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血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント術 (プレートのあるもの)の中期成績

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1539.1543,2022c血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント術(プレートのあるもの)の中期成績豊田泰大徳田直人塚本彩香山田雄介北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CIntermediate-TermResultsofTubeShuntSurgeryforNeovascularGlaucomaYasuhiroToyoda,NaotoTokuda,AyakaTsukamoto,YusukeYamada,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversity,SchoolofMedicineC目的:血管新生緑内障(NVG)に対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について検討した.対象および方法:NVGに対して緑内障チューブシャント手術(Baerveldt緑内障インプラント,Ahmed緑内障バルブ)を施行し,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C13例C13眼(65.8C±13.8歳)を対象とした.NVGの原因別に過去の緑内障手術回数,手術前後の眼圧,術後合併症,累積生存率について検討した.結果:NVGの原因は糖尿病網膜症C7例(DR群),網膜中心静脈閉塞症C6例(CRVO群)であった.過去の緑内障手術回数はCDR群でC3.3C±1.3回,CRVO群でC3.0C±0.9回であった.眼圧はCDR群では術前C37.7C±5.2CmmHgが術後C36カ月でC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群では術前C40.3C±10.3CmmHgがC15.2C±4.8CmmHgと両群ともに有意に下降した.術後C36カ月の累積生存率はCDR群C71.4%,CRVO群83.3%であった.重篤な術後合併症としてCDR群で眼球癆をC1例に認めた.結論:NVGに対する緑内障チューブシャント手術は中期的にも有効な術式である.CPurpose:Toinvestigatetheintermediate-termresultsofglaucomatubeshuntsurgeryforneovascularglau-coma(NVG)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC13CconsecutiveCNVGpatients(meanage:65.8C±13.8years)whoCunderwentglaucomatubeshuntsurgery(i.e.,BaerveldtorAhmed)andwhocouldbefollowedupfor36-monthspostoperative.CInCallCsubjects,CpreoperativeCandCpostoperativeCintraocularpressure(IOP)C,CpostoperativeCcomplica-tions,and3-yearsurvivalratewasexaminedaccordingtothecauseofNVG.Results:ThecausesofNVGwerediabeticCretinopathyCinC7patients(DRgroup)andCcentralCretinalCveinCocclusionCinC6patients(CRVOgroup)C.CAtC3-yearsCpostoperative,CIOPCwasCsigni.cantlyCdecreasedCinCbothCgroups,Ci.e.,CfromC37.7±5.2CmmHgCtoC12.0±4.6CmmHgCinCtheCDRCgroupCandCfromC40.3±10.3CmmHgCtoC15.2±4.8CmmHgCinCtheCCRVOCgroup,CandCtheCsurvivalCrateCwas71.4%CinCtheCDRCgroupCand83.3%CinCtheCCRVOCgroup.CConclusion:GlaucomaCtubeCshuntCsurgeryCforCNVGisane.ectiveprocedureintheintermediate-term.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(11):1539.1543,C2022〕Keywords:血管新生緑内障,緑内障チューブシャント手術,バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ.neovascularglaucoma,tubeshuntsurgery,Baerveldtglaucomaimplant,Ahmedglaucomavalve.はじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は一般的に難治性緑内障といわれており,緑内障診療ガイドライン1)においてもCNVGに対する手術治療は代謝阻害薬を併用した線維柱帯切除術や緑内障チューブシャント手術を行うとされている.緑内障チューブシャント手術の際に使用するCglau-comaCdrainagedevices(以下,GDD)は,わが国ではC2012年にCBaerveldt緑内障インプラント(以下,バルベルト)が,2014年にCAhmed緑内障バルブ(以下,アーメド)が認可され,NVGをはじめとする難治性緑内障治療のつぎの一手として広く行われるようになった.NVGに対する緑内障チューブシャント手術の場合,聖マリアンナ医科大学病院(以下,当院)では使用可能となった時期が早かったことや,既報2)でより眼圧が下がるとされていたことを理由にバルベルトを〔別刷請求先〕豊田泰大:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:YasuhiroToyodaM.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC選択する症例が多かったが,アーメドが使用可能となってからは,術中に眼球虚脱が生じる可能性がある無硝子体眼にはアーメドも積極的に使用するようになった.そこで今回筆者らは当院におけるCNVGに対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2014年C6月.2017年C5月に当院にてCNVGに対して緑内障チューブシャント手術(バルベルトまたはアーメド)を施行し,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C13例C13眼(平均年齢C65.8C±13.8歳)を対象とした.NVGの原因別に過去の緑内障手術回数,チューブの留置部位(前房,硝子体腔),手術前後の眼圧の推移,薬剤スコアの推移,術後合併症,累積生存率について検討した.薬剤スコアは,緑内障点眼薬C1剤につきC1点(緑内障配合点眼薬についてはC2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点として計算した.統計学的な検討は検討項目により,onewayANOVA,Mann-WhitneyU検定,Cc2検定,Loglank検定を使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.なお本研究は診療録による後ろ向き研究である(聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C5455号).手術は全例,球後麻酔による局所麻酔で行った.GDDについては,バルベルトはCBG103-250,アーメドはCFP7を使用した.各CGDDは挿入前にチューブ内にオキシグルタチオン眼灌流・洗浄液(オペガードネオキット眼灌流液C0.0184%)により通水し,灌流良好であることを確認した.プレート部インプラント挿入は,上直筋と外直筋の間の耳上側または外直筋と下直筋の間の耳下側に行い,6-0オルソー糸付縫合針で強膜に固定した.バルベルトの場合,チューブをC8-0合成吸収糸で結紮し完全に閉塞させ,結紮部よりも末梢の表1対象の背景チューブにC10-0ナイロン糸の針でスリットをC1カ所作製した.前房または硝子体腔への穿刺はC23CG針で行い,チューブはC2Cmm程度挿入し,10-0ナイロン糸で強膜に固定した.挿入部よりも中枢側のチューブは自己強膜トンネルを作製して被覆した.チューブの挿入部位は,硝子体手術の既往のある症例は硝子体腔へ挿入し,硝子体手術の既往のない症例は前房へ挿入した.CII結果表1にCNVGの原因別の背景を示す.NVGの原因は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)がC7例C7眼(DR群),網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)がC6例C6眼(CRVO群)であり,眼虚血症候群の症例はなかった.年齢はCDR群C59.0C±15.4歳,CRVO群C73.8C±5.6歳と両群間の年齢に有意差を認めた.両群間の視力,術前眼圧,薬剤スコア,角膜内皮細胞密度,眼軸長,過去の緑内障手術回数に有意差は認めなかった.GDDの種類とチューブの留置部位は,バルベルトのチューブを前房に留置した症例がCDR群でC1眼,CRVO群でC2眼,バルベルトのチューブを硝子体腔に留置した症例がCDR群でC5眼,CRVO群でC2眼,アーメドのチューブを硝子体腔に留置した症例がDR群でC1眼,CRVO群でC2眼であった.視力はClogMAR視力でCDR群は術前C1.6C±0.4,36カ月時点でC1.4C±1.4,CRVO群は術前C1.4C±0.6,36カ月時点でC1.0C±0.8と両群ともに術前後の視力に有意差は認めなかった.図1に術前後の眼圧推移を示す.DR群では術前C37.7C±5.2CmmHgが術後C36カ月でC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群では術前C40.3C±10.3mmHgが術後C36カ月でC15.2C±4.8CmmHgと,両群ともに術前に比し有意な眼圧下降を示した(oneCwayCANOVAp<0.01).