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3 種類の涙道内視鏡における焦点距離の比較

2022年9月30日 金曜日

《第9回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科39(9):1241.1244,2022c3種類の涙道内視鏡における焦点距離の比較岩崎明美眞鍋洋一大多喜眼科CComparisonofFocalLengthsinThreeTypesofDacryoendoscopeAkemiIwasakiandYoichiManabeCOtakiEyeClinicC目的:涙道内視鏡で観察すると閉塞部が小さなくぼみとして見えることがある.今回,3種類の涙道内視鏡を使い,距離を変えてくぼみの観察をしたので報告する.方法:粘土にC0-0ブジー(直径C0.43mm),5号釣り糸(直径C0.36mm),3号釣り糸(直径C0.27Cmm)で作製したC3種類のくぼみを,ファイバーテック社の涙道内視鏡CMD10,DD10,CK10で0.5.5.0Cmmの距離から観察した.結果:0.43CmmのくぼみはCMD10では2.5Cmm,DD10ではC0.5.2Cmm,CK10ではC0.5.5Cmmで鮮明に観察できた.0.36,0.27CmmのくぼみはCDD10ではC0.5Cmmの距離でやや不鮮明だった.結論:MD10は2.5Cmm,DD10はC0.5.2.0Cmm,CK10はC0.5.5Cmmで焦点が合うことがわかった.焦点距離が違う涙道内視鏡を使う際には,観察距離に気をつけて検査をする必要があることがわかった.CPurpose:Whenobservedwithadacryoendoscope,anareaofobstructionmayappearasasmalldimple.Thepurposeofthisstudywastocomparethreedi.erenttypesofdacryoendoscopetoobservethedimpleatdi.erentdistances.CMethods:ThreeCtypesCofCdimplesCmadeCinCclayCwithCaC0-0probe(0.43mm)C,CaCNo.C5C.shingCline(0.36Cmm)C,CandCaCNo.C3C.shingline(0.27Cmm)wereCobservedCfromCaCdistanceCof0.5.5.0CmmCwithCdacryoendo-scopesMD10,DD10,andCK10(Fibertech)C.Results:The0.43Cmmdimpleswereclearlyobservedatdistancesof2.5CmmCinCMD10,0.5.2CmmCinCDD10,Cand0.5.5CmmCinCCK10.CTheC0.36CandC0.27CmmCdimplesCwereCslightlyCunclearatdistancesof0.5CmminDD10.Conclusion:MD10wasfoundtofocusat2.5Cmm,DD10at0.5.2.0Cmm,andCK10at0.5.5Cmm.Whenusingdacryoendoscopeswithdi.erentfocaldistances,itisnecessarytopaycloseattentiontotheobservationdistance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(9):1241.1244,C2022〕Keywords:涙道内視鏡,焦点距離,総涙小管閉塞,鼻涙管閉塞.dacryoendoscope,focallength,commoncanalic-ularobstruction,nasolacrimalductobstruction.Cはじめに涙道内視鏡1)はC2002年に販売開始され,2012年には涙道内視鏡を使用した涙管チューブ挿入術が保険収載されるようになり,涙管チューブ挿入術には必須となってきている.各社からさまざまな内視鏡が発売され,現在はC10,000画素が主流となり,焦点距離や焦点深度の違いにより,各内視鏡の特徴に違いが出てきている.以前筆者らは,ファイバーテック社の従来型涙道ファイバースコープのCMD10と,2019年に発売されたCDD10では,0.1.5mmはCDD10の画像が優れ,2.10mmはCMD10の画像のほうが観察しやすいことを報告している2).涙道内視鏡で閉塞部を開放する際に,狭窄や閉塞している部分がくぼみとして観察でき,それを目印として開放するが,実際のくぼみの大きさと内視鏡による見え方について検討した報告はない.