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プロスラグランジン関連薬投与有無別Trabeculotomy Ab Interno,白内障同時手術成績

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1114.1118,2022cプロスラグランジン関連薬投与有無別TrabeculotomyAbInterno,白内障同時手術成績市岡伊久子市岡博市岡眼科CComparingtheResultsofTrabeculotomyAbInternoCombinedwithCataractSurgerywithorwithoutPreoperativeProstaglandinGlaucomaMedicationIkukoIchiokaandHiroshiIchiokaCIchiokaeyeclinicC目的:術前プロスタグランジン関連薬(以下,PG)点眼がCtrabeculotomyabinternoの術後成績に影響するか否かを後ろ向きに調査した.対象および方法:Trabeculotomyabinterno+白内障手術を施行しC1年以上経過観察した患者のうち,術前にCPGを使用していないC26人C26眼をCPG(.)群,術前にCPGを使用していたC67人C67眼をCPG(+)群として,点眼前,術前眼圧,Humphrey視野CMD値,術C1年後眼圧,生存率(点眼再開なくC15CmmHg未満を生存とする)につき調査した.結果:眼圧は術前,術後ともCPG(.)群,PG(+)群間に有意差を認めなかったが,術前→C1年後眼圧,下降眼圧(%)はCPG(.)群がC15.4±4.0C→C12.1±2.5,3.7±3.6(24%),PG(+)群がC14.3±2.6C→C12.0±2.6,C2.3±3.1(16%)とCPG(.)群の眼圧下降が大きく,6カ月目まで下降眼圧に有意差を認めた(p<0.05).術後C1年目までの点眼開始例はCPG(.)群はC0眼,PG(+)群C12眼に認めたが,生存率に有意差は認めなかった(p=0.072).結論:PG(.)群のほうがCPG(+)群に比し下降眼圧が大きく,PG(+)群に点眼薬再開例が多く,trabeculotomyCabCinterno+白内障手術は術前CPG点眼をしていない患者のほうが予後がよいと思われた.CPurpose:ToCretrospectivelyCcompareCintraocularpressure(IOP)loweringCe.cacyCinCeyesCthatCunderwenttrabeculotomy(LOT)abinternocombinedwithcataractsurgerywithorwithoutpreoperativeprostaglandin(PG)Cglaucomamedication.SubjectsandMethods:Thisretrospectivestudyinvolved93eyesof93patientsthatunder-wentLOTabinternocombinedwithcataractsurgerywithPGglaucomamedication[PG(+),67eyes]andwith-outCPGCglaucomamedication[PG(.),C26eyes]administeredCpriorCtoCsurgery.CInCallC93Ceyes,CweCreviewedCIOP(mean±SD)atbaselineandat1-yearpostoperative,aswellasthepercentagerateofglaucomamedicationadmin-isteredpostsurgery.Results:Nosigni.cantdi.erenceofpre-andpostoperativeIOPwasfoundbetweenthetwogroups.CAtC1-yearCpostoperative,CmeanCIOPCinCthePG(+)groupChadCdecreasedCfromC14.3±2.6CmmHgCtoC12.0±2.6CmmHg[i.e.,C2.3±3.1CmmHg(16%)],CwhileCthatCinCthePG(.)groupChadCdecreasedCfromC15.4±4.0CmmHgCtoC12.1±2.5mmHg[i.e.,3.7±3.6CmmHg(24%)].Asigni.cantdi.erenceofIOPdecreasewasfoundbetweenthetwogroupsupuntil6-monthspostoperative(p<0.05).InthePG(+)groupandPG(.)group,thepercentagerateofglaucomamedicationadministrationpostsurgerywas7%and0%,respectively(p=0.072).CConclusion:Postsur-gery,Csigni.cantCIOPCdecreaseCandCaClowerCpercentageCrateCofCglaucomaCmedicationsCusedCwasCobservedCinCbothCgroups,yetbetteroutcomeswerefoundinthePG(.)group.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1114.1118,C2022〕Keywords:緑内障手術,線維柱帯切開術眼内法,眼圧,プロスタグランジン関連薬,線維柱帯切開術術後成績.Cglaucomasurgery,trabeculotomyabinterno,intraocularpressure,prostaglandinglaucomamedication,successrateoftrabeculotomy.C〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003島根県松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,Ichiokaeyeclinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPANC1114(104)はじめに低侵襲眼圧下降手術,minimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery(MIGS)の一つとして線維柱帯切開術眼内法(trabecu-lotomyCabinterno.以下,LOTCabinterno)が白内障手術との同時手術として普及してきている.当院でも緑内障点眼薬投与中の白内障手術時には眼圧コントロール良好例であっても点眼薬を中止,減少させる目的でCLOTabinternoを同時に施行しているが,術前点眼内容により術後効果に差があると思われた.緑内障ガイドライン1)では開放隅角緑内障は目標眼圧を設定し単剤より眼圧下降薬を投与し,多剤投与にて眼圧コントロール不良,または視神経,視野所見の悪化を認めるときに手術を考慮するとされている.また,点眼薬についてはプロスタグランジン関連薬(以下,PG薬)がもっとも優れた眼圧下降効果,点眼回数より第一選択薬として使用されていると記載されている.LOTCabinterno手術時,PG薬使用期間が長い患者では線維柱帯切開術時の血液逆流が少ない印象がある.PG薬はぶどう膜強膜流出路である副流出路の流出を増加させる点眼薬2.3)だが,主経路に対してはむしろ流出低下をきたす可能性も考えられる4).主経路再建術であるCLOTabinternoがCPG薬投与により手術効果が低下するかどうかを調査した報告はない.今回当院でのCLOTCabinterno手術成績をCPG薬投与の有無別に後ろ向きに調査し,1年後までの成績を比較検討した.CI対象および方法対象は当院で2016年2月.2019年12月にLOTCabinternoと白内障手術を同時施行したC93人(男性C30人,女性C63人)で,平均年齢C75.4C±7.8歳である.術前にCPG薬を投与していたCPG(+)群C67眼とCPG薬を投与していないCPG(.)群C26眼に分けた(合計C93眼,右眼C52眼,左眼C41眼).両眼手術例は先に手術を施行した眼のデータのみ使用した.手術はすべて同一術者により施行された.眼内レンズ挿入後に上方切開創よりCShinskyフック(直)を挿入し,SwanJacobゴニオプリズムを用い下方約90°の線維柱帯を切開した.術前,術後C1.3,6,12カ月後の眼圧と眼圧下降薬数,術後合併症,再手術の有無を後ろ向きに調査した.また,点眼薬投与前のベースライン眼圧,初診時と術前のCHum-phrey視野Cmeandeviation(MD)値についても調査した.術前術後の眼圧をCFriedman検定を用い評価,術後C1年間の眼圧下降幅を群別に比較検討(Mann-WhitneyU検定),PG(.)群の術前点眼薬別についても調査,検討した(Kruskal-Wallis検定).術後の投薬は全例いったん眼圧下降薬をすべて中止し,眼圧がC15CmmHgを超えた時点,または光干渉断層計(OCT)や静的視野検査で明らかな進行を認めた時点で点眼薬を再投与,追加しており,術前CPG薬の有無別に術後点眼薬を開始した場合を死亡と定義し,Kapran-Meierの生存曲線およびCLogranktestを用い評価した.調査については島根県医師会倫理審査委員会の承認を得た.CII結果PG(C.)群は緑内障点眼薬投与なしC6眼,イソプロピルウノプロストンC13眼,Cb遮断薬7眼の計26眼でCPG(+)群は全例プロスタグランジンCF2Ca誘導体(PG)薬C1剤使用例67眼である.PG(C.)群とCPG(+)群の年齢,初診時と術前のCHumphrey視野CMD,点眼前眼圧,術前眼圧を表1に示す.年齢,初診時CMD,術前CMD値に両群で有意差はなく,点眼前ベースライン眼圧(mmHg)はCPG(C.)群C17.4C±4.6,PG(+)群C18.0C±3.2とCPG(+)群が高く,術前眼圧(mmHg)はCPG(C.)群C15.4C±4.0,PG(+)群C14.3C±2.6とPG(C.)群のほうが高めだが,点眼前眼圧,術前眼圧ともに2群に有意差は認めなかった(Mann-WhitneyU検定).術後1年の眼圧はPG(C.)群C12.1C±2.5,PG(+)群C12.0C±2.6,計C12.0C±2.6CmmHgで両群とも術後C1カ月からC1年目まで術前とは有意な眼圧低下を認めた(p<0.01,Friedman検定).術後C1.6カ月までCPG(C.)群の平均眼圧がCPG(+)群よりやや低かったが両群の眼圧に有意差はなかった(図1).平均下降眼圧はCPG(+)群に比しCPG(C.)群で大きく,術後C6カ月間は下降眼圧に有意差を認めた(1,2カ月Cp<0.01,3,6カ月p<0.05,Mann-WhitneyU検定)(図2).表1PG(.)群とPG(+)群の背景年齢(歳)初診時CMDHumphrey視野術前CMDHumphrey視野点眼前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)PG(C.)群(2C6眼)C72.7±7.8(49.82)C.3.2±4.9(.14.4.+1.5)C.4.8±5.2(.17.6.+1.2)C17.4±4.6(8.26)C15.4±4.0(9.26)PG(+)群(6C7眼)C76.5±7.6(59.91)C.2.7±3.2(.11.5.+3.5)C.4.9±4.5(.20.4.+0.5)C18.0±3.2(11.24)C14.3±2.6(9.20)CMann-WhitneyU検定Cp=0.98Cp=0.57Cp=0.20Cp=0.95Cp=0.21年齢,初診時,術前CMD,点眼前眼圧,術前眼圧すべてで両群間に有意差を認めなかった.(Mann-WhitneyU検定)(105)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1115p<0.01(Friedman検定)図1PG薬有無別点眼前,術前,術後の眼圧経過両群とも術後C1カ月からC1年目まで術前とは有意な眼圧低下を認めた(p<0.01,Friedman検定).**:p<0.01(Mann-WhitneyU検定)*:p<0.05(Mann-WhitneyU検定)図2PG点眼薬有無別の眼圧経過平均下降眼圧幅はCPG(+)群に比しCPG(C.)群で大きく,術後C6カ月目まで平均下降眼圧に有意差を認めた.(1,2カ月p<0.01,3,6カ月p<0.05,Mann-WhitneyU検定)1年後の平均下降眼圧はCPG(C.)群がC3.7C±3.6,PG(+)群がC2.3C±3.1,計C2.7C±3.3CmmHgとCPG(C.)群はC24%,PG(+)群はC16%,全体でC18%の眼圧下降率であった.なお,PG(C.)群の内訳別C1年後下降眼圧は術前降眼圧薬なし(6眼)4.2C±5.0CmmHg,イソプロピルウノプロストン±7.遮断薬(6眼)3Cb1.9mmHg,C±(11眼)3.65.0mmHgでC術前点眼薬を使用していない例で下降眼圧が大きいが症例数が少なく,内訳別の下降眼圧に有意差は認めなかった(Krus-kal-Wallis検定).点眼薬は術前平均C0.96剤が術C1年後C0.1剤となり,1年後にCPG(C.)群では点眼薬を再投与した例はなく,PG(+)群ではC8眼にC1剤,4眼にC2剤再投与していた.生存率分析では点眼薬投与していない生存率はCPG(C.)群C100%,PG(+)群C93%でありCLogrank検定でCp=0.072で有意差は認めなかった(図3).術後合併症は術後C20CmmHg以上の一過性眼圧上昇をCPG(C.)群ではC26眼中C1眼,PG(+)群ではC67眼中C7眼に認め,術後早期の前房洗浄施行例がCPG(+)群にC1眼あった.両群とも他の合併症や追加緑内障手術が必要になった例はなかった.CIII考按LOTCabinternoはC2017年にCTanitoらが眼内から施行する,MIGSとして報告した方法で,白内障手術との同時手術成績で眼圧がC16.4C→C11.8CmmHg(28%),投薬数C2.4C→C2.1剤と報告した5).近年白内障手術との同時手術として一般的になってきていると思われる.今回の手術成績は術後C1年で2.7CmmHg,18%の眼圧下降,0.96C→C0.1剤への投薬減少と既報5,6)と遜色のない効果を得ていた.今回,後ろ向き調査のため術前CPG薬の有無はランダムに点眼薬を振り分けているわけではないがCPG薬非投与群は初回点眼薬選択の際あえてCPG薬を避けイソプロピルウノプロストン,Cb遮断薬(カルテオロール)を意図的に処方していた例である.また,術前点眼薬を投与していない症例は白内障による視力低下を初診時より認めた緑内障例で,点眼薬を開始せず早期に同時手術を施行した例である.PG(C.)群C26眼,PG(+)群C67眼と症例数に差があるが,初診時眼圧,初診時CHumphrey視野CMD値,術前眼圧,術前CMD値はC2群に有意差は認めなかった.中等度進行例も含まれるがおもにC1剤点眼投与症例で軽度から中等度の緑内障であり,LOTabinternoのよい適応例と思われる.術後は両群とも術前に比し有意な眼圧下降を認めた.1年後下降眼圧はCPG(C.)群がC3.7C±3.6CmmHg(24%),PG(+)群がC2.3±3.1CmmHg(16%)とCPG(C.)群に良好な眼圧下降を認めた.1年間の術後眼圧は両群に有意差を認めず,PG(C.)群の眼圧下降効果はCPG(+)群のPG薬+LOTCabCinterno効果に相当すると思われた.しかし,1年間に眼圧がC15mmHg未満で点眼薬を再開しなかった生存率がCPG(C.)群100%,PG(+)群C93%で,症例数の違いもありCp=0.072と有意差を認めなかったが,PG(C.)群のほうが術後のコントロールが良好だと思われた.術前点眼薬別の術後一過性眼圧上昇,前房出血については線維柱帯切開術の特徴として一定の割合できたす可能性があるが,両群とも追加緑内障手術が必要になった例はなかった.今回降眼圧薬を投与していなかったC6眼は平均C4.2CmmHgともっとも良好な眼圧降下を得た.PG(C.)群中では点眼薬投与なし,Cb遮断薬,イソプロピルウノプロストン順に眼圧下降を認めたが,症例数の違いもあり有意差は認めなかった.イソプロピルウノプロストンはCPG関連薬ではあるが,イオンチャンネル開口薬で緑内障患者の主経路からの房水流出の促進効果があるとされている.Cb遮断薬点眼例も術後下降眼圧が大きく,PG薬以外の点眼薬は眼圧下降効果が少ないため,手術効果が高かった可能性がある.TanitoらもCLOTabinterno効果は術前眼圧が高い群で下降率が高いことを報告6)しており,PG薬投与群のほうが術前眼圧が低いことが効果が劣る一因と思われた.筆者らは以前,術前点眼薬別に術後眼圧を調査しており,点眼薬数が多いほど術後眼圧が高い傾向があり,点眼薬を使1.00.80.60.40.20.0TimeNumberatriskPG(-)25242424232323PG(+)67666161555555p=0.072(Logrank検定)図3PG薬有無別生存率PG(C.)群では点眼薬を再開した例はなく,眼圧C15CmmHgで点眼薬を再開した例を死亡とすると生存率はCPG(C.)群C100%,PG(+)群はC3%であったが,両群に有意差は認めなかった.(p=0.072,Logrank検定)用していなかった例では,点眼薬C1剤,2剤使用例と下降眼圧に有意差を認めることを報告した7).今回の結果では,点眼薬C1剤使用例でもCPG(C.)群は(+)群に比し下降眼圧が有意に大きいだけではなく,術後C1年間の点眼薬開始も抑えられていた.線維柱帯を経由する房水排出は圧依存性でコントロールされていることが知られている8).PG薬は緑内障ガイドラインからも第一選択薬とされており,もっとも良好な眼圧下降効果が得られる薬剤であるが,奏効機序はぶどう膜強膜流出促進である2,3).TrueGabeltBAらはサルの実験でCPG薬使用によりぶどう膜強膜流出が増加し眼圧が下降するが線維柱帯を経由する房水流出量はコントロールに比し1/3程度に減少すると報告している4).緑内障の原因として傍CSchlemm管結合組織での細胞外マトリクス蓄積,線維柱帯細胞の虚脱,Schlemm管の狭小化などが多数報告されており8.10),このような変化は徐々に悪化すると思われる.また,Grieshaberらは線維柱帯以降の流出路の機能の悪化がcanaloplastyの効果に影響すると報告11),Hannらは開放隅角緑内障ではCSchlemm管と集合管に狭小化を認めることを報告12)している.Johnsonらは濾過手術後にCSchlemm管狭窄がみられることを報告し,房水が線維柱帯,Schlemm管を迂回し濾過胞に流出することで傍CSchlemm管結合組織,集合管への細胞外マトリックスの異常沈着が起きることを報告している13).PG薬も主流出路の流出量が減少し,同様の変化をきたしている可能性が考えられる.また,プロスタグランジンCFC2aはCFP受容体に作用し肺線維症の原因となるProbability024681012という報告14)もあり,PG薬投与による主経路に対する長期の組織変化については不明だが,線維柱帯の流出障害の一因となっている可能性も考えられる.2019年,Gazzardらは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClaserCtrabeculo-plasty:SLT)と点眼治療を比較し,治療後C3年でCSLT群74.2%は点眼追加なしで目標眼圧を達成し,SLT群(93%)は点眼薬群(91.3%)より多い症例で目標眼圧を達成,緑内障追加手術が必要であった例はCSLT群C0例に対し点眼薬群11例だったと報告している15).房水流出主経路の治療として早期治療がより良好な結果を得られるという点では今回のLOTabinternoの手術結果と類似している.以前より線維柱帯切開術は外側切開で施行されており,術前眼圧はC20CmmHg以上の例に施行することが多く,術後眼圧はC12.16CmmHgの報告が多いが,線維柱帯,Schlemm管,また集合管.上強膜静脈までの流出路機能障害の程度によって結果が左右されると思われる.PG薬は眼圧下降作用が強く緑内障治療として必要不可欠な薬ではあるが,白内障合併例などでは房水流出主経路の機能低下が悪化する前に早期のCLotCabinternoも選択に入れると良好な効果が得られる可能性があると思われた.今回CPG薬使用有無の両群の症例数に差があり,前向き試験ではないため点眼薬選択基準もランダムではない可能性があった.また,点眼薬投与せずに手術した症例も少なく,経過観察期間がC1年と短いため,PG点眼薬の有無や点眼薬投与なしでの手術効果の検証をするには症例数を増やし調査,検討する必要があると思われた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)CrawfordCK,CKaufmanPL:PilocarpineCantagonizesCpros-taglandinCF2Calpha-inducedCocularChypotensionCinCmon-keys.Evidenceforenhancementofuveoscleralout.owbyprostaglandinCF2Calpha.CArchCOphthalmolC105:1112-1116,C19873)NilssonSFE,SamuelssonM,BillAetal:Increaseduveo-scleralout.owasapossiblemechanismofocularhypoten-sionCcausedCbyCprostaglandinCF2Calpha-1-isopropylesterCinCtheCcynomolgusCmonkey.CExpCEyeCResC48:707-716,C1989C4)TrueCGabeltCBA,CKaufmanPL:ProstaglandinCF2aincreasesCuveoscleralCout.owCinCtheCcynomolgusCmonkey.CExpEyeResC49:389-402,C19895)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20176)TanitoCM,CSugiharaCK,CTsutsuiCACetal:E.ectsCofCpreop-erativeCintraocularCpressureClevelConCsurgicalCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy.CJCClinCMedC10:C3327,C20217)市岡伊久子,市岡博:TrabeculotomyCAbInterno,白内障同時手術の術後C1年の成績,術前術後の点眼数の変化より.あたらしい眼科38:1085-1089,C20218)StamerWD,AcottTS:Currentunderstandingofconven-tionalCout.owCdysfunctionCinCglaucoma.CCurrCOpinCOph-thalmolC23:135-143,C20129)VecinoE,GaldosM,BayonAetal:Elevatedintraocularpressureinducesultrastructuralchangesinthetrabecularmeshwork.CJCCytolCHistolCS3,doi:10,C4172/2157-7099,C201510)YanX,LiM,ChenZetal:Schlemm’scanalandtrabecuC-larCmeshworkCinCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglauco-ma:ACcomparativeCstudyCusingChigh-frequencyCultra-soundbiomicroscopy.PLoSOneC11:e0145824,C201611)GrieshaberMC,PienaarA,OlivierJetal:Clinicalevalua-tionoftheaqueousout.owsysteminprimaryopen-angleglaucomaforcanaloplasty.InvestOphthalmolVisSciC51:C1498-1504,C201012)HannCCH,CVercnockeCAJ,CBentleyCMDCetal:AnatomicCchangesinSchlemm’scanalandcollectorchannelsinnor-malCandCprimaryCopen-angleCglaucomaCeyesCusingClowCandChighCperfusionCpressures.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:5834-5841,C201413)JohnsonCDH,CMatsumotoY:SchlemmC’sCcanalCbecomesCsmallerCafterCsuccessfulC.ltrationCsurgery.CArchCOphthal-molC118:1251-1256,C200014)OgaCT,CMatsuokaCT,CYaoCCCetal:ProstaglandinCF2areceptorCsignalingCfacilitatesCbleomycin-inducedCpulmo-naryC.brosisCindependentlyCofCtransformingCgrowthCfac-tor-b.NatMedC15:1426-1430,C200915)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticentrerandomisedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C2019***

