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網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon囊下投与によるWP-0508ST(マキュエイド®眼注用40mg)の第III相試験

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1418.1426,2018c網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon.下投与によるWP-0508ST(マキュエイドR眼注用40.mg)の第III相試験小椋祐一郎*1飯田知弘*2伊藤雅起*3志村雅彦*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2東京女子医科大学眼科学教室*3わかもと製薬株式会社臨床開発部*4東京医科大学八王子医療センター眼科Phase3ClinicalTrialofSub-Tenon’sInjectionofWP-0508ST(MaQaidROphthalmicInjection40mg)forMacularEdemainRetinalVeinOcclusionYuichiroOgura1),TomohiroIida2),MasakiIto3)andMasahikoShimura4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,3)ClinicalDevelopmentDepartment,WakamotoPharmaceuticalCo.,LTD.,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenterC網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者C50人を対象に,WP-0508STの有効性および安全性を検討するため多施設共同非遮蔽非対照試験を実施した.WP-0508ST20CmgをCTenon.下に単回投与し,投与後C12週とスクリーニング時の中心窩平均網膜厚の変化量を比較した結果,平均値は.150.0Cμm,95%信頼区間は.200.9..99.1Cμmであった.本治験において,あらかじめ有効性の基準として設定したC95%信頼区間上限の.100Cμmとの差はC1Cμm以内であり,平均値では十分な改善効果が認められ,中心窩平均網膜厚ではスクリーニング時と比較し有意な減少が示された.投与後12カ月までのおもな副作用は,眼圧上昇(14.0%),結膜充血(12.0%),結膜浮腫(10.0%),血中コルチゾール減少(10.0%)および血中トリグリセリド増加(8.0%)であり,水晶体混濁の発現率はC4.0%であった.いずれも軽度または中等度であり,外科的処置は行われなかった.以上より,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者におけるCWP-0508STの有効性および安全性が確認された.CWeCconductedCaCmulticenter,Cnon-masked,CuncontrolledCstudyConC50CRetinalCVeinOcclusion(RVO)patientsCwithmacularedematoinvestigatethee.cacyandsafetyofWP-0508ST(MaQaidRCOphthalmicInjection40mg).Afterasinglesub-Tenon’sinjectionofWP-0508ST,wecomparedtheamountofchangeinmeancentralmacularthicknessbetweentimeofscreeningand12weekslater.Theresultsrevealedameanvalueof.150.0Cμmanda95%con.denceinterval(CI)of.200.9Cto.99.1Cμm,indicatingthatthedi.erenceinthe95%CIwaswithin1CμmoftheCmaximum95%CCICpreviouslyCsetCasCtheCcriteriaCfore.cacy(.100Cμm).CInCaddition,CtheCmeanCvalueCdemon-stratedsu.cientimprovement,andthemeancentralmacularthicknessshowedsigni.cantdecreasefromthetimeofCscreening.CTheCmajorCadverseCe.ectsCobservedCupCtoC12CmonthsCpost-administrationCwereCintraocularCpressureincrease(14.0%),conjunctivalChyperemia(12.0%),chemosis(10.0%),CdecreasedCbloodcortisol(10.0%)andCincreasedbloodtriglycerides(8.0%).Theincidenceoflensopacitywas4.0%.Allcasesweremildtomoderate,sosurgicalCtreatmentCwasCnotCperformed.CTheCaboveCresultsCindicateCthatCWP-0508STCisCe.ectiveCandCsafeCinCRVOCpatientswithmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(10):1418.1426,C2018〕Key.words:網膜静脈閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症,網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫,有効性,安全性,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下投与,WP-0508ST.retinalveinocclusion,branchretinalveinocclusion,centralretinalveinocclusion,macularedema,e.cacy,safety,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection,WP-0508ST.C〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,M.D.,Ph.D.,CDepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC1418(106)はじめに網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)は,高血圧,糖尿病,高脂血症などが危険因子となり,血栓の形成により網膜静脈が閉塞し,網膜に出血,浮腫,毛細血管閉塞などの病態を引き起こす.RVOは網膜中心静脈閉塞症(cen-tralCretinalCveinocclusion:CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)とに分類される.網膜浮腫が黄斑部に及ぶと黄斑浮腫となり,視力障害の原因となる.黄斑浮腫が遷延すると,慢性的かつ不可逆的な視力障害に至る.RVOによる黄斑浮腫は,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)についで頻度が高く,有病率はC40歳以上の成人のC2.1%であることが報告されている1).RVOの黄斑浮腫の治療には,格子状網膜レーザー光凝固術および硝子体手術が行われてきたが,2001年にCJonasら2)がトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)を硝子体内に注射することで,DMEに対する有効性を報告して以来CTAが使用されるようになった.その後,2002年にはCGreenbergら3)がCCRVOに伴う黄斑浮腫に,2004年にはCChenら4)がCBRVOに伴う黄斑浮腫にCTAの硝子体内投与による有効性を報告している.硝子体内投与は低頻度ながらも眼内炎が報告されているため5),国内では感染のリスクを軽減し低侵襲なTAのTenon.下投与(sub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection:STTA)が臨床上多用されている.抗CVEGF薬は,特異的にCVEGFを阻害するため浮腫に対する治療効果が大きいが,頻回投与が必要とされていることから,患者への負担軽減および経済性のため,補助的治療としてCSTTAが選択されることもある.TAを有効成分とし無菌的に充.された粉末注射剤であるマキュエイドR(WP-0508)は,硝子体内手術時の可視化を目的に,2010年に手術補助剤として承認され,2012年には硝子体投与によるCDME治療の効能・効果が追加承認されている.さらにC2017年C3月には,Tenon.下投与によるDME,ぶどう膜炎およびCRVOに伴う黄斑浮腫の軽減に対する効能・効果が追加承認された.今回筆者らは,RVOに伴う黄斑浮腫の効能・効果承認のために実施された,多施設共同非遮蔽非対照試験の結果を報告する.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬機法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」および治験計画書を遵守し実施した.I対象および方法1..実施医療機関および治験責任医師本治験は,2014年C12月.2016年C6月に,表1に示した全国C13医療機関において実施された.治験の実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.C2..対象表2に示したCRVOの分類基準6)に従い,BRVO(半側RVOを含む)およびCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された患者を対象とした.ただし,虚血型のCCRVOは被験者に対する安全性を考慮し,本試験からは除外した.表3にはおもな選択および除外基準を示した.なお開始前に,すべての被験者に対し本治験の内容を十分に説明し,自由意思による治験参加の同意書を得た.C3..試.験.方.法a..治験デザイン本治験は,多施設共同非遮蔽非対照試験とし,単群で実施した(第CIII相試験).Cb..治験薬・投与方法1バイアル中にCTA40Cmgを含有するCWP-0508STに生理食塩液をC1Cml加え,懸濁液C0.5Cml(TA20Cmg)を対象眼のCTenon.下に単回投与した.方法は以下の手順に従った.抗菌薬および麻酔薬を点眼後,耳側下方の角膜輪部より後方を結膜小切開し,切開創から挿入した鈍針を強膜壁に沿っ表.1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*桑園むねやす眼科竹田宗泰順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行日本大学病院服部隆幸東京医科大学八王子医療センター野間英孝,安田佳奈子聖路加国際病院大越貴志子独立行政法人国立病院機構東京医療センター野田徹名古屋市立大学病院吉田宗徳名古屋大学医学部附属病院安田俊介大阪市立大学医学部附属病院河野剛也医療法人社団研英会林眼科病院林研医療法人出田会出田眼科病院川崎勉鹿児島大学医学部・歯学部附属病院坂本泰二鹿児島市立病院上村昭典*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).表.2網脈静脈閉塞症の分類基準網膜静脈分岐閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞をC1象限以下に認める半側網膜静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC1象限を超え,4象限未満に認める網膜中心静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC4象限すべてに認める表.3おもな選択および除外基準選択基準(1)年齢が満C20歳以上(2)スクリーニング検査来院前C52週間以内に,対象眼がCBRVOまたはCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された者(3)対象眼の最高矯正視力(ETDRS)が,35文字からC80文字(小数視力換算でC0.1以上C0.8以下)である者(4)対象眼の中心窩平均網膜厚が,光干渉断層計[スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)]による測定でC300Cμm以上である者(5)対象眼の眼圧がC21CmmHg以下である者(6)自由意思による治験参加の同意を本人から文書で取得できる者除外基準(1)緑内障,虚血性CCRVO*,糖尿病網膜症,ぶどう膜炎,加齢黄斑変性症,偽(無)水晶体眼性.胞様黄斑浮腫,重度の黄斑上膜,中心性漿液性網脈絡膜症,虹彩ルベオーシス,強度近視の症状を対象眼に有する(2)いずれかの眼に活動性の眼内炎または非活動性のトキソプラズマ症が認められる(3)血清クレアチニンがC2.0Cmg/dl以上(4)治験薬投与前C52週以内に,対象眼に薬剤の硝子体内投与を実施(5)対象眼に薬剤の硝子体内投与を治験薬投与前C52週以内に実施(6)対象眼に副腎皮質ステロイド薬のCTenon.下または球後への投与を,治験薬投与前C24週以内に実施(7)対象眼にレーザー治療または内眼手術を,治験薬投与前C12週以内に実施(8)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,ワルファリンおよびヘパリンの投与を,治験薬投与前C4週以内に実施(9)妊婦または授乳婦(10)その他,治験責任医師または治験分担医師が不適と判断*蛍光眼底造影による無灌流領域がC10乳頭面積以上.て押し進め,後部CTenon.に懸濁液を投与した.投与後は抗菌薬にて感染予防処置を行った.C4..検査・観察項目検査・観察スケジュールを表4に示した.スクリーニング時に蛍光眼底造影検査を行い,黄斑浮腫の有無および無灌流領域の面積を判断した.中心窩平均網膜厚は,各実施医療機関で光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて対象眼の測定を行い,東京女子医科大学に設置されたCOCT判定会において専門家による判定を行った.観察項目はCETDRS(EarlyTreatmentCDiabeticRetinopathyStudy)チャートを用いた最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査とした.治験薬投与後C12週を観察期間とし,この間は被験者の利益性から必要となる場合を除き,本治験の評価に影響を及ぼす併用治療(レーザー治療,内眼手術,高圧酸素療法,星状神経節ブロック,透析治療)は禁止とした.さらに,治験薬投与後12カ月まで追跡調査を実施した.C5..評価項目および方法a..有効性主要評価項目は,スクリーニング時と比較した投与後C12週(最終評価時)の中心窩平均網膜厚の変化量とし,各評価時期の中心窩平均網膜厚および最高矯正視力の推移と変化量を副次評価項目とした.12週以内に中止または脱落した場合は,もっとも遅くに測定されたデータを最終評価時データとして採用した.中心窩平均網膜厚の変化量は,以下の既報を参考に基準を定めた.1)RVOに対する非投与(Sham)群における中心窩平均網膜厚の変化量の平均値は.85Cμm,95%信頼区間は.101.43.C.68.57μm7),2)RVOにおける抗VEGF薬投与による黄斑浮腫改善の定義として,50Cμm以上の網膜厚の減少を設定した8,9).これらを指標にC.100μmを臨床的に改善効果が示された基準として設定し,本治験で得られた変化量のC95%信頼区間上限値がC.100Cμm以下であれば,WP-0508STの有効性が確認されたものとした.Cb..安全性治験薬投与後C12カ月までに発現した有害事象のうち,WP-0508STとの因果関係が否定できないものを副作用とし,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査の各項目について安全性を評価した.C6..解.析.方.法a..解析対象集団有効性は,最大の解析集団(FullAnalysisSet:FAS)とし,治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerCProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性は投与が実施され表.4検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日1週4週8週12週中止時6,9,1C2カ月同意取得C●患者背景C●症例登録C●治験薬投与C●眼科検査光干渉断層計測定C●C●C●C●C●C●C●最高矯正視力C●C●C●C●C●C●C●眼圧C●C●C●C●C●C●C●C●細隙灯顕微鏡検査C●C●C●C●C●C●C●C●眼底検査C●C●C●C●C●C●C●眼底撮影C●C●C●蛍光眼底造影検査C●血圧・脈拍数C●C●C●C●臨床検査C●C●C●C●C●診察・問診C●C●C●C●C●C●C●妊娠検査C●併用薬・併用療法の検査C●C●C●C●C●C●C●C●有害事象C●Cたすべての被験者から得られたデータを対象とした.Cb..