今回,3種類の内視鏡を使い,距離を変えてくぼみの観察をしたので報告する.CI方法粘土にC0-0ブジー(直径C0.43Cmm),5号釣り糸(直径C0.36mm),3号釣り糸(直径C0.27Cmm)を押し当て,3種類のくぼみを作る(図1).ファイバーテック社の涙道内視鏡MD10,DD10,CK10のC3種類の内視鏡を使用して,0.5〔別刷請求先〕岩崎明美:〒298-0215千葉県夷隅郡大多喜町久保C166大多喜眼科Reprintrequests:AkemiIwasaki,M.D.,OtakiEyeClinic,166Kubo,Otaki-machi,Isumi-gun,Chiba298-0215,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(83)C1241mm,1.0mm,1.5mm,2.0mm,3.0mm,4.0mm,5.0Cmmの距離からくぼみを観察し,得られた画像を記録し比較した.カメラはCFC-304(ハイレゾルーション),光源システムはCFL-301を使用した.距離が正確に測定できるように,マイクロメータ─(OptoSigma社製CRS-20-30)を使用した.なお,本研究は大多喜眼科倫理委員会による適切な審査を受け承認を得て行った.図1くぼみをつけた粘土①C0-0ブジー(直径0.43mm),②C5号釣り糸(直径0.36Cmm),③C3号釣り糸(直径C0.27Cmm)でくぼみをつけた..はくぼみを示す.II結果直径C0.43Cmmのくぼみは,MD10ではC0.5Cmm,1.0Cmm,1.5Cmmでは輪郭がぼやけて不鮮明であった.一方C2.0Cmm,3.0Cmm,4.0Cmm,5.0Cmmではくぼみから離れるため小さく映るものの,焦点の合った鮮明な画像が得られた.DD10ではC0.5mmは少し不鮮明だがくぼみは確認でき,1.0mm,1.5Cmm,2.0Cmmの画像は鮮明,それ以上の距離ではくぼみとは確認できるが不鮮明な画像であった.CK10ではC0.5.C5.0Cmmまで遠くになると小さくなるものの,鮮明な画像が得られた.CK10は他の内視鏡と比べ画角が広いことが一緒に撮影した定規のメモリ(1メモリC0.5Cmm)から確認できた(図2).直径C0.36Cmm,0.27Cmmのくぼみでは,0.5Cmmの距離でDD10はやや不鮮明になったが,CK10では観察でき,その他は,ほぼ同様の結果が得られた(図3,4).CIII考按今回の研究で観察した直径C0.27.0.43Cmmのくぼみの大きさは,実臨床で内視鏡で得られる総涙小管狭窄や閉塞の際のくぼみと近似した画像であった.涙道手術の術者は,総涙小管閉塞を開放する際に直径C0.3.0.4Cmmくらいの小さなくぼみを探して治療していると推察できた.涙道内視鏡で閉塞部を探す際,閉塞部を明瞭に観察できれ距離0.5mm1.0mm1.5mm2.0mm3.0mm4.0mm5.0mmMD10DD10CK10図20.43mmのくぼみの観察結果0.43CmmのくぼみをCMD10,DD10,CK10のC3種の涙道内視鏡でC0.5.5.0Cmmの距離から観察した結果.MD10は2.5Cmm,DD10はC0.5.2.0Cmm,CK10はC0.5.5Cmmで焦点が合っている.MD10のC0.5Cmmは無地画面,MD10のC1.0mm,1.5Cmmは実際のくぼみより広い部分が暗くなっている.1242あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(84)距離0.5mm1.0mm1.5mm2.0mm3.0mm4.0mm5.0mmMD10DD10CK10図30.36mmのくぼみの観察結果DD10はC0.5Cmmでやや不明瞭である.距離0.5mm1.0mm1.5mm2.0mm3.0mm4.0mm5.0mmMD10DD10CK10図40.27mmのくぼみの観察結果DD10はC0.5Cmmでやや不明瞭である.ば容易に治療ができる.しかし,実際は閉塞部がはっきりせず,周囲の画像より少し暗い部分を探す,あるいは観察できる画像がぼやけて「無地画面3)(=不鮮明だが色で判定する状態)」のまま,仮道をあけてしまっているのではないか,あるいは今どこの部位を見ているのだろうかと推測しながら治療をすることがある.直径C0.43CmmのくぼみをCMD10でC1.0Cmmの距離から観察した画像のように,焦点が合わずに不鮮明になったくぼみは,やや広がりをもって暗く映ることがわかった.以前からいわれている「少し暗い部分を開放する」というのは,くぼみが不鮮明に観察されている状態であると推察できた.また直径C0.43CmmのくぼみをCMD10でC0.5Cmmの距離から観察した画像は,全体がぼやけたピンク色になっている.このように焦点が合わずに近づきすぎたときに「無地画面」となることもわかった.