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経強膜的マイクロパルス波毛様体凝固術の短期治療成績

2024年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科41(9):1131.1134,2024c経強膜的マイクロパルス波毛様体凝固術の短期治療成績大原成喜梅津新矢渡部恵錦織奈美大黒浩札幌医科大学眼科学講座CShort-TermSurgicalOutcomesofMicropulseTransscleralCyclophotocoagulationforGlaucomaNarukiOhara,ArayaUmetsu,MegumiWatanabe,NamiNishikioriandHiroshiOhguroCDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversityC目的:マイクロパルス波毛様体凝固術(MP-CPC)の短期治療成績の検討.対象および方法:2023年2月.6月に札幌医科大学付属病院でCMP-CPCを施行した緑内障患者C18人C18眼を後ろ向きに検討した.検討項目は術前,術後C1週間,術後C1,2カ月の眼圧値,術前,術後C2カ月の点眼スコア,術前,術後の矯正視力(logMAR),有害事象の有無とした.結果:平均眼圧は術前がC29.9C±9.6CmmHg,術後C1週間がC17.9C±6.6CmmHg,術後1,2カ月がそれぞれC19.7C±7.1CmmHg,20.1C±7.6CmmHgで,術前と比較してすべての時点で有意な眼圧下降を示した(p<0.05).点眼スコアおよび矯正視力はそれぞれ術前がC4.3C±1.6およびC0.7C±0.8,術後C2カ月がC4.5C±1.5およびC0.7C±0.8と術前後で有意な差はなかった(p>0.05).合併症では瞳孔散大C3例で,眼球癆などの重篤な合併症は認めなかった.結論:緑内障の病型にかかわらずCMP-CPCは施行可能であった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCshort-termCsurgicalCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulation(MP-CPC)forglaucoma.Methods:Weretrospectivelyevaluated18glaucomapatientswhounderwentMP-CPCfromCFebruaryCtoCJuneC2023CatCSapporoCMedicalCUniversityCHospital.CResults:MeanCintraocularpressure(IOP)Cwas29.9±9.6CmmHgpresurgery,and17.9±6.6CmmHg,19.7±7.1CmmHg,and20.1±7.6CmmHgat1week,2weeks,and2months,respectively,postsurgery,thusshowingthatMP-CPCresultedinasigni.cantdecreaseinIOPatallpostoperativetimepoints(p<0.05)C.Nosigni.cantdi.erenceswerefoundinthenumberofanti-glaucomamedi-cationsCusedCorCcorrectedCvisualCacuityCbetweenCtheCpre-andpostoperativeCperiods(p>0.05)C.CExceptCforCdilatedpupils(n=3cases)C,CnoCmajorCcomplicationsCoccurred.CConclusion:RegardlessCofCglaucomaCtype,CMP-CPCCwasCe.ectiveforthereductionofIOP,thusillustratingthatitisoneoptionforthetreatmentofglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(9):1131.1134,C2024〕Keywords:マイクロパルス波毛様体凝固術,緑内障.micropulsetransscleralcyclophotocoagulation,glaucoma.はじめに緑内障の治療目標は,眼圧下降を図ることによる視野進行の抑制であり,治療法としては点眼,内服,手術療法がある1).毛様体をターゲットとした手術治療は,従来は毛様体上皮を破壊することで房水産生を抑制し眼圧下降を図ったが,眼球癆などの重篤な合併症を生じるため難症例の緑内障におもに行われていた.2010年に報告された経強膜的マイクロパルス波毛様体凝固術(micropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)は,従来よりも低い出力のレーザーを,短時間照射(on)と休止(o.)を周期的に繰り返すことにより,周囲組織の温度上昇を抑えながら毛様体光凝固を行う1).そのため従来の毛様体破壊術とは違い,手術侵襲が少なく重篤な合併症はきわめてまれである.また,MP-CPCは毛様体への破壊作用と流出路の促進と両方あると考えられているが,現在のところは詳細な見解が得られていない.現在,MP-CPCは適応を中期の緑内障へと広げて加療されているが2),日本ではC2017年に認可されたため,術後成績の報告はまだ少数である3,4).そこで今回筆者らは,札幌医科大学病院(以下,当院)における短期治療成績を検討した.〔別刷請求先〕大原成喜:〒060-8543北海道札幌市中央区南C1条西C16丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:NarukiOhara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,Minami1-joNishi16-chome,Chuo-ko,Sapporocity,Hokkaido060-8543,JAPANC表1患者背景年齢C71.72±16.94歳性別男8例(C44.4%)女10例(C55.6%)病型開放隅角緑内障9眼(C50.0%)高眼圧症3眼(C16.7%)閉塞隅角緑内障2眼(C11.1%)落屑緑内障2眼(C11.1%)血管新生緑内障2眼(C11.1%)手術既往8眼(C44.4%)Trabeculotomy5眼(C27.8%)Trabeculectomy4眼(C22.2%)AhmedglaucomavalveC1眼(5C.6%)術前眼圧C29.89±9.37CmmHg術前視力(logMAR)C0.71±0.81術前点眼スコアC4.29±1.52点(平均±標準偏差)CI対象および方法対象はC2023年C2月.6月に当院眼科でCMP-CPCを施行した緑内障患者で,男性C8例,女性C10例,年齢C71.7C±16.9歳(平均年齢C±標準偏差)のC18人C18眼である.病型は,原発開放隅角緑内障C9眼,原発閉塞隅角緑内障C2眼,落屑緑内障2眼,血管新生緑内障C2眼および高眼圧症C3眼で,そのうちのC8眼が緑内障手術既往眼であった(表1).測定項目は,①眼圧値(術前,術後C1週間,術後C1カ月,2カ月),②術前および術後C2カ月の点眼スコア(点眼薬:1点,配合薬:2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服:2点),③術前,術後の矯正視力(logMAR)および④有害事象の有無を診療録から後ろ向きに検討した.MP-CPCはCCycloG6CGlaucomaCLasermachine(IRIDEX社)とCMP3プローブCRev2を使用し,下耳側にCTenon.下麻酔(2%リドカイン)をC2Cml注入したあとに,以下の条件で施行した.出力C2,500CmW,DutycycleはC31.3%(on0.5ms,o.1.1ms)で上半球および下半球をそれぞれ片道C20秒,合計C2往復照射し,合計C160秒で終了とした.毛様動脈の照射による損傷を避けるためにC3時,9時は避けて照射した.また,濾過胞がある患者に対しては濾過胞部位も避けて照射した.解析は平均眼圧はCOne-wayANOVA,手術の有無による平均眼圧の推移はCmixed-e.ectsanalysis,点眼スコアおよび矯正視力の推移はCunpairedt検定を用いて検討し,いずれもCp<0.05を有意水準とした.なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会で承認された.眼圧(mmHg)***50****403020100(repeatedmeasuresANOVA)***p<0.001術前術後術後術後****p<0.00011週間1カ月2カ月図1平均眼圧の推移II結果18例中C2例は眼圧低下を認めたものの,目標眼圧に達しなかったため,術後C1カ月までの検討で打ち切りとなった.このC2例のうちC1例は複数回にわたり,従来の毛様体破壊術を行い眼圧コントロールしていた症例であり,再度従来の毛様体破壊術を施行し,もうC1例は濾過手術を行った.平均眼圧の推移を図1に示す.平均眼圧は術前がC29.9C±9.6CmmHg,術後C1週間がC17.9C±6.6CmmHg,術後C1およびC2カ月がそれぞれC19.7C±7.1CmmHgおよびC20.1C±7.6CmmHgで,術前と比較してすべての時点で有意な眼圧下降を認めた(p<0.05).また,眼圧下降率は術後C1週間がC40.1%,術後C1およびC2カ月がそれぞれC34.1%およびC32.8%であった.緑内障手術既往の有無別での平均眼圧の推移を図2に示す.手術既往眼の平均眼圧は術前がC27.1C±8.1CmmHg,術後1週間がC16.9C±6.0CmmHg,術後C1およびC2カ月がそれぞれC21.1±8.1CmmHgおよびC18.8C±7.9CmmHgで,術前と比較してすべての時点で有意な眼圧下降であり(p<0.05),一方,非手術既往眼の平均眼圧でも術前がC32.1C±10.6CmmHg,術後C1週間がC18.6C±7.2CmmHg,術後C1およびC2カ月がそれぞれC19.5C±7.4CmmHgおよびC20.5C±7.8CmmHgと,術前と比較してすべての時点で眼圧が有意に下降した(p<0.05).手術既往眼,非手術既往眼ともに,術後C2カ月時点で術前と比較し有意な眼圧下降を認めた(p<0.05).手術の既往の有無での有意差は認めなかった.点眼スコアおよび矯正視力の推移は,それぞれ術前がC4.3C±1.6およびC0.7C±0.8,術後C2カ月がC4.5C±1.5およびC0.7C±0.8で術前後において有意な差はなかった(p>0.05).合併症はC3例で瞳孔散大と羞明などの自覚症状を認めたが,眼球癆などの重篤なものは認めなかった.**眼圧(mmHg)50403020100手術既往なし●手術既往あり固定効果:手術既往の有無変量効果:眼圧Paired-t検定で解析を行っています(mixed-e.ectsanalysis)術前術後術後術後**p<0.01,***p<0.005,****p<0.0011週間1カ月2カ月*******図2手術既往の有無別にみた平均眼圧の推移表2既報との比較Rita.Cら5)今回症例数61眼18眼年齢C73.9±10.8歳C71.7±16.9歳病型開放隅角緑内障3C9眼(6C3.9%)開放隅角緑内障9眼(5C0.0%)落屑緑内障1C2眼(1C9.7%)高眼圧症3眼(1C6.7%)血管新生緑内障6眼(1C0.0%)閉塞隅角緑内障2眼(1C1.1%)閉塞隅角緑内障2眼(3.3%)落屑緑内障2眼(1C1.1%)先天性緑内障2眼(3.3%)血管新生緑内障2眼(1C1.1%)緑内障手術既往眼23眼(C37.8%)8眼(C44.4%)術前眼圧C24.9±8.6CmmHgC29.9±9.6CmmHg術後C1カ月での眼圧下降率34.8%34.1%術前後の矯正視力0.5(有意差なし)0.7(有意差なし)合併症前房炎症4眼(6C.6%)瞳孔散大3眼(1C6.7%)角膜障害3眼(4C.9%)黄斑浮腫2眼(3C.3%)III考按今回,当院では従来の点眼や手術などの治療法で目標眼圧に達することができなかった患者をCMP-CPCの適応とした.その結果,眼圧は術後C1週間からC2カ月までで有意な眼圧下降を認めた.本研究と類似条件でCMP-CPCを施行した既報5)との比較を表2に示す.そのほかにもC2,500CmWの出力でC31.3.57%,2,000CmWの出力でC17.8.30%の眼圧下降を認めた報告があり6,7),本研究でも最長C2カ月の経過でC32%の眼圧下降と既報と同等の結果だった.手術既往の有無別に検討したところ,本研究では手術歴の有無にかかわらず,術後C1週間より良好な眼圧下降を得られ,術後C2カ月までの経過中も有意な眼圧下降を認めた.一方,MP-CPCによる眼圧下降の手術歴の有無による有意差は既報でも見解が分かれており8,9),統一した見解はない.本研究では手術眼がC8例と症例数が少なく,また短期期間の結果にとどまるため,今後さらなる症例数の蓄積および追跡による検討が必要である.術前後の矯正視力に関しては,本研究では術前後で有意な変化は認めなかった.既報でも,同様の報告が多数みられる一方,Sarrafpourらは視力C20/400以上の患者のC18.8%において,視力がC2段階下がり,counting.nger(CF)の患者の10%がCnolightCperception(NLP)になったと報告している6).また,Jammalらは,難治性・進行性の緑内障患者においてはCMP-CPCによりC2段以上の視力低下がC4.8%で生じたと報告しており10),比較的末期の緑内障患者においてはMP-CPCによる視力低下が生じやすいことが考えられる.本研究では術前視力が良好であった症例が多いことから,矯正視力に有意差が生じなかったと考えられた.点眼スコアに関しては,今回は術前後で有意な変化は認めなかったが,既報では点眼スコアが有意に減少した報告が複数散見される5,11).本研究では比較的中期.末期の緑内障が多く,20.30%程度の眼圧下降を得られていても,目標眼圧をより低く設定している症例が多いことや,観察期間がC2カ月と短いことから,点眼調整が始まる前の症例が多いことが一因であると考えられた.合併症に関しては,本研究では既報同様に瞳孔散大を16.7%に認めたのみで,既報で報告されている前房出血5)を生じた症例はなかった.瞳孔散大についてCRadhakrishmanらは,アジア人や水晶体眼では術後瞳孔散大の頻度が高いと報告している12).本研究でも比較的高頻度の瞳孔散大が認められ,人種による要因がある可能性が示唆された.しかし,本研究で認めた瞳孔散大はいずれも経過観察中に改善を認め一過性のもので,加えて低眼圧による眼球癆などの重篤な合併症を認めなかったことから,MP-CPCは合併症の少ない治療法であると思われた.従来の毛様体破壊術と違い,重篤な合併症が少なく良好な眼圧下降が得られることから,中期の緑内障への適応拡大の可能性が示唆された.しかし,軽度の瞳孔散大を数例で認めるため,視力や視野が良好な人には,施行後に羞明や見えづらさなどが出現する可能性があり,初期症例に対しては慎重な検討が必要である.今回筆者らは,短期成績ではあるがCMP-CPCで良好な眼圧下降を得ることができ,緑内障治療の選択肢の一つとしての可能性が示唆された.今後は症例数を増やし,長期的な眼圧経過および視野進行を追跡しさらなる検討を行うことが必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)ChangCHL,CChaoCSC,CLeeCMTCetal:MicropulseCtranss-cleralCcyclophotocoagulationCasCprimaryCsurgicalCtreat-mentforprimaryopenangleglaucomainTaiwanduringtheCCOVID-19Cpandemic.Healthcare(Basel)C9:1563,C20213)山本理沙子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス波経強膜的毛様体凝固術の短期成績.あたらしい眼科36:933-936,C20194)神谷由紀,神谷隆行,木ノ内玲子ほか:マイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術の短期治療成績.あたらしい眼科C40:1103-1107,C20235)BastoCRC,CAlmeidaCJ,CRoqueCJNCetal:ClinicalCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:2CyearsofexperienceinPortugueseeyes:JCurrGlaucomaPractC17:30-36,C20236)SarrafpourS,SalehD,AyoubSetal:Micropulsetranss-cleralcyclophotocoagulation:AClookCatClong-termCe.ectivenessCandCoutcomes.COphthalmolCGlaucomaC2:C167-171,C20197)KabaCQ,CSomaniCS,CTamCECetal:TheCe.ectivenessCandCsafetyCofCmicropulseCcyclophotocoagulationCinCtheCtreat-mentCofCocularChypertensionCandCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC3:181-189,C20208)ZaarourCK,CAbdelmassihCY,CArejCNCetal:OutcomesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCuncon-trolledglaucomapatients.JGlaucomaC28:270-275,C20199)GarciaCGA,CNguyenCCV,CYelenskiyCACetal:MicropulseCtransscleralCdiodeClaserCcyclophotocoagulationCinCrefracto-ryglaucoma:Short-termCe.cacy,Csafety,CandCimpactCofCsurgicalChistoryConCoutcomes.COphthalmolCGlaucomaC2:C402-412,C201910)JammalCAA,CCostaCDC,CVasconcellosCJPCCetal:Prospec-tiveCevaluationCofCmicropulseCtransscleralCdiodeCcyclopho-tocoagulationinrefractoryglaucoma:1yearresults.ArqBrasOftalmolC82:381-388,C201911)deVriesVA,PalsJ,PoelmanHJetal:E.cacyandsafe-tyofmicropulsetransscleralcyclophotocoagulation.CJClinMedC11:3447,C202212)RadhakrishnanS,WanJ,TranBetal:Micropulsecyclo-photocoagulation:ACmulticenterCstudyCofCe.cacy,Csafety,CandCfactorsCassociatedCwithCincreasedCriskCofCcomplica-tions.JGlaucomaC29:1126-1131,C2020***

