———————————————————————-Page1(133)11390910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(8):11391142,2009cはじめにEales病は若年者にみられる網膜静脈周囲炎を伴う網膜出血で,病因として結核の重要性が指摘されているが,原因不明とされている.今回筆者らは若年者の両眼にみられた網膜出血から,胸部X線写真では所見が認められなかったがツベルクリン反応,胸部computedtomography(CT)などの検査により,最終的に結核の確定診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:17歳,男性.高校3年生.主訴:視力が下がったような気がする.現病歴:3カ月ほど前から視力低下感があり,平成19年4月6日当科初診.両眼眼底に出血・血管白線化を認めた.既往歴:3歳時から気管支喘息.現在も発作予防のため予防的内服中.家族歴:2年前に父が結核に罹患.初診時所見(平成19年4月6日):外眼部異常なし.眼〔別刷請求先〕深尾真理:〒177-8521東京都練馬区高野台3-1-10順天堂練馬病院眼科Reprintrequests:MariFukao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo177-8521,JAPANComputedTomographyにより結核症の確定診断に至ったEales病の1例深尾真理*1工藤大介*1横山利幸*1村上晶*2*1順天堂練馬病院眼科*2順天堂大学医学部眼科学教室ACaseofEales’DiseasewithTuberculosisDiagnosedbyComputedTomographyMariFukao1),DaisukeKudo1),ToshiyukiYokoyama1)andAkiraMurakami2)1)DepartmentofOphthalmology,JuntendoNerimaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine17歳,男性が視力低下感を主訴に受診した.両眼眼底に出血・血管白線化を認めた.ツベルクリン反応が強陽性であったが胸部X線写真では異常を認めず,その他の全身疾患も否定され,若年男性,網膜出血や血管の白線化といった典型的な臨床的特徴によりEales病と診断された.胃液・喀痰検査も陰性であったが,胸部computedtomography(CT)所見にて結核に特徴的な粒状網状影を認め結核症と診断された.抗結核治療が開始されると眼症状も改善した.胸部X線写真にて異常を認めない症例に対しても,ツベルクリン反応陽性であれば胸部CTでの検索を施行する必要があると考えられた.A17-year-oldmalewasreferredtouswithcomplaintofbilateraldecreasedvisualacuity.Ocularexaminationdisclosedretinalhemorrhagesandvascularsheathingsinbotheyes.Generalexaminations,includingchestX-ray,showednoabnormality,exceptingstronglypositivereactiononthetuberculintest.Thepatientwasinitiallydiag-nosedwithEales’disease,becauseofsuchtypicalclinicalfeaturesas:healthyyoungmale,bilateralretinalhemor-rhagesandvascularsheathings.Althoughgastricanalysisandsputumculturewerenegative,hewasdiagnosedwithtuberculosisbecausechestcomputedtomography(CT)revealedthespecificreticulonodularpatternfortuberculosis.Treatmentwithanti-tuberculousdrugsimprovedtheocularsymptoms.Wheneverthetuberculintestispositive,chestCTisnecessaryevenifthechestX-rayisnormal.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11391142,2009〕Keywords:Eales病,網膜静脈周囲炎,結核,ツベルクリン反応.Eales’disease,retinalperiphlebitis,tuberculo-sis(TB),tuberculintest.