どちらも内視鏡の焦点距離と対象物の距離が合わないときに起きる現象であるとわかった.(85)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1243表1距離による内視鏡の見え方のまとめ距離CmmC0.5C1.0C1.5C2.0C3.0C4.0C5.0CMD10C×××○C○C○C○CDD10C△C○C○C○C×××CK10C○C○C○C○C○C○C○○は明瞭に観察可能,△はくぼみの大きさにより不鮮明,C×は不鮮明.今回の研究で,観察しやすい距離は各内視鏡により違いがあることがはっきりした.3種類の大きさのくぼみは,焦点が合っていればどの内視鏡でも確認できたが,MD10では2.5mm,DD10ではC0.5.1.5mm,CK10ではC0.5.5mmに焦点が合うことがわかった(表1)焦点が合う距離を理解して,その距離を保ちながら治療をすれば,涙道内視鏡手術で見ながら開放することができる.しかし,実臨床では,MD10を使用しているときは,近づきすぎによる無地画面が発生しやすい.MD10で開放する際はシース4)でC2Cmm以上の距離を保ちながら観察し,画像が不鮮明になったときは一度手前に内視鏡を引いて確認するとよいと考えられる.DD10は近方で焦点が合い,かつ近方の拡大効果もあるため,総涙小管閉塞の開放は行いやすい.しかし,鼻涙管閉塞でやや離れた部分を探すとき,画像は不鮮明になる.鼻涙管を開放する際は近づいて探す必要があるが,近づくと画角が狭くなってしまうので,内視鏡の先端を少し動かして見落としている角度がないか探す必要がある.また,シースをC2Cmm以上内視鏡の先端から伸ばすと画像が不鮮明になることに留意するとよいと考える.CK10はC2020年にファイバーテック社から発売された内視鏡でCMD10,DD10と同様のC10,000画素であるが,遠近ともに焦点が合って観察しやすい.これは対物レンズに組みレンズを使用していて,焦点深度が深くなっているためである.画角が少し広いために,遠方のくぼみが少し小さく見えることに留意して観察すれば,今までの内視鏡より治療が容易になる.涙道手術の術者は,使用している涙道内視鏡の特性をよく理解して適切な焦点距離を保つことで,涙道内視鏡治療の際,くぼみを見逃さずに治療が行えると考える.文献1)鈴木亨:涙道ファイバースコピーの実際.眼科C45:C2015-2023,C20032)岩崎明美,眞鍋洋一:涙道内視鏡の距離による見え方の違いの検討.眼科62:617-620,C20203)宮久保純子:眼科診療のコツと落とし穴C3.p226-227,中山書店,20084)杉本学:涙道シース.眼科手術C21:471-474,C2008***1244あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(86)

涙囊鼻腔吻合術鼻内法における画像支援型磁場式ナビゲーションシステムの有用性

2016年11月30日 水曜日

《第4回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科33(11):1633?1639,2016c涙?鼻腔吻合術鼻内法における画像支援型磁場式ナビゲーションシステムの有用性高橋辰*1高橋佳奈*2*1高橋耳鼻咽喉科眼科クリニック*2条里コスモス眼科UtilityofImage-guidedElectromagneticNavigationSysteminEndoscopicEndonasalDacryocystorhinostomyShinTakahashi1)andKanaTakahashi2)1)TakahashiENT&EyeClinic,2)JhoriKosumosuEyeClinic目的:画像支援型磁場式ナビゲーションシステム(以下,ナビシステム)は,危険部位を回避して病変に確実にアプローチするための手術支援機器の一つである.涙?鼻腔吻合術鼻内法(endoscopicendonasaldacryocystorhinostomy:en-DCR)におけるナビシステムの有用性を検討した.対象:対象は,筆者らの施設でナビシステムを併用してen-DCRを行った19例(以下,ナビ併用群)と,ナビシステムを使わずにen-DCRを行った21例(以下,ナビ非併用群)である.手術記録とビデオ画像を評価し,手術時間と合併症の有無を比較した.結果:骨壁削除時間の平均値は,ナビ併用群36.8±5.2分,ナビ非併用群45.4±8.4分で,ナビ併用で骨壁削除時間は有意に短縮した.ナビ非併用群では2例に手術合併症を認めたが,ナビ併用群では合併症はなかった.限界域の判断がむずかしい骨壁の厚い例,再手術例,総涙小管閉塞例では,ナビシステムを併用することで涙?の位置を正確に評価できた.