目磨き文化の醸成として緑内障啓発活動の試み

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):837.842,2024c目磨き文化の醸成として緑内障啓発活動の試み檜森紀子*1,2遠藤雅俊*1,3松原雄介*4稲穂健市*4矢花武史*1石川誠*1國方彦志*1中澤徹*1*1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野*2東北大学大学院医工学研究科生体再生医工学視覚抗加齢医工学分野*3東北大学COINEXT「VisiontoConnect」拠点*4東北大学研究推進・支援機構リサーチマネジメントセンターCAttemptstoRaiseAwarenessofGlaucomaNorikoHimori1,2)C,MasatoshiEndo1,3)C,YusukeMatsubara4),KenichiInaho4),TakeshiYabana1),MakotoIshikawa1),HiroshiKunikata1)andToruNakazawa1)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofAgingVisionHealthcare,TohokuUniversityGraduateSchoolofBiomedicalEngineering,3)COINEXTTohokuUniversity,VisiontoConnect,4)ResearchManagementCenter,OrganizationforResearchPromotion,TohokuUniversityC目的:日本における年齢別の眼疾患の有病率はC60歳以上で上昇し,なかでも緑内障の上昇が著しいため,高齢化社会において早期発見・治療は重要であると考えられる.そこで筆者らは「目磨き」の文化を醸成し,自分の健康を知る機会を設け緑内障の早期発見意識向上へ向けた活動に取り組むこととした.方法:2023年3月11日,12日にショッピングセンターに来店する地域住民を対象にC29企業・4学科の協力のもとC27ブースを出展,C“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベントC2CdaysC!”を開催し,来場者にアンケートを実施しC222名から回答を得た.結果:延べC4,105人がイベントに参加した.アンケートより目のトラブルを心配している参加者はC48%を占め,眼の検査(眼底写真,OCT),眼科医師の健康相談は参加者が多く参加者の満足度も高い傾向にあった.また,参加者のC52.3%がイベントに参加して病院を受診しようと考え,「見える」の考え方,捉え方がC76.8%で変化したという結果を得た.結論:本イベントは参加者の意識改革に大きく寄与することができ,定期的な市民への啓発活動が視機能維持に重要であると考えられた.CPurpose:Theprevalenceofeyediseasesincreasesamongpeopleagedover60years,andtheriseinglauco-maisparticularlysigni.cant,soearlydetectionandtreatmentareconsideredimportantinanagingsocietysuchasJapan.Therefore,wedecidedtofosteracultureof“memigakibunkajosei”(takingcareofyoureyes)toprovideopportunitiesCforCpeopleCtoClearnCaboutCtheirCownChealthCandCengageCinCactivitiesCtoCraiseCawarenessCofCtheCearlyCdetectionCofCglaucoma.CMethods:WeCtargetedClocalCpeopleCvisitingCaCshoppingCcenterConCtwoCconsecutiveCdaysCinCMarch2023,andsetup27boothsincooperationwith29companiesand4academicdepartments.Ourmottowas“WhenCyouCchangeCtheCwayCyouCsee,CtheCworldCchangesC─CyourCbody.CTwoCdaysCofCfunCexperienceCeventCwithCheartC!C”,CandCweCconductedCaCsurveyCofCtheCvisitorsCandCreceivedCresponsesCfromC222Cpeople.CResults:ACtotalCofC4,105CpeopleCparticipatedCinCtheCevent.CAccordingCtoCtheCsurveyCresponses,48%CofCtheCparticipantsCwereCworriedCabouteyeproblems,andmanyofthemweresatis.edwitheyeexaminations(i.e.,fundusphotographyandopticalcoherencetomography)andhealthconsultationswithophthalmologists.Inaddition,53%oftheparticipantsconsid-eredvisitingahospitalafterattendingtheevent,and77%ofthemsaidthattheirwayofthinkingandunderstand-ingCaboutCproperCvisionChadCchanged.CConclusion:ThisCeventCwasCableCtoCgreatlyCcontributeCtoCchangingCtheCawarenessofparticipants,andweconsiderregularpublicawarenessactivitiesimportantformaintaininggoodvisu-alfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):837.842,C2024〕Keywords:緑内障,啓発活動,目磨き文化醸成.glaucoma,CpublicCawarenessCactivities,CtakingCcareCofCyourCeyes.C〔別刷請求先〕檜森紀子:〒980-8574宮城県仙台市青葉区星陵町C1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野Reprintrequests:NorikoHimori,DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Seiryo-cho,Aoba-ku,Sendai-shi,Miyagi980-8574,JAPANC図1“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベント2days!”の会場図2イベント出展例a:緑内障CVR体験コーナー.Cb:眼科医師による相談コーナー.c:音楽イベント.はじめに日本での視覚障害認定状況は原因疾患別では緑内障が第一位であり,4割を占めている1).現在,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を含む眼底検査機器の進歩により極早期の緑内障診断は向上している.そして,さまざまな機序の点眼薬により低い眼圧を保つことができるようになった.緑内障手術も幅広く開発され,治療の進歩により高度な視機能障害をきたす確率は低下してきている.しかし,緑内障は自覚症状の弱い疾患であり,視野の欠けは自覚されにくい.現行の緑内障診療の目標は進行を抑制することであり,生活に不便を感じ病院を受診するのでは,患者の治療満足度の向上は得られない.本人が病気に興味をもち病院を受診してもらい,早期発見・治療を実現させるためには市民への啓発活動が必要であると考えられる.そして一人でも多くの無自覚緑内障患者を減らすために,筆者らは「目磨き」の文化を醸成し,自分の健康を知る啓発活動に取り組むこととした.本稿では,本イベントが緑内障を早期発見する意識向上に有効かアンケート調査の結果を解析したので報告する.CI対象および方法2023年C3月C11日,12日に宮城県利府町のショッピングセンターに来店する地域住民を対象に東北大学CCOICNEXT「VisiontoConnect」拠点が宮城県眼疾患早期発見コンソーシアム(https://mewomamoru.net/),宮城県眼科医会,東北大学C4学科(医学,歯学,薬学,工学)と協力し,C“「みえる」が変わると「世界」が変わるカラダとココロのおもしろ体験イベントC2Cdays!”を開催した(図1).イベントの広a性別b年代20代7.7%回答しない0.5%回答しない10代以下1.8%2.3%■10代以下60代以上■20代21.8%30代男15.0%44.5%■30代■男■40代■女女■50代■回答しない55.0%■60代以上■回答しない50代40代27.3%24.1%図3アンケート回答者a:性別.b:年代.報はCHPで紹介し,東北大学,関連病院,宮城県眼疾患早期発見コンソーシアムに加入しているクリニックに来院した患者に案内した.29企業・東北大学C4学科(医学,歯学,薬学,工学)と協議を重ねC27ブースを出展し,各ブース出展企業や学科から人員を配置した.また,保健所に診療所開設届を提出し,眼科医師による健康相談は東北大学眼科医局員,眼科検査については東北大学眼科CORT交替で担当し,施行した.トークイベント,音楽イベント,眼底写真,健康相談,視力計測,virtualreality(VR)体験,毛細血管測定などC27ブースを出展した(図2a~c).さまざまな点からショッピングモールにきた人をリクルートし,アンケートを実施しC222名から回答を得た.本稿で報告する啓発活動で入手したアンケートはすでに匿名加工している情報(名前は聞いておらず,年代と性別のみ)のため倫理指針の対象とはならず,倫理審査は不要と判断した(東北大学倫理員会確認済).CII結果本イベントには延べC4,105人が来場し,222件のアンケートの回答を得た.参加者の性別は男性C55.4%,女性C44.1%(図3a),幅広い年代に参加いただきとくにC40代,50代の人に多く参加いただいた(図3b).現在,身体の不調として眼のトラブルをあげる人が多いことが明らかになった(図4a~c).体験イベントは健康相談,眼底写真,OCT検査の参加者が多く(図5a),来場者の満足度も非常に高いという結果を得た(図5b).イベントに参加して病院を受診しようと思っている人がC52.3%(図6a),76.8%の参加者に見えることに関して意識改革ができたという結果を得(図6b),イベント参加者の意識改革に大きく寄与することができたと考えられた.III考按多治見スタディでは全緑内障の約C9割は未発見・未治療であることが明らかになっており2),診断されずに潜在している緑内障患者が多いことが第C1の問題として考えられる.第2の問題点として,緑内障は自覚症状が弱い病気であり,病院受診する人が少ないことがあげられる.実際,人間ドック後の眼科医療機関を受診しない人はC32.8%存在し3),理由として「たいしたことない」という理由が一番であった4).潜在している緑内障患者を調べると,視力や眼圧を確認するよりも視神経乳頭の診察が診断に重要という報告もあることから,眼科受診が必須となる5).視覚はCQOLに直結しているが,重要性を自覚している人が残念ながら少ないのが現状であり,確実な受診に結びつけるために,行動変容を促すための専門家による相談体制作りや啓発活動が重要である.本イベントでは,視力検査,簡易視野検査,OCT撮影,VR機器で緑内障の視界を体験,医師の相談コーナーなどが開設され,ショッピングセンターを訪れた幅広い年齢層の人に体験いただいた.トークイベントを聞いた人のなかには熱心にメモをとる人もみられ,眼疾患への関心の高さがうかがえた.今回の体験コーナーでは自身の眼の健康をチェックすることで,病院を受診しようと思っている方がC52.3%,76.8%の参加者が見えることに関して意識改革ができたという結果を得たことから,市民にとって眼の健康に関心をもつ良い機会になったと考えられた.緑内障で大切なことは早期発見の機会をもち,診断の結果治療が必要なら治療開始,疑わしいなら経過観察,健診・検診は定期的に受けることである.今回のような持続的な啓発活動を通して市民に眼疾患へ興味をもってもらうことは,日本国民の視機能維持に重要であると考えられる.現在,身体に不調はありますか(複数回答可)210件の回答a目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性肩こり胃腸(便秘・下痢)低血庄・高血庄睡眠が浅い・寝つきが悪い花粉症耳鼻科特になしない特にない膝滑膜性骨軟骨腫症冠攣縮性狭心症なし目がかすむ,目がつかれる0b目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性肩こり胃腸(便秘・下痢)01024(11.4%)27(12.9%)23(11%)36(17.1%)35(16.7%)34(16.2%)28(13.3%)5(2.4%)2(1%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)1(0.5%)202030405040(19%)36(17.1%)40606070809082(39%)74(35.2%)80100■女実数■男実数c目のトラブル耳のトラブル肌のトラブル口腔のトラブル関節のトラブル偏頭痛冷え性屑こり胃腸(便秘・下痢)低血圧・高血圧唾眠が浅い・寝つきが悪い0102030405060708090■10代以下■20代■30代■40代■50代■60代以上図4不調を自覚している身体の部位a:全体.Cb:男女別赤:女性の実数,青:男性の実数.Cc:年代別青:10代以下,赤:20代,黄:30代,緑:40代,橙:50代,薄緑:60代以上.a本日どのイベントメニューを体験しましたか216件の回答①医師による相談コーナー115(53.2%)②老眼や加齢に伴う見え…60(27.8%)③誰でも簡単に眼の健康…68(31.5%)④黄斑色素密度を高くす…45(20.8%)⑤あなたの目は大丈夫!…44(20.4%)⑥眼底写真で健康チェック117(54.2%)⑦緑内障をご存知ですか?40(18.5%)⑧OCTスキャナー76(35.2%)⑨「きこえ」を良くして…15(6.9%)⑩虫歯・歯周病のリスク…23(10.6%)⑪お口の機能をみてみよ…16(7.4%)⑫爪先毛細血管・”ゴース…62(28.7%)⑬障がいのある方の就労…2(0.9%)⑭ゆるスポーツ「コツコ…7(3.2%)⑮さまざまな目の症状を疑似…8(3.7%)⑯緑内障VRヘッドセット…19(8.8%)⑰親子で!友達同士で!…18(8.3%)⑱認知症などの疾病リス…14(6.5%)⑲ロービジョン患者さん…3(1.4%)⑳誰もが手軽に眼の状態…6(2.8%)⑪“見えづらい”を“見える”…7(3.2%)⑫クイズで学ぶ「生活習…10(4.6%)A-①みんなで一緒に!イ…1(0.5%)A-②感覚を研ぎ澄ませ!…4(1.9%)B-①イオン薬局出張所2(0.9%)B-②ウエルシア薬局出張所6(2.8%)Cバランスウォーキング(…4(1.9%)0255075100125b本日体験したイベントメニューでよかったメニューはどれですか199件の回答①医師による相談コーナー101(50.8%)②老眼や加齢に伴う見え…38(19.1%)③誰でも簡単に眼の健康…43(21.6%)④黄斑色素密度を高くす…30(15.1%)⑤あなたの目は大丈夫!…30(15.1%)⑥眼底写真で健康チェック78(39.2%)⑦緑内障をご存知ですか?30(15.1%)⑧OCTスキャナー62(31.2%)⑨「きこえ」をよくして…13(6.5%)⑩虫歯・歯周病のリスク…20(10.1%)⑪お口の機能をみてみよ…12(6%)⑫爪先毛細血管・”ゴース…42(21.1%)⑬障がいのある人の就労…3(1.5%)⑭ゆるスポーツ「コツコ…6(3%)⑮さまざまな目の症状を疑似…4(2%)⑯緑内障VRヘッドセット…11(5.5%)⑰親子で!友達同士で!…10(5%)⑱認知症などの疾病リス…8(4%)⑲ロービジョン患者さん…2(1%)⑳誰もが手軽に眼の状態…3(1.5%)⑪“見えづらい”を“見える”…6(3%)⑫クイズで学ぶ「生活習…8(4%)A-①みんなで一緒に!イ…0(0%)A-②感覚を研ぎ澄ませ!…3(1.5%)B-①イオン薬局出張所2(1%)B-②ウエルシア薬局出張所5(2.5%)Cバランスウォーキング(…3(1.5%)0255075100125図5体験イベントに関してa:どのイベントを体験しましたか.Cb:体験したイベントメニューでよかったメニューはどれですか.abいいえ■はい■はい2.3%■いいえ■いいえ■どちらともいえない■どちらともいえない図6行動変容に関してa:今回のイベントに参加して,病院を受診しようと思いましたか?の考え方,とらえ方が変わりましたか?文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C20232)日本緑内障学会:日本緑内障学会多治見疫学調査報告書C2012Cb:今回のイベントに参加して,「見える」3)和田高,寺島早,三村昭ほか:人間ドックC3カ月後の受診勧奨と今後の課題.人間ドックC27:748-754,C20124)鈴木真,酒井博,福田吉:健診結果に基づく事業場労働者の医療機関受診につながる要因.産業衛生学雑誌C61:247-255,C20195)IwaseCA,CSuzukiCY,CAraieM:CharacteristicsCofCundiag-nosedprimaryCopen-angleCglaucoma:theCTajimiCStudy.COphthalmicEpidemiolC21:39-44,C2014***

マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術の短期治療成績

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1103.1107,2023cマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術の短期治療成績神谷由紀神谷隆行木ノ内玲子中林征吾善岡尊文室野真孝宋勇錫旭川医科大学眼科学教室CShort-termSurgicalOutcomesofMicropulseTransscleralCyclophotocoagulationYukiKamiya,TakayukiKamiya,ReikoKinouchi,SeigoNakabayashi,TakafumiYoshioka,MasatakaMuronoandSongYoungseokCDepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversityC目的:視野障害が中期以降の緑内障に対するマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)の短期治療成績を検討した.対象および方法:2021年5.12月に旭川医科大学病院でCMP-CPCを施行し,6カ月以上経過観察可能であったC21例C21眼を対象とし,診療録から後ろ向きに術前,術後C1,3,6カ月の眼圧値,点眼スコア,有害事象の有無を検討した.結果:平均年齢はC72.3C±11.9歳,病型は原発開放隅角緑内障がC9眼で最多であった.また,16眼が緑内障手術既往眼であった.平均眼圧は術前がC22.5C±5.4CmmHg,術後1,3,6カ月がそれぞれC15.6C±4.3,16.9C±5.5,16.7C±4.3CmmHgで,すべての時点で術前と比較して有意に下降した(p<0.05).点眼スコアは術前がC3.8C±1.4,術後1,3,6カ月がそれぞれC3.4C±1.0,3.4C±1.0,3.5C±0.9で,すべての時点で術前と比較して有意な差はなかった(p>0.05).合併症は瞳孔散大C4例で,眼内出血や眼球癆などの重篤な合併症を認めなかった.結論:中期以降の緑内障に対するMP-CPCは術後C6カ月では安全かつ眼圧下降に有用な治療法であると考えられる.CPurpose:ToCinvestigateCtheCshort-termCsurgicalCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulation(MP-TSCPC)forCmoderate-toCsevere-stageCglaucoma.CMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCreviewedCtheCmedicalrecordsofglaucomapatientswhounderwentMP-TSCPCatAsahikawaMedicalUniversityHospitalfromMaytoDecember2021andwhowerefollowedforatleast6-monthspostoperative.Results:Atotalof21eyesof21patients(meanage:72.3C±11.9years)wereincluded,andprimaryopen-angleglaucomawasthemostcommondiagnosis.CInC16CofCtheC21Ccases,CtheCpatientChadCpreviouslyCundergoneCglaucomaCsurgery.CFollowingCMP-TSCPC,CmeanCintraocularpressure(IOP)wasCsigni.cantlyClowerCatCallfollow-upCtime-points(p<0.05)C,CthereCwasCnoCsigni.cantchangeinthemeannumberofglaucomamedicationsused,andnomajorcomplicationsoccurred.Con-clusion:OurCshort-termCoutcomesCrevealedCthatCMP-TSCPCCisCaCsafeCandCe.ectiveCsurgicalCtreatmentCforCtheCreductionofIOPinpatientswithsevere-stageglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1103.1107,C2023〕Keywords:マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術,緑内障,短期治療成績.micropulsetransscleralcyclophoto-coagulation(MP-CPC)C,glaucoma,short-termsurgicaloutcomes.Cはじめに現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降であり1),薬物療法,手術やレーザー治療などで眼圧下降が図られる.従来,点眼や手術によるコントロールが不良な難治性緑内障に対し,経強膜毛様体光凝固術(continuousCwaveCtransscleralcyclophotocoagulation:CW-CPC)が施行されてきた.CW-CPCは良好な眼圧下降は得られるが,合併症の重篤さから眼圧下降の最終手段と考えるべきとされている1).2017年にわが国にマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)が導入された.MP-CPCは照射のCon-o.サイクルを繰り返すことによりCCW-CPCと比較し重篤な合併症が少ないことが特徴であり,点眼治療への追加など早期の患者にも適応とされることが期待されてい〔別刷請求先〕神谷由紀:〒078-8510北海道旭川市緑が丘東C2-1-1-1旭川医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiKamiya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversity,2-1-1-1MidorigaokahigashiAsahikawacity,Hokkaido078-8510,JAPANCるがまだ十分に検討されていない1).海外ではその効果と安全性が多数報告されている2.9)が,国内での報告はまだ少数である10,11)ため,旭川医科大学病院(以下,当院)における短期治療成績を検討した.CI対象および方法対象はC2021年C5.12月に当院眼科でCMP-CPCを施行した中期以降の緑内障患者で,6カ月以上経過観察可能であった男性C10例,女性C11例,年齢C72.3C±11.9歳(平均年齢C±標準偏差)のC21例C21眼である.本研究において,全症例で6カ月以上経過観察可能であった.術前,術後C1,3,6カ月の眼圧値,点眼スコア(配合剤はC2点,内服薬はC1日当たりの錠数につきC1錠をC1点とした),有害事象の有無を診療録から後ろ向きに検討した.緑内障病期を静的視野検査で初期:meandeviation(MD)値≧C.6CdB,中期:C.12CdB≦MD値<C.6CdB,後期:MD値<C.12CdBと定義し,対象の視野障害の程度を評価した.MP-CPCはCCycloG6CGlaucomaCLasermachine(IRIDEX社)とCMP3プローブを使用し,推奨されている以下の条件で施行した.PowerはC2,000mW,DutycycleはC31.3%(on0.5Cms,o.1.1Cms)で各半球を最大C80秒,片道C10秒,合計4往復照射した.3時,9時,濾過胞作製部と留置チューブのある部分は避けて照射した.解析は眼圧,点眼スコアについて統計ソフトCGraphPadPrism9を用いてCDunnett’stestで検討した.また,手術既往の有無別についても検討した.いずれもCp<0.05を有意水準とした.なお,本研究は旭川医科大学倫理委員会で承認された.CII結果対象のC21眼の病型は,原発開放隅角緑内障C9眼,閉塞隅角緑内障C2眼,血管新生緑内障C3眼,落屑緑内障C3眼,その他C4眼であった.静的視野検査を施行できたものはC11眼(52.4%)で,平均値はC.20.49±5.9CdBであった.また,16眼が緑内障手術既往眼であった(表1).平均眼圧の推移を図1に示す.平均眼圧は術前C22.5C±5.4mmHg,術後C1,3およびC6カ月はC15.6C±4.3,16.9C±5.5,C16.7±4.3CmmHgで,すべての時点において術前と比較して有意に下降した(p<0.05,Dunnett’stest).術前からC20%以上の眼圧下降を示した割合は術後C1,3およびC6カ月で76.2,71.4,61.9%であった.また,眼圧C6.21CmmHgの割合は術前,術後C1,3およびC6カ月でC42.9,90.5,76.2,85.7%であった.点眼スコアの推移を図2に示す.点眼スコアは術前C3.8C±1.4,術後C1,3およびC6カ月はC3.4C±1.0,3.4C±1.0,3.5C±0.9ですべての時点において術前と比較して有意な差を認めなかった(Dunnett’stest).手術既往の有無別にみた平均眼圧の推移を図3に示す.手術既往眼の平均眼圧は術前C21.9C±5.9CmmHg,術後1,3およびC6カ月はC15.8C±4.8,16.5C±5.1,17.2C±4.7CmmHgで,すべての時点において術前と比較して有意に下降した(p<C0.05,Dunnett’stest).非手術既往眼の平均眼圧は術前C24.4C±3.1mmHg,術後C1,3およびC6カ月はC14.8C±3.0,18.0C±7.2,14.6C±1.8CmmHgで,術後C1,6カ月において術前と比較して有意に下降した(p<0.05,Dunnett’stest).手術既往眼,非手術既往眼ともに,術後C6カ月時点で術前と比較し有意に下降した(p<0.05,Dunnett’stest).合併症は瞳孔散大C4例を認め,羞明の自覚症状があったが,いずれも術後C6カ月までには改善または改善傾向であった.また,眼内出血や眼球癆などの重篤な合併症を認めなかった.CIII考按今回,眼圧は術後C1,3およびC6カ月のすべての時点において術前と比較して有意に下降した.今回とCMP-CPC施行条件,成功基準が類似している既報との比較を表2に示す.既報では成功基準を「眼圧C6.21CmmHgまたは術前からC20%以上の眼圧下降」とした場合,術後C6カ月時点でC74.3.83.3%の症例がこの基準を満たす2.5)と報告されている.今回はC90.5%の症例がこの基準を満たしており,既報と比較し同等以上の効果を認めた.加齢により毛様体無色素上皮の色素が増加すること12),白色人種と比較し,有色人種のほうが眼の色素が濃いために少ないレーザーパワーで効果が現れやすいこと6,7,13)が知られている.CW-CPCの成功率は患者の年齢と相関がある8)という報告や,MP-CPCでもC40歳以上の患者ではC40歳未満の若年者と比較し再手術のリスクが低いこと2),有色素眼のほうが無色素眼よりもレーザーの効果が高い9)という報告がある.今回は既報と比較し,平均年齢が高く,色素の増加によりレーザーの感受性が高くなり生存率を上昇させた可能性も考えられる.点眼スコアに関し,今回は術前後で点眼スコアに有意な変化は認めなかった.既報では点眼スコアは有意に減少した2.5)と多く報告されている.一方,Laruelleらは点眼調整における明確な基準が存在しなかったこと,症例に進行例が含まれていたことなどから,術前後で点眼スコアに有意な変化を認めなかった14)と報告している.本研究においても末期緑内障が多く,20%以上の眼圧下降が得られていても,10CmmHg台前半以下の眼圧を達成するため術前と同強度の薬物療法が継続となった症例が多かったためと考えられる.また,このように術後も術前と同強度の薬物治療を継続としたことが,術後C6カ月時点で既報と比較し良好な術後成績が得られた一因とも考えられる.手術既往の有無別に検討したところ,本研究では手術歴の表1患者背景30年齢C72.3±11.9歳25性別男10例(C47.6%)女11例(C52.4%)病型原発開放隅角緑内障9眼(42.8%)閉塞隅角緑内障2眼(9.5%)眼圧(mmHg)2010血管新生緑内障3眼(14.2%)落屑緑内障3眼(14.2%)C5その他4眼(1C9.0%)静的視野検査(HFA)11眼(C52.4%)初期(MD値≧C.6dB)0眼(0C.0%)中期(C.12CdB≦MD値<C.6dB)1眼(4C.8%)末期(MD値<C.12dB)10眼(4C.8%)手術既往16眼(C76.2%)Trabeculectomy12眼(C57.1%)Trabeculotomy3眼(1C4.2%)Ahmedglaucomavalve2眼(9C.5%)Express2眼(9C.5%)術前術後1カ月術後3カ月術後6カ月図1平均眼圧の推移平均眼圧は術前と比較し,術後すべての時点で有意な下降を認めた(p<0.05).C6(平均±標準偏差)*p<0.05,Dunnett’stest533.5±0.93.8±1.43.4±1.03.4±1.02Selectivelasertrabeculoplasty1眼(4.7%)(平均±標準偏差)点眼スコア4有無にかかわらず,術後C6カ月の時点で有意な眼圧下降を認めた.Zaarourらは手術歴の有無にかかわらず,有意な眼圧下降を認めたが,非手術既往眼のほうが手術既往眼よりも眼圧下降率が高い3)と報告している.この理由としてCChenらは手術既往眼であること自体,難治性緑内障である可能性が1術前術後1カ月術後3カ月術後6カ月図2点眼スコアの推移点眼スコアは術前と比較し,術後すべての時点で有意差を認めな高く,以前に手術を受けた患者は成功率が低くなる可能性がかった.高いのではないか2)と示唆している.一方で手術既往眼のほうが非手術既往眼よりも眼圧下降率が高い4,9)という報告もC30あり,統一した見解はない.25以上から,MP-CPCは手術後の眼圧コントロール不良な難治性緑内障のみならず,認知症や全身状態不良などの理由で手術自体が困難な患者に対する治療の選択肢の一つとなりうると考えられる.しかし,手術既往の有無別での眼圧下降率の優劣に関しては,本研究では非手術既往眼はC5例と症例眼圧(mmHg)201510数も少ないため,さらなる症例の蓄積・検討が必要と考えられる.合併症に関しては,本研究では既報同様に眼球勞やその他視機能に影響を与える重篤な合併症は認めなかった.これまでの報告では前房炎症の頻度が高い2,3)が,本研究では前房炎症を生じた症例はなかった.既報においてCMP-CPC後の前房炎症はC1週間程度のステロイド点眼の使用により改善が得られており,本研究では予防的にステロイド点眼を処方していたため前房炎症の発生が抑制された可能性が考えられる.また,本研究では経過中に瞳孔散大をC4眼(18%)で認めた.ChenらはC3.3%,RadhakrishnanらもC11%で瞳孔散大を認めたと報告している2,15).Radhakrishnanらはアジア(119)5手術既往眼非手術既往眼図3手術既往の有無別にみた平均眼圧の推移手術歴の有無にかかわらず,術後C6カ月の時点で有意な眼圧下降を認めた.人や水晶体眼では術後散瞳の頻度が高いと報告しており15),本研究およびCChenらの研究でもアジア人の割合が高いため,他の研究に比較し瞳孔散大の頻度が高くなった可能性が考えられる.本研究で瞳孔散大を認めた症例はいずれも経過あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1105表2既報との比較評価項目と達成率文献年齢おもな病型手術既往(術後C6カ月)合併症原発開放隅角緑内障9眼(42.8%)手術既往眼16眼(76.2%)瞳孔散大4眼(18.2%)閉塞隅角緑内障2眼(9.5%)Trabeculoctomy12眼(57.1%)今回血管新生緑内障3眼(14.2%)Trabeculotomy3眼(14.2%)①眼圧6.21CmmHgor21例21眼90.5%C72.8±11.8歳落屑緑内障3眼(14.2%)Ahmedglaucomavalve2眼(9.5%)②術前からC20%以上の下降Express2眼(9.5%)Selectivelasertrabeculoplasty1眼(4.7%)原発開放隅角緑内障26眼(34.7%)手術既往眼31眼(41.3%)炎症17眼(23.0%)閉塞隅角緑内障6眼(8.0%)Trabeculoctomy14眼(18.7%)視力低下8眼(14.0%)CZaarourKetal.20183)血管新生緑内障4眼(5.3%)Ahmedglaucomavalve20眼(26.7%)①眼圧6.21CmmHgor69例75眼81.4%C55.5±22.9歳落屑緑内障3眼(4.0%)Diodelasereyelophotocoagulation6眼(8.0%)②術前からC20%以上の下降Laserperipheralindotomy6眼(8.0%)Selectivelasertrabeculoplasty3眼(4.0%)原発開放隅角緑内障66眼(56.9%)手術既往眼79眼(68.1%)視力低下9眼(7.8%)閉塞隅角緑内障7眼(6.0%)Trabeculoctomy31眼(26.7%)低眼圧症2眼(1.7%)CGarciaGAetal.20194)血管新生緑内障3眼(2.6%)Tubeshuntsurgery57眼(49.1%)①眼圧6.21CmmHgor116例C116眼74.3%C65.8±16.9歳落屑緑内障6眼(4.3%)Express5眼(4.3%)②術前からC20%以上の下降Diodelasereyelophotocoagulation3眼(2.6%)Selectivelasertrabeculoplasty9眼(7.8%)原発開放隅角緑内障12眼(41.4%)手術既往眼17眼(58.6%)黄斑浮腫1眼(3.4%)CVigNetal.20205)閉塞隅角緑内障1眼(3.4%)Trabeculoctomy8眼(27.6%)①眼圧6.21CmmHgorC64.7±15.1歳血管新生緑内障2眼(6.9%)Bacrveldttubes9眼(33.3%)②術前からC20%以上の下降29例29眼落屑緑内障1眼(3.4%)Diodelasereyelophotocoagulation10眼(34.5%)75.9%Minimallyinvasivegraucomashunt7眼(24.1%)原発開放隅角緑内障37眼(61.7%)手術既往眼18眼(30.0%)前房炎症13眼(21.6%)閉塞隅角緑内障6眼(10.0%)Trabeculoctomy14眼(273.3%)①眼圧6.21CmmHgor結膜出血4眼(6.7%)CChenHSetal.20222)C58.9±12.4歳Express2眼(3.3%)②術前からC20%以上の下降低眼圧症2眼(3.3%)56例60眼血管新生緑内障4眼(7.1%)CW-TSCPC8眼(13.3%)83.3%瞳孔散大2眼(3.3%)(<6mmHg)今回とCMP-CPC施行条件,成功基準が類似している既報についてまとめた.既報では成功基準を「眼圧C6.21CmmHgまたは術前からC20%以上の眼圧下降」とした場合,術後C6カ月時点でC74.3.83.3%の症例がこの基準を満たす.今回はC90.5%の症例がこの基準を満たしており,既報と比較し同等以上の効果を認めた.観察のみで術後C6カ月には改善が得られている.以上より,MP-CPCは安全性に優れた治療法と考えられる.CIV結論利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)ChenHS,YehPH,YehCTetal:MicropulsetransscleralcyclophotocoagulationCinCaCTaiwanesepopulation:2-yearCclinicalCoutcomesCandCprognosticCfactors.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC260:1265-1273,C20223)ZaarourCK,CAbdelmassihCY,CArejCNCetal:OutcomesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCuncon-trolledglaucomapatients.JGlaucomaC28:270-275,C20194)GarciaCGA,CNguyenCCV,CYelenskiyCACetal:MicropulseCtransscleralCdiodeClaserCcyclophotocoagulationCinCrefracto-ryglaucoma:Short-termCe.cacy,Csafety,CandCimpactCofCsurgicalChistoryConCoutcomes.COphthalmolCGlaucomaC2:C402-412,C20195)VigCN,CAmeenCS,CBloomCPCetal:MicropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:initialCresultsCusingCaCreducedCenergyprotocolinrefractoryglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:1073-1079,C20206)CheungCJJC,CLiCKKW,CTangSWK:RetrospectiveCreviewConCtheCoutcomeCandCsafetyCofCtransscleralCdiodeClaserCcyclophotocoagulationCinCrefractoryCglaucomaCinCChineseCpatients.IntOphthalmolC39:41-46,C20197)KaushikS,PandavSS,JainRetal:LowerenergylevelsadequateCforCe.ectiveCtransscleralCdiodeClaserCcyclophoto-coagulationCinCAsianCeyesCwithCrefractoryCglaucoma.CEye(Lond)22:398-405,C20088)SchloteT,DerseM,RassmannKetal:E.cacyandsafe-tyCofCcontactCtransscleralCdiodeClaserCcyclophotocoagula-tionCforCadvancedCglaucoma.CJCGlaucomaC10:294-301,C20019)deCCromCRMPC,CSlangenCCGMM,CKujovic-AleksovCSCetal:MicropulseCtrans-scleralCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithglaucoma:1-andC2-yearCtreatmentCout-comes.JGlaucomaC29:794-798,C202010)山本理紗子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス経強膜的毛様体凝固術の短期成績.あたらしい眼科36:933-936,C201911)光田緑,中島圭一,谷原秀信ほか:マイクロパルス波経強膜毛様体凝固術の短期成績.あたらしい眼科C36:1078-1082,C201912)GartnerJ:ElectronCmicroscopicCobservationsConCtheCcil-iozonularCborderCareaCofCtheChumanCeyeCwithCparticularCreferencetotheagingchanges.ZAnatEntwicklungsgeschC131:263-273,C197013)CantorLB,NicholsDA,KatzLJetal:Neodymium-YAGtransscleralCcyclophotocoaguration.CTheCroleCofCpigmenta-tion.InvestOphthalmolVisSciC30:1834-1837,C198914)LaruelleG,PourjavanS,JanssensXetal:Real-lifeexpe-rienceCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulation(MP-TSCPC)inadvancedanduncontrolledcasesofsev-eralglaucomaCtypes:aCmulticentricCretrospectiveCstudy.CIntOphthalmolC41:3341-3348,C202115)RadhakrishnanS,WanJ,TranBetal:Micropulsecyclo-photocoagulation:aCmulticenterCstudyCofCe.cacy,Csafety,CandCfactorsCassociatedCwithCincreasedCriskCofCcomplica-tions.JGlaucomaC29:1126-1131,C2020***