強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の 眼圧下降効果

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1097.1101,2022c強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の眼圧下降効果池上裕華*1新田耕治*2松田卓爾*1坂部敦子*1余頃麻里*1河野文香*1楢崎智也*1露木未夕*1杉山和久*3生野恭司*1*1いくの眼科*2福井県済生会病院眼科*3金沢大学付属病院眼科CE.ectofIOPReductioninHighMyopiaGlaucomabySelectiveLaserTrabeculoplastyYukaIkenoue1),KojiNitta2),TakujiMatsuda1),AtsukoSakabe1),MariYogoro1),AyakaKono1),TomoyaNarazaki1),MiyuTsuyuki1),KazuhisaSugiyama3)andYasushiIkuno1)1)IkunoEyeCenter,2)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospitalOphthalmology,3)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospitalOphthalmologyC目的:選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)が強度近視を伴う緑内障にも有効かを後ろ向きに検討した.対象および方法:2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行した患者のうち,6カ月まで経過観察可能であったC96眼(男性C35眼,女性C61眼平均年齢C67.8C±11.6歳)を非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)に分けて検討した.結果:眼圧はCSLT施行後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な下降を認めた.Out.owpressure改善率C20%未満を死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群C87.7%,強度近視群C80.0%,病的近視群C96.6%でC3群間に有意差を認めなかった.合併症は一過性眼圧上昇をC4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)で認めた.うちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.結論:強度近視眼緑内障においてもCSLTは安全で有用な治療法であると考えられる.CPurpose:Toretrospectivelyinvestigatethee.cacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)fortreatingglau-comaCassociatedCwithChighCmyopia.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC96Cglaucomatouseyes(35CmaleCeyes,61femaleeyes;meanpatientage:67.8C±11.6years)thatweretreatedwithSLTandfollowedforatleast6-monthspostoperative.Theeyesweredividedintothefollowing3groupsaccordingtotherefractivestatusandfundus.ndings:1)nonhighmyopiagroup(n=42eyes,meanage:68.0C±13.5years),highmyopicgroup(n=25eyes,Cmeanage:61.0C±7.5years)C,CandCpathologicalCmyopiagroup(n=29Ceyes,Cmeanage:73.2C±8.2years)C.CResults:Comparedwiththepreoperativevalues,meanintraocularpressure(IOP)wassigni.cantlyreducedat1-,3-,and6-monthspostoperative.At6-monthspostoperative,thelifetableanalysis.ndingsinthenonhighmyopia,highCmyopia,CandCpathologicalCmyopiaCgroupsCwere87.5%,83.8%,Cand86.2%,Crespectively,CthusCillustratingCnoCsigni.cantlydi.erence.PostoperativecomplicationsincludedtransientIOPelevationin4eyes,yetIOPwasfoundtoChaveCreducedCtoCnormalCinC3CofCthoseCeyesCatCtheCsubsequentCfollow-upCexamination.CInCtheCpathologicCmyopiaCgroup,1eyeunderwent.lteringsurgeryduetocontinuoushighIOP.Inalleyes,therewasnooccurrenceofante-riorCchamberChemorrhageCorCuveitis.CConclusion:SLTCisCaCsafeCandCe.ectiveCtreatmentCforCglaucomaCassociatedCwithhighmyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1097.1101,C2022〕Keywords:緑内障手術,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT),強度近視眼緑内障,眼圧下降.glaucomaCsur-gery,selectivelasertrabeculoplasty,highmyopicglaucoma,IOPreduction.C〔別刷請求先〕池上裕華:〒532-0023大阪市淀川区十三東C2-9-10十三駅前医療ビルC3階医療法人恭青会いくの眼科Reprintrequests:YukaIkenoue,IkunoEyeCenter,3FJuusoekimaeiryobiru,2-9-10Jusohigashi,Yodogawa-ku,Osaka-shi,Osaka532-0023,JAPANCはじめに緑内障は眼圧下降治療が唯一のエビデンスの存在する治療である.一般的第一選択治療である点眼治療は,患者が容易に受け入れることができるが,デメリットとして毎日点眼する必要があり,副作用のアレルギー反応がでる可能性がある.また,患者のアドヒアランスに左右される.緑内障の初期.中期は視力や視野障害の自覚がないという特徴があるため,脱落していく患者も少なくない1).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は,Qスイッチ半波長CYAGレーザーを用いたレーザー手術である.照射によりサイトカインが放出され,活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大させ2),Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進されることで,房水流出抵抗が減少するとされている3).近年はパターンレーザー線維柱帯形成術(patternedClaserCtrabecu-loplasty:PLT)やマイクロパルスダイオードレーザー線維柱帯形成術(micropulseCdiodeClasertrabeculoplasty:MDLT)も施行されているが,唯一,SLTは周囲の線維柱帯無色素細胞に熱変性が生じない治療である4).これまでCSLTの位置づけは最大耐用薬剤成分数での点眼治療をしても眼圧が下がらなかった患者に行うことが多かったが,点眼を多く使用していると成績は不良であるとの報告5,6)もあり,また期待したほど眼圧が下がらない,説明に時間がかかる,患者がレーザーに対して抵抗感があるなどの理由により普及していなかった.2013年に新田らは,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に対してSLTを第一選択治療として施行した成績を国内で最初に報告し,NTGに対するC.rst-lineSLTの有効性と安全性を示した7).さらにC2019年にはCLiGHTCstudy8)が報告され,原発開放隅角緑内障や高眼圧症に対する第一選択治療としてのSLTの有用性を示した.また,SLT施行群では追加の観血的緑内障手術の必要がなかったことや,点眼群と比較してコストパフォーマンスが高い点も報告され,最近,SLTが世界的に注目されるようになってきた.強度近視眼は近視性変化により緑内障様視神経症をきたすことがある.この病態に緑内障に準じた眼圧下降療法が行われることがある.これまでCSLTに関して多数の報告があるが,強度近視眼緑内障に対する報告はない.今回筆者らは強度近視眼緑内障にもCSLTが有効か後向きに検討した.CI対象および方法いくの眼科(以下,当院)で広義開放隅角緑内障と診断された患者のうち,眼圧コントロール不良・視野障害進行・第一選択治療としてCSLT治療が必要と判断され,緑内障専門の同一術者によってC2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行され,施行後C6カ月まで経過観察可能であったC96眼を対象とした.対象の病型は狭義開放隅角緑内障C40眼,正常眼圧緑内障CNTG56眼であった.本研究は,当院の倫理委員会の承認(第C5回C001番)を得て行った.SLTはCEllex社製CTangoオフサルミックレーザー(波長532Cnm,パルス幅C3Cns)を使用し,indexingSLTレンズを装着した後,0.3.0.8CmJの間でシャンパンバブルが発生するかしないかの強さのエネルギーを用い,隅角全周C360°に施行した.一過性眼圧上昇(5CmmHg以上上昇)を防ぐため,術前C1時間前および術直後にアプラクロニジン点眼(アイオピジン)を行い,術後はステロイド点眼および非ステロイド抗炎症薬点眼は使用しなかった.術前後で緑内障点眼の内容は変更せずに経過観察を行った.経過観察中に眼圧下降効果が不十分な場合は治療を強化し,眼圧の再上昇をきたした場合にはCSLTの再照射も考慮した.眼圧はすべてCGoldmann圧平眼圧計を用い,術前と術後C1カ月,3カ月,6カ月の時点での眼圧値,眼圧下降率,Cout.owpressure改善率(CΔOP)を解析に使用した.眼圧値は,術前は1.3回の平均値,術後はC1回の測定値を行いた.CΔOPは上強膜静脈圧をC10CmmHgとし,CΔCOp=(SLT前眼圧.SLT後眼圧)/(SLT前眼圧C.10)C×100の式で求め,CΔOP(%)を計算した.SLT効果の判定には,CΔCOP20%以上を有効と定義した.眼軸長は光学的眼軸長(OA2000,トーメーコーポレーション)を使用して測定し,26Cmm未満であったものを非強度近視群,26Cmm以上を強度近視群に分類し9),さらに強度近視群に分類したなかから後極部に変性を有するものを病的近視群に分類し,術前後の眼圧値,眼圧下降率を検討した.なお,病的近視眼の判定は,強度近視専門医とCSLT施行医のC2名による判定をもって分類した.また,配合点眼はC2剤,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤として計算した.統計ソフトはCJMP14を用い,SLT施行前後での眼圧下降の有意性には対応のあるCt検定を,3群間の比較にはCKruskal-Wallisの検定を,3群間での眼圧の推移の分散分析には二元配置分散分析を使用した.生命表解析は,CΔCOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義し,Kaplan-Meier法を用いた.各々の検定における有意水準はC0.05未満とした.CII結果対象の内訳は,非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)であった.非強度近視群/強度近視群/病的近視群(以下,同様)の眼軸長はそれぞれC24.21C±1.18Cmm/27.41±1.13Cmm/C31.26±2.01Cmm(p<0.01)であった.SLT照射エネルギー(照射数)は55.5C±10.1CmJ(85.0C±6.6発)/57.8C±11.1CmJ(88.6C±6.1発)/56.2C±12.2CmJ(86.1C±7.3発)(p=0.63)であった.表13群の臨床的背景非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)p値年齢(歳)20.C86(C68.0C±13.5)50.C77(C61.0C±7.5)54.C82(C73.2C±8.2)<C0.01性別(男/女)C14/28C14/11C7/22<C0.05眼軸長(mm)C24.2±1.2C27.4±1.1C31.3±2.0<C0.01SLT前眼圧(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1C0.06薬剤成分数C1.6±1.4成分C2.3±1.6成分C2.6±1.2成分<C0.01薬剤成分数の内訳無治療9眼1成分16眼2成分6眼3成分以上11眼無治療5眼1成分3眼2成分3眼3成分以上14眼無治療0眼1成分7眼2成分3眼3成分以上19眼<C0.01表23群の眼圧値および眼圧下降率非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)術前眼圧値(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1術後C1カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.4±3.2C18.6±14.1C13.0±3.1C15.3±13.2C15.7±7.3C16.3±15.2術後C3カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.1±2.5C19.1±14.0C12.5±2.8C16.7±14.4C13.9±4.3C21.7±19.5術後C6カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C13.8±2.5C19.1±12.0C13.4±3.2C11.6±16.2C14.2±4.7C21.4±20.10.6非強度近視群強度近視群10.8眼圧(mmHg)2015累積生存率0.4病的近視群0.210001234565SLT前眼圧1カ月後3カ月後6カ月後SLT施行後経過時間(カ月)図1SLT前後の眼圧値の推移図2Out.owpressure改善率20%未満を死亡と定義しSLT施行後眼圧は,術後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前眼圧はC18.1C±5.1mmHg/15.4±3.1mmHg/19.0C±7.1CmmHg(p=0.06)であった.SLT施行直前に使用していた薬剤成分数はC1.6成分/2.3成分/2.6成分であった(p<0.01)(表1).SLT施行後眼圧は,術後C1カ月:14.4C±3.2CmmHg/13.0±3.1CmmHg/15.7±7.3mmHg,3カ月:14.1C±2.5/12.5±2.8/13.9±4.3,6カ月:13.8C±2.5/13.4±3.2/14.2C±4.7で,常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認た生命表解析Out.owpressure改善率C20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(logrank検定:p=0.1722).めた(表2,図1).SLT施行後の眼圧下降率は術後C1カ月:C18.6±14.1%/15.3C±13.2%/16.3C±15.2%,3カ月:19.1C±14.0%/16.7C±14.4%/21.7C±19.5%,6カ月:19.1C±12.0%/C11.6±16.2%/21.4C±20.1%であった(表2).ΔOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(p=0.1722)(図2).SLT後の合併症として,術後C1時間の時点または術後C1カ月の時点で一過性眼圧上昇が認められたものは,96眼中4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)であった.このうちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.CIII考按近視は緑内障発症の危険因子とされ,緑内障進行の危険因子である可能性についての報告もある10,11).また,近視眼は加齢とともに眼球形態が変化することによりさまざまな黄斑疾患や周辺部網膜病変が生じることがある.これを病的近視とよび,病的近視の眼底所見には,後部ぶどう腫,Bruch膜のClacquercrack(ひび割れ),黄斑部出血,近視性牽引黄斑症,網膜分離症,近視性網脈絡膜萎縮などがある.これらの近視性変化により緑内障様視神経症をきたすこともある12).この病態は,緑内障による構造変化と強度近視による構造変化が混在している可能性があるがまだ不明なことが多い.強度近視眼緑内障をC10年以上観察した場合には乳頭出血の出現頻度が低く,視野障害の悪化率が低率である可能性が示唆された13).myopicCglaucomatous(MG)型,generalizedenlargement型,focalglaucomatous型のC3群の乳頭形状を有する開放隅角緑内障でC5年間の乳頭出血の頻度を比較した結果,MG型が乳頭出血の出現頻度が低率で,近視緑内障眼は進行も緩徐である可能性がある14)など,近視眼緑内障の病態は非近視眼緑内障と異なる経過をたどる可能性も考えられ,アジアを中心に徐々に報告が増えてきている.近視眼緑内障に視神経へのストレス軽減を目的に眼圧下降治療を試す施設もあり,その是非が注目されている.本研究におけるCSLT後の眼圧はすべての時点でベースライン眼圧より下降し,強度近視眼や病的近視眼であっても眼圧下降効果は発現している.日本人の緑内障はその約C7割がCNTGであり15),本研究でもCNTGは全体のC58.3%だったので,同様の分布であったと思われる.NTGにCSLTを施行したC6カ月後の眼圧下降率は,15.1%7)やC21.2%16)などの報告があり,SLTにより過去の報告と同様の効果が得られたと思われる.当院は強度近視眼の患者が多く高度の視神経障害も合併している患者が多いという特殊性がある.視力C0.1以下の症例も多く,Humphrey視野での評価が困難な患者も多く,SLTによる視機能保持効果の評価については課題が多い.また,最大薬剤成分数の点眼を使用しており,SLTの作用持続期間が短い5,6)とされる患者であっても,一時的にでも視機能を保持したいためにCSLTを施行しているという背景があった.このような条件下でも経過観察期間内の合併症の頻度は少なく,眼圧は下降していることから,病的近視眼緑内障の治療方法としてもCSLTは有用である可能性が示唆された.合併症については一過性眼圧上昇がC0.8%起こる可能性があると報告されている5).本研究では非強度近視でC2.4%,強度近視群でC8.0%,病的近視群でC3.4%に認めた.一過性眼圧上昇を認めても治療内容を変更せずに経過観察したところ,3例で次の診察時にはベースライン以下に眼圧は下降し,視機能に影響するような合併症もなかった.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術が必要となった.SLTはC1回の治療でしばらく経過観察するので,点眼での治療とは異なり,定期的な通院の必要性に対する認識が希薄になってしまう可能性がある.このためCSLTの照射後は眼圧が上昇する可能性があるので術後も定期的な眼圧の確認が必要である,と伝えておくことは非常に重要である.本研究の限界は,後ろ向き研究であることである.強度近視を伴う緑内障では緑内障性構造変化と近視性構造変化が合併した状態なので,SLT施行前の臨床的背景がC3群間で異なっておりCSLT効果を評価することが困難であった.よって本研究では,それぞれの症例群に対して効果があるということを示したものとなる.今後は病期や眼圧の程度を揃えた多施設前向き研究が必要と考える.また,今後の研究では,強度近視や病的近視群の眼軸伸展に伴う構造変化が眼圧上昇に影響する可能性も考慮していくことが重要と考えられる.病的近視群のなかには,網脈絡膜萎縮が広範に存在するために視神経症による視野障害以外の要素も加味すべきであるが,病的近視眼群では視力C0.1以下の症例も多く,Hum-phrey視野での評価が困難であったので,SLTによる眼圧下降が視機能保持に貢献しているかの検討が困難であった.CIV結論強度近視眼緑内障においてもCSLTは非強度近視眼緑内障と同様に眼圧下降が得られる可能性がある.文献1)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20142)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:AnewinsightintoCtheCcellularCregulationCofCaqueousout.ow:howCtra-becularCmeshworkCendothelialCcellsCdriveCaCmechanismCthatCregulatesCtheCpermeabilityCofCSchlemm’sCcanalCendo-thelialcells.BrJOphthalmolC89:1500-1505,C20053)ChenCC,CGolchinCS,CBlomdahlS:ACcomparisonCbetweenC90degreesand180degreesselectivelasertrabeculoplas-ty.JGlaucomaC13:62-65,C20044)LatinaCMA,CParkC:SelectiveCtargetingCofClaserCmesh-workcells:invitroCstudiesofpulseandCWlaserinterac-tion.ExpEyeRes60:359-371,C19955)KhawajaCAP,CCampbellCJH,CKirbyCNCetal:Real-worldCoutcomesCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCinCtheCUnitedCKingdom.OphthalmologyC127:748-757,C20206)MikiA,KawashimaR,UsuiSetal:TreatmentoutcomesandCprognosticCfactorsCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCreceivingCmaximal-tolerableCmedicaltherapy.JGlaucomaC25:785-789,C20167)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌117:335-343,C20138)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticenterrandomizedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20199)HuanhuanCheng,LiWang,JackXKaneetal:AccuracyofCarti.cialCintelligenceCformulasCandCaxialClengthCadjust-mentsCforChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC223:C100-107,C202110)PerdicchiCA,CIesterCM,CScuderiCGCetal:VisualC.eldCdam-ageCandCprogressionCinCglaucomatousCmyopicCeyes.CEurJOphthalmolC17:534-537,C200711)ParkHY,HongKE,ParkCK:ImpactofageandmyopiaonCtheCrateCofCvisualC.eldCprogressionCinCglaucomapatients.Medicine(Baltimore)C95:e3500,C201612)Ohno-MatsuiCK,CShimadaCN,CYasuzumiCKCetal:Long-termCdevelopmentCofCsigni.cantCvisualC.eldCdefectsCinChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC152:256-265,C201113)NittaCK,CSugiyamaCK,CWajimaCRCetal:IsChighCmyopiaCaCriskfactorforvisual.eldprogressionordiskhemorrhageinCprimaryCopen-angleCglaucoma?CClinCOphthalmolC11:C599-604,C201714)YamagamiA,TomidokoroA,MatsumotoSetal:Evalua-tionCofCtheCrelationshipCbetweenCglaucomatousCdiscCsub-typesCandCoccurrenceCofCdiscChemorrhageCandCglaucomaCprogressionCinCopenCangleCglaucoma.CSciCRepC10:21059,C202015)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C200416)LeeJWY,ShumJJW,ChanJCHetal:Two-yearclinicalresultsCafterCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCnormaltensionglaucoma.Medicine(Baltimore)C94:e984,C2015***