結論:ナビシステムは,en-DCRの手術支援器機として有用である.Purpose:Inthispaper,wereportourclinicalexperiencesandevaluatetheutilityoftheimage-guidedelectromagneticnavigationsystem(IGS)inendoscopicendonasaldacryocystorhinostomy(en-DCR).Subjects:Weexaminedthesurgicalrecordsof19patientswhohadundergoneen-DCRwithIGS(IGSgroup);21patientswhohadundergoneen-DCRwithoutIGS(non-IGSgroup)werealsoexaminedretrospectively.Weevaluatedtheoperatingtimeandsurgicalcomplicationsinthesetwogroups.Result:Theaveragedrillingtimeforexposingthelacrimalsacwas36.8±5.2minutesinIGSgroupand45.4±8.4minutesinnon-IGSgroup.DrillingtimesinIGSgroupwerestatisticallyshorterthaninnon-IGSprocedures.TherewerenosurgicalcomplicationsinIGSgroup.IGSmayprovideusefulanatomicalinformationforassistingwideexposureofthelacrimalsac,particularlyincaseswiththickmaxillarybone,revisionproceduresandcommoncanaliculiobstruction.Conclusion:Theimage-guidedelectromagneticnavigationsystemmightbeausefultoolinen-DCR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1633?1639,2016〕Keywords:涙?鼻腔吻合術鼻内法,画像支援型磁場式ナビゲーションシステム,鼻涙管閉塞,総涙小管閉塞,内視鏡下副鼻腔手術.endoscopicendonasaldacryocystorhinostomy,image-guidedelectromagneticnavigationsystem,lacrimalductobstruction,commoncanaliculiobstruction,endoscopicendonasalsinussurgery.はじめに涙?鼻腔吻合術鼻内法(endoscopicendonasaldacryocystorhinostomy:en-DCR)は,近年の鼻内手術用の内視鏡の開発により,眼科・耳鼻科の両科で普及してきている.手術では外切開を行わずに鼻内視鏡下に涙?窩骨壁を削除し,涙?を鼻内に大きく開窓する.涙?全体を広く露出するためには,CT画像やライトガイド光をもとに,涙?の位置をできるだけ正確に把握して手術を行う必要がある.一方で,画像支援型ナビゲーションシステムが耳鼻咽喉科領域にも応用され,内視鏡下副鼻腔手術(endoscopicendonasalsinussurgery:ESS)の手術支援機器として広く普及してきている.これは,鼻内視鏡下の手術操作部位をリアルタイムにCT画像上に表示し,手術を安全確実に支援するシステムである.今回筆者らは,耳鼻科手術用画像支援型磁場式ナビゲーションシステム(以下,ナビシステム)を併用してen-DCRを行ったので,その実際と有用性について報告する.I対象および方法ナビシステムはMedtronic社製FUSIONRENTを使用した.対象は,筆者らの施設でナビシステムを併用してen-DCRを行った19例(以下,ナビ併用群)とナビシステムを併用せずにen-DCRを行った21例(以下,ナビ非併用群)である.ナビ併用群は,鼻涙管閉塞13例・総涙小管閉塞6例,男性2例・女性17例,年齢は56?86歳(平均74.2±8.8歳)で,2014年10月?2015年5月に手術を施行した症例である.ナビ非併用群は,鼻涙管閉塞17例・総涙小管閉塞4例,男性2例・女性19例,年齢は58?90歳(平均76.9±9.1歳)で,2012年10月?2014年10月に手術を施行した症例である.必要な場合は鼻中隔矯正手術や副鼻腔手術を同日併施した.全症例で術前にナビシステム用のCT検査を施行した.各症例のCT所見および手術記録とビデオ画像を評価し,手術時間,合併症の有無を比較検討した.手術は全例局所麻酔下で施行し,Wormald1)やYoshidaら2)の方法に準じて行った.