自家層状強膜グラフトを用いて融解強膜弁を被覆した 濾過胞再建術の1 例

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1097.1102,2023c自家層状強膜グラフトを用いて融解強膜弁を被覆した濾過胞再建術の1例滝澤早織杉原佳恵桝田悠喜瀬口次郎成田亜希子岡山済生会総合病院眼科CACaseofSurgicalBlebReconstructionUsinganAutologousLamellarScleralGrafttoCoveraMeltedScleralFlapSaoriTakizawa,KaeSugihara,YukiMasuda,JiroSeguchiandAkikoNaritaCDepartmentofOphthalmology,OkayamaSaiseikaiGeneralHospitalC目的:マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用トラベクレクトミー術後に濾過胞再建術を行う場合,強膜弁が融解した患者に遭遇することがあり治療に苦慮する.今回,濾過胞再建術施行時に自家層状強膜グラフトを用いて融解強膜弁を被覆し,良好な眼圧コントロールを得られたC1例を経験したので報告する.症例:60歳代,男性.他院で原発開放隅角緑内障に対して両眼CMMC併用トラベクレクトミーが施行された.術後C13年目に当院で左眼濾過胞再建術を施行した.術中,強膜弁の融解・欠損を認め,縫合困難であったため,鼻側隣接部分に層状強膜グラフトを作製し,翻転させて強膜弁を被覆した.術後良好な濾過胞が形成され,術後C21カ月で緑内障点眼薬をC2剤追加したが,術後C2年の眼圧はC9.5CmmHgであった.結論:MMC併用トラベクレクトミー術後に強膜弁が融解した症例に対し,自家層状強膜グラフトを用いた強膜弁被覆が有用であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsurgicalCblebCreconstructionCinCwhichCaCmeltedCscleralC.apCwasCsuccessfullyCtreatedwithanautologouslamellarscleralgraft.Case:Amaninhissixtiesunderwenttrabeculectomywithmito-mycinC(MMC)forbilateralprimaryopen-angleglaucoma.Thirteenyearsaftersurgery,hewasreferredtoourhospitalforfurtherconsultation,andsurgicalblebreconstructionwasperformedinhislefteye.Intraoperatively,ameltedscleral.apwithadefectwasobserved,andanautologouslamellarscleralgraftwascreatedadjacenttothescleral.apandthenupturnedandsuturedoverthescleral.ap.Aftersurgery,agood.lteringblebwasformed,andCatC2-yearsCpostoperative,CtheCintraocularCpressureCinCthatCeyeCwasC9.5CmmHgConC2CclassesCofCglaucomaCeye-dropmedications.Conclusion:Anautologouslamellarscleralgraftmaybeanoptiontocoverameltedscleral.apatthetimeofsurgicalblebreconstructionafterfailedtrabeculotomywithMMC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1097.1102,C2023〕Keywords:緑内障,濾過胞再建術,融解強膜弁,マイトマイシンCC,自家強膜グラフト.glaucoma,CsurgicalCblebCrevision,meltedscleral.ap,mitomycinC,autologousscleralgraft.CはじめにマイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)併用トラベクレクトミーは,眼圧下降効果の点でもっとも優れた術式であり,緑内障手術のゴールドスタンダードとされている.MMCを併用することで,線維芽細胞増殖抑制作用により濾過部位の瘢痕化が抑制され,トラベクレクトミーの眼圧コントロール成績は向上したが,MMCは術後低眼圧や強膜融解などの合併症と関連があり1,2),濾過胞再建術や低眼圧症例に対し手術を行う場合に,強膜弁が融解した患者に遭遇することがある.強膜弁の融解・欠損部分を被覆する方法には,保存強膜3.5),角膜6),筋膜7)による被覆,自家強膜移植2,8)などが報告されているが,術前に既存の強膜弁の状態を正確に把握するのは困難であるため,術中に強膜弁の融解・欠損が明らかになっても被覆材料が準備されていない場合があ〔別刷請求先〕滝澤早織:〒700-0021岡山市北区国体町C2C-25岡山済生会総合病院眼科Reprintrequests:SaoriTakizawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaSaiseikaiGeneralHospital,2-25Kokutaityou,Kita-ku,Okayamasi700-0021,JAPANCab図1初診時前眼部写真・前眼部OCT画像(左眼)a:前眼部写真.限局した無血管濾過胞を認めた(.).b:前眼部COCT画像.角膜輪部に限局した低反射濾過胞壁を有する濾過胞を認めた.強膜弁と強膜弁下の水隙が確認できたが,強膜弁の後方(.)は境界が不明瞭であった.る.今回,濾過胞再建術施行時に自家層状強膜グラフトを用いて融解強膜弁を被覆し,良好な眼圧コントロールを得られた1例を経験したので報告する.CI症例患者:60歳代,男性.主訴:左眼の眼圧上昇.既往歴:高血圧.現病歴:原発開放隅角緑内障に対しCX年に他院で両眼MMC併用トラベクレクトミーが施行され,術後眼圧は緑内障点眼なしでC10CmmHg台前半であった.X+6年で左眼眼圧がC15CmmHgを超えるようになり,緑内障点眼薬(ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬)が再開された.その後,X+13年に左眼の眼圧上昇と視野障害進行を認めたため,岡山済生会総合病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C0.06(1.5×sph.6.50D(cylC.0.75DCAx100°),左眼0.06(1.2×sph.6.50D(cyl.1.00DAx170°),眼圧はCGoldmann圧平眼圧計で右眼C15mmHg,左眼C17mmHgであった(経過観察中を含め,眼圧測定はGoldmann圧平眼圧計を用いた).細隙灯顕微鏡検査では,左眼角膜上方に限局した無血管濾過胞を認めた(図1a).左眼眼底は視神経乳頭の陥凹拡大,耳上側,耳下側にCnotch-ingならびに網膜神経線維層欠損を認め(図2a),同部位に光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で網膜神経線維層厚の菲薄化を認めた(図2b).また,黄斑部の神経節細胞-内網状層については,耳側縫線での上下非対称性を示す所見であるCtemporalCrapheCsignを認めた(図2b).Humphrey静的量的視野検査中心C30-2で左眼の平均偏差値は.11.34CdB,上半視野に固視点近傍まで及ぶ弓状暗点,下半視野に鼻側階段を認めた(図2c).前眼部COCTで濾過胞を観察すると,強膜弁ならびに強膜弁下の水隙は確認できたが,強膜弁の後方は境界が不明瞭であった(図1b).手術:当院初診からC3カ月後,左眼に濾過胞再建術を施行した.スプリング剪刀を用いて結膜を切開し,肥厚したTenon.を除去した.強膜弁周囲の被膜を残したまま,C0.4Cmg/mlMMCを手術用マイクロスポンジに浸潤させて強膜弁周囲の強膜ならびに結膜にC3分間塗布し,150Cmlの生理食塩水で洗浄した.その後強膜弁周囲の被膜を除去したところ,12時付近に強膜弁を認めたが,融解・欠損して半分以下のサイズになっていた(図3a).10-0ナイロン糸にて強膜弁の縫合を試みたが,強膜弁が脆弱なため,1糸縫合できたのみで,それ以上の縫合は困難であった.被覆材料を用意していなかったため,強膜弁の鼻側隣接部分に替刃メスとクレセントナイフを用いてC4Cmm×4Cmmの層状強膜グラフトを作製し(図3b),翻転させて,融解・欠損した強膜弁を被覆した(図3c).そして,10-0ナイロン糸で強膜と層状強膜グラフトのサイドをC6糸縫合し(図3d),房水が層状強膜グラフトの後方から円蓋部へ流出するのを確認したあとに,acb輪部結膜に半返し縫合を行い,輪部からの房水漏出がないことを確認して手術を終了した.術後経過:術後C4日からC6カ月の間にC6本すべての縫合糸にレーザー切糸を行い,その後眼圧はC12CmmHgに維持されたが,術後C21カ月で眼圧がC14.5CmmHgに上昇したためラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬を追加し,その後眼圧はC9.5CmmHgまで下降した(図4).前眼部OCTによる観察では,融解・欠損した強膜弁の上に層状強膜グラフトを認め,濾過胞の高さは低いが,広範な水隙を有する奥行きのある濾過胞が形成された(図5b).CII考按MMCは有糸分裂を示す細胞に対して抗増殖作用をもつ代謝拮抗薬であり,DNA合成を阻害しCRNA転写や蛋白質の合成を阻害する9).トラベクレクトミーにCMMCを併用する図2初診時所見(左眼)a:カラー眼底写真.視神経乳頭の陥凹拡大,耳上側,耳下側にCnotchingと網膜神経線維層欠損を認めた.Cb:OCT画像.視神経乳頭の耳上側,耳下側に網膜神経線維層厚の菲薄化を認めた.黄斑部にはCtemporalraphesignを認めた.Cc:Humphrey静的量的視野検査中心C30-2.左眼の平均偏差値はC.11.34CdBで,上半視野に固視点近傍まで及ぶ弓状暗点,下半視野に鼻側階段を認めた.ことで,線維芽細胞増殖抑制作用により濾過部位の瘢痕化が抑制され,眼圧コントロール成績は向上したが2,8),その一方で,遅発性房水漏出,低眼圧,低眼圧黄斑症,濾過胞感染1,10.13)などの術後合併症が増加したと報告されている8).また,MMCは翼状片の再発防止にも有効とされ,翼状片切除術に併用した場合,角膜・強膜の融解を含む術後合併症を生じることがあり,傷害の重症度によっては,強膜融解から脈絡膜へ達し,硝子体脱出や眼内炎を含む感染症を引き起こすリスクがあるとされている2).翼状片切除術については,強膜壊死の発症率はC0.2.4.5%で,MMCの併用,とくに高濃度または反復投与によってリスクが高くなると報告されているが14),MMC併用トラベクレクトミー術後の強膜弁融解の発症率については報告がない.強膜弁の融解・欠損部分を被覆する方法には,保存強膜3.5),角膜6),筋膜7)による被覆,自家強膜移植2,8)などの①眼圧(mmHg)図3術中写真a:強膜弁の融解・欠損を認めた.b:強膜弁の鼻側にC4Cmm×4Cmmの層状強膜グラフト(.)を作製した.c:層状強膜グラフトを翻転().d:10-0ナイロン糸で①.⑥の計C6糸縫合した.C2520151050観察期間(カ月)図4治療経過左眼の眼圧の推移,施行した投薬・処置の内容を示す.LSL:lasersuturelysis.報告があるが,保存強膜を用いた強膜弁被覆について良好な手術ならびに緑内障点眼の再開が不要であったと報告した.成績が報告されている4,5).Halkiadakisら4)は,トラベクレAuら5)は,保存強膜と結膜前転を用いた濾過胞再建術を行クトミー術後に遅発性の房水漏出や低眼圧黄斑症を認めたったC12眼について,2年間の経過観察期間において,58%14眼に保存強膜を用いた濾過胞再建術を行い,10カ月の経の症例が薬物治療なしで眼圧C16CmmHg未満,75%の症例が過観察期間において濾過胞からの房水漏出と低眼圧黄斑症は薬物治療ありで眼圧C16CmmHg未満であり,追加緑内障手術全例治癒し,術後平均眼圧はC11.6±3.4CmmHgで,21.4%のを要した症例はなかったと報告した.また,Bochmannら6)症例で緑内障手術を追加したが,50%の症例で追加緑内障は,重度の低眼圧症例C5眼に対して層状角膜組織を用いて融a図5最終受診時前眼部写真と前眼部OCT画像(左眼)a:前眼部写真.Cb:前眼部COCT画像.濾過胞高は低いが,広範な内部水隙を有する奥行きのある濾過胞が形成された.解強膜弁の被覆を行い,低眼圧は全例治癒,9カ月以上の経過観察で,濾過胞からの房水漏出や低眼圧を認めなかったが,眼圧コントロール不良となったC1例に対しチューブシャント手術を施行したと報告した.Qu-Knafoら7)は,局所麻酔下で表在側頭筋膜を採取し,強膜欠損部分を被覆したC1例において,6カ月の経過観察期間において濾過胞からの漏出を認めず,緑内障点眼なしで眼圧はC12CmmHgであったと報告した.本症例では,術前の前眼部COCTを用いた濾過胞観察で,強膜弁の後方は不明瞭だったものの,強膜弁と強膜弁下の水隙が確認できたため,濾過胞再建術が可能と考え手術を行った.術中強膜弁周囲の被膜除去後に融解・欠損した強膜弁と著明な房水の漏出を認め,強膜弁縫合を試みたが十分な縫合が行えず,保存強膜の準備がなかったため,自家層状グラフトを用いて融解強膜弁の被覆を行った.また,本症例は比較的若年であり,今後の眼圧上昇や視野障害の進行によっては,トラベクレクトミーやチューブシャント手術を行う可能性があり,耳上側の強膜・結膜を温存したかったため,強膜弁に隣接した鼻側強膜を用いて層状グラフトを作製し,翻転させて強膜弁を被覆した.Sharmaら8)は,本症例と同様に自家層状グラフトを用いて融解強膜弁の被覆を行った症例を報告した.彼らは,トラベクレクトミー術後の低眼圧黄斑症に対する濾過胞再建術において,術中強膜弁の融解を認めたため,強膜弁の後方に層状グラフトを作製し翻転させて強膜弁を被覆したところ,術後低眼圧黄斑症は治癒し,眼圧は10CmmHg台前半に維持されたと報告した.本症例との相違(115)b点は自家層状グラフトの作製部位であり,術後後方へ房水を流出させてびまん性濾過胞を形成させるためには,本症例のように鼻側隣接部分に作製するか,もしくは鼻側強膜も温存するため後方に作製するのであれば遊離の層状グラフトを作製するのが好ましいと考える.自家層状グラフトを用いた融解強膜弁被覆のメリットとしては,強膜弁を翻転した場合に,強膜弁の下にいくらか空間ができるため,保存強膜による被覆や遊離の自家強膜移植と比べて強膜弁が癒着しにくい可能性があり,本症例でも術後に前眼部COCTで濾過胞を観察したところ,術直後から融解・欠損した強膜弁と翻転した強膜弁との間に空間が保たれていた.一方,デメリットとしては,輪部側からの房水漏出の可能性があることがあげられるが,本症例では早期からレーザー切糸を行い,強膜弁後方からの房水流出を促進するよう努めたため,術後輪部からの房水漏出を認めなかったのではないかと考えた.MMCの使用については,本症例では強膜弁周囲の被膜を除去する前に使用したため,使用する際に強膜弁の融解を認識していなかった.トラベクレクトミー施行時のCMMC使用が強膜弁融解に関与していた可能性があることから,濾過胞再建術時にCMMCを使用することで術後強膜融解や低眼圧のリスクが上昇すると考える.一方で,濾過胞再建術では初回手術に比べ術後濾過胞の瘢痕化がさらに生じやすい.したがって,患者ごとに強膜の融解の程度・範囲やCMMCのメリット・デメリットを勘案したうえでCMMCを使用するかどうかを決定する必要がある.トラベクレクトミー術後に濾過胞再建術を施行する際,術あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1101前に既存の強膜弁の融解・欠損の有無が予測できた場合には被覆材料を準備しておくことが可能であるが,実際には前眼部COCTなどを用いても強膜弁の状態を把握するには限界がある.さらに,わが国における保存強膜の入手状況を考慮すると,ほとんどの医療機関において普段から保存強膜を準備しておくのは困難であり,本症例のように濾過胞再建術の術中に強膜弁の融解を認めた場合は,強膜弁周囲の強膜が健常であれば,隣接強膜を用いて自家層状強膜グラフトを作製し,翻転させて融解強膜弁を被覆する方法が一つの選択肢となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BindlishCR,CCondonCGP,CSchlosserCJDCetal:E.cacyCandCsafetyCofCmitomycin-CCinprimaryCtrabeculectomy:.ve-yearfollow-up.OphthalmologyC109:1336-1341,C20022)PolatN:UseCofCanCautologousClamellarCscleralCgraftCtoCrepairascleralmeltaftermitomycinapplication.Ophthal-molTherC3:73-76,C20143)MelamedS,AshkenaziI,BelcherDCetal:DonorscleralgraftCpatchingCforCpersistentC.ltrationCblebCleak.COphthal-micSurgC22:164-165,C19914)HalkiadakisCI,CLimCP,CMoroiS:SurgicalCresultsCofCblebCrevisionCwithCscleralCpatchCgraftCforClate-onsetCblebCcom-plications.OphthalmicSurgLasersC36:14-23,C20055)AuCL,CWechslerCD,CSpencerCFCetal:OutcomeCofCblebCrevisionCusingCscleralCpatchCgraftCandCconjunctivalCadvancement.JGlaucomaC18:331-335,C20096)BochmannF,KaufmannC,KipferAetal:CornealpatchgraftCforCtheCrepairCofClate-onsetChypotonyCorC.lteringCblebleakaftertrabeculectomy:anewsurgicaltechnique.JGlaucomaC23:e76-e80,C20147)Qu-KnafoCL,CLeCDuCB,CBoumendilCJCetal:BlebCrevisionCwithtemporalisfasciaautograft.JGlaucomaC26:e11-e14,C20178)SharmaCS,CPatelCD,CSharmaCRCetal:BlebCrevisionCusingCreversedscleral.apandpedicalconjunctivalgraft.JCurrGlaucomaPractC6:94-97,C20129)RoyCS,CRoswellCR,CRaymondCMCetal:SeriousCcomplica-tionsCofCtopicalCmitomycin-CCafterCpterygiumCsurgery.COphthalmologyC99:1647-1654,C199210)PoulsenCEJ,CAllinghamRR:CharacteristicsCandCriskCfac-torsofinfectionsafterglaucoma.lteringsurgery.JGlau-comaC9:438-443,C200011)MochizukiCK,CJikiharaCS,CAndoCYCetal:IncidenceCofCdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunc-tiveCmitomycinCCCorC5-.uorouracilCtreatment.CBrCJCOph-thalmolC81:877-883,C199712)DeBryCPW,CPerkinsCTW,CHeatleyCGCetal:IncidenceCofClate-onsetbleb-relatedcomplicationsfollowingtrabeculec-tomyCwithCmitomycin.CArchCOphthalmolC120:297-300,C200213)SoltauJB,RothmanRF,BudenzDLetal:Riskfactorsforglaucoma.lteringblebinfections.ArchOphthalmolC118:C338-342,C200014)Chan-HoCC,CSang-BummL:BiodegradableCcollagenmatrix(OlogenCTM)implantCandCconjunctivalCautograftCforCscleralCnecrosisCafterCpterygiumexcision:twoCcaseCreports.BMCOphthalmolC15:140,C2015***