Trabeculotomy Ab Interno,白内障同時手術の術後1 年の 成績,術前術後の点眼数の変化より

2021年9月30日 木曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(9):1085.1089,2021cTrabeculotomyAbInterno,白内障同時手術の術後1年の成績,術前術後の点眼数の変化より市岡伊久子市岡博市岡眼科CEvaluationofthe1-YearE.cacyofTrabeculotomyAbInternowithCombinedCataractSurgeryBasedontheNumberofGlaucomaMedicationsAdministeredPreandPostSurgeryIkukoIchiokaandHiroshiIchiokaCIchiokaEyeClinicC目的:線維柱帯切開術眼内法(trabeculotomyabinterno,以下,Lotabinterno),白内障同時手術の成績を術前術後の点眼薬数の変化より検討した.対象および方法:Lotabinterno,白内障同時手術を施行したC208人C276眼の術後C1年間の経過を後ろ向きに調査した.結果:眼圧は術前平均C15.3CmmHgから術後C1年時C12.2CmmHgにC20%下降した.術後目標眼圧をC15CmmHg未満に設定し,これを超えた場合に逐次点眼薬を追加したが,全体で点眼薬は術前平均2.2剤からC0.5剤に減少した.術前点眼薬数が多い例ほど術後眼圧が高い傾向を認めた.術後経過観察時眼圧が点眼薬を投与せずC15CmmHg以未満にコントロールされていたC1年生存率は,術前点眼薬数C2剤以下,3剤,4剤以上の群に対しそれぞれC84,60,41%と各群間に有意差を認めた.結論:LotCabinternoにおいて術前点眼薬数が多い例ほど術後点眼薬数が増加しており,点眼薬が比較的少ない早期に手術を施行するべきと思われた.CPurpose:ToCretrospectivelyCevaluateCtheC1CyearCe.cacyCofCtrabeculotomyCabinterno(LotCabinterno)com-binedwithcataractsurgeryforintraocularpressure(IOP)loweringandthereductionoftheglaucomamedicationsused,CandCcompareCtheCnumberCofCthoseCmedicationsCusedCpreCandCpostCsurgery.CSubjectsandMethods:In276eyesof208patientswhounderwentLotabinternowithcataractsurgery,IOPandthenumberofglaucomamedi-cationsCadministeredCpreCsurgery,CimmediatelyCafterCsurgery,CandCatC1-yearCpostoperativeCwereCinvestigated.CResults:At1-yearpostoperative,meanIOPdecreased20%from15.3CmmHgto12.2CmmHgandtheaveragenum-berofglaucomaeyedropsdecreasedfrom2.2to0.5.Basedonthenumbersofglaucoma-medicationeyedropsusepreCsurgery,CIOPCwasChigherCandCtheCrequiredCnumberCofCglaucomaCmedicationsCwasCincreasedCpostCsurgery.CAtC1-yearpostsurgery,thepercentagerateinwhichIOPwascontrolledbelow15CmmHgwithoutglaucoma-medica-tionCeyeCdropsCsigni.cantlyCdi.eredCbetweenCtheCgroupsCofCtheCnumbersCofCpreoperativeCeye-dropCmedicationsCused,Ci.e.,C2CorCless,C3,CandCmoreCthanC4,CandCwas84%,60%,Cand41%,Crespectively.CConclusion:InCpatientsCthatCunderwentCLotCabCinternoCwithCcombinedCcataractCsurgery,CtheCnumberCofCpostoperativeCeyeCdropsCincreasedCaccordingtothenumberofpreoperativeeyedropsadministered,thusindicatingthattheoperationshouldbeper-formedattheearlystageofthediseaseinwhichlessmedicationisused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(9):1085.1089,C2021〕Keywords:緑内障手術,線維柱帯切開術眼内法,眼圧,緑内障点眼薬,線維柱帯切開術術後成績.glaucomaCsur-gery,trabeculotomyabinterno,IOP,glaucomamedication,successrateoftrabeculotomy.Cはじめに緑内障手術(minimalyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)線維柱帯切開術眼内法(Trabeculotomyabinterno,以下,の一方法として最近広く施行されてきており,白内障との同CLOTabinterno)は結膜,強膜を切開せずに施行する低侵襲時手術において良好な眼圧下降効果が得られると報告されて〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,IchiokaEyeClinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(103)C1085いる1).当院でも緑内障点眼薬投与中の患者の白内障手術とCLOTabinternoを同時に施行する例が増えている.緑内障ガイドライン2)では開放隅角緑内障は目標眼圧を設定し単剤より眼圧下降薬を投与し,多剤投与にて眼圧コントロール不良,または視神経,視野所見の悪化を認めるときに手術を考慮するとされるが,現在まで術前点眼薬数別での手術成績の検討はあまりなされていない.多剤点眼で長期経過をみた後の手術ではCLOTabinternoは効果が悪い印象がある.今回は当院でのCLOTabinternoを施行した症例において術前点眼薬数別に術後の眼圧下降および点眼薬数の変化を検討した.CI対象および方法対象は当院で2016年2月.2018年12月にLOTCabinterno,白内障同時手術を施行したC276眼(右眼C139眼,左眼C137眼)208人(男性C74人,女性C134人)で平均年齢はC75.9±8.2歳であった.手術はすべて同一術者により施行された.眼内レンズ挿入後に上方切開創よりCSinskey氏フック(直)を挿入し,SwanJacobゴニオプリズムを用い下方約90°の線維柱帯を切開した.術前,術後C1.3,6,12カ月後の眼圧と眼圧下降投薬数,術後合併症,再手術の有無をC1年後まで後ろ向きに調査した.また,点眼薬投与前のベースライン眼圧についても調査した.術後の投薬はいったん眼圧下降薬をすべて中止し,眼圧がC15CmmHgを超えた時点で点眼薬を再投与,追加した.術前術後の眼圧をCFriedman検定を用い評価,術前点眼薬数別にベースライン眼圧,術前,術後1,2,3,6,12カ月後の眼圧に差があるかCF検定を施行,CSche.e’sCFtestを用い多重比較検定を施行した.また,手術成功率は緑内障点眼薬を投与せずに眼圧C15CmmHg未満にコントロールされていた場合を成功,眼圧がC15CmmHg以上の例は点眼薬を再投与しており,術後点眼薬を投与した場合を死亡と定義し,術前点眼薬数C2剤以下,3剤,4.5剤以上のC3群に分け,Kaplan-Meierの生命曲線およびCLogranktestを用いC1年生存率を評価し,さらにCCOX比例ハザード回帰よりハザード比を評価した.なお,調査については島根県医師会倫理審査委員会の承認を得ている.CII結果208人(276眼)中14人(18眼)は1年後来院なく,1年目の経過観察が可能であったのはC259眼であった.眼圧は術前平均C15.3C±3.3CmmHgから術後C1年時C12.2C±2.7CmmHgにC20%下降した.術後眼圧はすべての期間で術前眼圧に比し有意に降下した(p<0.01:Friedman検定).術前点眼薬数C0.5剤別のC6群に分けて比較したところ,6群すべてに術後C1カ月目より有意な眼圧低下を認めた(p<0.01:Fried-man検定).点眼投与前ベースライン眼圧はC0.2剤点眼例はC18.19CmmHg,3剤はC21.4CmmHg,4剤,5剤以上は22.6CmmHg以上で,1剤点眼例とC3剤,4剤,5剤以上点眼例のベースライン眼圧に有意差を認めた(p<0.01:Sche.e’sFtest).術前術後の眼圧変化は術前点眼薬数別に有意差を認めなかったが,術後C1年目眼圧は術前点眼薬数が少ないものほど低い傾向がみられ,点眼薬数別にC11.4.13.5CmmHgに低下した(図1).術後下降眼圧は術前点眼薬を投与していない例はC5眼と少ないが,術後C1年目では平均C7.8CmmHg下降し,点眼薬投与C1剤,2剤投与例C2.8.2.9CmmHgと有意差を認めた(p=0.01:Sche.eC’sCFtest)(図2).術前後の点眼数は術前平均C2.2剤からC0.5剤に減少した.術C1年後の点眼薬数の変化は,術前C5剤以上がC1.7剤,4剤がC1.2剤,3剤が0.8剤,2剤が0.3剤,1剤が0.19剤,0剤が再開なしと,術前点眼薬数が多い例ほど術後点眼薬の再開,追加が必要な傾向を認めた(図3).生命表における生存率は術前点眼薬数C2剤以下,3剤,4,5剤以上でそれぞれC84,60,41%となりCLogrank検定で各群間に有意差を認めた.ハザード比はC2剤以下に比しC3剤使用例はC2.8倍,4,5剤以上使用例はC5.4倍有意に点眼薬を再開していた(図4).合併症については,術前点眼薬数C0.5剤別にC20CmmHg以上の一過性眼圧上昇がC0眼,15眼(13.2%),7眼(15.9%),12眼(17.6%),7眼(24.1%),5眼(31.3%)と術前点眼薬数に応じ一過性眼圧上昇をきたした.術後前房出血の洗浄が必要になった例はC1剤点眼例のC2眼であった.追加手術が必要になった例はC4剤点眼例C1眼(24.1%),5剤点眼例C2眼(12.5%)で点眼薬C3剤以下で追加手術が必要になった例はなかった.CIII考按LOTCabinternoはC2016年CTanitoが眼内から施行するMIGSとして報告,白内障との同時手術成績で眼圧が16.4mmHgからC11.8mmHg(28%),点眼薬がC2.4剤から2.1剤になったと報告しているが1),同時手術として施行しやすく,近年一般的になりつつあると思われる.当院では同時手術の際に眼圧降下のみならず緑内障点眼薬を減らすことを目的に施行している.そのため術後緑内障点眼はすべて中止し,眼圧の経過をみながら適宜追加をしている.今回術前眼圧C15.3CmmHgからC12.2CmmHgへと良好な眼圧降下(20%)を認めただけでなく,点眼薬C2.2剤からC0.5剤へとC1年後の点眼薬数を大幅に減少させることに成功している.術前点眼薬数別に効果を調査したところ,点眼薬数が多いほど術後眼圧が高い傾向があった.術前点眼薬を使用していなかったC5眼で平均C7.8CmmHgと著明に眼圧が下降し,点眼薬をC1剤,2剤使用していた例と有意差を認めた.症例数は少ないが初診時に白内障,緑内障を認めた例では,点眼薬を投与してから手術を施行するより,早期手術を施行するほ25.020.015.0mmHg10.0**********5.0*p<0.01(Friedman検定)0.0点眼前術前術後術後術後術後術後眼圧眼圧1カ月2カ月3カ月6カ月1年0剤(5)19.019.211.610.211.012.611.41剤(114)***18.114.911.811.911.612.112.22剤(44)18.315.011.711.311.211.812.03剤(68)21.415.113.012.312.412.612.14剤(29)*22.716.115.313.813.214.413.4*5剤以上(16)22.617.0*14.315.313.913.913.5*p<0.01(Sche.e’sFtest)図1点眼薬数別の点眼薬開始前,術前,術後眼圧すべての点眼薬数例で術前に比し術後有意な眼圧下降を得た(p<0.01:Friedman検定).点眼薬数別では点眼薬開始前眼圧C1剤とC3,4,5剤間に有意差を認めた(p<0.01:Sche.eC’sCFtest)が術前,術後眼圧の有意差は認めなかった.うがよい結果が得られる可能性がある.術後C1年目の点眼薬数は術前点眼薬数が多い例ほど増加しており,術前点眼薬C1剤ではC0.19剤,2剤ではC0.3剤でC2剤以下のC84%の例で術後点眼なしでC15CmmHg未満に眼圧がコントロールされていた.点眼薬が少ないほど術後眼圧が低めで点眼薬の開始も少なかった.術後眼圧コントロールが困難で追加手術が必要になった例は術前点眼薬がC3剤以下の例ではなかった.術後の一過性眼圧上昇については術前点眼薬1剤使用例でもきたす例があったが,術前点眼薬数が多いものほど一過性眼圧上昇頻度も高かった.以上より,術前点眼薬が少ないほど術後成績がよく,術前点眼薬がC3剤以下の症例がよい適応になると思われた.術前点眼薬が多い症例は点眼前ベースライン眼圧が高い症例と思われる.ベースライン眼圧を調査したところ,症例数に差があるが0.2剤投与群の眼圧は平均C18.1.19.0CmmHgで有意差なく,3剤点眼群は点眼前ベースライン眼圧はC21.4mmHg,4剤以上点眼群はC22.6CmmHg以上で,1剤点眼群と3,4,5剤点眼群との間に有意差を認めた.ベースライン眼圧より手術適応を考えるとC22CmmHg以下の症例がよい適応であり,点眼薬を増やし長期経過をみるよりCLOTCabinternoを早期に施行したほうがよい結果が得られると思われる.また,ベースライン眼圧が高い例では,結果が悪ければ早めに他術式を検討したほうがよいと思われる.現在まで緑内障の原因として眼圧上昇による傍CSchlemm管結合組織での細胞外マトリックス蓄積,線維柱帯細胞の虚脱,Schlemm管の狭小化などが多数報告されている3.5).GrieshaberらはCcanaloplasty時に隅角のCbloodre.uxの程度観察とフルオレセインの流出状態を調査し,bloodCre.uxC点眼薬数0剤(5)1剤(108)2剤(41)3剤(61)4剤(27)5剤(15)7.8±4.82.9±3.02.8±2.73.1±2.73.5±3.93.7±4.01カ月2カ月3カ月6カ月1年術前点眼薬数*p<0.01(Sche.e’sFtest)図2術1年後の平均眼圧下降術前に降眼圧薬点眼を投与せず手術した例C5眼では平均C7.8mmHg眼圧が下降し,1剤,2剤投与例に比し有意差があった(p<0.01:Sche.e’sFtest).C1.0.80.6生存率0246810120剤(5)1剤(114)2剤(44)3剤(68)4剤(29)5剤以上(16)図3術前点眼薬数別術後1年間の点眼薬数術前点眼薬数が多いほど術後点眼薬の再開,追加が必要となっていた.の量が多く,上強膜静脈への流出が多いものほど効果がよかったことを報告,線維柱帯以降の流出路の機能が効果に影響していることを指摘している6).Hannらは開放隅角緑内障ではCSchlemm管と集合管に狭小化を認めることを報告しており7),点眼薬を追加しつつ長期に経過観察すると徐々に流出路障害が進行する可能性がある.最近,初回投与薬剤はプロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤が多数となって0.40.20.術後期間(月)おり,今回の調査でも複数投与例では全例CPG製剤が含まれていたが,PG製剤はぶどう膜強膜路の流出が増加する眼圧下降薬である.Johnsonらは濾過手術後にCSchlemm管狭窄がみられることを報告し,房水が線維柱帯,Schlemm管を迂回し濾過胞に流出することで傍CSchlemm管結合組織,集合管への細胞外マトリックスの異常沈着が起きることを報告している8).点眼薬では組織的に明らかな変化をきたした報告はないが,経験上長期にCPG製剤を使用した例ではCbloodre.uxが少なく,濾過手術同様の変化をきたしている可能性は考えられる.現在開放隅角緑内障についてはまず点眼薬を用いてコントロールし,コントロールが不十分であれば手術を考慮するという方法が一般的であるが,主流出路の手術では流出路機能が低下する前に手術したほうがよいと思われる.以上の結果図4術後点眼薬投与なしに15mmHg以下にコントロールできた1年生存率術前点眼薬数がC2剤以下の例はC3剤,4剤以上の例に比し,有意に点眼薬再開が少なかった.CNumberCatriskに生存症例数(点眼薬投与せずコントロールできた症例数)を示す.よりいたずらに点眼薬を追加しフルメディケーションとなってからCLOTを施行するよりは,2.3剤程度に点眼薬が増加した時点で早期に手術を考慮したほうが予後がよいであろうことが示唆された.なお,今回の症例は当院での後ろ向き調査の結果で点眼薬数別の症例数に違いがあり,また緑内障のステージ,発症後期間にも差がある.点眼薬数別の効果の違いを断定するには症例数を増やし,経過観察を継続し今後の眼圧下降効果や投薬数についてさらに検討する必要がある.NumberatriskTime(月)0246810120~2剤1631601511471431431433剤676656484343434,5剤45452422212121利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20172)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20183)StamerWD,AcottTS:Currentunderstandingofconven-tionalCout.owCdysfunctionCinCglaucoma.CCurrCOpinCOph-thalmolC23:135-143,C20124)VecinoE,GaldosM,BayonAetal:Elevatedintraocularpressureinducesultrastructuralchangesinthetrabecularmeshwork.JCytolHistolCS3:007,C20155)YanX,LiM,ChenZetal:Schlemm’scanalandtrabecu-larCmeshworkCinCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglauco-ma:ACcomparativeCstudyCusingChigh-frequencyCultra-soundbiomicroscopy.PLoSOneC11:e0145824,C20166)GrieshaberMC,Pienaar,OlivierJanetal:Clinicalevalua-tionoftheaqueousout.owsysteminprimaryopen-angleglaucomaforcanaloplasty.InvestOphthalmolVisSciC51:C1498-1504,C20107)HannCCH,CVercnockeCAJ,CBentleyCMDCetal:AnatomicCchangesinSchlemm’scanalandcollectorchannelsinnor-malCandCprimaryCopen-angleCglaucomaCeyesCusingClowCandChighCperfusionCpressures.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:5834-5841,C20148)JohnsonCDH,CMatsumotoY:SchlemmC’sCcanalCbecomesCsmallerCafterCsuccessfulC.ltrationCsurgery.CArchCOphthal-molC118:1251-1256,C2000***