解.析.方.法中心窩平均網膜厚は,各評価時期および最終評価時おけるスクリーニング時からの変化量について要約統計量を算出し,対応あるCt検定を実施した.検定は両側検定で行い有意水準はC5%とした.最高矯正視力についても中心窩平均網膜厚と同様の解析で実施した.主要評価項目は,最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量についてC95%信頼区間を算出した.CII試.験.成.績1..被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験の参加に同意し,スクリーニング検査を実施した被験者はC56例であり,50例が登録され全例で投与が実施された.このうち,8例が治験薬投与後C12週以内に中止・脱落し,42例がC12週間の観察期間を完了した.中止・脱落となった理由は,有害事象が発現し,治験責任医師または治験分担医師が中止すべきと判断したためがC7例(眼圧上昇,視力悪化などにより併用禁止薬および併用禁止治療が必要と判断),治験開始後に被験者が同意を撤回したためがC1例であった.12週間の観察期を完了したC42例のうち,2例が同意撤回により投与後C12週で本治験を終了した.その後C1例(治験薬投与後C7カ月で治験責任医師の判断で治験終了)を除くC39例がC12カ月までの安全性追跡調査を終了した.解析対象集団CFASの被験者背景を表5に示した.被験者のCRVO罹病期間は平均C2.22カ月であり,病型の内訳はBRVOがC45例,CRVOはC5例であった.C2..有効性投与が実施された被験者C50例のうち,FAS不採用例は認められなかった.1例でスクリーニング検査からC12カ月の追跡調査期間を通じて最高矯正視力検査の測定手順の逸脱があったため,最高矯正視力の有効性解析では当該C1例をPPS不採用とした.したがって,有効性解析対象集団のFASはC50例,PPSはC50例(最高矯正視力の解析ではCPPSはC49例)となった.Ca..主要評価項目に関する結果本治験の主要な解析対象集団CFASにおける,最終評価時の中心窩平均網膜厚を表6に示した.中心窩平均網膜厚の変化量の平均値(95%信頼区間下限.上限)はC.150.0Cμm(.200.9.C.99.1Cμm)であり,信頼区間の上限と設定したC.100Cμmとの差はC1Cμm以内であった.中心窩平均網膜厚はスクリーニング時と比較した対応あるCt検定で有意な減少が認められた(p<0.001).なおCPPSはCFASと同一の結果であった.また,病型別での中心窩平均網膜厚の変化量を表7に示した.BRVOがC.152.6μm(C.209.2.C.96.1μm),CRVO8例2例1例投与後12カ月追跡調査終了例数39例性別男C29(58.0)女C21(42.0)登録被験者数治験薬被験者数投与12週観察期間終了例数項目50例50例42例投与12週内中止・脱落例数投与12週時終了例数投与7カ月終了例数図.1被験者の内訳表.5被験者背景(FAS)解析対象被験者数C50C年齢(歳)平均値±標準偏差C64.7±8.0最小.最大47.77RVO罹病期間(カ月)平均値±標準偏差C2.22±2.41最小.最大0.133カ月未満C40(C80.0)3カ月以上C6カ月未満C6(C12.0)6カ月以上C4(8C.0)病型網膜静脈分枝閉塞症C45(90.0)網膜中心静脈閉塞症C5(10.0)中心窩平均網膜厚(μm)平均値±標準偏差C575.3±176.5最小.最大301.1047400Cμm未満C8(C16.0)400Cμm以上C500Cμm未満C11(C22.0)500Cμm以上C600Cμm未満C9(C18.0)600Cμm以上C22(C44.0)最高矯正視力(文字)平均値±標準偏差C67.1±9.5最小.最大41.80眼圧(mmHg)平均値±標準偏差C15.0±2.3最小.最大10.21被験者数(%)が.126.0Cμm(C.194.8.C.57.2Cμm)であった.Cb..副次評価項目に関する結果FASにおける中心窩平均網膜厚および変化量の推移を図2および表8に示した.各評価時期および最終評価時のスクリーニング時からの変化量は,投与後C1週より減少し,投与後のすべての観察期において有意な減少がみられた(いずれもp<0.001).また,FASにおける最高矯正視力および変化量の推移を図3および表9に示した.各評価時点におけるスクリーニング時からの中心窩平均網膜厚は,治験薬投与後4週から有意な文字数の改善がみられたが(4週でCp=0.023,8週およびC12週でCp=0.001),最終評価時は有意差が認められなかった.なおいずれもCPPSでもCFASと同一の結果であ表.6最終評価時における中心窩平均網膜厚(FAS)中心窩平均網膜厚中心窩平均網膜厚(μm)変化量(μm)被験者数C50C50平均値C±標準偏差C425.4±191.3C.150.0±179.1最小.最大184.0.C1018C.683.0.C31395%信頼区間(下限.上限)C─C.200.9.C.99.1対応あるCt検定p<C0.001C─表.7最終評価時における病型別中心窩平均網膜厚の変化量平均値±標準偏差最小.最大95%信頼区間病型被験者数(下限.上限)(μm)(μm)(μm)網膜静脈分枝閉塞症C45C.152.6±188.1C.683.0.313.0C.209.2.C.96.1網膜中心静脈閉塞症C5C.126.0±55.4C.197.0.C.69.0C.194.8.C.57.2C中心窩平均網膜厚(μm)8007006005004003002001000スクリーニング時図.2中心窩平均網膜厚の推移(FAS)平均値C±標準偏差.***:p<0.001対応あるCt検定.表.8中心窩平均網膜厚変化量の推移(FAS)1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C5046C44C42C50C平均値C±標準偏差(μm)C.84.0±114.1C.124.3±116.4C.167.9±155.0C.192.1±155.5C.150.0±179.1Cった.C3..安全性a..副作用治験薬投与後C12カ月までにC5%以上発現した副作用は,眼圧上昇,結膜充血,結膜浮腫,血中コルチゾール減少および血中トリグリセリド上昇であった(表10).なお重篤な副作用は認められなかった.治験薬投与後C12週以内に,スクリーニング時に認められた現病の悪化によりC8例が中止に至り,その内訳は,RVOの悪化C4例,一過性の視力低下C3例,黄斑浮腫の悪化C1例であった.これらはいずれも投与対象眼に発現し,程度は軽度から中程度の悪化とされ,治験薬との因果関係は「関係なし」と判定された.Cb..眼圧上昇および水晶体混濁投与対象眼での眼圧上昇はC7例(14.0%)に認められ,その内訳は治験薬投与後C12週までにC5例(10.0%),12週以降12カ月後までにC2例(4.0%)であった.これらC7例の眼圧上昇はC24CmmHg未満がC1例(2%),24CmmHg以上C30CmmHg未満がC5例(10.0%),30CmmHg以上がC1例(2.0%)であった.治験薬投与後C12週までにみられたC5例については,いずれも眼圧下降点眼薬の使用により,転帰は軽快または消失となった.12週以降C12カ月後までのC2例は,被験者への連最高矯正視力(文字)1009080706050403020100スクリーニング時1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期図.3最高矯正視力の推移(FAS)平均値C±標準偏差.*:p<0.05,**:p<0.01対応あるCt検定.表.9最高矯正視力変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C50474442C50C平均値±標準偏差(文字)C1.7±8.1C2.3±6.8C3.9±7.1C4.6±8.1C2.6±9.8C表.10副作用一覧副作用名発現数(%)CMedDRA/Jver.18.150例眼結膜浮腫眼脂水晶体混濁点状角膜炎硝子体.離硝子体浮遊物結膜充血前房内細胞眼圧上昇5例(1C0.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)6例(1C2.0%)1例(2C.0%)7例(1C4.0%)眼以外アラニンアミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)血中コルチゾール減少血中ブドウ糖増加血圧上昇血中トリグリセリド増加血中尿素減少血中尿素増加尿中ブドウ糖陽性白血球数減少好中球百分率増加単球百分率増加リンパ球百分率減少筋骨格痛体位性めまい頭痛5例(1C0.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)4例(8C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)絡がとれなかったことおよび治験薬投与C12カ月時に眼圧上昇がみられたことから,転帰は不変と判定した.なお,WP-0508ST投与から眼圧上昇が発現されるまでの期間は,平均C100.1日(最小C29日,最大C357日)であり,持続した期間は平均C157日(最小C28日,最大C315日)であった.水晶体混濁はC2例(4%)で発現し,治験薬投与後C57日目およびC169日後にそれぞれC1例が認められ,細隙灯顕微鏡検査による水晶体混濁では,投与後C12カ月の時点でいずれもC1段階の進展であった(WHO分類).なおすべてにおいて外科的処置は行われなかった.CIII考察RVOは網膜内に分枝した静脈が閉塞するCBRVOと,視神経内で静脈が閉塞するCCRVOとに大別されるが,いずれも黄斑浮腫に起因して視力障害を引き起こす.黄斑浮腫の悪化にはCIL-6やCVEGFなどの炎症性サイトカインが関与するため10),これらを抑制するCTAは有効であることが報告されている11,12).黄斑浮腫は自然治癒する場合も認められるが,慢性化することも多く症例により予後には大きな違いがある.本治験における罹病期間の平均はC2.22カ月であるが,症状の悪化に伴い投与後C12週以内に中止となったC7例の罹病期間は平均0.86カ月であった.これらの患者は,VEGFや炎症性サイトカインが急激に産生され悪化したと推察された.そのため中止例により信頼区間幅が拡大し,最終評価時におけるC95%信頼区間上限があらかじめ設定した基準に及ばなかったと考えられた.しかし,その差異はC1Cμm以内とわずかであり,(112)投与後C12週における中心窩平均網膜厚はC.192.1Cμmの減少を示し,変化量のC95%信頼区間はC.240.5.C.143.6Cμmと信頼区間上限は.100Cμmを超える改善が示された.また,早期の時点(投与後C1週目)に中止となったC2例を除外した最終評価時の平均値は.163.4Cμm,信頼区間上限はC.114.8μmであり,投与後すべての観察期で中心窩平均網膜厚に有意差が認められたことからも,本治験におけるCWP-0508STの有効性は示されたと判断した.病型別の部分集団におけるそれぞれの中心窩平均網膜厚の変化量を既報と比較すると,TAの硝子体内投与による中心窩平均網膜厚の変化量は,BRVOではC.142Cμm11)およびCRVOではC.196Cμm12)に対し,本治験ではCBRVOはC.152.6μmおよびCCRVOではC.126.0Cμmと,CRVOでは報告された数値よりも改善効果が低かった.この背景には,CRVOの被験者数はわずかC5例であったため,例数不足により十分に評価されなかったことに起因していると考えられた.TAの局所投与は硝子体内やCTenon.下に行われるが,STTAのほうが効果はやや劣る可能性が報告されている13).STTAは投与されたCTAが強膜や短後毛様動脈を介して脈絡膜に移行するが,硝子体内投与は,TAが病変部である網膜に直接接触するためCSTTAよりも即効性に優れていると考えられる.しかし,本治験において最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量が.150Cμmであったこと,また投与後C12週の結果と比較しても,BRVOではCTAの硝子体内投与の報告11)と同程度であった.そのため,Tenon.下投与においても黄斑浮腫の改善効果は硝子体内投与と同等であることが期待される.硝子体内投与は,Tenon.下投与と比べると眼内炎のリスクが懸念され,またCTAによる眼圧上昇や水晶体混濁の副作用を軽減するためにも,日本ではCTenon.下投与が選択されることが多い.TAの硝子体内投与における眼圧上昇はC33.50%,白内障はC59.83%で発現する報告例があり14,15),またCWP-0508の硝子体内投与16)で報告された眼圧上昇(25.6.27.3%),白内障(15.2.23.5%)と比較しても本治験では半分程度の発現率であった.したがってCWP-0508STのCSTTAによるCRVOに伴う黄斑浮腫の改善は,副作用の軽減を目的とする意味においても十分有用であると考えられる.また,硝子体内投与に比べCSTTAは,外来などで比較的に簡易的に行えるメリットもある.しかし,ステロイドに対し過敏に反応して眼圧が上昇するステロイドレスポンダーが存在し,その頻度は原発開放隅角緑内障およびその血縁者,若年者,高度近視患者,糖尿病患者に多いことが報告されているため17),TAの投与には十分な配慮が必要となる.黄斑浮腫の治療に用いられる抗CVEGF薬は,浮腫を抑制する効果は高いものの,1.2カ月ごとに投与を繰り返す必要がある.一方CTAは抗CVEGF薬と比べ,即効性に劣るが持続期間は約C3カ月と長く,頻回投与が避けられる特徴がある.そこで抗炎症作用を有するCTAと抗CVEGF薬の併用による有効性が検討され,Choら18)はベバシズマブの硝子体内注射とCSTTAを組み合わせることによる中心窩平均網膜厚の改善効果を,またCMoonら19)はCSTTAにより抗CVEGF薬の投与間隔の延長が可能であることを報告している.これらの結果は,抗CVEGF薬による治療が必要とされながらも,長期的な継続使用が困難な患者にとっては一助となるものであろう.したがって,WP-0508STのCSTTAは,RVOに伴う黄斑浮腫治療法の選択肢の拡大に寄与するものである.利益相反:小椋祐一郎,飯田知弘,志村雅彦(カテゴリーCC:わかもと製薬㈱)文献1)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsforretinalveinocclusioninageneralJapanesepopulation:theHisayamaStudy.InvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20102)JonasCJB,CSofkerA:IntraocularCinjectionCofCcrystallineCcortisoneCasCadjunctiveCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedema.AmJOphthalmolC132:425-427,C20013)GreenbergCPB,CMartidisCA,CRogersCAHCetal:IntravitrealCtriamcinoloneacetonideformacularedemaduetocentralretinalveinocclusion.BrJOphthalmolC86:247-248,C20024)ChenCSD,CLochheadCJ,CPatelCCKCetal:IntravitrealCtriam-cinoloneCacetonideCforCischaemicCmacularCoedemaCcausedCbyCbranchCretinalCvainCocclusion.CBrCJCOphthalmolC88:C154-155,C20045)MoshfeghiCDM,CKaiserCPK,CScottCIUCetal:AcuteCendo-phthalmitisCfollowingCintravitrealCtriamcinoloneCacetonideCinjection.AMJOphthalmolC136:791-796,C20036)TheCSCORECStudyCInvestigatorCGroup.CSCORECStudyCReport2:InterobserverCagreementCbetweenCinvestigatorCandCreadingCcenterCclassi.cationCofCretinalCveinCocclusionCtype.OphthalmologyC116:756-761,C20097)OZURDEXCGENEVACStudyGroup:Randomized,Csham-controlledCtrialCofCdexamethasoneCintravitrealCimplantCinCpatientswithmacularedemaduetoretinalveinocclusion.OphthalmologyC117:1134-1146,C20108)KreutzerCTC,CAlgeCCS,CWolfCAHCetal:IntravitrealCbeva-cizumabCforCtheCtreatmentCofCmacularCoedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.CBrCJCOphthalmolC92:C351-355,C20089)PriglingerSG1,WolfAH,KreutzerTCetal:IntravitrealbevacizumabCinjectionsCforCtreatmentCofCcentralCretinalCveinocclusion:six-monthCresultsCofCaCprospectiveCtrial.CRetinaC27:1004-1012,C200710)坂本泰二:黄斑浮腫に対する局所ステロイド薬治療.