———————————————————————-Page21140あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(134)位・眼球運動異常なし.視力は右眼0.3(0.7×1.0D(cyl0.5DAx5°),左眼0.4(1.0×1.0D(cyl1.5DAx175°).眼圧は右眼14mmHg,左眼14mmHg.前眼部には炎症細胞なし.瞳孔反応異常なし.眼底には両眼周辺部網膜に出血斑,血管白線化を認めた(図1a,b).血液検査所見(平成19年5月1日):赤血球4.3×106/μl,白血球6.6×103/μl,血小板2.5×105/μl,総コレステロール6.1g/dl,C-リアクティブ・プロテイン0.1,アスパラギン酸アミノ基転移酵素17U/l,アラニンアミノ基転移酵素13U/l,アンジオテンシン変換酵素8.2IU/l,血清蛋白分画正常,血清免疫グロブリンA177mg/dl,血清免疫グロブリンG591mg/dl,血清免疫グロブリンM113mg/dl,補体蛋白C389mg/ml,C427mg/ml,CH5047.5U/dl,B型肝炎ウイルス抗原(),B型肝炎ウイルス抗体(),C型肝炎ウイルス(),ヒト免疫不全ウイルス(HIV)(),梅毒定性(),トレポネーマ・パリダム抗体(),ツベルクリン反応12×18mm,硬結(),二重発赤(+).経過:両眼網膜出血を認め,ツベルクリン反応も強陽性であったものの,胸部X線写真では明らかな異常所見はなく,明らかな全身症状も認めなかったため,眼底所見よりEales病と診断し,同時に精査目的のため当院呼吸器内科にコンサルトした.呼吸器内科にて施行された喀痰,胃液検査では菌の検出を認めなかったが,CTを施行したところ左上肺野に結核に典型的な粒状網状影を認めた(図2a).さらに,気管支肺生検を施行したところ結核菌を検出し結核症の診断に至った.診断後は結核専門病院に転院となり抗結核療法による治療が開始され,イソニアジド・リファンピシン・エタンブトール・ピラジナミドの4剤併用療法を平成19年6月11日より6カ月間施行することとなった.本症例ではフルオレセインは皮内反応陽性のため使用できず,インドシアニングリーン蛍光眼底検査を施行したところ網膜血管の狭細化・閉塞所見を認めたので,両眼周辺部網膜に対し光凝固を開始した.平成19年5月9日,右眼に68spots,同年5月19日,左眼に291spots,条件はargongreen;400μm,150mW,0.5secにて施行.抗結核治療開始後は網膜出血,血管の白線化は改善した(図1c,d).視力は右眼0.3(1.0×1.0D(cyl0.5DAx5°),左眼0.4(1.2×1.0D(cyl1.5DAx175°)と矯正視力,眼底所見ともに改善を認めている.なお,治療開始後の胸部X線所見は初診時と比較し明らかな変化はなく異常は認められなかった.治療開始後の胸部CT所見acbd図1眼底写真上段:初診時(平成19年4月6日).a:右眼,b:左眼.両眼周辺部網膜に出血,血管白線化を認めた.下段:抗結核治療開始,約3カ月経過後(平成19年9月6日).c:右眼,d:左眼.両眼周辺部網膜の出血,血管の白線化は改善した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091141(135)は治療開始前と比較し明らかに改善を認めた(図2b).II考按Eales病は1880年にHenryEalesが便秘や鼻出血を伴うが全身疾患や網膜の炎症もなく再発性網膜出血を起こした若年男性を報告したのが最初とされている.その後網膜静脈周囲炎を伴うことや,ステロイド投与により結核を発症した例などがあり病因としての結核の重要性が指摘された.そのほかにもMycobacteriumfortuitumやMycobacteriumchelonaeとの関連性を指摘する報告などがある1)が,一般的に原因不明の再発性網膜硝子体出血をEales病とよぶようになっている2).1.比較的若年男性(女性の3倍)・多くは両眼性(90%),2.ぶどう膜炎や全身疾患を伴わない原因不明の網膜静脈周囲炎(DukeElderの定義),3.イソニアジド内服投与などの治療的診断がEales病の診断に有用な基準とされているが,いまだ統一された疾患概念はない.Madhavanらによると,Eales病の報告のうちの6.2%から35%に全身性の結核が認められ,Eales病の硝子体あるいは黄斑部からの結核菌DNAの存在も指摘されている3)ことから,Eales病と結核菌あるいは抗酸菌の関係はきわめて密接と思われる.しかしEales病,眼結核症,特に結核性網膜静脈炎などについては現在一定の診断基準はなく,その概念はやや混乱している.