大学病院に紹介となった後期緑内障患者の治療方針について

2021年7月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科38(7):830.834,2021c大学病院に紹介となった後期緑内障患者の治療方針について北野まり恵*1,2坂田礼*1淺野公子*1,3杉本宏一郎*1藤代貴志*1村田博史*1朝岡亮*1,4本庄恵*1相原一*1*1東京大学医学部眼科学教室*2東京都健康長寿医療センター眼科*3国保旭中央病院眼科*4総合病院聖隷浜松病院眼科CTreatmentPlansforLate-StageGlaucomaPatientsReferredfromtheInitialMedicalFacilityMarieKitano1,2),ReiSakata1),KimikoAsano1,3),KoichiroSugimoto1),TakashiFujishiro1),HiroshiMurata1),RyoAsaoka1,4),MegumiHonjo1)andMakotoAihara1)1)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyo,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,4)DepartmentofOphthalmology,SeireiHamamatsuGeneralHospitalC目的:大学病院に紹介となった後期の緑内障患者に対する治療方針を検討すること.対象および方法:2017年C6月.同年C12月に東京大学医学部附属病院眼科緑内障専門外来に紹介となった初診患者連続C244例のうち,後期の緑内障(Humphrey自動視野計のCMD値が.20CdB以下)であった患者の治療方針を後ろ向きに検討した.結果:55例C69眼が検討対象となり,初診時の平均年齢C70.6(20.93)歳,平均CBCVA(logMAR)0.46(.0.079.2.0),平均CMD値C.25.47CdB(.20.07..32.15),平均眼圧C18.0(9.48)mmHg,平均点眼成分数C3.4(0.5)剤であった.5例C6眼は初診後に治療方針が決まらないままにドロップアウトした.30例C34眼は初診日に手術の方針となり,濾過手術がもっとも多く施行されていた(39.4%).残りのC20例C29眼の治療方針は点眼調整を行った症例(5例C8眼),紹介状による視野では進行評価が十分にできなかったため,追加検査が必要であった症例(5例C7眼),眼圧管理は十分と判断され治療を継続した症例(5例C5眼),手術適応と判断されたが手術の希望がなかった症例(4例C4眼),すでに手術の適応からはずれた症例(4例C5眼)であった.結論:大学病院に紹介となった後期の緑内障患者に対して,濾過手術がもっとも多く行われていた.初診日に迅速に治療方針を決定できるようにするため,患者情報(眼圧,視野)は余すところなく病院側へ提供してもらうことが必要であり,これが円滑な病診連携につながると考えられた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCtreatmentsCofClate-stageCglaucomaCpatientsCreferredCtoCourCuniversityChospitalCfromtheinitialhealthcarefacility,theappliedtherapeuticmodalitieswereretrospectivelyreviewed.SubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC69CeyesCof55Clate-stageCglaucomaCpatients(meanage:70.6Cyears,range:20-93Cyears)seenCuponCreferralCatCtheCUniversityCofCTokyoCHospital,CTokyo,CJapanCbetweenCJuneCandCDecemberC2017.CInCthoseC55Cpatients,CmeanCvisualCacuityCwasClogMARC0.46,CmeanCdeviationCwasC.25.47CdB,CandCmeanCintraocularpressure(IOP)wasC18.0CmmHg.CThirtyCpatientsCunderwentCocularCsurgery,CwithCtheCmostCcom-monCsurgeryCbeingC.ltrationCsurgery.CResults:OfCthe55CpatientsCseen,Ceye-dropCmedicationCwasCadjustedCinC5,Cadditionalexaminationswereneededin5,andIOPwasalreadywell-controlledof5.Fourpatientsrefusedsurgery,andC4CpatientsCshowedCnoCindicationsCforCocularCsurgery.CConclusion:ToChelpCbetterCsupportCtheCproperCmedicalCcareofglaucomapatients,itisvitaltoprovideappropriatepatientdatathroughcooperationbetweentheoperatinghospitalandtheregionalhealthcarefacilities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(7):830.834,C2021〕Keywords:後期緑内障,緑内障手術,病診連携.late-stageglaucoma,glaucomasurgery,medicalcooperation.〔別刷請求先〕北野まり恵:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MarieKitano,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyo,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC830(100)はじめに緑内障は早期発見,早期治療を必要とする中途失明の第一位の疾患である1).エビデンスに基づく治療は眼圧下降のみであり2),目標眼圧での眼圧管理が進行抑制につながると考えられている.後期の緑内障における目標眼圧は低く,点眼管理では十分に眼圧を下げられないことも多い.東京大学医学部附属病院(以下,当院)は特定機能病院であり,近隣の診療所や市中病院と役割分担(病診連携)を行っている.病診連携を円滑に行うための一つの方法として,診断や治療方針に関して,連携する医療機関と共通の認識をもつことが望ましい2).今回,手術を前提に紹介されることの多い後期の緑内障患者に対して,当院がどのような治療方針を取ったかを検討し,大学病院側の視点から,病診連携における注意点を考えた.CI対象および方法診療録の後ろ向き調査である.2017年C6月.同年C12月に当院の緑内障専門外来に紹介となった初診患者C244例のうち,後期緑内障患者C55例C69眼を対象とした.本検討における後期緑内障の判定基準は,HumphreyCFieldCAnalyzer(カールツァイスメディテック)SwedishCinteractiveCthresh-oldingCalgorithm(SITA)-standard30-2もしくはC24-2の条件下でのCmeandeviation(MD)値がC.20.0CdB(固視不良C20%未満,偽陽性と偽陰性C15%未満)以下とした.初診時の診察はC7名の緑内障専門医が行った.治療下での眼圧,目標眼圧と使用点眼数,視野進行速度を判断材料とし,フルメディケーションでも目標眼圧に達していない症例,視野進行が.1CdB/年前後以上の増悪がみられる症例が,手術適応を決めるおおまかな基準であった.評価項目は性別,年齢,経過観察期間,視力,眼圧,MD表1患者背景対象55例69眼性別男性C35例,女性C20例平均年齢C70.6±14.5(C20.C93)歳前医での平均観察期間C6.0±0.2(0.20.6)年平均視力(logMAR)C0.46±0.62(C.0.079.2.0)平均CMD値C.25.47±3.33(C.20.07.C.32.15)dB中心視野欠損9例10眼平均眼圧C17.5±8.1(9.48)mmHg患者数(人)87774使用点眼(成分)C3.4±1.3(0.5)C2アセタゾラミド内服使用2例名3眼原発開放隅角緑内障C33C0正常眼圧緑内障C16続発緑内障C8病型原発閉塞隅角緑内障C8年齢(歳)落屑緑内障C4図1患者の年齢と男女分布(1C01)あたらしい眼科Vol.38,No.7,2C021C831術(アルコンエクスプレス)であった.ついで,低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)が10眼であった(図2).初診後,方針未決定で通院が途絶えた症例はC6眼であった.残りのC29眼は以下の方針が取られた.点眼調整を行っC1413121010864432210濾過手術MIGSGSLtripleP+ICPCNeeding症例数(眼)図2手術施行群の手術内容濾過手術:線維柱帯切除術,もしくはアルコンエクスプレス,MIGS:低侵襲緑内障手術,GSLtriple:隅角癒着解離術+水晶体再建術.P+I:水晶体再建術(眼内レンズ挿入あり),CPC:レーザー毛様体光凝固術,Needling:ブレブ.離術.た症例C8眼,添付視野では評価不十分のため,追加検査が必要であった症例C7眼,眼圧管理が十分と判断された症例C7眼,すでに中心視野が消失,あるいは高齢で手術適応なしと判断された症例C4眼,手術希望がない症例C4眼,であった.経過観察群のうち,点眼調節を施行した群(8眼)の治療成績を示す(表2).紹介元での点眼調整を施行する方針となったC2眼を除くC6眼については,点眼方法を確認,また配合剤に変更し,点眼調節前の平均眼圧C15.8CmmHgが調整後に10.7CmmHgとなり有意な眼圧下降が得られた.前医からの点眼管理を継続した群はC7眼であった.診断はPOAGがC3眼,NTGがC3眼,PACGがC1眼であった.平均MD値はC.23.34dB,平均眼圧はC12.6mmHg(平均C4成分)であり,添付された視野を踏まえると眼圧管理は十分であると判断され,保存的治療を継続する方針が取られた.C2.手術施行群と非施行群の比較手術施行群C34眼,非施行群C31眼であり,平均CMD値,平均視力,平均眼圧にそれぞれ有意差が認められた(表3).CIII考察今回,大学病院に紹介となった後期緑内障患者を対象として,初診時の治療方針を検討した.その結果,約半数で手術表2点眼の調整で対応した群年齢(歳)視野C30-2(dB)診断ClogMAR眼圧調整前後(mmHg)点眼調整前後(成分)C57C.30.09正常眼圧緑内障C0.155C12C→C10C2→4C57C.28.67正常眼圧緑内障C0.523C12C→C11C2→4C83C.26.42原発開放隅角緑内障C.0.079C16C→C12C2→4C77C.24.24原発開放隅角緑内障C1.15C18C→C14C1→2C52C.23.28原発開放隅角緑内障C.0.079C13→8C0→1C42C.21.77正常眼圧緑内障C021→不明なし→不明C42C.21.73正常眼圧緑内障C0.15519→不明なし→不明C52C.20.61原発開放隅角緑内障C0.222C15→9C0→1表3手術施行群と非施行群の比較手術施行群(34眼)非施行群(31眼)p値年齢C72.8±14.0(C20.C93)歳C68.6±14.8(C35.C90)歳C0.23観察期間C5.6±6.2(C0.C20.6)年C6.8±(0.C17.1)年C0.24点眼(成分)C3.6±0.9(1.5)C3.2±1.6(0.5)C0.19MD値C.26.59±3.17(C.32.15.C.20.88)CdBC.24.43±3.18(C.30.7.C.20.07)CdBC0.006視力(logMAR)C0.62±0.64(C.0.08.2)C0.32±0.57(C.0.08.2)C0.046眼圧C21.1±10.1(9.C48)CmmHgC14.3±3.34(9.C22)CmmHgC0.0003病型(眼)原発開放隅角緑内障16眼17眼原発閉塞隅角緑内障6眼10眼正常眼圧緑内障5眼3眼続発緑内障4眼4眼落屑緑内障3眼1眼が行われ,手術施行群は非施行群と比較して有意にCMD値は低く,眼圧は高く,視力が悪かった.十分な患者データ(眼圧推移や視野経過)の添付の有無が,迅速な治療方針決定に重要な役割を果たしていると考えられた.緑内障が進行するにつれて,より低い眼圧値での管理が提唱されているので3),視機能維持が厳しくなりつつあるような症例は,手術を前提として大学病院に紹介されることが多い.しかし,紹介を受ける側としては,眼圧値以外にも患者の年齢や対眼の状態,病状の理解度,点眼アドヒアランスの意識レベルなど,手術を決める根拠を常に探している.今回検討した症例の約半数で初診日に緑内障手術が決定され,濾過手術が最多であり,筋が通っていた.手術施行群と非施行群では,MD値,視力,眼圧で有意差がみられたことから,同じ後期でも視機能がより悪い症例が手術になりやすいことが判明した.中心視野障害が強い緑内障患者に対して濾過手術を施行することで,中心視野が消失する確率がC0.8.1%とも報告されている4,5).また,緑内障は慢性的に進行し,手術後もその進行はすぐには止まらないため,中心視野が少ない状態になってからの手術では,自然経過でも視機能が維持できなくなる可能性もある.したがって,手術適応の評価のためには,視野にある程度余裕がある段階で紹介すべきであると考えられた.ただし,手術希望のない患者もおり,緑内障の自然経過や手術のメリット・デメリットを説明し慎重に治療を進める必要がある.MIGSについては短時間で終わるため,濾過手術を躊躇しがちな高齢者などで,まずCMIGSで眼圧管理ができないかを模索しつつ,術後経過によっては濾過手術も選択していくという方針を取るほうがよい場合もある.なお,紹介時に中心視野が消失していた症例(4眼)については,視機能維持の観点からはすでに手術適応はないと判断されたが,周辺視野を残すために手術を行うこともある.また,閉塞隅角緑内障では水晶体再建術単独もしくは隅角癒着解離術,低侵襲緑内障手術の併用など,絶対的に手術が適応となる.しかしながら,このような症例でも術前の眼圧や視野のデータがないと手術術式の選択を迅速に行うことができない.つぎに,手術非施行群について考える.まず,添付されていた視野情報のみでは進行判定が困難な症例が含まれていた.最終視野検査のみ添付されている例が多く,このような場合は紹介元への問い合わせ,あるいは改めて視野検査を行う必要があるが,これでは治療方針の決定までさらに時間がかかってしまう.このことから,紹介元で行われた視野検査のデータはすべて提供することが,迅速な方針決定を行い,結果的に患者の視機能維持につながると考えられた6).点眼調整をした症例については,処方内容,点眼アドヒアランスについて改めて確認をすべき症例が含まれていることを示唆していた.今回の症例においても,フルメディケーションではない症例が含まれており,眼圧下降薬の点眼成分を増やし,点眼方法を今一度確認したところ,有意な眼圧下降を得ることができた.注意すべき点としては,このように保存的に経過をみている間も残存視野が少ないことを常に意識し,手術介入のタイミングを逸することは避けなければいけないということである.紹介時の点眼内容で眼圧管理が十分と判断された症例については,眼圧値だけではなく,年齢や視野進行速度を含めての総合的な判断によるものである.このような症例は,判断材料(眼圧推移や視野経過)がしっかり添付されている場合が多く,視野進行が比較的緩徐であり,眼圧管理へ積極的に介入する必要が低い症例であった.このことからも,患者データを情報共有することの重要性が示唆された.本研究はいくつかの限界をかかえている.まず,大学病院という特性上,紹介患者にかなり偏りが生じていることは否めない.しかしながら,あらゆる緑内障治療を行っている当院であったからこそ,いろいろな治療法から選択することが可能であったともいえる.つぎに,手術適応の有無については,眼圧レベルあるいは視野進行速度から判断を行ったが,治療方針を判断した緑内障専門医の判断根拠が完全に統一されているわけではないことがあげられる.上記指針を基にしつつも臨床医としての経験年数がこれに加わるため,最終判断時の意思統一に第三者が介入することはできなかった.これはこの後ろ向き調査の限界であると考えられた.最後に治療方針の選択とその後の視機能との関連について追跡調査ができていない点である.視機能の維持という緑内障治療の最終目標を確認するためには,長期的な視点に立っての経過観察が望まれるのはいうまでもない.CIV結論大学病院に紹介となった後期の緑内障患者における初診時の治療方針を検討した結果,緑内障手術を行った症例が約半数を占めていた.手術を施行した群は,しなかった群と比較して眼圧がより高く,視機能がより悪かった.今回の検討を通じ,迅速な治療方針が決定されるために,紹介元における患者情報はすべて病院に提供していただくという,患者のためになる病診連携体制を構築していく必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCvisuallossafterglaucomasurgery.OphthalmicSurg23:Ccerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC388-394,C1992C63:26-33,C20195)CostaVP,SmithM,SpaethGIetal:Lossofvisualacuity2)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内Caftertrabeclectomy.Ophthalmology100:599-612,C1993障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20186)ChauhanCBC,CGarway-HeathCDF,CGoniCFJCetal:Practical3)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態CrecommendationsCforCmeasuringCratesCofCvisualC.eldと視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,C1992Cchangeinglaucoma.BrJOpthalmol92:569-573,C20084)LeveneRZ:Centralvisual.eld,visualacuity,andsudden***

硝子体手術既往眼に対するアーメドあるいはエクスプレスによるインプラント手術の比較

2019年8月31日 土曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(8):1070.1073,2019c硝子体手術既往眼に対するアーメドあるいはエクスプレスによるインプラント手術の比較内海卓也丸山勝彦小竹修禰津直也後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野SurgicalOutcomeofGlaucomaFilteringSurgeryinVitrectomizedEyes:AhmedGlaucomaValveversusEX-PRESSShuntTakuyaUtsumi,KatsuhikoMaruyama,OsamuKotake,NaoyaNezuandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityC硝子体手術既往眼に対してアーメド緑内障バルブを用いたチューブシャント手術を施行したC13例C16眼(アーメド群)とアルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いたチューブシャント手術を施行したC14例14眼(エクスプレス群)の成績を比較した.Kaplan-Meier法による術後C1年目の眼圧調整成績はアーメド群C38%,エクスプレス群C79%であった(Logrank検定,p=0.03).また,術後合併症の頻度に関しては,低眼圧がアーメド群で有意に多かった(Fisherの正確検定,p=0.03).なお,両群とも駆逐性出血を生じた症例はなかった.多変量解析の結果では,術式のみが独立して眼圧調整成績に影響することが判明した(Stepwise法,p=0.02).以上の結果から,硝子体手術既往眼に対しては,施術可能であるならアーメド手術よりエクスプレス手術のほうが術後成績がよい可能性がある.CWeCretrospectivelyCanalyzedC30CcasesCwithCmedicallyCuncontrolledCglaucomaCaftervitrectomy;16CeyesCinC13CcasesCwereCtreatedCwithCimplantationCofCtheCAhmedCglaucomavalve(AGVgroup)andC14CeyesCinC14CcasesCwithCimplantationoftheEX-PRESSglaucoma.ltrationdevice(EX-PRESSgroup).At1yearaftersurgery,thesuccessrateCwas38%CinCAGVCgroupCversus79%CinCEX-PRESSgroup(Kaplan-MeierCsurvivalCcurveCanalysis,CLogrankCtest,Cp=0.03).CTheCincidenceCofCpostoperativeChypotonyCwasChigherCinCAGVgroup(Fisher’sCexactCtest,Cp=0.03).CExpulsivehemorrhagedidnotoccurineithergroup.Stepwisemultipleregressionanalysisshowedthatthesurgi-calprocedurewasofindependentin.uence;therefore,EX-PRESSimplantationmaybeasaferandmoree.ectiveprocedurethanAGVimplantationforglaucomapatientswithvitrectomizedeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(8):1070.1073,C2019〕Keywords:硝子体手術既往眼,緑内障手術,アーメド,エクスプレス,線維柱帯切除術.vitrectomizedCeye,Cglaucomasurgery,Ahmed,EX-PRESS,trabeculectomy.Cはじめに硝子体手術既往眼に対して線維柱帯切除術を行うと,急激な眼圧下降に伴って眼球が虚脱し,駆逐性出血などの重篤な合併症が生じる危険性が高いことが知られている1).このような問題点に対して,プレートを有するチューブシャントであるアーメド緑内障バルブ(以下,アーメド,NewCWorldMedical)は調圧弁を有するため,アーメドを用いたチューブシャント手術(以下,アーメド手術)では低眼圧に関連した合併症をきたしにくいという利点がある2).また,プレートのないミニチューブであるアルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイス(以下,エクスプレス,AlconLaboratories)を用いたチューブシャント手術(以下,エクスプレス手術)は濾過量が限定的であるため,線維柱帯切除術と比べ術後の低眼圧が生じにくいことがわかっている3).したがって,硝子体手術既往眼に対して眼圧下降手術を行う場合,線維柱帯切除術よりアーメド手術やエクスプレス手〔別刷請求先〕内海卓也:〒162-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:TakuyaUtsumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1,Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo162-0023,JAPANC1070(100)表1対象の背景アーメド群エクスプレス群p値症例数/眼数C年齢(歳)C病型(原発緑内障:続発緑内障)続発緑内障のうち血管新生緑内障(眼)C術前眼圧(mmHg)C術前薬剤数(合剤,内服はC2本として計算)C硝子体手術を必要とした原因増殖糖尿病網膜症C裂孔原性網膜.離C硝子体出血C黄斑円孔Cぶどう膜炎C黄斑前膜C後.破損C硝子体手術から緑内障手術までの期間(月)C硝子体手術以外の手術既往(眼,重複あり)白内障手術C緑内障濾過手術C強膜内陥術C角膜移植術C経過観察期間(月)C13/16C62.9±13.2(C35.C79)C1:1C513C27.6±7.3(18.43)C3.8±2.1(0.7)C12C1C2C0C1C0C0C22.8±23.4(2.84)C16C14C2C0C23.5±6.8(12.34)C14/14C59.8±12.7(C43.C80)C4:1C0C7C24.7±3.7(18.32)C2.9±1.0(0.4)C7C2C0C2C1C1C1C74.9±79.1(C3.C206)C14C50C2C59.3±15.1(C12.C74).0.51*0.16†0.12†0.19*0.09*0.26†0.59†0.49†0.21†1.00†0.47†0.47†0.02*1.00†<C0.01C†0.49†0.21†<C0.01C†平均±標準偏差(レンジ).*:対応のないCt-検定.†:Fisherの正確検定.術を適応したほうが低眼圧に伴う重篤な合併症が生じにくい可能性があるが,これまで十分な検討は行われておらず,アーメド手術とエクスプレス手術の成績の比較も行われていない.このような背景を踏まえ,本研究では硝子体手術往眼に対するアーメド手術とエクスプレス手術の眼圧調整成績と合併症の頻度を後ろ向きに比較した.CI対象および方法対象は,一定期間内(2012年C9月.2017年C6月)に東京医科大学病院でアーメド手術,あるいはエクスプレス手術を施行し,術後C1年以上経過観察したC27例C30眼の硝子体手術既往眼である(それぞれアーメド群,エクスプレス群とした).なお,対象にシリコーンオイル注入眼はなかった.表1に内訳を記載した.手術方法は以下のとおりである.まず,アーメド手術はモデルCFP-7を用い,上耳側または下耳側に輪部からC9Cmmの位置でプレートを縫合し,症例に応じてチューブを前房,後房,硝子体腔に挿入して保存強膜で被覆した.なお,プレートを上耳側に縫合したのはC3眼,下耳側はC13眼,チューブの挿入部位は前房,後房,硝子体腔それぞれC8眼,5眼,3眼であった.また,エクスプレス手術はモデルCP-50を用い,術中マイトマイシンCCを塗布して,術後はレーザー強膜弁縫合切糸術で濾過量を調整し,適宜ニードリングを行った.両術式とも術後の濾過不全,眼圧上昇に対しては眼球マッサージや眼圧下降薬の追加を行い,必要に応じて緑内障手術の再手術を行った.検討項目は以下のとおりである.まず,両群の眼圧調整成績をCKaplan-Meier法で解析し,Logrank検定で比較した.眼圧調整不良の定義は眼圧C18CmmHg以上またはC5CmmHg以下,かつ術前からの眼圧下降率C20%未満とし,3回連続でこれらの条件を満たしたときにC1回目の時点を不良とした.また,緑内障手術の再手術を行った場合も不良としたが,眼圧下降薬の使用やレーザー強膜弁縫合切糸術,ニードリング,眼球マッサージなどの術後処置施行の有無は問わないこととした.つぎに,経過中の眼圧を対応のないCt-検定で,両群の術後合併症と追加処置の頻度をCFisherの正確検定で比較した.さらに,アーメド群とエクスプレス群を合わせ,全体を眼圧調整良好群と不良群のC2群に分けて,これまで報告されている眼圧調整不良に影響する因子4),すなわち,年齢,血管新生緑内障か否か,術前眼圧,硝子体手術から緑内障手術までの期間に差があるかをCFisherの正確検定で比較した.そして,眼圧調整成績に影響する因子をCStepwise法で検討した.いずれもCp<0.05をもって統計学的に有意と判定した.CII結果両群の眼圧調整成績を図1に示す.術後C1年目における眼眼圧調整成績(%)10080604020(mmHg)03024.72011020304050607080平均眼圧100生存数アーメド群:16エクスプレス群:14114131020393040期間(950月)6057080図1アーメド群とエクスプレス群の眼圧調整成績と経過中の平均眼圧眼圧調整不良の定義:18CmmHg以上またはC5CmmHg以下,かつ術前眼圧からの眼圧下降率C20%未満,緑内障手術の再手術を行った場合(眼圧下降薬の使用,レーザー強膜弁縫合切糸術,ニードリング,眼球マッサージなどの術後処置施行の有無は不問).経過中の眼圧:眼圧調整良好例のみの検討.*:Logrank検定.†:対応のないCt-検定.表2術後合併症と追加処置の頻度アーメド群(n=16)エクスプレス群(n=14)p値†術後合併症硝子体出血19%7%C0.06前房出血19%21%C1.00低眼圧*56%14%C0.03追加処置経結膜的強膜弁縫合C.29%C.ニードリングC.43%C.緑内障手術の再手術31%29%C1.00重複あり.*:眼圧C5CmmHg未満,2週間以上遷延するもの,†:Fisherの正確検定.圧調整率はアーメド群C38%に対しエクスプレス群C79%であり,アーメド群はエクスプレス群と比較し有意に眼圧調整が不良であった.また,術後C1年での平均眼圧もエクスプレス群で有意に低かった.術後合併症と追加処置の頻度を表2に示す.2週間以上遷延するC5CmmHg未満の低眼圧の頻度はアーメド群で有意に多かった.なお,両群とも駆逐性出血を生じた症例はなかった.アーメド群とエクスプレス群を合わせ,全体を眼圧調整良好群と不良群のC2群に分けて,背景因子の差の有無を検討した結果を表3に示す.いずれの因子にも差はなかった.眼圧調整成績に影響する因子の検討結果を表4に示す.独立変数を眼圧調整良好か否か,従属変数を本研究で有意差のみられた術式(アーメド手術かエクスプレス手術か),緑内障濾過手術の既往,術後低眼圧の有無,硝子体手術から緑内障手術までの期間,経過観察期間として解析したところ,説明変数として唯一術式が抽出され,独立して眼圧調整に影響していることがわかった.CIII考按本研究は,シリコーンオイル注入などを行っていない通常の硝子体手術往眼に対するアーメド手術とエクスプレス手術の術後成績を比較した初めての報告である.眼圧調整成績はエクスプレス群のほうがアーメド群より良好で,術後低眼圧を生じる頻度も少なかった.また,多変量解析の結果でも術式が独立して眼圧調整に影響しており,アーメド手術よりエクスプレス手術のほうが成績良好であることがわかった.なお,本研究の対象のなかには駆逐性出血を生じた症例はなかった.硝子体手術既往眼に対する眼圧下降手術の成績に関しては,Inoueら4)が線維柱帯切除術についてC116眼を対象に検表3眼圧調整良好例と不良例の背景因子表4眼圧調整成績に影響する因子良好群(n=17)不良群(n=13)p値年齢C65.1±11.7歳(43.8C0歳)C56.6±13.0歳(35.7C4歳)C*0.07血管新生緑内障10眼10眼C0.23†術前眼圧C26.1±6.0CmmHg(18.4C3mmHg)C26.4±6.3CmmHg(18.4C2mmHg)C*0.88硝子体手術から緑内障手術までの期間C60.5±65.9月(3.2C06月)C29.1±52.4月(2.1C99月)C*0.17平均C±標準偏差(レンジ),*:対応のないCt-検定,†:Fisherの正確検定.討を行っている.眼圧がC21CmmHgを超えた場合や緑内障手術の再手術を行った場合,光覚が消失した場合を眼圧調整不良としたとき,術後C1年目での眼圧調整率はC55%であったと報告している.また,同報告では眼圧調整に影響する因子を多変量解析で検討しており,眼圧調整不良となる危険率は術前眼圧がC1CmmHg上がるごとにC1.05倍,病型が血管新生緑内障であるとC1.88倍になるとしている.この結果を踏まえ,本研究でも同様の検討を行ったが,術前眼圧や病型に有意差はなかった.このように,硝子体手術既往眼に対する成績が線維柱帯切除術とエクスプレス手術やアーメド手術で異なる可能性はあるが,本報告とCInoueら4)の報告には術式以外にも対象の背景因子や眼圧調整不良の定義など多くの相違があり,優劣は不明である.後ろ向き研究である本研究には各種バイアスの影響が否定できない.とくに,今回対象となった症例の背景は多彩であり,検討した項目以外に関連する臨床因子が存在する可能性がある.また,手術適応や手術操作が必ずしも一定していないという問題もあるが,今回の検討結果からは,さまざまな背景因子があったとしても,硝子体手術既往眼に対しては結膜弁作製,強膜弁作製などの操作が可能であればエクスプレ従属変数Crp値術式(アーメド手術Corエクスプレス手術)C緑内障濾過手術の既往C術後低眼圧C硝子体手術から緑内障手術までの期間C経過観察期間C.0.41C0.330.17.0.26.0.300.02アーメド手術:アーメド緑内障バルブを用いたチューブシャント手術,エクスプレス手術:アルコンCRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いたチューブシャント手術.ス手術を適応したほうがよい成績が得られる可能性があることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SpeakerMG,GuerrieroPN,MetJAetal:Acase-controlstudyCofCriskCfactorsCforCintraoperativeCsuprachoroidalCexpulsivehemorrhage.OphthalmologyC98:202-209,C19912)ChristakisCPG,CZhangCD,CBudenzCDLCetal;ABC-AVBStudyCGroups:Five-yearCpooledCdataCanalysisCofCtheCAhmedBaerveldtcomparisonstudyandtheAhmedver-susCBaerveldtCStudy.CAmCJCOphthalmolC176:118-126,C20173)WangL,ShaF,GuoDDetal:E.cacyandeconomicanal-ysisCofCEx-PRESSCimplantationCversusCtrabeculectomyCinCuncontrolledglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.IntJOphthalmolC9:124-131,C20164)InoueT,InataniK,TakiharaYetal:Prognosticriskfac-torsforfailureoftrabeculectomywithmitomycinCaftervitrectomy.JpnJOphthalmolC56:464-469,C2012***