選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の1 年間の治療成績

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1093.1096,2023c選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の1年間の治療成績内匠哲郎*1,3井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科COne-YearTreatmentOutcomesafterSelectiveLaserTrabeculoplastyTetsuroTakumi1,3)C,KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を検討した.対象および方法:SLTを施行したC199例199眼を対象とし,1年間の経過を調査した.病型は広義原発開放隅角緑内障C168眼,落屑緑内障C26眼などであった.術前平均投薬数はC4.5剤であった.術前と術C12カ月後までの眼圧を比較した.SLT後に薬剤変更,緑内障観血的手術施行,SLT再施行,眼圧下降率C20%未満がC3回続いた場合を死亡と定義し,生存率を検討した.術後の合併症を調査した.結果:眼圧は術前C19.9C±6.4CmmHg,術C6カ月後C15.5C±5.3CmmHg,術C12カ月後C15.5C±5.1CmmHgで有意に下降した(p<0.0001).生存率はC6カ月後C30%,12カ月後C24%だった.一過性眼圧上昇以外の合併症は認めなかった.結論:SLT施行後,眼圧は有意に低下したが,その効果は経過観察に伴い低下した.平均眼圧はC1年間で約C20%下降した.CPurpose:Toinvestigatethetreatmentoutcomesfor1yearafterselectivelasertrabeculoplasty(SLT)C.Meth-ods:InCthisCstudy,CweCinvestigatedCtheCtreatmentCoutcomesCinC199CeyesCofC199glaucomaCpatients(i.e.,Cprimaryopen-angleglaucoma:168eyes;exfoliationglaucoma:26eyes;othertypeglaucoma:5eyes)at6monthsand1yearCafterCSLT.CInCallCsubjects,CtheCaverageCnumberCofCglaucomaCmedicationsCusedCbeforeCSLTCwasC4.5,CandCweCcomparedIOPbeforeSLTandat6upto12-monthspostoperative.Thefailurecriteriawerechanged/addedmedi-cations,CglaucomaCsurgery,CandCre-operationCofCSLT,CandCtheCsurvivalCratesCandCcomplicationsCafterCSLTCwereCinvestigated.Results:MeanIOPatbaselineandat6-and12-monthspostoperativewas19.9±6.4CmmHg,15.5±5.3CmmHg,CandC15.5±5.1CmmHg,Crespectively(p<0.0001)C,CthusCshowingCaCsigni.cantCdecreaseCofCIOPCatC6CandC12CmonthsafterSLT.Thesurvivalrateat6-and12-monthspostoperativewas30%Cand24%,respectively,andnocomplicationsCotherCthanCtransientCincreasedCIOPCwereCobserved.CConclusion:AfterCSLT,CIOPCsigni.cantlyCdecreased,yetthee.ectdeclinedovertime,andmeanIOPdecreasedbyapproximately20%Cat1-yearpostopera-tive.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1093.1096,C2023〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,眼圧,生存率,合併症,緑内障.selectivelasertrabeculoplasty,in-traocularpressure,survivalrate,complication,glaucoma.Cはじめに1979年にCWiseらは,隅角全周の線維柱帯色素帯にアルゴンレーザーを照射するレーザー線維柱帯形成術(argonClasertrabeculoplasty:ALT)によって眼圧下降が得られることを報告した1).ALTは線維柱帯構造全体に作用し,周辺虹彩前癒着が生じる,線維柱帯の器質的変化が生じ眼圧が上昇するなどの問題点がその後指摘された2,3).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は線維柱帯の有色素細胞を選択的に破砕し,線維柱帯細胞を活性化して房水流出を改善し眼圧を下降させる方法4)で,照射するエネルギー量が少なく,反復照射可能で合併症も少ないことから薬物療法と観血的治療の中間の治療として期待されている5.7).井上眼科病院(以下,当院)ではC2010年に菅原ら8)が〔別刷請求先〕内匠哲郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TetsuroTakumi,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANCSLTの治療成績を報告したが,症例数がC39例C47眼,経過観察期間が約C6カ月間であった.今回経過観察期間をより長期として,当院の治療成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法当院通院中の緑内障患者でC2019年C1月.2021年C3月にSLTを施行した199例199眼(男性97例97眼,女性102例C102眼)を対象とし,1年間の経過を調査した.年齢はC67.2±12.4歳(平均C±標準偏差),26.93歳であった.前投薬数は点眼薬と内服薬(内服薬は錠数にかかわらずC1剤とした)を合わせて,4.5C±1.1剤で,内訳は点眼薬・内服薬未使用1眼,1剤2眼,2剤9眼,3剤22眼,4剤52眼,5剤79眼,6剤C34眼であった.なお,アセタゾラミド内服を行っていた症例はC53例であった.術前CHumphrey視野中心30-2プログラムCSITA-standardのCmeandeviation(MD)値は.13.2±6.2CdB(C.28.58.1.01CdB)であった.異なる日に計測した連続する術前2回の眼圧の平均値はC19.9C±6.4mmHg(9.5.45.0CmmHg)であった.緑内障の病型は広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)168眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:XFG)26眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)2眼,ステロイド緑内障C1眼,ステロイド以外の続発緑内障(secondaryCopenangleCglaucoma:SOAG)2眼であった.SLTの適応は点眼・内服治療を行っている,もしくは点眼・内服治療にアレルギーがあり使用できない患者(点眼薬・内服薬未使用)で,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が必要な患者とした.周辺虹彩前癒着などがあり,全周に十分照射できなかったと考えられる患者や,不慣れな術者のため通常以上の過剰照射を行ったと考えられる患者は除外した.SLT施行後からC12カ月後までの間の眼圧測定がC3回未満の症例は除外した.また,視野障害が進行しすでに中期.後期緑内障の患者,今後も進行が速いと予測される患者に対しては観血的手術の提案も行い,観血的治療およびSLTの有効性およびリスクに関し十分かつ丁寧に説明を行った.患者にはインフォームド・コンセントをとり,文書にて同意を得た.SLTのレーザー装置はエレックス社製タンゴオフサルミックレーザーを使用した.照射条件は,0.4CmJより開始し,気泡が生じる最小エネルギーとした.全例隅角全周に照射した.照射前と照射後にアプラクロニジン塩酸塩点眼薬を投与した.SLT施行後も点眼薬,内服薬は原則として継続使用とした.術前眼圧と術C1.2週間後,1カ月後,3カ月後,6カ月後,9カ月後,12カ月後の眼圧を比較した.SLT後に薬剤の変更または投薬数を増加,緑内障観血的手術施行,SLTを再度施行,あるいは眼圧下降率C20%未満がC3回続いた場合を死亡と定義し,Kaplan-Meier法により生存率を検討した.また,SLTの治療成績に影響を与える因子(年齢,性別,術前眼圧,緑内障病型,術前投薬数)をCCox比例ハザードモデルを用いて検討した.調査期間内に両眼CSLTを施行した症例では,先にCSLTを施行した眼を解析した.SLT術前後の眼圧の比較にはCANOVA,Bonferroni/Dunn検定を用いた.統計学的検討における有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障した.CII結果1照射エネルギーはC0.7C±0.2CmJ(0.4.1.1CmJ),照射数はC117.8±17.9発(88.199発)であった.術後眼圧の推移を図1に示す.術前眼圧(199眼)19.9C±6.4mmHgから1.2週間後(178眼)にはC18.4C±6.9CmmHg,1カ月後(78眼)にはC17.3±7.2mmHg,3カ月後(88眼)にはC15.4C±4.1CmmHg,6カ月後(61眼)にはC15.5C±5.3CmmHg,9カ月後(51眼)にはC15.1C±3.6mmHg,12カ月後(47眼)にはC15.5C±5.1CmmHgと,眼圧は術前と比較し,1.2週間後以外の各時点で有意に下降した(1カ月後Cp<0.05,3,6,9,12カ月後Cp<0.0001).Kaplan-Meier法による累積生存率はC6カ月後でC30%,12カ月後でC24%であった(図2).SLT6カ月後までに死亡した症例の内訳は,眼圧下降率C20%未満C84眼,薬剤追加または変更C24眼,緑内障観血的手術(線維柱帯切除術)28眼,SLT再施行C3眼であった.12カ月後までに死亡した症例の内訳は眼圧下降率C20%未満C89眼,薬剤追加または変更C28眼,緑内障観血的手術(線維柱帯切除術)30眼,SLT再施行4眼であった.SLT12カ月後の点眼薬・内服薬使用状況は,変更なしC44眼,SLT施行前より減少C3眼であった.また,生存した症例のC12カ月間の平均受診回数はC6.2C±1.9回であった.Cox比例ハザードモデルによる分析では,年齢,性別(女性を基準とする),術前眼圧,緑内障病型(POAGを基準とする),術前投薬数は治療成績に影響を与える有意な因子ではなかった(表1).SLT施行C1.2週間後にC5mmHg以上の眼圧上昇をC199眼中C12眼(6.0%)で認めたが,薬剤の変更・追加あるいは経過観察のみで下降を得た.その他に重篤な合併症を認めなかった.CIII考按本研究は術前点眼数がC4.5C±1.1剤と多剤併用症例(術前C4剤以上使用例がC82.9%)に対しCSLTを隅角全周に施行した結果である.同様に多剤併用例に対しCSLTの効果を報告したCMikiら9),齋藤ら10)の報告との比較を表2に示した.術30**p<0.00011**p<0.0525****.8****眼圧値(mmHg)累積生存率.6.4.20024681012時間(月)図2Kaplan-Meier法による累積生存率図1術後平均眼圧の推移表1SLTの治療成績に影響を与える因子ハザード比95%信頼区間p値性別(女性を基準とする)C0.8790.656.C1.178C0.3876年齢C0.9970.986.C1.009C0.6421術前投薬数C1.0310.900.C1.181C0.6637術前眼圧C0.9950.968.C1.023C0.7276緑内障病型(広義原発開放隅角緑内障を基準とする)落屑緑内障C0.9150.200.C3.831C0.6947原発閉塞隅角緑内障C0.6530.157.C2.716C0.5578ステロイド緑内障C0.4730.061.C3.647C0.4725ステロイド以外の続発緑内障C1.1430.261.C5.007C0.8590表2術前多剤使用例に対するSLTの成績MikiAら9)齋藤ら10)本研究症例数75眼34眼199眼術前眼圧C薬剤数C23.9±6.2CmmHgC3.4±1.3剤C20.9±3.4CmmHgC3.5±0.7剤(3.C5剤)C19.9±6.4CmmHg4.5±1.1剤(0.C6剤)照射範囲全周半周全周死亡定義下降率C20%未満光覚喪失SLT再施行緑内障観血的手術Out.owpressure下降率C20%未満投薬数増加SLT再施行緑内障観血的手術下降率C20%未満投薬変更/増加SLT再施行緑内障観血的手術生存率(1C2カ月後)14.2%23.2%24%前薬剤数は本研究がもっとも多く,Mikiらの報告9)では続発緑内障が約C3割含まれ本研究と患者背景が異なるため術前眼圧がやや高いこと,齋藤らの報告10)では術前眼圧は本研究と同程度であるが照射範囲が隅角半周であること,また両報告とも死亡定義が一部異なるといった違いがあるが,生存率は本研究とほぼ同等であった.Mikiらの報告9)ではSOAGやCXFGよりCPOAGで成功率が高い傾向と,術前点眼数が増えると成功率が下がる傾向を指摘している.齋藤らの報告10)では過去の報告とのCSLT治療成績を比較しており,隅角半周照射の報告ではあるものの,術前投薬数が少ないほど眼圧下降率は良好なものが多かった.新田ら11)は正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としてのCSLTの有用性を報告しており,また近年,未治療の緑内障に対する初期治療としてのCSLTの成績が海外からも報告され7),薬剤数が少ないほどCSLT後の眼圧下降率,生存率が良好という報告が多い7,11).本研究でも治療成績に影響を与える因子を検討したがいずれも有意ではなかった.その理由は不明であり,本研究からはCSLTがどのような症例に有効かを証明できなかった.本研究ではCSLT後に重篤な合併症を認めなかったものの,SLT施行C1.2週間後にC5CmmHg以上の眼圧上昇をC6.0%で認めた.一過性の眼圧上昇はC4.27%と報告されている12).本研究で一過性の眼圧上昇を認めたC12眼のうち,広義POAGが8眼(POAG全168眼のうち4.8%),XFGが4眼(XFG全C26眼のうちC15.4%)と割合としてはCXFGのほうが多かった.POAGとCXFGに対するCSLTの治療成績を直接比較した報告では,早期眼圧上昇や術後炎症の割合は有意差がなかったが13),XFGに対するCSLT後の眼圧上昇に対し観血的手術を要した報告も存在する12).また,隅角色素沈着が高度な例での眼圧上昇が報告されており12),XFGに対するSLTでは,色素沈着の程度に応じ照射パワーを調整する,術後経過観察を頻回に行うなどしてより注意する必要があると考えられた.本研究の限界として,後ろ向き研究であること,全例で未治療時のベースライン眼圧を把握できていないこと,そのため狭義CPOAGおよび正常眼圧緑内障とに区別できなかったこと,正常眼圧緑内障単独では治療成績を検討できていないこと,複数の医師がCSLTを行い症例選択や治療プロトコールが厳密に決定されていないことなどがあげられる.また,眼圧は各観察ポイントを設定したが,観察ポイントに来院していない症例ではそのポイントの眼圧値のデータが欠損となった.たとえばC12カ月後では,生存しているが眼圧値がない症例がC2眼であった.12カ月後に薬剤変更のため死亡したC1例は眼圧値があるので合計C47眼で眼圧を検討した.本研究では多剤併用緑内障症例に対するCSLTの術後C1年間の成績を報告した.平均眼圧は術後C6カ月およびC1年で約20%下降を認めた.一過性の眼圧上昇以外の重篤な合併症を認めなかったことおよび入院を要さない治療であることから,事前の十分な説明のもと,施行を考えてよい治療法と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WiseCJB,CWitterSL:ArgonClaserCtherapyCforCopen-angleglaucoma:ACpilotCstudy.CArchCOphthalmolC97:319-322,C19792)HoskinsCHDCJr,CHetheringtonCJCJr,CMincklerCDSCetal:CComplicationsCofClaserCtrabeculoplasty.COphthalmologyC90:796-799,C19833)LeveneR:MajorCearlyCcomplicationsCofClaserCtrabeculo-plasty.OphthalmicSurgC14:947-953,C19834)LatinaCMA,CParkC:SelectiveCtargetingCofClaserCmesh-workcells:invitroCstudiesofpulsedandCWlaserinter-actions.ExpEyeResC60:359-371,C19955)KramerTR,NoeckerRJ:ComparisonofthemorphologicchangesCafterCselectiveClaserCtrabeculoplastyCandCargonClaserCtrabeculoplastyCinChumanCeyeCbankCeyes.COphthal-mologyC108:773-779,C20016)LatinaCMA,CSibayanCSA,CShinCDHCetal:Q-switchedC532CnmNd:YAGClasertrabeculoplasty(selectiveClasertrabeculoplasty):aCmulticenter,Cpilot,CclinicalCstudy.COph-thalmologyC105:2082-2088,C19987)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticentrerandomisedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20198)菅原道孝,井上賢治,若倉雅登ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科C27:835-838,C20109)MikiA,KawashimaR,UsuiSetal:TreatmentoutcomesandCprognosticCfactorsCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCreceivingCmaximal-tolerableCmedicaltherapy.JGlaucomaC25:785-789,C201610)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌C111:953-958,C200711)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌C117:335-343,C201312)BettisCDI,CWhiteheadCJJ,CFarhiCPCetal:IntraocularCpres-surespikeandcornealdecompensationfollowingselectivelasertrabeculoplastyinpatientswithexfoliationglaucoma.CJGlaucomaC25:e433-e437,C201613)KaraCN,CAltanCC,CYukselCKCetal:ComparisonCofCtheCe.cacyCandCsafetyCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCinCcaseswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfo-liativeglaucoma.KaohsiungJMedSciC29:500-504,C2013***