あたらしい眼科27:1333-1337,C201011)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1115-1128,C200912)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1101-1114,C200913)CardilloJA,MeloLA,CostaRAetal:Comparisonofintra-vitrealCversusCposteriorCsub-Tenon’sCcapsuleCinjectionCofCtriamcinoloneacetonidefordi.usediabeticmacularedema.OphthalmologyC112:1557-1563,C200514)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Ran-domizedCtrialCevaluatingCranibizumabCplusCpromptCorCdeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordia-beticCmacularCedema.COphthalmologyC117:1064-1077,201015)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Three-yearfollowupofarandomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabet-icmacularedema.ArchOphthalmolC127:245-251,C200916)小椋祐一郎,坂本泰二,吉村長久ほか:糖尿病黄斑浮腫を対象としたCWP-0508(マキュエイドCR硝子体内投与)の第II/III相試験.あたらしい眼科31:138-146,C201417)RazeghinejadCMR,CKatzLJ:Steroid-inducedCiatrogenicCglaucoma.OphthalmicRes47:66-80,C201218)ChoCA,CChoiCKS,CRheeCMRCetal:CombinedCtherapyCofCintravitrealbevacizumabandposteriorsubtenontriamcin-oloneinjectioninmacularedemawithbranchretinalveinocclusion.JKoreanOphthalmolSocC53:276-282,C201219)MoonJ,KimM,SagongM:Combinationtherapyofintra-vitrealCbevacizumabCwithCsingleCsimultaneousCposteriorCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCforCmacularCedemaCdueCtobranchretinalveinocclusion.EyeC30:1084-1090,C2016***

黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ初回およびPRN投与の短期治療成績

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):263.266,2018c黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ初回およびPRN投与の短期治療成績寺内稜*1,2小川俊平*1,2中野匡*1*1東京慈恵会医科大学附属病院眼科*2厚木市立病院眼科CShort-termClinicalOutcomesofInitialandProReNataCIntravitrealRanibizumabInjectionforMacularEdemaSecondarytoBranchRetinalVeinOcclusionCRyoTerauchi1,2)C,ShumpeiOgawa1,2)CandTadashiNakano1)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,AtsugiCityHospital対象および方法:対象は網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対してラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)を施行し,6カ月間経過観察できたC26例C26眼(平均C69.3C±10.6歳).最高矯正視力(best-correct-edCvisualCacuity:BCVA)と中心窩網膜厚(fovealCretinalCthickness:FRT)の経過,IVRの投与回数,視力改善に影響を与える因子について後ろ向きに検討した.初回導入後はCFRT350Cμm以上を基準としてCprorenata投与を行った.結果:投与前と投与後C6カ月のCBCVA(logMAR)はC0.36からC0.22へ,FRTはC587.3CμmからC336.4Cμmへと有意に改善し,平均投与回数はC1.7C±0.6回であった.投与前視力が悪い症例ほど大きな視力改善が得られた.結論:FRT350Cμm以上の再投与基準は,投与回数を抑制しCBCVAおよびCFRTを有意に改善させる.CMethods:WeretrospectivelyreviewedtheclinicalchartsofpatientswhounderwentIVRforMEsecondarytoCBRVO.CAllCpatientsCwereCtreatedCwithC1+PRNCregimenCoverC6Cmonths.CTheCmainCcriterionCforCPRNCinjectionwasCfovealCretinalCthickness(FRT)>350Cμm.CBest-correctedCvisualCacuity(BCVA)andCFRTCwereCmeasuredCatCpre-injection,and1,3and6monthsafterinitialinjection.WeevaluatedfactorspredictingBCVAimprovementin6CmonthsCusingCmultipleCregressionCanalysis.CResults:InCtheC26CeyesCofC26CpatientsCincludedCinCthisCstudy,CtheCmeannumberofinjectionswas1.7±0.6.BCVAinlogarithmicminimumangleofresolutionchangedsigni.cantly,from0.36atpre-injectionto0.22at6months.FRTalsoreducedsigni.cantly,from587.3Cμmto336.4Cμm.Therewassigni.cantnegativecorrelationbetweenpre-injectionBCVAandBCVAimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):263.266,C2018〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,黄斑浮腫,ラニビズマブ,PRN.branchretinalveinocclusion,macularedema,ranibizumab,prorenata.Cはじめに近年,網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinCocclu-sion:BRVO)に伴う黄斑浮腫(macularCedema:ME)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)薬硝子体内注射の有効性が示され1),最適な投与プロトコルが模索されている.BRVOに伴うCMEはC4.5カ月でC18%,7.5カ月でC41%が自然軽快することが知られており2),これまでに報告されてきた毎月投与1),導入期C3回+proCreCnata(3+PRN)投与3)あるいはCtreatCandCextend(TAE)法4)では過剰投与の可能性がある.現在は投与回数を抑えたC1+PRN投与が有効な投与プロトコルと考えられ広く臨床の場で行われているが,その治療効果の検討は十分とはいえない.筆者らの施設では,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealCranibizumab:IVR)のC1+PRN投与を選択し,再投与基準を中心窩網膜厚(fovealCretinalCthickness:FRT)350Cμm以上として治療を行ってきた.今回,その治療結果を後ろ向きに検討したので報告する.〔別刷請求先〕寺内稜:〒105-8471東京都港区西新橋C3-19-18東京慈恵会医科大学附属病院眼科Reprintrequests:RyoTerauchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3-19-18Nishishinbashi,Minato-ku,Tokyo105-8471,JAPAN表1症例の投与前背景0.6対象26眼年齢C69.3±10.6歳性別(女/男)17/9名(65.4/34.6%)発症から投与までの期間C6.99±8.69カ月投与前視力(logMAR)C0.36±0.23中心窩網膜厚C587.3±280.0Cμm黄斑部出血14眼(53.8%)0漿液性網膜.離9眼(34.6%)図1BCVA(最高矯正視力)の投与前後の推移I対象投与後C6カ月のCBCVAは,投与前と比較して有意に改善した.平均値C±標準偏差.p=0.021,厚木市立病院眼科において,2014年C3月.2015年C12月Wilcoxonの順位和検定(投与前と比較).CにCBRVOに伴うCMEに対してCIVRを実施した連続症例のうち,除外基準1)軽度白内障を除く他の眼疾患の合併,2)初700Pre1M3M6M回CIVR前のCBRVOに対する硝子体手術,他の抗CVEGF薬硝子体内注射,Tenon.下ステロイド注射もしくは網膜光凝固の既往,に該当する症例を除いたC26例C26眼を対象とした(表1).CII方法0視力障害をきたす黄斑部を含むCMEを認め,光干渉断層Pre1M3M6M計(opticalCcoherentCtomography:OCT.CCirrusC3000,CCarlZeiss)でCFRTがC250μm以上の症例に対して初回CIVR(0.5Cmg/0.05Cml)を実施した.以降はCPRN投与を行い,再投与基準は視力にかかわらずCMEの残存もしくは再発のためにFRTが350Cμm以上の場合とした.必要に応じて蛍光眼底造影検査を実施し,5乳頭径大以上の網膜無灌流領域を認めたC11例(42.3%)で局所網膜光凝固を行った.MEに対する閾値下凝固を行った症例はなかった.治療効果を検討するため,初回CIVR前,投与後C1,3,6カ月の時点で視力検査による最高矯正視力(bestCcorrectedvisualCacuity:BCVA)と,OCT画像検査によるCFRTの測定を行った.FRTはセグメンテーションエラーを回避するために,OCT検査により得られた中心窩を含む網膜断層写真をCOCT上で確認選別し,断層像で決定した中心窩の硝子体網膜界面と,網膜色素上皮層の垂線の交点までの最大の距離をCFRTとした.BCVAとCFRTの投与前後の比較にはCWilcoxonの順位和検定を用いた.少数視力はClogMAR(logarithmicCminimumangleCofCresolution)視力に換算して解析を行った.治療効果に影響を与える因子を検討するため,目的変数をC6カ月間の視力改善幅(投与後C6カ月CBCVAC.投与前CBCVA),説明変数を年齢,性別,発症から投与までの期間,黄斑部出血の有無,投与前BCVA,投与前FRT,漿液性網膜.離(serousretinalCdetachment:SRD)の有無,光凝固実施の有無,6カ月間の投与回数,として重回帰分析を行った.変数選択に図2FRT(中心窩網膜厚)の投与前後の推移投与後C6カ月のCFRTは,投与前と比較して有意に減少した.平均値±標準偏差.p<0.001,Wilcoxonの順位和検定(投与前と比較).Cはステップワイズ法を用いた.統計解析には,RCver.C3.2.1.(RCFoundationCforCStatisticalCComputing,CVienna,CAus-tria,C2014)を用い,p<0.05を有意差ありとした.本研究は厚木市立病院倫理委員会の承認(H28-06)を得て,ヘルシンキ宣言を尊守し実施された.CIII結果6カ月間の平均投与回数はC1.7C±0.6回であった.投与回数がC1回の症例はC26眼中C11眼(42.3%),2回はC13眼(50.0%),3回はC2眼(7.7%)であった.IVRに伴う重篤な全身および局所合併症は認めなかった.治療開始後C6カ月間のBCVAとCFRTの推移を示す(図1,2).BCVAは投与前C0.36C±0.23(平均C±標準偏差),投与後C6カ月C0.22C±0.22であり有意に改善した(p=0.021).logMAR0.2以上の変化を有意とした場合,投与後C6カ月の時点でC26眼中C9眼(34.6%)に視力の改善が認められ,不変であった症例はC16眼(61.5%),悪化した症例はC1眼(3.8%)であった.FRTは投与前C587.3C±279.6μm,投与後C6カ月はC336.4C±196.5μmと有意に減少した(p<0.001).視力改善に影響を及ぼす因子の検討では,ステップワイズ年齢黄斑部出血C投与前CBCVAC投与前CFRTC表2説明変数間の相関係数(r)年齢黄斑部出血投与前CBCVA投与前CFRT1.000C─C─C─.0.0241.000C─C─.0.134C.0.096C1.000C─.0.4330.098C0.366C1.000表3各説明変数の標準偏回帰係数(b)0.8bp値年齢C0.0048C0.209黄斑部出血C.0.0937C0.198投与前CBCVAC.0.4707C0.011投与前CFRTC.0.0003C0.023法により四つの説明変数(年齢,黄斑部出血,投与前CBCVA,視力改善幅(6カ月-投与前)0投与前CFRT)が選択された.説明変数間の相関係数はいずれも中等度以下であり(表2),多重共線性の問題はないと考えられた.また,自由度調整済決定係数CrC2はC0.54であった.標準偏回帰係数Cb(表3)から,投与前CBCVA(Cb=.0.47,Cp=0.011)が視力改善幅に強く影響すると考えられ,投与前視力が悪い症例ほど大きな視力改善が得られていた.単回帰分析でも投与前CBCVAと視力改善幅には有意な負の相関が認められた(r=.0.61,Cp=0.001,図3).CIV考按これまでのCBRVOに対する抗CVEGF薬のCPRN投与の報告において,再投与基準はCFRT250μm以上5),もしくは300Cμm以上6)に設定される場合が多かったが,筆者らは過剰投与のリスクを減らしながら治療効果が十分に得られる最適な投与プロトコルを模索するため,再投与基準はCFRT350μm以上に設定した.結果として,投与前と比較して投与後6カ月のCBCVAおよびCFRTはいずれも有意に改善した.坂西らはCFRT300Cμm以上を再投与基準としてC1+PRN投与を実施し,6カ月後7),12カ月後8)のCBCVAおよびCFRTは有意に改善したと報告している.平均投与回数を比較すると,本研究ではC6カ月間でC1.7回であったのに対し,坂西ら7)はC1.9回であり,本研究の投与回数のほうがわずかに少ない傾向にあった(表4).少ない投与回数は,注射に伴う合併症,患者の費用負担,医療経済などさまざまな面で利点があると考えられる.しかしながら,本研究のCBCVAとCFRTの改善幅は,坂西らのC6カ月後の結果と比較して同等もしくはわずかに小さい傾向にあり,6カ月間の投与回数の差が影響している可能性は否定できない.本研究はC6カ月間の短期治療成績を検討しており,FRT再投与基準が視力予後に与える影響については,より長期の-0.800.20.40.60.81投与前BCVA図3投与前BCVAと6カ月間の視力改善幅の関係投与前CBCVAと視力改善幅は有意な負の相関を示した(r=.0.605,Cp=0.001).視力改善幅は,正の値は視力悪化,負の値は視力改善を表す.経過観察が必要となる.また,本研究は対象がC26眼と少数であり,今後症例数を増やした検証も必要である.視力改善に影響する因子について重回帰分析を用いて検討した結果,投与C6カ月後の視力改善幅にもっとも影響を与える因子は投与前視力であり,投与前視力が悪いほど投与後に大きな視力改善が得られた.これまでにも投与前視力と視力改善が負の相関を示すという報告は存在し9),視力不良例に対しても抗CVEGF療法は有効な治療法であることが期待されている.しかしながら,本研究では投与前視力がClogMAR視力C1.0より大きな症例はなく,視力不良例についての検討は十分とはいえない.同様にCBRVOに関する大規模臨床試験であるCBRAVOCstudy1)においても,logMAR視力C1.3より大きい症例は対象から除外されており,今後は視力不良例に対する抗CVEGF療法の治療効果についてのさらなる検討が望まれる.結論として,1+PRN投与はC6カ月後のBCVAおよびFRTを改善させ,FRT350Cμm以上の再投与基準は投与回数を抑制し十分な治療効果を維持した.