原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術併用外方線維柱帯切開術の術後長期成績

2018年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(8):1139.1143,2018c原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術併用外方線維柱帯切開術の術後長期成績中村芽衣子徳田直人塚本彩香北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CLong-termOutcomesofTrabeculotomyAbExternoCCombinedwithGoniosynechialysisforPrimaryAngleClosureGlaucomaCMeikoNakamura,NaotoTokuda,AyakaTsukamoto,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine目的:原発閉塞隅角緑内障(PACG)に対する水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL),隅角癒着解離術(GSL),外方線維柱帯切開術(LOT)の併用について検討する.対象:PACGに対し初回緑内障手術としてCPEA+IOL+GSL(以下,GSL群),またはCPEA+IOL+GSL+LOT(以下,GSL+LOT群)を施行し,術後C36カ月以上経過観察が可能であったC40例C57眼(平均年齢C70.2C±11.2歳)を対象とした.結果:眼圧,薬剤スコアについては両群ともに術前に比し有意に下降した.累積生存率は術後C36カ月でCGSL群C82.4%,GSL+LOT群C91.3%であった.角膜内皮細胞密度はCGSL+LOT群では術前後で有意差を認めなかったが,GSL群では術後C3年で有意に減少した.結論:PACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTは中長期的に有効な緑内障手術である可能性が示唆された.WeCevaluatedCtheClong-termCoutcomesCofCtrabeculotomy(LOT)combinedCwithCgoniosynechialysis(GSL)C,phacoemulsi.cationCandCaspirationCintraocularClensCimplantation(PEA+IOL)C,CforCprimaryCangleCclosureCglaucoma(PACG).Fortypatients(57eyes)whounderwentPEA+IOL+GSL(GSLgroup)orPEA+IOL+GSL+LOT(GSL+LOTgroup)werefollowedupfor36monthspostoperatively.Intraocularpressureanduseofeyedropsshowedsigni.cantdecreaseafterthesurgeryinbothgroups.Thecumulativesurvivalratewas82.4%intheGSLgroupand91.3%intheGSL+LOTgroup.PostoperativecornealendothelialcelldensityintheGSL+LOTgroupwasnotsigni.cantlydi.erentfromthepreoperativevalue.However,intheGSLgroupitwassigni.cantlydecreasedat3yearsaftersurgerycomparedtothepreoperativevalue.WeconcludethatPEA+IOL+GSL+LOTisane.ectivetreatmentforPACGintermsofmedium-andlong-termoutcomes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1139.1143,C2018〕Keywords:原発閉塞隅角緑内障,線維柱帯切開術,隅角癒着解離術,緑内障手術.primaryangleclosureglauco-ma,trabeculotomy,goniosynechialysis,glaucomasurgery.Cはじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglaucoma:PACG)の治療法は眼圧上昇の原因がどこに生じているかにより異なる.わが国における緑内障診療ガイドラインのなかでも眼圧上昇の原因が相対的瞳孔ブロックによる場合はレーザー虹彩切開術あるいは虹彩切除術による瞳孔ブロック解除が第一選択とされている1).また,水晶体乳化吸引術(phaco-emulsi.cationCandCaspiration:PEA)は毛様体C,硝子体などの水晶体後方の因子を除く,あらゆる隅角閉塞機序に対して有効であり,PACGに対してCPEAを行うことの有効性についても報告されている2).また,広範囲の周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorCsynechia:PAS)により,線維柱帯が慢性的に閉塞し不可逆的な変化をきたしていることが予想される症例の場合,PEAのみでは眼圧下降が不十分であることが予測され,隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)などの緑内障手術との同時手術が選択される3,4).しかし,〔別刷請求先〕中村芽衣子:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:MeikoNakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANGSLを併用したCPEAにおいても眼圧コントロールが困難な症例が存在する.このようなことを想定して線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)という選択肢もあるが,PACGに対するCLECは悪性緑内障5)や術後浅前房などの合併症を発症する可能性が高く危険を伴う.そこで筆者らはCPEAおよび眼内レンズ挿入術(intraocularlensimplantation:PEA+IOL)にCGSLと線維柱帯切開術(trabeculotomyabexterno:LOT)を併用すること(PEA+IOL+GSL+LOT)で,より安全にさらなる眼圧下降の維持が可能なのではないか考えた.このたびCPACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討した.CI対象および方法2008年C4月.2013年C3月に聖マリアンナ医科大学病院にて,白内障を併発したCPACGに対して,初回緑内障手術としてCPEA+IOL+GSL(以下,GSL群),またはCPEA+IOL+GSL+LOT(以下,GSL+LOT群)を施行し,術後C36カ月以上経過観察が可能であったC40例C57眼(平均年齢C70.2C±11.2歳)を対象とした.なお,PACGは発症速度により急性と慢性に分けられる1)が,臨床においては急性型と慢性型の中間型といえる亜急性,または間欠性といえるような症例もあるため,今回の対象においては発症速度による分類は行っていない.術前後の眼圧,薬剤スコア,角膜内皮細胞密度の推移,累積生存率について検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬1剤につきC1点(緑内障配合点眼薬についてはC2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点として計算した.累積生存率については,術後眼圧がC2回連続して基準C1(21CmmHg以上またはC4CmmHg未満)を記録した時点,もしくは,基準C2(16CmmHg以上またはC4CmmHg未満)を記録した時点を死亡と定義とした.基準C1,2とも再手術になった時点も死亡とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬が追加となった症例も存在するが,その時点では死亡として扱わず,生存症例とした.手術は全例同一術者(N.T.)により施行された.2008年C4月.2011年C3月までは全例CPEA+IOL+GSLを施行し,2011年C4月.2013年C3月までは目標眼圧がC14CmmHg以下の症例についてはCPEA+IOL+GSL+LOTを施行し,目標眼圧がC15CmmHg以上の症例についてはCPEA+IOL+GSLを施行した.手術方法は,GSL群ではまずスワンヤコブオートクレーバルブゴニオプリズム(アールイーメディカル)と上野式極細癒着解離針(Inami)を用いてCGSLを施行(上方1象限を除く約C270°)し,その後CPEA+IOLを施行し手術終了とした.GSL+LOT群は,GSL群と同様にCGSLを施行(上方C1象限を除く約C270°)し,その後,結膜輪部を切開し,強膜弁を作製,同一創からCPEA+IOLを施行した.その後,強膜内方弁を作製しCSchlemm管を同定し線維柱帯を切開した.統計学的な検討は対応のあるCt検定,またはCMann-Whit-neyUtestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.なお,本研究は診療録による後ろ向き研究である.CII結果表1に両群の術前の詳細について示す.年齢,眼圧,術前角膜内皮細胞密度に有意差を認めなかったが,Humphrey自動視野計によるCmeandeviation,薬剤スコア,PASindexについては両群間に有意差を認めた(Mann-WhitneyCUtest).図1に各群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧はCGSL群では術前平均C29.4C±11.7CmmHgが術後12カ月でC14.3C±3.9mmHg,24カ月でC13.6C±3.2CmmHg,36カ月でC13.3C±3.2CmmHg,CGSL+LOT群で術前C26.3C±8.8CmmHgが術後C12カ月でC13.7C±5.2CmmHg,24カ月でC12.9C±2.0CmmHg,36カ月でC12.8C±表1両群の背景GSL群CGSL+LOT群p値症例数(男女比)2C5例C34眼男性:C8例C11眼女性:1C7例C23眼15例23眼8例14眼7例9眼C.手術施行時平均年齢(歳)C72.0±10.4C67.5±12.0C0.30(Mann-WhitneyUtest)CMeandeviation(dB)C.16.4±4.8C.19.7±4.4C0.02(Mann-WhitneyUtest)眼圧(mmHg)C29.4±11.7C26.3±8.8C0.47(Mann-WhitneyUtest)薬剤スコア(点)C2.4±1.4C3.1±1.3C0.04(Mann-WhitneyUtest)CPASindex(%)C80.9±24.6C64.1±19.2C0.006(Mann-WhitneyUtest)角膜内皮細胞密度(/mm2)C2,395±697C2,697±443C0.13(Mann-WhitneyUtest)54薬剤スコア(点)眼圧(mmHg)3210100術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後6カ月12カ月24カ月36カ月6カ月12カ月24カ月36カ月図1各群の術前後の眼圧推移図2各群の術前後の薬剤スコアの推移両群ともに術前と比較し術後有意な眼圧下降を示した.両群ともに術後C1カ月目より薬剤スコアが有意に減少した.*:GSL群Cvs.GSL+LOT群:p<0.05.C*:GSL群Cvs.CGSL+LOT群:p<0.05,**:GSL群Cvs.CGSL+LOT群:p<0.01.C11GSL+LOT群0.80.8GSL群0.6累積生存率累積生存率0.60.40.40.20.20012243601224360観察期間(カ月)観察期間(カ月)図3各群の術後累積生存率(基準1)図4各群の術後累積生存率(基準2)術後C36カ月の累積生存率はCGSL群C82.4%,GSL+LOT術後C36カ月の累積生存率はCGSL群C79.0%,GSL+LOT群C91.3%であった(Logranktestp=0.3701).C群C67.6%であった(Logranktestp=0.2095).C1.9CmmHgと両群ともに術前に比し有意な眼圧下降を示した4,000*(対応のあるCt検定p<0.01).また,術後C21カ月とC33カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に眼圧が低くなっていた(Mann-WhitneyUtestp=0.04).図2に各群の術前後の薬剤スコア推移を示す.薬剤スコアはCGSL群では術前平均C2.4C±1.4点が術後C12カ月でC0.3C±0.5点,24カ月でC0.5C±0.6点,36カ月でC0.6C±0.8点,GSL+LOT群で術前C3.1C±1.3点が術後C12カ月でC0.9C±1.0点,24角膜内皮細胞密度(/mm2)3,0002,0001,000カ月でC0.9C±0.9点,36カ月でC0.9C±0.9点と両群ともに術前に比し有意な薬剤スコアの下降を示した(対応のあるCt検定p<0.01).また,術後C9カ月,12カ月,15カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に薬剤スコアが高くなっていた(Mann-WhitneyUtestp<0.01).図3,4に各群の術後累積生存率について示す.基準C1では,GSL群,GSL+LOT群の術後C36カ月おける累積生存率(135)0術前術後術前術後GSL+LOT群GSL群図5各群の術前後の角膜内皮細胞密度の推移GSL群では術前後で角膜内皮細胞の有意な減少を認めた(p<0.01).あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1141はそれぞれC82.4%,91.3%であり,両群間に有意差を認めなかった.基準C2では,GSL群,GSL+LOT群の術後C36カ月おける累積生存率はそれぞれC67.6%,79.0%であり,両群間に有意差を認めなかった.なお,緑内障再手術を施行した症例はCGSL群ではなく,GSL+LOT群ではC1例存在した.緑内障再手術としてはCLECを施行した.図5に各群の術前後の角膜内皮細胞密度の推移について示す.GSL+LOT群では術前C2,696.8C±443.2/mm2が術後C2,603.2±654.0/mm2と術前後で有意差を認めなかったが,GSL群では術前C2,395.3C±696.5/mm2が術後C1,967.0C±614.6/Cmm2と術後C3年で有意に下降した.CIII考按PACGにおいて,房水流失障害が隅角のみに生じているのか,それとも線維柱帯,Schlemm管以降にまで及んでいるのかは術後の経過をみてみないことには確かなことはいえない.PACGに対してCPEA+IOL+GSLを施行しても眼圧コントロールが得られない症例は少なからず存在する.これらの症例についてCLOTまで行っていればさらなる眼圧下降が得られた可能性があると考え,2011年C4月.2013年C3月までに手術適応となったCPACG症例については,目標眼圧がC14CmmHg以下の場合はCPEA+IOL+GSLに加えCLOTを施行し,目標眼圧がC15CmmHg以上の場合はCPEA+IOL+GSLのみを施行した.そのためCGSL+LOT群のほうが術前meanCdeviationは低く,薬剤スコアも高値となっていた.このように今回の対象についてはセレクションバイアスがかかっているため,本検討は今後CPEA+IOL+GSL+LOTの有効性を示すためのパイロットスタディと考えるべきである.以下,今回の結果について考察する.術後眼圧,薬剤スコアについては,両群ともに術前に比し有意な下降を認め,PACGに対するCPEA+IOL+GSL,CPEA+IOL+GSL+LOTの有効性が示された.安藤ら6)はCPEA+IOL+GSLを施行したC65例C78眼について術後有意な眼圧下降を示し,術後C36カ月の眼圧はC15.2C±2.6CmmHgであり,薬剤スコアについても低下したと報告している.そのほかにも同様の報告3,4)は散見され,Schlemm管以降に抵抗がない症例ではCPACGに対するCPEA+IOL+GSLの有効性については異論がないと考える.CPEA+IOL+GSL+LOTは,閉塞隅角の状態をCGSLで開放隅角にしてからCLOTを行う術式である.森村らはCPACGに対してCPEA+IOLにCLOTを併用し,18CmmHg以下への眼圧コントロールが得られた症例はC91%であったが,15mmHg以下となるとC50%であったと報告している7).また,PASがC50%以上の症例においても良好な眼圧下降を示したとされているが,累積生存率については触れられていない.筆者らの検討では,GSL+LOT群の術前CPASはすべての症例においてC50%以上であったものの,術後C16CmmHg以下に眼圧コントロールができた症例は術後C36カ月でC79.0%とGSL群と比較して有意差は認めないものの良好な成績であった.また,術後C21カ月とC33カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に眼圧が低くなっていた.安藤らの報告6)ではCPEA+IOL+GSL施行後に眼圧コントロール不良であった症例について,術後CPASがC30%以下であった症例がC3眼(3.8%)に存在し,これらの症例が眼圧コントロール不良となった原因については線維柱帯機能不全としている.このうちC1例(1.3%)については抗緑内障点眼薬で眼圧コントロールが得られず,再手術としてCLOTを施行し,その後眼圧コントロールが良好になったとしている.つまりPACGに対してCGSLを行い,線維柱帯がCPASで覆われていない状態で行うCLOTの有効性を示した症例といえる.この報告と今回の結果を合わせて考えると,GSLにCLOTを追加することでさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられる.ただし,今回の検討では術前のCPASCindexがCGSL群のほうが有意に高かったことが術後の眼圧推移に影響した可能性も否定できない.薬剤スコアが術後CGSL+LOT群のほうが有意に高い時期が存在したが,視野異常が進行している症例が多かったため術後早期から積極的に点眼加療を再開した症例が多かったためと考える.今回の検討において,GSL群で術後に眼圧コントロール不良となった症例は,緑内障性視神経障害が軽微であり目標眼圧が高めに設定されていた,または目標眼圧は上回っているものの術前眼圧よりもかなり眼圧下降が得られていた,などの理由で再手術を施行していなかった.GSL+LOT群についてはC1例のみ再手術が必要であった.再手術の術式としては,眼圧上昇の原因が線維柱帯やCSchlemm管以降の房水流出障害あると考えられたため,流出路再建術で眼圧コントロールを得ることは困難と判断し線維柱帯切除術を施行した.術後良好な眼圧下降が維持できている.角膜内皮細胞密度については,GSL+LOT群はCLOTを行う分CGSL群よりも手術手技が多くなるため,GSL+LOT群のほうが術後に角膜内皮細胞密度の減少が大きいと予想したが,GSL群のほうが角膜内皮細胞密度への影響が大きかった.この理由として,GSL群はCGSL+LOT群と比較し術前PASが多かったことや,有意差は認めないものの術前の角膜内皮細胞密度が少なかったことなどが影響していると考えられた.前房内から隅角にアプローチする術式では角膜内皮細胞密度がもともと少ない症例やCPASが多い症例では角膜内皮細胞密度の減少について注意すべきと考える.以上,PACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討した.PACGに対しCGSL後にCLOTを追加することによりさらなる眼圧下降が得られる可能性があるため,PACGのなかでも目標眼圧が低い症例などにはCPEA+IOL+GSL+LOTはよい適応となりうると考える.今回の検討は診療録による後ろ向き検討であるため症例間の偏りが存在した.今後はさらに症例数を増やし前向き検討によりCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討すべきと考える.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:7-46,C20122)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetCal:E.ectivenessCofearlylensextractionforthetreatmentofprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcontrolledCtrial.LancetC388:1389-1397,C20163)TaniharaH,NishiwakiK,NagataM:Surgicalresultsandcomplicationsofgoniosynechialysis.GraefesArchClinExpCOphthalmolC230:309-313,C19924)早川和久,石川修作,仲村佳巳ほか:白内障手術と隅角癒着解離術併用の適応と効果.臨眼60:273-278,C20065)EltzCH,CGloorCB:TrabeculectomyCinCcaseCofCangleCcloserCglaucoma-successesCandCfailures.CKlinCMonatsblCAugen-heilkdC177:556-561,C19806)安藤雅子,黒田真一郎,永田誠:閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と白内障同時手術の長期経過.眼科手術C18:229-233,C20057)森村浩之,伊藤暁,高野豊久ほか:閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術+超音波乳化吸引水晶体再建術の効果.あたらしい眼科26:957-960,C2009***

ニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1178.1181,2017cニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め野村英一*1安村玲子*2石戸岳仁*1伊藤典彦*3野村直子*1田勢沙帆*1武田亜紀子*1遠藤要子*4西出忠之*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2横浜市立みなと赤十字病院*3鳥取大学農学部動物医療センター*4長後えんどう眼科クリニックCPositioningofScleraFlapsUsingInfraredRayImagingbeforeFiltrationBlebNeedlingRevisionsEiichiNomura1),ReikoYasumura2),TakehitoIshido1),NorihikoItoh3),NaokoNomura1),SahoTase1),AkikoTakeda1),YokoEndo4),TadayukiNishide1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)C3)TottoriUniversityVeterinaryMedicalCenter,4)ChogoEndoEyeClinicYokohamaCityMinatoRedCrossHospital,目的:ニードリング前に赤外線(IR)画像で強膜弁の位置を確認し,強膜弁下から前房内へ針を挿入できたC6例を報告する.対象および方法:平均年齢C70.3±12.7歳,原発開放隅角緑内障C2名,続発緑内障C4名のC6例C6眼.12回のニードリングが行われた.点眼麻酔後,scanninglaserophthalmoscope(SLO)でCIR画像を撮影中に強膜弁の角の位置をピオクタニンで結膜上に転写し,手術顕微鏡でニードリングを施行した.IRと可視光で確認した強膜弁の辺の数を視認性の指標として比較した.転写できた強膜弁の角の数,強膜弁下から前房内へのC27CG針の挿入の可否を確認した.結果:確認できた強膜弁の辺の数はCIRでC2.91±0.29,可視光でC1.00±1.04であった(WilcoxonCsigned-rankstest:p<0.05).強膜弁の角はC3.85±0.55カ所を転写できた.12回すべてで強膜弁下から前房内までC27CG針を挿入できた.CObjective:Wereport6casesinwhichneedlescouldbeinsertedunderscleral.apsthroughpositioningofthe.apsCusingCinfraredCray(IR)imagingCbeforeC.ltrationCblebCneedlingCrevisions.CCasesandmethods:12Cneedlingrevisionsfrom6casesofglaucoma(2primaryopen-angleglaucomaand4secondaryglaucoma,averageage70.3±12.7years)wereCstudied.CBeforeCneedlingCrevisions,CtheCanglesCofCscleraC.apsCvisibleCviaCinfraredCrayCimagesCformscanningClaserCophthalmoscope(SLO)wereCmarkedCwithCgentianCviolet.CToCassessCvisibility,CtheCnumberCofCsidesCviaCIRCimagesCandCvisibleCrayCimagesCwereCcompared.CNeedleCrevisionsCwereCperformedCwithCsurgicalCmicroscopeCguidedbythegentianvioletmarks.Result:ThenumberofsidesviaIRimagesandvisiblerayimageswere2.91C±0.29CandC1.00±1.04,respectively(Wilcoxonsigned-rankstest:p<0.05).The3.85±0.55anglesofthequadran-gularscleral.apweremarkedontheconjunctivawithgentianviolet.Inall12instances,needlescouldbeinsertedintotheanteriorchamber.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(8):1178.1181,C2017〕Keywords:赤外線,緑内障手術,濾過胞再建術,ニードリング,位置決め.infraredrays,glaucomasurgery,.ltrationblebrevision,needling,positioning.Cはじめに波である.赤色の可視光線に近い特性のため,人間に感知で波長がおよそC0.75.1,000Cμmの電磁波は赤外線(IR)とよきない光として,IR(infraredCray)カメラや情報機器などばれる.そのうち,近赤外線はおよそC0.75.2.5Cμmの電磁に応用されている1).さらに,IRには組織深達性があり,イ〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN1178(104)ンドシアニングリーンの蛍光と併せて,乳がんでリンパ節の検索に利用されている2).IRを利用した緑内障領域の研究としては,Kawasakiらの,サーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある3).また,前眼部CopticalCcoherenceCtomography(OCT)はCIRを光源とするが,これにより濾過胞形状を調べ,濾過機能の評価や4,5),濾過胞再建術に役立てた報告がある6).ニードリングの際に,結膜下の強膜弁の視認性が不良のため,強膜弁下への注射針の挿入が困難な場合がある.筆者らは,IR画像を用いることで,IRの組織深達性により,術前に以前の緑内障手術の強膜弁の位置を確認できることを報告した7).さらに筆者らは,手術顕微鏡に赤外線に感受性のあるCcharge-coupledCdevice(CCD)を設置し,組織深達性があるCIR画像を用いて,観血的濾過胞再建術の術中に結膜下,Tenon.下,強膜弁下の手術器具の視認性が改善されることを報告した8).また,同様の手法でニードリングの術中に,器具の先端の視認性が改善することを,第C22回日本緑内障学会にて報告した(2011年,秋田).手術中にCIR画像を用いる方法は結膜下の視認性の改善に有用であるが,手術顕微鏡にCIR用CCCDを設置する必要がある8).また,術中にCOCT画像によってガイドしながら行うニードリングの報告9)もあるが,OCTを付属した手術顕微鏡が必要となる.今回,筆者らは術前にCscanningClaserCophthalmoscope(SLO)のCIR画像で強膜弁を撮影することで判明した強膜弁の角の位置を,SLO画像を取得中にピオクタニンで結膜上に転写し,その後ピオクタニンの印を参考にニードリングを行うことで,強膜弁下への注射針の挿入を行う際に強膜弁の位置がわかりやすくなる方法を考案した.この方法は術中に特殊な機器を使用しない利点がある.ニードリング前にCIR画像で強膜弁の位置を確認し,強膜弁下から前房内へ針の挿入が可能であったC6例を経験したので報告する.CI症例症例は平均年齢C70.3C±12.7歳,男性C2例,女性C4例,病型は原発開放隅角緑内障C2例,続発緑内障C4例(ぶどう膜炎2例,落屑症候群2例)の6例6眼.2016年4.10月に行われたC12回のニードリングを対象とした.このC6例に対して線維柱帯切除術はC7回施行されていた.最後の線維柱帯切除術から各症例の初回のニードリングまでの期間は平均C4.3年C±5.6年(最小C57日,最大C9年)であった.CII方法IR画像は,SLO(HeidelbergCEngineering,CSPECTRA-LIS)で濾過胞部分を波長C920Cnmで撮影し取得した.可視abc図1IR画像で強膜弁の位置を決めた後,ニードリングする方法a:可視光では瘢痕化した濾過胞の下にある強膜弁(四角形)の位置はわかりにくいことがある.円弧は角膜輪部,三角形は周辺虹彩切除部を示す.Cb:0.4%オキシブプロカイン点眼液で点眼麻酔後,IRで強膜弁の辺が見えたら強膜弁の角に相当する部位にピオクタニンで印(丸印)を付ける.Cc:可視光の手術顕微鏡下でピオクタニンの印をガイドに,強膜弁下にC27CG針(矢印)をくぐらせ前房内まで挿入する.線維柱帯切除部や強膜弁下も癒着を.離,その後C27G針およびCblebknifeを用いて結膜と強膜の癒着も.離する.刺入部はC10-0ナイロン糸(丸針)にて縫合する.C光画像は眼底カメラ(Kowa,CVx10i)の前眼部モードで撮影し取得した.0.4%オキシブプロカインで点眼麻酔後,強膜弁の角の位置を結膜上からCIR画像で確認し,撮影中にピオクタニン(Richard-Allan,RegularTipSkinMarker)で結膜上に転写した.その後,27CG針,および幅C1.0Cmmのベントタイプの濾過胞再建用ナイフ(KAI,blebknife,BKB-10AGF)を用いて手術顕微鏡下にニードリングを行った(図1).これらの操作を行った症例に対して,診療録をもとに後ろ向きに下記の項目を検討した.IR画像と可視光画像で確認できた強膜弁の辺の数を視認性の指標として比較した.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込まれ,四角形の強膜弁の輪部を除いたC3辺のうち何辺がみえるかを比較した.IR画像の取得には当院の倫理委員会の承認(承認番号B1000106015),および患者の文書による同意を得た.また,結膜上にピオクタニンで転写できた強膜弁の角の数の平均値を求めた.さらに強膜弁下から前房内までC27CG針が挿入できたか,またニードリングに伴う有害事象がないかを調査した.さらに,強膜弁の辺のうち,実際に刺入した辺がCIRまたは可視光で視認できたかを比較した.さらに術前と術後C2週目の平均眼圧,平均点眼数を対応のあるCt検定を用いて比較した.CIII結果確認できた強膜弁の辺の数はCIRでC2.91C±0.29,可視光でC1.00±1.04.(WilcoxonCsigned-ranksCtest:p<0.05)であり,IRで有意に強膜弁の視認性が改善していた.強膜弁の角はC3.85C±0.55カ所を結膜上にピオクタニンで印を付けることが可能であった.12回すべてにおいて強膜弁下から前IR画像可視光画像図2IR画像下に強膜弁の位置決めをした症例89歳,女性,続発緑内障(落屑症候群).13年前に他院で左眼の線維柱帯切除術を施行された.VS=(0.02),眼圧はC15.19CmmHg程度で経過した.1年半前から眼圧C39CmmHgとなり,当院紹介受診し,ニードリングでC13.19CmmHg程度に下降した.2カ月前より次第に眼圧上昇し,点眼数C4にて眼圧C32CmHgと上昇し,今回,2度目のニードリングを施行された.IR画像で強膜弁のC3辺が確認できた(C.).可視光画像ではC1辺が確認できた(C.).強膜弁の角に赤外線画像下にピオクタニンで印を付けた.術後C2カ月の時点で点眼数C5にて左眼眼圧C16CmmHgとなった.房内までC27CG針を挿入できた.図2に典型例を示した.術後に前房出血がC2回みられたが自然軽快した.そのほかに明らかな有害事象はみられなかった.12回のニードリングにおいて,実際に刺入した強膜弁の辺が視認できたのは,IRでC12回,可視光ではC3回で,IRで有意に視認できた(WilcoxonCsigned-ranksCtest:p<0.05).可視光では辺が視認できず,IRのみで視認できた回数はC9回(75%)であった.術前の平均眼圧C26.2C±6.4CmmHgに対して,術後C2週目の平均眼圧はC19.3C±3.0CmmHgと有意に下降した(対応のあるt検定,p<0.05).平均点眼数は術前C3.7C±1.9,術後C2週目C3.3±1.7で有意差はみられなかった(対応のあるCt検定,p=0.81).ニードリングの追加,術前眼圧をC2回連続で上回ったときを死亡と定義すると,術後C2週の生存率はC50.0%であった.6眼中C1眼において線維柱帯切除術の追加を要した.CIV考察IR画像ではカラー画像より強膜弁の辺の視認性が高い傾向がみられた.このため強膜弁の角の位置をCIR画像下で結膜上にピオクタニンで転写が可能であったと考えられた.ニードリングによる濾過胞再建術を手術顕微鏡で施行する際,強膜弁の角の位置をピオクタニンで結膜上に転写した印に基づいて,強膜弁の辺の位置が想定できた.これにより注射針を辺に相当する強膜弁の切開部を通して,強膜弁下から前房内に挿入する操作が容易になった.可視光で手術をしているため操作自体は通常と変わらないが,挿入部位がわかりやすいため,安全に施行できたと考えられた.手術操作自体は可視光で行ったため,手術の前半では結膜と強膜との.離は最小限に留め,結膜下の出血を抑えることで針先の視認性を保った.強膜弁下から前房内に注射針を刺入後,強膜弁下の組織を.離し,手術の後半で濾過胞の大きさを維持するため強膜弁の上および周辺の結膜と強膜の.離をC27CG針およびCblebknifeで行った.12回のニードリングにおいて,可視光では辺が視認できず,IRのみで視認できた回数はC9回(75%)であった.刺入部位は濾過胞の状態や,鼻や前額部の張り出し具合などで制限をうけるため,可視光で視認できる部位が必ずしも術者の希望する刺入部位とは限らない.今回のC12回は図1のようにすべて放射状方向の辺から刺入している.刺入部位に制限のあるなかで,75%の部位でCIRでのみ視認できており,本法は可視光で視認できない部位から術者が刺入を検討する場合にとくに有用であると考えられた.また,直接刺入しない辺も含めて視認性がCIR画像で改善していたが,これは強膜弁と濾過胞全体の形状の把握に役立ち,結膜の癒着範囲が想定しやすくなると考えられた.筆者らは,濾過胞再建術の術中にCIR画像で観察する場合は視認性が改善することを報告している8).今回の方法は手術顕微鏡にCIR画像用の器具が不要な利点はある.しかし,手術顕微鏡の可視光で手術するため,結膜下出血がある場所では視認性が低下する.このため結膜下出血が少ない処置の前半で,強膜弁下から前房内へのC27CG針の刺入の操作を終えることで術中にCIR画像で確認できない点を補った.ニードリングは結膜下の増成組織を強膜と結膜から.離し,さらに可能であれば強膜弁下から前房への交通の回復,強膜弁下の癒着を解除することで濾過胞の機能を回復する手技である10).強膜弁下から前房内への注射針の挿入は,線維柱帯切除部から強膜弁下に癒着が生じている場合には房水流出路の回復が得られると考えられる.結膜上からの視認性が悪い場合に,強膜弁下から前房内への注射針の刺入は施行が困難な場合がある.また,視認性が悪い場合は強膜穿孔,結膜穿孔などの合併症の危険性が生じうる.今回の方法は前房内への注射針の挿入を安全に行うために有用であると考えられた.CV結論IRの組織深達性を利用しCIRでの位置決め後に行うニードリングは,可視光で視認できないがCIRで視認できる部位からの刺入,および強膜弁全体の形状の把握に利点があり,強膜弁下から前房内への注射針の挿入において有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiCT,CInomotoCT,CMiwaCMCetCal:FluorescenceCnaviga-tionwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancerC12:211-215,C20053)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationof.lteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmolC93:1331-1336,C20094)KawanaK,KikuchiT,YasunoYetal:Evaluationoftra-beculectomyblebsusing3-dimensionalcorneaandanteri-orsegmentopticalcoherencetomography.OphthalmologyC116:848-855,C20085)TominagaA,MikiA,YamazakiYetal:Theassessmentofthe.lteringblebfunctionwithanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucomaC19:551-555,C20106)KojimaCS,CInoueCT,CKawajiCTCetCal:FiltrationCblebCrevi-sionCguidedCbyC3-dimensionalCanteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography.JGlaucomaC23:312-315,C20147)野村英一,伊藤典彦,野村直子ほか:赤外線を用いた強膜弁の観察.あたらしい眼科C28:879-882,C20118)野村英一,安村玲子,伊藤典彦ほか:赤外線画像により観血的濾過胞再建術を観察したC1例.あたらしい眼科C32:C1027-1031,C20159)DadaT,AngmoD,MidhaNetal:IntraoperativeopticalcoherenceCtomographyCguidedCblebCneedling.CJCOpthalmicCVisResC11:452-454,C201610)Green.eldDS,MillerMP,SunerIJetal:Needleelevationofthescleral.apforfailing.ltrationblebsaftertrabecu-lectomywithmitomycinC.OphthalmicSurgC24:242-248,C1993***