図2に術前後の薬剤スコアの推移を示す.DR群でC50DR群CRVO群(7例7眼)(6例6眼)p値C40年齢(歳)C59.0±15.4C73.8±5.6C0.04*眼圧(mmHg)3020術前ClogMR視力C1.6±0.4C1.4±0.6C0.48(少数視力)(0.01-0.1)(0.01-0.3)眼圧(mmHg)C37.7±5.2C40.3±10.3C0.56C薬剤スコア(点)C4.4±1.3C4.2±1.2C0.70C角膜内皮細胞密度C10(/mm2)C2492.3±788.8C1794.3±984.6C0.20眼軸長(mm)C23.4±0.9C23.5±1.3C0.86C0過去の緑内障C3.3±1.6C3.0±0.9C0.70観察期間(カ月)手術回数(回)図1術前後の眼圧推移硝子体手術の既往C6/7C4/6両群ともに術後C36カ月でも有意な眼圧下降が得られた.errormean±standarddeviation*:Mann-WhitneyUtestp<0.05bar:standarddeviation.061218243036薬剤スコア(点)543210術前眼圧3カ月9カ月15カ月21カ月27カ月33カ月術後1カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月観察期間図2術前後の薬剤スコア推移術後C36カ月で薬剤スコアは両群ともに有意に減少した.errorbar:standarddeviation.C表2術後合併症100CRVO群83.3%合併症DR群CRVO群p値80累積生存率(%)(n=7)(n=6)(c2検定)DR群71.4%2眼0眼(28.6%)(0%)60前房出血40一過性眼圧上昇3眼2眼(42.9%)(33.3%)200061218243036観察期間(カ月)図3Kaplan.Meier生存分析による累積生存率死亡定義:眼圧が観察期間中,2回連続で術前眼圧もしくは20mmHg以上を超えたとき.術後C36カ月でCDR群C71.4%,CRVO群C83.3%と有意差を認めなかった(Loglank検定Cp=0.69).は術前C4.4C±1.3点が術後C36カ月でC1.7C±2.1点,CRVO群では術前C4.2C±1.2点が術後C36カ月でC1.7C±1.6点と両群ともに術前に比し有意に減少した(oneCwayCANOVAp<0.01).図3にCKaplan-Meier生存分析による累積生存率を示す.術後眼圧がC20CmmHgをC2回連続で上回った時点,または再手術となった時点を死亡と定義した場合の累積生存率は,術後36カ月でDR群71.4%(7例中5例),CRVO群83.3%(6例中C5例)と有意差を認めなかった(Loglank検定p=0.69).表2に術後合併症を示す.DR群で前房出血C2眼,一過性眼圧上昇がCDR群でC3眼,CRVO群でC2眼,低眼圧がCCRVO(101)低眼圧(4CmmHg以下)0眼(0%)1眼(1C6.7%)C0.26眼球癆1眼(1C4.3%)0眼(0%)C0.33水疱性角膜症0眼(0%)0眼(0%)C.チューブ関連(閉塞・露出)0眼(0%)0眼(0%)C.複視0眼(0%)0眼(0%)C.群でC1眼に認められた.重篤な術後合併症としてはCDR群で眼球癆C1眼を認めた.チューブシャント手術で報告2.4)されている水疱性角膜症,チューブ露出,複視といった合併症は認めなかった.角膜内皮細胞密度は,DR群は術前C2,492.3C±788.8/mm2が術後C36カ月でC1,910.2C±906/mm2,CRVO群は術前C1,794.3C±984.6/mm2が術後C36カ月でC1,712C±956.8/mm2と,両群ともに術前後で有意差は認めなかった.CIII考按バルベルトやアーメドといったCGDDが使用可能となってからC5年以上が経過し,当院でもその成績を見直すことができる時期になった.当院で緑内障チューブシャント手術(プレートのあるもの)が行われた症例は落屑緑内障や外傷後の続発緑内障などもあったが,NVG症例がもっとも多くを占めていたため,今回CNVGに対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について検討した.対象について,DR群とCCRVO群で術前の眼圧,薬剤スコア,眼軸長,過去の緑内障手術回数について有意差を認めなかったが,DR群はCCRVO群に比し年齢が有意に若くなっていた.これはCCRVOが加齢とともに有病率が高くなることが知られている5)疾患であるのに対して,DRによるNVGは若年者でも発症しうる疾患であることなどが影響していると考える.術後C36カ月時点での眼圧はCDR群ではC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群ではC15.2C±4.8CmmHgで,既報6)のバルベルトを用いた緑内障チューブシャント手術の術後C36カ月時点の眼圧と同程度の結果であった.点眼スコアはCDR群では術前C4.4C±1.3点が術後C36カ月でC1.7C±2.1点,CRVO群では術前C4.2C±1.2点が術後C36カ月でC1.7C±1.6点と既報6)と同程度であった.チューブ留置部位についてCDR群,CRVO群ともにチューブを硝子体腔に留置する症例が多かった.チューブを硝子体腔に留置した症例は硝子体手術後の無硝子体眼であり,DR群のほうが硝子体腔へ留置した割合が高かった.