安積4)によれば,結核性眼病変の診断は1.結核菌または結核病巣の検出〔①胸部X線,CT,②前房水polymerasechainreaction(PCR)〕,2.結核菌に対する免疫反応〔①細胞性免疫(ツベルクリン反応),②液性免疫〕,3.典型的な結核性眼病巣の存在,4.治療的診断(イソニアジド内服投与など),の4項目のうち3項目以上があてはまれば確定診断とすると述べられている.菌の直接検出があれば確定的だが,実際に臨床的には困難なため,画像による病巣の検出が重要となる.胸部X線は必須検査であるが,CTでは胸部X線写真で見つからなかった結核の肺内病変(小葉中心性粒状影,小葉内分岐構造,空洞形成,粟粒結節など)5)を検出できるという報告もあり6,7),X線検査で否定的な症例においても重要な検査と考えられる.個体の細胞性免疫を利用したツベルクリン反応は,日本ではBCG(BacilledeCalmetteetGuerin)ワクチンの接種により必ずしも結核の感染を示すものではないが補助的な検査としては非常に有用である.このほかに血清抗体価の検出も補助診断として有用とされており,感度,特異度ともに良好であるが,非結核性抗酸菌症などに陽性になる可能性やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性患者において感度が低下するなどの問題点がある.イソニアジド内服による治療的診断については,結果が偽陽性や偽陰性に生じる可能性があり,肝機能障害などの薬剤副作用の問題点もある8).結核とは結核菌(Mycobacteriumtuberculosis)による感染症で,結核菌は抗酸菌全体の約85%を占めるといわれている.世界保健機関の統計によると,世界では新規発病患者が年間800万人発生し,年間300万人の患者が死亡している.平成16年の日本国内の新患数は29,736人で,国内の結核死亡者数は年間2,328人と,この数字は先進国のなかではきわめて悪い数字である.平成17年,およそ50年ぶりに結核予防法が改正され,BCG接種の生後6カ月以内での接種が義務化され,高齢者や医療従事者などハイリスク群に定期健診を実施することとなった.このように,結核は決して過去の感染症ではなく,現在もわれわれにとって大きな脅威とな図2胸部CT所見a:治療前(平成19年5月9日).左上肺野に粒状網状影を認める.b:抗結核治療開始,約5カ月経過後(平成19年11月16日).左上肺野の粒状網状影は改善した.ab———————————————————————-Page41142あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(136)っている.本症例は初診時に両眼網膜出血・ツベルクリン反応強陽性以外の異常所見はなく,胸部X線写真,喀痰・胃液検査においても異常が認められず,臨床的にEales病と診断した.さらに胸部CT検査を施行したことにより結核病巣が検出され,結核の治療を行い,眼症状も改善することとなった.以上のことより,現在までに原因不明のEales病として報告された症例のなかにも,潜在的に結核症の症例が含まれており,より精査を施行することで原因治療がなされ,眼症状の改善に至る可能性もあったと考えられる.以上のことより,若年性の網膜出血をみた際はツベルクリン反応検査を行い,胸部X線写真で異常を認めない症例に対しても,胸部CTでの検索を積極的に施行する必要があると思われた.文献1)ThereseKL,DeepaP,ThereseJ:Associationofmyco-bacteriawithEales’disease.IndianJMedRes126:56-62,20072)六鹿秀夫,原彰,清水由規:若年者にみられた静脈周囲炎の硝子体出血の発生機序について.眼科30:663-666,19883)MadhavanHN,ThereseKL,GunishaPetal:PolymerasechainreactionfordetectionofMycobacteriumtuberculo-sisinepiretinalmembraneinEales’disease.InvestOph-thalmolVisSci41:822-825,20004)安積淳:結核性眼疾患.日本の眼科70:1043-1046,19995)村田喜代史,高橋雅士,古川顕ほか:気道感染症のCT像.日本医放会誌59:371-379,19996)DrapkinMS,MarkEJ:A38-year-oldmanwithfever,cough,andapleuraleusion.NEnglJMed335:499-505,19967)齋藤航:結核.臨眼61:210-215,20078)安積淳:抗結核薬による治癒試験.眼科42:1721-1727,2000***