Posner-Schlossman症候群に伴う続発緑内障の手術成績

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1050.1053,2017cPosner-Schlossman症候群に伴う続発緑内障の手術成績榮辰介徳田直人宗正泰成北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室SurgeryforSecondaryGlaucomatoPosner-SchlossmanSyndromeShinsukeSakae,NaotoTokuda,YasunariMunemasa,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine目的:Posner-Schlossman症候群(PSS)に伴う続発緑内障の手術成績について検討する.対象および方法:ぶどう膜炎続発緑内障に対して線維柱帯切除術(LEC)または線維柱帯切開術(LOT)を施行し,術後36カ月以上経過観察可能であった20例22眼を対象とした.原疾患がPSSであった10眼(PS群)と,原疾患のぶどう膜炎が急性前部ぶどう膜炎(acuteanterioruveitis:AAU)であった12眼(AAU群)に分類し,比較検討した.結果:眼圧はPS群で術前34.7±7.1mmHgが術後36カ月で10.0±2.4mmHg,AAU群で術前32.4±6.4mmHgが術後36カ月で11.8±3.8mmHgとなり,両群ともに有意に下降した.術後36カ月における累積生存率はPS群90.0%,AAU群46.9%であった.PS群において,LECを施行した9眼はすべて経過良好であったが,LOTを施行した1眼が再手術を要した.結論:PSSに対する緑内障初回手術としてはLECが望ましい.Subjectsandmethods:Subjectsincluded20patients(22eyes)thatunderwenttrabeculectomy(LEC)ortra-beculotomy(LOT)forsecondaryglaucomatouveitisandcouldbefollowedforatleast36monthspostoperatively.Thesubjectsweredividedinto2groupsforcomparison:agroupwithPSS(PSgroup,10eyes)andagroupwithacuteanterioruveitis(AAUgroup,12eyes).Results:IntraocularpressureinthePSgroupwas34.7±7.1mmHgpreoperativelyand10.0±2.4mmHgat36monthsfollowingsurgery.TherespectivevaluesintheAAUgroupwere32.4±6.4mmHgand11.8±3.8mmHg;thus,eyesinbothgroupsdemonstratedsigni.cantdecreasesinintra-ocularpressure.Thecumulativesurvivalrateat36monthsfollowingsurgerywas90.0%and46.9%inthePSandAAUgroups,respectively.Progresswasfavorableforall9eyesthatunderwentLEC;however,reoperationwasrequiredfor1eyethatunderwentLOT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1050.1053,2017〕Keywords:Posner-Schlossman症候群,続発緑内障,緑内障手術,ぶどう膜炎.Posner-Schlossmansyndrome,secondaryglaucoma,surgeryforglaucoma,uveitis.はじめにPosner-Schlossman症候群(Posner-Schlossmansyn-drome:PSS)は,PosnerとSchlossmanによって報告1)された片眼性,再発性,発作性の眼圧上昇を伴う虹彩毛様体炎を特徴とする疾患である.自覚症状として霧視,虹輪視,違和感などを生じ,検眼鏡的には軽度の前房内炎症,角膜後面沈着物,虹彩異色などが認められる.発作は自然軽快することもあるが,副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)点眼薬による薬物療法が奏効し,数日から数週間で寛解する.通常,視野異常や視神経障害などの後遺症を残さない比較的良性の疾患と考えられている.しかし実際の臨床では,薬物治療のみでは高眼圧の状態が軽快せず,眼圧コントロール不良な状態が長期間継続し,緑内障性視神経萎縮やそれに伴う視野障害が生じる症例も存在する2.4).そのような場合には眼圧コントロール不良のぶどう膜炎続発緑内障として対応する必要があり,緑内障手術が必要となる場合もある.今回筆者らは,PSSと診断され,その後に緑内障手術が必要になった症例について,術式および術後経過について検討したので報告する.〔別刷請求先〕榮辰介:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShinsukeSakae,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPAN1050(134)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(134)10500910-1810/17/\100/頁/JCOPYI対象および方法ぶどう膜炎続発緑内障に対して線維柱帯切除術(trabecu-lectomy:LEC)または線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)を施行し,術後36カ月以上経過観察が可能であった20例22眼(平均年齢53.0±10.1歳)を対象とした.原疾患がPosner-Schlossman症候群であった10例10眼(平均年齢51.8±9.7歳)をPS群とし,原疾患のぶどう膜炎が急性前部ぶどう膜炎(acuteanterioruveitis:AAU)であった10例12眼(平均年齢53.9±10.7歳)をAAU群(コントロール群)として術前後の眼圧と薬剤スコアの推移,累積生存率について比較検討した.両群の詳細については表1に示す.薬剤スコアについては,抗緑内障点眼薬1剤につき1点(緑内障配合点眼薬については2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服は2点として計算した.累積生存率については,術後眼圧が2回連続して基準①21mmHg以上または4mmHg未満を記録した時点,もしくは,基準②16mmHg以上または4mmHg未満を記録した時点を死亡と定義とした.基準①②とも再手術になった時点も死亡とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬の追加となった症例も存在するが,その時点では死さらに,PS群については術前後のぶどう膜炎発作回数の変化,角膜内皮細胞密度の患眼と僚眼の比較および術前後の変化についても検討した.PSSと診断した根拠としては,片眼性であり,発作性の肉芽腫性角膜後面沈着物を伴う前房内炎症と,30mmHg以上の眼圧上昇を繰り返すもの,ステロイド点眼薬によく反応し症状の改善を認めるもの,以上の項目を満たしたものとした.PSS続発緑内障に対する緑内障手術の施行基準は,虹彩毛様体炎と一過性眼圧上昇の頻度の増加や,ステロイド点眼薬や抗緑内障点眼薬に対する抵抗性を示し,薬物治療による眼圧コントロールが不良な状態となり,緑内障性視神経障害とそれに伴う視野異常が認められるものとした.II結果図1に各群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧はPS群では術前平均34.7±7.1mmHgが術後12カ月で10.0±3.0mmHg,24カ月で9.4±2.5mmHg,36カ月で10.0±2.4mmHg,AAU群で術前32.4±6.4mmHgが術後12カ月で16.1±7.9mmHg,亡として扱わず生存症例とした.表1群別背景PS群AAU群p値症例数(男女比)10(4/6)12(6/6).手術施行時平均年齢(歳)51.8±9.753.9±10.70.6(Mann-WhitneyUtest)術前眼圧(mmHg)34.7±7.132.4±6.40.69(Mann-WhitneyUtest)術前術後術後術後術後術前発作回数(回/年)4.6±1.8..6カ月12カ月24カ月36カ月1.00.80.60.40.20観察期間図1各群の術前後の眼圧推移PS群基準①PS群基準②AAU群基準①AAU群基準②術前術後術後術後術後6カ月12カ月24カ月36カ月0510152025303540観察期間生存期間(カ月)図2各群の術前後の薬剤スコアの推移図3各群の術後累積生存率(135)あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017105124カ月で12.3±3.1mmHg,36カ月で11.8±3.8mmHgと,両群ともに術前に比し有意な眼圧下降を示した(対応のあるt検定p<0.01).図2に各群の術前後の薬剤スコア推移を示す.各群ともに術後1カ月目より薬剤スコアが有意に減少した.PS群は,再手術となった1症例を除くすべての症例が術後36カ月の時点で薬剤スコアが0点であったのに対して,AAU群では術後36カ月の時点で1.5±1.2点であり,AAU群では術後抗緑内障点眼薬の併用を要する症例が多く存在した.図3に各群の術後累積生存率を示す.PS群では,基準①,基準②ともに術後36カ月おける累積生存率は90.0%であったが,AAU群については基準①では50.0%(Logranktestp=0.06),基準②では46.9%(Logranktestp=0.05)であり,両基準ともにPS群はAAU群に比し有意差を認めないものの高い累積生存率であった.PS群の緑内障手術術式については,今回対象となった10眼のうち,LECを施行した9眼が経過良好であり,LOTを施行した1眼が再手術を要した.再手術が必要であった症例については,その後LECを施行し,良好な経過が得られた.AAU群については12眼中LECが10眼であり,そのうち3眼においては再手術を要した.LOTを施行した2眼については,1眼は経過良好であったが,もう1眼については再手術を要した.PS群の虹彩毛様体炎発作回数の頻度は術前4.6±1.8回/年が術後0.28±0.4回/年と術後有意な減少を認めた(対応のあるt検定p<0.01).PS群の術前角膜内皮細胞密度は2,111.5±679/mm2であり,僚眼の角膜内皮細胞密度2,722±227/mm2に比し有意に少なくなっていた(対応のあるt検定p=0.04).とくにPS群10眼のうちの5眼は,患眼と僚眼の角膜内皮細胞密度に500/mm2以上の差を認めていた.PS群の術後3年における角膜内皮細胞密度は1,912.2±472/mm2と術前に比し有意差は認めないものの減少傾向を認めた(対応のあるt検定p=0.38).PS群の隅角所見については,全症例Sha.er分類3.4度の開放隅角であり,色素沈着についてはScheie分類IIが8眼,IIIが2眼であり,全症例僚眼に比し色素沈着の程度が少ないという印象はなかった.AAU群についても全症例Sha.er分類3.4度の開放隅角であったが,色素沈着についてはScheie分類IIが8眼,IIIが4眼であった.また,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が存在した症例が7眼存在したが,いずれも20%以下であった.III考按今回,筆者らはPSSと診断された症例において,経過観察中に観血的緑内障手術が必要となった10症例を経験した.以下PSS続発緑内障に対する治療について考察する.まず,治療にあたり,診断に誤りがないかを確認する必要がある.ぶどう膜炎続発緑内障に対してステロイド点眼薬による治療を行っている間に副作用で眼圧上昇が生じていたという報告2)もあるため注意が必要である.当院でも,Armalyの報告3)を参考に,僚眼に対するステロイド点眼薬への反応を確認することが多いが,今回の対象ではArmalytestを行った3症例においてはすべて陰性であった.当院における発作時の治療は,消炎目的でステロイド点眼薬,高眼圧に対してはプロスタグランジン関連薬を第一選択とし,効果不十分であれば交感神経b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼および内服を追加している.40mmHg以上の高眼圧の際には高浸透圧利尿薬の点滴を併用している.プロスタグランジン関連薬は虹彩炎,ぶどう膜炎に対しては慎重投与とされているが,当院ではぶどう膜炎に伴う眼圧上昇の際には強力な眼圧下降作用を期待してステロイド点眼薬または非ステロイド性消炎鎮痛点眼薬と併用することが多い.これらの治療を行っても長期に眼圧コントロールが得られない場合に,緑内障観血的手術を検討する.眼圧上昇が不可逆的になってしまった原因は,炎症が長期に及んだことにより,Schlemm管内壁などの線維柱帯以降にも通過障害が生じているためではないかと予想し,10眼中9眼にLECを行い良好な結果を得た.小俣らは,実際にPSSと診断された症例を病理組織学的に検討した結果,線維柱帯間隙,Sch-lemm管,集合管周囲にマクロファージが認められ,傍Sch-lemm管結合組織は厚く,間隙は細胞外マトリックスで満たされていたと報告している4).つまり,PSS続発緑内障に至るような症例は,炎症の繰り返しにより,集合管付近にまで影響が及んでいる可能性が高いと考える.今回の対象においてLOTを試みたものの,十分な眼圧下降が得られなかった症例もこの事実を支持する結果といえる.森田らもPSS続発緑内障8眼について手術成績を報告しており5),LECを施行した4眼は経過良好であったものの,非穿孔性線維柱帯切除術を行った1眼およびLOTを行った3眼は再手術を要しており,筆者らの結果と近い内容になっている.それに対してChinらはぶどう膜炎続発緑内障に対して360°suturetra-beculotomyが有効であったと報告している6).炎症細胞などにより線維柱帯以降にも閉塞が広範囲に生じていたとしても,一部でも閉塞を免れている部分があれば理論上ではLOTは有効であるため,LECが選択できない場合には360°suturetrabeculotomyは選択肢になりうると考える.またAAU群については,LECを施行した10眼中7眼(70%)は経過良好であったが3眼は再手術を必要とした.ぶどう膜炎続発緑内障は一般的には難治緑内障といわれるため,LEC後も再手術が必要となることもあるが,PS群ではLECを施行した9眼については再手術を要した症例がなかったという(136)ことは実に興味深い事実である.その原因については現時点では確かな根拠はないが,PS群はAAU群よりも線維柱帯やSchlemm管への炎症細胞の浸潤が乏しいためではないかと考える.PSS続発緑内障の患者にLEC施行後,眼圧下降に加え,ぶどう膜炎発作頻度の低下を認めた.それについては,LECが奏効している場合,虹彩毛様体炎の発作が起きたとしても,炎症細胞が濾過胞側に排出されるため眼圧上昇が抑えられる可能性7)があることと,濾過手術により眼圧上昇が抑えられるため患者本人が発作に気づかず,みかけの発作頻度が低下している可能性5)が考えられる.地庵らは8),LEC後に自覚症状を伴わない前房内炎症細胞の増加を認めたとしている.また,檜野らは9),自覚的発作は認められたものの,術後の発作頻度は減少したと報告している.今回の対象でも,再発作は1眼で認められ,20mmHgを超えない眼圧上昇と角膜後面沈着物がみられた.これらの結果やその他の報告を合わせて考えると,術後の濾過胞が機能していれば仮に虹彩毛様体炎が生じても,眼圧上昇が軽度ですむ可能性が高いと考える.また以前より,PSSの原因としてサイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスの感染10,11)が関与しているという報告がある.最近PSSへの抗サイトメガロウイルス薬(ガンシクロビル)内服治療による改善例12)も認められている.これらの症例では角膜内皮炎を併発していることも報告されており,PSS続発緑内障術後については,とくに角膜内皮細胞密度の推移は今後も確認していく必要があると考える.今回の検討においても角膜内皮細胞密度が僚眼より500/mm2以上も少ない症例が5眼認められたが,これらについては角膜内皮炎を併発していた可能性も考慮して対応する必要があったと考える.これらのことを踏まえて今後は,眼圧コントロール不良もしくは発作を頻発する難治性のPSSについては,術前後の前房水の成分分析や,濾過胞形状解析,角膜内皮細胞密度の経過観察など,さらなる検討が必要と考える.以上より,PSS続発緑内障に対する手術治療を中心に検討した.薬物治療で眼圧降下が得られず,視野障害や視神経障害が発症するような症例については積極的にLECを施行することが必要と考える.今回の検討は,診療録による後ろ向き検討であることや,治療前に前房水のウイルス検索などを行っていないため,今後はさらに症例数を増やし,PSSの原因についても検討すべきと考える.文献1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecur-rentattacksofglaucomawithcycliticsymptoms.ArchOphthalmol39:517-535,19482)崎元晋,大鳥安正,岡田正喜ほか:ステロイド緑内障を合併したPosner-Schlossman症候群の2症例.眼紀56:640-644,20053)ArmalyMF:Statisticalattributesofthesteroidhyper-tensiveresponseintheclinicallynormaleye.Thedemon-strationofthreelevelsofresponse.InvestOphthalmol4:187-197,19654)小俣貴靖,濱中輝彦:Posner-Schlossman症候群における線維柱帯の病理組織学的検討─眼圧上昇の原因についての検討─.あたらしい眼科24:825-830,20075)森田裕,野崎実穂,高瀬綾恵ほか:Posner-Schlossman症候群に対する緑内障手術.あたらしい眼科28:891-894,20116)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma.apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20127)KassMA,BeckerB,KolkerAE:Glaucomatocycliticcrisisandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol75:668-673,19738)地庵浩司,塚本秀利,岡田康志ほか:緑内障手術を行ったPosner-Schlossman症候群の3例.眼紀53:391-394,20029)檜野亜矢子,前田秀高,中村誠:手術治療を要したポスナー・シュロスマン症候群の3例.臨眼54:675-679,200010)Bloch-MichelE,DussaixE,CerquetiPetal:PossibleroleofcytomegalovirusinfectionintheetiologyofthePosner-Schlossmannsyndrome.IntOphthalmol96:1195-1196,198711)YamamotoS,Pavan-LangstonD,TadaRetal:PossibleroleofherpessimplexvirusintheoriginofPosner-Schlossmansyndrome.AmJOphthalmol119:796-798,199512)SobolewskaB,DeuterC,DoychevaDetal:Long-termoraltherapywithvalganciclovirinpatientswithPosner-Schlossmansyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol252:117-24,2014***(137)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171053