謝辞:本論文作成にあたり草稿をご校閲いただいた東京慈恵会医科大学の酒井勉,神野英生,堀口浩史先生,臨床評価をしていただいた吉嶺松洋,岸田桃子先生に深謝いたします.表4BRVOに対するIVRの短期治療成績を検討した本研究と既報の比較眼再投与基準(Cμm)平均投与回数(回)BCVA改善幅(logMAR)FRT改善幅(Cμm)坂西ら(2C016)C32C≧300C1.9±0.8C.0.18C.273本研究C26C≧350C1.7±0.6C.0.14C.251文献1)CampochiaroCPA,CHeierCJS,CFeinerCLCetCal:RanibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalCveinCocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1102-1112,C20102)RogersCSL,CMcIntoshCRL,CLimCLCetCal:NaturalChistoryCofbranchretinalveinocclusion:anevidence-basedsystem-aticreview.OphthalmologyC117:1094-1101,C20103)MiwaCY,CMuraokaCY,COsakaCRCetCal:RanibizumabCformacularCedemaCafterCbranchCretinalCveinCocclusion:oneCinitialCinjectionCversusCthreeCmonthlyCinjections.CRetinaC37:702-709,C20174)RushCRB,CSimunovicCMP,CAragonCAVC2ndCetCal:Treat-and-extendCintravitrealCbevacizumabCforCbranchCretinalCveinCocclusion.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC45:212-216,C20145)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:RanibizumC-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1124-1133,C20106)CampochiaroCPA,CWyko.CCC,CSingerCMCetCal:MonthlyCversusCas-neededCranibizumabCinjectionsCinCpatientsCwithretinalCveinCocclusion:theCSHORECstudy.COphthalmologyC121:2432-2442,C20147)坂西良仁,大内亜由美,伊藤玲ほか:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射のC6カ月間治療成績.日眼会誌120:28-34,C20168)SakanishiCY,CLeeCA,CUsui-OuchiCACetCal:Twelve-monthCoutcomesCinCpatientsCwithCretinalCveinCocclusionCtreatedCwithClow-frequencyCintravitrealCranibizumab.CClinCOph-thalmolC10:1161-1165,C20169)WaiCKM,CKhanCM,CSrivastavaCSCetCal:ImpactCofCinitialCvisualCacuityConCanti-VEGFCtreatmentCoutcomesCinCpatientsCwithCmacularCoedemaCsecondaryCtoCretinalCveinCocclusionsCinCroutineCclinicalCpractice.CBrCJCOphthalmolC101:574-579,C201710)CampochiaroPA,ClarkWL,BoyerDSetal:Intravitreala.iberceptCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalveinCocclusion:theC24-weekCresultsCofCtheCVIBRANTCstudy.OphthalmologyC122:538-544,C2015***

網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術およびトリアムシノロン硝子体内投与の短期効果についての検討

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(133)287《原著》あたらしい眼科28(2):287.292,2011cはじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,随伴する黄斑浮腫によりしばしば視力低下をきたす.BRVOに対する治療として,新生血管の抑制を目的とする網膜光凝固術1)や,黄斑浮腫に対する光凝固治療の有効性2)が示され,広く行われてきた.近年BRVOに伴う黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術3~6),トリアムシノロン7)や他の薬物(組織プラスミノーゲンアクチベータ8),ベバシズマブ9,10)など)硝子体内投与などの治療の有効性が多数報告されている.一方,自然経過により黄斑浮腫が軽減し視力改善する症例もある11~14)ことから,BranchVeinOcclusionStudy1,2)では治療開始前に3カ月間の経過観察を行うようにしている.また,opticalcoherencetomography(OCT)の普及により,BRVOに伴う黄斑浮腫の定量および形態の変化が観察できるようになってきている15).今回,BRVOに対する硝子体手術およびトリアムシノロンアセトニド硝子体内投与(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)の短期の効果について,自然経過と比較し検討した〔別刷請求先〕神尾聡美:〒999-3511山形県西村山郡河北町谷地字月山堂111山形県立河北病院眼科Reprintrequests:SatomiKamio,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KahokuPrefecturalHospitalofYamagata,111Gassanndo,Yachiaza,Kahokucho,Nishimurayama-gun,Yamagata999-3511,JAPAN網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術およびトリアムシノロン硝子体内投与の短期効果についての検討神尾聡美*1山本禎子*2三浦瞳*2桐井枝里子*2山下英俊*2*1山形県立河北病院眼科*2山形大学医学部眼科学講座VitrectomyandTriamcinoloneAcetonideforMacularEdemawithBranchRetinalVeinOcclusionSatomiKamio1),TeikoYamamoto2),HitomiMiura2),ErikoKirii2)andHidetoshiYamashita2)1)DepartmentofOphthalmology,KahokuPrefecturalHospitalofYamagata,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YamagataUnivercitySchoolofMedicine目的:網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に対する硝子体手術,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射(IVTA)の効果について自然経過と比較検討した.対象および方法:BRVOに伴う黄斑浮腫症例102例118眼(硝子体手術群37眼,IVTA群29眼,経過観察群52眼).術前,術後1~3カ月の視力,網膜厚を検討した.結果:網膜厚は硝子体手術群とIVTA群で術後1カ月から,経過観察群で2カ月から減少した.視力はIVTA群で術後1カ月,硝子体手術群で術後2カ月から改善したが,経過観察群では3カ月後まで改善しなかった.結論:硝子体手術,IVTAは黄斑浮腫および視力を早期に改善させる効果がある.Purpose:Toevaluatetheefficacyofvitrectomyandintravitrealtriamcinoloneacetonide(IVTA)forbranchretinalveinocclusion(BRVO),incomparisonwithnaturalprogress.ObjectandMethods:Of118eyes(102patients)withBRVO-associatedmacularedema,37weretreatedbyvitrectomy,29byIVTAand52(controls)werenottreated.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andretinalthickness(RT)weremeasuredatenrollmentand1,2,and3monthsthereafter.Results:RTwasdecreasedat1monthaftervitrectomyandIVTA,andat2monthsafterinthecontrols.BCVAwasimprovedat1monthafterIVTAandat2monthsaftervitrectomy,butshowednoimprovementat3monthsinthecontrols.Conclusion:VitrectomyandIVTAaremoreeffectivethanthenaturalcourseforearlyimprovementofRTandBCVA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):287.292,2011〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,硝子体手術,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射,自然経過,光干渉断層計(OCT).branchretinalveinocclusion,vitrectomy,intravitrealtriamcinoloneacetonideinjection,naturalcourse,opticalcoherencetomograph(OCT).288あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(134)ので報告する.I対象および方法本研究は山形大学医学部倫理委員会の承認をうけた.対象は2004年1月から2006年9月までに山形大学医学部眼科でBRVOに伴う黄斑浮腫を認め,評価開始時矯正小数視力0.5以下であった症例102例118眼である.男性44眼,女性74眼,年齢は44.82歳,平均65.6(±9.7)歳であった.治療法は,硝子体手術を施行した症例37眼(以下,vitrectomy群),IVTAを施行した症例29眼(以下,IVTA群),自然経過観察52眼(以下,経過観察群)であった.治療法のフローチャートを図1に示す.治療法の選択については,患者本人と相談のうえ選択した.治療前に自然寛解の可能性のあることが報告されている11~14)ことをもとに患者に説明して,3カ月間経過を観察した期間および治療を希望しなかった症例を経過観察群とし,3カ月経過観察後に症状が改善せず治療を希望した場合にはいずれかの治療を行った.発症から3カ月未満で治療を行った症例はvitrectomy群で11眼,IVTA群で2眼であった.Vitrectomy群では,経毛様体扁平部硝子体切除術を施行し,白内障を認めた症例では超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した.Vitrectomyの術中に黄斑浮腫の治療目的でトリアムシノロン4mgを注入した症例は28例で,それ以外は黄斑部の残存硝子体の有無を確認し除去する目的でごく微量のトリアムシノロンを網膜表面に塗布し,確認後は吸引除去した.IVTA群では,トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)4mgを30ゲージ針にて硝子体内に注入した.IVTA群においては治療前にリン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロンRA)の6回/日点眼を3週間行い,眼圧が有意に上昇した症例は除外した.経過観察群については初診から3カ月の経過観察中に治療の希望があり治療を行ったものは対象から除外した.除外して治療された症例は治療群のなかには含まれない.また,発症推定時期から1年以上経過している陳旧例は対象から除外した.評価項目は,術前または観察開始時,1カ月,2カ月,3カ月後の視力および網膜厚,評価開始時の年齢,性別,発症推定時期から治療または観察開始までの期間,血管閉塞部位,閉塞領域,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)での虚血の有無,黄斑部虚血の有無とした.なお,FAにて5乳頭面積以上の虚血があったものを虚血型とした.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力に換算し,視力の平均はlogMAR視力の相加平均で算出して評価した.視力変化に関してはlogMAR視力で0.3以上の変化を改善または悪化と定義した.網膜厚はOCTのretinalmapプログラムを使用し,中心窩平均網膜厚の値を用いた.網膜厚変化は術前網膜厚の20%以上の減少または増加を改善または悪化と定義した.また,各群での視力および網膜厚の改善率の変化について比較検討した.視力(網膜厚)改善率は「[治療後の視力(網膜厚).術前または観察開始時の視力(網膜厚)]/術前または観察開始時視力(網膜厚)の絶対値」と定義した.有意差検定には,平均値にはMann-WhitneyUtest,Kruskal-Wallistest,Kolmogorov-Sminov検定にて正規分布を示すデータに対しては一元配置分散分析,比率はFisherBRVOと診断黄斑浮腫ありVA≦0.5早期治療を希望3カ月間の経過観察希望経過観察群n=52Vitrectomyn=27IVTAn=23改善なしn=41改善または治療希望なしn=11Vitrectomyn=10*IVTAn=6*Vitrectomy群n=37IVTA群n=29図1治療のフローチャート*:治療後3カ月以上経過観察可能であった症例.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011289直接法,また,各群の視力および網膜厚の推移については分散分析を用いた.有意確率は0.05未満を有意と判断した.II結果各群の術前観察開始時の状態を表1に示す.治療または観察開始までの期間が経過観察群で有意に短い(p<0.001)が,その他の因子では3群間に有意差を認めなかった.治療および観察開始から3カ月後の各群の視力変化を図2に示す.Vitrectomy群は改善18眼(48.6%),不変16眼(43.2%),悪化3眼(8.1%),IVTA群では改善15眼(51.7%),不変14眼(48.3%),悪化0眼,経過観察群では改善11眼(21.2%),不変34眼(65.4%),悪化7眼(13.5%)であり,vitrectomy群およびIVTA群では経過観察群に比較し改善例が多かった(vitrectomy群p=0.006,IVTA群p=0.001).3カ月後の網膜厚変化を図3に示す.Vitrectomy群では改善18眼(48.6%),不変16眼(43.2%),悪化3眼(8.1%),IVTA群では改善17眼(58.6%),不変12眼(41.4%),悪化0眼,経過観察群では改善30眼(57.7%),不変19眼(36.5%),悪化3眼(5.8%)であり,3群間で有意差は認められなかった.つぎに,視力および網膜厚の推移を図4a,bに示す.3群の視力の推移では,IVTA群が治療後1カ月(p=0.001),vitrectomy群が治療後2カ月で有意に治療前に比較し視力が改善した(p=0.007)のに対し,経過観察群では最終観察時点の3カ月目においても改善しなかった.網膜厚の推移では,IVTA群およびvitrectomy群で治療後1カ月の時点で有意に減少した(IVTA群:p=0.001,vitrectomy群:p=0.012)のに対し,経過観察群では1カ月目181511161434037100%80%60%40%20%0%Vitrectomy(n=37)IVTA(n=29)経過観察(n=52)**□:改善■:不変■:悪化*p<0.01Fisher直接法図2視力(3カ月後)グラフ内の数字は眼数を示す.IVTA:intravitrealtriamcinoloneacetonide.181730161219100%30380%60%40%20%0%Vitrectomy(n=37)IVTA(n=29)経過観察(n=52)□:改善■:不変■:悪化図3網膜厚(3カ月後)グラフ内の数字は眼数を示す.IVTA:intravitrealtriamcinoloneacetonide.