して波形が減少しているものの,完全に消失するほどではなかった.これを定量すると,無電極ランプ照射群では,白色LED光照射群に比べて,有意に障害が弱いものであった(図3).この結果から,白色LED光は無電極ランプに比べて網膜機能を大きく低下させ,より強く網膜障害作用を有することが明らかになった.2.各光源の網膜組織への影響各光源の照射によって,ONLの厚さは対照群と比較して減少した(図4).また,各光源の影響を比較すると,白色LED光は顕著なONLの薄層化を引き起こしたが,無電極ランプによる障害は中程度であった(図4).これを定量すると,白色LED光によるONLの薄層化は無電極ランプによる障害よりも強いものであった(図4).III考察今回の結果から,白色LED光の照射は,顕著な網膜機能の低下と網膜障害を引き起こすことが明らかとなった.一方,無電極ランプの照射は,蛍光灯と同レベルの影響に留まった5).近年,白色LEDが照明に使用され,パソコンなどの液晶ディスプレイからはブルーライトが発せられており,われわれは日常的にブルーライトを浴びる機会が増えている.直接的に照明に眼を曝露する機会がある(工場,倉庫などでの天井近くの作業)と,ブルーライトの悪影響が大きいと考えられ,その場合には白色LEDなどのブルーライトを多く含む光源は避けるほうが良いのかもしれない.本モデルは急性期に網膜障害を引き起こすマウスモデルであるため,すぐに今回の実験のような影響をヒトに外挿することはできないが,慢性的なブルーライトの曝露は眼への悪影響を及ぼす可能性が高いことが予想される.そのため,状況に応じて,LEDや他の光源を使い分けることが,将来的にヒトの眼を守るためには必要であると考えられる.利益相反:株式会社プラスアルファー(研究費および研究材料)文献1)KuseY,OgawaK,TsurumaKetal:Damageofphotore-ceptor-derivedcellsincultureinducedbylightemittingdiode-derivedbluelight.SciRep9:5223,20142)HiromotoK,KuseY,TsurumaKetal:Coloredlensessuppressbluelight-emittingdiodelight-induceddamageinphotoreceptor-derivedcells.JBiomedOpt21:035004,20163)ChangAM,AeschbachD,Du.yJFetal:Eveninguseoflight-emittingeReadersnegativelya.ectssleep,circadiantiming,andnext-morningalertness.ProcNatlAcadSciUSA112:1232-1237,20154)HoriM,ShibuyaK,SatoMetal:Lethale.ectsofshort-wavelengthvisiblelightoninsects.SciRep9:7383,20145)NakanishiT,ShimazawaM,SugitaniSetal:Roleofendoplasmicreticulumstressinlight-inducedphotorecep-tordegenerationinmice.JNeurochem125:111-124,20136)BeattyS,KohH,PhilMetal:Theroleofoxidativestressinthepathogenesisofage-relatedmaculardegeneration.SurvOphthalmol45:115-134,2000***