これは硝子体手術が必要となる重篤な症例がCDR群に多く含まれたことが要因と考える.NVGに対して硝子体手術を併用したバルベルトを用いた緑内障チューブシャント手術の有効性が報告されている7).今後は硝子体出血と眼圧コントロール不良の状態を合併したCNVG症例にはこのような方法も検討すべきかと考える.なお,当院ではバルベルトについてはBG103-250を使用している.既報では眼圧下降効果がC350のほうが優れるとされているが,350ではC250よりも結膜切開範囲を広く行う必要がある.今回の対象はすべて以前の緑内障手術によって強い結膜瘢痕をきたしており,250を選択せざるをえなかった.また当院では保存強膜が使えずホフマンエルボーの被覆が困難であるため毛様体扁平部挿入タイプBG102-350は使用していない.累積生存率は術後眼圧がC20CmmHgをC2回連続で上回った時点,または再手術となった時点を死亡と定義した.術後36カ月でCDR群C71.4%,CRVO群C83.3%と既報8)のDR続発CNVGに対するアーメドを用いた緑内障チューブシャント手術のC3年生存率,無硝子体眼C62.5%,有硝子体眼C68.5%と比較しても良好な結果であった.重篤な合併症としてはCDR群で眼球癆C1例が存在した.その症例は硝子体手術後でバルベルトを硝子体腔に挿入した症例であったが,術後基礎疾患である糖尿病網膜症が悪化したことが眼球癆に至った原因と考えている.緑内障チューブシャント手術ではそのほかにも重篤な視機能に影響する合併症が報告されており9),手術に際して留意しておく必要がある.とくに水疱性角膜症については,難治性緑内障の場合,緑内障チューブシャント手術を行うよりも以前に緑内障手術が複数回施行され術前の角膜内皮細胞密度がすでに減少している症例が多いことや,チューブ挿入部位によってはチューブの角膜内皮細胞への接触や,チューブの水流による角膜内皮細胞密度の減少例も報告9)されている.今回の検討において角膜内皮細胞密度は両群ともに術前後で有意差こそ認められなかったが減少傾向であったため,今後も注意深い経過観察が必要と考える.なお,当院では角膜内皮細胞密度の減少例に対してはチューブの硝子体腔への留置を行っているが,そのような対応を行ってもなお角膜内皮細胞密度の減少が生じる10)という報告もあるため,角膜専門医との連携も必要かと考える.このように緑内障チューブシャント手術は視機能に影響する合併症が生じる危険があることを常に意識し,術前に患者によく説明する必要があると考える.CIV結論血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は原因,過去の手術回数にかかわらず中期的にも有効な術式であるが,基礎疾患の悪化を含め視機能に影響する重篤な合併症も生じる可能性がある.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC122:308-316,C20153)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TubeCVersusTrabeculectomyCStudyCGroup:Three-yearsCfollow-upCofCtheCTubeCVersusCTrabeculectomyCstudy.CAmCJCOphthal-molC143:670-684,C20094)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetal:TheCAhmedCVersusCBaerveldtstudy:.ve-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20165)RogersS,McIntoshRL,CheungNetal:TheprevalenceofCveinocclusion:pooledCdataCfromCpopulationCstudiesCfromtheUnitedStates,Europe,AsiaandAustralia.Oph-thalmologyC117:313-319,C20106)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comeCinCtheCTubeCVersusTrabeculectomy(TVT)studyCafter.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC153:789-803,C20127)NishitsukaK,SuganoA,MatsushitaTetal:Surgicalout-comesafterprimaryBaerveldtglaucomaimplantsurgerywithCvitrectomyCforCneovascularCglaucoma.CPLoSCOneC16:e0249898,C20218)ParkCUC,CParkCKH,CKimCDMCetal:AhmedCglaucomaCstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolCvalveCimplantationCforCneovascularCglaucomaCafterCvitrec-153:804-814,C2012CtomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJCGlaucoma10)MoriCS,CSotaniCN,CUedaCKCetal:Three-yearCoutcomeCofC20:433-438,C2011CsulcusC.xationCofCBaerveldtCglaucomaCimplantCsurgery.9)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativeCActaOphthalmolC99:1435-1441,C2021complicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)***