ナビ併用群では手術開始前にレジストレーションを行い,骨壁削除の際に併用した.【粘膜弁作製】ラジオ波高周波メスで中鼻甲介基部に茎をもつU字型粘骨膜弁を作製して,上顎骨前頭突起と涙骨を露出した.【骨壁削除】ナビ併用群では,ナビシステムの探索子を用いて骨面上で涙?上縁(涙?円蓋の高さ)・前縁・後縁(篩骨眼窩板との境界)に相当する位置を確認して骨壁削除の範囲を決定した.DCR骨削開用バーを用いて上顎骨前頭突起と涙骨を削開した.削開中も必要に応じて探索子で涙?の位置を確認し,涙?を広く鼻腔内に開放した.ナビ非併用群では,鼻内の解剖学的指標と涙?内のライトガイド光を参考にして涙?の位置を推定して骨壁削除を行った.【涙?開窓】ラジオ波高周波メスを用いて涙?を花弁状に開窓した.さらに総涙小管閉塞例では,涙?内腔を開放後,総涙小管内のライトガイド光を指標にしてラジオ波高周波メスで閉塞部位を明視下に切開した.全例にて涙管チューブを1本留置した.今回使用したナビシステムは操作性・安定性に優れた磁場式である.この方式では,患者頭部横に設置した磁場発生装置で,頭部顔面領域に限局した低エネルギー磁場を生成する.この磁場内で術野に挿入した探索子などの磁場センサー付手術器機を操作すると,器機先端部分の位置がナビ用モニターのCT画像にリアルタイムで表示される(図1).術者は内視鏡下の手術操作部位を,内視鏡用モニター画像とナビ用モニターのCT画像とで同時に確認しながら手術を進めることができる.事前に症例ごとの実解剖の位置(顔面表面)とCT画像データとを適合する登録作業(レジストレーション)が必要になるが,この作業は手術直前に短時間で施行可能である.〔別刷請求先〕高橋辰:〒013-0037秋田県横手市前郷二番町4-25高橋耳鼻咽喉科眼科クリニックReprintrequests:ShinTakahashi,M.D.,TakahashiENT&EyeClinic,2-4-25MaegoYokote-shi,Akita013-0037,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(95)1633図1磁場発生装置と磁場領域提供:日本メドトロニック(株)1634あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(96)

涙道閉塞に対する涙管チューブ挿入術による高次収差の変化

2010年12月31日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(77)1709《原著》あたらしい眼科27(12):1709.1713,2010cはじめに涙道内視鏡の導入によって正確な涙管チューブ挿入を行うことが可能になり,より少ない侵襲で涙道を再建することができるようになった1,2).流涙が改善することによる患者満足度は非常に高く,視機能(qualityofvision:QOV)の改善を自覚する症例もまれではない.涙道閉塞による過剰な涙液貯留は流涙の原因となるだけでなく,不均一な涙液層の形成によりQOVが低下する可能性もある.しかし現在まで涙道閉塞とQOVとの関連に着目した報告はない.近年,波面センサーの眼科領域への導入により,波面収差の定量的かつ動的な測定が可能となり,さまざまな涙液動態における高次収差の変化について検討が行われている3~5).これらのなかに,ドライアイに対する涙点プラグ挿入により,涙液貯留量は増加し角膜上皮病変は改善したが,逆に高次収差の増加を認めた症例の報告がある6).この結果は,涙道閉塞に対して本手術を行うことにより,涙液貯留量が減少すれば,高次収差が減少する可能性を示している.今回,涙道閉塞が視機能に与える影響を調査する目的で,総涙小管閉塞および鼻涙管閉塞の症例に対する涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術前後の高次収差の変化について検討した.〔別刷請求先〕井上康:〒706-0011岡山県玉野市宇野1-14-31井上眼科Reprintrequests:YasushiInoue,M.D.,InoueEyeClinic,1-14-31Uno,Tamano,Okayama706-0011,JAPAN涙道閉塞に対する涙管チューブ挿入術による高次収差の変化井上康*1下江千恵美*2*1井上眼科*2藤田眼科EffectofBinocularLacrimalPathwayIntubationonOcularHigh-orderAberrationsYasushiInoue1)andChiemiShimoe2)1)InoueEyeClinic,2)FujitaEyeClinic目的:涙道閉塞の治療が視機能に与える影響を調べるために,総涙小管閉塞および鼻涙管閉塞の症例に対する,涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術前後の眼高次収差の変化について検討した.