表1術前または観察開始時所見Vitrectomy群n=37IVTA群n=29経過観察群n=52p値観察開始時視力0.75±0.260.72±0.380.61±0.320.226*観察開始時網膜厚(μm)447.3±155.0458.6±114.7503.8±119.60.071年齢(歳)66.3±9.866.0±7.964.8±10.00.562性(女性/男性)2.11.641.890.951観察開始までの期間3.8±2.25.7±2.21.7±1.4<0.001*虚血型(%)37.844.844.20.951黄斑部虚血(%)21.620.719.20.650閉塞部位上(%)下(%)黄斑枝(%)54.135.110.855.234.510.349.035.615.40.688第1分枝閉塞(%)59.555.248.00.759第2分枝閉塞(%)29.734.536.60.837Kruskal-Wallistest*:one-wayANOVA.290あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(136)ではほとんど減少せず2カ月から減少した(p<0.001).つぎに,各群での視力および網膜厚改善率の推移を比較検討した(図5a,b).IVTA群は経過観察群に比べ視力改善率は術後1カ月から3カ月まで有意に高かった(術後1カ月p<0.001,術後2カ月p=0.001,術後3カ月p=0.04).Vitrectomy群では術後1カ月,2カ月では経過観察群に比べ有意に改善率が高く(術後1カ月p=0.025,術後2カ月p=0.015),術後3カ月では改善率が高い傾向にあった(p=0.09).Vitrectomy群とIVTA群間では術後3カ月まで改善率に有意差を認めなかった.一方,網膜厚改善率では術後1カ月でvitrectomy群,IVTA群とも経過観察群に比べ有意に改善率が高かった(vitrectomy群p=0.016,IVTA群p<0.001)が,術後3カ月では経過観察群との間に有意差は認められなかった(vitrectomy群p=0.881,IVTA群p=0.621).IVTA群とvitrectomy群を比較すると,IVTA群はvitrectomy群に比べ術後1カ月で有意に改善率が高かった(p=0.048)が,術後3カ月では有意差を認めなかった(p=0.43).術後合併症の発生の内訳を表2に示す.IVTAで術後21mmHg以上の眼圧上昇を2眼(6.9%)に認めたが,眼圧上昇は最高20mmHg台後半であり,点眼治療にて改善した.術後細菌性眼内炎,網膜裂孔および網膜.離は3群とも認められなかった.表2術後合併症Vitrectomy群IVTA群経過観察群眼圧上昇(≧21mmHg)02眼(6.9%)0細菌性眼内炎000網膜.離000網膜裂孔0000.60.50.40.30.20.10013平均網膜厚改善率+SD経過観察期間(月)****:Vitrectomy:IVTA:Control図5b網膜厚改善率*p<0.05,**p<0.01Mann-WhitneyUtest.(3群間で有意差のあったものを*,**で表示)0123経過観察期間(月)***************7006005004003002001000中心窩平均網膜厚(μm)+SD:Vitrectomy:IVTA:Control図4b網膜厚*p<0.05,**p<0.01ANOVA(Bonferroni).(治療前または経過観察時視網膜厚と術後網膜厚との間に有意差のあったものを*,**で表示)0123経過観察期間(月)1.210.80.60.40.20-0.2平均視力改善率+SD*******:Vitrectomy:IVTA:Control図5a視力改善率*p<0.05,**p<0.01Mann-WhitneyUtest.(3群間で有意差のあったものを*,**で表示)1.210.80.60.40.200123経過観察期間(月)平均logMAR視力+SD**********:Vitrectomy:IVTA:Control図4a視力**p<0.01ANOVA(Bonferroni).(治療前または経過観察時視力と術後視力との間に有意差のあったものを**で表示)(137)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011291III考按これまで,BRVOの治療には光凝固1,2),硝子体手術3~6),薬物治療(トリアムシノロン7),組織プラスミノーゲンアクチベータ8),ベバシズマブ硝子体内投与9,10)などの有効性が報告されている.一方でBRVOは症例により自然経過が大きく異なる疾患であり,自然経過により視力および網膜厚の改善を認める症例がしばしば認められる11~14).光凝固治療はBranchVeinOcclusionStudy1,2)の大規模臨床研究によりその有効性がすでに報告されているが,最近の治療による視力および網膜厚の改善が,治療によって改善しているのか自然経過で改善しているのかを判断することはむずかしく,治療によって改善したように思われる症例のなかには,自然経過で改善したものが含まれている可能性がある.以上の理由から,最近の治療法による結果とコントロールを比較することが必要であると考えられる.しかし,光凝固治療の有効性がすでに報告されている現在,本疾患の多数の症例において無治療で長期経過を観察することは倫理的にも非常に困難であり,無治療群をランダムに振り分けるのはさらに問題がある.しかし,BranchVeinOcclusionStudyの研究においても,治療介入に入る前に発症後3カ月は自然経過を観察していることから,3カ月間の経過観察は現在のところ倫理上問題が少ないと考えられる.したがって,治療群と経過観察群との比較を行う場合は,検討期間を自然経過観察期間の3カ月に合わせざるをえないため,今回の検討は3カ月間という短期間の観察となった.また,過去のBRVOの自然経過の報告ではOCTを用いた網膜厚の詳細な経過観察は行われていない.以上の理由から,本研究では3カ月といった短期間ではあるが,自然経過を観察した群と最近の新しい治療法を行った群の視力および網膜厚について比較検討を行った.その結果,治療および観察開始後3カ月の時点で視力が改善したのは硝子体手術では48.6%,IVTAでは51.7%であったが,経過観察群では21.2%のみでありvitrectomy群およびIVTA群に比較し有意に経過観察群で不良であった.一方,網膜厚の改善は,硝子体手術で43.2%,IVTAで58.6%の症例で認められ,経過観察群でも57.7%で改善した.この理由は,経過観察群のなかには,予後がきわめて良好で,観察開始後3カ月で視力が著しく改善する症例もあるが,ほとんどの症例が自然経過では浮腫の減少速度が治療群に比較して緩除であり,このために経過観察群では3カ月の経過観察期間内で十分な視力改善が得られなかったと考えられる.また,経過良好例がある一方,まったく浮腫は軽減せず,逆に一時的に浮腫が増強し視力も増悪する症例もあり,このような症例に対しては3カ月経過観察後に早急に治療を開始すべきであると考えられる.視力改善率は,術後1カ月から2カ月ではIVTA群およびvitrectomy群が経過観察群に比べて有意に高く,術後3カ月ではIVTA群は経過観察群より高く,vitrectomy群は経過観察群に比較し高い傾向にあった.この結果から,経過観察群に比較し治療群は早期から視力が改善しており,IVTAや硝子体手術などの治療法は少なくとも短期的には有効な治療法と考えられた.網膜厚改善率では経過観察群が観察開始後1カ月ではほとんど改善していないのに対し,IVTA群およびvitrectomy群では有意に高い改善率を認め,視力改善と同様に治療をすることによって早期から網膜厚が改善することがわかった.また,網膜厚の改善率は,観察開始後1カ月の時点で,vitrectomy群に比較しIVTA群で有意に高い改善率であった.この結果はIVTAでは硝子体手術より早く浮腫が減少することが示され,視力予後の点からIVTAが望ましい可能性も考えられる.しかし,IVTAでは投与後3~6カ月で再発が多いことが報告されている7).もし,再発した場合,再度のIVTAあるいは他の治療を行うことになるが,再発をくり返した場合は最終視力にどのように影響するかは不明であり,硝子体手術とIVTAの効果の優劣に関してはさらに長期の経過を観察する必要がある.今回の検討では,治療後の合併症として,IVTA群で2眼(6.9%)に眼圧上昇が認められた.IVTAによる術後眼圧上昇の報告によると,約26%で21mmHg以上の眼圧上昇が認められ16),トリアムシノロンの薬剤効果は約8~9カ月継続するため,少なくとも6カ月以上の経過観察が必要17)とされている.今回検討した症例では認められなかったが,IVTAでは,術後眼内炎の発生の可能性18,19),硝子体手術では術中網膜裂孔や術後網膜.離の発生の可能性20,21)などが存在するため,治療にあたっては十分な説明と術後管理が必要であると思われた.黄斑浮腫は遷延化すると.胞様黄斑浮腫の形態をとることが多い.組織学的な.胞様黄斑浮腫の形成メカニズムは,黄斑浮腫の遷延化によりMuller細胞の細胞内浮腫が生じ,引き続いてMuller細胞の細胞構造が破壊されると細胞間液の吸収が遅延することで形成されると考えられている22).したがって,黄斑浮腫が長期に及ぶと不可逆的な組織変化および機能障害が生じ,浮腫が消失しても視力が改善しない可能性があることから,早期に浮腫を改善することは視力予後を良好にする可能性がある.しかし,どれくらい早期に浮腫を改善させることが長期的な視力予後に影響するかについては,さらに症例数を増やし,長期間の治療経過を観察しなければならない.また,発症後3カ月間は無治療で経過観察するという治療方針が長期的な視力予後に影響するかについても,より長期の観察を行う必要がある.今回の検討では,経過観察群は治療群に比較して観察開始までの時間が少なく,観察開始時での視力が比較的良好な症292あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(138)例が多い傾向があった.経過観察群には,初診時より視力が良好で浮腫も軽度な症例,あるいは短期間で視力および浮腫が改善した症例が多く含まれている可能性がある.本検討が治療方針を患者の希望により決定しており,無作為割り付け試験でない以上,経過観察群と治療群の間に何らかのバイアスが入ることは否めない.しかし,経過観察群で予後が良い症例を多く含んでいる可能性があるにもかかわらず,経過観察群と比較し治療介入群で有意に視力改善度は大きかった.この結果から考えて,IVTAや硝子体手術は視力の改善という点において短期的には有効であると考えられた.以上の結果より,3カ月間の経過観察において,自然経過観察に比較しIVTAや硝子体手術などの治療は,早期から浮腫を軽減させ視力が改善することがわかった.また,短期的には浮腫の軽減は硝子体手術に比べIVTAでより早期から認められたが,IVTAは再発もあるので,最終的な視力予後を知るためには長期での検討が今後必要であると思われた.文献1)BranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserscatterphotocoagulationforpreventionofneo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黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注入 ─糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症─

2011年1月31日 月曜日

108(10あ8)たらしい眼科Vol.28,No.1,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):108.112,2011cはじめに糖尿病網膜症(DR)や網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術1,2),網膜光凝固術3),不溶性副腎皮質ホルモン懸濁液であるトリアムシノロンアセトニド(TA)硝子体注入3)またはTenon.下注入2)などが行われてきた.近年は抗血管内皮増殖因子(VEGF)〔別刷請求先〕坂本英之:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室Reprintrequests:HideyukiSakamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注入─糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症─坂本英之山本香織堀貞夫東京女子医科大学眼科学教室IntravitrealBevacizumabforTreatmentofMacularEdema:DiabeticMacularEdemaandBranchRetinalVeinOcclusionHideyukiSakamoto,KaoriYamamotoandSadaoHoriDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症(DR)と網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に対するベバシズマブ硝子体注入(IVB)の効果を検討した.対象および方法:対象は経過観察期間中における最終治療がIVBであり,その後6カ月間黄斑浮腫の再発がなく追加治療をせずに経過観察できた32眼(DR18眼,BRVO14眼)であった.Logarithmicminimalangleofresolution〔以下,視力(logMAR値)〕,光干渉断層計で測定したfovealthickness(FT),totalmacularvolume(TMV)を術前と術後6カ月で比較した.視力(logMAR値),FT,TMVをDRとBRVOで比較し,また,術後視力改善の有無によっても比較した.結果:術後視力は術前視力に比べてBRVOで有意に改善し,FTとTMVはDRとBRVOで術前に比べて術後有意に改善した.DRにおける視力改善ありは術後視力改善なしと比べてTMVは有意に小さく,BRVOにおける視力改善ありは視力改善なしと比べて術前後視力は有意に不良であった.結論:DRとBRVOにIVB施行後6カ月間追加治療をせずに観察できた症例において,黄斑浮腫に対するIVB施行は,DRに比べBRVOにおいて効果が高い可能性が示唆された.Purpose:Tocomparetheeffectsofintravitrealbevacizumab(IVB)injectionformacularedemaindiabeticretinopathy(DR)withbranchretinalveinocclusion(BRVO).CaseandMethod:Thisstudyinvolved32eyes(DR18eyes,BRVO14eyes)thatunderwentIVBasfinaltreatmentduringtheinvestigationperiod,anddidnotrequireadditionaltreatmentforrecurrenceofmacularedemaduringthe6-monthfollow-up.Weexaminedlogarithmicminimalangleofresolution(logMAR)visualacuity,fovealthickness(FT)andtotalmacularvolume(TMV)viaopticalcoherencetomography,beforeandat6monthsafterinjection,andcomparedtheresultsbetweenDRandBRVO.Patientsweredividedinto2groupsbasedonvisualacuityimprovement,andtheresultswereanalyzed.Results:ImprovementinvisualacuitywasfoundonlyintheBRVOgroup,thoughimprovementsinFTandTMVwerefoundinbothgroups.IntheDRpatients,TMVinthegroupthatimprovedinvisualacuitywassignificantlylessthaninthegroupthatdidnotimprove.IntheBRVOpatients,visualacuityinthegroupthatimprovedinvisualacuitywasworsethaninthegroupthatdidnotimprove,bothbeforeandaftertreatment.Conclusion:ItissuggestedthatIVBformacularedemaismoreeffectiveforBRVOthanforDR,withouttheneedforadditionaltreatmentduringthe6-monthfollow-upperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):108.112,2011〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜静脈分枝閉塞症,黄斑浮腫,ベバシズマブ,光干渉断層計(OCT).diabeticretinopathy,branchretinalveinocclusion,macularedema,bevacizumab,opticalcoherencetomography(OCT).(109)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011109抗体であるベバシズマブ硝子体注入(IVB)の効果が報告されている4~7).