緑内障患者におけるアイモ 24plus(1-2)と10-2 間の 測定点閾値の比較検討

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1089.1092,2023c緑内障患者におけるアイモ24plus(1-2)と10-2間の測定点閾値の比較検討継大器鈴木康之東海大学医学部付属病院眼科ComparisonofCentralVisualFieldThresholdsbetweentheimo24plus(1-2)Programand10-2inGlaucomaTaikiTsuguandYasuyukiSuzukiCDepartmentofOphthalmology,TokaiUniversityHospitalC目的:自動静的視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)のC24plus(1-2)プログラムによる中心視野評価に関する臨床的有用性を調べるため,10-2の測定点閾値と比較検討した.対象および方法:過去C1回以上C24plus(1-2)とC10-2を施行した緑内障患者のうち,強度近視眼を除き,かつ信頼性の高い眼(偽陽性<10%,偽陰性<12%,固視監視<20%)33例C63眼を対象とし,両者で重複しているC28点の測定点閾値を比較検討した.結果:24plus(1-2)と10-2の上下C28点平均閾値,上半視野C14点平均閾値,下半視野C14点平均閾値はそれぞれ,19.11C±7.58CdBとC19.43C±7.60CdB,16.98C±9.01CdBとC17.85C±8.89CdB,21.23C±8.41CdBとC21.01C±8.54CdBで,値の差は軽微であった.各測定点閾値における相関係数では,両者で強い相関を認め,閾値の差も軽微であった.結論:24plus(1-2)とC10-2の結果には相関がみられることから,24plus(1-2)がC10-2の代替になる可能性が示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCclinicalCusefulnessCofCtheCimo24plus(1-2)head-mountedCautomatedCperimeter(CREWTCMedicalSystems)inCcomparisonCtoC10-2CforCtheCevaluationCofCcentralCvisual.eld(VF)measurementCthresholdCvaluesCinCglaucoma.CSubjectsandMethods:InC63CeyesCofC33CglaucomaCpatientsCwhoCunderwentCimo24plus(1-2)andC10-2CexaminationCmoreCthanConce,CtheCVFCresultsCwithChighcon.dence(excludingChighCmyopiaeyes)wereCcomparedCatC28Cmeasurement-pointCthresholdsCthatCoverlapCinCboth.CResults:TheCmeanC28-point,C14-pointCupperChemi.eld,CandC14-pointClowerChemi.eldCVFCthresholdCvalues,Crespectively,CwereC19.11±7.58CdB,C16.98±9.01CdB,and21.23±8.41CdBforimo24plus(1-2)and19.43C±7.60CdB,C17.85±8.89CdB,and21.01±8.54CdBfor10-2.CEachCVFCmeasurementCpointCthresholdCwasCstronglyCcorrelatedCwithCboth,CandCtheCdi.erenceCinCthresholdsCwasCminor.CConclusions:TheCstrongCcorrelationCbetweenCtheCimo24plus(1-2)andC10-2CVFCthresholdCvaluesrevealedthatimo24plus(1-2)maybeagoodsubstitutefor10-2.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1089.1092,C2023〕Keywords:緑内障,視野,アイモ.glaucoma,visual.eld,imo.はじめに緑内障は進行性の視神経障害を伴う疾患であり,視野障害の評価は非常に重要である.緑内障の視野障害を測定する方法として静的視野検査が推奨されている1).アイモ(クリュートメディカルシステムズ)は小型軽量のヘッドマウント型静的視野計であり,静的視野検査の患者負担の軽減を目的として開発された.imoはコンパクトに持ち運べ暗室環境を必要としない2,3).また,左右独立したディスプレイを搭載し,両眼開放下でランダムに指標呈示することで両眼同時に検査を行うことが可能である.さらに瞳孔の動きをリアルタイムでモニターし固視監視を行い,固視に追従して視標呈示位置を自動補正する4,5).アイモの測定点配置として,Humphrey視野計(Hum-phreyC.eldanalyzer:HFA)同様にC10-2,24-2,30-2が〔別刷請求先〕継大器:〒259-1193神奈川県伊勢原市下糟屋C143東海大学医学部付属病院眼科Reprintrequests:TaikiTsugu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokaiUniversityHospital,143Shimokasuya,Isehara,Kanagawa259-1193,JAPANCあるほか,24plus(1-2)がある.24plus(1-2)はC24-2の検査点をベースに,10-2の検査点の一部を追加し,黄斑部の検査点密度を高めたCimo独自の配列である.アイモオリジナルのストラテジーとしてCAmbientCInter-activeZippyEstimatedSequentialTesting(AIZE),AIZERapid,AIZEEXがある.AIZEはベイズ推定により検査試行ごとに刺激強度を決定し,最尤法を用いて最終的な網膜感度閾値を決定する.各検査点での被験者の応答を隣接する周囲の検査点に反映することにより,事前の予測精度を高め,従来のC4-2CdBbracketingと比較し検査時間の短縮が報告されている6).AIZERapidはCAIZEのストラテジーは変えず,各検査点での応答をより強く隣接点に反映させる.さらに偽陽性(FalsePositive:FP),偽陰性(FalseNegative:FN),固視監視(FixationLoss:FL)の三つの信頼性指標を検査プロセスから推定し,より時間短縮が可能となる.AIZECEXは過去データから閾値探索することで,さらなる時間短縮が可能となる.このようにアイモは緑内障診療における患者の視野検査の負担を軽減できる可能性があり,中心C24°内かつC10°内の視野評価を同時に行えるC24plus(1-2)は,さらなる患者負担の軽減につながると考えられる.しかし,その実臨床における有用性を検討した報告は少ない.本研究の目的は緑内障診療におけるアイモC24plus(1-2)の中心視野評価に関する臨床的有用性を検討することである.CI対象および方法2020年C4月.2021年C12月に東海大学医学部付属病院眼科にて,少なくとも過去C1回アイモで検査を施行した緑内障患者(病型不問)のうち,24plus(1-2)かつC10-2で閾値測定を行った眼を選択した.そのうえでC.6.0D以上の強度近視眼を除外し,かつ矯正視力C0.1以上,信頼性の高い眼(偽陽性<10%,偽陰性<12%,固視監視<20%)を対象とした.本研究はヘルシンキ宣言に準拠して行われ,東海大学医学部付属病院倫理委員会の承認(20R-057号)のもと,すべての対象者から同意を取得した.検査ストラテジーとしては,24plus(1-2)およびC10-2ともにCAIZEEXを用いた.アイモは,非検査眼は遮閉せずに片眼測定を行い,スタンド固定して検査した.解析は両者が重複するC28点の測定点閾値を用い.各測定点ごと,上下C28点平均閾値,上半視野C14点平均閾値,下半視野C14点平均閾値で行った.両者の解析には対応のあるCt検定を用い,p<0.05を統計学的に有意とした.相関解析にはCPearson積率相関係数を使用した.CII結果症例はC33例C63眼,平均年齢はC64.7(33.83)歳,logCMARC視力はC0.029(C.0.079.1.000),等価球面度数C.2.03(C.6.00.1.00)であった.対象患者の背景を表1に示した.①上下C28点平均閾値,②上半視野C14点平均閾値,③下半視野C14点平均閾値の相関係数を図1に,また,それぞれのC24plus(1-2)とC10-2での平均閾値を表2に示す.相関係数はそれぞれ①C0.96,②C0.92,③C0.94ですべて高い相関を認めた(Pearson積率相関係数).24plus(1-2)とC10-2の上下C28点平均閾値,上半視野C14点平均閾値,下半視野C14点平均閾値はそれぞれ,19.11C±7.58CdBとC19.43C±7.60CdB,C16.98±9.01CdBとC17.85C±8.89CdB,21.23C±8.41CdBとC21.01C±8.54CdBで,上半視野C14点平均閾値におけるC24plus(1-2)がC10-2より有意に低い結果となった(pairedt-test,p<0.05).また,24plus(1-2)とC10-2の測定時間はそれぞれC4.1±0.4分,3.7C±0.6分でC24plus(1-2)が有意に長い結果となった(p=0.002).24plus(1-2)とC10-2が重複するC28点の測定点閾値の相関は,すべての閾値でおおむね高い相関を認めたものの,上半視野固視近傍のC2点ではやや低めであった.また,各測定点の閾値を両者で比較したところ,上半視野において固視近傍の一点でC24plus(1-2)が有意に低く(21.33C±10.98CvsC24.31±8.81,p=0.004),下半視野において固視近傍の一点でC24plus(1-2)が有意に高い(23.22C±10.35CvsC21.52±12.01,p=0.01)結果となった.それぞれの比較における有意差をより詳細に検討するために,有意差を認めた上半視野C14点平均閾値,上半視野固視近傍一点の閾値,下半視野固視近傍一点の閾値の差を,①24plus(1-2)を先に施行した群と,②C10-2を先に施行した群に分けて検討した(表3).①C24plus(1-2)を先に施行した群において,上半視野固視近傍一点の閾値(22.93CdBCvs26.40CdB)でC24plus(1-2)が低く,下半視野固視近傍一点の閾値(24.03CdBCvs21.09CdB)でC24plus(1-2)が高い結果となった.CIII考按緑内障診療において,中心C24°内だけではなくC10°内の視野検査の施行は,後期緑内障に関して重要なだけではなく,一部の初期緑内障患者においても,中心窩や黄斑部の変化を生じることがあるため重要である7,8).また,検査回数(回/年)が多くなるほど,視野障害進行の検出までの期間が短縮される9)が,施行回数が多くなるほど,経済面や体力面などで患者負担が増加し,検査精度や再現性にも影響を及ぼすことが考えられる.本研究では,中心C24°内かつ10°内を評価可能なC24plus(1-2)の臨床的有用性を検討し,10-2の代用になりうるか,そして検査回数の減少ひいては患者負担の軽減につながるか確認することを目的とした.24plus(1-2)とC10-2が重複するC28点の測定点閾値すべ表1対象患者の背景24plus(1C-2)C10-2眼数(n)33症例63眼平均年齢(範囲)(歳)64.7(C33.C83)性別(男/女)C17/16測定間隔(月)5.4(1.C15)矯正視力(範囲)(logMAR)等価球面度数(範囲)(diopter)C0.029(C.0.079.C1.000).2.03(C.6.00.C1.00)眼圧(mmHg)C13.8±5.4MD(dB)C.13.8±6.8C.13.2±7.8PSD(dB)C10.3±3.3C9.1±3.8VFI(%)C59.8±26.4C-平均±標準偏差(最小.最大)①上下28点平均閾値②上半視野14点平均閾値③下半視野14点平均閾値24plus(1-2)[dB]353025201510524plus(1-2)[dB]2524plus(1-2)[dB]2510図1各検査間における上下28点平均閾値,上半視野14点平均閾値,下半視野14点平均閾値の散布図アイモC24plus(1-2),10-2における①上下C28点平均閾値,②上半視野C14点平均閾値,③下半視野C14点平均閾値の散布図を示した.回帰直線は赤い直線で示した.相関係数はそれぞれ①C0.96,②C0.92,③C0.94であった(Pearson積率相関係数).表224plus(1-2)と10-2における,上下28点平均閾値,上半視野14点平均閾値,下半視野14点平均閾値0510152025303510-2[dB]0510152025303510-2[dB]0510152025303510-2[dB]24plus(1C-2)C10-2p値上下C28点平均閾値(dB)C19.11±7.58C19.43±7.60C0.23上半視野C14点平均閾値(dB)C16.98±9.01C17.85±8.89C0.04下半視野C14点平均閾値(dB)C21.23±8.41C21.01±8.54C0.53測定時間(分)C4.1±0.4C3.7±0.6C0.0002平均±標準偏差表3有意差を認めた測定点に関する検討24plus(C1-2)C→C10-2[平均期間:6C.1カ月]10-2C→C24plus(C1-2)[平均期間:7C.3カ月]24plus(1C-2)C10-224plus(1C-2)C10-2上半視野C14点平均閾値C18.23C18.86C15.70C16.79(.1,1)平均閾値C22.93C26.40C19.67C22.16(.3,3)平均閾値C24.03C21.09C22.38C21.96C表4HFA24-2SITAStandard,imo24-2,imo24plus(1-2)における測定時間の比較a:当院での既報静的視野計測定時間(分)CHFASITAStandardC6.8±1.1C24-2AIZERapidC3.3±0.524plus(1C-2)CAIZEEXC4.0±0.6b:本研究影響した可能性があり,実臨床すべてを反映する結果とはいえない.結論として,緑内障患者におけるC24plus(1-2)とC10-2間の結果には相関がみられ,24plus(1-2)がC10-2の代替になる可能性が示唆された.24plus(1-2)をC10-2の代用として用いることで,中心C24°内かつC10°内の視野評価をより短い測定時間と低い患者負担で行うことが可能になることが期待される.静的視野計測定時間(分)24plus(1C-2)CAIZEEXC4.1±0.4C10-2AIZEEXC3.7±0.6平均±標準偏差てでおおむね高い相関を認め,上下C28点平均閾値,上半視野C14点平均閾値,下半視野C14点平均閾値においても高い相関を認めた.しかし,上半視野C14点平均閾値および固視近傍一点における平均閾値で,24plus(1-2)がC10-2よりも有意に低く,下半視野固視近傍一点でC24plus(1-2)が有意に高くなる結果を認めた.原因として,24plus(1-2)と10-2間の閾値変化が著明な測定点が存在していたこと,またそれらの測定点が絶対暗点域と正常域の境界に位置していたことが考えられる.絶対暗点域近傍では閾値の変動幅は大きくなる10,11).また,同様に閾値が低値になるほど,その傾向がみられる.眼数が少数である本研究では,それら外れ値により有意差が生じてしまった可能性が考えられる.乱視レンズの追加が有意差へ影響した可能性に関して,乱視度数の増加が視野感度や測定閾値に影響を及ぼすとされている12).本研究では著明な閾値変化を示した測定点におけるC10眼のうち8眼に乱視度数を認めた.しかし,各眼C0.5.1.25Dの範囲内であり,有意差に影響を及ぼす程度ではないと考えられた.一方測定時間に関して,当院での既報C13と本研究を比較したものを表4に示す.一概に比較はできないが,24plus(1-2)の測定時間(4.1C±0.4分)が,24-2とC10-2の測定時間(3.3C±0.5分,3.7C±0.6分)のトータルよりも短い結果となった.以上より,中心C24°内かつC10°内がみられ,測定時間の短縮につながるC24plus(1-2)の臨床的有用性が示唆され,患者負担の軽減につながりうるものであることが示唆された.本研究の問題点として,1例C1眼でない点や各検査間で測定間隔が定まっていなかった点,有水晶体眼および眼内レンズ挿入眼の両方が含まれている点があげられる.測定間隔に均一性がない場合,その間に緑内障の進行がありうることが示唆され,また有水晶体眼か否かの違い,ひいては視機能の良し悪しの違いは,両眼開放下における視野感度に影響することが報告されている14).これらの問題点は本研究の結果に利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C20222)北川厚子,清水美智子,山中麻友美:アイモ24plus(1)の使用経験とCHumphrey視野計との比較.あたらしい眼科C35:1117-1121,C20183)林由紀子,坂本麻里,村井佑輔:緑内障診療におけるアイモ両眼ランダム測定の有用性の検討.日眼会誌C125:C530-538,C20214)松本長太:新しい視野検査.日本の眼科C88:452-457,C20175)澤村裕正,相原一:11.ヘッドマウント視野計アイモCR.眼科58:869-878,C20166)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20167)RaoCHL,CBegumCVU,CKhadkaCDCetal:ComparingCglauco-maCprogressionConC24-2CandC10-2CvisualC.eldCexamina-tions.PLoSOneC10:e0127233,C20158)TraynisI,DeMoraesCG,RazaASetal:Prevalenceandnatureofearlyglaucomatousdefectsinthecentral10°Cofthevisual.eld.JAMAOphthalmolC132:291-297,C20149)ChauchanBC,Garway-HeathDF,GoniFJetal:PracticalrecommendationsCforCmeasuringCratesCofCvisualC.eldCchangeinglaucoma.BrJOphthalmolC92:569-573,C200810)FlammerJ,DranceSM,AugustinyLetal:Quanti.cationofCglaucomatousCvisualC.eldCdefectsCwithCautomatedCperimetry.InvestOphthalmolVisSciC26:176-181,C198511)FlammerJ:TheCconceptCofCvisualC.eldCindices.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC224:389-392,C198612)駒形友紀,中野匡,江田愛夢ほか:Humphery.eldana-lyzerIII860の乱視補正法におけるCLiquidCTrialLensと従来法の比較検討.日本視能訓練士協会誌C46:275-280,C201713)佐藤恵理,中川喜博,鈴木康之:緑内障患者におけるCHum-phrey自動視野計からアイモへの切り替えについての検討.あたらしい眼科39:1379-1385,C202214)KumagaiCT,CShojiCT,CYoshikawaCYCetal:ComparisonCofCcentralCvisualCsensitivityCbetweenCmonocularCandCbinocu-larCtestingCinCadvancedCglaucomaCpatientsCusingCimoCperimetry.BrJOphthalmolC104:1258-1534,C2020

スクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と 緑内障性眼底変化の有無

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):963.967,2023cスクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と緑内障性眼底変化の有無瀧利枝丸山勝彦杉浦奈津美八潮まるやま眼科CCornealHysteresisValuesObtainedbyOcularResponseAnalyzerforScreeningExaminationswithorwithoutGlaucomatousFundusChangeToshieTaki,KatsuhikoMaruyamaandNatsumiSugiuraCYashioMaruyamaEyeClinicC目的:スクリーニング目的で行ったCOcularResponseAnalyzer(ORA)での眼圧検査で測定された角膜ヒステリシス(CH)の値を,眼底の緑内障性変化のある群とない群で比較すること.対象および方法:一定期間内にスクリーニングとしてCORAを用いて眼圧を測定し,かつ,眼底写真撮影と光干渉断層計(OCT)検査が行われている眼を対象とした.眼底写真とCOCTの結果から眼底の緑内障性変化の有無を判定し(あり群,なし群),両群のCCHの値を比較した(t-検定).結果:127例(平均年齢C53.5C±18.0歳),192眼が解析対象となった.あり群はC53眼,なし群はC139眼だった.あり群となし群のCCHはそれぞれC9.6C±1.4(6.8.13.3)mmHg,10.2C±1.2(6.9.13.3)mmHgとなり,あり群のほうが有意に低かった(p=0.003).結論:眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは低値だが,分布は重複する.CPurpose:ToCinvestigateCcornealChysteresisCvaluesCobtainedCbyCOcularResponseCAnalyzer(ORA)(Reichert)Cforscreeningexaminationpurposeswithorwithoutglaucomatousfunduschange.SubjectsandMethods:Weret-rospectivelyanalyzedthemedicalrecordsofeyesinwhichintraocularpressure(IOP)wasmeasuredbyORAforscreeningexaminations,andfundusphotographsandopticalcoherencetomographyimageswereobtained.Cornealhysteresis(CH)wascomparedbyt-testbetweeneyeswith(positivegroup)andwithout(negativegroup)glauco-matousCfundusCchange.CResults:ThisCstudyCinvolvedC192CeyesCofC127patients(meanage:53.5C±18.0years)C.CInCtheCpositivegroup(n=53eyes)andCtheCnegativegroup(n=139eyes)C,CtheCmean±standarddeviation(range)ofCCHwas9.6±1.4CmmHg(6.8to13.3mmHg)and10.2C±1.2CmmHg(6.9to13.3mmHg)C,respectively(p=0.003)C.CCon-clusions:OurC.ndingsCrevealedCthatCtheCmeanCCHCwasClowerCinCtheCpositiveCgroupCeyesCthanCinCtheCnegativeCgroupeyes,however,therewasanoverlapinthemeasureddistributions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):963.967,C2023〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,角膜ヒステリシス,スクリーニング,緑内障,眼圧.OcularResponseAnalyzer,cornealhysteresis,screeningexamination,glaucoma,intraocularpressure.Cはじめにライカート社のCOcularResponseCAnalyzer(ORA)は,緑内障の発症1.3),あるいは進行4.9)に影響するとされる角膜ヒステリシス(cornealhysteresis:CH)が測定できる眼圧計である.また,ORAは非接触型眼圧計であるため日常診療でスクリーニング用眼圧計として使用されることもあり,スクリーニング目的でCORAを用いた場合でも約C8割の症例で信頼性のある測定結果が得られることがわかっている10).これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている患者を選択して対象としたものが多く,緑内障点眼薬による治療介入後の測定値を解析した報告も少なくない.また,不特定多数に対するスクリーニング検査で測定されたCCHでの検討は行われていない.さらに,ほとんどの〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC報告は視野異常を有する緑内障眼を対象としているが,緑内障性視神経症の病態は視野異常が検出される前から存在し,眼底に特徴的な変化が観察されることがわかっている11).本研究の目的は,スクリーニング目的で行ったCORAによる眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することである.CI対象および方法2021年C3月C1日.5月C15日に,八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3(ライカート社)を用いて眼圧測定を行ったC747例(男性C287例,女性C460例,平均年齢C53.5±20.4歳,レンジC6.94歳),1,488眼(右眼C745眼,左眼C743眼)の中で,WaveformScore6以上の結果が得られ,眼底写真撮影と光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)検査が行われている眼を対象とした.レーザー治療を含む内眼手術歴のある眼や,緑内障点眼薬を使用中の眼は対象から除外した.ORAは患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.なお,同一眼に別の日にも測定を行っている場合には初日の結果を解析に用いた.眼底写真は無散瞳眼底カメラCAFC-330(ニデック)を用い,散瞳下,あるいは無散瞳下で後極部を画角C45°で撮影した.OCTはCRS-3000Advance(ニデック)を用い,同様に散瞳下,あるいは無散瞳下で黄斑マップを撮影後,緑内障解析を行った.なお,OCT測定時の信号強度指数の値は問わなかった.同一検者(丸山)が診療録データの眼底写真とCOCT結果を読影し,眼底の緑内障性変化の有無を判定した.眼底の緑内障性変化は,眼底写真で視神経乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の菲薄化,それに伴う網膜神経線維層欠損と,OCT網膜内層厚解析で神経線維の走行に沿った菲薄化を認め,かつ,網膜神経線維層欠損を生じうる緑内障以外の眼底疾患(網膜静脈分枝閉塞症,糖尿病網膜症,高血圧性眼底,腎性網膜症など)が除外できることにより判定した.眼底読影の結果,緑内障性変化の有無が明らかな眼のみを抽出し,緑内障性変化を認める眼(あり群)と認めない眼(なし群)で,等価球面度数,最高矯正視力(logMAR)を比較した(t-検定).また,ORAで測定されたCGoldmann圧平眼圧計に相当する眼圧値(IOPg),CHをもとに補正された眼圧値(IOPcc),CHの分布の差を検討し(F-検定),数値を比較した(t-検定).なお,緑内障以外の他の疾患があっても,明らかに緑内障性変化を合併していると思われる眼はあり群と判定した.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).CII結果スクリーニングとしてCORAを用いて眼圧測定を行った1,488眼の中で,WaveformScoreがC6以上の結果が得られた眼はC1,245眼あり,その中で内眼手術歴のある眼はC663眼あった.残りのC582眼の中で,読影可能な眼底写真撮影とOCT検査が行われている眼はC341眼あったが,緑内障性変化の有無が判定できない眼がC149眼あり,最終的にC127例(平均年齢C53.5C±18.0歳,レンジC9.87歳,男性C46例,女性C81例),192眼が解析対象となった.あり群はC40例C53眼,なし群はC89例C139眼だった.なお,2例は片眼があり群に,片眼はなし群に組み入れられていた.すべての眼にオートレフケラトメータ(ARK-1s,ニデック)を用いた屈折検査と,視力検査が行われていた.あり群となし群の屈折(等価球面度数)はそれぞれC.2.11±4.15D(レンジC.17.13.+4.00D),.2.13±3.07D(レンジC.8.75.+5.00D)であり,差はなかった(p=0.98).また,最高矯正視力(logMAR)もそれぞれC.0.01±0.11(レンジC.0.18.0.30),.0.03±0.14(レンジC.0.30.0.70)と差はなかった(p=0.26).あり群,なし群のIOPg,IOPcc,CHのヒストグラムを図1に示す.いずれのパラメータもあり群となし群の間に分布の差はなかった(IOPg:p=0.17,IOPcc:p=0.16,CH:p=0.09).あり群,なし群のCIOPg,IOPcc,CHの箱ひげ図を図2に示す.あり群となし群のCIOPgはそれぞれC15.7C±3.3CmmHg(レンジC10.2.24.3CmmHg),16.2C±3.9CmmHg(レンジC8.1.29.8CmmHg)で差はなかった(p=0.42).また,IOPccはそれぞれC17.0C±2.7CmmHg(レンジC12.8.24.0CmmHg),16.8C±3.2CmmHg(レンジC10.5.28.3CmmHg)となり,やはり差はなかった(p=0.65).一方,CHはC9.6C±1.4CmmHg(レンジC6.8.13.3CmmHg),10.2C±1.2CmmHg(レンジC6.9.13.3CmmHg)となり,あり群のほうがなし群より有意に低かった(p=0.003).CIII考按本研究は,スクリーニング目的で行ったCORAでの眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障変化の有無で比較した初めての報告である.測定値への影響を除外するため,内眼手術や緑内障点眼薬による治療介入が行われていない眼を対象に検討を行った.その結果,眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは全体としては低値だが,測定値のレンジは重複することがわかった.これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている症例を選択して対象としたものが多い.Abitbolら1)は,点眼治療中の緑内障眼C58眼(開放隅角C88%,閉塞隅角C12%,正常眼圧緑内障なし)と正常眼C75眼のCHを比較した結果,緑内障眼C8.77C±1.4CmmHg(レンジC5.0.11.3CmmHg)に対して正常眼はC10.46C±1.6CmmHg(レンジ4030201006.97.98.99.910.911.912.9(mmHg)図1OcularResponseAnalyzerで測定された各パラメータのヒストグラムa:IOPg,b:IOPcc,c:角膜ヒステリシス(CH).あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.08.09.010.012.013.09.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)c509.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)b50a50あり群なし群4034眼数眼数眼数4030201003020100~38~~~~~~~~~~10.012.014.016.018.020.022.024.026.010.012.014.016.018.020.022.024.026.0~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(mmHg)IOPg(mmHg)IOPcc(mmHg)CH353535303030252525202020151515101010555000あり群なし群あり群なし群あり群なし群図2あり群,なし群のIOPg,IOPcc,角膜ヒステリシス(CH)の箱ひげ図あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.1.14.9CmmHg)と,緑内障眼のほうが有意に低かったとしている.また,Hirneisら2)は,点眼治療中の片眼性の原発開放隅角緑内障C18例と僚眼のCCHを比較しており,緑内障眼C7.73C±1.46mmHgに対して僚眼はC9.28C±1.42CmmHg(レンジ未記載)と,緑内障眼のほうが有意に低値だったとしている.さらにCKaushikら3)は,すでに診断がついた緑内障外来を受診中のCGlaucomaClikedisc101眼,高眼圧症C38眼,原発閉塞隅角症C59眼,原発開放隅角緑内障(狭義)36眼,正常眼圧緑内障C18眼の眼圧,ならびにCCHをはじめとする角膜の特徴を正常コントロール71眼と比較している(全症例手術歴や点眼使用なし).その結果,原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障のCCHはそれぞれC7.9CmmHg(レンジ未記載,95%信頼区間C6.9.8.8CmmHg),8.0CmmHg(95%信頼区間C7.2.8.8CmmHg)であり,正常眼C9.5CmmHg(95%信頼区間C9.2.9.8CmmHg)に比べ,有意に低かったと報告している.本研究でもあり群のCCHはなし群より低い結果となったが,既報では測定値のレンジやC95%信頼区間をみてみると緑内障眼は対象全体が低めに測定されているのに対し,本研究ではあり群となし群の測定値のレンジは重複した.その理由として,本研究でのあり群の臨床背景が影響していると考えられる.本研究では組み入れの条件に視野異常の有無を問わなかったため,あり群のなかに前視野緑内障が含まれていたと予想され,また,内眼手術歴や点眼治療中の眼を除外しているため,多くの未発見,あるいは未治療の症例が解析対象となった.これらの要因が関与して後期の症例が除外され,早期の症例が多く含まれたため,本研究のあり群のCCHは既報より高く測定された可能性がある.スクリーニングとしてCCHが測定された不特定多数の症例を対象とした本研究の結果には意義がある.緑内障の危険因子の一つとしてCCHが低いことは緑内障診療ガイドラインに明記されているが12),日常臨床での緑内障の発見の機会を考えたとき,スクリーニングとして視力,眼圧,前眼部細隙灯,眼底などの諸検査を行って,緑内障が疑われる場合は適宜検査を追加して診断をすすめていくのが通例である.スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,CHの測定値が低ければ緑内障の存在を疑う根拠になるが,測定値のレンジは正常眼と重複することから,それだけでは不十分であり,他の検査結果も加味して総合的に緑内障を疑う必要があることが確認できた.本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈には各種バイアスの影響を考慮しなければならない.まず,眼底所見の読影に関して本研究にはいくつかの特徴があるため,結果の解釈に制限がある.たとえば,他院からのデータがあれば当院を受診した際に改めて眼底写真やOCTを撮影していないことも多く,眼底写真とCOCTは緑内障が疑われた全例に行われたわけではない.また,読影は一人の検者が行っているため,所見の見逃しや判定の偏りが生じることは否定できない.さらに,視神経乳頭の立体観察を全例で行っているわけではないため,眼底写真やCOCTでも判定困難なごく早期の陥凹拡大を見逃している可能性がある.OCTの測定結果の精度を問わなかった影響も考えられるが,今回は精度によらず緑内障性変化の有無が明らかに判定できる症例のみを対象としたので影響は少ないと考えられる.本研究でCOCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚解析を用いなかった理由は,黄斑疾患の除外のためCOCTで乳頭部の撮影を行っていなくても黄斑部の撮影を行っている症例が多くあり,それらの症例を解析対象に加えなければとくに正常眼の眼数が著しく減少してしまうからであるが,乳頭周囲網膜神経線維層厚解析の結果を加味していないことにより診断の精度が低下している可能性はある.さらにまた,読影対象となった眼のうちC4割強は判定不能のため除外したことなどが結果に影響した可能性がある.眼底所見の読影以外でも,結果に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの要素がある.本研究の結果は,ORAでCWave-formScoreがC6以上の結果が得られ,内眼手術歴のない未治療の眼に限定したものである.さらに,ORAの測定条件が一定ではないことも影響していると思われる.たとえば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例などに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値はそのときの検者の判断に任せた結果である.今回は,3名の検者が測定を担当したが,検者ごとの結果は明らかではない.さらに,本研究はデザインの特性から,眼底の緑内障性変化の有無に影響する背景因子の交絡は排除できない.屈折や最高矯正視力には群間の差はなかったものの,緑内障の有病率は年齢とともに高い12)ことを反映し,年齢が結果に影響を与えている可能性はある.本研究の対象には片眼はあり群,片眼はなし群に組み入れられた症例がC2例存在しており,単純な比較は困難と考え検討は行っていないが,あり群はなし群より明らかに年齢の高い眼が多く含まれている.しかし,本研究の目的はスクリーニングとして測定されたCCHの値を眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することであり,交絡因子が影響している前提で,臨床像としての結果と解釈できると考える.このようにいくつかの問題点はあるが,スクリーニングとしてCCHの情報が加われば緑内障検出の精度の向上が期待できる.そして,将来的には緑内障の早期発見や進行の危険因子を有する患者の早期発見に貢献でき,重症化の回避などによる医療経済的効果に繋がる可能性があると考えられる.今後,さらに多数例を対象とした多施設での検証が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalCandCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:116-119,C20102)HirneisC,NeubauerAS,YuAetal:Cornealbiomechan-icsCmeasuredCwithCtheCocularCresponseCanalyserCinCpatientsCwithCunilateralCopen-angleCglaucoma.CActaCOph-thalmolC89:e189-e192,C20113)KaushikCS,CPandavCSS,CBangerCACetal:RelationshipCbetweencornealbiomechanicalproperties,centralcornealthickness,CandCintraocularCpressureCacrossCtheCspectrumCofglaucoma.AmJOphthalmolC153:840-849,C20124)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:LowerCcornealChys-teresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:209-213,C20125)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CornealChysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:aCprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:1533-1540,C20136)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CornealChysteresisCandprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.AmJOphthalmolC166:29-36,C20167)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:AprospectivelongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJOphthalmolC187:148-15,C20188)AokiCS,CMikiCA,COmotoCTCetal:BiomechanicalCglaucomaCfactorCandCcornealChysteresisCinCtreatedCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCtheirCassociationsCwithCvisualC.eldCprogression.InvestOphthalmolVisSciC62:4,C20219)MatsuuraM,HirasawaK,MurataHetal:TheusefulnessofCorvisSTTonometryandtheOcularResponseAnalyz-erCtoCassessCtheCprogressionCofCglaucoma.CSci.CRepC7:40798;doi:10.1038/srep40798,C201710)杉浦奈津美,丸山勝彦,瀧利枝ほか:スクリーニング用眼圧計としてCOcularCResponseCAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討.あたらしい眼科C39:959-962,C202211)WeinrebCRN,CFriedmanCDS,CFechtnerCRDCetal:RiskCassessmentCinCtheCmanagementCofCpatientsCwithCocularChypertension.AmJOphthalmolC138:458-467,C200412)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C2022***

緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査 2021 年版

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):958.962,2023c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査2021年版正井智子*1井上賢治*1塩川美菜子*1鶴岡三惠子*1國松志保*2田中宏樹*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科TheCurrentStatusofApplicantsforVisualImpairmentCerti.cationforGlaucomain2021SatokoMasai1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),HirokiTanaka2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)取得申請を行った緑内障患者について検討した.対象および方法:2021年1.12月に手帳申請を行った緑内障153例を対象とした.緑内障病型,視覚等級,視野測定方法を調査した.2015年調査と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(22.2%)などだった.視覚等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.8%)だった.視野測定はGoldmann型視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)だった.視覚障害5級が2015年調査より有意に増加した.結論:手帳申請者の緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.視覚等級は1級と2級で60%を超えていた.視野測定はGoldmann型視野計が依然として多かった.Purpose:Toreportthestatusofvisualimpairmentcerti.cationinglaucomapatients.Methods:Atotalof153glaucomapatientswhoappliedforvisualimpairmentcerti.cationin2021wereenrolled.Thetypeofglaucoma,thegradeofvisualimpairment,andvisual.eld(VF)measurementswereinvestigated.Theresultswerethencomparedwiththoseinthe2015survey.Results:Ofthe153patients,theglaucomatypeswereprimaryopen-angleglaucoma(POAG)in54.2%,secondaryglaucomain22.2%,andother.ThegradeswereGrade1in12.4%,Grade2in50.3%,Grade3in2.6%,Grade4in7.8%,andGrade5in26.8%.TheVFmeasurementdevicesusedweretheGoldmannperimeterin60.1%andtheautomaticperimeterin39.9%.Grade5signi.cantlyincreasedcomparedwiththatinthe2015survey.Conclusion:Inthissurvey,POAGwasthemostcommonglaucomatypeobserved,thetotalofGrades1and2wasmorethan60%,andGoldmannperimetrywasstillthemostcommonmeasurementmethodused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):958.962,2023〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野計.glaucoma,visualimpairment,physicallydisabilitycerti.cate,perimeter.はじめに厚生労働省から「身体障害者福祉法施行規則等の一部を改正する省令」が2018年4月27日に公布された.これを受けて2018年7月に視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)の視力障害,視野障害の認定基準が改正された.視力障害では「両眼の視力の和」が「視力の良い方の目の視力と他方の目の視力」となった.視野障害ではGoldmann型視野計では「周辺視野角度が左右眼ともI/4視標の視野が10°以内である」が「周辺視野角度の総和が80°以下」となった.また,視能率,損失率という用語を廃止し,視野角度,視認点数を用いた明確な基準が導入された.さらにGoldmann型視野計による認定基準に加え,現在普及している自動視野〔別刷請求先〕正井智子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:SatokoMasai,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN958(110)計でも認定が可能となった.緑内障は視覚障害による手帳認定者の原因疾患の常に上位である.そこで手帳に該当する緑内障患者の実態を知ることは失明予防の観点から重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,病型により重症度や手帳該当者に違いを有する可能性もある.そこで筆者らは,井上眼科病院において2005年1),および井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院において2012年2),2015年3)に視覚障害による手帳の申請を行った緑内障患者の実態を調査して報告した.今回筆者らは井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院で2021年に手帳の申請を行った緑内障患者の実態を再び調査した.さらに2015年に行った調査3)の結果と比較し,経年変化を検討した.I対象および方法2021年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者で,同時期に視覚障害による手帳の申請を行った153例(男性71例,女性82例)を対象とし,後ろ向きに研究を行った.年齢は41.95歳で,平均年齢は73.9±11.3歳(平均±標準偏差)であった.手帳申請時の緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級,視野検査方法(Goldmann型視野計,自動視野計)を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.緑内障病型別に視覚障害等級を比較した.視野検査方法別に視野障害等級を比較した.2015年に行った同様の調査3)と緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級を比較した.統計学的検討にはIBM統計解析ソフトウェアSPSSで|2検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.なお緑内障病型については続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障,発達緑内障の5群として検討した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(ぶどう膜炎14例,落屑緑内障14例,ステロイド緑内障3例,血管新生緑内障2例,角膜移植後1例)(22.2%),正常眼圧緑内障29例(19.0%),原発閉塞隅角緑内障5例(3.3%),発達緑内障2例(1.3%)であった(図1).視覚障害等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.8%),6級0例(0%)であった(図2).病型別の視覚障害等級は,原発開放隅角緑内障では1級11例(13.3%),2級43例(51.8%),3級2例(2.4%),4級5例(6.0%),5級22例(26.5%)であった.続発緑内障では1級4例(11.8%),2級18例(52.9%),4級4例(11.8%),5級8例(23.5%)であった.正常眼圧緑内障では1級3例(10.3%),2級13例(44.8%),3級2例(6.9%),4級2例(6.9%),5級9例(31.0%)であった.原発閉塞隅角緑内障では2級2例(40.0%),4級1例(20.0%),5級2例(40.0%)であった.発達緑内障では1級1例(50.0%),2級1例(50.0%)であった.緑内障の病型別に視覚障害等級に差はなかった(p=0.8729).視力障害で申請したのは72例,視野障害で申請したのは153例であった.その内訳は,視力障害は1級7例(9.7%),2級10例(13.9%),3級5例(6.9%),4級28例(38.9%),5級1例(1.4%),6級21例(29.2%)で,視野障害によるもの2級94例(61.4%),3級3例(2.0%),5級56例(36.6%)であった(表1).重複障害申請を行ったのは72例で,重複申請により上位等級に認定された症例は11例であった.内訳は視野障害2級・視力障害2級が7例,視野障害2級・視力障害3級が3例,視野障害3級・視力障害4級が1例であった(表2).申請に使った視野検査方法は,Goldmann型視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)であった.Goldmann型視野計あるいは自動視野計のどちらを使用するかには明確な基準がなく,視野障害を評価する医師の判断で視野計を選択した.視野障害等級は,Goldmann型視野計は2級69例(75.0%),5級23例(25.0%),自動視野計は2級25例(41.0%),3級3例(4.9%),5級33例(54.1%)であった.視野障害2級の症例はGoldmann型視野計が自動視野計より有意に多く(p<0.0001),視野障害5級の症例は自動視野計のほうがGoldmann型視野計より有意に多かった(p=0.0003).2015年調査3)では,緑内障病型は原発開放隅角緑内障33例(54.1%),続発緑内障16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26.2%),正常眼圧緑内障7例(11.5%),原発閉塞隅角緑内障4例(6.6%),発達緑内障1例(1.6%)であった(図1).視覚障害等級は1級14例(23%),2級29例(47%),3級1例(2%),4級3例(5%),5級8例(13%),6級6例(10%)であった(図2).今回調査と2015年調査6)との比較では,緑内障病型は同等(p=0.5736)(図1),視覚障害等級は5級が2015年調査3)と比べて今回調査で有意に増加し(p=0.0320),6級が2015年調査3)と比べて今回調査で有意に減少した(p=0.0004)(図2).視力障害等級は,今回調査では1級7例(9.7%),2級10例(13.9%),3級5例(6.9%),4級28例(38.9%),5級1例(1.4%),6級21例(29.2%),2015年調査3)では1級9例(20.0%),2級6例(13.3%),3級2例(4.4%),4級3例(6.7%),5級6例(13.3%),6級19例(42.2%)であった(表1).今回調査では2015年調査3)に比べて4級が有意に多く(p<0.0001),5級が有意に少な今回調査(153例)2015年調査(61例)発達緑内障(2例,1.3%)原発閉塞隅角緑内障(5例,3.3%)*p<0.05今回調査(153例)2015年調査(61例)6級*図2視覚障害等級の比較今回調査と2015年調査で今回調査の視野等級では,5級の割合が有意に増加し(p=0.0320),6級の割合が有意に減少した(p=0.0004).表1今回調査と2015年調査との視力障害等級,視野障害等級の比較等級今回調査2015年調査p視力障害1級7(9.7%)9(20.0%)0.16582級10(13.9%)6(13.3%)>0.99993級5(6.9%)2(4.4%)0.70564級28(38.9%)3(6.7%)**<0.00015級1(1.4%)6(13.3%)0.0127*6級21(29.2%)19(42.2%)0.1650視野障害3級3(2.0%)0(0.0%)>0.99994級0(0.0%)0(0.0%)─5級56(36.6%)8(19.5%)0.0406*6級0(0.0%)0(0.0%)─かった(p<0.05).視野障害等級は,今回調査では2級94例(61.4%),3級3例(2.0%),5級56例(36.6%),2015年調査3)では2級33例(80.5%),5級8例(19.5%)であった.今回調査では2015年調査3)に比べて2級が有意に少なく(p<0.05),5級が有意に多かった(p<0.05).III考按視覚障害による手帳認定者の全国規模の疫学調査が2015年4月.2016年3月の患者を対象にして行われた4).原因疾患は緑内障(28.6%),網膜色素変性(14.0%),糖尿病網膜症(12.8%),黄斑変性(8.0%)の順だった.筆者らは,井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に2021年1.12月に通院し,視覚障害による手帳を申請した患者を調査して報告した5).原因疾患は緑内障(46.5%),網膜色素変性(15.8%),網脈絡膜萎縮(9.1%),黄斑変性(8.2%)の順だった.2015.2016年に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院で行った同様の調査6)と比較すると,今回調査5)では緑内障の割合が有意に増加した.緑内障患者の早期発見,治療薬や手術の開発,ロービジョンケアがますます重要になっている.そこで今回2021年1.12月に視覚障害による手帳を申請した緑内障患者の実態を調査した.さらに2015年に行った同様の調査3)の結果と比較した.2015年から2021年までの間に視覚障害による手帳の視力障害,視野障害の認定基準が改正された.今回はこの改正の影響も検討した.緑内障病型は今回調査と2015年調査3)で順位は同様で割合に差もなかった.引き続き,原発開放隅角緑内障や続発緑内障では,注意深い経過観察が必要である.視力障害は4級の割合が2015年調査3)6.7%より今回調査62.2%で有意に増加し(p<0.0001),5級の割合が2015年調査3)13.3%より今回調査2.2%で有意に減少した(p<0.05).視力障害認定基準の改正により2015年調査3)で5級だった症例が今回調査で4級となった可能性が考えられる.緑内障症例に限定しないが,同様の変更が既報でも多く報告されている7.10).視野検査方法は2018年から視野障害判定に利用可能となった自動視野計が39.9%で使用されていた.今回調査の全症例での検討5)では,自動視野計は緑内障が網膜色素変性,網脈絡膜萎縮に比べて有意に多く使用されていた.視野障害判定に自動視野計が使用可能となったことは,緑内障患者にとって有益であったと考えられる.視野障害等級は,Gold-mann型視野計は2,5級のみ,自動視野計は2,3,5級の症例が存在し,自動視野計のほうが詳細に視野障害を評価できる可能性がある.視野障害は5級の割合が2015年調査3)19.5%より今回調査36.6%で有意に増加し(p<0.05),2級の割合が2015年調査3)80.5%より今回調査61.4%で有意に減少していた(p<0.05).2018年の改正により,自動視野計による判定が可能となり,自動視野計による5級認定が54.1表2重複申請で上位等級となった症例視野等級視力等級視覚等級症例数(例)2級2級1級72級3級1級33級4級2級1%と多かったことが寄与したと考えられる.視覚障害等級は1級と2級を合わせて今回調査では62.7%,2015年調査3)では70%であった.緑内障の手帳申請者は依然として重症例が多いことが判明した.2015年から2021年の間に緑内障治療分野では,点眼薬として新たにラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,オミデネパグイソプロピル点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が使用可能となった.また,手術ではmicroinvasiveglaucomasurgery(MIGS)としてiStent,KahookDualBlade,谷戸式abinternoマイクロフックロトミー,TrabExが行われるようになった.これらの新しい点眼薬や手術手技により緑内障患者の手帳申請が減ることを期待したが,今回調査では2015年調査3)に比べて,件数,割合ともに増加していた.この6年間で緑内障患者が増加したと考えるよりも,緑内障に対する啓発活動により緑内障が発見されやすくなったと思われる.また井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院ではロービジョンケアに力を入れており,光学補助具の使用や福祉施設への紹介にあたり積極的に手帳取得をすすめていることも増加の理由と考えられる.2021年に井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院中で,視覚障害による手帳を申請した緑内障症例153例を調査した.病型は原発開放隅角緑内障が54.2%で最多で,視覚障害等級は2級以上が62.7%を占めていた.2015年調査3)と比較すると視覚障害5級が有意に増加したが,これは2018年の視野障害の認定基準の改訂,具体的には自動視野計による視野障害認定が可能となった影響によると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20072)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,20133)比嘉利沙子,井上賢治,永井瑞希ほか:緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年度版).あたらしい眼科34:1042-1045,20174)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20195)井上賢治,鶴岡三惠子,天野史郎ほか:眼科専門病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請(2021年).眼臨紀(印刷中)6)井上賢治,鶴岡三惠子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現状(2015年)─過去の調査との比較─.眼臨紀10:380-385,20177)江口万祐子,杉谷邦子,相馬睦ほか:認定基準改正後の手帳取得状況とQOLの変化.日本ロービジョン学会誌20:101-104,20208)中川浩明,本田聖奈,間瀬智子ほか:視覚障害認定基準改正前後の等級とFunctionalVisionScore.眼科62:795-800,20209)黄丹,間宮紀子,武田佳代ほか:身体障害者手帳申請件数の新旧基準での比較.日本ロービジョン学会誌21:24-28,202110)相馬睦,杉谷邦子,青木典子ほか:視覚障害認定基準改正による身体障害者手帳等級への影響.日本ロービジョン学会誌21:34-38,2021***

線維柱帯切開術眼外法と眼内法の術後成績比較 西

2023年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科40(5):693.696,2023c線維柱帯切開術眼外法と眼内法の術後成績比較西田崇下川翔太郎藤原康太小栁俊人村上祐介園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CComparisonofPostoperativeOutcomesbetweenTrabeculotomyAbExternoCandAbInternoCTakashiNishida,ShotaroShimokawa,KohtaFujiwara,YoshitoKoyanagi,YusukeMurakamiandKoh-HeiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC目的:線維柱帯切開術眼外法(LOT-ext)とマイクロフックを用いた眼内法(LOT-int)の術後C2年間の成績を比較した.対象および方法:2017年C1月.2018年C12月に九州大学病院においてCLOT-extおよびCLOT-intを白内障手術と同時に行った患者を後ろ向きに抽出し,術後C1年以上経過観察できたC39例C39眼(LOT-ext:20眼,LOT-int:19眼)を対象とした.術後C6,12,18,24カ月時点での術後眼圧値,および術後合併症の有無について両術式間で比較した.結果:術後の平均眼圧下降値および平均眼圧下降率は術式間で差はなかった.また,生存時間分析でも術後眼圧値は術式間で差はなかった.術後合併症は,LOT-extでニボーを伴う前房出血(p=0.001)および術後C1カ月以内の眼圧スパイクが有意に多かった(p=0.002).結論:LOT-extとCLOT-intの眼圧下降効果に違いはなかった.LOT-extは術後前房出血の頻度および術後眼圧スパイクがCLOT-intより多くみられ,術後管理により注意を要する.CPurpose:ToCcompareCtheCpostoperativeCoutcomesCbetweentrabeculotomy(LOT)abexterno(LOT-ext)andCLOTabinternoCusingamicrohook(μLOT-int).CSubjectsandMethods:Weretrospectivelyinvestigated39eyesof39patientswhounderwentLOT-extCorμLOT-intCwithcataractsurgeryatKyushuUniversityHospitalfromJanu-ary2017toDecember2018andwhowerefollowedupformorethan1-yearpostoperative.At6-,12-,18-,and24-monthsCpostoperative,Cintraocularpressure(IOP)andCsurgery-relatedCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCthetwomethods.Results:Our.ndingsrevealednodi.erenceinpostoperativeIOPbetweenthetwotechniques,yetCpostoperativeCcomplicationsCwereCsigni.cantlyChigherCinCLOT-extCwithCanteriorCchamberChemorrhageCwithniveau(p=0.001)andCIOPCspikesCwithinC1-monthpostoperative(p=0.002)C.CConclusions:OurC.ndingsCrevealedCnodi.erenceinIOPreductionbetweenLOT-extCandμLOT-int,yetLOT-extChadahigherfrequencyofpostopera-tiveanteriorchamberhemorrhagewithneveauandpostoperativeIOPspikesthanLOT-int,thusrequiringmoreattentioninpostoperativemanagement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):693.696,C2023〕Keywords:緑内障,線維柱帯切開術,眼内法,眼外法,眼圧,術後合併症.glaucoma,trabeculotomy,abinterno,abexterno,IOP,postoperativecomplications.Cはじめに線維柱帯切開術眼外法(trabeculotomyCabexterno:LOT-ext)は,1960年にCSmithによって初めて報告された1).LOT-extは線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)と比較すると眼圧下降は劣るが術後合併症は少なく,初期.中期緑内障のよい手術適応として,とくにわが国で多く行われている2).隅角異常を伴う小児緑内障や角膜混濁を伴う症例では隅角観察,線維柱帯の同定が困難であるため,LOT-extが必要である.一方,近年,結膜切開を行わないCLOTとして,マイクロフックやCiStentを用いた線維柱帯切開法眼内法(trabeculotomyCabinterno:LOT-int)などの低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)が報告されており3,4),LOT-extに比べて手技が簡便であることからCLOT-intが選択されるケースが近年増加している.しかし,両者の術式選択に際する明確な基準はなく,LOT-extとCLOT-intの手術成績を比較した報告は少ない5).そこで,筆者らは九州大学病院におけるCLOT-extとCLOT-intの手術成績を後ろ向きに比較した.〔別刷請求先〕村上祐介:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:YusukeMurakami,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANCI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言の理念に従い行われ,九州大学医系地区部局臨床研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(2019-056).2017年C1月.2018年C12月に九州大学病院において,白内障手術とCLOT-extもしくは谷戸氏マイクロフックを用いたCLOT-intを併用して行った患者について後ろ向きにカルテ情報を取得し,手術後C1年以上の経過観察が可能であったものを対象とした.同一患者で両眼ともCLOTを行っている場合は先に手術を行った眼を対象とした.術式の選択には明確な基準はなく,患者ごとに各術者の判断で決定した.LOT-extはおもに緑内障専門医が選択しており,LOT-intは緑内障非専門医がより積極的に選択している傾向があった.LOT-extは,白内障手術後に円蓋部基底の結膜切開(6-8時)後に,4C×3Cmmの強膜四角フラップ・3C×3Cmmの内側フラップを作製し,線維柱帯を露出させた.トラベクロトームを2方向に挿入し,線維柱帯を約C120°切開した.LOT-intは,白内障手術を角膜切開で行ったあとに隅角鏡で線維柱帯を確認し,角膜切開創またはサイドポートより谷戸氏マイクロフックを挿入し,鼻側.上方および鼻側.下方の線維柱帯を計C120.180°切開した.術後成績の検討項目は術後眼圧を用いた.術後C6,12,18,24カ月における両術式の眼圧下降値,眼圧下降率について比較した.術後C18,24カ月時点では追跡可能であった患者を対象とし,再手術を行った症例は再手術を行う時点までを対象とし再手術以降は対象から除いた.また,Kaplan-Meier法を用いて生存時間分析を行った.術後の眼圧値によりC3段階の基準を設け(基準1:21mmHg未満,基準C2:18mmHg未満,基準C3:15mmHg未満)を設け,術後C6,12,18,24カ月時点で基準以上になった時点を死亡と定義した.また,追加手術を行った場合も死亡と定義した.Logrank検定を行い術式間に生存率の差があるかを検討した.眼圧測定は非接触式眼圧計の測定結果を用いた.緑内障点眼数は配合薬の点眼はC2本,炭酸脱水酵素阻害薬を内服している場合は点眼スコアC1としてカウントした.また,術後合併症については既報5)を参考にニボーを形成する前房出血の有無,眼圧スパイク(術後C1カ月以内の眼圧C30CmmHg以上)の有無,2段階以上の視力低下の有無,低眼圧(術後眼圧C4mmHg以下)の有無,術後の緑内障再手術の有無についてデータを取得した.LOT-extとCLOT-int群間の患者背景,平均術後眼圧下降値・平均眼圧下降率の比較,および術後合併症の比較には,Wlicoxonの順位和検定またCFisherの正確検定を用いた.II結果LOT-extはC19症例,LOT-intはC20症例であった.手術時の平均年齢はCLOT-extでC69.5歳,LOT-intでC68.4歳で両群間に差はなかった.両術式間で性別,術前眼圧,術前視力,術前緑内障点眼数,術前CMD値,緑内障病型の割合に有意差は認めなかった(表1).術後眼圧下降値の平均値±標準偏差は術後6,12,18,24カ月時点においてCLOT-extでC.2.2±3.7CmmHg,C.3.2±4.9mmHg,C.3.6±4.7CmmHg,C.3.5±4.3CmmHg,LOT-intでC.3.5±6.2CmmHg,C.3.7±4.9CmmHg,C.5.7±8.1CmmHg,C.5.0±4.5CmmHgであった.各時点において両術式間で眼圧下降値に有意差を認めなかった(図1a).術後眼圧下降率の平均値±標準偏差は術後C6,12,18,24カ月時点においてCLOT-extでC10.2C±22.6%,14.3C±27.6%,17.5C±20.9%,C17.4±17.6%,LOT-intでC14.6C±28.5%,19.6C±22.3%,C27.2±29.0%,24.2C±18.6%であった.眼圧下降率においても各時点において両術式間で眼圧下降値に有意差を認めなかった(図1b).術後眼圧値による死亡の定義を眼圧C21CmmHg以上,18mmHg以上,15CmmHg以上として生存時間分析を行った(図2).眼圧C21CmmHg以上を死亡と定義した場合,平均生存期間±標準誤差はCLOT-extでC1.9C±0.08年,LOT-intで1.9年C±0.06年であった.眼圧C18CmmHg以上を死亡と定義した場合,平均生存期間±標準誤差はCLOT-extでC1.8C±0.09年,LOT-intでC1.9年C±0.06年であった.眼圧C15CmmHg以上を死亡と定義した場合,平均生存期間±標準誤差はCLOT-extでC1.7C±0.13年,LOT-intでC1.7年C±0.13年であった.いずれの定義においても術式間で生存率に有意な差はなかった.いずれにおいても両術式で生存率に有意差を認めなかった(図2).術後合併症について表2に示す.ニボーを伴う前房出血はLOT-extにおいてC73.7%,LOT-intにおいてC20.0%であり有意にCLOT-extで多かった(p=0.002).眼圧スパイクはLOT-extでC57.9%,Lot-intでC10.0%であり有意にCLOT-extで多かった.低眼圧,視力低下,緑内障再手術については両群で有意差を認めなかった.CIII考察本研究ではCLOT-extとCLOT-intの両術式間で術後C2年においても,術後眼圧に有意差は認めなかった.本研究と同様に,LOT-extと谷戸氏マイクロフックを用いたCLOT-intの術後C1年時点の成績を比較したCMoriらの報告では,両術式で眼圧下降効果に差はなかった5).また,LOT-extとCKahookCDualBladeを用いたCLOT-intとの術後成績を比較した廣岡らの報告でも,両術式で眼圧下降効果に差はなかっ表1手術時の患者背景眼外法(n=19)眼内法(n=20)CpvalueC年齢(歳)(*)(†)C69.5±8.6C68.4±11.1C0.75性別(男/女)C12/7C11/9C0.75眼圧(mmHg)(*)C14.7±5.6C15.3±6.8C0.98緑内障点眼数(本)(*)C3.3±1.2C3.6±1.1C0.48炭酸脱水酵素阻害薬内服症例(†)C1C2C0.58HFA30-2MD値(dB)(*)C.14.0±8.3C.10.9±8.7C0.18矯正視力(logMAR)(*)C.0.17±0.43C.0.16±0.35C0.82角膜厚(μm)(*)C527±36C509±39C0.32眼軸長(mm)(*)C24.7±1.9C24.6±1.3C0.74病型開放隅角緑内障(†)12(63.2%)14(70.0%)C0.74続発緑内障(†)7(36.8%)6(30.0%)C0.74C平均値C±標準偏差,HFA:HumphreyCFieldAnalyzer,(*)Wilcoxonの順位和検定,(†)Fisherの正確検定.Cap=0.73p=0.68p=0.70p=0.45bp=0.72p=0.61p=0.39p=0.51平均術後眼圧下降率(%)806040200-20-40平均眼圧下降値(mmHg)-5-10-15-20-25-3061218246121824術後期間(月)術後期間(月)図1術後眼圧下降値と術後眼圧下降率a:平均術後眼圧下降値の経過.b:平均術後眼圧下降率の経過.a基準1b基準2c基準31.01.01.00.80.80.8生存率(%)0.60.40.60.40.60.40.20.20.20000.51.01.52.000.51.01.52.000.51.01.52.0観察期間(年)観察期間(年)観察期間(年)線維柱帯切開術眼外法線維柱帯切開術眼内法図2生命表解析(Kaplan-Meier法)による線維柱帯切開術の2年生存率死亡の定義として,基準C1はC21mmHg,基準C2はC18mmHg,基準C3はC15CmmHgを超えた時点または追加手術を行った場合と定義した.表2術後合併症の割合眼外法(n=19)眼内法(n=20)p値(*)ニボーを伴う前房出血(%)(*)眼圧スパイク(%)(*)低眼圧(%)(*)視力低下(%)(*)緑内障再手術(%)14(C73.7)11(C57.9)2(C10.5)14(C73.7)0(0)4(C20.0)C2(C10.0)C3(C15.0)C8(C40.0)C3(7C.7)C0.0010.0021.00.0530.23(*)Fisherの正確検定.たと結論づけている6).一方で,LOT-extとCTrabectomeを用いたCLOT-intの術後眼圧の比較を行ったCKinoshita-Nakanoらの報告では,術後C1年および術後C2年時点においてCLOT-extの眼圧下降が有意に大きかった(7).短期的な眼圧下降効果にはデバイスごとの違いがある可能性があり,今後さらなる検討が必要である.術後合併症についてはCLOT-extでニボーを伴う前房出血および眼圧スパイクが有意に多い結果となった.LOT-extにおけるニボーを伴う前房出血はC20.91%5,6,8)と幅広く報告されており,本研究ではC73.7%に前房出血を認めた.一方で谷戸氏マイクロフックを用いたCLOT-intにおけるニボーを伴う前房出血はC16%と報告されており5),本研究では20%であった.前房出血は房水静脈からの血液逆流によるもので,術終了時の眼圧との圧較差により生じる.LOT-extでニボーを伴う前房出血の頻度が高かった要因としては,ロトームによる線維柱帯切開後に眼圧が大きく下降するため,フラップ縫合までの時間に血液逆流が多く生じること,また症例によっては創部からの漏出が術後一過性にあり5),血液逆流が遷延した可能性が考えられた.本研究ではCLOT-extにおいて眼圧スパイクも有意に多く認めた.本研究では術後1カ月以内の早期における眼圧スパイクを対象としており眼圧スパイクをきたした症例では全例薬物投与(炭酸脱水酵素阻害薬内服,緑内障点眼)により眼圧スパイクは速やかに改善した.本研究において,術後C2年の時点でCLOT-intとCLOT-extの眼圧下降効果に両群間で有意差はなかった.LOT-extは術後前房出血および一過性眼圧スパイクを生じる割合が多く,術後管理により注意を要する.文献1)SmithR:ACnewCtechniqueCforCopeningCtheCcanalCofCSch-lemm.CPreliminaryCreport.CBrCJCOphthalmolC44:370-373,C19602)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19933)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmologicaC95:e354-e360,C20174)Arriola-VillalobosCP,CMartinez-de-laCCasaCJM,CDiaz-ValleCDCetal:CombinedCiStentCtrabecularCmicro-bypassCstentCimplantationandphacoemulsi.cationforcoexistentopen-angleCglaucomaCandcataract;aClong-termCstudy.CBrJOphthalmolC96:645-649,C20125)MoriCS,CMuraiCY,CUedaCKCetal:ACcomparisonCofCtheC1-yearCsurgicalCoutcomesCofCabCexternoCtrabeculotomyCandmicrohookabinternotrabeculotomyusingpropensityscoreanalysis.BMJOpenOphthalmolC5:e000446,C20206)廣岡一行,合田衣里奈,木内良明:線維柱帯切開術CabexternoとCKahookCDualBladeを用いた線維柱帯切開術の術後成績.日眼会誌124:753-758,C20207)Kinoshita-NakanoE,NakanishiH,Ohashi-IkedaHetal:CComparativeCoutcomesCofCtrabeculotomyCabCexternoCver-susCtrabecularCablationCabCinternoCforCopenCangleCglauco-ma.JpnJOphthalmolC62:201-208,C20188)FukuchiCT,CUedaCJ,CNakatsueCTCetal:TrabeculotomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cation,CintraocularClensCimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmolC55:205-212,C2011***