対象および方法:2009年8月から2010年2月までの間に井上眼科にて涙管チューブ挿入術を行った,総涙小管閉塞群25例26側,鼻涙管閉塞群17例19側を対象とした.Landolt環を用いた視力検査,自覚的な見え方に関するアンケート調査,涙液メニスカス高,短焦点高密度波面センサー(トプコン)により測定した総高次収差,コマ様収差および球面収差について比較した.結果:涙液メニスカス高,全高次収差とコマ様収差の最大値は両群において有意に低下していた(p<0.01).結論:総涙小管閉塞および鼻涙管閉塞の症例に対して,涙管チューブ挿入術を行うことによって,高次収差は減少した.本手術が視機能の改善に寄与する可能性を示すことができた.Toinvestigatetheeffectoflacrimalpathwayreconstructiononqualityofvision,ocularhigh-orderaberrationsweremeasuredin26eyesof25caseswithcommoncanalicularobstructionsand19eyesof17caseswithnasolacrimalductobstructions,beforeandafterbicanalicularlacrimalpathwayintubationusingalacrimalendoscope.Totalhigh-orderaberrations,coma-likeaberrations,sphericalaberrationsmeasuredwithawavefrontsensor,visualacuity,tearmeniscusheightandsubjectiveimprovementofvisionbasedonquestionnaireswereanalyzed.Tearmeniscusheight,totalhigh-orderaberrationsandcoma-likeaberrationsweresignificantlyreducedpostsurgery(p<0.01).Ourresultssuggestthatbicanalicularlacrimalpathwayintubationcanprovidebetterqualityofvision.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1709.1713,2010〕Keywords:涙管チューブ挿入術,眼高次収差,波面センサー,総涙小管閉塞,鼻涙管閉塞.bicanalicularintubation,ocularhigh-orderaberrations,wavefrontsensor,commoncanalicularobstruction,nasolacrimalductobstruction.1710あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(78)I対象および方法2009年8月から2010年2月までの間に,井上眼科にて総涙小管閉塞および鼻涙管閉塞に対して涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術を施行した症例を対象とした.総涙小管閉塞群は25例26側(男性4例4側,女性21例22側),平均年齢66.6±10.1歳,鼻涙管閉塞群は17例19側(男性2例3側,女性15例16側),平均年齢67.7±8.0歳であった.閉塞部の開放はシース誘導内視鏡下穿破法(sheathguidedendoscopicprobing:SEP)1)を用いて,チューブ挿入はシース誘導チューブ挿入法(sheathguidedintubation:SGI)2)を用いて行った.チューブはポリウレタン製PFカテーテルR(東レ)を使用した.術前後の視力の比較はLandolt環を用いた視力検査結果と,自覚的な見え方に関するアンケート調査の結果について行った.また,フォトスリットにて記録した術前後の涙液メニスカス高を比較した(図1).高次収差の測定は,術前と術後に短焦点高密度波面センサー(トプコン)を用いて10秒間の開瞼の間,連続的に行った.瞳孔径4mmにおける術前後の総高次収差,コマ様収差および球面収差の最大値,高らの報告に従い術前後のfluctuationindex(高次収差のばらつき)および高次収差の経時的変化を,「安定型」,「動揺型」,「のこぎり型」,「逆のこぎり型」に分類し,術前後で比較した7).術後検査はすべて涙管チューブ挿入術の4週間後,チューブ留置中に行った.