黄斑浮腫を伴うDRやBRVOに対してIVBを施行し,その治療効果を検討した報告は術後3カ月程度の短期成績が主である4,6,7).IVB後の視力改善や黄斑浮腫の改善の程度,黄斑浮腫の改善から再燃までの期間などに関しても報告によって結果にばらつきがある4~7).IVB後に黄斑浮腫が再燃し,IVB再施行の必要な例や,すでに他の治療歴があるものにIVBを施行する例を経験する.また,対象の症例によって効果が異なることも経験するが,IVB後のDRとBRVOにおける効果を比較した報告は,検索した限りではない.今回,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対して経過観察中における最終的な治療がIVBであり,その後6カ月間追加治療をせずに経過観察ができた症例についてその結果や背景を検討することを目的に,視力や黄斑浮腫につき比較,検討したので報告する.I対象および方法対象は,2007年11月から2008年12月に黄斑浮腫に対してベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体注入を施行した症例48例50眼(DR:32例34眼,BRVO:16例16眼)のうち,最終IVBから追加治療をせずに6カ月以上経過観察できた30例32眼である(50眼中32眼:64%).IVBにあたっては,本学倫理委員会の承認を得て,患者への十分な説明と同意のもとに施行した.男性18例20眼,女性12例12眼,年齢は68.0±6.0(平均±標準偏差)歳であった.DR:16例18眼,BRVO:14例14眼であった.治療歴があったものはDRでは11眼,BRVOでは11眼で,その内訳は硝子体手術,網膜光凝固術,TATenon.下注入,IVBであった.対象となった症例のIVB施行回数は,DRにおいては1回が12眼,2回が5眼,3回が1眼であった.BRVOにおいては1回が5眼,2回が6眼,3回が3眼であった.治療追加の基準は,原則としてlogarithmicminimalangleofresolution〔以下,視力(logMAR値)〕で0.2以上増加,または経過観察中に最も軽度であった黄斑浮腫が光干渉断層計(opticalcoherencetomography:Zeiss社製,OCT3000,以下OCT)による後述の計測で30%以上の増悪を認めた場合とした.視力(logMAR値)はlogMAR視力表(Neitz社製)で測定した.黄斑浮腫はOCTで測定した.測定にはfastmacularthicknessMAPを用い,fovealminimumとtotalmacularvolume(TMV)を測定した.Fovealminimumをfovealthickness(FT)とした.最終IVB直前とその6カ月後の視力(logMAR値),FT,TMVをカルテベースに調査し,術前と術後で比較した.同様にDRとBRVOで比較した.さらに,視力改善に共通する術前因子を検討することを目的に,術後6カ月でのDRとBRVOそれぞれにおける視力改善の有無に分けて視力(logMAR値),FT,TMVを比較した.視力改善ありは視力(logMAR値)が0.2以上減少したものとし,視力改善なしは視力(logMAR値)が0.2未満の改善,不変および悪化を含めた.検討はレトロスペクティブに行った.統計処理にはt検定を用い,有意水準をp<0.05とした.II結果1.DRとBRVOにおける術前と術後6カ月の視力(logMAR値),FT,TMV視力(logMAR値)は,DRで術前0.54±0.30,術後0.51±0.33,BRVOで術前0.43±0.33,術後0.22±0.17であった.術後視力はDRでは有意な改善を認めず,BRVOのみで有意に改善した(p=0.026)(表1).FTは,DRで術前481±115μm,術後366±163μm,BRVOで術前348±112μm,術後243±90.5μmであり,FTはDRとBRVO両者で術前より術後有意に減少した(DR:p=0.0022,BRVO:p=0.022)(表1).FTの術後の減少率はDRでは23%,BRVOでは29%であった.TMVは,DRで術前10.2±1.53mm3,術後9.00±2.09mm3,BRVOで術前8.83±2.56mm3,術後7.55±1.48mm3であった.TMVはDRとBRVOの両者で術前より術後有意に減少した(DR:p=0.0012,BRVO:p=0.038)(表1).TMVの術後の減少率はDRでは12%,BRVOでは14%であった.2.視力(logMAR値),FTおよびTMVのDRとBRVOにおける比較術前視力(logMAR値)はDRで0.54±0.30,BRVOで0.43±0.33で,両者間に有意差はなかった(p=0.27).術後表1DRとBRVOにおけるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMV視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)DRBRVODRBRVODRBRVO術前0.54±0.300.43±0.33481±115348±11210.2±1.538.83±2.56術後6カ月0.51±0.330.22±0.17366±163243±90.59.00±2.097.55±1.48p値0.570.0260.00220.0220.00120.038t検定:術前と術後6カ月の比較.110あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(110)視力(logMAR値)はDRで0.51±0.33,BRVOで0.22±0.17で,DRと比較しBRVOで有意に良好であった(p=0.0026)(表2).術前FTは,DRで481±115μm,BRVOで348±112μmで,DRと比較しBRVOで有意に薄かった(p=0.0028).術後FTはDRで366±163μm,BRVOで243±90.5μmで,DRと比較しBRVOで有意に薄かった(p=0.022)(表2).術前TMVはDRで10.2±1.53mm3,BRVOで8.83±2.56mm3で,両者間に有意差はなかった(p=0.096).術後TMVはDRで9.00±2.09mm3で,BRVOで7.75±1.48mm3で,DRと比較しBRVOで有意に小さかった(p=0.038)(表2).3.DRとBRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無による視力(logMAR値),FTおよびTMVの比較DRでは18眼中,術後6カ月での視力改善ありは7眼,視力改善なしは11眼であった.BRVOでは14眼中,術後6カ月での視力改善ありは6眼,視力改善なしは8眼であった.DRにおける術後6カ月での視力改善の有無により視力(logMAR値),FTおよびTMVを比較すると,術前視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.63±0.35,視力改善なしでは0.48±0.27で,有意差はなかった(p=0.37).術前FTは視力改善ありでは430±108μm,視力改善なしでは514±112μmで有意差はなかった(p=0.14).術前TMVは視力改善ありでは9.46±1.62mm3,視力改善なしでは10.6±1.35mm3で有意差はなかった(p=0.14)(表3).術後6カ月での視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.34±0.34,視力改善なしでは0.61±0.29で有意差はなかった(p=0.11).術後FTは視力改善ありでは293±92.6μm,視力改善なしでは412±184μmで,視力改善ありは視力改善なしに比べ術後FTは有意に薄かった(p=0.088).術後TMVは視力改善ありでは7.92±1.02mm3,視力改善なしでは9.69±2.35mm3で,視力改善ありは視力改善なしに比べ術後TMVは有意に小さかった(p=0.044)(表3).BRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無による視力(logMAR値),FTおよびTMVを比較すると,術前視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.72±0.21,視力改善なしでは0.18±0.04で,視力改善ありは視力改善なしに比べ術前視力(logMAR値)は有意に不良であった(p=0.00079).術前FTは視力改善ありでは404±140μm,視力改善なしでは307±67.8μmで有意差はなかった(p=0.16).術前TMVは視力改善ありでは10.5±3.02mm3,視表2DRとBRVOにおける視力(logMAR値),FT,TMVの比較術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)DR0.54±0.30481±11510.2±1.530.51±0.33366±1639.00±2.09BRVO0.43±0.33348±1128.83±2.560.22±0.17243±90.57.55±1.48p値0.270.00280.0960.00260.0220.038t検定:DRとBRVOの比較.表3DRにおける視力改善の有無によるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMVの比較(n=18)視力術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)改善あり(n=7)0.63±0.35430±1089.46±1.620.34±0.34293±92.67.92±1.02改善なし(n=11)0.48±0.27514±11210.6±1.350.61±0.29412±1849.69±2.35p値0.370.140.140.110.0880.044t検定:視力改善「あり」と「なし」の比較.表4BRVOにおける視力改善の有無によるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMVの比較(n=14)視力術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)改善あり(n=6)0.72±0.21404±14010.5±3.020.38±0.13216±88.68.01±2.16改善なし(n=8)0.18±0.04307±67.87.54±1.090.10±0.05264±92.27.21±0.62p値0.000790.160.0590.00280.350.41t検定:視力改善「あり」と「なし」の比較.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011111力改善なしでは7.54±1.09mm3で有意差はなかった(p=0.059)(表4).術後6カ月での視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.38±0.13,視力改善なしでは0.10±0.05で視力改善ありは視力改善なしに比べ術後視力は有意に不良であった(p=0.0028).術後FTは視力改善ありでは216±88.6μm,視力改善なしでは264±92.2μmで有意差はなかった(p=0.35).術後TMVは視力改善ありでは8.01±2.16mm3,視力改善なしでは7.21±0.62mm3で有意差はなかった(p=0.41)(表4).III考按今回,過去に治療歴のあるものを含む,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対し,経過観察期間中の最終的な治療がIVBであった症例について検討した.DRにおいてはIVB施行6カ月後の黄斑浮腫(FTとTMV)は有意に改善したことがわかった.しかし術後6カ月の視力は術前に比べ改善傾向は認めたが,有意差はなかった.DRにおいて術後視力改善ありと視力改善なしを比較すると,視力改善ありにおいてFTとTMVは有意に改善しており,浮腫が改善すれば視力が改善することが確認できた.一方,術前視力や術前の黄斑浮腫の程度は術後視力の改善に関与する因子ではなかった.BRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無により比較すると,術後視力改善ありは視力改善なしと比較して,術前後の視力が有意に不良であった.DRとBRVOの比較から,今回の検討の対象においてBRVOはDRに比べて術前ではFTは有意に薄く,術後では視力は有意に良好でFTは薄く,TMVは小さい結果が得られた.このことからDRでは術前の黄斑浮腫は高度であり,DRではFT,TMVは術後に改善したがBRVOに比べると黄斑浮腫の残存の程度が大きいことがわかった.FTの術後減少率はDRでは23%,BRVOでは29%,TMVの術後減少率はDRでは12%,BRVOでは14%であり,BRVOにおいてのみ術後有意に視力が改善した結果との関連が考えられた.今回の検討では,視力改善の点ではDRよりもBRVOにおいてIVBの効果は高いという結果であった.BRVOでは黄斑浮腫発症にあたりVEGFとinterleukin-6(IL-6)が関与するといわれている8).一方,DRでは黄斑浮腫発症の病態にVEGF以外にIL-6,intercellularadhesionmolecule1(ICAM-1)などの因子が関連するといわれている9,10).さらに,monocytechemoattractantprotein-1(MCP-1),pigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)がDRに伴う黄斑浮腫おける黄斑部の網膜厚に関連する11)との報告がある.DRにおける黄斑浮腫の再燃にあたって,硝子体内のVEGFよりも,IL-6やMCP-1の関連が強く,黄斑浮腫の病因となる可能性が指摘されている12).以上のように,BRVOに比べDRでは黄斑浮腫発症の機序に,炎症に関連する数多くのサイトカインが関与するといわれている.BRVOでは黄斑浮腫発症の主因としてVEGFがあげられる一方で,糖尿病網膜症では病理組織学的に網膜毛細血管における周皮細胞・内皮細胞の変性,基底膜の肥厚があり,特に周皮細胞の変化と血管透過性亢進との関連がいわれている13,14).これらのことは,VEGFのみを標的とした抗VEGF抗体(ベバシズマブ)硝子体注入の治療効果をみた今回の検討において,BRVOのほうがDRに比べ効果が高いという結果になったことの要因と考えられる.Shimuraらの検討でもDRに伴う黄斑浮腫の治療としてIVBに比べ,抗炎症作用を併せ持つ副腎皮質ステロイド薬(TA)硝子体注入のほうが有効であり,ベバシズマブの効果はTAと比較して弱く,短いとしている15).黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術は長期間にわたり黄斑浮腫改善を維持できるとの報告1,2)やTA硝子体注入に比べ,局所/grid光凝固のほうがDRの黄斑浮腫における視力の長期予後が良好であるとする報告がある3).DRやBRVOに伴う黄斑浮腫発症機転に関してはいまだ明らかでない点が多い.その治療にあたり,硝子体手術,IVB,TAのTenon.下注入または硝子体注入,網膜光凝固などの選択肢のなかから,治療の侵襲,副作用,期待できる効果の程度や持続期間を考慮し,かつ患者の社会的背景も踏まえ適切な治療選択をすることが求められる.今回,過去に治療歴のあるものを含む,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対し,経過観察期間中の最終的な治療がIVBであった症例において,DRに比べてBRVOでは術後視力は有意に良好で,術後FTとTMVは有意に小さく,術後減少率も高かった.黄斑浮腫に対するIVB施行は,DRに比べBRVOにおいて効果が高い可能性が示唆された.文献1)武末佳子,山名時子,向野利寛ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の術後成績.臨眼62:1457-1460,20082)八木文彦,佐藤幸裕,山地英孝ほか:網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対する硝子体手術.眼臨100:608-611,20063)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Arandomizedtrialcomparingintravitrealtriamcinoloneacetonideandfocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Ophthalmology115:1447-1459,20084)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Aphase2randomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Ophthalmology114:1860-1867,20075)大野尚登,森山涼,菅原通孝ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブとトリアムシノロンアセトニドの治療効果.臨眼63:307-309,2009112あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(112)6)澤田浩作,池田俊英,大八木智仁ほか:網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の効果.臨眼62:875-878,20087)原信哉,桜庭知己,片岡英樹ほか:網膜静脈分枝閉塞症による黄斑浮腫に対するベバシズマブの治療成績.眼臨紀1:796-801,20088)NomaH,FunatsuH,YamasakiMetal:Pathogenesisofmacularedemawithbranchretinalveinocclusionandintraocularlevelsofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6.AmJOphthalmol140:256-261,20059)NomaH,FunatsuH,MimuraTetal:Vitreouslevelso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網膜静脈分枝閉塞症のレーザー治療25 年後のAtrophic Creep