初回緑内障手術にアーメド緑内障バルブを選択した 落屑緑内障の1 例

2022年6月30日 木曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(6):823.826,2022c初回緑内障手術にアーメド緑内障バルブを選択した落屑緑内障の1例愛知梨沙都筑賢太郎輿水純子本田理峰聖路加国際病院眼科CACaseofExfoliationGlaucomainwhichAhmedGlaucomaValveImplantationwasSelectedfortheInitialSurgeryRisaAichi,KentaroTsuzuki,JunkoKoshimizuandRioHondaCDepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospitalC目的:緑内障チューブインプラントは難治性緑内障に対して有効な治療と位置づけられているため,濾過手術が不成功であった場合に適応と考えられている.今回,筆者らは初回緑内障手術にアーメド緑内障バルブ(Ahmedglauco-mavalve:AGV)挿入術を選択した症例を経験したので報告する.症例:84歳,女性,両眼の落屑緑内障.受診時に抗緑内障点眼を使用していたが(点眼スコアC3点),左眼眼圧がC57CmmHgと上昇していた.角膜は上皮浮腫を呈していたが透明で人工レンズ眼であった.また,瞳孔領に白色の落屑所見を認めた.左眼矯正視力(0.6),Humphrey静的視野検査(C30-2)でMD値C.16.2CdBと重症緑内障であり,早急な観血的手術を要すると判断した.僚眼はC1年前に線維柱帯切開術を施行していたが,眼圧再上昇により光覚を消失していたため,AGV挿入術を選択し,チューブ先端は虹彩下に留置した.手術C1年後の時点で左眼矯正視力(0.7),眼圧C16CmmHg,点眼点数C0点という良好な結果を得ている.考察:高齢の緑内障患者に対して初回緑内障手術にCAGVを選択し,術後C1年時点で良好な結果が得られた.高齢で術後管理がむずかしい患者に対してCAGVは有効な選択肢と考えられた.CPurpose:Toreportacaseofexfoliationglaucoma(EG)inwhichAhmedGlaucomaValve(AGV)(NewWorldMedical)implantationCwasCselectedCforCtheCinitialCsurgery.CCaseReport:ThisCstudyCinvolvedCanC84-year-oldCfemalewithbilateralEGwhowasbeingtreatedwithanti-glaucomaeyedrops.Uponexamination,theintraocularpressure(IOP)inCherCleftCeyeC57CmmHg,CandCwhiteCexfoliationCmaterialCdepositsCwereCobservedConCtheCpupillaryCborderofthateye.Herleft-eyebest-correctedvisualacuity(BCVA)was(0.6)C,andstaticvisual.eldtestingwithaHumphreyvisual.eldanalyzer(C30-2program)showedameandeviationvalueof.16.2CdB,indicatingdiseaseprogression.Inherrighteye,lightvisionwaslostduetore-increasedIOP.Fortreatment,AGVimplantationwasimmediatelyperformed.At1-yearpostoperative,BCVAwas0.7andIOPwas16CmmHginherlefteyewithouttheuseCofCanti-glaucomaCeyeCdrops.CConclusion:InCcasesCofCEG,CAGVCimplantationCforCtheCinitialCsurgeryCisCanCe.ectiveoption,especiallyforelderlypatientswithhighIOPwhohavedi.cultyusingeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(6):823.826,C2022〕Keywords:落屑緑内障,アーメッド緑内障バルブ,初回緑内障手術,緑内障チューブシャント手術.exfoliativeCglaucoma,Ahmedglaucomavalve,initialglaucomasurgery,glaucomatubeshunts.Cはじめにロングチューブシャント手術は,シリコーン製の人工物(glaucomaCdrainagedevice:GDD)を用いた濾過手術であり,2012年からわが国で保険適用となった.