比較には対応のあるt-検定を用いた.II結果視力検査の結果は総涙小管閉塞群において術前1.38,術後1.30,鼻涙管閉塞群において術前1.30,術後1.36であった.対数視力は,総涙小管閉塞群において術前.0.11±0.04logMAR,術後.0.11±0.04logMAR,鼻涙管閉塞群において術前.0.10±0.07logMAR,術後.0.12±0.06logMARであり,術前後で有意差を認めなかった(図2).自覚的な見え方に関するアンケート調査では,見え方が改善したという回答が総涙小管閉塞群において63.16%,鼻涙管閉塞群において64.71%で得られた(図3).涙液メニスカス高は総涙小管閉塞群においては,術前0.55±0.20mmから術後0.32±0.18mm,鼻涙管閉塞群においては術前0.64±0.24mmから術後0.33±0.18mmと有意に低下していた(p<0.01)(図4).全高次収差とコマ様収差の最大値は,総涙小管閉塞群において術前0.255±0.117μm,0.216±0.110μmに対し,術後0.203±0.106μm,0.171±0.096μmと有意に減少していた(p<0.01).鼻涙管閉塞群においても術前0.253±0.099μm,0.216±0.092μmに対し,術後0.210±0.080μm,0.178±図1フォトスリットにより記録した涙液メニスカス高(左:術前,右:術後)0-0.05-0.1-0.15-0.2logMAR0-0.05-0.1-0.15-0.2logMAR術前術後術前術後NSNS総涙小管閉塞群(n=26)鼻涙管閉塞群(n=19)図2視力検査結果(79)あたらしい眼科Vol.27,No.12,201017110.071μmと有意に減少していた(p<0.01).球面収差の最大値は,総涙小管閉塞群においては術前0.054±0.011μm,術後0.057±0.011μmと有意な減少を認めなかったが,鼻涙管閉塞群においては術前0.067±0.006μmから,術後0.056±0.005μmと有意に減少していた(p<0.01)(図5).高次収差の経時的変化については,術前には瞬目後数秒でピークを示し,その後徐々に低下する「逆のこぎり型」を,総涙小管閉塞群の42.31%に,鼻涙管閉塞群の31.58%に認めた6).術後「逆のこぎり型」を示した症例は,総涙小管閉塞群の7.69%,鼻涙管閉塞群の10.53%であった.また,術後は「安定型」を示す症例が,総涙小管閉塞群では0%から34.62%に,鼻涙管閉塞群では5.26%から31.58%に増加していた(図6).全高次収差のfluctuationindexについては,総涙小管閉塞群において術前0.027±0.015μmから術後0.015±0.011μmに(p<0.01),鼻涙管閉塞群において術前0.023±0.014μmから術後0.016±0.009μmに有意に低下していた(p<0.05)(図7).III考按Kohらは涙点プラグ挿入後,視力低下を訴えたドライアイ症例を報告している6).この症例では,プラグ挿入前には瞬目後の高次収差の変化は軽微であったのに対し,プラグ挿入後は「逆のこぎり型」パターンを示していた.全高次収差の変化は,球面収差よりコマ様収差との関連が強く,涙液層の厚みの上下非対称性によることが示唆されている.今回,総涙小管閉塞群においては,全高次収差とコマ様収差の最大値はともに術前に比べ術後では有意に減少してい10.750.50.250(mm)術前術後10.750.50.250(mm)術前術後総涙小管閉塞群(n=26)鼻涙管閉塞群(n=19)**図4涙液メニスカス高(*p<0.01pairedt-test)00.10.20.30.4μmμmTotalComalikeSphericallike****総涙小管閉塞群(n=26)鼻涙管閉塞群(n=19)□:術前■:術後00.10.20.30.4TotalComalikeSphericallike□:術前■:術後*図5各高次収差の最大値(*p<0.01pairedt-test)31.58%35.29%36.84%17.65%26.32%47.06%0%50%100%□:著明に改善した■:改善した■:不変■:悪化した■:著明に悪化した鼻涙管閉塞群(n=19)総涙小管閉塞群(n=26)5.26%図3アンケート結果1712あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(80)た.球面収差に関しては有意差を認めず,高次収差の変化は球面収差よりもコマ様収差と連動していることが確認された.涙液メニスカス高と涙液メニスカス曲率半径の間には相関があり8),さらに涙液メニスカス曲率半径は涙液貯留量と相関することが報告されている9).