改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固 術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1 症例

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):410.414,2023c改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1症例馬場口紘成藤代貴志杉本宏一郎相原一東京大学医学部附属病院眼科CACaseofMacularEdemainBothEyesafterBilateralMicropulseCyclophotocoagulationUsingtheImprovedProbeKouseiBabaguchi,TakashiFujishiro,KoichiroSugimotoandMakotoAiharaCDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC目的:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術(MP-CPC)後に両眼に黄斑浮腫を発症した症例を経験したので報告する.症例:48歳,男性.落屑緑内障による両眼高眼圧の治療のため当院を受診した.両眼にCMP-CPCを行い,右眼,左眼とも術後C28日で黄斑浮腫を発症した.右眼は術後C56日の時点で自然軽快したが,左眼は黄斑浮腫の程度が強く,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行い,術後C79日で改善を得た.結論:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブによるCMP-CPCで黄斑浮腫を発症した初めての報告である.MP-CPC後の黄斑浮腫の治療にCSTTAが有効である可能性がある.CPurpose:Toreportacaseofmacularedema(ME)inbotheyesafterbilateralmicropulsecyclophotocoagula-tion(MP-CPC)usingtheMicroPulseP3DeviceRev2(IridexCorp.)probe.Casereport:A48-year-oldmalewasreferredtoourhospitalfortreatmentofhighintraocularpressureinbotheyesduetoexfoliationglaucoma.Bilater-alCMP-CPCCwasCperformed,CyetCMECdevelopedCinCbothCeyesCatC28-daysCpostoperative.CAtC56-daysCpostoperative,CtheMEinhisrighteyeresolvedspontaneously,yetat42-dayspostoperative,theMEinhislefteyewassevere,sosub-Tenon’sCcapsuleCtriamcinoloneCacetonideinjection(STTA)wasCadministeredCandCimprovementCwasCachievedCat79-dayspostoperative.Conclusion:Thisisthe.rstreportedcaseofMEinbotheyesafterbilateralMP-CPCwiththeMicroPulseP3DeviceRev2probe,andSTTAmaybeane.ectivetreatmentforMEafterMP-CPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):410.414,C2023〕Keywords:緑内障,マイクロパルス毛様体光凝固術,MicroPulseP3DeviceRev2,黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.glaucoma,micropulsetransscleralcyclophotocoagulation,MicroPulseP3DeviceRev2,macularedema,sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection.Cはじめに緑内障は視神経と視野に特徴的な変化を有する疾患であり,通常は眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる.現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一の治療法は眼圧下降のみである.眼圧を下降させる方法としては点眼加療,レーザー治療,観血的治療などがある.これまでは点眼やレーザー治療による眼圧下降が不十分な場合は手術で眼圧下降を行っていたが,社会的な理由(高齢,僻地)などにより入院や通院が困難で,加療ができずに失明に至る患者もおり課題が残っていた.近年日本に導入されたマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)は合併症が少なく安全に眼圧下降を得られ,入院や頻回の通院を必要としない治療として注目されている1).今回,新型のプローブ(MicroPulseCP3CDeviceRev2)を用いて両眼にCMP-CPCを行い両眼とも術後黄斑浮腫(macu-laredema:ME)を発症した患者を経験したので報告する.〔別刷請求先〕馬場口紘成:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:Kouseibabaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC410(128)I症例患者:48歳,男性.既往歴:重症アトピー性皮膚炎.手術歴:2001年に両眼水晶体再建術,2019年に右眼,2021年に左眼眼内レンズ強膜内固定術.現病歴:2013年に両眼落屑緑内障(pseudoexfoliationsyndrome:PE)の診断を受け,近医で点眼加療を受けていた.両眼にカルテオロール塩酸塩ラタノプロストC1回,ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミドC2回,リパスジル塩酸塩水和物C2回を点眼していたが,2022年C3月に右眼眼圧C38mmHg,左眼眼圧C29CmmHgと両眼眼圧上昇を認めたため,緑内障治療目的に東京大学医学部附属病院に紹介となった.初診時所見:視力は右眼矯正視力(0.7)(logMAR換算値0.16),左眼矯正視力(1.2)(logMAR換算値C.0.08).眼圧はGoldmann圧平眼圧計で右眼C28CmmHg,左眼C22CmmHg.角膜に異常はなく,前房炎症もなかった.両眼とも落屑物質が虹彩縁にみられCPEと診断した.両眼眼内レンズ強膜内固定後で正位,両眼底とも光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)上で黄斑浮腫はなかった.網膜静脈分枝閉塞症などの血管閉塞性病変の合併もなかった.重症アトピー症候群のため瞼裂は非常に狭小で眼瞼肥厚を認めた.Humphrey30-2静的視野検査では平均偏差(meandeviation:MD)値は右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdBと右眼で,進行した視野障害を認めた(図1).CII経過眼瞼の状態が悪く術野の確保が困難であるため,手術加療が困難であると判断し,MP-CPCを行う方針となった.2022年3月に右眼MP-CPC,2022年4月に左眼MP-CPCを,それぞれCCycloG6GlaucomaLaserSystem(Iridex社)を用いて行った.CMicroPulseCP3CDeviceRev2プローブを用い,麻酔はC2%リドカイン塩酸塩水和物CTenon.下麻酔C3Cml,レーザー設定は出力C2,500CmW,dutycycle31.3%,経結膜で上下半球それぞれ片道C20秒かけて往復しC2往復ずつ(計C80C×2秒)照射した.両眼とも眼内レンズ強膜内固定後であるが,4時,10時方向の眼内レンズ固定部位へも他の部位と同様に照射した.術中にとくに疼痛の訴えはなかった.術後点眼としてガチフロキサシン点眼C4回,0.1%ベタメタゾン吉草酸エステル点眼C4回をC1週間使用した.右眼は術後C7日で眼圧C16CmmHg,28日後C15CmmHg,56日後C22CmmHg,77日後C23CmmHgと眼圧下降を認めたが,98日後にC40CmmHgと再上昇した.眼瞼の状態が悪く線維柱帯切除術後の濾過胞維持が困難と予想され,Ahmed-FP7によるチューブシャント手術を予定している.術後の前房炎図1静的視野検査MD値:右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdB.右眼でとくに進行した視野障害を認めた.症は軽度であった.術後C28日の時点でごく軽度のCMEを認めたが,術後C56日の時点では自然軽快しており,以降再発なく経過している(図2).矯正視力は術前ClogMAR換算値0.16に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.40と低下を認め,ME改善後も視力は変化していない.左眼は術後C7日で眼圧C13CmmHg,28日後C14CmmHg,49日後C20CmmHg,79日後C15CmmHgと眼圧下降を認めた.術後の前房炎症は軽度であった.術後C7日後の時点では,MEを認めなかったが,術後C28日で著明なCMEを認め,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)(20mg)を行った.術後C79日でCMEはほぼ消失した(図3).矯正視力は術前logMAR換算値C.0.08に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.52と悪化を認めたが,術後C79日でCMEがほぼ消失するとC0.10と回復した.この間,高眼圧に対する治療としては,MP-CPC術後点眼以外に点眼の追加や内服の追加は行わなかった.STTA後に点眼の追加は行わず,非ステロイド性抗炎症薬(snon-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAID)点眼は使用しなかった.CIII考按MP-CPCは従来型の連続波CPCと比較して遷延性低眼圧,ME,視力低下,眼球勞などの重篤な合併症の率が少ないことが特徴である2,3).MP-CPCは従来型プローブとしてC2017年に日本に導入されたが,先端が大きいため狭瞼裂症例で照射困難をきたすことがあり,先端部分の面積が小さく改良され,プローブ先端が眼球面に沿うように形状が改良されたRev2プローブが導入された.MP-CPCによって組織に供給されるエネルギーに影響を与える既知の因子として,出力,時間,dutyCcycle(実際の照射時間:CycloCG6CGlaucomaCLaserSystemでは,照射時間のC31.3%),sweep時間(プローブを眼球に押し当てて結膜上を滑らす片道移動時間)の四つの変数が報告されている4.6).MP-CPCの有効性と安全性眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図2右眼経過術後C28日でごく軽度の黄斑浮腫を発症したが,経過観察のみで術後C56日で軽快した.術後C98日で眼圧C40mmHgと上昇を認め,チューブシャント手術を予定している.眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図3左眼経過術後C28日で著明な黄斑浮腫を発症し,術後C42日でCSTTAを行った.黄斑浮腫発症に伴い視力低下を認めたが,術後C79日でCMEが改善すると視力も改善傾向を認めた.(130)表1MP-CPCと黄斑浮腫についての既報術前眼圧最終受診眼圧Sweep時間黄斑浮腫視力低下低眼圧眼球勞既報(mmHg)(mmHg)エネルギー(J)(秒)(%)(%)(%)(%)Limetal11)C31.5±12.0C23.8±11.8(術後C2年)31.3.C125.2C10C1.4C13.9C0.5C3.4CWilliamsetal10)C31.9±10.251%眼圧低下(術後C8カ月)75.1.C225.4C-5.0C17.0C8.8C0CLimetal12)C35.2±11.0C31.8±13.2(術後C3年)31.3.C112.7C-2.3C32.6C7.0C4.7CChamardetal13)C24.9±7.1C18.9±6.3(術後C6カ月)C75.1C15C1.4C14.3C1.1C0CdeCrometal15)C23.5±9.4C16.8±9.2(術後C2年)100.2.C112.7C-1.4C24.7C0.7C0のバランスには出力(W)C×時間(s)C×dutycycle(0.313)で計算されるエネルギー(J)が関与すると報告されており7,8),SanchezらはC112.150CJのエネルギーを理想的なレーザーパラメーターとして報告している9).MP-CPC後の合併症として知られるCMEは,その頻度は決して高くなくC1.1.5%程度ではあるが10),視力低下をきたしうる重要な合併症の一つである.従来型プローブを用いた既報ではCLimらはC62.8C±12.2JのCMP-CPC後にC1.4%でMEを発症し,いずれも発症後C3カ月以内に自然消退したと報告している11).また,別の報告ではC31.3J.112.7JのMP-CPC後にC2.3%でCMEを発症し,2カ月以内に自然消退したと報告している12).ChamardらはC75.1CJのCMP-CPC後1週間でC1.1%の症例にCMEを認めたが,自然消退したと報告している13).本症例では両眼ともC125.2CJのCMP-CPC後28日でCMEを発症した.左眼はCSTTAを行ったが,両眼ともCMEの発症時期や軽快までの期間は既報と同程度であった.また,MP-CPC術後に両眼CMEを発症した報告はこれまでになく,きわめてまれと考える(表1)10.14).MEの治療に関して,一般的なCMEの治療としてはNSAIDs点眼やステロイド点眼,長期に効果が持続するSTTAが有効である15).既報ではCMP-CPC後のCMEは自然治癒したが,本症例では左眼のCMEの程度が強く,STTAを行い,STTA後C37日(MP-CPC後C79日)で改善を得た.MP-CPC後のCMEは症例数が少ないためにまだ確立した治療法はなく,STTAの治療が適切であるかどうか今後の検討が必要である.既報との相違点としては,まずCME発症の既報は従来型のCMP-CPCプローブを用いて行われたのに対して,今回は新プローブのCRev2を用いていることと,sweep時間も既報のなかでは長いC20秒であったことである.MEが発症した理由として,一つめは,本症例では重症アトピー症候群および長期間のCFP受容体作動薬使用により眼瞼の状態がきわめて悪く,瞼裂が非常に狭小であった.その平均値±標準偏差ためCRev2を用いても治療に十分な照射スペースを確保することがむずかしく,今回のような狭瞼裂に対しては従来型のプローブよりも容易に照射可能であるが,照射の向きが従来型のプローブと異なり,従来型のプローブでは眼球に対して垂直に照射するのに対して,Rev2では視軸に対して平行に照射する.そのため従来型プローブとCRev2で同じエネルギー照射量であったとしても,Rev2の照射は網膜側に向かうため,エネルギーが散乱することで網膜方向へある程度のレーザーエネルギーが伝わり,炎症性のCMEを惹起した可能性が考えられた.二つめは,sweep時間は術者によって異なる因子であり,片道約C5秒.30秒の間で報告されている4).レーザープローブのCsweepの時間を変化させることで治療効果や副作用を比較した報告はまだないが,同じレーザー出力の設定であってもsweep時間が長くなるほど組織の熱変性が大きくなると考えられ,今回は片道C20秒でレーザープローブをCsweepさせたため,既報のなかではプローブのCsweep時間が長いために熱変性が大きくなり炎症性のMEが生じた可能性が考えられた.三つめは,本症例は両眼とも眼内レンズ強膜内固定術後であり,後.が残っておらず無硝子体眼であったこともCME発症に関与していた可能性がある.ME発症時の僚眼へのCMP-CPCに関して,両眼発症の報告はなく不明だが,片眼でCMP-CPC術後にCMEを生じた場合は僚眼のCMP-CPCによるCMEの発症リスクが通常より高い可能性も十分考えられる.治療の際は僚眼への適応を慎重に考え,術前にはCME発症リスクについて患者に十分に説明したうえで理解を得る必要があると考える.また術後は,眼圧だけでなく,OCTで黄斑部の定期的な検査の必要があると考えられた.CIV結論今回,筆者らはCRev2を使用して両眼にCMP-CPCを行い,両眼にCMEを発症した症例を経験した.Rev2によるMP-CPCでCMEを発症した初めての報告であり,ME発症にはCRev2の照射角度やエネルギー,sweep時間,眼瞼の状態などが関与していた可能性がある.MP-CPC後のCMEの治療としてCSTTAが有効である可能性があるが,さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山本理紗子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス経強膜的毛様体凝固術の短期治療成績.あたらしい眼科C36:933-936,C20192)AquinoMC,BartonK,TanAMetal:MicropulseversuscontinuousCwaveCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinrefractoryCglaucoma:aCrandomizedCexploratoryCstudy.CClinExpOphthalmolC43:40-46,C20153)VarikutiCVNV,CShahCP,CRaiCOCetal:OutcomesCofCmicro-pulsetransscleralcyclophotocoagulationineyeswithgoodcentralvision.JGlaucomaC28:901-905,C20194)AbdelmassihY,TomeyK,KhoueirZ:Micropulsetranss-cleralcyclophotocoagulation.JCurrGlaucomaPractC15:C1-7,C20215)KabaCQ,CSomaniCS,CTamCECetal:TheCe.ectivenessCandCsafetyCofCmicropulseCcyclophotocoagulationCinCtheCtreat-mentCofCocularChypertensionCandCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC3:181-189,C20206)NguyenCAT,CMaslinCJ,CNoeckerRJ:EarlyCresultsCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCforCtheCtreatmentCofCglaucoma.CEurCJCOphthalmolC30:700-705,C20207)JohnstoneCMA,CShaozhenCS,CPadillaCSCetal:Microscopereal-timevideo(MRTV)C,high-resolutionOCT(HR-OCT)&histopathology(HP)toCassessChowCtranscleralCmicro-pulselaser(TML)a.ectsCthesclera,CciliaryCbody(CB)C,muscle(CM)C,secretoryCepithelium(CBSE)C,Csuprachoroi-dalspace(SCS)&CaqueousCout.owCsystem.CInvestCOph-thalmolVisSciC60:2825,C20198)SanchezCFG,CPeirano-BonomiCJC,CBrossardCBarbosaCNCetal:UpdateConCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagula-tion.JGlaucomaC29:598-603,C20209)SanchezFG,Peirano-BonomiJC,GrippoTM:Micropulsetransscleralcyclophotocoagulation:aChypothesisCforCtheCidealCparameters.CMedCHypothesisCDiscovCInnovCOphthal-molC7:94-100,C201810)WilliamsCAL,CMosterCMR,CRahmatnejadCKCetal:ClinicalCe.cacyandsafetypro.leofmicropulsetransscleralcyclo-photocoagulationinrefractoryglaucoma.JGlaucomaC27:C445-449,C201811)LimCEJY,CAquinoCCM,CLimCDKACetal:ClinicalCe.cacyCandCsafetyCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithCadvancedCglauco-ma.JGlaucomaC30:257-265,C202112)LimEJY,AquinoCM,LunKWXetal:E.cacyandsafe-tyofrepeatedmicropulsetransscleraldiodecyclophotoco-agulationCinCadvancedCglaucoma.CJCGlaucomaC30:566-574,C202113)ChamardC,BachouchiA,DaienVetal:E.cacy,safety,andCretreatmentCbene.tCofCmicropulseCtransscleralCcyclo-photocoagulationCinCglaucoma.CJCGlaucomaC30:781-788,C202114)deCCromCR,CSlangenCC,CKujovic-AleksovCSCetal:Micro-pulseCtrans-scleralCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithglaucoma:1-andC2-yearCtreatmentCoutcomes.CJCGlauco-maC29:794-798,C202015)ReichenbachCA,CWurmCA,CPannickeCTCetal:MullerCcellsCasCplayersCinCretinalCdegenerationCandCedema.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC245:627-636,C2007***