プレート付きのインプラントとして,現在わが国ではバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCGlaucomaImplant:BGI)とアーメド緑内障バルブ(AhmedCGlaucomaValve:AGV)のC2種類が承認されている.ロングチューブシャント手術は,代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった患者,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な患者,線維柱帯切除術の〔別刷請求先〕愛知梨沙:〒104-8560東京都中央区明石町C9-1聖路加国際病院眼科Reprintrequests:RisaAichi,M.D.,DepartmentofOphthalmoligy,St.Luke’sInternationalHospital,9-1Akashicho,Chuo-ku,Tokyo104-8560,JAPANC成功が見込めない患者,他の濾過手術が技術的に困難な患者が適応となる1).ロングチューブシャント手術の有効性についてはすでに多数の報告がなされており,その有効性と安全性が認められている2).米国ではC1995.2004年のロングチューブシャント手術件数はC184%増加しており,世界的にも増加傾向である3.5).今回,筆者らは,聖路加国際病院(以下,当院)眼科にて,初回緑内障手術にCAGV挿入術を選択し,良好な結果を得た1例を経験したので報告する.CI症例患者:84歳,女性(身長C145cm,体重C39kg).主訴:左眼の視力低下,左眼圧上昇.現病歴:X年,左眼の急激な視力低下を自覚し,当院を受診した.両眼の落屑緑内障があり,緑内障点眼スコアC3点,右眼はC2年前に線維柱帯切開術を施行.既往歴:右乳癌,肺転移(腫瘍内科通院中),アレルギー性鼻炎.図1細隙顕微鏡検査写真a:初診時の左眼の前眼部写真.毛様充血を認める.Cb:初診時の隅角のスリット写真.色素沈着およびCSampaoleisilineは認めない.初診時所見:視力は右眼光覚なし,左眼C0.2(0.6C×sph.1.00D(cyl.1.00DCAx90°×IOL),右眼眼圧C16.0mmHg,左眼眼圧C57CmmHg.1年前の左眼矯正視力は(1.2)であったが,急激に低下しており,左眼眼圧の著明な上昇を認めた.細隙灯顕微鏡検査では,左眼の毛様充血,角膜上皮浮腫を認めた(図1a).瞳孔散大は認めなかった.両眼の瞳孔領に白色の落屑様物質の付着を認めた(図1b).前房内,硝子体に炎症細胞は認めなかった.眼痛や頭痛,嘔気・嘔吐は認めなかった.白内障手術後で人工レンズ眼であった.隅角検査では,周辺虹彩前癒着を認め,隅角に色素沈着およびCSampaolesilineは認めなかった.右眼はC1年前に線維柱帯切開術を施行したが,その後の眼圧再上昇により,光覚を消失していた.経過:落屑緑内障による左眼眼圧の上昇を認めたため,緑内障点眼C5種およびアセタゾラミドC750Cmg/日を処方したところ翌日には左眼眼圧C16CmmHgと下降が得られた.翌日に行ったCHumphrey静的視野検査CC30-2では,中心30°内の視野が欠損しており,平均偏差(meandeviation:MD)値は.16.2CdBと著明に低下していた(図2).点眼および内服で一度は眼圧の下降得られたものの,静的視野検査で急激な視野欠損の進行を認め,今後も眼圧の再上昇の可能性があり,早急な観血的治療が必要であると考えた.X年C5月に,左眼に対し初回のCAGV挿入術を選択し,チューブ先端は虹彩下に留置した.僚眼は失明しており,唯一眼であることを考慮した手術計画となった.インプラントは,BGIよりも低図2Humphrey視野検査C30.2の結果MD値C.16.2CdBの重症緑内障であった.眼圧による低眼圧黄斑症のリスクが少なく6),術直後から眼圧降下が得られることが見込まれるCAGVを選択した,図3に示すように手術直後から眼圧はC1桁まで下がり,その後も1年後の時点まで眼圧C20CmmHg以下で安定している.高齢であり点眼管理が困難であったため追加の緑内障点眼は行わなかったが,手術C1年後の時点で左眼矯正視力(0.7),緑内障点眼スコアC0点で左眼眼圧C16CmmHgであり,良好な結果が得られている.CII考按ロングチューブシャント手術は先述したとおり難治性緑内障に対して適応となっているが,その有効性と安全性は多数の報告から認められている.2012年のCTubeversusTrabe-culectomy(TVT)studyの報告2)ではCBGI手術の術後C5年時点における眼圧コントロール成績は線維柱帯切除術のそれを上回り,術後合併症の発生率においても線維柱帯切除術と比較して有意に少ない結果となっている.またCAGVとCBGIを比較した多施設無作為化臨床試験であるCAhmedCBaer-veldtCComparisonCStudy6)のC5年成績が発表され,手術の成功率において両群に有意差は認めなかった.BGIはCAGVよりも高い眼圧下降効果を示し,再手術率も低かったが,合併症により不成功になった症例数はCAGVのC2倍であり,安全性においてはCAGVがまさる結果となった.