今回の結果では,涙液メニスカス高は術後有意に低下しており,総涙小管閉塞による涙液の過剰な貯留を解消することによって,瞬目直後の非対称な涙液層に起因するコマ様収差を主とした全高次収差の最大値を減少させることができたと考えられる.連続測定による高次収差の経時的変化については,術前には「逆のこぎり型」を示す症例が多かったが,術後は安定型を示す症例が増加しており,高次収差のばらつきを示す指標であるfluctuationindexについても術後は有意に低下していた.総涙小管閉塞を開放することで,開瞼中の安定した高次収差を得ることができたと考えられる.鼻涙管閉塞群においても同様に,涙液メニスカス高,全高次収差およびコマ様収差の最大値,全高次収差のfluctuationindexに関しては有意な減少が認められた.また高次収差の経時的変化についても,術前は「逆のこぎり型」を示すものが多かったが,術後は安定型を示す症例が増加していた.総涙小管閉塞群と同様に,過剰な涙液の貯留を解消することで,瞬目直後のコマ様収差を主とした全高次収差の最大値を減少させ,開瞼中の安定した高次収差を得ることができたと考えられる.また,総涙小管閉塞群では球面収差に変化を認めなかったが,鼻涙管閉塞群では術後に有意な球面収差の減少を認めている.鼻涙管閉塞群では,術前の涙液に粘液および膿が含まれており,総涙小管閉塞群の涙液と比較して粘性が高いことが推測される.チモロールイオン応答性ゲル化製剤(チモプトールRXE)の正常眼への点眼により,全高次収差および球面収差が有意に増加することが報告されていることから10),今回の球面収差の減少は涙液の粘性の低下による可能性が考えられる.波面センサーを用いた今回の検討では,総涙小管閉塞および鼻涙管閉塞の症例に対する涙管チューブ挿入術後の高次収差は術前に比べ減少していた.本手術がQOVの改善に寄与する可能性を示すことができたと考えている.文献1)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20070.050.040.030.020.0100.050.040.030.020.010***術前術後術前術後総涙小管閉塞群(n=26)鼻涙管閉塞群(n=19)(μm)(μm)図7Fluctuationindex(*p<0.01,**p<0.05pairedt-test)46.15%57.69%42.31%7.69%11.54%34.62%0%50%100%10.53%5.26%31.58%52.63%57.89%31.58%10.53%0%50%100%■:逆のこぎり型■:動揺型■:安定型□:のこぎり型総涙小管閉塞群(n=26)鼻涙管閉塞群(n=19)図6高次収差の経時的変化(81)あたらしい眼科Vol.27,No.12,201017132)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,20083)KohS,MaedaN,KurodaTetal:Effectoftearfilmbreak-uponhigher-orderaberrationsmeasuredwithwavefrontsensor.AmJOphthalmol134:115-117,20024)KohS,MaedaN,HirobaraYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginnormalsubjects.InvestOphthalmolVisSci47:3318-3324,20065)KohS,MaedaN,HirobaraYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginpatientswithdryeye.InvestOphthalmolVisSci49:133-138,20086)KohS,MaedaN,NinomiyaSetal:Paradoxicalincreaseofvisualimpairmentwithpunctualocclusioninapatientwithmilddryeye.JCataractRefractSurg32:689-691,20067)高静花:涙液と高次収差.あたらしい眼科24:1461-1466,20078)OguzH,YokoiN,KinoshitaS:Theheightandradiusofthetearmeniscusandmethodsforexaminingtheseparameters.Cornea19:497-500,20009)YokoiN,BronAJ,TiffanyJMetal:Relationshipbetweentearvolumeandtearmeniscuscurvature.ArchOphthalmol122:1265-1269,200410)平岡孝浩:点眼薬と高次収差.あたらしい眼科24:1489-1495,2007***