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(137)1303《原著》あたらしい眼科27(9):1303.1306,2010cはじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)の治療には確実なものはなく,これまでレーザー光凝固1,2),硝子体腔内トリアムシノロン注入3)やsheathotomyを併用した硝子体手術4)が行われてきていた.本症の自然経過では,BRVO全体で50~60%の症例で1年後に0.5以上の視力を維持することができるという報告1)の半面,進行例に対して行われてきた上記の治療においては治療効果が確実ではないため5),最近では抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)による治療も試みられてきている6)のが現状である.本症による無血管野に発症した新生血管や黄斑浮腫の治療目的で,後極黄斑部に特に網膜アーケード血管内の領域に網膜光凝固を行うことが以前から行われてきているが,本治療法の長期の合併症の報告はない.筆者らは今回BRVOに対して網膜光凝固治療を施行した後,徐々に凝固斑が拡大し(クリーピング),融合し,25年後に重度の視力障害をきたした症例を経験したので報告する.I症例患者:60歳,男性,初診は昭和60年5月10日.主訴:右眼視力低下.現病歴:昭和55年右眼の網膜中心静脈分枝閉塞症にて関西の某大学病院で網膜光凝固を受けた.その後都内の某大学病院で経過観察されていたが,右眼の網膜.離を併発したため,手術目的で当科紹介初診となった.全身既往歴:高血圧,高脂血症で内服治療中,糖尿病治療中.初診時所見:視力はVD=0.2(n.c.),VS=1.2(1.5×+0.75).〔別刷請求先〕井上順治:〒279-0021浦安市富岡2-1-1順天堂大学医学部附属浦安病院眼科Reprintrequests:JunjiInoue,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityUrayasuHospital,2-1-1Tomioka,Urayasu-shi279-0021,JAPAN網膜静脈分枝閉塞症のレーザー治療25年後のAtrophicCreep井上順治伊藤玲佐久間俊郎溝田淳田中稔順天堂大学医学部附属浦安病院眼科ACaseofAtrophicCreepDevelopedduring25YearsafterLaserPhotocoagulationforBranchRetinalVeinOcclusionJunjiInoue,ReiIto,ToshiroSakuma,AtsushiMizotaandMinoruTanakaDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityUrayasuHospital網膜静脈分枝閉塞症による後極の無血管野および黄斑浮腫に対し格子状光凝固を行い25年間経過を観察した.条件は,200μm/0.2秒/0.14W/66発で照射した.徐々に光凝固斑が拡大融合し網脈絡膜萎縮となり視力は0.1である.糖尿病黄斑浮腫に対する格子状光凝固後のatrophiccreepと同様,黄斑部に凝固を行った場合は長期の経過観察が必要である.Acaseofprogressiveatrophiccreepafterlaserphotocoagulationforbranchretinalveinocclusion(BRVO)isreported.Thepatient,a60-year-oldmale,hadundergonelasertherapytreatmentofnon-perfusionareaandmacularedemaduetoBRVO.Thegradualprogressoftheatrophiccreephasbeenobservedfor25yearsfollowingthetreatment.Carefulobservationsarenecessary,ifthemaculahasundergonephotocoagulation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1303.1306,2010〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,網膜レーザー光凝固,格子状光凝固,アトロフィッククリープ,網脈絡膜萎縮.branchretinalveinocclusion,retinalphotocoagulation,gridpatternphotocoagulation,atrophiccreep,chorioretinalatrophy.1304あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(138)前眼部には両眼とも異常なく,眼圧は右眼12mmHg,左眼13mmHg.眼底は右眼耳上側のBRVOで黄斑部中心窩には網膜下に結合織の増生を認め,アーケード内には斑状出血が散在し,白線化血管も認めた.中心窩から2乳頭径耳側および上方アーケード血管より周辺側にまばらにレーザー光凝固がなされていた(図1).9°方向最周辺部に馬蹄型裂孔がみられ,扁平な網膜.離を認めた.蛍光眼底検査(fluoresceinangiography:FA)にて中心小窩外上方に無灌流域を,また中心窩には黄斑浮腫を認めた.左眼眼底は正常であった.経過:昭和60年5月13日入院し,右外方に部分バックリングを施行し,網膜は復位した.FAにて認められた無血管野に対して,また中心窩黄斑浮腫治療のため,格子状に昭和60年5月28日,網膜光凝固を追加した.照射条件は,アルゴングリーン200μm,0.2秒,0.14W,66発であった(図2).用いたレンズはGoldmann三面鏡で,倍率は0.17倍程度と思われる.無灌流域は減少し黄斑浮腫も軽減した.視力は0.2を維持していた.以後徐々に凝固斑が拡大し,一時視力はVD=(0.08)までに低下した.平成7年11月17日の眼底写真とFA写真を図3に示す.中心小窩の線維性瘢痕の増加および色素沈着がみられ,凝固斑は拡大のみならず融図1初診時の右眼眼底写真(昭和60年5月)図2無血管野へのレーザー光凝固の追加図4格子状光凝固から20年後の眼底写真拡大融合に加え網脈絡膜萎縮もみられる(平成21年6月).ab図3平成7年11月7日における眼底写真(a)とFA写真(b)a:徐々に凝固斑の拡大融合がみられる(平成7年11月7日).b:黄斑浮腫は消失しているが,黄斑部は萎縮している.(139)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101305合し中心窩まで進展してきた.白内障が進行してきたため,平成10年2月13日,右眼に超音波水晶体乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ(IOL)手術を施行した.視力はVD=(0.2)で経過していたが,凝固から25年後の平成21年6月には,図4に示すように凝固斑拡大,融合,網脈絡膜萎縮が認められ視力は徐々に低下した.以後VD=(0.1)のままであるが,視野は徐々に中心暗点が拡大し(図5a,b),視機能全体は低下の一途をたどっている.光干渉断層計(OCT)所見を図6に示す.中心窩は菲薄化し萎縮している.左眼は特に変化なくVS=(1.5)を維持している.II考按BRVOの症例に対して,一般的には広い無血管野の存在や新生血管を発症した場合には網膜レーザー光凝固を行うが,黄斑浮腫を有する症例に対しての凝固についてはいまだ定説はない.TheBranchVeinOcclusionStudyGroupは,発症から3カ月以上たったBRVOによる黄斑浮腫の症例群を2群に分け,コントロールスタディを行った.視力が0.5以下の症例では,格子状光凝固を行った群での2段階以上の視力改善率は65%で,コントロール群は37%であり,BRVOによる格子状光凝固治療は有効であると報告している2).視力が0.5以上の症例は,進行例,たとえば本症例のように陳旧となった網膜の肥厚した黄斑浮腫や.胞様黄斑浮腫(CME)に格子状光凝固を行うよりも,レーザーの照射条件が軽度で済むことが多いため,難症への過度となりがちなレーザー照射とは異なる.今回の筆者らの経験した症例は,格子状光凝固を施行した時期にはOCTがなかったため,黄斑部の病理や網膜厚は不明であった.また,BRVOの発症から長年経過しており,陳旧性の黄斑浮腫であった.レーザーの照射条件は200μm,0.2sec,0.14W,66発と,グリーンレーザーを用いての格子状光凝固としては,25年前の当時は一般的に行われていた条件であったが,今日では過剰と考えられている条件で施行されていた.前医での格子状光凝固の既往については不明であるが,光凝固前の写真では黄斑部にすでにレーザー照射によると推定される瘢痕が観察された.したがって,反復照射されていた可能性が考えられる.その結果,7年後には図3のようになり,25年たった現在では凝固斑は拡大融合し,網膜は菲薄化し,回復困難な状態に陥ってしまっている.凝固拡大は13年前と比較すると拡大率は3倍となっていた.FAでも,クリープの発症したところでは網膜萎縮となっている.視力の回復が困難になっている理由として,atrophiccreepによるものが主体と思われるが,BRVOによる長年の黄斑浮腫,黄斑下にみられた線維性増殖変化にも視力低下の原因は考えられる.Atrophiccreepについては,これまで糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)についていくつかの報告がなされてきている.TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)やOlkによれば,DMEに対しても格子状光凝固は有用であるとしている7,8).しかし,格子状光図5a視野の変化(昭和60年5月)図5b視野の変化(平成22年2月)図6OCT所見1306あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(140)凝固治療後の長期合併症,特にatrophiccreepについては注意すべきとの報告も散見されるようになってきている9,10).これらの報告によれば,DMEに対して格子状光凝固を施行した症例の5.4.22.8%にatrophiccreepを発症しているという.そしてatrophiccreepの発症は,周辺部網膜よりもアーケード血管内の網膜により起こりやすい10)との報告もある.クリーピングの発症は波長の差によることはなく10)多くは過剰凝固が原因であろうと思われるが,理由はまったく不明である.後極にはより多くの錐体細胞があり,血流も周辺と異なる部位にレーザーで損傷を与えることで,より多くの視細胞が変性脱落していくことが考えられる11).したがって,後極,なかでも黄斑部にレーザーを照射する場合は,長期にわたって経過観察が必要で,また過剰なレーザー照射は黄斑部にはすべきではないと思われる.再度今回の症例においてatrophiccreepをきたした理由をあげてみると,1)昭和60年当時一般的であった凝固条件(0.2秒,200μm,出力0.16W),2)隙間のない凝固,3)重ねて行った凝固,4)陳旧例のため過剰となった凝固などがあげられる.今日ではこのような凝固が行われることがないが,行う場合には間隔を開け,なるべく少ないエネルギーで行うことが重要と思われた.また,乳頭黄斑線維束の部位への凝固も避けるべきと思われる.Atrophiccreepの発症は,DMEのみならず今回のようなBRVOによる黄斑浮腫の症例でも同様,黄斑浮腫,特に浮腫が強く陳旧化した症例では凝固斑が出るまで照射しがちなため過剰になりやすく,くり返し照射することもあり,ある一定の照射条件を超えるときはレーザー治療は行わず,他の治療方法に変更することが望ましいと思われた.文献1)BranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserscatterphotocoagulationforpreventionofneovascularizationandvitreoushemorrhageinbranchveinocclusion.Arandomizedclinicaltrial.BranchVeinOcclusionStudyGroup.ArchOphthalmol104:34-41,19862)BranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserphotocoagulationformacularedemainbranchveinocclusion.TheBranchVeinOcclusionStudyGroup.AmJOphthalmol98:271-282,19843)CakirM,DoganM,BayraktarZetal:Efficacyofintravitrealtriamcinoloneforthetreatmentofmacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusionineyeswithorwithoutgridlaserphotocoagulation.Retina28:465-472,20084)YamamotoS,SaitoW,YagiFetal:Vitrectomywithorwithoutarteriovenousadventitialsheathotomyformacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol138:907-914,20045)HayrehSS,RojasP,PodhajskyPetal:Ocularneovascularizationwithretinalvascularocclusion-III.Incidenceofocularneovascularizationwithretinalveinocclusion.Ophthalmology90:488-506,19836)WroblewskiJJ,WellsJA3rd,GonzalesCR:Pegaptanibsodiumformacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol148:1-8,20097)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyreportnumber1.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyresearchgroup.ArchOphthalmol103:1796-1806,19858)OlkRJ:Modifiedgridargon(blue-green)laserphotocoagulationfordiffusediabeticmacularedema.Ophthalmology93:938-950,19869)SchatzH,MadeiraD,McDonaldHRetal:Progressiveenlargementoflaserscarsfollowinggridlaserphotocoagulationfordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol109:1549-1551,199110)MaeshimaK,Utsugi-SutohN,OtaniTetal:Progressiveenlargementofscatteredphotocoagulationscarsindiabeticretinopathy.Retina24:507-511,200411)CurcioCA,SloanKR,KalinaREetal:Humanphotoreceptortopography.JCompNeurol292:497-523,1990***

網膜動静脈交叉現象と網膜静脈分枝閉塞症の病理組織学的研究 ─検眼鏡所見との対比検討─