本症例は,落屑緑内障の進行により眼圧が再上昇し,僚眼である右眼は失明した.高齢であり,今後点眼管理を確実に行っていくことが困難であること,長期入院は望ましくなかったこと,今回手術を行った左眼が唯一眼であることを考慮し,初回のCAGV挿入術を選択した.ガイドラインから外れた使用であるが,患者に十分に説明し,納得,同意を得たうえで手術を行った.緑内障治療において点眼アドヒアランスを維持することは眼圧管理を行っていくうえで重要であるが,アドヒアランス向上の取り組みは決して簡単ではない.NorwichCAdher-enceCGlaucomaCStudy7)では緑内障患者C208名を無作為に通常治療群C106名とアドヒアランス向上目的の教育プログラムに組み込んだ群C102名に分け,点眼アドヒアランスを評価した.点眼率は無介入群でC77.2%,介入群でC74.8%とC2群間の点眼アドヒアランスに有意差を認めないという結果となった.また,眼圧降下率に関しても無介入群でC27.6%,介入群でC25.3%と有意差を認めなかった.点眼アドヒアランスを向上させるのは患者教育をしたとしても困難であることが示唆される結果となった.緑内障はわが国におけるC40歳以上の人口のC5.0%で認められる8).今後わが国において高齢化がさらに進むに伴い,認知機能の低下や,全身状態や環境因子により,点眼アドヒアランスの維持に難渋する患者や,長期入院や頻回な通院が困難な患者は増えることが予想眼圧(mmHg)60504030201001234567891011121314術後経過期間(月)図3手術後の左眼眼圧の推移される.点眼管理ができなければ眼圧コントロールが不良となり,進行を防ぐことができないため,他の治療を選択する必要がある.ロングチューブシャント手術は,線維柱帯切除術と比較し,術後管理が少なく入院期間が短くてすむこと,術後合併症も少ないという点からも,有効な選択肢であると考える.また,高齢者に限らず毎日の点眼をしなくてよいということは生活の質の向上にもつながる.眼圧が安定していれば外来通院の頻度も減らせる可能性がある.緑内障治療は,まず薬剤治療やレーザー治療を行い,それでも進行を抑制できない場合には手術を選択する.しかし,本症例のような高齢者にとって,手術に伴う長期入院や頻回な通院は負担が大きく,全身状態を考慮すると困難な場合が少なくない.高齢で入院期間を短くしたい場合や通院頻度を極力減らしたい場合,点眼管理が困難であり眼圧コントロールが難渋することが見込まれる患者においては,医師の適切な判断に基づき初回手術にロングチューブシャント手術を選択することは有効であると考える.利益相反:利益相反該当基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafter.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC153:789-803,C20123)MurphyCC,COgstonCS,CCobbCCCetal:RecentCtrendsCinCglaucomaCsurgeryCinCScotland,CEnglandCandCWales.CBrJOphthalmolC99:308-312,C20154)BronAM,MarietAS,BenzenineEetal:Trendsinoper-atingCroom-basedCglaucomaCproceduresCinCFranceCfromC2005to2014:anationwidestudy.BrJOphthalmolC101:C1500-1504,C20175)AroraCKS,CRobinCAL,CCorcoranCKJCetal:UseCofCvariousCglaucomaCsurgeriesCandCproceduresCinCmedicareCbene.ciariesCfromC1994CtoC2012.COphthalmologyC122:C1615-1624,C20156)BudenzDL,BartonK,GeddeSJetal;AhmedBaerveldtComparisonStudyGroup:Five-yeartreatmentoutcomesinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.COphthalmolo-gyC122:308-316,C20157)CateH,BhattacharyaD,ClarkAetal:Improvingadher-enceCtoCglaucomamedication:aCrandomisedCcontrolledCtrialCofCaCpatient-centredintervention(TheCNorwichCAdherenceCGlaucomaStudy)C.CBMCCOphthalmologyC14:C1471-2415,C20148)YamamotoCT,CIwaseCA,CAraieCMCetal;TajimiCStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:TheTajimiStudyreport2:prevalenceCofCprimaryCangleCclosureCandCsecondaryCglaucomaCinCaCJapaneseCpopulation.COphthalmologyC112:C1661-1669,C2005C***