赤外線画像により観血的濾過胞再建術を観察した1例

2015年7月31日 金曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(7):1027.1031,2015c赤外線画像により観血的濾過胞再建術を観察した1例野村英一*1安村玲子*1伊藤典彦*2野村直子*1長島崇充*1石戸岳仁*1武田亜紀子*1国分沙帆*3遠藤要子*4杉田美由紀*5水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2鳥取大学農学部動物医療センター*3横浜労災病院眼科*4長後えんどう眼科クリニック*5蒔田眼科クリニックInfraredRayImagingofaFiltrationBlebRevisionEiichiNomura1),ReikoYasumura1),NorihikoItoh2),NaokoNomura1),TakamitsuNagashima1),TakehitoIshido1),AkikoTakeda1),SahoKokubu3),YokoEndo4),MiyukiSugita5)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)3)YokohamaRosaiHospital,4)ChogoEndoEyeClinic,5)MaitaEyeClinicTottoriUniversityVeterinaryMedicalCenter,緒言:観血的濾過胞再建術で手術操作に有用な,結膜,Tenon.,強膜弁下の手術器具の視認性が赤外線(IR)画像により改善するか観察した.症例:86歳,男性.3年前に開放隅角緑内障に対し左眼の線維柱帯切除術を施行された.3カ月前から左眼漏出濾過胞となった.初診時VS=(0.4),左眼眼圧=3mmHg.観血的濾過胞再建術を施行時,手術顕微鏡に可視光のカラー画像用chargecoupleddevice(CCD)と,IR透過フィルター付のIR画像用CCDを設置した.結膜下のBlebknifeおよび剪刀,Tenon.の増生組織下の剪刀,強膜弁下の27G針およびBlebknifeの視認性を,1.全く見えない,2.先の形状まではわからない,3.先の形状まではっきりわかる,の3群に分け,可視光画像とIR画像で比較した.Tenon.の増生組織下の剪刀でIR画像は2,可視光画像は1,その他部位および器具でIR画像は3,可視光画像は2で,IR画像の視認性が良好であった.結論:IR画像は器具の視認性を改善する可能性がある.Purpose:Thevisualizationofsurgicalinstrumentsundertheconjunctiva,Tenon’scapsule,andscleralflapisdifficultwhenperformingsurgicalrevisionofafiltrationbleb.Thepurposeofthisstudywastoinvestigateinstrumentvisualizationbyuseofinfraredrays(IR)duringsurgery.Case:Thisstudyinvolvedan86-year-oldmalewhohadundergoneatrabeculectomy3yearspreviouslyduetoprimaryopen-angleglaucomaandwhowasdiagnosedwithaleakingblebinhislefteye3monthspriortopresentation.Visualizationofthesurgicalinstrumentsviacharge-coupleddevice(CCD)IRimagingwascomparedwiththatviaCCDvisiblerayimagingonasurgicalmicroscope.Thevisibilitywasclassifiedinto3groups:1)unabletoseeanything,2)unabletoseethepointofsurgicalinstrument,and3)abletoclearlyseethepointofsurgicalinstrument.ThevisibilityofallinstrumentsviaIRwasgrade3,whilethatviavisiblerayswasgrade2,exceptforthevisibilityofscissorsundertheTenon’scapsule,whichwasgrade2andgrade1,respectively.Conclusions:IRimagingholdspotentialasamethodforimprovingthevisualizationofsurgicalinstrumentsduringfiltrationblebrevision.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1027.1031,2015〕Keywords:赤外線,緑内障手術,漏出濾過胞,濾過胞再建術,画像化.infraredrays,glaucomasurgery,leakingbleb,filtrationblebrevision,imaging.はじめに波長がおよそ0.75.1,000μmの電磁波は赤外線(IR)とよばれる.そのうち,近赤外線はおよそ0.75.2.5μmの電磁波である.赤色の可視光線に近い特性のため,人間に感知できない光として,IRカメラや情報機器などに応用されている1).医療領域では,その組織深達度を利用したIRカメラシステムによる乳癌のセンチネルリンパ節生検への応用が知られる2.4).眼科領域ではインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が加齢黄斑変性症などの脈絡膜疾患に広く利用されている5.8).緑内障領域でIRを利用した研究としては,Kawasakiらのサーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦三丁目9番地横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(105)1027 報告がある9).また,前眼部opticalcoherencetomography(OCT)はIRを光源とするが,これにより濾過胞形状を調べ,濾過機能の評価や10),濾過胞再建術に役立てた報告がある11).筆者らは,IR画像を用いることで,IRの組織深達性により,術前に以前の緑内障手術の強膜弁の位置を確認できることを報告した12).また,Ex-PRESSTM併用濾過手術の術後に,組織深達度の高いIR画像を用いて強膜弁下のExPRESSTMのプレートの部分を観察できることを報告した13).観血的濾過胞再建術の術中に,結膜下,Tenon.下,強膜弁下の手術器具の視認性が良いことは手術操作に有用である.今回,組織深達性があるIR画像で観血的濾過胞再建術の術中に,各種器具の視認性が改善されるか観察したので報告する.I症例患者:86歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:30年前,両眼の開放隅角緑内障と診断され,他院で右眼の線維柱帯切除術,その後,白内障手術を施行された.3年前,近医で左眼2時方向に円蓋部基底の結膜切開にて,マイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行された.2年前,左眼水晶体再建術(眼内レンズ挿入)を施行された.3カ月前より左眼濾過胞の輪部側の血管の乏しい菲薄化した部分から漏出があり,2013年1月当科初診となった.家族歴および既往歴:特記すべき事項はなかった.初診時所見:VD=0.04×IOL(0.06×IOL×sph.3.00D(cyl.0.75DAx130°),VS=0.2×IOL(0.4×IOL×sph.1.00D(cyl.1.75DAx170°),右眼眼圧=12mmHg,左眼ABC図1手術顕微鏡へのカラー可視光用CCDおよび赤外線用CCDの取り付け位置A:カラー可視光用CCD,B:赤外線用CCD,C:IR透過フィルター内蔵位置.眼圧=3mmHg.C/D比(陥凹乳頭比)は右眼0.95,左眼0.8であった.湖崎分類で右眼V期,左眼IIIb期であった.手術希望なく自己血清点眼にて経過観察された.経過:2014年4月より漏出量が増加し,左眼眼圧1mmHgと低下し,Descemet膜皺襞が生じたため,左眼の濾過胞再建術を施行された.濾過胞を円蓋部基底で再度切開し,結膜下を.離,菲薄化した強膜弁も.離後,縫合した.強膜弁の菲薄化部はTenon.で覆った.結膜の裏側の増生した組織は結膜より.離した.結膜は漏出部を切除後,強膜弁上を覆うように前方移動させ縫合した.手術顕微鏡(OPMIRVISU210,CarlZeiss,Oberkochen,Germany)に可視光のカラー画像用chargecoupleddevice(CCD)(MKC-307,IKEGAMITSUSHINKI,Tokyo,Japan)と,波長860nm以上のIRを透過するフィルター(IR-86,Fujifilm,Tokyo,Japan)を付けたIR画像用CCD(XC-EI50,Sony,Tokyo,Japan)を設置し,可視光画像とIR画像を同時に記録した(図1).①結膜.離時の濾過胞再建用クレセントナイフBlebknife(BKS-10AGF,KAI,Tokyo,Japan)およびマイクロ剪刀の視認性,②Tenon.の増生組織.離時のマイクロ剪刀の視認性,③強膜弁.離時の27G針およびBlebknifeの視認性について,1.まったく見えない,2.先の形状まではわからない,3.先の形状まではっきりわかる,の3群に分け,検者1名(術者・助手以外の者)により液晶モニター上で可視光画像とIR画像を比較した.今回の研究に際し,当院の倫理委員会の承認(承認番号B1000106015),および本人の文書による同意を得た.結膜の.離時,および強膜弁の.離時ではすべての器具でIR画像は3,可視光画像は2の視認性であった.Tenon.の増生組織の.離時のマイクロ剪刀は,IR画像は2,可視光画像は1の視認性であった(表1).図2~4に部位ごとの各器具の視認性を示した.矢頭部に器具の先端部を示した.2014年12月,VS=(0.4),左眼眼圧=4mmHg,濾過胞からの漏出は消失した.脈絡膜.離はみられず,OCTで黄斑浮腫はみられなかった.表1各部位における手術器具の可視光画像とIR画像による視認性の比較部位器具可視光IR結膜下Blebknifeマイクロ剪刀2233Tenon.の増生組織下マイクロ剪刀12強膜弁下27G針Blebknife22331028あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(106) Blebknifeマイクロ剪刀IR可視光IR図2結膜の.離時におけるBlebknifeおよびマイクロ剪刀の視認性上段:Blebknifeを用いて菲薄部周辺の固い癒着を.離している.可視光ではBlebknifeの先端の平滑な部分が先の形状まではわからない(=2)が,IRでは白く高反射で先の形状まで視認できた(=3).下段:マイクロ剪刀を用いて菲薄部周辺の固い癒着を.離している.可視光ではマイクロ剪刀は先の形状まではわからない(=2)が,IRでは白く高反射で先の形状まで視認できた(=3).マイクロ剪刀可視光IR図3Tenon.増生組織の.離時におけるマイクロ剪刀の視認性マイクロ剪刀を用いて円蓋部側のTenon.の増生組織を強膜から.離している.マイクロ剪刀は可視光ではまったくわからない(=1)が,IRでは白く高反射で先の形状まではわからないが視認できた(=2).II考察め,器具の視認性は組織の厚みや透過性の影響も受けることがわかった.Tenon.下の増生組織は可視光,IRともに他すべての部位で,同一器具においては,IR画像は可視光の部位よりは視認性が低く,逆に前房内は可視光もIRも視画像より視認性が高い傾向がみられた(表1).これはIRの認性は高かった.図3のTenon.下のマイクロ剪刀は,透組織深達性が可視光より高いことによると考えられた.過性の低いTenon.の増生組織がある場所では器具の視認近赤外線は組織深達性があるが可視光に近い性質ももつた性が低下し,増生組織が少ない部分ではIR画像での視認性(107)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151029 27G針Blebknife可視光IR図4強膜弁の.離時における27G針およびBlebknifeの視認性上段:27G針を用いて強膜弁を強膜床から.離した.27G針が強膜弁下にある部分は可視光では先の形状まではわからない(=2)が,IRでは先の形状まで視認できた(=3).下段:Blebknifeを用いて強膜弁を強膜床から.離した.可視光では先の形状まではわからない(=2)が,IRでは先の形状まで視認できた(=3).が得られた.このことを利用すると,Tenon.の増生の広がりを器具の視認性の変化で知ることできると考えられた.Blebknifeの刃の支持部,マイクロ剪刀の刃の部分,27G針のベベル部分などはIRで高輝度に描写される(図2~4).器具の平滑部分の反射によりIRは高反射となるため,平滑部分のある器具形状は視認性の改善に寄与すると考えられた.IR画像を確認しながら濾過胞再建術を行うと,器具の位置がわかるので,結膜の穿孔などのリスクを軽減できる.これにより手術の安全性が向上することが期待される.注意点としてIR画像は透過性がよいので操作に一定の慣れが必要であることがあげられる.今後,IRの波長の変更や画像処理を加えることでIR画像の視認性が改善する可能性がある.また,IR画像の表示も液晶モニターから,手術顕微鏡への小型モニターを搭載するなどにより術者の姿勢が改善され,作業効率の改善が期待される.前眼部OCTによる濾過胞の内部形状の確認が濾過胞再建術のガイドとなったという報告がある10).本症例に用いたIR画像用CCDは比較的安価であり,術中に器具の先端の位置情報を簡便な方法で得られることは濾過胞再建術の手術操作に有用であると考えられた.1030あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015III結論IR画像は,観血的濾過胞再建術における手術器具の視認性の改善に有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiT,InomotoT,MiwaMetal:Fluorescencenavigationwithindocyaninegreenfordetectingsentinellymphnodesinbreastcancer.BreastCancer12:211-215,20053)小野田敏尚,槙野好成,橘球ほか:インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素による乳癌センチネルリンパ節生検の経験.島根医学27:34-38,20074)鹿山貴弘,三輪光春:赤外観察カメラシステム(PDE)の開発と医用応用.MedicalScienceDigest34:78-80,20085)米谷新,森圭介:脈絡膜循環と眼底疾患.清水弘一(監修):ICG蛍光眼底造影─読影の基礎,p9-18,医学書院,20046)FlowerRW,HochheimerBF:Clinicaltechniqueandapparatusforsimultaneousangiographyoftheseparate(108) retinalandchoroidalcirculations.InvestOphthalmolVisSci12:248-261,19737)林一彦:赤外線眼底撮影法.眼科27:1541-1550,19858)YannuzziLA,SlakterJS,SorensonJAetal:Digitalindocyaninegreenangiographyandchoroidalneovascularization.Retina12:191-223,19929)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationoffilteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmol93:1331-1336,200910)KojimaS,InoueT,KawajiTetal:Filtrationblebrevisionguidedby3-dimensionalanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucoma23:312-315,201411)TominagaA,MikiA,YamazakiYukoetal:Theassessmentofthefilteringblebfunctionwithanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucoma19:551-555,201012)野村英一,伊藤典彦,野村直子ほか:赤外線を用いた強膜弁の観察.あたらしい眼科28:879-882,201113)野村英一,伊藤典彦,澁谷悦子ほか:赤外線画像により強膜弁下のEx-PRESSTMフィルトレーションデバイスを観察した1例.あたらしい眼科31:909-912,2014***(109)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151031

赤外線画像により強膜弁下のEx-PRESSTMフィルトレーションデバイスを観察した1例

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):909.912,2014c赤外線画像により強膜弁下のEx-PRESSTMフィルトレーションデバイスを観察した1例野村英一*1伊藤典彦*2澁谷悦子*1野村直子*1安村玲子*1武田亜紀子*1国分沙帆*3深澤みづほ*3遠藤要子*4杉田美由紀*5水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2鳥取大学農学部附属動物医療センター*3横浜労災病院眼科*4長後えんどう眼科*5蒔田眼科クリニックInfraredRayImagingofanEx-PRESSTMGlaucomaFiltrationDeviceunderScleralFlapEiichiNomura1),NorihikoItoh2),EtsukoShibuya1),NaokoNomura1),ReikoYasumura1),AkikoTakeda1),SahoKokubu3),MizuhoFukazawa3),YokoEndo4),MiyukiSugita5)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)TottoriUniversityVeterinaryMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,YokohamaRosaiHospital,4)ChogoEndoEyeClinic,5)MaitaEyeClinic緒言:強膜弁下のEx-PRESSTMフィルトレーションデバイス(Ex-PRESSTM)の確認は困難であるが赤外線(infraredrays:IR)画像を用いて確認を試みた.症例:82歳,男性.25年前,左眼に水晶体.内摘出術を受け,8年前,左眼.性緑内障と診断された.左眼瞳孔領に硝子体があり,Ex-PRESSTM併用濾過手術を施行された.術後1.165日目の間に13回,IR画像(ハイデルベルグ社,スペクトラリスのscanninglaserophthalomoscope:SLO画像)と細隙灯顕微鏡によるカラー可視光画像を撮影し視認性を比較した.可視光画像では術後8,10日目のみでEx-PRESSTMのプレートの位置を確認できたが,IR画像ではすべての観察日で有意に良好に確認された(McNemar法,p<0.005).結論:IR画像は強膜弁下のEx-PRESSTMの確認に有用であった.Introduction:AnEx-PRESSTMglaucomafiltrationdevice(Ex-PRESSTM)underascleralflapisdifficulttosee.WereporttheimagingofanEx-PRESSTMwithinfraredrays(IR).Case:An82-year-oldmale,whohadundergoneanintracapsularlensextraction25yearspreviously,wasdiagnosedwithexfoliationglaucomainhislefteye8yearsago.Duetovitreousprolapseintothepupillaryarea,anEx-PRESSTMwasimplanted.Devicevisibilityviainfraredray(IR)imagingwithscanninglaserophthalmoscope(SLO)(Heidelberg,Spectralis)wascompared13timeswiththatviavisiblerayimagingofacolordigitalcamerawithaslitlamp,through1to165daysaftertheoperation.TheplateofEx-PRESSTMcouldbeseenwithvisibleraysonlyatpostoperativedays8and10,butitcouldbeseensignificantlywellwithIRateveryobservationday(p<0.005,McNemar’schi-squaretest).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):909.912,2014〕Keywords:赤外線,緑内障,緑内障手術,Ex-PRESSTM,画像化.infraredrays,glaucoma,glaucomasurgery,Ex-PRESSTM,imaging.はじめに波長がおよそ0.75μm.1,000μmの電磁波は赤外線(IR)とよばれる.そのうち,近赤外線はおよそ0.75.2.5μmの電磁波であり,赤色の可視光線に近い波長を持っている.可視光線に近い特性のため,人間に感知できない光として,IRカメラや情報機器などに応用されている1).医療領域では,その組織深達度を利用したIRカメラシステムによる乳がんのセンチネルリンパ節生検への応用が知られる2.4).眼科領域ではインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が加齢黄斑変性症などの脈絡膜疾患に広く利用されている5.8).緑内障領域で,IRを利用した研究としては,Kawasakiらのサーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある9).筆者らは,IR画像を用いることで,近赤外線の組織深達〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(135)909 性により,以前の緑内障手術の強膜弁の位置を確認できることを報告した10).Ex-PRESSTM併用濾過手術は手術操作が比較的簡便であり,虹彩切除が不要である.術早期の低眼圧が少なく11),トラベクレクトミーと同等の眼圧下降効果を持つとされる12).しかし,術後の強膜弁下でのEx-PRESSTMの位置を確認することはむずかしい.今回,Ex-PRESSTM併用濾過手術の術後に,組織深達度の高いIR画像を用いて強膜弁下のExPRESSTMのプレートの部分を観察した1例を経験したので報告する.I症例患者:82歳,男性.主訴:左眼視野障害.現病歴:25年前,他院で左眼に水晶体.内摘出術を受け,無水晶体眼となった.以後はコンタクトレンズを装用していた.21年前に左眼のコンタクトレンズの過剰装用による眼痛にて前医を受診した.8年前より左眼眼圧25mmHgとなり,左眼.性緑内障と診断され,点眼治療が開始された.アセタゾラミド錠250mg(ダイアモックス.錠250mg)の内服を追加されたが,胃腸障害のため中止された.2013年3月,視野障害の進行がみられたため当科へ紹介され,初診となった.既往歴:81歳時,尿管結石.家族歴:特記事項はなかった.初診時所見:視力はVD=0.1×IOL(1.2×IOL×sph.2.25D(cyl.1.75DAx80°),VS=(0.5×sph+9.50D(cyl.1.25DAx180°),前医からのタフルプロスト点眼液0.0015%(タプロスR点眼液0.0015%),ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプトR配合点眼液),ブリモニジン酒石酸塩点眼液0.1%(アイファガンR点眼液0.1%),ブナゾシン塩酸塩0.01%点眼液(デタントールR0.01%点眼液),ニプラジロール点眼液0.25%(ハイパジールコーワR点眼液0.25%)の点眼下に眼圧は18mmHgであった.左眼には,上方結膜の広汎な癒着,無水晶体眼,瞳孔領に脱出した硝子体がみられた.隅角は左眼下方に丈の低い虹彩前癒着がみられる以外は開放隅角であった.左眼優位の視神経乳頭陥凹がみられ,C/D比(陥凹乳頭比)は右眼0.6,左眼0.8であった.また,湖崎分類で右眼はIa期,左眼はIIIb期の視野障害がみられた.表1術後日数ごとの可視光画像とIR画像の視認性の比較術後日数(日)観察部位画像の種類1810162332396781114123137165p値プレート可視光画像IR画像011111010100011101010101010.002569プレートのverticalchannel可視光画像IR画像011111010100011101010101010.002569液晶モニター上で判別できたときを1,判別できなかったときを0として表した.AB図1術後67日目の濾過胞(A:可視光画像,B:IR画像)矢頭部にIR画像でEx-PRESSTMのプレートの位置およびverticalchannelが観察できた.910あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(136) 経過:2013年4月,さらなる硝子体脱出を回避するためEx-PRESSTM併用濾過手術を施行された.結膜の癒着を.離しながら,2時方向の結膜を円蓋部基底で切開した.4×4mmの強膜弁をsingleflapで作製し,Ex-PRESSTMを挿入した.術後1,8,10,16,23,32,39,67,81,114,123,137,165日目の13回,SLOによるIR画像およびカラー可視光画像を撮影し比較した.今回の研究に際し,当院の倫理委員会の承認(承認番号B1000106015),および本人の文書による同意を得た.IR画像の取得にあたっては,ハイデルベルグ社のスペクトラリスのSLO(scanninglaserophthalmoscope)によるIR画像(光源は820nmのダイオードレーザー)を用いた.カラーの可視光画像の取得にあたっては,細隙灯顕微鏡に付属したカラーデジタルカメラによる画像を用いた.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込み,強膜弁下のEx-PRESSTMのプレートの部分が見えるかを,検者1名により電子カルテの液晶モニター上で比較した.カラー可視光画像では術後8,10日目のみでプレートの位置を確認できたが,IR画像では13回すべての観察日でプレートの位置を有意に良好に確認できた(McNemar法,p=0.0026).またカラー可視光画像では術後8,10日目のみでプレートのverticalchannelを確認できたが,IR画像では13回すべての観察日でプレートのverticalchannelを視認できた(McNemar法,p=0.0026)(表1).術後67日目の濾過胞を示す(図1).図1Aの可視光画像ではExPRESSTMのプレートの位置およびverticalchannelは確認できないが,図1BのIR画像では,矢頭部にEx-PRESSTMのプレートの位置およびverticalchannelが観察できた.プレートの部分はIR画像では高輝度であり,verticalchannelは低輝度であった.手術後の眼圧経過は良好で,最終眼圧はタフルプロスト点眼液0.0015%で14mmHgであった.II考察カラー可視光画像では術後8,10日目でプレートの位置を確認できたが,IR画像ではどの時点でもプレートの位置を確認できた.またカラー可視光画像では術後8,10日目のみでプレートの位置を確認できたが,IR画像はすべての観察日においてプレートのverticalchannelを確認できた.このようにIR画像では可視光画像よりも強膜弁下のExPRESSTMの視認性が良好であった.IR画像ではプレートの上面が高輝度に写っていた.IRの組織深達性に加えて,Ex-PRESSTMのステンレス素材の平滑性がIRを効率よく反射させるため,強膜弁下にあっても高輝度になると考えられた.このため可視光画像よりも視認性がよいと考えられた.IR画像の撮影時に眼の方向によって輝度が高くなることがあり,この現象もステンレス素材の(137)平滑性で反射が起きるため発生すると考えられた.プレートのverticalchannel,特に開口部および切れ込み部分の反射が少ないため,またverticalchannelの段差によりverticalchannelの底の部分に入射する光が少ないため周囲より低輝度になりIR画像で確認できると考えられた.Ex-PRESSTM併用濾過手術は挿入が容易である,流出路の大きさを一定にできる,虹彩切除が不要である,線維柱帯切除が不要であるといった特徴がある.術早期の低眼圧が少なく11),トラベクレクトミーと同等の眼圧下降効果を持つとされる12).しかし濾過手術であり,濾過胞の機能不全からneedlingrevisionなどが必要になる可能性がある.その際,強膜弁下のEx-PRESSTMの位置が予測できることは,手術操作をするうえで有利であり,IR画像は位置特定の一つの方法となりうる.近年,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)のように,近赤外光で断層像を作製する機器が登場している13).今回,すでに普及している機器を利用しても2次元的な像ではあるが強膜弁下のEx-PRESSTMが確認できた.IRによる強膜弁の観察は,Ex-PRESSTMの濾過胞再建術の術前検査として役立つ可能性が示唆された.III結論IR画像は,Ex-PRESSTM併用濾過手術施行後における器具の位置確認に有用であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiT,InomotoT,MiwaMetal:Fluorescencenavigationwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancer12:211-215,20053)小野田敏尚,槙野好成,橘球ほか:インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素による乳癌センチネルリンパ節生検の経験.島根医学27:34-38,20074)鹿山貴弘,三輪光春:赤外観察カメラシステム(PDE)の開発と医用応用.MedSciDigest34:78-80,20085)清水弘一監修:ICG蛍光眼底造影-読影の基礎.脈絡膜循環と眼底疾患(米谷新,森圭介),p9-18,医学書院,20046)FlowerRW,HochheimerBF:Clinicaltechniqueandapparatusforsimultaneousangiographyoftheseparateretinalandchoroidalcirculations.InvestOphthalmolVisSci12:248-261,19737)林一彦:赤外線眼底撮影法.眼科27:1541-1550,19858)YannuzziLA,SlakterJS,SorensonJAetal:Digitalindoあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014911 cyaninegreenangiographyandchoroidalneovascularization.Retina12:191-223,19929)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationoffilteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmol93:1331-1336,200910)野村英一,伊藤典彦,野村直子ほか:赤外線を用いた強膜弁の観察.あたらしい眼科28:879-882,201111)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPAetal:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,200712)NetlandPA,SarkisianSRJr,MosterMRetal:Randomized,prospective,comparativetrialofEX-PRESSglaucomafiltrationdeviceversustrabeculectomy(XVTStudy).AmJOphthalmol157:433-440,201413)VerbraakFD,deBruinDM,SulakMetal:OpticalcoherencetomographyoftheEx-PRESSminiatureglaucomaimplant.LasersMedSci20:41-44,2005***912あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(138)