2008年12月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(117)17250910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(12):17251730,2008cはじめに網膜動静脈交叉現象は交叉部の検眼鏡所見において動脈下の静脈が圧迫され血柱が遮閉されているようにみえる.この所見は真の動脈による静脈への圧迫か,または血管壁の病変か,血管周囲組織の変化か,以前から多くの光学顕微鏡(光顕)的観察報告があるが一致した見解は得られていない1).今回,この問題について光学および電子顕微鏡(電顕),実体顕微鏡を用いて追究し検眼鏡所見と対比して興味ある知見〔別刷請求先〕木村毅:〒421-0206静岡県焼津市上新田829-1きむら眼科Reprintrequests:TsuyoshiKimura,M.D.,KimuraOphthalmologicInstitute,829-1Kamishinden,Yaizu-shi,Shizuoka-ken421-0206,JAPAN網膜動静脈交叉現象と網膜静脈分枝閉塞症の病理組織学的研究─検眼鏡所見との対比検討─木村毅*1溝田淳*2安達惠美子*3*1きむら眼科*2順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院眼科*3千葉大学大学院医学研究院・医学部視覚形態学HistopathologicalStudiesofRetinalArteriovenousCrossingPhenomenonandBranchRetinalVeinOcclusionTsuyoshiKimura1),AtsushiMizota2)andEmikoUsamiAdachi3)1)KimuraOphthalmologicInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityUrayasuHospital,3)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicineChibaUniversity目的:網膜動静脈交叉現象における動脈下の静脈血柱遮閉の原因とさらに網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)における交叉部血栓部位についても形態学的に検討する.対象:眼球摘出を行った上顎癌患者2例2眼(62歳,74歳),BRVOの認められた絶対緑内障患者眼1例1眼(68歳),網膜芽細胞腫患者1例1眼(4歳)を試料とした.これらの眼の網膜動静脈交叉部を光学および電子顕微鏡,実体顕微鏡により観察した.結果:交叉現象部位の動静脈壁は正常交叉部のそれらと対比しても顕著な相違はみられない.交叉部周囲の神経線維の変性が著しく,グリア細胞突起の増加も認められる.交叉現象は血流の途絶した摘出眼球にも認められる.さらに1例ではあるがBRVOの血栓部位の交叉部静脈壁では内皮細胞の小顆粒状の変性,萎縮,不連続性が認められた.結論:交叉現象における静脈血柱遮閉は動脈による静脈への圧迫ではなく神経線維変性を主とする血管周囲組織の変化である.BRVOの血栓部では交叉部静脈内皮細胞の変性から出血は漏出性と考えられる.Thehistopathologicalchangesofcrossingphenomenaandbranchretinalveinocclusion(BRVO)wereexamined.Ophthalmoscopy,lightandelectronmicroscopyandbinocularmicroscopywereperformedoneyesobtainedfrompatientswithmalignantorbitaltumorandabsoluteglaucoma.Twooftheeyeshadretinalarteriovenouscrossingphenomenainsclerosis;oneofthesehadBRVO.ThecrossingphenomenonisoftenseeninthehemorrhagicareainBRVO.HistopathologicalexaminationrevealedthatthevenousbloodcolumnwashiddenbyswollennervebersandextendingMullercellprocessessurroundingthecrossingportions.Theintervesselsheathwasnotfound.Thecrossingphenomenonwasalsoobservedbybinocularmicroscopyafterenucleationoftheeye,eventhoughbloodlowintotheoverlyngarteriolarlumenhadceased.ThearteriovenouscrossingportioninBRVOwasexamined.Theendothelialcellsinthisveinweresmallandround,andwerearrangeddiscontinuously.Accordingtothisnding,theerythrocyteextravasationfromtheveinwallinBRVOappearstobecausedbydiapedesis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(12):17251730,2008〕Keywords:網膜動静脈交叉現象,網膜静脈分枝閉塞症,網膜神経線維変性,網膜静脈内皮細胞.retinalarterio-venouscrossingphenomenon,branchretinalveinocclusion,retinalnerveberdegeneration,retinalveinendothelialcell.———————————————————————-Page21726あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(118)を得た.さらに網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)患者眼の交叉部血栓部位の電顕的観察報告はきわめて少ない2).今回,BRVOの動静脈交叉部における血栓形成部の静脈壁内皮細胞を中心に電顕的観察を施行し,静脈壁からの赤血球脱出がどのように行われるかを推測した.I症例〔症例1〕62歳,男性.右の上顎癌のため1985年に弘前大学医学部附属病院耳鼻科にて上顎癌摘出術施行.その際右眼球摘出も行った.術前の検眼鏡所見は網膜動脈反射亢進,外側上方の動静脈にtapering(先細り)とみられる交叉現象が認められた(図1).〔症例2〕74歳,男性.上顎癌のため同病院耳鼻科にて全摘出と同時に右眼球摘出を施行,術前の検眼鏡所見では網膜動脈反射亢進,外側下動静脈にconcealment(隠伏)とみられる交叉現象が認められた(図4).〔症例3〕68歳,男性.1984年10月,右眼高度の視力障害と眼痛のため弘前大学附属病院眼科を受診,右眼視力光覚弁,左眼視力0.6(n.c.)であった.右眼眼圧54mmHg,右眼角膜全層混濁のため眼底は観察不能であった.右眼急性緑内障,角膜白斑の診断のもとに諸種治療を行ったが改善せず,3カ月後,右眼視力光覚弁も消失したため,眼球摘出を施行した.本例には長期にわたる高血圧の既往があり,左眼眼底には顕著な硬化性変化が認められた.〔症例4〕4歳,男児.右コントロール眼.白色瞳孔を訴え,千葉大学医学部眼科を受診した.右眼網膜は約2分の1が白色腫瘍となり諸検査後,網膜芽細胞腫として眼球摘出を施行した.病理学的にも網膜芽細胞腫であった.以上の4症例とも摘出前治療研究に対する十分なインフォームド・コンセントを行い同意を得たうえで施行している.II方法実体顕微鏡観察および試料作製摘出眼球は前眼部と後極部に切半し0.1Mカコジレートバッファーを含む2.5%グルタールアルデヒド溶液に20分間固定した.症例1,2では眼球摘出後,切半された眼球の後極部交叉現象部位を実体顕微鏡下にて撮影した.そして症例3では外側上静脈分枝の動静脈交叉部から末梢にかけて静脈に沿って線状で末梢に向かってやや幅広いBRVO類似の小出血斑を観察した.症例1,2,3とも交叉部を切除して網膜小片とし,さらに症例4の健常部網膜動静脈交叉部もコントロールとして切除した.これらの網膜小片はカコジレートバッファーを含む四酸化オスミウムで後固定,エタノール系列で脱水後,Epock包埋しPorterBlumミタロトームにて準超薄切片(0.1μm),超薄切片を作製した.準超薄切片は1%トルイジンブルー染色を施行し,さらに1%メチレンブルー,1%マラカイトグリーン,1%塩基性フクシン染色を行い光顕用試料とし,超薄切片は酢酸ウラン,クエン酸鉛の二重染色を施行し日立電子顕微鏡にて観察した.III成績図1に示した症例1の動静脈交叉現象部位の光顕所見を図2に示した.動静脈は網膜内層をほぼ同じ深さで走行し交叉部にて静脈は急激に動脈下に陥凹する.その際,交叉隅角部では動静脈の外膜が接し共通壁となる(図7)が,交叉中央部では硬化性変化があれば基底膜物質増加により中膜まで共有する.この所見は連続切片で追究しても正常交叉部でも同様で硬化性変化でも鞘とすべき交叉部をとりまく新生された特殊な組織はない.したがって動脈壁の筋細胞の萎縮,減少などの硬化性変化を除き血管系に顕著な変化はない.病変は交叉隅角部周囲組織を中心とした神経線維の腫大とMuller細胞突起の増加である(図2).この所見は電顕で観察すると神経線維の腫大と内部の細胞質内小器官の変性などがみられ,Muller細胞突起の増加も認められる(図3).これらの所見がおもな変化であり動脈による静脈への圧迫はない.また交叉隅角部では動静脈外膜が結合するので厚さがやや増加するが,これは正常交叉部でも同様であり,いわゆる鞘形成というほどのものは認められない.それ故,静脈血柱遮閉の原因は交叉部周囲組織の変化である.図4は症例2の眼底写真であるが,外側下方の動静脈に交叉現象が認められる.上顎癌のため眼球摘出後の実体顕微鏡写真が図5である.血流がないにもかかわらず交叉現象が認められる.したがって動脈下の静脈の血柱遮閉は動脈による静脈への圧迫ではない.つぎに,図6の挿図bは症例3の血栓形成部位の動静脈交図1症例1:62歳,男性の右眼検眼鏡所見外側上方網膜動静脈に交叉現象が認められる(矢印).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081727(119)図2図1の交叉現象部位の光顕所見動静脈は結合しているが,動脈(A)による静脈(V)への圧迫はない.交叉隅角部を中心とした血管周囲の神経線維の腫大が著しい(矢印).(1%トルイジンブルー染色,×200)m図3図2の交叉現象部位の交叉隅角部の電顕所見細胞質内小器官の変性を含む神経線維(NF)の腫大とグリア細胞突起の増加が見られる(矢印).A:動脈,V:静脈.挿図はこの部位に近い部位の光顕所見.(酢酸ウラン,クエン酸鉛染色.挿図は1%トルイジンブルー染色,×400)———————————————————————-Page41728あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(120)図4症例2:74歳,男性の右眼検眼鏡所見外側下方に交叉現象が認められる(矢印).図5症例2における眼球摘出後の実体顕微鏡による眼底写真図4と同じ部位であるが,血流がないにもかかわらず同様に交叉現象が認められる(矢印).静脈血柱遮閉は動脈による静脈への圧迫ではないことを表している.図6症例3:68歳,男性の血栓部の網膜静脈壁の電顕所見右眼底外上方のBRVO類似の小出血斑部位にみられた動静脈交叉部(挿図b)近くの静脈壁の電顕所見.管腔は赤血球の集塊によって閉塞され内皮細胞は変性し小顆粒状を呈し不連続となっている(挿図c).交叉部から末梢側では静脈壁外に赤血球(Er)脱出が著しい(挿図a).(酢酸ウラン・クエン酸鉛染色,挿図は1%トルイジンブルー染色,aは×100,bは×200)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081729(121)叉部であるが,静脈は赤血球の集塊によって閉塞され赤血球は管壁に多数脱出している.また動脈腔内にも赤血球が充満し血漿成分に乏しく血流は緩除であると考えられる.動脈の静脈への圧迫はみられず,鞘のような交叉部をとりまく結合織の増生はみられない.図6はこの静脈壁の電顕所見であるが,内皮細胞は小顆粒状となり不連続となっている(図6c).内皮細胞の増殖は認められない.さらにこの出血部位では末梢の方向に静脈に沿って多数の網膜内赤血球脱出がみられた(挿図6a).IV考按交叉現象の病態については1960年代くらいまでは病理組織学的に比較的多くの研究1)があるがその後はきわめて少ない3).これらの研究から静脈血柱遮閉は血管自体の病変か血管周囲組織の病変かに大別されるが一致した見解には至っていない.しかし動脈が静脈を圧迫しているという説は病理学的には否定的である.これらの報告の多くはパラフィン,セロイジン包埋を主とした光顕時代の観察であり,標本作製過程から神経線維の脱落を生じやすく,また死後変化の問題もある.筆者は現代の方法であるEpock包埋による電顕的試料作製法に従い光顕には1μmの準超薄切片を,電顕には超薄切片を用いた.さらに死後変化による神経線維の変性を避けるため,悪性腫瘍のため摘出された眼球を試料とした.今回の光顕,電顕および血流の途絶した眼底の交叉現象部位の実体顕微鏡観察では動脈による静脈への圧迫はなく,静脈血柱遮閉は交叉部における血管周囲組織の変化である.このような所見は,静脈血柱遮閉の原因として外膜様組織の増加とグリア細胞増殖とするSeitz1)の説にやや近いが外膜組織は血柱遮閉するほど多くはなく,正常交叉部にも同様に認められる(図7).この血管周囲組織の変化は動脈硬化に加え,交叉部における静脈の急激な走行変化によって生じる血流障害の2次的な反応結果と推測される.BRVO患者眼の光顕所見は記載4)があるが,電顕所見はきわめて少ない3).図6はBRVO類似の小出血部位の動静脈交叉部の所見であり組織学的にもBRVOである.血栓形成は赤血球の集塊から成り内皮細胞の変性はそのrollingのためと考えられる.内皮細胞の増殖はみられない.赤血球脱出は不連続となった内皮細胞の間隙からと萎縮した内皮細胞からと推測される.いわゆる血管の破綻ではなく漏出性出血とみなされる.BRVOは発症後,月日を経ると管壁に2次的病変が生じるので組織学的にも陳旧性の症例では発症時のBRVO自体の病変の判明が困難となる.今回の症例では摘出前の眼底検査は不能であったが,組織学的に管壁の細胞成分の形態や赤血球内にヘモグロビンを放出していないものが多いことから発症後の経過はそれほど長いものではないことが考えられる.症例3は重篤な緑内障眼であり,小範囲な出血を示したBRVOがその原因となったとは考えられない.そしてこの網膜出血が高血圧,動脈硬化に由来するものか,緑内障性の出血かは判別困難であった.このような問題についての追究は今回できなかった.臨床的にはBRVOにおける硝子体手術の併用術式としての交叉部鞘切開術がある510).BRVOでもしばしば出血部位の交叉部に交叉現象が認められる.筆者の観察では交叉部において動脈による静脈への圧迫はなく,鞘形成もないためBRVOの手術その他臨床面にも関係する組織学的所見と思われる.図7症例1の正常交叉部の光顕所見神経線維などの動静脈周囲組織に異常はみられない.近接した動静脈外膜は共通となり両血管を橋状に連結している.右上および左下の静脈(V)は同一静脈.A:動脈.(メチレンブルー,マラカイドグリーン,塩基性フクシン染色,×400)———————————————————————-Page61730あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(122)文献1)SeitzR(TranslatedbyBlodiFC):TheRetinalVessels.p20-33,TheCVMosbyCompany,SaintLouis,19642)KimuraT,MizotaA,AdachiUEetal:Histopathologicalstudyofacasewithbranchretinalveinocclusion.AnnOphthalmol38:73-76,20063)KimuraT,MizotaA,FujimotoNetal:Lightandelec-tronmicroscopicstudiesonhumanretinalbloodvesselsofpatientswithsclerosisandhyportension.AnnOphthalmol126:151-158,20054)FrangishGT,GreenWR,SomersERetal:Histopatho-logicstudyofninebranchretinalveinocclusions.ArchOphthalmol100:1132-1140,19825)OpremcakEM,BruceRA:Surgicaldecompressionofbranchretinalveinocclusionviaarteriovenouscrossingsheathotomy.Aprospectivereviewof15cases.Retina19:1-5,19996)ShahGK,SharmaS,FinemanMSetal:Arteriovenousadventitialsheathotomyforthetreatmentofmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol129:104-106,20007)藤本竜太郎,荻野誠周,熊谷和之ほか:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する動静脈交叉部切開術の効果について.日眼会誌108:144-149,20048)山田潔,小椋祐一郎:網膜静脈分枝閉塞症に対する網膜動静脈鞘切開術.眼科46:283-285,20049)FeltgenN,HerrmannJ,AgestiniHetal:Arterio-venousdissectionafterisovolaemicheamodilutioninbranchretinalveinocclusion:Anonrandomisedprospectivestudy.GraefesArchClinExpOphthalmol244:829-835,200610)KumagaiK,FurukawaM,OginoNetal:Long-termoutcomesofvitrectomyinbranchretinalveinocclusion.Retina27:49-54,2007***